【コラム/4月25日】トランプ相互関税を考える~試される企業の適応力、国民・政府は慌てずに
5、過去のショックとの比較
1970年代以降の海外起因の経済ショックは、幾つかあった。いずれも企業の努力が克服の中心だった。一方財政出動と金融政策の効果は様々だった。ニクソンショック(物価凍結・為替調整・10%輸入課徴金:1971年8月)は、中成長期移行過程の時期だった。列島改造・財政発動・金融緩和継続でインフレ助長となった。第一次オイルショック(原油価格高騰1973年10月)と第二次オイルショック(原油価格高騰1979年1月)は、総需要抑制の縮小均衡調整且つ物価見合い賃上げ抑制・企業合理化努力でスタグフレーション回避だった。プラザ合意ショック(為替調整円高1985年9月)は、米国要求内需拡大(金融緩和)でバブル形成・崩壊招来に至った。ITバブル崩壊(NY株価下落2000年)は、財政支出牽制、企業リストラ、米国サブプライムバブル輸出で一息となった。リーマンショック(金融危機2008年9月)は、財政支出拡大で対応した。コロナショック(行動制限2020年1月)は、大規模財政支出・量的緩和継続を実施した。今回のショックは、ニクソンショックを連想する。
夫々のショックに対し政府対策があった。適切な場合もあり、不具合もあった。この2000年以降四半世紀は、政府頼りで企業活力回復・経済健全化の言葉を仄聞しない。
夫々を振り返れば、ショック脱出の「こつ」は、マクロ政策を掲げつつ、企業の賢明な且合理的な行動があったとき、その後の経済展開につながるようである。今回のトランプショックを、関税という制約条件(かつ目標)設定と考えれば、その制約の超克は、各企業の努力次第ということに尽きる。国民は、当面縮小均衡調整なので、我慢という選択を受け入れざるを得ない。勿論政府は、慌てずに米国トランプ相互関税という極端な処置の修正・緩和する努力が必要である。鍵は、企業の適応能力次第となる。
6、今後の対応~経済運営としての国民経済を基本に、企業の適応能力がすべて
一国の経済発展を考える際、敗戦後の国民経済の考えが基本である。自国の経済は、自国の領土の上に、国民の創意工夫で経済を築くことである。また経済の目的は、雇用第一、第二に物価の安定、三四なく第五に貿易自由化という時代が長かった。この視点で各国が経済運営することが基本であろう。
米国は、近時新自由主義・市場偏重・投資金融重視で経済運営を行い、財政赤字、過剰消費で輸入を拡大し経常収支を失調し、財政問題を抱えた。そのツケを貿易の恩恵を遮断し、相互関税でツケを払う選択をした。果たして先行きがどうなるか不明である。
日本の場合、経済維持に必要な財の輸入が必要な場合、それに見合った輸出努力で外貨獲得をせざるを得ない。国際収支の辻褄を合わすという意味で各国との協調も踏まえた国際均衡は重要である。これまで米国への輸出等でエネ・食料輸入代金を得て、経済を拡大・維持してきた。かつ近時は、漸く貿易収支トントン状態である。米国への輸出縮小となれば、エネ資源等の輸入額を削減する方策が必要となる。出来ることは、省エネに加えて、原子力・再エネ利用の拡大ぐらいである。
いずれにしてもトランプショックへの対応として、政府の関税引下げ交渉、財政金融政策(バラマキ)等が俎上に上るであろうが、その効果は限定的と考える。国民全員に現金5万円給付のアイデア(朝日4月10日)は笑止千万である。唯一の期待は、関税引上げに対する日本企業の適応力である。もし必要なら、企業の対応を容易にする方策(短期志向投資金融の排除)であろう。
【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。