【コラム/5月28日】洋上風力発電を考える~画餅の国策なのか
3、開発体制も整備済みだったが
風力活用のため、政府は、導入促進を行ってきた。特に洋上は、18年「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法:19年4月施行)を制定した。同法は、海域の発電設備整備促進のため、基本方針の策定、発電設備整備促進区域の指定、海域の占用等に係る計画の認定制度の創設、地元漁業等関係者・国・自治体等の協議会の設置、公募占有計画提出による事業者の選定等を定める。応募で競争を促進し、コスト低減も狙った。
同法に基づき、第1ラウンド(21年12月)3海域決定以降、第2ラウンド(23年12月)4海域、第3ラウンド(24年12月)2海域で事業者を決めた。既述の通り開発予定発電能力は計460万kWに達している(設備利用率30%で推定発電量120億kWh/年)。100万kW原子力発電所2基相当分である。
他に港湾法・都道府県条例による海域占有許可のプロジェクトも進行中である(70万kW超)。
4、怪しい雲行き~衝撃走る
22年コロナ感染収束が見え始めた頃から、輸入物価上昇で、消費者物価上昇となった(指数20年=100、21年99.8:前年比△0.2%,22年102.3:同+2.5%、23年105.6:同+3.2%、24年108.5:同+2.7%)。また建設物価指数(15年=100)も、20年105程度、22年115.6,23年123.5,24年131.6と上昇した。現在建設費は、20年当時の1.5~2倍である。当初の事業想定を上回る建設費高騰は、資本費が大宗を占める電源投資を直撃する。
そして三菱商事は、第1ラウンド3海域の事業見直し、損失計上となった。民間企業故収支見込不調で事業中断は、やむを得ないでなく当然である。欧州、米国でもプロジェクト中止の報道が相次いだ。半世紀前の米国原子力発電の実例を思い出す。1980年代、建設費高騰で多くの原子力発電所建設が中止に追い込まれた。それを原子力発電の安全性と結び付けた議論もあったが、採算考慮の事業中止だった。主因は、インフレ対応過誤の米国の経済運営だった。当時も物価見合い賃上げ論が横行した。
5、弥縫策に走る
慌てた担当官庁は、応急手当を考えた。よく見れば、洋上風力の問題は明確とする。洋上風力発電は、投資規模が数千億円単位である。総事業期間も⾧期間(約40年間)となる。試算例でみれば、洋上風力発電(35万kW)は資本費1,358億円、運転維持費46億円/年、売電収入217億円/年である(第68回再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会資料:24年9月11日)。開発期間、初期投資、事業金額大でリスクが有る。海外(米国等)でも、大規模な洋上風力から撤退事例が複数生じている。他の再エネ電源投資と異なり、収入・費用の変動リスクに対応した対策が必要と強調した。「分かってなかったの」という揶揄もあるが、この国では、取り繕い跋扈する。
24年11月「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 洋上風力促進ワーキンググループ」「交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会」合同会議は、対策として「洋上風力発電に係る電源投資を確実に完遂させるための制度のあり方について」を提出した。選定基準評価項目見直し、価格調整スキーム導入(将来の物価変動のみを基準価格/調達価格に反映する)、セントラル方式導入(国・JOGMECによる調査、対象区域の選定)等を提言した。完遂という言葉が興味深い。
そして25年3月第一次選定の3地域について、FIP制度への移行と既存の選定事業者の希望に基づく制度変更等を行った。この流れで洋上風力の現状と将来を勘案すると、現在の区域整理、事業者公募の方法が適切か疑問浮上である。