【静岡ガス 松本社長】積極投資で事業を拡大 収益増と変革を両立し包括的施策で公益担う
財務基盤を強化 株主還元の充実も
井関 ところで、中計では「資本コストや株価を意識した経営の実現」を掲げています。この背景や具体的なアクションプランを教えてください。
松本 当社のPBR(株価純資産倍率)は現時点で約0・72倍と低位にとどまっています。これはPER(株価収益率)とROE(自己資本利益率)が芳しくないことに起因します。特にROEの低水準には、自己資本比率が高くレバレッジ効果が働いていないことが大きく影響しています。まずは事業領域拡大に向けた積極投資を見据え借り入れの比率を高めることで、自己資本比率を現状の70%から50%程度に落とし、同時に資本効率の向上を目指します。
また、今後は株主・投資家の方々への還元にも力を入れていきます。23年12月の期末期より、配当性向(純利益に対する配当金の割合)について3割を目標水準としたことに加え、昨年には安定配当から累進的配当に切り替えました。これらの取り組みで、24年度の1株あたりの配当金は25円から40円に引き上がりました。今後も、財務体質強化のための内部留保は行いつつ、積極的な成長投資と持続的な株主還元の充実を図ることでPER・PBRひいては企業価値の向上を目指します。
井関 静岡エリアの経済の動向、および今後の展望をどう見ていますか。
松本 人口減少などの傾向はありつつも、脱炭素化一辺倒だった流れから、トランジション手段としての天然ガスの重要性が増してきたこともあり、特に大口のお客さまにおける生産活動などは上向きの状態でしたが、そこにトランプ政権による追加関税の発表がありました。こうなると、今後の展開は予測しきれないというのが正直なところです。そのため、どう転んでも対応できる万全の体制をいち早く整えておく必要があります。
井関 エネルギーインフラ事業者として、地域の課題解決にどう貢献していくか、松本社長の考えをお聞かせください。
松本 目まぐるしく状況が変化していく中で、地域の皆さまの生活を下支えしていくことがわれわれの使命です。そのためには地域の垣根を越え、さまざまな企業と力を合わせていく必要があります。例えばLPガスでは、過疎化や高齢化の影響で採算が取れなくなり、事業撤退を余儀なくされている販売事業者が増加しています。当社はこうした事業者への出資やM&Aを積極的に行うことで、地方におけるエネルギーの安定供給に貢献していく方針です。佐渡ガス(新潟県佐渡市)や信州ガス(長野県飯田市)などに出資していますが、両エリアでもガス事業だけではなく、リフォームやリノベを含めた住宅事業といった「くらし」全体を支える取り組みを展開しています。こうした流れを加速させ、インフラの維持・強化はもちろん、地域社会全体の発展を後押していく所存です。
井関 地方の未来に希望をもたらす取り組みだと感じました。本日はありがとうございました。
対談を終えて
松本氏が社長に就任して2年目。新中期計画を策定し、事業領域の拡大を柱に2030年目標の達成を目指していく。特筆されるのが、人材活用・育成への取り組みだ。社員の声を積極的に経営に反映させながら、女性役員・管理職の登用に力を入れる。若手の5年定着率90%超えは大きな成果だ。東海地域の経済・生活を支える主要インフラ事業者として、同社の挑戦は続く。(聞き手・井関晶)