【コラム/6月13日】電力供給システムの集中化と分散化

2025年6月13日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

カーボンニュートラル(CN)の達成のために、内外で再生可能エネルギーが大量導入されているが、それはどのような電力供給システムをもたらすであろうか?集中化、分散化のいずれが進展するであろうか?分散化が進展するとしたら、従来の電力供給システムに特徴的な集中的な要素は重要性を失うことになるのであろうか?本コラムでは、このような問題について論じてみたい。

CNがもたらす電力供給システムについては、集中化、分散化のうち、どちらかというと分散化が進むとの考えが多いのではないだろうか?とくに、再生可能エネルギー推進派には、地産地消(または自給自立)、市民の選択、従来の電力供給からの独立などの観点から、再生可能エネルギー大量導入により分散型電力供給システムがもたらされるとの期待が高い。将来の電力供給システムが集中型か分散型かについての議論は、今後さらに活発になるだろう。しかし、このような議論は結論が得られず、徒労に終わることも少なくない。その理由は、集中型もしくは分散型について議論する者が抱いているイメージが明確でないため、議論が嚙み合わないためである。そのため、将来の電力供給システムが向かう方向性について議論する場合には、集中型および分散型の電力供給の概念をまず明確しておくことがスターティングポイントとなる。それ無しに議論しても、実りのある成果は得られない。そのため、ここではまず、集中型と分散型の概念を明確にしておく。

電力供給システムが集中型か分散型かは、発電所の規模、発電された電力がフィードインされる電力ネットワークの電圧レベル、電力貯蔵設備などのフレキシビリティや発電設備の消費者への近接性、需給調整のあり方など、いくつかのディメンションで判断される。典型的な集中型電力供給とは、大規模な洋上風力発電所や揚水発電所などが、需要地から遠く離れた場所で発電し、高圧で系統連系し、貯水池式・揚水式の水力発電 や融通電力などによりフレキシビリティを確保し、需給バランスは、中央の電力取引所や需給調整市場により確保する場合である。また典型的な分散型電力供給とは、小型の再生可能エネルギー電源などが、需要地で発電し、最小限の系統連系(極端な場合は、系統連系無し)で、フレキシビリティは需要側の蓄電池などで確保し、需給調整も需要地で行う場合である(図1)。このような典型的な集中型および分散型の電力供給の間に、比較的集中型、あるいは比較的分散型の様々な供給形態が存在する。

図1 集中型電力供給と分散型電力供給
出所:Nationale Akademie der Wissenschaften Leopoldina et al.(2020)などより筆者作成

注意を要するのは、現状では、典型的な分散型電力供給における厳密な「自給自足」は経済的な理由から難しいことである。小さな自給自足単位では、瞬時ごとに需給バランスを確保するコストは禁止的に高いからである。そのため、実際には、ほとんどすべての分散型電力供給システムでは、系統連系により、外部のフレキシビリティにもアクセス可能としている。例えば、既存の電力系統から独立して運転可能なオンサイト型電力供給システムであるマイクログリッドでは、通常は既存の電力系統と一点で連系されている。このような場合には、分散型電力供給システムといえども集中型電力供給システムの要素を部分的に有している。

再生可能エネルギー大量導入下の電力供給システムにおいては、分散的要素がさらに増大する可能性が高いが、集中的要素も欠かせない存在となることは確かである。例えば、再生可能エネルギー電源の大量導入下では大量のフレキシビリティが必要となるが、その効率的な確保のためには、遠隔地の揚水発電所や集中設置された蓄電設備、またはフレキシブルな集中型発電所を含む様々なエネルギーリソースからの提供を可能にしておく必要がある。それを可能にするのが系統の利用と増強であり、再生可能エネルギー電源の大量導入下でも集中的要素は必然的に組み込まれる。

電力供給システムは、様々な集中型と分散型の技術および調整メカニズム(需給バランス)を環境適合性、経済性、安全性、アクセプタンスの観点から最適に組み合わせることによって構築されなくてはならない。このことは、再生可能エネルギーが大量に導入される状況においても変わることはなく、電力供給システムは、必然的に集中的要素と分散的要素を併せ持ったものとなると考えられる。同電源が飛躍的に増大するドイツでも、この点に関しては専門家の間でコンセンサスが見られる(Nationale Akademie der Wissenschaften Leopoldina et al. 2020)。集中型か分散型かという単純な二項対立に焦点を当てる議論はあまり意味がないと言えるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。