【特集2】「価値獲得」へ各社が手探り 自治体の付加価値向上も

2025年12月3日

多様な分野での運用が期待されるスマメの電力データ。 データ活用に向けた、現状の課題と今後の展望を聞いた。

インタビュー/森川博之・東京大学大学院工学系研究科教授

―スマートメーターによるデータをどのように捉えていますか。

森川 ビッグデータという点が大きな魅力で、これまでさまざまなサービスが検討されてきました。ですが、システムにかかるコスト負担、顧客から料金を徴収する仕組みが確立されず、ビジネスにつながっていないのが現状です。つまり、新技術で新たな製品・サービスを生み出す「価値創造」はできているが、その価値で収益をあげ、サステナブルに循環していく「価値獲得」ができていません。今は価値獲得に向け、各社が手探りしている。まさに「生みの苦しみ」のフェーズです。

―何かいいアイデアはないでしょうか。

森川 注目している事例が、中部電力ミライズコネクトの賃貸物件向け高齢者見守りサービスです。家賃債務保証を組み合わせることで、賃貸オーナーや不動産会社が安心して高齢者の入居を受け入れられるサービスになっています。顧客が料金を支払う仕組みが成り立っている一例と言えるでしょう。

―災害時のインフラ復旧など、公共機関への活用も期待できますか。

森川 安否確認など、住民の安全・安心につながり、自治体の付加価値も向上します。ただ、ビジネス同様、限られた予算の中でどのようにコストを負担していくのかを考える必要があります。この点がクリアできると、データ活用は一気に進むと思います。

短周期でのデータ収集が可能 新プレーヤー誕生のきっかけに

―今後、第2世代のスマートメーターが導入されていきます。期待していることはありますか。

森川 短周期でより細かくデータ収集できる点では、電力会社の需給調整にも貢献できます。一方、よりリアルタイムでデータがやり取りされると、新たなプレーヤーが誕生するかもしれません。第2世代はそのきっかけとなるアイテムになると考えられます。

―これからは都市ガス、水道へのスマートメーター導入も進みます。

森川 さまざまなデータの掛け合わせで新たなビジネスが生まれる可能性は十分あります。今後、必要とされるのは、データを使って何ができるのかを考えられる「デジタル社会人材」。まさに、固定概念を捨て、ビジネスの糸口に気づいた人が勝つ世界です。そして、失敗するかもしれないが、まずは実行してみること。これがデータをビジネスにうまく活用する第一歩だと思います。

もりかわ・ひろゆき 1992年東大院工学系研究科博士課程修了。2006年東京大学大学院教授。情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)会長、電力データ管理協会代表理事なども務める。