【北海道電力 齋藤社長】新たな価値を創造し 北海道と共に力強く成長する
札証にESG債上場 資金調達円滑化に期待
井関 9月10日、札幌証券取引所に「ESGプロボンドマーケット」が開設され、北電としても4月に発行したトランジションボンドを上場しました。
齋藤 同証券取引所にトランジションボンドを上場したことは、当社にとって非常に意義があることだと考えています。ESG債の発行目的である当社のCNの実現に向けた取り組みを、幅広い投資家に認知いただくことが可能となりますし、投資家にとってもESG債投資の選択肢が広がるため、資金調達の円滑化が期待できます。今回上場した社債は、脱炭素化移行への事業に調達資金の使途を限定しており、泊発電所の再稼働に必要な安全対策工事や再生可能エネルギーの導入拡大に向けた送配電網の整備・強化などに関する事業に充てます。

井関 スペイン・ポルトガルの大停電を機に、再エネが大量導入された系統における慣性力や無効電力の重要性が再認識されました。Reactive Technologies社と道内の系統慣性計測を実施するとのことですが、どのような施策につなげる狙いですか。
齋藤 電力広域的運営推進機関の審議会(9月24日開催、第111回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会)で議論された通り、再エネ導入が進んでいる北海道エリアにおいて、今後はさらに洋上風力発電が大量に連系されることになり、供給力の60%が再エネになるとも想定されています。これと並行して、地域間連系線の増強や蓄電池の系統連系、経年化火力の休廃止が進むと想定されます。このような環境下においても、供給力や調整力といった需給バランスの確保はもとより、一般送配電事業者である北海道電力ネットワークにより、適正な周波数・電圧の維持といった電力の安定供給に必要な機能を確実に維持しなければなりません。
そのため当社は、北海道エリアにおける系統慣性の実態を把握するための計測を実施していくことにしました。同期発電機の維持や疑似慣性機能を持つインバータ電源など、電力品質維持のために考えられる施策について、将来のエリア需給見通しも鑑みつつ、再エネ導入拡大と電力の安定供給を両立できる自社電源構成の検討などに生かしていきます。
井関 石狩湾の洋上風力の促進区域化の話もあります。
齋藤 石狩市沖の一般海域は、大消費地に近く、風況、水深、系統連系などの条件がそろった洋上風力発電事業に適した海域です。19年にグリーンパワーインベストメント(GPI)と連携協定を締結しており、港湾区域の洋上風力発電が昨年1月に運転を開始しました。今後については国の制度の動向、協議会の進ちょくなどを注視しつつ、地域の皆さまのご理解を得ながら、検討を進めていきます。
新たに2支社を設立 社会課題解決の一助に
井関 10月1日に地域共創、地域課題解決のための新たな事業所として岩見沢支社、小樽支社を立ち上げました。また、23年11月には事業共創推進室を立ち上げています。これまでの成果や今後の取り組みの目標は?
齋藤 岩見沢、小樽支社を立ち上げたことで、お客さまや地域のお困りごと、社会課題解決の一助となると認識しており、今後も幅広い取り組みを展開していきます。
また、事業共創推進室は、北海道の持続的な発展に貢献することで、これまで北海道に基盤を置きエネルギー事業を行ってきたご恩をお返ししたいという思いから設置し設立から2年が経過しました。これまで取り組みを進める中で、改めて北海道は大きな強みやポテンシャルを有すること、同時に、さまざまな社会課題が顕在化していることを認識しました。また、思いを同じくする企業や地域の方々との多くの出会いがあり、それぞれの強みや技術と当社が北海道で築いてきた事業基盤を掛け合わせる「共創」の意義も再認識しました。
これまでに、寒冷地北海道で持続可能な農業を実現すべく、省エネ・通年安定供給やフードマイレージ削減を実現する小型植物工場をニセコエリアで展開しているほか、検討中の大規模植物工場では高生産性を追求することで、将来にわたり食料基地としての北海道の位置付けに貢献したいと考えています。また、昨年10月から京極発電所で実施した日本酒熟成の実証事業では、天然の貯蔵庫としての有効性や十分な付加価値が確認されたことから、蒸留酒やスパークリングワインなど酒類の幅を広げた新たな実証事業も開始しました。観光分野では、10月にツアーを実施したほか、首都圏に北海道の魅力をPRする企画など、新たな取り組みを検討しています。今後も地域の企業と連携しながら魅力を発見し、PRして北海道を少しでも盛り上げていきたいですね。
井関 明るい見通しを込めた成長戦略を打ち出したことは、北海道経済にとっても意義がありますね。本日はありがとうございました。
対談を終えて
「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を今年3月に策定した北海道電力。齋藤社長が自らの思い込めて作ったビジョンだけに、話は尽きない。そこから浮かび上がるのは、半導体工場やデータセンターの建設などで盛り上がる道経済を背景にした「攻めの経営」だ。想定される電力需要拡大に対応すべく、発電・送配電部門での安定供給確保に万全を期す構え。一方で、深刻化する人口減少や過疎化といった地域課題にどう挑んでいくのか、今後の展開に注目だ。(聞き手・井関晶)


