【東京ガス 笹山社長CEO】経済性見極め成長投資 事業の効率化を進め安定した利益成長図る
アラスカLNGに関心 事業性見極め調達検討
井関 米グレンファーングループ子会社などが米アラスカ州で計画するLNG事業からの調達を巡り、同社との間で関心表明書(LOI)を締結されました。
笹山 アラスカは日本からの距離が非常に近く、地理的な優位性を持つため魅力的なプロジェクトだと考えています。一方で、約1300kmに及ぶパイプラインの建設など経済性の面でいくつかの課題があることも認識しています。今回のLOI締結は、そうした課題を含めた経済性や条件面を精査し、事業性を見極めていくための第一歩として位置付けています。
井関 サハリン2プロジェクトの継続については、現在難しい状況にあるという印象です。
笹山 サハリン2プロジェクトは日本からの距離も近く、契約条件の面でも決して悪くないプロジェクトであるため、安定供給上の重要な案件として、可能であれば継続して調達していきたいと考えますが、政府と相談しながら対応していきます。
井関 米キャメロンLNG基地近傍で進められているe―メタンプロジェクトの最終投資決定(FID)について、年度内にどう判断することになるのでしょうか。
笹山 米キャメロンのプロジェクトは、インフレなどのコスト上昇を避けられないことから解散し、各社決裁手続き中です。他方、引き続きいくつかのプロジェクトの可能性をにらみつつ、コスト面で優れており優先順位の高いカナダの新規プロジェクトに取り組み、30年度までの製造開始を目指します。
井関 データセンター(DC)建設に伴う電力需要の増加が足元で顕著です。29年度から千葉袖ケ浦パワーのLNG火力が稼働する予定ですが、さらなる電源投資についてのお考えはありますか。
笹山 千葉袖ケ浦パワーについては着実に取り組みを進めます。
一方で、DCは電力需要が大きいため、系統電力の敷設状況に伴う立地上の制約や早期稼働が困難といった課題が顕在化しています。当社は分散型電源であるガスコージェネと系統電力の「ハイブリッド型」を提案しており、多くの引き合いがあります。一般的にガスコージェネの導入により電力供給制約が緩和されれば、稼働の早期化や立地の自由度向上が見込めます。1万kW弱の発電機を複数台並列で設置するなど、規模に応じて柔軟に対応できます。中圧管など耐震性の高いガス供給網を利用するため、災害に強いという特長もあります。
海外で浮体式開発が順調 国内展開の足がかりに
井関 洋上風力事業は世界的なインフレによる資機材高騰などの影響で厳しい環境にあります。今後、国内外での洋上風力事業にどのように取り組まれますか。
笹山 国内において当社は国の洋上風力公募のラウンド3に参画しています。現在、国による支援策が議論されており、それを見極めながら前向きに検討していきたいです。
中長期的に見ると、着床式洋上風力の適地は徐々に限られてくるため、今後は浮体式技術の重要性が高まると見ています。ただし、国内で浮体式が本格的に採用されるには、まだ時間がかかると考えています。当社は、欧州で数少ないバンカブルな(融資適格性のある)浮体式技術を持つプリンシプル・パワー社の「セミサブ型」を活用し、ポルトガルの浮体式洋上風力発電所「ウインドフロート・アトランティック」の事業にも参画しています。こうした欧州での先行的な知見を生かし、将来的には日本においても、バリューチェーンが国内に形成されるような展開を目指していきます。
井関 日本の洋上風力事業を普及させる上で、サプライチェーンの国産化は大きな課題です。
笹山 浮体式の製造など、バリューチェーンを日本に残すことが重要です。技術が海外由来であっても、製造や組み立てを国内で行うことで、地域経済の活性化につながります。当社は、グリーンイノベーション(GI)基金を活用し、日本の造船所と連携して浮体式基礎のモックアップ製作に取り組み、日本国内における量産化手法の妥当性を確認しています。しかるべきタイミングが来た際には国内展開できるよう、着実に準備を進めていきたいと考えています。
井関 高市早苗新政権のエネルギー政策について、どのような点に期待していますか。
笹山 新政権は、エネルギーの安定供給を重視されていると受け止めています。10月末の米トランプ大統領との会談においても、日本のエネルギー安全保障にとって重要なテーマについて、しっかりと発言されていたことは、心強く感じました。今後も、エネルギー安全保障の重要性をしっかりと認識しつつ、従来からの基本方針であるS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)とのバランスを取った政策を推進していただくことを期待しています。
井関 本日はありがとうございました。
対談を終えて
10月29日に発表した次期中期経営計画が話題を呼んでいる。持続的成長、ポートフォリオマネジメント、株主還元を軸にした企業価値向上に向け、成長投資・財務戦略を明確に打ち出す一方、eメタンや再エネなどの記述が大幅に減ったからだ。ともすれば中計は総花的な内容になりがちだが、それを避け、現行中計で積み残した課題(利益成長と効率改善)の克服に取り組む方向性を明示した格好だ。笹山社長の思い描く経営がどう展開されていくのか、楽しみだ。(聞き手・井関晶)


