【視察①】原子力と分散型先進国を行く 仏独のエネ事情の実態調査

2025年12月6日

CNの難しさに直面 政府が軌道修正図る

原子力から頭を切り替えながら一行はドイツへ移動。マクデブルク・シュタットベルケ(SWM)、〝エネルギー完全自給〟のフェルトハイム村、ドイツ連邦経済・気候保護省(BMWK)の3カ所を訪れた。

ベルリンから南西へ約160㎞の都市・マクデブルク市が拠点のSWMは現在、市が株式の50%超、残りをエーオンなどの民間が保有。電力・ガス・地域熱供給、水道事業などを扱う。

SWMのバイオマスプラント

熱供給網は、第二次世界戦争からの復興に向けた都市計画に併せて整備した。また東西独統一後の環境規制を受け、熱源がそれまでの褐炭から天然ガスへシフト。ただ、電気・熱源としてガスの将来性は見込めないと考え、現在は廃棄物焼却熱を主力に。他方、試験的にバイオマスプラントを建設したが、採算性は低いという。Thomas Pietsch代表取締役は「政府はネットゼロを決め、市町村にロードマップの策定を義務付けたが、今は軍事関連に予算が集中。政治の意思をどう実現するかが課題だ」と率直に語った。

SWMを後に、今度は110㎞ほど移動し一路フェルトハイム村へ。小規模な農村は、1990年代に大学生の発案で村民を巻き込み風車を設置したことが契機で再エネ導入が進み、100%再エネによる電力供給を実現した。村民、農業組合、インフラを所有するエネルギークエレ社が共同出資する「フェルトハイム・エネルギー」が、発・配電、熱供給を担う。平地に約50基の風車が並び、年間発電量は4万世帯分。村の需要は1基で十分賄え、売電収入が村を支える。雇用創出を目的に、家畜ふん尿や農産物残さを使うバイオガスプラントも運用する。

安倍昭恵氏も訪れたフェルトハイムの風車

国有の既存送電網に加え、国内で唯一独自の配電網が最大の特徴だ。同村には例外的に許可が下りたが、他村は承認されなかった。村民は電気を国から買うかフェルトハイム産か選べるが、後者の方が安いという。

トリを飾るBMWKでは、エネルギーヴェンデの現状に触れた。脱原発は達成済みで、2038年までの脱石炭火力や、送電網の拡充に引き続き注力する。ただ、北部の風車の電気を南部に送れず、別途南部の発電所を稼働させるため「リディスパッチ」のコストが年間約30億ユーロ発生。そしてNWの大規模建設計画は相当コストがかさむ見込みで、政府はシステム全体のコストバランスを踏まえて投資するよう見直した。

水素については部門責任者のChristine Falken-Grosser氏が解説。巨額を投資し強力に推進してきたが、30年に国内水電解能力1000万kWという目標は、ガス価格下落で水素の経済性が低下し達成困難に。「コストの上下が激しく新しい目標は立てていない」など、軌道修正の難しさが話ににじんでいた。

限られた時間の中ではあるが、仏独それぞれ日本とはあまりに異なる環境に触れる一方、CNに向けて同じような課題に直面していることも理解できた。現実的なCNを目指す7次エネ基の実施に当たり、仏独の経験に学ぶべきことは多そうだ。

【視察②】実際目にして得られた再発見 随所に潜む日本への示唆 へ続く

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