【時流潮流/1月22日】ベネズエラ侵攻の損得勘定 注目されるカナダの動向

2026年1月22日

トランプ米政権は年明け早々、ベネズエラを急襲し、対立するマドゥロ大統領夫妻を拘束し米国に移送した。世界一の原油産出量を誇る米国が、原油埋蔵量トップのベネズエラを管理下に置けば、世界の原油取引市場で米国の発言力が強まる可能性が出てきた。

米国に移送中のベネズエラのマドゥロ大統領。トランプ米大統領がSNSに投稿した

トランプ氏は、ベネズエラ産の原油を米国が統制し、売却益を米国とベネズエラで山分けする考えを示す。さらに、老朽化した生産施設の改修や更新、新規油田の開発などを米国石油大手などに担わせる構想も打ち出した。

だが、9日にホワイトハウスで開いた石油企業トップとの協議は不調に終わった。過去にベネズエラ政府に資産を没収され、債権が回収できていない状態などを理由に世界トップの米エクソンモービルが「投資対象として魅力がない」と要請に応じない考えを示した。米コノコ・フィリップスも同様の考えを示した。前向きだったのは英蘭シェルなど少数にとどまった。トランプ氏は「1000億ドル(16兆円)を超す投資をする」と息巻くが、思惑通りには進みそうもない。

ベネズエラは1997年には日量320万バレルを産出するなど世界有数の産油国だった。石油輸出機構(OPEC)の設立メンバーでもある。だが、左派のチャベス政権が99年に石油国有化を進めて以後、外国資本の撤退が相次ぎ、現在の産出量は日量100万バレルを切る水準にまで落ち込んでいる。

ベネズエラ産の原油は、対岸に位置する米メキシコ湾岸(ガルフ)沿いの石油精製施設に大量に供給されていた。ジェット燃料やディーゼル油、そしてアスファルトなどの製品を作り、米国内外に販売されていた。

だが、18年にトランプ米政権が制裁を科したことで、ベネズエラ産原油の調達が難しくなる。製油所の操業を維持するため、ベネズエラと同様に超重質油を産出するカナダ産原油に切り替えた。

カナダは米国、サウジアラビア、ロシアに次ぐ世界4位の産油国。西部アルバータ州に油田が集中し、豊富なタールサンドから得た超重質油の生産が近年伸びている。多くは国境南側の米中西部の製油所向けに輸出されるが、ベネズエラへの制裁が始まって以後は、パイプライン経由でガルフ向けにも運ばれ始めた。

だが、今回の政変でガルフの製油所の目は、距離的に近いベネズエラ産の原油に向かう。制裁が解かれ、カナダ産より安価に調達が見込めそうで、ガルフは「ゲームチェンジ」に沸いている。

打撃を受けたのはカナダと、ベネズエラ産原油の約半分を購入していた中国だ。超重質油が手に入らなければ、中小の独立系を中心に経営が立ちゆかなくなる製油所も出てくる。カナダは、それに目をつけた。

カナダのカーニー首相は13日、関係悪化が続いていた中国を訪問した。首相の訪中は実に8年ぶりとなる。首脳会談を経て、カナダは中国製電機自動車(EV)への関税を100%から6.1%へと下げる一方、中国はカナダ産菜種油の関税を84%から15%に引き下げると発表した。関係強化を図る方針を内外に打ち出した形だ。

カナダは西岸バンクーバー港と産油地帯を結ぶ石油パイプラインの輸送能力を24年に大幅に増強したばかり。さらに増強する方針で、中国だけでなく日本、韓国などアジア市場を見据える。カナダは、米国が目指す石油取引市場への影響力強化に一石を投じることができるか。今後の動向が注目だ。