【特集2水素エネルギー】福島県で広がる再エネ水素の先導モデル

2026年3月3日

再生可能エネルギーを利用した水素の社会実装に向けて取り組む福島県。
産官学が連携を強め、地産地消モデルの構築を目指す。

福島県は東日本大震災以降、「原子力に依存しない持続可能な社会」を復興理念に掲げ、「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021」で、40年頃までに県内エネルギー需要の100%以上を再エネで賄うという目標を掲げている。この達成を確実にするため、30年度の中間目標を70%に引き上げ、すでに24年度の実績値で59・7%まで到達した。


政府は、産業復興とエネルギー転換の両立を目指す福島県の取り組みを支援してきた。その中核を成すのが、14年に策定した国家的プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」だ。浜通り地域の産業再生を柱に、廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産などの新産業基盤の構築を推進してきた。16年には「福島新エネ社会構想」を策定し、再エネや水素活用の先導的モデルを県全域に展開。21年の改定を経て、現在は「福島新エネ社会構想加速化プラン3・0」へと更新されている。


直近の進捗としては、陸上風力で国内最大級となる阿武隈風力発電所の運開や、Jヴィレッジなどの県内3カ所にペロブスカイト太陽電池を導入。その他、国内初となる24時間365日営業の水素ステーションの開設や燃料電池商用車導入に関する重点地域に福島県を選定するなど、エネルギー転換に向けた具体策が着実に結実しつつある。

生産実証の期間を2年延期 自立化に向け最終調整

一連の復興プロジェクトの中でも象徴的なエネルギー施設が、20年3月に浪江町に設立された「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主導の下、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業と連携し、2万kWの太陽光と1万kWの水素製造装置を用いた世界最大級の再エネ水素生産実証が進行中だ。1日当たりの製造量は約150世帯が1カ月に消費する電力量に相当し、約560台の燃料電池車を充電できる。

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)の外観      提供:NEDO


FH2Rで製造された水素はエネルギー、輸送、製造など多岐にわたる分野で実証に活用されている。住友ゴム工業はタイヤ製造の加硫工程でタイヤ成形に必要な熱を得るためのボイラー燃料としてFH2R産の水素を活用。国内初となるタイヤ製造時のカーボンニュートラル化を実現した。実証後、白河工場内の太陽光パネルで発電した電力で水素を製造し、それを直接利用するエネルギーの地産地消を目指している。大林組は、FH2R産水素を利用する業務用純水素燃料電池の普及拡大を図るため、カードル巡回型による低コストな水素サプライチェーンを構築中だ。一度に大量の水素を運搬できるため、運搬効率の向上と物流コストの低下が期待されている。


今年1月に始まった日揮ホールディングスによるグリーンアンモニア製造もFH2Rから供給される水素を活用。脱炭素燃料としてのアンモニア実用化に向けた第一歩を踏み出したところだ。


一方でNEDOは今年1月、FH2Rでの水素製造の実証期間を2年延長する方針を明らかにした。30年からの本格商用化に向け、低コストな水素製造の継続性を向上させるため、また電力系統の需給バランス調整能力を強化するための新たな技術開発が追加になったことが理由だと考えられる。27年度までを「最終調整期間」と位置付け、自立的なビジネスモデルを確立していくとみられる。

FH2Rの水電解装置                    提供:旭化成

窒素酸化物の抑制に成功 工業炉などへの応用を研究

福島県において水素実装社会を目指した技術開発を主導しているのが、産業技術総合研究所の「福島再生可能エネルギー総合研究所(FREA)」だ。14年4月の設立当初から再エネの導入拡大が至上命題とされてきた。太陽光や風力などの変動性再エネを大量・長期に貯蔵するためには水素が不可欠との判断から、水素の研究開発を大きな柱に据えている。古谷博秀所長は「今福島で水素が成功しなければ日本中でどこでも成功しない」として、FREAがエネルギー転換の拠点だと捉える。

福島県内の水素実用化に向けた取り組み


FREAでは、早くから水素の貯蔵・輸送の課題を解決する手段としてアンモニアに注目し、15年には、世界で初めて小型ガスタービンでのアンモニア専焼発電に成功。現在の日本の火力発電におけるアンモニア戦略に大きな影響を与えた。アンモニア燃焼の最大の懸念点とされるNOX(窒素酸化物)の発生に関しては、東北大学との共同研究でNOX抑制技術を確立。現在ではガスタービンのみならず、工業炉用バーナーなどへの応用研究も進んでいる。


貯蔵技術に関しては、清水建設と共同で水素吸蔵合金を用いた低圧(10気圧以下)の安全な水素貯蔵・供給システム「Hydro Q-Bic」を開発。東京湾岸の地域冷暖房への導入など、実用化を果たした。

浪江水素ステーション


現在注力しているのが国内企業との産業連携だ。三菱重工業とは500kW級の大型水素エンジンの試験を行い、排熱利用を伴うコージェネレーションを追求。一方、日立製作所とは、再エネ由来水素をMCH(メチルシクロヘキサン)に貯蔵し、エンジンで利用するシステムや将来の小型車への適用を研究する。その他、豊田中央研究所らと小型アンモニア製造装置の開発などが進捗している。

マッチングを担う専門機関 事業化への企業集団を組織

再エネ先駆けの地を目指す福島県で特筆すべき機関が、17年設立の「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」だ。「専門コーディネーターが企業連携や新事業創出を伴走支援する公的機関」と、県商工労働部次世代産業課の植田隆太課長は説明する。


EAFは企業の情報提供やマッチング、販路開拓までを伴走型でサポートし、県内での産業集積と新たなビジネスモデルの創出を推進している。


EAFが支援する事業化ワーキンググループ(WG)「地産地消型の小さな水素社会構築WG」は、大熊町のベンチャー企業・OKUMA TECHが中心となり、昨年3月に始動した。日立製作所を含む14企業、3自治体(大熊町、浪江町、長崎県)、2団体が参画。初年度は、技術、法制度、需給管理、採算性などを網羅的に議論し、地産地消型モデルの要件を定義。今後、事業化を実現し、標準化モデルを構築して全国展開を目指す。


また、OKUMA TECHは今年1月、同事業化WGに属する島根電工(島根県松江市)と水素事業の社会実装に向けたパートナーシップを締結。同社の技術実証の知見と、島根電工の施工・保守力を融合し、地域に根ざした水素利活用モデルを構築する。中国地方を皮切りに広域展開を図る構えだ。


さらに同月、経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J-Startup東北」 に初選定された。水素関連企業、また大熊町発の企業として初になる。来年3月には、町内の約7000㎡の敷地に水素工場を新設。独自技術による粉体水素(水素化ホウ素ナトリウム)の研究開発と事業化を軸に、水素燃料電池などの量産化や地元雇用の創出などで地域の脱炭素化と地域活性化をけん引していく方針だ。

J-Startup東北に選定されたOKUMA TECH


水素化ホウ素ナトリウムは、液体水素の4倍、高圧水素の6倍という高いエネルギー密度を持ち、常温・常圧で安全に貯蔵・輸送できる。特殊なタンクが不要なため、輸送のしやすさが期待されている。建機や農機向けにコンビニなどでのカートリッジ供給を想定しており、使用後に残るホウ砂と水を回収して再利用する資源循環型の仕組みづくりを目指す。大熊町内で記者会見を行った李顕一代表は「世界進出も視野に入れた事業ロードマップを描いている」と意気込みを見せた。


「チームやぶき」もEAFが支援する事業化WGだ。矢吹町の8社で構成され、土木、板金、運送、電気工事などにおいて各社が培った独自の技術とノウハウを統合。再エネや水素分野に取り組む企業の多様なニーズに応え、課題解決に貢献している。

福島大学に専門コース新設 インターンシップを検討

次代を担う人材育成も進んでいる。浪江町では、小学5、6年生対象に「なみえ水素教室」を毎年開催。子どもたちからの要望で水素パンフレットを制作し配布した。また水素連携協定を結んでいる米国の都市とは高校生の相互留学も行っている。

浪江町の「なみえ水素教室」


一方、福島大学では24年4月に「水素エネルギー総合研究所」を設置。主に未利用のバイオマスから水素と炭化物を製造し、その特性評価により最適なシステム構成の方式や運転条件などを研究している。エネルギーの製造から利用という一連の循環を強く意識した研究が特徴だ。宗像鉄雄所長は「水素の低コスト化、安定的な製造・供給を目指して採算性の高いビジネスモデルを創出して実用化を図ること、そして他地域へ横展開し、地元に貢献していきたい」と話す。同大では学士課程、修士課程に水素やエネルギーを専門的に学ぶコースを新設。28年度には、学士から修士まで一貫して水素を中心とした教育を行う「ふくしま水素イノベーション人材育成プログラム」を構築する。現在、講義の新設や実践型のインターンシップの実施が検討されているところだ。


再エネ先駆けの地を目指し、実証から実装へと新たな段階へ移行しつつある福島県。地産地消の社会システムを構築し、次世代へと受け継ぐことは、復興の先の真の自立へとつながる成長を遂げる力となるだろう。