【特集2水素エネルギー】岩谷産業が極める液体水素と冷熱利用技術
水素利用の本格展開に向け、岩谷産業が技術開発に積極的だ。兵庫県尼崎市の拠点で未知なる領域の技術を磨き続けている。
国内唯一の液化水素サプライヤーである岩谷産業の研究開発拠点が兵庫県尼崎市にある。「岩谷水素技術研究所」と「中央研究所」の二つの組織から構成されている岩谷グループ唯一の研究施設だ。

以前は1987年に設立した「滋賀技術センター」(滋賀県守山市)に研究開発の機能を集約していた。当時は主にガス機器やガス設備、ガス燃焼などのデモンストレーションや実証試験の機能を担っていた。2013年には創業80周年の記念事業の一環として機能を拡張するとともに、各地からのアクセスが優れる兵庫県尼崎市へと移転した。
しばらくの間、中央研究所という名称で運営していたが、脱炭素分野へ注力するために、21年に「水素領域」を切り離して今日の形へと改組した。現在、約60人のスタッフが技術開発に励み、その3分の1が水素分野を担当している。
液体にしてコストを低減 BOG対策への制御を研究
「技術開発の研究テーマは、弊社の営業部門と頻繁に打ち合わせをして選定し、現場のニーズをつかんでいる営業部門からのリクエストを重視している。実際、お客さまが見学に来ることが多く、研究所としても安心して当社のガスを活用していただきたいと思っている」。研究所長の小池国彦・常務執行役員はこう話す。こうした取り組みから、単なる技術開発の場ではなく、商用化と社会実装を意識した戦略拠点であることがうかがえる。
そうした中でも、水素技術研究所では現在、注力している二つの技術領域がある。一点目は車両などへの液化水素の充填技術や冷熱回収技術だ。
水素利用のコスト低減には、液化水素の利用が鍵となる。水素を効率的に輸送・貯蔵するには、気体の状態よりも液体の状態の方がはるかに優れていることは自明の理。ただ、液体の水素はマイナス253℃と温度が低すぎるが故に、熱の侵入により発生するボイルオフガス(BOG)の課題を抱える。温度の低い液体をいかに無駄なく充填できるか、圧力制御や流量制御など、最適な技術ポイントの見極めに取り組む。「施設内にはマイナス253℃の液化水素を用いてさまざまな実証試験を行える設備を整備している。実際の環境を整備している研究施設は国内でも珍しい」(小池所長)

同時にこうした取り組みは、供給側だけの課題ではない。利用側にも、既存設備を液化水素仕様にカスタマイズする必要がある。昨年5月には、三菱ふそうトラック・バス社と充填技術を共同開発することを発表するなど、供給側と利用側との連携した取り組みが加速している。
二点目が冷熱利用だ。一点目に挙げた技術領域にも関連するが、例えば、液化水素をオンサイトの燃料電池向けに利用するケースがある。液化水素を気化させた水素ガスを燃料電池へ供給するが、この際に発生する冷熱のほとんどが、現状では未利用のままだという。こうして捨てられている熱の有効活用に向け、冷熱回収のための熱交換器開発などを進めている。回収した冷熱は、建築物への空調や冷凍機器などへの利用を想定している。

従来は産業ガスとしての水素利用が多かったが、昨今は燃料電池やボイラーなどのエネルギーや熱源としての水素ニーズも増えているそうだ。小池所長は「特にものづくりの工程で低炭素化・脱炭素化が求められているグローバル企業の工場ではその傾向が強い。単なる水素への燃料転換だけではなく、冷熱をカスケード的に利用することで、ものづくりの価値をさらに高めるといった支援につながればと思っている」と言う。
導管への混合で低炭素化 NEDO実証で検証開始へ
その他、福島県内のガス供給事業者と一緒にLPガスの低炭素化に向けた技術検証も進行中だ。既存のガスインフラやガス機器をそのまま活用することを前提に、安全面などの法規制を経済産業省と確認し、どれくらいの量の水素を混合して運用を継続できるかを検証している。「現状では10%まで混合できることを確認している」(小池所長)という。この検証は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、間もなくスタートする予定である。
このような既存インフラに水素を混ぜる方式も確立されれば、多様なアプローチによる業界の低炭素・脱炭素化が実現するだけに、実証の行方は注目される。「これまで水素産業をリードし続けてきたと自負しているが、今後も継続的に技術を磨くためには何といっても優秀な人材が不可欠。大阪大学に寄付講座を設けるなどして、次代を担う人材育成のための布石を打っている。水素分野は未知の技術領域が数多くある。今後も若い世代とともにしっかりと技術開発をと続けていきたい」と小池所長は意気込みを見せている。


