【特集2水素エネルギー】世界初の商用化供給網の確立に挑む川崎重工
液化水素の実証、さらにその先の社会実装を視野に入れたインフラ整備が本格化している。2021年に川崎重工業が立ち上げた日本水素エネルギー(JSE)が液化水素基地「川崎LH2ターミナル」の建設と液化水素運搬船の建造を始めた。30年度までに運搬船から基地への液化水素の受け渡しや海上輸送に関する商用化実証を行う。これらの基地の建設や運搬船建造を担う中核が川崎重工だ。

神戸の実証経験を生かす 世界最大級のタンクを建設
基地の建設地は川崎市臨海部にある扇島地区。JFEホールディングスが川崎市と協働して土地利用の検討を進めているエリアを活用する。昨年11月に起工式が行われ、今は建設工事の真っただ中だ。主要設備の一つである液化水素タンクの貯蔵容量は5万㎥。現在、世界最大は、NASAが運用する液化水素タンクの約4700㎥なので、まさに世界最大クラスであることがうかがえる。
川崎重工はこれまで、液化水素に関する技術を着々と積み上げてきた。20年には神戸で世界初の液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch神戸」が完成。2500㎥の液化水素タンクなどを用いて、今回の実証の足掛かりとなるパイロット実証を成功させた。また、1980年代にさかのぼると、種子島宇宙センターに液化水素タンクを納入し、約40年にわたって運用・保守を行ってきた実績もある。
一方、LNG貯蔵タンクの施工経験も豊富だ。液化水素はマイナス253℃とLNGよりもさらに低温な状態にある。そうした中、水素戦略本部PR戦略室の藤田雅和室長は「長年にわたる液化水素事業に携わった知見に加え、タンクの断熱構造などではLNGで培った技術を応用しながら建設を進めている」と自信を見せる。今回のタンクには平底円筒型を採用。同社の播磨工場(兵庫県)で部材を加工した後、川崎の基地に輸送し、タンクを組み立てる。基地の完成は29年頃を予定する。

運搬船の建造に向けた準備も進んでいる。JSEとの建造契約を締結し、これから同社の坂出工場(香川県)で建造を行うところだ。運搬船に搭載する液化水素用貨物タンクは、3基合計で世界最大となる4万㎥。藤田室長は「水素の市場が立ち上がる初期は水素の需要がそれほど多くない過渡期と想定している。その頃の市場ニーズを考慮し、今回のタンク容量を決定した」と説明する。
同社は22年に1250㎥の運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を建造し、日豪政府や他の民間企業とともに日豪間の海外輸送・荷役を、前述のパイロット実証とともに完遂させた。その時のデータなどを元にスケールアップを図り、4万㎥級を建造する計画だ。ちなみに、将来の水素需要の高まりを見据え、既に16万㎥級の基本設計も完了しているという。
ポイント技術は、液化水素の極低温状態を保ちながら、大容量を運搬すること。タンクの断熱・気密性の向上などは「当社の技術の見せどころ」(藤田室長)になる。また、油を燃料とする従来型の発電エンジンに加え、水素および油を燃料とする発電用二元燃料エンジンを搭載。貨物タンクから発生するボイルオフガス(BOG)も有効活用する。
30年商用化の実現を重視 重要な需要喚起に向けて
調達は、当初、豪州からの輸送を想定していたが、同国における許認可取得と設備建設に必要な時間を考慮し、JSEは国内調達に切り替えた。
一方、将来に向けた長期スパンでの調達先として、川崎重工は引き続き豪州を候補に入れつつ、中東やカナダといった地域との協議を始めている。
想定する需要先は、30年代初頭から半ばにかけて、まずはモビリティや発電利用だという。川崎臨海部を皮切りに、都心部にも需要拡大を図る計画だ。
並行して、同社は将来的な海外での需要創出も視野に入れる。昨年9月には、トヨタ自動車、関西電力とともに、ダイムラートラック社やハンブルク自由港倉庫建築組合といった企業・団体と日独連携水素サプライチェーン構築に向けた覚書を締結した。港湾や物流、モビリティ、発電などの各産業セクターで国際的な水素輸送の実用化と事業化を目指す方針だ。
さらに、同社の強みとして、水素混焼可能なガスタービン(GT)やガスエンジンの開発製造が挙げられる。これまで天然ガスのGTやガスエンジンを開発・製造してきた。この開発技術を活用し、現状のエネルギートランジション期では、燃焼器を交換すれば天然ガスから水素への転換や混焼が可能になるGTを開発し、販売している。
一足飛びで水素の需要は生まれないが、将来の水素社会に向けて「水素Ready」の設備ラインナップを拡充している。「基地の起工式を契機に、国内外ともに商用化への空気感が大きく変わった」。藤田室長はこう話す。本実証を皮切りに、商用化に向けた動きが加速していくことが期待される。
※1 グリーンイノベーション基金事業の「大規模水素サプライチェーンの構築」における水素輸送技術等の大型化・高効率化技術開発・実証「液化水素サプライチェーンの商用化実証」(NEDO助成事業)
※2 川崎重工を含む「技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」のNEDO助成事業
※3 ※2と同様の実証


