【オピニオン/10月5日】電気事業のデジタル化とイノベーションマネジメント

2020年10月6日

矢島正之・電力中央研究所名誉研究アドバイザー

近年、内外の電気事業でデジタル化が進展しているが、covid-19の感染拡大は、その動きに拍車をかけることになるだろう。電気事業のデジタル化としては、デジタル技術を駆使したデジタルプロダクト(バーチャルパワープラントやエネルギー自立支援システムなど)やプロセスの合理化(ロボッティクプロセスオートメ―ション、電力取引の自動化など)について論じられることが多い。しかし、電気事業のデジタル化への対応は、プロダクトやプロセスのみならず、組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革、協調の文化の醸成、およびカスタマーセントリック思考などの様々な観点から論じられなくてはならない。組織については、以前のコラム(2018/07/09)で触れたので、今回は、イノベーションマネジメントについて述べてみたい。

 デジタル化はイノベーションを加速している。電気事業分野でも、デジタル化のスピードは高まっており、イノベーションを生み出すためのイノベーションマネジメントの重要性は増している。デジタル化への対応は、スピードとともに、多くの企業にとっては新しい試みであるため、「実験」が求められている。デジタル企業は、スペックブックの作成はしないし、一定の期間で完成品を開発することもない。むしろ、企業は常に発展途上にあり、常に、誤りを是正し、新たなことに挑戦し、正しいプロダクトを探し求めているといえる。

 デジタルイノベーションのマネジメントためには、プロジェクトマネジメントが重要な意味をもっている。伝統的なウーターフォール型の開発は、開発すべきプロダクトが、最初から完全に分かっており、スペックブックに基づいて実行すればよかった。これに対して、デジタル企業では、プロジェクトの初期段階においては、どのようなプロダクトが開発され、顧客によって利用されるべきかについては、大雑把にしか分かっていない。意識的に、大雑把な目的とガイドラインを伴ったアジャイルなプロセスが設定されているだけである。そのようなプロセスでは、しばしば短期間のうちに変更を行うことが可能である。

デジタル企業では、プロジェクトチームは、高度に自律的で、多分野の人間によって構成され、自ら組織される。プロジェクトに関する情報の閲覧やレポートの作成は、Atlassian のJira やConfluenceのような協業のための特別なソフトウェアにより行われる。仕事を早くまたスムースに進めるために、チームの従業員の時間は100%プロジェクトに投入される。すなわち、プロジェクトの期間中、従業員はラインの仕事から解放される。

 さらに、アジャイルプロセスでは、完全に機能可能なサブシステムが開発され、それを求められるプロダクトの新たなバージョンで用いることが可能である。伝統的な方法では、最終段階で、初めて機能可能なプロダクトが開発される。アジャイルプロセスの決定的な利点は、フレキシビリティと速度である。短期間に反復作業を行うアジャイルプロセスは、創造性を発揮する余地を生み出し、トライアルアンドエラー(trial and error)を許容する。

電気事業におけるプロジェクトマネジメントに関して、このようなアジャイルの手法が、とくにデジタルソリューションの開発に際して、適用されるべきか、またどの程度適用されるべきかが今後検討課題となるだろう。適用されるにしても、すべてのプロジェクトがアジャイルである必要はなく、伝統的なウーターフォール型の開発とアジャイル型のそれとのミックスもありうる。注目すべきは、アジャイルなプロジェクトマネジメントの適用は、企業およびプロジェクトの文化を変える可能性が高いことである。

また、イノベーションマネジメントの新しい手法として、オープンイノベーション(open innovation)が注目されている。オープンイノベーションとは、イノベーションポテンシャルの拡大のために、組織のイノベーションプロセスをオープンにし、組織外の知識や技術を積極的に利用することである。オープンイノベ―ションが重要なのは、デジタルプロダクトは、自社資源だけでなく、外部の新たな技術や知識も活用するほうが早期にかつ効果的に創りだすことが出来るためである。わが国の電力会社は、すでにオープンイノベーションへの取り組みを始めているが、コロナ禍によるデジタル化の急進展の中で、その動きを一層加速していかなくてはならない。

電力会社にとって、オープンイノベーションは、巨額な自己資源を使うことなく、デジタル化の革新的なアイディアに関与し、新たなデジタルプロダクトを開発できる可能性を提供している。また、異なる企業文化が出会うスタートアップとの協調は、電力会社にとってチャレンジングであり、企業自身の文化にも大きな影響を及ぼす可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大学大学院行政学研究科卒。博士(行政学)。1970年、電力中央研究所入所、理事待遇、首席研究員を経て2009年より研究顧問。2010~2011年度、学習院大学経済学部経済学科特別客員教授。2012年度、慶応義塾大学大学院商学研究科特別招聘教授。公益事業学会理事、国際公共経済学会理事。専門分野は公益事業論、電気事業経営論。