【コラム/3月12日】石炭は日本の生命線 脱炭素政策を廃止せよ
杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
本稿執筆現在、ホルムズ海峡を往来するエネルギー輸送がほぼ停止している。
日本の原油輸入は中東依存度が高く2024年のデータを見ると95.1%であった。これに対して、天然ガス輸入はそれほど中東依存度は高くないが、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーンの合計で11.0%であった。いま、この両者の輸入が大きく影響を受けており、それがいつまで続くのかも予断できない。これに対して、石炭は中東に依存していない。
さて発電部門についてはどうか(図)。発電電力量の23年のデータを見ると、石油は7.4%、天然ガス(LNG)が32.9%、石炭が28.3%などとなっている。

出展:経済産業省 エネルギー動向(2025年6月版)(30ページ)
ホルムズ海峡の危機によって、全体の7.4%を占める石油火力と、あとは32.9%を占めるLNG火力のうちで中東に依存する11%、つまり32.9%×11.1%=3.6%の合計で、7.4%+3.6%=11.0%の発電電力量が影響を受けることになる。
発電用LNGの節約を エネ価格高騰抑制にも貢献
もしこの11%のいくらかが失われるならば、それを緊急で賄うには、石炭火力を焚き増すことが有力な候補である。
さらには、それ以上に、石炭火力は可能な限り焚き増すべきである。そうすれば、発電用のLNGを節約することが出来るからだ。天然ガスは民生部門と産業部門でも直接燃焼の形で利用されている。発電用のLNGを節約してそれを回してやれば大いに助かることになる。
今後、封鎖がどのぐらい続くかはわからない。だが、仮に封鎖が速やかに終わるとしても、重要な教訓は、石炭火力が日本のエネルギー安全保障に極めて重要である、ということだ。
これは供給途絶を防ぐためだけのみならず、エネルギー価格の高騰を抑えるためにも必須である。今回のホルムズ海峡閉鎖を受けて、LNGのスポット価格(JKM)はたちまち倍増した。これについては、あらかじめ長期契約を結んでおくなどの形である程度の対応はなされているけれども、日本として石炭火力を一定割合持っていることで、このようなLNG価格高騰がもたらす電力価格への影響を和らげることができる。
今回のホルムズ海峡封鎖を受けて、化石燃料依存を減らすことが重要で、そのためには太陽光発電や風力発電に頼ればよいという意見が散見される。だが、系統統合コストを含めればこの両者は極めて高コストである。大量導入によって起きることは、平時からの電力価格の高騰であり、すると産業が空洞化するので、国の安全保障には完全に逆行する。
原子力発電所の再稼働、ひいては新増設をすることは、もちろん有効な策だが、いかんせんそれには時間がかかる。石炭火力こそは日本の生命線である。
それにも関わらず、日本政府は今それを滅ぼそうとしている。すなわち、脱炭素政策の法制化を進めて、石炭火力の事業環境を悪化させ続けている。特に、来年度から予定されている排出量取引制度の本格導入は、石炭火力発電所に対する死刑宣告となる。
このままでは日本のエネルギー安全保障は脆弱になる一方である。 政府は脱炭素政策を直ちに止めるべきだ。
【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。



