【コラム】米国産石炭輸入の意義 エネルギー安保の柱として検討を
杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
日本のエネルギー政策は、脱炭素の帳尻合わせではなく、エネルギー安全保障と経済性を重視して原点から組み直すべきである。その具体策の一つとして、米国からの石炭輸入を真剣に検討する時期に来ている。
LNG価格が高騰した時、中東情勢や台湾情勢が不安定化した時、あるいは猛暑・寒波で電力需給がひっ迫した時、貯炭場に現物として在庫ないし備蓄として置ける石炭は、安全保障上、重要な価値を持つ。
日本は米国からLNGを輸入している。しかし、米国の天然ガスを液化し、船で運び、日本で再ガス化して発電するには、追加コストがかかる。もちろん、石炭も鉄道輸送してから輸送船で輸入するには追加コストはかかる。けれども、米国では天然ガスを国内の高効率火力や産業用に使い、日本やアジアには石炭を輸出する方が、天然ガス液化関連のコストが不要になるメリットが大きいので、全体としては経済的な効率性が高くなる局面がありそうだ。
また、アジアのLNG価格は地政学リスクや欧州需給に左右されやすい。これに対し、石炭は熱量当たりの価格が安く、長期在庫が可能で、LNGスポット市場の急騰に対するヘッジにもなる。
豪州・インドネシアのリスク 第3の柱必要
日本の石炭調達は現在、豪州に7割弱と大きく依存している。これに次ぐのはインドネシアで1割強である。もとより、豪州炭は高品質で日本から近く、長年の実績もある。しかし、豪州炭も政治や環境規制、ロイヤルティ、鉱山許認可、洪水などの影響を受ける。ニューサウスウェールズ州では2024年7月から石炭ロイヤルティが2.6ポイント引き上げられており、こうした政策変更は将来の調達コストや供給判断に影響し得る。ニューサウスウェールズ州産の高品位炭への過度な依存は、日本側の調達交渉力を弱め、コスト高の一因にもなっている。
インドネシアについても、リスクがある。同国は世界最大級の一般炭輸出国だが、国内供給を優先する政策をたびたび取ってきた。国内需要が満たされない場合、輸出を制限するという発想は今後も残るだろう。最近も、石炭など主要商品の輸出管理を国が強める動きが市場の不確実性を高めている。つまり、日本が豪州とインドネシアを中心に石炭調達を続けるだけでは、燃料安全保障として十分ではない。
この文脈で、米国炭は有力な第三の柱になり得る。この6月に、米エネルギー省はオークランドのWest Gateway Terminal Projectに7500万ドルを投じる方針を発表した(The Department of Energy)。同ターミナルは鉄道に接続された米国西海岸のバルク輸出拠点で、日本、韓国、台湾、ベトナム、マレーシアなどインド太平洋の同盟国・友好国向け輸出を支えるものと説明されている。これまでの米国炭輸出のボトルネックは、太平洋向けの港湾・鉄道インフラだった。この米国西海岸ルート、あるいはカナダ西岸経由のルートを確保できれば、日本にとって供給源多様化の意味は大きい。
米国側は、この方向を後押ししている。2025年4月の大統領令は、米国炭輸出の増加と、同盟国支援を含む石炭産業の活用を明記している(The White House)。日本はこれを単なる米国内政として眺めるのではなく、日米同盟における燃料インフラとして取り込むべきである。
米国の一般炭は、これまでもアジア市場に流れていた。インドは米国炭の大口買い手であり、用途は発電だけでなく、セメント、窯業、自家発電などにも広がる。これは、米国炭の利用が距離の壁を越えてアジアで経済的に成立し得ることを示している。
日本企業が北米炭のオフテイク権、ターミナル容量、船腹、転売権を持てば、日本で焚くだけでなく、韓国、台湾、インド、ASEANに振り向けるポートフォリオを構築できる。これは日本がLNGについて進めてきた仕向地自由化、ポートフォリオ取引の石炭版である。
足元は割高な燃料を輸入 安価な選択肢排除に疑問
これまで日本は、自動車用燃料としてバイオエタノール由来のETBEを輸入し、石炭火力混焼やバイオマス発電用に木質ペレットも輸入してきた。日本の制度上はCO2削減に資するとされるが、地球全体での排出削減効果は疑わしい。USDA(米国農務省)によれば、24年の日本のETBE輸入は約18.3億ℓで、その中には米国産トウモロコシ由来エタノールなどを原料にしたものが含まれる。木質ペレットも22年に440万tを輸入し、その一部は米国産だった。だが、その米国では、ガソリン燃料を燃やし、石炭で火力発電をしている。
米国から割高な燃料を輸入し、日本国内の排出量を見かけ上減らすために国民負担を増やす一方で、安価な石炭を日本において政策的に排除するのはいかがなものか。
日本は、米国炭をポートフォリオに加えれば、LNG依存、豪州炭依存、インドネシア炭依存を同時に下げることができる。米国からの石炭輸入をエネルギー安全保障の正式な柱として位置付けて推進すべきではなかろうか。
【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。



