【コラム】米国の原子力発電への好感度が過去最高に
矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー
米国では、原子力発電に対する好意的な世論が過去最高レベルに達している。本コラムでは、Bisconti Research(2026年5月)の調査結果に基づき、その実態と課題を整理したい。
Bisconti Researchによれば、米国では原子力発電に関する賛否は、40年前にはほぼ半々だったが、その後、賛成が反対を上回り、その差は拡大してきた。この傾向は2021年以降顕著となっており、今年の5月4日から10日にかけて実施された全米調査では、原子力発電の利用への賛成は77%、反対は23%と、賛成が反対を圧倒した(「強く」と「やや」を含む)。この傾向は、年齢層や地域間で大きな差は見られない。また、エネルギーが深刻な問題と見なされるほど、原子力発電への支持が高まることも明らかになった。エネルギーを大変深刻な問題と考えている人は、原子力発電への賛成は79%、反対は20%であるが、全く深刻ではないと考える人は、賛成は55%、反対は45%となっている。
さらに、将来の電力需要を満たすために、原子力発電はどの程度重要と考えているかについては、重要との回答が87%に上った、重要でないとの回答は13%に過ぎなかった。また、原子力発電に対して好意的な理由としては挙げられたのは、温室効果ガスの排出が無いこと、低コスト、信頼性などが多かった。非好意的な理由としては、安全性への懸念が最も多かった。
また、同調査では、原子力発電の運転ライセンス更新に関する支持は、2021年以降過去最高レベルに達していることもわかった。連邦政府の安全基準を満たした原子力発電の運転ライセンス更新に対する支持は、2021年から80%台後半を記録し、2026年では87%となっている。また、原子力発電所を「確実に」(“definitely”)新設することについては、1999年には賛成と反対が同率であったが、その後賛成が増大し、2021年には69%を記録した。賛成は、2022-2024年は70%台前半を維持したが、2025年には一時的に64%と下落、2026年には71%に回復している。さらに、小型モジュール炉(SMR)に関しては、近隣の原子力発電所に新規建設されることについて容認できると回答した人は70%に達している。
参考までに、2025年の調査では、原子力発電、水力発電、太陽光発電、風力発電のうち、どれが信頼できるクリーンエネルギーであるか質問したところ、原子力発電を最も信頼できると回答した人は29%にとどまった。これに対して太陽光発電は41%であり、原子力発電を上回っていた。そこで、各電源の設備利用率の情報(原子力発電92%、水力発電35%、風力発電34%、太陽光発電23%、いずれも2024年時点)を事前に示して、同じ質問をしたところ、原子力発電を最も信頼できるクリーンエネルギーと考える人は29%から44%へと上昇し、電源の中で最も高い評価を得た。
このように米国では高い支持を受けている原子力発電ではあるが、課題もある。今回の調査では、原子力発電の利用に関して77%対23%と賛成が反対を上回っていると述べたが、この賛否には「強く」と「やや」が含まれている。「強く賛成」する人は30%、「強く反対」する人は5%で、前者は後者の6倍に上る。一方、「やや賛成」と「やや反対」が全体の65%を占めている。また、将来の電力需要を満たすために原子力発電は重要と考えている人は87%、そうでないと考える人は13%であると述べたが、この評価にも「非常に重要」、「全く重要でない」だけでなく、「ある程度重要」、「あまり重要でない」が含まれている。「非常に重要」と考える人は40%、「全く重要でない」と考える人は3%と、前者は後者の10倍以上に上る。一方、「ある程度重要」と「あまり重要でない」と考える人は57%を占めている。これらは、どちらかと言えば中間派と位置づけられるわけで、ある出来事を契機に意見が変化しうる層である。
原子力発電推進における課題は、このような中間派をいかにして積極的な賛成派に転じさせることができるかである。これについては、Bisconti Researchの調査では、原子力発電の利用に対する支持は、同電源に関する知識が深いほど高まることが示されている。例えば、原子力発電に関して大変知識を持っていると感じているグループでは、「強く賛成」75%、「やや賛成」16%、「やや反対」および「強く反対」はそれぞれ4%であった。これに対して、全く知識がないと感じているグループでは、「強く賛成」11%、「やや賛成」44%、「やや反対」30%、「強く反対」15%であった。原子力発電所を「確実に」新設することについては、支持は、2022-2024年は70%台前半を維持したが、2025年には一時的に64%へと下落、2026年には71%に回復したことを述べた。この変動は、SMRを含む原子力発電新設の議論が米国では年々盛んになるなかで、人々の知識が一時的に追い付かなかったためと考えられる。
また、今回の調査では、情報源として最も信頼されているのは、原子力科学者・技術者であった。具体的には、近隣の原子力発電所の安全専門家、原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission)、居住州にある大学の原子力工学の教授、原子力発電所の従業員、そして原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute)が信頼できる情報源であった。Bisconti Researchの調査は、原子力発電を含むエネルギー問題に関する教育や国民の知識基盤拡大の重要性を再確認させるものとなった。
【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。


