【フォーラムアイ】燃料から産業溶媒へ、広がる可能性 アンモニア活用による新プロセス
【電力中央研究所】
電中研でバイオマス利用を研究する櫻木潔上席研究員。
液体状態のアンモニアを活用した新たな抽出技術の開発に取り組む。
少年時代は、昆虫の採集や飼育に夢中になった。生き物への興味は、やがて食料や環境の問題、そしてエネルギー分野へと広がっていった。
大学では、植物からバイオエタノールを製造する研究に取り組んだ。その過程で、植物を分解しやすくする前処理技術としてアンモニアを用いる実験にも携わった。修士課程修了後は、バイオマス利用に関する研究職を公募していた電力中央研究所に入所した。

さくらぎ・きよし 2010年東京大学農学部卒業。12年同大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。同年、電力中央研究所入所。18年同研究科博士課程修了。
バイオマスから有用成分 燃やす前に「ひと働き」
入所後は、火力プラントにおける課題解決に向けたさまざまな研究に取り組んだ。具体的には、石炭火力でのバイオマス混焼のための炭化技術、固体燃料の自然発熱監視技術、火力発電所で使用される油の劣化診断技術、液化ジメチルエーテルを使った脱水・抽出技術などだ。
そして今、櫻木氏が挑んでいるのが、アンモニアを使ってバイオマスから有用成分を効率的に取り出す技術だ。アンモニアは炭素を含まず、燃焼時にCO2を排出しない。火力プラントの脱炭素化に向け、水素キャリアとなるアンモニアの利用拡大が見込まれる。

※NH3は加圧(20℃で0.85MPa)あるいは冷却(常圧で−33.5℃)することで容易に液化
提供:電力中央研究所
櫻木氏が着目したのは、アンモニアを燃料として使う前に、バイオマスから有用成分を取り出す「溶媒」として活用することだ。「そのまま燃やしてしまう前に、ひと働きしてもらう」という発想だ。抽出に使ったアンモニアは回収し、発電用燃料や脱硝剤として利用できる。
アンモニアは分子が小さく浸透性が高いため、バイオマスの細胞内部まで入り込み、有用成分を取り出すことができる。処理後は固液分離し、液化アンモニアを気化させることで、脂質などの有用成分を回収する。
この技術の大きな特徴は、従来必要だった乾燥や細胞の破砕といった工程を省き、水分を含んだバイオマスをそのまま処理できることだ。加熱もほとんど必要とせず、抽出プロセスにかかるエネルギー消費を大幅に抑えられる。
本技術の適用例の一つに、持続可能な航空燃料(SAF)の原料抽出が挙げられる。国は2030年に国内航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げているが、原料の安定確保が課題となっている。SAFの原料には廃食油などさまざまな選択肢があるが、その中で期待されるのが、脂質をつくる微細藻類だ。しかし、従来法では脂質を取り出すためにエネルギー消費量の大きい乾燥や細胞破砕が必要になる。櫻木氏は、液化アンモニアによる抽出技術を用いて、こうした工程を省くことを可能にした。
実験では10種類以上の微細藻類を使い、従来法と性能を比較した。アンモニアを使う方法では乾燥も細胞破砕も必要としないが、SAF原料となる脂質を従来法と同等程度の収率で得ることができた。
また、健康食品などに利用されるEPA(エイコサペンタエン酸)などの高付加価値な成分も同時に抽出できた。さらに、燃料生産プロセスのエネルギー収支解析から、液化アンモニアを抽出溶媒とすることで、エネルギー消費を大幅に低減できる見通しを得た。

微細藻類1,000 kg/h(水分98 wt.%)を82 wt.%まで脱水後、乾燥・抽出を実施。既存法では溶媒比4:1、液化アンモニア法は溶媒比20:1とし、乾燥熱需要は被乾燥物のエンタルピー差の2倍として試算。
提供:電力中央研究所
ラボ試験はほぼ完了 30年代後半にも商用運転
これまで微細藻類や植物、食品廃棄物などさまざまな原料に同技術を適用しており、採算性や原料調達量を見極めながら、本技術の実用化に向けて企業などとの連携を進めている。
櫻木氏は「バイオマスは世の中に豊富に存在し、大きなポテンシャルがあるが、コスト的に利用できるものは限られる」とし、研究開発を通じて、付加価値を高め、経済的に利用可能なバイオマスの量を増やすことで資源の循環を促進し、エネルギーや環境、食料の課題解決につなげたいと語る。
実用化に向け、ラボ試験はほぼ完了している。27年度以降は、より大型のベンチ装置を製作し、装置仕様、設備の安全運転、高圧ガス保安法など法令への対応を進める。今後、技術開発を進めて、30年代前半には火力発電所での実証を行い、30年代後半の商用運転を目指している。


