【論考】世界を襲う「複合石油危機」の実相 迫られる日本のエネ政策転換〈上〉※期間限定無料公開

2026年10月20日

ペルシャ湾、紅海およびロシアからの石油輸出阻害が、相互に連動し増幅する「複合石油危機」は、依然として進行している。9月に中東石油輸出が相当量増加したものの、その安全保障上の基盤は脆弱だ。世界的な供給ひっ迫化は、石油製品に顕著に現れており、冬季に向けた軽油供給の制約が特に厳しい。無謀な対イラン戦によって生じたこの危機は、西側全体にとって自滅的とも言える展開となっており、日本の石油政策にも根本的な修正を迫っている。

8月1日にトランプ米大統領が大規模軍事攻撃の命令を撤回して以来、仲介国を挟んでイランとの外交交渉が行われているが、不調に終わっている。ホルムズ海峡通航を巡るイラン・オマーン間の交渉は、幾度も「合意間近」と報じられながら、結局妥結していない。一方9月半ばイランは、一定の条件下でホルムズ海峡を開放する、いわゆる「7日計画」を、仲介国カタールを通じて提案したが、米国は9月26日にこれを拒否した。

米国の硬い姿勢の背景には、イランによる「ホルムズ海峡封鎖」と、米軍による「対イラン海上・経済封鎖」という「経済的相互破壊」において、米側が優勢に転じたとの判断がうかがえる。2月末の開戦以来、米軍は東地中海を含む中東海域に二つの空母打撃群と、強襲揚陸艦を中心とする水陸両用即応群一つを展開させ、4月下旬以降はこれら海上兵力をアラビア湾に集中させている。米軍は4月13日以降に事実上の対イラン海上封鎖を敷き、「イスラマバード覚書」発効に伴う一時解除の後、これを7月14日から再開した。この封鎖再開以降、イランの海上石油輸出はほぼ全面的に停止している。その一方で米軍の誘導の下でホルムズ海峡・オマーン沿岸の商船航行は活発化し、9月に中東湾岸地域の原油輸出総量は前月から日量400万バレル以上増加し、開戦以来で最高水準に達した。

米国の対イラン海上・経済封鎖

さらに米財務省は8月24日に対イラン「経済的孤立化作戦」を発動。制裁対象に海運、航空、金・デジタル資産、先端技術分野を加え、第3国に対する二次制裁も厳格化して、イランに対する経済封鎖を拡大・強化した。イラン産原油を運ぶ「影の船団」は米軍の海上封鎖で活動が封じられ、マレーシア、スリランカ沖などで停泊中の燃料・食料調達にも経済制裁が課せられ、輸送体制の維持が困難となっている。これと併行してイランの主要な貿易・金融相手国であるアラブ首長国連邦(UAE)も対イラン取引の停止を発表。9月下旬にはイラン最大の国営商業銀行Bank Melli支店のイラン関連取引を禁じ、またイラン航空会社の乗り入れも停止させた。

経済的苦境の深刻化はイラン指導部も認めている。既に8月中旬にイラン中央銀行総裁が原油輸出停止による外貨不足に言及し、ベゼキュアン大統領やガリバフ国会議長ら「現実派」の政権幹部からも、経済危機への強い懸念が繰り返し表明されている。「孤立化作戦」発動以来、イラン通貨の下落は止まらず、インフレ率も加速して対前年比約90%に達している。国内消費の約1割を輸入に頼るガソリンも供給不足が慢性化し、9月初旬には一定の割当量を超える国内販売価格の2倍引き上げを余儀なくされた。

しかし9月後半に活発化した対米協議を、イランの軟化と捉えることはできない。イランが、自国によるホルムズ海峡実効支配を、自存自衛上の生命線として固守する姿勢に変化はない。今回の「7日間計画」でもこの姿勢は崩さず、その上で海峡開放の条件として、対イラン海上封鎖・石油制裁および資産凍結の解除、さらにレバノンを含む全戦線での戦闘終結を要求していた。これらは「イスラマバード覚書」の中心的事項だが、今回は米側に先行的な履行を求めており、この点ではむしろ合意のハードルを上げている。

開戦以来イラン指導部では、最高指導者モジタバ師が公に姿を見せない中で、革命防衛隊を中心とする「強硬派」が主導権を掌握している。米国による海上・経済封鎖は、その圧迫が強まるほどに、むしろイランを一層硬化させ「主戦論」へ傾斜させる危険がある。事実9月以降、中東湾岸地域全体においては、親イラン勢力が軍事攻勢を強め、またイランの対米軍攻撃も質的な激化を示し始めている。

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