【論考】世界を襲う「複合石油危機」の実相 迫られる日本のエネ政策転換〈上〉※期間限定無料公開

2026年10月20日

親イラン勢力の軍事攻勢

9月以降の親イラン勢力による最大の軍事攻勢は、フーシ派による紅海南部沿岸地域への侵攻だ。7月半ばのサウジアラビアによるサナア空港爆撃に端を発したサウジ対フーシ派の紛争再開は、フーシ派による対サウジ「海上封鎖」およびサウジ紅海岸石油精製施設などへの攻撃へと発展。8月にはフーシ派支配地東部・南部境界付近で、サウジが支援するイエメン政府軍との戦闘が本格化し始めた。9月上旬、フーシ派は紅海沿岸の平野部でイエメン政府軍を破って一気に南下、バブ・エル・マンデブ海峡入口まで進み、南部沿岸全域に勢力を広げた。10月に入りサウジアラビア・イエメン政府側は大規模空爆を伴う反攻を始め、沿岸最南部を奪還したが、フーシ派は内陸側山岳地帯の要衝タイズを包囲するなど、全体の戦局では依然としてフーシ派の攻勢が続いている。

9月10日にはサウジ原油を紅海岸へ輸送する東西原油パイプラインが、イラクの親イラン武装勢力によると見られる空爆を受け、操業が停止した。9月末までに送油とヤンブーからの積み出しが再開され、送油量も順調に回復しているが、その輸出は紅海を北上して地中海に向かうう回を余儀なくされる。ペルシャ湾岸でイラン、紅海岸南部でフーシ派、イラク領からは親イラン武装勢力と、サウジアラビアを囲む軍事的脅威が高まっている。

その中で、米国はフーシ派への直接的な軍事攻撃を控えてきた。イラク領からの東西パイプライン攻撃に対しても、反撃しなかった。対照的に7月下旬には、サウジ東部石油施設への攻撃などへの報復として、イラクの親イラン武装勢力に対し、直後にサウジ軍と合同で空爆を加えている。9月中旬のサウジ首脳による数度にわたる介入要請を、米側は拒絶したとも報じられる。対イラン戦争が長期化・拡大する中で、米軍の展開・継戦能力の限界が露呈しつつある。8月初めの大規模攻撃命令撤回の際にも、米軍の兵器備蓄の枯渇が懸念されていた。9月半ばに公表された米国防総省・監察総監室の対連邦議会報告も、対イラン戦により「戦略的な弾薬備蓄の不足」に陥ったと指摘している。

一方ペルシャ湾では、米軍は7月にイラン沿岸部のレーダー・通信網、対艦攻撃能力、機雷敷設能力などに打撃を与え、8月下旬にはホルムズ海峡正式航路の機雷除去完了を宣言。商船のオマーン沿岸ルートでの海峡航行を、一定の航空防護の下で誘導し続けた。続いて米軍は8月末にホルムズ海峡に位置するララク島の機雷搭載ロケット発射装置を爆撃し、約1カ月ぶりにイランとの戦闘が再開。この局面で9月5日、イラン側は機動弾頭を備えた高性能ミサイルを用いて米空母・駆逐艦を攻撃し、全面戦争へつながる危険をあえて冒す姿勢を示した。さらにイランは湾岸域内の米軍基地へのミサイル・ドローン攻撃を繰り返し、9月8日ヨルダン・米空軍基地への攻撃では多弾頭ミサイルを用い、米軍に迎撃ミサイルの多用を強いた。

米軍は対艦攻撃への報復としてイラン関連タンカーへの攻撃で応えたが、それ以降は戦闘を避け、対イラン海上封鎖および商船のオマーン沿岸ルート航行確保を優先している。しかしこれを支える中東海域での2個空母打撃群の配備は、米海軍の世界展開に大きな負担を掛けている。例えば昨年7月以降に地中海に展開した「ジェラルド・R・フォード」空母打撃群は、11月から今年1月までカリブ海で対ベネズエラ作戦に加わった後、さらに2月に中東海域に転用され、総派遣期間は通常の7カ月程度を大きく超える11カ月に及んだ。同様に、「エイブラハム・リンカーン」空母打撃群は、今年1月に本来の派遣先である南シナ海・西太平洋から離れてアラビア湾に展開し、10月初旬にやはり約11カ月の異例の長期派遣を終えた。同艦からの航空出撃は計1万回以上と報じられ、過酷な勤務環境の中、打撃群全体で8人の要員が自殺未遂を図ったと報告されている。「リンカーン」と交替して中東海域に展開したのは、横須賀を母港とする「ジョージ・ワシントン」空母打撃群だが、これによって8月半ば以降、昨年までは通常2隻だった極東および南シナ海・西太平洋での米空母の展開が、ゼロとなっている。

複合石油危機の進行

7月後半以来、フーシ派は主にイエメン国境に近いサウジアラビア南西部の空港に対してミサイル・ドローン攻撃を続けているが、10月には首都リヤド、またサウジ東部・ダマンの国際空港も攻撃対象となった。特に10日、リヤドのキング・ハリド国際空港への空爆では死者10人以上、負傷者300人以上を出し、2月末の対イラン戦争開戦以来、湾岸諸国が1回の攻撃で受けた死傷者数として最大となった。またイラクでは9月末に米軍の最終撤退が完了した一方、民兵武装解除は進まず、親イラン武装集団に有利な展開となっている。サウジ石油施設が、フーシ派およびイラクの親イラン武装集団から攻撃される危険は、依然として大きい。実際10月13日にはダーランのサウジ国営石油会社(アラムコ)本社が、フーシ派によるミサイル攻撃を受けている。

一方、イランは9月末から対タンカー攻撃を激化させている。9月29日にホルムズ海峡通過中の3隻を攻撃して以来、10月5日までに計12隻と、開戦以来で週間最多の攻撃数に上った。10月14日現在では計25隻を超える。ほとんどがドローン等の「飛翔体」を用いた海峡付近の攻撃で、対象はペルシャ湾内の積地とオマーン湾・ソハール沖等の船舶間積み替え(STS)地点とを往復するシャトル船が多い。イラン側はSTS妨害の意図を明確にしており、事実、英国海事貿易作戦室(UKMTO)も10月11日にソハール沖での攻撃を報告している。イラン革命防衛隊は、自国の認めぬ航路を通る船舶は域内のいずれの位置でも、また停泊中であれ、攻撃対象と声明している。

少なくとも10月初旬の時点では、サウジ東西パイプラインの復旧も手伝い、中東石油輸出量の全体は9月平均水準を保ったと見られている。しかしイランによる頻繁な対タンカー攻撃が続けば、ペルシャ湾からの石油輸出量の減少は必至だ。サウジアラビアは9月に紅海岸からペルシャ湾へと原油輸出をシフトさせ、今また紅海側からの輸出を増やしているが、イランによるホルムズ海峡封鎖の強化、フーシ派による紅海南部の支配、さらにフーシ派あるいはイラク・親イラン武装勢力による東西パイプライン攻撃が重なると、輸出の機動性を一気に失う危険性がある。

国際エネルギー機関(IEA)の推計では、9月には中東からの石油輸出量が日量・約1700万バレルに達した。今年3月以降の最高値であり、昨年平均量の7割に相当する。中東域外での生産増・需要減と合わせ、9月単月では世界需給はほぼ均衡した。しかし既に3月から8月までの間に世界石油在庫は5億バレル以上減少し、昨年から今年2月までの記録的な在庫増分を取り崩している。世界石油在庫量が10月以降に再び継続的に減少し、第4四半期に過去5年間の最低水準を割り込む可能性は十分ある。

他方、ウクライナによるロシア主要製油所に対する継続的なドローン攻撃によって、6月以降ロシア製油所の平均稼働率は約60%に落ち、これが軽油を主とする燃料油輸出を急減させて「複合石油危機」の一因を為している(【論考】世界3紛争がもたらす「複合石油危機」の進行に備えよ  5頁参照)。軽油は7月以降、政府間協定に基づく一定量を除いて来年1月末まで輸出禁止となり、当初は9月以降とされた生産者の直接輸出に対する認可措置も、先送りが続いている。ロシア軽油輸出量は昨年平均日量80万バレル以上だったのが、今年7月以降は日量15万バレル程度に低落している。IEAも9月時点の見通しの中で、それまでの度重なる空爆による損傷の累積のため、ロシア石油精製量の急回復は期待できないとしており、軽油輸出の低迷は長引くと見なければならない。

※〈下〉に続く。

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