【コラム/12月21日】コロナ下の経済成長戦略を考える~空論・期待脱却、現実直視で

2020年12月21日

飯倉 穣/エコノミスト

 成長戦略会議で、ポストコロナ時代も考えた実行計画の中間まとめがあった。従来の成長戦略の考え方を踏襲し、労働参加率、労働生産性の指標に重点を置いてイノベーション投資増と働き方で労働増を狙う。現下の日本は技術革新停滞が継続し、成長牽引の投資は願望の域を出ない。計画は、50年カーボンニュートラル実現を目指し、革新的イノベーションを訴えた。肝心の研究体制について、独立行政法人化等で当初のプロパガンダと違い大学や国立研究機関の弱体化を仄聞する。研究・技術開発力の低下が懸念される中で、革新的エネルギー利用技術の実現は可能なのであろうか。また現在の技術で活用可能な原子力発電等の推進が曖昧である。最終報告では、机上の空論にならないように現実を踏まえた実行計画を期待したい。

1、新型コロナ対策で感染対策と経済政策の方向が迷走する中、菅新政権の成長戦略会議・実行計画の中間取り纏めがあった(2020年12月1日)。地味な報道があった。「成長戦略の実行計画」(朝日2日)、「成長戦略会議 実行計画 中小の業態転換に補助金 生産性向上へ規模拡大 脱炭素の技術開発も支援」(日経同)。

2、内容は、15章に及ぶ。まず成長戦略の考え方と50年CO2排出ゼロ・グリーン成長戦略の現実性が気懸りである。また論点の中小企業対策、デジタル化、国際金融都市、経営者の多様化も吟味が必要である。他は従来政策の焼き直しである。この稿では経済成長の考え方と研究開発状況を踏まえたエネルギー選択を考える。

3、実行計画の成長戦略の考え方は、ソローモデルの延長にある。同モデルは、成長要因分析に係る一つの考えである。資本、労働、TFP(技術進歩率・生産性等)で説明する。計画は述べる。経済成長率は、労働参加率の伸び率と労働生産性の伸び率を合計したものである。近時(安倍内閣時代)の成長で、参加率は女性や高齢者参加で拡大したものの、労働生産性の伸びが低いと指摘する。今後両者の伸び率が必要と労働投入や通常投資増を目論む。

4、繰り言だが、経済成長は、技術革新を体化した民間企業設備投資(独立投資)が惹起する。企業家の事業化意欲が投資を具現する。資金確保、投資実施(例えば工場建設等)に伴う資材・労働調達、そして生産開始・出荷・販売となる。生産性上昇(労働時間当たり生産数量増)があれば、製品単価の低下、販売増がある。そして所得増、賃金・利潤の支払い増となる。結果的にソローモデルの語る資本や労働の増加を観察できる。成長の基本は、イノベーション具現化の独立投資である。労働や資本が成長のけん引役でない。

5、過去の経済成長の姿を見れば、前年度の民間企業設備投資が、当年度のGDP増加を生起する。高度成長時代なら、前年度の実質設備投資10兆円が、当年度実質GDPを5~10兆円増加させた。当年度GDP増加額/前年度設備投資比率(以下GDP増・投資比率という)は、1~0.5だった。オイルショック後0.2程度、その後さらに低下し90年代以降0.1前後である。アベノミクス期(13~19年度)のGDP増・投資比率は、約0.04である。例えば17年度90兆円の設備投資は、翌年度16兆円のGDP増を見たが、18年度91兆円の設備投資は、翌年度GDP増に至っていない。それが低成長の姿である。設備投資内容の多くは維持更新的である。前政権は民間投資を喚起する成長戦略を謳ったが、効果はなかった。大胆な金融政策・機動的な財政政策は、成長に何ら貢献せず、財政状況悪化と日銀バランスシートを肥大化させた。

6、実行計画は、新たに50年温暖化ガス排出ゼロを打ち出した。排出ゼロ且つ経済水準向上を目指すなら、大量・安定・経済性の3条件を満たす非化石エネの獲得が必須である。計画は、革新的なイノベーションの推進で、次世代型太陽電池、カーボンリサイクル、水素等の技術革新を掲げ、デジタルインフラでグリーン成長戦略を支えるとする。革新的研究開発促進と規制改革等政策で脱炭素社会を目指す。

7、技術開発を振り返れば、高度成長終了後「模倣から創造へ」というモットーを掲げて半世紀を経た。エネルギーの場合、サンシャイン計画(1974年)、ムーンライト計画(78年)から、技術戦略マップ等を経て、革新的環境イノベーション戦略(20年)を実施中である。

過去50年弱の研究技術開発を俯瞰すれば、同じ様なテーマの繰り返しである。未だ一次エネで石油代替の3条件具備のエネルギーの姿は見えない。何時も核融合、太陽電池変換効率向上、人工光合成効率(自然界は1%程度)引上げが、将来の成長牽引の手掛かりである。いずれも実用化を展望する段階でない。当面、現在利用可能な非CO2エネ利用技術の最大活用を図るほかない。とりわけ原子力発電、そして地熱、風力等の開発である。

8、この現実を踏まえて、新政権は今後の経済運営、成長戦略を再考すべきであろう。技術革新停滞状況では、低成長の事実を甘受し、現実的・安定的な経済運営(時に我慢も必要)が基本となる。また脱CO2では、現在の技術で可能なことに取り組みつつ、研究テーマ・開発体制の再構築も必要であろう。最終報告での充実を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。