【目安箱/4月19日】処理水問題で見えた原子力世論の変化 正体は「枯れ尾花」か

2021年4月19日

◆処理水問題から見る、原子力の反感への薄らぎ

ただし原子力をめぐる状況は21年に大きく変わった。処理水の海洋放出の決定について、国民の多くは理解を示している。ポータルサイトのYahooの世論調査では、「原発処理水の海洋放出を決定、どう思う?」との質問に、投票17万5000人中58%が賛成となっている。

間違った発言をした人は批判された。立憲民主党の原口一博衆議院議員は、ツイッター上で「日本は汚染水を放出した」という趣旨の英語ニュースを拡散したが、批判を受けて削除と謝罪に追い込まれた。同党代表の枝野幸男議員も「放出に議論が必要」とツイッターに書き込んだところ、「なぜあなたが議論を主導しないのか」「なぜ科学に基づいて人々を説得しないのか」と当然の批判を集め、いわゆる「ネット炎上」状態になった。

処理水の海洋放出を批判する人をS N Sでたどると、反原発を強く訴える市民団体、左派政党の関係者が多かった。その人々や団体の発する今回の処理水をめぐる情報は、反原発色の強いメディアを多少動かしたものの、一般の人々にまで広がらず、賛意を集めてもいなかった。

社会情勢にも変化があった。原子力発電所から電気が十分に供給されないために、18年9月の北海道胆振地震の際には北海道で大停電が起こり、今年21年初頭の電力危機が発生した。この現実を前に、原子力の活用を求める声が強まっている。

また世界的に脱炭素に関心が集まる中で、二酸化炭素を排出しない原子力発電が見直されている。日本でも昨年10月に菅首相が「2050年のカーボンニュートラルを目指す」と表明。炭素を抑制する政策を行うなら、原子力を使うことを考えざるを得ないだろう。この1年、電力会社の関係者、そして政治家など、一般の人に原子力の話を聞くと、「原子力への反感は薄らいでいる」という意見をよく聞く。

◆「幽霊の正体見たり 枯れ尾花」

原子力否定に凝り固まった人を説得するのは難しい。けれども、それ以外の人は、原子力について、単純な批判や反対に距離を置き始めているようだ。処理水問題では、政治の不作為、もしかしたら安倍前首相が決断しないことで時間が無駄に費やされた。ところが菅義偉首相が決断し先に進むと、解決に向けて事態が動きそうだ。不作為によって生まれた7年以上の時間の浪費、そしてコストを考えると、そのもったいなさと虚しさに悲しくなる。一歩踏み出し、議論を始めれば問題は早く解決したかもしれない。

「幽霊の正体みたり 枯れ尾花」という江戸時代の川柳がある。化け物と思ったものが、実は枯れた尾花(ススキ)だった、脳内の妄想だったという内容だ。エネルギー・原子力は、この10年「世論」という実態のないものに引きずられ続けた。しかし、この処理水問題の前進をみると、世論は恐れる必要はなかった「枯れ尾花」だったのかもしれない。

賢明な日本の有権者は冷静になっている。原子力をめぐって、物事を先に進めることで活路は開ける。原子力を活用したい立場の人は、今こそ無意味な萎縮をやめ、主張をし、物事の打開に踏み出す時だろう。

1 2