【コラム/8月23日】菅政権に目立つ左派アジェンダ推進派 心ある議員は脱炭素政策に造反すべき

2021年8月23日

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

菅政権の下での温暖化対策の暴走が止まらない。ついに日本のエネルギー政策の根幹を定めるはずのエネルギー基本計画の案にまで無謀なCO2削減目標が書き込まれた。過大な再生可能エネルギーと省エネが見込まれており、このまま突き進めば日本経済は壊滅する。

日本国民は莫大な経済負担について未だに知らされないままだ。だが早晩、経済負担が明らかになり、異論が噴出するようになるだろう。

英国では今まさにその状態になっている。

家庭のガス暖房、ガソリン車禁止 英国政権の対策案に与党内からも批判 

英国政府は、家庭の暖房において主流であるガスを禁止して電気式のみにする、さらにはガソリン自動車を禁止して電気自動車のみにする、といった政策を、年末に主催する気候変動国際会議(COP26)に間に合うよう検討していた。

だが、その費用が世帯当たりで数百万円に上るという試算が白日の下に晒されると、ジョンソン政権のお膝元の保守党議員、ベーカー元ブレグジット担当閣外相が公然と反旗を翻した。

同氏は大衆紙サンに「脱炭素-ガス使用禁止で貧しい人が寒さに震える」と題した記事を書いた。

「これまで国民は脱炭素のコストを知らされていなかった。ボリス・ジョンソン党首が、高価で効きの悪い暖房を国民に強制し、さらには自動車の保有を諦めさせたりしたら、保守党は有権者から手痛い報いを受けることになるだろう。脱炭素のコストは、人頭税よりも大きな政治危機をもたらすのではないか。」

最後に言及している人頭税とは、文字通り人に対して課する税で、サッチャー政権時の1989年に強引に導入されたが、強い反対に遭った。保守党内でも異論が続出し、1990年のサッチャー退陣後、廃止された。

英国では、ブレクジット論争の時に、多くの大衆が左派的なEUの政策を嫌い労働党支持から保守党支持に回った。今その大衆が、左派エリートの贅沢な趣味であるCO2削減策を押し付けられ、経済負担を負わされつつある。ベーカーら英国保守党員は、このままでは大衆の支持を失い、保守党が政権を失うと恐れている。

脱炭素政策への造反議員は約30人ほどに達しているとみられ、夏休み明けにはグループを結成して活動を始める予定だという。この中には、比較的貧しいイギリス北部の工業・農業地域である「赤い壁」選出の議員が多く入っている。

「赤い壁」とは、かつて英国労働党の岩盤支持選挙区であったのでそう呼ばれていた。だがブレクジット論争の時に、保守党は大衆の支持を得て、それを切り崩していくつかの選挙区を奪った。このせっかくの勝利が、ガスボイラー禁止といった経済負担の大きい政策によって台無しになり、議席を失う結果となることを、保守党議員は恐れている。

英国では、本来はもちろん「保守」であるはずの英国保守党のボリス・ジョンソン政権が、リベラルのアジェンダである「脱炭素」にまい進してきた。

これまでは威勢の良い(無謀な)数値目標を言っていただけなのでさしたる反発も無かったが、具体的な政策の検討が始まったとたん、お膝元の与党議員が公然と反旗を翻した訳だ。今、政権は、ガスボイラーの禁止は止めて、補助金などの他の政策で置き換える方向で検討中だという。

日本の46%減目標の費用水準は毎年20兆円 消費税倍増に匹敵か

では日本はどうか。これまでの再エネの実績では、2.5%のCO2削減のために2.5兆円の賦課金が徴収されている。つまりCO2の1%削減には1兆円かかる勘定だ。

さて現行のエネルギー基本計画案ではCO2目標を26%から46%まで20ポイントも深堀りしている。1%あたり1兆円のペースだとすると、この費用は毎年20兆円となる。これは奇しくも現在の消費税と同じ額だ。

つまり現行のエネルギー基本計画案は消費税倍増に匹敵する経済負担になるのだ。

このまま突き進めば、日本でも規制や税があらゆる部門に導入され、その経済負担は消費税率の20%への倍増に匹敵するものになる。消費税の2%増税でも大騒ぎになるのに、消費税率の実質倍増であれば、政治危機が訪れるのは間違いない。

日本の菅政権では、左派のアジェンダを推進する人々が目立ってきた。そこには個々の議員が何をやっても与党の岩盤支持層は絶対に投票してくれるという驕りが垣間見られる。だが国民の経済と安全をもっと真剣に考えないと、遠からず厳しい審判が下るのではないか。与党支持者であっても、その議員への投票を拒否するかもしれない。

これまで日本のエネルギー政策形成では、製造業の団体が間接的に消費者の利益を代弁する形で政府と交渉してきた。しかしもはやこの歯止めは壊れてしまった。かくなる上は、エネルギー消費者である企業や国民にその経済負担について良く知ってもらい、政治家に圧力をかけて貰うしかない。エネルギー業界関係者は、そのような説明の労を惜しまず取らねばならない。それにより政治バランスを変え、政策を少しでも正常化してゆかないと、状況はますます取返しが着かなくなる。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。