高精度な落雷分析の新システムを開発 点検の効率化や地域別雷害対策に寄与
【電力中央研究所】
毎回異なる様相を呈する落雷への対策には、落雷データの継続的な蓄積・分析が何より重要だ。
電力中央研究所は、高精度な落雷観測システムの構築を目指す。
歴史的な早さでの梅雨明けを迎え、今年もまた雷の季節がやってきた。雷はなぜ発生し、どのように落ちるのか、いまだに解明されていないことが多い。その謎を解き明かす端緒をつかむべく、電力中央研究所は、新型落雷位置標定システム「LENTR(Lightning parameters Estimation Network for Total Risk Assessment:レントラー)」の実証を進行中だ。
LENTRAの研究開発がスタートしたのは、2019年度のこと。しかし、その構想が立ち上がったのは14年ごろだという。5年ほどの月日を費やして、シミュレーションを重ね、アルゴリズムを開発し、研究開発を進めてきた。現在は実証機の作製・設置や、実雷とのデータ比較などを行っている段階だ。

精度向上とコスト減を実現 点検効率化に貢献
落雷観測の最大の意義は、長期にわたりデータを収集・蓄積することにある。雷はさまざまな気象条件が重なって発生するため、ひとつとして同じものはない。ゆえに、なるべく多くの事例を分析する必要がある。その分析結果は、主に雷害対策への活用が期待される。例えば地域別の傾向が分かれば、その地域の雷性状を考慮した合理的な設備設計が可能だ。また、新たな電力設備などの設置時に落雷の少ないエリアの選定もできる。
雷観測はこれまで、耳目によるものやカメラでの撮影、機器による電流計測、赤外線での宇宙からの観測などさまざまな方法で行われている。その中で、電力各社は落雷位置標定システムLLS(Lightning Location System)を各供給エリアに設置し、雷観測を行っている。このLLSに用いられているのは、電磁界観測という手法だ。
電磁界観測では、落雷に伴う電磁界を受信し、落雷位置の標定や雷撃電流の波高値の推定などを行う。落雷の電磁波を受信した三つ以上の観測地点の時間差をもとに距離を計算し、落雷地点を標定する。今回、電力中央研究所が開発した新型落雷位置標定システムのLENTRAもLLSの一種だ。
こうした課題の解決を目指したLENTRAは、落雷地点を標定する精度が格段に向上している。設置間隔を縮め、データ処理方法を改良することで、誤差を小さくすることに成功。従来のLLSの標定精度が数百m以上であるのに対し、LENTRAは約50m以下となった。また、従来のLLSでは測定できなかった電荷量の推定なども可能であるため、落雷の規模を推定し、雷の危険度を知ることができる。危険度が分かれば、落雷ごとに電力設備の点検が必要かどうかの判断材料となり、作業の効率化につながる。加えて、従来のLLSは海外生産のため、日本での雷の特性が織り込まれていないことがあるが、LENTRAは日本製かつ日本仕様であるため、日本での雷の特性を考慮した調整が可能だ。

しかし、従来のLLSは落雷点の標定精度の向上が課題であることに加え、雷のエネルギーである電荷量を計る機能を持たない。そのため、落雷による設備被害の把握や詳細な事後分析が難しい。
観測地点の間隔を縮めて精度が上がる一方、導入コストを抑えることも重要となる。従来のLLSの観測子局は設置間隔が約250kmであるのに対し、LENTRAは50km程度。LENTRAの導入には、従来のLLSの4~5倍の観測子局が必要となる。導入数が増えるとトータルコストも上がると考えられるが、一台数千万円ほどの従来のLLSの観測子局に比べ、LENTRAは5分の1程度の費用となる見込みだ。観測精度の向上とコストダウンという、一見相反する要求をクリアしているのがLENTRAの特長だ。
実証を通じて進む改良 全国大の観測網の構築
電力中央研究所は、夏季雷・冬季雷の観測を通して実証を進めている。夏季雷観測の実証は、東京スカイツリーの497m地点にロゴスキーコイルという電流を計測する機器を設置し、落雷の電流を計測、そのデータをLENTRAで推定したデータと照合し、「答え合わせ」を行うというもの。この「答え合わせ」により、落雷のパラメータ推定結果のさらなる精度向上に努めている。

冬季雷観測の実証は、石川県や富山県、新潟県などの雪深いエリアで実施予定だ。冬季雷エリアでの実証に向けて、積雪に耐え得る観測子局の改良や設置作業を容易にするための軽量化など、LENTRAはさらなる進化を遂げている。24年度のシステム完成以降も改良を続け、将来的には電力各社への導入を想定。各地で組み立て運用ができるよう、メンテナンスフリーやコストダウンを目指す。
電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部ファシリティ技術研究部門の工藤亜美氏は「日本各地にLENTRAを展開し、精度の良い落雷観測網を構築することで、全国大での新しい知見が得られると確信している。また、展開後も、電力会社様と協力しながらデータ分析の精度を高め、その活用先・活用方法を広げていく。耐雷設計に必要とされていたものの、従来は入手が難しかった情報を提供可能にすることで、今まで以上に雷との良い関係を作りたい」と意気込みを見せた。