【記者通信/4月27日】政府「総合緊急対策」で原子力活用へ 電気ガス代対策は明記せず


政府は4月26日、原油価格や物価高騰に対する「総合緊急対策」を決定した。対策には「原子力を含めあらゆる電源の最大限の活用を進めていかなければ、国民生活や経済活動に不可欠な電力の安定供給の確保に影響が出るおそれがある」と記載し、エネルギーの安定供給に原子力の活用を目指す考えを示した。一方で、エネルギー価格の高騰対策はガソリンに限られ、電力・ガス代の値上がりに関する対策は明記されなかった。

岸田首相は記者会見でエネルギー価格高騰対策を発表した(首相官邸HPより)

岸田文雄首相は、同日夜に記者会見を行い「原油価格や物価の高騰が、コロナ禍からの社会経済活動の回復の妨げになることは何としても防がなければならない」と表明。ガソリン価格維持のため石油元売りへの補助金に1.5兆円を充てるなど、国費6.2兆円を投入することを発表した。事業規模は合計13.2兆円ほどの見込みとしている。対策ではこのほか、エネルギーや原材料の安定供給に0.5兆円を充て、中小企業対策・生活困窮者支援などに乗り出す。今回の対策を第一段階として、6月までに経済財政運営の指針「骨太の方針」をまとめる方針だ。岸田首相は「今年の夏の参院選後にこれ(骨太の方針)らを前に進めるための総合的な方策を具体化し、エネルギー分野も含め経済社会の構造変化を日本がリードする」と参院選後にも第二段階の経済対策を進めるとしている。

補助金上限35円引き上げ。ガソリン価格4円程度の引き下げ狙う

物価高対策の第1の柱となる石油元売りへの補助金については、全国平均のレギュラーガソリン店頭価格を「当面168円程度の水準に抑制する」(岸田首相)としている。現在行っている激変緩和措置を強化し、上限単価の補填を35円に引き上げたほか、対象油種に航空機燃料を追加した。さらに補填が必要になった場合も、価格上昇分の2分の1を支援する。資源エネルギー庁が公表した4月18日時点でのガソリン価格は173.5円で、4円ほどの値下げを想定している。タクシーなどLPガスを使用する事業者に対しても、小規模補助金を活用し支援を行うとした。

第2の柱となる安定供給対策については、エネルギー、原材料、食料の各分野で実施。エネルギー分野では、①省エネルギーの推進、②クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進、③燃料供給の緊急対応策などの強化、④産油国・産ガス国への増産働きかけ――を掲げた。対策には、プラスチック製スプーンの受け取りを辞退したり、環境に配慮した商品を購入したりした場合、ポイントを受け取れる制度「グリーンライフ・ポイント」の促進も盛り込まれている。

岸田首相はそのほか、第3の柱に中小企業の価格転嫁や賃上げ対策。第4の柱には「電気・ガス料金を含む物価高騰等に直面する」生活困窮者への支援を挙げた。対策の財源には22年度予算の予備費を当て、その穴埋めと激変緩和措置の一部費用をまかなうため、総額2.7兆円の補正予算を編成。今国会での成立を目指すとしている。

電気ガス代への支援なし。「ガソリン偏重」に疑問

補助金の上限額引き上げにより、燃料価格の抑え込みを図る政府だが、萩生田光一経産相は26日の記者会見で「永遠に補助金を足し増ししていくのは現実的ではない」と述べ、激変緩和措置終了後の混乱に警鐘を鳴らす。また、ガソリン以上に負担がかさむ電気代やガス代の値上がりには、今回の対策による支援は盛り込まれなかった。「ガソリン偏重」の対策にどれほど効果が出るか、疑問の声も出ている。

【特集2まとめ】電力ガス強靭化の「佳境」 全国で加速するインフラ整備


電力・都市ガスの大型インフラが全国各地で完成時期を迎えている。
電力では、東日本大震災以降のレジリエンスの向上や、
再エネ大量導入時代を見据えた系統インフラの能力増強が進展。
都市ガスでは、東京ガスの日立LNG基地やパイプライン網の完成など、
天然ガスの供給力を強化するインフラ整備が各地で進んでいる。
盤石な安定供給網へ―。最新の取り組みを追う。

掲載ページはこちら

【プロローグ】全国で進むネットワーク強靭化 実現の陰にある知恵と工夫

【レポート/東京電力・中部電力】日本の電力支える直流幹線 東西間の融通能力が向上

【コラム/東京電力パワーグリッド】再エネ電気を有効活用 新時代の系統運用が可能に

【インタビュー/洞浩幸・中部電力パワーグリッド】エリアを越える電力融通のために 皆の強い使命感で計画を達成

【レポート/九州電力送配電】災害対策・省力化に注力 九州一円を守る日向幹線整備

【コラム/九州電力】建設から点検まで大活躍 電力で活用が進むドローン

【インタビュー/大山力電力広域的運営推進機関】安定供給に資する制度設計 長期的視点で電力システム構築

【寄稿/金田武司・ユニバーサルエネルギー研究所】自由化時代のエネルギーインフラ考 日米電力危機に学ぶ安定供給対策

【レポート/東京ガス】ガスネットワークの集大成 着実に歩んだ究極への道

【レポート/大阪ガス】「尼崎・久御山ライン」を新設 関西圏の供給安定性を強化

【レポート/西部ガス】難工事を乗り越えた九北幹線 福岡の暮らしを支える導管網

【トピックス/日鉄パイプライン&エンジニアリング】パイプライン敷設工事を効率化 検査時間を従来から半減

【トピックス/理研計器】ガス検知器が高性能かつ多機能へ スマート保安でニーズ有り