【特集3】送電線特有の条件にも対応 自動点検システムを共同開発


【ブルーイノベーション、東京電力HDなど】

東京電力ホールディングス(HD)、東電パワーグリッド(PG)、テプコシステムズと、ドローン・ロボットサービスプロパイダーのブルーイノベーション(BI)は、ドローンで送電線を自動点検するシステムを共同開発した。

本システムの核となる技術が、BIの開発した「Blue Earth Platform(BEP)だ。BEPは、ドローン、自律型ロボットなどさまざまなデバイスやアプリケーションを連携させて運用するプラットフォームで、地図情報や接続機体の位置情報、センシングした各種情報のほか、外部APIとの連携も行える。異なる用途のソリューションを同一のプラットフォーム上で一元管理できる特長がある。

倉庫管理や工場生産、オフィスの清掃、ドローンによる物流や警備、橋梁点検サービスに求められる技術はある程度類型化できるため、BEPでは各サービスに必要となる技術をパッケージ化。各種パッケージをカスタマイズすることでさまざまな用途に対応できる。

実際、ある石油精製プラントではBEPを基にしたドローン点検が採用されている。BIの熊田貴之社長は「当社が持つ技術パッケージを対象物に合わせて選択することで、システムの開発スピードは速くなり、コストも下げられる」とBEPの強みを語った。共同開発では線形の対象物をセンシングする技術を、送電線の点検向けにカスタイマイズして適用した。

送電線の点検風景

技術選定にも試行錯誤 国内外の電力会社に展開

送電線の点検は、①鉄塔に登る宙乗り点検、②高倍率の望遠鏡による地上からの目視点検、③ヘリコプターから送電線を撮影―から、点検場所に適合する方法で行われるのが主流。しかし①の場合、点検中は送電を停止しなければならず高所作業は危険が伴う、②は安全かつコストも安いが、高倍率の望遠鏡で複数張られる送電線のうち一本を目視で追う点検は検査員の技量に大きく左右される、人の足で入れない場所では③が用いられるが、①②と比べてコストが必要―などのメリット・デメリットがある。東電HD経営技術戦略研究所技術開発部の岸垣暢浩氏は「作業の省力化と点検の精度維持を両立するために、BIとの協業を考えました」と説明する。

BIもコア技術を持っているとはいえ、実点検業務に落とし込むために試行錯誤が繰り返された。

送電線は鉄塔間で真っすぐ張られているわけではなく金属が温度によって微妙に収縮するため、たるみを持たせて張られている。気温の変化で送電線の位置は日によって変わる上に、点検には送電線と一定の距離を保ちながらたるみに並行して飛べる機体でなければならない。さらに対象物である送電線をしっかりと検知する技術が必要で、送電線近くで発生している電磁波に左右されない通信方法を確保することや、突風や風雨にさらされても送電線を視認し続ける必要もある。

これら各種要件に適合する機体およびセンサー類を選定し、送電線点検に特化したシステムを開発し、「サービス化するまでには多くの時間がかかった」と、システム設計を担当したBIシステム開発部の千葉剛氏は振り返る。 東電PGには共同開発したシステムに対応したドローンが14台配備されており、まずは山間部と田園地帯の送電線点検で利用される。今後は電気工事会社に利用してもらうほか、国内他電力や海外展開も視野に入れている。

また東電PGサービスエリア内にある鉄塔の緯度・経度情報を収集し、指定した範囲を自動的に点検して帰ってくる自律点検システムの構築も考えているという。業界をリードする一層の進化を遂げそうだ。

システム運用画面

【特集3】自律飛行可能な国産機 エネルギーインフラを自動点検


【ASCL】

世界のドローン市場を中国勢が席巻する中、近年は国内メーカーの躍進も続いている。ACSL(自律制御システム研究所から今年6月に社名変更)もその一社だ。

同社は2013年に創業したドローン機体の設計・製造を行うベンチャー企業。最大の特長は、自機周辺の障害物をカメラでセンシングすることで飛行位置を推定する「Visual-SLAM」技術による自律制御システムを搭載する点だ。

ドローンは通常、自機がどこを飛んでいるのかを判別するのにGPSを用いるケースが多い。GPSから自機の位置を推定して決められたルートを飛行する定期点検サービスは出始めているものの、橋の陰や建物内などGPSが届きにくい場所は点検できない、もしくは手動でしか点検を行えないという欠点がある。

こうしたデメリットを克服するのが、同社が製造する完全自律飛行型のドローンだ。自機の位置をカメラ画像から推定することで、閉所でも自律飛行が可能。既に関西電力とは火力発電所の排気塔を自動点検するソリューションを、アクセンチュアとはプラント配管の腐食や石油タンクの漏油をAIで自動検知するソリューションを共同で開発するなど、エネルギー業界での採用事例は多い。

排気塔点検ソリューションは、関西電力とグループ会社のKANSOテクノス、ACSLの3社が共同開発している。点検ではドローンが排気塔の中央位置を維持し、一定の範囲を撮影しながらゆっくりと上昇。撮影後は底部に下降して別の範囲を撮影する一連の動作を繰り返すことで、排気塔内部を一枚の画像にし、異常状態があるのかを診断する。

アクセンチュアと共同で開発したソリューションは、事前に指定したルートに沿ってACSLのドローンが飛行・撮影し、アクセンチュアが開発した画像解析AIがディープラーニングで設備の異常箇所を抽出。点検の手間を大幅に低減する。得られたデータは配管などの設計図面(スプール図)ともひもづけた表示も行えるほか、コメントをつけて共有できるなど、各種機能が搭載されている。

最大の特長である「Visual-SLAM」カメラ

サブスクサービスを開始 長距離・長時間に挑戦

さらに今年5月からは、点検用にカスタマイズしたドローンをサブスクリプション(月額)方式で提供するサービスを開始した。

本サービスは、同社が開発する産業用ドローン「ACSL-PF2」をベースに、①1億画素カメラを搭載、②6100万画素のカメラを搭載、③煙突点検用カスタマイズ―のいずれかが施された機体をレンタルするサービス。

故障時に代替機の貸し出し、対人・対物の施設賠償保険が施されているほか、バッテリーの交換サービスや定期メンテナンス、オンラインおよび現地サポートといったオプションも用意されている。導入のハードルが高かったドローンをサブスクリプションサービスに落とし込むことで、会社としてドローンの社会実装を推し進める構えだ。

同社の六門直哉事業開発本部長は「サブスクリプションは現時点では3種類に限られているが、今後は太陽光パネルの点検などニーズが高そうな分野にも対応したい」と話している。 高度経済成長期に建設された産業用プラントでは、配管が複雑に入り組んで敷設されていることもあって閉所が多い。さらに屋外のエネルギー設備に限らず、大規模工場や倉庫の点検や警備など、GPSが届きにくい場所を巡視するニーズもある。

こうしたさまざまな制約がある環境下でも飛行できる、国産の完全自律型ドローンは大いに活躍しそうだ。

煙突点検向けに改良したACSL-PF2

【特集3まとめ】進撃のドローン インフラの保守・点検に新風


積載容量の増加や長距離飛行が可能になったことで、
ホビーから産業機械に進化を遂げつつある「ドローン」。
AIや画像解析技術の進展でドローンで撮影した画像を基に
微細なひび割れから漏油などを検知する技術も開発されている。
エネルギーインフラの保守・点検に新風を吹き込む。

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