【東京ガス 笹山取締役代表執行役社長CEO】企業価値向上に向け資本効率を高め成長投資を促進する

2025年3月1日

中長期経営計画の最終年度となる2025年度を前に、資本政策を重視した企業価値向上策を打ち出した。

米トランプ政権誕生や脱炭素化の潮流の変化を見極め、安定供給を重視した調達戦略を展開するとともに、多様なエネルギーとソリューションの提供を目指す。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 1月31日の2024年度第3四半期決算説明会で、現中期経営計画後の経営の方向性を示す「持続的な企業価値向上に向けて」を発表しました。

笹山 当社は、企業価値の向上には資本効率を高めることが重要であることを踏まえ、投資家の意見に耳を傾けながらどのような施策を執るべきか社内で協議を重ねてきました。その上で、第一弾として昨年10月、自社株取得のほか資本政策を意識した企業価値向上策に取り組む方針を示しました。1月の発表はその第二弾となります。来年度には、現行中計の最終年度を迎えます。これらは、中計で掲げた施策を遂行するための重要なマイルストーンであり、今後の施策を具体化する指針です。

井関 資本政策では、累進配当の方針を打ち出しました。

笹山 従来から実質的には累進配当を導入しており、安定配当と緩やかな増配を掲げていました。ただ、その意図がなかなか理解されづらい点があったため、明確に累進配当の方針を示したものです。総還元性向については、かつての6割から4割程度をベースとしてきましたが、投資家に分かりやすいメッセージを伝えることが重要であると考え、4割還元をベースに、必要に応じて追加的な対策を講じることとしました。


目標達成へ進捗は順調 成長分野に一層注力

井関 23年度の連結自己資本比率は43・6%と、財務体質は堅調ですね。25年度の目標として据えた、ROE(自己資本比率)8%、累積営業キャッシュフロー(CF)1・1兆円、成長投資6500億円に対する進ちょくはいかがですか。

笹山 いずれも順調で、それらの目標を達成できる見込みです。累積営業CFを含め、収益を確保しつつ成長投資に注力していきたいと考えています。

また、経営資源を生み出すために、低収益または戦略不適合の資産および事業については、売却ないしは、新たなスキームを考えるなどしてきましたし、それはこれからも変わりません。今後も、中計で示した収益性、成長性、安定性の視点を持った事業ポートフォリオマネジメントを目指していきます。

千葉県袖ケ浦市に建設する火力発電所のイメージ図

井関 第3四半期決算では、連結経常利益が前年同期比59・8%減の685億円となり、通期見通しも従来予想の1060億円から1030億円に下方修正しました。この要因についてお聞かせください。

笹山 円安を含めた期ずれ差益の影響や一部減損があったこと、さらには暖冬で家庭分野のガス販売量が減少したことが要因です。業界の構造上やむを得ないことではありますが、天候や為替に左右されない、ガス・電力に次ぐ第三の柱としてのソリューション事業も伸ばしていきたいと考えています。

井関 そうしたソリューションの一つに「IGNITURE(イグニチャー)」の展開があるわけですね。

笹山 対一般消費者(BtoC)や対企業(BtoB)に加え、自治体など対行政(BtoG)の三分野で、社員一丸で事業の拡大に挑んでいます。BtoC分野では、これまでさまざまなサービスを展開してきましたが、今後はガス器具や高効率ガスシステムといったエネルギー関連設備の導入に一層注力していく方針です。従来の販売方法にとらわれず、ウェブサイトなどを活用した拡販を進めていきます。

また、蓄電池や太陽光発電システムなどの商材の販売についても、東京都の補助金を追い風に積極的に取り組んでいきます。近年は施工の担い手不足が課題となってきました。このため、場合によっては施工会社のM&A(企業の合併・買収)を視野に入れ、着実な対応し成果につなげます。

BtoB分野では、当社が保有する土地や再開発エリアの多くにスマートエネルギーネットワークを導入しており、これにより業務効率化、脱炭素、レジリエンス向上を実現しています。デジタル技術を活用した最適化は、不動産価値の向上に寄与します。この分野でも蓄電池や太陽光発電といった商材の拡充を図るとともに、イグニチャーと連携可能な商材を開発、投入することで収益率の向上を図っていきます。

さらに、脱炭素分野ではCO2の見える化などで支援するESG(環境・社会・ガバナンス)経営サービス「サステナブルスター」を展開しています。特に不動産業界での導入事例が多いのですが、他の業界にも広がりつつあり好調です。

井関 小売全面自由化で、供給エリアに多くの競合が参入していますが、これについてはどうお考えですか。

笹山 競合他社とは、ガス単体でも競争していますが、当社としては、ソリューションを含めたトータルの提案力で競争力を高めていく方針です。

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