【フォーラムアイ】CNのシナリオ分析に取り組む 異分野研究者との連携が醍醐味

2026年3月10日

【電力中央研究所】

電中研でサステナブルシステム研究本部と、社会経済研究所を兼務する坂本将吾氏。

脱炭素政策に直結するシナリオ分析、CCUでの炭素帰属問題に取り組んできた。

2016年に中途採用で電力中央研究所に入所した。入所前には中央大学都市環境学科の助教と、運輸政策研究所(当時)勤務も経験した。現在は、サステナブルシステム研究本部と社会経済研究所に所属し、気候変動のシナリオ分析とCCUS(CO2回収・貯留・利用)の研究に取り組んでいる。

坂本将吾(サステナブルシステム研究本部気象・流体科学部門「兼」社会経済研究所 主任研究員 博士「工学」)
さかもと・しょうご
2010年中央大学大学院理工学研究科土木工学専攻博士後期課程修了。中央大学理工学部 都市環境学科助教、運輸政策研究所を経て、2016年に電力中央研究所入所。

大学で所属していた都市・交通計画系の研究室は、多数の博士課程の先輩が在籍し「生き生きと研究に打ち込む姿に憧れ」研究者を志した。

博士課程から助教時代には、都市・交通計画と人々の生活に関する研究を手掛けた。ライフステージに従い変化する居住地・住居・自動車保有の選択行動は、都市構造に変化をもたらす。こうした都市構造と人々の生活の相互関係を統計データによりモデル化し、都市政策による住宅や移動のエネルギー消費の変化を分析するというものだ。

電中研には気候変動のシナリオ分析で採用された。一見、それまでの研究と異なるように見えるが、「気候と社会経済活動の相互関係をモデル化し、政策により将来の排出量を定量分析するという点で(過去の研究と)結びついている」という。


排出削減とCO2除去 課題の明確化と整備が必要

20年10月末に菅義偉元首相がカーボンニュートラル(CN)を宣言して以降、日本でも脱炭素が盛り上がった。それ以前から研究者間ではCNが必要とされており、坂本氏もIPCCのシナリオデータを分析し、宣言とほぼ同時に報告書(電中研報告:Y20001)にまとめた。「CN宣言直後にタイムリーに研究報告書が出せ、関連の審議会でも紹介する機会を得られた。CNの理解促進に貢献できた」と手応えを実感した。

図1 日本のCN達成時のCO2排出量の多様性
提供:坂本(2023)電力経済研究、No.69、19-37.
図2 CCUS技術群における貯留・利用と由来の区分
提供:坂本・上野(2024)電力中央研究所報告、SE24004.


CN達成の絵姿は1つではないと坂本氏は強調する。CNは、残余排出量とCO2除去量の均衡であり、組み合わせは原理的に無数にある(図1参照)。排出削減を重視して残余排出量を小さくすればCO2除去量は小さくなり、逆も成り立つ。「新規の排出を減らす「排出削減」と、排出されたCO2を減らす「CO2除去」の区別を理解し、両者をどのようなバランスで進めていくかが重要」と語る。

この区別について最もわかりやすくかつ誤解も多いのがCCUS関連技術群だ。これらはCO2の貯留と利用、CO2の由来(化石燃料と大気)の4象限に整理できる(図2)。同じ貯留を伴うCCSとCO2除去であっても、役割は異なる。貯留地は有限であり、両者への配分は、排出削減とCO2除去のバランスを考える好例となる。

CCUSは回収・輸送・貯留の複数の主体が関わり複雑になる。同技術を進めるには、「誰の削減・CO2除去となるか」アカウンティングの仕組みの整備も必要となる。例えば、化石由来CO2を回収・利用した場合、排出削減とはなるが、利用した分のCO2は最終的には排出される。この排出量を回収・利用事業者のどちらにカウントするかが帰属問題だ。「日本の制度では、両者に一旦排出量を帰属させた後に取引するという世界的にも例のない仕組みをとる」。越境CO2貯留を志向する日本にとって、相手国との削減量の帰属も論点となる。

また、CN達成には電化が必須となる。現在の電化率は、約28%程度であるがIPCCシナリオデータを用いた分析では、CN達成時、38~78%まで高まる。「幅はあるが、電化は、異なる将来像を描くシナリオ間でもなお共通するロバストな対策。既存技術で着実に排出削減を進められるため、普及見通しが不確実なCO2除去への依存度を低減する意味でも重要」という。


異なる専門性が結集 長期的視野で研究続ける

電中研には、発電技術から電力流通、環境・制度分析に至るまで、「電力」を軸に、異なる専門領域として扱われる分野の研究者が多数在籍する。CCS研究も分野横断的な体制で進めている。「多様な専門家と連携して取り組めることが醍醐味」とやりがいを口にした。

現在、米国などで脱炭素政策の進め方を再検討する動きもみられる。一方で、IPCC報告書では、気候変動は人為的起源とする科学的な確信度は高まっている。「エネルギー安全保障や価格高騰への対応とのバランスを図りながら、対策の重心は柔軟に調整しつつも、脱炭素への取り組みを継続することが重要」と述べる。今後も長期的視野、ち密な調査、分析力を武器に研究を続けていく。