【コラム/4月24日】見直し見直しの電力自由化を再考する ~制度改革に疲れた日本は、無間地獄の寸前

2026年4月24日

飯倉 穣/エコノミスト

1、市場信奉者が喧伝した期待、「自由化万事良し」

今年は、電力小売り全面自由化スタートから10年となる。市場信奉者・役所の目論見は、電気小売り事業への参入増・競争出現による料金メニュー・サービスの多様化と料金抑制だった。そして家庭等消費者に、各自のライフスタイル・価値にあった電力会社・メニュー選択が可能となり、料金も低下すると期待を煽った。

近時報道もあった。「電力自由化の現在地㊤「電気を選べる日本」に試練 規制緩和10年、料金抑止の副作用、値上げしにくく投資細る」(日経26年3月31日)。「同㊦中東緊迫で先物取引最高燃料高騰、コスト上昇に備え 市場価格設定にひずみも」(同4月2日)。中途半端な自由化で投資不足懸念という紹介だったが、自由化に馴染まない電気事業の根本の特性を看過した内容だった。

現在・未来の電力需給安定に官製電力8市場がある。ベースロード市場、スポット市場、電力先物市場、容量市場、需給調整市場、非化石価値取引市場、カーボン・クレジット市場、同時市場である。これらは需給安定に寄与しているだろうか。将来の供給力不安で電力システム改革の検証や制度見直しが相次いでいる。郵政改革と同じ状況である。まして中東依存のエネ世界では、購買力が重要だが、国内企業群の対応は苦難の連続である。どうにも先行きが見通せない状況が続いている。

抑々技術革新なき自然発生的な電気事業の細切れ自由化が、成功すると思えない。改めて国際エネ環境軽視、市場信奉、消費者軽視で国内供給不安惹起の電力システム改革の軽率さを考える。


2、供給体制の質低下

電力システム改革(電力自由化)の目論見は、1990年代から始まる。不況業種等による電力ビジネス機会獲得要求を背景に、バブル崩壊過程の混乱期にマクロ経済政策の対応ミスと米国圧力を好機とみて、一部官僚が意図的に自由化を良策と画策したことによる。その根拠は90年代後半(燃料価格低迷時)における意図的なコジェネ技術の過大評価(誰でも安い電源設置可能)と欧米の経済政策(新自由主義・市場競争重視)・電力自由化の無批判模倣だった。特定官僚・役所主導の政策に、実業音痴・規制緩和好きの経済学者が加担し、公益的視点を捨象し、市場創設が電力需給と価格の安定・低下に効果的と持ち上げ、且つ日本経済活性化に寄与すると喧伝した。

その流れを見れば、95年IPP・特定電気事業承認、2000年特定規模電気事業(PPS)承認・特別高圧自由化、04年高圧小売り自由化範囲拡大、05年高圧50kw以上自由化対象・卸電力市場創設と進展した。そして「自由化いいことずくめ」で政治家を巻き込んで、行き着く先が「電力システムに関する改革基本方針」(閣議決定13年4月2日)だった。システム改革は、①広域系統運用の拡大(電力広域的運営推進機関設立15年4月)、②小売及び発電の全面自由化(小売り全面自由化16年4月)、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保(発送電分離20年4月)の最終3段階の変質を経て、今日のカオス的状況生み出した。

現在電源を持たない電気の販売業者は、700社に達し、市場価格にらみで販売手数料稼ぎに顧客開拓を行っている。経済学でいう取引費用を嵩上げし、昔風に言うなら消費者を搾取している。かつ価格信奉市場は、需給を安定させず、投資を躊躇させ、供給不安を招いている。


3、根本看過、弥縫策で需給安定は永遠のテーマに

自由化完成(20年)後、21年1月電力需給逼迫・市場価格高騰、22年3月東日本電力需給逼迫以来、需給対策見直しが継続している。そして今般「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG とりまとめ」(26年3月)が登場した。報告書は、現体制で供給力確保困難と考え盛り沢山の対応を並べる。電源休廃止の監視、既存電源確保、電源維持の費用負担確保、休眠事業者の扱い、燃料確保、発電設備確保、ファイナンス手当等々を記述している。現在の自由市場の不全と失敗と不信を確信する内容だった。議論の過程では、特別な公共性を持つ電力という商品を扱う小売事業者は、一定の社会的責任や役割を果たすべきとする(25年12月)記述もあった。 

つまり、WGとりまとめは、これまでの「電力システム改革では、従来、垂直一貫体制、地域独占、総括原価方式によって実現しようとしてきた「安定的な電力供給」を事業者や需要家の「選択」や「競争」を通じた創意工夫によって実現することを目指したが、その中で、供給力の確保など様々な課題に直面している」と述べている。電力の安定供給が、新自由主義・市場競争に基づく価格変動・需給調整では困難と認識したということであろう。過去の自由化主張の識者も市場による需給調整の弱さを述べている(「電力自由化現在地 識者に聞く」日経26年4月3日)。このままでは、更なるシステム見直しの糊塗で、複雑怪奇な制度劣化が進むことになる。現段階で、「電力自由化は成功」という意見をお持ちの方の声を仄聞しない。また産業界期待の電力料金低下による産業の国際競争力向上もなかった。

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