【コラム】米国の電気料金高騰:2025年の回顧と日本への示唆

2026年5月15日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国の電気料金は2025年を通して上昇し、メディアはこの問題に注目するようになった。エネルギー問題を超えて政治的論争へと広がり、年央以降は主要メディアによる報道が相次いだ。Reuters(7月9日)、Bloomberg(7月10日)、Fortune(7月10日)、The Daily Mail(7月13日)、NPR(8月20日)、TIME(8月27日)、CBS News(10月27日)、The New York Times(10月30日)、Associated Press(11月8日)、The Wall Street Journal(12月29日)など、多くの媒体が電気料金高騰を取り上げた。

公共料金問題に特化した非営利・非党派団体であるPowerLinesが今年1月に発表した報告書によれば、米国の家庭用電気料金は2021年から2025年にかけて約40%上昇し、2025年(2024年12月〜2025年12月)だけでも約7%の上昇となった。家庭用ガス料金についても2019年から2025年にかけて約40%上昇し、2025年(2024年12月〜2025年12月)だけで11%近く上昇している。2025年の上昇率はいずれも同年のインフレ率3%を大きく上回った。これにより昨年、需要家のエネルギーコスト負担は大きく増加した。実際、電気・ガスの規制料金に関して見ると、昨年、規制当局には全米で83件・総額310億ドルの電気・ガス料金の値上げ申請が提出され、申請額は2024年の総額150億ドルから倍増した。PowerLinesによると、これらの申請が承認されれば、8,000万人以上の米国人が電気・ガスコストの一層の増大に直面することになるという。

電気・ガス料金の高騰が国民生活に深刻な影響を与えていることは、2025年3月28〜30日にPowerLinesとIpsosによって実施された調査でも示されている。調査では、電気・ガス料金を支払う世帯の約3分の2(64%)が前年より請求額が増加したと回答し、同程度の割合(63%)がこれらの料金が家計のストレス要因になっていると述べた。さらに、約半数(48%)が電気・ガス料金の上昇は経済全体にとって悪い兆候であると認識している。また、LendingTreeが米国国勢調査局による世帯の経済・生活状況に関するリアルタイム調査データを独自に解析したところ、電気代支払いのために生活必需品を削った人は34%以上に上った(2024年8〜9月調査)。

さらに、リベラル系シンクタンクであるCentury Foundationと、非営利団体Protect Borrowersが公表したデータによれば、12か月移動平均による季節調整値を用いて2022年3月から2025年6月までの推移を比較すると、家庭用の電気・ガス・その他の燃料に関する請求書を期限通りに支払っている全国の世帯では、平均月間エネルギー費用が196ドルから265ドルへ上昇した。一方、滞納世帯1件あたりの平均滞納額は2022年の597ドルから789ドルへ増加している。中でも、黒人およびアジア系消費者の平均公共料金滞納額は900ドル近くに達し、白人消費者の約750ドルを大きく上回っている。また、2025年6月時点では、全世帯の約20分の1(約1,400万人)が深刻な滞納状態にあり、コレクション(債権回収)に回されていると報告されている。

このような状況を背景に、2025年には、エネルギーコストが政治問題化し、公益事業委員会(Public Utility Commission : PUC)の選挙が注目されるとともに、州知事選や議会選の争点となった(2025年12月12日および2026年1月6日のコラム参照)。エネルギーコストの問題は、さらに、2026年の中間選挙における確実な焦点となると見られている。 PowerLines の事務局長チャールズ・フア氏は、「これを私たちは“電気の新しい政治”と呼んでいます。いまや電気は“新たな卵”なのです」と、今年1月28日の記者説明会で語っている。ここで言う“卵”とは、2024〜2025年に価格が急騰し、食料品の値上がりへの消費者の不満を象徴する存在となった卵のことを指している。

電気料金上昇の主因は、データセンター需要の急増、送電網への大規模投資、天然ガス価格の変動、山火事や冬の嵐といった気候災害などである。EIA(U.S. Energy Information Administration)によると、家庭用電気料金は2026年に5.1%上昇すると見込まれており、2030年に向けても電気料金は確実に上昇する見通しである。その背景には、データセンター需要の継続的な増大、老朽化した送電網の更新や再生可能エネルギー接続に伴う大規模な送電投資、そして再生可能エネルギーの導入ペースと送電網整備のギャップがある。

国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)は、最新の Electricity 2026 において、2026〜2030 年を「Age of Electricity(電気の時代)」が加速・定着する期間として位置づけている。こうした世界的潮流の中、日本でも生成AIの急速な普及やデータセンター投資の拡大が電力需要を押し上げる新たな要因として顕在化しつつある。企業はクリーン電力の調達、AI向け電力インフラの整備、電化設備への投資を加速させており、2026〜2030 年は、産業構造が、より電力集約型・AI集約型へと転換する節目となるだろう。特に留意すべきは、米国で顕在化している電気料金の高騰である。これは日本にとって“将来の姿”となり得る。電気料金の上昇は国民生活への負担増に直結するだけでなく、社会的関心を高め、場合によっては政治問題化する可能性すらある。したがって、電化とAI需要の拡大を見据えつつ、安定的かつ持続可能な電力供給体制を構築することが、これまで以上に重要な政策課題となる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。