【特集2】地産地消エネを最大限に活用 官民の役割分担で事業性確保


【新地スマートエナジー】

東日本大震災からの復興によるまちづくりで、福島県新地町にスマートコミュニティが誕生した。町と11社の民間企業が出資する地域エネルギー会社「新地スマートエナジー」が2019年春から電気と熱の供給を開始し、今も順調な事業運営が行われている。

スマコミの拠点は、津波によって壊滅的な被害を受けたJR新地駅の周辺エリア。エリア内に建設した新地エネルギーセンターが電気と熱の供給を担う。5台のガスエンジンコージェネレーションシステム(出力35 kW×5基)で発電し、その排熱は熱交換機や排熱投入型吸収冷温水発生機(422kW)に活用。ガス吸収冷温水発生機(422kW)や電動スクリュー冷凍機(冷房能力60 kW)、温水ボイラー(加熱能力581kW)3台で冷水・温水を製造する。センターの壁面や屋根、需要家の施設には太陽光発電システム(計85 kW)を設置した。エリア内でつくられた電気や熱は、自営線と熱導管を通して公共施設や民間の温浴施設などで使われている。

また、コージェネの燃料には、石油資源開発の相馬LNG基地からパイプラインで供給される天然ガスを使用。災害時にも持続可能な供給体制を構築している。さらに、蓄電池(50 kW時)やBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)を使い、CEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)による最適制御を実施中。まさに、地域のエネルギーを地域内で最大限に活用する「地産地消の分散型エネルギーシステム」が確立されているというわけだ。

町がエネ設備を所有 採算性ある供給目指す

事業の運営方法にも大きな特長がある。町が自らエネルギー施設を所有し、運用は新地スマートエナジーに委託している。新地スマートエナジーは電気と熱の販売で収益を上げ、運用費のみを賄えば収支が成り立つスキームだ。

民間企業が持つ実績とノウハウを活用できる点も強みだ。出資企業の一社である日本環境技研は、加藤憲郎・前新地町長がスマコミ事業の実施を決断し、検討を始めた当初から事業に参画。国の補助事業の活用に向けた調査をはじめ、エネルギーセンターやエネルギーマネジメントシステムなどの実施設計を行い、事業の具現化を叶えてきた。同社は「事業採算性はまだまだ厳しいが地方自治体主体の安定供給を支えていきたい」としている。新地町では今後、農業施設などに対し、電気と熱とともに排ガスから回収したCO2を供給し、作物の生育に活用するトリジェネレーションの導入を計画中だ。官民連携が奏功したスマコミの次なる展開が注目される。

「新地スマートエナジー」のエリア全体風景

【訂正とお詫び】6月号特集2の記事について


エネルギーフォーラム6月号「特集2」(73頁)の電力館とガスパビリオンのインタビュー記事の見出しに誤りがありました。正しくは、電力館が「『可能性のタマゴ』がコンセプト 次世代エネ技術を面白く体験」、ガスパビリオンが「CNに向け『化けて』変容を 地球温暖化を考える機会に」です。なお電子版ではすでに修正しています。関係者の方々にご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫びし、訂正いたします。またウェブ上での「お詫びと訂正」が遅れたことを重ねてお詫びいたします。

バス営業所内の水素ステーション 国内初整備で大型車普及に弾み


FE岩谷コスモ水素ステーション

水素自動車向けの供給インフラ整備と運用を手掛ける岩谷コスモ水素ステーション(喜村博代表)が、バス営業所内としては国内初となる水素充填所(液体水素式)を開設した。都営バスの車庫である東京都交通局の有明自動車営業所(東京・江東)内に開設し、4月から都バス向けに供給している。

一般の燃料電池自動車(FCV)と異なり大型バスなどの商用車は、決められた時間に決められた量の水素を充填するため一定の需要を見通すことができる。FCVの普及が不透明な中、こうしたバス向けの供給インフラ整備は、水素社会の実現に向けた大きな一歩となる。

加えて都は、国内バス事業者として最も多くのFCバスを運行しており、その数は80台にのぼる。さらに2027年度までに、100台に増やす方針を掲げている。公共交通機関として、都が水素利用を推進していくことに大きな意義がある。バス向けの「大口需要」の対応には、短時間に大容量の水素を充填する必要がある。そのために今回、ある工夫が施された。それは「液体水素昇圧ポンプ」(三菱重工業製)を採用したことだ。

大容量の水素を充填 液水ポンプで短時間供給

液体水素を活用する一般的なステーション運用では、まずタンクローリーによって運び込まれた液体水素をタンクに常圧貯留。気化後に水素を蓄圧器に移し、そこから必要量に応じてディスペンサーを通じて車両に供給する。今回は、貯留タンクと気化器の間に液体水素ポンプを新たに設置した。このポンプで液体水素を液体のまま82MPaまで昇圧する。その後は「一般式」と同じだが、「ポンプをはさむことで蓄圧器を最小化し、設備全体がコンパクトに設計できる。加えてランニングコストを大幅に削減するほか、ボイルオフガスの発生を従来以上に抑えることができる」(三菱重工関係者)。

これまで多様な方式のステーションを運用してきた岩谷。コスモエネルギーホールディングスとの合弁で23年に水素ステーションを運用する新会社・岩谷コスモ水素ステーションを立ち上げた後も、液体水素ポンプという新たなアイテムを活用して、最適な供給インフラの運用を模索している。

【キャプション】

国内初のバス営業所内ステーション(提供:岩谷産業)

燃料を貯める液体水素タンク

【特集2】日本発の技術でCNを訴求 会場内で地産地消モデルを確立


大阪ガス】

大阪ガスは地産地消型スキーム構築に向けたメタネーションを実証中だ。さらに、グリーン水素との合成による脱炭素化にも取り組んでいる。

大手都市ガス事業者を中心に、ガス業界が押し進める未来の都市ガス「e―メタン」。今回の「大阪・関西万博」では、この日本発の次世代型エネルギーの意義や展望を世界へ発信しようとDaigasグループが中心となって動いている。

大阪ガスは万博で「化けるLABO」を運営している。環境省委託事業「既存のインフラを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築・実証事業」のもと、会場内で発生する生ごみやCO2を利用し、e―メタンを現場で生産し、その現場で消費する地産地消型のスキームを構築している。

4つの方法でCO2回収 会場のバイオマス資源活用

化けるLABOでは、四つのリソースによるCO2を活用してe―メタンを生産する技術に挑戦している。

一つ目のリソースは循環型のCO2だ。会場内から出る生ごみ(バイオマス資源)を廃棄物としてバイオガスプラントに貯める。それを発酵させて発生するバイオガス内のCO2とともに、同時に発生するメタン(CH4)も活用する。

残り三つのリソースが回収型のCO2だ。DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)技術によって空気中から直接回収されるCO2と、オンサイトのボイラー排ガスから回収されるCO2、さらに日本館で得られるバイオガスから回収されるCO2が挙げられる。

回収型の一つ目で活用するDAC装置は、地球環境産業技術研究機構(RITE)がムーンショット型研究開発事業で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託のもと、実証装置として運用している。また、二つ目の排ガスからのCO2回収では産業ガスの製造販売を手掛けるエア・ウォーター(AW)と連携。AWは、このCO2を冷却用のドライアイスにも活用する。三つ目のバイオガスからのCO2回収では、経済産業省が出展する日本館と連携。同館内のバイオガスプラントで発生したバイオガス精製後のCO2を活用する。

㊧空気中から直接回収するDAC装置 ㊨回収したCO2はドライアイスにも活用する

一方、CO2の反応相手となる水素は、固体高分子型(PEFC)技術を利用した水電解装置で発生させる。化けるLABOでは再生可能エネルギー由来の電気を使って水電解するため、CO2を発生しないグリーン水素を活用していることになる。こうした循環型・回収型のCO2やグリーン水素を活用することでe―メタンの環境性も担保される仕組みだ。

これらの水素とCO2は、e―メタン生成を促すメタネーション装置へ投入される。ここで使用されるのが、微生物の力を用いるバイオメタネーション装置と、触媒を用いるサバティエメタネーション装置の2種類の設備だ。

メタネーション実証設備

【特集2】正面からエネ問題に向き合う 国民一人ひとりの理解を醸成


林 欣吾/電気事業連合会会長

このたび、エネルギーフォーラム社が本年5月をもって、創立70周年を迎えられたことに、心よりお慶び申し上げます。

これまで、貴誌はエネルギー産業のオピニオンリーダーとして、電力・ガス・石油をはじめとするエネルギー問題について、価値ある情報収集と深い分析に基づき、70年の長きにわたり、充実した報道を続けられてきたことに深く敬意を表します。

現在、わが国は国内投資が伸び悩み、世界における経済的地位も残念ながら後退しております。こうした状況を打破し、高い付加価値を生み出す産業構造を構築するためには、その基盤となる強靭なエネルギー供給の整備を、早期に実現していくことが必要です。

また、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、世界規模での資源争奪戦や燃料価格の高騰が起こり、エネルギーを取り巻く状況は一変しました。

資源に乏しいわが国において、エネルギーセキュリティーを確保しつつ、50年カーボンニュートラルを実現していくことが求められる中で、「S+3E」、すなわち、「エネルギーの安定供給」、「経済効率性」、「環境への適合」を同時に達成していくことが必要です。

50年は「すぐ先の未来」 実効性ある施策を速やかに

このような課題認識の下で、今年、「第7次エネルギー基本計画」が成立しました。安定供給が第一であることが示され、さらにエネルギー安全保障の概念が明確化されました。将来の脱炭素化も見据え、特定の電源や燃料に依存するのではなく、再生可能エネルギーと原子力を、共に最大限活用していく方向性が示された点は大変意義のあるものと考えております。

一方で、エネルギーインフラの更新に必要なリードタイムを考慮すると、50年は「すぐ先の未来」です。残された時間は極めて少ない状況にあり、今回の方針が実効あるものとなるよう、速やかに具体的な施策として落とし込んでいかなければなりません。

貴誌は、激変するエネルギーの問題に正面から向き合い、国民一人ひとりの理解醸成に向けて、長きにわたり取り組まれてこられました。これからの重要局面においても、国民の暮らしと産業を守るエネルギー政策の実現に向けて、貴誌の役割は、ますます重要さを増していくものと思います。

貴誌のさらなるご発展を祈念するとともに、大いなる期待を込めて、お祝いの言葉とさせていただきます。

【特集2】知見を基に公平・中立を維持 鋭い視点を合わせた誌面作成を


木藤俊一/石油連盟会長

このたび、「エネルギーフォーラム」が、創刊70周年を迎えられましたことを心よりお喜び申し上げます。

貴誌の前身である「電力新報」が、創刊25周年を機にエネルギーフォーラムに改題されてから半世紀近くが経ちます。この間、人々の生活に欠かせない石油を含めたエネルギー全般について的確に報じられたことに敬意を表します。

平時・有事問わず安定供給 変わらぬ液体燃料の重要性

奇しくも、私ども石油連盟も、貴誌とともに歩み続け、今年で創立70周年を迎えます。この間、平時・有事を問わず、一貫して消費者の皆様にとって必要とされるエネルギーの安定供給に努めてまいりました。可搬性・貯蔵性に優れ、エネルギー密度が高い液体燃料である石油の重要性・有用性は、今後も変わることはありません。石油業界は、エネルギー供給の担い手として、液体燃料が将来の長きにわたって消費者の皆様に選ばれるよう、既存の製油所を、カーボンニュートラル燃料を製造する拠点に転換していくことなどを目指しています。貴誌には、このような石油業界の取り組みについて繰り返し報道いただき、改めて深謝しております。

今年は、2月に「GX2040ビジョン」「地球温暖化対策計画」「第7次エネルギー基本計画」といったエネルギーの重要政策が閣議決定されました。

エネルギー基本計画にも記載されている通り、無資源国である日本にとっては「S+3E」がエネルギー政策の基本です。第7次計画の策定にあたり、エネルギーのベストミックスなど様々な議論が尽くされました。石油は一次エネルギー供給の3割以上を占めていますが、2040年度においても一定のシェアを維持する見通しが示されました。一方、50年カーボンニュートラル社会の実現に向けては、再生可能エネルギーの多様化、国際的な資源獲得競争、革新的な技術開発など、エネルギー分野に影響を及ぼすさまざまな不確定要素があり、事業者側の投資予見性を高めることや、国民理解を醸成することが必要です。国民にとっての関心も一段と高まることが想定される中、これらを調査・分析し、的確に情報発信する報道機関としての「エネルギーフォーラム」の役割は、より一層強まるものと拝察いたします。

引き続き、エネルギー全般の専門誌の先駆者として、70年にわたり築き上げられた知見を基に、メディアとして公平・中立な報道と、貴誌ならではの鋭い視点がベストミックスされた誌面作成を大いに期待しています。

今後の貴誌のますますのご発展を祈念申し上げますとともに、エネルギー産業のさらなる発展に向けて今後ともご尽力賜りますようお願い申し上げます。

【特集2】 不偏不党の編集方針を堅持 「国益と福祉の増進」のため報道


志賀正利/エネルギーフォーラム取締役社長編集人兼発行人

本誌「エネルギーフォーラム」の前身である「電力新報」の創刊は、9電力体制が発足して4年後の原子力基本法が公布された1955(昭和30)年です。今年で70周年を迎えますが、ちょうど今年は電気事業再編成を主導した電力の鬼・松永安左エ門翁の生誕150年であり、昭和100年、戦後80年という節目にも当たります。

「日本の復興は電力から」 議連の理念を引き継ぎ創刊

創業者・酒井節雄は、創刊に当たり著した電力新報創刊趣意書で「電力は国民生活や全ての産業活動に直結しており、その電力を供給する電気事業の健全な発展を通じて国民の福祉の増進に寄与することを目的とする」と述べています。

酒井は戦後、自由党所属の国会議員秘書となり、「日本の復興は電力から」をモットーとして発足した電源開発議員連盟の事務局を担いました。ところが、佐藤栄作自由党幹事長が会長を務める海運議員連盟に絡んだ造船疑獄事件が起き、同議連は解散となり、そのあおりで電源開発議員連盟も活動を停止しました。しかし、「日本の復興は電力から」という電源開発議員連盟の理念を引き継ぐ形の専門誌の発刊を強く勧められたことから、電力新報の発刊を決意したものです。

戦後間もない創業当初は経営難が続く中にあって、当時の東京電力常務の木川田一隆氏、関西電力副社長の芦原義重氏、中部電力副社長の横山通夫氏などからご支援をいただき、経営を軌道に乗せることができたと述懐しています。

創刊から25年を経た80年には誌名を電力新報から「エネルギーフォーラム」に改題し、電力のほか石油、ガスなどを包含したエネルギーベストミックス時代に相応しいわが国唯一の総合エネルギー専門誌として生まれ変わりましたが、創業以来の編集方針である「本誌の報道を通じて国益と国民の福祉の増進にいささかでも寄与したい」という思いは、今も変わりはありません。「フォーラム」の言葉に込めた思いは、エネルギー政策には国民的合意形成が欠かせないものであり、そのためには国民の情報の共有と総合的な論争の展開を図ることが必要というものです。従って本誌は創刊以来、不偏不党の編集方針を堅持しており、その姿勢が誌面での幅広い自由なエネルギー政策論議を可能にしているものと確信しております。

また、エネルギー政策論争の活性化のために創業25周年を記念してエネルギー政策の合意形成や積極的政策提言に資する著作を顕彰する目的で1980年には「エネルギーフォーラム賞」を創設し、今年で45回目を迎えております。歴代の受賞作は斯界の権威から新進気鋭の若手による優れた政策提言など充実したものとなっております。

さらに創立60周年記念として2015年にエネルギー政策の合意形成の一助を目的とした『エネルギー小説賞』を創設しました。これは「エネルギー・環境(エコ)・科学」に関わる未発表のフィクション・ノンフィクションの優れて面白い著作を顕彰・出版するものです。

創業者 酒井節雄

厳しさを増すエネ情勢 初心に帰り真剣な議論を

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギーを巡る情勢は再び激動の時代に突入しました。国際燃料価格の乱高下を招く地政学リスクへの警戒感が高まる中、資源・燃料の全てを輸入に頼る日本としていかに安定供給を堅持するのか。データセンターや半導体といった様変わりの電力需要の拡大に対応する供給力の維持・確保の在り方も含めて、初心に帰り真剣に議論する時が来ています。本誌は「国民の福祉の増進」という編集方針を些かも変えることなく情報発信していく所存です。

戦後の激動のエネルギー政策につきましては、RITE理事長の山地憲治先生に寄稿いただいておりますのでご一読賜りますようお願い申し上げます。

最後にこうした本誌の70年の歩みは多くの読者の皆さまの支えがあって成し遂げられたものであり、ここに深甚よりお礼申し上げます。

【特集2】激動の歴史をたどった電力政策 戦後80年の変遷を振り返る


高い見地から日本の電力政策議論に深く関わってきた山地憲治氏。その変遷を振り返り、将来の電力の在るべき姿について提言を寄せた。

山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長

エネルギーフォーラムと私の関わりは長い。私が「電力新報」(月刊エネルギーフォーラムの前身)に初めて寄稿したのは1978年8月号で、題目は「核燃料サイクルからみた炉型戦略:シミュレーション分析にみる長期展望」だった。

当時は原子力への期待が極めて大きく、シミュレーションで想定した2000年のわが国の原子力発電規模は7000万~1・5億kW、25年については1億~3・5億kWだった。炉型は軽水炉から高速増殖炉(FBR)への移行が基本で、21世紀はFBRの時代になると想定されていた。当時の炉型戦略の課題は軽水炉からFBRへつなぐ原子炉型の選択で、軽水炉でプルトニウムを使うプルサーマル、国産重水炉(沸騰軽水冷却)ATR、そして天然ウランを燃料とするカナダの重水炉CANDUが候補だった。私の年代の人には懐かしい話だが、結果を見届けた今では夢の痕跡である。

ところで、今年は昭和100年、戦後80年、そして私自身にとっても後期高齢者となる75歳を迎えた区切りの年である。私の誕生年は電気事業にとっては、発電から送配電・販売まで一貫して行う戦後体制が決まった年(発足は翌年5月)である。この機会に電力を中心に戦後80年のエネルギー政策を振り返ってみたい。

高度成長を支えた電気事業 原子力は独自政策で展開

戦後と言っても52年4月に独立するまでの日本は占領下にあり、電力体制整備は占領下で行われた。50年の電気事業再編成令と公益事業令(いずれも国会議決のない占領下におけるポツダム政令)によって、電気事業は地域独占を認められた公益事業となり、発送電と配電を一貫して行う9電力体制が51年に発足した。

その後、曲折はあったが、戦後のわが国の電気事業は軌道に乗り、高度経済成長を支えた。電気料金は原価に適正利潤を加えた規制の下で形成されたので電気事業経営は安定した。原子力発電の導入、大気汚染対策として始まった液化天然ガス(LNG)火力の導入などは、安定した電気事業制度が存在したからこそ可能であったと言える。

70年代には2度にわたって石油危機が発生し、第一次危機の時には石油火力に75%を依存していた電気事業は値上げを余儀なくされた。だが、原子力やLNG、そして輸入石炭によって石油代替を図り電力の安定供給は維持された。その後は、原子力、LNG、石炭が発電の主力を担うようになり、石油火力の比率は急減し、安定供給を担う電源の多様化が実現した。

電力に限らず、高度経済成長が本格的に始まるまでのエネルギー政策は産業政策の一部であった。エネルギー政策を担う審議会(総合エネルギー調査会)が設置されたのは65年である。総合エネルギー調査会(現在の総合資源エネルギー調査会)の起源は、産業構造調査会(現在の産業構造審議会)の下にあった総合エネルギー部会である。第一次石油危機を経てエネルギー政策の重要性は増大し、70年代からは長期エネルギー需給見通しが公表されるようになった。今世紀に入りエネルギー政策基本法が成立すると、エネルギー政策はエネルギー基本計画に集約され、今日に至っている。

なお、原子力については、基盤となる科学技術開発から始める必要があったことと核兵器との関係があったため、独自の政策が進められた。54年に最初の原子力予算が計上され、56年には原子力委員会と科学技術庁が設置された。原子力委員会は、ほぼ5年ごとに原子力開発利用長期計画を策定し、わが国の原子力開発の基本政策を定めた。総合資源エネルギー調査会によるエネルギー政策の策定においても、原子力開発利用長期計画が尊重された。05年には「原子力政策大綱」と名称を変えたが、福島事故発生時まで、基本的にはこの政策決定プロセスは維持された。

温暖化対策と自由化が加速 電力ビジネスモデルが変容

90年代に入ると地球温暖化対策がエネルギー政策の重要課題として浮上してきた。また、分散型電源の意義も強調されるようになり、英国から始まった電力自由化の動きも勢いを増してきた。戦後の電力再編成以来、長く安定していたわが国の電気事業制度にも見直しの機運が高まりつつあった。このような時代の変化に対して、電気事業者は保守的で機動性に欠いていたと言わざるを得ない。少なくとも社会との対話が乏しかったことは確かである。現実には、住宅の太陽電池の余剰電力を家庭料金の水準で買い取るなど、再生可能エネルギー導入推進にも対応していた。だが、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の事故対応や六ヶ所再処理推進など原子力の課題対応に追われ、受け身の対応が目立った。

21世紀に入ると、化石燃料を大量消費する電気事業への風当たりが強まった。一方、11年の福島事故によって原子力推進には急ブレーキがかかり、再エネによる発電に大きな期待が寄せられた。そのため固定価格買い取り制度(FIT)が導入され、今や再エネ発電が電力供給量の22%となり、水力以外の再エネ発電が水力を上回るようになった。太陽光や風力のような自然変動電源を電力系統に統合するために需給調整や電力貯蔵、電力系統整備に多大なコストがかかるようになってきた。

電力システム改革は電気事業のビジネスモデルに大きな変容を要求することになるが、この背景にはエネルギー関連技術の大きなイノベーションがある。太陽光発電や風力発電、燃料電池などは熱の動力への変換を実現した動力革命とは無縁である。熱機関では規模の経済が働くが、太陽光などの分散型電源は小規模・大量生産によって経済競争力を持ち始めている。ならば、需要を束ねて大規模中央発電所から供給する方式で成長してきた電気事業の形態も変わらざるを得ない。

ただし、太陽光や風力のエネルギー源は国産であるものの、需給調整に必要な蓄電池を含む電力設備は輸入に頼る部分が多く、特にリチウムやコバルトなどの重要鉱物は供給国が偏っている。電力の安定供給には、従来のような燃料確保だけではなく、視野を広げて対応する必要がある。

FIT の導入で再エネが急増した

【特集2】長期的視点での主張と問題提起 識見の高い編集姿勢を貫く


内田高史/日本ガス協会会長

このたび、「エネルギーフォーラム」が創刊70周年を迎えられましたことを、心からお祝い申し上げます。

貴誌は、70年の長きにわたり、総合エネルギー専門誌として、わが国のエネルギー産業の在り方について多面的に論じてこられました。長期的展望に立ち主張や問題提起を行う識見の高い編集姿勢を貫き、価値ある情報発信を継続されてきたことにより、今日までのエネルギー産業の健全な発展に多大なる貢献を果たされました。関係者の皆さまのたゆまぬご努力に深く敬意を表したいと存じます。

社会情勢に応じた燃料転換 産業・社会の発展に貢献

この70年を振り返りますと、わが国は社会構造の変革を繰り返し、成長・発展を遂げてきました。われわれ都市ガス業界も、都市ガス需要の急増、深刻化する公害問題、激甚化する自然災害などを背景に、当初原料としていた石炭・石油から熱量が高く大気汚染の少ない天然ガスへの転換という変革を進めてまいりました。

安全で安定した供給体制を構築するとともに、天然ガスの高度利用や省エネに資する技術を磨き商品を開発することを通じて、お客さまの暮らしやわが国の産業・社会の発展に貢献することができたと考えます。

本年2月には、「第7次エネルギー基本計画」が策定され、バランスのとれたS+3Eの実現を基本的視点に据えつつ、40年のNDC(温室効果ガス削減の国別目標)達成と50年のカーボンニュートラル社会実現を目指す方針が示されました。その中で天然ガスは、トランジション期だけではなくカーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー源であり、脱炭素化された電源による電化と合わせて天然ガスへの燃料転換もカーボンニュートラル化の手段として位置づけられ、その重要性はこれまで以上に増すと考えます。

都市ガス業界では、まず足元の対策として、即効性があり確実なCO2削減につながる天然ガスへの燃料転換や高効率ガスシステムの導入促進などによりNDC達成に貢献するとともに、50年に向けては、社会コストを抑えたe―メタンへのシームレスな移行を中心に、多様な道筋でガスのカーボンニュートラル化の実現を目指す取り組みを、業界一丸となって加速してまいります。

貴誌には、こうした都市ガス業界の取り組みを広く社会に伝えていただくとともに、エネルギー産業を取り巻く情勢や課題について多角的に分析し卓越した提言を続けていただくことを期待したいと存じます。

最後に、「エネルギーフォーラム」の創刊70周年を機に、貴社のますますのご発展を心から祈念申し上げ、お祝いといたします。

【特集2】戦後から有益な情報提供に尽力 エネ・環境・経済の発展に貢献


田中惠次/日本LPガス協会会長

このたびは、「エネルギーフォーラム」が70周年を迎えられましたこと、心よりお慶び申し上げます。貴誌は戦後から今日まで70年間の長きにわたり、われわれエネルギー業界関係者に有益な情報提供に尽力されてきました。

創刊時の「電力新報」に始まり、今日では、電力、ガス、石油、石炭、火力、新エネ、デジタル、環境、政策までのエネルギー全般の幅広い分野まで網羅されております。わが国の経済成長とエネルギーの変革とともに進化されており、わが国のエネルギー・環境・経済全般の発展に大きく貢献されましたことに改めて敬意を表します。

過去70年を振り返りますと、高度経済成長期に入り急増する電力需要の中、エネルギーの主役は石炭から石油に交代し、二度の石油危機を経て脱石油に向かいました。その後、原子力、LPガスが普及。次に天然ガスが加わり、地球温暖化と電力自由化を迎えました。2011年には東日本大震災による電力の供給危機、再生可能エネルギーという選択肢が登場。エネルギーの転換期に入り社会構造が変化する中、エネルギー業界は技術の進歩、供給体制の変革などにより、わが国の産業、社会、国民生活向上に大きく寄与してきました。

3つの新政策が閣議決定 化石燃料のCN化進行へ

折しも環境問題でいえば、昨年は世界の平均気温15・1℃と観測史上最も高い1年となり、産業革命前の水準より1・6℃も高くなりました。初めて1・5℃を超過し、温暖化対策の一段の強化を求める声が国際的にも広がりつつあります。

そのような中、わが国は、今年2月に「GX2040ビジョン」と「第7次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。

言い換えると、エネルギーの安定供給を行いながら、エネルギーと産業構造を脱炭素型に転換させ、経済成長を目指すものであります。当協会のLPガスを含めた化石燃料(石油・都市ガス・LPガス)のカーボンニュートラル(CN)化に向けた対応を一段のスピード感を持って進めることが喫緊の課題ともなっております。

エネルギー問題は、わが国内外の政治・経済・外交にも直接関係するものでもあります。こうした中、貴誌の長年の経験と蓄積に裏打ちされたさまざまなエネルギー全般に関する広範な報道は、今後さらにエネルギー業界の発展に欠くべからざるものになると思います。貴社におかれましては、今後とも国内外はもとより、エネルギー政策までも含めた誌面の充実を図られ、エネルギー業界全般の発展にますますご尽力いただきますようお願いして、日本LPガス協会の祝辞とさせていただきます。

【特集2まとめ】おかげさまで本誌創刊70年 松永安左エ門翁生誕150周年、昭和100年、戦後80年


国民の福祉の増進―。この理念の下、1955年5月に前身の「電力新報」が創刊した。

高度成長、公害問題、オイルショック、自由化、東日本大震災、脱炭素化と、戦後から現在までエネルギー産業を巡る課題は大きく変わってきた。

今号は創刊70年を迎えるに当たりエネルギーフォーラムの足跡を振り返ると同時に、

山地憲治・RITE理事長によるエネルギー政策の変遷と将来像についての寄稿、エネルギー業界6団体からのメッセージを掲載する特別編とした。

不偏不党の編集方針を堅持 「国益と福祉の増進」のため報道(志賀正利/エネルギーフォーラム取締役社長)

【寄稿】激動の歴史をたどった電力政策 戦後80年の変遷を振り返る(山地憲治/地球環境産業技術研究機構理事長)

【寄稿】正面からエネ問題に向き合う 国民一人ひとりの理解を醸成(林欣吾/電気事業連合会会長)

【寄稿】知見を基に公平・中立を維持 鋭い視点を合わせた誌面作成を(木藤俊一/石油連盟会長)

【寄稿】長期的視点での主張と問題提起 識見の高い編集姿勢を貫く(内田高史/日本ガス協会会長)

【寄稿】戦後から有益な情報提供に尽力 エネ・環境・経済の発展に貢献(田中惠次/日本LPガス協会会長)

【寄稿】総合専門誌として多角的に分析 今後も一層深い掘り下げに期待(山田耕司/全国LPガス協会会長)

【寄稿】国内外の情勢・動向発信に功績 さらに進化したオピニオン誌へ(森 洋/全国石油業共済協同組合連合会会長)

【特集2】国内外の情勢・動向発信に功績 さらに進化したオピニオン誌へ


森 洋/全国石油業共済協同組合連合会全国石油商業組合連合会会長

創刊70周年を心よりお祝い申し上げます。創刊の1955年は、戦後の復旧・復興からわが国が高度経済成長へと向かう過渡期であり、国民生活や経済活動に不可欠なエネルギーの需要の拡大期に差し掛かる先行き不透明な時期でした。そうした中、月刊電力新報として創刊され、以来70年の長きにわたり、電力・エネルギー業界の発展に向け、国内外のエネルギー情勢や業界動向を取材し情報発信してきた功績は、誠に顕著なものがございます。

当会は53年の創立以来、全国47都道府県の石油組合とともに、石油製品の安定供給という社会的使命を全うするため、石油製品販売業者の健全かつ持続的な発展に取り組んで参りました。50年代の戦後の荒廃した国土の復旧、そして産業経済の復興から、60年代の高度経済成長を支え、70年代の二度にわたるオイルショック、80年代から90年代にかけての規制緩和・自由化という激動の時代を乗り越えてきました。さらに、2000年代に入り、内需の減少・販売競争の激化、2011年3月の東日本大震災など相次ぐ大規模災害の発生、そして19年からの新型コロナウイルス感染拡大の中でも、エッセンシャルワーカーとして石油の安定供給に貢献してきました。

「最後の砦」の役割果たす 新たなビジネスモデル模索

しかし、石油製品販売業者は、少子高齢化の進展や人口減少といった社会構造の変化や50年カーボンニュートラル(CN)に向けた取り組みが進む中、引き続き、平時・災害時を問わずエネルギー供給の最後の砦としての社会的使命を果たさなければならないという、大きな課題に直面しています。一方、50年CNに向けたエネルギーのトランジション期でも、石油の重要性は変わりません。

当会では、石油販売業界の7割を占める小規模事業者の視点に立った組織活動を推進し、地域社会に根差した石油製品の安定供給拠点としてのサービス・ステーション(SS)としての役割に加え、CN時代に対応した事業再構築を図り、多様化する消費者ニーズに対応した多機能化、多角化などを積極的に後押ししていくなど、SSの新たなビジネスモデルの構築に引き続き取り組んでいきます。

エネルギー需給体制がぜい弱なわが国では、政策の要諦である、S+3Eの徹底を図りつつ、石油など化石燃料をはじめ原子力、再生可能エネルギーなどの多様な選択肢の追求が求められるなど、エネルギーを巡る国内外情勢は混沌としています。

今後とも、エネルギーの安定供給とエネルギー業界の発展を支えるオピニオン誌として、さらに進化されることを期待し、当会からのお祝いの言葉とさせていただきます。

【特集2】総合専門誌として多角的に分析 今後も一層深い掘り下げに期待


山田耕司/全国LPガス協会会長

創刊70周年を迎えられたことを心よりお喜び申し上げます。当協会も前身組織の設立から70周年で感慨深く思います。貴誌は日本のエネルギー・環境分野の総合専門誌としてエネルギーに関する最新情報、多角的な視点からの分析を提供し続け、業界の発展に大きく貢献されてきたことに心より敬意を表します。

分散性・可搬性のLPガスは家庭業務用のみならず産業用や自動車燃料用としても利用され、わが国の経済社会の発展と国民生活の向上に極めて重要な役割を果たしています。また、近年は自然災害が多発している中、災害にも強いLPガスの重要性は高まっており、エネルギー基本計画(2025年2月)では、LPガスはエネルギー供給の「最後の砦」と記述され、また、国土強靭化基本計画(23年7月)では、「各家庭や被災時に避難所となる公共施設、学校、災害拠点病院等の重要な施設における自家発電設備の導入、LPガス燃料の備蓄等を促進等する」と明記され、LPガスに対し大きな評価を頂いています。こうした中、当協会では以下の活動を重点的に展開しています。

液石法の省令改正に対応 選ばれるエネルギー目指す

需要拡大については、50年カーボンニュートラルの実現、S+3Eの達成の一環としてCO2削減に有効な高効率機器のエネファーム・エコジョーズ・ハイブリッド給湯器・GHPなどの販売を推進しています。

また、避難所となる公立小中学校の体育館などへ停電時にも稼働可能なLPガスによるGHPエアコン(冷暖房)の普及や公的避難所・医療施設・福祉施設といった防災拠点などに常設・常用を推進しています。

加えて取引の適正化については、国において液石法省令改正が実施され、昨年7月より過大な営業行為の制限と賃貸住宅への入居希望者に対するLPガス料金の事前情報提供制度が施行されました。今年4月には三部料金制の徹底とともに、賃貸住宅の料金には、消費設備料金の計上が禁止されました。こうした変化を踏まえ、取引適正化・料金透明化への取り組みをさらに推進し、選ばれるエネルギーとなるよう目指していきます。

保安に関しては全国目標の年平均で死亡事故1件未満及び人身事故25件未満の達成に向け、自主保安運動「LPガス安心サポート推進運動」を推進し、LPガスを安全・安心に使ってもらえるよう一層努めていきます。

貴誌は、これまでもLPガスに関するさまざまな情報を発信していますが、これからもLPガスの可能性、そしてエネルギーミックスにおける役割について、一層深く掘り下げた情報発信を期待しています。

最後に、貴社の今後ますますのご発展を祈念し、お祝いの言葉とさせていただきます。

【特集2】燃焼と蒸気供給技術を融合 専焼・混焼の両モードを実現


【川重冷熱工業】

業界に先駆けて1970年代から水素を燃料とするボイラーを開発・製造してきた川重冷熱工業は、その知見を生かし、水素焚の貫流ボイラーの開発に注力している。

2021年には、小型貫流ボイラー「WILLHEAT(ウィルヒート)」に水素専燃バーナーを搭載した製品を開発・発売した。同製品は98%の定格ボイラー効率を誇るウィルヒートに、NOx(窒素酸化物)排出量を世界最小に抑えた「ドライ式低NOx水素専焼バーナ」を組み込んだものだ。

従来は、蒸気噴霧や排ガスの再循環などで水素燃焼によるNOx排出量を抑えていたが、これには熱損失を伴う。独自の水素と空気の混合方式を用いるドライ式バーナーで、熱効率を維持したまま低NOxを実現した。

23年12月には、大型貫流ボイラー「Ifrit(イフリート)」に水素専燃・混焼機能を追加。培ってきた各種ボイラーでの水素燃焼技術とイフリートの蒸気供給プロセスを組み合わせた。水素と天然ガスの混焼モードと2つの燃料を個々に燃焼する専燃モードを切り替えることで、「水素専焼」・「水素混焼」・「天然ガス専焼」の3つのモードを実現した。混焼時は水素を熱量比で0~30%まで調整可能。同社は今後も水素関連の技術開発を進め、顧客の需要に応えていく。

ウィルヒート(左)とイフリート

【特集2】日本のグリーン水素製造の評価と実力 規格づくりの議論で世界をリード


【インタビュー】河野龍興(東京大学先端科学技術研究センター教授)

―日本のグリーン水素製造技術の評価は。

河野 前職時代に、2万kWのメガソーラーから水素を製造する福島県浪江町の「FH2R」プロジェクト」の立ち上げに関わっていた。大型化に適しコスト的に優位なアルカリ式の水電解装置を採用し、世界最大規模の電解装置(1万kW)を組み込んで、2020年に世界に先駆けて実証を始めたことは大きな意義があった。その後、FH2Rの水素は東京2020オリンピック・パラリンピックでも活用された。現在、地元のJR浪江駅前では再開発の計画が立ち上がっており、この水素利用を視野にプロジェクトを進めている。

―技術を培う人材の育成も重要だ。

河野 私の研究室には大手電力、重電メーカーや大手商社から多くの若い優秀な人材が学びに来ていて、私自身が35年以上開発してきた水素技術(製造・貯蔵・利用)を教えている。水電解装置は定格運転が基本で、出力が不安定な再生可能エネルギーで水素を製造することは技術的に大変難しい。浪江をはじめとする「水素製造による調整力」は電力系統の調整力としても期待が持てるため、特に電力会社にはこの技術領域を主導してもらいたい。将来的には1万kW級よりさらなる大型化が必要だと考えている。

―日本の技術は優位性を保てるのか。

河野 水電解装置による水素の製造を利用して電力系統を調整するには規格(グリッドコード)がない。現在、ISOで規格づくりの議論を進めており、私も日本の代表として参画している。日本の事例を反映させて世界をリードしたい。