【特集2】 LNG活用が現実的な選択肢 革新技術の実装に向け前進


次世代の燃料市場を見据えて相次ぎ布石を打つ都市ガス大手。環境面の優位性を高めようと技術力に磨きをかける。

カーボンニュートラル(CN)の実現に向けたトランジション(移行期)に突入する中、石炭や石油からLNGに転換する取り組みが広がっている。燃料を切り替えるだけでCO2排出量の削減が進むからだ。燃料転換を促す都市ガス業界は並行して、水素とCO2から都市ガス原料のメタンを合成する技術「メタネーション」の実用化に向けた実証事業も加速しており、移行期を支える業界の存在感が増しそうだ。

多様な強みが再び評価 S+3Eを満たす手段

「カーボンニュートラル社会へのシームレスな転換をけん引したい」。今夏に東京都内で開かれたエネルギー関連の国際展示会「ジャパン・エネルギー・サミット」で、登壇した東京ガスの笹山晋一社長が移行期の戦略に触れ、LNGの高度利用やメタネーションの実用化に力を注ぐ決意を強調した。

東京ガスのメタネーション設備

【特集1】DR対応のパイオニア 九州から他工場へ展開


【東京製鐵】

産業分野において、いち早くDRの取り組みを始めたのが電炉大手の東京製鐵だ。18年に九州工場(福岡県北九州市)で「上げDR」を導入。それ以来、今年春までに累計42日にわたり九州電力からの要請に応じてDRを実施し、計2124万kW時の電力需要を創出した。

九電管内では、17年ごろから再エネの出力抑制が全国に先駆けて社会問題化。電力消費の大きい電気炉のDR資源としてのポテンシャルの高さに目を付けた九電から、再エネ余剰時の昼間に、割安な夜間と同等の料金で電気を供給する条件を持ち掛けられたことが、操業時間を一部調整して上げDRを実施するきっかけとなった。

鉄スクラップを電気炉で溶解する「製鋼」と生成した半製品を都市ガスで加熱して加工する

「圧延」の製造プロセスのうち、DRの対象となるのは製鋼工程だ。トータルの操業時間は事前に決まっているため、上げDRに対応するには、従来の操業パターンから生産時間を調整し、要請に備える必要がある。そこで、昼間の電気料金が適用される午前8時から午後10時までの時間帯を調整の対象とした。

従来の平日の操業パターンでは、午後9時から翌日午前9時ごろまで製鋼を行っていたが、DR実装後は午後10時から午前8時までに短縮。減らした操業時間分はDR要請時にまとめて実施するパターンへと変更した。昼間料金での操業を余剰電力による安価な電力に切り替えることで、電力コストをトータルで削減できている。

エネルギー効率面でも良い効果が出ている。圧延工程では、製鋼後の半製品を約1200℃まで加熱する必要があるため、製鋼から圧延に移る時間が短いほど加熱に必要な都市ガスの使用量が抑えられる。DR対応の操業体制では、製鋼と圧延の同時操業時間(シンクロ率)や製鋼後に熱いまま圧延する割合(ホット率)が約10%向上。都市ガス使用量の減少により、エネルギー効率が改善された。

DR対応分の電力については、今年度から非化石証書を活用して実質CO2フリーとし、同社の長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」で掲げる、CO2排出量の大幅削減に向けた一助にもなっている。

九州工場での成果を受け、他工場への展開も進めている。今年春からは、岡山工場(岡山県倉敷市)で上げDRを実装した。中上正博岡山工場長は「当社で発生するCO2の75%が電力を起因とする。再エネの最大限の活用に協力することで、社会全体のCO2削減に貢献していきたい」と、脱炭素社会を推進する観点からも上げDRは有効である点を強調する。

同社は、現在も取り組んでいる下げDRの実施にも意欲を見せる。DR対応の先駆者の取り組みは、他社が追随すべき好事例となりそうだ。

今年春までに2千万kW時超の需要を創出 提供:東京製鐡

【特集1】システムとしての全体最適化が鍵 規制対象外の企業にも取り組み促す


【インタビュー】木村拓也/資源エネルギー庁省エネルギー課長

―2022年の省エネ法改正後、事業者の省エネ行動にどのような変化がありましたか。

木村 前回の法律改正は、合理化の対象を非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーとすること、非化石エネルギー転換を促すこと、電力需給に合わせ電気の需要を最適化すること―の3本柱で行ったものです。

 22年度は日本全体でエネルギー効率が3・6%改善しました。これは、ロシアによるウクライナ侵略を契機としたエネルギー価格高騰への対応や、法律を含め国内外の要請で脱炭素化を進める一環で、事業者が取り組みを強化したことによるものです。エネルギー安全保障の確保やカーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、事業者による省エネは、また一段ギアを上げていくステージになっています。政府は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債も活用しつつ、省エネ補助金、中小企業向けの省エネ診断などを拡充し支援しています。

―事業者の省エネの余地はどれだけあるのでしょうか。

木村 消費機器の高効率化のためイノベーティブな技術開発を進めることに加えて、データを活用した工程の管理や、事業所、企業間の連携など、システムとしての全体最適を追求していくことが、大胆な省エネの鍵になると考えています。

 また、中小企業では省エネや脱炭素の取り組みを始めた事業者は、まだ数割にとどまっているのが実情です。そこで今年7月、地域で中小企業などの省エネを支援する枠組みとして「省エネ地域パートナーシップ」を立ち上げ、9月に開いた第1回会合には174の金融機関、43の省エネ支援機関などが参加しました。省エネ補助金や省エネ診断などの認知度を高めつつ、省エネ法の規制対象ではない企業も含めて、取り組みを促すことが狙いです。

―非化石転換やデマンドレスポンス(DR)の取り組みについてはいかがですか。

木村 非化石エネルギー転換については、法改正後、中長期の計画の作成や実際の非化石燃料の使用量などについての報告を求めています。CNに向けて事業者の意識は相当変わってきましたが、具体的な非化石転換を将来に向けてどう進めるのか、官民一緒に考えていかなければなりません。

 電気需要の最適化では、今年は事業者に対し需要の上げ下げDRを行った回数の報告を求めますが、来年はそれに変化させた「量」も加わることになっています。非化石転換、電気需要の最適化の取り組みは端緒に就いたばかりです。事業者にこれらを促しつつ、次のアクションをどう起こしていくかが課題であると認識しています。

家庭の非化石化を推進 調整力としての活用も

―具体的にどのようなことが考えられますか。

木村 事業者にとって比較的ハードルの低い非化石転換の手段は、太陽光発電を導入することです。現在、審議会において、工場の屋根に着目し、従来型と比較して軽量なペロブスカイトなど次世代太陽電池の導入も見据え、どれだけ太陽電池を設置する余地があるのか、改めて確認してもらう仕組みを検討しているところです。  

 また、産業分野のみならず家庭の省エネ・非化石転換も大きな課題です。これについては、家庭のエネルギー消費の約3割を占める給湯器について、機器メーカーに対し、給湯器が使う化石エネルギーの量について、自ら目標を立てて達成していただくスキームについて議論しています。

 家庭の給湯器は、沸き上げる時間を電力需給に合わせて変えるDRの潜在性も高く、外部からの指令に応答できるような機能の装備を機器メーカーに行っていただくことで、再エネ出力制御の抑制などに有効に活用できると期待しています。

―省エネというと経済の縮小をイメージしがちです。

木村 日本のエネルギー消費量は省エネ努力により減少を続けてきましたが、22年度は省エネよりも生産活動の影響が大きく出ました。生産活動の縮小によりエネルギー消費の総量を減らすことは、縮小均衡にしかならず、健全な姿ではありません。生産量が増加する場合にエネルギー需要が伸びることはあり、経済活動を活発化させつつ、エネルギー消費効率を高めることによって、需要の伸びを抑制する―ということが省エネ法の趣旨であり、追求すべき経済成長の在り方です。

きむら・たくや 2000年東京大学法学部卒業、通商産業省(現経済産業省)入省。欧州連合日本政府代表部赴任などの後、近年は人事管理政策、通商紛争対応、G7貿易大臣会合などを担当。23年7月から現職。

【特集1】省エネ法体系見直しのインパクト 需要家のエネ消費行動を変革できるか


カーボンニュートラル社会の実現に向け、省エネ法の体系が大きく見直された。それを機に、さまざまな規制、制度に関する検討が始まっている。最新動向をレポートする。

文|門倉千賀子

2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現には、エネルギー供給サイドの脱炭素化のみならず、省エネの深掘りや非化石エネルギー転換といった需要サイドの取り組みが不可欠だとの認識が、国内外で高まっている。

昨年12月にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、30年までに「年間のエネルギー効率改善率を世界平均で2倍にする」ことで合意。今年6月に伊・プーリアで開かれたG7(主要7カ国)の首脳声明では、省エネを「エネルギー転換における第一の燃料(first fuel)であり、クリーンエネルギー移行に不可欠な要素」と位置付けた。

国内に目を向けると、昨年4月に改正省エネ法が施行。石油危機を受け、1979年に化石燃料の消費抑制を目的として制定された同法は、「合理化の対象拡大」「非化石エネへの転換」「電気需要の最適化=デマンドレスポンス(DR)の促進」を三本柱に、電化を強力に推進する法体系に様変わりした。

図1 需要側のCNに向けた取り組みの方向性

【特集1】太陽光を生かし切る経済・社会実現へ 将来は「DR法」への衣替えを


太陽光などの再生可能エネルギーの活用策として期待される「上げDR」。市村健氏は、需要家が積極的に取り組むための環境整備の必要性を訴える。

【インタビュー】市村 健/エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO

―省エネ法の改正をどう評価していますか。

市村 法改正により電力の需要最適化が明記され、需要家はデマンドレスポンス(DR)の取り組みに関する定期報告を求められるようになりました。アグリゲーター事業者にとっては需要家にアピールしやすくなり、DRをさらに加速させる大きな転機になったと言えます。

 とはいえ、需要の上げ下げに関わる簡易なものから一次調整力の供出といった高度なものまで、DRへの取り組み方はさまざまです。一層の推進には、より高度なDRを高く評価する仕組みが求められます。「エネルギー消費原単位年1%以上」の削減分に、太陽光発電を生かす需要最適化分を評価する現行の仕組みは有効ですが、今夏のDR発動頻発で需要家の気持ちが離れつつあることを懸念しています。一層評価する仕組みがあれば、前向きになるのではないでしょうか。

需要家の負担軽減へ 可視化で需要をシフト

―今後、事業者に求められる役割とは。

市村 2026年度に導入予定の排出量取引制度、その後の炭素税の本格導入とうまく組み合わせ、DRを訴求していくことです。需要を最適化するということは、太陽光発電量に合わせて需要を創出するということ。この上げDRによって再エネの出力抑制を低減できれば、電力のCO2排出原単位を下げ排出量削減に寄与し、炭素税が導入されたとしても需要家負担は軽減できます。

 需要家にとって大切なことは、1円でも安い電気の供給を受けることです。ですが、排出量取引や炭素税が制度として導入されるからには、制度対応しつつ料金を下げるための対策を講じるしかありません。そのために第一段階として重要なのが、電気をどれだけ、どのように利用しているのかを可視化し、いつでもどこでも把握できることであり、その結果、CO2排出原単位が低い昼間の時間帯に電力需要を誘導していくことです。

また、現在のDRは、需給ひっ迫時に送配電事業者の要請に基づいて実施されるのが主流です。「エリアで発動回数にばらつきがあり不公平だ」という需要家の声もあります。民民契約に基づく経済DRにシフトさせていくことも、アグリゲーターの役割だと考えています。

―政策への要望はありますか。

市村 省エネはオイルショックを契機に生まれた言葉であり、ある意味で我慢を連想します。DRの本質は太陽光を生かした需要最適化であり、そのために「発電」「需要」「市場価格」の正確な予測を提供するデータ解析領域という新たな雇用も生みます。将来はぜひ、「DR法」へと衣替えし、経済成長を加速させる法体系としていただきたいですね。

いちむら・たけし  1987年慶応大学商学部卒、東京電力入社。米ジョージタウン大学院MBA修了。原子燃料部、総務部マネージャーなどを歴任。15年6月から現職。

【特集1/座談会】実質ゼロに向けた新たな制度スタート 産業や暮らしの在り方は?


省エネ関連2法の改正が来年で一区切りとなる中、いよいよ各分野で対策の加速段階に入る。政府はさまざまな分野で規制強化を図るが、さらにどんな策が有効なのか、専門家が語り合った。

【出席者】

田辺新一/早稲田大学理工学術院創造理工学部建築学科教授

西村 陽/大阪大学大学院工学研究科招聘教授

前 真之/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授

左から田辺氏、西村氏、前氏

―改正省エネ法が施行されて1年が経過しました。改めてどう評価していますか。

田辺 省エネ法はオイルショック後に化石エネルギーの使用合理化を目的に制定されましたが、今回の改正で中身が大きく変わりました。主な変更点は、まず非化石を含む全てのエネルギーが使用合理化の対象になりました。二点目が、非化石転換に関する措置。三点目が、負荷平準化のため夜間電気を使用すべき状況でなくなりつつある中で、需要の最適化に向けた措置です。特に使用合理化の対象拡大のインパクトが大きく、これまで電気の一次エネルギー換算係数が化石燃料基準で1kW時当たり9・76MJでしたが、全電源平均に改め、23年度は8・64となりました。

西村 元来の省エネ法は化石エネの消費量に視点が当たり過ぎ、再生可能エネルギー拡大のディスインセンティブになっていましたが、法改正が企業の意識をプラスに変えました。同時期にエネルギー価格の高騰を経験した需要家が非化石転換の必要性を意識。屋根乗せ太陽光が急拡大し、産業分野ではPPA(電力購入契約)に熱心に取り組み始め、新たなオプションを活用する余地ができました。

 確かに、産業界に対しては良い影響があったかと思います。ただ、エネルギーミックスにある石油換算(㎘)の省エネの値は、これこそ節油の象徴なので、CO2換算など新しい示し方を考えるべきでしょう。

【特集1】省エネ基準引き上げへ正念場 事業者の段階的な挑戦を政策誘導


【インタビュー】佐々木 雅也/国土交通省住宅局参事官付建築環境推進官

―カーボンニュートラル(CN)の要請に応え、建築物の対策をどのように進めますか。

佐々木 政府は、2050年にCNを実現するとともに、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」に基づき30年に温室効果ガス排出量を13年比で46%削減することを目指す中、日本のエネルギー消費量の約3割を占める建築物の省エネ対策が重要となっています。そこで、50 年にストック平均で、建築物の消費エネルギーをゼロに近づけるZEH・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス/ビル)基準の水準の省エネ性能を確保する目標を掲げました。

―当面の重点施策について教えてください。

佐々木 重要なファーストステップが、25年4月施行の改正建築物省エネ法により、住宅やそれ以外の非住宅に関わらず全ての新築建築物に省エネ基準適合を義務付ける動きです。これを弾みに、30年度以降に新築される住宅・建築物の省エネ性能をZEH・ZEB基準の水準に引き上げることを狙っています。

―ZEH・ZEB基準に向けた手応えはいかがですか。

佐々木 22年度時点で新築する建築物の8割以上が省エネ基準に適合し、ZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能への適合率も急伸しています。とりわけ住宅をZEH基準に高める取り組みは、省エネ改修を促す低利融資制度や拡充した住宅トップランナー制度などの高い省エネ性能に誘導する支援策の効果で、30年度への道筋が見えつつあります。

 一方で、非住宅のZEB化に目を移すと大規模事業者が多く、そうした事業者の省エネ努力が鍵を握っています。ESG(環境・社会・企業統治)投資を促す機運の高まりを背景に各事業者は、省エネ性能に優れたものを出していかないと市場やステークホルダー(利害関係者)から評価されないと意識しています。この分野は自然に省エネ性能が上がっていくでしょう。

―事業者にとって省エネ化のハードルは高いと言えます。

佐々木 確かに、事業者が省エネ性能を高めるためには技術力の向上が必要です。そこで、満たすべき省エネ基準を段階的に引き上げる方式を取り入れました。延べ面積2000㎡以上の大規模非住宅(新築)については、17年度に省エネ基準への適用を義務化した後、24年度に基準をワンランク高め、30年度にZEB水準に引き上げるというスケジュールを立てました。踊り場をつくることで、事業者が対応しやすくした形です。

 中規模非住宅(300㎡以上、2000㎡未満)も比較的順調に推移していくでしょう。ただ、300㎡未満の小規模非住宅や住宅が省エネ性能を高めるハードルは非常に高いと言えます。国内の建物件数が約40万件と多い上、その施工に地域の工務店や設計事務所が多く関わっているからです。この壁をクリアできるかどうかが、建築物全体の省エネ水準を底上げするための重要なポイントです。

 ZEBは、断熱性能が高い壁や窓、電力消費の少ないLED照明などの省エネ機器でも減らせない分を、太陽光などの再生可能エネルギーを利用して賄おうという考えで設計・建設されたビルを指します。ところが建築物が高くなればなるほど延べ床面積が増えて消費エネルギーも増える一方、太陽光パネルを設置するスペースが限られています。中高層ビルのZEB化は簡単ではありませんが、事業者には頑張ってほしいです。

使い方の工夫が課題 全段階のCO2削減も重視

―エネルギーマネジメントの役割も重視されています。

佐々木 快適性や建築文化を考慮しながら省エネ性能を追求する必要があります。そこで重要になってくるのが、建築物の使い方を工夫する取り組みです。運用時のエネルギー使用をマネジメントするシステムで効果的に消費量を削減する展開の可能性に注目し、検討を始めたところです。デマンドレスポンス(DR)を進める経産省の省エネ施策と直接連動していませんが、基本的なスタンスは同じです。省エネ市場の開拓が進めば、事業者が高い省エネ基準に挑戦しやすくなるでしょう。

―GX(グリーン・トランスフォーメーション)の観点から注目する政策課題は何ですか 

佐々木 建材の製造や施工から建築物の解体に至る全段階のCO2排出量を削減する「ライフサイクルカーボン」という概念が重要になっています。このうち使用段階の「エネルギー消費」が建築物省エネ法による規制の対象で、省エネ基準への適合義務化により今後CO2削減が見込まれる一方で、残る部分をどう削減していくかが新たな政策課題となるかもしれません。

ささき・まさや 2004年早稲田大学大学院理工学研究科修了。国土交通省入省。住宅総合整備課課長補佐、総理大臣補佐官付秘書官、ユネスコ派遣などを経て、23年7月から現職。

【特集1まとめ】省エネの理想と現実 非化石化の高い壁にどう挑むか


2023年4月に改正省エネ法が施行され1年半が経過した。

50年のカーボンニュートラル社会実現に向け、

合理化対象に従来の化石燃料や化石燃料由来の熱・電気のみならず、

太陽光や風力などの再エネ由来の電気、水素・アンモニアなどを取り込んだものだ。

石油危機以降の「合理化=消費量削減」一辺倒ではなく、

引き続き化石燃料の使用を抑制する一方で、

非化石エネルギー転換とともに、それに合わせた需要の最適化を促す狙いがある。

足元では法改正の実効性を高めるべく、新たな規制や制度の検討も進む。

資源エネルギー庁や学識者の取材を通じて、最新の政策議論をレポートするとともに、産業界の省エネ活動の今を探った。

【アウトライン】 省エネ法体系見直しのインパクト 需要家のエネ消費行動を変革できるか

【インタビュー】太陽光を生かし切る経済・社会実現へ 将来は「DR法」への衣替えを

【レポート】地下に眠るリソース 蓄熱槽で再エネフル活用

【レポート】DR対応のパイオニア 九州から他工場へ展開

【座談会】実質ゼロに向けた新たな制度スタート 産業や暮らしの在り方は?

【インタビュー】システムとしての全体最適化が鍵 規制対象外の企業にも取り組み促す

【インタビュー】省エネ基準引き上げへ正念場 事業者の段階的な挑戦を政策誘導

【特集1】地下に眠るリソース 蓄熱槽で再エネフル活用


【東京電力エナジーパートナー】

「再生可能エネルギーが拡大していく中で、いかに電力需要をシフトさせていくかは電力会社が考えなければならない重要なテーマ。手段が限られる中で、蓄熱槽は非常に有効なツールになると期待している」

こう語るのは、東京電力エナジーパートナー(東電EP)カスタマーテクノロジーイノベーション部DRオペレーショングループの小林淳マネージャーだ。 同社は9月、読売新聞とオフサイトPPA(電力購入契約)を締結。グループ会社の東京発電が群馬・茨城県に太陽光発電所(発電容量計1300kW)を建設し、2025年3月以降順次、読売新聞本社ビルと東京北工場(東京都北区)への電力供給を開始する。

その再エネをフル活用するために構築するのが、本社ビルの地下に備えられた2000tの蓄熱槽をデマンドレスポンス(DR)に活用するスキームだ。空調利用が少ない春や秋の日中など再エネが余剰となる時間帯に熱を貯めることで、年間230万kW時を見込む太陽光の自家消費率100%を目指す。これが達成できれば、両施設で消費する電力の13%を太陽光で賄い、938tものCO2削減につながるという。

同スキームは、アズビルが開発した蓄熱制御アプリケーションと、エナジープールジャパンが提供する発電と需要の予測技術やDR運用ノウハウを組み合わせ、なるべく簡易に蓄熱と放熱の最適な運用を可能にすることが大きな特徴となっている。

読売新聞は、14年に現本社ビルが竣工して以来、10年間で30%の省エネを達成した。今回のスキームの導入により、改正省エネ法が志向する「省エネ+非化石転換+需要最適化」を具現化。さらに、30年に13年比CO2排出量46%削減、50年ネット・ゼロを目指す上での足掛かりとしたい考えだ。

小林マネージャーは、省エネ法の定期報告でDRの対応回数の報告が義務付けられたことに強い手ごたえを感じているという。改正前までは、DRの報酬目的、あるいは需給ひっ迫警報の発令時など緊急時であればDRに協力しても良いというスタンスがほとんどだったが、最近ではより積極的なDRへの参加を希望する事業者が増えてきたからだ。より大きな需要をシフトし需給の最適化を図るべく、今後もDRリソースの掘り起こしに注力していく。

PPAと蓄熱槽を活用したDRのスキームを構築する

【特集1まとめ】原子力「主力化」のリアル DX・GX時代を担う基幹エネへ


脱炭素化、エネルギー安全保障の強化、自給率の向上、安定供給の確保……。

あらゆる観点から世界中で脚光を浴びている原子力発電。

わが国でも本格的なデジタル社会の到来を目前に、電力需要の急増が話題だ。

現行のエネルギー基本計画では依存度を「可能な限り低減」としているが、

岸田文雄政権下では「最大限活用」へと大きくかじを切った。

「原子力主力電源化」が徐々に現実味を帯びてきた格好だ。

再稼働の加速や新増設の実現に向けて乗り越えるべき課題をあぶり出し、

国益に資する原子力政策の在り方を探る─。

【アウトライン】各国が主力電源化の利点を再認識 世界で復権する原子力の現在地

【寄稿】原子力「最大限活用」へのヒント 国民理解と規制の抜本改革を

【インタビュー】第6次の愚を繰り返さず実質議論へ 原子力活用の国家意思明記を

【座談会】エネ基で重要性の明記が不可欠 原子力主力化は国益の源

【特集2】多彩な企業と連携し流通網の構築へ LPガスの輸入基地活用を模索


【三菱商事】

化学品や肥料用途向けのアンモニア・トレーディングに1960年代後半から関わる三菱商事。インドネシアでは年産70万tのプラントを持つ企業に出資するなど、生産から利用にいたる知見を重ねている。そうした中、同社はアンモニアをエネルギー燃料として新たなサプライチェーンを構築しようと動き出している。上流では、米ルイジアナ州レイクチャールズで出光興産や、メタノール製造の世界大手、スイス・プロマン社と組みながら、2030年までに年間約120万tのアンモニア生産プロジェクトを検討。このプロジェクトでは、関西電力と三菱重工業が共同開発したCO2回収の国産技術などを採用し、CCSを行いながらクリーンアンモニアをつくる構想だ。

既存インフラの活用を視野 自動車メーカーとも協力

輸送先は当然、国内向けを視野に入れる。その際、鍵を握るのが国内供給インフラの整備と利用先の確保だ。「供給インフラ面では、当社が愛媛県で保有するLPガス輸入基地、波方ターミナルの既存設備の存在がポイント」(次世代エネルギー本部の村尾亮一・次世代発電燃料事業部長)。LPガスとアンモニアは物性としての組成が似ており、既存インフラとこれまでの運用ノウハウを生かすことで、早く安全にアンモニア転用できるからだ。そうした利点を踏まえ、波方拠点の整備を進める。

さらに上流で協業する出光興産とは、出光が推進する周南コンビナートアンモニア供給拠点事業との連携も視野に、アンモニア普及の協業を構想している。

波方拠点を経由する利用先としては、四国電力と検討し石炭火力向け燃料利用を模索する。また、広島県の自動車メーカー、マツダとも協力する。地元工場で稼働している大型コージェネの燃料をアンモニアへの完全転換を模索する。もともと同社とマツダとは、工場向けエネルギー供給の事業会社を共同出資して立ち上げた経緯がある。そんな関係を生かしながら、アンモニア利用の新しいスキーム構築に奔走している。

ハブとして期待される波方ターミナル

【特集2】米国での低炭素事業を主導 化石資源で磨いた手腕を発揮


【INPEX】

米国テキサス州・ヒューストン港で、低炭素アンモニア事業の本格展開に向け動き出しているのがINPEXだ。

エア・リキード(AL)、LSBインダストリーズ、VMHの計4社でコンソーシアムを組成。天然ガスを原料に水素を製造し、2027年までに年間110万tのアンモニアを商業生産する計画だ。ALの空気分離装置やCO2回収技術を組み合わせながら効率的に水素やアンモニア転換を図り、CO2を地中に埋める。

さらに、VMHが運用している既存のアンモニアターミナルを活用し、LSBの製造ノウハウと販売網を生かす。4社は、すでに事業化調査を終えており、概念設計も間もなく完了する。

同社水素・CCUS事業開発本部事業推進ユニットの神谷剛人ジェネラルマネージャーは、「水素とアンモニアの事業会社をそれぞれ設立する予定で、いずれにも当社が主導的な役割を担う。海外における低炭素事業で日本企業が製造から販売まで主導するユニークな取り組みになる。販売先は、アジアを中心としてエネルギー用途を想定しており、欧州も視野に入れている」と説明する。

国内で初めての一貫実証 ベンチャーの新技術を駆使

同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)やエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の協力を得ながら、米国の「ミニチュア版」ともいえる取り組みを国内でも実証事業として行っている。

新潟県柏崎市の自社ガス田を生かして、天然ガスから水素をつくる。その際に出るCO2をEGR(排ガス再循環)としてガス田に注入し、CCUSを行いながら天然ガス生産を促進する。その天然ガスから年間700tの水素を製造し、うち100tをアンモニアに変換する。水素は水素エンジンを通して発電する計画で、規模は小さいが、生産から利用までの「一貫実証」は日本で初めての取り組みとなるという。

この工程で注目すべきことがある。それは新しい技術を使ってアンモニアを生産することだ。ベンチャー企業、つばめBHB社が生み出した新触媒を用いることで、低温低圧での生産が可能になる。「従来のハーバー・ボッシュ法とは異なる手法で、小規模でも効率的な生産が可能になる。新しい製造手法を用いることで国内の技術革新にもつなげていきたい」(同)

25年から生産を始める計画で、実証後はその成果を活用し新潟県内で既存のインフラを活用したブルー水素製造プラントを建設し、30年までに商業化を目指している。

これまで中東やオーストラリアを中心に、石油やLNGの生産・販売をコア事業としてきた同社にとって、「アンモニア」は未知の領域だ。エネルギー利用を目指すなら安定生産と安定供給が至上命題。これまで化石資源で培ってきた知見を生かしながら、アンモニアの安定的なハンドリングに向けて、同社の腕が試される。

柏崎市では国内初の実証が行われる

【特集2/対談】高まる次世代燃料の導入機運 活用促進に不可欠な多様な視点


水素・アンモニアの事業拡大を促す動きが熱を帯び始めた。有識者2人が語り合い、社会に根付かせる方策を探った。

出席者

橘川武郎/国際大学学長(左)

村木 茂/クリーン燃料アンモニア協会会長

橘川 GX(グリーントランスフォーメーション)の基本方針に沿って、今年5月に水素社会推進法とCCS事業法が成立し、制度が着々と整ってきています。そうした中、水産・アンモニア拠点の整備支援の公募が始まり、10件が一次審査を通過しました。一見するとアンモニアと水素がほぼ半々ですが、値差補填の比率を見ると、アンモニアが高くなっていて、そこに若干、e―メタノールが入ってくる流れになっているのが現状です。

村木 グローバルでの水素利用はヨーロッパ、アメリカが中心で、基本的にはグリッドに供給できない域内の再生可能エネルギーの余剰分を水素に転換してパイプラインに入れています。一方、アジアはパイプライン網がなく、再エネと水素需要が結びつきにくい。日本、韓国、シンガポールではアンモニアを輸入して直接利用、もしくはアンモニアをクラッキングして水素供給する動きが出てきています。また、日本と韓国は、石炭火力発電所の燃料転換から始まり、石炭火力のないシンガポールではアンモニアガスタービンを入れる準備が進んでいます。

橘川 水素やアンモニアといった次世代燃料の普及は、オフテイカー(引き取り手)次第ということが明確になってきました。オフテイカーは石炭火力発電所、船、飛行機の3種類です。この中で、都市ガス会社がオフテイカーとなるe―メタンは、都市ガスとして使う場合、熱量を45MJから40MJに下げる必要があります。徐々に下げると多くのコストがかかるので、一気に下げる点が課題です。

村木 旧一般電気事業者、IPP事業者で具体的な動きがあるのは、今回の長期脱炭素電源オークションにおいて、アンモニアへの燃料転換に手を挙げているのが、北海道電力の苫東厚真、コベルコパワー神戸の2基。それからJERAの碧南火力の2基です。中でも、碧南火力の大規模実証の成功は、大きなインパクトでした。

アンモニア転換実証を行った碧南火力発電所

橘川 今でも世界の30%以上の電源が石炭で、天然ガスの約1・5倍あります。碧南火力は、新興国がカーボンニュートラル(CN)化を実現できるモデルになりますね。

インフラ投資は最小限に 戦略的なゼロエミ化が必要

村木 東南アジアでは、稼働年数の少ない石炭火力が多く、地域の雇用にも重要な役割を果たしているので簡単にはやめられません。一方で、天然ガス火力に切り替えると、インフラ整備にコストがかかる上に、水素インフラも作らなければゼロエミッションにはなりません。そこで、われわれは一回のインフラ投資でゼロエミッションが達成できるよう、石炭火力でのアンモニア導入からアンモニアガスタービンによるゼロエミッション化を提案しています。

橘川 アンモニアの世界において、日本は世界のボスになれそうですね。あと、CCS(CO2回収・貯留技術)でのアンモニア利用も考えられます。村木さんにご案内いただいたアメリカのアンモニア工場では、CCSが行われていました。

村木 アメリカのテキサス州、ルイジアナ州では、天然ガスが産出され、アンモニア工場が立地していて、CCSのフィールドもある。近くにインフラが集中しています。日本は、CO2の発生源とCCSを実施するフィールドが離れているケースが多く、インフラ形成を含めたコストが課題です。。

橘川 そうした中、苫小牧では出光興産の製油所の敷地からCO2を海底に直接入れています。このような好条件は、世界中を見てもなかなかありません。

村木 アンモニアの輸入インフラ形成に関して、周南では出光がLPGタンクをアンモニア用に切り替えて利用する計画です。アンモニアの液温度はマイナス33℃と、LPGと同じ温度帯なのでタンクの転用が可能です。三菱商事は波方LPGターミナルでも同様の計画を進めています。JERAは碧南で大型タンクを新設する計画で、日本のLNGタンクに多く採用されているプレストレストコンクリート(PC)で外側を巻き、液漏れのリスクのないタンクを建設する計画です。

【特集2】競争力のある供給網で地域貢献 LNG基地の運営経験生かす


【JAPEX】

エネルギー安定供給という使命の下で、石油や天然ガスの探鉱・開発・生産の技術を長年にわたり培ってきた石油資源開発(JAPEX)。そんな同社が挑戦する舞台が広がっている。一つがカーボンニュートラル社会の実現を後押しする取り組みで、アンモニアのサプライチェーン(供給網)づくりに積極的に関与している。

化学や機械の関連企業が集積する福島県相馬地区。太平洋に面する同地区は港湾機能にも恵まれている。その地でJAPEXは三菱ガス化学、IHI、三井物産、商船三井と連携し、アンモニア供給拠点の構築に向けた共同検討に乗り出した。資源エネルギー庁が実施する「非化石エネルギー等導入促進対策費補助金(水素等供給基盤整備事業)」の公募に参加し、5月に採択された。

共同検討では、海外から輸入した低炭素燃料の「クリーンアンモニア」を相馬地区の拠点に受け入れて貯蔵し供給するための調査を進めるとともに、需要調査にも取り組む計画だ。

アンモンニアを発電用燃料として生かす可能性を探るとともに、化学品原料などの工業用途も想定。こうした取り組みで関東以北の広域圏に「脱炭素の輪」を広げることで、地域経済を活性化する一助を担いたい考えだ。水素社会の本格到来も見据え、アンモニアを「水素を運ぶ手段」として生かす可能性を探索することにも意欲を示している。

30年視野に脱炭素に貢献 長期的な視点で需要を開拓

日本政府は、2030年までに燃料としてのアンモニアを年間300万t導入する目標を掲げている。JAPEX国内カーボンニュートラル事業本部事業一部の山之内芳徳部長は、政府目標の達成に貢献するため、「アンモニアを長期で使ってもらえるよう需要を開拓し、競争力のある価格で届けられるアンモニア供給基地を実現したい」と強調。LNG基地などの輸送・供給インフラを地域密着で運営してきた実績も生かし、30年の操業開始を目指す。

JAPEXは、海外市場での事業展開も狙っている。その一例としてカナダのアルバータ州で、同州政府の投資誘致機関Invest Alberta Corporation(IAC)と協業する覚書を締結。IACの協力を得て、発電や工場などから排出されるCO2を回収・貯留(CCS)して有効利用する技術「CCUS」や、バイオマス発電とCCSを組み合わせた「BECCS」、化石燃料由来の低炭素燃料「ブルー水素・アンモニア」の事業創出を目指す。

21年には、カーボンニュートラル社会の実現という政府の宣言を踏まえ、総合エネルギー企業としての方向性を示す「JAPEX2050」を策定。カーボンニュートラル社会づくりで果たす責務と注力分野を明確に示した。

CCSとCCUSの早期事業化を目指すことに加えて、ブルー水素など周辺分野への参入を視野に入れる方針も盛り込んだ。JAPEXの展開から今後とも目が離せない。

取材に応じたJAPEXの山之内部長

【特集2】CNへ必須のエネルギー利用 サプライチェーン構築を支援


国内外の各地で新燃料の供給・活用体制づくりが加速している。政府としての対応を、廣田大輔水素・アンモニア課長に聞いた。

【インタビュー】廣田大輔/資源エネルギー庁 水素・アンモニア課長

ひろた・だいすけ 2005年東京大学大学院電気工学修士を修了、経済産業省入省。原子力・石油ガス政策、新型コロナ下の予算編成・税制改正やGX政策などを担当。24年7月から現職。

─アンモニアや水素など新燃料への取り組みの現状をどう見ていますか。

廣田 カーボンニュートラル(CN)社会を実現する上で、水素やアンモニアを燃料として活用していくことは非常に重要な取り組みです。発電燃料としてはもちろん、輸送や工場のボイラーの熱源といった電化できない工業プロセスの脱炭素化に向け鍵となる燃料であり、既にさまざまな業種の企業がコンソーシアムを組みながら取り組みを始めています。

─エネルギー利用に向けての課題は。

廣田 燃料として活用するためには、水素にせよアンモニアにせよ、膨大な量を必要とします。現段階でそれを賄えるような大規模な製造・生産の事業例はなく、世界中で燃料のスケールに合った技術やシステムの確立を目指し開発が進められています。技術面に加えて、プロジェクトに対し、きちんとファイナンスが付くかどうかも大きな課題です。ファイナンスが付くためには、製造した水素・アンモニアを安定的に買い取る需要家の存在が欠かせません。燃料規模のプロジェクトを立ち上げるには、技術とファイナンスの二つの課題をうまくクリアしていく必要があります。

─そうした課題に対する政府の支援策とは。

廣田 今年5月に水素社会推進法が成立し、施行に向け準備を進めています。この中に、化石燃料との価格差に着目した支援が盛り込まれています。支援期間は15年ですが、その後も10年間供給を継続する計25年間の事業計画を立ててもらうことで、長期的なプロジェクトを成立しやすくする狙いです。また、海外から燃料を受け入れる拠点整備に対しても支援を行います。詳細な制度設計はこれからですが、燃料の供給、拠点整備の双方を支援することで、16年目から経済的に自立可能なサプライチェーンの構築を目指します。

─企業に対しては何を期待しますか。

廣田 今後、CNの実現を目指していくわけですが、同時に、企業は新しいビジネス機会を捉えて成長につなげるという視点を持たなければなりません。CNにより、足元のコストが増える側面はありますが、いかにコストを抑制するかだけではなく、新たな市場に向け、稼げる製品と稼げるサプライチェーンを作ることを両輪で考えていかなければ、取り組みは持続しません。増えるコストは、新しい成長市場に進出するための「投資」であるという考えを持ち、トランスフォ―メーション(X)に挑戦していただきたいと思います。政府としても、Xに挑戦する企業に対しては、思い切った支援を行っていきます。

ひろた・だいすけ 2005年東京大学大学院電気工学修士を修了、経済産業省入省。原子力・石油ガス政策、新型コロナ下の予算編成・税制改正やGX政策などを担当。24年7月から現職。