【特集2】既存エンジンを応用して開発 500kW級専焼エンジンの実証開始


【三菱重工エンジン&ターボチャージャ】

国内有数の内陸型工業都市として栄えてきた相模原市で、各種エンジンの製品開発に取り組んできたのが三菱重工エンジン&ターボチャージャだ。三菱重工グループとしてCO2排出ゼロを掲げ、現在はディーゼルやガスエンジンを母体とした水素エンジンの製品化に乗り出している。

具体的には、昨年5月に6気筒の500kWクラス水素専燃エンジンの実証設備および供給設備を相模原工場内に設置し、実証試験を開始した。水素は、可燃範囲が広く燃焼性が高いという特性があるため、逆火やノッキングなどの異常燃焼が発生しやすい。一連の実証試験を通じて、これらの特徴を考慮しながらエンジンの燃焼安定性などを検証する。製品化は、2026年度以降になる見込みだ。

需要家の多様なニーズに応えるべく、混焼にも力を入れている。21年8月には、東邦ガスと共同で、コージェネ用の45

0kW級ガスエンジンを用いた試験運転を実施。体積比で35%の混焼に成功した。さらに23年11月には、5.75MW(1MW=1000kW)ガスエンジンの単筒試験機での実証を行い、混焼率50%(体積比)までの安定燃焼を確認した。同社は専燃と混焼のどちらの要望にも応えるべく、これからも製品開発を強化していく構えだ。

500kWクラス水素専燃エンジン

【特集2】東京五輪のレガシーを受け継ぐ 選手村跡地で先駆的なエネ事業


【東京ガス】

東京五輪・パラリンピックのレガシーを受け継ぐエネルギー事業が始まった。東京ガス100%子会社の晴海エコエネルギーは、昨春から選手村跡地の大規模複合街区「HARUMI FLAG」で、導管(PL)による水素供給を開始した。実証事例は、北九州市などであるが、民生向け事業では国内初だ。近隣の水素ステーション(ST)で製造し、低圧用に0・1MPaまで減圧した水素を供給する。

PLの総延長は約1㎞に及び、水素流量は1時間当たり150㎡ほど。4カ所の住居街区と1カ所の商業街区に供給し、屋外にある純水素型燃料電池を稼働させている。住居街区にはパナソニック製の5kWタイプ燃料電池を計24台、商業街区には東芝製の100kWタイプを1台設置。電気は共用部の照明など、熱は足湯向けなどだ。STでは高圧ガス保安法、水素の街区供給にはガス事業法、発電を伴う燃料電池の使用には電気事業法と、三つの法令に対応している。

中高圧対応の導管を敷設 付臭剤でガス漏れを検知

保安面では、二重三重の対策を施した。カスタマー&ビジネスソリューションカンパニーの清田修企画部エネルギー公共グループマネージャーは「未経験の取り組みだったが、都市ガス事業のノウハウを最大限に活用した」と話す。

PLの施工では、従来、0・1MPa未満の低圧供給に用いるPE管ではなく、中圧・高圧供給に対応した鉄管溶接仕様の導管を採用した。外部からの強い力で変形してもひび割れや破損しない耐久性があり、阪神・淡路大震災の強い揺れにも耐え抜いた実績がある。PLを埋め戻す作業では、上部に防護鉄板を敷設した。もし、工事などでショベルカーが触れても傷つかない仕様になっている。また、水素には付臭剤を添加して、微量漏えいでも発見できる。

マンション群のうち分譲の約4000戸にはエネファームが設置され、水素キャリアの活用も見据えた「水素Ready」の体制も構築済みだ。安全やコストを含めて水素の民間利用を広げる上で、今後の街の行く末に関係者は熱い視線を注ぐ。

水素の供給を受ける晴海地区

【特集2】クリーンエネ市場の開拓へ先手 広がりを見せる日本勢の挑戦


日本企業は水素のサプライチェーンに必要な要素技術を磨き上げてきた。政府は各社で培った強みを生かし、需要創出とコスト低減を促す構えだ。

次世代クリーンエネルギーの水素を巡る官民の挑戦の舞台が広がっている。技術開発や実証試験にとどまらず、商用化を見据えた取り組みも熱を帯び始めた。コスト低減と需要開拓を両輪に水素社会への道筋を切り開くことができるか。日本勢の力量が試されようとしている。

トライアル取引が始動 供給者は山梨県の企業に

製造時にCO2を排出しない再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」の利用拡大に向けた新たな取り組みが、2月に動き出した。東京都が日本取引所グループ傘下の東京商品取引所と共同で行う「グリーン水素トライアル取引」で、1月24日に都内で記念セレモニーを開催。出席した小池百合子知事は「水素取引所を立ち上げることで、売買が活発に行われ、身近で活用される社会を実現していきたい」と力を込めた。

セレモニーに参加した小池知事ら関係者 提供:東京都

取引には、グリーン水素の供給者が入札で販売し、利用者が入札で購入する方式を採用。最も低い販売価格と最も高い購入価格でそれぞれ落札され、その差分を都が支援する。今回の入札では、山梨県が50%出資するやまなしハイドロジェンカンパニー(甲府市)が供給者として落札。同県産のグリーン水素を供給することになった。

既に同県北杜市では、サントリーホールディングスや東レ、東京電力ホールディングスなどが国内最大規模となるグリーン水素製造施設の建設を進めており、今年中の稼働を予定。要となる設備は、再エネ由来の電力で水を電気分解し水素を作る「やまなしモデルP2Gシステム」。そこで取り出した水素をパイプライン経由で、サントリーの天然水工場などへ供給する。

各地で水素のサプライチェーン構築に向けた計画が動き出す中、政府は2023年に「水素基本戦略」を6年ぶりに改定。水素の導入量を40年までに年間1200万tに拡大する目標を掲げた。24年10月には、水素の社会実装を促す「水素社会推進法」が施行。2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画でも同法に触れ、既存燃料との価格差に着目した支援を講じて「将来の産業競争力につながる黎明期のユースケース作りをしたたかに進める」と明示した。

ただ、水素の普及に向けたコストの壁は高く、海外の一部地域で建設・人件費の上昇や物価の高騰を理由に計画を見直す動きが表面化している状況だ。

それでもEU(欧州連合)や英独などの25カ国・地域以上が野心的な水素戦略を表明し、その旗を降ろしていない。多様な資源で作れる水素の用途は幅広く、市場が広がる可能性を秘めているからだ。国際エネルギー機関(IEA)によると、50年のカーボンニュートラル実現に向けて世界の水素需要量は22年の約5倍に拡大する見通し。単位量当たりの水素を作る際に排出されるCO2の量「炭素集約度」を数値化し環境負荷を評価する動きも、市場拡大の追い風になりそうだ。

主な水素製造手法の例 出典:資源エネルギー庁

それだけに日本は、得意技術を生かさない手はない。水素基本戦略では、30年に日本企業が生産する水電解装置を国内外で15GW程度導入する目標を掲げるとともに、特許出願で先行する燃料電池などを生かす方針も盛り込んだ。資源エネルギー庁水素・アンモニア課の担当者は「日本企業は『水素を貯める・運ぶ・使う』という各段階で、世界に先駆けて要素技術を磨いてきた。そこで蓄積してきた知見や経験を生かせば、世界の脱炭素化に貢献しながら日本の産業競争力の強化にもつなげられる」と強調する。

本特集では、水素社会づくりに挑む官民の最新動向を追う。

【特集2】既存技術の利点を集めた製造装置 再エネの出力変動への追従が可能


【三國機械工業】

三國機械工業(東京都墨田区)は、工場やプラントで使用するための産業機械を販売するエンジニアリング商社。現在、同社が水素製造向けに扱うのがAEM(アニオン交換膜)方式水電解装置だ。独Enapter社が2017年に販売を開始したもので、日本では新技術として紹介されているが、すでに世界52カ国、約5000台の導入実績がある。三田逸郎プラント営業部長はその特徴について「AEM水電解方式はアルカリ水電解方式とPEM(固体高分子膜)水電解方式の利点を兼ね備えている。アルカリ水電解方式の弱点である生成水素の純度や再生可能エネルギーの負荷変動に対応する応答性、負荷・間欠運転の制限を克服しながら、PEM水電解方式のようにプラチナやイリジウムといった希少金属触媒を使用しない」と説明する。

希少金属なしで低コスト化 弱点克服する技術を採用

同装置は、99・999%の高純度の水素を3・5MPaGの高圧で生成する。電極反応はアルカリ水電解方式と同じだが、アルカリ水電解では水酸化カリウム(KOH)を約30%含有した水溶液を使うため腐食性が高い。これに対し、AEM水電解方式は約1%の薄い水溶液を利用するため、そうした心配が少ない。また、PEM水電解方式と同じ膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)構造で、高速応答性や広い運転範囲、間欠運転を許容するなどの特性を持ち、再生エネの出力変動にも追従する。

PEM水電解方式の製造プロセスはProton(H)をキャリアとするため酸性環境となり、電極触媒やガス拡散層に希少金属を使う必要がある。これに対してAEM水電解方式は水酸化イオン(OH)をキャリアとした弱アルカリ環境のため貴金属を使う必要がなく、低コストで装置ができる。また陰極から排出される水量が少なく、水の回収プロセスが不要なためシステムを簡素化できる。

Enapter社の装置はAEMスタックを必要な製造規模に合わせて拡張する仕組みを採用している。このため、スタック単体の能力は小さく、2・4kWの電力で毎時0・5N㎥の水素が生成できる。同社ではスタックを一つ載せたシングルコアと複数搭載したマルチコアの二つのモジュールを用意しており、使用環境の規模に応じた装置を構成することが可能。MWクラスで毎時210N㎥以上の大規模水素生成も実現できる。

さらに、一つのスタックに不具合が生じても稼働を継続できるのも大きな強みだ。導入する工場の製造ラインを止める必要がなく、修理・交換は必要な箇所のみ実施して対応可能だ。

カーボンニュートラル実現に向けては、水素製造においても再エネの利用は避けて通れない。しかもコスト低減が求められる。そうした状況に既存技術の良いとこ取りのAEM水電解方式は、今後国内で大きな関心を集めていきそうだ。

MWクラス装置「AEM Nexus 1000」

【特集2】CNニーズに応える事業を拡大 供給基盤構築と需要創出を推進


【東邦ガス】

製造業が盛んな東海地域では、カーボンニュートラル(CN)への対応を検討する企業が増えている。同地域のエネルギー事業をけん引する東邦ガスの元には、そうした企業からの相談が数多く寄せられる。同社はこうした要望に応えるべく、都市ガスへの燃料転換、CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)やe―メタンなどの技術開発を着々と進めてきた。需要家の低・脱炭素化に資する取り組みを継続しつつ、近年、同社が注力しているのが水素供給基盤の構築だ。

水素製造プラントを新設 幅広い水素需要に対応

同社は、その一環として知多緑浜工場(愛知県知多市)の「水素供給拠点化」を進めている。同工場敷地内に水素製造プラントを建設し、昨年6月に運転を開始した。これまでも、オンサイト型水素ステーションなどを通じて水素の製造・供給を行っており、同プラントの建設を足掛かりに、早期に水素サプライヤーとしての地位を確立する狙いだ。

知多緑浜工場に新設された水素プラント

カーボンニュートラル開発部カーボンニュートラル開発第二グループの青山高幸課長は「天然ガスと水蒸気を反応させて水素を製造する。製造能力は1日当たり1・7tで、これは燃料電池車(FCⅤ)約340台分に相当。FCⅤのほか、熱分野での代替エネルギーや工業用原料としての活用が可能で、幅広い水素需要に対応できる」と同プラントの意義を語った。

水素製造時に発生するCO2は、顧客のニーズに応じて当面はクレジットの活用で相殺しつつ、将来的にはCO2の回収・利用も検討する。具体的な例の一つとして大成建設、アイシンと共同で、コンクリートにCO2を固定化するプロジェクトを推進中だ。

さらに、水素供給をはじめとしたあらゆる産業ガスの供給に強みを持つ大陽日酸とアライアンスを構築。これにより、年に1度行われるプラントの点検期間の際にも滞りなく供給できるほか、有事の際にはバックアップ供給を受けることが可能となった。

同工場の敷地内には拡充用のスペースを確保しており、水素製造工程におけるCO2の回収・利用や、需要拡大に応じて製造能力の増強を検討する。

【特集2】製造装置の信頼性が顧客に好評 e‐メタン利用も武器に市場開拓


【大阪ガス】

水素は次世代エネルギーとして期待が高まる一方で、産業用ガスとして利用する歴史が長い。同用途向けに大阪ガスが2003年度に発表したのがコンパクト水素製造装置「HYSERVE」シリーズだ。エンジニアリング部の池田耕一郎課長は「プラント型の大型設備と比較して価格とスペース設置を従来の半分にしながら、運用面ではボタン一つで起動・停止が可能、遠隔監視による無人運転もできる製品に仕上げた」と話す。

低コストと省スペースの実現に寄与したのが独自の触媒などの技術だ。水素製造では、まず、13A都市ガスやLPガスから付臭剤を除去。これには「超高次脱硫剤」を使用する。ガスの改質工程では、「水蒸気改質触媒」でH2を主成分とする合成ガスに改質する。さらに、この合成ガス中のCOをH2に転化。同工程に「CO変成触媒」を用いる。最後に、水素PSA工程で不純ガスを除去し高純度のH2だけを送出するなど、各工程で貢献する。

23年9月には、同シリーズで最大能力を持つ「HYSERVE―300X」を発売。従来機を改良し、さらなるコストダウンと設置面積縮小を図った。水素製造では300N㎥時の能力を維持しながら、原料から水素を生み出す改質効率は最高レベルを実現。99・999%の高純度で水素を製造する。装置の縮小化では、製造フローを見直し、構成機器の削減を図りコストを低減しつつ、従来機より設置面積を約40%縮小した。

ものづくりの現場で採用 ライセンスで海外にも展開

国内で同装置を導入するのは、ものづくり分野の顧客がメインだ。累計で約40台販売実績がある。産業用ガス向けに販売やエンジニアリングを手掛ける大阪ガスリキッド水素ソリューション部の杉田雅紀部長は「当社の安心手間いらずのサービスが、製品の製造工程で水素供給を止められない、24時間連続で使用する企業など、高い信頼性を求めるお客さまに支持されている。水素ステーション(ST)用途でも導入実績がある」と語る。

海外にも展開中だ。韓国ヒュンダイモーターグループに同装置の韓国国内での製造と日本以外への販売に関するライセンス供与を行っており、韓国はもとよりアジア圏もターゲットにしている。Daigasガスアンドパワーソリューション海外営業チームの徳田氏忠士マネジャーは「韓国で燃料電池車(FCV)は約2万台販売され、FCバスも定期運行する。水素ST向けの同装置の稼働率は日本国内の装置と比較にならないレベルで高い」と話す。また、アジアでは台湾などがカーボンニュートラルに向けて水素利用の検討を進めており、同装置の導入も候補に上がっている。

同装置は、都市ガスやプロパンのほか、バイオガス由来のメタンガスやe―メタンを使用することもできる。クリーンな水素製造が可能だ。今後、活躍の場をさらに広げていく。

コスト低減と設置面積縮小を図った

【特集2】日本のグリーン水素製造の評価と実力 規格づくりの議論で世界をリード


【インタビュー】河野龍興(東京大学先端科学技術研究センター教授)

―日本のグリーン水素製造技術の評価は。

河野 前職時代に、2万kWのメガソーラーから水素を製造する福島県浪江町の「FH2R」プロジェクト」の立ち上げに関わっていた。大型化に適しコスト的に優位なアルカリ式の水電解装置を採用し、世界最大規模の電解装置(1万kW)を組み込んで、2020年に世界に先駆けて実証を始めたことは大きな意義があった。その後、FH2Rの水素は東京2020オリンピック・パラリンピックでも活用された。現在、地元のJR浪江駅前では再開発の計画が立ち上がっており、この水素利用を視野にプロジェクトを進めている。

―技術を培う人材の育成も重要だ。

河野 私の研究室には大手電力、重電メーカーや大手商社から多くの若い優秀な人材が学びに来ていて、私自身が35年以上開発してきた水素技術(製造・貯蔵・利用)を教えている。水電解装置は定格運転が基本で、出力が不安定な再生可能エネルギーで水素を製造することは技術的に大変難しい。浪江をはじめとする「水素製造による調整力」は電力系統の調整力としても期待が持てるため、特に電力会社にはこの技術領域を主導してもらいたい。将来的には1万kW級よりさらなる大型化が必要だと考えている。

―日本の技術は優位性を保てるのか。

河野 水電解装置による水素の製造を利用して電力系統を調整するには規格(グリッドコード)がない。現在、ISOで規格づくりの議論を進めており、私も日本の代表として参画している。日本の事例を反映させて世界をリードしたい。

【特集2】燃焼と蒸気供給技術を融合 専焼・混焼の両モードを実現


【川重冷熱工業】

業界に先駆けて1970年代から水素を燃料とするボイラーを開発・製造してきた川重冷熱工業は、その知見を生かし、水素焚の貫流ボイラーの開発に注力している。

2021年には、小型貫流ボイラー「WILLHEAT(ウィルヒート)」に水素専燃バーナーを搭載した製品を開発・発売した。同製品は98%の定格ボイラー効率を誇るウィルヒートに、NOx(窒素酸化物)排出量を世界最小に抑えた「ドライ式低NOx水素専焼バーナ」を組み込んだものだ。

従来は、蒸気噴霧や排ガスの再循環などで水素燃焼によるNOx排出量を抑えていたが、これには熱損失を伴う。独自の水素と空気の混合方式を用いるドライ式バーナーで、熱効率を維持したまま低NOxを実現した。

23年12月には、大型貫流ボイラー「Ifrit(イフリート)」に水素専燃・混焼機能を追加。培ってきた各種ボイラーでの水素燃焼技術とイフリートの蒸気供給プロセスを組み合わせた。水素と天然ガスの混焼モードと2つの燃料を個々に燃焼する専燃モードを切り替えることで、「水素専焼」・「水素混焼」・「天然ガス専焼」の3つのモードを実現した。混焼時は水素を熱量比で0~30%まで調整可能。同社は今後も水素関連の技術開発を進め、顧客の需要に応えていく。

ウィルヒート(左)とイフリート

【特集2】CNニーズに応える事業を拡大 供給基盤構築と需要創出を推進


【東邦ガス】

製造業が盛んな東海地域では、カーボンニュートラル(CN)への対応を検討する企業が増えている。同地域のエネルギー事業をけん引する東邦ガスの元には、そうした企業からの相談が数多く寄せられる。同社はこうした要望に応えるべく、都市ガスへの燃料転換、CCUS(CO2回収・利用・貯蔵)やe―メタンなどの技術開発を着々と進めてきた。需要家の低・脱炭素化に資する取り組みを継続しつつ、近年、同社が注力しているのが水素供給基盤の構築だ。

水素製造プラントを新設 幅広い水素需要に対応

同社は、その一環として知多緑浜工場(愛知県知多市)の「水素供給拠点化」を進めている。同工場敷地内に水素製造プラントを建設し、昨年6月に運転を開始した。これまでも、オンサイト型水素ステーションなどを通じて水素の製造・供給を行っており、同プラントの建設を足掛かりに、早期に水素サプライヤーとしての地位を確立する狙いだ。

カーボンニュートラル開発部カーボンニュートラル開発第二グループの青山高幸課長は「天然ガスと水蒸気を反応させて水素を製造する。製造能力は1日当たり1・7tで、これは燃料電池車(FCⅤ)約340台分に相当。FCⅤのほか、熱分野での代替エネルギーや工業用原料としての活用が可能で、幅広い水素需要に対応できる」と同プラントの意義を語った。

水素製造時に発生するCO2は、顧客のニーズに応じて当面はクレジットの活用で相殺しつつ、将来的にはCO2の回収・利用も検討する。具体的な例の一つとして大成建設、アイシンと共同で、コンクリートにCO2を固定化するプロジェクトを推進中だ。

さらに、水素供給をはじめとしたあらゆる産業ガスの供給に強みを持つ大陽日酸とアライアンスを構築。これにより、年に1度行われるプラントの点検期間の際にも滞りなく供給できるほか、有事の際にはバックアップ供給を受けることが可能となった。

同工場の敷地内には拡充用のスペースを確保しており、水素製造工程におけるCO2の回収・利用や、需要拡大に応じて製造能力の増強を検討する。

熱分野導入に向けた新開発 8割超の高効率燃焼を達成

熱分野への水素導入拡大に向けた技術開発にも力を入れている。中でも注目されているのが、昨年末に水素燃焼化に成功した工業炉バーナー、「水素対応リジェネラジアントチューブバーナ」(リジェネバーナ)だ。蓄熱体を備えた二つのバーナーを一対として利用し、交互に切り替えて燃焼することで、チューブ内で燃焼させたガスの排熱を回収・利用するリジェネ方式を採用。これにより、排気損失ベースで80%以上という高い熱効率での水素燃焼を実現した。また、一部の部品を交換するだけで都市ガス燃焼と水素燃焼を切り替えることができる仕様となっており、導入コストの低減にも成功した。

ただ、水素燃焼には都市ガスとの性質の差に起因する難点がある。都市ガスと比べて火炎温度が高く、また燃焼速度が速いため、NOX(窒素酸化物)排出量の増加やバーナー部品の劣化を引き起こす。

こうした課題を解決すべく、同社が注目したのが「多段燃焼」だ。多段燃焼は、燃焼用空気を分割して炉内に送り込むことで段階的な燃焼を可能にする。リジェネバーナへの多段燃焼の導入では、バーナーのノズルなどの一部部品を変更し、燃焼可能な箇所を増やすことで対応。これにより、火炎温度が低下し、NOX排出量を都市ガス燃焼時と同程度まで低減させた。技術研究所カーボンニュートラルの山本朱音氏は「多段燃焼の導入で、熱効率を維持したまま火炎温度を低下させることが可能となり、課題であったNOX排出量の大幅低減につながった」と説明。「これから耐久性などをテストし、問題がなければ今年末にも商用化する」(山本氏)計画だ。

青山課長は「ガス・電気に加えて水素もエネルギーの軸として位置付けており、お客さまのCNに資する取り組みを推進していく」という。水素の需要創出と供給網構築に着々と歩みを進めていく同社から今後も目が離せない。

【特集2】国内初の旅客輸送する水素船 大阪中心部と万博会場を結ぶ計画


【岩谷産業】

岩谷産業が国内初の旅客船として造船会社と開発を進めていた水素燃料電池船「まほろば」が1月末、報道陣に公開された。4月の開幕へカウントダウンが始まっている2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の一般向け移動手段の一つとなる。

運用は京阪グループの大阪水上バス社が担う。大阪・中之島からユニバーサルスタジオジャパンを経由して会場のある夢洲までをおよそ1時間で移動する。

同船は21年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として採択され建造が始まった。水素を燃料とすることから、従来の内燃機関船と違い、走行時にCO2や環境負荷物質を排出しない移動手段となる。また臭いがなく、騒音・振動の少ない優れた快適性を実現する。

「水素を動力源にして商用として人を運ぶ船はこれまで存在しなかった。(万博では)この船を通じてエネルギー利用としての水素の可能性を多くの人に伝えていきたい」。水素本部の佐野雄一・水素バリューチーム部長は力を込める。

燃料電池車の部材を転用 民間の英知を結集し建造

全長33m、幅8mで150人の乗船が可能だ。駆動の主要部分となる燃料電池スタックと水素タンク(70MPa、130㎏)は燃料電池自動車ミライを手掛けるトヨタ自動車製を船用に転用している。日本勢の技術を組み合わせて建造したことにも大きな意義がある。

建造に合わせて同船専用の水素供給ステーションも整備された。岩谷産業は関西電力とも連携し、関電の南港発電所の敷地内を活用して、供給インフラを整えた。元になる水素は、岩谷産業の水素製造工場から運び込む計画だ。水素サプライチェーン全体を鑑みると、現時点では水素製造時にCO2を排出してしまう。そのため、CO2排出ゼロの移動手段とは言い切れない。しかし、ゼロに向けたトランジション期の技術開発として、同船が誕生した意義は大きい。

万博会場への移動を支える「まほろば」

【特集2】沿線軸に持続可能な街づくりに注力 顧客目線で魅力あるサービス追求


【東急パワーサプライ】

東急パワーサプライ(TPS)は「東急でんき&ガス」の申し込み者数が67・7万件(2024年9月末時点)に上り、東京エリアの低圧市場シェアで7位につける。電気は非化石証書を用いて実質再生可能エネルギー100%、CO2排出量実質ゼロのものを供給する。東急グループが掲げる沿線を中心とした脱炭素、サステナブル(持続可能)な街づくりというコンセプトに則った事業を進めている。

犬養淳副社長は「東急グループ全体でのカーボンニュートラル(CN)に向けた目標として、30年までに自社(連結)電力需要の50%を再エネに転換するという目標がある。この取り組みの中に、当社があるという位置付けだ。渋谷のビル群や鉄道の脱炭素をどう進めるのか、沿線にお住まいのお客さまには鉄道を積極利用してもらいCO2排出量を抑制するなど、グループ一体でエネルギーに注力している」と事業スタンスを語る。

横浜市と蓄電池で協業 東北地方の応援に生かす

そんなTPSは、ユニークな電力プランを用意する。昨年6月に発表した「ハマでんちプラン」もその一つだ。同社と横浜市、東北電力フロンティアの3者が、横浜市内における再エネの普及を目的に、連携協定を締結。これに基づきTPSは、横浜市内に太陽光パネルを設置する家庭を対象に蓄電池リースサービスを実施。横浜市が、連携協定を締結する東北地方の自治体などに立地する再エネ発電所由来の環境価値を活用した電気をセットで供給する。

プランの利用者には、毎月「ハマとも東北応援ポイント」が付与。東北電力フロンティアが提供するプラットフォーム「東北サポーターズ」で、東北地方の地域のお祭りなどのイベントから応援したいものを選び、贈ることができる。さらにポイントがイベント運営資金などとなり、東北地方の地域活性化を応援できるという仕組みだ。

今後も電力事業の付加価値サービスを展開する方針だ。以前、需要家に商業施設のクーポン券を配布し、真夏に外出してもらい節電を促すDR(デマンドレスポンス)キャンペーンを行った。犬養氏は「お客さまが生活する中で何かワクワクするようなサービスを提供したい。こうした点を追求する事業者でありたい」と意欲を示している。

再エネ普及に向けた3者の連携イメージ

【特集2】電力マネジメントの時代が到来 官民一体で需要家意識の醸成へ


次期エネルギー基本計画の原案で電力需給調整の重要性が明示された。エネ各社は、調整力を創出するサービスや技術の開発を加速させている。

家電や蓄電池からヒートポンプ給湯機まで、暮らしを支える多様なエネルギー資源を高度に管理して電力供給の安定化や脱炭素化につなげる―。こうしたエネルギーマネジメント(エネマネ)を官民で後押しする機運が高まっている。政府が策定する次期エネルギー基本計画の原案に電力使用量を制御するデマンドレスポンス(DR)の「更なる普及を図る」と明示されたほか、エネ各社がDRを巡る技術やサービスの開発で知恵を絞る動きが活発化している。

低圧資源を大きな価値に 市場拡大へ相次ぐ布石

「家庭で使う比較的小規模な低圧リソース(需要家設備)を集約して大きな価値にしていきたい」。資源エネルギー庁新エネルギーシステム課の担当者はこう強調する。

エネ庁の視線の先には、再生可能エネルギーの導入量が一段と拡大する動きがある。再エネによる発電量は季節や天候によって大きく変動。電力需要が多い時期に需給がひっ迫する一方、需要が少ない時期には供給過多になって電力が余ってしまう。

こうした課題に対応する仕組みが、需要家側が賢く使用量を変化させて電力需給バランスを調整するDRだ。需要量を減らす「下げDR」と需要創出を行う「上げDR」という二つの行動を促す流れが強まりつつある。

DRを支えるのが、電力会社と需要家の間に入ってリソースを束ねて電力需給を調整する事業者「アグリゲーター」だ。電力自由化に伴って生まれたもので、2022年4月から一定の条件を満たすアグリゲーターが「特定卸供給事業者」として国への届け出を行うことが義務化された。1月時点で、登録事業者数は約100社に達している。

住宅に設置した家庭用蓄電池のイメージ 【提供】東京ガス

固定価格買い取り(FIT)制度の期限が切れる「卒FIT」が増える中、需要家の選択肢が拡大する傾向にある。一つが、電力会社と再契約して売電する取り組み。さらに蓄電池を導入し、太陽光発電設備でつくった電力を全て自家消費する動きも広がりつつある。また、分散型電源をIoTで束ねて統合制御する「VPP(仮想発電所)」への参加を狙う需要家も増えると予想される。

卒FITの住宅用太陽光発電の認定件数と容量は、25年に約200万件、860万kWに到達する見込み。新築戸建て住宅への太陽光設置率は約3割に達したが、家庭に太陽光発電を広げる取り組みは途上にある。このためエネ庁は一層の導入拡大を目指すとともに、小売電気事業者やアグリゲーターの商機拡大につなげたい構えだ。

26年度から需給調整市場に家庭用蓄電池などの低圧リソースが本格的に活用できるようになると、DRやVPPに象徴されるエネマネ市場を育成する動きが加速しそうだ。

【特集2】少ない湯量で給湯能力を確保 独自の特許技術でニーズをつかむ


【パーパス】

特許技術で省エネや節水ニーズ対応のエコジョーズが注目されている。パーパスは戦略製品と位置づけ、今後の拡販を狙っているところだ。

パーパスが製造販売する「AXiSシリーズ」のエコジョーズが節水や省エネニーズを追い風に注目されている。特に同社独自の高温水分配方式の特許技術を搭載した「FLash」は、少湯量でも一定の給湯能力を発揮する。同社は戦略製品として拡販を狙う。

従来のエコジョーズでは瞬時にお湯が出なかったり、一度に暖房や追いだきすると給湯能力が低下する課題があった。しかしFLashは最小給湯能力0.1号、最低作動流量毎分1.9ℓの能力を持つ。同社の制御技術で80℃程度の温水をあらかじめ機器内に循環させることで、所定の給湯能力を確保する。

「昨今、省エネだけでなく節水ニーズによって節水シャワーヘッドや節水カランの需要が高まり、非常に少ない湯量を使うケースが増えている。ただ、出湯流量が少なくなるとガス給湯器の安全機能が作動し、火が途中で消えてしまうことがあった。結果的に給湯機能を発揮できないケースがあった」と鈴木孝之営業企画部部長は解説する。

冬場の捨て水の課題を解決 塗装技術で機器の耐久性を向上

例えば冬のキッチン。水栓を開栓した時、すぐにお湯が出ないことがあるが、FLashなら製品本体出口付近ですぐにお湯が出るので、「捨て水」が出ない。お風呂場でシャワーヘッドのモードを切り替えても、急に冷たくなることがない。そんなFLashには「カンタンヘルスチェック」という機能もある。身長、体重、性別、年齢などを登録しておけば、浴槽につかるだけで簡単に体脂肪率や消費カロリーなどの健康管理につながる値を浴室リモコンで計算できる。浴槽内の圧力変化を検出し、同社独自のアルゴリズムで推定値をはじき出す。

ハード面の技術にも特徴がある。静岡県富士宮市の自社工場で生産する国内出荷の全てのエコジョーズに対して「耐重塩害試験基準」(日本冷凍空調工業会規格)をクリアした塗装が施されている。ウレタン樹脂の焼き付けや電着塗装など、自社生産ラインで塗装し機器の耐久性を高めている。節水ニーズ、健康志向などさまざまな課題を解決することから、「工務店などのサブユーザーから問い合わせが増えている」(鈴木部長)そうだ。

FLashは失火させずに給湯能力を発揮する

【特集2】冷蔵庫の使用パターンを賢く制御 DR運転で利用者の行動変容へ


【中部電力ミライズ】

中部電力の販売子会社である中部電力ミライズとパナソニックは、家電製品を自動的に制御して電力需給のバランスをとる「デマンドレスポンス(DR)」の実証実験を進め、DRの有用性を確かめた。家庭用エネルギーを賢くマネジメントするニーズが高まる中、実証実験で得られた知見を役立てDR市場の開拓に弾みをつけたい考えだ。

両社が実証実験で注目した家電は、1年間を通じて利用する冷蔵庫。共同でDR機能搭載の冷蔵庫を含めた実験環境を整え、2023年12月から24年9月にかけて実証実験を実施。DR対応冷蔵庫の有効性を多面的に検証した。

具体的には、中部電力ミライズが電力の需給バランスに応じてDRを計画し、パナソニックが構築したスマートフォン向け専用アプリで、利用者にDRの計画を通知する。利用者はアプリでDR運転の予約が可能だ。予約した時間になると、冷蔵庫が自動的に作動し、電力の需要量を減らす「下げDR運転」、または電力需要を増やす「上げDR運転」に入る。DR運転の開始と終了をアラーム音で伝えることも特徴だ。

実証実験の結果、「冷蔵庫は効果的に電気の使う量を調整でき、実効性の高いDRリソースになり得る」(エネルギープラットフォーム構築部の猪飼文洋課長)ことを確認。利用者が冷蔵庫からの通知をきっかけに電力需給バランスを意識して他の家電を操作するなど、家全体の電力を賢く使う取り組みに大きく貢献することも分かった。

実証実験の参加者を対象としたアンケートで冷蔵庫による通知の効果を尋ねたところ、約7割が「他の家電への行動につながった」と回答。さらなる調査で、冷蔵庫が自動制御されることへの不安の声や保存食品への影響がないことが確認された。

会員制で需給調整に貢献 家庭向け新サービス検討へ

カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、季節や天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの活用が進むと、需要側で電力需給を調整するニーズも拡大する見通しだ。同社はこうした動きを見据え、再エネ発電量に合わせた行動を促す会員サービス「NACHARGE(ネイチャージ)」を提供し、約37万人規模の主力事業に育てている。例えば、会員には発電量に応じて電力の利用や節電を促すメールを通知。取り組み実績に応じてポイントを付与し、環境貢献度を実感できるようにする。

同社は、こうした実績や今回の実証試験結果を土台に「新たな家庭向けDRサービスを検討していきたい」と強調。家電メーカーはじめ関係企業と幅広く連携しながら、DR機能の搭載先を冷蔵庫以外に広げる可能性を探ることにも意欲を示した。

家庭用DRの実証実験の仕組み

【特集2】2030年300万台突破が目標 エネファーム普及拡大を加速


【日本ガス協会】

高効率家庭用給湯器で省エネを推進してきた日本ガス協会。エネファームの新たな活用に向け、ガス事業者を支援する構えだ。

エネファームは2023年11月、累計販売台数50万台を突破した。こうした中、日本ガス協会は現在、「30年に300万台」を目指し、さらなる普及拡大を推進している。

着実に導入数を増やしてきたのは「エネファームパートナーズ」の活躍が大きい。エネファームパートナーズは住宅業界、エネファーム製造業界、エネルギー業界の162団体・事業者が連携した普及促進協議体。象徴的な活動の一つがパンフレット『エネファームオーナーズボイス』の作成だ。主にガス事業者がエンドユーザーやサブユーザー向けに導入を訴求する際に使用してきた。機器の魅力を、実際にエネファームを導入したエンドユーザーのリアルな声で伝えているのが特徴だ。

第7次エネルギー基本計画の原案には、「家庭部門のエネルギー消費の約3割を占める給湯器の省エネや非化石転換の加速、DRに必要な機能の具備の促進」などが記載された。高効率家庭用給湯器の重要性が明示されており、導入支援についても国が積極的に進めることが示された。

エネファームは機能面でも発展も遂げてきた。停電時の発電継続などのレジリエンス性向上、家電製品などのモノをインターネットでつなぐ技術「IoT」、天気連動などの機能が備わっているものも多い。また、狭いスペースにも楽に設置できるよう、開発が進められている。さらに、国の補助金制度活用により、ユーザーは魅力的な価格で購入できるようになった。これらが奏功し、ここ数年は年間4万台程度の導入ペースを維持している。

新たな価値追加に期待 VPPの実証実験を推進

設置台数の増加とともに期待されているのが、調整力としての役割だ。ガス供給事業者が自治体などと連携し、VPP(仮想発電所)実証実験を進めている。

日本ガス協会普及部・業務推進グループの菅沼智浩マネジャーは「国の導入目標である『30年に300万台』の達成に向け、全力を注いでいく。高効率給湯器の普及が進み、その役割が増えていく中で、VPP実証などの進展を把握しながら、今後もガス事業者の活動を支援するための市場整備、さまざまな制度設計などに取り組んでいきたい」と語る。エネファームのさらなる価値向上から目が離せない。

パンフレットの表紙