【特集2】省エネ機器販売で一段と成長 スマートリモコンで最適運用


ハイブリッド給湯器などの家庭用機器が強みのニチガス。プラットフォーム事業の拡大も狙う同社の戦略に迫った。

【インタビュー】土屋友紀・日本瓦斯代表取締役専務執行役員営業本部本部長

―カーボンニュートラル実現の要請が強まる中、家庭用の取り組みはどうですか。

土屋 当社の特徴は、省エネ性能に優れたハイブリッド給湯器を日本で一番積極的に販売している点です。太陽光発電パネルや、最近では家庭用の蓄電池の販売も進めています。価格だけでなく、必要な情報と選択肢をお客さまに提供し、電気のお客さま数も6年間で37万件(2024年1月現在)に達しました。

 当社はガスの供給事業者であり、電気の供給事業者でもあります。AIが需要を精緻に予測・制御することで、家庭のエネルギー利用を最適化するDR(デマンドレスポンス)運用において、家庭用省エネ機器を販売した実績は大きな強みになると考えています。

 家庭用のエネルギー使用量を見える化し、お客さまが機器を遠隔で制御できる「スマートリモコン」を開発中です。家庭用の機器をネットワークにつなぐことで、利便性を高めながらエネルギーの最適利用を目指しています。例えば、ハイブリッド給湯器はガスと電気の両方でお湯を作れますので、電力需給がひっ迫した時はガスでお湯を作り、再エネの余剰電力が生じたときはヒートポンプでお湯を沸かすという運用も可能です。これらは家庭用分野におけるエネルギーの最適利用を実現するプラットフォームとして多くの事業者にも展開し、社会課題解決にも貢献したい。

―昨年、LPガスのお客さま数が100万件を突破しました。こうした取り組みを通じて物流改革を後押しされていますね。

土屋 2010年頃からデポステーション(24時間無人で稼働可能なLPガスの容器置き場)を設け、配送に関わるコストを削減し、ガス料金の低価格化を進めました。21年には世界最大規模のLPガスハブ充填基地「夢の絆」を稼働させました。LPガス物流のプラットフォームです。利用者が増えれば増えるほど、配送に関わるコストとCO2を業界全体で減らすことができ、消費者に還元できます。

―顧客拡大に向けた今後の目標は。

土屋 全社で掲げる目標は電気、ガスの総契約数200万件で、今期中の達成を見込んでいます。すでにLPガス、電気、都市ガスのエネルギーの垣根はなくなっています。当社は同業者および他のエネルギー事業とのアライアンスや水平分業を進め、業界全体で効率化の実績を積み上げています。また、最前線の営業現場を尊重し、お客さまにどのようなサービスが提供できるかという考え方で取り組み、当社のDNAである「同じ成功は繰り返さない」の精神で変わり続けていきます。

つちや・とものり 1993年ニチガス入社。同社常務執行役員や東彩ガス代表取締役社長などを経て、23年4月ニチガス専務執行役員。24年6月から現職。

【特集2】2030年300万台突破が目標 エネファーム普及拡大を加速


【日本ガス協会】

高効率家庭用給湯器で省エネを推進してきた日本ガス協会。エネファームの新たな活用に向け、ガス事業者を支援する構えだ。

エネファームは2023年11月、累計販売台数50万台を突破した。こうした中、日本ガス協会は現在、「30年に300万台」を目指し、さらなる普及拡大を推進している。

着実に導入数を増やしてきたのは「エネファームパートナーズ」の活躍が大きい。エネファームパートナーズは住宅業界、エネファーム製造業界、エネルギー業界の162団体・事業者が連携した普及促進協議体。象徴的な活動の一つがパンフレット『エネファームオーナーズボイス』の作成だ。主にガス事業者がエンドユーザーやサブユーザー向けに導入を訴求する際に使用してきた。機器の魅力を、実際にエネファームを導入したエンドユーザーのリアルな声で伝えているのが特徴だ。

第7次エネルギー基本計画の原案には、「家庭部門のエネルギー消費の約3割を占める給湯器の省エネや非化石転換の加速、DRに必要な機能の具備の促進」などが記載された。高効率家庭用給湯器の重要性が明示されており、導入支援についても国が積極的に進めることが示された。

エネファームは機能面でも発展も遂げてきた。停電時の発電継続などのレジリエンス性向上、家電製品などのモノをインターネットでつなぐ技術「IoT」、天気連動などの機能が備わっているものも多い。また、狭いスペースにも楽に設置できるよう、開発が進められている。さらに、国の補助金制度活用により、ユーザーは魅力的な価格で購入できるようになった。これらが奏功し、ここ数年は年間4万台程度の導入ペースを維持している。

新たな価値追加に期待 VPPの実証実験を推進

設置台数の増加とともに期待されているのが、調整力としての役割だ。ガス供給事業者が自治体などと連携し、VPP(仮想発電所)実証実験を進めている。

日本ガス協会普及部・業務推進グループの菅沼智浩マネジャーは「国の導入目標である『30年に300万台』の達成に向け、全力を注いでいく。高効率給湯器の普及が進み、その役割が増えていく中で、VPP実証などの進展を把握しながら、今後もガス事業者の活動を支援するための市場整備、さまざまな制度設計などに取り組んでいきたい」と語る。エネファームのさらなる価値向上から目が離せない。

パンフレットの表紙

【特集2】冷蔵庫の使用パターンを賢く制御 DR運転で利用者の行動変容へ


【中部電力ミライズ】

中部電力の販売子会社である中部電力ミライズとパナソニックは、家電製品を自動的に制御して電力需給のバランスをとる「デマンドレスポンス(DR)」の実証実験を進め、DRの有用性を確かめた。家庭用エネルギーを賢くマネジメントするニーズが高まる中、実証実験で得られた知見を役立てDR市場の開拓に弾みをつけたい考えだ。

両社が実証実験で注目した家電は、1年間を通じて利用する冷蔵庫。共同でDR機能搭載の冷蔵庫を含めた実験環境を整え、2023年12月から24年9月にかけて実証実験を実施。DR対応冷蔵庫の有効性を多面的に検証した。

具体的には、中部電力ミライズが電力の需給バランスに応じてDRを計画し、パナソニックが構築したスマートフォン向け専用アプリで、利用者にDRの計画を通知する。利用者はアプリでDR運転の予約が可能だ。予約した時間になると、冷蔵庫が自動的に作動し、電力の需要量を減らす「下げDR運転」、または電力需要を増やす「上げDR運転」に入る。DR運転の開始と終了をアラーム音で伝えることも特徴だ。

実証実験の結果、「冷蔵庫は効果的に電気の使う量を調整でき、実効性の高いDRリソースになり得る」(エネルギープラットフォーム構築部の猪飼文洋課長)ことを確認。利用者が冷蔵庫からの通知をきっかけに電力需給バランスを意識して他の家電を操作するなど、家全体の電力を賢く使う取り組みに大きく貢献することも分かった。

実証実験の参加者を対象としたアンケートで冷蔵庫による通知の効果を尋ねたところ、約7割が「他の家電への行動につながった」と回答。さらなる調査で、冷蔵庫が自動制御されることへの不安の声や保存食品への影響がないことが確認された。

会員制で需給調整に貢献 家庭向け新サービス検討へ

カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、季節や天候によって発電量が変動する再生可能エネルギーの活用が進むと、需要側で電力需給を調整するニーズも拡大する見通しだ。同社はこうした動きを見据え、再エネ発電量に合わせた行動を促す会員サービス「NACHARGE(ネイチャージ)」を提供し、約37万人規模の主力事業に育てている。例えば、会員には発電量に応じて電力の利用や節電を促すメールを通知。取り組み実績に応じてポイントを付与し、環境貢献度を実感できるようにする。

同社は、こうした実績や今回の実証試験結果を土台に「新たな家庭向けDRサービスを検討していきたい」と強調。家電メーカーはじめ関係企業と幅広く連携しながら、DR機能の搭載先を冷蔵庫以外に広げる可能性を探ることにも意欲を示した。

家庭用DRの実証実験の仕組み

【特集2】太陽光発電の余剰電力を活用 地域通貨で経済の好循環を創出


【静岡ガス】

静岡ガスグループはこのほど、太陽光発電の余剰電力を活用し、地域の経済循環を活性化させる取り組みを開始した。同グループが利用者から固定価格買い取り(FIT)制度の期間を終えた卒FITの太陽光発電の余剰電力などを買い取り、利用者が希望する地域に供給する。利用者には、買い取った電力量に応じて供給した地域の店舗などで使えるデジタル地域通貨が支払われる。特定の地域内で利用できる地域通貨を使うことで、供給先に限定した経済循環を促せる仕組みだ。静岡ガス営業本部エネルギーソリューション部都市デザイングループの土橋亮太グループリーダーは「卒FITを迎えて買い取り価格が下がると、売電先に対する関心が一気に低くなる。お客さまが自らの意思で供給先を選ぶような仕組みを作りたかった」と話す。

デジタル地域通貨の仕組みの導入では、一般的に利用されている既存のプラットフォームを活用。一方で、金融に関わるサービスならではの苦労もあった。同グループ担当者の望月優佑氏は「地域通貨でのやり取りが資金決済法の適用になり、金融庁の示すガイドラインに基づいた財務局への登録が必要になった。業務の運用やマニュアルなどに関して、利用者保護などの観点から多岐に渡るチェック項目をクリアしながら、登録作業を進めた」と振り返る。1年以上かけて無事に登録を終え、サービスの開始にこぎつけた。

公民連携協定の一環で実現 他自治体への拡充を目指す

現在、選択できる供給先は静岡県島田市の公共施設だ。ここに電力を提供すると、1kW時当たり13・2円(税込み)分のデジタル地域通貨「しまだPay」が付与される。しまだPayは市内19店舗(25年1月9日現在)で使うことができる。「普段のちょっとした買い物に充てられる」と利用者にも好評だ。

島田ガス、静岡ガス、静岡ガス&パワーによる島田ガス共同企業体と島田市は、20年に「SDGsを先導するまちづくり」に関する協定を提携した。この取り組みとしてカーボンニュートラル電気の活用を模索する中、公民連携での今回のサービスが実現した形になる。島田市で築いた仕組みを「SHIZGASあなたのでんきで地域いきいき」というサービス名で他の自治体にも広げていく構えだ。

将来的には、小売店舗などの展開も視野にある。「例えば、物販店舗を供給先にして対価としてクーポンを発行すれば、その店舗が支払った電気代が売上として返ってくる仕組みができる」と土橋氏。今後、多方面での活用が期待される。

地域通貨のアプリ

【特集2】英企業の知見を存分に活用 3年で30万件の顧客獲得


【TGオクトパスエナジー】

東京ガスと英エネルギーテック企業のオクトパスエナジー社が合弁で立ち上げた日本国内の電力小売企業、TGオクトパスエナジー。2022年1月から家庭用小売りを本格化し、わずか3年で30万件を突破した。最大の特徴は「解約率の低さと顧客満足度の高さ」と同社の中村肇社長は断言する。

その秘策は同社独自の顧客管理システム「クラーケン」だ。一般的なシステムは、請求書・振り込み口座管理、電話・メール対応の履歴など、各業務に応じたシステムが存在する。

クラーケンでは、一つのプラットフォームであらゆる機能を満たす。ユーザーから「口座の変更」や「アンペア数の変更」など、どのような問い合わせも、原則1人の人員で対応できる。たらい回しにされることがないことから高い顧客満足度につながっている。英国では、このプラットフォームを同業他社に外販し、収益基盤にしている。

蓄電池を遠隔で充放電 DRの連動プラン創出へ

同社では多様なメニューを展開中だ。実質再生可能エネルギー100%の電気を供給する「グリーンオクトパス」、オール電化住宅向けの「オール電化オクトパス」、燃料調整費の増減によって変動することがない固定価格をセールスポイントにした「シンプルオクトパス」など多様なプランを用意する。

家庭用の再エネ導入を支援する「ソーラー初期ゼロプラン」も人気が高い。同社が太陽光パネルのオーナーとなり、顧客の屋根を借りてパネルを設置。代わりにユーザーの初期負担はゼロだ。加えて発電中の時間帯による電気料金は1kW時当たり24円と低料金に設定している。

同社では今後、「蓄電池を使ったDRメニューを作りたい」(中村社長)という。同社がユーザー側の蓄電池の充放電を遠隔で制御してDRに参画し、通常よりも電気料金を割り引く。DRと小売りを連動させたプランだ。クラーケンというプラットフォームの存在が、多様なビジネスやプランの創出を可能にしていく。

タコを模したロゴキャラクター

【特集2】少ない湯量で給湯能力を確保 独自の特許技術でニーズをつかむ


【パーパス】

特許技術で省エネや節水ニーズ対応のエコジョーズが注目されている。パーパスは戦略製品と位置づけ、今後の拡販を狙っているところだ。

パーパスが製造販売する「AXiSシリーズ」のエコジョーズが節水や省エネニーズを追い風に注目されている。特に同社独自の高温水分配方式の特許技術を搭載した「FLash」は、少湯量でも一定の給湯能力を発揮する。同社は戦略製品として拡販を狙う。

従来のエコジョーズでは瞬時にお湯が出なかったり、一度に暖房や追いだきすると給湯能力が低下する課題があった。しかしFLashは最小給湯能力0.1号、最低作動流量毎分1.9ℓの能力を持つ。同社の制御技術で80℃程度の温水をあらかじめ機器内に循環させることで、所定の給湯能力を確保する。

「昨今、省エネだけでなく節水ニーズによって節水シャワーヘッドや節水カランの需要が高まり、非常に少ない湯量を使うケースが増えている。ただ、出湯流量が少なくなるとガス給湯器の安全機能が作動し、火が途中で消えてしまうことがあった。結果的に給湯機能を発揮できないケースがあった」と鈴木孝之営業企画部部長は解説する。

冬場の捨て水の課題を解決 塗装技術で機器の耐久性を向上

例えば冬のキッチン。水栓を開栓した時、すぐにお湯が出ないことがあるが、FLashなら製品本体出口付近ですぐにお湯が出るので、「捨て水」が出ない。お風呂場でシャワーヘッドのモードを切り替えても、急に冷たくなることがない。そんなFLashには「カンタンヘルスチェック」という機能もある。身長、体重、性別、年齢などを登録しておけば、浴槽につかるだけで簡単に体脂肪率や消費カロリーなどの健康管理につながる値を浴室リモコンで計算できる。浴槽内の圧力変化を検出し、同社独自のアルゴリズムで推定値をはじき出す。

ハード面の技術にも特徴がある。静岡県富士宮市の自社工場で生産する国内出荷の全てのエコジョーズに対して「耐重塩害試験基準」(日本冷凍空調工業会規格)をクリアした塗装が施されている。ウレタン樹脂の焼き付けや電着塗装など、自社生産ラインで塗装し機器の耐久性を高めている。節水ニーズ、健康志向などさまざまな課題を解決することから、「工務店などのサブユーザーから問い合わせが増えている」(鈴木部長)そうだ。

FLashは失火させずに給湯能力を発揮する

【特集2】グループの総合力で低炭素化推進 病院のレジリエンスにも貢献<


【西部ガス】

将来の脱炭素社会を見据え、ガスコージェネレーションシステムを導入し、低炭素化とレジリエンスの両立を実現した先駆的な病院がある。

福岡県大牟田市と隣接する熊本県荒尾市にある「荒尾市立有明医療センター」は、2023年10月、敷地内に新築移転した。竣工から50年以上が経過し、老朽化や耐震補強の必要性などの課題が顕在化したためだ。

新病院は荒尾市唯一の急性期病院で、同市のほか周辺市町村の中核病院として、24時間・365日救急医療に対応しているほか、災害時にも災害拠点病院として継続した診療が可能となっている。

ここでは東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が、系統電力の停電時も発電可能なヤンマーエネルギーシステム製の定格出力400kWガスエンジンコージェネをエネルギーサービスで導入し、メンテナンス・省エネルギー運用を実施している。

燃料の都市ガスを供給するのは、西部ガスグループ傘下の大牟田ガスだ。同センターは同社の供給区域外に立地しており、導管網と接続されていなかった。

そこで、同じく西部ガスグループの九州ガス圧送が同社大牟田工場から西部ガス熊本までの間に敷設していた総延長52 kmの中圧導管を利用した。その中圧導管から分岐する1700mの導管を大牟田ガスが新たに敷設して、同センターにガス供給している。導管はポリエチレン製で耐震性が高く、停電時にも電気と熱供給が可能だ。

導管敷設で供給エリア拡大 学校給食センターも下支え

新たに敷設した導管沿いには、天然ガスへの燃料転換を提案できる大規模需要家が複数あり、天然ガス普及に力を入れている。大牟田ガスでは、この導管沿いに22年に竣工した荒尾市・長洲町学校給食センターにも既にガス供給を開始している。

大牟田市や隣接する荒尾市は、かつて炭鉱で栄えた地域で、現在でも石炭を燃料に使っている企業もある。

一方、50年ネットゼロの流れを受け、低・脱炭素エネルギーを求める企業も増えている。そういった新規大口需要家に天然ガスを供給するため、この導管以外に総延長千m級の導管を新たに2本敷設したという。

大牟田ガスの猿渡孝徳部長は「大牟田市は人口が全盛期の半分近くまで減少している。そのため、家庭用のお客さま数とガス販売量も減少傾向にある。そこでガス販売量を伸ばすため、供給区域を広げながら、法人のお客さまの獲得に注力している」と語る。

同社の中嶋覚取締役は「今後も西部ガスグループの一員としてその総合力を活用しながら、TGESとも連携・協業し、天然ガスの普及を推進することで、地域の低・脱炭素化に大いに貢献していきたい」と意気込む。

定格出力400kWのガスエンジンコージェネ

【特集2】札幌市の複合ビルでCN化を実現 電力・熱のCO2排出量が実質ゼロ


【北海道ガス】

札幌市中央区にある超高層の複合ビル「さっぽろ創世スクエア」で使用する電力と熱のCO2排出量を実質ゼロにする―。そんな取り組みが7月に始まった。北海道ガスが北海道熱供給公社、大成有楽不動産、さっぽろ創世スクエア管理組合と連携して実現したもの。地元の民間事業者がスクラムを組みカーボンニュートラル(CN)の達成を目指す先進的な事例として、注目を集めそうだ。

同ビルのエネルギー源として、天然ガスの採掘から最終消費に至るまでの工程で発生するCO2を、森林保全などによる削減・吸収量で相殺する「カーボン・オフセット都市ガス」を利用したことが特徴。

このガスを用いて、同ビルの地下4階にあり、北海道熱供給公社が運営する「創世エネルギーセンター」では、コージェネレーションシステムとボイラーにより、施設内に電力と熱を供給する。コージェネは、出力700kWのガスエンジン2台で構成されるシステムだ。

コージェネの発電時に発生した排熱は冷暖房や給湯に利用し、入居する企業や札幌市民交流プラザへ供給。不足する電力は、再生可能エネルギー由来の「非化石証書」を活用した電気を昨年10月から北海道ガスが届ける。こうした仕組みを構築することで、同ビルで使用する電力と熱の脱炭素化を達成した。CO2排出量の削減効果は、年間で約9200tを見込む。カーボン・オフセットした熱供給は、道内では初の試みという。

札幌市は2022年、環境省による「脱炭素先行地域」として選定。札幌都心の取り組みとして、コージェネを活用したエネルギー供給ネットワークの構築が進められている。民間施設群では、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化などを促すとともに、熱供給源として木質バイオマスなどの再エネ利用を促進。CNガスへの切り替えにより、電力・熱の脱炭素化も進めた。創世スクエアは、これらを実現した事例だ。

一方で、18年に道内で発生した胆振東部地震によるブラックアウトの際には、都市ガスの導管に被害がなく、創世エネルギーセンターがビルへ電力と熱を届ける役割を果たし、同ビルが帰宅困難者の一時滞在施設として機能した。また、地下の熱導管を通じて隣接する市庁舎への冷温水供給も継続した。

建物の環境価値を認知 災害対応力向上にも寄与

北海道ガス執行役員第一営業部長の金田幸一郎氏はこうした経緯に触れた上で、「札幌都心部に広がるガスコージェネを核としたエネルギー供給ネットワークを生かし、札幌市が目指す環境性・レジリエンス(強靭)性に優れたまちづくりに貢献したい」と強調。同部都市エネルギーグループ副課長の渡邊翔氏も「環境対策に意欲的なビルに入居したいというテナントが増える方向にある。官民の関係者と連携し、札幌都心部の電力・熱の脱炭素化を推進する一翼を担いたい」と意欲を示しており、北海道ガスの挑戦の舞台が一段と広がりそうだ。

札幌市の「さっぽろ創世スクエア」

【特集2】「移行期」の取り組みを促進 経済振興踏まえて支援検討


エネ基の議論が進む中、天然ガスへの燃料転換が焦点となる。ガスの脱炭素化を促す施策をエネ庁ガス市場整備室長に聞いた。

【インタビュー】福田光紀/資源エネルギー庁ガス市場整備室長

――2050年カーボンニュートラル(CN)への移行期にLNGは重要視されています。

福田 現実的なトランジションの手段として、CO2排出量の少ないLNGは重要です。石炭や重油を利用する需要家が一定数存在しているため、天然ガスへの燃料転換を後押しする予算事業を今年度開始しました。燃料転換を推進することで、既存インフラをそのまま利用できるe―メタン(合成メタン)も将来的に導入可能となります。こうした視点も含め、次期エネルギー基本計画の策定に向けた検討を行っているところです。

―ガス業界では30年時点で既存インフラへのe―メタン1%注入を目標としています。政策面でどう後押ししていきますか。

福田 目標達成に向けては、①e―メタンの生産コスト高、②CO2カウントルールの整備、③事業者の持続的な投資―が大きな論点となります。まず、コスト低減については、グリーンイノベーション(GI)基金を活用して革新的なメタネーション技術の開発を支援しており、30年までに基盤技術を確立することを目指しています。

 CO2カウントルールに関しては今年度、「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」における算定方法検討会で、e―メタンを含むカーボンリサイクル燃料の利用時における排出量の算定方法が整理されました。e―メタン供給時のガス事業者別排出係数を用いて、来年度から排出実績の報告に適用できるよう準備を進めています。持続的な投資の促進については、今年5月に成立した水素社会推進法で、e―メタンも既存燃料との価格差に着目した支援の対象としています。さらに、今年7月に開催したガス事業制度検討ワーキンググループでもe―メタン供給事業者の予見可能性を高める観点から、30年の供給目標設定と、導入に必要な費用を託送料金原価に算入できる仕組みの方針を打ち出しました。

―都市ガスインフラの新規敷設に対する支援の必要性について、どうお考えですか。

福田 広域的な供給インフラの整備は、燃料転換の推進やe―メタン供給のための環境整備につながると認識しています。ただし、新規インフラの敷設に際しては、地域のエネルギー需要や建設コストといった経済的側面を十分に考慮する必要があります。ガス供給インフラの整備が経済的に成り立つかどうかが重要です。現在、政府ではガスパイプラインやLNG基地への設備投資に対し、利子補給の支援を行っています。今後も地域の実情を踏まえ、適切な支援策を検討していきます。

ふくだ・みつのり 2002年経済産業省入省。資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室長などを経て23年7月から現職。

【特集2】地域課題を解決に導く立役者 独自戦略で住民との接点拡大


自治体の人口減少対策や災害対応などを手助けするガス事業者。主戦場で果たす役割について3社のトップが語り合った。

【出席者】

緑川昭夫/大多喜ガス社長

澤田龍明/釜石ガス社長

小出 薫/越後天然ガス社長

―まずは、各社の概況から聞かせください。

緑川 持ち株会社の傘下にガス供給事業を担う当社、ガスを採掘する会社、採掘時に出るヨウ素を製造する会社があり、この3社で各事業を分担しています。

当社のお客さま数は約17万件で、供給区域は大きく外房の茂原、内房の市原、千葉、八千代の4市です。千葉県は天然ガスの産出地で、当社が供給する家庭用ガスの大部分は国産天然ガスです。そのため家庭用のお客さま向け料金メニューでは原料費調整制度を導入しておらず、固定価格です。一方、京葉工業地帯のお客さまには、東京ガスや東京電力エナジーパートナーからガスを卸してもらい導管で供給しています。

小出 当社は、新潟市秋葉区、江南区の一部、五泉市の約3万

4000件に都市ガスを供給しています。新潟県も、国内の約7割の天然ガスが採れるので、石油資源開発からの卸供給を受け、また海外からのLNG由来の都市ガスも活用しながら供給しており、件数では家庭用が圧倒的に多く、販売量は家庭用と工業用が同程度です。

澤田 岩手県釜石市で事業をしており、都市ガスのお客さまは7000件程度です。1957年に、日本製鉄の粗製コークス炉へのガスの供給を始め、88年に高炉が休止したタイミングでブタン原料の6Cガス供給を開始しました。私は、そのタイミングで入社しました。

 2007年にはLPガス原料のPA―13Aガスを供給しています。11年の東日本大震災ではプラントが全壊しましたが、他社の協力もあり約1カ月半で復旧させました。導管もほぼ全滅でしたが、被災していない地域にはどうにか供給し、被災地には3、4年がかりで導管を入れ替えて供給再開しました。14年には岩手県初のLNGサテライト設備を竣工し、今は13Aガスの供給です。

事業環境変化に向き合う 市民サービスの充実へ

―人口減少や地域経済などによって、地方都市ガス会社の事業環境は大きく変化するかと思います。

澤田 釜石市は企業城下町ですが、63年の9万2000人をピークに、東日本大震災が起きた11年には約4万人、それから13年経ち、さらに1万人減りました。昨年11月には3万人を下回り、メーターの取り付け数も震災前は1万台でしたが、現在は8200台です。従業員も震災前の50人から34人まで減少しました。保安やインフラの維持管理を含めると、どうしても現状の人員が必要と思います。

小出 新潟県でも全体的に人口は減っています。ベッドタウンの新潟市秋葉区と江南区はあまり減っていませんが、郊外の五泉市は減少が激しいです。

緑川 東京のベッドタウンである八千代市は人口が増加していますが、外房のように、東京まで通勤が困難な地区は人口減少が激しいです。当社の本社がある茂原市周辺の供給エリアにも消滅可能性自治体が三つあり、人口が相当数減っています。

 一方、京葉工業地帯には相当量のガスをご使用いただいている発電用途のお客さまがおり、販売量の割合では工業用が約7割に上ります。発電用途は、電力の価格自体、ボラティリティが非常に高く、電力価格や市場価格が高いとガスの販売量が減るという独特の動きが特徴です。

―地域に根差したエネルギー事業者として行政からの期待も高く、最近では社会インフラを効率化するスマートコミュニティーの構築事業に協力しています。行政とはどのような関係を築いていますか。

澤田 東日本大震災後、地元の自治体でスマートコミュニティーの確立の動きが生まれました。さまざまな施設を一定のエリアに集約し、住民サービスを効率化するものです。その際、地域の事業者が中核に参加することが条件で、参画しました。スマートコミュニティーでは、復興住宅での熱、電気、ガスの一括管理をはじめ、太陽光発電(PV)や太陽熱給湯を設置した住宅を3棟つくりました。この中で、エネルギーマネジメントを管理しています。復興への取り組みには、周囲からの期待の高さを感じています。

 またこのほど、環境省の第5回脱炭素先行地域に釜石市での取り組みが選定されました。当社は、計画書の作成や地元企業によるSPC(特別目的会社)の設立で参画します。これまで計3回、申請しましたが、今回選定され、ようやくスタートラインに立てました。

釜石ではスマート復興公営住宅が作られた

【特集2】商業施設で目標上回る省エネ実現 関わる企業の三人四脚が奏功


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

JR鹿児島中央駅直結の「アミュプラザ鹿児島」は、JR鹿児島シティが運営する県内有数の複合商業施設だ。九州新幹線の部分開業に合わせた2004年のオープンから時が経ち、カーボンニュートラル対応など施設運営を巡る環境は大きく変化。当初からコージェネレーションなどは導入済みだが、一次エネルギー消費量がベンチマークを超えており、23年度にコージェネと排温水投入型吸収冷温水機(ジェネリンク)を更新。東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)がエネルギーサービス(ES)事業者となり、遠隔自動制御システムの「ヘリオネットアドバンス」も導入し、運用改善に取り組んだ。

年間約1000㎘、約18%の一次エネルギー削減目標に対し、23年度実績で1542㎘、27・0%もの削減を達成。CO2削減効果は27・9%で、ランニングコストも圧縮した。TGESは「最適なES設備の導入に加えて、基本的な運用改善対策を、需要家(JR鹿児島シティ)、設備管理者(JR九州エンジニアリング)との3人4脚で着実に実施することで大きな効果が生まれた」(栗原英明・営業技術ソリューション部副部長)と強調する。

ES設備では、コージェネは電熱負荷を精査しスケールダウンする一方、ジェネリンクは熱源運用の自由度向上による省エネを目指し容量アップ。コージェネは遠隔自動制御により熱負荷やデマンドレスポンス指令に合わせた最適運用を行い、再エネ出力制御が頻発する中間期には発電を抑制した。排温水は冷房需要が高まる夏季でも、熱変換効率の高い給湯・暖房にて優先利用する制御を試行錯誤し、実現した。

運用改善では、ES対象外の空調や搬送設備についても、基本的な取り組みを徹底。具体的には、①冷水温度の引き上げ、②外気取入量の適正化、③ポンプ制御の最適化―などだ。

JR鹿児島シティは「室内環境は悪化することなく1年目から数値で成果が見えたことはありがたい。加えて、管理者との間でエネルギー使用に関する話をする文化も醸成できた」(後藤浩義・設備運営課次長)と、さらなる省エネや設備更新に意欲を見せる。

需要家、管理者、ES事業者がそれぞれの立場で積極的に省エネに取り組むことが大きな成果につながっている。この成功事例の横展開ができれば、日本全体の一層の省エネにつながりそうだ。

目標以上に省エネが進んだアミュプラザ鹿児島

【特集2】LPガスインフラを業界でシェア 先端技術を駆使し環境対策を先導


ガス事業を高度に効率化するプラットフォームの拡大を狙うニチガス。サプライチェーン全体のCO2排出量削減に貢献することが狙いだ。

ニチガス

LPガスの充填から配送に至る一連のプロセスを先端技術で効率化する――。そんな仕組みを提供するプラットフォーム事業の拡大を目指しているのが、ガス事業をはじめとした総合エネルギー企業大手の日本瓦斯(ニチガス)だ。カーボンニュートラルの実現という社会要請を踏まえた取り組みで、2030年を目標に業界全体のCO2排出量を20年比で半減することを視野に入れている。

LP業界の関東圏では、約5000社に上る事業者が入り乱れてオペレーションを行う結果、非効率となっている。そこで22年11月から、「LPG託送」と呼ぶ同業他社向けサービスの提供を始めた。LPG託送の拠点となるのが、世界最大規模のLPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」(川崎市川崎区)。約40万の利用者獲得を目標にLPG託送市場の開拓と業界全体のCO2排出量削減に挑む。

基地に実装したのが、デジタルツイン技術。ガスの検針から充填に至る一連の工程で集めた各種データを仮想空間上のAIで分析・処理し、物流業務の効率化と最適化を追求している。客先のガスメーターには、IoT機器「スペース蛍」を設置し、1時間単位できめ細かく自動的にメーターの情報を取得できる。

企業活動に伴うCO2排出量は、自社から直接排出した「スコープ1」、間接的に出る「スコープ2」、サプライチェーンを通じて排出される「スコープ3」に分類される。

エネルギー利用の最適化へ スマートリモコン導入を視野

同社はLPG託送をスコープ1、3のCO2排出量削減につなげるなど、各段階の脱炭素化に注力。さらに顧客ごとに適したCO2排出量削減策も提案する。特に、ガスと電気の両方でお湯を沸かすハイブリッド給湯器は好調で、数量が約2年間で7倍に達した。同給湯器に電気自動車(EV)用充電器や太陽光発電などを組み合わせたセット販売にも力を入れる方針で、蓄電池や各機器を遠隔制御して家庭でのエネルギー利用を最適化するスマートリモコンの導入も計画中だ。吉田恵一・専務執行役員は「50年の『ネットゼロ』実現に向けて、各スコープの取り組みに段階的に力を入れていきたい」と意欲を示した。

全自動でオペレーションする充填プラットフォーム

【特集2】北陸で広がるカーボンオフセットガス 工業用の普及に向けて全力を注ぐ


強みを持ち寄って付加価値の高い事業に弾みをつけるAOIと岩谷。主力分野におけるガスユーザーからの脱炭素化ニーズに応えていく。

AOIエネルギーソリューション/岩谷産業

北陸・福井エリアを拠点に、自動車販売、ガソリンスタンドや自動社学校の運営など、自動車関連の総合商社として事業を手掛けるAOIグループ。

同じグループには、エネルギー関連ビジネスを手掛けるAOIエネルギーソリューションがあり、ガソリンや灯油などの石油製品やLPガス販売に加えて、電気の代理店業務や太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーなどのエネルギー事業に総合的に取り組んでいる。

2020年12月には、福井県内の企業としては初めて、グループで使用する電力を100%再エネ化する「再エネ100宣言」を出すなど、エネルギー分野の環境対策を積極的に打ち出している。

そうした中、AOIエネルギーソリューションが、LPガスの脱炭素化に本格的に着手した。今秋、同社は岩谷産業とともにカーボンオフセットLPガスの普及に向けた共同宣言を行った。岩谷産業による全国のLPガス販売ネットワーク「マルヰ会」の一員でもある同社が、年間に約750tのオフセットガスを岩谷から調達し、約2250tのCO2を削減する。

「近年、とりわけ工業用のお客さまからの脱炭素のニーズが高まっている。その要望に応えていく方針で、繊維工場や食品加工工場など5~6社の製造工場へオフセットガスの供給を開始する予定」(エネルギーサポート部)。いずれも、既存のLPガスユーザーへのオフセット化が中心だという。

重油ユーザーも多数存在 燃転を提案しオフセット化目指す

重油ボイラーからLPガスへの燃料転換によって環境対策を進めよう検討しているユーザーも多々あり、燃転に伴うオフセットガス化のニーズも高いと考えているそうだ。

ただ、同社と岩谷が扱うクレジットで生み出される環境価値はあくまでもボランタリーなもので、各企業の自主的な取り組みに過ぎない。そのため、「今後は(岩谷が手掛ける)『Iwatani J-クレジット』の活用を視野に入れている。お客さまがしっかりと公的な環境価値を享受できるようなガスを販売していきたい」(同)考えだ。

カーボンオフセットガスの普及共同宣言を行った

 

【特集2】 LNG活用が現実的な選択肢 革新技術の実装に向け前進


次世代の燃料市場を見据えて相次ぎ布石を打つ都市ガス大手。環境面の優位性を高めようと技術力に磨きをかける。

カーボンニュートラル(CN)の実現に向けたトランジション(移行期)に突入する中、石炭や石油からLNGに転換する取り組みが広がっている。燃料を切り替えるだけでCO2排出量の削減が進むからだ。燃料転換を促す都市ガス業界は並行して、水素とCO2から都市ガス原料のメタンを合成する技術「メタネーション」の実用化に向けた実証事業も加速しており、移行期を支える業界の存在感が増しそうだ。

多様な強みが再び評価 S+3Eを満たす手段

「カーボンニュートラル社会へのシームレスな転換をけん引したい」。今夏に東京都内で開かれたエネルギー関連の国際展示会「ジャパン・エネルギー・サミット」で、登壇した東京ガスの笹山晋一社長が移行期の戦略に触れ、LNGの高度利用やメタネーションの実用化に力を注ぐ決意を強調した。

東京ガスのメタネーション設備

【特集2】ガスは日本の重要な熱源 CNと安定供給へ業界挙げ努力


燃料転換やe―メタンの技術開発など、脱炭素に向けた動きを活発化させる都市ガス業界。日本ガス協会の内田高史会長は、時間軸とコストを考慮する重要性を強調する。

【インタビュー】内田高史/日本ガス協会会長

―2020年に、都市ガス業界の脱炭素社会への貢献に向けた「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を策定しました。進捗はいかがですか。

内田 経済産業省の省エネ補助金や環境省のSHIFT(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進)事業など、政策的な支援を受け、20~23年の4年間で業務用・工業用分野において約2000件の石炭などから天然ガスへの燃料転換が進みました。これにより増えた供給量は年間10億㎥。産業用都市ガス販売量は年間220億㎥ですから、その5%に相当する大きなボリュームです。また、CO2削減が難しいハード・トゥ・アベイト(Hard to Abate)産業の燃転・構造転換に対する補助金も今年度、新たに措置されました。これにより、天然ガスへの燃料転換がさらに進むことを期待しています。

―カーボン・オフセット都市ガスの取り扱い状況は。

内田 カーボンクレジットでオフセットするカーボン・オフセット都市ガスのニーズの高まりを受け、需要は伸びています。現在、35事業者が取り扱っており、供給先は384件に上ります。e―メタン(合成メタン)の社会実装までのトランジション期においては、ガスのカーボンニュートラル(CN)化の一つの手段と位置付けて導入を促進しています。

―将来の脱炭素化には、中小事業者の供給エリアでも燃転が欠かせません。

内田 大手の供給エリアで燃転需要が多いことは間違いありませんが、中小事業者のエリア近傍でも大きな需要が存在していますし、中には事業者が大規模投資しなければ進められないケースもあります。そうした場合には、大手と中小が合弁会社を設立しガスを供給するなど、共同で投資を行っています。

 他の化石燃料から天然ガスシフトすることは延命手段だという人がいますが、そうではありません。まず、天然ガス転換でCO2を削減しさらに将来、e―メタンに転換していくのですから、ネットゼロへの動きはむしろ加速していると言えますし、業界を挙げて燃転を進めていくことは国のCN戦略の流れに沿うものです。

設備の効率最大化 地域脱炭素を後押し

―燃転に加え、高度利用のためのコージェネや燃料電池の導入にも注力しています。

内田 意外と知られていないことですが、コージェネを発電設備として見ると、導入量は850万kWに達しています。そのうち、88万kWがこの4年間で導入されたものです。また、家庭用のエネファームは50万台以上普及していて、この4年間では17万台販売されました。コージェネ、エネファームとも、今後も導入量は増えていくものと見ています。

 大切なことは、設備が個別に導入されていることに加え、スマートエネルギーネットワークとしてエネルギーを面的に活用していくためのシステムの中にもコージェネや燃料電池が組み込まれているということです。複合化された用途の需要を組み合わせることで、設備の効率を最大化することができ、徹底した省エネにつなげられるため地域のCN化の取り組みを後押しする役割を担っています。

―地域によって脱炭素化への道筋は異なります。協会としてどうバックアップしますか。

内田 地方事業者は、地域のCN実現に向け、それぞれの地域特性に合わせた取り組みを進めています。脱炭素先行地域の共同提案者に名を連ねるなど、地域のCNに貢献しようと、どの事業者も真剣です。当協会では、さまざまな取り組み事例を取りまとめて情報発信することに加え、バイオガス・J―クレジットなどの勉強会を開催することで、各事業者が地域の事情に即した手段を地方行政に提案していく流れを作ろうとしているところです。

日本ガス協会が主催する地方事業者向け勉強会の様子