【覆面ホンネ座談会】行き詰まる再エネ政策 業界人が指摘する突破口


テーマ:2040年に向けた再エネ政策

政府が本腰を入れるFIT(固定価格買い取り)からFIP(市場連動買い取り)への転換や太陽光の集約化などは、狙い通りの成果を挙げられるのか。また、各社厳しい局面を迎える洋上風力政策へのテコ入れが、引き続き重要な検討課題となっている。

〈出席者〉 A 再エネ事業者 B 再エネ業界関係者 C コンサル

―再生可能エネルギーの市場統合や国民負担の軽減に向け政府はFIP転を促進するが、実際どう受け止めているのか。

A 政府の狙いは理解しているものの、実際は簡単ではない。FIPではプレミアム収入の予見性が低く、特に大型のプロジェクトファイナンスではレンダーとの交渉で難しい面がある。一方、アップサイドのチャンスも。詳細は後述するが、バランシングコストの支援があることに加え、併設蓄電池による収益向上、また好条件なPPA(電力購入契約)を獲得できれば、FITのままより収益が上がる可能性がある。

B 難易度は発電所の規模に左右される。大規模なら蓄電池併設でもペイするが、小規模は簡単ではない。小規模は事業規律などの課題が残る領域でもあり、問題が濃くなっていくことが懸念される。地上設置の低圧をいつまで増やすのか、そろそろ考えるべきかもしれない。また、国民負担が減るというけれど、蓄電池によるタイムシフトのプレミアムが大きくなる可能性もあり、ネットでみて逆のインパクトをもたらす展開もあり得る。

C やはり制度的に分かりづらい面がある。参照価格(市場取引などにより期待される収入)などの情報を事業者は使いこなせているのか、オペレーションに資する仕組みかというと疑問が残る。実際、FIP転をした電源は、FIT・FIPの3%程度に過ぎない。

いまだ各地で太陽光を巡るトラブルは多発。集約化などがプラスに影響するのか


インセンティブが不十分 不良アセットを集約しきれるか

―今春始めた「長期安定適格太陽光発電事業者認定制度」では、一定規模の事業集約を進めようとしている。

B 認定制度の目的をどこに置くかが重要になる。今の仕組みがインセンティブになるのかというと疑問だ。元々太陽光は、JPEA(太陽光発電協会)がカバーしているアセットの割合が小さく、業界での規律確保の体制に課題があった。その観点から、例えば新電力が小規模太陽光などを保有・管理するというのは、規律の面からも新電力の事業面からも効果的であり、環境省の脱炭素先行地域とも方向性が合致する。ただ、本制度は結局発電事業者に寄せる形へ。さらに審議会では「不良なアセットも集約させていくべき」との意見が出ていたが、必要な収益性が確保できなければ受け入れる事業者は株主に説明できない。そのためのインセンティブがなければクリームスキミングが起き、やはり残されたアセットの課題が濃くなるのではないか。

C 2012年から5年間の事業用太陽光の認定量は2900万kW程度で、これが退出すれば電力システムのバランスが崩れてしまうし、蓄電池が収益を確保する見込みがなくなってしまう。長期電源化は進めるべきで、今ある設備を卒FITとして残すことは重要だ。しかし、認定制度で売却希望者情報が3カ月早く見られる程度では、インセンティブといえない。また、特高から低圧までコミットできる事業者は限られ、特に低圧は忌避されがちだ。申し込みサイトが立ち上がり2カ月経つ中、そろそろ進捗を示してほしい。

A 引き取ろうと思える低圧はごく一部で、その下のボリュームゾーンは投資や補強が必要となる可能性が高い。また、適格事業者にはいつまでにどの程度の規模を引き受けるのか、義務ではないものの、目標を中計などに掲げ進捗をウェブ上で公表するよう求められる。例えば、追加投資などが必要な案件を需要家がPPAで高く評価する仕組みなど、再エネを減らさず使い続けることの社会的価値を示せなければ、この制度は機能しないのではないか。また、資源エネルギー庁は再エネの悪いイメージを変えるべくあえて厳しい規律を設けている。当然事業者も努力すべきだが、加えて政府には原発で行っているように、再エネでも人々の不安に向き合いイメージを払拭するような取り組みに注力してほしい。

高度化する現場の安全をサポート 6種類のガスを同時に検知


【理研計器】

理研計器はこのほど、1台で最大6種類のガスを同時検知できるガス検知器「GX―6100」の販売を開始した。担当する営業技術部の安藤史織係長は「従来機種の特性を継承しながら、作業員の利便性が向上することを念頭に製品化した」とアピールする。

具体的には、作業現場で一般的に測定する可燃性ガス、酸素、硫化水素、一酸化炭素に2種類のガスを加えた最大6種類のガスを同時に検知できる。可燃性ガスに関してはppmレベルの低濃度から爆発の危険性を示す%LEL(爆発下限界)、vol%といった高濃度レンジまで、広い濃度範囲を1台でカバーすることができるようになるなど、作業現場でのガス検知をより効率的かつ確実に行える仕様になっている。

Bluetoothで緊急事態情報を共有できる


独自開発のセンサーを搭載 長寿命化し3年保証を実現

この検知を支えるのが、独自の「Rセンサ」だ。同製品では主要な可燃性ガス、酸素、硫化水素、一酸化炭素の検知に採用した。保証期間は、従来の1年から3年へと大幅に延長され、長期にわたり安心して使用できる。さらに、VOCやアンモニアを含む15種類の多彩なラインアップから、用途に合わせて最大2種類のセンサーを選択搭載できる。これにより、幅広い現場での多様なニーズに対応可能となった。

従来機種から搭載するPID(光イオン化式)センサーは、680種類のガス濃度を直読できる。2016年から労働安全衛生法で事業所規模に関わらず化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントの実施が義務付けられている。この実施対象となる化学物資のうち約200種類を同センサーで計測できるのも特徴だ。

このほか、Bluetooth通信機能を搭載。スマートフォンと連携し、マンダウン(転倒)警報やパニック警報を遠隔で即時通知可能とした。作業者が単独行動中に倒れて動きが止まった場合でも、設定した連絡先に自動で通知され、迅速に対応できるようになる。

ガスインフラ現場では、作業の高度化が進み、測定機器にもより高い柔軟性と信頼性が求められている。1台で多様な測定に対応するGX―6100は、次世代安全管理のスタンダードとなっていくだろう。

柏崎刈羽「緊急時対応」を容認 再稼働の〝夏越え〟に地元は反発


再稼働に向けて残されたプロセスは、いよいよ「新潟県の同意」のみとなった。

内閣府と新潟県などは6月11日、柏崎刈羽地域原子力防災協議会を開き、重大事故時の避難計画などを定めた緊急時対応について、国の指針に照らして問題ないと確認した。緊急時対応の策定は再稼働の条件の一つで、首相をトップとする原子力防災会議で了承される見込みだ。

柏崎刈羽6号機は燃料装荷を行った(6月12日)
提供:朝日新聞社

10日には東京電力が6号機の燃料装荷を開始した。国や東電は今夏の7号機再稼働を想定していたが、実現はほぼ不可能となっている。花角英世知事が再稼働の判断材料の一つとする住民公聴会が、8月末まで行われるからだ。7号機は10月に特重施設の設置期限を迎えるため、関係者は秋以降に6号機を再稼働させる構想を描く。

花角氏は判断の材料として、公聴会のほかに首長との意見交換や県民の意識調査を実施する方針だ。新潟県選出の国会議員は「知事の立場は理解するが、プロセスはなるべく早くやったほうがいい」と注文を付けた上で、「再稼働は技術的な問題で専門的な見地からの判断を重視すべきだ。原子力規制委員会が容認するなら、それを政治が止める必要はない」と指摘する。

一方、地元・柏崎市の櫻井雅浩市長は意識調査の実施について「理解することが難しい」と反発。7号機の燃料装荷から一定期間、再稼働しなかったことで、同市への交付金は最大2億円の減少が見込まれている。地域活性化のために早く再稼働してほしい―。大手メディアは伝えないが、市民の声は「原発が怖い」だけではないはずだ。

【イニシャルニュース 】本心では再稼働容認 与野党の言葉の芸術


本心では再稼働容認 与野党の言葉の芸術

〈実効性のある避難計画の策定、地元合意がないままの原子力発電所の再稼働は認めません〉立憲民主党の参院選公約に盛り込まれた一文だ。一見、再稼働に厳しい姿勢に受け取れるが、それは言葉の妙。党幹部のS氏が明かす。「避難計画と地元合意があれば再稼働を認めるということ。野田佳彦代表の下で、政権交代可能な現実的な政党に生まれ変わろうとしているからね」

ただ「原子力発電所の新増設は認めません」との記述もあり、政府与党とは一線を画す。電力需要が増大する中で、原発抜きに脱炭素電源の確保は不可能だ。もし政権を奪取し、この方針を打ち出されたら業界としてはたまらない。政権政党への脱皮には、やはり党内左派が邪魔をしている。

S氏と同じような発言を、自民党議員のS氏からも聞いた。参院選で自民から新潟選挙区で立候補する中村真衣氏は「県民の安心安全が確保されない限りは再稼働すべきではない」と地元紙で主張。その真意は「安心・安全が担保できるなら、再稼働を止める必要はないということ。参院選もその原則を打ち出して戦うべきだ」(S氏)。

「技術的に難しいのが再エネ、政治的に難しいのが原子力」(元経産官僚)。原発の必要性は理解しつつも、いかに有権者の感情を刺激せずに政策を前進させるか─。与野党ともに苦心する様子が見てとれる。


HVDC計画に逆風 業界で高まる不要論

北海道と本州を結ぶ海底直流送電(HVDC)の整備構想が逆風にさらされている。資源エネルギー庁と電力広域的運営推進機関が中心となり2023年に策定した「広域連系系統のマスタープラン」に盛り込まれ、事業化のための検討が進められてきた。が、この間に①データセンターや半導体工場の建設ラッシュに伴う地域での電力需要増大、②資機材の高騰による建設コストの増大―といった環境変化があり、電力関係者などからHVDC不要論が高まっているのだ。

電力需要増大でHVDCは?

「マスタープランでは、北海道―東北―東京ルートの整備費用が約2・5兆~3・4兆円と試算されていたが、今やその範囲で収まるわけがない。もともと北海道や秋田の洋上風力の電気を首都圏に送るという目的があったわけだが、洋上風力自体のコストアップもあり、へたしたらHVDC経由の電力コストはkW時40円以上に。そんな高価な電気を誰が買うのか」(大手電力幹部A氏)

「北海道で電力需要増大の見通しが出てきた中では、むしろ道内の電気は道内で消費すべきだ。首都圏の電力需要には柏崎刈羽の再稼働推進やLNG火力の新増設などで対応する。そのほうが、よほど経済合理性がある」(新電力幹部B氏)

一方、学識者X氏は「経産省側は形を変えてでも直流送電を事業化したいのでは。コストを抑える意味では、青函トンネルを活用するという案も」と話す。さて今後の展開どうなるか。


S会が反原発団体に? Y氏が代表脱退の波紋

自然保護の観点から再生可能エネルギーの大規模開発に反対する住民組織、S会の全国大会が6月に開かれた。地域3団体がそれぞれの現状を報告。自民党参院議員のA氏とW氏が、同会の趣旨に賛同するビデオメッセージを寄せた。

実は、S会を巡っては昨年、幹部の間で一つの動きがあった。警察出身でS会の設立時から組織を引っ張ってきたY氏が、共同代表から外れたのだ。Y氏は再エネ開発反対の一方で、電力の安定供給と料金低廉化に資する原子力には賛成の立場を貫いていた。そこがS会に参加する自然環境保護団体との間で、意見対立などを引き起こす一因となっていたようだ。

「Y氏がいなくなったことで、S会の反原発色が強まることが懸念される」。電力関係者からはこんな声が聞こえている。

政府が核融合戦略を初改定 30年代の実証実現へ


海水に豊富に含まれる重水素やトリチウムを原料に、わずか1gで石油8t分ものエネルギーを生み出せる―。そんな「夢のエネルギー」とされる核融合発電の実現に向けた動きが、本格化している。

政府は6月4日、2023年に策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を初めて改定し、「世界に先駆けた30年代の実証を目指す」と明記。年内に工程表を取りまとめる方針を打ち出した。

国内最大級のプラズマ実験装置「JT-60SA」(茨城県那珂市)
提供:共AFP=時事

改定された戦略では、民間企業や大学、主要研究機関の連携を軸とした技術開発体制の構築を掲げ、内閣府にタスクフォースを設置することも盛り込んだ。国が長期ビジョンを示し、開発を主導することで、民間投資の呼び水としたい考えだ。

背景にあるのは、米国や中国を中心に加速する国際開発競争の激化だ。仏国で建設中の世界最大級の実験炉「ITER(イーター)」にも、日本はプラズマ磁場予測といった先進技術で貢献してきた。そうした技術的実績を持つがゆえに、政府内では「この分野で日本が遅れるわけにはいかない」との声が強まり、追随姿勢が鮮明になった。

とはいえ、課題が一朝一夕に解消するわけではない。1億℃を超える超高温プラズマの安定制御など、技術的ハードルは依然高いままだ。原子力関係者からは「実現性が定かではない核融合にリソースを割くくらいなら、技術が成熟している革新軽水炉の新設や高速炉の開発に注力したほうがよほど効果的ではないか」と冷静な意見も。夢か現実路線か―。国のエネルギー戦略が問われている。

天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは


【気象データ活用術 Vol.4】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

今週末は野外フェスに行く―こんな予定があると、多くの人は週末の天気が気になるはずだ。そこで気象庁のウェブサイトを見にいくと、3日目以降の天気予報に信頼度という情報が付加されていることに気づくだろう。

この信頼度という情報は、雨が降るか・降らないか(降水の有無)の予報において、「予報の適中しやすさ」と「予報の変わりにくさ」を表しており、確度が高い順にA・B・Cの3段階で発表されている。もし週末の天気が「晴れ時々曇り」でも信頼度Cの場合、予報に反して雨が降ってしまう可能性、もしくは雨が降る予報に変わってしまう可能性が(信頼度Aに比べて)高いことを意味している。逆に信頼度Aの場合は、雨の心配があまりないことになる。もちろん予報なので当たらないこともあるが、信頼度Cに比べたら予報が外れることは少ない、ということだ。

台風進路のアンサンブル予報の例
提供:気象庁ウェブサイト

気象予測技術は日進月歩であり、気象研究者は予測精度向上のための研究を絶え間なく続けている。しかしそれでも気象予測から不確実性がなくなることはない。ではビジネスにおいて、そのような不確実な情報をもとに意思決定をすることは悪手だろうか。筆者も気象を専門とする一人として、その考え方は明確に否定しておきたい。そう言えるくらいに現代の気象予測精度が高いことは事実であり、何より使わないともったいない。

不確実性を伴う気象予測をビジネスで活用する場合、個々の予測の当たり・外れに過度に固執するよりも、長期的に見てベネフィットがあるかどうかに着目することが得策だ。また個々の予測についても、確率予測を活用することで利益の期待値を計算したり、リスクを定量的に評価したりできるなどのメリットがある。このような確率予測や、先述の信頼度のような情報を作成するために活用されているのが、アンサンブル予報と呼ばれる数値予報技術だ。

前回のコラムでは、数値予報の弱点として「予報時間が進むにつれ初期値に含まれる誤差が非線形に拡大してしまう」ことを述べた。そこであえて少しだけ異なる初期値を複数作成し、複数の予測計算を行い、複数の予報を得る手法がアンサンブル予報だ。複数の予報を解析することで、予報の平均やばらつき(誤差の拡大の程度)といった統計的な情報を抽出したり、気象現象の発生を確率的に予報したりすることが可能となる。このようなアンサンブル予報は、先述の信頼度や降水確率の算出に活用されるほか、台風の進路予報や予報円の大きさを決める際にも活用されている。

エネルギー分野におけるアンサンブル予報の活用を見ると、産総研などの研究機関にて、日射量予測にアンサンブル予報を活用する研究などが行われているが、ビジネスにおいてはまだまだ未開拓といえる。アンサンブル予報を電力需要予測や再エネ出力予測に活用することで、より高度な計画値作成も可能となるだろう。アンサンブル予報のデータ活用には専門性も必要であり、ぜひ気象の専門家の協力も仰いでいただきたい。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

エネ庁がガスシステム改革検証 地域インフラの課題解決が焦点に


「今後のガスシステム改革の検証で焦点となるのは、地域エネルギーインフラが直面する課題解決だ」。こう見解を示すのは、ガスシステム改革全体を検証する資源エネルギー庁の審議会「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」の下に新設された、「ガス事業環境整備ワーキンググループ(WG)」の座長を務める山内弘隆・武蔵野大学特任教授だ。

地域のエネルギーインフラをどう維持していくのか

ガスシステム改革は、①安定供給の確保、②ガス料金の最大限抑制、③需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大、④天然ガス利用方法の拡大―を目的に実施され、2017年の小売り全面自由化以降、首都圏や関西圏を中心とする都市部で新規参入が進んだ。一方、地方では人口減少や高齢化による担い手不足などの課題に直面。ガス事業者にとっては、老朽化した設備の維持やメンテナンス体制の確保が重要な経営課題となりつつある。また、地域に関連する政策議論は、「石破茂首相の関心を引きやすい」と見る向きがあり、今後の展開に追い風となる可能性もある。

WGは7月から本格的な議論を開始し、導管部門の法的分離から5年後に当たる27年3月までに検証をまとめる予定だ。なお、地域の課題解決に関心を示していたエネ庁ガス市場整備室の福田光紀室長が、7月1日付で異動。新室長の迫田英晴氏がかじ取りを行うことになる。

簡易ガスやLPガスなどを含め、事業者単独では維持が困難になりつつある地域のエネルギーインフラをどう支えていくのか。本来は自治体も絡めた総合的な議論が求められる。

e—メタン試験施設をスケールアップ カーボンニュートラル化へ前進


【大阪ガス】

大阪ガスはe―メタンの導入拡大に向け、SOECメタネーションの試験施設を竣工した。

軸となる電解装置やメタン合成プロセスでの課題を抽出し、30年度までの技術確立を目指す。

今使っている都市ガスがいつの間にかカーボンニュートラル化されていく―。そんな未来を実現する鍵となるのが、「e―メタン」の社会実装だ。大阪ガスではその実現に向けて、既存技術であり大規模化に取り組むサバティエ方式、下水汚泥や廃棄物などを活用するバイオ方式メタネーションの開発・実証を進めてきた。そして同社が並行して力を入れているのが、世界最高水準のエネルギー変換効率を実現するポテンシャルを秘めた「SOECメタネーション」の技術開発だ。

SOECの要となる電解装置

SOECメタネーションは、水やCO2を700~800℃の高温下で電気分解し、得られた水素やCO(一酸化炭素)からCH4(メタン)を製造する。サバティエなどの従来方式が水素生成とメタン合成を別々のプロセスとして行い、各プロセスでエネルギーロスが生じるのに対し、SOEC方式ではメタン合成で発生する排熱を前段の電解プロセスに再利用でき、システム全体のエネルギー効率を大幅に高められるのが特長だ。投入した再生可能エネルギーをどれだけメタンに変換できるかを示す変換効率は、従来方式が60%程度に留まるのに対し、SOEC方式では85~90%を実現できる可能性がある。


試験スケールは100倍に 電解・熱除去能力の向上へ

同社がSOECメタネーションの技術開発に本格的に乗り出したのは2022年。産業技術総合研究所とともに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業に採択されたことを受けたものだ。

ラボスケール、ベンチスケール、パイロットスケールの3段階で開発を進める計画で、30年度までの技術確立を目指している。昨年から実証していたラボスケールでの試験を終え、現在は製造規模が100倍となるベンチスケール段階に移行中。このほどベンチスケール試験施設が完成し、6月3日に竣工式が行われた。

竣工式の様子

ベンチスケールでの試験は27年度までを予定。この段階では水素生成とメタン合成の両工程において、高温下での制御やスケールアップに伴う課題の抽出が求められる。大阪ガス先端技術研究所SOECメタネーション開発室統括室長の大西久男氏は、具体的な技術課題として「高温電解装置の大型化」「メタン合成装置における熱除去能力の向上」の2点を挙げる。

今回のスケールアップにより、これまでは一般家庭2戸分であったe―メタン製造量は、200戸相当へと拡大する。このe―メタンのもととなる水素を生成する高温電解においては、固体酸化物を用いた電気分解素子(セル)を積層した「セルスタック」を複数設置し、電気分解を均一に行う必要がある。そのためには、原料の水蒸気などを安定的かつ均一に供給するシステムの構築が不可欠となる。

一方、メタン合成反応においては、発生する排熱を効率的に除去し、装置内の温度上昇を抑えながら、この熱を電解に有効利用する仕組みの開発が重要な検討項目となる。大西氏は、「製造規模が拡大しても、ラボ段階で得られた効果がそのまま再現できるか、しっかり検証していく必要がある」と強調する。

太陽光リサイクル法案の迷走 問題点を徹底解説


【業界紙の目】濱田一智/化学工業日報 編集局記者

環境省と経産省が、今国会への太陽光パネルリサイクル義務化に向けた法案の提出を見送った。

有識者会議が取りまとめた義務化の在り方について、内閣法制局が待ったをかけた顚末を解説する。

使用済み太陽光パネルのリサイクルを義務化するための法案が暗礁に乗り上げている。環境省と経済産業省は今年の通常国会への提出を念頭に、素案を練り上げパブリックコメント募集まで済ませていたものの、内閣法制局から「他のリサイクル法令との整合性が取れない」と物言いがついて5月半ばに断念。石破内閣は秋の臨時国会での成立を目指すが、法制局を説得できないと今回の二の舞になる。では整合性とは何を指すのか。

前提として、現行制度ではパネルをリサイクルする義務はない。業務用パネルの所有者(=発電事業者)には、廃棄物処理法により「適切な処理」が求められるが、コストを理由に大半が埋め立て処分される。ところが、このままではあと10年ほどで処理場がひっ迫し始める恐れがあり、パネルに含まれる有害物質が漏れ出す懸念も拭えない。そこで新法を制定し、パネルのリユースやリサイクルを推奨あるいは義務化すべきとの意見が続出。新法制定に向けた有識者会議が発足した。

有識者会議で挙がった論点は多岐にわたるが、とりあえず押さえておくべきは、①誰がリサイクルの義務を負うか、②義務化の対象となるパネルはどこまでか―という2点だ。最初に、論点①「リサイクル義務の主体」について、家電、自動車、容器包装(その典型がペットボトル)に関する各種法令と比較しながら検討する。

パネルのリサイクル義務化は急務だ


義務化の対象範囲 「既設までカバー」が物議

まず、家電や自動車では、メーカーが自らリサイクルを実施する必要がある。ただし、自動車なら購入時に、家電なら廃棄時に、所有者がリサイクル料金を支払う必要がある。以上が家電リサイクル法と自動車リサイクル法のルールだ。

一方、ペットボトルでは、飲料や容器のメーカーが自らリサイクルを実施する必要はない。その代わり、メーカーは日本容器包装リサイクル協会(容リ協)にリサイクル料金を支払う必要がある。リサイクルを実施するのは専門業者で、要リ協を介して業者へ料金が流れる仕組みとなる。以上が容器包装リサイクル法(容リ法)のルールだ。

つまり、家電と自動車についてメーカーはリサイクルを実施する責任(=物理的責任)を負い、ペットボトルについてメーカーはリサイクル料金を負担する責任(=金銭的責任)を負う。このように「メーカーが(生産・使用の段階だけでなく)廃棄・リサイクルの段階でも物理的または金銭的な責任を負う」という考え方を、環境経済学などの専門用語で拡大生産者責任(EPR)と呼ぶ。

EPRを正当化する根拠の一つが、「メーカーに環境配慮設計を促すから」という理屈だ。「最終的にリサイクルしなければならない圧力を与えられたメーカーは、最初からリサイクルしやすい製品をデザインすることになるだろう」と説明される。

LNG火力構内にDC検討 制度的課題は今後整理へ


データセンター(DC)の建設ラッシュを迎えている東京湾岸エリアで、新たなDCモデルの動きが浮上している。JERAのLNG火力発電所構内にさくらインターネットのDC新設を検討することで基本合意書を締結したと、両者が6月5日に発表した。

DCを巡る既存火力の活用が論点に浮上している(写真は五井火力)

ポイントは、JERAの火力構内の発電設備から系統を介さずにさくら社のDCに電力を直接供給すること。具体的な地点はまだ明かされていない。

DC向けの電力需要が急増中の千葉県印西市では系統増強が進みつつも、連系プロセスの混雑といった課題が表面化。その点、DCへの直接供給が実現すればこうした課題の解消につながり、増強費用や託送料金を負担せずに済む可能性がある。

ただ、制度的な障壁の整理は必要だ。米国では、DCが隣接する原発などから直接供給を受ける「併設負荷」を巡り、発電&DC側と、系統運用者との意見が対立。前者は先述のようなメリットを享受したい考えで、後者は系統信頼度や費用負担面での悪影響を指摘する。

JERAは制度上の障壁に関して、電力と通信の効果的連携の在り方を検討する「ワット・ビット連携官民懇談会」の動向を踏まえつつ、政府や東京電力パワーグリッドと議論するとしている。なお、同懇談会は6日に第一弾の取りまとめを提示。足元の需要に対応する上で、「系統余力・既設設備の有効活用」を掲げ、「電力系統余力があるエリアや発電所の隣接地など、早期に電力インフラが活用可能な場所へのDC立地促進」を提起している。

アジアの中核市場へ 急増する電力先物の取引量


【マーケットの潮流】高井裕之/国際ビジネスコンサルタント

テーマ:電力先物市場

電力価格の市場リスクの高まりを背景に、先物取引が活況を呈している。

今後、長期的な取引も可能に。事業者のリスクヘッジの選択肢がさらに広がろうとしている。

わが国の電力先物の取引量が急増している。筆者が日本法人の代表を務める欧州エネルギー取引所(EEX)が運営するJapan Power(日本のスポット電力市場の月間平均価格を参照して差金決済する金融商品)の出来高は、昨年1~12月合計で前年比4倍の73‌TW(1TW=10億kW)時、3月単月では過去最高の13・6TW時を記録するなど活況を呈している。

日本全体の電力消費量が月間平均約70‌TW時とすれば、5年弱で実需給の2割弱の規模に成長したことになる。取引所で売買される日本電力先物全体に占めるEEXのシェアは、24年合計で99%と極めて高く日本全体の市場規模が拡大していると言っても過言ではない。

Japan Powerの取引量の推移

電力自由化後、価格は需給に基づき事業者間の競争で決まることになり大きく変動するようになった。先物取引は、不確実な将来の価格をあらかじめ固定化することで経営を安定化させる効用がある。その急拡大には二つの要因がある。一つは、価格の不確実性の高まりだ。価格を左右する需給バランスは、地球温暖化に伴う天候の激化・不安定化と再生可能エネルギー普及による発電量の天候依存度の高まりによって加速度的に不安定になっている。

スポット電力市場(日本卸電力取引所:JEPX)の一日前市場(東京エリア)の価格を見ると、今年4月各日の午前9時から9時半までの30分だけを捉えても、1kW時当たり0・01円から20・42円までの振れ幅があった。同市場から電力を調達する小売事業者が相場変動を回避するには、販売価格を市場に連動させて最終需要家にリスクを転嫁するか、調達価格が高騰してもマージンが残るような高い販売価格を設定せざるを得ない(その場合には販売競争に負けることもある)。しかし、電力先物を買うことであらかじめ調達価格を安く確定することができれば、その価格を基準に販売価格を設定することで経営を安定させるとともに、競合に対して優位に立つことができる。


活況の要因の一つ リスクテイカーの思恵とは

もう一つの要因は、取引参加者の多様性、特にリスクテイカーの存在だ。EEXの日本電力先物市場には、国内の電力事業者に加え、海外の石油ガスメジャー・資源系商社・金融プレイヤー、そして欧州などの電力事業者が多数参加している。海外勢の多くは、国内で発電したり現物の電力を販売したりする実需筋ではなく、市場でリスクを取りながら「ペーパー電力」を収益化すべく売買するリスクテイカーである。一見、彼らの利益追求と捉えられがちだが、実は国内市場にとっても少なからぬ恩恵をもたらしている。

発電事業者であれば発電原価、小売事業者であれば最終需要家に対する販売価格が先物価格の妥当性を判断する主な基準となる一方、リスクテイカーは発電燃料などの先物価格との相関性や精度の高い天候データ分析に基づく需要予測など、実需筋とは異なる観点から妥当性を判断して売買する。

先に小売事業者が先物を活用する例を挙げたが、取引が成立するのは、彼らが安いと思った価格を逆に高いと考え、売り手に回る相手がいるからである。この場合の取引相手は同じ目線を持つ小売事業者ではなく、発電事業者であったり、リスクテイカーであったりする。一般的にリスクテイカーには投機筋を連想させるネガティブな印象がつきまとうが、株式でも為替でも市場が活性化して流動性が生まれるにはその存在が不可欠であり、彼らが取引相手になるからこそ、実需筋が先物によるリスクヘッジを行うことができる。

加えて、多様な参加者が加わることで市場価格がより透明性のある指標として機能しやすくなる。価格の質の向上は、小売事業者の調達コストや発電事業者の売電収入に見通しを与え、結果として最終需要家への価格安定や発電投資の最適化にも寄与する。グローバル資本の参入が、巡り巡って日本の家庭や企業の電気代に間接的な安定効果をもたらし得る。

50年ビジョンを策定し具体策明示 顧客目線で都市ガス業界の未来像描く


【日本ガス協会】

2050年の都市ガス業界のビジョン、その実現に向けた30年までのアクションプランを策定した。

S+3Eを重視しつつ、顧客にとって最適なソリューションを提供する姿を明確にした。

日本ガス協会は6月3日、2050年に向けた都市ガス業界の長期ビジョン「ガスビジョン2050」を公表した。サブタイトルに「お客さまにとっての最適なソリューション提供を目指して」を掲げ、顧客目線を重視するとともに、中小を含む全ての都市ガス事業者が主体的に取り組めるよう意識。20年11月策定の長期ビジョン「カーボンニュートラル(CN)チャレンジ2050」がCN化に焦点を当てていたのに対して、今回はS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)とのバランスをより考慮している。

ビジョンとアクションプランの概要
出典:日本ガス協会


多様な手段でCN達成 技術進展などに応じ変更も

新たにビジョンを策定した背景には、地政学リスクの顕在化などの環境変化を踏まえて、政府がエネルギー政策の方向性を見直したことがある。2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、S+3Eの観点をこれまで以上に重視し、天然ガスをCN実現後も重要なエネルギー源として位置付けた。そして、50年の都市ガスCN化へ、e―メタンやバイオガスの導入など、さまざまな手段を組み合わせて実現を図ることを明記した。こうした政策動向に歩調を合わせた形だ。

ガスビジョンは、①災害に屈しない社会・産業・地域の構築に尽力する、②お客さまに選ばれ続けるソリューションを提供する、③お客さま・地域のCN化実現に貢献する―の三つの

個別ビジョンで構成している。具体的に①では、レジリエンス(強靭性)を確立するために事業者設備の完全耐震化を目指すとともに、次世代スマートメーターなどのセンサーネットワークを活用した予知保全により、事故ゼロを追求。合わせて、設備の経年劣化に備える計画的な設備改修などを継続して推進し、「変わらぬ安心」を提供する。また、エネルギーセキュリティの向上を図るため、エネルギーの安定調達に加え、ガスと電力のベストミックスにより、柔軟かつ強靭なエネルギーインフラの構築を目指す。

②では、コージェネや再生可能エネルギーなど多様なリソースと、AI・DXを活用した高度な制御技術により、エネルギーシステム全体の進化を図る。さらに、e―メタンやバイオガスの供給、地産地消の取り組みなどを通じて地域のCN化を推進するほか、地方創生や地域経済の循環に貢献する仕組みを構築する。また、既存インフラや設備を最大限活用するとともに、CN関連技術のコスト低減を図り、経済的かつ安定的な供給を実現する。

③では、50年のガスのCN化実現とその手段として、e―メタンとバイオガスで90~50%程度と幅を持たせ、残る10~50%程度はCCUS(CO2回収・貯留・利用)やDAC(直接空気回収)、カーボン・オフセットなどを組み合わせた天然ガスで対応。残る数%程度は水素直接供給を想定している。日本ガス協会の内田高史会長は「CN達成に向けて、その時々の最適な手段を組み合わせるのが基本的な考え方だ。各比率は技術開発の進展度合いなどによって変わっていく」と説明した。

イスラエル・イランの12日間戦争 米国の核施設攻撃受け停戦


12日間にわたって続いたイスラエルとイランの軍事衝突が6月24日、米国によるイラン核施設3か所(フォルドー、ナタンツ、イスファハン)への攻撃を契機に終結した。米軍が地下貫通爆弾(バンカーバスター)で攻撃したフォルドーは山をくりぬいた地中奥深くにウラン濃縮施設がある。これまでのイスラエル軍による空爆では破壊できていなかった。米軍はB2ステルス爆撃機を6機出撃、バンカーバスターを14発投下した。他の2施設には、中東海域に展開中の原子力潜水艦が、トマホーク巡航ミサイルをあわせて30発を撃ち込んだ。

イランの攻撃を受けたイスラエル中部ヘルツリーヤ(6月17日)。米国の参戦によるホルムズ封鎖懸念などで一時はエネルギー供給への不安が強まった

「一部報道などによれば、攻撃によって破壊されたウラン濃縮施設については、復旧までに数年はかかるとみられている。トランプ氏は25日、オランダ・ハーグで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議閉幕後の会見で、「核兵器は不要だ」とイランに核開発を断念させる考えを表明し、対イラン制裁を緩和する可能性も示唆した。一方、イラン政府側は、核開発の断念を拒否する構えを見せており、対立の火種は依然くすぶっている。


イラン核武装が間近に? 米国が参戦した背景

国際原子力機関(IAEA)によると、イランは5月17日時点で、408・8㎏の60%濃縮ウランを保有。これを90%にまで濃縮すれば、核爆弾10発分に相当する。爆弾の組み立ても「3週間程度」で十分と見られており、核武装が間近に迫っているというのがイスラエルや米国側の見立てだ。

ただハメネイ師は、核兵器の製造や取得を禁じる宗教令を2003年に発出している。米情報機関もこれを根拠に、現時点では「イランは核兵器を開発していないし、持っていない」と見ており、両国の見解は「前のめり」気味と言える。03年のイラク戦争時は終結後に同国の核保有が確認されなかった。

IAEAのグロッシ事務局長によると、ナタンツはイスラエルの空爆で「深刻な被害」を受けた。一方、2264機の遠心分離機が稼働し、毎月、核爆弾1発分に相当する60%濃縮ウランを製造するフォルドーは破壊に至らず、イスラエル側は米国に参戦を働きかけていた。

トランプ氏は当初、「米兵にミサイルを撃ってほしくない」と述べるなど慎重な姿勢を示していた。だが、イスラエルがイランのミサイル基地をことごとく破壊し制空権を握ったことに加え、急派した2隻目の米空母も中東海域に入り準備が整った。また、ネタニヤフ首相が「歴史に名を残すのは、あなただ」などとトランプ氏の虚栄心をくすぐり続けたことも影響し、参戦に動いたとの見方もある。

こうした情勢下、WTIの原油価格は米国のイラン攻撃後に75ドルを突破。万が一ホルムズ封鎖となれば、100ドルを突破するとの観測もあったが27日現在は65ドル前後で推移している。

電力システム再構築へ議論始動 産業政策との一体的推進が必要に


検証で課題とされた安定供給の確保に向け、具体的な検討項目が示された。

DX・GXで電力需要増加が見込まれる中、システムを立て直すことはできるか。

約1年にわたる検証を経て、資源エネルギー庁は電力システム改革に関する議論を再始動させた。エネ庁は新たに、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス事業分科会の下に、「次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会」を設置(委員長=大橋弘・東京大学副学長)。その下に、制度設計の詳細を検討する「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(WG)」を立ち上げ、6月13日に第1回会合を開いた。

改革の目的だった「安定供給の確保」「電気料金の最大限抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」のうち、需要家の選択肢と事業機会の拡大では一定の成果があったものの、国際情勢や社会環境の変化に伴い、市場価格や需給の予見可能性の低下などを巡るさまざまな課題が顕在化した。今後は、AI活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)に伴う電力需要の増加などに柔軟に対応できる、次世代のエネルギーシステムの構築が急務だ。

次世代のシステム構築に着手した


電源投資の予見性低下 国の支援策の行方は?

特にこの10年の間、電源投資は停滞の一途をたどってきた。2016年の小売り全面自由化以降、小売り電気事業者には供給力確保義務が課されたものの、実際の調達は限界費用ベースの短期市場(JEPXスポット市場)に偏重。FIT(固定価格買い取り制度)による再生可能エネルギーの拡大もあり、燃料調達の予見性が著しく損なわれたほか、稼働率の低下で既存火力が不採算化。その結果、多くの電源が市場から退出する事態を招いた。

昨年には供給力(kW)を確保する仕組みとして容量市場の実需給期間が始まったが、新規の電源投資はおろか、退出に歯止めをかける効果すら不確かだ。原子力を含め大型電源の建設や運営には、長期的な資金調達が必要であり、その予見可能性がファイナンスに大きな影響を与える。原発を巡る規制リスク、そして脱炭素化社会への移行と経済性の低下という火力を巡る不透明感が増す中で、ファイナンスの観点からも電源投資環境は厳しさを増す。

WGでは、安定供給と脱炭素化の両立を目指し、電源投資環境の整備を検討事項の柱の一つに据えている。具体的には、燃料調達の予見性を高めるため、先物市場や先渡し市場、相対卸取引などによる中長期取引を活性化することや、さらには電力投資に対するファイナンスを円滑化するための支援などが検討されることになる。

これまで市場依存を許容してきた小売り事業者に対しても、より長期の契約期間の取引を求めるなどの規律を強めていく方向だ。だがこの効果の程については、小売り事業者側から懐疑的な声が聞こえてくる。

【東邦ガス 山碕社長】ガス事業を主軸に新事業への投資を加速 将来の成長への礎築く


新たな中期経営計画のスタートと時を同じくして4月1日に東邦ガス社長に就任した。

奇をてらわず、地道に愚直に仕事に向き合う姿勢を貫き、将来にわたって顧客の信頼を獲得し得る企業風土を醸成し成長し続けるための礎を築く。

【インタビュー:山碕聡志/東邦ガス社長】

やまざき・さとし 1986年名古屋大学経済学部卒、東邦ガス入社。2107年執行役員、20年常務執行役員、22年取締役専務執行役員などを経て25年4月から現職。

井関 4月1日付で社長に就任しました。どのような打診があったのでしょうか。

山碕 1月上旬に冨成義郎・前会長(現相談役)と増田信之・前社長(現会長)に呼ばれまして、「そういうことで、よろしく頼む」という話がありました。突然のことでしたし、私としては覚悟を固める時間が必要でしたので「ちょっと考えさせてもらいたい」と返答し、翌日「改めてよろしくお願いします」と承諾の意向を伝えました。

井関 東邦ガスに入社した経緯をお聞かせください。

山碕 経済学部を卒業し、技術的な素養があったわけではないので、最初からガス会社に就職しようと決めていたわけではありませんでした。「BtoB」の企業は何をしているのかあまりイメージできなかったので、金融機関やガス会社など一般消費者向けにサービスを提供している企業を中心に活動していました。最終的な決め手は、地元への愛着とこの地域の発展に貢献したいという気持ちであったと記憶していますが、その思いは今も変わりません。

井関 入社後はどのようなキャリアを歩んできましたか。

山碕 事務系の社員はまず、営業現場に配属されることが多く、私もそうでした。その後は企画、財務、営業と三つの部門に籍を置くことが多かったです。若い頃には、日本エネルギー経済研究所に出向したり、研修として10カ月ほどアメリカに滞在したりといった時期もありました。


実直に取り組む大切さ 最初の配属先で痛感

井関 会社人生で最も印象深かった仕事や出来事はありますか。

山碕 何と言っても入社直後に営業部門に配属され、社員として初めてお客さまと接点を持った時ですね。東邦ガスという会社がどのように見られているのか肌で実感し、まっとうに仕事に取り組んでいかなければならないと決意を新たにする機会となりました。

井関 それは、公益事業者としての責任感が芽生えたということでしょうか。

山碕 それももちろんありますし、決められたことに実直に取り組むということが当社の社風であるということを実感したことが大きいですね。仕事を進める上で問題が起きたとしても、テレビドラマのような奇想天外な解決策などはありません。日々の仕事にしっかりと取り組むこと、そしてお客さまに真摯に向き合うことの重要性など、当たり前のことに地道に愚直に取り組む大切さを感じました。

知多火力の完成予想図。同社初の大型電源となる

井関 カーボンニュートラル(CN)やエネルギーの自由化など、事業環境は目まぐるしく変わってきましたが、安定供給の大切さが改めて認識され、都市ガス会社にとっては天然ガスの普及拡大が、引き続き重要な取り組みとなりそうです。

山碕 その通りですね。当社に与えられている社会課題といいますか、求められている期待はさまざまあります。その時その時で比重の軽重はありますが、これまでも安全・安心、安定供給性、経済性、直近ではCNへの貢献を評価されてきたのですから、今後もどれか一つに偏るのではなく、多角的な視点を持ち、S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)のバランスを常に意識しながら取り組んでいかなければならないと思います。

少し前までは、水素や太陽光だけでCNを実現できるという風潮がありましたが、手掛けている側からすればそう簡単なことではありません。CNに向けた世の中の動向が読み切れず、ガスや火力発電への投資を決定しにくい時期もありました。今は国の政策、米国や欧州の情勢を見ても、一時のCN一辺倒から様相は変わってきたという印象です。とはいえ、50年を見据えていろいろ手を打っていかなければならないことに変わりありません。一足飛びにCNを目指そうとすると、S+3Eのバランスを損なうマイナスの事象が起きてしまいますので、その移行期に何にどう取り組むかの議論が引き続き重要だと考えています。