原子力の未来のために! 「設工認」取得へ士気高く


【電力事業の現場力】日本原燃労働組合

多くの組合員が体育館に詰めて審査対応に全力を注ぐ。

精神的負荷が大きい業務だが、モチベーションは高い。

猛吹雪で視界が遮られる中、青森県の三沢空港から北上すること1時間。突然、巨大な建物が見えてくる。日本原燃の原子燃料サイクル施設(六ヶ所村)だ。わが国の原子力政策の中核施設として、1993年に着工した。現在、再処理工場と混合酸化物(MOX)燃料工場は新規制基準適合に向けて審査中だ。電力会社やメーカーからの出向者を含む約400人が、本社前の体育館を執務室として設計および工事計画認可(設工認)取得のためオールジャパン体制で戦っている。

体育館で審査対応に当たる

審査対応は地道で根気がいる業務だ。原子力発電所の審査が地震(断層)や津波関連で長期化しやすい傾向があるのに対し、再処理工場は膨大な設備の安全対策がメインとなる。前処理・分離・精製・脱硝と複数の工程で放射性物質や薬品を扱うため、発電所とは異なる対策が求められる。

例えば万が一、安全重要度が高い建物、設備の近傍に航空機が墜落したらどうなるか。燃料が満タンだった場合の燃焼時間や温度は……。さまざまな角度から精度の高い安全対策の検討を行い、薬品タンクの地下化、冷却塔の竜巻対策など安全対策を講じてきた。約2万5000の機器の安全をどう確保するか。長く険しい道のりだが、協力会社も含め多くの技術者が日々努力を続けている。

ウラン濃縮工場は運転を再開

厳しい労働環境の中で原燃労組が行った直近のアンケートでは、組合員のモチベーションの高さが明らかになった。「設工認を得られなければ会社の将来はない」という使命感が、審査対応を担う組合員を奮い立たせている。一方、4年前の調査と比べると組合員の疲労感が増しているという。休みは取れているが、精神的な負担からか「疲れが抜けない」といった回答が目立った。原燃労組は技術継承の観点から、人材の維持・定着に大きな課題認識を持っている。今後も労働環境を注視し、組合員の声に耳を傾けていく。


地域に誇れる会社に 多くの仲間に支えられ

労組の重要課題の一つである春闘を巡っては、再処理工場、MOX燃料工場のしゅん工時期変更による影響を懸念する声が挙がっている。

建設中のMOX燃料工場

一方で、埋設事業では低レベル放射性廃棄物を定期的に受け入れている。また2023年8月にはウラン濃縮工場が運転を再開した。「組合員が抱いている不安を希望に変えていかなければならない。そのためには、労使でしっかりと会社の魅力を高めていく必要がある」。有馬文也本部書記長は切実な思いを口にする。何よりも、組合員が会社の存在意義について、自信と誇りを持ち続けられる職場であることが重要だ。「組合員が親、知人、地域の人々から『原燃に入って良かったね』と言われ、日本にとってなくてはならない事業だと理解してもらえるよう、研さんを積んでいかなければならない」(有馬氏)

低レベル放射性廃棄物の3号埋設施設

「原子力の未来のために共に頑張りましょう!」。原燃労組の事務所の壁には、悲願の再稼働を果たした他電力の原子力部門からの寄せ書きが張られていた。多くの働く仲間に支えられながら、再処理工場は26年度中、MOX燃料工場は27年度中のしゅん工を目指す。

身を切られるような寒風に吹かれながらも、組合員がくじけることはない。

【北陸電力/松田社長】未曽有の災害乗り越え 地域の持続的な発展と社会課題の解決に貢献


2024年に石川県能登地方を襲った地震と豪雨災害。

復旧・復興へは道半ば、エネルギーの安定供給という使命を果たしつつ、
地域の持続的な発展に貢献。

災害の知見を踏まえ、脱炭素化など社会課題解決に取り組む。

【インタビュー:松田光司/北陸電力社長】

まつだ・こうじ 1985年金沢大学経済学部卒、北陸電力入社。営業推進部長、エネルギー営業部長、石川支店長などを経て、2019年6月に取締役常務執行役員。21年6月から現職。

志賀 2024年元日の「令和6年能登半島地震」発生から1年が経ちました。復旧作業を記録した映像「電気を送り続けるために」を視聴しましたが、復旧の最前線で皆さんがどのような思いでおられたのか、よく伝わってくるものでした。

松田 北陸電力グループの社員と協力会社、他電力から応援に駆けつけてくれた皆さんが、過酷な災害現場でどのように活動したのか、今、見ていただくだけではなく後世に残したいという思いで作成した記録映像です。時を経て、震災後に入ってくる社員が増え、この災害を経験した社員が少なくなれば記憶は薄れていきます。新入社員教育のカリキュラムに取り入れるなど、組織としてしっかりと、この経験を伝えていきたいと考えています。

志賀 YouTubeで社外の方も視聴できます。インターネット時代にふさわしい、良い取り組みですね。現場の過酷さは相当なものだったのではないでしょうか。 松田 これまで北陸地方は、比較的自然災害が少ない地域と言われていました。われわれが全国の災害現場に駆け付けることはありましたが、誰もが身をもって経験したことのない「未曾有の災害」で24年が始まりました。平常時と違う状況の中で、電気は人びとの生活や産業を支える大事な役割を担うだけでなく、明かりが灯ることで震災からの不安を和らげる意味もあります。ただでさえ極寒の季節である上に、現場は寝るところもトイレもない困難な作業環境でしたが、北陸電力グループが一丸となってこの大きな試練を乗り越え、安全を確保しつつ一刻も早く電気をお届けするという強い覚悟を元日早々に決めました。


災害対応の課題を検証 知見を広く共有

志賀 さらに同年9月には、豪雨災害も奥能登を襲いました。復旧状況はいかがでしょうか。

松田 復旧は「こころをひとつに能登」のスローガンの下、グループ一丸となって対応してきました。地震で延べ約7万戸の停電が発生しましたが、停電復旧はまず自治体の災害復旧拠点や病院、福祉施設、避難所などを優先し、全体としては1カ月で概ね電気をお届けすることが出来ました。その後、追い打ちをかけるように9月に豪雨災害が発生しました。これにより、能登地域を中心に延べ約1万1000戸の停電が発生。作業は洪水や浸水による泥との戦いとなりました。地震により約3000本、豪雨によりさらに約300本の計約3300本の電柱に被害が発生しました。これまでに、約1000本の対応を終えていますが、今後は、残された2300本ほどの電柱の本格復旧に取り組むことになります。道路状況などに併せて復旧を進める必要があり、長丁場になることが予想されます。自治体や関係機関と連携しながら、着実に本格復旧を進めていきます。

奥能登では地震に続いて豪雨災害からの復旧に尽力した

災害で多くの苦労もありましたが、多くの知見を得ることもできました。「電気が復旧して良かった」で終わるわけにはいきません。現在、災害対応をハード面だけではなく、後方支援や関係機関との連携などソフト面も整備して災害対応力の強化を図っています。また、この知見を全国に共有していくことも当社の使命です。

志賀 震災から2度目の冬を迎えました。供給力の面で懸念はありますか。

松田 地震で被災した七尾大田火力発電所(石川県七尾市)は、 石炭払出機の倒壊や、広範囲にわたるボイラー管の損傷など、甚大な被害が発生しました。協力会社やメーカーを含め最大900人体制で復旧作業に当たり、2号機は昨年5月10日に、1号機は定検期間中の7月2日に運転を再開し、目標としていた夏季の高需要期までの復旧を成し遂げました。今冬についても、計画外のトラブルや災害への備えなど緊張感を持って、万全な供給体制を確保しています。

【大阪ガス 藤原社長】国際情勢に対応し 安定供給とCNに向け国内外の事業に注力


海外ではe―メタン製造の検討やLNG調達先の多様化、国内では電気事業の拡大などに取り組む。

阪神・淡路大震災から30年を迎え、安定供給はもとより、幅広い経営戦略の実現に向けて社員の「個」の育成に力を入れる。

【インタビュー:藤原正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

志賀 アメリカで第2次トランプ政権が誕生しました。石油や天然ガスについて「掘って、掘って、掘りまくれ!」と国内での生産拡大を訴えるトランプ氏ですが、大阪ガスへの影響をどう見ていますか。

藤原 不確定要素は多いですが、そこまで大きな変化はないように思います。振り返ってみると、バイデン政権は昨年1月、LNG生産の環境への影響を精査する必要があるとして、輸出許可を一時的に停止しました。トランプ政権になれば、こうした政策が取られることはないでしょう。

一方で「掘りまくれ!」と言ったところで、今はインフレで掘削費用が高騰しています。そのような状況下で、値崩れを誘発して赤字リスクが高まるような無制限な採掘は起こり得ないでしょう。われわれが権益を持つ米サビン社のガス田も、ヘンリーハブ価格を見ながら採掘しています。ただ化石燃料に対する過度なバッシングは穏やかになる気がします。

志賀 そうですか。私はパリ協定からの離脱を掲げるトランプ氏の大統領就任で、世界の脱炭素政策に大きな変化が訪れるかと思ったのですが……。

藤原 既に世界は現実路線に変わりつつあります。ロシアのウクライナ侵攻後は、欧州でも天然ガスの重要性が語られるようになりました。ガソリン車製造からの撤退時期を白紙撤回した自動車メーカーもあります。化石燃料の必要性が見直されているのは、トランプ氏の再登場というより、各国が現実路線に軌道修正したというのが要因でしょう。


トールグラス社と協業 米国でe―メタン製造

志賀 e―メタン導入への影響はありませんか。

藤原 何とも言えませんね。バイデン政権で成立したIRA(インフレ抑制法)の支援は期待しています。大統領選でトランプ氏が勝利した激戦州でもIRAの恩恵を受けている州がありますし、議会を通して作られた法律ですので、トランプ政権になっても簡単に廃止はできません。トランプ政権がIRA適用の要件を厳しくする可能性はありますが、まだ政権の骨格が明らかになっていないため、占うことは難しいです。ただ化石燃料を扱うわれわれのような事業者にとって、政策がマイナスに後退することはないのではないかと思っています。

志賀 アメリカで東京ガスや東邦ガスなどと進めていた、キャメロンLNG基地でのe―メタン製造プロジェクトから撤退しました。トールグラス社とのプロジェクトに集中するとのことですが、どういった理由からですか。

藤原 大きな要因はコストが上がっていることです。世界的なインフレに加えてエンジニアの人手も足りず、高コスト構造になっています。こうした中ではトールグラス社との協業に集中した方がよいという判断になりました。

人手不足と需要減で問題続々 事業者は危機意識の共有を


【今そこにある危機】津田維一/富士瓦斯社長

充填工場の統廃合などでLPガスの物流拠点が減っている。

個社の利益を超え、業界全体で課題解決に取り組む必要がある。

LPガスの国内市場が縮小する中、人口減と社会全体の人手不足が懸念されており、日本LPガス協会は2024年3月に「LPガス物流の現状と今後の在り方に関する調査」報告書を発表している。この報告書では、内航船による海上輸送およびローリーやトラックによる陸上輸送の共通の課題として、人手不足と労働時間規制の問題が取り上げられており、加えてカーボンニュートラルへの対応の必要性が語られている。ここでも指摘されているように、業界内で最も懸念されているのがLPガス配送員確保の問題である。


外国人活用は困難 AIで配送合理化も

一般的な運送業務とは違い、LPガス配送員は保安業務の担い手でもあり、保安確保の最前線で活躍する人材である。LPガス配送に従事するためには、日本語による資格取得が必要であり、今後も外国人活用については困難な面があると言わざるを得ない。

人材確保が難しい中で、人手不足対策として期待されているのが、LPWA方式の通信を用いた自動検針の普及である。従来は請負契約を結んだ個人の配送員が担当エリアを持ち、予測使用量に基づいて配送スケジュールやルートなどを自己裁量で決めるケースが多かった。最近では、同方式による安価な自動検針システムが普及したことで、随時検針が可能となり、軒先在庫を正確に把握できるようになった。

この結果、経験の浅い配送員が携帯端末の指示に従うことで、配送業務を行うことができるようになってきている。また、軒先在庫の正確な把握によって、半数の容器交換しか行わない従来のやり方から、全量交換への転換の取り組みも進み始めている。今後はAIの活用などさまざまな形での配送合理化策が進むと思われる。

人手不足以上に私が懸念しているのは、国内の物流拠点の減少である。LPガスの国内需要は1996年に1970万tに達して以来減少を続け、2023年には1230万tとなり、約40%の需要減となっている。国内市場の先細りの中、元売りの統合も進み、71カ所あった一次基地は50カ所に減り、90カ所あった二次基地は38カ所にまで減少している。

24年7月、一般社団法人andLPGカンファレンスが札幌で開催した「&LPGフォーラム2024」においても、LPガスの国内基地問題が取り上げられた。毎年開催されている&LPGフォーラムには、系列を超えた全国のLPガス販売事業者が参加しており、元売り、卸売り、小売りの垣根を超えて、2日間にわたってLPガス事業についてのさまざまな問題を議論している。

FRP容器の普及も課題の一つ
提供:富士瓦斯

水素を身近なエネルギーに 専焼給湯器とコンロを開発


【技術革新の扉】家庭用水素燃焼技術/リンナイ

脱炭素化に向けて家庭用機器でも新製品の開発が始まっている。

リンナイは水素専焼給湯器やコンロを発表。展示会で注目を集めた。

カーボンニュートラル(CN)実現に向けて、コンロや給湯器など、家庭用機器はどのように進化していくのか―。従来のガス機器が改良・進化していくことも、電化が進んでいくことも考えられ、行く先が気になるところだ。

この選択肢に加わるエネルギーとして関心を集めているのが水素である。燃焼してもCO2が発生しないため、製造や運搬などのサプライチェーン構築の取り組みが加速している。それと並行して、関連メーカーでは需要家が利用する機器や設備の開発・実証が進められている。

その一社がリンナイだ。同社は2021年11月に、50年のCNビジョン「RIM2050」を発表。ガス、電化、水素の三つが脱炭素時代の家庭用エネルギーの主流になっていくとの方向性を示し、水素製品の開発に乗り出した。技術開発部の竹本安伸部長は「日本全体の排出量11億tのうち約1・5%が、当社が提供する機器の使用を通して排出している計算になる。国の排出削減に大きな役割を担えると考え、水素製品の開発に注力している。水素が含まれたガスはこれまでも国内外で使われてきた。ただ、水素専焼となると話は変わる。専用の燃焼器などを開発しなければならない」と背景を説明する。

水素専焼を実現した給湯器


天然ガスの約8倍 速い燃焼速度の障壁

水素利用機器の第一弾として同社が開発したのが給湯器だ。給湯器は基本性能として任意の水量と湯温に即座に対応するため、大能力から低能力まで安全かつ安定的に燃焼できることが求められる。

その実現のためにまず取り掛かったのが、バーナーの開発だ。バーナーは、燃焼速度とガスの噴出速度のバランスを保つことで火が燃える。水素は燃焼速度が天然ガスの約8倍速く、低能力時の噴出速度が小さくなり、バーナー内部に炎が入る逆火が発生しやすい。対応するには、燃焼速度と同等になる空気過剰率を設定する必要がある。空気過剰率は1でガスが完全燃焼するのに必要な空気量を指し、水素はメタンの3倍の空気過剰率となる。

このため、水素給湯器には海外向け製品やボイラーで使用する全一次燃焼方式を採用した。さらに金属繊維の素材や金属繊維の構成、板金に入れるスリットのパターンなどを見直し、逆火耐性、火炎均一性など水素燃焼に最適な条件を実現した。

完成した水素給湯器は現在、国内外で実証を行っている。国内では北九州水素タウン(北九州市八幡東区東田地区)の集合住宅「東田エイチツー」で安定運転の検証、課題整理、国内法規への対応検討などを実施中だ。海外では豪ビクトリア州のガス会社と連携し、「HyHome(水素の家)」に水素給湯器を設置。給湯や暖房に利用する実証を行っている。


展示会で黒山の人だかり 水素調理器に関心集まる

続いて開発したのが、水素調理器だ。24年10月に幕張メッセ(千葉市)で開催された「ジャパンモビリティショー2024」において、トヨタ自動車とともにコンロやグリラーなどを展示し来場者から関心を集めた。

ジャパンモビリティショーの水素コンロとグリラーの展示

トヨタとの協業については、「CNを目指すという点で両社の意見が一致して取り組んでいる。水素が安全、かつクリーンなエネルギーであることを社会に広く知ってもらいたい」(竹本氏)と語る。

逆火への対応のため、調理器でも新たにバーナーを開発する必要があった。既存のガス調理器では、空気とガスをあらかじめ混合させる予混合燃焼方式を採用。火炎が短く、燃焼器をコンパクトにできる特徴があるが、逆火が発生する課題がある。水素調理器向けに、逆火の発生しないガスのみを供給する拡散燃焼方式を採用することでこの課題を解決した。五徳の形状を工夫し効率的に空気と接触させることで、コンパクトな燃焼を実現している。

水素調理器は、CO2が発生しない、燃焼時の水蒸気発生量が多いといった特徴がある。これにより、①スチーム効果で食材の油が抜けやすい、②食材のパサつきを抑える、③ガス臭がないため食材本来の風味を楽しめる―といった効果を挙げる。

トヨタ単独のイベントでもこの水素調理器を活用し、好評価を得ているという。生活に密着した家庭用機器にも取り組みが広がる水素。近い将来、身近なエネルギーとなる日が訪れるかもしれない。

【朝日 健太郎 自民党参議院議員】脱炭素は成長の源泉


あさひ・けんたろう 1975年熊本県生まれ。バレーボール選手として、大学時代から全日本代表に選出。サントリーではVリーグ3連覇。ビーチバレー転向後、2008年の北京五輪で日本男子として初勝利を挙げた。16年の参議院議員選挙で初当選。現在2期目。

199㎝の長身を生かし、バレーボールの日本代表選手として活躍した。

国土交通、環境大臣政務官を経験し、国土強靭化と脱炭素に力を入れたいと意気込む。

熊本市生まれ。小学6年生で身長175㎝。だが大きな体ゆえに体を上手く使えず、運動は苦手だった。

中学校でバレーボール部に所属。決して強いチームではなかったが、それが良かったと振り返る。「全国制覇など高い目標に向かってハードな練習を詰め込むことで、競技が嫌いになる人もいる。私の場合はバレーボールを楽しむことができた」

高校進学では悩みに悩んだ。勉強も嫌いではなく、受験勉強を頑張っていた一方で、全国屈指の強豪、鎮西高校からスカウトを受けていたからだ。最後まで迷ったが、「これからの競争を考えた時に、勉強とバレーボールなら分母は後者の方が少ない。バレーであれば勉強よりも高いレベルに進めるかもしれない」と自分を納得させて鎮西高校に進学した。3年次にはレギュラーとして、春高バレーとインターハイで準優勝。全日本代表にも選ばれた。

高校卒業後は法政大学に進学。部活だけでなく、学生選抜やさまざまな年代の日本代表選手として世界を飛び回った。大学を卒業した後はサントリーに入社。サントリーサンバーズではⅤリーグ3連覇に貢献した。日本代表でも中心選手となったが、心身は疲弊していた。「とにかくバレー漬けの毎日で、今自分が何のユニフォームを着ているか分からないくらい、感覚がまひしていた。当時はスポーツ選手のメンタルヘルスに対するサポートも手薄だった」

そして選手として絶頂期にあった27歳の春、スポーツ界を驚かせる衝撃の決断を下す。室内バレーボールからの引退─。周囲には「体育館でオリンピックに出られなかったからビーチで出たい」と伝えたが、モチベーションを維持できなくなった自分がいた。

〝脱サラ〟して飛び込んだビーチバレーの世界。室内バレーのトップ選手でも、最初の1年間はビーチバレー選手に手も足も出なかった。砂浜が舞台となる同種目では、室内競技よりも足腰の強さやスタミナが重要だと思われがちだ。しかし、実際は強風下でのボールコントロールなど細かな技術が求められる。体格を生かしたプレーを得意とする朝日氏が苦手とする分野だった。

それでも「また挫折してたまるか」との決意で練習を重ね、2008年の北京五輪への出場を決めた。日本男子として初勝利を挙げ、決勝ラウンドに進出。9位という成績を残した。続く12年のロンドン五輪出場を最後に現役を退いた。

ビーチバレー選手として活躍する一方で、海や砂浜の環境を考えるNPO活動などに携わり、当時から行政との関わりがあった。「アスリートは競技集中型か、ほかの活動をしながら競技力を高めていく二つのタイプに分かれる。自分は後者だった」

「EVバブル」は崩壊したのか CN見据えた自動車市場の行方


【多事争論】話題:EV失速

欧米を中心にEV販売台数の伸びが鈍化し、一時期の勢いを失っている。

この流れは続くのか。それとも次世代モビリティの主役の座は不変か。


〈 自動車産業の成長が最重要 各国は導入目標見直しにかじ 〉

視点A:古野 志健男/SOKENエグゼクティブフェロー

2023年から24年にかけて世界の自動車市場の潮流変化に関して、メディアではバッテリーEV(BEV)バブル崩壊の正否論争が盛んだ。筆者の見解は以下の通り。

BEVバブル崩壊は正しい。だからと言って、将来BEV市場が縮小するということではない。過剰な拡大傾向が鈍化し、BEVも含めてカーボンニュートラル(CN)に対応した全てのパワートレイン車両が市場ニーズに合わせて適正化していく。

非現実的な35年のCO2排出規制というマイルストーンに対して、欧州中心に世界の自動車メーカー(OEM)はBEVの利便性や充電インフラなど市場の受容性を充分に考慮せず、BEV開発と市場投入へ急激にかじを切り過ぎたのだ。各国政府も市場を直視せず、補助金と称してBEV普及をやみくもに推進し過ぎた。アーリーアダプター(新しい商品やサービスを早期に購入する消費者)にはBEVが行き渡ったが、ユーザニーズによっては課題も多く、その後の新車販売が急減速している。BEVに肩入れしすぎたOEMは、収益悪化や財政難に陥った。つまり、そのアンバランスがBEVバブル崩壊と言える。

一方、35年の各国の自動車CO2排出規制は変わっていない。欧州の「Fit for 55」パッケージでは、35年から販売する乗用車と小型商用車は、テールパイプでCO2排出ゼロでなければならない。中国では、35年から各OEMに対して新エネルギー車(NEV)50%以上を義務付けている。米カリフォルニア州でも35年までに新車販売を100%ゼロエミッション車にする法案(ACCⅡ)が成立している。米国環境保護庁(EPA)では、32年の自動車CO2排出量を26年比で56%削減する案のパブコメ中である。これらへの対応は現実的に厳しく、適正に見直される可能性がある。


経営不振に陥るフォルクスワーゲン BEV一辺倒ではなく全体最適へ

欧州委員会では24年12月1日、環境派のフォンデアライエン委員長の2期目がスタートした。新体制で同委員長が主導する「欧州自動車産業の将来に関する戦略的対話」では、欧州自動車産業の競争力を強化することが重要で、その上で脱炭素化の推進をしていくという。そのためには、BEVやハイブリッド車(HEV)の普及促進、再エネの利用拡大が焦点となる。つまり、欧州OEMの経営体力を向上する方向でのCN政策となるので、35年のFit for 55での乗用車CO2規制の見直しも有り得るのではないか。その背景には、BEVに大きくかじを切っていたフォルクスワーゲンが、大幅な収益悪化による経営不振で初めて自国の複数の工場閉鎖や人員削減の検討に入ったことがあると思われる。

中国ではBEV離れが顕著だ。BEV生産しか行わない国内OEMの倒産や淘汰が相次いでいる。BEV事業で収益を得ているのは、BYDくらいではないかとも言われている。未使用も含めたBEVの墓場が随所に存在するとの報道もある。経済も低迷していて、政府財政も厳しい。エンジン開発部門のあるBYDやジーリーは、エンジン熱効率46%台という超高効率な電動車専用エンジンの開発に投資し、それらを搭載した収益性が高いプラグインハイブリッド車(PHEV)をそれぞれ24年に市場投入した。中国でもやはり、まずはOEMの企業体質を強化しつつ、CNで収益性の高い電動車を推進する政策に移行していくのではないか。

米国では、25年1月20日に第二次トランプ政権が誕生する。EPAの32年CO2削減案が大幅に緩和される可能性が大きい。第一次トランプ政権でも、EPAはオバマ政権時代の自動車燃費基準の考え方を180度方針転換した経緯がある。またカリフォルニア州のACCⅡ規制について、米OEMの対応が困難を極める。ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「35年に全車をZEVにするのは困難な道のりで、最終的には顧客に従う」と述べている。フォードは、BEV事業の大幅赤字で製品の投入計画の中止や延期を決定し、今後はエンジン車も含めて全方位戦略へ方向転換すると宣言した。州政府としても見直しを余儀なくされるだろう。

いずれにせよ、CNへの取り組みは世界の自動車産業の持続可能な成長がベースにある。CNを追い求めて産業が崩壊すれば元も子もない。BEV一辺倒ではなく、各種電動車、CN燃料対応エンジン車、CO2回収や植林などのカーボンクレジット活用など、ほかのセクターとともに全体最適で対応していくしかないのだ。

ふるの・しげお 1982年豊橋技術科学大学電気電子工学課程修了、トヨタ自動車入社。エンジン先行開発部部長など歴任。2012年現SOKEN転籍後、専務取締役を経て、20年から現職。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年1月号)


トリガー条項の問題点/原発再稼働時の地元同意

Q 今、話題のトリガー条項には、どのような制度上の問題があるのでしょうか。

A トリガー条項は、ガソリン価格の高騰から国民生活を守るために設定された緊急避難的な政策です。トリガー条項は小売物価統計の全国平均価格が1ℓ当たり160円を3カ月連続で超えた場合に、特例規定(暫定税率)を停止し、130円を3カ月連続で下回った時に解除するものです。しかし2011年4月に東日本大震災の復興財源確保のための特例法によって凍結されて以降、発動されたことはありません。 

トリガーには対象油種がガソリンと軽油に限られ、灯油、重油、ジェット燃料などが対象外であること、地方揮発油税分の減収(1㎘当たり5200円)による財源問題などがあります。

この制度の最大の問題は発動価格を固定していることです。例えば消費税一つとってみても160円が設定された時は5%でしたが、現在では10%になっています。エネルギー価格や物価の上昇の中で、事実上基準は押し下げられています。

もしトリガーをスタンバイ政策として機能させようとするならば発動価格は物価にスライドさせるなど、いつでも発動できる仕組みを作る必要があります。しかも小売価格はガソリンスタンドで最も高く売られている価格(フリー価格)が基準となっており、競争による効果を組み込んでいません。エネルギー価格の高騰対策を減税や補助金にのみ頼っていることは不自然で、取引慣行や価格表示を含めた公正な競争を前提とする仕組みに変えていく必要があります。

トリガーにはさまざまな議論がありますが、ガソリン税にさらに消費税をかける二重課税を正当化する人はいません。まずここから制度設計を見直していくべきと考えています。

回答者:小嶌正稔 /桃山学院大学経営学部教授


Q 原子力発電所を再稼働する場合、地元の同意は必要とされるのでしょうか。

A 原子力事業者が原子力発電所を再稼働させるか否かを判断するに当たっては、安全性の確保について、原子力規制委員会によって原子炉等規制法に定める基準に適合すると認められることを要するとされていますが、法令上、それ以外に国の判断、または意思決定は要件とされるものではありません。

一方で、従前から、立地自治体(道県および市町村)は住民の安全を確保するため、トラブル時の通報連絡体制の確立などを定めた「原子力安全協定」(正式名称や一部の内容は自治体によって相違があります)を事業者と締結しています。この協定では、「施設変更時の事前協議と了解」条項を設けているなど、再稼働のために規制基準に適合するように施設の変更工事を行った事業者は、立地自治体に対し、事前に協議ないし了解(同意)を得ることが、契約上の義務となっています。

なお、わが国で初めて締結された「原子力安全協定」は、1969年に福島県と東京電力との間で結ばれたものです。それ以降、他の立地自治体でも原子力事業者と同協定を結ぶことが慣例となりました。現在では、全ての立地自治体が締結しています。

また、福島第一原発事故後は、緊急防護措置を準備する区域(UPZ)などの防災対象範囲の拡大もあり、立地自治体以外の周辺自治体も、事業者と協定を結ぶ例が増えています。ただし、その協定の内容は、「事前協議・了解」の項目が無い場合が多いのが実状ですが、地域によっては、「事前協議・了解」を協定の内容に含める場合や、事業者が周辺自治体に再稼働について事前説明を行うなど事実上、事前了解を得ている場合もあります。

回答者:小林 勝/TMI総合法律事務所参与

【需要家】電気ガス補助政策の行方 省エネ努力の喪失に


【業界スクランブル/需要家】

ロシアのウクライナ侵攻に端を発したエネルギー価格高騰対策のために2023年1月に始まった、政府の電力・ガス料金の軽減措置は24年5月に一度終了したが、その後物価高対策に目的を変えて再開し、延べ1年半以上にわたり続けられた。石破茂政権に代わった後もこの政策が継承されるのか注目されていたが、軽減措置の予算が盛り込まれた24年度の補正予算案が閣議決定され、年明けから再開される見通しだ。

光熱費の増大が家計に与える影響は低所得者ほど大きく、収入に対して光熱費の占める割合の高い状態、いわゆる「エネルギー貧困」への対策という側面では一定の意義があるかもしれない。一方で省エネの観点からみると、光熱費の割引を長期的に続けることによって、将来を見据えた積極的な省エネ対策や省エネ投資に取り組む機会や意欲が失われてしまうという副作用が現れてくるのではないか。

家計負担を減らすための割引が、かえって増エネや浪費を引き起こすといった事態は避けなければならない。例えば、自社サービスなどを通じて消費者に省エネの取り組みを促すなど、供給事業者が消費者に積極的に働きかけることを補助の要件に盛り込むということも今後検討の余地があるだろう。

物価や賃金の先行きが見通せない中、電気・ガス料金に対していつまで補助を続けるべきなのか。その行方には、今まさに議論されている今後のエネルギーミックスや排出削減目標も大きく左右するだろう。目標達成に向けて需要家にはどのような負担や努力が求められるのか、そのシナリオについて丁寧な説明を期待したい。(K)

【コラム/1月24日】元旦紙面を考える~研究・技術開発報道の今日


飯倉 穣/エコノミスト

1、ミレミアムの第2の四半世紀に

ミレミアムから四半世紀を経た。次の25年間の経済の方向は明確である。実現性はともかく2050年カーボンニュートラル(CN)経済(脱炭素経済)への移行である。第7次エネルギー基本計画の原案(24年12月27日)の意見募集があった。経過目標(2040年)は、一時エネ供給量4.2~4.5億KL程度、内訳はシナリオで異なるが、再エネ21~31%、原子力12%程度、水素2~5%、化石エネ68~52%(うち天然ガス18~26%、石油21~27%、石炭10~14%)である。二次エネの電力は、1兆800億kwh~1兆2000億kwh(電力化率55~60%)、内訳は再エネ51~45%、原子力20%前後、火力29~45%である。

経済成長をめざしながらエネルギー量の確保と脱炭素を目指す。再エネと原子力の達成可能性が気に掛る。成否は、経済水準維持に必要な化石代替エネ量を、再エネで目一杯の開発、原子力取組姿勢強調で確保出来るかに尽きる。それぞれ再エネや原子力等も研究技術開発頼りの前提がある。またその先2050年までのシナリオは、主張はあるが、明解でない。

加えて今後の長期的な経済動向も気に掛る。今後の経済展開の要点は、経済成長に寄与する、エネ確保技術開発と同時に全般の研究技術開発も重要である。その取組み状況や成果、今後の期待を元旦の報道に期待したが、関心が低いことに驚いた。日本経済に絡んで元旦報道から考える。


2、主要6紙元旦報道

現在はデジタル化情報時代で新聞の話に関心を持つ人はどの程度だろうか。新聞の発行部数は、衰えたとは言え26百万部ある(2000年53百万部)。依然報道情報の正確性、記録性や報道事項の軽重の捉え方で貴重である。匿名性なきおしゃべりではない。

元旦の主要6紙(朝日、産経、東京、日経、毎日、読売)を拝見した。各社の一面見出しは、能登半島関連4紙、安全保障関連1紙、戦後80年関連1紙、韓国政治関連2紙、米国・世界危機関連1紙等だった(一面に複数記事掲載あり)。政治と歴史の話題なら、例えば昭和100年で次の展開を考える。「百年の未来への歴史 デモクラシーと戦争」(朝日25年1月3日)連載である。戦争と為政、法の支配等を採り上げる。また同様に「デモクラシーズこれまでこれから戦後80年」(毎日同1日)特集もあった。歴史から学ぶことも大切だが、現在国際政治で起きている現象と今年の展望を描いたものは稀少だった。

その紙面を受けたのか、各社の元旦社説は、いずれも国際的な不確実さ、日本政治・民主主義の再構築、国内政治運営、国際協調等だった。見出しは以下の通りである。「不確実さ増す時代に 政治を凝視して強い社会を築く」(朝日)。「変革に挑み次世代に希望をつなごう」(日経)。「平和と民主主義を立て直す時 協調の理念を掲げ日本が先頭に」(読売)。「戦後80年 混迷する世界と日本「人道第一」の秩序構築を」(毎日)。「年のはじめに 未来と過去を守る日本に」(産経)。「あわてない、あわてない 年のはじめに考える」(東京)。中身は、論理的展開より思い優先の印象だった。

今年の関心事は、継続する国家間紛争に加え、トランプ政権誕生、各国政情流動化等に見られる国際政治・米国政治の不確実性が焦点となった。内外の政治情勢を意識した政治一色だった。これほど各紙社説の取り上げ内容が類似性を持つことは珍しい。

ポストFIT支援や出力抑制解消へ 蓄電池併設で再エネの高度化図る


【エネルギービジネスのリーダー達】河野淳平/グリーングロース代表取締役

電源開発、アグリゲーション、電力小売り、再エネ調達までをワンストップで支援する。

ビジネスプロデューサーとして発電所の価値最大化に取り組み、業界の課題を解決する。

かわの・じゅんぺい 北九州市出身。早稲田大学商学部を卒業後、レノバに入社。メガソーラー、バイオマス、洋上風力などのマルチ電源でプロジェクトマネージャーに従事。2021年に退職し、22年4月にグリーングロースを設立。

「再生可能エネルギー領域のビジネスプロデューサーを目指す」―。再エネの事業開発支援を展開するグリーングロースの河野淳平代表取締役は、自社の将来像をこう語る。2022年4月の設立以来、同社は電源開発、アグリゲーション、電力小売り、再エネ調達をワンストップで支援してきた。次のフェーズで目指すのは、自ら保有する再エネ電源と、発電事業者向けに導入支援した蓄電池によって地域のエネルギー需要を支える「次世代インフラ」の構築だ。


事業者目線で最適な提案 市場取引まで伴走支援

設立当初は、再エネと系統用蓄電地の開発コンサルティングを主力事業としていた。やがて、出力抑制の深刻化、FIT(固定価格買い取り)制度の買い取り期間終了など、次第に再エネ事業における課題が浮き彫りに。「開発だけでは脱炭素を志向する企業や地域の要望をカバーしきれない」(河野氏)と、自社で電力小売りライセンスを取得し、調達した再エネ電力を日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場で取引する事業に着手した。24年12月にはアグリゲーターライセンスを取得。需給調整市場への参画も可能となった。開発したプロジェクトは運営事業者に譲渡するか共同事業化し、同社が充放電運用や市場取引を担う仕組みを整えた。

23年以降は、FIT太陽光発電所の保有者に対し、FIP(市場連動価格買い取り)制度への移行とともに蓄電池設置を提案するプロジェクトマネジメントの代行に力を入れている。併設の提案、採算性の提示、社内意思決定のコンサルテーション、蓄電池の発注に加え、市場取引の運用まで伴走支援する。今まで築いた蓄電池メーカーとのパイプや事業企画のノウハウを生かし、事業者目線で最適な選択肢を提案できるのが強みだ。

社内コンサルにも近い立ち回りを可能とする理由の一つに、多様な強みを持つ人材の活躍がある。電力だけでなく他業界のコンサルティング経験者など社員のバックグラウンドは幅広い。エネルギーに関する豊富な知見と盤石なプロジェクトマネジメント力で体制を強化してきた。

これまで事業開発支援を行ってきたのは、多種多様な業種の企業20社ほど。「この半年ほどで、事業がようやく実を結んできた」と自信をのぞかせる。

グリーングロースが掲げるミッションは、「次世代のインフラをつくる」こと。そのためには、リソースの確保に加え、蓄電池の併設で「変動性再エネを調整可能な形にすることが重要だ」と語る。M&Aを通じた発電所の取得も含めて、30年までに100万kWの再エネを確保することを中間目標に据える。

直近では大手新電力会社から、共同買収などの提案も寄せられており、パートナーシップの締結を含めた検討が進む。事業開発支援に加え、発電所のオーナーとしての立ち位置を確立し、「総合商社のように事業投資、トレーディング、ソリューション販売など多様な機能を全て備えていきたい」と意気込む。

30年以降、「再エネがインフラの主役としてコスト競争力の最も高い電源になる」と見る河野氏は、その時期において「地域のエネルギー源として、地場産業への優先供給や、低コストのモビリティサービスの提供などで再エネの可能性を最大限引き出したい」と力説する。


温暖化のリアルに直面 業界の旗手として奔走

設立からわずか3年足らずで事業を急成長させた背景には、環境・エネルギー問題に対する河野氏の強い思いがある。その原点は、早稲田大学商学部在学時にさかのぼる。大学のサステナビリティプログラムに参加し、ミクロネシア連邦のヤップ島を訪れた際、地球温暖化の現実を目の当たりにした。

現地では、海面上昇の影響で橋が通行不能になるなど、「現地住民が直接関与していない問題でありながら、そのあおりを大きく受けているという不合理さに大きな衝撃を受けた」と振り返る。これを機に、エネルギー業界への接点も増やし、福島第一原子力発電所の事故後の視察にも赴いた。「エネルギーと環境をひも付け、社会を変えられる」との思いを深めていった。

大学卒業後は再エネ開発大手のレノバに入社。メガソーラー、バイオマス、洋上風力などのプロジェクトマネジメントと事業開発を担当した。佐賀県唐津市のバイオマス発電所(5万kW)の融資決定に向けた案件を推進するなど、大規模プロジェクトにも従事。開発全般の知見とスキルを磨くとともに、「地域共生」の視点を取り入れた事業運営のバランス感覚を培った。

「思い描く将来像は確かに壮大だが、われわれ世代で作り上げなければならない」と力強い。新たな時代を切り開く旗手として、これからも奔走していく。

【再エネ】太陽光のリサイクル義務化 コスト負担が課題


【業界スクランブル/再エネ】

環境省と経済産業省の合同ワーキンググループで、太陽光パネルのリサイクル義務化に向けた検討が佳境に入った。国内では自動車リサイクル法や家電リサイクル法、容器包装リサイクル法などが既に整備されている。

太陽光は2032年からFIT期間終了を迎え、30年代半ばから最大年間50万t程度までパネル排出量が増加すると想定されており、埋立処分量の抑制対策が必要であることは理解できる。廃棄パネル量の増大に対してリサイクルに必要な再資源化施設は年間処理能力7万t程度と大幅に不足。今後、必要な地域に適切な施設数を整備する必要がある。処理事業者の設備投資意欲を確保しつつ、リサイクルコストの低減という難しい課題への対処が求められている。ガラスを中心とした再資源化された素材が高く買い取られるような仕組みを構築し、サーキュラーエコノミーが実現できるよう、国がしっかり枠組みをプランニングしていくことを期待したい。

今回の政府案では、再資源化費用はパネル製造事業者や輸入事業者に負担を求めている。その費用は新規に販売されるパネルに上乗せされることに加え、交付金額の設定によってはパネル排出時に発電事業者に費用負担が発生し得る。将来のリサイクル技術の進化やコストをどう見込むのか、再資源化された素材の利用義務を課すのかで、最終的なコスト負担は大きく変わるため、再資源化費用算定は慎重を期す必要がある。義務化だけが法制化され、高額なリサイクル費用が再エネ拡大意欲のある事業者の負担となる、あるいは不法投棄や放置につながらないよう、丁寧な議論が必要と考える。(K)

これからも地域で事業を営むために 社を挙げてブルーカーボン実証へ


【事業者探訪】房州ガス

千葉・館山を中心にガス事業を約90年営む房州ガスは「地域と運命共同体」との意識が強い。

本業に加え、地場産業を支える海で課題となっている磯焼け解消の実証にも乗り出した。

千葉県館山市は房総半島の南端、東京中心部からは100km圏にある。西は館山湾、南は太平洋に面し、農水産業や観光業などが盛んだ。2024年秋に関連映画が公開された南総里見八犬伝ゆかりの地でもある。長年この地域のガス供給を支えているのが、設立91年目の房州ガスだ。現在は、24年3月に代表取締役に就任した本間充氏が経営のかじ取りを担う。

41歳の5代目経営者・本間氏

都市ガスは、館山駅周辺の2200~2300件、年間約45万㎥を供給する。実は同社の都市ガスは天然ガスではなく、プロパンガスと空気を混合して13A相当の熱量にした「PA13A」だ。平成の熱量変更の際、資金面や、ローリーが入れない狭い道が多いといった理由から選択した。プロパン原料は、県内のガス会社から卸供給を受ける。

この他、プロパンガスを同市の他エリア、南房総市、鴨川市、鋸南町の一部など3200件に、館山市内の団地とリゾートマンション2カ所の150~160件に簡易ガスを供給する。ガス事業の現状については、「供給件数は横ばいだが、1件当たりの販売量は減っている」(本間氏)と危機感をにじませる。

電力事業にも参入しており、大多喜ガスの電気を代理店販売する。「社員は30人ほどで、ガス事業の現場作業に人手を取られ、需給調整などを自前でやることは難しかった」ためだ。ちなみに大多喜ガスとのつながりでいうと、本間代表自身、同社での勤務経験があるという。


地場産業の課題解決へ 藻場の再生目指して

「これまでも館山で事業を営み、これからも地域とは運命共同体にある。地域に元気がなければ、当社の商売は立ち行かない」と強調。これまでは策定してこなかったが、25年度に経営ビジョンをまとめたい考えだ。全国的な課題でもある少子高齢化を踏まえ、特に高齢者が増えていくことを前提にした新たなサービスの検討に意欲を見せる。

加えて、地域特有の課題が「磯焼け」だ。海藻が著しく衰退・消失して「貧植生状態」となる現象のこと。諸説あるが、気候変動に伴う海水温の上昇や、それに伴い海藻が育つ時期に海藻を食べる魚の活動の活発化、といった原因が考えられる。磯焼けが発生すると、藻場の回復に長い年月を要し、沿岸漁業に大きな影響をおよぼす。

藻場再生実証に関係者の期待が高まる

ガス事業は炭化水素を売り、使用段階でCO2を出す。しかも同社の都市ガスは天然ガスよりCO2排出係数がやや高いPA13Aだ。本間氏は、社長就任前からCO2回収の取り組みを手掛けるべきだとの思いを抱いていた。特に、沿岸・海洋生態系が光合成でCO2を取り込み、炭素を海に蓄積する「ブルーカーボン」に興味を持ち、地域の状況を調べたところ、深刻な磯焼けが見られることを初めて知った。漁業関係者以外、地元でもあまり知られていない話だという。

そんな折、業界紙で釧路ガスの「昆布の森づくり」構想の記事を目にし、同社にコンタクト。構想に関わるジャパンブルーカーボンプロジェクト(JBP)とつながり、24年11月、館山で世界初となる藻場再生の実証がスタートした。

【火力】市場の不備棚上げ 相場操縦の指摘に疑義


【業界スクランブル/火力】

2024年11月、JERAが電力・ガス取引監視等委員会から業務改善勧告を受けた。卸電力市場取引において、相場操縦に該当する事案があったとのことだが、この発表を受けてJERAを批判する報道が相次ぎ、中には「刑事処分に値する」といった内容のものまであった。電取委の発表資料を丹念に読んでいくと、勧告は多くの仮定を前提にしているように見えてくる。

問題視されたのは、系統制約などで出力制約が生じた際に、一部は供出可能であるにも関わらず電力を卸市場に出していなかったこと。21年11月の特定のコマにおいては、約定価格を1kW時当たり50円以上高騰させた可能性もあることが、相場操縦に該当すると指摘された。

資料によると、3年間で約54億kW時の売り入札ができ、そのうち約6億5000万kW時が約定した可能性があるとしている。つまり、「約88%が約定しない、イコール相場に影響しなかった」ということになる。価格高騰がほんの数コマだったことを考えると、こんな非効率な相場操縦をJERAが行うとは思えない。

実際、JERAは不適切な状況があったことは認めつつも意図的ではなかったと表明しているし、1年も前に当局の指導に従い不備のあったシステムの改修を行っている。

そもそも、火力設備の稼働には事前に人員配置や準備作業が必要であり、他の検討会では、事業者へのインセンティブについて、これから検討する必要があると整理されたところだ。

市場取引の不備を棚に上げたまま、改善勧告を受けた事業者には「お気の毒さま」と言うしかない。(N)

レッスン開始から半年経過 K―POPダンスにはまったワケ


【リレーコラム】近藤寛子/マトリクスK代表

東京・青山の女性専用スタジオで、K―POP専用のダンスレッスンを始めてから半年が経った。月に1曲を仕上げる「ユニットレッスン」に挑戦している。きっかけは、娘と一緒に見たオーディション番組「Produce 101」。

練習生たちの姿に魅了され、軽い気持ちで始めたものの、今では本格的なプログラムに取り組む日々を過ごしている。

レッスン初日、若い世代に混じり、自分が素人で場違いだと感じる瞬間があった。

ようやく振り付けを覚えたと思えば次でつまずき、挑戦の難しさと新鮮さを実感した。それでも、レッスンメンバーとともに経験を積みながら一歩ずつ前に進む過程は、貴重な体験だ。

これまで数多くのプレゼンを経験し、自分は「表現は得意だ」と思っていた。しかし、K―POPダンスを通じて初めて、言葉に頼らない「体一つで感情を伝える個人の表現」と、メンバー全員で一つの作品を完成させる「チームの表現」、この両方が求められることを知ることができた。


隙間時間でコツコツと

その一方で、ダンスを完璧に仕上げるためには自宅での努力も欠かせない。通勤途中には、振り付けを頭の中でシミュレーションし、家では愛犬とストレッチをしたり、歌詞と振り付けをエクセルにまとめて分析したり――。そんな毎日の積み重ねこそが、上達を信じて取り組む原動力となっている。

レッスンの度、メンバーがダンス動画を撮影し、K―POPアイドルの手本と比較する映像をつくりシェアしてくれる。

完成度にはまだまだ課題があるが、少しずつ形になっていく、この過程が私にとっての宝物といえる。

K―POPダンスで学んだことは、挑戦することの意義とその喜びだ。そして、この経験はエネルギー分野にも通じる学びを与えてくれた。

例えば、異なる専門性や立場を持つ人々が協力し合い、一つの目標に挑むプロセスは、イノベーションの実現を目指す現場と重なる。多様な専門家が連携してこそ、新たな成果が生まれるのだ。

さらに、挑戦には失敗や困難がつきものだが、それを乗り越えることで見えてくる新しい景色がある。K―POPダンスは、そうしたプロセスを通じて得られる達成感を改めて教えてくれる。

次の挑戦が待ち遠しい。とはいえ、まずは腹筋を鍛え直し、踊りの完成度をもう一歩上げたいと思う。

こんどう・ひろこ 内閣府「イノベーション政策強化推進のための有識者会議『核融合戦略』」委員、原子力規制委員会「原子炉安全専門審査会」委員、経済産業省「総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会」委員などを務める。

次回は、核融合科学研究所の吉田善章所長です。