話題:中長期取引市場
小売事業者の供給力確保義務徹底と同時に中長期市場創設の議論が進む。
専門家はその実効性をどう見ているのだろうか。
〈 供給不安定化を阻止できるか 米国との比較で見える課題 〉
視点A:小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事
小売電気事業者の供給力確保義務の見直しを行い、供給計画想定需要に対し3年前に5割、1年前に7割の量的な供給力(kW時)の確保を求め、それに伴い小売事業者の調達環境を整備するために中長期取引市場を創設することになった。本稿では、供給力確保義務の見直しが必要になった背景との関係、米国における類似の議論との比較を行うことで、同市場に関する課題を明らかにしたい。
供給力確保義務の見直しは、①短期のスポット市場は価格変動リスクが高い一方で、多くの小売電気事業者が短期のスポット市場に調達を依存していること、②一方で電気料金の大幅な変動は社会的に許容し難い状況であり、③需給がタイトになりやすく政府が節電を要求せざるを得ない場面もあったことから、小売事業者により一層の安定供給確保のための対応を求めるためと整理されている。
①は、燃料価格の変動および需給ひっ迫に起因しているが、燃料価格の変動は燃料調達が長期契約からスポット調達への切り替えが進んでいることが影響している。これは再生可能エネルギー発電導入拡大で燃料使用量の予測が難しくなり、LNG過剰調達リスクにつながることが長期契約による調達を行うインセンティブを低下させている。中長期市場はこの問題の解消につながるだろうか。
また小売事業者による調達のスポット化は、相対契約で調達するよりも安価である時期が多いことに起因している。太陽光発電の増加で昼間のスポット価格が1kW時当たり0・01円となる頻度が増加した。2024年4月に容量拠出金負担が開始されたが、新電力のシェアが引き続き拡大しているので容量市場では固定費回収が十分に達成できていない可能性がある。日本では「Net CONE(純収益)」を容量市場の需要曲線の指標価格として用いているが、イギリスの容量市場を参考に他市場収益を計算しており、国内の市況を分析しておらず実際のガス火力の収益性の評価が行われていない。少なくともイギリスのスポット価格は、22~24年度までJEPXシステム価格平均値より高い。
北米の信頼度機関NERCは、ピーク時のkWに基づく供給力によるアデカシー評価では信頼度リスクを正しく評価できず、「エネルギー充足度」の観点での評価も必要だと指摘している。これは、安定供給を維持するために十分なエネルギー量があるかという評価だ。
北東部地域の独立系統運用機関ISONEではガスパイプラインの容量不足で冬季にガス不足となり、代替で石油火力への依存を高める電源構成を維持している。エネルギー充足度という意味では冬季に十分な石油が確保されているかという評価になる。中西部の系統運用機関MISOも20年以降、長期無風を度々経験しており需給ひっ迫となった時期もあった。ここでのエネルギー充足度は原因により数日から数カ月の間、十分なエネルギーを確保しているかという評価になりそうだ。日本の中長期市場は年間調達で評価されるが、安価なベース商品を厚めに調達し、価格が高めなピーク商品の調達を抑えて義務履行しようとする事業者を抑止可能だろうか。
市場原理活用に及び腰の日本 市場リスク高め相対促す米国
昨年6月4、5日にFERC(米連邦エネルギー規制機関)主催で供給力アデカシー問題を討議する技術コンファレンスが開催されたが、容量市場は十分な供給力があると価格が安価となり、容量費用の相対契約が縮小する傾向にあることが指摘された。そのため中西部地域にあるMISOでは夏季と冬季と二度ピークが発生するようになったことを踏まえ、22年に23年度受渡分から容量市場オークションを四半期ごとに開催するとともに信頼度に基づく需要曲線を導入することで、価格の変動性を高める仕組みに変更した。この結果、25、26年度の容量市場価格の平均はガス火力のNet CONEの約90%に相当する1MW当たり210ドルに達した。こうした容量市場の見直しは他のRTO(広域送電機関)やISOにも広まりつつある。
日本では中長期市場の導入やスポット市場入札での限界費用入札のように市場原理に基づく価格変動リスクに慎重であるが、米国ではむしろ容量市場の価格変動リスクを高めることで相対取引によるリスクヘッジを推奨するという姿勢は日本と随分違うものだと感じる。また日本の需給ひっ迫時のスポット価格高騰は、入札で需給が一致しない場合に供給曲線に垂直の補助線を引くことで無理矢理マッチングさせたことが強く影響している。容量市場の仕組みを含め、「市場の仕組み」についてもっと議論があってしかるべきだろう。



