【 門 ひろこ 自民党 衆議院議員】原子力活用の原点忘れず

かど・ひろこ
1980年東京都生まれ。2004年東京大学法学部卒業後、経済産業省入省。エネルギーや地球温暖化、経済安全保障、通商政策などに従事。23年に退職し、26年2月の衆議院議員選挙で初当選(東京8区)。慶應SFC研究所上席所員。米国NY州弁護士資格保持。

経済産業省でエネルギー政策などに従事し、2月の衆院選で初当選した。

政策への深い知見と明るくパワフルな性格で経産行政に新風を吹かせる。

東京都杉並区出身。サラリーマン家庭の3人姉弟の真ん中に生まれた。幼少期は手がつけられない「おてんば娘」で、姉弟が近所の公立校に通う中、小学校から高校まで規律を重んじる教育で知られる聖心女子学院に1時間かけて通った。

活発で明るい性格で、中高はテニス部、高校では生徒会長を務めるなど社交的でまとめ役になるタイプだった。聖心女子学院の卒業生には美智子上皇后陛下や日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏などがいる。「どちらも家庭と仕事を両立しながら世界の第一線で活躍されている。漠然と国際的な仕事に就きたいと考えていた」

ところが、大学入試で人生初の挫折を味わう。東京大学を目指していたが、センター試験当日に貧血で倒れてしまった。当時は追試制度が厳格で使えず、二次試験へのやる気を喪失。他大学へ進学したが、「このままでは一生後悔する」と思い、1年間の仮面浪人を経て東大合格を果たした。女子ラクロス部の主将を務め、授業よりグラウンドにいる時間が長い学生生活だった。

就職活動をした2003年は、就職氷河期の「底」だった。女子学生というだけで説明会の予約が取れないこともあった。「限られた枠をみんなで奪い合っていた。経済のパイを大きくしなければゆがみは解消されない」と痛感し、経済官庁を志した。04年に経済産業省に入省する。

最初の配属先は、資源エネルギー庁の資源燃料部政策課(以前の石油部計画課)だった。同課に1年目で配属されたOBには、自民党で選挙対策委員長を務める西村康稔氏、元経産次官で岸田文雄政権の首相秘書官を務めた嶋田隆氏らそうそうたる顔ぶれが並ぶ。門氏は「30代目の新人にして初の女性」だった。

入省1年目は中国による東シナ海でのガス田開発の発覚、イランで国際石油開発(現INPEX)がアザデガン油田の権益獲得、同国の核開発疑惑に伴う米国からの制裁圧力など〝エネルギー動乱〟と言っていい年だった。ロシアのサハリンⅡや豪州沖イクシスなどLNGの調達多角化に向けたプロジェクトも進んでいた。「エネルギー政策のターニングポイントと言える時期に仕事をできたのは有意義だった。非中東のLNGの供給先を強化できたことは大きい。この時の仕掛けが現在のイラン危機に生きている」

その後、地球温暖化防止国際会議・COPでの交渉、通商、人権、経済安全保障政策などに従事。コロンビア大学ロースクール留学中にはニューヨーク州弁護士試験に合格した。「経産省の魅力はLPガスのような地域に根差した身近な課題から国益をかけた貿易交渉まで、経済を軸に幅広い仕事ができること」と懐かしむ。

23年に同省を退職し、自民党東京8区の支部長に就任した。翌年10月の衆議院選挙では涙をのんだが、今年2月の同選挙で初当選を果たした。

女性の目線で不安に向き合う 子どもと過ごす時間も大切に

エネルギー政策へのこだわりは強い。デジタルなど新産業の創出には安価で安定的な電力供給が必須だとして、ベストミックスの重要性を訴える。「ベストミックスのバランスは国によって異なる。日本は再生可能エネルギーで100%を賄うことは不可能で、原子力をベースロードにしないといけない」

こう語る門氏の根幹にあるのは、歴史への責任と未来への覚悟だ。日本は戦後10年の1955年、原子力の平和利用を目的とした原子力基本法を制定した。「原爆による被ばく被害の全容が判明しておらず、前年には放射性降下物を浴びてマグロ漁船の船員が亡くなった第五福竜丸事件があった。そんな中、先人たちは党派を超えて、資源が乏しい日本が二度と戦争をしないために原子力の活用へと動いた。この重みを忘れてはいけない」

経済安全保障の観点からも原子力の重要性を説く。ロシア、中国といった権威主義国やアジアやアフリカの新興国が原発活用に動く中、「日本のメンテナンス技術や保安の知見が求められる日が来るはずだ。他国にとって代替不可能な『戦略的不可欠性』を高めるためにも、原子力技術を手放すべきではない」。女性や母親たちが抱く放射能への不安にも、同じ目線で丁寧に向き合い、科学的なリテラシーを共有したいと意気込む。

小学3年生の娘と1年生の息子を育てながらの政治活動は多忙を極める。それでも、週に2回は子どもが起きている時間に帰るように心掛ける。世襲ではない普通の女性が、子育てをしながら政治の世界で活躍する─。それが政治の門戸を広げることにつながると信じて活動を続ける。座右の銘は「笑う〝門〟には福来たる」。いつしか古巣を率いる日を目指し、持ち前の明るさでまい進する。

 

【原子力の世紀】核兵器のパワーバランスが崩れる中で中国が狙う質と量の向上

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

急速な核軍拡を続ける中国は世界最大のICBM配備国になる可能性が出てきた。

ただ米露と比べると核戦力は質と量で劣り、課題克服にまい進するとみられる。

核軍縮条約なき世界

核兵器を巡る国際情勢が激変している。米露が結んでいた核軍縮条約が今年2月に失効、約半世紀ぶりに無条約状態になった。欧州では3月、フランスなど8カ国が「欧州の核」構想に合意した。核戦力増強を続ける中国を含め、核軍拡の足音が高まっている。米中露の核戦力の現状と課題を探る。

北京の天安門広場で昨年9月にあった「抗日戦争勝利80周年」記念の軍事パレード。中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記などが見守る先には、次々と披露される新型核兵器の姿があった。

B29爆撃機「エノラゲイ」
出所:筆者撮影

大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF61」、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)「JL3」が行進、上空には空中発射長距離ミサイル「JL1」を搭載する戦略爆撃機H6Nが編隊を組み飛行した。中国国営の新華社通信は「わが国の戦略核戦力の(陸海空の)3本柱が初めて集中展示された」と伝えた。

筆者の取材に応じた日本の専門家は、中国はこの軍事パレードで「かなり強い意志を示した」と分析、中国人の軍事専門家も「正直、驚いていた」と紹介した。多くの関係者が、中国の核戦力が「最小限の抑止力」の域を超えたと受け止めた。

中国の核増強を物語るエピソードはこれにとどまらない。西域の砂漠地帯では、新たなICBM発射用サイロの整備が進む。3カ所合計で350基に達する。米国防総省は核弾頭を1発載せた「DF31」を「100基配備した」と分析している。今後、中国が3発以上の核弾頭を積む「DF41」などを全てのサイロに配備した場合、ICBMの総数は1000発を超す。米国が配備する400発を上回り、中国が「世界最大」のICBM配備国となる可能性がある。

原潜が発展途上 プルトニウム量が不足

ただ、中国の核戦力は、克服すべきいくつかの課題がある。

一つ目は、SLBMの射程がまだ不十分な点だ。堅固な核抑止力を確立するためには、ICBMなどが先制攻撃を受けて全滅した場合でも、反撃できる「第二撃」能力の保持が不可欠となる。「海の忍者」と呼ばれ、所在をつかむのが難しい原子力潜水艦がその役割を担うと期待されている。だが、中国の原潜はまだ発展途上の段階にとどまっている。大きな騒音を出すため、米軍に見つかる可能性が高い。この状態のままでは、有事の際、SLBMを放つ前に撃沈されてしまう。現段階では、有効な第二撃能力とは言えない。

中国が現在、原潜に配備するSLBM「JL2」は、射程が約8000㎞とみられている。米東海岸にある首都ワシントンに撃ち込むにはハワイ沖にまで出撃する必要があり、米軍に探知される可能性が高い。一方、軍事パレードで披露した「JL3」は射程が1万㎞以上とされる。米潜水艦が接近しにくい中国にとって「安全な海」と言える南シナ海からでも米本土に届く。ただ、東海岸に届くかどうかはさまざまな分析がある。能力増強が必要な分野と言える。

【業界コラム/需要家】電気料金の負担増で問われる自由化対応

2023年以降、卸電力市場が落ち着きを取り戻す中で、法人需要家を中心に市場連動型料金が再び拡大しているとみられる。米国とイスラエルによるイランへの攻撃は、そうした「緩み」に冷や水を浴びせることとなった。特にLNGは、カタールの生産停止などを背景に向こう数カ月の市場不安定化は不可避で、特に夏場を挟んだ電力料金高騰が懸念される。

また、国内の電力関連制度の動向を見渡すと、中長期的な電力コスト上昇も避けられない。足元では、容量市場の指標価格・上限価格、非化石価値取引市場の上・下限価格などが、いずれも引き上げ方向で見直し検討されており、需要家の負担増は必至だ。さらにGX―ETSの導入や広域系統増強、長期脱炭素電源オークションによる負担増も待ち受けている。加えて、GHGプロトコル改定に伴う脱炭素電源調達手法の高度化にも対応していく必要がある。

こうした不確実性の拡大や構造的な負担増、ルールの複雑化といった状況をみると、需要家も中長期的な観点での電力・エネルギーのポートフォリオマネジメントに取り組むべきだろう。実際にビジネスの現場をみると、相鉄、大塚、イオン、セブン&アイ、日産自動車、ヤマト、三菱マテリアルなどがここ数年で小売り電気事業ライセンスを取得している他、良品計画、野村不動産、東急などが発電事業・発電所投資の拡大を図るなど、戦略的展開を模索する企業が増えつつある。

電力分野では、自由化による電力事業者への影響に目が向きがちだが、当然、顧客である需要家にも、自由化した市場と向き合うための変革が求められるはずだ。(J)

【業界コラム/再エネ】分散型の最適制御で事業者の競争加速

日本の再エネ市場は、FIT制度による急拡大を経て、最近ではAIや蓄電池を駆使して分散型電源を高度に制御する段階へと移行している。特に2026年度は、家庭用蓄電池やEVなどの低圧リソースによる需給調整市場への参画が本格化する。点在するリソースを束ねて系統安定化と収益化を両立させる「リソース・アグリゲーション」が、事業者の競争力を左右する主戦場となる見通しだ。
ただし市場環境の楽観視はできない。26年度以降、需給調整市場の上限価格は19・5円から15円/⊿kWに引き下げられ、募集量も適正化の名の下に削減される見通しだ。つまり参入門戸は広がるが競争は激化し、単価は下落する可能性が高い。
こうした状況下で、アグリゲーター各社は収益の多層化を戦略の柱に据える。卸電力市場での差益、容量市場での固定報酬、需給調整市場での調整力報酬をAIでリアルタイムに最適化し、最も収益性の高い市場へリソースを配分する手法が標準となりつつある。また、技術的難易度の高い一次調整力への挑戦や、コスト抑制につながる機器個別計測の導入など運用の高度化も加速している。
地域に分散した再エネを制御する「エネルギーマネジメント」への期待は、出力制御の頻発やメガソーラーなど大規模開発への反発を背景に、かつてないほど高まっているのを感じる。VPP(仮想発電所)を通じて地域のリソースを市場へつなぐ仕組みは、環境負荷の低減と経済的自立を両立させる新たな収益基盤となる可能性がある。この自律的な運用体制こそが、地域とエネインフラを支える礎となるだろう。(K)

【リレーコラム】幻想だったグローバリゼーション 自立国家として足元を固めるべし

田口昂哉/ヘリカルフュージョン代表取締役CEO

日本のエネルギー政策は、エネルギー自給率の向上を軸とすべきだ。

日本の現在のエネルギー自給率は15%程度である。すなわち、われわれがエネルギーを使えば使うほど、85%の富は海外に流出することを意味する。実に、年間約25兆円。これを毎年原料・燃料として輸入し続けることで、われわれの日常生活が保たれている。経済的損失はもちろん、国家が危うい基盤の上に成り立っていると分かる。この細い橋を渡り続けるために、日本は弛まぬ外交努力を続けている。しかし、それを所与のものとして甘んじて受け入れてはならないと思う。

エネルギー自給率をいかに向上させるかが国家の一大事であることを明確に掲げ、覚悟を決めて粘り強く取り組まなければならない。なぜなら、グローバリゼーションは幻想であった、ということが露呈してきているからである。このことは、核融合(フュージョン)エネルギーの世界でも如実に現れてきている。


競争力高めて 強固な基盤づくりを

筆者は、ヘリカルフュージョンでフュージョンエネルギーの実用化を世界に先駆けて実現しようとしている。フュージョンエネルギーは、太陽の中で起こっている現象を地球上で安全に再現し、大きなエネルギーを活用する技術である。人類がこれまで手にしてきたエネルギーも実は全てフュージョン由来である。化石燃料も元をたどれば核融合反応から生まれたものだ。石炭、石油、天然ガスは、太陽のエネルギーを蓄積した植物が地層の中で堆積し、何万年、何億年と熟成されてでき上がるものだからだ。

フュージョンは従来、国際協調の下、世界30数カ国が協力して技術開発を進めてきた。しかし、近年は逆に各国が、われ先にフュージョンエネルギーを得るために、熾烈な開発競争を繰り広げている。競争の旗手はアメリカ、そしてそれを猛追する中国。日本は元々、研究・技術基盤で世界トップクラスだったが、競争意識がいまだに低いのが現実である。そもそも日本は、エネルギー基盤の弱さによって太平洋戦争に追い込まれた歴史を持つ。このリスクを放置すれば、最悪の場合、また日本がエネルギーのために争いを引き起こす可能性すらあり得ると、筆者は危惧している。

本稿を執筆している3月3日、まさにホルムズ海峡が事実上封鎖されており、世界はエネルギー危機の入り口に立っている。これを一過性の危機だと思ってはいけない。グローバリゼーションが幻想だったとしても国として立っていられるように、足元を固めるべき時が来ているのである。

たぐち・たかや みずほ銀行で法人営業、国際協力銀行にて発電プラント輸出ファイナンスなどを経験。2021年にヘリカルフュージョンを共同創業。

【コラム/4月24日】見直し見直しの電力自由化を再考する ~制度改革に疲れた日本は、無間地獄の寸前

飯倉 穣/エコノミスト

1、市場信奉者が喧伝した期待、「自由化万事良し」

今年は、電力小売り全面自由化スタートから10年となる。市場信奉者・役所の目論見は、電気小売り事業への参入増・競争出現による料金メニュー・サービスの多様化と料金抑制だった。そして家庭等消費者に、各自のライフスタイル・価値にあった電力会社・メニュー選択が可能となり、料金も低下すると期待を煽った。

近時報道もあった。「電力自由化の現在地㊤「電気を選べる日本」に試練 規制緩和10年、料金抑止の副作用、値上げしにくく投資細る」(日経26年3月31日)。「同㊦中東緊迫で先物取引最高燃料高騰、コスト上昇に備え 市場価格設定にひずみも」(同4月2日)。中途半端な自由化で投資不足懸念という紹介だったが、自由化に馴染まない電気事業の根本の特性を看過した内容だった。

現在・未来の電力需給安定に官製電力8市場がある。ベースロード市場、スポット市場、電力先物市場、容量市場、需給調整市場、非化石価値取引市場、カーボン・クレジット市場、同時市場である。これらは需給安定に寄与しているだろうか。将来の供給力不安で電力システム改革の検証や制度見直しが相次いでいる。郵政改革と同じ状況である。まして中東依存のエネ世界では、購買力が重要だが、国内企業群の対応は苦難の連続である。どうにも先行きが見通せない状況が続いている。

抑々技術革新なき自然発生的な電気事業の細切れ自由化が、成功すると思えない。改めて国際エネ環境軽視、市場信奉、消費者軽視で国内供給不安惹起の電力システム改革の軽率さを考える。


2、供給体制の質低下

電力システム改革(電力自由化)の目論見は、1990年代から始まる。不況業種等による電力ビジネス機会獲得要求を背景に、バブル崩壊過程の混乱期にマクロ経済政策の対応ミスと米国圧力を好機とみて、一部官僚が意図的に自由化を良策と画策したことによる。その根拠は90年代後半(燃料価格低迷時)における意図的なコジェネ技術の過大評価(誰でも安い電源設置可能)と欧米の経済政策(新自由主義・市場競争重視)・電力自由化の無批判模倣だった。特定官僚・役所主導の政策に、実業音痴・規制緩和好きの経済学者が加担し、公益的視点を捨象し、市場創設が電力需給と価格の安定・低下に効果的と持ち上げ、且つ日本経済活性化に寄与すると喧伝した。

その流れを見れば、95年IPP・特定電気事業承認、2000年特定規模電気事業(PPS)承認・特別高圧自由化、04年高圧小売り自由化範囲拡大、05年高圧50kw以上自由化対象・卸電力市場創設と進展した。そして「自由化いいことずくめ」で政治家を巻き込んで、行き着く先が「電力システムに関する改革基本方針」(閣議決定13年4月2日)だった。システム改革は、①広域系統運用の拡大(電力広域的運営推進機関設立15年4月)、②小売及び発電の全面自由化(小売り全面自由化16年4月)、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保(発送電分離20年4月)の最終3段階の変質を経て、今日のカオス的状況生み出した。

現在電源を持たない電気の販売業者は、700社に達し、市場価格にらみで販売手数料稼ぎに顧客開拓を行っている。経済学でいう取引費用を嵩上げし、昔風に言うなら消費者を搾取している。かつ価格信奉市場は、需給を安定させず、投資を躊躇させ、供給不安を招いている。


3、根本看過、弥縫策で需給安定は永遠のテーマに

自由化完成(20年)後、21年1月電力需給逼迫・市場価格高騰、22年3月東日本電力需給逼迫以来、需給対策見直しが継続している。そして今般「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG とりまとめ」(26年3月)が登場した。報告書は、現体制で供給力確保困難と考え盛り沢山の対応を並べる。電源休廃止の監視、既存電源確保、電源維持の費用負担確保、休眠事業者の扱い、燃料確保、発電設備確保、ファイナンス手当等々を記述している。現在の自由市場の不全と失敗と不信を確信する内容だった。議論の過程では、特別な公共性を持つ電力という商品を扱う小売事業者は、一定の社会的責任や役割を果たすべきとする(25年12月)記述もあった。 

つまり、WGとりまとめは、これまでの「電力システム改革では、従来、垂直一貫体制、地域独占、総括原価方式によって実現しようとしてきた「安定的な電力供給」を事業者や需要家の「選択」や「競争」を通じた創意工夫によって実現することを目指したが、その中で、供給力の確保など様々な課題に直面している」と述べている。電力の安定供給が、新自由主義・市場競争に基づく価格変動・需給調整では困難と認識したということであろう。過去の自由化主張の識者も市場による需給調整の弱さを述べている(「電力自由化現在地 識者に聞く」日経26年4月3日)。このままでは、更なるシステム見直しの糊塗で、複雑怪奇な制度劣化が進むことになる。現段階で、「電力自由化は成功」という意見をお持ちの方の声を仄聞しない。また産業界期待の電力料金低下による産業の国際競争力向上もなかった。

【業界コラム/火力】需給見通しの難しさ お米の価格から考える

米の価格高騰を巡り「需要予測が外れているのでは」との批判が出ている。実際、需給見通しは人口減少や一人当たり消費量の長期トレンドに強く依存し、短期的な需要変動を十分に吸収できていない。制度は「需要予測が外れることを想定していない」仕組みのため、見通しが外れた途端に価格が跳ね上がる構造があらわになった。
この構図は、電力需給見通しにも通じる。電力分野では、見通しが外れるたびに容量市場や調整力市場などで対策が積み上げられてきたが、それらは必ずしも一貫した思想の下で設計されているわけではない。制度間での齟齬は残り、全体としては危機対応の継ぎ足し、いわばイタチごっこの様相を呈している。
電力が米と決定的に違うのは、需給が外れた際の帰結である。米は価格上昇で済むが、電力は即座に停電という形で社会機能を脅かす。貯蔵が困難で、同時同量が求められる電力は、他分野より一段厳しい制約の下にある。
この綱渡りを支えてきたのは、実は旧来の電気事業者が担ってきた「安定供給は誰が何と言おうと守る」という暗黙の責任感だった。自由化自体は否定されるべきものではないが、その過程で供給責任の所在が曖昧になり、この土台が制度として十分に引き継がれているとは言い難い。さらに、政策議論の場に実務の当事者や技術的視点が乏しく、理念優先で制度設計を進めたことが混迷を深めている。
電力は、需給予測の外れが機能不全に直結するインフラだ。市場制度の有利不利に一喜一憂するのではなく、この現実を関係者が共有することが、実効ある議論に立ち返る第一歩ではなかろうか。(N)

【シン・メディア放談】東日本大震災から15年で エネルギーを考えさせられた3月

〈業界人編〉電力・石油・ガス

イランの戦火、石油備蓄放出、柏崎刈羽の営業運転……。エネルギーが話題になった1カ月だった。

─アメリカとイスラエルがイランを攻撃した。ホルムズ海峡が事実上封鎖される事態に……。

ガス 石油の国家備蓄を初めて単独放出した。LNGは備蓄が3週間分しかないが、ホルムズ海峡を経由するのは輸入量全体の6%ほどだ。日本にとっては直接的な影響は小さいものの、原油価格が上がれば2022年のウクライナ侵攻時のように、電気・ガスが高騰しかねない。3月使用分で終了した電気ガス料金補助は夏を待たずに復活するかもしれない。

電力 大手電力で燃料調達を担当していた知人も、市場価格を気にしていた。高市早苗首相は3月3日の衆院予算委で料金補助について「延長を判断するという段階にはない」と答えたが、9日には「遅すぎることなく対策を打つ」と明言。19日にはガソリン価格が170円を超えないようにする激変緩和策が復活した。

石油 昨年の核施設への攻撃時もそうだったが、日本と海外メディアの差は歴然だね。日本メディアは周辺国から情報を伝えているが、海外勢は現地に入っている記者もいる。日本の論説委員が社説で国際法違反だと論を垂れても、説得力はない。

電力 海外メディアはイラン人が最高指導者ハメネイ氏の死を喜んでいる様子を伝えていた。一方、日本では平和を望む様子や「アメリカに報復してやる」と怒っている姿が多く報じられた。海外メディアの方が実態に近い気がする。

ガス イランに勝算はないが、革命防衛隊を無力化するのも困難だろう。9・11のような報復テロが起きないことを祈るよ。


迷走するトランプ関税 脱炭素より経済安保に

─日本が対米投資第1弾を発表した矢先に、米最高裁が相互関税に違憲判断を下した。

ガス 日本企業は関税を下げてもらうために背伸びしているというのに……。アラスカLNGに関心表明する必要もなかったという話になりかねない。これまでは中国が「ビジネスの予見性がない」と言われてきたが、アメリカもそうなってきた。

石油 2月には米エネルギー長官が、気候変動対策の重視を続けるならIEA(国際エネルギー機関)を脱退すると言い出した。今のビロル事務局長体制が再生可能エネルギー偏重なのは確かだ。田中伸男事務局長の時代とは変わってしまった。

電力 2月27日の日経に掲載されていたフィイナンシャル・タイムズのコラムニスト、ラナ・フォルーハー氏の「米、化石燃料へ傾斜の愚」というオピニオンは良かった。トランプ政権の気候変動対策の軽視は、国民の命と次世代産業の競争力を犠牲にして、アメリカを衰退させているという論旨だ。日本の新聞でこういった重厚な記事を見る機会は少ない。

─国内では政治風景がガラッと変わった。

ガス 食料品の2年間消費税ゼロに向けた議論が始まった。かつて軽減税率を導入する時、食料品だけでなく新聞も生活必需品だという理屈で対象になった。新聞よりはエネルギーの方が必需だが、国民は消費税10%や石油石炭税、再エネ賦課金などを負担している。

電力 総選挙で原子力政策に明るい議員が増えたが、浜岡原発の不適切事案や原子力規制庁職員の社用スマホ紛失、九州電力社員に対するどう喝など締まりがない。それでも、最終処分場の文献調査地の拡大など、政策が前進するのは間違いない。

気になるのは再エネ政策の行方だ。例えば、経済安全保障に重きを置く高市政権が、中国製の安価な太陽光パネルやパワーコンディショナー、蓄電池をどう扱うのか。中国製品を排除すればビジネスが成立しない事業者もいる。日本や同志国の製品の使用を義務付けるなら、新たな補助金が必要かもしれない。

ガス 経済安保に力を入れれば、多くの民間企業が影響を受ける。これまで企業は「高くても脱炭素電源」だったが、これからは「高くても中国以外の製品」になるかもしれない。

 エネルギー基本計画も変わる。次期エネ基は、現行の第7次のように複数ケースで「ぼかす」のだろうが、第9次では経済安保や安定供給を前面に打ち出し、50年カーボンニュートラル(CN)というゴールが動くのでは。新興国のように60年、70年CN目標に変わっていく。


気になる東電の連携相手 情に訴える朝日

―柏崎刈羽原発が約14年ぶりの営業運転を迎えそうだ。

ガス 本当に長かった。テロ対策の不備など東京電力の不手際はあったが、一度ルールを変えると、もう一度動かすのがどれだけ大変か痛感した。東電はアライアンスを組むようだが、外資ファンドなどに資産だけを売却させられ、一時的なキャッシュを生むだけで終わらないか。福島事業がある限り、真のアライアンス先は国しかないだろう。

石油 朝日は3月に長崎大学の鈴木達治郎客員教授や規制委の更田豊志前委員長のインタビューを掲載。柏崎刈羽の再稼働にお灸を据える記事が目立った。

3・11が過ぎた12日の社説は「思い出してほしい。東京電力の過酷事故で恐ろしい思いをした日々を」という社説らしからぬ書き出しで驚いた。「原発より

再エネを」という持論を情に訴えかけているように読めたね。翌日の社説でも、六ヶ所再処理工場の稼働は「看過できない」と核燃料サイクルの撤回を叫んでいた。

─計画停電を思い出して安定供給の重要性も論じてほしい。

【ワールドワイド/コラム】石油供給と終戦は中露頼み 見通し甘い米のイラン攻撃

国際政治とエネルギー問題

筆者は、資源エネルギー庁石油天然ガス課長としてイランとの石油利権交渉を担当し、2001年にアザデガン油田の優先交渉権を獲得した。イラン人は日本をこよなく愛し、数字にも法律にも強くタフな交渉者。全ての階層で頭脳明晰であった。

イランは単なる中東の一国家ではない。4000年を超える文明の歴史を持ち、過去数世紀にわたり外国からの侵略と干渉に繰り返し抵抗してきた民族だ。1979年のイスラム革命、80〜88年のイラン・イラク戦争(死者100万人超)、長年の経済制裁―どれもイランを屈服させることはできなかった。このような歴史的文脈において、「短期で終わる」という米国の見通しは、イランの国民性と歴史を根本的に誤読している。攻撃の数日前のFBI長官によるイラン担当の防諜部隊職員10人以上の解雇も意味深長である。

今回の攻撃で、ユダヤ教国家により最高指導者ハメネイ師が殺害されたことは、単なる政治指導者の死ではない。シーア派イスラムにおいて、最高指導者は「神の代理」であり、イスラム共同体全体の宗教的・政治的権威を体現する存在だ。革命防衛隊との力関係は微妙だが、新指導者モジタバ・ハメネイ師の選出により、「殉教者の息子が指揮を引き継ぐ」という強力な宗教的物語が形成された。モジタバ師は3月12日、ホルムズ海峡の封鎖を宣言した。

今回のイラン攻撃による供給途絶は過去の石油危機、2022年4月のロシア減産よりもはるかに大規模で、データセンターによるエネルギー需要急増中のタイミングだ。世界のエネルギー情勢を泥沼化させ得る。特筆すべきはスウィング・プロデューサーが機能しない点である。過去全ての危機では、サウジアラビアが増産し、価格を安定させた。今回は石油輸出の唯一の出口がホルムズ海峡だ。そのため、ロシア制裁を解除し、ロシアに増産を乞い願う米国となる。

中国は、孤立するイラン原油の9割を優越的地位で輸入してきた。ホルムズ海峡の封鎖で中国の危機との見方があるが、困るのはイランも同じで、革命防衛隊にとって戦費調達とヒズボラ、フーシなどの支援のために原油輸出が必要で、イランもホルムズ海峡封鎖は避けなければならない。最大輸入国の中国こそがホルムズ海峡封鎖阻止をイランに説得できるパワーを持つ。

米国は今や石油、天然ガスの自給を達成し、輸出国だ。量的には困らないが、ガソリン価格の高騰が国内政治にインパクトを与える。トランプ大統領はテロリスト国家の弱体化、原油価格の急落によるインフレ率の低下を押し出し、11月の中間選挙に臨むだろうが、かつてのイラン・イラク戦争を「毒の盃を飲む」と終戦決定したホメイニ師のような存在が今回はない。だからこそ、ロシアに増産と終戦仲介を、中国にもイラン説得を依頼する支離滅裂な対応に出ざるを得ないのである。果たしてこれが米国のイラン攻撃の狙いだったのだろうか。

(平田竹男/早稲田大学教授・早稲田大学資源戦略研究所所長)

【業界コラム/原子力】電気料金上昇の懸念 再稼働が順調なら……

米国・イスラエルとイランの戦争が始まり、日本のエネルギー確保に懸念が高まっている。二度の石油危機の教訓から日本は原油輸入の中東依存度低減に取り組んだが、喉元過ぎれば熱さ忘れて2020年度以降、90%を大きく超えている。原油は日本の一次エネルギーの4割近くを担い、10兆円程度の輸入額となっており、経済への負の影響は5兆円に上るとの報道がある。
電気事業は原油の利用を7%程度に抑えているので、石油火力が運転不可能となってもその直接的な影響は小さい。問題は日本の天然ガス輸入価格が原油価格に連動する設定になっていることで、原油価格の高騰が間接的に電気料金へ影響を与える。
経産省が24年度に行った発電コスト検証のデータによれば、例えば天然ガス価格の5割上昇は1kW時当たり4円の燃料費上昇となり、天然ガス火力への依存度が32%であることから、年間1・3兆円のコスト上昇となる。電気代だけでこの額なので、負の影響5兆円という報道には納得感がある。
もし原子力の稼働が順調ならどうか。損壊した1F事故炉4基は取り返せないが、その後に17基の原発を閉鎖したことは、安全規制の強化と電力自由化の拡大という政策の組み合わせが招いた大きな誤りだ。17基が稼働していれば年間の発電量は800億kW時増え、燃料費の差(1kW時当たり6円)から、4800億円の節約が可能だった。廃炉されていない原発もいまだ21基が動いておらず、それらが加われば節約効果は倍になる。
本稿が世に出る頃にはイラン戦争が収束していることを祈るばかりだ。(H)

【ワールドワイド/コラム】気候変動問題偏重のIEA 米国が脱退を警告

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米国のライト・エネルギー省長官は2月18日、国際エネルギー機関(IEA)に対し、気候変動活動を縮小し、エネルギー安全保障に注力しない限り同機関を脱退すると、改めて警告した(ブルームバーグ)。「改めて」というのは、昨年6月にも同様の発言を行ったからである。予算の最大の分担国である米国の警告は、組織の存続に関わる一大事だ。

IEAは、1974年に石油の安定供給確保を掲げて発足したが、2015年に現職のファティ・ビロルが事務局長に就任すると、気候変動問題への関与を深めてきた。その象徴が21年の「Net Zero by 2050」である。ネットゼロに向けたシナリオを提示したという点では、画期的な報告書であった。

ところが、「一つのシナリオ」に過ぎないはずの本書が、いつの間にか「バイブル」になってしまった。政治家、研究者、活動家、企業などがそれぞれの立場で「IEAは……」と、利用したのである。例えば、ネットゼロへの道しるべとして示された「新たな化石燃料供給への投資は不要」などは「神の戒め」のように唱えられ、金融界はESGと称して化石燃料への投融資を絞ってしまった。「神」の前では、エネルギー価格の高騰に苦しむ市民や、脅かされる国家の安全保障などはかすんだようだ。「安定供給はどこへ行ったのか」という米国の主張も、ある意味、もっともなのである。

さて、本稿を書いている3月11日には、米国―イラン戦争によるホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、IEAの加盟国が協調して、過去最大規模の石油備蓄の放出を行うことが公表された。現時点で戦争の行方は見えない中、この組織は、まさしく本来の使命の遂行に、その存在意義が問われている。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

【業界コラム/石油】豪州でガソリン枯渇の危機 政府の無策ぶり露呈

イラク攻撃が長期化の様相を見せる中、世界中でオイルショックが顕在化している。中でも豪州ではガソリンなどの枯渇が現実味を帯びてきた。政府によると、燃料備蓄量はガソリン36日分、ジェット燃料29日分、ディーゼル32日分。備蓄量の発表は3月上旬であり、現在の備蓄はほぼ尽きていることになる。
アルバニージー首相やボーエン気候変動・エネルギー相は「3月から4月にかけて予定されている全ての燃料貨物船は問題なく到着する。燃料供給の安全性を保証する」と繰り返したが、その楽観論は早くも打ち砕かれた。3月中に豪州に到着予定だった6隻のタンカーが引き返し、到着が遅れることになった。経済界などが懸念していた4月初旬のイースター大型連休になぞらえた「イースターショック」が現実になりつつある。
3月下旬には都市部でも一時休業に追い込まれるSSが出てきた。ガソリン価格はどんどん上がり、22日時点でレギュラー1ℓの価格は豪州全土平均で2・38豪ドル(約264円)まで上昇。国民はガソリンの備蓄に走り、20ℓ入りのポリタンクがホームセンターから姿を消した。在宅勤務への切り替えや公共交通機関での移動が増え、自動車の交通量は減少。配給制になるのではとの憶測も流れ出した。
消息筋によると、政府は水面下で日本などアジア各国に対し、豪州産LNGと引き換えにガソリンなどの燃料の供給を要請したという。無策ぶりが露呈する前に帳尻合わせしようとの魂胆が見え見えだが、都合よく運ぶのか。「燃料供給の安全性を保証する」と豪語したアルバニージー首相は果たしてどう国民の理解を得るつもりなのか。(K)

【ワールドワイド/経営】IEA理事会でエネ安保巡り 米国と欧州に亀裂

2月18、19両日にパリで国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会が開催された。全体的な閣僚コミュニケの採択は見送られ、議長声明の発出にとどまった。閣僚が合意できたのはIEAの重要鉱物に関する作業への支持表明である。個別分野の合意にとどめるのは、昨年6月のG7カナナスキスサミットと同じである。

米国はIEAからの離脱を示唆

議長声明で明らかになったのが、クリーンエネルギー転換による脱化石燃料こそがエネルギー安全保障に貢献すると考える欧州と、エネルギー安全保障のためには化石燃料の増産を含めた供給増大が必要であると考える米国との溝である。これまでのIEA閣僚理事会でも原子力の在り方など、加盟国間で立場が異なる問題は存在したが、エネルギー転換とエネルギー安全保障に関する米欧対立ははるかに根が深く、幅広い問題である。このため、議長も事務局も早い段階で包括的な共同声明の採択は諦めていたのだろう。

トランプ政権発足以来、IEAは世界エネルギー見通し(WEO)において、現行政策シナリオ(CPS)を復活させるなど、米国への配慮をにじませてきた。しかし、閣僚理事会で米国のライトエネルギー省長官は、「現在のIEAの政策シナリオに全く満足していない。米国が長期にわたってIEAの加盟国であり続けるためには改革が必要。ネットゼロエミッション(NZE)シナリオなど不要だ」と述べ、NZEシナリオを削除しないとIEAから離脱する可能性があることを示唆している。パリ協定やネットゼロアジェンダは欧州にとって譲れないものであり、米国に配慮してCPSを復活させるまではともかく、NZEを削除することとなれば、黙ってはいないだろう。米国と欧州の板挟みとなったIEAのビロル事務局長は、難しいかじ取りを迫られるだろう。

今年はフランスがG7、米国がG20の議長国となる。米国のG20で温暖化問題が取り上げられないことは確実だが、エネルギー問題についてG7とG20でどのような違いが出てくるのかが注目される。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【ワールドワイド/市場】英国陸上送電事業に競争原理を導入 コスト低減に期待

英国では、送電事業者3社が、イングランド・ウェールズ、南スコットランド、北スコットランドの3地域で、それぞれ送電設備を独占的に所有している。これら3系統の運用は、国有のシステムオペレーター(SO)が全域一括して担っている。送電事業者は、インセンティブ型レベニューキャップ制(RIIO)の下、規制機関が認可する増強や送電線の設計などを行っている。

制度設計は大詰めを迎えている

一方、洋上風力と陸上の送電系統をつなぐ海底送電線の所有者は、洋上送電事業者(OFTO)と呼ばれる。OFTOは2009年に制度化され、洋上風力事業者が海底送電線を含めて建設した後、発送分離のため海底送電線の所有権を競争入札にかけている。RIIOの下で約25年間安定的な収益が見込まれ、英国内外から多くの事業者がOFTOとして参入している。

OFTO制度の成功を基に、15年頃からは、競争入札により陸上送電事業者を選定する競争的選定送電事業者(CATO)レジームという制度の検討が進められ、昨年時点までに制度の大枠設計は完了している。今年中にCATOライセンスの詳細規定の検討、入札対象となり得るプロジェクト地点の候補がSOから示される予定である。

CATOでは、SOと規制機関がプロジェクト地点を設定し、落札事業者は、設計、用地取得などの建設前準備から全てを担う。事業者に開発初期段階から高い自由度を与え、独占3社では実現できなかったコスト低減などの効果が期待される。

競争入札では、各入札者の事業計画をSOが審査し、費用対効果が一番高く評価された入札者が優先交渉権を獲得する。その後、規制機関による入札結果の精査などを経て、運開から35年間の安定収入期間に入る。減価償却期間は40年とされ、収入期間との差となる5年分は残存資産価値として整理されるも、再入札実施の選択肢もある。その他、収入インセンティブなど、長期インフラ事業固有の財務規律も設計されている。

OFTO制度に続く英国独自の制度として今後が注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

【業界コラム/ガス】札幌のLPガス爆発事故、腐食兆候も未処置

札幌市手稲区西宮の沢の住宅団地で2月9日、住宅が爆発する火災が発生し、1人が死亡、4人が負傷する事故が発生した。団地にLPガスを供給する北ガスジェネックス(札幌市)は17日に親会社の北海道ガスとともに記者会見を開き、同社が供給するプロパンガスに起因した可能性があると謝罪した。

事故が発生したのは、コミュニティーガス方式(旧簡易ガス)で231戸にLPガスを供給する「宮の沢コープタウン」。共用ボンベ庫から地中配管を通じて各戸にガスを供給する仕組みだ。同社によると、事故後の現場調査で、火元住宅の敷地内ガス管(ポリエチレン被覆鋼管)の立ち上がり部付近で直径約2㎜の穴が確認された。

会見で、火元の住宅敷地内のガス管に直径約2㎜の穴が見つかったと明かした上で、「2022年9月の法定点検で腐食の兆候を確認したが、緊急性が低いと判断し、処置しなかった」と説明。点検員が立ち上がり部に腐食の兆候を確認し、補修を提案していたという。また、事故前日の8日夕方から、団地全体のガス供給量が通常の2~3倍に増加していたことも判明した。

事故を受け、原因の究明と再発防止策を検討する事故調査・対策委員会を設置。団地内全戸を緊急点検した他、同様の配管を使用する約8145戸を対象に屋外ガス管の漏えい検査を実施。3月9日に完了を報告するとともに、累計17件で少量のガス漏れを検知したとも明らかにした。

今回の事故は、LPガス供給設備の保安管理や点検後の対応の在り方に影響を与える可能性があり、業界でも安全管理体制の再確認が求められている。(F)