矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー
再生可能エネルギー電力促進のための方策は、以前のコラム(5月16日)で述べた経済的なインセンティブ付与にとどまらない。空間システムの設計方法や計画策定手続きへの市民参加、さらには環境分野における専門家の育成などで、再生可能エネルギー電源拡大に向けてパブリックアクセプタンスの向上を図ることができる。本コラムでは、その現状を先回同様、主としてドイツの事例で紹介したい。
空間システムに関しては、未利用地だけでなく既利用地でも再生可能エネルギー電源設置の可能性がある。とくに太陽光発電の場合は、他の空間利用との組み合わせが可能である。例えば、太陽電池モジュールを建物の外壁に組み込むことで、発電だけでなく、断熱、防風、遮音、調光などの機能を持たせることができる。現在のところ、建物一体型太陽光発電の可能性については、様々な研究が進展している。また、大規模駐車場の通路面での太陽光パネルの設置も考えられる。さらに、既存の交通・エネルギーインフラに沿って太陽光パネルを集中的に設置する可能性についても検討されている(高速道路沿いやガスパイプライン上部への設置)。高速道路沿いの設置では、ソーラーノイズバリアとしての可能性についても研究が進展している。
また、ドイツでは、かつての褐炭や石炭の採掘場に大規模ソーラーパークやウィンドパークを建設する計画がある。これらの土地は、すでに何十年も前からエネルギー生産が行われてきた場所であり、土地の継続的な利用により、雇用が維持されるなど、地域経済にプラスの効果が期待できる。例えば、大手電力会社RWEは、2022年に、褐炭の採掘場であるインデン(Inden)で大規模ソーラーパークを稼働させており、同じく褐炭の採掘場であるガルツヴァイラー(Garzweiler)においても2023年に、蓄電池併設型ソーラーパークを稼働させる予定である。
さらに、農地に太陽光発電設備を設置するアグロフォトボルタイックは、生物多様性の保全に貢献し、土地利用をめぐるコンフリクトを軽減させることから、発電設備設置についてのアクセプタンスを促進する可能性がある。ドイツでは、再生可能エネルギー法EEG2023で、地上設置型の太陽光に関してアグロフォトボルタイックの設置規制が緩和された。上述のガルツヴァイラーでは、アグロフォトボルタイックの実証試験も行われる予定である。
空間システムの設計だけでなく、計画手続きに初期の段階から市民を関与させることで、アクセプタンスの向上を図ることができる。ドイツでは、連邦空間計画法で、空間計画の草案は、縦覧に供せられ、市民に意見を述べる機会を与えなくてはならないことを定めている。また、空間計画において、優先地域(自然や景観、風力発電の優先地域など)、留保地域、適性地域(風力発電など、ある用途に適していると宣言された地域)などを指定すること(ゾーニング)を可能にしている 。州は、連邦空間計画法に基づいて、州全体および地域(Region)の州開発計画を策定するが、地域計画で優先地域、留保地域、適性地域などの指定を行う。
連邦、州、地域レベルの空間計画は、地方自治体レベルの都市土地利用計画を通じてより具体化されるが、自治体の計画では、地域の計画よりもより具体的な再生可能エネルギー電源のゾーニングが行われる。
わが国では、都市計画や地区計画の策定プロセスにおいて住民参加に関する規定は存在しているが、再生可能エネルギー電源の明示的なゾーニングは規定されていない。このような中で、2021年5月に地球温暖化対策推進法(温対法)が改正されたことにより、地方自治体は地球温暖化対策実行計画を策定し、温室効果ガス排出量の削減に努めることが義務づけられた(2022年4月施行)。温暖化対策実行計画の中では、各自治体は、ステークホルダーとの協議を踏まえて、地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)に係る促進区域や環境配慮、地域貢献に関する方針などを定めるよう努めることが規定されている。各自治体が積極的に再生可能エネルギー促進区域を指定することで、再生可能エネルギー電源の設置が促進され、地域経済が活性化することが期待される中で、2022年7月に全国ではじめて長野県箕輪町が促進区域を設定し、神奈川県小田原市、福岡市、岐阜県恵那市などがこれに続いた。現在、27市町村にてゾーニングを進めているが、その数は未だに少なく、制度の改善が求められている。
さらに、再生可能エネルギー電源拡大のために必要なパブリックアクセプタンスの向上には、エネルギー転換に関する知識基盤の拡大や専門家の教育が求められる。人々の知識基盤の拡大に関しては、エネルギー転換に関する幅広い教育が、関連するインフラ計画に対する理解を深めることになると考えられる。また、エネルギー転換にともなう新たな技術に関連する専門家の教育が必要となる。例えば、エネルギー転換を効率的に達成するためには、デジタル技術が欠かせないが、そのためには、新たな規制のあり方、データ管理、ITセキュリティなどの新しい課題に対応する力が専門家には求められている。さらに、再生可能エネルギー電源のネットワークへのフィードインの増大にともない、新たな構造をもつネットワークの安全な運用も確保されなければならない。そのためには、集中型と分散型の両方の構造やそれらの相互作用に関する知識が必要となるだろう。
【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。








