規制部門の赤字供給解消へ―。大手電力各社がようやく重い腰を上げ、値上げ改定に向けた手続きに踏み切った。
値上げするのは、2016年の小売り全面自由化後も、競争なき独占を防ぐ目的で規制が残されている低圧向け経過措置料金。23年4月の改定を見据え、東北、北陸、中国、四国、沖縄(高圧含む)の大手5社が22年11月中に経済産業省に対し改定を申請した。また、本校執筆時点(22年12月16日)ではまだだが、東京電力エナジーパートナーと北海道電力も、年内に申請するもようだ。

各社の平均値上げ率は、東北32・94%、北陸45・84%、中国31・33%、四国28・08%、沖縄40・93%で、標準家庭(月使用量260KW時)の場合、月額2000円から3500円程度の負担増となる。
この背景にあるのが、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料や卸電力市場の価格高騰だ。これにより、燃料費や為替の変動を料金に迅速に反映するための燃料費調整制度に基づく調整額が、10月までに、全10電力で上限に到達してしまった。
各社は、既に規制が外れている高圧・特別高圧契約の料金値上げや、低圧契約の自由部門で燃調上限を廃止するなど赤字供給解消に手を打ってきたが、燃調上限を維持しなければならない規制部門は、標準家庭1件当たり1700~3600円(12月分料金)を持ち出しているのが実情。これが財務状況悪化の要因となっており、値上げにより規制部門の赤字供給解消を図らなければ、安定供給体制の維持が困難になりかねない。
値上げ要因は燃料高 求められる迅速・適切な査定
抜本的な料金改定は、北陸、中国、沖縄が08年以来、そのほかは13年以来で、いずれも小売り全面自由化後は初めて。自由化の進展や再生可能エネルギーの導入拡大により、電力の需給構造は前回改定時から激変しており、総じて料金算定の根拠となる総原価にそれが色濃く反映されている。
一方で、東日本大震災後の原発停止に伴う料金改定の有無や、再稼働に向けた審査の進捗状況に応じた、原価算定期間中(23~25年度)に織り込むことができる原発利用率などが、地域間格差として鮮明に表れているのも事実だ。
今後、電力・ガス取引監視等委員会の専門会合による値上げの妥当性についての査定や公聴会を経て正式に認可されることになるが、注目されるのは査定によってどれだけコストが減額され、値上げ圧縮につながるかだ。とはいえ、大幅値上げの要因のほとんどが燃料費であり、「査定できる部分は限定的」(松村敏弘東京大学教授)。実際、中国や沖縄などでは、申請料金が燃調の上限がなかった場合の現行料金を大幅に下回る。
認可までの期間は4カ月とされており、4月の改定に間に合う公算は高いが、業界関係者の中にはそれ以上に時間がかかると見る向きも。健全な電力安定供給体制が維持困難な状況を放置してはならず、迅速で適切な審査が行われることが求められる。