規制料金の赤字影響緩和へ 大手電力5社が値上げを申請


 規制部門の赤字供給解消へ―。大手電力各社がようやく重い腰を上げ、値上げ改定に向けた手続きに踏み切った。

値上げするのは、2016年の小売り全面自由化後も、競争なき独占を防ぐ目的で規制が残されている低圧向け経過措置料金。23年4月の改定を見据え、東北、北陸、中国、四国、沖縄(高圧含む)の大手5社が22年11月中に経済産業省に対し改定を申請した。また、本校執筆時点(22年12月16日)ではまだだが、東京電力エナジーパートナーと北海道電力も、年内に申請するもようだ。

値上げ申請を受け会見する東北電力の樋󠄀口康二郎社長

各社の平均値上げ率は、東北32・94%、北陸45・84%、中国31・33%、四国28・08%、沖縄40・93%で、標準家庭(月使用量260KW時)の場合、月額2000円から3500円程度の負担増となる。

この背景にあるのが、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料や卸電力市場の価格高騰だ。これにより、燃料費や為替の変動を料金に迅速に反映するための燃料費調整制度に基づく調整額が、10月までに、全10電力で上限に到達してしまった。

各社は、既に規制が外れている高圧・特別高圧契約の料金値上げや、低圧契約の自由部門で燃調上限を廃止するなど赤字供給解消に手を打ってきたが、燃調上限を維持しなければならない規制部門は、標準家庭1件当たり1700~3600円(12月分料金)を持ち出しているのが実情。これが財務状況悪化の要因となっており、値上げにより規制部門の赤字供給解消を図らなければ、安定供給体制の維持が困難になりかねない。

値上げ要因は燃料高 求められる迅速・適切な査定

抜本的な料金改定は、北陸、中国、沖縄が08年以来、そのほかは13年以来で、いずれも小売り全面自由化後は初めて。自由化の進展や再生可能エネルギーの導入拡大により、電力の需給構造は前回改定時から激変しており、総じて料金算定の根拠となる総原価にそれが色濃く反映されている。

一方で、東日本大震災後の原発停止に伴う料金改定の有無や、再稼働に向けた審査の進捗状況に応じた、原価算定期間中(23~25年度)に織り込むことができる原発利用率などが、地域間格差として鮮明に表れているのも事実だ。

今後、電力・ガス取引監視等委員会の専門会合による値上げの妥当性についての査定や公聴会を経て正式に認可されることになるが、注目されるのは査定によってどれだけコストが減額され、値上げ圧縮につながるかだ。とはいえ、大幅値上げの要因のほとんどが燃料費であり、「査定できる部分は限定的」(松村敏弘東京大学教授)。実際、中国や沖縄などでは、申請料金が燃調の上限がなかった場合の現行料金を大幅に下回る。

認可までの期間は4カ月とされており、4月の改定に間に合う公算は高いが、業界関係者の中にはそれ以上に時間がかかると見る向きも。健全な電力安定供給体制が維持困難な状況を放置してはならず、迅速で適切な審査が行われることが求められる。

地域貢献と社員の一体感を醸成 北海道社会人野球の継承担う


【北海道ガス/野球部部長】土谷 浩昭

 大昭和製紙が1974年に都市対抗を制するなど、かつて北海道には社会人野球の黄金期があった。しかし、バブル崩壊以降はチーム数が激減。2016年には民間企業チームがゼロになった。危機感を持った北海道地区連盟から野球部設立の相談を受け、営業担当役員として窓口を担っていた。

その後、17年1月の年頭の訓示で、大槻博会長(当時社長)が「18年春までに硬式野球部を創設する」と表明し、野球部創設の動きが一気に加速した。土谷浩昭野球部部長はその時の心境を「入社した当時(1984年)は事業規模も小さく、野球部を持つ会社になるとは思っていなかった」と振り返る。北海道の社会人野球の復活へ、元高校球児として期する思いもあり、創設担当を志願した。

22年の都市対抗で優勝候補東芝を破る大金星を挙げる

野球部立ち上げの背景は事業の変化だ。電力・ガス全面小売り自由化により顧客の対象が全道に拡大。北海道全域への事業展開を図るためにも、北海道ガスを多くの人に知ってもらう必要があった。「地場企業として身近に感じてもらい、地域に貢献したい思いがあった」。また「社会人野球には高校野球ともプロ野球とも違う高揚感がある」と社員の一体感を高める旗印の役割を期待した。そして「仕事と野球の両立」を柱とした活動を重視。シーズン中は午前・午後で仕事と練習を分け、オフシーズンは終日勤務後に自主練習を行う。野球部の活躍だけでなく社員としての貢献も評価対象となる。「礼儀正しく体力あるアスリートの存在が社内全体に良い効果を与えている」と、職場での相互効果が出た。

18年4月に新卒社員11人、社内公募5人の計16人でスタートしてから、4年目の21年には都市対抗初出場を果たす。2年連続出場となった今年は、優勝候補東芝を破る大金星を挙げた。この勝利で全国大会北海道勢通算99勝目となり、節目の道勢通算100勝は目前だ。「25年にベスト8を、30年に全国優勝を目指せるチームにしたい。その道筋はまだ1合目から2合目」と前を見据える。

結果の目標だけでなく、地域社会への貢献も野球部の重要なミッション。オフシーズンには、道内各地で野球教室を行う予定だ。「野球をする子が、将来も北海道で野球を続けるための受け皿でありたい」と話す。まだ歴史の浅い野球部だが地域の期待は大きい。北海道のスポーツ文化の継承を担い、社会人野球の推進で生まれたエネルギーを地域社会に還元し続ける北ガスの挑戦は、始まったばかりだ。

1960年北海道函館市出身。明治大学卒業後、84年北海道ガス入社。人事部長、経営企画部長、営業副本部長などを経て取締役常務執行役員。大槻博会長(当時社長)の方針を受け、野球部創設に奔走。

次代を創る学識者/黒﨑 健・京都大学複合原子力科学研究所教授


紆余曲折の原子力政策が大きな転換点を迎えている。

政策議論と研究両面で、将来の原子力に光を当てようとしている。

 「原子力は技術だけではどうにもならない社会的な問題がある。カーボンニュートラル社会実現に向け原子力政策の流れが大きく変わろうとしている中、既存原子力の活用、新設・リプレースを合わせ、将来の安定供給に資する政策がより一層重要になる」

こう語るのは、京都大学複合原子力科学研究所の黒﨑健教授だ。1986年、中学生の時に発生したチェルノブイリ原発事故のニュースに触れ、何か大きな仕事を成し遂げられる可能性を感じたことが、原子力の分野で研究者を目指すきっかけに。大阪大学工学部原子力工学科に進学し、以来、助手、助教、准教授と阪大に籍を置き、2019年4月に同研究所教授に就任した。

自他ともに認める山中伸介原子力規制委員長の一番弟子。阪大山中研究室が立ち上がった当初からスタッフとして所属し、核燃料・原子炉材料の研究のほか、排熱を活用して発電する高性能熱電変換材料の開発などに共に取り組んできた。福島第一原発事故後は、事故耐性燃料の開発に着手するなど、より安全・安心な原子力の活用に資する研究に力を注ぐ。

山中委員長の「三つの研究の柱を持つことが望ましい」との教えを受け、京大に移ってからは、情報科学と材料科学を融合した「マテリアルズ・インフォマティクス」を三つ目の研究テーマに据えている。これは、世界に散在する素材に関する情報をデータベース化し、人工知能(AI)が学習し研究者が望む性質を示す材料を予測。材料探しにかけてきた膨大な時間を短縮し、研究の効率化を図るもの。当初は、熱電変換材料と関連してスタートさせた研究だが、今後は原子力材料の研究に活用していくことも目指しているという。

研究所が迎える転機 将来の原子力活用のために

22年4月には、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)原子力小委員会革新炉ワーキンググループ(WG)の座長に就任。多くの人から「大変な役目だ」と激励を受けつつ、原子力産業の未来に向けた政策立案に関与することにやりがいを感じている。

原子力発電所全てを国内でつくることができるという日本の大きな強みが崩れつつある中、優秀な原子力人材を社会に送り出し続けるためにも、原子力の未来を見せる同WGの意義は大きい。一方で、「核燃料サイクルをどう完結させいてくのか、足下の課題解決にもまっすぐに向き合う必要がある」と言い、自身の核燃料研究を通じて貢献することに意欲を見せる。

来年度には、同研究所長に就任することになっている。所有する研究用原子炉が、26年5月にその役割を終え運転を停止することが決まっており、大きな転機に直面する研究所の今後の在り方に道筋を付けるという重責を担うことになる。原子力人材の育成に大きな役割を担ってきただけに、同研究所のみならず、日本の原子力研究の未来がその双肩にかかっているといえよう。

くろさき・けん 1973年徳島県生まれ。97年大阪大学大学院工学研究科博士前期課程原子力工学専攻修了、2003年博士(工学)。同大助教、准教授を経て19年から現職。22年4月から総合資源エネルギー調査会革新炉ワーキング座長。

【メディア放談】総合経済対策での負担軽減策 いつかバラマキのツケが


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

政府は総合経済対策で、エネルギー料金の負担軽減策などを打ち出した。

無駄な施策も多く見られ、将来世代に余計な負担を残すことになりかねない。

 ―ウクライナ戦争、化石燃料の高騰、料金値上げなど、今年もエネルギー業界ではいろいろと出来事があった。

電力 ロシア軍のウクライナ侵攻で化石燃料の価格が高騰し、世界中の国がダメージを受けた。中でもロシアに依存していた西欧の国は大きな痛手を被った。今の暮らしはエネルギーが安定的に供給されることで成り立っている。1年間を振り返ると、その大切さを痛感した年になった。

―電力6社は規制部門の料金改定の申請に踏み切った。

電力 各社の決算を見てほしい。燃料費の上昇で逆ザヤが続いて、売れば売るほど赤字が増える。料金改定での査定は米櫃に手を突っ込まれるようなもので、誰もそんなもの受けたくない。だが、コスト削減や効率化で何とかなるような状態はとっくに超えている。

―政府も総合経済対策で電気・ガス料金、ガソリン価格などの抑制策を打ち出している。

マスコミ 欧米ほど値上がり幅は大きくなく、経産省は政府の意向を深刻に受け止めていなかった。だが、支持率が低下気味の政権は電気料金の上昇に敏感だった。総合経済対策の目玉の一つにして、経産省に「料金を引き下げろ。案を考えろ」と下達した。

ガス 日経が10月から連載した「ニッポンの統治」がその辺のドタバタ事情を書いている。経産省は託送料金の引き下げなどを考えたが、政権は「請求書に直接反映する形」にこだわった。それで「目に見えるかたちで下げろ」と突き返されて、アパシー状態に陥った。電力会社が知恵を出して何とかなったが、今も経産省幹部は「やる必要は全くないことなのに」と話しているらしい。

マスコミ 確かにエネルギー料金値上げの影響を大きく受ける低所得者層には、既に「価格高騰緊急支援給付金」などの制度がある。

電気・ガス料金の負担軽減策の予算額は約3兆1000億円。それだけあれば、風力発電の地域から首都圏に送電線が敷ける。あるいは安全性が高い新型原発が3基建設できる。経産省幹部の無力感も分かる。

電力 電気・ガス料金の負担軽減の補助は来年9月に半分にするとしている。だが、燃料価格と為替の動向次第でダラダラと続けるかもしれない。経産省はやる気を失っているようだよ。

耳を疑った首相答弁 政権の体たらくを露呈

―岸田政権の政務担当秘書官は経産省OBの嶋田隆さんだが、どうも官邸と経産省はしっくりいっていないようだ。

ガス 耳を疑うことがあった。10月7日の参議院本会議のことだ。公明党の山口那津男代表から電気料金だけでなく、都市ガスの引き下げも検討するよう求められた。その時、首相は「ガスはほとんどが長期契約で調達され、比較的調達価格の安定性が高い」と答えている。

―電力会社もガス会社もLNGの契約は同じだ。

ガス 記者会見での発言ならまだ分かる。だが国会の代表質問で、しかも相手は連立を組む党の党首だ。役人は首相の草稿を何度も推敲するはずだが、誰も気が付かなかった。今の政権の体たらくを露呈してしまった。

石油 負担軽減策は昨年のガソリンから始まって、当初は電気料金にとどめるはずだった。しかし普通に考えると、都市ガスもLPガスも値段が上がっているから、対策を考えなければ不公平が生じる。それで都市ガスは1㎥当たり30円を補助する。

―ところがLPガスは配送合理化などの約150億円の補助事業になった。

石油 おそらく急にLPガスも対象になって、官邸から「この日までに案を出せ」と経産省に指示が下りてきた。それで業界に相談する時間がなくて、役人だけで案をまとめた。中身はというと、業界人から見ると明らかに政策がこなれていない。例えば充てん所の自動化。「これが料金の低減につながるとは思えない」と業界人は皆言っている。

マスコミ 一方で、全国で180万世帯が利用している簡易ガスには何の補助もない。都市ガスやLPに比べて需要家数が少ないから無視でいいということか。まさに片手落ちだよ。

22兆円の国債追加発行 否めないバラマキ感

―総合経済対策を裏付ける補正予算の額は約29兆円。そのうち約22兆8000億円を国債発行で賄う。話を聞くとバラマキ感は否めない。

電力 残念なのは今回の対策を読み込んで、取材して無駄を指摘するジャーナリストがいないことだ。誰も気が付かないうちに、将来に膨大なツケを残すことになりかねない。

石油 一昔前は世代や「左右」を問わず、『文藝春秋』『中央公論』『世界』『朝日ジャーナル』などの雑誌に存在感があった。ところが今は、定年退職者が図書館で読むものになってしまった。

―その代わりにSNSで情報を集めている。

石油 それでフェイクニュースや、誰が書いたか分からない記事が世の中に広まるようになった。「自国通貨建てならば、国債はいくら発行してもかまわない」という説がある。それを信じる人たちが増えている気がする。

マスコミ 野党だけでなく、自民党の中にも積極的な財政政策を主張する人たちがいる。だが、岸田さんは財政規律を重んじた宏池会の総理総裁。その政策だけに、財務省などのまともな役人は茫然としているよ。

―赤字国債の発行を悔やんでいた故大平正芳首相が、草葉の陰で嘆いているはずだ。

【マーケット情報/12月23日】欧米原油が急伸、供給不安強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。特に、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物はそれぞれ、前週比5.27ドルと4.88ドルの急伸となった。供給不安が要因で、需給逼迫感が強まった。

ロシアは2023年初頭、G7の価格上限に対する対抗措置として、産油量を日量50~70万バレル程度削減する方針を示唆した。また、同国政府は、価格上限下での輸出を禁止する法案を通す計画だ。英国では、ストライキを背景に、北海油田における生産が停止するとの懸念が台頭している。

さらに、米国・ノースダコタ州では、寒波の影響により、同州の産油量110万バレルのうち、最大で日量35万バレルの生産が停止。テキサス州でも、悪天候による出荷の遅延が予想されている。加えて米政府は20日、イランとの核合意に向けた会合に進捗がないことを公表。イラン産原油の供給増加は当面見込めないとの予測が広がり、価格に対する上方圧力として働いた。

需要面では、中国で長期的な消費増加が見込まれており、需給を一段と引き締めた。同国では、新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、足元の需要は限定的。ただ、製油所の稼働率は、11月に過去18カ月における最高を記録して以来、高稼働を維持しているもよう。石油会社による西アフリカからの購入も増加しているようだ。

【12月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=79.56ドル(前週比5.27ドル高)、ブレント先物(ICE)=83.92ドル(前週比4.88ドル高)、オマーン先物(DME)=78.58ドル(前週1.77ドル高)、ドバイ現物(Argus)=78.18ドル(前週比1.96ドル高)

古くて新しいエネルギー業界 大胆な変革が脱炭素へのカギ


【リレーコラム】永井裕介/レノバ執行役員CSO GX本部長

 私が学生の時に研究していたテーマは、家庭部門のCO2排出量を2050年に50%削減できるか、といったものだった。それが今や脱炭素が当たり前となり、30年に50%削減、50年にはカーボンニュートラル(CN)達成という目標をよく目にするようになった。

一方、CN宣言はしたものの、実現の道のりが明確に見えている企業は少ないのではないだろうか。

例えば航空業界。製造業のように電化して再エネを用いて飛行機を飛ばすというわけにはいかず、グリーンな燃料が必要だ。ただし、必要量に対して現状の供給量はごく一部にとどまっている。

この例に代表されるように、打出の小づちのように、市場からソリューションを買えば脱炭素ができるという状況ではまだない。

こういった状況にどう対応すべきだろうか。

スーパーなどを展開するウォルマートでは、取引先までを対象に含めて、30年までに10億tのCO2削減を目指している(ちなみに、日本の総排出量に相当するため、一企業が掲げる目標としてとても大きい削減量である)。この大需要を満たすために、新たな再エネ発電所が設置されるという好循環が生まれている。

脱炭素推進はリーダーシップが必要

先に見たように、脱炭素のソリューションは市場に十分になく、どの企業もCNを目指しているため、需給ギャップは当面タイトな状況が続くと予測される。

待っているだけでは脱炭素は進まず、需要家は他との差別化のために、ウォルマートのような、強いリーダーシップを発揮する必要があるのではないかと思う。強い需要が供給を喚起し、市場創出が進んでいくことを期待している。

また、この例にもあるように、変化の大規模性も特徴だ。CNを達成するということは、社会インフラやサプライチェーンがガラッと変わるということを意味する。

FIT導入後10年が経ち、一定の成果があったと思うが、まだ社会がガラッと変わったというところまでは至っていないのではないだろうか。脱炭素に向けた取り組みはさらに加速が必要で、供給側の大胆な変革も求められる。

このように、強いリーダーシップを持った需要家と供給者が一緒になって、新たなエネルギー業界が作られていくのだと思う。中間年度である30年を良い形で迎えられるよう、当社でも脱炭素のソリューション開発に取り組んでいきたい。

ながい・ゆうすけ 大学で環境システム学を学び、レノバ(当時リサイクルワン)に入社。環境コンサルなどに従事し、再エネ事業の開発全般をけん引。現在はCSOとして、グリーン分野の戦略策定や、新規プロジェクトの開発を統括する。

※次回は大阪ガス理事の揚鋼一郎さんです。

【小林一大 自民党 参議院議員】「新潟が秘める大きな可能性」


こばやし・かずひろ 1997年東京大学経済学科卒業。損害保険会社勤務を経て2007年より新潟県議会議員(4期)。22年参院選初当選(新潟選挙区)。朝日観音普談寺、副住職。

新潟に貢献したいと県議会議員を長年務め、議会運営や政策実務に携わる。

参院選で現職を破り当選。柏崎刈羽原発再稼働問題など難題に取り組む。

実家は新潟市にある真言宗の古刹、普談寺。父は新潟県庁を経て、新津市長を3期務めた小林一三氏。市長として汗を流し、新津市が活性化する様子を間近で見てきた。大学を卒業後は東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に勤務を経て「いつか地元新潟に貢献したい、故郷に恩返しがしたい」と思い、2005年に新潟に戻り家業を継いだ。

07年4月の新潟県議会に最年少の33歳で出馬すると、17814票を獲得しトップ当選を果たした(新潟市秋葉区)。以降、4期15年にわたり県政運営に携わり、県議会では議会運営委員長として、自民党県連では政務調査会長として実務の中心を担った。議会のDX(デジタルトランスフォーメーション)化など改革を進め、県民の声を聞き寄り添う県政を行う中で、新潟の地域活性化を阻む問題として「人口減少による農業の持続性」を挙げる。「新潟県は日本でも有数の米どころだが、多くの若者が新潟から首都圏、関西圏へ向かってしまう」。農業の担い手がおらず高齢化が進む現状。米価が下落し利益が上がらず、担い手がますます減るスパイラルに陥っていると指摘する。そのため、将来を見据えた幼児教育・専門教育の重要性を掲げる。「レベルの高い教育を受けて、将来的に新潟に還元してくれる人材や、地元に残り新潟を支える人材を育成することが重要」と、若者への支援を推進。そのほか「いじめ等の対策に関する条例」の制定など、議員提案条例の制定にも積極的に動いて、教育政策に貢献してきた。

また、22年2月の定例県議会で、ポスト・コロナ社会を見据えた脱炭素社会への転換、デジタル改革の実行、分散型社会の実現を目指す「住んでよし、訪れてよしの新潟県」を進める予算案の成立に尽力。新潟県はバイオマス発電やメタンハイドレート発掘、水力ダムなど自然由来の資源エネルギーが豊富であり「新潟は食料自給率もエネルギー自給率も高く、大きな可能性を秘めている地域」と話す。地元の秋葉区は新津油田で知られた石油の里であり、エネルギー政策の重要性を身近に感じてきた。新潟の活性化には再生可能エネルギーを含んださまざまなエネルギーの利活用が必要だと訴える。

それまで「地方を元気にすることが日本の活力を生む」と県政に取り組んできたが、国政に目を向けると、所属する自民党は参議院新潟選挙区の議席奪還を目指していた。7月の参院選に向けて立候補を打診され「全県では無名の新人だが、これまでの経験を生かし地方の声を国に届ける仕事ができれば」と悩みながら受諾。県議会での経験と、4人の子供を育てる世代として育児支援の必要性、地元経済の活性化を訴えた。選挙戦最終日には岸田文雄首相がマイク納めを新潟市で行うなど応援を受け、全国区で高い知名度を持つ森裕子氏を破り、参院選初当選を果たした。

柏崎刈羽再稼働問題は最重要課題 東電と国は丁寧な説明を

現在は国と新潟の間での調整役を担うが、目下の問題として、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に対する国や東電の姿勢がある。自身は新潟県が進める「福島第一原発の事故原因の検証」「原発事故が健康と生活に及ぼす影響の検証」「万が一原発事故が起こった場合の安全な避難方法の検証」の三つの検証結果が出るまで再稼働は慎重に対応すべき、という姿勢を支持。「エネルギー危機の中、国による原子力の積極的な活用は電気代の国民負担軽減、カーボンニュートラル実現という点で理解できる」と話すも、東電には改めて信頼回復につながる行動を求めている。

地元住民の感情として「首都圏で使う電力を新潟県民がなぜリスクを負うのか、という思いがある」と訴える。発電所職員によるIDカード不正利用問題や、核物質防護設備機能の喪失など不祥事が続く中、再稼働へ坦々と進む様子に「まず信頼を回復するため新しい体制を作り、今の東電に任せても大丈夫、と住民に思ってもらえる努力をしてほしい」と苦言を呈した。一方で、福島原発事故を経験し、地域住民へ丁寧な説明を行う柏崎刈羽原発の現場責任者の行動を評価。これからの住民感情の変化に期待している。

8月に岸田首相が「国が前面に立つ」と再稼働に前向きな姿勢を示したことについても「前面に立つ、と言うが具体的に何をするのかが大事」として、避難計画の策定を国の責任で進めるなど国策としての行動を求めた。「再稼働すれば、この国のエネルギー事情は一段階改善する。そのためにも急がず丁寧な説明を求めていきたい」。新潟県選出議員として国と地元の政策の板挟みになる立場だが、座右の銘である「不動心」の思いを秘める。一度決めたらぶれずに、自分の信念を貫く。新潟の発展のためにこれからも粉骨砕身する覚悟だ。

【需要家】GXリーグで証書活用 是非に疑問


【業界スクランブル/需要家】

政府は、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた企業の自主的な削減目標設定を前提に、目標を超過達成した企業はその分を排出権として売り、目標未達時には排出権を購入して自らの目標を達成できる自主的排出権取引制度の導入を検討している。目標設定も取引によるオフセットの実施も企業の自主裁量に任されるため、企業経営に政府が制約やペナルティーをかけるものではなく、自主的な取り組みで対策を加速させる日本流の仕組みとして一定の効果が期待できる。

しかしここで問題となるのが、この取引においてFIT(固定価格買い取り制度)非化石証書を購入することで自社の排出量をオフセットすることが認められていることである。FIT非化石証書は5月のオークションで約1000億kW時と莫大な量が売り出され、そのうち2%、約21憶kW時分が最低価格1kW時当たり0.3円で落札。改正された非化石証書のルールでは、地球温暖化対策法上、企業のCO2排出削減に充当できることになり、制度上問題はない。だが、日本の電力排出原単位をもとに試算すると、0.3円の非化石証書は排出権価格に換算すると1tCO2当たり約600円になる。GXリーグの排出権取引の枠内で、企業は同600円以上の削減対策を実施するインセンティブがなくなる。

しかもFIT非化石証書は、既に賦課金を受けて設置された再生可能エネルギー発電設備に由来するものであり、証書の取引により追加的な再エネ投資やCO2排出削減が発生するわけではない。追加性のない安価な非化石証書を使って、自主的に掲げた目標を達成する企業が続出するようになれば、GXリーグ自体が一種のグリーンウォッシュ活動と批判される懸念が出るのではないだろうか。(T)

卸電力・需給調整市場の見直し 電力取引の全体最適化を指向


【識者の視点】小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

現在の電力取引システムでは、メリットオーダーが成立しないなどの課題が生じている。

そのため市場の在り方について検討が行われ、kW時と⊿kW同時約定市場の設置が提案されている。

卸電力市場および需給調整市場の在り方について、大幅な見直しにつながる検討が進められている。検討課題は主に燃料確保の在り方と卸電力市場・需給調整市場の在り方であるが、本稿では後者について概要の整理と課題の抽出を試みたい。

現在、スポット市場と需給調整市場は異なった時間軸で取引が行われているが、①一部調整力で調達不足を招いたり、ブロック入札による未約定、スポット市場と需給調整市場の価格設定方法の違いにより必ずしも全体でメリットオーダーが成立していない、②稼働時間の予想が難しい中で起動費などを入札単価に正確に反映させることが難しい―といった課題が生じている。

そのため2021年12月に「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」が設置され、望ましい市場・運用の姿について検討が進められ、22年6月に取りまとめが行われた。燃料確保の課題への対応や、安定供給のための電源起動とメリットオーダーを達成する仕組みとしての週間断面での電源起動の仕組みと、前日段階でのkW時と⊿kW同時約定市場の設置の提案が行われた。

また、同時約定市場ではメリットオーダーを判断するために、①ユニット起動費、②最低出力費、および③限界費用カーブでの入札―というThree-Part Offerという米国のRTO(広域系統運用機関)・ISO(独立系統運用者)で採用されている入札方式の採用が提案されている。

こうした提案の実現可能性を追求すべく22年7月に「実務検討作業部会」が設置されるとともに、下部組織として「燃料WG」および「市場WG」が設置され非公開の下で具体化に向けた検討が進められている。

中給システム見直しと連動 前日スポット市場を中心に

今回の卸電力市場の見直しが中央給電指令所システム(中給システム)の見直しと併せて実施されていることから、これに連動していると考えることができる。

現在、需給調整市場の広域運用を実現すべくシステム改修の検討が行われているが、次期中給システムの全国大での需給調整対象はバランシンググループ(BG)発電計画量に上げ調整力を含めた範囲とされていることから、従来、前日スポット市場がBG発電計画を策定するための補助的役割だったものを中心的役割に変更して給電可能な全ての電源を対象とし、従来BG単位での売入札をユニット単位に変更する提案と考えることができる。

なお、BG側が相対取引など確実に供給力として確保しておきたい電源や流込式水力発電など給電指令に従えない電源は、セルフスケジューリングとして発電枠を確保することも提案されている。

これに関して異論もあるようだが、既存の相対契約を先物取引に切り替えた際に、発電量を確保しておきたい電源は限界費用入札しか認められないとすると量的リスクを抱えることになる。各種制度間の整合性を踏まえた議論が必要であろう。

またスポット市場の価格形成において、現状は売札が不足して需給がマッチングしない場合には買入札価格がスポット価格を決めるが、同時市場を導入することでそうした頻度は低下するため、買入札価格自体を見直す(デマンドレスポンスや自家発との差し替え分以外は垂直の入札曲線になる)ことや、小売り側からの買入札量がTSO(一般送配電事業者)の需要予測を下回った場合にはTSOが追加で買入札を行うことも提案されている。

このように従来はBGが卸電力取引の担い手であったものが、その役割は相対的に縮小することになり、全体最適化を強く指向した提案内容といえる。

卸電力市場と併せて中給システムの見直しが行われる

需給ひっ迫を予見したら 揚水発電の運用に知恵を

本稿を執筆している時点(11月15日)では週間断面での電源起動の仕組みと当日市場の枠組みに関して具体的内容は明らかではない。ただし週間断面での運用では、次期中給システムの検討でも需給ひっ迫が予見される場合などに発電機起動停止計画策定機能を装備するとしており、起動に1日以上時間を要する電源はそうしたプロセスで判断されることになると考えられる。

一方で揚水発電の運用は前日段階でPJM(米国北東部地域の地域送電機関)が最適化運用計画を策定・指示することができるものの、複数日をまたがった判断は行っていない。日本ほど揚水発電を導入している国が少ないため海外に類似事例を求めることは難しく、国内で知恵を絞るしかない課題といえる。

当日市場についても再生可能エネルギー予測誤差を引き続き三次調整力②で対応していくのか、当日市場のプロセスで対応していくのか明らかではない。この点、日本と同様に太陽光発電の導入量が多い米国のカリフォルニアISOでは、4時間半前に再エネ発電の予測誤差などを考慮し、供給力の起動時間を踏まえて拘束力のある起動命令を出すなどの供給力の持ち替えを行う短期ユニットコミットメントという仕組みを採用している。しかし、類似の仕組みにしようとするとBG計画をTSOが強制的に変更することになり、現状の提案と整合的でなく難しい課題といえる。

卸電力市場および需給調整市場の見直しの方向性が決まったとして、その適用時期であるが今のところ明言されていない。しかし、次期中給システムのうち共有システム構築が27年度中、28年度から適宜各社中給システムが移行するとされていることから、卸電力市場および需給調整市場の見直しが適用されるのは早くてもこのタイミングになると考えられる。

ただしノーダル制なのかゾーン制を維持するのかなど、肝心の価格設定方式が議論されておらず、それらの進捗次第ではさらに後ろ倒しになる可能性もある。

おがさわら・じゅんいち 青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒(国際経済学修士)。1995年日本エネルギー経済研究所入所。2018年から現職。専門はエネルギー需給分析、電力経済、欧米諸国の電力規制緩和政策。

【再エネ】安定供給と脱炭素 カギ握る「脱中国」


【業界スクランブル/再エネ】

欧州風車メーカーに関する記事で、「(当社の)風車部品の約85%が中国で調達されている」との一文が目にとまった。世界の風車導入量ならびに風車メーカーシェアは、いずれも中国が約50%を占める。その上で冒頭の一文をみると、風車産業における中国依存の実情が伺いしれる。過去欧州では、太陽電池産業が中国との競争に敗れたが、風車産業では域内企業が優位性を守ってきた。しかし、ここにきて洋上風力分野で、英国が中国との関係強化や企業誘致を進めるほか、その他の国でも中国企業の進出や受注などのニュースが増えている。

一方、例えば米国では、今年成立したインフレ抑制法で国内調達基準を満たす場合に税控除額を上乗せする仕組みが設けられた。こうした取り組みは、産業の牽引役となるバリューチェーンの下流(需要=事業サイド)に明確なメッセージとインセンティブを与え、サプライチェーン構築の推進力となっている。日本でも、経済産業省がサプライチェーン関連の補助金を交付し、風車産業や蓄電池産業の投資を後押ししている。しかし、これは文字通りバリューチェーンを「後ろから押す(供給先行)」アプローチで、産業全体を動かす効果は限定的と言わざるを得ない。両者の違いとして注目すべきは、成果とインセンティブの紐付きだ。需要側へのアプローチは、成果を最大化する誘因がバリューチェーン全体に強く働くほか、効果測定の観点からも合理的といえる。

脱炭素やエネルギー自給の要となる再生可能エネルギー、その周辺領域の蓄電池・水素などは、中国依存というサプライチェーンリスクを抱える。真のエネルギー安定供給を目指すには、コスト面の課題を含めた「脱中国」という大きな壁に正面から立ち向かう必要がある。(C)

脱化石燃料の主役になれるか 社会実装に向け動き出したe-fuel


【多事争論】話題:e-fuelの可能性

官民を挙げたe-fuel社会実装に向けた議論が始まった。

石油系燃料の脱炭素化への期待が高まる一方、課題も山積している。

〈 石油産業によるCN実現の中心的方策 主役は「パワー・ツー・リキッド」 〉

視点A:橘川武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授

2022年9月16日、「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会」がようやく発足した。「ようやく」という表現を用いたのは、合成液体燃料に関する官民協議会発足のタイミングが水素、燃料アンモニア、メタネーション(合成メタン)などの場合に比べてかなり遅れたからである。

とはいえ、ともかくも合成液体燃料についても官民協議会が発足したことは喜ばしい。なぜなら、合成液体燃料こそ、石油産業がカーボンニュートラル(CN)を実現するための中心的な方策、「プランA」にほかならないからである。

日本の石油業界は、すでに利用しているガソリン代替のバイオエタノールや軽油代替のバイオディーゼルに加えて、持続可能な航空燃料としてバイオ由来のSAF(Sustainable Aviation Fuel)の導入を進めようとしている。SAFは、ICAO(国際民間航空機関)の進めるCO2削減枠組みの達成にとって大きな意味を持つ。

しかし、バイオ由来のSAFは、量的制約もあり、石油産業におけるカーボンニュートラル実現の主役にはなりえない。主役となるのは、「パワー・ツー・リキッド」という方法で、再生可能エネルギー由来の電力を使って水を電気分解して得た水素とCO2とを合成して生成する液体燃料、つまり、「e-fuel」と呼ばれる合成液体燃料である。

合成液体燃料は、カーボンニュートラル達成後の時期にも、航空機用のみならず、船舶用、大型車両用、商用車用として広く使用され続けると見込まれている。もちろん、それ以外の燃料や原料としての利用も継続するだろう。その理由は、二つある。

一つは、液体燃料が、エネルギー密度の高さの点で秀でていることである。液体燃料の「使い勝手の良さ」は、気体燃料や固体燃料とは比べものにならない。

しかし、液体燃料がいくら使い勝手が良いとは言っても、これまでのように、使用時にCO2を排出しっ放しでは、カーボンニュートラルの時代に生き残ることはできない。そこで、合成液体燃料がカーボンニュートラルな燃料であるという、もう一つの理由が重要になる。

合成液体燃料であっても、使用時にはCO2を排出する。しかし、製造時にCO2を吸収することによって相殺されるとみなされ、カーボンニュートラルな燃料として取り扱われるのである。

現在使われている石油系燃料を合成液体燃料に置き替えることができれば、街のSS(サービスステーション)を含む既存の石油インフラの多くを、そのままの形で活用することが可能になる。カーボンニュートラルを達成するには、エネルギーコストの相当程度の上昇が避けられない。コスト上昇を抑えるためには、さまざまなイノベーションを実現しなければならないが、それとともに、やるべきことがもう一つある。

コスト抑制に欠かせないインフラ活用 石油・自動車業界の調整難航がネックに

それは、既存インフラの徹底的な活用である。既存の石炭火力を使い倒す燃料アンモニアの使用が電力産業において、既存のガスインフラを使い倒すメタネーションが都市ガス産業において、それぞれカーボンニュートラル化への決め手となっているように、石油産業においても、既存の石油インフラを使い倒す合成液体燃料が、カーボンニュートラル化の決め手となる。カーボンニュートラルへ向けた石油産業の「プランA」が合成液体燃料になるのは、このためでもある。

ここまで述べてきたように重要な意味をもつ合成液体燃料ではあるが、社会実装のためにはまだまだ課題も多い。官民協議会の発足が出遅れた背景には、石油業界の足並みが必ずしもそろっていない、石油業界と自動車業界との調整が簡単には進まない、などの事情がある。

それだけではなく、先行するメタネーションの官民協議会の検討を通じて浮かび上がってきた、合成燃料固有の課題も存在する。ともに水素とCO2とを合成して生成する合成メタンと合成液体燃料は、合成燃料として一括視することが可能である。

合成燃料固有の課題としては、まず、使用時にCO2を排出するため、カーボンニュートラル燃料として国際的に認証されるには手間暇がかかるという問題がある。また、合成液体燃料によるCO2削減実績の帰属先を排出側にするのか利用側にするのかが決まっていない、という問題もある。

これらの課題を克服して合成液体燃料の社会実装を実現するには、官民の力を合わせた積極的な取り組みが求められる。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2021年4月から現職。

【火力】火力活用のロードマップ 多様な知見の結集を


【業界スクランブル/火力】

今年も残りあと1カ月となったが、エネルギーを取り巻く情勢は、電力の需給ひっ迫に加え燃料費の高騰と厳しさを増すばかりの1年だった。

政府は総合経済対策で、電気やガス代の軽減対策やLNGの在庫確保の支援策を打ち出すなど足元の対策に躍起になっているが、付け焼刃の対策だけでは早晩行き詰ってしまう。もちろん眼前の危機を乗り越えるために必要なことではあるが、そのことに気を取られて、抜本的な対策の検討がおろそかとなってしまっては元も子もない。

例えば、中長期の対策の目玉として検討が進んでいる「長期脱炭素電源オークション」であるが、脱炭素のイメージを先行させるばかりで、結局リスクを事業者に丸投げするような内容となっており、今のままでは狙い通りには機能しないだろう。

一番のポイントは、石炭火力の新設を対象外としている点。コスト面から既設の改造は有りとしているが、ライフサイクルを考えると、高性能の新設設備を燃料転換やCCS(CO2・回収貯留)付きに改造していく方が優位となる可能性が高い。 一方でCCSが困難との意見もあるが、この技術はブルー水素・ブルーアンモニア製造時にも必要であり、トランジションの途上で避けられない。また、CCS付きIGCCの実証試験などの石炭利用の脱炭素化技術開発も進んでいるのに、石炭火力の新設を闇雲に対象外とするのはおかしなことだ。

現状の危機を脱しGXを実現するには健全な供給力を確保した上で、大胆な技術開発と国家規模のサプライチェーンの再構築という多くの課題を一歩ずつ進めることが必要となる。徒に脱炭素の理念を振り回すことなく、各方面の知見を結集し、皆の腹に落ちるロードマップを策定することが先決だ。(N)

【原子力】半歩前に進んだ首相 評価は時期尚早


【業界スクランブル/原子力】

この冬、戦争被害の広がるウクライナをはじめ、世界的な電力不足により凍死者も出かねないという状況だ。日本ではそんなことにはならないと信じているが、節電によって我慢をしなければならないし、工場の停止といった事態はあり得る。エネルギーはマクロ経済とミクロ経済をつなぐ位置にあり、経済成長といったマクロと、暮らしや企業活動といったミクロの両方に大きな影響を及ぼす。

だからエネルギーミックスの変更を日本も考え直さないといけない状況にある。資源の乏しい日本にとって、特に原子力発電は重要だ。再生可能エネルギーだけでは安定供給が確約できない上、コストアップで家計負担や国民負担が増大する。国の経済対策では税金で穴埋めをしているだけでは抜本的解決にならず、国内経済への影響を踏まえれば原子力が現実的な選択肢の一つであることを理解する必要がある。

その上で、プラス面とマイナス面をしっかりと議論し、国がエネルギーミックスの形に応じた家計負担のメニューを示し国民の納得を得た上で原子力利用拡大を進めるべきだ。そうした視点では、8月に政治が半歩前を進む形で、岸田文雄首相が次世代革新原子炉の開発の方針を打ち出したことは評価できる。

ただ、「政策転換」とまで高く評価するのは時期尚早ではないか。なぜなら、首相の新方針には再稼働推進は盛り込まれているが、十年もの間、再稼働停滞を放置している原子力規制委員会が首相の掛け声だけで積極的に変わるとは到底思えないし、首相の新方針から半年弱も経とうとしているが、肝心の原発の新増設の計画・方針はいまだに一切触れられていないためだ。結局、新型炉の研究・開発だけでお茶を濁す可能性もある。まだまだ要注意だ。(S)

【追悼】故 南直哉氏の思い出~ 次の時代を築くべく変革に立ち向かう「電気事業人」として生涯を貫く


東京電力の社長を務められた南直哉氏が亡くなられた。

電気事業のトップを走る気概で、競争と協調の時代を実践した。

電力会社、電力業界の大きな節目に立ち会っていたからだろう。上り坂と下り坂のただ中で電気事業はどうあるべきか、常に問いかけていた。

南直哉氏は1935年三重県生まれ。進学した伊賀市上野高校時代には往復20㎞を毎日自転車で通ったという。事務仕事より筋肉労働の方が性に合っていると語る所以でもある。

58年に東大法学部を卒業し東京電力(現東京電力ホールディングス)入社。経理部決算課を経て企画部門へ。そこで「東電企画部」を育てた依田直氏(元副社長)に見出され階段を駆け上がる。77年企画課長に就くと阿佐ヶ谷(当時)支社長を除いて企画部長、取締役・企画部担任と企画部門の顔として激動の80~90年代の東電と電気事業を引っ張った。常務、副社長を経て99年社長に就く。

当時公益事業を代表する東電トップは、平岩外四氏(76年社長)から三代続いて総務部門から出ており、企画部門の南氏が抜擢されるとマスコミを含め驚きが走った。参謀役に徹していたとはいえ、心の準備はあったのか荒木浩社長から内示を受けると、役員食堂にいた先輩幹部にいささか高揚した表情を見せ、挨拶したという。

南氏が社長に就いた時、東電の売上高は5兆円を上回り、業界だけでなく経済界の頂点あるいはその近傍に在った。2001年3月創立50年の節目に発表した経営ビジョン「エネルギー・サービスのトップランナー」は、本格化する電力自由化のただ中にあってもトップを走る気概と戦略が込められていて、社長就任2年でエネルギー・環境、情報・通信、住環境・生活関連事業の分野で関係会社9社を設立。一方では競争相手の東京ガスと静岡ガスに共同出資するなど競争と協調の時代を実践した。

総務部門の「守り」から企画部門の「攻め」へと時代の転換を表す象徴ともなった南氏は、好きなアイスホッケーで果敢に立ち向かう「ファイター」の如く、次なる時代を築くべく直進した。「役人は分かっていない」と対立も辞さない姿勢は、通産省(現経産省)内をいたく刺激し、一方で経済社会の変動に合わせ電気事業自ら変わるべきと全面自由化を早くから唱え、01年第12代の電気事業連合会会長に就任しても「我行かん」とし、慎重論が多い業界内から戸惑いの声が上がる場面もあった。

企業の社会的存在を意識した「普通の会社を超える会社」を目指したが、02年8月、「原子力検査データ不正問題」が明らかになり、荒木会長主導のもとで平岩相談役らとともに一斉辞任、身を引いた。自由化が進展する中で原子力路線をどう進めるかなど問いは残り、晩年は個人事務所を設け、生涯〝電気事業人〟を任じていた。

文/中井修一(電力ジャーナリスト)

【石油】23年前半の国内価格 補助金効果で安定か


【業界スクランブル/石油】

この季節になると、石油製品需要家から、2023年の国内製品価格の予想をよく尋ねられる。例年だと、「価格予想が当たった試しがない、当たるのなら、今頃ハワイで悠々自適だ」と答えてきたが、今年は、「補助金が続く限り安定的に推移する、補助金がなくなればその分値上がる、従って、補助金の終わり方とその時期が問題で、その時の政権支持率次第だろう」と答えている。

ウクライナ侵攻で一時、1バレル90ドル台から130ドル近くまで原油価格は上昇し、円安進行で侵攻当時の1ドル115円水準が150円近くになったが、1月末の補助金開始以降、国内製品小売価格は安定している。ガソリンの場合、補助金がなければℓ当たり200円を超えると想定されるが、170円台前半で推移、最近では170円を切っている。

補助金の目的は価格引き下げでなく価格抑制にあり、毎週、経済産業省が原油価格と為替レート、市況の変動を勘案の上、補助金額を調整しているのだから、当然と言えば当然だが、補助金効果は十分出ている。

また、補助金はガソリンだけでなく灯油・重油などにも出ているので、農林水産業や灯油ストーブ利用家庭、トラック運賃抑制を通じて一般家庭にもその恩恵は及んでいる。従って、「ガソリン補助金」の通称は間違っている。

10月末の総合経済対策では、補助金は「来年度前半にかけて引き続き措置、来年1月以降も補助上限を緩やかに調整しつつ実施、6月以降補助を段階的に縮減」とされ、含みのある注釈が付いた。すなわち、補助金制度自体は来年9月末までは継続されるものの、1月以降は補助金額減額の余地を残した。やはり、製品価格の予想はしない方が、無難かも知れない。(H)