政権が再エネ拡大路線を進む中、トラブルの被害者はFITの機能不全ぶりを嘆き続けている。
エネ庁は段階的に対応を強化するが、初期に導入された不適切設備への対応は後手後手が続く。
5月末、50 kW未満の小型太陽光発電設備を巡る訴訟が、東京高等裁判所で始まった。小型太陽光を巡る訴訟で高裁まで行くのは初の例だという。原告は山梨県北杜市の住民ら。太陽光の乱開発に悩む同市の近況は、本誌6月号の特集で報じた通りだ。この訴訟のケースでは、斜面の上に建つ家を囲むように並ぶパネルにより、さまざまな悪影響が生じたと住民側が主張。事業者にパネル撤去と損害賠償を求めたが、甲府地裁での第一審では原告の請求がいずれも棄却された。この判決が高裁で覆るのか否か、注目されている。
原告は、電磁波障害や低・高周波音による健康影響、眺望障害、生活妨害など、さまざまな問題点を訴えている。例えば、パネル下で暖められた空気が流れ込み住宅内の温度が上昇。住民が5カ所で30分ごとに1年間測定したデータを提示したが、甲府地裁は信頼性に欠けると判断した。また、住民はパワーコンディショナーの電磁波が原因とみられる呼吸困難や息苦しさといった健康被害を主張。医師の診断書を提出したが、WHO(世界保健機関)などの見解を理由に、これも採用されなかった。
一方、当該設備がFIT(固定価格買い取り制度)法や電気事業法違反であるとの訴えについては、特に何の判断も示されず。そして訴訟の途中で裁判長の交代があり、後任の裁判長は原告が求めた現地視察に応じないまま判決を下した。
地裁判決は到底受け入れられないとして、原告は控訴。事業者は訴訟中にもパネルをたびたび増設しており、原告側は当初と状況が変わっているとして、高裁で改めて裁判官の現地視察を求めるとともに、気温データについても詳しく説明したいと訴えた。しかし裁判長は、証拠の検証や現地視察は必要なしと判断。このまま8月頭には判決が言い渡される予定だ。
原告側の梶山正三弁護士によると、太陽光訴訟で住民側の勝訴は1例にとどまるという。梶山氏は「FIT法や電事法で求める項目を強制する構造になっていないことは制度的な欠陥だ。例えば太陽光発電の架台については日本工業規格で定める強度の確保を求めているが、チェックするシステムもないし、違反してもFIT認定に影響がない」と強調する。

たびたび制度見直しも 初期認定設備の是正難しく
このようなトラブルは後を絶たず、防護柵や標識がないケースもいまだ散見される。資源エネルギー庁新エネルギー課は「地元とのさまざまなトラブルが生じていることは承知している」(清水淳太郎課長)とし、これまで数回実施した法や省令の改正に加え、現在も複数の措置を準備していると説明する。
例えば20年の法改正では、全ての事業用太陽光に対する廃棄等費用の確保を担保する仕組みを措置。また10~50 kW未満の太陽光に対し、20年度から一定の自家消費比率を求めるなどの「地域活用要件」を設け、小型設備の規律強化を進める。ほかにも、FIT認定取得後の未稼働案件対策として、一定期間内に運転開始しない場合の認定失効制度を創設する。エネ庁は、特に未稼働案件には段階的に対策を講じ、措置が一定程度仕上がっているとの見解を示す。
確かに今後新たに導入される設備に対する規律は強化されているが、問題は初期の緩い網を抜けて急増した不適切設備への対応が追い付いていない点だ。
エネ庁は不適切設備の情報提供フォームを設けているが、数の多さに地方の経済産業局の人手が間に合っておらず、違法設備を放置しやすい構造が常態化しつつある。エネ庁は対応のスピードアップに向け、取り締まりに関する補助作業への予算措置を講じるものの、現状は一歩一歩の改善になってしまっていると釈明する。
例えば北杜市のトラブルは主に、規制が緩かった50 kW未満への意図的な設備分割の案件に多い。設備分割は14年の省令改正で禁止されたが、一度認定された設備への事後対応は難しいという。同一事業と思しき一区画に標識が複数枚あるような場合でも、1年さかのぼって事業者や地権者が別々であれば、別物の事業であると判断されてしまう。

また16年の法改正では、関連法令の遵守など、基準に適合しない事業に対する認定取り消しができるようになった。しかしこうした認定取り消しは、19年に沖縄県内の8件の太陽光設備に対し、農振法違反などを理由に取り消しとした1回だけだ。エネ庁は、取り消しに至らずとも途中の指導などで改善するケースがあると説明するが、実態はその説明通りなのか、検証が必要だろう。
人手不足改善されず さらなる対応は条例頼み
エネ庁は違反設備に対し、遡及適用も含めたさらなる規制強化や、認定失効の迅速化・強化といった対応には及び腰だ。
「再エネとの共生の在り方は地域によってさまざま。全国一律の基準を設けるよりも、地域の実情に応じた条例の策定が重要」(清水課長)との考えから、条例策定のサポートを強化するとしている。しかしFITが機能不全のままでは、自治体に負担のしわ寄せが行くだけだ。
関係者の中には、現在は未稼働案件への対策強化を受け稼働が進みつつあることや、カーボンニュートラルの盛り上がりの裏でネガティブな報道も増えていることから、トラブルが目立ちやすいと語る人もいる。そんな見解を、トラブルに悩む当事者はどう受け止めるだろうか。
政権が再エネ拡大路線を突き進む中、「温暖化ガス30年46%減目標の達成にはリードタイムの短い太陽光導入の加速が不可欠」といった声が強まっているが、トラブルを見逃してしまう構造の抜本見直しも待ったなしだ。




