静岡県熱海市の土石流災害は、山間部での太陽光開発のリスクを浮き彫りにした。
盛り土のあった崩落現場周辺で一体何が起きたのか。事実関係を取材した。
「7月3日の土石流災害を引き起こした伊豆山の盛り土崩落現場の周辺一帯(約120ha規模)は、麦島善光氏が所有している土地だ。その中に、問題の太陽光発電所や計画中の太陽光案件がある」
静岡県熱海市の事情に詳しい関係者はこう話す。メディアではあまり報じられていないが、固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定リストを見ると、伊豆山界隈では麦島氏が関係するZENホールディングスの既存発電所のほかに、グループ企業で二つのソーラー計画が持ち上がっている。
一つは、中央ビルの「47.3kW×14件(662.2kW)」(伊豆山字獄ケ1172ノ1)。もう一つは、ユニホーの「47.3kW×4件(189.2kW)」(伊豆山字獄ケ1172ノ27)。いずれもZEN社と同時期の2013年8~10月にFIT認定を受けたものだ。「当時の買い取り価格はkW時36円と高額。発電事業者にとって、おいしい案件なのは間違いない」(大手電力関係者)
FITリスト上では、まだ運転開始前の状態。ネット上の地図で「伊豆山字獄ケ」を検索したところ、場所を特定できなかったため、法務局に問い合わせると、崩落現場のすぐ北側であることが分かった。改めて空撮写真(左頁写真)で現場付近を確認すると、小規模な太陽光発電所が1地点あり、その西隣には土色の地肌が見える場所が二カ所。さらに北側を大きく蛇行する道路の先には、森林が伐採されたような広い土地がある様子がうかがえる。この辺りが太陽光の計画地点なのだろうか。
宅地開発がなぜ太陽光に? 疑問符だらけの計画
関係者によれば、崩落地の元所有者である新幹線ビルディングでは、伊豆山周辺で大規模な宅地開発を検討していた。麦島氏が同地を購入する2カ月前の10年12月に、現場周辺を撮影した動画がネット上に残っている。その中で、撮影者らは「35万坪の広大な敷地に住宅が建つ」「眺望が最高」「温泉の掘削機もある」などと土地の良さを盛んにアピール。既に盛り土も行われており、周辺一帯で大型リゾートのような開発計画があったことを裏付ける。
そのような土地を麦島氏がなぜ購入し、10年以上たった現在も宅地開発が行われていないのはどうしてか。複数の太陽光発電所がどのように計画され、その一部はなぜいまだ着工していないのか。疑問符だらけの状況について、前出の関係者があくまで個人的見解と断った上で、こう推測する。
「麦島氏が土地を買った経緯は分からないが、ZENグループは不動産事業がメインのため、そもそもは宅地開発を行うつもりだったのだろう。しかし購入後に調べてみたら、地質は火山灰だし、ハザードマップ上の危険エリアだし、保安林指定もあるしと、宅地開発には不向きな場所であることが分かった。ただ全てそのまま放置しておくのももったいないといった理由からか、とりあえず一部の地域に関しては、高収益が期待できる太陽光発電事業を計画したと考えられよう。実際、麦島氏側はメディアの取材に対し、盛り土付近の場所ではさまざまな計画を考えていたと話している。そんなところが裏事情なのではないかな」
今回の盛り土崩落の原因について、現地調査を行った地質学者の塩坂邦雄氏は7月9日の会見で、太陽光パネル造成で尾根が削られたことで、雨水の流れ込む範囲が変化し盛り土側に流入した結果、土石流を誘発したと言及。上部の高い地域からの流入量を考慮すべきだとの見方を示した。
これに対し、静岡県の難波喬司副知事は当初、塩坂氏の見解を真っ向から否定したものの、14日になると一転。「流域外からの地下水を考慮しなければならない」「逢初川源頭部には流域外の地下水が流入した可能性がある」と修正し、塩坂氏に謝罪したのだ。
県側の分析では、現所有者によって盛り土周辺地域で土地の改変が行われた可能性や、上部からの雨水流入が崩落の一因になった可能性を示唆している。太陽光建設計画が何らかの影響を及ぼしたと考えても不思議ではない。
果たして、事実関係はどうなのか。麦島氏の代理人を務める河合弘之弁護士に質問状を送ったところ、次のような回答があった。
Q 盛り土は10年間放置状態だったとの話に間違いはないか。
A 崩落地は一切触っていない。40万坪のほかの部分には施工をしたことがある。
Q ZEN社の太陽光発電所の土地から盛り土方面に雨水は流れていないとしているが、専門家の中には「実際は流出していた」と見る向きもある。
A ソーラー側から崩落地に雨水が流れたことはない、その証拠もないと認識している。
Q 中央ビルとユニホーの太陽光計画の地点は、法務局によれば崩落現場の北側とのこと。計画は現状どうなっているのか。
A 計画は着工していないし、当分そのままになる。
Q 今回の崩落について、麦島氏側は土地所有者としての責任をどう考えているか。
A 崩落の原因が不可抗力とも言うべき天災のためか、ずさんな工事のためか、行政の規制権限不行使のためなのか、分からない現状で、責任問題を軽々に論ずることはできないと考えている。
崩落前の盛り土(写真下側)周辺地。左下に太陽光発電
「伊豆山」は氷山の一角 山間部太陽光を禁止の声
いずれにしても、現在も調査は続いている。梶山弘志・経済産業相は7月16日の会見で、「発災当初から(太陽光発電の)事業者に対し、設備の健全性などの確認を行ってきた」「事業者からは(直接)現地確認はできていないが、太陽光設置現場に損壊はないと判断していること、排水施設等を設けていることなどの回答が得られている」などとした上で、「国土交通省や自治体、特に静岡県が中心となって調査を進める中で、情報提供などで連携しながら対応を検討していく」と強調した。
熱海災害を独自に調査している物理学者の高田純氏(札幌医科大学名誉教授)は、太陽光乱開発全般に警鐘を鳴らす。
「(伊豆山は)氷山の一角にすぎない。全国に同様のリスクがあると考えている。政府は山間部での太陽光開発計画を全て凍結させ、再発防止策を講じるべきだ。最良の策は山間部太陽光開発自体を禁止すること。国土破壊は絶対に許されない。破壊された山は修復できず、さらに災害を誘発する」
本誌では次号以降も、全国で多発する太陽光乱開発の実態を取材し、問題点を検証していく。