【舟山康江 国民民主党 参議院議員】農業の叡智でエネルギー創出


ふなやま・やすえ 1966年埼玉県越谷市生まれ。90年北海道大学農学部卒、農林水産省入省。経済局国際部、関東農政局勤務などを経て2000年退官。小国ガスエネルギー入社。07年参議院選で初当選。当選2回。

中央官庁の官僚として農政に携わったのち、結婚を期に地方LPガス会社の経営に参画。

国会では農業とエネルギー政策の最適解を探し、地方創生に情熱を燃やす。

生まれ育ちは埼玉県だが、母の実家が北海道で農業を営んでいたこともあって農業に興味があった。また、高校時代にはアフリカの飢餓救済に向け、世界中のミュージシャンがキャンペーンを行った「Band Aid」の活動などをきっかけに、世界の食料問題にも関心を持つようになる。

進路は、「命の源は食料、そして農業。厳しい環境下でも生育可能な農作物を作ることに貢献したい」との思いで北海道大学農学部に進学。卒業後は、農林水産省に入省し、本省で経済局国際部や大臣官房に勤務したほか、経済企画庁や関東農政局、近畿農政局などに勤務。「官庁での仕事は忙しくもやりがいがありました」と振り返るように、時には国際交渉の場に立ち会うなど農政全般に携わった。

しかし、仕事を続ける中で、「農業政策に携われるとはいえ、自分が描く理想の農業と政府が進める方向の違いに悩んだり、自分をはじめ官僚の限界を感じたこともありました」と振り返る。

農水省には10年間務めたが、結婚を機に退官。夫の地元である山形県小国町への移住を決意する。夫の家業はLP販売会社の小国ガスエネルギー。これまでのキャリアとは全く無縁のLPガス業界に足を踏み入れた。小国町では商工会の会合や地域のイベントにも多数参加し、また自身もLPガスの各種資格を取得しながら事務・接客業務にも携わった。

こうした活動を行う中、「これまで、大規模偏重型の農業政策が続いたことで、地方の社会を支える小規模農家が圧迫される現実を見た。これは経済でも同じことが言えて、中小企業は苦境に立たされている。地方を創っているのは中小企業で、地元で頑張る方々の暮らしを支えたい」との思いが芽生えた。すると、地元政界関係者から「選挙に出ないか」との誘いがあり、2004年の参院選で民主党より山形選挙区から出馬するも落選。07年に同じ選挙区で再挑戦し、初当選を飾る。

09年には農水大臣政務官を経験したほか、12年に民主党を離党して「みどりの風」の共同代表なども務めた。現在は国民民主党に所属し、党の政務調査会長および農林水産調査会長を務めている。

LPガスは地域を支える大事な資源 地方にはエネルギーが眠っている

注力する政策課題は農業政策だ。「農業は地方の経済や雇用の受け皿であるだけでなく、治水や減災にもつながる」と、一次産業の発展がほかの産業の発展にも資すると主張する。

「LPガスは地域に根差した大事なエネルギー」と強調し、「電気や都市ガスと比べても災害からの復旧が早いし、分散型のエネルギーとして活用することもできる」と、LPガスのメリットを説明する。

会社経営に携わり、深く感じ入ったのが、「LPガス会社は地域を支える大事な企業である」という点だ。「私たちの仕事は燃料を売ることだけではなく、地域を見守るという役割も持っていると思う。軒先を回り、需要家と触れ合うのは一見非効率にも見えるが、地域をつなぐ意味でも大事なこと」

過去にも夫がLPガスの配達を行っているとき、郵便受けに大量の封筒などがたまっている家があった。もしやと思い宅内に上げさせてもらうと、体調を崩した需要家がいた、という経験もあったという。

「カーボンニュートラル化」が叫ばれる中、エネルギー業界にも脱炭素化の波が押し寄せ、LPガス業界でも難題に立ち向かおうとさまざまな取り組みがなされている。「設備の高効率化でCO2排出量を抑制することはもちろん、国としても研究開発投資を積極的に行い、既存の技術に新たな革新的な技術を加え、官民挙げて課題解決を図るべきだ。古河電工が家畜のふん尿からLPガスを精製する技術を開発したことは、循環型社会の一つのモデルになり得るのではないか」と語った。

また、政府は現在、再エネの拡大に向けて、内閣府にタスクフォースを設置し、営農をしながら農地の上に太陽光パネルを設置する、いわゆる「ソーラーシェアリング」の拡大に向けた課題について議論を進めている。

こうした動きについて、「農業用水路を使った小水力や、もみ殻を使ったバイオマス燃料など、農業とエネルギーは親和性が非常に高い存在。地方にはまだまだエネルギー源が眠っている」と評価する。だが一方で「農地は生産基盤であり、その根幹を壊さないことが重要。一定の要件を設けるなど、再エネと農業生産とのバランスをしっかりと取りながら行われるべきだ」と、慎重な議論を求めた。

座右の銘は「足を知る」。「無いものねだりからあるもの探しへ。知恵を絞り、調和を求めることが持続可能性にもつながる」との発想で課題解決に臨む。魅力ある地方や、さまざまな産業が交差する農業の実現に向けて、これからも日々情熱を燃やし続ける。

【火力】改革の不備露呈 高騰問題の根本


【業界スクランブル/火力】

1月の厳寒による需給ひっ迫は、燃料のLNG調達量減少と相まって長期化し、3週間以上も厳しい状況が続いた。幸いなことに停電には至らなかったが、JEPX(日本卸電力取引所)の価格は高騰し、スポット市場の最高値kW時当たり251円、同100円を超えたコマ数350(175時間)を記録した。継続期間が多少長かったが、こうした価格スパイクは市場が正常に機能していたことの証でもある。

今回の事象については複数の要因が重なったとされているが、背景には電力システム改革および発送電分離の副作用や準備不足から需要想定のブレへの対応が硬直化していたことが挙げられる。しかし、対策を検討する国の各委員会では、電力市場高騰の影響を受けている新電力や需要家の救済という結果かつ表面的な対応ばかりに目が向き、問題の根本原因に迫っているようには思えない。

今回の原因としてLNGの調達量不足に加え、厳寒や設備トラブルなども挙げられるが、本を正せば今冬の需要の上振れへの対応が遅れたことに帰結する。先月の本欄でも指摘したように、需要予測を行うのは小売側であり、発電側でやるとすれば小売りとの相対契約に基づく発電計画まで。設備故障や燃料調達の遅延などを考慮するとしても、需要の上振れまで自律的に対応しろというのは無理な注文だ。

国の委員会では、容量市場の仕組みの中で燃料制約による供給支障をペナルティーとしてはどうかとの案が示されている。しかし、今冬のように需要想定が外れた責任を発電や燃料調達部門に回すという意味なら到底受け入れることはできないだろう。

今回のことで、今のままでは、電力の調達先を市場に頼るだけでは供給力確保義務を果たしきれないこと、需給の乖離が長期間続きkW時の不足時に自然変動電源プラス蓄電の組み合わせでの対応に限界があることなどが顕在化した。一部の人には不都合なことでも、現実を直視せず小手先の対応に逃げていては、また同じことが繰り返される。(Z)

政治も巻き込んだ温暖化バブル 国民経済の破壊こそ真の危機


【気候危機の真相 Vol.12】杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

本連載では「科学的には気候危機は存在しない」というさまざまな意見を紹介してきた。

CO2ゼロを強引に進めることの深刻な弊害を、エネルギー関係者は声を大にして訴えるべきだ。

災害のたびに地球温暖化のせいだと騒ぐ記事があふれるが、ことごとくフェイクニュースである。

台風は増えても強くなってもいない。発生数は年間25個程度で一定し、「強い」に分類される台風の発生数も15個程度と横ばいだ。猛暑は都市熱や自然変動によるもので、温暖化のせいではない。温暖化によって気温が上昇したといっても過去30年間当たりで0・2℃と、感じることすら不可能だ。豪雨についても、理論的には過去30年間に0・2℃の気温上昇で雨量が増えた可能性はあるが、それでもせいぜい1%だ。よってこれも温暖化のせいではない。

観測データを見ると、温暖化による災害は皆無だと分かる。温暖化で大きな被害が出るという数値モデルによる予測はあるが、往々にして問題がある。第一に、被害予測の前提とするCO2排出量が非現実的なまでに多すぎる。第二に、モデルは気温予測の出力を見ながら任意にパラメータをいじっており、高い気温予測はこの産物である。第三に、予測は不確かな上に悪影響を誇張している。

FITの二の舞 グリーン成長の陥穽

政策決定に当たってはシミュレーションをうのみにせず、その妥当性を一つ一つ検証すべきである。実際、温暖化に関する不吉な予測はこれまで外れ続けてきた。海氷が減り絶滅すると騒がれたシロクマは、人々が保護した結果、むしろ増えている。海面上昇で沈没して無くなるといわれたサンゴ礁の島々は、実際は拡大している。サンゴは生き物なので海面が上昇しても追随するのだ。

CO2濃度は既に江戸時代の1・5倍となり、その間地球の気温は0・8℃上がったが、観測上、何の災害も起きていない。むしろ経済成長によって人類は長く健康に生きるようになり、食料生産は増えた。今後も緩やかな温暖化は続くかもしれないが、破局が訪れる気配は無い。「気候危機」「気候非常事態」といったものは、どこにも存在しない。これらの点について、本連載での小島正美氏の提案(2020年9月号)を受けて「地球温暖化ファクトシート」をまとめた(次頁の表参照)。

政府は20年12月25日に公表した「グリーン成長戦略」で、経済と環境を両立させて50年CO2排出実質ゼロを目指すとしている。ある程度のCO2削減であれば、経済成長と両立する政策は存在する。だが、50年CO2ゼロという極端な目標は、経済を破壊する可能性の方が高い。

政府は化石燃料の利用を規制し、CO2の回収貯留を義務付ける、ないしは不安定な再エネや扱いにくい水素エネルギーで代替するという。30年に年額90兆円、50年に190兆円の経済効果を見込んでいるが、莫大なコストをかけ、それをもって経済効果とするのは明白な誤りだ。もちろん巨額の温暖化対策投資をすれば、事業を請け負う企業は潤う。だが、それはエネルギー税などの形で原資を負担する大多数の企業の競争力を削ぎ、家計を圧迫し、トータルでは国民経済を深く傷付ける。

政府が太陽光発電の強引な普及を進めた帰結として、年間2兆4000億円の賦課金が国民負担となっている。かつて政府はこれも成長戦略の一環で経済効果があるとしていた。実質ゼロのための費用は年間100兆円規模となる可能性もある。FITの二の舞を一般会計に匹敵する規模でやるならば、日本経済の破綻は必定だ。

サイクルへの批判 見落とされる視点


【業界スクランブル/原子力】

2月2日の青森県の県紙・東奥日報に大島堅一・龍谷大学教授の論考「再処理、経済的に破綻」が掲載された。資金回収が稼働率次第で4~5兆円も不足して国民負担になる恐れがあり、経済性・採算性からみてサイクル事業は破綻しているとの結論だが、社会を惑わす単なる空論・暴論にすぎない。

大島氏は六ヶ所再処理工場の「40年操業・3.2万t再処理」を絶対視するという思い込みに陥っている。それをかたくなに前提としてコスト計算を行い、40年間の使用済み燃料の発生量・貯蔵量が3.2万tよりも減少するので資金回収も減少し、その分、国民負担は膨らむと想定しているが、40年を超える操業期間・資金回収期間を一切認めない大島氏の試算は合理的根拠を持たない。

2018年7月31日に原子力委員会は、利用目的のないプルトニウムは持たないとの方針を改めて明確にした。プルサーマルの実施に必要なだけ使用済み燃料の再処理を実施するとしており、確実なプルトニウム消費の方針を打ち出している。従って、40年という期間よりも、むしろ3.2万tとみられる使用済み燃料に含まれるプルトニウムの確実な消費に注視していると考えるべきである。六ヶ所再処理工場が40年を過ぎても安全を大前提に多少稼働年数を余計にかけても所定の再処理・消費を完遂するために、稼働期間に多少の延長の幅を持たせることを許容する方針と考えられる。

そうした総稼働期間を念頭に置けば、使用済み燃料の再処理事業は固定費が大宗を占めるだけに、総コストの回収を念頭に置いた合理的稼働は可能である。原子燃料サイクルは、エネルギーの供給安定性や環境保全性、持続可能性など総合的視点を踏まえると大きな意義を持つ。わが国には既に1.8万tの使用済み燃料が存在している。それを再処理・回収してMOX(混合酸化物)燃料・回収ウラン燃料に加工して利用すると、わが国の約1.5年分の電力が得られることを見失ってはならない。(Q)

自由化市場の健全化待ったなし 電力不足騒動が突き付けた課題


【多事争論】話題:電力需給ひっ迫と市場価格高騰

電力需給ひっ迫と市場価格の高騰は、自由化関連の制度設計で見落とした視点をあぶり出した。

制度の軌道修正が不可欠だが、有識者や新電力事業者は、この騒動をどう受け止めたのか。

<脱炭素、競争重視で置き去りは許されず 資源小国のエネルギー政策に必要な視点>

視点A:野村宗訓 関西学院大学経済学部教授

2016年4月に実施された電力小売り全面自由化からまもなく5年。17年のガス小売り全面自由化とともに、電力・ガス市場は競争的な環境へと移行した。発電と小売りの両部門で多数の参入者が出現し、電力取引が多様化している。このような状況下でも、数量と価格面で利用者に安定的なサービスを提供する必要があることは言うまでもない。

資源エネルギー庁公表の発電事業届出事業者一覧によれば、昨年12月末で946もの事業者が存在し、小売電気事業者一覧では698の事業者が登録されている。自由化先進国の英国の発電ライセンス登録269社、小売りライセンス登録174社と比べると、わが国は圧倒的に多い。両国ともに実際に業務を行う事業者は限られる点から、登録数が直接、競争状態を意味するわけではない。

昨年12月までの日本卸電力取引所(JEPX)のスポット平均価格は安値で推移していた。しかし年末にかけて寒波が到来し、スポット価格は一転して高騰した。その理由として、燃料であるLNGの不足と急激な気温低下による暖房需要の増加が挙げられる。新型コロナ感染拡大以降、関連業界の勤務体制とサプライチェーンがうまく機能していない点や、ステイホームの影響から例年とは異なる需要に対応しなければならない点で運用面の難しさもあったと考えられる。

これまでにも地震や台風などにより電力供給が途絶えることはあったが、昨年末からの電力不足と価格高騰は、自然災害とは直結していない。強靭性を高める議論をしているにもかかわらず、「綱渡りのような状態、薄氷の需給運用、極限の緊張」と表現されるほどの切迫した状況に直面してしまった。

電力調達手法の改善必要 エネミックスと消費者保護も

電力不足に伴う危機的状況を回避するために、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の果たした役割は大きかった。昨年末からの動きを整理すると次のようになる。

20年12月8日 電気事業者に対する計画的な供給力確保に関する要請、12月15日~21年1月16日 一般送配電事業者に対する融通指示(計218回)、1月6~28日 非常災害対応本部の設置、1月29日 警戒本部の設置、1月6~26日 発電事業者および小売電気事業者に対する発電に関する指示(計3回)、1月8~13日 地域間連系線の運用容量拡大(計6回)、1月12日 発電事業者に対する供給力の確保状況に関する報告の求め。これらの断続的な要請や指示が功を奏し、最悪の事態に陥ることはなかった。

融通指示が1カ月で218回にも及んだのは、いかに緊迫していたかを物語っている。政府は1月12~15日までのスポット市場の最高価格が4日連続してkW時当たり200円を超える日が続いたため、同17日からインバランス料金等単価の上限を200円とすることを決定した。この措置は来年4月から導入する予定であったが、電力の安定的な取引環境確保のために前倒しで一般送配電事業者の託送供給約款等の特例が認可された。

今冬のスポット市場における価格高騰は、市場が現実にうまく機能したという見方もできる。卸電力価格の高騰は次のような影響をもたらす。まず、事業者が予想外の費用を負担する必要がある。次に、契約者に価格転嫁される可能性が高い。逆ザヤで破綻するのは当然であり、撤退する事業者も現れている。問題は利用者に法外な価格を支払わせるべきではないという点だ。特に「市場連動型」プランは月額で数万~数十万円という常識を超える支払額になる。

既に1月末に電力・ガス取引監視等委員会事務局から、「『市場連動型』の電力料金プランを契約されている消費者の皆様へ」という注意喚起が出されている。新電力は電力調達手法を改善すべきだ。具体的には相対取引、JEPXのスポットや先渡、東京商品取引所の先物などを通じてリスク分散を図ることが重要になる。利用者保護の視点からは小売料金を抑制する目的で、英国が採用したような上限価格規制を視野に入れる時期に来ている。

今冬の危機を受け、資源小国のエネルギー政策の重要性が再確認できた。脱炭素化の観点から再エネを一層増やすべきだという見解はもっともだが、自然変動電源に大きな期待を寄せることはできない。石炭火力は早晩停止されるだろうが、冬場に再び需給がひっ迫しないか。原子力再稼働や国際連系線による供給力確保という前向きな議論も不可欠だ。政策目標を競争維持、脱炭素化に置きながらも、エネルギーミックスと利用者保護にもプライオリティーを置くべきだ。50年に向けたロードマップを策定した上で、LNG基地の新規建設の具体策も検討する価値がある。

のむら・むねのり 1986年関西学院大大学院経済学研究科博士課程修了。89年英レディング大客員研究員、98年から現職。専門は産業経済学、公益事業論。

【マーケット情報/3月19日】原油続落、需要回復に懸念感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から下落。世界各地で需要の回復に懸念の声が広がっており、余剰感につながっている。

新型コロナウイルスの感染拡大により需要が伸びにくい状況だ。米国原油の大口買い手であるインドでは感染拡大により、石油製品への需要が弱まる見通しが強い。また、世界最大の石油消費国である中国では、感染予防による航空機の往来が減少しており、当面の追加需要は見込みにくい状況だ。

また、欧州でも、ワクチンの安全性に懸念が広がっており、一部接種見合わせの動きも報じられている。ワクチン接種により、石油需要は回復が見込まれていたが、石油需要が感染拡大前の水準に回復するには時間を要するとの見方が強い。

また、世界各地の製油所で定期検査が予定されており、原油調達の動きも一時的に弱まる見通しだ。

米国原油在庫は、需要減少の動きもあり、増加傾向にある。米エネルギー情報局(EIA)の週間原油在庫統計では4週連続の増加が報じられ、同国の在庫は昨年12月以来の最高水準に積みあがっている。

【3月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=61.42ドル(前週比ドル4.19安)、ブレント先物(ICE)=64.53ドル(前週比4.69ドル安)、オマーン先物(DME)=62.45ドル(前週比5.46ドル安)、ドバイ現物(Argus)=62.12ドル(前週比5.78ドル安)

【コラム/3月22日】米国における電力自由化の評価


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国では、1997年にロードアイランド州で産業用需要家に限定した電力小売自由化が、そして1998年には、カリフォルニア州とマサチューセッツ州で家庭用需要家も対象とした電力小売全面自由化が始まり、その後本格的な電力の小売自由化時代に突入した。しかし、電力小売自由化の道のりは決して平坦なものではなかった。カリフォルニア州では、2000年夏場から2001年の冬場にかけて、電力需給の逼迫に端を発した電力価格の高騰や大規模停電が発生した。卸電力価格は、2000年12月には前年比で10倍、また2000年8月には小売料金規制が撤廃されていたSDG&E地区で、小売料金が同年4月比で2倍に高騰している。この電力危機は、電力供給が州管理下に置かれるという最悪の事態で幕を閉じた。

さらに、2003年8月14日には、北米大停電が発生した。米国北東部とカナダで起きた大停電では、最大6180万kWの電力供給が停止し、約5000万人が影響を受け、経済・社会の蒙った被害は約60億ドル規模に達した。原因としては、設備の脆弱性や系統連系の弱さなどの系統上の問題があったところに、自由化で長距離大容量送電が増えたことが挙げられた。完全復旧までに2日以上かかっている 。復旧に時間がかかった理由の一つは、発送電分離により、発電側と送電側の情報交流がスムーズにいかなかったことである。

このような出来事の結果、すでに電力小売自由化に踏み切った州でも自由化を中断、延期、また自由化法を廃止する州が続出し、米国では電力小売自由化の動きは後退していった。このような出来事から約20年たった現在、あらためて米国の電力小売自由化はどのように評価できるだろうか。現在、小売全面自由化を行っている州は、コネチカット、デラウェア、イリノイ、マサチューセッツ、メリーランド、メイン、モンタナ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、オハイオ、ペンシルベニア、ロードアイランド、テキサスの14州とコロンビア特別区である。これらのうち、家庭用需要家による供給事業者の変更率が高いのは、テキサス州(約8割)、オハイオ州(約7割)、イリノイ州(約6割)であるが、テキサス州は規制当局による強制的措置として供給事業者の変更を行った結果であり、あとの2州は、自治体によるアグリゲーションプログラムの結果である。また、ペンシルベニア州では約3割の家庭用需要家が供給事業者を変更しているが、これは州の公式の価格比較サイトの存在によるところが大きい。これら以外の州における供給事業者の変更率は、2割を下回っている。

 電気料金(家庭用)については、1997年当時、全米平均8.4¢/kWhに対して、自由化州10.1¢/kWh、規制州7.2¢/kWhであったが、2019年では、全米平均12.8¢/kWhに対して、自由化州14.6¢/kWh、規制州11.5¢/kWhとなっている。自由化州と規制州の料金格差は、1997年では2.9¢/kWhであったが、2019年には、3.1¢/kWhまで拡大している。

米国の事例から、自由化が電気料金を引き下げたかといえば、否である。電気料金は、自由化州でも規制州でも1997年以降、上昇基調にあるが、料金動向に大きな影響を及ぼしているのは、供給コスト、とりわけ燃料(天然ガスなど)価格であり、自由化要因ではない。米国では、1997年に小売自由化に踏み切ったが、その限界も見えてきている。このような状況の中で、連邦政府が発布した電力関係の規制(オーダー)では、DR、省エネルギー、エネルギー利用効率向上などが重視されている。政策の重点は、市場自由化から環境へシフトしつつあるといえるだろう。わが国でも、グリーン成長戦略がポストコロナの重要政策として打ち出されているが、電力政策もやがて自由化から環境へ大きくパラダイムシフトしていくことになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【LPガス】容器流出に本腰 法令で規定へ


【業界スクランブル/LPガス】

「災害に強いLPガス」。大規模災害が発生するたびに、被災地での炊き出しや非常用発電機の燃料として、その認知度は向上している。一方、水害による洪水時には軒先に設置されたLPガス容器が流出するケースが多く、経産省の審議会などでは委員から「水害時には容器流出が繰り返され、災害に強いといえるのか」などの指摘もあり、早期の対策が求められてきた。そしてこのほど、LPガス供給設備などを扱う企業で組織する日本エルピーガス供給機器工業会(JLIA)が、「現在流通している高圧ホース(気相用)を全て災害対応型のガス放出防止型高圧ホースに一本化する」と表明した。

容器流出対策については、昨年6月から経産省、全国LPガス協会などLPガス関係団体が「容器流出対策に向けた検討会」を組織し、昨年10月に報告書をまとめている。その中で基礎的な対策として、①鎖またはベルトによりゆるみなく容器を固定、②ガス放出防止型高圧ホースを使用、③外壁の金具は、容器が浮上しても鎖またはベルトが外れにくいものを使用―などのルール化を検討する方向性を示した。これを受けJLIAは昨年12月、①集合用高圧ホース(気相用)は2021年4月製造分より防止型に一本化、②連結用高圧ホース(気相用)は同年10月製造分より防止型に一本化する―と表明していた。

近年の水害などによる軒先容器流出は、「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では岡山・広島・愛媛の3県で580本が、一般家庭などから流出したり土砂に埋没するなどした。同様の被害は、「令和元年台風19号」では1都11県で303本、「令和2年7月豪雨」では熊本、大分の両県を中心に286本に上っている。

今後、水害対策については、容器設置時の流出防止措置を法令などで規定する方向性で議論していくという。災害対応型高圧ホースのスタンダード化のみならず、安全対策の先行投資の観点からも、LPガス業界を挙げて取り組むことで、「真に災害に強いLPガス」と言われることに期待したい。(F)

【都市ガス】LNGが一転余剰 再度同じことも


【業界スクランブル/都市ガス】

今冬、なぜLNGが不足したのか。主な原因は一昨年の暖冬にさかのぼる。2019年は暖冬で、エネルギー企業は例年になくLNGの余剰在庫を抱えることになった。たださえ発射台が高い状態で、20年は新型コロナ禍の影響で需要が低迷し、さらに余剰在庫を上乗せした。各企業はスポット調達の停止はもちろんのこと、長期契約で仕向け地自由なLNGの転売、下方弾力性の行使などを駆使して、適正在庫を下回るスリム化を急いだ。JKM(日本・韓国への持ち届け価格)市場は夏場に100万BTU(英国熱量単位)当たり2ドル前後まで値が下がったが、LNGタンク満杯回避のために逆ザヤでの転売は実施した。相当量の在庫調整をする裏には「冬場に何かあっても、いざとなれば安価なスポットを購入できる」という安易ともいえる考えが担当者になかったとは言い切れない。

いろいろな要因も重なった。10月前後からのマレーシア・豪州などでのLNG出荷基地の故障、豪州の石炭出荷設備の故障、パナマ運河の混雑、大飯原発の未稼働、日本海側の天候不順による太陽光発電の不調、そして厳冬による中国・韓国のスポットLNG買い漁りなどだ。

そこに、例年より若干寒い冬がやって来た。通常なら十分に対応可能な需要増に対して、LNGをスリム化しすぎた分、燃料が足りない状況が際立ってしまった。このため発電所の出力を絞り込むことに。自社需要への供給を優先する電力会社は市場への投入量を一時的に抑えざるを得ない。それがかつてない電力市場の高騰を生み出し、結果として市場に軸足を置いている新電力各社は壊滅的な影響を受けることになった。

通常、スポットLNGは購入を決定してから到着まで3カ月以上かかる。12月ごろに電力会社が慌てて買い急いだ高価なスポットLNGの到着は2月末。それなのに2月後半以降は暖冬の見通しでLNG在庫はまた余剰になろうとしている。既に、4月以降のJKM市場は買手がつかない状態だ。残念だが、同じことはまた起こりそうだ。(G)

電力と通信の大手が協業 社会貢献とビジネスを両立へ


【エネルギービジネスのリーダー達】髙瀬憲児/TNクロス代表取締役社長

社会への貢献と課題解決がビジネスとして成り立つ革新的な事業の創造に奔走する。

通信分野で数々の新規事業に携わってきた経験を生かし、エネルギーという新たな分野に挑む。

たかせ・けんじ 1990年東大大学院工学系研究科修了、日本電信電話入社。97年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修了。2014年NTTコミュニケーションズサービス基盤部企画部門長、19年TNクロス副社長などを経て、20年4月から現職。

東京電力とNTT―。日本のインフラを支える大企業2社の共同出資により、TNクロスは2018年7月に誕生した。取締役として入社し、20年4月に社長就任。世の中にある社会課題の解決につながる事業をビジネスとして成立させることを目指し、新会社のかじ取り役を担う。

ビジネス創出の先駆者に 時には思い切った行動を

同社の事業は、電力と通信それぞれが持つ設備や技術を融合することで、分散型エネルギーシステムの構築やレジリエンスの強化など、新たなエネルギーソリューションを企画すること。各事業の主な実働部隊は東電やNTT、グループ各社が担当するが、事業そのものがなければ何も始まらない。同社は新たな事業を生み出す、いわば先駆者としての役割を担う。

「パイオニアであれ。プロであれ。全ての人に寄り添い、誠実に」。社員にはこう説きつつ「時にはやんちゃも必要」とも話してきた。この言葉には、既成概念にとらわれない発想や思い切った行動も必要との思いが込められている。

この「やんちゃ」が実を結んだのが、千葉市と取り組む実証事業だ。従来であれば担当部局に提案するところ、真っ先に熊谷俊人市長のもとを訪れた。プレゼン当日には、各部署の担当者も集合。提案内容が評価され、災害時と平常時に活用できるエネルギーソリューションの検討に向け、市との協定締結がすぐさま決定した。それが、現在進めている小中学校など182カ所の避難所に太陽光発電(PV)とリチウムイオン電池を設置する事業にもつながっている。

PVなどの新たな設備を入れるには、自治体側にコスト負担が発生し、予算化には時間がかかる。だが、まずは導入しないと先に進まない。そこで選択したのが、電力購入契約(PPA)という方法だ。TNクロスが設備・施工費を負担し、PVが発電した電気を自家消費しながら電気料金として回収する。このスキームによって導入のハードルが大きく下がった。

今後、小中学校でPVと蓄電池がうまく活用されて必要性が認識されれば、将来的には予算化される可能性も出てくる。「社会的ニーズに応え、かつそれを事業として成立させる。その仕組みづくりが重要になる」

プライベートでは、社会的課題を事業により解決することを目指す社会起業家に対し支援を行う団体の理事を務める。一時的な支援や寄付で終わるのではなく、持続的な事業により社会のニーズに応えていく仕組みづくりは、TNクロスの事業でも生きている。

数々の新規事業を経験 エネルギー分野にも挑戦

技術畑出身ながら学生の頃からビジネス分野に興味があった。転機は、NTT入社の5年目に、社内制度で経験したマサチューセッツ工科大学への留学だ。目的意識の高い学生たちとともに机を並べ、仕事に対する考え方に多くの刺激を受けた。また、大学のプログラムで学生を日本に招くイベントに主催者として参加し、主体的に動く楽しさややりがいを実感する。

「このまま会社にいてもいいのか」。帰国後、自問自答を繰り返しつつも、社内のさまざまな先輩と話していく中、印象的な社員に出会う。当時、まだ公社体質が抜けきれていなかったNTTにおいて、その枠にとらわれず道を切り開こうとしている彼の姿を見て「自ら主体的に動けば可能性は広がる」と活路を見いだした。その社員が、現在のNTT社長の澤田純氏だった。

NTTでは公衆Wi-Fiの整備やデータセンターの立ち上げ、オフィスのIT化ビジネスをはじめ、10年には南アフリカの大手システム会社の買収という大型の海外案件も経験した。いずれも新規事業や既存ビジネスの再構築といったゼロから立ち上げる仕事ばかり。これらの経験を経たからこそ、分野外のエネルギー事業にも挑戦できる。

千葉市の事業は20~22年度の3カ年プロジェクト。小中学校はそれぞれ、建物の配置や電力配線の敷設箇所が全て異なる。1カ所ずつ、PV・蓄電池の設置を進める中で、今後の展開に向けた類型化を進めるなど、1年目は下地づくりに注力した。2年目となる今年、いよいよ事業が本格化する。また、今年1月には、NTT東日本の通信ビルから敷設した自営線で市内の中学校に直流送電を行う実証試験も始まった。

TNクロスの設立当初、「お手並み拝見」と冷ややかに評するメディアもあったが、この言葉が社員たちの心に火をつけ、徐々に形となってきた。千葉市の担当者とは、毎日のように電話でのやり取りが続いている。相談を受け、時には相談することもあり「今では困難を乗り越えた仲間のような存在」だという。千葉市での取り組みをきっかけに、東京都ともスマートエネルギーシティに関する勉強会を行うなど、電力、通信に自治体が加わったコラボの成果が、徐々に広がり始めている。

長年手掛けたノウハウを活用 洋上でリーディングカンパニー目指す


【コスモエコパワー】

政府は昨年10月、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言、同12月には「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」を開催し、梶山弘志経済産業相が「温暖化ガス排出削減における鍵の一つが洋上風力」と発言するなど、風力発電業界はさらなる成長期を迎えつつある。

コスモエネルギーグループでは第6次連結中期経営計画にて風力発電事業を新たな柱と位置付けており、このような流れの中、傘下のコスモエコパワーの取り組みをより一層強化し、国を挙げて取り組む脱炭素化社会の実現に貢献したいと考えている。

波崎ウインドファーム(茨城県神栖市)

大切な地元との合意形成 地域支援を通し関係を構築

コスモエコパワーは前身となる会社が日本初の風力発電専門企業として1997年に創業。現在、国内シェア第3位に位置する業界の老舗だ。これまで20年以上にわたり、25カ所以上の地域で風力発電所の建設を行い、設備容量は約26万kWを有する。

同社の強みは、発電所建設における風況の知見があることや、開発地域住民との合意形成、設計、施工、O&M(オペレーション&メンテナンス)まで一貫して手掛け、それぞれノウハウを持っている点だ。

特に、事業化に向けて注力しているのは地元との合意形成だ。地権者や地元町内会、自治体などの理解を得るに当たっては、相手の立場を尊重しながら、不安や課題を取り除くべく丁寧に話し合い、さらに自社事業を理解してもらうよう努めている。時には、風力事業と直接的に関係しないが、地域活性化につながるような、独自の地域支援を通して、各地で良好な関係を築いているとのことだ。このような取り組みにより、これまで円滑に事業を拡大してきた。

今後、洋上風力発電事業に注力していくに当たっては、これまで以上にコスト競争力や開発に関わる人材力、サプライチェーンを形成する力が求められる。

そんな新市場に向けて、同社では長年にわたり培ってきた陸上風力発電事業でのノウハウを生かした展開を進めていく方針だ。

例えば、洋上風力事業に適した海域における漁業では、ほかの地域と同様に、後継者問題や漁獲高の減少など多くの課題を抱えている。新たな産業として洋上風力事業を加え、融合することで、漁業の効率化や、地域社会における新たな雇用機会や産業の創出のほか、風車を観光資源化し旅行者を呼び込める可能性もある。このような課題に一つひとつ丁寧に取り組むことで地域社会の活性化と共生につなげ、同社は洋上風力事業のリーディングカンパニーを目指していく。

大手ガス株価に上昇・下降の二局面 ROE低下と気候変動問題が影響


【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

東京ガス、大阪ガスの過去10年の株価上昇率は東証株価指数(TOPIX)の上昇率を下回った。

競争激化による都市ガス事業の利幅縮小と成長事業の成果が出ていないことが影響している。

過去10年間(2010年末~20年末)の東京ガスと大阪ガスの株価上昇率は約3割であり、同期間のTOPIXの上昇率(約2倍)を大きく下回った(図1と2を参照)。

注:月末値、2010年12月末を100として指数化
出所:Quick Workstationに基づきMUMSS作成

注:2010年末から2020年末の10年間の株価パフォーマンス
出所:Quick Workstation に基づきMUMSS作成

本稿では、過去10年間のガス業界(都市ガスおよびLPガス)の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べる。前半では、東ガスと大ガスについて、後半では、株価上昇率が高かった日本ガスと岩谷産業について述べることにする。

株価に二つの局面 上昇期と下降期

図1に示すように、過去10年間の東ガスと大ガスの株価の推移は、二つの局面に大別される。前半期間(10年~15年ごろ)は、両者の株価はTOPIXと同様に上昇した。しかし、後半期間(15年ごろ~19年)は、TOPIXは上昇したが、両社の株価指数は大きく下落した。

東ガスと大ガスの過去10年間の株価上昇率がTOPIXを大きく下回った主な要因は、ROE(=純利益÷自己資本)が低下したことと、株式市場で気候変動問題への関心が高まったことの2点と考える。

第一の要因であるROEは、株式市場で最も重要視されているKPI(重要業績評価指標)である。その理由は、ROEは、会社が株主から預かっている資金(自己資本)を使って、どのくらい稼いでいるかを示す指標であるからだ。

脱炭素の動きの中、天然ガスへの評価も低下している

本稿では、利益に対する原料費調整制度によるタイムラグ影響を平準化するため、3年平均のROEを計算する(例えば、19年度のROEは、17年度から19年度の3年間平均である)。

東ガスと大ガスの19年度のROEは10年度よりも悪化した。前述の株価の推移と同様に、過去10年間は、二つの局面に大別される。次に見るように、前半期間(10~15年度)にROEは改善し、後半期間(15~19年度)にROEは悪化した。

・東ガス:10年度7・9%→15年度10・2%→19年度5・9%

・大ガス:10年度6・7%→15年度8・0%→19年度3・8%

15年度以降の両社のROEが低下した主な要因は、稼ぐ力の悪化だったと考える。

稼ぐ力のKPIであるROA(=経常利益÷総資産)の3年平均値は、次の通りである。株価とROEの推移と同じように、前半期間と後半期間と同じトレンドである。

・東ガス:10年度4・8%→15年度7・7%→19年度4・2%

・大ガス:10年度5・3%→15年度6・5%→19年度3・7%

15年度以降に両者の稼ぐ力が悪化した主な要因は、次の2点だったと考える。

①全面自由化などによる競争激化を背景とした都市ガス事業の利幅縮小

②成長事業への新規投資の成果が出ていないこと

第二の要因である気候変動問題への関心が高まったことは、本誌2月号の羅針盤で述べた通りである。機関投資家が脱炭素を目指す動きの中、石炭や石油だけでなく、天然ガスの将来性に関する評価も低下したと考える。

【新電力】消費者のリスク 市場高騰で顕在化


【業界スクランブル/新電力】

卸電力市場価格高騰に伴い、市場連動メニューのリスクが社会で話題になっている。SNS上では主に新電力と市場連動メニューを契約している消費者から「電気代が1日5000円を超えてしまう」「今月の電気代が10倍になってしまう」といった悲痛な声が注目を集めた。市場連動メニューは主に風力発電所の導入が進む欧州で盛んだ。特に深夜時間帯を中心に風力発電所の余剰電力が発生し、市場価格が低下する。この安価な電力を活用して、小売電気事業者が消費者の電気自動車(EV)やヒートポンプ(電気給湯器)の充電制御を行うことで再生可能エネルギーの出力抑制量を減らすことができ、電気料金を削減できる画期的なメニューだった。欧州の市場連動メニューには上限価格が存在することから、消費者のリスクは少なく顧客の支持を集めている。

一方で、日欧を比較すると見落とせない大変重要なポイントがある。日本は資源輸入国であり、資源国とガスパイプラインでつながっていない。また、欧州は異なる電源構成の国の系統が相互につながり、電力取引を通じて相互補完する仕組みが確立されている。

日本は資源産出国から遠く離れており、ガス大量消費国の中国・韓国との購買競争にさらされている。電力需要や再エネの発電量の予測が外れた場合、すぐにエネルギー(ガス・電力)を輸入できる欧州と異なり、日本はすぐにエネルギーを輸入できる環境にない。今回の事態は日本のエネルギー供給体制の課題が顕在化した出来事だったといえよう。

今後の議論のポイントは3点である。①新電力は供給条件説明義務、契約締結前・締結後の書面交付義務を果たしていたのか、②市場連動メニューを利用している消費者は卸電力取引所の価格変動リスクを認識していたのか、③顧客が価格リスクをヘッジできるオプションは用意されていたのか―。

電力・ガス取引監視等委員会において「電力の小売営業に関する指針」の改正について検討が進むと思うが、消費者保護の観点から議論が必要だ。(M)

韓国が北朝鮮への原発輸出を検討か


【ワールドワイド/コラム】

国産原子炉の輸出禁止や、月城原子力発電所1号機の早期稼働停止を図るなど、脱原発政策を進める韓国・文在寅政権。そんな文政権には1月末から「秘密裏に北朝鮮で原発を建設する案が進められていたのでは」との疑惑が広がっている。

そもそも韓国では、月城原発の早期閉鎖問題を巡り、「早期閉鎖の根拠となっている『経済性』は、文政権に忖度したもので、妥当性に欠けているのではないか」との問題が浮上していた。監査院が本件の調査に乗り出そうとしたところ、産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は調査が入る前に内部文書530件を違法に削除した。

だが、その削除データはマスコミの手に渡り、その中に「北朝鮮への原発輸出プラン案」が含まれていたことが発覚した。

最大野党の「国民の力」は、「衝撃的な利敵行為だ」と文政権を批判し、「この文書を2018年に行われた南北首脳会談で韓国の対北支援プランとして金正恩に手渡した」と主張する。一方の文政権は「そのような事実はない」と反論。当の産業通商資源部も本文書について「あくまでも政策立案を行う上でのアイデア出しにすぎない」として、実効性のあるものではないと説明している。

輸出の実現性について、国際原子力機関(IAEA)元事務次長のオリ・ハイノネン氏は「原発は韓国と北朝鮮が独自に議論して建てられる類の施設ではない」と指摘。「1994年にあった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)での原発建設計画とは比べ物にならない規模の投資が必要になる。どのような国際的合意を結ぶかというのも問題だ」と語っている。真相はやぶの中だが、実現の可能性は限りなく低そうだ。

【電力】新電力に打撃 脆弱な電源構成


【業界スクランブル/電力】

昨年末からの電力需給ひっ迫・市場価格高騰で一部新電力の経営がダメージを受けていることについて、審議会の主要メンバーである学識者の言。

「多くの有識者や発電事業者は、今冬の需給ひっ迫の前には、『変動再エネが普及すれば卸市場価格は傾向的に低下する』『卸市場価格には少なくとも一部の固定費は含まれておらず、取引所で電力を調達する小売事業者は固定費負担を免れてただ乗りしている』などと、ミクロ経済学のイロハが分かっているのか怪しい、物事の一面しか見ない愚かな議論を振りまいてきた。これが正しければ、固定費の乗ったベースロード電源市場を活用せず、小売事業者が過度にスポットに頼る経営をしたとしても、価格高騰への備えを怠っても、むべなるかな」

新電力がリスク管理を怠ったのは発電事業者のせいとは随分と乱暴な話だ。今行われている限界費用によるスポット市場への投入は、当時審議会メンバーであった某氏の強い主張で実現したものだが、氏は相応の頻度で市場が玉切れによる価格スパイクを起こし、電源が固定費を回収することを想定していた。

ところが、日本の市場ではほとんどスパイクが起こらない。まるで、凪のような市場だ。玉切れが相応の頻度で起こる市場が社会的に望ましいという感覚が共有されず、例えば予備率8%を必達目標としたなら、そんな凪の市場になるのもむべなるかな。

ところが、kWの不足でなく燃料不足により価格スパイクが起きた。これが3週間ほど続いたことを世界的に異常だとか災害級だとか言う向きがあるが、水力発電中心の国で渇水が起きたようなもので、北欧に行けば渇水か豊水かで月平均でも市場価格が数倍違う。

それよりも深刻なのは、日本の電源ミックスが大量の備蓄が難しいLNGに過度に依存し、海路が封鎖されればひとたまりもないほど脆弱だと国内外に知れ渡ったことだ。このような国家安全保障にかかわる課題を尻目に新電力の経営問題ばかり騒ぐのでは、平和ボケと言われても仕方ないのではないか。(T)