【マーケット情報/4月29日】原油上昇、需給逼迫感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫の見通しが強まり、買いが優勢となった。

ドイツは26日、ロシア産原油への依存率を、ウクライナ侵攻前の35%から、12%まで低減させたと表明。完全な禁輸措置に向けて、ロシアからの調達削減を進めている。スイスを拠点とするエネルギー商社トラフィグラは、ロシア国営石油ロスネフチからの原油調達を、5月15日までに停止すると発表。また、欧州石油メジャーBPとシェルは、ロシア産原油を原料としたジェット燃料を、購入の際の条件から除外した。

こうした欧州諸国の動きを受け、ロシアはアジア太平洋地域、特にインドと中国へ向けた供給を増加させている。ただ、同国の4月1~29日における原油およびコンデンセートの生産は、3月と比べて減少している。

ロシアからの供給減少に加え、需要回復の見込みも需給を引き締めた。インドの国営製油所は4月中、最大出力で稼働。新型ウイルス感染拡大防止のための移動規制が緩和されたことが背景にある。また、欧州の製油所も、軽油の精製マージンが過去最高となったことを受け、稼働率を引き上げている。

一方、中国では、上海や北京など一部地域でロックダウンが続く。経済活動の冷え込で、石油需要が一段と後退するとの予測が広がり、価格の上昇を幾分か抑制した。

【4月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=104.69ドル(前週比2.62ドル高)、ブレント先物(ICE)=109.34ドル(前週比2.69ドル高)、オマーン先物(DME)=103.08ドル(前週比1.89ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.96ドル(前週比0.83ドル高)

日本パラ水泳界のエース 金メダル糧に開く未来


【東京ガス】木村 敬一

 日本大学在学中の2012年、ロンドンパラリンピックで銀と銅の二つのメダルを獲得。大会終了後、日本パラスポーツ協会会長を務めた鳥原光憲・東京ガス元会長から「次の大会で金メダルを目指すなら、一緒に頑張ってみないか」と声を掛けられた。金メダルを取る目標だけでなく、将来設計にも大きな可能性を感じ、13年4月、日大大学院進学とともに東京ガスに入社した。

東京大会では金メダルに輝いた

「入社時は人事部で、社内のスポーツ部をサポートする業務に就いた。国内大会では社内の人にたくさんの声援を送っていただいた」と当時を振り返る。15年3月まで大学院生、水泳選手、東京ガス勤務の3足のわらじを続けた。「これ以上ないくらい頑張った」と16年のリオ大会に臨んだ。結果は日本人最多となる銀二つ、銅二つのメダル。悲願の金には届かなかった。「何かを変えなければ水泳を続けられない」―。リオ大会で金メダルを獲得した選手のコーチに指導を受けるため、18年から単身アメリカへ練習拠点を移した。東京ガスは生活費、栄養費、通信費など生活回りをバックアップ。異国の地でも多くのサポートを受け、記録も伸びた。

コロナ禍の東京2020大会、100mバタフライでライバル・富田宇宙選手との激しいトップ争いの末、金メダルに輝いた。入社から8年越しの悲願に「金を取るまでは終われない、何もしてはいけないと取りつかれた感じだった。うれしさよりほっとした気持ち」と吐露する。金メダルの呪縛から解放された現在は「サステナビリティ推進部」に所属。東京ガスの、共生社会実現を目指すミッションに賛同し、イベントや講演会に出席するなど、大忙しの毎日を過ごしている。

今後は東京ガス内の部署と情報交換を行い、「視覚障害を抱える自分ならではの視点から、東京ガスで何ができるか」と新たな取り組みを模索している。選手としては、3月5日の選考会で派遣標準記録を突破、ポルトガルで開催される世界選手権の出場を決めた。24年パリ大会での2大会連続金メダルを期待する人も多いが、今の目標は「目の前の課題をクリアし、金メダリストにふさわしい人間になる」ことだという。

「東京ガスという生活に密着した会社で、生活の力になれる仕事がしたい」。支えてもらった恩を返し、今度は自分が人を支える番だと、日本パラ水泳界のエースは日々の仕事に全力で挑んでいる。

きむら・けいいち
1990年滋賀県出身。2歳の時に視力を失う。小学4年生から水泳を始め、ロンドンパラリンピックで銀・銅二つ、リオ大会で銀・銅四つのメダルを獲得。東京大会100mバタフライで悲願の金メダルに輝く。

次代を創る学識者/馬奈木俊介・九州大学教授


「社会に貢献したい」と研究者の道を歩んできた馬奈木俊介・九州大学教授。

数値モデルを活用し、政策・経営の科学的判断を後押ししていく。

 豊かで持続可能な経済・社会を評価するSDGs(持続可能な開発目標)の成果指標「新国富指標」研究の世界的な第一人者。現在、政府の「『クリーンエネルギー戦略』に関する有識者懇談会」、環境省の「炭素中立型経済社会変革小委員会」、経済産業省の「グリーントランスフォーメーション推進小委員会」に名を連ねる唯一の学識者委員として、岸田政権肝いりの「クリーンエネルギー戦略」の具体化に深く関わっている。

学生時代から「社会に貢献する専門家になりたい」という思いが強く、選んだのが研究者の道だった。大学の飛び級制度を利用して九州大学大学院工学研究科に進み、修了後は、米国ロードアイランド大学大学院で経済学を専攻。都市工学・交通工学に加え、環境経済学の専門性を培った。

「政治家、企業経営者が科学的な根拠に基づいた判断をするための情報を提供する立場として、経済と技術双方に精通し政策や経営戦略を俯瞰して見ることができる『専門家』であるべきだと考えた」のが、その理由だ。

もう一つ、研究者を志す上でのこだわりは、「日本でも海外でも通用する人になりたい」ということだった。エネルギーや気候変動の分野で、英語の学術論文を積極的に執筆してきたのはそのため。分析データや数値モデルが米エネルギー情報局(EIA)の政策資料として活用されるなど、着実に成果を上げた。

企業のSX転換後押しへ SDGs支援会社取締役に

研究活動の先に見据えているのは、SDGsの社会実装の実現だ。昨年4月、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が設立した「サステナブルスケール」の取締役に就任。企業のSDGsの取り組みを適切に評価し、持続可能性を重視した経営への転換、いわゆる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を促す取り組みを共に進めている。 「SDGs経営の実現に向け、企業にとってさまざまな社会課題の解決に取り組むことが非常に重要であることを金融機関が認識し、行動に移したことは大きな変化」と、これまでの活動に手応えを感じている。

脱炭素化をはじめ多くの問題に直面するエネルギー政策については、「カーボンニュートラル社会を実現するには、多くの技術的な課題がある。目標とする未来像からバックキャスティングしてその実現に必要な技術開発に注力し、解決できずに諦めなければならないことを減らしていくべきだ」と主張する。

持続的に研究活動を進めるには、科学的なエビデンスに裏付けられた論理展開が欠かせない。そのためには、学術論文の執筆が何よりも大きな意味を持つ。自身の今後の活動について、「海外とのつながりを大事にしつつ国内向けにも積極的に発信していきたい」と語り、学術雑誌のみならず、都市研究センターとしての情報発信にも力を入れていく考えだ。

まなぎ・しゅんすけ
1975年福岡県生まれ。1999年九州大学大学院工学研究科修士卒、米国ロードアイランド大学大学院博士卒(経済学専攻)。国連「新国富報告書2018」代表、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」代表執筆者などを歴任。環境経済学、都市工学・交通工学。

【新電力】資源価格の高騰 原発稼働中審査を


【業界スクランブル/新電力】

ロシアのウクライナ侵攻により、西側諸国ではロシア産の天然ガス・原油の禁輸に向けた動きが活発化しており、特に米国・英国はロシアに対して厳しい態度で臨んでいる。英国はロシアを出港した船舶の入港を禁止する厳しい措置を取っている。本政策は突如として発表・施行されたため、2隻のLNG船がフランスなどへ転売された。

これらの動きにより、欧州の天然ガス価格スポットが高騰し、JKMも急騰した。また、石炭を購入する動きが世界的に拡大し、石炭価格も過去最高水準が続いている。

当然、これら資源価格の高騰の日本への影響も大きい。複数の大手発電事業者でLNG調達のスポット比率が高水準であるとみられ、日本卸電力取引所(JPEX)スポット価格も連日高値が続いている。また、当然ながら資源価格の高騰は燃料調整費に反映されることから、経済・産業への影響が懸念される。

ここで大変気になるのは原子力発電所再稼働の動向だ。電気料金低減には原発再稼働が必要不可欠だ。しかしながら、特重施設設置期限に間に合わない電源の稼働を認めず、稼働中審査を頑なに認めない原子力規制委員会によって、稼働台数は低水準で推移している。規制委にガバナンスが働いているのか大変疑問を感じる。規制委では機密文書紛失、原発検査官の検査官証紛失など、不祥事が続いているが、原子力事業者に対しては厳しい対応姿勢を見せ続け、合理的ではない運用を行っている。 それら規制委の課題を放置した結果、損害を被るのはわれわれ新電力であり、最終的には需要家である。当事者の原子力事業者には規制委の課題は主張できない。新電力こそ、規制委に対して原発の稼働中審査を求めていくべきではないか。(M)

【メディア放談】ウクライナ侵攻とエネルギー どこにいった! 気候変動問題


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

ロシア軍のウクライナ侵攻はエネルギー安定供給の重要性を再認識させた。

エネルギー環境政策での中心議題だった気候変動問題は、すっかり影をひそめてしまった。

 ――ロシア軍のウクライナ侵攻で、悲惨な状況の映像が連日、テレビで流れている。一方、欧米と足並みをそろえて日本も経済制裁を行ったことで、国内のエネルギー市場に大きな影響が出そうだ。

電力 電力・石油・ガスの値段が上がることは避けられない。政府はさまざまな対策を考えるだろうけれど、国際市場で高騰することには打つ手がない。新聞の首相の動向欄を見ると、毎日のように資源エネルギー庁幹部が官邸を訪れている。7月の参院選に向けて、エネルギー価格を抑えることが大きな政治課題になっている。

――新聞もエネルギーを巡る問題を大きく取り上げている。

ガス 各紙取り上げているけれど、誰のコメントを載せるか、それと、自社の編集・論説委員がどこまで踏み込んだ記事を書けるかで、差が出始めている。やはり、ダントツは日経。「ウクライナ危機を聞く」のコーナーで、『石油の世紀』で有名な石油アナリストのダニエル・ヤーギンのインタビューを掲載していた。

――ヤーギンは石油アナリストでは大御所的な存在。「米シェール産業は重要な意味を持つ」など、コメントにも説得力があった。

ガス 自社の記事にしても、ヤーギンに話を聞いた米国ヒューストン駐在の花房良祐さんをはじめ、記者はよく取材している。編集・論説クラスでも松尾博文さん、西條都夫さんらが中身の濃い論説を書いている。改めてエネルギーについて日経の執筆者の層の厚さを認識した。一時、再生可能エネルギー推進に大きく偏重して、違和感を覚えていたけれど、ようやく元に戻ったなと思った。

――他の新聞はどうかな。

石油 よく分からないのが朝日。紙面では、被災した市民の写真を載せて、ウクライナの惨状について紙面を割いている。けれどウェブ版では、この戦争を分析して、海外の識者のコメントを載せたり、かなり突っ込んだ記事を載せたりしている。なぜ、これを本紙に載せないのか不思議だ。

マスコミ 読者が求めていることを考えているんだろう。朝日の読者層からすると、ウクライナ侵攻はまず人道上の問題になる

石油 ただ、本紙ではないけど、朝日新聞出版の『AERA』が、ロシアの肩を持つような記事を載せたことには驚いた。

 旧ソ連圏に詳しい教授と国際紛争が専門の教授二人が対談をして、「気になるのは、私たちは西側視点のニュースだけで『悪いロシア』のイメージを作っていること」「『悪玉プーチン』だけに偏ると見えてこないことがある」と、右翼が聞いたら激怒しそうなことを語っていた。

マスコミ 何を考えているのかな、この新聞社は。

サハリンから購入継続⁉ 広ガスに消費者が反発も

――サハリン1、サハリン2からシェルやエクソンが撤退した。欧米から圧力がかかった場合、日本の対応も問われそうだ。

ガス サハリン1・2から日本が撤退することは、まずないと思う。ただ、今回の戦争で痛感したのは、ロシアと取引をしながら消費者を相手にしている企業が、非常に難しい立場に立たされること。例えばユニクロは、侵攻後、いったんロシアでの商売継続を決めながら、批判が殺到して方針を転換した。

 エネルギー企業は、ロシア産の石油や天然ガスを購入している。中でも広島ガスは、買っているLNGの約半分がサハリン2のものだ。サハリンから日本への供給は継続されるだろうが、広ガスは消費者から反発を受けるかもしれない。経済産業省に、そういう指摘をする人がいる。

マスコミ 商社関係者が「サハリンから撤退しても、中国を利するだけ」と政治家や役人に吹き込んでいるらしい。ロシア産石油・ガスは日本に欠かせないけど、ウクライナ情勢の行方によっては、撤退もあり得るんじゃないか。

――エネルギー政策の基本はS(安全)+3E(安定供給、経済性、環境性)とされている。今までは環境性、地球温暖化問題が議論の中心だったけれど、この戦争で安定供給がかつてないほどクローズアップされることになった。

石油 「ウクライナの次は台湾」という人たちがいる。経済性も環境性も、安定供給がまず維持されてからの話だ。ウクライナの人たちには申し訳ないが、今回、それを日本人が理解し始めたことはよかったと思う。

ガス だけど、温暖化問題がなくなったわけではない。この戦争で最も影響を受けたのは、ロシアから天然ガスを買っていたEU諸国だ。中でもドイツは、今年中に原発を全廃すると言っている。温暖化対策をリードしてきた西欧の国が、2030年に向けてどうエネルギーミックスを考え直すのか注目している。

原発の再評価はいつに 参院選まで音無しか

――電力業界としては、この機会に原子力の役割が再認識されることを期待していると思う。

電力 産経論説委員の井伊重之さんがコラムで「原発の緊急稼働を検討せよ」と書いてくれた。全くその通りだと思っている。だけど、まだ業界としてそれを言い出せる状況にない。

ガス エネルギー基本計画策定のときに、原発の役割拡大で盛んに活動していた自民党の議員が今回はおとなしい。自民党にとって最大の課題は7月の参議院選。これに勝てば、次の衆議院選まで「黄金の3年」がくる。だから7月までは、音無しの構えを決め込んでいる。だけど選挙が終われば、再稼働や運転期間延長に向けて一気に動き出すだろう。

――「動かざること山のごとし、はやきこと風のごとし」。武田信玄の戦術みたいだな。

【電力】まず「脱ロシア」 その後の「脱炭素」


【業界スクランブル/電力】

 突然のウクライナ侵攻開始から1週間余り後の3月4日、岸田文雄首相、山口那津男公明党代表と会談した玉木雄一郎国民民主党代表は、ガソリン価格抑制のためのいわゆるトリガー条項発動に加え、原発の再稼働を含めたエネルギー政策の検討を求めたと報じられた。

自民党の高市早苗政調会長はこれについて、「安全が確認された原発を再稼働するのは従来からの方針だ」とテレビ番組でコメントしていたが、それにとどまらず、稼働できる原発は稼働させ、新たな安全基準への対応は稼働と並行して進めればよしとする方向転換をすべき地合いに来ていると感じる。

今後ロシアのウクライナ侵攻がどのような経過をたどるにせよ、痛みを甘受してでも、脱ロシアを進めることを国際社会は求められよう。一方的な侵略を許してしまう選択肢は国際秩序維持の観点からあり得ない。世界の脱炭素化をリードしてきた欧州も優先順位が変わっている。

脱ロシアの痛みは化石燃料の国際的な高騰と供給制約の形で、少なくとも数年継続するであろう。その後には、脱炭素の痛みが控えている。言うまでもなく、原子力再稼働と再エネの推進はどちらの「脱」にも有効だが、道はますます狭くなっている。

しかるに日本では、この10年ほどのエネルギー政策の迷走で、再稼働は遅々として進まず、賦課金の負担が年間3兆円を超えても再エネのFIT卒業も見えない。このような中で原子力か再エネかのイデオロギー的二項対立は不毛だ。どちらも本腰を入れて取りに行く必要がある。

昔から続いている深夜のテレビ討論番組が先日脱炭素化をテーマに取り上げた。司会者がまさにこの二項対立に頭が凝り固まっていて痛かった。名物司会者と言われた人だが、もう潮時だろうと思った。(U)

銅の需給バランスに陰り 過剰なエネルギー消費の見直しを


【リレーコラム】新井 智/パンパシフィック・カッパー代表取締役副社長

 非鉄金属の製錬メーカーへ入社以来40年近く銅と関わっている。「電気」を効率的に伝導する役割を担う銅について考えてみたい。

銅の世界生産量は年間約2400万tと推定される。資源は偏在しており、チリ、ペルーなどの南米地域で約4割を占める。粗鉱中の銅品位は1%以下であり、2400万tの銅を作るために年間30億t以上の鉱石を掘り出している計算となる。また、開発環境が整っている地域での資源残存量は減少している。今後は高地、極地、紛争地への資源依存が大きくなりそうである。SDGs(持続可能な開発目標)が義務化されつつある中、新規の資源開発はハードルが高くなるだろう。

一方、消費は送電線用途、建物内配線・インフラ用途がそれぞれ28%、通信機器・電気製品用途が20%、鉄道・自動車など輸送関連用途が10%程度と推測。世界的な電気の普及に伴って、各家庭、オフィス、工場などの送電線需要は成長が続いている。最近はデジタル技術の進展、生活水準の向上に伴って通信機器・電気製品用途、ビル・住宅用配線用途が増加している。各住宅に複数のエアコン設置、各人が複数台持ちの携帯電話、パソコン、オール電化住宅、高層ビルのエレベーターなど、便利で快適な生活のため、過去20年間で銅の世界消費量は約1・6倍になった。

銅の消費増加トレンドに変化なし

今後は内燃機関から電気動力への置き換えが進んでいく。発電場所からの送電、蓄電、モーター、電子制御装置と銅の活躍する場は増加しそうである。自動車1台当たりの銅使用量が50㎏増加すると、世界の年間自動車生産量が1億台としても500万tの銅消費増となる。新興国を中心とした生活水準の向上は続くため、消費増加トレンドに変化はないようだ。資源開発の困難化を考えると、将来の銅需給バランスは不安定になる可能性がある。リサイクル比率の向上、製品技術高度化による省銅化、代替素材研究など、供給面での取り組みは急速に進んでいるが、それだけでは心もとない。

この傾向は銅に限らず、エネルギーについてもCO2削減目標の中、増大する電力需要を賄う方策についての議論がマスコミをにぎわせている。環境負荷を軽減するために再生可能エネルギーの整備を進めることも大切であるが、過剰なエネルギー消費を見直すことも肝要ではないか。街中にあふれている24時間営業の店はこんなに必要なのか。EV(電気自動車)が大型でラグジュアリーである必要はあるのか。昭和のオヤジとしては大いに気になる。

あらい・さとし 1983年日本鉱業(現JX金属)入社。入社以来、営業部門に在籍して銅、鉛・亜鉛、環境リサイクル、機能材料部門に従事。2017年からPPC執行役員、21年から現職。

※次回は飯野海運常務執行役員の小薗江隆一さんです。

【マーケット情報/4月22日】原油下落、需要後退の見通し


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月14日から22日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需要後退の見通しにより、売りが優勢に転じた。特に、米国のWTI先物と北海原油の指標となるブレント先物は22日時点で、それぞれ前週比4.88ドルと5.05ドルの急落となった。

中国は引き続き、上海など複数の地域でロックダウンを導入している。上海では、工場の再稼働など一部経済活動の規制を緩和する計画だが、ロックダウン全面解除の見通しは立っていない。経済の冷え込みにともない、石油需要が後退するとの見方が一段と強まった。また、同国における製油所の稼働率低下も、需要の弱まりに拍車をかけている。定修や、ロックダウンおよび石油価格高騰が背景にある。

加えて、国際通貨基金は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、今年と来年の経済成長見通しを下方修正。石油需要が落ち込むとの見方がさらに広がり、価格の弱材料となった。

また、米国が、戦略備蓄3,000万バレル全量の販売契約を締結したとの発表も、需給を緩める一因となった。

他方、ドイツは、年末までにロシアからの原油輸入を完全に停止すると表明。加えて、米国の週間在庫は減少した。ただ、こうした供給逼迫の要因は、価格の上方圧力とはならなかった。

【4月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=102.07ドル(前週比4.88ドル安)、ブレント先物(ICE)=106.65ドル(前週比5.05ドル安)、オマーン先物(DME)=104.97ドル(前週比0.39ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.13ドル(前週比0.41ドル安)

【需要家】製造業の死活問題 エネルギー危機に備えよ


【業界スクランブル/需要家】

気候変動対策で脱石炭を進めてきたドイツは、一次エネルギー供給の2割強を占める天然ガスの過半をロシアからの輸入に依存している。ロシアによるウクライナ侵攻に伴うその途絶は、社会経済に深刻な打撃を与える懸念がある。

そんな中でドイツは、昨年末に稼働中の6基の原発のうち3基を休止させ、本年末に残る3基を休止し脱原発を完了させる計画だ。脱原発を党是としてきた緑の党出身のハーベック経済気候保護大臣は、ウクライナ侵攻を受けて「原発稼働延長についてイデオロギーで否定はしない。タブーはない」といったん述べたものの、その後さまざまな制約があり稼働延長は「推奨できない」と表明。あらゆる代替策が模索されているようだ。

片や日本は、電力の約4割を輸入LNGで賄い、その約8%が長期契約で供給されるロシア産LNGである。これが経済制裁によって途絶すれば、たちまち備蓄の少ないLNGの不足をもたらす。他の供給地から調達するにしても、歴史的な高騰を続けているスポット価格での調達を余儀なくされ、ガス代や電気料金を押し上げることは間違いない。石油や石炭などの代替燃料も、昨年来の高騰が続く中、ロシアの侵攻により歴史的な値上がりを見せ、エネルギーインフレは不可避な情勢といえる。これは日本のエネルギー多消費産業にとっても、死活問題となる深刻な事態である。

緊急事態に安価で安定的なエネルギーを大規模に供給できる当面唯一の代替手段は、休止中の二十余基の原発である。一次エネルギー供給の85%を輸入化石燃料に依存し、天然ガス、石油、石炭をロシアから輸入している日本も、安全基準を満たした原発の一刻も早い再稼働を進めないと、深刻なエネルギー危機に直面しかねない。(M)

4号機建屋を大きく破壊 すさまじい水素の爆発威力


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.13】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一事故での海外の関心は、当初燃料を取り出したのに爆発した4号機にあった。

爆発原因が3号機からの水素流入と分かって、海外の不安は収まった

 4号機の爆発は、3号機の水素が漏れ込んで起きた。この事実は今でこそ有名だが、原因が分かるまでは「日本は真実を伝えない」と、世界中から苦情がきた。

事故当時、4号機は原子炉を停止して燃料は貯蔵プールで保管していた。原子力発電所の爆発は、それだけで大ニュースだが、世界を震撼させたのは米国の過剰な懸念にあった。米国はこう考えた。地震で燃料プールが壊れ、水が流出して保管中の燃料棒が溶融し、水素爆発が起きて放射能が漏れ出たと。水のない、裸のプールからの放射能放出となれば、チェルノブイリと同じだ。米国は在日米国人の80㎞ 圏内への立ち入りを禁止し、トモダチ作戦の開始を控えた。TMIの避難騒ぎも同じだが、心配による風評が原子力事故を大騒動に仕立てる。

米国が震えれば世界も震える。英国を除いて、東京駐在の各国外交官やマスコミ記者はわれ勝ちに日本を脱出した。民主党政府もこのうわさを信じて、自衛隊ヘリに海水散布を命じた。家族を外国に避難させた有名議員もいた。

だが、4号機の燃料プールは壊れていなかった。水も十分にあった。調査をすれば直ぐに分かったことだが、調査なしの行動は、全てが無用で、無駄であった。

私事になるが、僕は事故前日の3月10日、福島第一の見学で⒋号機プールを見ている。事故後の3月16日、自衛隊ヘリが天井の壊れた隙間から青い水のあるプールを撮影した映像をテレビで見た。3月23日、ワシントンに行きこの話を原子力規制委員会(NRC)や原子力エネルギー協会(NEI)にしたが、既知のヤッコ委員長を除いて多くは半信半疑で、ではなぜ⒋号機は爆発したのかと、返事のできない逆襲に遭った。当時の世界の関心は、1~3号機よりも4号機にあった。

水素はなぜ流入したか スタックの設計に原因

4号機への水素流入は、3、4号機の建屋排気を1本のスタック(排気筒)から放出する設計に原因があった。排気はスタックの底で合流して大気に放出されていたが、事故当時は停電でファンが停止したため、3号機の排気ガスがスタックの底から4号機建屋に流入して、中の水素が爆発したのだ。

この事実が判明したのが8月末だ。4号機の排気フィルターの汚染が通常とは逆で、出口側が入口側より高いことを測定で見つけたことによる。水素ガスの逆流を証明する動かぬ証拠で、世界はこれで安堵した。発見職員の功績は、昔なら金鵄勲章ものだ。「まだ言い張るのか」との僕への外国メールも9月末に止まった。

福島第一の事故跡を見学できたのは12月、寒い日だった。発電所付近の放射線はまだ高く、バスでの見学だった。構内には津波のつめ跡が点在し、発電所外壁と垂直配管の間には流された自家用車が挟まり、宙づりになっていた。

海水ポンプ近くの岸壁と4号機の入り口では下車を許された。海水ポンプは津波をかぶって停止していた。4号機建屋の放射線量は微量だが、内部の破壊は複雑で、多岐にわたっていた。子どものころの空爆で経験した(500㎏爆弾と聞いた)、家を壊し地面に大穴を開ける単純な爆破とは大違い。水素爆発は複雑ですさまじい。

爆発は4階で始まったらしい。4階の床には大きな球形の浅いへこみの爆心点の跡が明確に残っていた。破壊力の強い水素爆発が、爆心点の痕跡を床に残すとは珍しいと思った。

爆心点の近傍にあった排気ダクトに、燃料プール上面の吸入口がつながっていた。この吸入口にかぶせたゴミよけのネットが、爆発後は吸気とは逆向きに、外側に向かって突き出していたという。

これらの所見から、爆発の経過は次のように説明されている。最初に4階のダクトの中で、水素火災が発生した。この火災で、吸入口のネットが外側に膨らんだ。火災の炎はダクト排気口から外に出て、4階の天井にたまっていた水素ガスに着火して、小さな爆発を起した。その痕跡が前述の爆心跡という。

この小爆発は5階に伝播し、広いフロアの天井にたまっていた大量の水素ガスを爆発させた。5階の壁のほぼ全てが外側に向かって倒れていた事実から見て、爆発の力は肩を突くように、壁の上部を強く押したと思われる。壁がなくなった5階フロアは屋上と変わり、見学では隣の3号機の破壊が目の前に見えた。

5階から1階の出口までの帰路は、破壊跡を避けた曲折の仮設通路で、両手両足を使って体操さながらの全身運動だった。現場に居た時間は30分くらいだったろうか、受けた放射線量は0・01mSvほどの軽微なものだったが、その大部分が5階屋上で浴びた3号機の放射線との話であった。この程度の汚染であれば、4号機の解体工事は早期に可能と思った。

僕のSPERT(Special Power Execurtion Test)留学の昔、日本人が居ると聞いて出張で来た老研究者が訪ねてくれた。爆発についての経験談を話してくれた最後に、「最も恐い水素爆発は横に飛ぶ」と話した。なぜかと問うと、「知らない。水素は怖いから直接触っていない」と笑った。

その言葉通りに、テレビで見た1号機爆発の映像は、5階の天井に沿って横向きに火を吹いた。軽い水素は天井の上部に集まって濃くなり爆発性ガスとなるので、爆発は横に走るのであろう。

【再エネ】最大限の導入 その近道は


【業界スクランブル/再エネ】

 ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー安全保障の問題を改めて浮き彫りにした。再生可能エネルギーを巡っては、脱炭素などの観点から再エネシフトを一層加速させるべきとの声がある一方で、現実路線として原子力も含めエネルギー源、供給先などの多様化を求める声が大勢を占めている。再エネ最大限導入方針は踏襲しつつも、取り組みの後退は避けられないとの見方が一般的だ。

そうした中、最大限導入のためには地域共生に向けた制度整備が鍵を握るとみる向きもある。菅義偉政権の時、河野太郎規制改革担当相や小泉進次郎環境相らの下で太陽光発電や風力発電、地熱発電などの設置促進に向け、環境アセス法や自然公園法、農地法、森林法などの規制が相次ぎ緩和された。その全てを否定するものではないが、これら規制改革において地域共生の取り組みがなおざりにされたために、地域の再エネに対する警戒感、反発を強めた感は否めない。

いま注目されているのが、環境省が地球温暖化対策推進法を改正して創設した「地域脱炭素化促進事業制度」だ。4月1日付けで施行される。

自治体は、国や都道府県が定めた基準を踏まえて「地域脱炭素化促進区域」を設定し、「地方公共団体実行計画」を策定。市町村が認定した民間事業者の事業計画を、国や自治体が手続きの合理化、アセス特例措置、財政措置などにより後押ししていく仕組みだ。今後、制度がうまく回るのかも含めて、行方が注目を集めている。

ただ、再エネの立地は同法に基づくものだけではない。結局は環境アセス法や電気事業法、保安規制など、しっかりとした法規制に基づき地元住民らと地域共生の関係を構築し、設備などの適正な立地を促していくことが近道と思われる。(O)

高騰対策の補助金上限引き上げへ 政府の次なる打ち手の評価


【多事争論】話題:石油価格高騰対策

石油元売りへの補助金上限の引き上げに続き、トリガー条項解除も検討され始めた。

この政府の対応について、有識者や石油業界関係者はどう反応しているのか。

〈 補助金方式の実効性と公平性に疑問 政府に求められる「根治療法」 〉

視点A:橘川武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授

3月10日から、石油製品価格の激変緩和策の一環として、ガソリン価格の上昇を抑える補助金の上限が、1ℓ当たり5円から25円へ、大幅に引き上げられた。この補助金が昨年12月に始まった当初から、その実効性と公平性には疑問が持たれていたが、これらの懸念は、補助金増額によって一層強まった形だ。

補助金は、ガソリンの小売価格の全国平均が1ℓ当たり170円を超えた場合、石油元売り会社などに支給される。ガソリンだけでなく、軽油や灯油、重油も対象とし、政府は4油種共に卸価格の上昇を抑制するよう元売りに要請する。その後、元売りの卸価格と販売量の実績を確認した上で、補助金を支給するという仕組みだ。

実効性に関してまず問題視されているのは、元売りへの支給という「迂回路」を通すため、補助金の支給幅通りに末端の小売価格が抑制されるか不確実だという点だ。支給幅が5円だった時期にも、卸価格はその通り抑えられたものの、小売価格の抑制額がそれを下回ったり、抑制そのものに時間がかかったりするケースが全国的に数多く観察された。

何よりも補助金の実効性を危うくしているのは、世界的に原油価格が高騰しているという事実である。原油価格は、新型コロナ禍による規模縮小からの経済の回復による石油需要の拡大、脱炭素への流れの高まりによる石油上流部門への投資の低迷、産油国の増産への消極的な姿勢などの影響で、2020年半ばから上昇傾向をたどるようになった。それが22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、文字通り「急騰」の様相を呈するに至ったのである。本稿を執筆している前日の3月7日には、ロンドン市場で北海ブレント原油先物の期近物が1バレル139ドルにまで上昇した。

要するに日本政府がいくら補助金を積み増しても、原油価格上昇の勢いの前には「焼け石に水」なのである。この点が、補助金の実効性に疑問が生じる最大の要因となっている。

元売りへの補助では事足りず 石油危機と同様の危機感を

公平性に関しても問題がある。元売りへの補助金支給という迂回路方式では、卸価格が一律に抑制されても、最終的な小売価格への反映には差異が生じる。地域や販路によって小売価格の抑制効果に違いができるのは避けられないのである。

より深刻な不公平性もある。迂回路方式では、ガソリン・軽油・灯油・重油の供給が全て石油元売り会社によって担われているという前提で、元売りへ補助金を支給すれば「事足れり」と考えているわけだ。しかし、これは必ずしも実態とは合致していない。日本には、数社であるが重油の生産・販売を行うナフテン系潤滑油の中堅メーカーが存在する。現在、市場で販売されている潤滑油の多くは、中東産などの原油から精製されるパラフィン系ベースオイルを使用しているが、一部ではベネズエラ・米国・オーストラリア・ロシア産原油などから精製されるナフテン系ベースオイルも用いている。ナフテン系潤滑油は独特の性状を有し、市場で根強い人気がある。

問題はこれらのナフテン系潤滑油メーカーが、重油の供給元でありながら石油元売りではないという理由で、今回の補助金支給対象から外されていることである。小売市場では、補助金を受けたメーカーが供給した重油か、補助金を受けていないメーカーからの供給かについて区別しないから、補助金相当分の価格抑制圧力が全ての重油にかかることになる。補助金を受けていないこれらのメーカーは、この圧力をそのまま自社負担で吸収するしかない状況に追い込まれ、経営上重大な損失が生じている。しかも補助金の増額によって、この損失は甚大な規模になりつつある。これが、メディアがあまり報じていない、今回の補助金支給が持つ不公平性の別の側面である。

石油製品価格の激変緩和を公平に進めるためには、トリガー条項の凍結を解除し、ガソリン税の上乗せ分1ℓ当たり25・1円、および軽油引取税の上乗せ分が同17・1円の課税を停止する「直接方式」を実施することが望ましい。ただしこの方式にも限界がある。消費者や事業者を苦しめる灯油や重油の値上がりに対しては効果を発揮しないからである。

このように見てくると、そもそも石油製品価格の激変緩和策という「対症療法」では、問題を解決できないことは火を見るよりも明らかである。ロシアのウクライナ侵攻以前から進む原油価格の高騰に対しては、1970年代に石油危機に直面したときと同様の危機感を持って、エネルギーに関わる法体系の抜本的改定を含む「根治療法」で臨む必要があるだろう。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東大大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2020年4月から現職。

【火力】長期の電源投資 議論の迷走を懸念


【業界スクランブル/火力】

 昨年後半から長期の電源投資を促す仕組みの検討が始まったが、ここにきて議論が迷走しているようだ。そもそもこの検討は、中長期の費用回収の予見性を高めることで、安定電源ではあるが建設期間が長く投資額が大きい大型電源への投資を促し、供給力の安定確保を図ろうとするものだ。

ところが、事務局の提案によると、入札時に他市場収益をゼロとして応札させ、後で一部を還付させるのがシンプルな設計だとしているが、その場合「固定費負担の軽いものほどオークションで有利」であるとも言っており、その結論では、いつの間にか当初の方向性から見て真逆になってしまっている。

このように、はたから見ていておかしな論旨がいくつか見受けられるが、そうなる原因は、実態と合っていない事柄を議論の前提として置いているためであると思われる。その主なものを指摘したい。

一つ目は、「シンプル」とか「公平」の名の下に、性能がかけ離れている各電源種を同一に扱っていること。つまり、安定電源でかつ調整力にもなる火力や一部水力、天候に左右される太陽光や風力、充電しなければ稼働できない蓄電池や揚水、この3種を特性も考慮せず、ごちゃ混ぜに扱おうというのは、あまりに乱暴というものだ。

もう一つは、可変費や運転維持費などの定義が曖昧な点。説明によると可変費=燃料費で、運転維持費は固定費に割り振られているようだが、修繕費などを含む運転維持費は、その時々の設備の運用状況に応じ変化し続けるものであり、それを応札時点で見通しておくことなど現実的には不可能だ。

他にも突っ込みどころが散見される。地に足を着けた議論を意識しないと、さらに迷路に迷い込むことになりそうだ。(S)

【原子力】ウクライナ侵攻 割れる意見


【業界スクランブル/原子力】

原子力発電についての議論が高まっている。ロシア軍のウクライナ侵攻に伴ったもので、再稼働やリプレースなどについて肯定的、否定的な二つの意見がある。SNSなどで熱い論戦が交わされている。

まず肯定的な意見。侵攻により西側諸国がロシア産の原油・天然ガスの輸入を止めたことで、既に高騰していた価格の上昇に拍車が掛かった。政府は備蓄原油の放出などの手を打ったが、市場価格自体を抑えることは不可能。石油元売りへの補助金投入も焼け石に水だ。市民生活や産業界がエネルギー価格の上昇に悲鳴を上げつつある中、国が唯一打てる策は原発の再稼働となる。

さらに、ロシアが国際ルールを破って侵攻したことで、完全な「商品」だった原油、天然ガスなどが「戦略物質」になったことを挙げる。「ウクライナの次は台湾」との見方があり、化石燃料などの供給途絶は現実にあり得る。エネルギー安全保障の点から、供給源がオーストラリア、カナダなど信頼できる国で、長期間の燃料備蓄が容易な原発の役割が欠かせなくなる―という主張だ。

一方、否定的な意見。ウクライナへ侵攻したロシア軍は、チェルノブイリ原発、ザポロジエ原発を制圧した。ロシア側の真意は測りかねるが、ミサイル攻撃や砲撃で原子炉圧力容器や使用済み燃料などを破壊、放射性物質を周囲にまき散らすこともあり得る。

最近、北朝鮮が頻繁に弾道ミサイルを発射している。核弾頭を装着しなくても、もし日本の原発が狙われたら、被害は福島第一原発事故の規模では済まない―と訴える。

どちらの主張にも、それぞれ説得力がある。今、世論調査を行ったら、国民はどちらの説を支持するだろうか。(S)

駿府城・静岡市の特性を生かす 官学民連携で新たな脱炭素モデルへ


【羅針盤(第1回)】中井俊裕/カーボンニュートラル・ラボ代表取締役/静岡大学客員教授

官学民連携を通じて脱炭素型の街づくりを目指す静岡市。

江戸・銀座が手本にしたという駿府城下町ならではの取り組みを紹介する。

 カーボンニュートラル社会の実現に向け、エネルギー分野の技術開発のみならず制度設計、金融システムなどあらゆる分野で世界が動き出している。

新聞紙面でも連日のようにESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)といった言葉があふれ返り、これまで環境分野の問題であった気候変動が、サステナブルファイナンス、グリーンボンドなどをはじめとした経済の世界に移ってきていることが実感できる。

一方で、いまだに、企業や個人において気候変動対策はいわゆるコストであり、企業においては利益を圧迫させるものと捉えられている。家庭においては消費財支出の増加であり、車を例にとると、通常のガソリン車よりも高額なハイブリット車を購入しなければならないといった観点で認識されている。特に企業においては、環境投資の評価の仕方などが、エネルギーコストをいかに削減できたかによって評価されるケースが多いのではないだろうか。

さらに、企業の社会的責任(CRS)の観点においては、寄付と同じ位置付けになっているようにも感じている。しかしながら、カーボンニュートラルという新しい社会システムへの移行を目指すには、この考え方を転換していくことが必要で、それを達成した企業こそが次代型企業として認められていくのだろう。

地球規模というくせ者 考え方の転換が重要に

では、どのように考え方を転換すべきなのか。その答えの一つがCSV経営である。CSVとは「Creating Shared Value」の略称で「共通価値の創造」という意味。米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した概念である。ポーター氏は社会価値によって経済価値を創造することで、ブルーオーシャン市場を創り上げることにもなり、持続可能な事業モデルにもなると説明している。

これをカーボンニュートラルに置き換えると、脱炭素の価値をいち早く見極めて新たな取り組みを行い、地域に対して社会価値を還元する。結果として、顧客や投資家、社員などのステークホルダーらの支持が広がり、持続可能な企業に発展していくことができると考えられる。

ところが、「現実的にカーボンニュートラルへの対応にどのように手をつけるか」という設問に対しては、なかなか答えが見いだせないことも事実である。その原因の一つとして、カーボンニュートラルという問題の設定が地球規模であり、かつ2050年をゴールにするという長期の時間軸設定であることが挙げられる。

この地球規模というところがくせ者であり、問題を遠ざけているような印象を受ける。温暖化ガスの排出によって気候変動に至る過程というのは、個々のミクロの現象が相互に作用し、結果として大きなマクロ的な現象が生み出されることに間違いない。ところが、精神的にも自分だけが環境に良いことをしても何も変わらないのではないかといった、人ごとになってしまうことが課題として挙げられる。

時間軸の観点においても、「今、行動を起こす必要があるのか」といった、人間特有の先延ばしをする傾向もマイナスに働いているのではないだろうか。そして、なかなか気候変動対策が進まない理由の一つとして、主導する主体が不鮮明であることも挙げられる。

新たなプロジェクト発足 最新技術を用いて実践へ

そこで、中井俊裕カーボンニュートラル・ラボ(NCL)では、「カーボンニュートラル城下町」を目指すべく、静岡市の大手事業者、地域の大学、自治体、エネルギー企業との連携を通じて、段階を経ながら街づくりを行っていくことが目標だ。

カーボンニュートラル城下町形成のための連携

静岡市内の主要企業との関わりについては、各企業における環境問題に対応するための組織のあり方やカーボンニュートラルを中期計画などの事業経営の中にいかに落とし込むのか、そして、どのように実践していくべきか意見交換を行い、さらには社員への環境教育などを実施していく。

静岡経済研究所が22年2月に発表した県内企業を対象としたアンケートの調査結果においても、8割以上の企業がカーボンニュートラルへの対応について必要性を感じているとの結果であった。

その8割の内訳を見ると、2割は積極派、その他の6割は必要が生じれば対応せざるを得ないといった消極派であり、まだまだ「やらされ感」を感じている企業が多いことが分かった。従って、先行的にいくつかの企業とCSVの実践を試み、まずは地域の事業者の意識の転換を図ることが重要だ。

次に、静岡大学との連携も今後が楽しみな分野である。静岡大学内でもカーボンニュートラルが未来の社会デザインをする上で、とても重要な要素だと位置付けている。現在、大学内にすでに蓄積されている研究の成果などを、地域のカーボンニュートラル推進に役立てるために、NCLが率先して地域との橋渡しを行い、静岡大学の知を存分に生かすことができるフィールド開発を進めている。

自治体との関係づりでは静岡県の県議会に組織されている「脱炭素社会推進特別委員会」の参考人として、特別委員会に所属する議員と意見交換を行っている。そこでは、各企業の現場の声を県議会に届けつつ、相互の意思疎通を図れるような役割を果たしていきたい。残念ながら、特別委員会は1年間という期限があるため、23年度からは少し名称などは変更があるものの、基本的な関係は継続していく。

最後に、最もカーボンニュートラル社会実現への期待が大きい「地域のエネルギー企業」とも意見交換を通じ、最新の技術を用いたプロジェクトの実践などを推進していきたい。そして、このようなネットワークが静岡に生まれることで、江戸の銀座が駿府城下町を手本にしたように、静岡発全国へという流れをつくっていくことを目標に掲げている。

なかい・としひろ 1986年宇都宮大学工学部卒、静岡ガス入社。静岡ガス&パワー社長などを経て、2022年3月退社。中井俊裕カーボンニュートラル・ラボを設立し現在に至る。