【エネルギービジネスのリーダー達】埼玉浩史/クリーンパワーアソシエイツ代表取締役
エネルギー投資ファンドや新電力経営で名をはせた埼玉浩史氏が、新ビジネスを始動させた。
脱炭素に向けた急ピッチな変革に企業が対応できるよう、経験を生かした提案を行っていく。

1988年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2009年Fパワー設立。18年代表取締役会長兼社長。21年4月にクリーンパワーアソシエイツを設立し現職。
脱炭素化に向けて経済や生活様式が目まぐるしく変革する時代に突入している。「これから世界は大変革時代を迎える。企業は現在の延長線上での考えにとらわれず、不連続な世界へ対処していく準備が不可欠」。こうした信念から、これまで金融、エネルギー業界に長く身を置いてきた埼玉浩史氏が、新会社「クリーンパワーアソシエイツ(CPA)」を設立した。準備期間を経て今春から本格始動している。「脱炭素」、そして「エクスポネンシャル・テクノロジー」をキーワードに、半歩先を行くエネルギービジネスを提案していく考えだ。
一つ目のキーワード・脱炭素の重要性は言わずもがなだが、現状では再生可能エネルギーに代表されるグリーン技術に偏重する傾向にある。本来目指すべき脱炭素社会はグリーン技術の追求だけでは到達し得ないはずだが、原子力や化石燃料の有効利用も包含したビジネス展開はあまり見当たらない。埼玉氏がこれまで蓄積してきたノウハウを活用し、企業に対して脱炭素にフォーカスした提案を行っていく余地があるとみている。
そのためには二つ目のキーワード「エクスポネンシャル・テクノロジー」が欠かせないと言う。VR(バーチャルリアリティー)やAI、ビッグデータ分析、自動運転、シェアリングエコノミーなど、今後の社会変革を担う技術を指す。
現状の延長線上では対応できず パッチワーク対応から脱出を
「現在は、馬車から蒸気自動車、そしてエンジン車へと置換した時と同様の局面にある。自動運転やシェアリングが普及し、自動車製造だけでは生き残れない時代があと数年で到来する。今後、オセロをひっくり返すようなインパクトがあちこちで起きる」(埼玉氏)
しかし変革への対応の遅れは随所で見られ、エネルギー業界も例外ではない。半世紀前に電力・都市ガス会社がLNG導入を決断したような先見の明が、まさに今求められているという。
では、エネルギーのビジネスチャンスはどんなところに芽生えていくのか。
一例として、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用し、特定の再エネ電気を需要家間で最適融通するといったモデルが徐々に試行されているが、これが定着していくと系統の役割もおのずと変わってくる。他方、少子高齢化で人口が都市部に一層集中する中、地方に偏在する再エネの地産地消化だけでは安定供給は確保できない。例えば、データセンターの電力需要には原子力を活用するなど、家庭用の供給の在り方とは別に考える必要があるのではないか。それに即した発電事業や燃料調達の在り方はどうあるべきか―。こうした思考を巡らせると、過去からの延長戦略の限界が見えてくる。
埼玉氏は「未来からバックキャストし、どういった取り組みや政策に注力すべきか、それを国民でどう負担するかを詰めなければならない。今のパッチワーク的な対応からの脱出が第一歩となる」と強調。海図なき時代には課題〝設定〟能力が重要になるとの考えに立ち、「業界に寄り添うだけでなく、半歩先を見通してお手伝いすることが当社の目的だ」と続ける。
新電力業界はむしろ好機 自由化さらに進展へ
現在の課題にフォーカスすると、電力調達価格の振れ幅が拡大し、新電力の撤退・倒産が加速、需要家が最終保障供給に流れ込む事態が多発している。かつて新電力経営で困難に直面した埼玉氏。現状は、当時経験したことがここ数年で広範囲に鮮明化してきており、その時の知見は電力自由化が新たなステージに進む上で意味のあるものになり得ると語る。むしろ今は新電力にとって苦境ではなく、新しい発想の提案ができる好機と捉える。
事業継続を選択した事業者は、調達価格のリスクヘッジに頭を悩ませているが、「市場連動メニューの導入を選択するなら、今後先物でヘッジする手段が得られ、フォワードカーブをベースに新電力自らの判断でリスクとリターンを取れるようになる」。金融界では当たり前のこうした仕組みを、電力業界にも導入することが欠かせないと強調する。
需要家側も、価格変動を受け入れるのか、少し高値でも定額を望むのかといった固定と変動の選択肢を選ぶことが可能になる。「もう、総括原価方式に戻ることはない。供給側だけでなく需要家側ともリスクとリターンをシェアし、自由市場化をさらに進めるための制度を考えなければならない」と訴える。
新会社経営に当たっての心構えを聞くと、「時中」との答えが返ってきた。「これだけの大変革時代には『時中』、つまりタイミングとポジションを常に意識し最適な対応を取ることが肝要。そして20~30代の若い世代とともに、激動期のビジネスに参戦できたら面白い」。新たなフィールドで、再びエネルギー業界の荒波に乗り出そうとする姿勢が印象的だ。


