【論説室の窓】五郎丸 健一/朝日新聞 論説委員
繰り返される電力の供給不安を乗り切るには、発電側だけでなく、使う側の対策も欠かせない。
「節電ポイント」では政府が前面に出ているが、電力事業者が主体的に取り組むべきだ。
夏や冬の電力の供給不安が、世の中の一大関心事になっている。記録的な猛暑に見舞われた6月下旬には、東京電力管内で「需給ひっ迫注意報」が連日出て、大きなニュースとなった。この原稿を書いている8月上旬の時点では、幸い深刻な事態は避けられているが、気は抜けない。来年1~2月は各地で供給余力が夏よりさらに乏しくなる見通しだ。「本番」への備えを急がねばならない。
6月のひっ迫は、古い火力発電と広域融通のフル活用や、節電の呼びかけで乗り切った。ただ、節電に対しては「電気を使いたい時に使えないとは、日本は先進国なのか」といった批判がネット上で散見された。また、近年の電力システム改革や、再生可能エネルギーを増やしてきた政策を「大失敗」と決めつける言説や、原発の積極活用を求める中で安全規制や再稼働に必要な手続きを軽んじるかのような主張も見受けられる。
だが、いま求められるのは短絡的な「答え」に飛びつくのではなく、需給両面を見渡して問題点や解決策を冷静に見定めることだ。電力不足が起きやすい背景には、多くの要因がある。目先でやれることと、中長期で取り組むことを整理し、時間軸を意識しながら対処していくしかない。
供給側の構造要因で大きいのは火力の休廃止の増加だ。電力システム改革で供給体制の効率化が進んだが、大手が余分な電源を減らすことにもつながった。太陽光の拡大に伴う火力の稼働率低下も、この流れを加速させた。
以前から指摘されてきた問題で、本格的な対策が急務だ。社会的に適正な供給余力の水準と費用負担の在り方を詰めた上で、予備電源の維持や新規の整備を促す仕組みを整える必要がある。経済産業省は、将来の発電能力を取引する容量市場の拡充を検討中で、これが機能するかが焦点となる。
供給側だけではコスト過大に 即効性ある需要側の対策
足元の動きで特筆すべきは、これまで遅れていた需要をならす取り組みに光が当たっている点だ。従来は供給側の対策に力点が置かれてきたが、ひっ迫時のピーク需要を満たすのに十分な供給力を確保するやり方一辺倒では、非効率な電源が増え、社会全体のコストがいたずらに膨らむ弊害がある。
緊急時に即効性があるのは需要側への働きかけであり、事業者や政府による節電要請がしばしば行われてきた。ただ、「お願い」が繰り返されると、「なれ」が生じて効果は弱まることが、経済学者の実証研究で分かっている。
依田高典・京都大教授や田中誠・政策研究大学院大学教授らが、2012年度に行った興味深い社会実験がある。翌日のピーク時間帯に電気の使用を控える要請を繰り返し受けた世帯では、最初は8%の節電効果があったが、すぐに効果は急減した。一方、ピーク時間帯に大幅に値上げする変動型料金を導入した世帯では、17%の節電効果が持続した。
また、依田教授らが最近行った別の実験では、以前より電力消費を減らした世帯に1kW時当たり100円の報酬を与えたところ、2・7~5・6%の節電効果が見られたという。
このように利用者の負担を変えることで消費抑制のインセンティブを与える手法はDR(デマンドレスポンス)と呼ばれる。最近は使用状況を随時把握できるスマートメーターが家庭に普及し、広く導入環境が整いつつある。
田中教授は「需要側の対策は、社会全体にメリットがあるもの。節電要請やDRの実験で得られたエビデンスは、電力会社がどんな方策をとるかや、政策を考えるのに役立てられる」と話す。
節電ポイントに尽きぬ疑問 官主導ではなく民間を中心に
対価支払い型のDRは、政府が6月に決めた需給ひっ迫対策でも柱の一つと位置づけられた。ただ、経産省の4月の調査では、DRの料金メニューを持つ小売り事業者は全体の15%にとどまる。
そこで政府が打ち出したのが、事業者が展開する節電プログラムへの補助だ。参加登録した人に2千円分、企業などには20万円分のポイントを支給する。投じる予算は1800億円にのぼる。また、節電実績に応じて事業者が出す分にも国が上乗せする方針だ。
DRを普及させる狙いは理解できるが、やり方は疑問が多い。節電ポイントは、物価高対策の一環で参院選前に突如打ち出された。実際に節電につながるかわからない登録段階で多額の公金を配ることには「バラマキ」との批判があり、当の電力業界からも「愚策」との声が漏れ聞こえる。

お金を配るなら、節電量に応じて出す部分を手厚くする方が効果的だし、そもそも政府が前面に出ていること自体、違和感が強い。事業者側には、ピーク需要がならされれば、ひっ迫時の高い供給コストを抑えられるメリットがある。官主導ではなく、民間が中心的な役割を担うのが筋だ。
家庭への報酬額は、節電1kW時当たり5円や10円といった水準が目につくが、これで多くの人に反応してもらえるだろうか。ひっ迫時に卸市場のスポット価格が急騰すると、1kW時当たり数十円以上の「逆ざや」が発生することを踏まえれば、今の報酬は少なすぎる、という指摘が専門家から出ている。国の上乗せに多くを頼る仕組みにした場合、支援策がなくなった後に節電の機運が急速にしぼむ懸念もある。
このほか、対象がスマホを使える人に限られないか、節電量を公平に測れるのか、といった実務的な課題もある。多くの人が節電に取り組む利点を実感し、行動変容する仕組みにできるか。各事業者の知恵と本気度が問われる。
DRの普及は、利便をあまり損なわずに需給の安定や効率向上につなげられる点で、意義が大きい。関連技術も進歩しており、空調機器の自動制御などが実用化されている。脱炭素化や分散化などで電力供給と利用の形が大きく変わりつつある中、多くの企業が新しい技術と発想を取り込み、競い合いながら社会に貢献することを期待したい。

















