【地域エネルギー最前線】 岡山県 真庭市
国内でバイオマス利活用の先駆者である真庭市が、エネルギー自給率100%のビジョンを掲げた。
発電所増設や地域新電力設立など、エネルギーも資金も地域内循環率をできる限り高める構想だ。
エネルギー業界で木質バイオマスのパイオニアといえば、岡山県真庭市は真っ先に思い浮かぶ地域の一つだろう。「美作檜」で有名な日本有数の木材産業の中心地だ。交通の便は決して良くはないが、林業・木材産業活性化とエネルギー利活用のノウハウを学ぼうと、多くの人が見学に訪れる。
そのスタートは1992年までさかのぼる。全国的に林業の衰退が問題となる中、若手経営者主導で地域ビジョンを考える「21世紀の真庭塾」を立ち上げた。幹材だけでなく、未利用材の皮や枝葉なども使い切る「カスケード利用」をベースとした産業化に着手。これに行政も関わるようになり、2000年代から「バイオマスタウン真庭構想」が始まった。以降、息の長い取り組みとなり、バイオマス発電所、燃料材の集積所、チップ工場の運用などを官民連携で軌道に乗せてきた。成果が評価され、「バイオマス産業都市」や「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」など政府のさまざまなモデル地域に認定されており、22年度には新たに「脱炭素先行地域」に選出された。
発電所は運営順調 経済効果は52億円
この間、市はどのような仕組みを構築してきたのか。エネルギー利用の要となる真庭バイオマス発電所(1万kW)は、市や民間事業者、関連組合などが出資する会社が運営。市内や近隣地域の間伐材などをチップ化し、年間約11万tを利用する。「輸入材を使わないピュアな地産地消でこの規模のバイオマス発電所はほかには見当たらない」(市エネルギー政策室)と言う。地域内にはもう1カ所、民間単独で運営するバイオマス発電所(5000kW)も稼働する。
電気は全量FIT(固定価格買い取り制度)で売電し、年間売り上げは20億円強に上る。ここから逆算して燃料の単価を設定しており、平均1t当たり1万1000~2000円程度だ。材は地域の関係者が集積所に持ち込む。質の高い燃料材を多く集めるため、含水率の低いものほど価格を高く設定する。燃料購入費は約14億円程度で、一部は山林所有者に還元している。売電益や燃料調達、さらに関連施設での雇用や運搬事業なども含めると、バイオマス産業化により52億円の経済効果があったと分析されている。
このほか、一部地区の住民から生ごみを回収して液肥をつくり、農家らへの配布も進める。エネルギー利用面では、11年に建て替えた市庁舎の空調にバイオマスボイラーを導入。一部は購入電力も使うが、年間で電気代870万円程度の削減につながっている。昨今の電力高騰のあおりは避けられないものの、その影響は最小限にとどまっている。
これで歩みを止めず、今後は脱炭素先行地域の取り組みが本格化する。市は「既存のバイオマス発電所だけでエネルギー自給率は32%、ほかの再生可能エネルギーも加えると62%に達する。さらに発電所の増設や省エネの深掘りなどを図れば、自給率100%は目指せる」(同)と説明する。これは太田昇市長も公約として数年前から掲げるビジョンだ。

先行地域で発電所増設 逆風下で新電力設立も
先行地域では、公共施設の電力の脱炭素化を進めるため、1万kW級のバイオマス発電所をもう1基建設する計画だ。つまり、燃料調達量を倍増させる必要があり、これをいかに低コストで安定調達していくかが課題となる。先行地域では再エネ設備導入に際し通常より手厚い助成を受けられるため、FITは活用できない。FITなしで、材の調達面を含め電気の安定供給体制の再構築が求められる。まずは、これまで未活用だった広葉樹林のチップ化や、早生樹である柳の耕作放棄地での栽培など、さらなる掘り起こしに挑戦する。
発電事業を軌道に乗せるには、新電力設立も不可欠になる。新電力経営にとって今が厳しい状況であることは百も承知。しかし、自給率100%のためには避けて通れず、民間のアイデアも吸い上げ、電気以外のサービスを絡めた展開を模索していく。例えば熱供給の事業化や、発電所への市民出資、地域ポイントの活用といった展開が考えられる。「電気代高騰は新電力経営には向かい風だが地産地消には追い風だ。シュタットベルケのような中心的企業をどう育てるかが重要になる」(同)
木質以外では、生ごみなどの資源化施設(年間処理能力3万6000㎘、液肥生産能力8000t)の整備も進め、24年度から稼働予定だ。従来の生ごみ回収エリアを広げて液肥生産能力を拡大しつつ、メタンガスを活用したバイオガス発電で自家消費も図る。このほか太陽光や蓄電池の設置、176施設のLED(発光ダイオード)化で省エネも深掘りする。
市は、バイオマスタウンの主目的はあくまで林業・木材産業の活性化であり、エネルギー利用などは副産物だと強調する。高性能林業機械の導入支援や林道整備などとの両輪で、地産地消をどううまく進めていくかが最重要課題だ。
30年もバイオマス政策を継続できた背景には、市民の意識も大きいようだ。例えば他の地域では敬遠されがちな生ごみ処理施設も、真庭では複数地域が立地に手を挙げる。さらに高校生から80代までが参加する「脱炭素市民会議」で、市民が自分事として地域ビジョンを考える取り組みも進める。市は「中山間地域には未利用資源とチャンスがまだまだある。これまで連綿と受け継いだ成果をベースに、先行地域のチャレンジで新たな付加価値を付けていきたい」(同)と強調する。
コロナ禍の「ウッドショック」で世界的に木材価格が高騰し、国内林業がフォーカスされたが、その波も一瞬で通り過ぎた。そうした時流に左右されずに地域を発展させていこうと、パイオニアの挑戦は続く。











