【LPガス】電化や水素に注力 実質ゼロ構想続々


【業界スクランブル/LPガス】

 大きく変わろうとする事業環境を踏まえ、LPガス関連各社が中期経営計画や経営ビジョンを発表している。昨年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」、さらには30年に向けた温室効果ガスの削減目標「13年度比46%削減」をにらんだものだ。

多くの企業は、LPガス顧客宅のCO2削減、高効率ガス機器の普及拡大、住宅への太陽光設置、デジタル化など、これまでの取り組みを強化する方針。その中で日本ガスは電気とガスのハイブリッド機器に注力するとともに、ガス+電気+EVのセット販売など電化を意識した戦略を描く。その先にはニチガス版スマートシティ構想を見据えるという。

また、1958年から究極のエネルギーは「水素」として長年研究開発に取り組んできた岩谷産業は、水素事業に大きく投資する。これは時代がようやく追い付いてきたということだろうか。さらに水素事業に加えアンモニア燃料のサプライチェーン構築に向けた動きを加速させる企業もあるなど多様だが、目指す姿は総合エネルギー企業ということだろう。

一方、大手ガス機器メーカーは、「燃焼機器が全てなくなることはない」としながらも、化石一辺倒からの脱却を示唆し、「水素燃焼に対応した機器開発を進める」とするなど方向性を模索中だ。6月に改正された政府のグリーン成長戦略では、LPガスは50年時点においても約6割の需要を維持するとした上で、「グリーンLPガスの合成に係る技術開発・実証を今後10年で集中的に行うことで、30年までに合成技術を確立し、商用化を実現。50年に需要の全量をグリーンLPガスに代替することを目指す」と明記された。

しかし、今後も国民生活を支える必要不可欠なエネルギーであり、頻発する自然災害における“最後のとりで”であることに変わりはない。50年の世界ははっきりと見通せないが、30年までLPガス事業者ができることは、グリーン化技術の開発と並行して、徹底的な省エネ・省CO2や燃料転換などにより貢献していくことだろうか。(F)

創業者からのバトンタッチ 行動指針に基づく事業活動


【私の経営論】川村憲一/トラストバンク代表取締役

 当社は創業者である須永珠代の考えで作られてきた。社員が50人規模までは文鎮型の組織で、社員全員が須永の発言や行動を感じながら仕事を行ってきた。2016年ごろに100人規模の組織となり、ピラミッド型の組織に変わった。この規模であれば、トップと現場間の相互の情報伝達も迅速に行われ、事業の環境変化にも即座に対応することが可能だった。

私は19年4月に執行役員として入社し、同年10月に取締役に就任した。この頃から、さらに業容が拡大し、各々の仕事観を持った中途社員を採用していたこともあり、トラストバンクが大切にしている考え方や行動が徐々に薄まってきたように感じていた。

行動指針の創出 社員行動の軸を作る

そんなことを考え、組織開発に手を掛けようとしていたタイミングの20年1月に須永からバトンを受けた。須永はカリスマ的な経営者で、その発するビジョンに引かれて多くの社員が入社した。私もその一人である。須永が発する言葉は、行動の指針となっていた。それにより一気呵成にサービスを作ってきた。一方で、ふるさと納税の同業者が多数参入してきた時期でもあり、劇的な環境変化のスピードに対応できる組織作りが急務となっていた。トップからの意思決定を待つのではなく、現場で起きる変化に直接向き合っている社員一人ひとりが応え、お互いに支え合う組織に変わっていく必要が出てきたのだ。

一人ひとりがボトムアップで主体的に動いていくためには、共通の価値観が大事になってくる。ミッションやビジョンはもとより、行動レベルまで認識が統一できると判断がしやすくなる。そのために行動指針を明確にすることが必要と考えた。19年末から、自治体職員や事業者・生産者から現在のような信頼を得られた背景を考え続けていた。

「トラストバンクらしい行動」とは何か―。トラストバンクは自立した持続可能な地域を作るというビジョンの実現に向けて、「共創」という考えを大切にしており、自社だけで全てを成し遂げるのではないと考えている。そこで改めて、須永が取り組んできたことや、社内で成果を上げている社員の行動をひもとき、経営陣や社員、自治体職員など、多くの人たちとの会話で感じたものをアウトプットした。

それが当社の行動指針「TB Value」である。①全ての事柄は自分事として捉える「主体性」、②諦めずにやり切る「誠実さ」、③思考し、取り組み、改善する「圧倒的スピード」の三つで、日々の行動がこれらに沿っているかを確認しながら、意識して行動できるようになり、成果につながることで、結果的に指針が自分たちの物になっていくものと考えた。

これらの浸透を推進するため、毎朝全社員向けに送っているメッセージでTB Valueに基づく内容を共有したり、日々の業務に取り組む中で繰り返し伝えていくことを始めた。社内報でTB Valueの策定背景を記事化したり、創業者とのトップ対談で発信したり、新入社員には、入社オリエンテーションで直接伝えている。部門長のミーティング議事録のヘッダーにも記載したり、あらゆる場面でTB Valueを目にする機会を作った。

また、社内でTB Valueを自分事にするためのワークショップも開催した。これを通じて、日々の具体的な業務や姿勢がTB Valueに沿っているか、沿っていないかの事例一覧も作った。ここまでやってもなかなか浸透しない。

TB Valueを発表して1カ月が経過したところで、組織にどこまで根付いているかの確認をした。まずはマネージメント層が集まる部長会で確認した。しかし、十数名いる中でかろうじて一人が自信なさげに発言するレベルだった。

1年が経過し、部門長からもTB Valueのおかげで、「日々の業務が行動指針に基づいている行動なのかという一つの軸ができた」という声が出始めてきた。

今では、自主的に部門内でTB Valueに基づく行動をしているかを振り返り、それを定点で追いかけているチームも出てきているのは大変頼もしい限りだ。

須永ファウンダー兼会長と川村社長

OKRの概念取り入れる 目標達成と会社らしさ

さらに組織強化として、社内の最大部署「ふるさとチョイス」事業部では、目標管理にOKRの概念を取り入れるチャレンジを始めた。OKRとは、Objectives and Key Resultsの略で、日本語では「達成すべき目標と、目標達成のための主要な成果」と表す。過去、KGI(重要目標達成指標)、KPI(重要業績評価指標)を設定してきたが、単独部署や個人で達成できるものが少なく、個人の成果として実感が湧きにくかった。また、KPIを部署に持たすことで、自部門の成果を達成すればよいという思考に陥りやすく、閉ざしたコミュニケーションになっていた。部長という肩書きは、部のトップとして部のことに集中しがちになっていた。本来は目標を達成するために部を越えて、相互に支え合う関係になるべきところだが、程遠い状態になっていた。

そんな状況を打開するためにOKRの概念を取り入れ、さらに部長の肩書きも廃止し、ユニットリーダー=推進する人という役割名に変更した。結果的に事業ターゲットであるKPI、KGI達成に向けた取り組みが当社らしさにもつながるとチャレンジしている。

手前みそではあるが、当社には熱い想いを持った社員がたくさん集まっている。その想いをしっかり紡ぎ形にすることがビジョン実現につながると考えている。そのためにチーム作りが重要なのである。今後も行動指針の浸透と組織の在り方を考え続け、「個々が主体的に動き、かつお互いを支え合うチーム」を作っていく。

かわむら・けんいち 食品専門商社を経て、コンサルティング会社で中小企業の新規ビジネスの立ち上げなどに従事。大手EC企業を経て、コンサルティング会社設立。2016年3月トラストバンク参画。ふるさとチョイス事業統括やアライアンス事業統括を経て、20年1月から現職。

【新電力】供給信頼度確保へ 制度再設計が急務


【業界スクランブル/新電力】

 今年の冬は日本だけでなく、中国、米中西部、メキシコ、欧州も寒波による電力需給ひっ迫に直面した。6月には米テキサス州・カリフォルニア州で節電要請が出され、電力供給の信頼性強化を求める声が高まっている。

テキサス州のアボット知事は7月6日、州公益事業委員会に提出した書簡の中で電力市場再設計の必要性について述べ、天然ガス・石炭・原子力など信頼性の高い電源開発を促進するインセンティブを付与するべく、市場を再設計する必要があると述べている。また風力・太陽光発電など、出力の変動する電源には信頼性費用を割り当てるとした。これまでEnergy only Marketを前提とした独自の自由化市場を築いてきた同州が、大きな政策変更に踏み切るものとみられる。

限界費用が安価な電源が大量に導入された場合、限界費用の高い電源は市場から退出し、電力供給の信頼性が損なわれる。予備力不足に直面した電力取引市場の位置付けは大変難しい。筆者は、電力取引市場の位置付けはもっぱら広域メリットオーダーの実現と、需給バランスを価格シグナルとして発することにあると考える。電力取引市場を維持する観点から、信頼性維持に必要な電源の固定費回収の手段は別枠で用意するべきではないだろうか。本来その役割は容量市場が担うべきであるものの、容量市場では電源の新設投資に結びつかず、もっぱら老朽火力の維持に活用されてしまうとの批判を浴びている。

これまで電力市場は、①メリットオーダーによる最経済運用が実現されているか、②必要容量は確保できているか、③安価な電源に投資が実現されているか――の観点で設計されてきた。ところが、2050年カーボンニュートラル実現に当たっては、供給信頼度確保が両立するよう制度の再設計が必要になる。新電力は安定供給が確保された環境の下、電力システムの効率化を促す役割を担っている。供給信頼度の低下に直面した今、電力システムの担い手として安定供給の実現に向けて声を上げるべき時に来ている。(M)

地域の企業が連携 持続可能な街づくりを推進


【エネルギービジネスのリーダー達】原 正樹/小田原ガス・湘南電力社長

小田原市では、地域の企業が連携し持続可能な街づくりを目指す取り組みが進む。

その中心的な役割を担っているのが、小田原ガス、湘南電力の社長を務める原正樹氏だ。

はら・まさき 電子部品メーカーの日本端子に10年勤務した後、2004年小田原ガス入社。営業企画部、社長室長などを経て14年に社長就任。17年から湘南電力代表取締役を兼務。

 1913年の創業から100年以上にわたり、城下町小田原市で都市ガス事業を営んでいる小田原ガス。東日本大震災を契機に、地元企業が連携して電気の地産地消による地域循環型経済を目指すようになると、そのプラットフォームとしての役割も担うようになった。エネルギー供給を通じ、持続可能な街づくりに貢献しようと意欲的に取り組んでいるのが、同社の原正樹社長だ。

震災を機に地域連携 電気の地産地消目指す

電子部品メーカー勤務を経て、2004年に祖父、父が社長を務めてきた小田原ガスに入社した。入社当時は、LPガスやオール電化といった他エネルギーとの競争にさらされつつも、熱量変更後の都市ガスの旺盛な需要に後押しされ事業は順風満帆。それでも、やがて来るであろう人口減少時代を見据え、市場が拡大し続けることを前提にしたビジネスには限界があるとの強い危機感を常に持ち続けていたという。

そして11年3月に東日本大震災が発生した。遠く離れた東北で起きた自然災害とそれに伴う大規模発電所の停止、さらには福島第一原発事故によって、小田原市は計画停電を余儀なくされただけではなく、風評被害によって食文化や観光事業で成り立ってきた地域経済が大打撃を受けたのだ。

中央集権型の電力供給システムへの疑問がやがて、「地域で使う電気は地域で作ろう」と地元企業が連携し、地域発電会社を立ち上げる原動力につながっていく。この年、小田原市が環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に採択されたこともあり、市が事務局となり民間企業を集めた検討会を立ち上げ「エネルギーの地産地消」実現に向けた動きが具体化していった。

この時中心的な役割を果たしていたのはほかの企業だったが、「地域の企業が手を携え、持続可能な街づくりを進めていかなければ都市が疲弊しかねない。この地域連携に参画することに何のためらいもなかった」という。

検討を重ね12年12月に設立したのが、再エネ発電会社「ほうとくエネルギー」だ。市民ファンドを組成して資金を募り、メガソーラーを建設、まずは地産地消のうち「地産」が形となった。残るは、「地消」をどう実現するかだ。

新電力立ち上げを模索していた時、地元のプロサッカーチーム「湘南ベルマーレ」を通じて、「湘南電力」との接点が生まれた。共にほうとくエネルギーの経営に携わるLPガス会社「古川」の古川剛士社長が、チームを支援していたことが縁だ。もともとはエナリスが、ベルマーレのスポンサーを引き受ける際に設立した地域新電力で、電力事業の利益の一部を還元することで活動を支えていた。

理想とする地産地消のビジネスモデルに近かったことが決め手となり、17年にほうとくエネルギーに出資する37社のうち、主にインフラ系の企業で株式の8割を取得する形で湘南電力を譲り受け、原社長自らが社長に就任することになった。そしてこれにより、電気の地産地消の取り組みを本格化させる体制が整ったことになる。

シュタットベルケも視野に 〝オール小田原〟の挑戦

ほうとくエネルギーと湘南電力の本社機能を小田原ガスの本社内に移し、出資企業からの出向者が席を置くようになったことで社内の雰囲は大きく変わった。何しろ前出の古川は、震災前はLPだけでなくオール電化営業でも大きな実績を上げており、まさに熾烈な競争を繰り広げていた仲。かつてのライバルと同じオフィス空間で仕事をすることに、社員の戸惑いは大きかった。

それでも、市内のエネルギーインフラを担う両社のどちらが欠けても、地域連携は不完全なものになってしまう。そこで、「地域のみんなで街づくりを進めるための母体となっているのが小田原ガスなのだ」というメッセージを伝え、社員の意識改革も促してきた。

持続可能な街づくりに向け、分散型のリソースはまだまだ不足している。湘南電力が、神奈川県内で初期費用ゼロ円で住宅に太陽光設備を設置する「0円ソーラー」を手掛けているが、それに加え今後は、蓄電池や家庭用燃料電池「エネファーム」も活用することでリソースを増やしていく考えだ。

今年4月には、湘南電力が京セラ、REXEVなどと小田原市における地域マイクログリッドを活用したエネルギーマネジメント事業に関する協定を結んだ。自営線による地産地消型マイクログリッドの構築は採算的に難しかったが、来年度導入が予定されている配電ライセンス制度を活用すれば、その実現性ががぜん高まる。地域に根差した自律分散型の電力システムに向けた大きな一歩だ。

さらに将来は、水道や交通を含む公共インフラを運営するドイツの「シュタットベルケ」のような存在になることも視野に入れており、地方創生に向けた「オール小田原」の挑戦はこれからも続く。

資源価格上昇は「スーパー」サイクルか


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

 銅は7割高、原油は2倍とこの1年の商品価格の急騰に対し、JPモーガンのアナリストが「スーパーサイクル到来」と言って話題になっている。社会の構造変化を背景に10年単位で価格の上昇が続くこの事象は、20世紀初頭から4回、直近は中国の国際市場参入により2000年代初頭に発生した。

ただ、現在の価格上昇はコロナ流行に対する金融・財政両面の出動を背景に、いわゆる“巣ごもり需要”由来の工業生産急増によるものであり、ワクチン普及で外出制限が緩和されて消費がサービスに移行したり、政府の金融緩和などが一服したりすれば市場は落ち着いていくとの見方も根強い。

今回の上昇サイクルが「スーパー」か否かは別にして、気になる点はいくつかある。「数年来の価格低迷による資源投資の停滞」「脱炭素投資の拡大」、そして「脱炭素過渡期の資源需給のミスマッチ」である。三つ目の「ミスマッチ」であるが、化石燃料資源は増産投資が困難な中、需要はしばらく増え続けるであろうし、一方、銅やコバルトなどはEVや蓄電池に欠かせないが、従来とは異次元の消費量に対して経済的な増産が果たして可能なのか。こういうときにはアナリストなどからさまざまな予想が出てくるが、これをうのみにしてはいけない。彼らの使命は当てることより、納得させることにあるからだ。アジア通貨危機を背景に、原油が1バレル10ドルに低迷した1998年には、多くのプロが「掘削法の進歩で原油はもう上がらない」と唱えたが、その10年後の08年に150ドルに迫ると、今度は「中国が市場に入ってきたのでもう下がらない」と言い放ったものだ。聴くべきは予想ではなくその前提だ。市場の勢いに流されず、さまざまな前提の変化を自らの目と耳で一つ一つ押さえていきたいと思う。

【電力】ワクチン政策の失敗 原子力も同じ道か


【業界スクランブル/電力】

 新型コロナウイルスのワクチン接種が急ピッチで進んでいる。その一方で、デルタ株の感染も拡大している。ワクチン接種が進展した海外でも感染が増えているが、感染者の大半はワクチン未接種のようだ。東京オリンピックに向けて、きわどいスピード勝負になっている感がある。

異例のスピードでワクチンは開発された。その中でファイザーとモデルナのmRNAワクチンは特に優秀で、この技術がこの時期に実用化されたのは本当に幸運であったと思う。優秀さは海外の数億回に及ぶ接種データで証明されているし、デルタ株の感染力にはワクチン接種以外に有効な対策は当面なさそうである。アマゾンで有名な反ワクチン医師の著作が感染症のジャンルでトップに来ているなど、反ワクチン論にはまる人も一定数いるが、世論調査ではワクチン接種に積極的な割合が増えているようだ。

その一方で、かつて世界の最先端を走っていた国内のワクチン産業の影が薄い。今回は外交努力により輸入ワクチンを確保できているが、今後も輸入依存でよいのか。子宮頸がんワクチンのケースで見られたように、国内ではメリットとの冷静な比較がされずに副反応ばかりが強調され、民間企業にはワクチン開発はリスクが大きい。厚生労働省が「安全性に対する国民からの期待を背景に規制が厳格化されている。開発したワクチンが将来にわたって投資に見合った収益を生み出し得るかなどが不確実性となり、開発着手を躊躇させる」と分析する通りである。パンデミックは今後も起こり得る。感染症対策は国家安全保障問題だ。ワクチン産業の復活は喫緊の課題だろう。

さて、新しいエネルギー基本計画に原子力をどう位置付けるか。産官学各方面から新設・リプレースを求める少なからぬ声があるのに、官邸が衆院選を気にして消極的と聞く。再エネ拡大に有利な広い国土に恵まれている米国も中国もインドも原子力を使い続ける。日本が原子力産業をワクチン産業のようにしてしまってもよいのだろうか。(T)

米中新冷戦と太陽光パネル コスト増で日本にも影響


【ワールドワイド/環境】

 6月24日、バイデン政権は中国の新疆ウイグル自治区における強制労働に関わったとして太陽光パネルを生産するホシャインなどの中国企業5社をサプライチェーンから排除する制裁措置を発表した。この措置により、米国企業との取引ができなくなり、港湾を監督する税関・国境警備局が5社の製品の輸入の監視・取り締まりを行う。中国製の太陽光パネルは圧倒的な価格競争力を誇っており、製造に必要なポリシリコンの世界シェアの半分はウイグル産であるといわれている。同自治区での強制労働絡みの輸入禁止措置は綿製品、トマトに続く措置となる。個別企業に対する措置だけでなく、米中新冷戦の状況下、米国上院外交委員会は24日に中国に対する包括的な制裁を定めたウイグル人強制労働防止法案を可決した。

新疆ウイグル自治区における人権抑圧については、G7サミットでも取り上げられており、同様の措置がほかのG7諸国に波及する可能性も否定できない。中国はこうした動きに猛反発しており、6月に「反外国制裁法」を成立させ、報復措置の可能性もにおわせている。

皮肉なことに、こうした動きは世界の温暖化防止努力には逆風となる。安価な中国製パネルは世界市場を席巻し、日米においても8割前後の市場シェアを占める。それが再エネ導入コストの抑制につながっていたが、中国を排除すれば導入コストは上昇する。検討中の第6次エネルギー基本計画で太陽光の大幅上積みを検討している日本にも影響が大きいだろう。

欧米諸国との対立が激化すれば、中国が2030年ピークアウト目標、60年カーボンニュートラル目標の前倒しや石炭火力融資の停止などに応ずる可能性は大きく低下する。国際協調を伴わない温暖化防止努力は頓挫する可能性が高い。

7月7日、米国の40の環境団体がバイデン大統領に対して「気候変動は世界的な危機であり、協力を必要とする。われわれはバイデン政権と議会に対し、米中関係の敵対的なアプローチを避け、存在に関わる問題である気候危機に対処するため中国との協力を求める」との書簡を発出した。世界最大の排出国、石炭火力輸出国である中国に対して、元来非常に融和的であった環境団体の体質が露呈した。中国はこうした米国内の動きを自らに有利な方向に最大限利用しようとするだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院教授)

【マーケット情報/8月13日】原油混迷、方向感を欠く値動き


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、強弱材料が混在し、各地で方向性を欠く値動きとなった。需給緩和の懸念を要因に、北海原油の指標となるブレント先物、および中東原油を代表するドバイ現物の価格が下落。他方、米国原油の指標となるWTI先物は、前週から小幅に上昇した。

OPECは、2021年度の産油量予測を上方修正。OPEC+の協調減産縮小が背景にある。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内石油ガス掘削リグの稼働数は、前週比で増加。合計で500基となり、2020年4月以来の最高を記録した。

加えて、新型コロナウイルス変異株の感染拡大、それにともなう石油需要後退への懸念が根強い。特に、世界最大の石油輸入国である中国での移動規制強化により、需給緩和の見方がさらに広がった。

一方、インドの7月ガソリン消費は、コロナ前の2019年7月を上回った。ロックダウン緩和で、車での移動が増加している。また、米国の週間在庫は、輸出増加と製油所の高稼働で小幅減少し、過去5年の平均を6%程度下回った。ガソリン在庫も、前週から減少しており、WTI先物の支えとなった。

【8月13日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=68.44ドル(前週比0.16ドル高)、ブレント先物(ICE)=70.59ドル(前週比0.11ドル安)、オマーン先物(DME)=70.09ドル(前週比0.71ドル安)、ドバイ現物(Argus)=69.90ドル(前週比0.50ドル安)

【コラム/8月16日】気候変動、日銀の資金供給を考える~金融への思い込みは要注意


飯倉 穣/エコノミスト

1,2050年カーボンニュートラルを目指したエネルギー基本計画素案が提示された。その実現に必要なファイナンスを考える上で、興味深い金融記事があった。

「東芝、買収合戦の様相 CVC、ベインと連合 KKRも検討」日経2021年4月15日

「東京4度目緊急事態 政府決定 違反の店「厳しく対応」、休業要請「金融機関も働きかけを」」朝日夕同7月9日

「気候変動対策 動き出す日銀 環境融資 金利ゼロで資金貸付 金融機関を長期支援 緩和維持 みえぬ出口」朝日同17日

金融機関(投資ファンド)の行動、金融圧力利用の政府発想を見つめ、金融仲介機能に着目した日銀の取組を考える。

2,2030年温暖化ガス46%削減目標の「エネルギー基本計画(素案)」の審議があった(7月21日)。大胆な省エネを前提に、1次エネ供給構成で再エネ20%、原子力10%、化石エネ70%を目指す。電源は、再エネ36~38%、原子力20~22%、化石41%(うちガス20%、石炭19%)を掲げる。中身と可能性のチェックは今後だが、その実現に向けてエネルギー開発・転換、省エネ等で膨大な投資資金需要が見込まれる。

第一次オイルショック後と同様、そのファイナンスに関心が集まる。市場の失敗等も予見されるので、短期は政策、長期は市場任せとしても、民間金融の行動が鍵である。

3,金融は、資金保有者から不足者への資金の流れである。その担い手は、金融仲介業であり、金融機関、証券会社が典型である。加えてファンド等の運用機関もある。

近年成長鈍化に伴う投資機会の縮小や緩和的金融政策を背景に「お金でお金を儲ける強欲資本主義(資金の効率的運用)」の動きが顕著である。通貨は、交換・計算・保存機能手段と見れば無機質だが、富や稼ぎの象徴となると「欲望」その物で厄介な面がある。

日本版ビッグバン(金融自由化)以降、金融業は、Predatory(略奪者)の性格を強め、高利貸しの本性を露わにしてきた。金融の見る企業統治・事業統治、資産構成・資本構成の最適化、企業再編、プライベートエクイテイ、産業金融等々は、収益確保の投資機会である。働く者にとって、企業・事業の最適化となるか未知である。

その例は、2000年代以降のファンドの活劇(ステイールとサッポロビール、TCIと電発等)に見られ、最近の東芝である。東芝関連「エフィッシモ・キャピタル・マネジメント」等の動きは注目に値する。目指すところは、投資利潤の最大化である。企業を支配し事業分割・売却や合理化で企業価値を向上させ、投資額に対し数年で年率20%超の回収を目指す。金融収益の低迷に悩む銀行等金融機関の行動も大同小異である。

金融機関に地球温暖化防止のための事業者金融を推奨し、それを中央銀行が支援する。首を傾げてしまう。

4,コロナ対策で、金融機関の積極的関与を求めた某大臣の発言に対する反発はすさまじかった。そこに金融機関の姿がある。「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」は、金融の常道である。金融の論理と事業者の思いは異なる。利用者で、金融機関にシンパシー(親近感)を感じる人はいないだろう。故に金融機関は、裏方に徹する。またそのような立場である。近時金融力のアピールを見かけるが、極めて危うい。公的規制で、化石燃料投資を排除することは十分納得的であるが、金融の力で行うことに疑問が残る。

5,そのことも考慮してか時流に乗ってか、日銀が「気候変動対応を支援するための資金供給の骨子」(7月16日)を決定した。金融機関の気候変動名目の投融資を対象に金利ゼロ%、期間1年(借換可能)、30年度まで貸付を実施する。

日銀は、10年以降経済活性化を求める政治の要請に呼応して、政策金融類似の金融措置を実施してきた。成長基盤強化を支援するための資金供給(10年9月開始)、貸出増加を支援するための資金供給(13年開始)、アベノミクスの大胆な金融緩和政策(13年開始)である。成長基盤強化支援や貸出増加支援の資金供給が民間金融機関の貸し出し増を招来したか不明である。

また金融政策の効果は、実質経済成長率(12~19年度年平均0.8%)や財政改善面(公債残高12年度末705兆円、19年度末887兆円)で現れていない。ただ日銀のバランスシートの際限なき拡大を招来している(13年3月164兆円⇒20年3月604兆円) 。日銀の動きは、むしろ経済不安定を助長している。

6,今回の気候変動対応貸付は、バックファイナンスであり、金融機関支援と理解できても、気候変動対応への量的・質的効果は要領を得ない。現状の金融政策の行き詰まりで、金融機関の窮状を見かねた救済策に見える。政治的な弁明効果はあろうが、金融的な効果は未知数である。趣旨と効果も不明なまま見切り発車である。果たして適切なことであろうか。

金融政策を担う日銀に求めたいことは、物価安定が基本で、経済変動や経済ショックに伴う経済・金融環境の激変に対応した金融政策である。日銀は、まず量的緩和と称するマイナス金利の是正、国債の事実上の引き受けやETF購入などの資産市場への介入を縮小し、日本経済の実情に合った正常な金融政策への回帰を目指すべきである。実物経済への介入方法は、伝統的な金融調節に徹するべきであろう。

中央銀行は、脱炭素融資を支援する前に、まず経済均衡を取り戻す経済運営・金融政策に務めることが肝要ではなかろうか。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

インドの配電民営化の動き 司法を巻き込んで混乱も


【ワールドワイド/経営】

 インドでは2020年以降、一部の連邦直轄領や州で公営配電事業者(配電と小売り供給を実施)の民営化を進める動きが活発化している。同国では1990年代から電力改革が開始され、多くの州で発電部門への競争導入や旧州電力局の発送配電分離が進められた。目的は経営の健全化であったが、成功したのは首都デリーのみであった。インドの配電事業者は、高い総合損失率や規制された低料金により財務状態が劣悪で、州営事業者の負債総額は、18年度末時点で約4.8兆ルピー(約6.9兆円)に上る。巨額の負債によって資金調達コストが上昇し、経営改善のための投資ができず悪循環に陥っている。

この状況を打開すべく、「自立したインド」を志向する同国政府は20年5月、連邦直轄領の配電部門を民営化する方針を発表した。これには内外の事業者の期待が集まり、12月に始まった北部のチャンディガール直轄領の入札には20社が関心を示した。また、21年2月に行われたダドラ・ナガルハベリおよびダマン・ディウ直轄領での競争入札には高値での応札がなされた。ただ、これら2直轄領では、民営化に反対する労組の申し立てを受けて高裁が中止命令を出し、それを最高裁が覆す、司法を巻き込んだ混乱が生じた。

ほかの直轄領も難航が予想される。北部のジャンム・カシミールとラダックは中国やパキスタンと国境を接する係争地であるため、地元紙は競争入札は早期には行われないと予想する。ベンガル湾のアンダマン・ニコバル諸島は、原住民の保護のため外国人の立ち入りが制限されており、南部のポンディシェリ直轄領では、地元議会が全会一致で民営化に反対した。

一方、州レベルでは、東部のオディシャ州で、20年6月に2回目となる配電民営化が行われ、競争入札で選定された民間大手電力のタタ・パワーが事業を始めている。同州では90年代に世銀主導の民営化が実施されたが、赤字体質を解消できず失敗した。しかし、北部ウッタルプラデシュ州で6月、州政府による配電民営化提案を労組が撤回に追い込み、民営化は難航する。

インドの電気事業は、モディ首相の宣言した「30年までに再エネ導入4・5億kW」の達成や、再エネ導入拡大に伴う蓄電技術の導入、州間送電線の拡充など、今後も投資を必要としている。こうした中、配電事業者の財務健全化に向けて迅速かつ確実な改革が求められており、今回の民営化案の帰趨に注目が集まっている。

(栗林桂子/海外電力調査会調査第二部)

使いやすくデザインを一新 新型水素ディスペンサーを発表


【トキコシステムソリューションズ】

 ガソリン、天然ガス(CNG)、LPガスなど各種ディスペンサーを製造・販売するトキコシステムソリューションズは、水素燃料電池車(FCV)向けディスペンサー「NEORISE(ネオライズ)」のコンセプトモデルを発表した。

デザインを新たにした「NEORISE」

コンセプトモデルが従来モデルから大きく進化した点は大きく二つ。将来の水素ステーションのセルフ化を意識した大きなタッチパネルの導入と、筐体デザインを一新した点だ。

タッチパネルでは充填スタートから、支払い方法の選択やICカードタッチなどの料金支払い関係の操作も画面上で完結する提案を行った。自動車への充填状況から脱圧、ノズルを外すタイミングなど一連の工程をユーザーも分かりやすく見られるように画面を構成したのが大きな特長だ。同社営業本部インフラ・エンジニアリング営業部の中井寛・水素事業担当部長は「視認性を高くするために画面のコントラストにも注意を払った。ガソリン給油と比べると水素充填の仕組みの認知度はまだまだ低い。ディスペンサーがどういう動きになっているのかをユーザーに理解してもらえるよう、画面構成をわかりやすく提案いたしました」と説明する。

柔らかいデザインに一新 設計見直しでサイズダウン

筐体デザインも角ばった武骨なフォルムから、ユーザーに柔らかいイメージを持ってもらうことに加え、使いやすいデザインは何かを追求した結果、外観を一新。同様の設計思想で好評を得ている同社ガソリン計量器「NEOYELL(ネオイエル)」のデザインとの共通化も一部図られている。

さらに使いやすさに配慮して、女性でも操作しやすいようにタッチパネルの高さ位置を適切に設計。また内部構造の見直しを図り、本体のサイズをコンパクトにすることに成功した。各種改良を行ったコンセプトモデルは、展示会に出品した際に行ったアンケートで「従来モデル以上に使いやすく、デザインもよい」との高評価が多数寄せられたという。今秋には本モデルのデザインモチーフを一部採用した2021年モデルの出荷開始を予定している。

街中でもFCVや燃料電池バスを見かける機会は増えつつあり、水素ステーションの数も年々増加している。また自動車メーカーも燃料電池トラックの実証実験に相次いで乗り出すなど、水素が活躍する場は着実に広がっている。

今後の展望について中井水素事業担当部長は「新聞やテレビでカーボンニュートラルの話を聞かない日はない。水素の需要拡大の追い風に乗って事業を展開していきたい」と語る。使い勝手のよい水素ディスペンサーは水素社会実現に大きく貢献しそうだ。

アゼルバイジャンの天然ガス 欧州への供給に三つの課題


【ワールドワイド/資源】

 アゼルバイジャンのカスピ海大ガス田Shah Denizからパイプラインでヨーロッパに天然ガスを輸送する「南ガス回廊」が昨年末に開通した。

南ガス回廊は連続する三つのパイプラインからなり、欧州のエネルギー調達多角化が期待される。最終区間であるアドリア海横断パイプライン(TAP)のガス輸送容量年間100億㎥はブルガリア、ギリシア、イタリアに引き取られ、将来さらに容量を2倍に拡張する計画もある。

追加のガスはバルカン半島、アドリア海沿岸の諸国に供給され、脱炭素化を目指す中、石炭依存、ガスのロシア依存からの脱却を後押しする役割も構想される。しかし、アゼルバイジャンのガスには三つの課題がある。

一つ目は追加のガス田開発だ。南ガス回廊のガスソースは今のところShah Denizのみであり、ほかに開発が進んでいる有望なガスプロジェクトが乏しい。カスピ海で進行中の中規模ガス田開発が複数あるが、いずれも生産開始時期が見通せず、規模もShah Denizに及ばない。

同国が南ガス回廊の安定的なガス供給源であり続けるには追加のガス田開発が必要である。

二つ目の課題は、欧州までの距離だ。オックスフォードエネルギー研究所(OIES)の試算によると、TAPでイタリアに入るアゼルバイジャン産ガスの価格は、ロシア産、アルジェリア産ガスよりも高く、競争力に劣る。カスピ海の生産コストと、アゼルバイジャンからイタリアまでの三つのパイプラインの輸送コストが高いためだ。 近場で販売できれば競争力は高まり、ジョージアやトルコで販売を増やすことが有効だが、ジョージア市場の需要拡大はそれほど見込めず、トルコ市場にも今以上のガス量を有利な条件で売る余地はあまりない。

トルコは近年、LNGを含めガス調達先を拡充し、自国内でのガス生産も計画しているので、アゼルバイジャンのガスも相応の価格でなければ引き取らなくなりつつある。

最後の課題は脱炭素社会に向けた動きだ。アゼルバイジャンのガスはバルカン、アドリア海沿岸への進出を狙う。しかし、欧州を中心に脱炭素の動きが広がる中で、契約の拡張が必要になるほどのガスの需要が生まれるのかは疑問が残る。南ガス回廊で欧州ガス市場へのアクセスを手に入れたアゼルバイジャンだが、今後も安定的にガス販売収入を得るにはまだ課題が残っている。

(四津 啓/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

太陽光発電依存の潜在リスク NHK・毎日が情報切り取り


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 情報切り取りはメディアの本質だ。取材内容をダラダラ伝えても読んでもらえないし、見てもらえない。問題は、重要な情報が切り捨てられるリスクだ。印象操作にもつながる。

静岡県熱海市で7月3日に起きた大規模土石流の現場映像の切り取りに、首を捻った。

発生直後から、土石流があった傾斜地の上方にある太陽光発電設備との関連性がネットで指摘され始めた。木々を伐採し、表土を削ってソーラーパネルを設置すれば、保水力は下がる。土砂災害が起きやすくなる。元環境相の細野豪志氏も自身のツィッターで、「関連がなかったか、調査を求めて動く」と発信した。

静岡県は4日午後、土石流の起点となった崩落現場のドローン映像をメディアに提供した。同日夕のNHK電子版「【動画】ドローン映像、土石流の上流付近、静岡県が撮影」は、映像とともに「斜面は深くえぐられて内部の土砂が露出し、水が流れ出している」と伝えた。毎日電子版「熱海土石流、静岡県が『起点』のドローン撮影動画を公開」も同様だ。

だが、どちらも、太陽光発電設備は画面にない。崩落現場とその右に住宅地が見えるだけだ。ネット民の早とちりか、と思った。

同日夜のNHK電子版「静岡・熱海の土石流、上流側の開発現場、 盛り土含む斜面が崩落」も関連性に否定的だった。県の調査で「開発のために土が盛られていた一帯を含む斜面が大きく崩れていた」とし、「崩落現場の南西には大規模な太陽光の発電設備」はあるが、「この周辺では斜面の崩落は確認されなかった」と伝えた。

その後、時事通信が配信した映像に驚いた。同社映像センターが4日、ユーチューブに流した静岡県提供の映像だ。冒頭部分に太陽光発電設備が写っていた。崩落現場のすぐ脇だ。尾根を削り、黒光りするソーラーパネルを敷き詰めた発電所が迫ってくる。ここをNHKと毎日は切り捨てた。

土石流との関連性は調査してみないと分からない。それでも、状況把握に欠かせない部分ではなかったか。削った山肌は雨水が浸透しやすくなる。浸透した水は深部に向かい、地盤を軟弱にする。

毎日は6月28日「再考エネルギー、太陽光発電が『公害』」で、紙面を大きく割いて、この問題に警鐘を鳴らしたばかりだ。

 「景観や自然破壊などの問題が各地で深刻化」とし、「47都道府県を取材したところ、8割がトラブルを抱えている」と数字を挙げた。例えば岡山県では「パネルの設置斜面から土砂が崩落」「土砂で田んぼが埋まった」などの被害があったという。

 「事業の差し止めなどを求めて起こされた訴訟は20件以上」「条例で規制する自治体も増え、件数は昨年度には134件まで増加」と、迷惑施設扱いだ。

太陽光依存のリスクが顕在化したということだろう。ブルームバーグ2日「太陽光パネルが国土を覆う日、脱炭素達成に向けた厳しい道のり」は、日本の突出ぶりをこう紹介する。

 「2012年に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度により、特に太陽光発電が急拡大した。太陽光発電能力は20年時点で中国と米国に続き世界3位。国土面積1k㎡当たりの導入量で比べた場合には、日本は主要国の中で最大だ」

これでいいか。考えるには、災害リスクを含めて、客観的な情報が不可欠なのだ。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

ステークホルダーとの対話ツール トランジション・ファイナンスの活用を


【オピニオン】又吉由香/みずほ証券 サステナビリティ推進部ディレクター

 2050年までの実質カーボンニュートラルの実現に向けては、再生可能エネルギー・次世代エネルギー供給網といったインフラ整備や、水素利用などに係るイノベーションの開発・社会実装を支える莫大な資金が必要となる。こうした資金ニーズを長期的に充足するには、公的資金の出動のみならず民間資金の喚起が不可欠となる。資本市場においても、環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資など、脱炭素化社会への移行に資する取り組みに、より多くの資金を流入させる動きが広がりつつある。

日本におけるESG投資は、脱炭素化に資するアクティビティーとしての適格性が担保された資産などにひも付けされた金融商品に流入する傾向が強かったように思われる。このため温室効果ガス排出量が多い多排出産業による移行(トランジション)の取り組みや、「グリーンか、グリーンでないか」での二元論的なアプローチでは捉えきれない事業モデル変革といったダイナミズムに、拡大基調にあるESG投資の資金フローをいかに取り込むかが課題であったとも考える。

20年半ば以降、こうした課題に対応した動きが顕在化している。20年9月、経済産業省は、「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020」を発表した。その中で、幅広い産業の脱炭素社会への円滑な移行を支援するトランジション・ファイナンスの活用が提言された。21年5月には、経産省・環境省・金融庁が協働し、国際資本市場協会が発行する「トランジション・ファイナンスに関する国際原則」を踏まえて、日本の「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定した。同指針を基に、一足飛びでの脱炭素化実現が困難な産業向けの分野別トランジション・ロードマップを策定するとともに、基本指針との整合性や先行モデル性を有すると評価される事例について、外部機関による評価費用の負担軽減や成果連動型の利子補給などの支援策が講じられる見通しとなる。6月にモデル事例の応募受付が開始され、7月には第一号案件として海運企業が選定されている。

エネルギー業界においても、気候変動に伴うリスクと機会を見極め、「トランジション」を見据えたアクションプランを、自社の長期経営計画に組み込む動きが出つつある。50年に向けた各企業の温室効果ガス排出量の削減経路は常に同一傾斜の線形であるとは限らず、非線形ともなり得る。また脱炭素化に向けては、社会実装の可能性が未確定なイノベーションに依存するところも大きく、その線系も複線的にならざるを得ない。不確実性の高い事業環境下において、エネルギー企業は、複雑かつ複線的なシナリオに対応した企業戦略を広義のステークホルダー(従業員、地域社会、投資家など)に適切に理解してもらうことがより重要となろう。トランジション・ファイナンスが、資金調達の多様化施策としてのみならず、ステークホルダーとの対話ツールとして活用されることを期待したい。

またよし・ゆか 1994年学習院大学法学部卒。モルガン・スタンレー証券などを経てみずほ証券入社。エネルギー関連規制・技術などのセミマクロ調査に従事。

【マーケット情報/8月9日】原油下落、需給緩和の観測強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

8月2日から9日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。新型コロナウイルス変異株の感染拡大で、石油需要後退への懸念が強まるなか、供給増加の予測が台頭し、売りが優勢となった。

中国では、各地の感染者数急増を背景に、感染リスクが高いとされる地域間の移動を規制。複数の国際便も一時停止となった。世界最大の石油輸入国である中国での移動、および経済活動制限の強化により、石油需要低迷の見通しが一段と強まった。

また、日本でも変異株の感染拡大を受け、2日から、東京周辺や大阪で緊急事態宣言を再度実施。加えて、一部地域でまん延防止等重点措置を再導入。燃料消費がさらに減少するとの見方が広がった。豪州では、カンタス航空の国内便稼働率が、5月の100%から、7月には40%まで低下。シドニーなど複数の都市におけるロックダウンが背景にある。

他方、供給増加の予測も、価格に対する下方圧力として働いた。OPEC+は計画通り、8月から日量40万バレルの増産を予定。また、7月の産油量は、サウジアラビアの自主的減産終了により、前月から日量68万バレル増加した。加えて、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内石油ガス掘削リグの稼働数は、前週から3基増加して491基となり、需給緩和観を強めた。

【8月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.48ドル(前週比4.78ドル安)、ブレント先物(ICE)=69.04ドル(前週比3.85ドル安)、オマーン先物(DME)=67.33ドル(前週比5.89ドル安)、ドバイ現物(Argus)=70.40ドル(前週比2.70ドル安)

*8月9日はシンガポールが祝日だったため、ドバイ現物は6日との比較。