新電力が容量市場見直し要望 「年数億円負担で利益吹き飛ぶ」


9月14日に公表された容量市場の約定価格を巡り、業界内外に波紋が広がっている。実需給の2024年度に適用される約定価格が上限に近い1kW1万4137円となったからだ。これに対し、新旧電力の双方から驚きや制度の不備を指摘する声が聞こえる。中でも、市場調達を中心に運営する中小新電力の不満は強い。

「現時点で電源を持ち得ない新電力にとって、容量市場で一方的に負担が増加し、結果的に旧一般電気事業者に対して競争上不利な立場に追いやられてしまう懸念がある」。みんな電力やLooopなど新電力15社は9月28日、容量市場の見直しと運用の在り方に関する要望書を、梶山弘志経産相と小泉進次郎環境相に提出した。

容量市場は地域新電力の存続を左右するのか

具体的には①減価償却を終えた発電所やCO2排出係数の高い電源の市場参加に制約を設ける、②再エネ供給能力などを踏まえて容量市場の目標調達量を最小化する、③旧一電に有利、新電力に不利な容量市場を根本から見直す―の3点を求めている。

また今回の落札結果について、「小売り事業の粗利を超える水準であり、24単年度の拠出だけでも、多くの小売事業者にとって深刻な経営へのインパクトを与える」と指摘した上で、約定処理のやり直しを提起している。ある地域新電力の幹部は「想定される年間負担額は2億円程度。社員の総力戦でようやく生み出した利益が全て吹き飛んでしまう」と嘆く。

その一方で大手事業者を中心に、上限落札を招いた制度の改善を指摘しつつも、「将来の安定供給を確保する上で必要な負担」との見方が支配的だ。経産省は冷静に問題の本質を見極めた上で、検証を行うことが求められる。

BPOサービスを強化 新電力と共に成長する関係の構築へ


【SBパワー】中野明彦/SBパワー社長兼CEO

ソフトバンクグループ傘下で電力小売りを手掛けるSBパワーは新電力向けBPOサービスに注力している。 今年10月には、CIS・需給管理システム事業の譲受で電気事業関連業務サービスをフルラインアップした。

ソフトバンクの子会社SBパワーは2017年から本格的に電力小売事業をスタート。親会社の通信事業の強みを生かし、スマートフォンなどとセット販売する「おうちでんき」により、順調に顧客を獲得してきた。19年度の販売電力量は26億6000万kW時と、低圧部門の販売電力量シェアで4位にまで急成長。そのノウハウを転用し、同年6月からは新電力向けにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを開始した。

電力小売り全面自由化が開始されて以降、登録小売電気事業者数は増加傾向にある。事業者のライセンスを取得し電力を卸市場から調達すれば、大規模な設備投資をすることなく参入が可能なためだ。また自社製品とセット販売を行い、販促強化につながる商材として注目されたことも影響している。

求められる高度な運営 電気事業を包括サポート

半面、電気事業は激化する価格競争と電源調達価格の変動リスクをバランスさせるための綿密な収益管理、適切な需給管理のオペレーションなど、高度かつ専門的な事業運営が必要となる。そのため、参入したものの事業撤退や承継を迫られる事業者も出てきている。

この状況を受けて、SBパワーが開始したのが新電力事業者向けの同サービスだ。電気事業に関する業務プロセスを支援するもので、①電源卸供給サービス、②需給管理代行サービス、③CIS(顧客情報管理システム)、需給管理システム提供サービス、④カスタマーサポート代行サービス―などをラインナップする。新電力事業者はそれぞれのニーズに合ったサービスを選択し導入できる。サービスは企業ごとにカスタマイズして提供し、電気事業への参入を検討している事業者には、事業立ち上げに必要な全てを包括的にサポートするコンサルティング業務に近いものもあるとのことだ。

「BPOサービスは当社が電気事業を手掛けるために構築した基盤を利用します。立ち上げから数年が経過し、ノウハウが蓄積されてきました。それらが他の新電力事業者様にも役立つのではと考え、開始しました」。中野明彦社長はサービス開始の背景をこう話す。

①電源卸供給サービスは市場変動リスクの少ない相対卸価格で全エリアに提供。ベース・ミドルなどの受給パターンごとに、契約期間や時間帯なども柔軟に対応でき、事業者のニーズに合わせた見積りを依頼することが可能だ。

②需給管理代行サービスでは、自社のバランシンググループ(BG)を活用し、インバランス料金の負担、BG内の連帯責任や保証金、エリア追加料金などが一切かからないのが特長。新電力の事業運営におけるリスクを最大限回避できるのは大きなメリットだ。中野社長は「当社は一定規模のBGを持っており、AIなどを活用し高精度な需給運用を行うことで、サービスを低リスク、低価格で提供しています」と強調する。

③CIS提供サービスは今年10月から開始した。クラウド型の顧客・需給管理システム事業をエプコ社から譲り受け、これまでSBパワー自体も外部に委託していたシステムを内製化し、これを安価で新電力事業者向けにも提供する。顧客管理や料金計算などに加え、需要家向けのウェブサービスの提供などが一通り標準機能として備わっている。数件から数十万件までスケーラブルに対応できる上、事業者の要望に応じてカスタマイズできることは魅力だ。

④カスタマーサポート代行サービスでは、システム登録、料金計算・請求などの事務作業や、需要家からの問い合わせ対応など、事業運営に不可欠な業務全般の受託が可能だ。通信事業で培われた顧客対応ノウハウをベースに、高いセキュリティ環境下で高品質なCSサービスを提供している。

このほか、制度変更などを分かりやすく解説する情報配信サービスも既に開始。さらに、スマホ決済サービス「PayPay」などの付加価値サービスとの連携強化に加え、独自に開発した家庭向けデマンドレスポンスサービスや、グループ会社エンコアードジャパンが提供するホームIoTの提供なども視野にいれていく考えだ。

「CISと需給管理システムが加わり、電気事業の運営に必要な機能を網羅的に提案できるようになりました。当社自らが使用するシステムなので、安心してご利用いただきたい」(中野社長)。

中長期を見据えたサービス 競争だけでなく協調も図る

度重なる制度変更に対し、特に中小規模の新電力事業者がその対応を全て自前で対応することは容易ではない。事業継続がますます難しくなることも懸念される。中野社長は「新電力同士が競争するばかりではなく、お互いの得意な面で協業するなど、BPOサービスの提供が緩やかな関係性やネットワークを構築し、共に成長する機会にしたいと思っています。短期的な利益にとらわれず、このつながりを中長期的に意味があるものにしていけたら」と展望する。

一方、厳しい事業環境にあっても、新電力事業の立ち上げを検討する企業は依然多い。BPOサービスの顧客数は今年末には50社を超える見込みという。今後はさらに強化して、早期に100社まで拡大していく方針だ。

中野明彦/SBパワー社長兼CEO

なかの・あきひこ 1989年慶大経済学部卒。大手電力会社にて経営企画に長く携わる。2012年ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)

JOGMEC関連が大幅増 ポストコロナ予算要求への疑問


2021年度政府予算の概算要求を見ると、各省とも新型コロナウイルス関連で予算を引き出そうと、あの手この手で事業を絡めている。エネルギー・環境分野も同様だが、とりわけ「ポストコロナの資源確保」として石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)関連が大幅増額で計上されたことには、業界関係者の間から疑問の声が聞こえている。

経済産業省は、LNGの積み替え基地への出資といったJOGMECのリスクマネー供給の強化などに対し、今年度当初予算から120億円増の685億円を計上。足元の油価低迷で、民間の上流資源開発への投資意欲が減退する中、JOGMECのリスクマネー供給により自主開発比率を向上させる、との立て付けだ。

確かに資源開発への民間投資は減衰。数年後に需要ひっ迫の局面が訪れる可能性もゼロではない。しかしJOGMECの権限強化は、コロナ以前に検討された「新・国家資源戦略」をそのまま踏襲したものだ。エネルギー需要が以前の水準に回復するのか、脱炭素化の取り組みで経済回復を目指す「グリーンリカバリー」などの国際動向をどう捉えるべきか、といった検討も行われていない。

使途の一つとして想定されるのは、前政権下で今井尚哉・首相補佐官らが対応を担ってきたロシア案件だ。北方領土問題の進展がないまま、菅政権となり今井氏も表舞台を去った。しかも東京五輪が今夏開催されていた場合、ロシアがサイバー攻撃を計画していたとの英政府の発表まで飛び出した。

そもそも脱化石・再エネ主力化時代に、資源開発予算をそこまで増やす必要があるのか。旧石油公団問題の再来が懸念される。

今後もロシア案件に巨費を投ずるのか(2019年6月の北極LNG2プロジェクトに関する署名式)
提供:朝日新聞

高レベル処分場の文献調査 厚い扉開けた北海道の2町村


長年原子力政策のアキレス腱となってきた、高レベル放射性廃棄物の最終処分場問題。2007年に高知県東洋町が選定に向けた第一段階の「文献調査」に応募したが、反対派から猛烈な攻撃を受けて撤回に追い込まれた。それから13年。北海道電力泊発電所周辺の2町村が、厚い扉をこじ開けた。

10月9日、上京した寿都町の片岡春雄町長は、処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)を訪れ、応募書類を提出した。同日午後には神恵内村の高橋昌幸村長が国からの調査申し入れの受諾を表明した。

調査誘致を成功に導いた勝因は、寿都町の場合、片岡町長のキャラクターだろう。8月13日に北海道新聞が同町の応募検討をすっぱ抜いた後、片岡町長は自ら先頭に立って応募への理解を得るための活動を展開した。当初は、周辺自治体や漁協などから激しい批判にさらされた。北海道の鈴木直道知事からも応募撤回を求められた。それでも、「ワンマン」(地元町議)の町政運営で、5度の当選を重ねてきた豪腕。集中砲火を浴びても心は折れなかった。

寿都町長の性格が原動力に 神恵内村は国から申し入れ

気さくな町長の性格が地元マスコミに愛されたことも、誘致成功の原動力となった。連日のようにテレビや新聞に登場。町長室に気軽にメディアを呼び寄せ、自らの率直な思いを語っていたという。

文献調査への応募を表明する寿都町の片岡春雄町長
提供:朝日新聞

誘致に向けた神恵内村の動きも、北海道新聞が9月11日に真っ先に報じた。村では地元商工会が同8日、調査の受け入れ促進を求める請願を村議会に出していた。片岡町長とは対照的に、高橋村長は黒子に徹した。請願について見解を問われると、「村議会の決定を尊重する」と繰り返した。代わって前面に出る場面が目立ったのは国だ。住民説明会の主催者も、寿都町では町だが、神恵内村では国とNUMOだった。その帰結が応募ではなく、国から村への調査申し入れという形の選択だった。

国は11年3月の東日本大震災直前、統一地方選挙を経て、同年夏に「複数地点、同時申し入れ」を行うシナリオを検討していた。この時点ですでに神恵内村は文献調査に関心を抱いていたようだ。

だが、福島事故で原子力政策への信頼が失われ、応募は具体化しなかった。それが今回、水面下で進んでいた寿都町の応募検討が新聞報道で表沙汰となり、事態が動き出すことに。寿都町の動きに呼応して神恵内村が清水の舞台から飛び降り、2町村とも早々に調査実現に至ったのは「良い意味での驚き」(電力関係者)だった。

寿都町が応募検討を表明して以降、道内で反対運動は盛り上がるどころか、沈静化しつつある。普段は反原発の旗を掲げる北海道新聞も「比較的冷静な報道スタンス」(同)を保つ。鈴木知事も自民党道議の意向に配慮し、反対の声をトーンダウンさせている。寿都町では反対派住民の動きが一部で活発だが、広がりは見せていない。

次のステップは概要調査。その段階に進めるか―。そこにまた、もう一段高いハードルがある。

太陽光乱開発を防ぐ手立ては? 国も自治体も及び腰の現実


茨城県笠間市でのメガソーラー乱開発を巡る問題を、前号に引き続き報道する。経済産業省、環境省、農林水産省などを取材すると、再エネ政策が抱える問題点が浮上した。

「市には太陽光条例があるが、乱開発を抑制しているかと言われれば微妙だ」。茨城県笠間市の元役所職員で笠間市議を務めた菅井信氏は、こう疑問を投げかける。

前号で報じた来栖ザク沢地区のメガソーラー開発は市条例適用後の案件で、事業者と地元の間に市が調整に入り、合意をしている現場だ。その意味では違法性は全くなく、制度上の手続きも踏んでいる「適正なプロジェクト」だ。

関係者によると、問題は風力・火力発電所のような環境アセスメントが課せられていないことにある。条例では敷地面積1万㎡以上の発電所建設に「市との協議や地域住民の合意を得なければならない」と規定されているが、発電設備の保安規定や林地開発許可さえパスすれば、環境破壊まがいの開発もできてしまうのが実情だ。

菅井氏は「メガソーラーの開発に当たっては、ゴルフ場や宅地造成と同じように、環境や防災対策をクリアしないと建設できないようにするなど規制は必要だ」と、再生可能エネルギー特別措置法や自治体条例など関連制度の見直しの必要性を強調する。 一方、市の担当者は条例について「あくまで自然環境の保護および地域関係者との調和に努め、社会の発展に寄与することを目的としたもの」だと説明。その上で、「地方公共団体が直面している問題に法的根拠をもって対応できるよう、法整備を進めていただきたい」として、国側の対応が必要との見解を示した。

制度改正も拘束力に限界 過去事例は野放図のまま

前述した環境影響評価については、環境アセスメント法で定められた「法アセス」と、自治体が条例で定めた「条例アセス」に分類される。これまで法アセスには太陽光発電設備に対するアセスメントは定められていなかった。

アセス制度を所管する環境省はこの制度を改定し、2020年4月から第一種は4万kW以上、第二種は3万kW以上の設備が対象となった。しかし今年手続きに入ったのは3件のみで、許可済みの案件への拘束力はない。今年3月には地域とのトラブル事例や、環境配慮のポイントを整理し、自主的な環境配慮の取り組みを促すことを目的に、法アセスや条例アセスの対象外である事業用太陽光(10 kW以上)を対象としたガイドラインを策定。ガイドラインチェックシートも用意し、「地域とのコミュニケーション」という合意形成に関する項目を最初に挙げている。

「トラブルの背景にあるのは住民への説明不足だ。太陽光開発では専門外の事業者が多く、何が課題か分かっていないと思われる。そうした事業者は特にガイドラインを参考にしてほしい」(環境省環境影響評価課)

また山林を開発する際には、林地開発許可が必要になる。ゴルフ場や宅地造成、工場建設など、事業者が山林で開発する種目ごとに、最低限守るべき開発要件を規定。本戸不動坂・臼木地区、来栖ザク沢の案件はすべて開発許可を得たものだが、その種目には太陽光発電所はなく、過去に許可が降りている案件で太陽光発電に適した工事が行われているのかは、事業者の良心によっていた。

そんな中、本制度を所管する林野庁は19年12月、太陽光特有の条件に沿った開発要件を根拠法である森林法に追加。各都道府県に通知し「本通知の基準をもとに、許可申請に当たってほしい」(林野庁治山課)と対応を求めた。

あくまでもこの通知は、新たに許可申請をしてきた案件が対象である。過去に許可した案件に対し通知を遡及させるのかという質問に対して、治山課担当者は「地域の実情に沿った判断が求められるため、自治体の判断にゆだねる」とコメントしている。一方、茨城県の林政課は「通知の内容をさかのぼって適用させる考えはない」との見方だ。通知に沿った開発工事を自主的に行った事業者はまだなく、効力は発揮されていないもようだ。

林発許可は得ていても納得はできまい(来栖ザク沢)

トラブル解決は現場任せ 地域共生は夢のまた夢

FIT制度を所管する経済産業省の見解はどうか。乱開発の抑止については「電気事業法改正や技術基準を改定することで、災害が起きないように不断の努力を続けている」(資源エネルギー庁新エネルギー課)とする。地域との共生では「法令を抜きにして地元の理解は大前提」と重要性を強調したが、具体策となると、「国が直接考えるのは領域を越えていると思う。各地域が実態を踏まえて対応したほうがいい」という。あくまでも、自治体、事業者間の話し合いで解決を求めていく姿勢だ。

あまりにも悪質な事例については、認定後に違反が認められれば取り消しを行うことで、悪質な事業者に対処している。だが、その体制は万全ではない。新エネルギー課でFIT認定に掛かる人員は十数人程度で、全国で九つある各地方経済産業局にいる関係職員も各局に数人程度。その体制で全国に数十万件ある認定案件の精査を行うのは事実上不可能だ。

自治体は根拠法がないため対処することができず、国も悪質な業者を排除する対策には及び腰。本戸不動坂地区の案件のように、地域に被害が発生したところで、事業者は倒産してしまえば責任が及ぶことはない。

さらにFIT適用期間が終了する20年後、認定を受けた膨大な数の再エネ事業案件がどうなるのかは、現時点で全く不明。「少なくとも高価格での買い取りはなくなっているため、事業撤退の続出が懸念される。有害ごみとなるパネルの廃棄もままならず、ソーラー放棄地が大問題化する可能性も否定できない」(再エネ関係者)。本来守られるべき地域住民が置き去りにされているのが、現在の再エネ開発政策の実態といえよう。

新たにFIT認定される案件には厳しい要件が付けられるようになったため、事態は改善に向かいつつある。その一方で農地法改正などを通じて、さらなる設置規制の緩和を進めようとする動きも出始めた。脱炭素が環境対策の主役であり続ける限り、乱開発の火種が消えることはないのか。

掲げる理想と現実は大きく乖離している

東電再生の鍵握る柏崎刈羽再稼働 花角知事が背負う重い「公約」


花角英世新潟県知事は、柏崎刈羽原発の再稼働について、「県民の信を問う」と公約し当選を果たした。しかし、具体的にどう信を問うかは示されず、次の知事選を前にして、公約が知事の肩に重くのしかかっている。

「(福島原発事故の原因、健康・生活への影響、避難計画の)検証結果は広く県民の皆さんと情報共有するとともに、県民の皆さんの評価をいただき、納得いただけるか見極めます。その上で、結論を得て〝県民の信を問う〟ことを考えます」―。

2018年の新潟県知事選。花角英世知事(自民・公明支持)は柏崎刈羽原発の再稼働についてこう公約し、再稼働阻止を訴えた池田千賀子氏(立憲民主・国民民主・共産・自由・社民推薦)との接戦を制した。

福島第一原発事故の後、東京電力の同型の原発が立地する新潟県には、原発への逆風が依然強く吹く。再稼働について明言を避け、「県民の信を問う」とした戦術が、勝利に大きく貢献したことは明らかだろう。

知事選から約2年半。花角知事は、その「信を問う」時期を迎えようとしている。再稼働の前提条件となる国、県による安全性などの検証、確認の作業が最終局面に入ったためだ。

柏崎刈羽6、7号機は原子力規制委員会による新規制基準の適合審査に「合格」し、今年に入り保安規定も了承された。7号機は設計・工事計画も認可されている。 知事が県民の評価を求めるとした県の三つの検証委員会(①県技術委、②健康・生活委、③避難委)も検討が進む。最も重要視される県技術委は9月、福島事故の原因などについて報告書案を了承。柏崎刈羽原発の安全性確認の作業を本格化させる。

来年の前半にも全ての検証結果が示され、再稼働に向けての課題が整理、提示される見通しだ。結果が出そろえば、残るステップは県、柏崎市、刈羽村の「地元同意」だけになる。

福島事故の賠償・廃炉の負担を抱える東電は、企業存続のために年5000億円の収益確保を目指す。柏崎刈羽の再稼働は、その大前提となる。また国にとっても、「原子力政策での最優先事項」(経済産業省幹部)。非効率石炭火力のフェードアウトなど低炭素化の政策を進めるうえで、柏崎刈羽の再稼働は、安定・低廉な電力供給に欠かせない。梶山弘志経産相も運転再開を重視し、自民党県連の小野峯生幹事長は、「この半年間で経産省の柏崎刈羽再稼働への力の入れようが、大きく変わった」と話す。

国土交通省出身の花角知事は二階俊博運輸相(当時)の秘書官を務め、今も与党、霞が関に太いパイプがある。知事は再稼働について、「検証結果が出てから議論を始める」と言葉を濁している。しかし、国の意向、中央政界との密接な関係、運転再開による経済効果などを考えると、既に再稼働の意向を固めたと考えるのが自然だろう。

どう信を問うのか 戸惑う県政界関係者

では、知事はどう具体的に信を問うのか―。県政界関係者は「分からない」と口をそろえる。だが、県政与党の自民党県連には、できるだけ避けたいことがある。再稼働が「ワンイシュー」になる選挙をしないことだ。

16年の知事選で、自民・公明党は長岡市長の森民夫氏を推薦した。これに対して、原発問題を争点化したい共産・自由・社民党などは米山隆一氏を擁立。再稼働容認の考えを示した森氏は、元建設省官僚、全国市長会長などの経歴、実績を掲げながら落選。連合新潟の支持も取り付けた森氏の敗北は、県政界に衝撃を与えた。「知事選で(再稼働が)ワンイシューになったら、結果が厳しくなることは分かっている」。小野幹事長はこう漏らす。

一方、東電関係者の胸中には再稼働のモデルケースがある。新潟県中越沖地震(07年7月)後の柏崎刈羽の運転再開だ。

最大震度6強のこの地震で、柏崎刈羽原発は設計時の想定を超える揺れを観測した。3号機変圧器が火災を起こし、使用済み燃料プールの水が漏れ、微量だが放射性物質が海に流出。県民の原発に対する不信感が一気に高まった。

東電は地震で受けた被害の修理や耐震補強工事を行い、県も独自に技術委員会を設け、安全性の検証、確認を実施。それら一連のプロセスを経て、再稼働の最終判断は泉田裕彦知事(当時)に一任されることに。

中越沖地震後の08年10月の知事選で、泉田氏は再稼働への言及を避けて再選を果たした。その泉田氏は、09年5月、次の知事選(12年10月)を待たずに県議会全員協議会で同意の考えを表明している。

花角知事が判断する時期が近づいている

柏崎市・刈羽村は容認 知事同意には反発も

櫻井雅浩柏崎市長、品田宏夫刈羽村長は、既に再稼働容認の意向を示している(11月15日に柏崎市長選があるが、櫻井氏の当選が確実視されている)。花角知事が県議会の了承を得て、首を縦に振れば、再稼働は実現する。

しかし、中越沖地震後の泉田氏のように、選挙を経ずに運転再開に同意すれば、「信を得ていない」と反発は避けられない。次期知事選(22年6月)での再選にも大きく影響するだろう。

自民党県連は、泉田知事、米山知事とはぎくしゃくした関係が続き、県政は停滞した。それだけに花角知事への信頼は、「ぜひ再選してほしい」(小林一大県連政調会長)と厚い。知事だけが再稼働判断の重荷を負わないよう、「場合によっては、われわれが盾になる」(同)とも考えている。

新潟県の抱える課題は柏崎刈羽だけではない。財政難は深刻で、またコロナ禍の不況が経済、暮らしを直撃している。

そこで、こんな案がある。東北電力が主体となり、東電が出資して電力小売り会社をつくる。そこに柏崎刈羽の電気を卸供給し、県内の企業・工場などに割安の価格で販売して経済の活性化を促す―というものだ。

県民の間には、再稼働しても電気は首都圏で使われ、リスクだけでメリットがないという不満がある。国、東電がこういったプランを多く示すことが、「同意」への反発を和らげるかもしれない。

【マーケット情報/10月30日原油急落、コロナウイルス感染再拡大で売り加速】


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。新型コロナウイルス感染再拡大による需給緩和観が強まり、売りが加速した。

新型ウイルス感染拡大の第二波を受け、フランスが30日から、1か月のロックダウンを開始。ドイツも11月2日から移動制限を導入し、経済活動の縮小、および石油需要後退に対する懸念が、価格を一段と下押した。米国でも、ガソリン消費の中心地である中部で、感染者が急増している。

需要低迷の観測が強まるなか、リビアでは26日、El Feel油田のフォースマジュール解除を以って、全ての油田と輸出設備が再稼働となった。また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表する国内石油ガス採掘リグの稼働数は、7週連続で増加。相場へのさらなる重荷となった。

【10月30日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=35.79ドル(前週比4.06ドル安)、ブレント先物(ICE)=37.46ドル(前週比4.31ドル安)、オマーン先物(DME)=37.65ドル(前週比4.68ドル安)、ドバイ現物(Argus)=37.17ドル(前週比4.45ドル安)

【北陸電力 金井社長】新たな価値を創造し 地域社会との共存共栄と課題解決に貢献する


地域の産業・生活の発展を支える北陸電力。再エネを含む最適な電源構成で低廉な料金水準を実現するとともに、多様なサービスを積極的に打ち出している。

かない・ゆたか
1977年東大工学部卒、北陸電力入社。2004年原子力部長、07年執行役員原子力部長、10年常務取締役、13年副社長、15年6月から現職。

志賀 新型コロナウイルス禍における電気の安定供給に向け、どのような対策を講じていますか。

金井 電気の安定供給は、当社の使命の一丁目一番地です。安定供給確保に必要な業務運営体制を確保しつつ、電力供給の要となる発電所の中央制御室、ネットワーク部門の中央給電指令所や総合制御所などの交替勤務の職場においては、従業員の立ち入りを必要最小限にとどめたり、交代要員を分散して執務させることでほかの班に所属する従業員同士が接触しないようにしたりと、対策を講じてきました。

一方、ほかの従業員には、通勤時の混雑回避のため時差出勤や在宅勤務を推進、交代勤務者を除き当社の約4割の従業員が在宅勤務に取り組みました。加えて、会議室を執務スペースにするなどし、事務所内でも従業員同士の距離を確保するなど、できる限りの対策を講じています。

志賀 ウィズコロナ時代に合わせた働き方改革が不可欠です。

金井 在宅勤務により、通勤時間を有効利用できることや、より業務に集中できるといったメリットが明確になり、その半面、通信環境のさらなる充実の必要性など課題も見つかりました。通信環境については現在、自宅から安全に社内システムへ接続する環境を構築中です。ウィズコロナ時代において在宅勤務の実践は不可欠であり、業務の在り方を大きく変えるチャンスでもあると認識しています。定着を図りながら、柔軟な働き方や労働生産性向上につなげていきたいと考えています。

北陸エリアの電力需要 産業用中心に減少

志賀 コロナ禍による経済活動の低迷で、電力需要にはどう影響したでしょうか。

金井 北陸地域は産業用需要の比重が高いのですが、当社をはじめとする小売事業者全体の北陸エリアにおける電力需要は、第1四半期(4~6月)の前年同期比5・6%減に対し、7月には9・0%減まで減少幅が拡大しており、地域経済の低迷の長期化を懸念しています。当社の小売り販売電力量だけを見れば、首都圏エリアで新規契約を順調に拡大していることもあり、北陸エリアほど悪くはない状況です。ただ、この先何が起きるか分かりませんので楽観視はしていません。

志賀 経済産業省が進めている非効率石炭火力のフェードアウト政策についてはどう受け止めていますか。

金井 既に第5次エネルギー基本計画でも非効率石炭火力のフェードアウト目標を掲げていましたが、突如として2030年と年限を切り、非効率石炭を「亜臨界圧(Sub-C)」「超臨界圧(SC)」と型式で定義されたことに大変驚きました。例えば当社の敦賀火力1号機は、外形上は「非効率石炭火力」に該当することになりますが、建設時の設計発電効率は42・2%と、当初から超々臨界圧(USC)とそん色ない水準です。その後も高中圧タービンの改造を実施し、21年度にはさらなる効率向上のため低圧タービン改造を予定し、改造後は43%程度まで上昇する見込みです。  電力会社の社会的使命として、CO2削減とともに、低廉で安定的に電力を供給することも重要です。石炭火力は、安定供給と電気料金の低位安定に非常に大きな役割を果たしていますので、効率の高いプラントについては残していただけると確信しています。 本政策の目的はあくまでCO2排出削減であることから、石炭火力単独で検討するのではなく、大きな効果を見込める原子力の再稼働の推進と事業環境の整備についても積極的に取り組まなければなりません。原子力の再稼働には不確実な点が多く、供給力確保に責任を負う立場からは、非効率火力の削減計画策定に当たってこのようなリスクも考慮する必要があると思います。

定期点検時のタービン取り替えによる石炭火力の高効率化も(七尾大田火力2号機)

【省エネ】需要家の義務 合理的な政策を


【業界スクランブル/省エネ】

米国の一部の州や欧州などの一部の国では、エネルギー供給事業者に「需要家の省エネ義務」を課す制度がある。1994年に英国が初めて実施した制度だが、電力・ガス料金に加算して、需要家から「エネルギー事業者が実施する需要家省エネ対策費用」を徴収する制度である。各エネルギー事業者は規制当局が定めた目標省エネ量を達成するために、高効率機器購入時や建物断熱改修時の補助金、省エネアドバイスプログラムなどを実施する。国内の再エネ電力固定価格買い取り制度(FIT)も再エネ電力購入時の追加買い取り費用を全需要家から徴収しており、その省エネ対策版と考えるとイメージしやすい。また、他事業者の需要側省エネ量を「ホワイト証書(再エネにより削減される削減量証明書がグリーン証書で、省エネにより削減される削減量証明書がホワイト証書)」として取引する制度を導入しているケースもある。

国内導入是非の論点としては、国民に対する省エネの推進実務を誰(例えば経産省・環境省、省エネルギーセンターのような団体、エネルギー小売り事業者など)が担うのか。また、「短期で投資回収可能な自立的普及状態の省エネ対策」や「規制により導入義務がある省エネ対策」以外は補助金などによる経済的な支援措置が必要となるが、この追加的な費用をどう徴収(例えば、石油石炭税などを値上げしてエネルギー対策特別会計から捻出、電力・ガス購入時の賦課金としてエネルギー事業者が追加徴収)するか。国の温暖化対策目標でも省エネは重要な位置付けを占めており、省エネの実質的な目的は温暖化対策であることから、「再エネ100%のグリーン電力メニューを購入している電化住宅+EV所有」と「燃焼式熱源を使うCO2排出量の多い住宅+ガソリン車所有」などのモデルケースを比較して負担金額がどう変わるか。当該負担の差は政策的に妥当・公平と言えるかを検討しながら、海外制度の導入是非を検討し、日本にとって、合理的で政策費用対効果の高い省エネ促進方策を実現する必要がある。(Y)

【住宅】RE100に加盟 事業内容との相性


【業界スクランブル/住宅】

環境貢献を社会にアピールできる国際環境イニシアチブ「RE100」の加盟企業は世界で250社を超え、うち日本企業は38社 (2020年9月時点)あるようだ。このうち少なくとも7社は大手企業を含む住宅企業であり、その比率は高いように見受けられる。この要因について2点を述べる。

住宅に関してはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という明確な環境政策があり、新築住宅における太陽光発電の搭載比率は拡大している。FIT法での10年買い取りを超えたユーザーの余剰電力を市場より高く自社で買い取ることでユーザーへの経済的なサービスを提供するとともに、再生可能エネルギーを自社の活動に利用してRE100も実現するという「一石二鳥」が当てはまる好例であろう。

製造の観点では、住宅企業は、部品を関係企業より調達し、これを現地で組み立てるのが事業の基本である。躯体(木造、鉄骨)、外装・屋根材、内装材、設備(キッチン、バス)、電設資材など、一部例外を除いて自社では製造せず外部から調達している。RE100では調達する部品の製造時エネルギーは評価の対象外となるので、住宅企業にとっては有利になると考える。RE100企業には製造業が少ないと思われるが、エネルギーを多く使って素材を製造するような企業にとってはRE100のルール自体が偏ったものに見えるのではないだろうか。

RE100に関しては、ややひねくれた私見であるが、RE100の住宅企業がもし調達コスト優先で、海外のエネルギー効率の悪い工場で製造され、長距離輸送された部品を利用したとしても、その会社はRE100を達成できる。

国の政策では、国内産業活性化のために製造業の国内回帰を促している。それであればRE100に偏重することなく、国内の製造業を正当に評価できるような制度も加えていき、ライフサイクルでの総合的な環境評価ができるようなシステムへと進化していくことを望む。(Z)

【太陽光】環境ガイドライン 地域への周知に重点


【業界スクランブル/太陽光】

2020年から太陽光発電所が環境影響評価の対象事業となった。これに伴い、地方公共団体による環境影響評価の条例化も広がっているとされる。また、法や条例の対象にならない規模の事業における環境配慮への取り組みに向け、環境省から「太陽光発電の環境配慮ガイドライン」が公表されている。

このガイドラインは自主的な環境配慮の取り組みを促すものであり、その手順として、地域とのコミュニケーションの必要性、設計段階の環境配慮として事業の内容、立地場所や周辺環境について、チェックリスト形式でポイントが示されている。

特に、初めに地域とのコミュニケーションに関して多くの解説がなされている。市町村や都道府県などへの事前相談、地域住民などへの周知・説明についてなどだ。地域の自然環境に対する配慮内容を示すものと思い読み始めたが、まず地域の理解が必要であるという構成に納得した。

地域とのコミュニケーションが十分でない場合が多く散見されるのだろう。地域の文化や特有の動植物などの状況を知るには時間もかかるが、事業の立地検討段階での取り組みが重要であることがガイドラインから理解できる。一方、環境といえば、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた検討も具体的になってきており、FIP(フィードインプレミアム)制度の詳細な設計についても議論が進んでいる。その中には非化石電源で発電された電気に付随する価値である環境価値の取り扱いがある。

環境配慮ガイドラインの環境と、環境価値の環境を無理に関係付けるわけではないが、環境に配慮した取り組みがあっての環境価値ではないだろうか。辞書を引くと、「環境」とは「周りの世界」とある。周りの世界を広く捉えられるか、狭く捉えられるかによって、意識する「環境」は大きく異なる。地域への環境配慮が環境価値の創出を推し進め、地球全体への環境配慮とつながる貢献とはどういったものか、考えるきっかけとなった。(T)

【再エネ】帯水層蓄熱の活用 都心利用に可能性


【業界スクランブル/再エネ】

昨年から始まった国土交通省のスマートシティモデル事業は、先日追加公募の採択テーマが公表され、先行モデルプロジェクトと重点事業化推進プロジェクトが出そろった。交通の利便性、自然との共生、省エネ、資源循環などを目標に、新技術とデータを活用して都市・地域の課題を解決するプロジェクトである。

よく似た名前のコンセプトにスマートコミュニティがある。こちらは電気の有効利用に加え、熱や未利用エネルギーも含めたエネルギーの面的利用や地域の交通システムなどを複合的に組み合わせたエリア単位での次世代のエネルギー・社会システムである。

スマートシティでは、ほとんどのプロジェクトで交通・モビリティーが取り上げられているが、エネルギーを取り上げているのは全体の3分の1にすぎない。ここが資源エネルギー庁主導のスマコミと大きく違うところである。もちろん共通点はある。スマートシティはデータ活用を重視しているので、スマコミでのエネルギーマネジメントとは同じ方向性をもつ。この流れの中にあるのが「柏の葉スマートシティ」である。

それでは、再エネはどうだろう。残念ながら指で数えるほどしかない。その事例を見ていくと、宇都宮市でLRT(次世代型路面電車システム)やバイオマス発電、埼玉県毛呂山町で下水熱利用――と、どことなく国土交通省色が感じられる。

さて、大阪市がスマートシティで取り上げている再エネの中に、帯水層蓄熱という見慣れない言葉がある。調べてみると、大阪駅北側の再開発「うめきた2期」で取り上げられている。環境省プロジェクトで、地盤沈下を起こさないで地下水の熱を利用するために開発された技術である。CO2排出量の大幅な削減ができるが、東京・大阪の区域はビル用水法により規制されているため地下水利用ができない。そこで大阪市は国家戦略特別区域事業を申請し、2019年に国に認められた。大阪の国家戦略特区で成功すると、東京でも可能性が広がる。帯水層蓄熱はまだあまり知られていない再エネ技術だが、大化けするかもしれない。(S)

【コラム/10月26日】急速な電子化社会へ弱者はどうする


新井光雄/ジャーナリスト

いつごろだったろうか。デジタルデバイドなる言葉がはやった。直訳的には「情報格差」といったところで、分かり易くは、パソコンを使える人、使えない人の格差といったところだったかもしれない。さすがに、もうそんな記者は1人もいないと断言できるのだろうが、1990年代は職場にそんな記者がまだ残っていて、そんな記者のためにパンチャー、打つ担当の社員がまだいた。今や、パソコン哀史か。

このデジタルデバイドが目下、「二次デジタルデバイド時代」ではないかと思えてきた。やや大げさに言うと空前の急速な電子化社会。到底、追いついていけない人。駆使して余裕しゃくしゃくの人。その差が歴然という感じになってきている。正直、どこまで付いて行けばいいのか。この世のなかの関係を結ぶ電子、それに依存する社会はその過渡期にどんな現象を呼び起こすのか。不安が高まる。むろん、社会のデジタル化は世界の必然。なかで日本の遅れは一応、承知なのだが、この遅れている日本で、追いつけていない人が多いのも事実。

あるレストランに予約を入れた。ところがそのレストラン曰く、「ネットで予約すればドリンクのサービスがある」という。

確かにネット予約なら人件費が多少軽減できるのかもしれないが、ネット弱者はそれが面倒、出来ない場合も。そのうえに「ゴートイート」があるの、ないのと悔しいがどうしてよいのかり分からない。象徴的なのは銀行。いよいよ通帳の有料化が始まるらしい。近い将来の個人口座の電子化を促すものだという。コロナがらみの給付金などは大部分が電子化らしいが、また、それに対応できないためのトラブルやら犯罪も発生して、混乱の度は深まっている。ややこしい時代になってきた。

 一次デバイド時代はパソコンが出来る出来ない程度のことで損得、犯罪などに余り関連しなかった気がするが、二次デバイドは個人口座が簡単に絡んでくるような事件すら出てきている。悠長なことを言っていられない。電子化に伴う痛みなのだろうが、被害者的な立場に何時たつかもしれないという社会は生きにくい。多分、あと十年程度で日本全体が電子社会となって、一種の落ち着きを取り戻すのかもしれないが、その間、デジタル弱者は注意深い暮らしを迫られる。  心配なのはやはり犯罪だ。電子犯罪はアナログではないから、電子的な巨額の犯罪が成立する恐れが高いという。銀行口座がもう安心の場でなくなりつつある。しかし、電子化は避けられない。新政権の目玉政策が「デジタル庁」の新設。結構なことではあるが、出来れば、いや、是非、デジタル弱者への配慮を忘れないでほしい。 スマフォをつかえない知人が周囲にまだ いる。皮肉なことに安全なのかもしれないが。

 【プロフィール】 元読売新聞・編集委員。 エネルギー問題を専門的に担当。 現在、地球産業文化研究所・理事 日本エネルギー経済研究所・特別研究員、総合資源エネルギー調査会・臨時委員、原子力委員会・専門委員などを務めた。 著書に 「エネルギーが危ない」(中央公論新社)など。 東大文卒。栃木県日光市生まれ。

  

【マーケット情報/10月23日原油下落、需給緩和の観測強まる】


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。新型ウイルスの感染再拡大と、生産増加の予測で需給緩和観が強まり、売りが優勢となった。

世界各地で新型コロナウイルス感染の第二波が到来し、欧州やイランではロックダウンが再開。経済活動がさらに低迷し、石油需要が減少するとの見方が広がった。

一方、OPECプラスは、来年1月から減産幅を縮小予定。また、リビアの生産量は、19日時点で日量52万5,000バレルまで回復しており、来月下旬頃には日量100万バレルを超える見通し。加えて、カナダ・アルバータ州は12月から、2019年1月以降課されていた減産措置を撤廃。産油量増加の見通しが強まった。

【10月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=39.85ドル(前週比1.03ドル安)、ブレント先物(ICE)=41.77ドル(前週比1.16ドル安)、オマーン先物(DME)=42.33ドル(前週比0.08ドル高)、ドバイ現物(Argus)=41.62ドル(前週比0.31ドル安)

【石炭】SDGsでの役割 五つの視点


【業界スクランブル/石炭】

「クリーン・コール」の語呂合わせから毎年9月5日は石炭の日だ。石炭をクリーンなエネルギーとするために努力していることをPRしている。この日を中心に、全国の火力発電所や石炭関連博物館の一般公開、国際会議などが行われてきた。本年はコロナ禍のため8~10日にオンラインで開催し、主要産炭国と消費国の関係者が一堂に会した。

エネルギー移行期におけるクリーンコールテクノロジー(CCT)の位置付けについて活発に議論し、会議後のステートは興味深かった。列記する。

一つ目は「石炭は世界のエネルギーミックスの重要な一翼を担う資源」だということ。国連が目標としているSDGs達成に向け、日本や世界のエネルギーセキュリティーの確保に欠かせない石炭の重要性は変わらないという点。二つ目はコロナ禍での指摘だ。世界全体のエネルギー需要は落ち込んだが、石炭の生産・需要は堅調に推移しており、社会の緊急時におけるレジリエンスとしての重要性が再認識された。

三つ目は「再生可能エネルギーとの共存」だ。再エネが主力電源の一翼を担う2050年ごろに向けて、負荷変動調整などで支える石炭火力発電の果たす役割は大きい。また鉄鋼、セメント、化学などの社会インフラの原料となる石炭の役割も忘れてはならない。四つ目が、今後も石炭利用が見込まれるアジアでCO2のローエミッション化に貢献するCCTの関連投資を積極的に推進する必要があるという点。その際、先進国から途上国へファイナンス面の政策支援が重要だという視点だ。

そして五つ目が「世界のエネルギーアクセス改善問題と気候変動問題の同時解決」だ。SDGsの「誰も置き去りにしない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のためには、途上国を含め全ての人々に「affordable」「reliable」「sustainable」「modern」なエネルギーへのアクセスを確保することが必要だと強調。CO2削減を進めることで、社会に対して成果を示すことが重要だとまとめている。(T)