地域資源を生かし再エネの導入を拡大 カーボンニュートラルへ挑戦


【東北電力】

東北電力グループは、再生可能エネルギーをカーボンニュートラルに向けた重要な電源と位置付け、「再エネ電源の開発」と「再エネ発電事業の持続的・安定的なサポート」の両面から、再エネの導入拡大を図ることで、地域の再エネポテンシャルを最大限に活用する方針だ。

地域における責任ある事業主体として、再エネの導入拡大を図る

同社グループは、1951年の創立以来、70年にわたり、東北6県および新潟県において、豊かな自然を生かし、多様な電源開発に取り組んできた。

創立70年の経験を生かし 再エネの有効活用へ

地域の豊富な再エネポテンシャルを生かすべく、さらなる再エネの導入拡大に向け、200万kWの新規開発を目標に掲げ、積極的に取り組んでいる。今年4月末時点で持分出力を約55万kWまで積み上げている。

これまでの取り組みで得られた知見やノウハウを最大限に活用し、太陽光、陸上風力、着床式、さらには浮体式の洋上風力までを見据え、2030年以降、できるだけ早期の目標達成を目指す考えだ。

また、21年4月には、地域の再エネ電源の持続的かつ安定的な運営をサポートする「東北電力リニューアブルエナジー・サービス」を設立した。

電気事業のノウハウと、技術者などの人的ネットワークを生かし、再エネ電源のメンテナンスやオペレーション、技術者のトレーニングなどのサービスを提供する。再エネ発電事業者と協議を進めており、今後も積極的な営業活動を展開していく考えだ。

東北電力リニューアブルエナジー・サービスの基本サービス

東北電力グループは、世界的な脱炭素の動向を踏まえ、「東北電力グループ“カーボンニュートラルチャレンジ2050〟」のもと、「再エネや原子力の最大限の活用」と「スマート社会実現事業の展開」を中心に、カーボンニュートラルに向け、主体的に挑戦していく。

太陽光被害のまん延防止ならず FIT機能不全ぶりの実態


政権が再エネ拡大路線を進む中、トラブルの被害者はFITの機能不全ぶりを嘆き続けている。

エネ庁は段階的に対応を強化するが、初期に導入された不適切設備への対応は後手後手が続く。

5月末、50 kW未満の小型太陽光発電設備を巡る訴訟が、東京高等裁判所で始まった。小型太陽光を巡る訴訟で高裁まで行くのは初の例だという。原告は山梨県北杜市の住民ら。太陽光の乱開発に悩む同市の近況は、本誌6月号の特集で報じた通りだ。この訴訟のケースでは、斜面の上に建つ家を囲むように並ぶパネルにより、さまざまな悪影響が生じたと住民側が主張。事業者にパネル撤去と損害賠償を求めたが、甲府地裁での第一審では原告の請求がいずれも棄却された。この判決が高裁で覆るのか否か、注目されている。

原告は、電磁波障害や低・高周波音による健康影響、眺望障害、生活妨害など、さまざまな問題点を訴えている。例えば、パネル下で暖められた空気が流れ込み住宅内の温度が上昇。住民が5カ所で30分ごとに1年間測定したデータを提示したが、甲府地裁は信頼性に欠けると判断した。また、住民はパワーコンディショナーの電磁波が原因とみられる呼吸困難や息苦しさといった健康被害を主張。医師の診断書を提出したが、WHO(世界保健機関)などの見解を理由に、これも採用されなかった。

一方、当該設備がFIT(固定価格買い取り制度)法や電気事業法違反であるとの訴えについては、特に何の判断も示されず。そして訴訟の途中で裁判長の交代があり、後任の裁判長は原告が求めた現地視察に応じないまま判決を下した。

地裁判決は到底受け入れられないとして、原告は控訴。事業者は訴訟中にもパネルをたびたび増設しており、原告側は当初と状況が変わっているとして、高裁で改めて裁判官の現地視察を求めるとともに、気温データについても詳しく説明したいと訴えた。しかし裁判長は、証拠の検証や現地視察は必要なしと判断。このまま8月頭には判決が言い渡される予定だ。

原告側の梶山正三弁護士によると、太陽光訴訟で住民側の勝訴は1例にとどまるという。梶山氏は「FIT法や電事法で求める項目を強制する構造になっていないことは制度的な欠陥だ。例えば太陽光発電の架台については日本工業規格で定める強度の確保を求めているが、チェックするシステムもないし、違反してもFIT認定に影響がない」と強調する。

裁判に発展した設備は係争中も増設が続いた

たびたび制度見直しも 初期認定設備の是正難しく

このようなトラブルは後を絶たず、防護柵や標識がないケースもいまだ散見される。資源エネルギー庁新エネルギー課は「地元とのさまざまなトラブルが生じていることは承知している」(清水淳太郎課長)とし、これまで数回実施した法や省令の改正に加え、現在も複数の措置を準備していると説明する。

例えば20年の法改正では、全ての事業用太陽光に対する廃棄等費用の確保を担保する仕組みを措置。また10~50 kW未満の太陽光に対し、20年度から一定の自家消費比率を求めるなどの「地域活用要件」を設け、小型設備の規律強化を進める。ほかにも、FIT認定取得後の未稼働案件対策として、一定期間内に運転開始しない場合の認定失効制度を創設する。エネ庁は、特に未稼働案件には段階的に対策を講じ、措置が一定程度仕上がっているとの見解を示す。

確かに今後新たに導入される設備に対する規律は強化されているが、問題は初期の緩い網を抜けて急増した不適切設備への対応が追い付いていない点だ。

エネ庁は不適切設備の情報提供フォームを設けているが、数の多さに地方の経済産業局の人手が間に合っておらず、違法設備を放置しやすい構造が常態化しつつある。エネ庁は対応のスピードアップに向け、取り締まりに関する補助作業への予算措置を講じるものの、現状は一歩一歩の改善になってしまっていると釈明する。

例えば北杜市のトラブルは主に、規制が緩かった50 kW未満への意図的な設備分割の案件に多い。設備分割は14年の省令改正で禁止されたが、一度認定された設備への事後対応は難しいという。同一事業と思しき一区画に標識が複数枚あるような場合でも、1年さかのぼって事業者や地権者が別々であれば、別物の事業であると判断されてしまう。

2030年の太陽光導⼊⾒通し出所:資源エネルギー庁作成資料

また16年の法改正では、関連法令の遵守など、基準に適合しない事業に対する認定取り消しができるようになった。しかしこうした認定取り消しは、19年に沖縄県内の8件の太陽光設備に対し、農振法違反などを理由に取り消しとした1回だけだ。エネ庁は、取り消しに至らずとも途中の指導などで改善するケースがあると説明するが、実態はその説明通りなのか、検証が必要だろう。

人手不足改善されず さらなる対応は条例頼み

エネ庁は違反設備に対し、遡及適用も含めたさらなる規制強化や、認定失効の迅速化・強化といった対応には及び腰だ。

「再エネとの共生の在り方は地域によってさまざま。全国一律の基準を設けるよりも、地域の実情に応じた条例の策定が重要」(清水課長)との考えから、条例策定のサポートを強化するとしている。しかしFITが機能不全のままでは、自治体に負担のしわ寄せが行くだけだ。

関係者の中には、現在は未稼働案件への対策強化を受け稼働が進みつつあることや、カーボンニュートラルの盛り上がりの裏でネガティブな報道も増えていることから、トラブルが目立ちやすいと語る人もいる。そんな見解を、トラブルに悩む当事者はどう受け止めるだろうか。

政権が再エネ拡大路線を突き進む中、「温暖化ガス30年46%減目標の達成にはリードタイムの短い太陽光導入の加速が不可欠」といった声が強まっているが、トラブルを見逃してしまう構造の抜本見直しも待ったなしだ。

配電事業への新規参入を解禁 強靭化や再エネ拡大など狙う


資源エネルギー庁は6月、エネルギー供給強靱化法に位置付けられている配電事業制度の詳細設計を取りまとめた。今後、パブリックコメントを踏まえて正式決定し、2022年4月のスタートに向け省令改正などの手続きに着手する。

配電設備を活用した新たなビジネスの創出が期待される

同制度は、①供給安定性やインフラの強靱化、②電力システムの効率化、③再生可能エネルギーなど分散型エネルギーリソース(DER)の導入促進、④地域サービスの向上―といった効果を狙い、小売り全面自由化後も規制が継続している配電分野への新規参入を可能とするもの。制度により、配電事業者は、特定のエリアの配電網を一般送配電事業者などから譲り受け、または借り受けて事業を運営することが可能になる。

想定されているビジネスモデルの一つが、災害に伴い長期間の停電が想定される際に上位系統と切り離し、配電網につながる再エネやDERを利用して独立運用する「緊急時独立運用型」。事業エリア内の供給安定性や、インフラの強靱化が期待される。

もう一つが、デジタル技術による出力制御の高度化や地域のDERを活用した運用の高度化により、特別高圧の設備増強を回避しながら再エネ大量導入に貢献する「送電下位系統の混雑管理型」。再エネやDERビジネスの活性化も期待される。

配電事業者は、特定のエリアにおいて独占的にネットワークを運用する主体となるため、一般送配電事業者と同等の法的義務を負う。エネ庁電力産業・市場室は、「事業者の適格性については、参入許可段階のみならず、設備の引継計画などにより、事業開始後もしっかり確認していく」としている。

政治事情がエネ基議論に影響か 原発政策で与党内に温度差


国のエネルギー基本計画の見直し作業が延び延びになっている。5月13日に開かれた総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会の会合で、資源エネルギー庁事務局が次期エネルギー基本計画の目次といえる骨格案を提示したのが最後。理由不明のまま次回開催が5月下旬、6月初旬と次々に先延ばしにされ、結局30日に開かれることになった(23日現在の情報)。

国益の観点から立法府の役割が改めて問われている

エネルギー関係者によれば、7月4日の東京都議選や秋の衆院選などを前にして、政治的な事情が関係しているもよう。「2030年に温暖化ガスを13年比46%削減する目標達成に向け、経産省、自民党サイドは原子力発電の最大限の活用やリプレース・新増設の推進をエネ基に書き込むよう動いていたが、これに難色を示したのが党内の再エネ推進派と公明党だ。特に公明は、党の方針として『原発ゼロ社会の実現』を掲げているだけに、原発推進にはかなり神経質。これが5月以降の混迷の一因になっている」(政策事情通)

確かに、原子力政策に対する両党の方針の違いは、それぞれの政策提言にも表れている。自民党の総合エネルギー戦略調査会が5月25日にまとめた「第6次エネルギー基本計画の策定に向けた提言案」を見ると、「安全性が確保された原子力発電について、防災体制の構築・拡充を図るとともに、立地地域の理解を得ながら最大限活用していく」「リプレース・新増設を可能とするために必要な対策を講じる」などと明記する一方、「脱原発」や「原発ゼロ」といった文言は見当たらない。

これに対し、公明党の地球温暖化対策推進本部が同月28日に策定した「カーボンニュートラルの実現に向けた提言」では、原子力に関して「原発の依存度を低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会をめざすべき」だと強調。再稼働については、「原子力規制委員会が策定した世界で最も厳しい水準の基準を満たしたうえで、立地自治体等の関係者の理解と協力を得て取り組むべき」だとして、「最大限」を盛り込んだ自民との温度差を浮かび上がらせた。もちろん、「リプレース・新増設」の表記はどこにもない。

「選挙後なら公明党も……」 求められる国家戦略議論

自民党のエネルギー有力議員は、公明党との関係について「ベクトルが違うだけで意見はぶつかっていない。ていねいに議論すれば合意点は見えてくる」と指摘。その上で、「エネ基がまとまるタイミングは秋。選挙後なら公明党もとやかく言わないだろう」と、暗に衆院選との関係を示唆する。

だが現実は選挙がどうのと言っていられるほど甘い状況ではない。「46%減のためには最低でも原発23基の再稼働が不可欠だ」。政府審議会の有力委員は、こう強調する。原子力の国家戦略を巡る議論が何もない中で、現行の稼働原発9基を23基まで引き上げられるとは到底思えない。求められるのは、国家戦略を通じて政治の本気度を国民に示し、世論に訴えることだ。選挙は重要だが、それに流されると国益を見失うだろう。

全電源vs火力の神学論争再燃 省エネ法改正論が引き金に


経済産業省・資源エネルギー庁が、省エネ法の合理化の対象に非化石を加える方向で制度の体系見直しに乗り出している。

これを機に水面下で再燃しているのが、「全電源」対「火力」の係数を巡る神学論争だ。

政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向け、資源エネルギー庁が省エネ法の体系を見直す検討に乗り出している。同法が定義する「エネルギー」の対象を、非化石を含む全エネルギーに広げることが柱で、実現すれば、化石エネルギーの使用合理化を目的としてきた同法の本質が大きく変容することになる。

エネルギーの定義変更 業界内外から疑問の声

省エネ法の正式名は、「エネルギー使用の合理化等に関する法律」。石油危機を契機に、化石燃料の消費抑制を目的として1979年に制定された。同法で合理化が求められているエネルギーは、あくまでも化石燃料や化石燃料由来の熱・電気であり、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の電気や、水素・アンモニアといった非化石エネルギーは含まれていない。

これまでは、同法に基づく規制と補助金などによる支援を通じて、事業者の高効率機器・設備への投資を後押しすることで省エネを推進してきた。ここに来てエネ庁が見直しを急ぐのは、エネルギーが脱炭素化に向かおうとする中で「使用の合理化=使用を減らす」という考えに基づくこうした取り組みが、もはや時代遅れとなりつつあることを意味する。

とはいえ、「所管する省エネルギー課にとってはレーゾンデートル(存在意義)」(大手エネルギー会社関係者)ともいえる省エネ法をおいそれとなくすわけにもいかず、脱炭素に向けた「非化石エネルギーの利用促進」という新たな役割を持たせることで、同法を「延命」させようとしているとみる向きも少なくない。

有識者の一人は、「非化石エネルギーには再エネのみならず原子力も含まれるのだろうが、次期エネルギー基本計画で新設・リプレースがどう位置付けられるかもあやふやな状況下で、電化を強力に推進するような省エネ法見直しの検討がなされることに違和感がある」と疑問を呈す。

前出の大手エネルギー関係者も、「非化石の合理化(低減)と促進を一つの法律で進めようとすることに無理がある。『非化石エネルギー推進法』にでも衣替えし、現行の省エネ法は資源・燃料部に移管してはどうか」と皮肉を込めて提案する。

いずれにしても、5月21日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問会議)省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学教授)において、省エネ法におけるエネルギーの定義見直しとともに、非化石化・エネルギー転換を促す制度や、デマンド・レスポンス(DR)など需要側の最適化を図る枠組みを検討していく方向性が示され、見直しに向けた議論は着実に進み出したといえる。

今後、白熱化が必至の論点がある。次回の小委でエネ庁事務局が満を持して提案するであろう、電力の一次エネルギー換算係数の見直しだ。現行では、節電によって稼働が減るのは火力発電であるとの考えから「火力平均係数」が採用されているが、これを地球温暖化対策推進法(温対法)と同じ「全電源平均係数」に変更することが検討されようとしている。

省エネ法の新たな体系 (出展:資源エネルギー庁)

「系統経由の電気を一律火力発電所の熱効率係数で報告する現行の評価方法では、再エネ100%の電気料金メニューなどに対応できない」として、かねてから全電源平均への変更を主張してきた電力業界はこれを歓迎。

一方、都市ガス業界は「これまで省エネ対策として導入されてきたコージェネレーションや燃料電池などのガスシステムが、実態とは異なる評価方法への変更で増エネになる」と危機感を強める。

昨今のエネルギー情勢を念頭に、慎重論を唱えるのは元官僚。「今の時点でコージェネや燃料電池の評価が変わることは大きな問題。足元の厳しい電力需給状況を踏まえれば、換算係数の変更で需要側の電化が進めば、老朽火力の稼働増や温存につながりかねない」と指摘する。係数の変更は供給サイドの非化石化、安定性向上と歩調を合わせる必要があるとの見方だ。

こうした意見に対し、大手電力関係者は「電源ごとの一次エネルギー換算係数を求め電源構成比率(ミックス)を掛ければ、実態に合った係数が算出できる。省エネを推進しながら低炭素に誘導していくには、今スタートして早すぎるということはない」と反論。事態は、かつて温対法のCO2排出係数を巡って電力業界とガス業界が繰り広げた、いわゆる「神学論争」再燃の様相を呈している。

エネ庁が旗振り役 関連制度への影響も

全電源平均化に賛同する一部審議会委員の間でも、「長期的には全電源平均だが、高度化法目標を達成した時点での採用がよい」(飛原英治・東京大学大学院教授)、「このタイミングで全電源平均というあるべき姿にするのがよい」(林泰弘・早稲田大学大学院教授)といったように、導入のタイミングを巡っては意見が分かれる。

とはいえ、「全てのエネルギーが合理化の対象となるのであれば、換算係数は全電源平均とするのが妥当」とするエネ庁こそが、実は全電源平均化への強力な旗振り役であることから、既に決定事項との見方も。そうであれば、今後の議論は双方納得できるよう落としどころを探るものになるだろう。

この省エネ法上のエネルギーの定義見直しと一次エネルギー換算係数変更議論は、同じ換算係数を採用する国土交通省所管の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」にも影響が及ぶ可能性が高い。

省エネ法の目的を変えるのであれば、そこから派生した建築物省エネ法も見直しを検討し、ともに非化石エネルギーの利用促進を目指していくべきではないか。

【省エネ】経産省の組織改編 電化促進で必須


【業界スクランブル/省エネ】

2030年の温室効果ガス削減目標が13年度比46%削減に引き上げられた。また、米国は目標を05年比50~52%削減に引き上げ、米大統領の施政方針演説でも、雇用を考慮した気候変動対策に注力することを示した。英国は35年目標を1990年比78%削減に引き上げ、英国気候変動委員会の提言を踏まえた実現方策を検討している。実現不可能との声も聞こえるが、50年の脱炭素社会を担保するには、革新的技術の開発と大規模普及が極めて困難な事実を直視し、世代間の努力量の均等化のためにも、既存技術で最大限の削減努力をする30年目標の引き上げは妥当である。

英国の産業脱炭素戦略でも、「比較的低い温熱需要の電化技術は商業的に確立しており、世界の産業燃料消費量の最大半分の電化が技術的に可能」と記載している通り、さまざまな電化技術の中でも、低コストな電化技術の普及促進が重要である。英国では28年までに暖房・給湯ヒートポンプを毎年60万台設置という目標を掲げており、当該分野で技術的優位性を持つ日本の三菱電機やダイキンの機器が導入されつつある。英国気候変動委員会がガスボイラー新設禁止を提言しているように、都市ガス託送原価に組み込まれているガス需要開発費の役割は実質的に終了している。当該使途を「暖房・給湯電化補助」に変更し、脱炭素実現のために世界的に導入拡大が見込まれる電化機器の国内導入支援制度として、国内雇用拡大、国内メーカーの国際競争力向上に戦略的に活用するのも一案だ。

30年目標実現には、供給側の電力低炭素化、需要側の省エネ・再エネ導入拡大・電化に注力する必要がある。再エネが主力電源となる以上、経済産業省の組織改編も必須だ。省エネ・新エネ部に所属する新エネ課は電力・ガス事業部に再エネ政策課として移管し、供給側の再エネ大幅拡大に注力。省エネ・新エネ部の省エネ課は省エネ・再エネ課に発展させ、省エネ法を実質的な需要側脱炭素法に衣替えし、需要側の省エネ強化と再エネ導入拡大、電化推進を一体的に推進する組織に改編するべきではないか。(Y)

【マーケット情報/6月25日】原油上昇、需給逼迫観一段と強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減少の予測と燃料需要の増加で、需給逼迫観が一段と強まった。

米国とイランの、核合意復帰に向けた協議に不透明感。米国は、深刻な意見の相違があると表明した。このため、米国の対イラン経済制裁は続き、イラン産原油の供給増加は当分見込めないとの悲観が台頭した。また、米国の週間在庫統計は5週連続で減少し、2020年3月以来の最低を記録した。

供給減少の見通しに加え、燃料用需要の回復も需給を引き締めた。欧州では6月、航空機の稼働数が増加。米国では、航空機の4月搭乗者数が、過去14カ月で最高を記録した。欧米では、新型コロナウイルスのワクチン普及が進み、石油需要が増加するとの楽観が広がっている。さらに、インドでは、新型ウイルスの感染拡大が減速。各地でロックダウンが緩和され、6月中旬時点の車両の運転者数は、前月比で増加した。

一方、OPEC+は、8月に日量50万バレルの増産を検討している。原油価格の続伸と、OECD加盟国の原油在庫減少が背景にある。ただ、需要回復が増産を上回るとの見方が大勢で、価格に対する弱材料にはならなかった。

【6月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.05ドル(前週比2.41ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.18ドル(前週比2.67ドル高)、オマーン先物(DME)=73.41ドル(前週比2.45ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.57ドル(前週比2.70ドル安)

【住宅】脱炭素化の波紋 義務化の正当性は


【業界スクランブル/住宅】

4月から国土交通省で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が始まった。昨年10月に菅義偉首相が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を踏まえ、住宅・建築分野の脱炭素化を推進することが狙いだ。4月22日に行われた気候変動サミットで、日本は「30年46%減」も宣言。現行政策における住宅・建築分野の30年削減率目安は40%だが、新目標の達成には単純計算で倍近い削減が必要となる。今回の検討会の争点は、新築の省エネ基準と、住宅屋根の太陽光発電の二つの義務化だ。これまでも日本の住宅は省エネ性能が低いことが問題となっていた。元々20年に省エネ基準義務化が予定されていたが、小規模事業者の技術的対応の事情を踏まえ、先送りされた経緯がある。

新築一戸建て住宅のうち、省エネ基準に適合する住宅は80%超(19年時点)となっており、その義務化は不可能なレベルではない。4月28日に行われたヒアリングで、全国建設労働組合総連合は、経験不足の施工者が一定数存在し、教育訓練は必要としながらも、義務化に関して「問題ない」との認識を示している。

しかし、脱炭素目標の達成には、約5000万戸ある既設住宅の88%を占める省エネ基準非適合住宅の扱いが課題である。また、現行の省エネ基準は海外と比べ低すぎるため、基準自体の見直しも急務だ。

一方、住宅屋根の太陽光発電の義務化は、小泉進次郎環境相の発言でも注目されたが、FIT買い取り価格が安くなって設置が低迷する中で、義務化における消費者の負担をどう措置するのかが課題である。

省エネ住宅も屋根上設置太陽光も、従来は補助金などの促進政策が基本だった。一律義務化になると平等性・公平性の観点からさまざまな問題が出てくる。例えば、省エネ住宅の施工能力のない事業者が撤退を余儀なくされたり、太陽光の屋根上設置に不向きな立地にも設置を求めることもあり得る。二つの義務化に際し、消費者の負担や不公平性・非合理性を軽減するための、きめ細かな制度設計が望まれる。(Z)

【太陽光】低圧設備の保守 長期安定へ強化


【業界スクランブル/太陽光】

今年も台風の季節が訪れようとしている。近年、風雨災害が激甚化し、太陽光発電の事故事例も増えつつある。そうした中、政府や業界関係者は太陽光発電システムの保安強化を図るためのさまざまな取り組みを進めている。太陽光発電が主力電源として長期安定的なエネルギー供給を担うために、効果的な保安と保守の実施は、大変重要なことである。

最近の取り組み事例として、太陽光発電設備の事故報告義務の範囲が、10kW以上の一般電気工作物(50kW未満)に広がったことがある。従来、この範囲の低圧設備は、一般電気工作物であることから事故報告の義務はなかったが、近年の風雨災害などで被災太陽光発電システムが増加し、発電事業者としての自覚を促す意味でも重要な取り組みである。一般工作物として導入された低圧設備の太陽光発電設備は、高圧設備や特別高圧設備としての太陽光発電に比べて、それほど高い保安技術や対応を求められない。このため、関係者の保安への関心が薄くなる傾向があるのではないかと思われる。

保安に関してはもう一つ大きな取り組みがあった。太陽光発電システムの技術基準の改正が行われたのだ。低圧設備による発電事業を行う関係者を大いに助けてくれることになると期待している。より体系的に正確な保安知識を広めるためにも大いに役立つことであろう。こうした保安促進の取り組みや知識のインフラ整備は、適切な保守にもつながるといえる。また、こうした整備は実際に現場で電気保安の業務に当たる技術者の新たな仕組みづくりにも役立つことを期待したい。

太陽光発電システムの機会創出にもつながるさまざまな設置形態、傾斜地や水上での設置、農地での発電などへの対応のための設計ガイドラインの策定も進みつつある。さまざまな場面での太陽光発電システムの利用を想定し、より安全に設計、施工がなされ、適切な保守と組み合わせて、長期安定電源の普及につながることを期待したい。(T)

【メディア放談】CO2排出削減目標引き上げ 原発は「46%」で復活するか


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

政府は欧米と足並みを揃えるためCO2排出削減目標を46%に引き上げた。

ゼロエミ電源として原子力発電の重要性は増すが、マスコミの応援は期待できそうもない。

  

――菅義偉首相が2030年のCO2排出削減目標を、13年度比で46%に引き上げた。産業界からは異論が出ているが、マスコミは歓迎ムードだ。

電力 アメリカが気候変動問題に熱心な民主党政権に代わり、議会も民主党が上下両院で過半数を占めた。46%がかなり無理な数字なことは、経済産業省、環境省、それに政権首脳も分かっていたはずだ。しかし、アメリカの方針転換で欧米が温暖化防止で一枚岩になった。それで外交を進める上で、首相は引き上げを政治決断せざるを得なかった。

石油 問題はこれからだ。50年カーボンニュートラルを打ち出したときは、「まだ当分先の話」と切迫感がなかった。だが、30年は9年先のこと。役所はしゃかりきになって、産業界に排出削減を押し付けてくるだろう。

 長く続く低成長で、経営を維持するためコストを減らそうと省エネに取り組んで、「もう雑巾は絞り切った」という企業は多い。そういう会社は「何をすればいいんだ」とあきれ気味だ。

マスコミ 手っ取り早いのは、再エネ電源を増やして、需要家に買わせることだ。ただ、企業からすると、「一体いくら払えばいいんだ」となる。

 エネルギー基本計画を議論する審議会で出た数字だと、50年に電源を再エネ100%にした場合、需要家のコスト負担は4倍になる。再エネ50%強でも2倍だ。要するに、再エネを増やせば負担は増す。46%減を目指して30年までに再エネを増やしても、同じことが起きる。

増え続ける国の借金 再エネ支援の余裕なし

――再エネの価格を引き下げるには、政府の財政支援が欠かせない。でも、国にそんな余裕があるとは思えない。

ガス 財務省の発表によると、今年3月末の時点で国債や借入金など「国の借金」は、1216兆円だ。アベノミクスで大胆な財政出動を始め、新型コロナ対策でさらに膨らんだ。もう感覚がまひしたのか、新聞もあまり取り上げないようになった。

 これから団塊の世代が「後期高齢者」になる。社会保障費が減る見通しはない。かといって、経済成長が伸びず、格差社会が広がる中、消費税や所得税の増税は難しい。環境税は入れられるかもしれないが、再エネを主力電源にするだけの規模の財源になるとは思えない。

石油 産業界にとって、脱炭素化は存続が危ぶまれるような膨大な費用がかかることだ。経産省はトランジション・ファイナンスを普及させて、企業に資金供給をするとしているが、あまり期待はしていない。

マスコミ 欧米の金融機関は、脱炭素をビジネスにしようとしている。政治を動かして、自分たちに都合のよい国際ルールをつくってしまう。日本の46%はどう考えても無理。また彼らのいいなりになって、30年に大量のクレジットを買う羽目になるかもしれない。

―すると、やはり原子力に期待するしかない。だが、相変わらず産経を除くとマスコミの「応援」は期待できない。

電力 朝日、毎日、東京ははじめから諦めている。本来ならば、日経に期待したい。だが、もう何回もこのコーナーで話題になったが、日経は「再エネ盲従・反原発」新聞となりつつある。

ガス 日経も現場の記者は、再エネだけで脱炭素が難しいことは分かっている。ところが、編集局の幹部クラスはそれを無視する。環境省の首脳はそれがよく分かっていて、書かせたいネタがあると直接、編集幹部に連絡する。それで幹部から記者に「こう書け」と指示がくる。

マスコミ 46%が打ち出されて、さすがに日経も再エネだけでは無理だと思ったようだ。普段は再エネしか眼中にない気候変動担当のHエディターが「脱炭素電源、6割視野に」(5月14日)で原子力について触れている。

 H氏も46%達成が原発抜きでは難しいことは認めている。一方、廃棄物とコストで「課題山積」としている。確かに、高レベル放射性廃棄物の処分は難題だ。北海道の寿都町、神恵内村が文献調査に応募したが、これは「長期戦」で取り組まざるを得ない。

 しかし、原発のコストについては、何を基に書いているんだと思った。単に再エネと原発の発電コストを比べても意味がない。再エネ普及拡大で問題なのは、太陽光などの単体の発電コストではない。不安定電源のため調整電源や系統の整備などが必要で、発受電システムの全体コストが上がってしまうことだ。

企業泣かせの日経新聞 連日の「SDGsセミナー」

電力 H氏は、再エネを「最も安価な電源になりつつある」とし、原発のコストについては「競争力が低下している」という。確かに福島事故で膨大な安全対策費用がかかっている。だが、それでも、お天気任せで低稼働の再エネを無理やり大量導入するよりも、はるかに安いコストで電力供給ができる。きちんと説明すれば、そんなことは小学生でも分かる。

――ところで最近の日経は、自社が主催するSDGs関連のセミナーなどの広告がやたらと目立つ。

マスコミ セミナーは無料だが、企業や団体からはしっかり協賛金などを取っている。経団連加盟企業でSDGsに賛同しない会社はない。でも、いくら一流企業でも予算に限度がある。毎回、日経にお付きはできない。それで「今回は見送りたい」と言うと、新聞の紙面で意地悪をされるらしい。

――それじゃ、高杉良の経済小説『濁流』(講談社文庫)の「帝都経済」誌と同じ商法だよ。

【再エネ】地熱発電への期待 伸び悩み打破なるか


【業界スクランブル/再エネ】

菅義偉首相による2050年カーボンニュートラル宣言以降、再生可能エネルギーへの期待が高まっている。再エネの各電源には、それぞれ特徴がありメリット、デメリットがある。各電源の特徴を見据えて推進を図る必要がある。

その中で期待したい電源が「地熱発電」である。世界指折りの火山国である日本は、世界第3位の地熱資源量を誇っている。18年策定の第5次エネルギー基本計画で、地熱は天候の影響を受けない「ベースロード電源」であると明確に示された。蒸気や熱水が主な資源であり、CO2の排出量が極めて少ないクリーンな電源である。また、いったん運転が開始されれば発電コストが安いなどさまざまなメリットがある地熱は、わが国としてもぜひ推進させたい電源である。

しかし、地熱発電は17年長期エネルギー需給見通しで提示された30年エネルギーミックスでの約150万kWに対し、現状は60万kWの導入にとどまっている。地熱が伸び悩んでいる理由を挙げてみる。

地熱資源は地下の割れ目沿いに存在するが、ボーリングで割れ目を通すのは綿密な調査や高度な技術を要し時間やコストがかかる。地熱資源の多くが国立・国定公園内に存在しており、厳しい規制への対応に時間を要する。また、温泉との調整に苦心している。

こうした障壁が存在する地熱であるが、活気づいているのを感じる。新エネルギー財団のホームページに掲載された「地熱エネルギーの開発・利用推進に関する提言」では、新規地熱開発と既設地熱発電所に分けたそれぞれの政策提言が行われているなど、業界団体の動きが活発化しつつある。

河野太郎・行政改革担当相率いる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」は、日本地熱協会の要望を受けて、環境省や経済産業省と規制緩和に向けた丁々発止のやり取りをしている。また、NHKでも「世界が注目 地熱発電」という特集が放送された。これらの取り組みが地熱発電の促進につながることを大いに期待したい。(F)

交通や通信とセクターカップリング統合エネルギーマネジメントの実現


【リレーコラム】浅野浩志/東海国立大学機構 岐阜大学高等研究院特任教授

ちまたではエネルギーの地産地消とやや文学的な表現を使うが、電力は地産地消可能な農産物とは異なることは言うまでもない。規模の経済と範囲の経済を生かし、全国的な電力ネットワークで融通・輸送され、消費される。住宅用太陽光発電(PV)システムなど分散型資源も大規模電源とともに電力系統に連系している限り、電源と需要地を含む電力プールとして、最経済かつ安定供給を維持しながら、電力潮流は制御されている。PVを設置し、大容量蓄電池が搭載された電気自動車を所有できる、ごく限られた階層では自立エネルギーシステムを実現できているかもしれないが、途上国を含むグローバルに普及するモデルではない。

それよりは、多様な地域環境で暮らしている人々とインクルーシブ(包摂的)な社会を目指すなら、狭いスマートコミュニティーではなく、地域(基礎自治体)間で再生可能エネルギーを融通しあう地域間連携システムを構築していくのが現実的だろう。これによりローカルはもちろん、日本全体の脱炭素社会への移行を容易にする可能性がある。筆者は、戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム」でそうした未来型エネルギーシステムの社会実装を目指した研究開発を進めている。まずはスマートメーターデータに代表されるデジタルデータも活用した地域エネルギー需給データベースを整備するところから始めている。

ICTが電給制御を効率化 

洋上風力に代表されるように地域に偏在する電源を自治体の枠を超えて広域で運用し、地元密着の小規模電源はローカルに消費される階層型グリッドシステムに移行していく。分散型エネルギー資源の普及に伴い、エネルギー需給の地点別・時間帯別価値を可視化し、プロシューマ間で自由に取り引きし、エネルギーシステムとしては自律分散的に運用される姿を長年研究し、提案してきた。ICTの急速な進展とさまざまなプラットフォームを通じた電力取引(市場)環境の整備によって、ようやく実現の目途が見えてきた。

サイバーセキュリテイーを確保するのは言うまでもなく、激甚災害に備えた安全なコミュニティーの維持に高信頼度のエネルギー供給は欠かせない。最も重要なライフラインである電力システムは、交通部門や通信部門、公共部門を核としたセクター間で連携するセクターカップリングによって、日々の暮らしから雇用の場である産業を下支えする地域社会サービスを提供していくのが望ましいのではないか。

あさの・ひろし 東大大学院修了。博士(工学)。現在、電力中央研究所研究アドバイザー、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム「IoE社会のエネルギーシステム」サブ・プログラムディレクターを務める。

次回は電源開発執行役員の中山寿美枝さんです。

【石炭】日本に良い参考 ポーランドの政策


【業界スクランブル/石炭】

2018年末にCOP24を開催したポーランドは、脱炭素社会の形成を進める欧州にあって石炭資源に恵まれており、いかに脱炭素化を行っていくか世界中から注目されている。その方法は他国同様、再生可能エネルギーの拡充や原子力の推進にあるが、エネルギーセキュリティーを確保しながらどう達成するかは容易ではない。

ポーランドは49年に全ての国内炭鉱を閉山することで8万人の労組と合意しており、①送発電インフラ網の整備、②再エネ・コージェネなどの進展、③エネルギー効率の向上、④エネルギー経済市場の進展―に配慮した30年必達の「エネルギー計画」の実施が不可欠として公表中の案に対してパブリックコメントを募集中だ。

現在の80%以上の石炭依存率も60%以下とすべく、CCUS(CO2回収・利用・貯留)に配慮した高効率の石炭火力の導入も検討しており、日本技術への関心も高い。ロシアからの天然ガス輸入にこれ以上頼らないために不可欠としている。

しかし、EU全体の低炭素化の動きや金融機関の締め付けによりポーランドのエネルギーコストは他の加盟国の2倍以上、1000kW当たり50ユーロに及びつつある。EUが15年に公表したものに、ポーランドは最後まで反対し、独自に気候変動に対応し70年までに目標達成するとした。上記計画の完遂には7000億~9000億ユーロが必要であり、EUの資金充当が不可欠とみられている。

ポーランドでは現在約16%のグリーンエネルギー産業を育成しているという。例えば炭田地域のシレジア地方に電気自動車工場を誘致し、雇用創出を図るとしている。わがままに映るポーランドだが、環境に配慮せずに経済成長したEU諸国に対して「公正移行」を唱えるものとなっている。現在世界の各方面で日本の石炭産業は批判にさらされているが、ポーランドのエネルギー政策の取り組みは参考になるところが大きいと思う。(C)

【横山信一 公明党 参議院議員】常に人々の代弁者でありたい


よこやま・しんいち 1959年北海道生まれ。北海道大学大学院博士課程で単位取得。90年北海道庁入庁。道議会議員(2期)を経て、10年参院選初当選。参院2期、農林水産大臣政務官を経て、19年から復興副大臣を務める。

復興副大臣として積極的に携わる、「福島イノベーション・コースト構想」。

国会議員唯一の水産学博士として、海洋プラごみ問題の解決にも尽力している。

生まれは北海道帯広市だが、大学入学までの少・青年期を過ごしたのは石狩町(現石狩市)。漁業者や多種多様な海産物が身近な環境で育ち、北海道大学水産学部に進学した。1990年4月、北海道庁に入庁し網走水産試験場に配属。多くの水産業者と関わりながら水産に関する知見を深めた。入庁後も水産学の勉学に励み、92年3月には水産学博士号も取得した。さらなる知識を求め、98年にはアメリカ海洋漁業局で在外研究を行う。

政治の道へ転向するきっかけは、意図しないものだった。親交があった地方議会議員から後任になってほしいと直々に指名があったのだ。周囲からの強い後押しもあり出馬した、2003年の北海道議会選挙で見事トップ当選を果たすと、4年後の2期目も当選。「地方の声の代弁者」として進出した国政でも、参院選に2期連続で当選した。その間数々の要職を歴任し、現在は復興副大臣として、被災地の復興政策などに関わっている。

周囲に推される形で進んだ政治の道は、途切れることなく今年で18年目を迎える。政治家として活動するようになってから特に大切にしてきたことの一つが、「一人一人の声に耳を傾けること」だ。

「人それぞれの考えや主張について、まずはしっかりと聞くことに務めてきた。自分の意見があっても、決して押し付けたりはしない」

政治家とはさまざまな人の声を聴き、社会をより良い方向に変えていく仕事であると考え、常に代弁者であることを心掛けてきた。そうした姿勢が周囲の信頼を集め、政治家として担う役割を大きくしていった。

被災地ならではの産業基盤構築へ 「海ごみ法」改正により脱プラも推進

現在は、福島県・浜通り地域を中心に新たな産業基盤の構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」に力を入れている。ロールモデルとしているのが、第二次大戦時「マンハッタン計画」のプルトニウム製造拠点となった米ワシントン州のハンフォード・サイトだ。当時の汚染水などのずさんな管理により、現在も環境再生事業が続いている。

それにもかかわらず、ハンフォード・サイトでは産業が活発で人口も増加している。各機関・団体が相互に協調しながら都市形成を推進し、住民との信頼関係が築かれているからだ。その要となるのが、環境再生事業などを主導する国立パシフィックノースウェスト研究所(PNNL)だ。横山氏もその成功例から学ぶべく、PNNLで最高科学者を務めた大西康夫氏と意見交換を重ねてきた。

「ハンフォード・サイトに倣い、司令塔として国際教育研究拠点の構築を目指している。そして、意見交換を通して浮かび上がってきた研究テーマの一つが『放射線化学』です」

今、世界中の放射線化学の研究者は福島第一原発に注目している。実験室では決して得られない材料が事故炉の中にあり、その物性を調べることが新たなイノベーションにつながる可能性があるからだ。

「悲惨な原発事故を反省し、二度と起こらないよう対策するのは当然です。しかし、ネガティブな部分だけに目を向けることが未来につながるわけではない」。国際教育研究拠点を通じ放射線化学を地域振興の材料にすることは大きな目標の一つであり、復興副大臣を退任した後もフォローを続けていくという。

もう一つ、積極的に関わっているのが「脱プラスチック(脱プラ)」だ。脱プラに関わるようになったきっかけは、山形県酒田市の飛島訪問だという。飛島は、海岸漂着物などの処理を推進する「海岸漂着物処理推進法(海ごみ法)」立法のきっかけとなった場所で、現在も大量のごみが漂着する。

脱プラに関する政策の一つの成果が、19年の「海ごみ法」改正だ。この改正により、回収が困難なマイクロプラスチックに関する規制が加わった。さらに「プラスチック資源循環戦略」や、「プラスチック資源循環促進法」閣議決定につながる流れも作った。

脱プラは世界的な課題の一つであり、G7やG20でも議題に上っている。しかし現状は、まともなごみの回収システムすらない発展途上国も多く存在する。

「日本は3Rのうちリユース、リサイクルに関しては世界でも進んでおり、廃棄物を焼却して得た熱エネルギーを回収するサーマルリカバリー(TR)についても他国にはない技術がある。脱プラや温暖化対策が全く進んでいない国に対していきなり3Rを求めるのは難しく、『その前段階としてのTRの提案』など、もっと国際社会でアピールしていく必要がある」と主張する。

途上国には燃やすしかないプラごみが大量に存在する現実がある。脱炭素社会という世界的目標のために、わが国の技術協力を促進し、途上国のエネルギー効率化やCO2削減に貢献していく構えだ。

【石油】脱炭素化の担い手へ 炭素価格の導入を


【業界スクランブル/石油】

石油連盟は今年3月、政府の方針を踏まえて、「石油産業のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)」を発表している。

これによると、石油産業は、これまでの低炭素化の取り組みに加え、CO2フリー水素、合成燃料、CCUS(CO2回収・利用・貯留)など革新的な脱炭素技術の研究開発と社会実装に積極的にチャレンジし、業界として社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献するとしている。

業界として、将来のジリ貧を回避するために、従来の事業基盤の転換・拡大に加えて、むしろ自ら「脱炭素の担い手」を目指すとの決意表明であろう。

確かに、業界には、製油所における水素の製造・取り扱いへの熟練、基地や給油所など既存インフラの活用といった点で、水素や合成燃料への技術的優位性がある。ENEOSは燃料電池車向けの水素ステーションを積極的に展開してきた。特に、既存自動車や代替燃料の決め手に欠く航空機や船舶の燃料にも利用可能なカーボンフリー水素起源の合成燃料には期待したい。

また、上流では、CCS(CO2回収・貯留)は油田生産の逆の工程であるし、EOR(石油増進回収)といった増産技術への活用も可能である。ENEOSにはベトナムや米テキサス州での実績、石油資源開発があり、出光には苫小牧での経験もある。化石燃料に依存せざるを得ない需要が残る以上、貯留技術は必要不可欠だ。

やはり問題は、コストである。原理的には解明されていても、技術開発で劇的にコストを下げなくては社会実装は無理である。

ある程度までコスト低減が実現すれば、あとはカーボンプライス(炭素価格)でギャップを埋めることができる。その意味で、石油連盟が炭素価格導入を要望する日が早く来ることを期待したい。

同時にこのことは、石油をはじめとする石炭、ガスなどの化石燃料がいかに効率的で経済性があったかを、逆に、脱炭素社会がいかに高コスト社会になるかを示している。(H)