膨らむFITの国民負担 洋上風力で一段増加も


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

消費税には「所得の少ない人ほど重くのしかかる逆進性」(共産党)との批判がある。こちらはどうだろう。日経3月25日「再生エネ買い取り増加、家計負担が年1万円超」である。

「再生可能エネルギーの普及を支える国民負担が膨らんでいる。再エネ電力の固定価格買い取り制度(FIT)にもとづく家計負担は2021年度に1世帯あたり1万476円となり、20年度と比べて1割強増える見込み。太陽光発電などの導入拡大に伴って負担が増す」「加えてこれから新規に導入される洋上風力発電などの分が上乗せされるため、国民負担は一段と増加が見込まれる」とある。

記事の通り「経済産業省が24日発表した」内容だが、他メディアはほとんど報じていない。当たり前の負担と考えているのか、関心がないのか。頼りない。

同紙4月3日夕刊コラム「海の水辺の散歩」では、外部筆者の川辺みどり東京海洋大学教授が再エネの現状に切り込む。ほのぼのしたコラムのタイトルとは対照的に、見出しの「福島沖の洋上風力発電、撤去、消える復興の夢」との文言に事態の深刻さが漂う。

問題とされたのは、政府などによる「福島沖洋上風力発電実証事業」だ。「世界初の複数基による浮体式洋上風力発電システムの安全性・信頼性・経済性の実証や、関連産業の集積促進」を目指し、「楢葉町沖合に3基の浮体式洋上風力発電施設と1基の変電機が設置された。ところが昨年12月、政府は不採算を理由に、設置した施設を21年度に全て撤去すると決めた」という。

「投じられた国費は約600億円」と巨額だ。なのに「県や自治体が切望した自然エネルギーも地元の雇用も産業も生み出されなかった」。大失敗である。川辺教授は「事業の検証を望みたい」と述べる。当然だ。公金をドブに捨てて知らぬ顔の半兵衛はない。

反原発運動家に転じた中川秀直・元自民党幹事長のインタビューに託して「再エネ100%」をアピールするのは毎日だ。4月2日(夕刊)「特集ワイド」は、中川氏が「政界引退後の今、『原発再稼働は犯罪的。亡国の政策だ』とまで言い切る」と紹介する。

「たまっている放射性廃棄物だけでも広島・長崎の原爆数百万発分に相当する。原発は日本最大の危険物」「もうチェルノブイリのような巨大な石棺を造って建屋全体を覆うしかない」。中川氏の主張というが、理解に苦しむ。科学的には、放射性廃棄物は原爆のようには爆発しない。石棺で覆うと安全性が向上する根拠もない。

締めはこうだ。「再生可能エネルギー100%になれば、化石燃料を輸入する年間25兆円が不要、国富は海外に流出しない。設備投資や地域産業の活性化で日本経済は大発展する」。福島沖の風車についてはご存じないらしい。

朝日4月1日夕刊のコラム「取材考記」も原子力を疑う。「『脱炭素社会に不可欠』と主張する前に―、原発の負の側面、国は直視すべきだ」との見出しで、経済部の記者が「本当に原発は不可欠か」と書く。理由は東京電力や関西電力で不祥事が続いていること。「原発に関わる問題がいまも後を絶たないのはなぜなのか。総括ができていない」となじっている。

ただ、「負の側面」は何にでもある。再エネも、火力も。メディアの負の側面さえ指摘されている。完璧なエネルギー源はない。負の側面を減らしつつ、補い合う。切り札は多い方がいい。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

変動価格時代の到来 ヘッジ取引の普及推進を


【オピニオン】三田真己/アーガス・メディア・リミテッド日本支局代表

今年1月、日本卸電力取引所のスポット取引価格が高騰したことが大きな話題となった。この高騰によって大きな再販差損を被った小売り事業者もあると聞く。これらのことを受けて、電力市場自由化の制度の在り方や、そもそも自由化することの問題点を指摘したり批判したりする意見が多く聞かれた。

ただ、対案なき指摘や批判は必ずしも建設的なものとはいえないのも事実である。世界の資源市場は統制的な構造から変動的な構造に変化している。特定の国や企業が仕掛けたのではなく、市場に参加する国や企業の大多数が変動的な市場がもたらすメリットを求める結果に起きている変化である。

統制的な市場においては価格が大きく変化しないというメリットが期待できる。しかし価格や生産は統制できたとしても、その商品を求める動機、すなわち需要を統制することは困難である。そのため、価格と需給の乖離が常で、多くの場合その市場に参加する企業の成長を阻害する。

一方変動的な市場においては、価格と需要と供給それぞれが互いに呼応しながら変動して、市場を持続的に成立させる。各企業はそれらの変動要因を見ながら、新規参入や、追加投資、あるいは事業縮小や撤退などの手段を採ることで事業運営の最適化を図る。そうした企業努力は、技術革新や品質向上あるいは価格低減といったメリットを需要家にももたらす。

しかしながら、急激な価格変動にただ身を委ねていては、企業経営が困難になるほどの費用負担を強いられることもあり得る。このため、各企業が価格変動に対して何らかの事前対処を施しておくことが強く望まれる。

その事前対処として、先物契約やスワップ契約などヘッジ商品の活用が、おそらく最も容易かつ効果的な手段である。そうしたヘッジ商品は、将来の価格を今時点で確定することを可能にする。つまり、将来の価格変動リスクから、自らを解放するために利用される保険商品である。社会から事故を根絶するよりも個々が保険に入る方が容易であろう。

今日、日本国内においても将来の電力価格を固定するための先物契約やスワップ契約が国内外の取引所や仲介事業者によって提供されている。また、燃料価格については、国際市場においてそれらの価格を固定するヘッジ商品が盛んに取引されている。しかし、日本企業によるこれらの活用は依然として少ないのが現状である。

わが国の電力市場は全面自由化によって変動価格が所与の市場に変化した。その市場で価格の急騰が起きたわけだが、これは価格が需要と供給に正常に呼応した結果でもある。完全自由化からわずか5年、制度が配慮に欠けているのも事実ではあろう。しかし、市場原理がもたらす個別事象について感覚的に議論することに終始せず、ヘッジという保険の活用について理解と実践を深めることが望まれる。

みた・まさき 米マグローヒル社を経て2003年英アーガス・メディア・リミテッド入社。
各種エネルギー市場に関わるコンサルティング、より効率的な市場形成の提案などに携わる。

EV導入支援事業をスタート グループを挙げ脱炭素社会構築へ


【中部電力】

脱炭素社会を実現する上で、走行時にCO2を排出しない電気自動車(EV)が注目されている。中部電力グループ・中部電力ミライズは2020年12月25日、トヨタ自動車と提携してEVの導入支援を行うサービス「TOYOTA GREEN CHARGE」を開始している。

工事も中部電力グループが担当する

サービスは、トヨタ自動車が販売する超小型EV「シーポッド(C+pod)」を導入する法人向けに、①充電設備の工事、②充電状況を見える化するシステム導入、③CO2フリーメニュー―などEV導入に必要な各種サービスをワンストップで提供するもの。全国各地でサービス導入が進んでおり、現在の対応車種は1車種のみだが、今後は順次拡充を図っていく。

充電設備工事は、ユーザーの受電・充電設備、電線敷設が含まれ、それら設備は中電ミライズが保有する。料金は月額料金を半年ごとにまとめて支払う形式のため、ユーザーには充電設備の工事費用を負担することなく、EVを導入できるメリットがある。

充電状況などを可視化 CO2フリープランも用意

各種サービスについても、ユーザー専用サイトで充電量、電気料金の確認に加え、ガソリン車との燃料費比較、CO2排出量の計算などを閲覧可能にした。こうしたデータは月に1回所定のメールアドレスへ通知され、専用サイトではメーターの通電制御機能によって充電時間をユーザーが設定できるタイマー機能も搭載している。

あらかじめ充電スケジュールを決めておくことで、基本料金の引き上げにつながる電力デマンド超過が回避でき、安価な夜間電力を効果的に活用することでランニングコストの低減にもつながる。

またCO2フリー電力充電は、走行距離相当分のCO2フリー電力が提供される。東京電力エナジーパートナー(EP)、関西電力のCO2フリー料金プランへの加入もできるが、中電ミライズと契約した場合は充電器の導入台数に応じて充電電力分の電力料金を割引するサービスも実施している。

担当者は「今後もお客様や社会の課題を解決する新たな価値の創出・提供を目指すとともに、脱炭素社会の実現に向けた取り組みをより一層推進していきます」と話している。EVなどモビリティーの電動化や再生可能エネルギーによる充電で、脱炭素社会の実現を目指している中部電力グループ。3月17日からはEVやプラグインハイブリッド(PHEV)を保有する一般家庭に向けた同様のサービスを展開中。グループを挙げてEV社会を支えていく構えだ。

「負の遺産」抱えるバイデン政権 イラン核合意への復帰は楽観できず


【論点】米国の中東政策/須藤 繁 帝京平成大学客員教授

トランプ前米大統領はパレスチナ和平プロセスを無視、イランとの核合意離脱など中東外交で「負の遺産」を残した。

新大統領は政策の再構築に乗り出すが、域内の勢力均衡は大きく変化しておりイランとの関係修復は困難が伴いそうだ。

米国トランプ前大統領は、第二次世界大戦以後、歴代の大統領が世界を導くために採用した外交理念の全てと決別したといわれる。その理念とは、大きくはリアリズム(パワーバランスを維持して影響力を行使)とリベラリズム(国際協調の推進により国際秩序を実現)に収斂するが、トランプ政権は経済的利益に焦点を当てるだけで外交政策の理念をほぼ完全に無視した。

そのトランプ政権は、いくつかの「負の遺産」というべきものを遺した。環境政策ではパリ協定からの離脱が挙げられる。

外交活動の相手は責任ある政府・国家であり、感情のある国民である。トランプ政権の外交政策の負の遺産には、米軍基地の撤退、貿易合意からの離脱があり、中東政策の誤りが挙げられる。

パレスチナとの仲介を放棄 イランへの対抗路線構築

中東和平に関しては、米国はパレスチナの仲介者の役割を果たしてきたが、トランプ政権はその枠組みを完全に放棄し、和平プロセスの一切を無視した。パレスチナ人は弱体で当事者たりえないとし、イランと対抗するため、スンニ派アラブ諸国をイスラエルと協力させる路線を構築しようとした。

在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転し、パレスチナ難民への資金拠出を停止し、イスラエルによるゴラン高原編入を認めた。さらに、西岸地区の一部併合の道筋を描き出したのもトランプ政権の4年間で行われたことである。

イランの核協議は、オバマ政権下の2015年7月14日に最終合意された。核合意はイランに対し制裁解除と原油輸出の再開を保証し、テロ支援につながる外貨を確保させるものであり、イスラエル、サウジアラビアを筆頭にアラブ諸国は大きく反発した。中でもサウジは合意の翌日、核合意への対応としてイランが支援するイエメン・フーシ派への攻撃をエスカレートし、拠点を奪還している。

米国は18年5月イラン核合意に関しては一方的に離脱し、制裁措置を強化した。イランは核合意で定められた限界を超える行動を取り、イラク、シリア、イエメン情勢に介入することで、中東のパワーバランスを変化させた。

トランプ政権の4年間で起きたことは、イスラエルと湾岸アラブ諸国の連携強化であった。中でもトランプ大統領が初めて外遊先として選んだサウジは、米国製先端兵器を大量に導入し、反イランで連携することを通じてイスラエルと良好な関係を構築した。

その見返りというべきか、トランプ大統領は記者殺害への関与が疑われたムハンマド皇太子を擁護し、イエメン内戦に対する同国の軍事介入を全面的に支持した。

一方、イスラエル、UAE、バーレーンは20年9月15日、米ホワイトハウスで国交を正常化させる合意文書に署名した。これらの動きは米国の反イラン包囲網の拡大を意味し、安全保障の分野で中東地政学の枠組みは大きく変化した。

こうした米国の対応に対し、イランは軍事力の強化で対抗、19年秋までに無人機(ドローン)および巡航ミサイル攻撃でサウジの石油関連施設を攻撃できるまでに戦闘能力を整備した。

また米国の離脱後、イランは核合意を破る核兵器開発に着手し、本年1月には短期間で核兵器に必要な90%レベルに引き上げられる20%レベルへの核濃縮を始めた。これらは地域内のパワーバランスの均衡を求めてのものである。

バイデン政権にとっては核合意への復帰が対イラン政策の軸になるが、大統領はEUを仲介させる条件でイランとの対話を用意することを表明している。米国は本年6月のイラン大統領選挙で保守強硬派の勝利を阻止したい考えであり、その点では対イラン経済制裁を解除してビジネス関係を再開したいEU諸国と思惑が一致する。

バイデン大統領がイラン核合意への復帰の可能性を示唆する一方で、イスラエルによるパレスチナ地域の入植活動やサウジにおける人権侵害を問題視していることも重要である。

バイデン政権のイラン政策は核合意への復帰が軸になる

バイデン政権が抱える難題 中国ファクターと核合意

それでは、こうした基本構造の中で、バイデン政権は今後どのようなイラン政策を取るのか。具体的な方向はまだ確定しないものの、二つの出来事を踏まえ、事態の推移を注視したい。

その第一は中国ファクターである。3月27日、イランのザリーフ外相が中東歴訪の一環でテヘランを訪問した中国の王毅外相とイラン・中国包括的協力協定に署名した。協定は16年1月に発出した包括的戦略パートナーシップ共同宣言に基づくもので、経済や文化などの分野で今後25年間にわたって両国関係を発展させる。

協定は、イランに中国からの軍事・政治面での後ろ盾と原油輸出を通じた外貨獲得という経済的利益をもたらす。協定が20年6月の閣議で承認されていたにもかかわらず、署名が先延ばしされた理由には、米国大統領選挙の結果に配慮したことが考えられる。イランは、米国からの制裁を無効化する手段として、今回、中国への接近という保険的措置を講じた。

第二は、4月6日にイラン核合意関係国がウィーンで開催した合同委員会が二つの専門部会の設置を決めたことだ。専門部会は、イランによる核合意の順守と米国による対イラン制裁解除に向けた措置を分担して議論する。米国とイランは、欧州を介してようやく間接協議を実施できるようになった。

専門部会の設置により、プレーヤー全員がステージに登場しつつあることは歓迎される。他方、地域の軍事バランスが18年当時とは大きく変わり、イラン側がこれを是正するには弾道ミサイルの開発に取り組まざるを得ない事情を抱えた以上、核合意への立ち戻りを楽観視することはできない。

すどう・しげる 1973年中央大学法学部卒。石油連盟、三菱総合研究所、
国際開発センターを経て2011年帝京平成大学教授。21年から現職。専門は石油産業論。

動き出した需給調整取引の課題 改革の鍵は「需要側資源の参加」


【識者の視点】西村 陽/大阪大学大学院招聘教授

全国の一般送配電事業者の調整力入札の場として、需給調整市場が開設され取引が始まった。

より低廉に供給信頼度を高めるかは、蓄電池など需要側資源の参加をいかに促せるかにかかっている。

一般送配電会社9社と電気事業連合会から枝分かれした送配電網協議会が3月17日、電力需給調整取引所の開設を発表。31日に初めての調整力入札が行われ、約3000万kWが落札した。

この需給調整市場は、一体的に運用されてきた発電・送配電(系統/需給運用)・小売りが、分離された電力システムへと移行する過程で必要になるものである。例外的に需給調整機能と前日・当日市場が一体運営されている米国などのパワープール地域では、1日前市場に入札された発電能力の中から信頼度維持用の⊿kWを供出してもらう発電機が抜き出され、発電事業者に支払う対価も自動計算される(相互最適化=コ・オプティマンゼーション)ので、はっきりした取引は存在しない。

一方、欧州のようなバランシンググループ(BG)制度で、発電・小売りと系統・需給運用者の間に分担点(いわゆるゲートクロージャー)がある場合は、両者間の取引が必要になる。欧州の場合、通常は調整速度別にプライマリー、セカンダリー、ターシャリーといった枠が設定され、多くは週単位で入札・契約が行われる。

日本もBG制度を採用しているため、同様の取引が必要となる。応動時間に応じた各種商品の取引が順次始まるが、今回始まったのは最も低速の三次調整力②(再エネ予測誤差補正の30分調整力)で、1日を八つのブロックに分けた3時間コマで取引される。

2017年以降、送配電各社は調整力公募という形で需給調整市場開設前の「つなぎ」として年間ベースの需給調整用のいわゆる⊿kWを契約してきた。調整力Ⅰ―a、Ⅰ―b、Ⅰ(DR=デマンドレスポンス)といった類型がそれで、年間を通じて⊿kWを供出できる発電機を持っている発電事業者はほぼ旧一般電気事業者系に限られるため、実態としては契約時点の入札発電機と運用ベースで動く発電機に差し替えがあるなど、どちらかといえば供給信頼度重視の運用をしてきたと言える。

これが、需給調整取引所での週単位の契約に変わることでより効率的な調整力調達と必要調達量の弾力化が期待され、週単位であることから年間では供出できないプレーヤーの入札も可能になる。なお、Ⅰの契約は容量市場発足とともにそちらに移された上で、発動指令については現状と同じく系統運用者から受けることになる。

海外では価格低下効果も 市場調達への期待

実際、同じ形で需給調整市場を運営してきたドイツでは、当初風力大量導入による再エネ予測誤差が増大した結果、特にセカンダリー(ドイツの場合は秒ではなく15分程度の中速調整力)市場価格が高騰した後、分散型の小規模発電機や既存火力発電機の改造分など、多様な入札者が現れたことや、再エネ予測誤差の多くをゲートクロージャー前でBGやBRP(バランス責任主体)に引き取らせる制度改正によって、数年で大きな価格低下が見られた。

「参入者が増える」→「価格を見て参入したプレーヤーの増加と制度改革により落札価格が低下する」→「ネットワークコスト負担が小さくなる」という正の循環こそが、需給調整力調達を短期市場化する利点であり、それは⊿kWのポテンシャルが広がり、供給信頼度維持の基盤がより堅牢になることも意味している。

仙台市ガスが手続き再延長 背景に土壌汚染への危惧?


仙台市が昨年9月からガス事業の譲渡に向け進めている公募手続きで、応募者による最終提案審査書類の提出期限が3月31日から6月末に延期された。優先交渉権者の決定も3カ月遅れの8月下旬となる。

新型コロナウイルス感染拡大を理由に、市が譲渡手続きを延期するのは2回目で、今回は応募者側からの申し入れを受けたもの。応募者は、東北電力、東京ガス、石油資源開発(JAPEX)に地元企業のカメイを加えた4社連合とみられる。

表向きはコロナの影響とされているが、その真相は、もともとガス製造工場があった同局庁舎敷地の土壌汚染への懸念にあるのではないかとの憶測が広がっている。市は、2022年度中に事業を譲渡するスケジュールに変更はないとしているものの、汚染の度合いによっては400億円という破格の最低譲渡価格ばかりか、民営化そのものに影響しかねない。

仙台市ガス民営化を巡っては、09年にも東北電など3社連合が検討し、景気後退を理由に辞退した経緯がある。その二の舞いだけは避けたいところだろう。

「二刀流」でカーボンニュートラルへ オンサイト水素製造「suidel」誕生


【東京ガス/東京ガスケミカルほか】

東京ガス、東京ガスケミカル、三浦工業の3社は共同で、熱量調整された都市ガスを改質して水素を発生させる「suidel」を開発し、3月から販売を開始した。

東京ガス、東京ガスケミカル、三浦工業が共同開発したsuidel

東京ガスの都市ガス改質を用いた水素製造技術、産業ガス販売を手掛ける東京ガスケミカルのオンサイト水素供給のノウハウ、三浦工業によるボイラーで培った高効率ガス利用技術や水処理技術などを組み合わせて開発した。主に製造業の生産プロセスにおける産業ガスとして水素を利用するユーザー向けに販売する。販売目標は現時点では掲げていないが、3社がそれぞれのチャネルで全国に販売していく。

「製品の最大の特徴は水素発生量が1時間当たり5N㎥と小容量であることです。従来の小型機種では30~50㎥タイプが一般的でしたが、それと比較し大幅に小さくしました」(東京ガス産業エネルギー事業部水素ソリューショングループ事業企画チームの佐藤航さん)

「開発のポイントは都市ガスから硫黄を除去して水素を製造する技術です。固体高分子型の家庭用エネファームで培った改質技術を活用し、今回スケールアップしました」(東京ガス基盤技術部江口晃平さん)

商品化に当たっては、ニーズとシーズの両方の側面があったという。東京ガスは、2009年に世界で初めて家庭用燃料電池「エネファーム」を発売。水素を製造する技術を年々ブラッシュアップさせて本体価格を引き下げてきた中、せっかく培った技術をさらに応用できないか―。そんな発想があったという。

一方、需要側の産業用水素市場に目を向けると、30㎥以下の少量ニーズが存在していることを確認。シーズとニーズを照らし合わせながら、17年から開発に着手し、4年をかけてこのたび商品化にこぎつけた。

販売手法が変わる可能性 配送の課題解決に貢献

これまではシリンダーによる水素(圧縮水素)供給が一般的だった。しかし、こうした新しい発想の商品によって都市ガス導管が整備されているエリアでは、設備(suidel)を設置するだけで簡単に水素をつくれることから、従来の販売手法が変わる可能性を秘めている。東京ガスケミカルのソリューション営業部ES推進グループの吉田宏さんは次のように説明する。「シリンダー供給では配送面でコストや人員に課題を抱えています。その傾向は年々顕著になっており、そうした課題の解消につながればと考えています」

東京ガスでは、カーボンニュートラル都市ガスの普及を推進し、suidelのようなオンサイトによる新発想の仕組みと組み合わせた「二刀流」によるカーボンニュートラルの世界を目指していく。

【マーケット情報/5月7日】原油上昇、需給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。石油需要増加への期待が高まるなか、供給逼迫感が強まり、需給を引き締めた。

米国では、失業者指数が2020年3月以来の最低を記録。景気改善の見方が強まり、石油需要が回復するとの予測が台頭した。また、中国では5月初旬の長期休暇で、国内の移動者数とガソリン消費が増加した。

欧州でも、移動用燃料の消費が増える見通しだ。欧州共同体(EC)は新型ウイルスのワクチン普及を受け、欧州連合(EU)加盟国に、不要不急の域内移動に対する規制緩和を提案。さらに、フランス、ポルトガル、スペイン、ベルギーは、移動や経済活動の規制を段階的に緩めている。

他方、供給逼迫感も台頭。米国の週間在庫統計は、輸出増加と製油所の高稼働を背景に減少。加えて、米国Colonial Pipelineの石油パイプラインが7日、サイバー攻撃を受けて停止。9日に一部を再稼働させたが、全面復旧の見通しは立っていない状態。また、イラク北部の油田が爆破され、中東情勢が緊迫化し、供給不安が強まった。

【5月7日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=64.90ドル(前週比1.32ドル高)、ブレント先物(ICE)=68.28ドル(前週比1.03ドル高)、オマーン先物(DME)=66.03ドル(前週比0.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=65.82ドル(前週比0.61ドル高)

【コラム/5月10日】新型コロナ1年を考える~構造改革所以の制度劣化、活力委縮、開発力低下に嘆息


飯倉 穣/エコノミスト

 新型コロナ感染が始まり、1年過ぎて三回目の非常事態宣言発出となった。当面行動自粛期待で、海外依存のワクチン接種終了まで国民の苛立ちと観念が継続する。この間の感染症対策は、目標設定、感染防止対策の手落ち(基本の踏み外し)、戦略なき国産ワクチン開発、影響業種・企業・困窮者への対策で反省に満ちている。その背景に誤った構造改革に起因する海外偏重、制度変質、活力委縮、開発力低下がある。今一度日本に適した体制に建て直すことが必要である。感染症対策も基本に戻った対応が求められる。政権のモットーである当たり前に期待したい。

1,新型コロナ感染拡大から1年超を経過した。第二次緊急事態宣言全面解除後、小康状態は続かず、新年度に入りまん延防止等重点措置となった。大阪圏は感染者急増で医療体制逼迫、東京圏も不安蔓延である。

 報道は伝える。「緊急事態3度目宣言 4都府県あすから来月11日」(朝日21年4月24日)、「緊急事態宣言3度目発令」(日経同)。三回目の宣言発出となった。

中央・地方政府の状況対応は行き詰まり、収束の姿が見えない。政府の方針「感染防止と経済の両立(ウイズコロナ)」は、なぜ功を奏しないのか。今後の方向を再度考える。

2,感染症対策の基本は、繰り言になるが、感染予防策としての衛生管理・行動自粛・ワクチン接種と共に「早期発見、早期隔離、早期治療」である。反省点は以下の通りである。

第一に目標設定の在り方が問われる。感染ゼロかウイズコロナか。コロナ抑制一定成果国は、ゼロ感染を目標とした。故に行動規制に重点を置きロックダウン、検査徹底等の対策を強行した。政府・専門家は、ウイズコロナ政策で、行動自粛・検査抑制・GOTO推進と曖昧政策に終始した。

第二にワクチン確保に批判がある(朝日4月13日)。国内専門家の見方(開発に数年必要)は間違っていた。自国の現状に捉われた予測外れだった。欧米先進国の政府・製薬企業の遂行意志・実力を過小評価した。開発力の内外格差に愕然とする。

第三にコロナ行動抑制で経済的影響を受ける弱者の扱いが揺れた。自然災害と捉えれば、被災者は、患者そして経済的影響を強く受ける人々である。患者には的確な医療供給、コロナ影響業種の困窮者には社会政策的な対応であろう。給付金等は、無用な散財だった。

 第四に新型コロナ感染症対策の行政対応がわかりにくい。政府内に首相本部長の新型コロナ感染症対策本部、新型コロナ感染症対策分科会がある。感染症専門家集団は、検査拡充軽視で衛生管理を強弁する。政治家・専門家のショーでなく、実務的事項を担う官僚の説明と行動が不明である。

3,反省点の背景には、日本的対応の危うさ・心もとなさがある。第一は、海外事例の調査不足である。海外で起きることは、日本でも起きることが多い。専門家集団は、海外事象を受け流したり、別と推論しがちである。

東日本大震災・福島原発津波事故の例がある。スマトラ沖・津波(04年)からの検証・連想力不足があった。新型コロナも同様である。サーズ騒ぎ(03年)の北京封鎖の評価不足等である。原発事故は、原子力村の失敗。今回は、感染症村の視野狭窄が問題を深刻にしている。

第二に国家国民戦略欠如である。サーズワクチン開発も話題になったが、雲散霧消した。

ワクチン開発に1兆円投じる話はなかった。その戦略を考える人もいなかった。過去30年間、誤謬・誤解の構造改革で政府・行政・企業の組織的・行動的な混乱・彷徨の継続で「模倣から創造」も色褪せ、今は「模倣力」も低下した。

 第三に公衆衛生と医療体制の責任所在が不明瞭である。地方分権改革で、機関委任事務廃止となり、国と自治体の関係は対等になった。その下で医療行政の都道府県単位化が進んでいる。能力多様な首長連である。非常事態なら、中央政府が全体の指揮命令系統を掌握し資源配分すべきである。

第四に経済は、飲食業・観光業等の苦境報道の一方、堅調な業種も散見される。コロナショックを考慮した経済変動に合わせた経済対策が十分意識されず、国民の不満を掻き立てた。

4,医学・医療従事者の言を参考にすれば、コロナ克服は、一にも二にもコロナ感染拡大防止に尽きる。一本足打法と称された飲食業の時間短縮要請から、今はワクチン期待になっている。その実現に暫く時間を要する。経験からコロナ感染防止の良策は少ない事情を踏まえ、まず基本の実施であろう。

第一に感染防止として、移動規制、ワクチンも含めた感染ゼロ計画案を作成し実行する。検査体制整備に加え防止方法(些事の積み重ね)を多面的に考え徹底する。第二に適切・十分な予算措置で明確かつ効果ある医療体制の充実を行う。第三に行動規制に伴うコロナ関連弱者への対応と救済である。コロナで影響を受ける業種の事業維持費に対する政府保証・無利子融資(収束後一部免除考慮の返済)の実施、困窮者に対する雇用・生活維持金支給であろう。また今後の統治体制見直しでは、日本に適した当たり前を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

ガスの技術革新へ官民協調 エネ庁が脱炭素で指針


脱炭素社会のガス事業の在り方を模索する資源エネルギー庁の有識者会議「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」が、中間取りまとめを行い今後の指針を示した。その柱は、トランジション(移行)期におけるCO2削減と、イノベーションによる将来の脱炭素社会実現への貢献だ。

移行期においては低炭素なガスの強みを生かし、①日本のエネルギー消費量の約6割を占める熱利用分野での活用、②石油・石炭などからの燃料転換、③再エネの調整力としての活用―の三つの取り組みを引き続き進める。

同時に、脱炭素化の鍵を握るメタネーション(合成メタン)実用化に向け、技術革新にも挑む。30年までのメタネーションの実用化、水素直接利用などそのほかの方法と合わせて50年には都市ガスのカーボンニュートラル化を目指す。それに向けて、官民が一体となって課題解決に向けた取り組みを推進する体制を整備する。

菅義偉首相は、50年カーボンニュートラルを達成するため2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を支援することに言及した。メタネーションなど技術革新にはこれを活用していくことになる。

ゼロカーボン・スチールに挑戦 超革新技術の実装に向け本腰


【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社編集局鉄鋼部長

菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言を受け、日本の鉄鋼業界の動きが再び加速している。

技術開発の壁が何層もある「ゼロカーボン・スチール」の実装に挑戦し、国際競争力を保てるのか。

日本の鉄鋼業界は2018年秋、「ゼロカーボン・スチール(CO2を排出しない製鉄法)」の技術開発に挑戦する方針を打ち出していたが、首相の宣言を受けて今年2月、改めて「2050年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針」を公表した。これに続き、最大手の日本製鉄は3月に発表した中長期経営計画の中で、「カーボンニュートラル・ビジョン2050」を打ち出した。

日本鉄鋼連盟(鉄連)の場合、18年秋の方針表明と今回の表明との違いは何か。ゼロカーボン・スチールの実現を目指すという基本線は同じだが、時間軸に微妙な違いがある。18年の方針では「2100年までをターゲットにした長期ビジョン」とあえて明記。ゼロカーボン・スチールの実用化に関しても「目標ではなく、挑戦」と控え目な表現にとどめた。

一方、今年表明した基本方針は「50年カーボンニュートラルという(政府の)野心的な方針に賛同する」と強調。「50年までに開発・実用化」という明確な目標を示してはいないが、50年を強く意識している。鉄連会長を務める橋本英二・日本製鉄社長は今年に入ってからの定例会見で「(目標達成時期を)これまでは2100年としていたが、2年そこそこで50年に前倒ししたのはなぜか」と問われ、「世界のライバルとの開発競争は既に始まっている。50年実用化でも遅いかもしれない」と、50年や100年という目標の設定自体、ナンセンスと切り捨てた。

業界は政府方針に賛同 革新技術の実用化という外圧

いずれにせよ、鉄鋼業界は今もゼロカーボン・スチール実用化の目標時期を明示していない。それは地球温暖化対策に後ろ向きなのではなく、実現のハードルが極めて高いからだ。この高さを認識しているからこそ、日本の鉄鋼業にとって「何年までに開発・実用化できます」といった発言はむしろ無責任なスタンスとなる。

だがこうした慎重姿勢にもかかわらず、外野の期待は増す一方だ。昨年末に政府が策定したグリーン成長戦略の関連資料「カーボンニュートラルの産業イメージ」では、水素で鉄鉱石を還元するゼロカーボン・スチールが50年時点で実現している姿を紹介。同戦略では既存の高炉+CCUS(CO2回収・貯留・利用)など複数の選択肢を提示してはいるが、50年の絵姿としてゼロカーボン・スチールの実現を描く。

もとよりESG(環境・社会・統治)投資の広がりとともに、鉄鋼業への風当たりは年々強まっている。30年時点のCO2削減目標の引き上げを打ち出した欧州連合(EU)では、世界最大手のアルセロール・ミタルなど有力鉄鋼メーカーが相次いで水素を活用した次世代製鉄法の開発に挑む方針を発表した。規制強化を狙うEU当局との駆け引きが垣間見えるとはいえ、ESG投資がこうした動きを促しているのは間違いない。

日本も例外ではない。ESG投資を背景とした投資家からのプレッシャーは強まる一方だ。日本製鉄が「カーボンニュートラル・ビジョン」を策定した背景にもそれは確実にある。「50年」を意識しながら、ハードルは高くとも技術開発・実用化に向けて前進しなければならないのが現状なのだ。

東北発のスマート社会実現をけん引 「東北電力フロンティア」が誕生


【東北電力】

東北電力は、スマート社会実現事業の早期収益化に向け、中核的役割を担う新会社を設立した。暮らしに役立つサービスと電気をパッケージ化したさまざまなサービスを開発・提供していく。

東北電力は、2020年2月に公表したグループ中長期ビジョン「よりそうnext」で、基盤事業である電力供給事業の競争力を徹底強化することに加え、スマート社会実現事業を成長事業と位置付け、ビジネスモデルの転換にも挑戦している。

同社はスマート社会について、地域の人口減少や少子高齢化により、交通や教育、福祉など、さまざまな分野で顕在化する社会課題を、次世代のデジタル技術やイノベーションの活用などにより解決。地域に住む人々が快適・安全・ 安心に暮らすことができる社会と定義する。

その実現に向け、東北電力グループは「電力のプロフェッショナルであること」「東北6県と新潟県を中心とした地域との絆を有していること」といった強みを最大限生かすとともに、デジタルイノベーションの積極的な推進と、幅広いパートナーとの連携・協働により、新たな価値を創造していくとしている。

そのためには、次世代のデジタル技術やイノベーションを駆使して顧客ニーズを取り込み、事業化につなげる戦略的な役割を担う主体が必要であり、さまざまなパートナーと連携するため、迅速かつ柔軟な意思決定も求められた。

暮らし直結のサービスを提供 将来は全国展開を目指す

こうして誕生したのが「東北電力フロンティア」だ。

電気を含むエネルギーマネジメントをベースとし、「地域の商品・サービスの情報」や「趣味嗜好といった日常の楽しみにつながるサービス」など、暮らしに直結するサービスをパッケージ化して、定額制を基本に提供する。事業開始は21年度下期を予定している。

サービスの一例として、東北電力ソーラーeチャージが提供する「太陽光・蓄電池のサービス(分散型電源サービス)」と、それだけでは賄えない電力(系統電力)をパッケージにして販売する。

積極的なマーケティング活動を通じて、顧客の期待やニーズに応えるサービスを企画・立案し、提供する方針だ。

東北電力フロンティア 岡信愼一社長(右)、東北電力 樋口康二郎社長(中央)、
東北電力ソーラーeチャージ 伊藤篤社長

サービスの対象エリアは、東北6県と新潟県を基盤とするが、これらのエリアで培ったノウハウを生かし、将来的にはエリアを限定せずビジネス展開する予定だ。30年には、数百万件の顧客獲得を目指している。ロゴマークには、「顧客の快適・安全・安心な暮らしの実現」という旗印の下、「大空を羽ばたき、大海原を航海するようにフロンティア精神を持って、新たな未来を切り拓く」との思いが込められている。

東北電力ホームページでは、2030年代の東北・新潟の暮らしをイメージした動画を公開している

東北電力フロンティアは、電気事業というエネルギーサービスの枠を越えた「挑戦」を担う。

東北電力グループは今後、新会社による積極的なマーケティング活動を通じて、顧客の豊かさの最大化や社会課題の解決に資する革新的なサービスの幅広い提供を目指す。

東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループとなるべく、新会社とともに一丸となって取り組んでいく。

再生可能エネルギーの拡大 したたかな戦略を描けるか


【論説室の窓】黒川茂樹/読売新聞論説委員

世界的に「脱炭素」のうねりが強まる中、再生可能エネルギーの大幅な拡大は喫緊のテーマである。
だが、楽観論ばかりが先行している現状のままでは先行きは危うい。

今年に入って気候変動問題を巡る世界の動きはめまぐるしい。

「欧州は気候変動対策でリーダーシップを取る」(欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長)、「世界的な対応を米国が主導しなければならない」(米国のジョー・バイデン大統領)―。欧米の指導者は、環境対策で優位に立ち、国力を強めていく戦略を明確にしている。

6月11日から英南西端の保養地コーンウォールで開かれるG7(主要7カ国)首脳会議で、主要議題になるのは気候変動だ。

いまや、G7の全ての国・地域が「2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」との目標を掲げている。11月の英グラスゴーでの気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向け、英ジョンソン首相の意気込みは相当のものだろう。

排出削減を巡る国際的なルール作りをリードしたいというG7各国の思惑がぶつかり、攻防は激しさを増していく構図だ。

菅義偉首相は3月31日、首相官邸で初めて開いた「気候変動対策推進のための有識者会議」で、「国際社会の議論をリードするため、政府一体となって検討を深める」と語ったが、政府の出遅れ感は否めない。

日本が掲げている30年の温室効果ガス削減目標は「13年度比26%」にとどまる。英国は「1990年比68%以上」、EUは「90年比55%以上」と野心的な数字を掲げており、日本も目標を引き上げるほかないだろう。

政府は昨年末、温暖化への対応を経済成長につなげる「グリーン成長戦略」を策定し、政策を総動員する構えだ。

戦後の日本は、1985年のドル高是正のプラザ合意、その後の日米半導体・自動車交渉といった荒波にさらされたが、気候変動を巡る攻防もそれに匹敵するような「通商交渉」になる覚悟が求められよう。

期待が先行したままに 課題解決策は進まず

「民間はその気になっているので、政府もしっかりと受け止めていただきたい」。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は今年2月の政府の経済財政諮問会議で力を込めた。

温室効果ガスを減らすには、再生可能エネルギーの大量導入がどうしても必要だ。経済界では、再生エネ拡大を求める声がかつてないほど強まっている。再エネを調達できなければビジネスに悪影響を及ぼすからだ。

米アップルは、iPhone(アイフォーン)などの部品を生産する取引先に対し、電力の100%を再エネで賄うよう協力を求めている。こうしたグローバル企業は今後増加するとみられ、日本の中小企業は対応できないとサプライチェーン(供給網)から外されてしまうかもしれない。

東日本大震災から10年に当たる3月11日、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が強い危機感を示したのは印象的だった。「再エネの普及が進まなければ日本で生産した車が(海外で)使ってもらえなくなる」と述べ、「エネルギーのグリーン化」を訴えた。

材料加工から部品製造・製品化・廃棄までの一連のサイクルでCO2の排出量を評価する動きが今後、世界的に広がると、再生エネの調達コストが極めて重要になる―という主張だ。

自工会によると、自動車の主要な生産国・地域である欧州や米国、中国は太陽光や風力などの再エネのコストダウンが進み、火力発電より安上がりになっている。

これに対し、日本は、CO2を排出する火力発電の比率が75%と高い上、いまだに火力よりも再エネのコストが高い「唯一の国」なのだという。

国内で550万人が働いている自動車産業は、輸出の減少で「70万~100万人の雇用に影響が出る」との試算も示した。政府は、脱炭素の潮流が産業界を覆いつつあるというメッセージを深刻に捉えるべきだ。

科学的な分析を欠く現状 論点の「見える化」が必要

経団連の中西会長は「エネルギーの問題は今まで専門家だけでやり過ぎた。難しい問題が多くあるので、徹底して『見える化』しなければならない」と指摘している。

気掛かりなのは、再エネなどを巡る科学的なデータ分析がどこまで、政府や産業界で共有されているか、という点だ。

小泉進次郎環境相は、「再エネのポテンシャル(潜在能力)は現在の電力供給量の最大2倍ある」と力説している。洋上風力や太陽光などを最大限導入すれば年に約2・6兆kW時を生み出せるという。19年度は、水力を含めて1850億kW時ほどで、その約14倍に相当する量だ。

再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まったのは12年7月。太陽光発電が大きく伸び、国内の再エネ比率は、11年度の10・4%から19年度に18%に高まった。8年ほどの年月と巨額の費用をかけた結果でもある。

太陽光発電に偏重し風力や地熱は伸びていない

電気料金に上乗せする賦課金は年2・4兆円に達し、産業用では15%、家庭用は11%高くなっている。政府は買い取り価格を徐々に引き下げてきたが、今後も電気料金の上昇は続く。発電コストの低下は進まず、国の制度見直しもあって、投資する動きは足踏み状態になっている。

パネル設置が容易な太陽光に偏重した結果、より安定的に発電できるはずの風力や地熱などは伸びていない。政府は、再エネの切り札として洋上風力発電を30年までに1000万kWにする目標を掲げたが、これは現状の500倍近い規模だ。欧州は、遠浅の海が広がり、強い偏西風で安定的に発電できるが、日本近海で採算が取れるかどうかは未知数だ。

気候変動対策で投資を呼び込めれば経済が活性化できる。逆に打つ手を間違えれば、自国の産業が打撃を受け、国民の暮らしに大きな負担が生じる事態になりかねない。甘い見通しと生煮えの戦略では通用しないことを肝に銘じるべきだろう。

処分場誘致に住民NO! 南大隅町長選で賛成派落選


地元住民が下した判断は、やはり「NO!」だった。

4月18日、高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致問題が争点となっていた鹿児島県南大隅町の町長選が行われ、誘致反対を訴える元町総務課長で無所属新の石畑博氏が初当選した。得票数は2562票。同じく誘致反対の前町議で無所属新の水谷俊一氏の得票数は1425票だった。

これに対し、誘致賛成を掲げて立候補した元衆院議員秘書で無所属新の田中慧氏の得票数はわずか687票。一部報道によれば、田中氏は処分場誘致で町の持続的な発展を目指す考えを表明し、選定のための「文献調査」の受け入れに伴う交付金を原資に、町民一人に30万円の商品券を配ると公約していた。

「北海道の寿都町と神恵内村では、現職首長が文献調査を表明したことで誘致が進み始めたが、地元の民意としてはやはり反対という傾向が浮かび上がった。誘致がたびたび問題となってきた南大隅町の経緯を踏まえても、厳しい結果と言わざるを得ない」(事情通)

文献調査を検討する他地域への影響が注目される。

【覆面座談会】市場リスクをどう制するか 新電力生き残りの条件


テーマ:新電力経営

電力需給のひっ迫に伴い1月、数週間にわたり日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が高騰した。今も調達コストとインバランス精算という二重苦が新電力経営に影を落とす。電力小売り事業を巡る制度の問題を関係者が語り合った。

〈出席者〉  A新電力関係者 B新電力関係者 C新電力関係者

―電力の需給ひっ迫とそれに伴う市場価格の高騰は、新電力各社にとっても予想を超える異常事態だった。

A 当時の状況を振り返ると、非常に大変だったの一言に尽きる。新型コロナウイルス禍の影響で年度当初から需要が落ち込み、新規顧客の獲得も難しい中で、市場価格も低迷する状況が年間を通じて続くことを念頭に事業を行っていた。だから12月中旬に市場価格が上昇に転じても、一過性なのではないかと考え、すぐに高騰に手を打てず、それなりの損失が生じてしまった。

 新年度に入ってからも市場高騰の影響から卸融通の需給状況が大きく変わり、大手電力会社から相対契約の玉がなかなか出てこなくなっている。今は市場価格が落ち着いているけど、事業環境全体が高騰の後遺症に引きずられているような状況ではないか。次の夏や冬のひっ迫時に向けどうするべきなのか、読み切れないのが悩ましい。

B 新電力の選択肢は、調達を断念してインバランスを発生させるか超高値で市場で調達するかの二択しかなかった。1月の3連休明けから当社を含め新電力各社が資源エネルギー庁と折衝を重ね、その甲斐あってインバランス単価の上限設定や需給カーブの公表が決まったけど、その時には相当の損失が積み上がっていた。これがトラウマになって、2月以降は大手電力会社との相対契約に走る新電力が多い。しかし、価格水準は上がっているので合意しにくい。

 需給ひっ迫の検証と並行して非効率石炭火力のフェードアウトの議論が進んでいるけど、連続的な玉切れがあり得る中でこれを進めれば、全体的に発電力が枯渇しかねない。一定の発電設備を日本国内に確保するという検討があってもよいはずだ。今のままで2024年度からの容量市場で、リクワイアメントで発電事業者を締め上げるようなことがあれば、発電所の退出が続出し、ますますひっ迫しやすくなる。再度同じようなことが起きるのではないかと心配になる。

C 当社は相対契約でかなり調達しているが、それでも相当なダメージを受けた。起きたことは仕方がないとしても、事業の継続性にまで関わる問題なので、制度上想定していなかったことが起きたのだという認識をして、こうした事象が起きた際のインバランス料金の考え方や、同時同量義務の在り方などを丁寧に議論してもらいたいと思う。

 今年度の暫定措置として、「複数エリアで予備率が3%以下」の場合のインバランス料金単価の上限が80円と決まったけど、これは妥当な額だといえるかもしれない。だけど、市場価格が1カ月にわたって80円に張り付いても耐える覚悟で経営しなければならないということであり、これを突き詰めていくとほとんどを相対で調達しなければならないということになる。これでは市場自体が後退してしまうし、何らかの打開策が必要だ。

新電力の淘汰は進むか 水面下で進む再編の動き

―相当額のマイナスを抱えることになる新電力の中には、発電・送配電事業者が得ることになる利得を小売りに還元するよう求めるような声があった。会社の存亡の危機で背に腹は代えられなかったのだろうが、結局、支払いの猶予措置は講じられたものの負担の免除はされなかった。今のところ目立った動きはないようだが、新電力の再編は起きるのだろうか。

C 新電力のグループがいくつか形成され、各所にそうした支援を求める要望書を出していた。市場調達に頼っていた新電力は、年度の前半は安い調達コストで利益を出していたわけで、高くなったら助けてくれというのでは、ベースロード市場などでヘッジしている事業者とフェアではなく、さすがに筋が通らないのでは。当社にもいろいろ声をかけてもらったけど、結局、どこにも参加しなかった。新電力として、自由化の制度をより良くするための意見を出すべきで、起きてしまったことをぐずぐず言っているようでは世間からますます「けしからん新電力」と見られてしまうよ。

 新電力再編という意味では、当社にも事業譲渡の打診がいくつかあった。当社も余裕があるわけではないのでお断りしたが、同じように切迫している事業者はほかにもあるだろう。連帯保証などの契約見直しを含めたバランシンググループ(BG)の再編もあるだろうし、水面下では相当動いている。

B 当社にも相談が持ち掛けられたが、その新電力は結局大手電力会社の取り次ぎに落ち着いたようだ。そういう事例も多いんじゃないかな。参入障壁が低すぎて、資本金数百万円で会社を立ち上げ需給調整は他社に依存するというビジネスモデルが成り立ってしまっているが、そうした新電力はある程度淘汰されても仕方がない。当社としても他人事ではなく、本業ではない事業でこんなリスクが生じるのかと社内全体がそんな雰囲気に陥っている。

A 今後、電力小売り事業をどうしていくのかという議論になっているのは当社も同様だ。このようなリスクが発現してしまうことは理屈では分かっていたけど、こういうレベルでこういう時間軸で出てくるとは誰も予想できなかったからね。1月の時点で3月末には新電力の倒産が相次ぐだろうと予想されたけど、実際はFパワー以外の倒産の話がほとんど出てきていない。相当厳しいはずなのに無理やり存続させているところもあると考えられ、そうした話はこれから出てくるのかもしれない。一部の新電力の無理な主張は、新電力業界に対する社会の信用低下につながるのではないかと危惧している。

 あくまでもうわさレベルの話だけど、100円超に高騰した際、2日後の支払いではキャッシュがもたないということで、キャッシュアウトを遅らせるためにわざと落札しないかった新電力があったそうだ。インバランスの速報値と確報値の差が問題になったけど、こうしたことでインバランス需要が増えたことも影響したのかもしれない。

Fパワー倒産は自業自得 新スポンサー探しに焦点

―Fパワーの倒産を新電力業界はどう見ているのだろう。

C 自業自得でしょう。入札などでもかなり安価で顧客を大量に獲得していたと聞いている。自信があったのかもしれないが、何度同じことを繰り返すのかと思ったし、社長はじめ経営者の考えは理解できない。

A 逆ザヤの契約を解消し、収支はある程度改善していたと聞いていただけに驚いた。これまで親会社の大和証券がさまざまな事業者に買収を持ち掛けたが、誰も引き受けなかった。会社更生法申請で新しいスポンサー探しをしているようだが、難しいと思うよ。

B この業界、仕入れと販売のバランスを取れない人が多くないかな。営業担当は、拡販のインセンティブがあるので調達の状況に関係なく売ってきてしまうから仕方がないのかもしれないが、当社でも2月にセールスに行くのかと違和感を覚えることが起きていた。

会社更生法を申請したFパワーに続く新電力も出てきそうだ(東京高等地方簡易裁判所合同庁舎)