【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表
消費税には「所得の少ない人ほど重くのしかかる逆進性」(共産党)との批判がある。こちらはどうだろう。日経3月25日「再生エネ買い取り増加、家計負担が年1万円超」である。
「再生可能エネルギーの普及を支える国民負担が膨らんでいる。再エネ電力の固定価格買い取り制度(FIT)にもとづく家計負担は2021年度に1世帯あたり1万476円となり、20年度と比べて1割強増える見込み。太陽光発電などの導入拡大に伴って負担が増す」「加えてこれから新規に導入される洋上風力発電などの分が上乗せされるため、国民負担は一段と増加が見込まれる」とある。
記事の通り「経済産業省が24日発表した」内容だが、他メディアはほとんど報じていない。当たり前の負担と考えているのか、関心がないのか。頼りない。
同紙4月3日夕刊コラム「海の水辺の散歩」では、外部筆者の川辺みどり東京海洋大学教授が再エネの現状に切り込む。ほのぼのしたコラムのタイトルとは対照的に、見出しの「福島沖の洋上風力発電、撤去、消える復興の夢」との文言に事態の深刻さが漂う。
問題とされたのは、政府などによる「福島沖洋上風力発電実証事業」だ。「世界初の複数基による浮体式洋上風力発電システムの安全性・信頼性・経済性の実証や、関連産業の集積促進」を目指し、「楢葉町沖合に3基の浮体式洋上風力発電施設と1基の変電機が設置された。ところが昨年12月、政府は不採算を理由に、設置した施設を21年度に全て撤去すると決めた」という。
「投じられた国費は約600億円」と巨額だ。なのに「県や自治体が切望した自然エネルギーも地元の雇用も産業も生み出されなかった」。大失敗である。川辺教授は「事業の検証を望みたい」と述べる。当然だ。公金をドブに捨てて知らぬ顔の半兵衛はない。
反原発運動家に転じた中川秀直・元自民党幹事長のインタビューに託して「再エネ100%」をアピールするのは毎日だ。4月2日(夕刊)「特集ワイド」は、中川氏が「政界引退後の今、『原発再稼働は犯罪的。亡国の政策だ』とまで言い切る」と紹介する。
「たまっている放射性廃棄物だけでも広島・長崎の原爆数百万発分に相当する。原発は日本最大の危険物」「もうチェルノブイリのような巨大な石棺を造って建屋全体を覆うしかない」。中川氏の主張というが、理解に苦しむ。科学的には、放射性廃棄物は原爆のようには爆発しない。石棺で覆うと安全性が向上する根拠もない。
締めはこうだ。「再生可能エネルギー100%になれば、化石燃料を輸入する年間25兆円が不要、国富は海外に流出しない。設備投資や地域産業の活性化で日本経済は大発展する」。福島沖の風車についてはご存じないらしい。
朝日4月1日夕刊のコラム「取材考記」も原子力を疑う。「『脱炭素社会に不可欠』と主張する前に―、原発の負の側面、国は直視すべきだ」との見出しで、経済部の記者が「本当に原発は不可欠か」と書く。理由は東京電力や関西電力で不祥事が続いていること。「原発に関わる問題がいまも後を絶たないのはなぜなのか。総括ができていない」となじっている。
ただ、「負の側面」は何にでもある。再エネも、火力も。メディアの負の側面さえ指摘されている。完璧なエネルギー源はない。負の側面を減らしつつ、補い合う。切り札は多い方がいい。
いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。