【エネルギービジネスのリーダー達】安孫子崇弘/エネルギーアンドシステムプランニング代表取締役
省エネ支援を通じて、これまで携わった需要家やパートナー企業に恩返しをしたいと起業した。
創業以来、「お客さまに寄り添うこと」を第一に、コンサルタント事業などを展開している。
あびこ・たかひろ 1998年東京電力入社。2000年新規事業会社のハウスプラス住宅保証に出向。06年日本ファシリティ・ソリューションに出向し、建物や設備の省エネ対策の実務を担当。13年東電に帰任後、同社を退職して起業し現職。
脱炭素化、省エネ法や「RE100」への対応など、企業は省エネに対してさまざまな取り組みを求められている。だが、情報収集力や資金力を豊富に持つ大手企業とは異なり、中小企業ではなかなか手が回らないのが現状だ。
エネルギーアンドシステムプランニングは、ここにビジネスの種を見いだし、中小企業を中心に省エネコンサルティング業務を展開する。これまで、製紙工場、味噌・醤油工場、電線工場、合金製造業、化学プラントなど、産業系の工場で実績を積み上げてきた。
創業から7年目。単身で立ち上げた安孫子崇弘社長は「お客さまに100%寄り添い、良質なサービスを提供すること」を信条とする。工場は、照明のLED化や設備の更新でも省エネが可能だ。だが、作業環境の改善と生産品の品質確保を両立するには、生産工程にまで踏み込む必要がある。
例えば、化学プラントでは、現場の安全確保のため、化学反応で発生した熱を冷ます「冷却工程」が欠かせない。一方で、エネルギー使用量が多く、削減の余地は大きい。提案に当たり、まずは生産工程を知ることからスタートする。
高校の教科書を開いて化学反応をおさらいし、それでも分からないことは、現場担当者から教わることも。「良い提案をしなければ」というプレッシャーをばねに、積極的に専門知識の習得に努めた。
長期にわたる出向経験 顧客ファーストを醸成
工場は企業秘密の塊だ。一方、現場から信頼され、徐々に情報が入るようになれば、提案の幅が大きく広がる。エネルギーは専門性が高い。「省エネの意義や技術的な内容などにビジネスの視点を入れて、分かりやすく翻訳すること」が同社の役割だ。企業と二人三脚で省エネを進めてきた。
時間も労力も費やすが、辛いと思ったことは一度もない。顧客と共に得る達成感。そこに仕事の楽しさがある。
大学卒業後、東京電力に入社。その2年後、東電が新たに立ち上げたハウスプラス住宅保証に出向し、ハウスメーカーへの住宅性能評価制度の普及や営業などに取り組んだ。約6年半の在籍後、子会社の日本ファシリティ・ソリューション(JFS)に出向。企業の省エネ診断やESCO提案とともに、改正省エネ法に関する新サービスの立ち上げにも携わる。新しいことにチャレンジするのが好きな性分。さまざまなジャンルの業務を意欲的にこなしていった。
約13年間の出向期間、顧客に近い業務が多かったことが、独立した時に掲げた「お客さまファースト」という理念を醸成。また、電力会社に在籍したことで、多種多様な工場や機械・設備を扱う機会に恵まれた。その経験から、今ではだいたいの設備の仕組みや構造を把握できるようになった。
東日本大震災の発生後、福島第一原発の廃炉関連業務に携わった。いったんエネルギーサービスの仕事から離れた時、これまで関わった企業担当者の顔が次々と浮かんだ。震災後、「JFSさんは関係ないよ」と変わらず取り引きを続けてくれた企業もあった。「エネルギーサービスで世の中にもっと貢献したい」。この思いが強くなり、独立への一歩を踏み出した。
審議会をレポートで配信 ビジネスのヒントに
初の取引先となった佐賀県の企業をはじめ、新潟県、栃木県、徳島県―と、顧客先は全国各地に及ぶ。「遠くても近くても、お客さまとの心の距離は離れないよう心掛けている」。各社の訪問は月に1回程度。これまで築き上げた関係があるので、コロナ禍であっても関係性に影響はない。
2年ほど前から制度情報配信サービス「制度TRACKER」を開始した。経済産業省や環境省では、エネルギー・環境分野に関する審議会が同時並行で開催されており、聴講だけでも大変だ。そこで、審議会を毎回ウオッチし、月に1回、レポートで配信する。
各審議会が関連するジャンルを表で表すほか、その内容はポイントをまとめて箇条書きで表記。さらに、今後の見通しや将来展望なども記載されている。
新規参入企業にとって、規制領域だった電力事業は分からないことが多い。「自由化で参入した企業が、制度を知らないことで事業上のリスクを負わないようにしたい」という。議論の結果を踏まえ、今後のビジネスを考えるヒントとして省エネ以外のエネルギーサービスにつなげていく狙いもある。
一方で、新規事業にも動き出した。昨年、IoT化を支援する子会社「マーカーシステムズ」を設立。工場のIoT化による生産性向上とデータ収集分析は、設備更新や省エネ改修などの低コスト化につながると考えている。
「頼んで良かった」。この言葉が何よりうれしい。「より多くのお客さまに品質を落とさないサービスを提供していくこと」が、今後の課題であり目標でもある。「顧客に寄り添う」という創業当時の思いは、これからも変わらない。