【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.8】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問
TMI事故・福島事故で起きた炉心溶融の原因は何だろうか。
原子炉停止後の崩壊熱で起きるとの学説には、疑問符が付く。
炉心溶融は、これまで原子炉停止後の崩壊熱によって起きると教えられてきたが、この学説は怪しい。崩壊熱は停止直後こそ大きいが、1日たてば10分の1に減衰する弱い発熱だ。高温になるにつれて巨大化する輻射放熱に抗して、炉心を熔融させる力はない。この間違いを明確にしておかないと今後の話が読者を混乱させる。炉心溶融説についての問題点を述べ、次いで誤りを正した説を述べる。
ジルカロイが水・蒸気と反応 炉心溶融は簡単に起きず
福島事故全体の共通点といえば、炉心溶融と水素爆発(2号機は水素放出)だ。なぜ溶融と爆発が共通して起きたのか、その解明が本論解決の鍵となる。
爆発を起こした水素量は炉ごとに違うが、おおむね数百㎏といわれる。これほど大量の水素をつくる手段は化学反応しかない。原子炉にはこの化学反応が起きる理由が存在し、事故過程で顕在化したに相違ない。金属は一般に、高温になると水と反応して水素を発生する。原子力材料で水と激しく反応する金属といえば、燃料の被覆管、ジルカロイがその代表だ。TMI事故もチェルノブイリ事故も、爆発はジルカロイ・水反応による水素発生で起きた。
ジルカロイは、温度800℃くらいから水や蒸気と反応を始め、温度上昇につれて反応が激しくなる。反応熱は大きく586KJ/Molもある。この熱量を目安で示せば、仮に燃料棒を包む被覆管が全て反応したとすれば、中にある二酸化ウラン(UO2)ペレットが溶融する熱量の約2倍に相当する。炉心溶融は熱量的に十分に可能だ。
炉心から水がなくなると、炉心温度は崩壊熱で上昇する。高温でのジルカロイ・水反応は激しいから、反応が起きると大量の水素ガスが一時に発生する。ジルカロイ・水反応(ジルカロイ燃焼ともいう)は、溶融、爆発の両方を兼ねる。
その実例が、8月号で述べたTMI事故だ。TMI事故では、高温の炉心に冷水を注入した途端に、原子炉圧力が80気圧から150気圧に、一気に上昇した。その間わずか2分だ。炉心に大発熱が起きたことは確かで、直後に炉心溶融が起き、水素爆発が発生した。
表は冷水注入と爆発の時刻を示したものだ。ご覧の通り、福島事故もTMI事故も、炉心に冷水を注入した後に水素爆発が起きている。表は、冷水注入によってジルカロイ・水反応が発生し、炉心溶融が起きたことを示している。

ここでジルカロイ・水反応の説明に入る。ジルカロイが酸化すると、管表面は薄い酸化皮膜で覆われて黒色に変わる。この黒い皮膜が、炉心溶融を操る黒幕なのだ。
ジルカロイの酸化皮膜は組織が緻密で、水や蒸気の透過を容易に許さない。加えて強靱で、その融点は2700℃と非常に高い。従って、この皮膜に守られた燃料棒も強靱だ。米国のPBF(Power Burst Facility)実験PCM―1では、出力を定格出力の約3倍とし被覆管温度が1500℃の状態で15分間保持したが、その間燃料棒は体形を崩さず、林立状態を保っていた。
燃料棒温度が1000℃くらいに上昇すると、柔らかくなった被覆管は原子炉圧力に圧されてペレットに密着する。その表面に生じた強靱な被膜は燃料棒を締め付けて変形を阻むから、燃料棒は体形を保つと考えられる。炉心溶融は簡単には起きないのだ。
だが、酸化皮膜にも弱点がある。温度が200℃くらいになると膜は脆くなる。その結果、高温で形体を保っていた燃料棒は、実験後に被覆管が壊れて、燃料棒はバラバラになって出てくる。冷えて収縮しようとする酸化膜を、まだ温度の高いペレットがそれを許さないので、脆くなった皮膜にひびが入り、締め付け力が失われる結果、燃料棒は壊れてバラバラになる。これがデブリで、燃料実験で常に見られる現象だ。
炉心溶融に話題を戻す。問題は、酸化膜にひびが入る時の燃料棒の温度だ。いま仮に、燃料棒温度が1200℃だったとする。この状態で冷水を注入すると皮膜が壊れて、これまで被膜で保護されていた高温のジルカロイが水と接触でき、燃料棒の溶融が始まる。炉心溶融の始まりだ。
だが、燃料棒温度が700℃の時は何ごとも起きない。700℃のジルカロイは水と反応できないから、燃料棒が壊れて、多少の放射能が出るだけだ。
述べてきたように、炉心溶融の発生は、冷水注入時点での燃料棒温度で決まる。これが炉心溶融についての新しい結論だ。



