崩壊熱でなく冷水注入が引き金に 炉心溶融の真因を探る

【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.8】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

TMI事故・福島事故で起きた炉心溶融の原因は何だろうか。
原子炉停止後の崩壊熱で起きるとの学説には、疑問符が付く。

炉心溶融は、これまで原子炉停止後の崩壊熱によって起きると教えられてきたが、この学説は怪しい。崩壊熱は停止直後こそ大きいが、1日たてば10分の1に減衰する弱い発熱だ。高温になるにつれて巨大化する輻射放熱に抗して、炉心を熔融させる力はない。この間違いを明確にしておかないと今後の話が読者を混乱させる。炉心溶融説についての問題点を述べ、次いで誤りを正した説を述べる。

ジルカロイが水・蒸気と反応 炉心溶融は簡単に起きず

福島事故全体の共通点といえば、炉心溶融と水素爆発(2号機は水素放出)だ。なぜ溶融と爆発が共通して起きたのか、その解明が本論解決の鍵となる。
爆発を起こした水素量は炉ごとに違うが、おおむね数百㎏といわれる。これほど大量の水素をつくる手段は化学反応しかない。原子炉にはこの化学反応が起きる理由が存在し、事故過程で顕在化したに相違ない。金属は一般に、高温になると水と反応して水素を発生する。原子力材料で水と激しく反応する金属といえば、燃料の被覆管、ジルカロイがその代表だ。TMI事故もチェルノブイリ事故も、爆発はジルカロイ・水反応による水素発生で起きた。
ジルカロイは、温度800℃くらいから水や蒸気と反応を始め、温度上昇につれて反応が激しくなる。反応熱は大きく586KJ/Molもある。この熱量を目安で示せば、仮に燃料棒を包む被覆管が全て反応したとすれば、中にある二酸化ウラン(UO2)ペレットが溶融する熱量の約2倍に相当する。炉心溶融は熱量的に十分に可能だ。
炉心から水がなくなると、炉心温度は崩壊熱で上昇する。高温でのジルカロイ・水反応は激しいから、反応が起きると大量の水素ガスが一時に発生する。ジルカロイ・水反応(ジルカロイ燃焼ともいう)は、溶融、爆発の両方を兼ねる。
その実例が、8月号で述べたTMI事故だ。TMI事故では、高温の炉心に冷水を注入した途端に、原子炉圧力が80気圧から150気圧に、一気に上昇した。その間わずか2分だ。炉心に大発熱が起きたことは確かで、直後に炉心溶融が起き、水素爆発が発生した。
表は冷水注入と爆発の時刻を示したものだ。ご覧の通り、福島事故もTMI事故も、炉心に冷水を注入した後に水素爆発が起きている。表は、冷水注入によってジルカロイ・水反応が発生し、炉心溶融が起きたことを示している。

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冷水注入と爆発の時刻


ここでジルカロイ・水反応の説明に入る。ジルカロイが酸化すると、管表面は薄い酸化皮膜で覆われて黒色に変わる。この黒い皮膜が、炉心溶融を操る黒幕なのだ。
ジルカロイの酸化皮膜は組織が緻密で、水や蒸気の透過を容易に許さない。加えて強靱で、その融点は2700℃と非常に高い。従って、この皮膜に守られた燃料棒も強靱だ。米国のPBF(Power Burst Facility)実験PCM―1では、出力を定格出力の約3倍とし被覆管温度が1500℃の状態で15分間保持したが、その間燃料棒は体形を崩さず、林立状態を保っていた。
燃料棒温度が1000℃くらいに上昇すると、柔らかくなった被覆管は原子炉圧力に圧されてペレットに密着する。その表面に生じた強靱な被膜は燃料棒を締め付けて変形を阻むから、燃料棒は体形を保つと考えられる。炉心溶融は簡単には起きないのだ。
だが、酸化皮膜にも弱点がある。温度が200℃くらいになると膜は脆くなる。その結果、高温で形体を保っていた燃料棒は、実験後に被覆管が壊れて、燃料棒はバラバラになって出てくる。冷えて収縮しようとする酸化膜を、まだ温度の高いペレットがそれを許さないので、脆くなった皮膜にひびが入り、締め付け力が失われる結果、燃料棒は壊れてバラバラになる。これがデブリで、燃料実験で常に見られる現象だ。
炉心溶融に話題を戻す。問題は、酸化膜にひびが入る時の燃料棒の温度だ。いま仮に、燃料棒温度が1200℃だったとする。この状態で冷水を注入すると皮膜が壊れて、これまで被膜で保護されていた高温のジルカロイが水と接触でき、燃料棒の溶融が始まる。炉心溶融の始まりだ。
だが、燃料棒温度が700℃の時は何ごとも起きない。700℃のジルカロイは水と反応できないから、燃料棒が壊れて、多少の放射能が出るだけだ。
述べてきたように、炉心溶融の発生は、冷水注入時点での燃料棒温度で決まる。これが炉心溶融についての新しい結論だ。

【火力】エネルギーの不足 気候変動より脅威

【業界スクランブル/火力】

第六次エネルギー基本計画の素案が示されてから3カ月、その間国際的にはCOP26やG20サミットを控え、また国内では自民党総裁選から衆議院議員選挙に向かう中で、エネルギー問題に大きな注目が集まっているものの現実味のある仕上りとは言い難い。

2030年温室効果ガス46%削減、50年カーボンニュートラルという目標は、政治的スローガンとしてのインパクトは充分であるが、その派手な部分にばかりに目を奪われてしまい、目標実現のための具体的方策の検討が一向に進まないことを危惧している。カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギーを増やし、一方でCO2を排出する火力発電を減らしていく流れはよいとしても、こんな大雑把なやり方で複雑なエネルギー問題を上手く解決しきれるはずもない。

現状、日本の発電電力量に占める化石燃料の割合は4分の3程度であるが、世界全体でみても未だ6割強が化石燃料に依存しており大きな差異はない。仮に火力発電をいきなり止めてしまったら、過半の供給源が失われることになり、たちまち電力危機に陥ることになる。再エネの普及が進んだ九州地方などでは、再生可能エネルギーが余剰になり出力抑制をすることが増えているが、1年8760時間を通してみると、余剰になる時間帯はほんのわずかであり、再エネだけでは全然足りず火力や原子力などの安定電源に頼らねばならないのである。

このように言うとタチの悪い脅しのようであるが、欧州や中国でも脱炭素の圧力の中で天然ガスの価格高騰や電力不足が目の前で顕在化している。わが国でも昨冬の需給ひっ迫が問題になったが、世界的な脱炭素の潮流が影を落としていたのは間違いない。

気候変動が脅威というのであれば、難しくても複数の脱炭素シナリオを試行錯誤していく必要がある。だからと言って、目の前でエネルギー不足を引き起こすシナリオは、その時点でサスティナブルであるとはいえない。エネルギー不足は、人類にとって気候変動以上の脅威になるということを忘れてはならない。(S)

【マーケット情報/11月19日】原油下落、需給緩和観が強まる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和の観測が一段と強まり、売りが優勢となった。

米国に加え、中国や日本など複数の国が、インフレ抑制に向けて戦略備蓄を放出する可能性が台頭。また、米エネルギー情報局は、12月の国内シェールオイル生産量が前月比で増加するとの見方を示した。さらに、国際エネルギー機関は、世界の産油量が11~12月に合計で日量150万バレル増加すると予測。OPECも、世界の原油在庫が12月から増加に転じると予想し、需給逼迫感を緩めた。

加えて、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から7基増加し、461基となった。

一方、欧州の一部地域は、新型コロナウイルスの感染再拡大で、外出規制などを再導入。経済の冷え込みや燃料消費の減少による、需要後退の見通しが強まった。

米大統領は、エネルギー価格高騰を受け、連邦取引委員会に相場操縦の調査を要請。燃料価格の上昇が抑制されるとの見方も、価格の重荷となった。

【11月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.10ドル(前週比4.69ドル安)、ブレント先物(ICE)78.89ドル(前週比3.28ドル)、オマーン先物(DME)=81.07ドル(前週比0.72ドル安)、ドバイ現物(Argus)=81.19ドル(前週比0.19ドル安)

【コラム/11月22日】電気事業のコアビジネスの拡大

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前回のコラム(10/18)では、電気事業者が新たな価値創出を図っていくためには、事業分野の拡大が求められていること、また、そのためには異業種他社との協調(セクターコンバージェンス)が有効であることを述べた。さらに、ドイツのシュタットヴェルケを対象とした業界団体BDEWの調査では、電気事業者は、コアビジネスに近い分野での事業拡大と異業種他社との協調に最大のポテンシャルを見出していることを指摘した。今回のコラムでは、その実態を少し詳しくみてみたい。

同調査では、企業の約7割は、蓄電池を含む分散型電源、スマートメータリング、エレクトロモビリティの事業分野の拡大と他産業との連携が最も強く発展していくと考えている。

 蓄電を含む分散型電源は、ほとんどの企業が従事しており、他社との協調が最も進んだ分野である。この分野への顧客の需要は高く、また企業間の協力体制も整っている。協調は、これまで、コンポーネントサプライヤー、エネルギー分野のパートナー、最終顧客、施工業者などとの間で行われている。コンポーネントサプライヤーとの協調は、太陽光発電設備や蓄電池などの分野で行われている。蓄電池を含む分散型電源の分野は、顧客への近接性や技術的なノウハウでシュタットヴェルケは競争優位に立っており、付加価値の約30%を稼ぎ出している。

スマートメータリングについては、ドイツでは、スマートメータゲートウェイ(SMGW)機能の政府認証が2020年初めとなり、現在その設置が佳境に入っている。この分野では、他のエネルギー供給事業者、ICTサービスプロバイダー、メーター・SMGWメーカーなどの部品サプライヤー、また住宅会社との連携は、不可欠であり、また着実に進展している。

BDEWの調査によると、スマートメータを用いた活動として、すでに実施またはこの1~2年のうちに実施するビジネスは、エネルギー供給と計量の組み合わせ (72%)、消費の見える化(71%)、変動料金(61%)、エネルギーマネジメント(59%)、一括検針(55%)、ディスアグリゲーション(21%)、第3者へのデータ提供(9%)となっている(カッコ内は調査対象企業に占める割合)(BDEW 2020)。スマートメータの設置のみにとどまらない活動の拡大は、異業種他社との協調の進展を示している。

なお、現段階で、第三者へのデータ提供について検討を行っている企業は少ない。その理由としては、SMGWを有するスマートメータの設置が始まったばかりであること、データを扱ったビジネスの経験がないこと、そして、最も重要なこととして、住民の高いロイヤルティを獲得しているシュタットヴェルケにとって、データセキュリティ確保に関しての懸念は払拭しきれていないことが挙げられる。しかし、業界団体BDEWは、データは「宝の山」であるして、プラットフォーマーの意義を強調している。

エレクトロモビリティについては、政府の政策と相俟って、電気事業者の関わりも活発化していくと考えられる。ドイツ連邦政府は、2019年10月に、気候保護法を閣議決定し、温室効果ガス削減のために、電気自動車を2030年には700~1000万台までに増大させ、そのため、充電ポイントの数を約100万に引き上げることを目指すこととなったまた、連邦政府は、電気自動車の普及促進のために、種々の税制上の優遇措置を導入し、充電ポイントの増大のために、給油所や顧客駐車場での充電設備の設置を義務付けることとなった。

エレクトロモビリティの拡大は、自動車産業だけでなく電力産業にとっても大きな関心事であり、電力企業はこの分野に従事することにより追加的な収益を獲得できる。また、充電インフラの拡大は、電力ビジネスや地域との近接性ゆえに、電力会社は競争上の優位に立つことができる。このため、シュタットヴェルケの79%は、すでに充電ステーションの運営を行っている(BDEW 2020)。これに対して、デジタルモビリティプラットフォームやモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)に従事する企業は、現在、それぞれ20%、12%であるが、至近年に従事する企業を含めると、それぞれ36%、24%である(BDEW 2020)。

エレクトロモビリティの分野では、シュッタヴェルケは、これまでのところ、主に他のエネルギー供給事業者、ICTサービスプロバイダー、住宅企業と協調している。現在では、調査対象企業のうち、自動車業界と協力している企業はわずか8%にとどまっているが(BDEW 2019)、エレクトモビリティの大幅拡大と充電ステーションの大量増加という政治的目標が掲げられる中で、シュタットヴェルケにとって、包括的なエコシステムの確立が急務となっている。

わが国の電気事業も、ドイツ同様、ビジネスの拡大は漸進的に進められてきたが、その際コアビジネスの延長線上に最大のポテンシャルを見出すことができるだろう。本コラムで紹介したドイツの電気事業における新たな価値創出のためのコアビジネスの拡大と他社との協調の実態は、わが国電気事業にとっても参考になるところが多いだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【原子力】河野家「親中企業」 太陽光普及で安泰

【業界スクランブル/原子力】

自民党総裁選を振り返る。「100%再エネを、それでコストも安い」などと言っていた河野太郎氏(実は再エネ100%なら膨大な調整電力が必要なためコストが4倍になること意図的に無視していた)。敗北は、再処理否定・最低保障年金への消費税投入などの点で掲げる政策にリアリティーが皆無なことが明々白々になった結果といえる。だが、河野氏が地方党員・党友票に強かった点がやはり注目される。

自民党国会議員が、河野一族のズブズブ親中を知らないはずはないだろう。河野家が経営する太陽光発電関連企業「日本端子株式会社」の本社は神奈川県平塚市にあり、土地建物は河野洋平氏が所有。洋平氏が会長、同氏の次男である河野二郎氏が社長。国内の2工場(大磯工場、花泉工場)の他に国内に3支店、1営業所他。海外では中国に三つの子会社。

河野太郎氏は日本端子から合計約3000万円の政治献金を受けている(他のファミリー企業からのものも含めると7000万円弱)。太郎氏は1993年、日本端子の取締役に就任した。この会社は、95年に「北京日端電子有限公司」を設立。96年には香港に、12年には独立資本で「昆山日端電子科技有限公司」を開業している。

中国との合弁の相手方は国営の資産管理会社が大株主となっているから、「日端」は潰れない保証をもらったも同然だ。河野家が政府計画の電源構成を太陽光発電の普及に持っていけばいくほど、中国の河野企業は儲かる。日端の売上高は155億円、相手方の売り上げは2兆3000億円と150倍もの差がある。要するに中国側から見れば河野父子は抱え込んだ“身内”なのである。

こうしたことに気が付かない地方の自民党党員・党友には注意を喚起したい。一方で、高市早苗氏の議員票が河野氏を大きく上回ったことは意味がある。政策、ディベート力、推進力と実行力、どこをとっても河野氏はもちろん、岸田文雄氏をも凌駕している資質を備えていることが明らかになったのではないか。(S)

需給ひっ迫危機をどう避けるか 問われる小売り事業者の供給力確保義務

【多事争論】話題:小売りの供給力確保義務

昨年末からの冬の電力需給ひっ迫で、供給力不足の懸念が広まった。

小売り事業者が安定供給にどう役割を果たすべきか、議論が不可欠になっている。

〈  CN移行期の課題が顕在化 プレーヤーの行動改革が不可欠〉

視点A:竹廣尚之 エネット取締役需給本部長

国内の電力市場全体を取り巻く環境が昨冬の需給ひっ迫、そしてカーボンニュートラル(CN)の潮流を受けて大きく変化している。本稿では、供給力確保の課題に対し、各プレーヤーに求められる役割や事業制度として検討すべき点について、今後の事業環境変化を見据えながら考えてみたい。昨冬の需給ひっ迫は、LNG在庫不足によるkW時不足と寒波での需要増が重なったことが直接的な原因だが、背景には限界費用ゼロの再生可能エネルギー導入拡大とそれに伴うスポット市場価格の低下、火力の退出増傾向による供給力低下もあった。この教訓から、燃料不足の予兆を把握するために広域機関によるkW時モニタリングが試行されるとともに、国による燃料ガイドラインが整備された。東京電力エリアにおける今冬の供給力不足へも速やかに対応し、調整力公募による追加供給力の調達が行われることにもなっている。

これまで東日本大震災などの災害時などを除けば、安定供給がある意味所与の条件として小売り競争が行われてきた。しかし今後は、 小売り事業者も3E+Sのうちエネルギーの安定供給に貢献しつつ競争する時代に突入したと感じている。小売り事業者は、相対取引や先物・先渡・ベースロード(BL)・スポット市場を最適に組み合わせ、リスクをマネジメントしながら健全な競争の中で脱炭素へと移行する需要家ニーズに適応し、個社の提供価値を組み合わせてその存在意義を示していくものと考える。大手電力会社の発販一体が続く状況下で需給構造の変化が急速に進むことが予想される中、供給力確保をどう実現していくべきか。

顕在化した広域的な供給力不足 小売り事業者の役割の議論熟さず

昨冬に顕在化した通り、広域的に供給力が不足し追加的な調達手段がほぼ失われた際に、どこまで市場原理に依存し小売りの供給力確保義務をどう扱うかの議論は熟されていない。系統全体で供給力不足が想定される時には、一定のルールを整備した上で安定供給を一般送配電事業者が担い、小売り事業者は顧客との接点を生かし需要抑制・シフトなどの取り組みで需給に貢献する形も考えられる。

CNへの移行期における課題が既に顕在化しているが、各プレーヤーの行動態様を変える契機が訪れているともいえる。市場支配力のある事業者にとってみれば、内外無差別の徹底やBL市場への対応、余剰電源の限界費用での市場供出など多くの措置が取られ、あらゆる行為についての監視の目も厳しく相当に大変な対応が発生している。一方で、利潤最大化行動のもとで新規参入者との相対取引・交渉に臨み、収益を追求することには極論すれば何ら制約はない。新電力もまた、ヘッジの重要性を再認識させられ昨年の今頃と状況は大きく変わっている。

第1・2回BL市場は、取引が適切に実施された前提で考えれば、上昇局面にある燃料市場の動向をどう見切るか、あるいは別策でどうヘッジできるかによって価格目線が変わる中、売り手、買い手とも踏み込んだ価格で臨めなかったと考える。資源価格が想定できない値動きをする状況下、燃料費調整なしのオークションであり交渉で歩み寄るアプローチが取れない仕組みの中、約定が難しい。

一方、この約定結果は次年度の相対交渉を進める一つの価格インジケーターになり得る。市場と並行して売り手と買い手が利潤最大化を追求し、早期の交渉によって計画的に売買先を確保できれば、全てではないが、供給力確保問題の一部は経済合理性や個社の商取引力の問題へと変化していく。

いみじくもニーズが高まった常時バックアップは、小売りが高需要期に有効活用する電源として合理的な価格水準で安定供給に資する卸メニューとして位置付ければ、トランジション期に適合する柔軟性電源として役割を発揮するだろう。その際は、もはや補助的な役割を想起させる名称ではなく再エネと共生する重要電源として再定義するのではないか。

通信では激しい競争の末、NTT東西が光アクセスを「サービス卸」へと見直し、さまざまなパートナーのサービスと組み合わせ新たな価値を提供する「道具」として活用されることへと転換を図った。電力の世界でそのまま当てはまるものではないが、データを有効活用する環境は整いつつある。新規参入の立場で見える景色は、今持っている前提や先入観によってもたらされていることに気付く必要があり、前提が変わればプレーヤーの行動も一気に変化することを考えておく必要がある。

供給力確保の問題は制度設計で整理する部分とともに、プレーヤーの行動変革に依存する部分も大きい根の深いテーマである。

たけひろ・なおゆき 1993年NTTファシリティーズ入社。2015年エネルギー事業本部技術部担当部長、19年から同社取締役。21年4月から需給本部を担当。

【LPガス】料金問題の改善へ 政府通知の効力は

【業界スクランブル/LPガス】

LPガス料金透明化・取引適正化などの諸問題について、消費者団体、事業者団体、行政、学識経験者が一堂に会し意見交換や議論を行う、恒例の「LPガス懇談会」が全国9カ所の経済産業局管内単位で開かれている。7月からスタートし、10月までに6地区まで完了した。議論の中心は、賃貸集合住宅の設備料金問題だ。6月1日に経産省と国土交通省が、所管するLPガス業界団体、賃貸住宅関連団体に対して「LPガス料金の情報提供」に関する文書を通知した。懇談会では、消費者団体からその実効性についての疑問が出され、徹底に向けて官民関係者のさらなる活動の強化を訴える声が挙がる。

設備の無償貸与の問題は、設備費をLPガス事業者が負担することによるLPガス料金の高騰。さらに、入居者は料金に不満があっても受け入れるしかなく、事実上、消費者の選択の余地がないことにある。この商習慣はLPガス業界の長年の課題であり、資源エネルギー庁担当者は、LPガスに対する不信感となりLPガス離れの一つの要因になると懸念を表明していた。

通知から5カ月程度が経過するが、そのような通知の存在も知らない賃貸住宅関連事業者、不動産業者が多いという。実際に不動産業を兼業するLPガス事業者は、通知は回っておらず、目にしたこともないと話す。国交省の指導が行き渡っていないということか。

一方で、商習慣はコスト面からも大手LPガス事業者を中心に一般化してきた側面もある。大手LPガス事業者も真剣に是正に向けた取り組みを進める時期にきているといえるだろう。

北海道の消費者団体は、解決方法として三部料金制の普及拡大と、今回の取り組みにおける法的拘束力を要望する。高値、不透明というイメージを改善しなければ、業界自体がジリ貧となってしまうと指摘する。今後、オール電化が再び普及拡大するのは必至であり、賃貸住宅のエネルギーも同様だ。今こそ賃貸住宅関係業界とLPガス業界、行政が膝を付き合わせて話をする必要がある。(F)

危機感を持った脱炭素宣言 新たに始めた二つの取り組み

【私の経営論(上)】津田維一/富士瓦斯社長

昨年10月26日、菅義偉前首相が表明した「2050年カーボンニュートラル(CN)宣言」は日本社会に大きな衝撃を与えた。コロナ禍にあって先行き不透明な状況の中、唐突とも思えたこの宣言により、私たちは脱炭素社会に向けた変革に否応なしに向き合わざるを得なくなった。

低炭素に資するLPガス CNを境に風向き変わる

私が社長を務める富士瓦斯(フジガス)は東京世田谷で70年近く続くLPガス販売会社である。30年近くLPガスの販売を生業にしてきた私は時計の針が急に速く回り始めたような感覚を覚えた。CN宣言の前まで、LPガスは化石燃料の中では比較的環境負荷が低く、低炭素社会の到来はLPガスにとっては追い風と考えていた。

ところが、この日を境に日本では低炭素から脱炭素に一気に風向きが変わった。社会全体の再生可能エネルギーへのシフトに伴い、LPガス市場の縮小は避けられない。暮らしを支えるエネルギーを販売してきたはずが、このままでは従業員が後ろめたい思いで商売をしなければならなくなる。今は強い危機感を持ってしまう。

そんな中、フジガスでは現在二つの取り組みが進行している。一つはカーボンオフセットのためのクレジットの調達・開発であり、もう一つがLPガス発電機の販売網の構築だ。これらはCNとレジリエンスの両立を目指すことでもある。

そもそも脱炭素というコンセプトは、温室効果ガスの排出を抑えることで温暖化による気候変動を防ぐという考え方である。特にCO2の排出、その中でも化石燃料の利用がとりわけ問題視されている。LPガスは日本全国のほぼ半分の家庭で使われており、国土カバー率はほぼ100%、民生用のエネルギーとしては極めて重要な役割を果たしている。しかし、燃焼時には必ずCO2を排出する。50年までにLPガスのCN化が必要だが、水素とCO2からLPガスを合成するプロパネーションの技術はいまだめどが立っていない。

フジガスでは輸入元売りのアストモスエネルギーが世界に先駆けて調達したCNLPガスの販売を今年10月から開始している。このガスは海外で認証されたクレジットによってカーボンオフセットされている。現状では植林や省エネなどの手法によりカーボンオフセットを行ってクレジットを付与するという形での供給を考えていくしかない。現在のところ、カーボンオフセットについては電力市場が先行しており、LPガス市場ではまだまだ需要サイドでの動きが鈍いというのが実態だ。とはいえ、近い将来、炭素税などのカーボンプライシングの導入が予想されており、フジガスでは、国内外でのクレジットの調達と独自の植林活動などによるクレジット開発に取り組んでいる。

本来であれば、プロパネーションの実現が望まれるが、LPガス業界は中小零細企業の集合体であり、電力・都市ガス業界と違って多額の研究開発投資の担い手が存在しないという課題もある。

先進国の多くが脱炭素への動きを加速しているが、気候変動というのは地球規模での対策が必要であり、先進国だけでCN化に成功したとしても、それだけでは気候変動を止めることはできない。今後も温暖化による自然災害の増加や激甚化が続くというシナリオにも備えておくことは大切である。東日本大震災以降、LPガスはその特長である可搬性、インフラフリーである点などから、その災害対応力は高く評価されている。

災害対応分野で存在感 LPガス発電機に注力

フジガスでは事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格であるISO22301を取得し、自社の災害対応力を高めるとともに、事業者間の連携を図るためのLPガス災害対応コンソーシアムを設立するなど、災害対応市場におけるコラボレーションを積極的に行ってきた。

昨年、ガス設備メーカーのI・T・Oが販売するLPガスによる都市ガス発生システム「BOGETS」を足立区の小中学校に設置した際も、当社がLPガスのシリンダーを1400本立てさせていただくなど、災害対応分野でのLPガスの存在感は高まっている。

LPガス発電機が採用された「いすみ市マイクルグリッド構想」

この領域で最も普及が期待されているのが、LPガス発電機だ。フジガスでは関電工のLPガス発電機の開発にも参加させていただいているが、千葉県いすみ市での地域マイクログリッドプロジェクトでもLPガス発電機が採用されている。今後、電気自動車の普及やさまざまな社会インフラの革新、DX化が進む中で、バックアップ用の分散型電源の普及は大きな社会課題となるだろう。LPガスは石油と違って長期間の備蓄でも劣化しないという特長があり、非常用発電機の燃料としては最適である。フジガスではLPガスの供給にとどまらず、発電機本体の販売、施工、メンテナンスの全国ネットワークの構築を最重要ミッションと考えている。LPガス発電機の取り扱いにおいては、LPガスに加えて電気とエンジンの知識も必要となるため、協業先であるLPガス販売事業者にノウハウの提供を行っている。

50年に向かって、LPガス市場は縮小を避けることできないだろう。縮小していく市場において、輸入基地の設備更新を行い、国内の二次基地や物流網を維持していくためには、サプライチェーン全体の効率化、合理化が絶対条件であり、そのためには系列を越えた協業が必要になる。私はLPガス業界にとって、脱炭素時代のキーワードは協業とイノベーションだと考えている。次回はこの二点について言及していきたい。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年家業である富士瓦斯に入社、2014年から現職。05年一橋大学大学院商学研究科にてMBA(経営学修士)を取得。スタディス社長、NPO法人LPガス災害対応コンソーシアム副理事長も務める。

【都市ガス】中国がLNG手配 奪い合い発生か

欧州のエネルギー価格が9月に入って急騰している。特に、イギリスでは電力価格が一時的にkW時当たり400円弱まで急騰し、ガス価格も昨年同期の10倍前後に高騰しているのだ。フランスやドイツでも高騰幅は比較的小さいものの、同様の傾向を示している。この結果、英国では現時点で7社以上の電力小売り事業者が破綻に追い込まれている。この状況は昨冬の日本の電力市場の高騰を想起させる。

なぜ、欧州でこのような市場高騰が起きたのだろうか。さまざまな原因が複層的に重なっているようだ。需要サイドでは、コロナ禍が収まりつつある中での需要急増。供給サイドでは、環境問題から発電所や熱需要が石炭から天然ガスに移行する中、昨年の欧州での厳冬によるガス貯蔵量減、無風無光期間が続いたことでの再生可能エネルギー(風力・太陽光)の稼働率低下、電力連系線の火災事故、ロシアからの欧州市場向け天然ガス供給量の減少などに加え、電力自由化促進で下流部門しかない電力事業の新規参入者が価格競争で体力を失いつつある中で市場高騰の影響をもろに受けたことで、結果的に破綻数が増加することになった。

問題は、この影響が日本エネルギー市場にも及ぶかどうかだ。現在、東アジアLNGスポット価格(JKM)は百万BTU(英国熱量単位)当たり30ドル前後と、昨冬をも上回る価格レベルとなっている。特に、石炭から天然ガスへの移行を進める中国の電力需給については、今冬12月の電力消費量が昨年12月と比べ200億kW時ほど増加すると予想されている。日本の昨年12月の消費量が700億kW時強であることから、中国の増量分が大規模であることが容易に想像できる。中国政府から各企業に対して、スポットLNG調達の早期手配の指示があったようだ。

現在のJKM価格を見ると、既に今冬に向けたLNGスポットの奪い合いが発生している可能性は十分ある。昨冬の経験を生かして、資源エネルギー庁や電力・ガスなどのエネルギー事業者が準備を怠っていないことを期待したい。(G)

英国の急成長企業の知見を生かし 新たな電力価値で社会に変革を

【エネルギービジネスのリーダー達】中村 肇/TGオクトパスエナジー社長

英国の電力小売り市場に革新を起こし急成長を遂げた英オクトパスエナジー社。

そのテクノロジーとノウハウを活用し、日本の電力市場で新たな価値の創出を目指す。

なかむら・はじめ 1991年東京大学工学部卒、東京ガス入社。2015年からリビング営業計画部デジタルマーケティンググループマネージャーとして電力販売事業立ち上げの陣頭指揮を執る。電力トレーディング部長、価値創造部長などを経て21年2月から現職。

 東京ガスと英オクトパスエナジー社の共同出資により、2021年2月に誕生した電力小売り会社、TGオクトパスエナジー。約10カ月に及ぶ準備期間を終え、いよいよ今秋、サービス提供を開始することになった。

中村肇社長は、「エネルギー会社の印象を激変させるような、未来を感じてもらえるサービスを打ち出していきたい」と意気込む。

機動的に最良の選択 企業文化も取り込む

オクトパスエナジーは電力自由化で長い歴史を持つ英国において、16年に発足したばかりの新進気鋭の小売り会社だ。独自のデジタル技術(統合ITプラットフォーム)と効率的な顧客対応ノウハウを組み合わせた「新たな顧客体験の創出」を通じ、競争の激しい同市場で300万件以上の契約を獲得するなど、短期間で急成長を遂げた。現在、英国では電力卸価格の高騰で多くの小売り会社が事業停止に追い込まれているが、堅実に事業を継続している。

世界展開を狙うオクトパスが日本でサービスを開始するに当たり、パートナーとして白羽の矢を立てたのが、新電力として国内最大の契約件数を持つ東ガスだった。両社は、20年4月ごろに提携に向けた検討を開始し、同年12月に国内における合弁会社設立と、東ガスのオクトパスへの出資を決めた。21年2月にTGオクトパスエナジーが発足し、トップに就いたのが、東ガスの電力小売り事業立ち上げに携わった中村社長だ。

取材を行った10月上旬。この時点で既に社員宅を利用したオペレーションテストを開始しており、友人・知人を中心とした「Betaテスト」に着手するまで秒読み段階に入っていた。ところが、具体的な事業開始のスケジュールを問うと、中村社長から返ってきたのは、「言えない、というよりは、流動的に考えている」との答えだった。

それは、長期的な計画を綿密に詰めてから準備を進めていく日本のユーティリティ企業とは対照的に、短・中期のマイルストーンに向けて、都度、状況や結果に合わせた最良の選択と調整を行っていくというオクトパスの組織運営の在り方を取り入れているからだという。

オクトパスを日本の中に作り上げることが、これまで日本の電力小売り自由化でなし得なかった新たな価値の創出につながると考えている。

目標は「東京ガス超え」 競争のルール覆すか

東ガスでは、原料調達やウェブマーケティングなどの部門を歴任し、15年に電力小売り全面自由化に向け初めて電力事業に携わるようになった。

多くの新規事業者が参入し市場競争が過熱したが、「各社が提供するメニューは、既存の電力会社の料金に対し何%割安、ガスや通信などほかのサービスとのセット契約でお得になる、ポイントが付与されるなど、あくまでも付帯サービスによる付加価値提案であり、従来の公共料金の枠を超えるものではなかった」と、自由化のこれまでを振り返る。

中村社長自身も、顧客ニーズがあるとの確信があっても、さまざまな制約がある中で、それをサービスに反映できないという忸怩たる思いを持つことがあったという。オクトパスのテクノロジーと顧客対応のノウハウは、そうした制約を打ち破り、競争のルールを覆してしまうポテンシャルを秘める。

同社が提供しようとしている新たな価値の鍵を握るのが、再生可能エネルギーだ。「発電設備の導入拡大だけではなく、消費者が使いやすい形で再エネ由来の電気を供給していくことが表裏一体で進まなければ、再エネ主力電源化は達成できない」と中村社長。

消費者の電気自動車や蓄電池など機器の所有状況や、ライフスタイルに合わせたプランを最適なタイミングで提案する―。それを可能にするのが、オクトパスのテクノロジーなのだ。

長期計画に基づいた事業運営に縛られないとあって、TGオクトパスとしての具体的な事業目標はあえて設定しないという。だが、中村社長は「新しい価値観で世の中を変えるというのであれば、最低でも東ガスの契約数200万件を超えなければ」と、野心を燃やす。

当然、東ガスと顧客を取り合うことになるが、全国展開と東ガスがアプローチできなかった層を取り込むことができれば、グループ全体の電力事業を拡大できる効果の方が高い。

現在、東ガスと英オクトパスから参加するメンバーを中心に社員は40人ほど。新型コロナウイルス対策の移動制限に伴い英国のスタッフが来日できないなど、事業開始にこぎつけるには大変な苦労もあったという。

「社員には世の中を変えていくのだという思いを共有し、とにかくチャレンジすることを楽しんでもらいたい」と語る中村社長こそ、新たな挑戦への期待に目を輝かせていた。

【新電力】英国の電力高騰 小売りは生存危機

【業界スクランブル/新電力】

 「政府は経営危機に陥った事業者は救わない」「失敗や不始末に対する報酬は一切あり得ない」「大切なことは需要家保護である」―。これは、自由化先進国と呼ばれる英国でガス・電力価格の高騰により、多くの小売り事業者が経営危機に陥る中で行われた、英国議会下院におけるクワシ・クワルテング民間企業・エネルギー・産業戦略大臣の演説である。小売り事業者にとって大変厳しい内容だ。

英国では9月15日にN2EXスポット市場でkW時当たり375円を、9日にインバランス価格が605.57円を記録した。今年3月末時点で49社の小売り事業者が電力・ガス供給を行っていたが、8、9月に事業停止した事業者は10社に上り、最終的には5~10社しか生き残らないとも言われている。また、Ofgem(英国ガス・電力市場規制庁)前長官のダーモット・ノーラン氏はメディアの取材に対して、小売り事業者の新規参入のハードルを下げ過ぎたこと、経営危機に直面している事業者は「このような価格高騰は起きないだろう」といった考えの下、非常に危険な立場を取ったとの認識を明らかにしている。

これは英国の問題ではあるが、日本の新電力も対岸の火事ではない。資源価格の高騰は当面続くと見られているにもかかわらず、9月30日に実施された2022年度分ベースロード電源市場の約定量は東日本でわずか5000kWであった。その後、欧州でガス市場価格の急騰が伝えられると、今冬の電力先物価格はベースロード30円まで急上昇した。日本も仮に発電所計画外停止や寒波による需要増が重なった場合には、今年1月のような価格高騰に直面する可能性がある。

クワルテング大臣が演説を行った日、オクトパスエナジー創業者のグレッグ・ジャクソン氏はツイッターに次のような投稿を行った。これは日本の新電力にも当てはまる内容だ。「確かに市場が低い時には気の狂ったような低価格を提供し、市場が高い時には救済を求めるような馬鹿な会社も存在します。このような企業は、重要な市場に参入する資格はありません」(M)

エネルギー危機下のCOP26

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

10月31日から英国グラスゴーでCOP26が開催されている。今回の焦点はパリ協定第6条に定める市場メカニズムの実施細則の議論と、5年ごとに更新される各国の排出削減目標(NDC)の更新だ。NDCは各国独自と言いつつ経済交渉の世界である。EU、米国などの目標前倒しを受け、日本も2030年目標を13年比46%削減に深堀りを表明した。

開催国である英国はとりわけ「脱炭素外交」に積極的だ。今年に入り石炭火力廃止を1年前倒して24年にするとともに、先進国には30年まで、途上国にも40年までの脱石炭を呼び掛けた。さらに、ジョンソン首相は10月の保守党大会で国内電力部門の35年までの脱炭素化も宣言した。

こうした勇ましい「脱炭素」宣言を尻目に、足元では世界中で炭素(天然ガス、石炭)の取り合いが起こっている。お膝元の英国は夏場の風力の不調や英仏海峡の電力連系線の事故も重なり、電力、ガスとも卸価格は9月末までの3カ月間に約3倍に高騰した。欧州はじめ世界各国も同じような状況で、需要期の冬季に向けてはさらなる価格の高騰と電力・ガスの供給制限の広がりが懸念される。

思い出されるのは、18年に仏国で燃料税引上げをきっかけに暴動に発展した「黄色いベスト」運動だ。環境問題では「市民」、学者、政治家などのアカデミックな議論に注目が集まるが、「生活者」は悲鳴をあげるまで置き去りにされがちだ。

今回の危機の背後にあるのは「脱炭素」圧力による資源投資の萎縮だ。世界は、化石燃料が人々の生活に果たしている役割を正当に評価した上で「移行期」に期待する役割について具体的なメッセージを発信する必要があるのではないか。今回のCOPではそうした議論が始まることを期待したい。

【電力】小泉劇場は不発 日本社会に安堵

【業界スクランブル/電力】

 9月29日に実施された自民党総裁選の投開票は、岸田文雄氏が当初有力と見られていた河野太郎氏を決選投票で破る結果となった。岸田新総裁は総裁選の他の候補者を重用することを宣言しており、河野氏は、党の広報本部長に起用されることが決まった。重要ポストではあるが、政策決定からは少し遠いポストのようだ。持論に沿わないエネルギー基本計画に閣議決定の拒否権を行使するとの発言があっては、閣内で起用することは難しかったのかもしれない。

当初最有力候補と言われ、一部マスコミが露骨にアゲ報道をしていたにもかかわらず、河野氏が失速したのは、急進的なエネルギー政策にも原因があるだろう。氏は実務能力が高いことは確かなので、政策ブレーンを一新して、捲土重来を期されることを望みたい。

他方、河野氏応援団の中核にいた小泉進次郎氏は、父親譲りの小泉劇場の再現を企図しているかのような言動が目立った。父親はかつて、郵政民営化のシングルイシューで成功した。でも、今振り返れば、財投改革の必要性はあるにせよ、その一環で郵便事業を民営化する必要まであったかどうか、筆者は今でも疑問だ。そして、息子がシングルイシュー化したのは、経済に死活的な影響があることでは郵政の比ではないエネルギー政策だ。

選挙期間中は「最大の抵抗勢力、既得権益がエネルギー政策を巻き戻そうと、躍起になって攻撃。その攻撃に耐えられる国民的な支持を集めたいですね」、選挙後は「(エネルギー政策について)それなりに揺り戻しがあるだろう。それが権力闘争の現実だ」などの発言が報じられている。

勝手に権力闘争化して分断をあおり、勝手にありもしない既得権益を作り上げ、勝手に独り相撲をしていたようにしか映らなかった。事実上、日本の外貨の多くを稼ぐ製造業全体を抵抗勢力、既得権益と敵認定して、責任政党として支持されると思ったのか。いや、一部マスコミのアゲ報道があっても、この劇場が不発に終わる日本社会に筆者はほっとしている。(T)

先行きの暗いCOP26 脱炭素を巡る先進国の虚々実々

【ワールドワイド/環境】

 10月末からのCOP26まで1カ月を切った。

 議長国英国はCOP26で野心レベルの高い合意をしたいと躍起だが、同じ英国が議長国であったG7では1・5℃目標、2050年カーボンニュートラルを高らかにうたいあげたのと裏腹に、10月末のG20ではそうしたメッセージが盛り込まれない見込みだ。

 こうした中で9月の国連総会で習近平国家主席が「中国は発展途上国の低炭素推進を強力に支援し、海外での石炭火力発電所を新たに建設しない」と表明したことはCOP26での成果が喉から手が出るほど欲しい英国や環境NGOを喜ばせた。

 一方で一帯一路などを通じて建設に合意、あるいは建設を開始しているプロジェクトも全てキャンセルとするのか、中国の公的・民間金融機関双方に適用、あるいは拘束されないのか―など「新たに建設しない」の具体的内容は明らかではない。また中国は海外での石炭火力新設は行わないとしつつも、国内の石炭火力新設をやめるとは言っておらず、30年、50年目標の前倒しにも応じていない。

 国際的な脱炭素のプレッシャーの高まりにより、アジアの途上国も石炭火力新設計画をガス火力に切り替えたり、再エネ導入拡大を図るなどの方針転換をしつつある。「海外での石炭火力建設をやめ、途上国の低炭素推進を支援する」ということは、中国製の石炭火力から中国製のパネル、風車、蓄電池、電気自動車に売り物を変えた方が得だという判断をしたということで、今回の表明で失ったものはほとんど何もない。30年、50年目標の前倒しや国内の石炭火力の差し止めなどに比べ「楽なカード」を切ることで、米英に貸しを作ったつもりでいるのではないか。

 しかしCOP26の先行きは引き続き暗い。欧州では世界経済回復によるエネルギー需要の高まりや風力発電の不振を背景に天然ガス価格、電力料金が急騰している。気候変動対策としての石炭火力の閉鎖と再エネ推進が大きな背景になっていることは明らかだ。脱石炭の旗を振る英国自身が石炭火力による電力に依存せざるを得ないのは皮肉としか言いようがない。

 エネルギーコストの上昇が国民生活に打撃を与えるリスクが拡大すれば、化石燃料に頼らざるを得ないという現実と化石燃料排除にますます突き進むCOP26の議論の乖離はますます広がっている。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

仏の新たな気候変動対策法 EU目標変更で問われる意義

【ワールドワイド/経営】

 フランスでは2021年8月、新たな気候変動対策法である「気候とレジリエンス法」が施行された。

 これは「2030年に1990年比でGHG排出量を40%削減」(19年実績は同比19%削減)という直近の国内目標達成のために「消費」「生産/労働」「移動」「住居」「食料」「環境」の6項目で細かな施策を定めた法律だ。

 同法の特徴は、制定に至るまでの経緯やその方法にある。同国では18年11月、燃料税引き上げに対する大規模な抗議運動(黄色いベスト運動)が発生した。国民の意見や要望が政策に反映されないことへの強い反発といえるこれらの動きを受け、より民意を反映した気候変動対策法を目指したマクロン大統領は、ランダムに選出した150人の一般市民を委員とする委員会を19年10月に創設。同委の提案を法律に反映することを約束し同法の草案作成にあたらせた。

 その約2年後に施行された同法は全305条で構成され、中でも国内で最もGHG排出量の多い交通および建物部門に対する施策が注目されている。

 一例としては「鉄道で2時間半以内に移動可能な都市間の国内航空の直行便を22年に廃止」「CO2排出量1㎏当たり95g以上の自動車販売を30年に禁止」「断熱効率の悪い住居の賃貸を25年から段階的に禁止」などが挙げられる。さらに「化石燃料の広告を22年に禁止」「義務教育機関における環境問題に対する教育の強化」「環境破壊行為に対する罰則の強化」など、国民の日常生活に関連する施策が盛り込まれ、続々と実施が予定されている。

 しかし、同法に対する国民やメディアの反応はおおむね批判的だ。というのも、施策の多くが草案時は適用年や適用範囲においてより野心的だったが、大統領の約束とは異なり政府が修正を加えたことで緩いものになってしまった。委員会や環境保護団体は法案時から、同法に対する強い反発を示していた。政府諮問機関をはじめ一部メディアは、同法の30年目標達成への貢献は限定的と見ている。

 さらに政府にとって都合の悪いことに、同法施行に先立つ7月、EUの30年目標が55%に引き上げられたことで同法の意義そのものが問われかねない状況になっている。同国政府は、EU目標に合わせ同法の施策強化、もしくは国内の30年目標の引き上げなど、何らかの対応に迫られることは必至だ。次期大統領選を22年4月に控え、どのような動きがみられるか、引き続き注目される。

(西島恵美/海外電力調査会調査第一部)