【石炭】ガイドライン改定 海外融資の展開

【業界スクランブル/石炭】

英国でのCOP26で、相変わらず石炭攻撃が目立つ。各国の地政学的立地を考慮せずに政治的に他国の石炭利用を攻撃する動きにはあきれるばかりだ。脱炭素戦略の必要性は理解できるが、そのやり方は各国が自国のエネルギー事情を鑑みて、選ぶ権利があるはずだ。

日本のECA(輸出信用機関)である、日本貿易保険(NEXI)と国際協力銀行(JBIC)の動きには注目すべきものがある。現在、先進各国を中心にESG経営の一環で各社の株主総会で環境対策、特に地球温暖化対策が議題になっている中、石炭火力に対する課題が多くあり、新規融資停止を提案する株主が多い。そのような中、NEXI/JBICが日本国の海外融資のための環境ガイドラインの改定に着手し、原案を、説明会の形で公開していることは意外に知られていない。

NEXI/JBICの環境ガイドラインは、2001年に制定されたのち、15年の改正の検討にあたっては、民間企業、NGO、政府機関など広く参加して改訂。コンサルテーション会合を、13年12月の準備会合を含め、翌14年11月まで計11回開催。国民の意見聴取を行い、これらの議論や意見をもとに改正した。

2021年1月、NEXI/JBICは環境社会配慮ガイドラインの見直しをすることを発表し、2月より公開にてコンサルテーション会議が開催されている。赤道原則などOECDルールをもとに作成されており、モニタリングチェックシートはNOx、SOxのような項目がある。会合第1回は2月16日からWEB形式で開催され、結果は全て公開されている。

その内容は、他国のガイドラインや日本が出資し社会問題化しているインドネシア、ベトナムなどについて解析されている。温暖化問題だけでなく、住民立ち退きなどの人権問題を含め、環境NGOが積極的に議論に参加しているのが特徴だ。中でも環境NGO、メコン・ウォッチの質問が目立つ。石炭を進めるミャンマーに対して、「石炭マネーが軍事政権のクーデターの温床になる」との懸念も出ており、議論が複雑に絡み合う。今後の展開が気になる。(T)

理念としての脱炭素 2100年は視野に入るか

【リレーコラム】古關惠一/ENEOS中央技術研究所技術戦略室

エネルギー需要、企業家精神、ライフスタイル変化、イノベーションを手掛かりに考えてみる。人口減少下、需要喚起には魅力ある付加価値品が必要だ。歴史的に需要喚起も容易でなく、国民は、普通は置換の需要分しか求めない。例えば、1588〜1668年のスパイス交易におけるオラニエ家&オランダ東インド会社の東南アジアへの海洋交通変革とビジネスに目が留まる。13〜18世紀の「マルサスの罠」から産業革命時代に至る前段で資本蓄積を可能にした点は特筆すべきで、「ライフ変化」の光の部分でもあった。これらは「肉の食文化」の価値を目指し企業家がつくった市場だ。これらは陸上から海上の物流のモビリティを変革しエネルギーを変革し、後の産業革命に向けた成熟を準備した。産業革命以前に「成長」が達成されたのである。

しかし一方、米国や南米での奴隷貿易は、今日もある人権問題や経済格差の問題にも波及があり、植民地支配の歴史に連なることは影の部分。大企業・グローバル企業活動とは何ぞや、という問いも必要で利益優先がもたらした苦難の歴史があることも忘れてはならない。科学・技術が人間の諸問題を解決するほど万能ではなく両刃の剣なのは常識であるのと同様「企業家精神によるマーケット創出」もその面がある。問題はこれら「企業家精神の熱狂・技術が需要を産む」成長には副作用があるという点。そして脱炭素やカーボンニュートラルも単純ではないし例外でもない。

新資本主義議論への接続

さらに今回の再エネの社会実装にイノベーションは不可欠と見えるが、「イノベーション」は頻繁に起きず不確実・不可視なのが、エネルギー分野である。イノベーションが不透明な中、脱炭素の歩みが「企業家精神」による事業頼みでは実現に危うさがある。

一般の想像以上にしわ寄せは弱者に行く。安全保障の等閑、高コスト・エネルギー欠乏、エネルギー獲得競争を不用意に加速、などの危険は、エネルギーは市況品かつ生存に不可欠であるがゆえに弱者に大きく影響する。レジリエンス重視をいうのはこの理由でもある。内閣も変わり「新資本主義議論」の入り口である今だからこそ、特に「ライフの変化」を主導する「企業家精神」とその陥穽に注意し、地道な「イノベーション」特にコストが比較的かからない基礎研究部分を愚直といわれても重視してはどうか。特に「単体」ではなく様々な科学・技術の組み合わせを土台に「人体」並みに精妙かつ精緻にするエネルギーシステムが中長期では特に重要であり、欧米に主張できる考え方=べき論であろうと思う。

こせき・けいいち 1985年東京大学工学系大学院修了、88年東亜燃料工業入社。2003年東燃ゼネラル石油中央研究所首席研究員、戦略企画・調査部長を経て、17年JXTGエネルギーフェロー。21年から早稲田大学招聘研究員を兼任。

※次回は出光興産フェローの柳生田稔さんです。

【石油】追加増産を拒否 OPECプラスの意図

【業界スクランブル/石油】

11月4日にオンラインで開催されたOPEC(石油輸出国機構)プラスの会合は、毎月40万バレルという通常の減産緩和に上乗せして、消費国から強い要請のあった追加増産は実施しないことで合意した。新型コロナウイルスの感染再拡大による石油需要急減を懸念しての決定とコメントされているが、専門家からは不安定な石油収入の補てんも意識しての決定ではないかとか、英国で開催中だったCOP26における脱炭素政策の議論へのけん制も意図しているのではないか、との観測も出されている。

1970年代に猛威を振るったOPECに対抗するため、石油市場ではIEA(国際エネルギー機関)の設立や先物市場による取引価格の透明性確保といった対策が取られ、さらに2000年以降は米国を中心にシェールオイルの生産も急拡大して、人為的な価格設定や石油を政治利用することへの歯止めが幾重にも掛けられ、石油市場は比較的安定的に推移してきた。昨年の新型コロナウイルスの感染急拡大に伴う石油需要の急減でも大きな混乱が生じたが、感染拡大に一定の歯止めがかかることで、石油市場は徐々に秩序を回復するかに思えた。

しかしこれに脱炭素の流れが加わり、市場の混乱は複雑化の様相を呈し始めている。かつて石油市場の安定を最優先に掲げていたIEAが化石燃料開発への投資抑制を呼び掛けたことは、先進国の石油・天然ガス生産、とりわけシェールオイルの生産に影響しており、産油国に再び市場の主導権を与える結果になりつつあり、これによりようやく作り上げたエネルギー市場でのパワーバランスが変化してしまう懸念が出てきている。無論、再生可能エネルギーは高コストであることから、そのコストレベルへの移行を意図して価格変動を容認すると見ることもできるが、急激なエネルギーコストの上昇は、途上国をはじめとする経済的弱者が最もしわ寄せを受けるものであり、安定供給に向けた市場の再構築が、政策決定者とエネルギー供給者に早急に求められているのではなかろうか。(H)

【佐藤 啓 自民党 参議院議員】「原子力がなければ国を守れない」

さとう・けい 2003年東京大学経済学部卒、総務省入省。16年参議院議員(奈良選挙区)。参院経済産業委員会理事、党参院国会対策副委員長などを歴任。20年経済産業大臣政務官・内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。

「国のために自分は何ができるか」と考え、大学卒業後、総務省の官僚に。
国会議員としては、経済を立て直すため「予防医療」など新産業の創出に力を入れる。

奈良県のサラリーマン家庭で育った。中高一貫の西大和学園を出て、東大に入学。早くから、卒業後の進路は国家公務員に決めていた。国民のために働く仕事を目指した背景には、故郷・奈良での学生時代に出会った友人の存在があった。

その友人は、学業に優れていながら、家庭の事情で危うく進学を断念するところだった。傍らにいながら十分に力になれなかったことに、世の中の理不尽と無力さを感じた。「国を良くするために自分は何ができるか」。結論は、官僚となり、真面目に努力している人たちが報われる社会に貢献することだった。

総務省に入省し、地方行政の道に進む。役人としての基礎的な知識、スキルをたたき込まれた。2011年7月には、東日本大震災と福島第一原発事故の傷跡が残る、茨城県常陸太田市に政策企画部長として赴任する。

被災者の支援、被害を受けた生活・産業基盤の復旧と復興、土壌の除染、風評被害対策―。やるべきことは文字通り山積していた。それらの課題に取り組む日々が続く。やがて、新しい取り組みをはじめると、住民からダイレクトに反響がある自治体行政にやりがいを感じはじめた。常陸太田市も全国の多くの自治体と同じように、少子化・人口減少に頭を痛めている。そこで、子どもを育てやすい環境への支援を政策の柱に据えた。キャッチフレーズは「子育て上手、常陸太田」。市は宝島社が行う住みたい田舎ランキングで、18年に人口10万人未満の部門で子育て世代が住みたい田舎の第1位に選ばれている。 2年8カ月を過ごした常陸太田市では、「総務省はバックアップはするが、自治体が良くならないと地域は良くならない」と肌で感じた。また、「自治体自身の努力では限界があり、国による政策立案が欠かせない」ことも痛感。国政への参加の意思を固める。地元選出の代議士の推薦を受け、16年7月の参院選に出馬。初当選を果たした。

日本の地位低下に危機感 「予防医療」を新たな産業に

参院では外交防衛委員会、経済産業委員会などに所属。国会議員となり、あらためて日本が世界の中で置かれている立場を見ると、明るい景色は目に浮かんでこなかった。米国・中国に明らかに後れを取ったデジタルテクノロジー、欧州諸国などに主導権を奪われたグリーン関連の制度や技術――。だが、戦後、先人たちが苦労を重ねて築き上げた日本を、このまま二流国に転じさせるわけにはいかない。

今力を入れているのが「予防医療」だ。少子高齢化が進む一方で、「人生100年時代」を迎えている。これからは高齢者に健康で長く活躍してもらうことが欠かせない。総務省の先輩、上野賢一郎衆院議員とタッグを組み、病気の予防と健康づくりで持続可能な社会保障制度を目指す「明るい社会保障改革推進議員連盟」を立ち上げた。事務局長を務めるこの議員連盟を、世耕弘成参院議員や加藤勝信衆議院議員も応援。厚生労働省も前向きで、要望を踏まえて予算措置が取られている。

予防医療は新たな産業としても期待している。診断・検査・医療の分野は、日本が世界の先端を走っている。国内の需要だけでなく、海外へのノウハウ移転や輸出などへの期待も大きい。「新しい産業として立ち上げたい」と強調する。また、国を守る観点から防衛産業の強化にも力を入れている。自衛隊だけが納入先では、装備品の高コスト化は免れない。そのため、防衛用レーダーなどの輸出促進にも取り組んでいる。

エネルギー政策については、20年9月に経済産業大臣政務官に就任してから「見る目が変わった」。電力・ガス事業での自由化、資源価格の高騰などが進む中、エネルギー安全保障の重要性を強く認識。その中で原子力については、「50年カーボンニュートラルの達成、エネルギー安全保障を考えると、原発の新増設・リプレースは欠かせない」と考えている。

心配しているのは、長く国内でプラント建設がないため、原子力に関わる技術が廃れていってしまうことだ。「日本の原子力技術は先人が長く積み上げてきたもので、これを捨てるのは国として大きな損失。軽水炉だけでなく、HTTR(高温ガス炉)、SMR(小型モジュール炉)などでも、世界の最先端をいく可能性がある」。エネルギー安全保障の要として、原子力については「維持、発展させなければ日本を守れない。若手の同僚議員を啓発したい」と話す。

休暇の息抜きは、子どもの服・靴などをインターネット通販で買うこと。愛読書は宮本輝の『青葉散る』。「主人公がテニスに打ち込んだ自分の学生時代と重なる。ハッピーエンドでないところがいい」と、ロマンチストの一面ものぞかせた。

【火力】火力の一律規制 まずは特性の理解を

【業界スクランブル/火力】

7月21日に素案が示された第六次エネルギー基本計画は、衆議院議員選挙の最中の10月22日に閣議決定された。COP26を目前に控えており、また選挙の結果も大きな影響が無かったとはいえ、詰めを十分なされないまま、このタイミングで慌てて決定されたことに懸念を抱かざるを得ない。今後の具体策の検討で変な足かせとならないことを祈るばかりだ。

そんな折、10月末の系統ワーキンググループ(WG)を傍聴した。再生可能エネルギーの大量導入を可能にするための電力系統側の対策を議論するために設置されたものだが、今年になって再エネ余剰による出力制御の機会を減らすことを目指し、火力発電の最低出力の基準の引き下げについて検討が行われている。

事務局の提案資料を見て最初に感じたのは、「基準の見直しを検討する」とか「出力制御時に稼働する発電所名を公表する」といった規制による対応を示唆する文言が並んでいたことだ。鳴り物入りで進められた電力システム改革により電力の全面自由化が進められてきたのだから、この手の問題も当然市場制度のつくり込みで対応するものと思っていたが、どうやらそうとばかりは言えないらしい。

さらに違和感を覚えたのは、最低出力の基準を決めるのだから、「火力」についてこの基準は一律でなければならないという空気が支配していた点だ。しかし、発電事業者側のオブザーバーからは、同じ火力発電であっても、通常型の汽力発電やガスタービンコンバインドサイクル、さらにはバイオマス発電などで使われる循環流動層ボイラー(CFB)と型式によって運転特性に大きな違いがあると説明していた。型式が異なるというのは、自動車で例えるなら大型ダンプと軽自動車の差以上の違いがあり、一律に規制をかけて同列に扱うことが合理的な対応であるとはとても思えない。

そもそもこの問題、再エネ拡大と系統の安定運用をいかに安価に実現するのかが目的のはず。WGの関係者は、調整力を供給してくれる発電側の事情をよく聞き正しく理解することが先決ではないだろうか。(S)

炉心急冷で何が起きたか 福島2・3号機「溶融」の経緯

【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.9】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

高温の炉心を水で急速に冷却すると炉心溶融が起きる。

福島2・3号機がどう炉心溶融に至ったか、その経緯を解説しよう。

原子炉の炉心溶融は、高温の炉心を急冷することで起きる。この結論を基に福島第一の溶融までの経緯を説明するが、都合上、2、3号機から述べる。

2号機の冷却状況が悪化し始めたのが事故から3日目、3月14日午前10時ごろだ。事故から3日が経ち崩壊熱は0・4%程に減っているから、燃料棒は冷却水とほぼ同じ温度になったと考えてよい。

18時、蒸発で原子炉水位は減少し、炉心最下部に下っていた。海水注入を決意し、安全弁を開いて原子炉圧力を低下させた。30分後、圧力は5気圧に下り、冷却水温度は150℃に下がった。この時、消防ポンプによる海水注入が実施されていれば、炉心溶融が起きなかったことは前号で述べた。残念ながら、注入は1時間半遅れ、その間に燃料棒温度は再上昇して1000℃以上になっていた。

この状態で海水が注入された。この後の説明は無用だろう。酸化皮膜が破れてジルカロイ燃焼が始まり、炉心は溶融した。なお、原子炉水位は炉心溶融後も記録されているから、圧力容器は健全であり、メルトダウンはない。

TMIと酷似する2号機 「殻」の形成は不明

2号機の溶融状況はTMI事故と酷似している。TMIの溶融は注水直後に起きたが、2号機の溶融は注水の2時間後だ。この遅れは、前述の注水遅れに加えて、海水が炉心に到達するまでの時間である。両者ともに反応は激しかったが、2号機は消防ポンプの容量が小さいので、殻に包まれた溶融炉心が形成されたか否かは不明だ。形成されていれば、TMIと同様に、炉心の取り出しは比較的容易であろう。

なお、2号機は水素ガスが気団となって原子炉建屋の開口部から流出しているから、爆発による原子炉建屋の損壊はない。

2号機は水素ガスが建屋の開口部から流出した
提供:東京電力

流出した気団は、溶融炉心から出てきた水素ガスだから、濃い放射能を伴っていた。従って、その放射能の通過後は汚染による放射線量が高い。格納容器の内部や5階フロアーの線量は現在も強く、人の立ち入りはできないと聞く。

原子炉の西、約800m離れた発電所正門にモニターカーが配置されていて、放射能の放出を自動測定していた。測定された2号機の放射線量は、1、3号機に比較して約100倍高い。

2号機の放射能は溶融炉心から直接放出されたものだが、1、3号機は水ベントを通過して放出されているので、この差が水ベントの除染効果となる。水ベントは、2mほどの深さの水に放射能を潜らせるだけだが、その除染効果はけっこう大きい。

「たら、れば」の話しになるが、もし2号機の放射能がベントを通っていれば、線量は1、3号機と変わりなくなるから、福島第一からの放出放射能はIAEA(国際原子力機関)勧告の許容被曝線量値、20ミリシーベルト(mSv)を超えなかったことになる。

2号機の汚染は5階だけだったので、発電所の施設を利用したロボット調査がいろいろできた。

数年前に、俗称「マンボウロボット」が白色のデブリを見つけたとマスコミが報じたが、これは勇み足だろう。おそらく、2号機の原子炉が高温となったために、圧力容器を包む断熱材のアルミが溶け落ちたものであろう。デブリの素材であるウランも溶融燃料も、色は黒い。白くはならない。原子力報道となると記者が常識を失って、白黒の見分けすらつかなくなり、風評を勝手につくる。

咋年、格納容器の壁際に燃料棒頂部が落下しているのが2号機で発見された。熔融炉心の残渣発見との報道もあったが、これも間違いだろう。熔融炉心の残渣なら真下に落ちる。壁際に落ちない。詳述は避けるが、気団流出の慣性の戻しで、少量の空気が圧力容器に流入し、液面上で水素爆発が起きて容器下部が壊れ、その爆風で燃料棒の頂部が飛び出し、壁に当って落下したものであろう。

3号機は2号機と同設計の姉妹炉だが、直流電源が生き残ったので事故時のデータも残っている。安全設備も自在に操作できたので、格納容器スプレーを作動させるなど事故対応上の操作も多く、運転経緯は極めて複雑だが、廃炉と無関係なので説明は割愛する。

変貌する中国のエネルギー事情 隣国との向き合い方の視座

【多事争論】話題:中国のエネルギー危機と日本

中国で全省の3分の2もの地域で停電が頻発し、日本も成り行きを注視していた。

エネルギー事情が変貌する巨大な隣国に、われわれはどのように付き合うべきなのか。

〈燃料インフラの共有利用へ 東アジア大の枠組みを構築すべきだ〉

視点A:山田 光 スプリント・キャピタル・ジャパン代表取締役

今年1月の電力ひっ迫を契機として、政府もエネルギー関係者も日本の置かれている状況を振り返るようになった。一方から見ると、脱炭素政策が性急過ぎた、あるいは化石電源の退出が早過ぎたという批判になる。だが他方から見ると、脱炭素政策の実施が遅すぎた、あるいは再生可能エネルギー導入策が不徹底だったという批判になる。

日本の特徴は、四方を海に囲まれ、送電線も燃料パイプラインも隣国とつながっておらず、再エネが十分に電力供給できるようになるまでは、電力の需給を燃料確保に依存している点だ。その特徴を踏まえて、燃料の卸市場を国内およびアジアで構築しようというビジョン、あるいは2030、40年の電力市場のビジョンを作ったとはあまり思えない。

もう一つの特徴は、欧米に比べて電力の自由化がかなり遅れたこと、そして自由化あるいは市場化における企業行動が途に就いていない段階で脱炭素シフトを余儀なくされている点である。これらの点で、今の中国のエネルギー危機と電力ひっ迫は、日本の今後の市場設計の在り方と市場参加者の行動を見直す上で重要な教訓だと言える。

まず中国は石炭主体の計画経済である。社会主義で情報が統制され、資源の生産・調達やエネルギー供給が国家管理されており、その中で、北京ほか各地の大気汚染を改善すると同時に脱炭素を理由に石炭火力発電を削減する方針となった。だが石炭は、中国国内で大量に生産され、一次エネルギーの約55%、発電用燃料の63%を占める(20年の数値。BP資料より)。日本の約8倍の7800TW時の発電量のうち、約5000TW時を担う石炭火力を減らすのはそう簡単ではない。

石炭火力を抑制する一方で、天然ガスシフトを試みた。しかし天然ガスの一次エネルギーでの利用割合は約12%程度しかなく、発電ミックスではわずか約3%であるが、それでも年間約250TW時の天然ガス火力発電を、一気に20倍に引き上げるのは容易ではない。中国のエネルギー市場はあまりに巨大であり、脱炭素に向け石炭の生産や輸送を変え、天然ガスのパイプライン建設やLNG受入基地を整備するにも、一気に方向転換するのは不可能に近い。

2番目の論点としては、中国経済における電力供給の重要性である。中国は世界の工場であり、電気はサプライチェーンの重要なエネルギーである。中国共産党が脱炭素を目標とし、資源・エネルギー政策のシフトを図ろうとしても、CO2排出削減のために発電をストップすれば世界経済への影響、そして日本経済へのインパクトは計り知れない。

中国において、石炭火力をベースにした電力供給構造をシフトするには、中央政府による綿密な計画と周到な準備が必要であるが、ハードルは高い。やはり、文殊の知恵を借りるという意味で、市場システムを上手に利用して、国全体としてエネルギーのリスク管理を行うべきである。中央集権では無理がある。

電力と燃料市場を一体化 広域運用・管理の仕組みが不可欠

中国よりも規模が小さい日本においては、エネルギー制度の脱炭素シフトははるかにスムーズにできる。電力と燃料の市場を一体化したデザインを構築し、供給力と信頼度を維持しながら市場メカニズムを上手く利用し、再エネの変動リスクを量と価格の面で最適にコントロールする仕組みを導入すべきだ。

電力の供給力確保では、電力と燃料インフラの広域運用・一体管理が一つのアイデアである。燃料パイプラインが未整備であるため、燃料で発電し送電網を通じて電気として送ることで広域のエネルギー供給の安定化を図り、将来は電力インフラと燃料受入基地の広域一体運用も考えられる。平常時と緊急時のデータ整備と開示のプラットフォームを作り、さらに全国のエネルギー利用の最適化モデル運用が求められる。

燃料取引では海外のプレーヤーとのコラボも重要だ。最近の九州電力・INPEX・PTTのアライアンスや、関西電力・ポスコのコラボは、民間の商流を構築し、平常時の安定化が緊急時の安定化になる点で画期的だ。政府がこの流れをサポートし、東アジア大でのインフラの共通利用のためのフレームワークを構築し、今後、LNG調達を拡大する中国に対しても長期スパンでこの枠組みに参加してもらうよう働きかけるべきだろう。

電力の供給力確保という点ではドイツの戦略リザーブの考え方が参考になる。必要な電源を送電事業者が契約して残すと言う考え方だ。さらに予備力確保では、電力(エナジー)と予備力(アンシラリー)を共最適化している米国のRTOのシステムも、今後の再エネ導入における系統運用には欠かせない。

やまだ・ひかる 慶応大学経済学部卒。バンク・オブ・アメリカ東京支店、モルガン・スタンレー東京支店などを経て1995年にエネルギーコンサルティング会社であるスプリント・キャピタル・ジャパンを設立。

【原子力】世界的な電力不足 タクソノミーに影響

【業界スクランブル/原子力】

2020年冬、西日本を中心に電力需給が綱渡り状態といえるほどひっ迫したことは記憶に新しい。当時、日本卸電力取引所(JEPX)の電力前日スポット市場の取引価格は、kW時当たり200円(通常は8~16円)を超えた。東日本大震災以降、全国の原発が長期停止したため、火力発電所の新設計画が大量に浮上。だが、固定価格買い取り制度(FIT)を背景に、再生可能エネルギーの導入が予想を超える速度で進んだ。そのため火力発電の稼働率低下の懸念が生じて、新設計画からの撤退や老朽火力の休廃止が相次ぎ、供給力が構造的に不足する状況に陥ったことが、電力不足の原因にあげられる。21年度冬も電力需給の予備率は、安定供給に最低限必要な約3%に低下し、東京電力ではマイナス0・3%に落ち込む見通しだ。

追加供給力を賄うために不可欠なのが天然ガスだが、欧州でも既に同価格が高騰しており、今後中国による買い漁りが進めば、火力発電の燃料不足は深刻化し、電力不足に拍車がかかる。電力不足は日本だけではないのだ。このためEUでは、来年の運用開始を予定する持続可能な事業分類(タクソノミー)に原子力を含めるかどうかの、議論が大詰めを迎えている。10月22日の会見でフォンデアライエン欧州委員長は「安定的なエネルギー源として原子力が必要」として、脱炭素実現には再エネとともに原子力が不可欠との姿勢を示した。

電力の約7割を原発に依存しているフランスのマクロン大統領は同じ22日、「われわれの気候変動目標を達成するために原発を利用する必要性について、これほど明確かつ広範な支持が表明されたことはこれまでなかった」と述べた。既に天然ガスの価格高騰を受け、フランスを中心とするEU加盟10カ国は10月中旬、原発を支持する共同声明を発表した。独やオーストリア、ルクセンブルクなどは、放射性廃棄物の長期保管問題を指摘して原発に強く反発している。近日中に決定するとみられるEUのタクソノミーの中身に注目が集まっている。(S)

【LPガス】社会実装の第一歩 グリーン化で協議会

【業界スクランブル/LPガス】

 LPG輸入元売りのアストモスエネルギー、ENEOSグローブ、ジクシス、ジャパンガスエナジー、岩谷産業の大手5社が、LPGのグリーン化事業を共同して進めるため、「日本グリーンLPガス推進協議会」を新たに設立した。協議会では、水素とCO2を合成させ、メタノールなどへの改質プロセスを経たうえで、100%に近い収率でLPGを製造する新たな技術(プロパネーション・ブタネーション)の確立を目指すもので、北九州市立大学と連携する。

フィッシャー・トロプシュ法をはじめとする従来の燃料合成技術では、CO2を一酸化炭素に置換する必要があり非効率な面があった。だが新技術ではCO2を直接水素と効率的に反応させ、高い収率でのLPG製造が可能になるという。また、LPGと類似した特性を有するジメチルエーテルからLPGを製造する技術の確立に向け、大手触媒メーカーとの共同研究開発など二つのプロジェクトを併行して進める方針だ。グリーンLPガスの合成に係る技術開発を今後10年で集中的に行い、2030年までに技術を確立し、商用化を実現。50年には需要の全量をグリーンLPガスに代替し、海外から調達する業界構造からカーボンニュートラル(CN)に貢献する業態への転換を目指す。

大きく変革するエネルギー業界だが、50年の世の中がどうなっているかを見通すことは難しい。第四次産業革命と言われるDXによる技術革新もそうだが、コロナ禍を機に潮流となったリモートワークなど誰が想像できただろうか。今後もどのような先進技術が開発されるかわからない。CN宣言、30年温暖化ガス46%削減目標などで、一気に削減対象のエネルギーとなったLPガス。しかし、政府のグリーン成長戦略ではCN化が図られても、LPガスは50年時点で約6割の需要が維持されるとされている。同協議会の初代会長に就いた小笠原剛アストモスエネルギー社長は「グリーンLPガスの社会実装につなげていくための第一歩」としており、スピード感をもった対応に期待したい。(F)

再び脚光浴びるクリーンテック 投資には忍耐強い資本が不可欠に

【羅針盤(第二回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

世界の脱炭素に向けた潮流の中で、再びクリーンテックが注目されている。

今回は、過去を振り返り、現状を見た上で、未来の展望を考えたい。

 前回、GX戦略における要諦があるならば、環境と経済のトレードオフを乗り越えなければならないことを指摘した。このためにはクリーンテック分野での投資の加速による技術開発が必要と考えられている。しかし、クリーンテックの世界はこれまで順風であったわけでは決してない。

過去のグリーンバブル クリーンテック投資の現実

2008年ごろ、米国で当時のオバマ大統領が、選挙期間中からグリーンニューディールを政策として打ち出した。これを契機に、日本・ドイツ・中国などでも同様の政策を掲げる動きが広がった。米国の政策はリーマンショック後の景気対策の側面が強かったが、インターネットやバイオテクノロジーに続く第3の巨大ビジネスチャンスとして、クリーンテック革命とも呼ばれるブームが起こった。

前回に比べると、今回の脱炭素ムーブメントでのクリーンテック興隆は、米国のみではなく世界に広がっており、要素技術の種類も多様化しているため、投資先の選択肢も増えている。ただ、欧米のVC・CVCの投資領域を見る限り、エネルギーマネジメント、カーボンリサイクル、電気自動車、太陽光発電などに偏っており、水素、アンモニアなどの代替燃料やその他の再生可能エネルギーに広がりが見られない印象を受ける。

ビル・ゲイツのブレークスルー・エナジーでディレクターを務めるベンジャミン・ガディ博士らは、クリーンテックVC在籍当時の2016年に公表したMIT(マサチューセッツ工科大学)のワーキングペーパーで、クリーンテック投資におけるVCモデルは破綻していると結論付けている。

VCによる投資ファンドの運用期間は10年程度が基本であり、今日でいうところのデジタルやヘルスケアなどの領域で、短期のリターンを狙うことに適する。クリーンテックの場合、投資回収期間が10年では短すぎて上手くいかないのだ。ほかにも、分散投資の多様性、個々の企業のリスクリターンや母数と生存確率の水準なども異なり、これだけ投資環境が違うものに、他領域でのアプローチを当てはめるのは最初から無理がある。

図はPEファンドの中でもVC・CVCなどの投資期間と、クリーンテック投資をメインとするファンドのそれが15~20年程度に及ぶことをイメージして比較したものである。投資先の企業単体のパスのイメージであるため、クリーンテックのスタートアップ(SU)の成長性がVC投資先と比較して低いわけではなく、投資回収が遅いことを示している。

例えば、デジタル分野と環境・エネルギー分野にそれぞれ特化したファンドを比較した際、リスクリターンが異なる資産で構成されるポートフォリオにおける投資先企業の組み合わせ次第では、運用期間の長い後者が不利になるとは限らない。また、後者では戦略リターンだけではなく財務リターンを重視している場合すらある。これはもはやVCモデルではなく、同じPE投資の中でもインフラファンドなどのアプローチに近い。

こうした投資には忍耐強い資本が不可欠といわれる。近年、大富豪が資産管理目的で設立するファミリーオフィスや、政府系や国富ファンドなどの国家資本ベースの機関投資家がこの分野で存在感を増している。これらのPE投資がクリーンテック投資に向かい、一部では収益化しているともいわれている。しかし、世界全体で見れば、まだ一部の話に過ぎない。

クリーンテック投資の未来 グリーンフレーション招く

技術分野でもサービス分野でも、企業が飛躍的な成長を遂げるためにイノベーションが必要となることに異論を唱える人は少ない。これについては、画期的な最新の技術開発から、枯れた技術の組み合わせによる発明、行動経済学で言うところのフレーミング効果によるサービスモデルの創出など、さまざまな手段で幅広い領域で起こり得る。シュンペーターが説いた「新結合」が必要なのである。

GX戦略のコンセプト(イメージ)

しかしこうしたイノベーションが産まれないまま膨大なコストがかかるだけの地球温暖化対策を進めることは、マクロ経済的に極めて危険な状態に陥る可能性もある。実際、コロナ禍で膨らんだ金融緩和は流動性相場を出現させ、多くの資産市場でバブルを発生させている。これはグリーンファイナンスの世界も例外ではない。

世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、今年6月のインタビューにおいて、グリーンな世界の実現を可能とする技術を手に入れていない現状のままでは、はるかに高いインフレに直面すると警鐘を鳴らしている。脱炭素化を無理に進めるとグリーンフレーションを招くと指摘されている所以だ。

この頃から欧州のガス価格は上昇を続け、これに端を発したエネルギー価格全般の高騰を招いた。さらにこれがエネルギー以外の資源価格全般に波及し、20年に一度のレベルといわれるインフレの足音が世界中に響き始めている。コロナ不況からの回復が望めないまま、スタグフレーションとなる可能性も懸念されている。

このような環境では不確実性の高いスタートアップ投資においてリスクを取ることがますます難しくなる。こうなるとしばらくは負の連鎖になるため、地球温暖化対策における新たな解決手段を獲得することも遅れる可能性がある。

10月、フォン・デア・ライエン欧州委員長がEU首脳会議後の記者会見において、「安定電源として原子力が必要」と発言し、大きな話題となった。人類がいま手に入れている利用可能な技術に思いが至れば、至極当然な流れだと考えることは誤りであろうか。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【マーケット情報/12月17日】欧米原油、需要後退懸念を映して下落

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、欧米の先物価格が下落。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大が経済活動を抑制し、石油需要が伸び悩むとの観測が売りを促した。

欧州の複数国が、移動規制を強化。本来なら冬季休暇で旅行者が増え、ジェット燃料の需要が高まる時期にあるだけに、その影響は大きい。また、バーレーンやオマーンなどの中東諸国も、移動や集会を制限する方針を示し、需給が緩むとの懸念が強まった。

さらに、イラン外相が、国際原子力機関との核合意復帰に向けた話し合いで進展があったと発表。米国の対イラン経済制裁が解除され、イラン産原油の供給が増加するとの予見が高まったことも、売り戻しを誘う材料となった。

ただ、米国では、石油需要の兆しが出ている。米エネルギー情報局が発表した最新の週間統計によると、同国の軽油消費量が2003年1月以来の高水準を記録。また、ジェット燃料在庫は過去7年間で最低の水準まで減少した。原油在庫も前週比460万バレル減の約4億2830万バレルとなり、価格の下落を幾分か相殺した。

【12月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.86ドル(前週比0.81ドル安)、ブレント先物(ICE)73.52ドル(前週比1.63ドル安)、オマーン先物(DME)=73.24ドル(前週比0.52ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.37ドル(前週比0.43ドル高)

【コラム/12月20日】経済安保には要注意

福島 伸享/衆議院議員

 米中対立が高まる中で、経済安保の機運が盛り上がっている。年明けの次期通常国会には、我が国の経済安保の骨格となる法案が提出される予定となっており、今年の通常国会にはその前段としてのNEDO法等改正案が提出され、可決された。今回の法改正は、半導体を製造する企業の工場立地に補助金を出すための基金をNEDOに積めるようにするものだ。補正予算で計上されている予算額は、約6,000億円! そのうちの約4,000億円が、現在熊本に建設が予定されている台湾のTSMCという世界最大の半導体メーカーに交付される方向になっている。

 コロナ禍などの影響で世界の半導体の流通が大幅に減り、自動車などの生産が滞っている。日本国内に生産拠点を作るというのは、一見素晴らしい政策のように見えるが、実際にはそうはならないだろう。TSMCの半導体の売り上げのうち日本向けは元々わずか4~5%。世界中の需要がTSMCに集まる中で、日本は魅力的な売り先ではない。おそらく日本に新たに作る工場は、日本向けの製品というより、中国や韓国向けの製品を作る工場になるだろう。TSMCは日本の企業ではなく、日本政府は何ら経営に影響を与えられないから、「補助金をつけるから日本企業のために半導体を作れ」と言っても思ったようには行動はしない。

経産省の担当課長にこの点を問い質すと、「TSMCはちゃんと配慮しますと言っている」と答えるが、ビジネスの世界で契約書も何もない口頭での発言を元に何らかの決断をすることはありえない。TSMCが日本に来ることで日本への技術移転が期待できるかといえば、そもそも来る工場は先端製品ではなく汎用製品の工場だし、わざわざ「技術上の情報管理のための体制整備」を補助認定の基準にしていて、日本側に情報が渡らないようになっている。つまり、この法律では、日本のメリットになることが何ら保証されていないのだ。

このような、日本人の税金を原資として前代未聞の4,000億円もの政府資金を一外国企業に補助する法改正を、衆議院経済産業委員会のたった2時間半の審議で通してしまっていいのか?今ごろ6,000億円の予算措置をするなら、20年前に同額の予算を日本企業に講じていれば、ここまで日本の半導体産業が衰退することはなかったかもしれない。

私が、無所属で勝ち上がった猛者5人で組んでいる会派は同法案に反対したが、与党に加え、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党もこの法案には賛成した。4年ぶりに国会に戻ってきて、劣化した官僚組織とそこが作る政策を無批判に通すだけの無能な政治こそが、日本の衰退の一番の根本原因であることを改めて実感する。読売新聞の報道によると、「経済安保の司令塔」を内閣府に設置するともいう。中身のない政策を隠すための常套手段は、新しい組織の設置と日本版〇〇と銘打った海外の制度を真似た制度を作ることだ。

 経済安保が、生き馬の目を抜くグローバルビジネスの中で、日本がカモになるだけの制度にならないか、キャッチフレーズやタイトルに踊らされることなく冷静に分析することが必要だ。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

【都市ガス】LNGは供給過剰も 柳の影に怯えるな

【業界スクランブル/都市ガス】

 昨冬、旧一般電気事業者のみならず都市ガス事業者のLNG在庫量が減少し、天然ガス発電所の稼働抑制を余儀なくされたことから、1カ月にも及ぶ卸電力市場価格の高騰を招いたことは、まだ記憶に新しい。今冬が厳冬との見通しがある中、昨冬と同じようにLNG不足が発生して市場高騰を引き起こすのではないか、という不安がつきまとう。そのためか、12月〜3月の先物・先渡し電力価格はkW時当たり30円を上回っている。

今年も中国が石炭火力停止分の電力確保のため、天然ガス火力の稼働率アップに向けてスポットLNGを買い漁り、東アジアLNGスポット価格(JKM)を百万BTU(英国熱量単位)当たり30ドル前後と、昨冬をも上回る価格レベルに高騰させている状況にある。今冬も昨冬同様にスポットLNGの奪合いが発生し、LNG不足に陥る可能性はあるのだろうか。

資源エネルギー庁は昨冬のような事象を発生させないため、旧一電のLNG在庫量のモニタリングを開始した。夏季ピークを過ぎた9月末実績は約250万tと昨年同時期(約160万t)を上回っている。例年がおおむね180万t前後であることから、今年は十分余裕があると判断できる。今夏は想定よりも低需要で、各社のLNG在庫が余剰気味であることが数字に出ている。ラニーニャの影響を受けている今冬は厳冬予想だが、暖冬になる可能性もあり、その場合はLNGタンクが満杯になるタンクトップの恐れもあるという。

そもそも旧一電のLNG契約量は余剰傾向。競争激化による需要減、再エネの急増、METI主導でのシェールガスLNG購入、原子力の再稼働などが重なり、需給のバランスが崩れ、オーバーサプライとなっているのだ。従って、スポットLNGを奪い合うというよりも余剰LNGを市場で売却して需給調整を行っている状況だ。都市ガス事業者も含め日本のエネルギー企業は利益最大化のために供給支障が生ずるような過度のLNG売却などはしない。冷静に現状を見て判断すべきだ。柳の影に怯えてはいけない。(G)

多角化からLPガス販売に特化 快進撃を続ける都心戦略とは

【私の経営論(中)】津田維一/富士瓦斯社長

前回は当社のカーボンニュートラルと防災市場における取り組みについて書かせていただいた。今回はそのような取り組みを推進する企業風土になった契機である都心戦略について説明していきたい。

国内のLPガス販売数量は1996年の2000万tをピークに減少を続け、2020年度には1294万tとなり、市場規模は3分の2にまで縮小している。96年というのは液石法の大改正があった年でもあった。当時、ブローカーによる「ビン倒し」と呼ばれる顧客争奪戦が激化しており、LPガス業界にも弊社にも大きな転換点となった年であった。

フジガスは54年の創業以来、卸売りとオートガス販売に注力していたが、80年代以降は販売店の商権買収と郊外への営業所の出店によって、直売を中心とした業態へと転換を進めていた。一方で創業者は成長が見込めないLPガスに見切りをつけ、さまざまな多角化を行い、脱LPガス路線を目指していた。95年、26歳の私は北海道の同業他社での修行を終え、取締役社長室長として着任した。当時は創業者の後を受けた実母が社長に就任しており、多角化もうまくいかず、ビン倒しが激化しはじめ、社内は混乱していた。

安易な多角化の愚を悟った私はガス以外の事業を全て整理し、LPガスに特化することで成長戦略を描けないかを考えるようになった。とはいえ、資本力のないフジガスが価格差別化で勝負するのは自殺行為であり、簡単には答えが見つからなかった。考え抜いた結果、今でも当然のように行われているハウスメーカーに対する設備の無償貸与による新規物件の獲得を停止し、LPガスの新たな市場を切り開く道を選択した。この選択は社内では多くの反対を受け、幹部社員の退職などもあったが、自社のジリ貧状況を理解していた一部の社員の後押しもあって策定されたのが「都心戦略」である。

他社が敬遠する質量販売 LPの強みと積極展開

96年にスタートした都心戦略は、①同業他社との協業による効率化、②LPガスの都心需要の開拓、③都市ガス市場での機器販売、という三つの施策からなる。

①同業他社との協業については、配送の受委託を推し進め、世田谷区にある充填工場の稼働率をあげるとともに、拠点を統合、面的集約によって顧客密度を上げ、配送効率、業務効率をあげることができた。むやみな商圏の拡大、直売顧客数への固執をやめたことで、同業他社との協業、協調路線に転換することが可能となり、その結果、不毛なビン倒しによる損失も大きく軽減できた。現在では全国の協業先のご協力もあり、47都道府県でのガス供給を行っている。

②都心需要の開拓においてまず取り組んだのが、小型容器による質量販売である。LPガス販売の多くは50‌kgもしくは20‌kg容器によるメーター販売であり、小型容器を使った売り切りの質量販売は、手間がかかる、儲からない仕事として、多くの販売事業者から敬遠されていた。当社も、依頼があってもお断りをしている状況であった。しかし、LPガスの特長である「可搬性」「簡易性」「安全性」を最もアピールすることができる販売形態であり、なんとか販売を拡大できないかと考えていた。

その時に出会ったのが屋外暖房機の「パラソルヒーター」であり、大井競馬場での大量採用を契機に質量販売の専従部隊が編成された。その後も、燃焼によるCO2によって蚊をおびき寄せる蚊取り機「モスキートマグネット」の取り扱いを開始。勢いに乗る質量販売部隊は、当時増えつつあった食のイベントや音楽フェスの飲食ブース、学園祭の模擬店などのLPガス供給を軒並み獲得していった。

自社で企画、開発した屋外用ガス暖房機「DAN」

そして、この快進撃を支えたのは保安最優先の姿勢であった。現在でも業界内で質量販売というのは事故が起きやすいとのイメージがあり、敬遠されている。実は配管を使った供給よりもシンプルであり、事故が起きづらいはずなのだが、保安意識の低い販売店が充分な保安上の措置を怠るために事故が起きてしまっていた。そこで私たちは質量販売であっても保安機器としてガスメーターを設置するなど、さまざまな保安対策を講じることとした。その分コストも増加するが、保安最優先の考え方を理解していただけない場合には販売をしないという姿勢が結果的にお客さまからの支持につながったと考えている。防災需要など都心部でのLPガス市場の可能性は奥深く、今後地方都市でも大いに期待できると確信している。

都市ガス向けに機器販売 クレーム減手法が好評

③都市ガス市場での機器販売については、LPガス販売事業者として蓄積したガス器具の販売、施工のノウハウは、地元の都市ガスユーザーに対しても十分アピールできると考え、集合住宅の給湯器交換に絞ってマーケティングを行うことにした。LPガス市場では、集合住宅の給湯器はオーナーや管理会社から無償での交換を求められるケースも多く、社内で不安の声もあったが、質量販売同様に専従部隊を作って知恵を絞り、「壊れない給湯器プラン」の販売を開始。都市ガスエリアの集合賃貸住宅の管理会社をターゲットにし、壊れた際に一台一台交換するのではなく、「期限管理による壊れる前の一括交換」で管理の手間と入居者のクレームを減らす手法は好評を得た。事前の現場調査による機種や設置状況の物件情報の蓄積によって故障時のスピード対応も可能となった。分譲集合住宅への販売も開始し、5年ほどで都市ガス市場での機器販売は売り上げの3分の1を占めるまでになった。

これらのLPガスにこだわった施策はリフォーム、太陽光発電、ウォーターサーバーといった多くの同業他社の多角化戦略とは一線を画するものであり、現在の発電機販売やカーボンニュートラルLPガスの販売につながる土壌となったと考えている。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年家業である富士瓦斯に入社、2014年から現職。05年一橋大学大学院商学研究科にてMBA(経営学修士)を取得。スタディス社長、NPO法人LPガス災害対応コンソーシアム副理事長も務める。

【私の経営論(上)】https://energy-forum.co.jp/online-content/7052/

【新電力】再エネ制度の歪み 需要の不利益も

【業界スクランブル/新電力】

 英国で10月31日から開催されているCOP26では、46カ国が石炭火力発電所の廃止・新規建設停止に署名するなど、温室効果ガス抑制に向けた動きが加速していることが実感できるものとなった。

一方、世界中でエネルギー価格の上昇が止まらない。10月のJEPX前日スポット市場における24時間平均の約定価格はkW時当たり12.06円となり、1月以来の水準となった。海外でも市場価格は高止まりしており、英国ではkW時当たり0.179ポンド(27.48円)、フランスでは0.173ユーロ(22.42円)、ドイツでも0.140ユーロ(18.13円)となり、非常に高い水準の価格が継続している状況となっている。エネルギー価格高騰を受けて、欧州では原発新設に向けた機運が高まっている。英国はサイズウェルCの建設を決定したほかフランスは原発6カ所の建設を決定した。英仏両国の原子力推進政策は「脱炭素」の目標に向け必要な手当を講じたものであり、再エネ偏重の政策・事業環境が変化しつつある。

さて、本題の日本の新電力の事業戦略であるが、相変わらず「再エネメニュー」が幅を利かせている。非化石価値の価格が非常に低く、またPPAとの組み合わせも、再エネ賦課金の負担を逃れることができるといった制度の歪みを突いたビジネスモデルになっており、制度設計が変わった場合には需要家のコストメリットが創出できなくなる恐れが高い。さらに危惧される事態として、一部で再エネのインバランスリスクを需要家に負担させるビジネスモデルが勃興しつつある。需要家側はスキームのリスクをよく理解せずに契約しているケースが散見され、今後インバランス価格が大きく変動し、需要家が予期せぬリスクを負う可能性も否定できないと考えられる。

前述の通り、欧州では再エネにとどまらず、脱炭素目標に向けた取り組みが加速している。新電力がいつまでも再エネに偏重した取り組みに留まり、リスクを需要家に押し付けているようでは、いつか社会から見捨てられはしないか、大変に心配である。(M)