プライム市場への移転にハードル より高度な企業ガバナンスが必須

【論点】プライム市場の創設/荻野零児 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

東京証券取引所は来年4月から市場を「プライム」「スタンダード」「グロース」の三つに区分する。

プライム市場は高い企業ガバナンスが求められ、気候変動に関する企業情報も量と質の一層の充実が求められる。

 東京証券取引所(東証)は、2022年4月4日に新たな市場区分をスタートする予定である。

現在の東証の市場区分は、市場第一部、市場第二部、マザーズ、ジャスダックと四つに分かれている(図表1参照)。このうち、市場第一部は、いわゆる東証一部と呼ばれ、上場会社数は2173社(21年9月末)である。

TOPIX(東証株価指数)は、東証一部の時価総額の合計を指数化したものである。また、日経平均株価(225銘柄)を構成する上場企業は、東証一部から採用されている。

東証によると、現在の市場区分には次の二つの課題がある。第一に、各市場区分のコンセプトがあいまいであり、多くの投資者にとっての利便性が低い。第二に、上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない。

これらの課題を踏まえて、見直し後の市場区分は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の三つに分かれる。これら市場の上場基準は、各市場区分のコンセプトに応じて、流動性やコーポレート・ガバナンスなどに関する定量的・定性的な基準が設定される。なお、流動性とは、株式市場に出回る株式の数や金額を示す尺度であり、流動性が高いほど、投資家にとって売買しやすい銘柄であると判断される。

出所:東京証券取引所の資料に基づきMUMSS作成

定量的な上場基準を設定 年末までに移行先を選択

図表2は、プライム市場のコンセプトを示している。そして図表3は、プライム市場の上場基準の3種類の項目と考え方を示している。東証は、各項目における定量的な上場基準を設定している。例えば、流動性の項目では、株主数や流通株式数、流通株式時価総額、売買代金の定量的な上場基準が設定されている。

新市場区分への移行プロセスの今後のスケジュールは次の通りである。21年12月30日までに、上場会社は、移行先となる市場区分を主体的に選択することになっている。そして、22年1月11日に、日本取引所グループ(JPX)のホームページで、上場会社の新市場区分の選択結果が公表される予定である。

東証一部の業種分類のうち、エネルギーと関連性が高い業種の上場会社数は次の通りである。鉱業6社、石油・石炭製品9社、電気・ガス業22社(21年9月末)。見直し後の市場区分であるプライム市場でのエネルギー関連の上場会社の数が注目される。

東証は、新しい市場区分において、上場会社に、上場後も継続して各市場区分の新規上場基準の水準を維持することを求めている。図表3に示したように、プライム市場の上場基準では、①株式の流動性、②ガバナンス、③経営成績・財務状態―の三つの項目が注目点となる。

株式の流動性を改善させる方策は、流通株式を増やす工夫も必要であるが、経営の「王道」は、株式市場における企業価値である時価総額(=株価×株式数)を向上させることである。株式市場における企業価値は、財務パフォーマンスと非財務ファクターの二つの観点から評価されていると考える。

財務パフォーマンスは、上場基準の③経営成績・財務状態の項目に該当する。企業価値の向上のためには、エクイティ・スプレッド(=ROE・株主資本コスト)の財務に関する生産性KPI(重要業績評価指標)の中長期的な改善がキードライバーになると考える。

非財務ファクターについては、②のガバナンスが重要な課題となっている。図表3に示すように、プライム市場の上場基準では、東証が策定したコーポレートガバナンス・コード(一段高い水準の内容を含む)の全原則の適用が求められている。このコードは21年6月に改訂され、プライム市場上場会社のみに適用される原則も載っている。

例えば、原則4―8(独立社外取締役の有効な活用)では、プライム市場上場会社の独立社外取締役の人数についての言及がされている。

気候変動リスク開示を要求 エネ企業への注目度高まる

また、原則3―1(情報開示の充実)の補充原則では、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益などに与える影響について、(中略)TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、または、それと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきであるとする。

プライム市場に上場するエネルギー会社は、コーポレートガバナンス・コードの一般的な原則は当然として、プライム市場上場会社のみに適用される原則への適応についての進捗への注目度合いが高まると考える。

おぎの・れいじ 1988年国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)入社。2001年企業調査課に異動し、電力・ガス・石油セクターを担当。

COP26参加のインド・モディ首相の思惑

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

COP26期間中の11月2日、英国とインドが世界の電力系統の連系を改善する計画を発表したとロイターが報じた。例えば、日没を迎えた国が太陽光が注いでいる国から電力供給を受けることができるというわけだ。今や“お祭り”と化したCOPの場では、こうした壮大な構想がポンと出てくるようだ。もっとも、計画の内容や費用、資金調達などには触れられず唐突感は否めない。エネルギーの専門家からは、「再エネ利用には多くの送電線の整備が必要だと強調するようなもの」「時差を跨いだ送電は旧ソ連などが構想したが進ちょくしていない。系統技術は進歩したが多額の費用がかかる」など、厳しいコメントが飛ぶ。海、砂漠、山岳地帯などの地形的障壁も指摘されている。

ではなぜ、両国はこの構想の発表に至ったのか。今回のCOPでは、主要排出国である中国、ロシアの首脳が欠席。英国のジョンソン首相としては、会議の成功を印象づけるために世界3位のCO2排出国であるインドのモディ首相の参加は必須だったのであろう。もともとインドは、気候変動への努力を表明するかどうかも疑問視されていた。結果的にモディはグラスゴーにやってきて、その前日に2070年のネット・ゼロを宣言した。英国と共同での計画発表に関し、「モディは先進国の援助があれば前向きに脱化石燃料に向かうことを示したのだ」との声もある。結局、ジョンソンはインドの貢献を称え、モディは先進国の援助の必要性を強調するということで折り合ったということか。

先進国の援助次第というこの計画も、50年後のネット・ゼロも、具体的な約束をしたとは言えまい。それでもモディは欠席裁判によってこの祭りの生贄になることは免れたというわけだ。

【電力】グリーンとクリーン 言い換えの真意

【業界スクランブル/電力】

 2021年のCOP26は、化石燃料の品薄、価格上昇が世界的に起きている中、英国グラスゴーで開催されている。この原稿を書いている段階ではどんなアウトプットに至るか不明であるが、大きな成果が出るとは思えず、総選挙直後にもかかわらず岸田総理がわざわざ出向くほどのものかと思っていた。もっとも、就任したばかりの岸田総理にとっては、得難い首脳外交の機会であったのかもしれない。実際、数時間の滞在の中でバイデン米国大統領をはじめ精力的に首脳会談をこなしたようである。

さて、COP26世界リーダーズ・サミットでの岸田総理のスピーチであるが、筆者は次の箇所が印象的であった。

「議長、日本は、アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げます」

どこが印象に残ったかというと、総理はグリーンといったん発言したあと、クリーンエネルギーと言い換えている。クリーンとグリーンの違いに明確な定義があるわけでは多分ないが、筆者はクリーンエネルギーには原子力が含まれると勝手に思っている。そして、これも筆者の妄想かもしれないが、これは意識的であったかもしれないと思った。

さて、報道によると日本は2年連続、化石賞を受賞したそうである。理由は「脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」とのことであるが、欧州でも昨年あたりからグリーン水素への取り組みは活発であるし、自然変動性の再エネの出力変動を調整する火力をグリーン水素キャリアで稼働させれば、効率的な脱炭素エネルギーシステムの一つの答えになりうる。化石賞の主催者である団体のメンバーである自然エネ財団の報告書でもグリーン水素の輸入にメリットがあることが言及されている。

この主催団体は考えが硬直化していないか。他方で、化石賞報道のヤフコメをみると、化石賞に批判的なコメントが結構見られる。ほっとするものがある。(T)

日本が栄えある「化石賞」受賞 加熱する化石燃料バッシング

【ワールドワイド/環境】

11月2日、衆院選に勝利した岸田文雄首相は最初の外遊先として英国・グラスゴーのCOP26に参加。演説で「2050年カーボンニュートラルを長期戦略の下で実現する。30年度に13年比46%減を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」との目標を改めて表明した。

 さらに温暖化問題解決に向け、①アジアを中心に再生可能エネルギーを最大限導入しながら化石燃料火力を水素、アンモニアなどのゼロエミッション火力に転換するため1億ドル規模の先導的な事業を展開、②先進国全体で年間1000億ドルの資金目標の不足分を補うべく5年間で官民合わせて600億ドルの支援に加え、新たに今後5年間で最大100億ドルの追加支援を用意、③25年までに適応分野での支援を倍増し官民合わせて約148億ドルの支援、④森林分野への約2・4億ドルの支援―を打ち出している。

 ところが同日、国際環境NGO気候ネットワークが豪州、ノルウェー、日本に「化石賞」を授与した。授賞理由として「岸田首相は火力発電所を推進している。脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」と述べたという。当面は化石燃料に依存せざるを得ないアジア地域で、まずは石炭から天然ガスに燃料転換を行い、既存石炭火力をアンモニア、水素混焼から専焼に転換する考え方は極めてまっとうだ。化石燃料の脱炭素化に関わる技術を語っているのに「火力発電の推進だ」と断じるのは、いかにも再エネしか認めない環境NGOらしい。

 石炭を標的にしたバッシングは今や化石燃料全体に及んでいる。先進国は30年代、途上国は40年代の石炭フェードアウトをめざす「脱石炭連合」が発足当初の23カ国から、当初不参加だったドイツ、ポーランドらが参加して46カ国になった。中国、インド、米国、日本などは参加していない。22年度末までに全化石燃料に対する公的融資を停止するとの宣言に米国、カナダなど25カ国と国際金融機関が名を連ねたが、日本、中国などは未参加。これら枠組みに参加していないとの理由で、また化石賞をもらうかもしれない。

 上流投資の落ち込みなどでコロナ禍からの経済回復に伴う化石燃料需要増に供給が追い付かず、各地でエネルギー危機が生じている現実と比べると、COPの議論は別な惑星であるかのようだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

米国の分散型エネルギー資源 政策優遇でビジネス成長

【ワールドワイド/経営】

 米国では、住宅向け太陽光や蓄電池、電気自動車などの分散型エネルギー資源(DER)が増加している。

 背景には、電気料金の節減、電力のクリーン化、自然災害への備えに関する需要家意識の高まりがある。こうした中、カリフォルニア州を中心に需要家側に設置されたDERをアグリゲート(集約)して活用するビジネスが広がりを見せており、同州では2021年10月現在、22社がDERアグリゲーターとして登録されている。

 その一例として、09年に設立されたスタートアップ企業のStem(ステム)が挙げられる。同社は「Athena」と呼ばれるAIソフトウェア・プラットフォームを付帯した蓄電池のリースを通じてアグリゲーションビジネスを始めている。Athenaは消費電力量、充放電量、電力単価などさまざまな要素を複合的に分析する機能を備えており、需要家側に設置された蓄電池の充放電管理を最適化し、エネルギーコストの削減を可能にする。需要家利益を最大化するよう蓄電容量の一部を電力取引市場へ入札する機能も具備し、入札のタイミングや入札量を自動的に決定する。現在はパイロットプロジェクト段階であるが、将来的には需要家の蓄電池をアグリゲートし、同州の独立系統運用機関であるカリフォルニアISOの電力取引市場への入札を自動制御することを目指している。

 カリフォルニア州では業務用電気料金が高いことや、DER導入を図るインセンティブプログラムが整備されていたことなどから、ステムは早くから蓄電池のリース事業により、商業用需要家を獲得してきた。しかし米国内ではテスラやフルーエンスなどの蓄電池メーカーが躍進するほか、エネル、シェル、トタルなどの欧州エネルギー事業者が米蓄電池メーカーの買収により事業拡大を図り、事業者間の需要家獲得競争が激化した。ステムはAIを活用したビジネスで差別化し、顧客基盤と収益の維持・拡大を狙っている。

 同社のようなビジネスモデルを展開している事業者は、カリフォルニア州やニューヨーク州などのDER導入に積極的な州に集中している。これらの州では、DERの導入を促す料金制度や補助金制度が存在しており、ビジネスの成長は州政府の支援策により支えられている。今後、バイデン政権の下で連邦大でもアグリゲーターの参入が可能となる市場環境整備が進むと、DERアグリゲーションビジネスの事業性はさらに高まるものと期待されている。

(長江 翼/海外電力調査会調査第一部米国グループ)

処分場「文献調査」が一歩前進 寿都町長選が示した「住民理解」

【北海道寿都町町長選/石川和男 寿都町・神恵内村地域振興アドバイザー】

高レベル放射性廃棄物の処分場選定の文献調査に応募した寿都町の町長選で、片岡春雄町長が当選した。 現地を訪れ「町民は理解を深め、将来を考えて判断した」と指摘する石川和男氏が、町長選を振り返る。

いしかわ・かずお 1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業政策などに携わる。内閣府規制改革会議専門委員、政策研究大学院大学客員教授などを歴任。専門は社会保障産業政策論、エネルギー政策論など。

 10月26日に行われた寿都町長選で片岡春雄町長が6選を果たした。昨年10月に片岡町長が処分場選定の文献調査に応募してから、町民はものすごい「雑音」にさらされてきたことだろう。主に寿都町外の原発反対派の人たちからのもので、彼らの主張に惑わされて、文献調査について疑心暗鬼になった町民は少なくなかったと思う。

その中で、有権者は賛成派、反対派双方の主張を聞いた上で、文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ。それには、さまざまな理由があったと考えている。

まず、町の将来を考えた時、国家事業を誘致すれば、半永久的に国との関係が結ばれることのメリットだ。もちろん、応募によって得られる資金的資源は大きい。しかし、それだけではない。文献調査、さらに概要調査、精密調査と進めていくと、多くの地層処分に携わる関係者が町を訪れる。

もし処分場の工事に着工すれば、さらに人的資源、技術的資源が寿都町に集積することになる。町民の多くは、将来世代に発展が期待される町を残そうと考えたのだと思う。

片岡町長の熱心さが、町民に伝わったことも勝因の一つだろう。今回の選挙戦を見て思ったのは、地方自治体では首長や議会が本気かつ真摯になって取り組めば、住民の支持を得ることができる、ということだ。

寿都町も全国の多くの市町村と同じように、少子高齢化に悩まされている自治体だ。主な産業は漁業と公共事業で、多くの若者が町を去っていく。片岡町長は、高齢者などに対する社会保障、それに何よりも、寿都町で子供たちが育っていくための財政見通しを考えると、自分たちだけで資金を生み出すことは難しく、国策に協力することに伴う財源確保の道を選んだと話していた。

自分たちの世代ではなく、将来の世代のことを考えている。そういう気持ちは、確実に有権者に伝わっていたと思っている。

有権者は文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ

廃棄物処分を巡る誤解 長期間にわたる全体事業

高レベル放射性廃棄物の処分事業については、世間に多くの誤解がある。最終処分事業は実に長い期間が必要になる。2年間文献調査を行い、次に概要調査、その次の精密調査と、処分地選定まで20年ほどかかる。実際に処分場の建設工事が始まっても、完成までは10年ほどかかる。反対派の人たちはすぐにでも高レベルの放射性廃棄物がやってくるようなことを言うが、実際は文献調査開始から25~30年ほど先になる。 

さらに肝心なことは、全く安全な事業だということだ。処分される前の高レベル放射性廃棄物は十分に冷却されていて、化学変化を起こさず、それが強固なキャスクという容器の中でガラス固化体となっている。放射能が漏れるようなことは、100パーセントないといえる。

しかし、新聞、雑誌、テレビなどで処分事業が取り上げられて、不安を覚える人たちの声が載ると、それが見出しなどになって、増幅されて針小棒大に伝わってしまう。

寿都町では、反対派の人たちがビラやパンフレットなどを配っていた。私の率直な印象として、「危険性を誇張している面はあるが、分かりやすく、よくできている」と思った。

何とか賛成派の人たちを翻意させようとして作っているから、ある程度根拠もしっかりとしている。印象的だったのは、親しみを感じさせる内容だったことだ。ただ、問題は結論が反対であるということだ。

NUMO(原子力発電環境整備機構)が作る資料は、安全性などについて事実を分かりやすく表現している。だが、反対派はそれを上回るものを作っている。反対派の作るものには参考にすべき点が多いと思った。

町長選は、「文学・哲学対数学・工学の戦い」だったと考えている。反対派は一定のファクトに基づいていても、結局は不安感、恐怖感など人間の感情に訴えた。それに対して多くの町民は、町の将来を考えた上で、科学的な根拠に基づいて理性的な判断を行った。片岡町長の当選は、結局「数学・工学」が「文学・哲学」に勝った結果といえると思う。

昨年10月の応募は町長と議会が決めたことで、町民の意見を聞くかたちにはなっていなかった。今回、選挙を行ったことで、町民の多くが安全性を含めて処分事業について理解を深めた。選挙によって文献調査は、「お墨付き」をもらったといえるだろう。

中東初の「ネットゼロ」計画 国営会社が脱炭素化に本腰

【ワールドワイド/資源】

 アラブ首長国連邦(UAE)は10月7日、中東で初めて2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする計画を発表した。6000億ディルハム(約18兆円)を再生可能エネルギーやクリーンエネルギーに集中投資を行う。湾岸諸国では、サウジアラビアとバーレーンがUAEに追随して、10月下旬に(UAEより10年遅い)60年までに「ネットゼロ」を実現するとの目標を発表した。

 UAEの積極的な「ネットゼロ」計画は、同国が世界有数の産油国でありながら再エネなどのクリーンエネルギー分野で豊富な経験と蓄積を持つことが背景にある。06年に設立された再エネ企業Masdarは世界各地で太陽光発電、風力発電のプロジェクトを手掛け、すでに30カ国以上で200憶ドル規模の事業を展開している。19年には世界最大級のスワイハン太陽光発電所(117万7000kW)、20年には中東初の原子力発電所(バラカ原発)が稼働した。早くから再エネ事業の重要性を認識していたUAEは、11年に正式発足した国際再生エネルギー機関(IRENA)の本部のアブダビ誘致を実現したが、気候変動問題へのさらなる貢献姿勢を示すため、23年のCOP28の開催地候補として名乗りを上げ、誘致活動を本格化している。

 カーボンニュートラル実現の鍵を握るとされる水素・アンモニア事業については、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が中心となって進めている。ADNOC、Mubadala、ADQの3社がアブダビ水素同盟を結成し、主にADNOCが炭化水素由来のブルー水素、他社がグリーン水素の開発を行う。同社は、仏トタルおよび英BPと脱炭素化に関する協力協定を締結し、INPEX、JERA、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)とはグリーンアンモニア生産のFS実施に関る共同調査契約を締結した。

 UAEは、「本業」の石油ガス事業の強化にも余念がない。ADNOCは石油生産能力(現状日量400万バレル)を30年までに500万バレルに引き上げる計画を予定通り進める考えである。脱炭素の流れのもと、中長期的に需要縮小も予想される中、UAEは石油・天然ガス上流投資を続け必要な埋蔵量を確保した上で「最後の供給者」のポジションを確保する考えであろう。

 ADNOCは、さらにパイプライン操業会社の株式売却や子会社の新規株式公開(IPO)など、保有資産の売却(収益化)を推進し、資金調達の一助としている。

(猪原 渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

アナウンス効果を疑われた朝日 参院選に向けメディアの思惑は

【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 結果的には正解だった。衆院選の結果を予測した朝日10月26日「自民、過半数確保の勢い、衆院選中盤情勢調査」である。

読売11月2日「自民幹事長に茂木外相、首相、経済対策を中旬策定」は「第49回衆院選は1日、全議席が確定し、自民党が国会を安定運営できる絶対安定多数の261議席を獲得した」と伝える。

予測を読んだ直後はホントか?と首を捻った。ほとんどのメディアが自民の苦戦を伝えていたからだ。予測前日の朝日「参院補選、静岡で自民敗北」も「岸田政権にとって初の国政選挙」での黒星は「政権の打撃」と書いていた。

朝日の急転換の意図を怪しむ声がネットでも広がった。

特に疑われたのは「アナウンスメント効果」だ。朝日の時事用語辞書『知恵蔵』によれば、「マスメディアによる選挙予測報道が有権者の投票行動に影響を与えること」を意味する。

具体例として「すべての新聞の予測が『与党(自民党)の安定多数』だとすると、与野党伯仲を望む有権者は、他党に投票したり、棄権したりする」を挙げる。

逆に言えば「自民苦戦」の予測ばかりなので、朝日はあえて逆張りした。そんな指摘である。

狙い通りか。選挙終盤の情勢に関して、10月29日の日経、読売は、それぞれ「自民、単独過半数の攻防」「自民単独過半数は微妙」と苦戦を伝えた。

それでも最終的に「自民単独で絶対安定多数」(読売11月2日)となって、政治の安定を歓迎するムードも広がるが、読売は警戒を強める。「針路、21衆院選後〈上〉」(11月2日)だ。

今回の選挙結果について「薄氷の勝利」とし、「野党の候補者一本化の影響を受け、多くの小選挙区が接戦に。自民が5000票未満の僅差で逃げ切った選挙区は17に上り、34選挙区が1万票未満の差。結果は一変していたかもしれない」と分析する。

薄氷の下は奈落だ。

「来夏には参院選が控えている。政権選択選挙の衆院選とは異なり、『有権者がお灸をすえやすい』(閣僚経験者)。2019年参院選では32ある改選定数1の1人区すべてで、野党は統一候補を立てた。計15議席以上減らせば、与党は参院で過半数を失い、『ねじれ国会』に逆戻りしかねない」

日経11月5日「来夏参院選1人区、自民28勝4敗か、衆院選票数で予測した場合、与党で過半数維持の試算」も、与党有利の予測を示しつつ、「07年の参院選は1人区で与党系が6勝23敗と負け越した。参院で野党が与党を上回る『ねじれ国会』となり、09年の衆院選で民主党が政権交代を実現する足がかりとなった」と、政権交代のリスクにまで言及する。

「新型コロナウイルスの感染状況や景気の回復具合などで与野党を取り巻く政治情勢も来夏までに変わり得る。試算はあくまで現時点の各党の勢いを表す目安」

参院選に向け、メディアは過激さを増すと考えるべきだろう。

毎日11月2日コラム火論「『勝者』はいるのか」は、その先駆けだろうか。

衆院選について「前政権による『自粛』頼みのかじ取りで、あおりを受けた飲食店の経営者や非正規従業員は少なくない。その『信任』を問う選挙。だが与党は堅調だった」と書く。

前政権の観光支援策「GoToトラベル」事業や五輪開催に反対し「自粛」を叫んでいたのは野党だが……。メディアに御用心。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

【マーケット情報/12月10日】原油反発、変異株への警戒緩和

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。米国原油を代表するWTI先物は5.41ドル、北海原油の指標となるブレント先物は5.27ドルの大幅上昇となった。新型コロナウイルス・オミクロン変異株に対する警戒感が緩和されたことが背景にある。

世界保健機構は、オミクロン変異株の感染による症状は、比較的軽度であるとの見解を示した。南アフリカでは同変異株の感染者数が急増しているが、集中治療室の利用率は低い。欧州委員会は、移動規制の強化を保留。また、インドネシアは、クリスマス休暇と年末に向け、移動規制を緩和する計画。経済活動が維持され、石油および燃料需要は保たれるとの予測が強まった。

加えて、北東アジアの製油所は高稼働を続ける見通し。中東産油国の1月ターム供給価格が発表され、石油製品の精製マージンが明確になるまでは、原油処理量の変更には踏み切らない見込みだ。

供給面では、米国政府が、戦略備蓄5,000万バレルの放出時期を数カ月ほど調整する可能性を示唆。エネルギー価格が下落した場合は、柔軟に対応すると表明した。また、同国の週間在庫は減少。

一方、インドは、変異株の感染拡大を受け、国際便の停止期間を1か月半ほど延長。英国も入国規制を強めた。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から4基増加して471基となり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.67ドル(前週比5.41ドル高)、ブレント先物(ICE)75.15ドル(前週比5.27ドル高)、オマーン先物(DME)=72.72ドル(前週比1.90ドル高)、ドバイ現物(Argus)=72.94ドル(前週比2.45ドル高)

国内外と連携し「気候モデル」研究 地球温暖化問題解決の一助に

【電力中央研究所】

 2021年のノーベル物理学賞を真鍋淑郎氏とクラウス・ハッセルマン氏らが受賞し、両氏の研究テーマの「気候モデル」が注目を浴びた。気候モデル研究は、電力中央研究所でも国内外の研究機関と連携して進められていた。

気候モデルとは何か。電中研サステナブルシステム研究本部の野原大輔上席研究員は「温度、風、大気などの動きを物理式化した天気予報で使われる数値気象モデルに、大気中のCO2濃度が高くなることで地球が温暖化する仕組みを取り入れて、気候変動の過程を計算して予測できるようにした数値モデルのことである」と説明する。

真鍋氏の気候モデルは、温暖化に伴い海洋がエネルギーを蓄積する仕組みも取り入れた「大気・海洋結合モデル」に発展。ハッセルマン氏による温暖化の原因特定の考え方も踏まえて、各国の研究機関で気候モデルの研究・分析が行われるようになることで、地球温暖化問題への世界的な理解が深まっていった。

大気・海洋結合モデルの発展形となる地球システムモデルの概念
枠と矢印は要素モデルと要素モデル間の物理量の交換を表す。実線は大気・海洋結合モデルの要素で、点線は地球システムを構成する炭素循環の要素を示す。
出典:電中研レビューNo.56、コラム1、2015年

論文をIPCCも引用 温暖化対策研究が芽吹く

研究を始めた経緯について、同本部の筒井純一研究参事は「化石燃料を利用するエネルギー業界として、地球温暖化問題は避けて通れない。安定供給や電源構成、インフラの維持管理にも影響を及ぼす」と話す。電中研では90年代から気候モデル研究に着手した。

さまざまな研究を経たのち、15年には野原氏、筒井氏らが論文を発表。共同研究を行う海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、気候モデル研究で提携していた米・国立大気研究センター(NCAR)が構築した2種類の気候モデル(上図)を用いて、当時はまだ世の中に浸透していなかったネットゼロシナリオに注目して気候シミュレーションを行い、内容を比較・検討した。論文では各気候モデルの温度上昇幅に違いがあるものの、CO2ネットゼロ達成後には大幅な気温上昇は起きないという結果が示された。論文はIPCC第六次報告書にも引用されるなど、世界的な地球温暖化対策の科学基盤の構築に寄与している。

現在、電中研ではこれまで積み上げてきた研究成果をベースに、再生可能エネルギーの出力予測、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿ったシナリオ分析など、気候変動問題に対処する応用研究に取り組んでいる。持続可能な地球環境の維持と電力の安定供給の両立に向けて、今後も研究開発を続ける構えだ。

持続可能社会を支えるエネルギー 原子力の価値を社会に発信

【オピニオン】山口 彰/日本原子力学会会長

 第6次エネルギー基本計画では、S+3Eがエネルギー政策の根幹であることが確認された。しかし、S+3Eのありようについて共通理解は得られていないと思う。例えば、太陽光エネルギーの発電コストが原子力を下回ることが注目されたが、系統につなげる統合コストや予備力確保、運用のコストなどは発電コストに含まれていない。発電の総コストにしてもS+3Eのほんの一部にすぎない。

従来は、エネルギーの自給率(燃料をどれだけ自国で賄えるか)と発電コストに基づいていれば概ね適切な政策決定ができていた。今や、社会システムや技術が複雑化・多様化してきたことにより、エネルギーの評価がより難しくなった。持続可能社会を支えるエネルギー構成の選択には多くの要因を考慮するとともに、それらの適切な評価軸と定量的な指標が求められる。

1900年、米国では4192台の自動車が生産され、その内訳は、1681台は蒸気自動車(1769年発明)、1575台は電気自動車(1873年発明)、ガソリン自動車(1885年発明)は936台であった。蒸気自動車は蒸気圧が十分に高まるまで10分以上かかり、蒸気はそのまま捨てていたので、30~50kmごとに水を補給する必要があった。それなのに蒸気自動車が40%を占めた理由は統合コストにある。1900年のマンハッタン島には180万人の人間と23万頭の馬が暮らしており、往来する馬のためにあちらこちらに公共の水桶が設置されていた。蒸気自動車はその水を使うことができたので、普及したのである。その後、ガソリンが洗浄剤や溶剤、燃料として至る所で使われ始め、どこでも手に入るようになった。統合コストが安くなり、ガソリン自動車が普及することになる。

技術が社会に普及・定着するには、社会システムにうまく適合する必要がある。社会に適合するとは二つのことを意味する。まず、既存の社会インフラへの接続性などの技術や制度の問題、そして人々がその技術を良いものとして利用するという社会的受容性である。蒸気自動車は、1800年代に蒸気機関が普及し、既に受容されている技術であった。

エネルギー基本計画では、S+3Eのさまざまな要素が議論された。技術自給率、サプライチェーン、国民からの信頼、蓄電や蓄熱、CCUS、技術実用レベル、レジリエンスなどである。それらに求められる条件を満たすエネルギーは果たしてあるのだろうか。エネルギー源を適切に組み合わせてこそ社会システムに適合するのであり、それはS+3Eを評価・検証して導かれるエネルギー構成である。 日本原子力学会は、社会に対して原子力の価値をお伝え(発信)するとともに、社会からの声をお聞き(受信)することを本年の基本方針のひとつとした。S+3Eの目標を総体として達成するために、原子力の価値と果たす役割を社会にお伝えすることが大切である。原子力科学技術は、持続可能社会を支えるエネルギー構成に不可欠な要素であるのだから。

やまぐち・あきら 1979年東大工学部原子力工学科卒、東大大学院博士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団(当時)など経て2015年東大大学院工学系研究科教授。工学博士

IDI―I社長の解任劇 保有火力問題など前途多難

電力インフラファンドのIDIインフラストラクチャーズが深刻な業績不振を続けている責任は荒木秀輝社長にあるなどととして、持ち株会が荒木氏の取締役解任を求めていた訴訟で、東京地裁は11月12日、持ち株会側の訴えを認め、荒木氏の解任を命じる判断を下した。後任には裁判所が選任した須藤秀章弁護士が就いた。

主要株主の大和証券グループ本社の常務でもある荒木氏らが昨年夏の取締役会で、当時の社長だった埼玉浩史氏の解職動議を発議して以来1年以上にわたって係争が続いている。その間にI社が主要株主のFパワーが破綻。会社更正法に基づく経営再建を進める中、新スポンサーに投資ファンドの日本GLP社が決まった。

I社は須藤・仮取締役のもと、荒木体制での問題点を検証しながら、経営の立て直しを進めていくことになる。同社が関与するファンドの保有発電所(北海道・釧路や福岡・響灘の石炭火力など)の再生が焦点となるが、解決は容易ではない。関係者の間では「いずれ解散を余儀なくされるのでは」との観測も。最終的な着地点に業界の関心が集まる。

脱炭素社会実現への鍵 水素エネルギーの可能性を討論

【エネオス】

行政、学識者、民間企業の関係者らが未来のエネルギーの在り方について討論する「新時代のエネルギーを考えるシンポジウム」が、11月5日に東京都内で開催された。26回目を迎える今回のテーマは、「脱炭素社会の未来像 カギを握る〝水素エネルギー〟」だ。

昨年10月に政府が「2050年カーボンニュートラル」の方針を掲げたことが、脱炭素化の流れを一気に後押し。民間企業や研究機関などが、水素をはじめ、脱炭素社会を実現するための革新的な技術開発や実証などの取り組みを積極的に進めている。 主催者としてあいさつした大田勝幸実行委員長(ENEOS社長)は、脱炭素のまちづくりに欠かせない水素の重要性を強調。「既に水素を活用した実証が進められているが、真の社会実装に向け社会全体で将来のエネルギーの在り方に対する理解を深め、水素エネルギーの役割や可能性について議論を深め、課題解決とイノベーションに取り組まなければならない」と述べた。

可能性と課題が浮き彫り 識者6人が意見交わす

パネルディスカッションには、佐々木一成九州大学副学長、高村ゆかり東京大学教授、保坂伸資源エネルギー庁長官、前田昌彦トヨタ自動車執行役員ら6人が登壇。脱炭素化が進んだ未来の社会像や、水素の可能性や社会実装を進める上での課題などについて意見を交わした。

水素をテーマに活発な意見が交わされた

水素は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーや、化石燃料などさまざまな資源から製造できるエネルギー源であると同時に、運搬や貯蔵が可能でキャリアとしての活用も期待されている。佐々木氏は、「CO2を排出せずに、今まで通りエネルギーを使い快適な社会を維持することができる。地域・企業がエネルギー源を選択できるため、汎用性も高い」と、そのポテンシャルを語った。

一方、社会実装をするためには、イノベーションのみならず消費者や企業の理解や行動変容も欠かせない。これについて前田氏は、「普及させられるかは、利用者側の選択にかかっている。多くの選択肢を用意し、反応を確認しながら進めていく必要がある」と述べ、高村氏は、「CO2の排出に価格を付けるなど、排出しないことへの制度的な価値付けが求められる」とした。

保坂氏は、「脱炭素はリスクでありチャンスでもあるが、避けて通ることはできない。今後、どういう社会になっていくかまだ明らかではない面もあるが、CO2を排出しない、または排出したとしてもマイナスにする技術の確立も含めて、トータルで考えていく必要がある」と、複合的な取り組みで脱炭素社会を目指していく姿勢を示した。

競争加速する「再エネ×デジタル」 日本企業の勝算やいかに

【業界紙の目】臼井慎太郎/電波新聞社 報道部総合電機・情報通信グループ長

脱炭素化に向け各国がエネルギー転換で競い始めた。日本はその主戦場で優位に立てるのか。

再生可能エネルギーなどにデジタル技術を掛け合わせる新領域への本気度が問われる。

 「Green × Digital」。電子情報技術産業協会(JEITA)がそんなキーワードを冠したコンソーシアムを10月に立ち上げた。「カーボンニュートラル」につながるデジタルソリューションの創出や実装に向けた活動を進める業種横断の組織で、11月時点で70社超が参加した。

活動の一つが、産業界のサプライチェーンを通じて排出されるCO2の情報を可視化して共有できるようにする「データ連携基盤」の構築。加えて、製品・設備やサービスに再生可能エネルギーを利用するという「環境価値」を証明する仕組みの具体化なども目指す。設立総会で座長に就任した東京大学大学院情報学環教授の越塚登氏は「グリーン社会の実現に向けて産業界の変革を促していくためにはデジタルの技術が非常に重要だ」と強調した。

役割増すVPP 電機やIT大手が積極投資

背景には、各国が脱炭素へかじを切る動きがある。英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、温暖化対策が取られていない石炭火力発電所の廃止を盛り込んだ声明に欧州主要国をはじめ46カ国・地域が署名した。

日本は声明への署名は見送ったが、世界の潮流は無視できない状況だ。政府は10月、温室効果ガスを2030年度までに13年度比で46%削減する目標の達成に向けて、再エネについて「最優先で導入に取り組む」と初めて明記。30年度の電源構成で再エネ比率を19年度実績の約2倍の「36~38%」に引き上げる一方、火力発電比率は41%に引き下げた。とはいえ再エネによる発電量は天候の影響を受けやすい上、電力の安定供給が難しいという課題を抱えている。このため、電力の需要と供給のバランスを最適に調整する対応が求められる。そうした課題を解決する手段として、国内外から熱視線が注がれているのが「仮想発電所(VPP)」だ。

VPPは、各地に分散する太陽光発電や蓄電池などの設備をAIやIoTを駆使して統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組み。再エネ電源による電力を、電力需給の調整力を取引する「需給調整市場」に提供したい事業者にとって、VPPは不可欠な存在だ。

総合電機メーカーやIT大手は、4月開設の需給調整市場や、来年4月スタートの再エネ支援策「FIP(フィード・イン・プレミアム)」の動きをにらみ、VPPの構築支援で攻勢をかけている。VPPを活用し分散型電源の取りまとめを担う「リソースアグリゲーター」として、名乗りを挙げる企業も現れた。

VPPの可能性を追求する1社が日立製作所だ。「各国の脱炭素化の計画に貢献できるような技術や能力の開発に注力している」。同社のアリステア・ドーマー副社長はCOP26に先立ち開いたオンライン上の合同取材で、こう力を込めた。来年度から3年間で1兆5000億円の研究開発投資を行う計画で、脱炭素社会の実現に向けた技術開発も盛り込んだ。東芝グループもドイツのVPP事業者と合弁会社を設立するなど、カーボンニュートラル実現の支援体制を強化している。

経済産業省は、6月に関係省庁と連携して「グリーン成長戦略」を策定した。50年のカーボンニュートラル実現という政府の宣言を受けて経済と環境の好循環を作ることが狙い。戦略では、成長が見込める14の産業分野に政策を総動員して育てる方針と工程表を提示。その一つとして「半導体・情報通信産業」を位置付けた。

さらに、「戦略を支えるのは強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは車の両輪である」と明記した。経産省が官民の有識者を巻き込み11月中旬に開いた「半導体・デジタル産業戦略検討会議」の4回目でも、エネルギーインフラのデジタル化を進める課題などを取り上げた。

日立製作所はCOP26で脱炭素化支援技術をアピール

技術の掛け算で勝負へ 日本勢に求められる姿勢は

グリーン×デジタル市場の攻略に向けて本腰を入れ始めた日本の官民からは、「手をこまねいていては国際競争に埋没しかねない」という危機感が透けて見える。デロイトトーマツグループによると、欧米ではエネルギー産業でAIやアナリティクスなどの先端技術を駆使する動きが進んでいる。技術革新を原動力に市場は成長の一途をたどる可能性が高く、覇権争いは一段と激化しそうだ。

同グループパートナーの庵原一水氏は、日本の官民はカーボンニュートラルの実現に貢献する個々の技術の開発力を引き上げることにとどまらず、各種技術を最適に組み合わせて社会に実装する取り組みを強化する必要性を力説。その上で「日本企業は『自前主義』を脱却し、エリア単位で多様なプレーヤーと協調しなければ世界の競争で勝ち残れない。政策的な誘導も必要になるだろう」と述べた。

再エネを巡っては例えば、特定エリアの発電所で生み出された電力を域内施設に供給する「エネルギーの地産地消」を進める際に官民の知恵や技術を結集。これにより域内のエネルギーコストを削減し、地域経済の振興にもつなげる展開が考えられるという。

同グループディレクターの加藤健太郎氏も日本企業が環境・エネルギー分野で磨く技術開発力を評価した上で、「時代の変化を見据えて開発のスタンスや内容、モノの売り方をスピーディーに変えていく柔軟性が問われる」と課題を投げかけた。

IEA(国際エネルギー機関)の試算によると、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を実現するために必要な世界のエネルギー関連投資は、年間80兆円から140兆円規模に拡大する見通しだ。日本はそうした成長投資を呼び込み、経済成長につなげることができるのか。既存の組織や分野の垣根を越えて広範囲に連携して総力で勝負しなければ、技術の掛け算で成長する「融合領域」の国際競争で遅れを取りかねない。その一翼を担う電機・IT業界の奮起を期待したいところだ。

〈電波新聞社〉〇1950年創刊〇読者数:29万5000部〇読者構成:電機、電子部品・材料、家電、情報通信、放送、産業機械など

JOGMEC法を改正へ CN関与で名称変更も視野

2050年カーボンニュートラル(CN)社会実現への布石となるか――。

資源エネルギー庁は、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の機能強化に向けた法改正議論に着手する。有識者会合での議論を踏まえ、早ければ、来年の通常国会への法案提出を目指す。

CN社会に向けては、脱炭素化された電力による電化を進めるほか、電化が困難な領域では、水素やアンモニア、合成メタンなどの脱炭素化された合成燃料の活用が欠かせない。安定的かつ安価にこれらを調達するためには、海外で製造し国内で活用する仕組みが不可欠となる。

そこで、これまで石油、天然ガス、鉱物資源などの安定調達を支えてきたのと同様、JOGMECがこれら燃料のサプライチェーン構築を支援できるようにするほか、リスクマネーの供給を通じ、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)など脱炭素燃料技術の開発を支援できるようにするのが法改正の趣旨だ。海外でのCCSによる温室効果ガス削減分を、「クレジット」として日本の削減分にカウントする仕組みの確立や、役割の見直しに伴い名称変更も視野に入れるもよう。CNへの本気度が問われる。