本誌が報じた山梨・甲斐、静岡・函南両市町の太陽光乱開発問題に動きがあった。
反対運動の高まりを受け、事態改善へ本腰を入れる自治体首長。事業者の対応はいかに。
「単なる私の思い過ごしならいいのだが……」
静岡県函南町軽井沢の山あいで進む大型メガソーラー建設計画を巡り、計画変更を届け出た事業者に対し町側が「不同意」を通知したことが明らかになった。建設反対を訴える住民側にとっては朗報のように見えるが、全国再エネ問題連絡会の山口雅之・共同代表の表情はなぜかさえない。その理由について、順を追って説明しよう。
この計画は、中部電力系工事会社のトーエネックが、2018年4月に国のFIT(固定価格買い取り制度)認定IDを取得。不動産開発会社のブルーキャピタルマネジメントが、発電所の施工を手掛ける事業構成になっている。
これに対し、土砂災害の誘発などを心配する地元住民らが反対運動を展開。去る7月3日には、軽井沢地区から東にわずか4㎞ほどの距離にある熱海市伊豆山で大規模な土石流災害が発生し多くの人命が奪われたことで、地元の不安は頂点に達した。しかしトーエネックは計画続行の姿勢を変えず、同月26日に「函南町自然環境等とエネルギー発電事業との調和に関する条例」(再エネ条例、19年10月施行)に基づく「再エネ発電事業届出書」を町に提出した。
この条例には、町長の同意なしに施設を設置できないとする規定がある。「本計画は不同意の要件である事業抑制区域に該当するため同意はあり得ない」とする住民側の訴えをよそに、町では事業者が条例施行前に静岡県に林地開発許可申請を行っているため、「事業に着手済み」と解釈。遡及適用は難しいとして、同意・不同意の判断を見送る姿勢を示していた。
突然の計画変更の狙いは 「不同意」に不可解な点
「伊東市と伊豆メガソーラーパークの訴訟を巡る東京高裁の判例(4月21日付)からも明らかな通り、遡及問題は起こり得ない。にもかかわらず町が法的根拠なく判断を1カ月以上放置するなら、町長に対する義務付け訴訟もあり得る」。住民側の強硬姿勢を背景に動いたのは、町ではなく、トーエネック。事業届出から3週間後の8月24日に突如、発電出力や運転開始時期などの計画を変更する旨を届け出たのだ。すると、町側は変更部分には条例適用が可能と判断。10月27日、防災上の危険など14項目を理由に「不同意」を通知するに至ったわけだ。
この結果、メガソーラーの設置は事実上認められないことになり一件落着か。と思いきや、前出の山口代表は「まだ安心はできない」とした上で、こう続けた。
「今回の不同意については、事業者によるトラップの可能性が考えられる。何よりトーエネックとブルーは条例施行から2年もの間、届け出を拒み続けていたのに、7月に一転申請に踏み切り、そのわずか3週間後に今度は変更を届け出たこと自体が不自然だ。今後、事業者は変更届を取り消すなどで不同意の効力をなくすシナリオを描いているのかも。今回の件でひとまず住民を安心させ、油断を生じさせる狙いがありそう」
山口氏によれば、町が事業者とつながっている可能性も否定できない。「町は条例制定前から計画推進の意思があったと認められる公文書が存在する」ためだ。また再エネ条例に定める事業抑制区域の件を、不同意理由に明記しなかったことも不可解だという。ともあれ、結果的には事業者の変更届のおかげで、町は義務付け訴訟を回避できた格好になった。
表向き反対の立場を取る自治体が、実は水面下で事業者と手を結んでいるケースは決して珍しいことではない。前出の伊豆メガソーラーパークの訴訟では、原告側の小野達也・伊東市長が係争の最中に被告側の事業者と計画推進に向けての密約を交わしていたことが発覚、謝罪に追い込まれた。
「町長の不同意を受け事業者が撤退するのか、それとも懸念していることが現実となるのか、今後の動きを注視していく」(山口氏)
もちろん、全国を見渡せば事業者寄りの自治体ばかりではない。太陽光の乱開発に対して、厳しい姿勢で挑む自治体も少なからずある。その代表が山梨県だ。

「信頼の土台が破壊された」 事業者撤退劇に知事激怒
「(甲斐市菖蒲沢の大型メガソーラーについて)安全確保のための対応をしてくださいと申し入れをしてきたが、責任を感じていないような形で(発電所を)譲渡したことは、社会的責任の欠如と言わざるを得ない。極めて不誠実な行為で、強い憤りを禁じ得ない」
長崎幸太郎知事は11月12日に開いた臨時会見で、メガソーラー事業者が県の要請に従わず発電所譲渡に踏み切ったことを、強い口調で非難した。問題の事業者は何と函南町と同じ、トーエネック、ブルーの2社である。
関係筋や報道によると、ブルー社が林地開発許可を受け昨年から工事を手掛けてきたメガソーラーの運営権利(FIT認定ID)を、トーエネックが取得。その後、調整池や水路、太陽光パネルの設置などで不正や欠陥が判明し、地元から不安の声が高まっていた。
こうした中、長崎知事は8月末にトーエネックの幹部を県庁に呼び、設備の工事と維持管理に万全を期すよう要請。同社側は「法令に従い、責務を果たしたい」と工事をやり直していたが、11月11日に担当者が来庁。ブルー社から「責任をもって設備を完成させるため買い戻したい」との提案があり、施設を譲渡する旨を伝えた。県側は「受け入れられない」と再考を求めたものの、翌12日に両社は譲渡契約を交わしたという。
「申し入れが完全に無視され、信頼の土台が破壊された」「場合によっては人の命が関わる問題を放擲して逃げ去るのは、あまりにも無責任」―。長崎知事の会見発言は痛烈だ。これを受け、トーエネックでは「譲渡後も工事の状況を現場で確認し、必要に応じて指導する」と説明。15日には藤田祐三社長ら幹部が県を訪れ、「知事の意向に配慮できず、おわびします」と謝罪した。
内情を知る関係者によれば、トーエネックの撤退劇は親会社の意向を踏まえたものとみられる。今後、函南町の案件からも同様に手を引く可能性もあるが、問題はそのやり方だ。「地域にきちんと理由を説明した上で、立つ鳥跡を濁さないよう最大限の配慮をもって撤退するのが筋。夜逃げのような態度が許されると思ったら大間違いだ」(山梨県関係者)
太陽光事業がコンプライアンス問題に発展するとは。FIT制度化の10年前には想像し得なかったような事態が現実化している。





