【気象データ活用術 Vol.8】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表
先日X(旧Twitter)で「FIP勉強会及びマッチングプラットフォーム」という資源エネルギー庁のサイトを紹介する投稿に目が留まった。そのサイトには、気象予測サービスなどの紹介やマッチングを予定していると書かれていた。気象業界で働く者としては歓迎する流れではあるものの、ちょっと厄介な話に向き合わなければならないことを覚悟する次第である。
厄介な話とは、ズバリ予測精度の議論である。結論から述べると「再エネ発電量の予測精度の評価方法は標準化されていないので、直ちに画一した精度評価指標を定めよう」と提案したい。その必要を実感していただきたく、最も厄介な太陽光発電量の予測精度について論じることとする。

一般的に、予測精度をたずねた際に期待する返答は「90%以上の的中率です」など直感的に分かりやすい指標だろう。しかし、予測開発側の立場としては、そのように単純化して語るのが難しい。特に太陽光の予測精度評価には多くのトラップがあり、数値だけが一人歩きすることを避けるため評価条件を十分に共有しなければならない。太陽光の精度評価トラップとは、①夜間は発電量ゼロであること、②地球の自転公転により発電出力の上限が一定でないこと、③予測リードタイムによって精度が変わること、④均し効果で誤差が小さくなることである。③④は風力発電の予測精度評価にも共通する。
①夜間の出力は常にゼロで予測的中率100%となるため、これも評価に含めると高精度に見せることができる。日の出から日没の間で評価するのが誠実な方法だが、その時間帯は季節や地域によって異なる。これは②のトラップへつながる。地球の公転により季節ごとに太陽高度と日射量が変化し、夏至付近は冬至の約2倍の発電ポテンシャルがある。加えて自転の影響により、日の出・正午・日没で出力上限値が大きく変動する。緯度や経度の違いも加わるため、発電量の“理論上の上限値”は季節・時刻・場所で変わり続ける。これが意味することは、予測精度をパーセントで示す場合に、比較基準をそろえるための計算式分母が一定しない=太陽光の予測精度はパーセントで評価することができないという構造的な問題がある。
そもそも評価目的の本質は、発電量予測の精緻さそのものではなく、インバランスコストをどれだけ抑えられるか、すなわちビジネスとしての有効性ではないだろうか。これを見る一つの指標として【単位容量当たりのインバランスコスト】という切り口はどうだろうか。これは“インバランスコスト積算値 ÷ AC容量”で算出され、値が小さいほど望ましい。インバランスコストをAC容量で正規化することで、発電所やBGの規模に寄らず、ビジネス視点で予測性能を公平に比較できる。気象要因だけでなく、インバランス価格の不確実性も考慮した総合的な予測性能を評価できる点で、実務的な指標である。ただし、インバランス単価や評価期間をそろえるなど、比較条件の統一が前提となる。

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