高市政権の弱点は維新との〝連立〟 エネ政策は足元の課題に強い意志で


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

史上初の女性総理となる高市早苗内閣が誕生し、トランプ米大統領との印象的な初会談などにより高支持率を得た好調な滑り出しとなった。所信表明演説では、「原子力やペロブスカイト太陽電池をはじめとする国産エネルギーは重要。GX予算を用いながら、地域の理解や環境への配慮を前提に、脱炭素電源を最大限活用する」と述べるなど、現実的で地に足の着いたエネルギー政策が期待される。

が、最大の弱点は日本維新の会との″連立〟」にある。維新との連立政権合意書では「電力需要の増大を踏まえ、安全性確保を大前提に原子力発電所の再稼働を進める。また、次世代革新炉および核融合炉の開発を加速化する」などとされているから、エネルギー政策面での違和感はまったくないが、問題は維新連立入りの「絶対条件」とした衆議院の定数削減だ。連立政権合意書では「1割を目標に衆院議員定数を削減するため、25年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す」とされているが、何議席を削減するのか、選挙区と比例区のいずれの議席を削減するのかなど、臨時国会中に自民党内の合意を得て法案をまとめるのは容易ではない。


まずは政権基盤安定を 必要な政策には協力

ましてや法案の提出にこぎつけたとしても、選挙制度という全ての政党に関わる法案を過半数に満たない議席の自民・維新だけで成立させることは不可能に近い。

早速、維新の幹部からは、定数削減を掲げて解散すべきなどの勇ましい声が出ているが、さすがにそのような状況にはならないだろう。となると、高市政権は、定数削減の早期実現を求める維新から連立離脱の瀬戸際作戦にさらされ続けながら政権を運営しなければならないこととなる。そもそも維新は大臣を出しておらず、国会に連帯責任を負う存在ではないから、連立というよりは閣外協力にすぎない。極めて不安定な政権基盤と言わざるを得ないのだ。

今エネルギー政策にとって必要なのは、既存原発の着実な再稼働の実現と原発の利活用を安定させるための原子力政策の抜本的な再構築や、これまで推進してきた洋上風力やメガソーラーなどの地に足の着いていない再エネ政策の見直しだ。高市首相は所信表明演説で「次世代革新炉やフュージョンエネルギーの早期の社会実装を目指します」と将来の夢を語っているが、まずは政権基盤を安定させ、目先のエネルギー政策の課題に強い意志を持って地道に取り組むことが必要だ。無所属の私たちは、高市政権がそのような国民の関心を買わなくとも必要な政策に取り組む意思があるのであれば、協力を惜しむものではない。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/12月12日】 政治問題化する米国の電気料金高騰


矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

以前のコラム(2025年9月12日)で述べたように、最近米国の電気料金が高騰しており、とくに東部の地域系統運用者(RTO)であるPJMの管轄地域での料金上昇が著しい。その背景には、AI技術の急速な普及やデータセンターの新増設による電力需要の急増、再生可能エネルギー電源の系統接続の遅れや老朽火力の閉鎖による供給力不足、さらにPJMの容量市場における約定価格の高騰などが挙げられる。この電気料金の高騰が、最近、注目される2つの州における選挙で重要な争点となった。

まず、ニュージャージー州であるが、現職のフィル・マーフィー知事は任期満了で退任するため、知事選が11月4日に実施された。民主党からマイキー・シェリル氏、共和党からジャック・チャタレリ氏が出馬したが、電気料金の据え置きなどを公約に掲げたマイキー・シェリル氏が勝利した。選挙戦では、生活費の高騰が争点の一つとなり、特に電気料金の上昇が議論の的となった。シェリル氏は、再生可能エネルギー推進派であり、風力や太陽光などのクリーンエネルギーを活用して、長期的に電気料金の安定化を図ろうとの考えである。これに対して、チャタレリ氏は、化石燃料重視派であり、天然ガスと原子力を中心に据えて、安定した電力供給を目指す考えであった。また、同氏は、再生可能エネルギーには懐疑的であり、電気代高騰の原因として批判している。

彼は、トランプ大統領の支持と影響を受け、再生可能エネルギー政策を「世紀の詐欺」と断じるトランプ氏の姿勢に共鳴している。しかし、電気料金高騰の原因を再生可能エネルギーに求める両氏の主張は、有権者の理解と支持を得るには難しかったと考えられる。実際、PJM管轄地域では、再生可能エネルギー電源の系統接続の遅れに加え、老朽化した火力発電所の廃止が重なり、電力需給が逼迫して電気料金の上昇を招いている。もしトランプ氏の主張に沿って再生可能エネルギーを敵視する政策を採れば、需給の逼迫はさらに深刻化し、むしろ逆効果となる可能性が高い。また、この数年で電気料金の上昇が著しい州とそうでない州を比較すると、再生可能エネルギーの比率が高い州ほど、料金上昇が緩やかな傾向が見られる。

また、全米最大のAIデータセンターの建設が進むバージニア州でも、電気料金や生活費高騰が知事選の最大の関心事となった。11月4日の知事選に向けて民主党のアビゲール・スパンバーガー氏と共和党のウィンソム・アール=シアーズ氏が争ったが、スパンバーガー氏が勝利した。同州でも、民主党のスパンバーガー氏は、再生可能エネルギー推進派であり、共和党のウィンソム・アール=シアーズ氏は化石燃料重視派で再生可能エネルギーには懐疑的であり、同電源は電気代高騰の原因として批判した。トランプ氏の風力や太陽光は「世紀の詐欺」という主張に共感を示したが、多くの有権者には響かなかったようだ。

PJMの管轄地域では、これらの州に加えて、ミシガン、オハイオ、ペンシルベニアの3州が来年の上下両院選で接戦が見込まれている。電気料金高騰が選挙戦の焦点になる可能性が高い。トランプ氏は、「就任から1年以内に電気料金を半減させる」と強調してきたが、米国エネルギー情報局は、全米の家庭用需要家の電気料金は、2025年に4.6%、2026年には3.9%上昇すると予測している(2025年10月)。トランプ氏は2期目の大統領就任後、風力発電プロジェクト2件を中止した。

そのうち1件は、電力需給が逼迫する米国北東部で計画されていたものである。さらに、再生可能エネルギーに対する優遇税制も撤回した。 しかし、米国ではAI技術の急速な普及やデータセンターの新設に伴い、電力需要が急増している地域が少なくない。こうした状況下で、再生可能エネルギーの開発を遅らせば、電力需給の逼迫を一層深刻化させることになるだろう。その帰結として、政権自らが電気料金の高騰を招き、国民生活に一層の負担を課す可能性が高い。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年12月号)


NEWS 01:日本ガイシがNAS電池撤退 想定崩れ、収益確保が困難化

日本ガイシは10月31日、NAS(ナトリウム硫黄)電池事業からの撤退を発表した。需要の伸び悩みや原材料費の高騰などが主な要因となった。

2025年度連結決算では約180億円の特別損失を計上する。

NAS電池は、大容量・高密度・長寿命を特長とし、数十MW(1MW=1000kW)まで対応できる。1984年に東京電力と日本ガイシが共同で開発に着手し、2002年に日本ガイシが世界で初めて商用化に成功して以来、変電所や大規模工場に導入されるなど、幅広く利用されてきた。

誤算は、太陽光発電の急速な普及だった。当初、NAS電池は需要家のピークカットを主な用途として想定していたが、東日本大震災以降、太陽光をはじめとした再生可能エネルギーの拡大で昼間に電力が余るようになり、昼夜の電気料金の差が縮小。このスキームを使うメリットが縮小した。

アフターサービスは継続するという

さらに、コスト競争力のある中国勢のリチウムイオン電池が大量に蓄電池市場に流入。こうした動きに対し、日本ガイシは原価低減を目的に提携先の確保を進めたが実現せず、撤退に踏み切った。会見で小林茂社長は「潮時だと判断した」と述べた。

同社は今後、AIによる需要増が期待される半導体分野、中長期的には脱炭素分野での開発に注力するという。新たな分野での巻き返しが期待される。


NEWS 02:光通信がシナネン株4割強 経営戦略への関与も可能に

光通信グループが、石油燃料などエネルギー販売大手のシナネンホールディングスの4割以上の株式を保有していることが、明らかになった。同グループはこれまでシナネンHD株を市場で着々と買い増しており、11月10日付で財務省に提出した報告書によると、光通信グループ6社の共同保有比率は37・53%から41・01%に増加した。

市場関係者の話では「単独で普通決議を可決するには過半数の保有が必要だが、40%超の株式保有は、他の株主と連携することで、株主総会の普通決議(取締役の選任や報酬の決定、決算の承認など)で大きな影響力を行使できる水準だ。会社の重要な決定事項に対して大きな発言権と拒否権(合併、会社の解散、定款の変更、取締役の解任など)を持ち、経営戦略に関与できる強力なポジションを意味する」という。

シナネンの業績は好調だ。2025年度上半期の連結中間決算をみると、夏場の気温上昇などの影響で前年同期比2・5%減だったものの、経常利益は収益性改善や非エネ事業の拡大などで同196・4%の大幅増益となった。

シナネン側は光通信の大量株式保有について公式コメントを発表していないが、業界関係者からは「鈴与グループが静岡ガスの株を買い増し、結果3分の1を保有したのと、同じようなやり方。鈴与の場合は、同じ静岡地域のエネルギー会社として、関東や関西方面のエネルギー会社からちょっかいを出されがちな静ガス株を一定程度保有したいといった狙いなのだろうが、光通信とシナネンの関係は今のところ不明だ」との声も。

光通信は、新電力大手のイーレックスの筆頭株主にもなっており、その動向にエネルギー関係者の関心が集まっている。


NEWS 03:夕食会に参加したエネ大手 ガス田権益とアラスカが焦点

10月28日に都内の駐日米国大使公邸で開かれた、トランプ米大統領と日本企業経営者との夕食会に、JERAの可児行夫会長、東京ガスの笹山晋一社長が出席していたことが、関係筋の話で分かった。報道では、経団連の筒井義信会長やトヨタ自動車の豊田章男会長のほか、同日に公表された対米投資「共同ファクトシート」に名を連ねる商社やメーカーなどのトップが紹介されていたが、50人超の参加者に日本の大手エネルギー事業者も含まれていた格好だ。

JERAと東ガスの共通点は、まず米国のシェル―ガス田権益の獲得を積極的に推進していることだ。JERAについては10月23日、ルイジアナ州でGEPヘインズビルⅡ社と米ウィリアムス・アップストリーム子会社が生産しているガス田の権益を15憶ドル(約2300億円)で取得すると発表した。ガス田の生産量はLNG換算で350万tで、2030年をめどに生産量を倍増させる方針だ。

一方、東ガスはテキサス州ヒューストンにある子会社の東京ガスアメリカが、米シェブロンと共同開発契約を結び、同社が保有するシェールガス田権益の取得を進めている。「すでに取得したロッククリフ・エナジー社の権益などを含めれば、総投資額は5000億円以上に達するのでは」(業界関係者)と見る向きもある。

もう一つの共通点は、米グレーンファーングループ子会社との間で、アラスカLNGプロジェクトからのLNG調達に関する関心表明書(LOI)を締結していることだ。同プロジェクトは、日米両政府が合意した対米投資5500億ドル(約81兆円)の対象になるとみられている。日米エネルギー協力の鍵を握る両社だけに、トランプ氏の関心も高そうだ。


NEWS 04:太陽光への規制強化 新政権下で議論加速へ

北海道釧路市などのメガソーラー開発を巡り、環境省と資源エネルギー庁が事務局を務める省庁連絡会議で、規制強化に向けた検討が進む。10月21日に発足した高市政権でもこの方針は揺るがず。自民党と日本維新の会の連立政権合意書にも「2026年通常国会でメガソーラーを法的に規制する施策を実行する」とあり、検討を加速させている。

会見で規制強化の意向を示した赤沢氏

政権発足直後の専門紙記者とのインタビューで、赤沢亮正経産相は「不適切なメガソーラーに対し、地域共生を確保するため16本の関係法令を含む規律強化を図る」と強調した。電気事業法や環境影響評価(アセス)法などさまざまな法制度の改正や運用見直しを俎上に載せる可能性がある。また、環境族の石原宏高環境相も「北海道庁からよく話を聞くように事務方に指示を出した」とし、特に地域との共生に課題のある事例の議論を深める意向だ。

29日の第2回連絡会議では、エネ庁から各省庁に対し、太陽光開発に関して現在の関係法令に基づく対応の実効性を検証し、不十分と考えられる場合はさらなる規律強化に向けた方針を検討するよう依頼した。また出席省庁から、地方自治体による規制条例に関する分析を求める意見も出た。

なお、高市早苗首相はかつて「環境エネルギー省」への再編に言及したことも。本連絡会議がその呼び水となるのか。

高市政権のエネルギー政策 技術戦略と経済安保が中核に


【論説室の窓】水上嘉久/読売新聞 論説委員

「危機管理投資」を掲げる高市政権の成長戦略が本格始動した。

エネルギー政策の中核も、技術戦略と経済安全保障に再定義されようとしている。

「成長戦略の肝は、『危機管理投資』です。リスクや社会課題に対して先手を打って供給力を抜本的に強化するために、官民連携の戦略的投資を促進します」

高市早苗首相は11月4日、経済政策の司令塔となる「日本成長戦略本部」の初会合で、強い経済の実現に向けて政府が投資を主導する姿勢を強調した。

会合では17の戦略分野が示され、AI・半導体や造船などのほか、エネルギー分野では「フュージョンエネルギー(核融合)」と「資源・エネルギー安全保障・GX(グリーントランスフォーメーション)」を掲げた。エネルギー政策の主軸も国内供給力の強化にあることを明確に打ち出したと言えよう。

高市政権はメガソーラー規制を打ち出した


エネルギー自給率向上へ 核融合発電の推進を表明

首相就任後の所信表明演説では「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指すと述べている。AI開発のボトルネックは今後、半導体チップから電力供給に移っていくとも言われており、電力需要の増加にどう対応していくかが現実的な課題となりそうだ。

高市政権のエネルギー政策を読み解く上で鍵となるのが、「エネルギー自給率」だろう。

自民党総裁選に出馬表明した9月の記者会見では、「化石燃料に頼って国富を流出させ、資源国に頭を下げる外交を終わらせたい」と語っている。

日本のエネルギー自給率は東日本大震災前の2010年度には約20%だったが、原子力発電所の停止などで低下した。再生可能エネルギーの導入で少しずつ上昇しているが、23年度は約15%に過ぎない。

高市氏は「何としても日本のエネルギー自給率を引き上げていきたい。できれば100%を目指していきたい」と主張する。夢物語のようにも聞こえるが、その根拠としているのが、成長戦略の重点分野の一つに挙げた「核融合」である。

核融合発電は、原子核同士を融合させて膨大なエネルギーが生じる反応を使い、発電する技術だ。「地上に太陽をつくる」技術とも言われる。発電時には二酸化炭素を出さず、高レベル放射性廃棄物も発生しない。主たる燃料である重水素は海水に含まれており、資源枯渇の心配もないとされている。

高市氏は科学技術政策担当相だった23年4月に日本初の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定するなど、核融合技術に対する思い入れが強い。著書『日本を守る 強く豊かに』の中でも「核融合エネルギーの実現によって、経済の覇権は『資源保有国』から『技術保有国』に移ると思います」と述べている。

もっとも核融合発電の実用化には、まだまだ時間を要する。政府は核融合の発電実証を30年代に前倒しする方針を示したが、本格的な導入がいつになるのかは不透明だ。米国や英国などとの技術覇権競争も激化しており、27年にも実験炉の稼働を予定する中国も猛追している。

主要部品の製造技術などでリードしている日本が、実用化で他国に後れを取ることは避けなければならない。法整備や民間企業によるサプライチェーンの構築など、官民の取り組みを急ぐ必要があるだろう。

エネルギー自給率を高めていく上で、むしろ当面の試金石となるのが既存の原子力発電所の再稼働だ。高市氏は「まずは安全確保を前提とした原子力発電所の稼働」としており、原発を「最大限活用する」と政策転換した岸田文雄政権や、それを引き継いだ石破茂政権と方向性は変わらないとみられる。地元同意の形成が遅れて再稼働が停滞する現状に、どのようにリーダーシップを発揮していくかが問われよう。

原発の新増設も焦点になる。電気事業連合会は10月、40年代に発電容量550万kW分の原発の建て替えが必要になるとの見通しを示した。革新軽水炉で4~5基分に相当する。建設期間を考慮すると「待ったなしの状態」(電気事業連合会の林欣吾会長)にあり、電力会社の投資判断を後押しする支援制度を求める声も高まっている。

災害援助隊が全国一斉訓練 LPガスの安定供給維持に貢献


【岩谷産業】

岩谷産業のLPガス特約店組織「マルヰ会」は10月22日、「MaruiGas災害救援隊」の全国一斉訓練を行った。マルヰ会は、災害時にLPガスの復旧作業を行う全国的な互助組織として同救援隊を編成し、隊員の技術向上と連携強化を目的とした訓練を毎年1回開催している。今年は全国73カ所で、523社から合計1936人が参加した。

非常用発電機の電源を入れる

関東ブロックの会場の一つ、茨城LPGセンター(茨城県那珂市)には17人の隊員が参集。全国の会場とオンラインでつながり、本部から配信される講義の聴講や屋外での訓練を行った。 清水尚之専務執行役員・エネルギー本部長による訓練開始の号令後、隊員たちは災害救援隊マニュアルを取り出し、全国の仲間と読み合わせをした。

次に屋外に移動し、非常用発電機の動作確認を行った。茨城LPGセンターは災害時には情報・物流の拠点となる災害対応型基幹センターであり、停電時にも充てん作業などが行えるとあって、電源をオンにすると、力強いごう音が辺りに響いた。

この後隊員は、一人ひとりが持参した工具箱を開け、当日配布されたチェックリストと照らし合わせた。リストには高圧ガス移動時に携行すべき31種の資材工具とその扱い方が書かれ、隊員たちは一つひとつ丁寧に確認を行った。最後に会議室に戻り、オンラインでの保安講習に参加した。ガス漏れによる飲食店の火災など、全国で発生した漏えい事故の原因や対処などを共有した。

チェックリストで工具を確認

各地の災害現場で活動実績 レジリエンス向上目指す

MaruiGas災害救援隊は、1995年の阪神・淡路大震災を契機に誕生した。現在の隊員は3600人。これまで、東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨など全国各地の災害現場で延べ33回、2215人の出動実績がある。

保安講習の講師を務めた梶野昭彦保安部長は、「今日帰社したら学んだことを同僚に伝え、各拠点で保安について確認する日にしてほしい」と締めくくった。MaruiGas災害救援隊は今後も訓練を重ね、「災害に強いエネルギー」というLPガスへの人々の期待に応えていく。

【覆面ホンネ座談会】安定供給死守への分岐点 制度改正で問われる実効性


テーマ:電力システム改革の行方

電力システム改革の検証を踏まえた制度改正の方向性が見えてきた。小売り事業者に対する規律強化や電源・系統投資の資金調達支援など、より安定供給確保を意識するが、果たして現状の課題を解決する打ち手となるか。

〈出席者〉  A 電力小売り関係者   B コンサル   C 大手電力関係者

―小売り事業者の供給力確保義務履行の強化策が検討されている。実効性をどう見るか。

A 資源エネルギー庁は11月11日の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(WG)」で、義務履行強化の目的を、需要家に対する安定・継続的なkW時の供給と料金の急激な変動の抑制と整理した。この目的は理解できるが、3年前に需要の5割確保といった水準を求めることが手段として正しいかは疑問だ。そもそも2022年の卸市場高騰時には、小売り事業者がリスク管理を十分に行っておらず、結果として一方的な契約解除や最終保障供給への移行が起きた。現在は、先物市場の活用や市場連動型の料金メニューを導入することで、需要家とリスクを分担する取り組みが進んでいる。こうした現状を踏まえずに、小売り事業者の市場依存度が当時と同程度のボリュームだからと規律強化を進めるのは、腑に落ちない。

B 同意見だ。確保義務を一方的に強化することには違和感がある。需要を先に固定するのか、調達を固定するのかという判断は、本来、小売り事業者のリスク管理に関わる経営判断であるべきだ。また、小売り側だけに強制するのは、バランスを欠いている。

C もう一つ踏み込んで言えば、市場設計の議題に「電気料金の安定化」という目的を持ち込むことに違和感がある。料金は価格変動するメニューを含めてさまざまな選択肢が消費者に提供されるのがよい。むしろ、国に対処してほしいのは消費者の目の届きにくい小売り事業者の財務の健全性だ。

新設が検討される市場の実効性は?


新市場は絶対的な解決策か 既存のルール変更で問題解決は可能

―中長期取引市場の創設については、どのような論点があるか。

C 現行のスポット市場において、経済合理性に基づいて価格形成されていないという実態がある。これは、大手電力会社に対して限界費用による供出が求められているためで、さらには、この低廉な価格が相対契約を含めた取引全体に影響を及ぼしている。この課題への対応として、中長期取引市場に期待したいが、絶対的な解決策とも考えにくい。

A スポット市場の限界費用での玉出しの見直しという本質的な議論を飛ばして、なぜ中長期取引市場に進むのか。既存の市場に一定の固定費を乗せて回収できる仕組みを整えるだけで状況は大きく改善されるはずだ。

B 加えて、約定方法について、ザラバ方式の採用を前提に、電源の固定費と可変費を含めた価格設定が検討されている。スポット市場との価格の整合性をどう確保するのか、正直なところイメージが湧かない。それに、固定費込みのザラバ市場を想定すると、バックアップ電源程度の価格が並ぶことになり、小売り事業者がそこから電力を調達しても販売価格との整合が取れず、採算が合わなくなる。その結果、誰も市場から買わず、約定しないまま残り続けるような事態が常態化するのではないか。価格の整合性に課題がある以上、制度として機能するイメージは持てないね。

A 制度設計の議論が理屈だけで先行している感は否めない。供出を求める事業者の要件や受け渡し・清算方法といったルールばかりが先に固められ、売買が成立するような価格でどう流通させるのか、その上で供給力確保義務をどう機能させるのか、内外無差別卸との関係をどうするのか―といった実運用に直結する論点が出ていない。これでは、厳しい結果を招くことは目に見えている。

C とはいえ小売り事業者に確保義務が課される以上、一定量は市場または相対取引で買わざるを得なくなる。その意味では供給力確保義務が措置されたとしても、競争条件としてのイコールフッティングは担保されている。公平なルールの下で新たな競争環境の枠組みが生まれてくるということではないか。

【イニシャルニュース】ネットゼロ目標を破棄 揺れる豪州最大野党


ネットゼロ目標を破棄 揺れる豪州最大野党

脱炭素を巡り豪州の最大野党が揺れている。自由党は2021年に同党が政権担当時に設定した「50年ネットゼロ」の目標を破棄することを正式に決めた。

5月の総選挙で歴史的敗北を喫した自由党は、女性のS氏を初めて党首に据えて失地回復を狙った。だが連立パートナーの国民党からネットゼロ目標の破棄を迫られ、煮え切らない態度を示していたS氏に対し、今度は身内から「リーダーシップに欠けている」と指摘されるありさまだ。

党分裂を回避しようとS氏は所属議員と約5時間に及ぶ話し合いを持ち、ネットゼロ目標の破棄を決めたが、党内の火種はくすぶり続けており初の女性党首の受難は今後も続きそうだ。

自由党は、ネットゼロ目標は破棄するが、パリ協定にはとどまり5年ごとの国別削減目標(NDC)の策定は続けていく。ただ温室効果ガス削減目標は全セクターではなく、政府機関だけを対象にするという。

ネットゼロ目標の破棄に最も積極的だったのは、エネルギー通として知られるО議員だ。国民生活を圧迫している電気料金の高止まりは脱炭素政策にあるとして、保守派の議員をまとめ上げS氏に目標の破棄を激しく迫ったとされる。ある事情通は「ネットゼロ目標の是非というより、この問題を契機とした権力闘争の一つの現れ」と解説する。

翻って日本も同じような状況にある。女性党首、自民党と日本維新の会との連立―。今のところ順調に滑り出した高市政権だが、暫定税率廃止、電気ガス代補助、メガソーラー規制などエネルギー政策と脱炭素政策が整合しないという声が高まっている。

豪州のように脱炭素が火種となり、高市政権を揺さぶる事態があり得るところに不気味さがある。

日本と通じる豪州の政治情勢


脱原発から活原発へ 自民K議員の釈明

「玉木雄一郎首相の誕生か」と騒がれた首班指名を巡る政局。最終的に国民民主党は立憲民主党との間で、安全保障・憲法・エネルギーの各政策で折り合えなかった。エネルギー分野で立憲は党内の最左派集団・サンクチュアリなどの影響で、綱領に「原発ゼロ社会」を掲げているからだ。

国民民主や参政党など近年躍進を遂げる政党はいずれも原子力推進。立憲は党内左派のくびきから解き放たれない限り、国民からそっぽを向かれ続ける。

一方の自民党は、昨年の総裁選での〝踏み絵〟を経て、脱原発派は表向き消滅したようだ。筆頭格だったK衆議院議員はK県連の会合で「活原発」への変節ぶりについてこう釈明したという。

「今までは『日本は再エネでやれるよね』と思っていた。ただ、ここに来てAIとデータセンターで電力消費量が爆発的に増えるという予測になって、これでは再エネだけじゃ賄えない。再稼働可能な原発を動かしても足りないという状況になっている……再エネ、原子力、火力など、あらゆる電源を今の段階で『これはやらない』と決め打ちする必要はない」

ただ「電力需要に対応するため」との理屈は公明党と同じで消極的だ。安定供給、エネルギー安全保障、低廉性といった原子力ならではの強みは語られない。それでも、党内でそれなりの影響力を持つK氏が路線を修正したのは国益に適う。と同時に、立憲の時代遅れ感が際立つばかりだ。


J社で噂される分社化 成長の陰で揺らぐ矜持

エネルギー大手のJ社内部で分社化の可能性がささやかれているという。関係筋によると、具体的には火力部門と燃料調達部門、再エネ部門の分離・分割の案が浮上しているもようだ。

同社は近年、再エネやゼロエミッション火力、海外事業など事業領域を急速に拡大している。中途採用者の人数も多い。「どんどん新しい人や部署が増え、権限を与えられていった。そうすると経営陣の決裁の量も増える。分野ごとに分社化すればスッキリするということか」(J社関係者)

確かに分社化によって各分野の裁量は増え、決裁スピードは上がる。一方で、各部門を横断した連携や企業としての一体感は薄れていく。前出の関係者はこの点を不安視する。

「最近は国内最大の発電会社としての矜持が失われつつある気がする。分社化すれば、各分野がそれぞれの方向に突っ走っていくことになる。一番重要なのは消費者のための安定供給や安価な燃料調達だろう。新たな分野に挑戦するのはよいがバランスが大切。この部分がぶれてはダメだ」

J社だけでなく、全ての大手エネルギー企業に響く言葉だ。

運輸部門のCNへ選択肢拡大 EVに加え水素やバイオ燃料も


2年ごとに開催される国内最大級のモビリティ展示会「ジャパンモビリティショー(JMS)2025」が10月30日~11月9日、東京ビッグサイトで開かれた。自動車メーカーのほか、IT、通信などモビリティ分野に携わる産業が参加し、過去最多となる計500社以上の企業・団体が出展した。

スズキが出展したガソリンとバイオ燃料に対応する「FFV」

今回の傾向を見ると、国内外の各社ともEVをメインに据えているのは相変わらずだ。とりわけ、ホンダ、マツダ、三菱自動車、スズキ、ベンツ、BYDなどは、デザインや機能、走行性能などで斬新な提案が盛り込まれ、近い将来の日本市場投入を期待させるものだった。

水素・燃料電池やバイオフューエルなどでカーボンニュートラル(CN)に対応する新型車も目に付いた。加えて、スズキはインド・バナスカンタ地域で展開するバイオガス生産プラントの模型を展示。またマツダは「微細藻類:自然界の小さなエネルギー源」としてバイオ燃料対応をアピールしたほか、コンセプトカーに搭載された排気ガスのCO2回収装置を展示した。水素トラックなども含め、運輸部門の低炭素化に向けた選択肢の広がりをうかがわせた。

気候変動問題や高齢化社会を背景に、環境性能や安全性能が一段と重視され、多彩な形態の乗り物がスマート社会の形成と融合し、人々の暮らしを豊かにするツールとしての役割を強めていく―。JMSから伝わってくるメッセージだ。一方、海外自動車メーカーの出展数の激減は、日本市場の凋落を浮き彫りにしているようで、危機感を覚えずにはいられない。

組織改変し総合エネルギー企業へ本腰 産業向け最適ソリューションを強化


【ニチガス】

LPガス大手のニチガスが販売力の強化や顧客との接点拡充に注力している。

家庭用に強みを持つ同社はソリューションを切り口にした産業用や業務用営業を強化している。

昨今、需要家からの脱炭素やBCP(事業継続計画)など多様なニーズの高まりを背景に、エネルギー業界のとりわけ法人向けの営業部門では、ソリューション営業に力を入れるケースが増えている。

ガスや電気を右から左へ安価で安定的に供給するこれまでのビジネスモデルとは異なり、「CO2オフセットのガス」「再生可能エネルギー電気」「デマンドレスポンスに対応した供給スキーム」「コージェネやGHPを組み合わせたBCP」「電気、ガスのセット販売」やこれらを組み合わせたプランなど、ユーザーが求める多様なエネルギーのニーズに応えていく必要が生まれている。

そうした中、ニチガスはLPガス、都市ガス、電気を扱う総合エネルギー企業としての強みを生かし、エネルギー利用の最適化を進めている。

パワーエックスの蓄電池を活用する


需要家からの多様なニーズ 組織力高めて本格対応

これまでは多様なニーズに対して、各支店や北日本ガス(栃木)、東彩ガス(埼玉)、東日本ガス(千葉、茨城)のグループ都市ガス会社が各エリアで応じていたが、今後は戦略的に進めようと、昨年1月に組織を再編。都市ガス会社の導管事業をエナジー宇宙社へと集約し、同社内に営業部ソリューション課を新設した。その翌年には、ニチガス社内に、従来からある電気料金メニューの企画立案や小売販売用の電力の調達を担う電力事業部に加え、大口ユーザー向けの産業用営業部を設置した。

つまりニチガス本体とエナジー宇宙で、LPガス、都市ガス、電気それぞれの専門知識を持つ人材が連携し、ガスと電気を組み合わせた最適なソリューション提案を進めていく体制を構築したわけだ。

「これまでは担当地域のお客さまに対し各拠点単位で対応してきたが、今後は、まずは産業用営業部で全社的に対応することで、知見やノウハウを集約して積み上げ、より高度なソリューション提案と人材のさらなる育成につなげていきたい」と、電力事業部長の清水靖博執行役員は説明する。

具体的に、ニチガスとエナジー宇宙はどのようなソリューションを展開するのか。

まずニチガス産業用営業部では、ガス(都市ガス・LPガス)を軸にしたエネルギー利用の最適化や低炭素化に資する提案を進める。エリア内の病院や食品工場、製造工場などを対象に、ガスへの燃料転換やそれに付随したBCP強化のためのコージェネやGHP導入、クレジットを活用したカーボンオフセットガスの販売、さらには電気とのセット販売などを進めていく。

小倉悟産業用営業部長は、「燃料転換は相当に進んでいるが、まだ将来的に需要増加が見込めるエリアがある」とした上で、「お客さまの設備更新のタイミングやガスへの要望を見極めながら導管延伸を視野に入れてガスへの転換を図っていく。とりわけ脱炭素に資するオフセットガスについては内需向け工場か外需向けか、あるいは自治体ごとにお客さまが求める中身が若干異なる。いずれにしても脱炭素へのニーズが高まっているので吟味して対応していきたい」と戦略を語る。

ニチガスのソリューションでは、東京電力エナジーパートナー(EP)とも連携していることがポイントの一つ。オフセットガスは東電EPが調達したJクレジットを活用するなど、都市ガス供給面でも協調する。

「エネルギーサービスも含めたさまざまなソリューションのノウハウを持つ東電グループの知見を得ながら、お客さまとの関係を築いていきたい」(清水執行役員)


蓄電池を戦略的商材に 販売から施工の一貫体制

ガス以外の商材にも力を入れるのがエナジー宇宙だ。戦略的に扱う商材の一つが蓄電池。再エネとの親和性が高く、今後のZEHやZEB時代には欠かせなくなるアイテムである。将来の脱炭素社会を見据え、ニチガスは蓄電池の国産メーカー、パワーエックス社に出資しており、蓄電池販売を進めている。このパワーエックス社には東北電力、四国電力、電源開発、東邦ガス、石油資源開発など大手エネルギー事業者が将来性を期待して出資しており、コスト競争力のある蓄電池メーカーとして認知されつつある。

エナジー宇宙は、そんなパワーエックス社製蓄電池の認定販売施工会社であり、全国で50社近くあるうちの一社である。販売だけでなく、自社グループで施工も手掛けるなど蓄電池ソリューションに力を入れる。

「一般的には蓄電池と太陽光を併設するだけのソリューションで終わらせるケースが多い。当社ではお客さまの年間の電力量(デマンド値)やガス、油など他のエネルギー全般の利用状況を確認しながらベストミックスを訴求している。その中で最適に充放電するような設備容量を見極めて蓄電池ソリューションを模索している。再エネや省エネ設備の販売から施工までを一貫体制で任せていただきたい」とエナジー宇宙営業部の前山栄太エネルギーソリューション課上席課長は力を込める。

さらに同社が思い描く将来のソリューションが、蓄電池を活用するマイクログリッドだ。同社は今、簡易ガスエリアでのスマートシティの構築を目指している。学識者と協力して、需要規模や蓄電池の容量を確認しながらブラックアウトスタート時の蓄電池の技術的な挙動を検証している。

これまでに進められてきたエネルギー自由化政策巡っては、需要家の多様なニーズを生み出し、それに応えるために多様なソリューションを提案しているエネルギー事業者の奔走がある。大手電力や大手都市ガスだけでなく、LPガス販売を生業としてきたニチガスも、電気やガスを扱う総合エネルギー企業としてその「奔走集団」に本格的に加わってきている。特定の供給源に縛られない、ガスと電気を組み合わせた最適ソリューションを提供できる強みを生かし、ニチガスは加速する。

似て非なる二つのミッション 予測とシミュレーションの違い


【気象データ活用術 Vol.9】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

再生エネルギー関連で「予測」と「シミュレーション」は、気象データが主役級に活躍できるサービスの一つであろう。ただ、この違いをしっかり認識した上で用語を使い分けている方はまだ多くないように思われる。そのため当連載の機会をお借りし、用語の整理をご紹介したい。

再エネの文脈において「予測」とは、気象視点から見ると、発電の翌日計画の作成がその代表的なイメージである。つまり、翌日の気象状態を表現した気象“予測”データを入力し、翌日の発電量予測値を出力することを指す。

「予測」と「シミュレーション」のイメージ

一方で「シミュレーション」とは、ターゲット発電所で期待できる発電量を月単位、または年単位の積算値で推計したり、それからさらに収益見通しを推計したりすることなどが該当する。つまり例えば、太陽光発電所を新規開発する際、建設予定地にそれが数年前から稼働していると仮定して、現地における気象“過去実況”データ(現地の観測データや気象衛星データなど)を活用し、これまでどのくらいの量を発電してどれだけ収益を出せたか模擬実験したのち、得られた結果を基に未来の発電量や収益性を月〜年単位などで推計することを指す。

それぞれを端的に言うならば、予測は「気象予測技術によって未来を予測」し、シミュレーションは「気象観測データが示す過去の事実を基に期待値を推計」する作業と説明できるだろう。前者は未来方向のみ顔を向けているのに対し、後者はまず過去を振り返った後にその延長線上としての未来を見るイメージである。

以上のことにより、予測技術開発をご依頼いただく場合とシミュレーションをご依頼いただく場合とでは、利用する気象データが全く異なる。

予測技術開発に活用するのは、主に数値予報データである(数値予報については本誌6月号にて解説済み)。過去時点における数値予報データ(気象予測値)と、過去の発電実績データとを教師データとしてAIに学習させ、予測モデルを開発する。日々の発電運用の際には、完成した予測AIモデルに数値予報データを入力することで、翌日ターゲットの発電量予測値を時系列データで出力させる。

シミュレーション作業に活用するのは、願わくは、現地ピンポイントでの観測データ(日射量・気温・風向風速など)であるが、それは入手不可能のことが多い。太陽光発電所を新設する場合は、主に気象衛星データの雲分布から地表面の日射量を推定したデータなどを活用することになる。風力発電所を新規開発する場合は、実際に現地にて数年の風況調査を実施して得た観測データでシミュレーションを実施し、収益性を精査する。

本稿が皆さまのビジネスシーンにおいて、用語の理解を共有し合い、同じ認識の下でスムーズな対話を進める一助となれば幸いである。予測とシミュレーションは混同されやすく、立場の違いによって前提も異なるため、用語の概念を共通化することが実務では重要と感じている。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

・【気象データ活用術 Vol.8】再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標

ノーベル賞受賞で注目のMOF エネ分野での活用にも期待


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞 編集長

今年のノーベル化学賞は、MOF研究で成果を残した日本人を含む3人が受賞した。

多様な場面で社会課題解決に資する可能性を秘めるが、現状に至るまでは苦労もあった。

スウェーデン王立科学アカデミーは10月8日、今年のノーベル化学賞を、京都大学の北川進・特別教授、リチャード・ロブソン・メルボルン大学教授、オマール・ヤギ・カリフォルニア大学バークレー校教授に贈ると発表した。受賞理由は金属有機構造体(MOF)の創出だ。北川博士は世界に先駆けてMOFの合成とコンセプトの確立に成功した。ガスの分離・吸着・貯蔵、触媒反応の場、環境汚染物質の除去などさまざまな応用が期待できる。

ロブソン氏は1989年、溶液中で有機分子(有機ニトリル化合物)と金属イオン(銅イオン)が結合した3次元ダイヤモンド型構造を持ち、内部に大きな空洞が存在する物質を合成することに成功した。固体内部の空間には、分子やイオンが出入りできることを実験的に示した。MOFの原型となるものだが、この物質は空洞内が溶媒で満たされていないとすぐに壊れてしまう。つまり溶液から取り出すことはできなかった。

受賞決定時の北川氏(左から2人目)


受賞までの秘話 苦節の時期も経験

北川氏は、京大大学院工学研究科で博士号取得後、近畿大学で助手、講師、助教授とキャリアアップしていく中、多孔性材料に関する研究を始めた。近畿大で92年、細孔に有機物を含んだ多孔性配位高分子の合成に成功。物質の構造を解析するため、京大大型計算機センターを利用した。研究のターニングポイントを次のように振り返る。

「非常に巨大なデータを入力して、それを計算してということを何回か繰り返して構造を計算します。朝8時前に来たときはガラガラで仕事がはかどったのですが、昼ぐらいになると京大の研究者がどんどん出てきてやりだす。当時は手作業でデータを入力していたので時間がかかります。データを入れたら1~2時間以上待つ。時間があるので途中の構造を見たら、きれいに無限の穴が空いていて、中に有機分子が入っていたのです。それまでは穴が空いていない密度の高いものを作る努力をしていたのですが、その構造を見た時に、これは面白いとピーンときて非常に興奮しました」

その後、東京都立大学の教授になり、97年には多孔性配位高分子の弱点であった脆さを解決するため、金属イオンと有機配位子が噛み合う構造にするという新しい発想で、気体分子を大量に吸蔵できる多孔性配位高分子を世界で初めて合成した。気体を吸着・放出できる固体という新しい概念が確立された。

ただし、この成果は最初なかなか受け入れられなかった。北川氏は「97年にガスが可逆的に吸着し、壊れないという論文を出して、アメリカでのサマータイムに権威者が集まる会で発表したら、『そんなの本当か』という感じで非常に叩かれました。そういう学会に参加したのは初めてだったので部屋も予約しておらず、ようやく取れた部屋が一番上の狭い部屋で、蒸し暑い温室の中にいるような気持ちの中で、涙か汗か分からないものが出ました。それでも、この研究成果は実験してしっかり見つけたことなので、一切揺らがず、さらに進めていこうという気持ちでいました」と話す。

寿都町長選で片岡氏が7選 概要調査への移行が焦点に


高レベル放射性廃棄物の最終処分地の選定に向け、概要調査への移行の是非が争点となっていた北海道寿都町長選の投開票が、10月28日に行われ、現職の片岡春雄氏が反対派の元町議の大串伸吾氏を破り、7選を果たした。

支援者らと喜びを分かち合う片岡氏
提供:時事

同町では2020~22年にかけて原子力発電環境整備機構(NUMO)による文献調査が実施され、昨年11月に報告書を受領済みだ。次の段階の概要調査に進むには町長と鈴木直道知事の同意が必要となるが、鈴木氏は現時点では反対姿勢を崩していない。

片岡氏は、その判断材料とするため住民投票を行う方針だが、仮に賛成多数の場合でも、判断を急ぐつもりはない。その背景には、最終処分の議論が「北海道だけの問題」と受け止められつつあることへの危機感がある。

この点について、道側も同様の問題意識を持っており、鈴木氏は11月の定例会見で「北海道だけの問題になるのはおかしい。国民的議論が深まっているかというと、そうとは思えない」と述べている。

現在、文献調査を受け入れている自治体は寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町の3カ所にとどまる。片岡氏は調査地点を全国に広げるためにも、候補地選定プロセスを自治体の応募に依拠する「手挙げ方式」ではなく、国が全国の自治体に調査を依頼するといった方法に転換すべきだと主張してきた。

高市政権の下、原子力の活用へと前進するからには、同時に最終処分を含めた「出口戦略」の議論を進めることが重要だ。(多事争論に関連記事)

【視察②】実際目にして得られた再発見 随所に潜む日本への示唆


【エネルギーフォーラム主催/海外視察・団長記】

山内弘隆/武蔵野大学経営学部特任教授

「百聞は一見に如かず」。使い古された故事だが、今回の視察の成果は、まさにこの言葉が意味する再発見であった。

フランス・パリで最初に訪問した国際エネルギー機関(IEA)は、1973年の第一次オイルショックを受けて翌年に設立された。IEAの使命はエネルギー安全保障の確保だが、付随的に中長期のエネルギー需給見通しやエネルギー技術・開発の促進も担っている。


フロントからバックエンドまで 原子力大国の実力垣間見る

IEAは1月に「原子力の新時代への道筋」を発表した。世界的に脱炭素が求められる一方で、データセンターや半導体工場の急伸にどう対処するか。同レポートは原子力発電の比較優位性の復活を強調し、エネルギー安全保障というIEAの基本理念に立ち返り、その有用性、重要性を説く。筆者も参加した総合エネルギー調査会基本政策部会での第7次エネルギー基本計画の議論などにおいてもプレゼンがなされた。

改めて詳細な説明をいただいたが、例えば廃炉費用や最終処理に要する費用の捉え方については、日本国内の議論とは若干の隔たりを感じざるを得なかった。IEAの分析を日本国内の議論にどう生かすか、ある意味では一つの課題であろう。プレゼンには日本からの出向者も参加していた。日本におけるコミットの在り方と国際標準的な認識を共有することの可能性に期待したいと思う。

オラノ社でのプレゼンの様子

原子力政策を論じた後は原発自体の見学である。訪れたグラヴリーヌ原発は90万kW級の原子炉6基を有し、世界第5位、欧州第2位、そして西欧州最大の原発である。フランス電力(EDF)が所有し、原子力大国の象徴的存在と言えようか。筆者のような技術的門外漢にとっては、加圧水型原子炉故に内部を間近に観察できたことの意味は大きい。

ただ、ここで感じたのは原発を包摂する周辺自治体の「眼」の差異である。福島の影響は計り知れない。自治体との関係性をいかに再構築するかについて何らかのヒントが得られるのではないかと感じた。

2日目は原発を裏側で支えるオラノ社から始まった。世界最大の原子力産業会社で、旧アレバ社の再編によって生まれた。ウラン採掘から転換、濃縮、再処理といった一連の核燃料サイクルを手掛け、仏政府が主要株主となっている。日本向けのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料製造・輸送や青森県の六ヶ所再処理施設への技術協力など、日本との関係も深い。

世界的にオラノの役割は大きく、政府出資が社の信頼性や社会における受容性に結びついていることは否めない。視察で明確になったのは、核燃料サイクルの担い手自らが地域との関係性の強化に腐心していることで、同社最大の再処理工場ラ・アーグでは地元の情報委員会などを通じて多くの対話を行っているという。日本でも、民間自ら表に出ることの効果が理解されるべきであると感じた。


電力取引のマイナス価格 日本と異なる電源の運用面

2日目メインはエンジー社。仏政府が4分の1程度の株式を保有し、30カ国・約9・8万人の従業員を抱える世界最大規模の総合エネルギー会社である。日本の電力システム改革の初期にしばしば言及された「総合エネルギー企業」に当たる。同社は国営ガス会社・GDFの民営化により生まれた。英国で旧BGから出発したセントリカにも言えるように、電力との比較でガス会社が持つ顧客接点の近さが市場拡大のエンジンだと論じられる。

エンジーの戦略は、ガス事業中心の企業から再生可能エネルギーや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換で、三つのユニット体制を取る。①Renewables &Flexibility、②Infrastructure、③Supply & Energy Management―である。

議論で興味を引いたのは、マイナス価格問題である。仏の電力市場ではマイナス価格が採用されている。変動電源による供給過剰時に価格をマイナスにする仕組みであり、マーケットメカニズムの観点からは極めて明快な施策である。日本では制度改革の一環として論じられたが、採用するに至っていない。主な理由は、原子力や一部火力などの出力制御が難しく、価格がマイナスになれば発電側に不利な取引に至る可能性があるためであろう。ではなぜ原子力中心の国でそれが受け入れられたか。同社の説明では、EDFは日中の太陽光過多時に原子力の出力を最大2000万kW削減するという。原子力は出力抑制可能な電源という前提での施策なのである。

フランス最後の訪問先はジミー・エナジー社。2020年に設立されたスタートアップで、小型モジュール炉(SMR)を使用して産業用の熱供給事業を行なう。独自の高温マイクロ原子炉を開発し、CO2を排出せずに産業用熱を提供するとして、26年までの商用化を目指している。こうしたイノベーションやスタートアップが、原子力という既存技術の価値を上げることは間違いがない。

【視察①】原子力と分散型先進国を行く 仏独のエネ事情の実態調査


【エネルギーフォーラム主催/海外視察】

日本で第7次エネルギー基本計画に基づき各政策の見直しが進む中、原子力大国・フランスと、エネルギーヴェンデや地域分散型の取り組みが進むドイツの実情とは―。本誌は今秋、山内弘隆・武蔵野大学特任教授を団長に、仏独のエネ事情を調査する視察団を主催。本誌記者のレポートと団長記でその模様をお届けする。

 10月27日~11月2日、フランスは原子力、ドイツは地域分散型やエネルギー転換をテーマに関連組織・企業8カ所を訪問した。電力・ガス・交通・通信などのインフラ系、メーカー、コンサルなど幅広い業種の19人が参加した。山内弘隆団長は視察先で、日本では第7次エネルギー基本計画でカーボンニュートラル(CN)を前提に現実路線の政策転換を打ち出したことや、電力・ガスシステム改革の検証が進んでいることを紹介。参加者からは多彩な質問が飛び交い、活発に意見交換を行った。


IEAが「原子力復活」強調 原発の出力調整が当たり前

最初に入国したフランスの視察先は、国際エネルギー機関(IEA)、グラヴリーヌ原子力発電所、オラノ社、エンジー社、ジミー・エナジー社だ。皮切りとなったIEAではまず、日本の原子力小委員会でも取り上げられたレポート「原子力の新時代への道筋」の要点を担当者が解説した。強調したのは、近年原子力が力強く復活しているということ。建設中の原発は7000万kW超であることや、データセンター(DC)建設ラッシュを受け小型モジュール炉(SMR)も建設計画が最大2500万kW(検討中含む)と勢いがある。

原子力のレポートを解説するIEAの担当者

ただ、世界的に過小投資が懸念される中、民間がプロジェクトを計画通り実施できるよう、政府による道筋の明示と支援が不可欠だと指摘した。

後半は電化と電力セキュリティについて。プレゼンターのPortugal Isaac氏が注目するのがアイルランドで、執筆中(当時)の報告書の触りを披露した。独立系統下で再生可能エネルギー比率が高く、DC負荷の増大が課題だが、規制を設け新設を再開する方向で「日本にとっても知見となる」とアピールした。

国際動向をインプット後、パリから車で4時間かけ最北部のノール県にあるグラヴリーヌ原発に向かった。運営者のフランス電力(EDF)は2年前に完全国有化された。加圧水型炉(PWR)で6基合計540万kW、同国の電力生産量の約14 %(2024年)を賄う。6基とも運転期間40年超で、新たに2基建設する計画もある。

グラヴリーヌについて説明する発電所長

日本との大きな違いは出力調整を行う点だ。20~100%の間で調整し、同発電所では平均1日2回実施。これは後のエンジーでの話にもつながってくる(団長記参照)。また、設備は何度もアップデートし、福島の教訓も踏まえ、安全性向上に向け14~28年に40億ユーロもの投資を実施中だ。

実際建屋に入ると、日本のサイトより圧迫感がなく、停止した別のサイトのタービンを予備で置けるほどゆとりがあった。


核燃サイクルがビジネスに 総合エネ企業の経営戦略は

翌朝訪れたオラノ社は、核燃料サイクルに関するあらゆる工程を担うグローバル企業で、政府が主要株主だ。日本向けのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を含め年間6000件の核物質輸送を行う。

再処理施設のラ・アーグではこれまでに4・1万tの使用済み燃料を再処理し、メロックス工場では3200tのMOX燃料を製造。両施設は45~50年まで稼働させ、同時に次世代工場の40年代稼働開始を掲げる。国の支援をバックに、サイクルがビジネスとして成立している点は意味深い。対応者からは、青森県・六ヶ所工場の竣工を願うとのエールも送られた。

続いて世界的総合エネルギー企業のエンジー社で、前身のガス事業中心から、再エネや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換に向けた経営戦略を聞いた。ただし、特に産業・暖房分野を念頭に「ガスは当面残る」(Dario Acquaruolo・ENGIE SEM GBU幹部)とし、将来的な「脱炭素ガス」への移行の必要性も語った。

世界30カ国で展開するエンジー

後半は欧州の電力・ガス市場に関する意見交換を行った。

その後は原子力スタートアップのジミー・エナジー社へ。高温ガス炉による産業用熱供給という斬新なビジョンを掲げる。Antoine Guyot・共同創設者兼CEOは「フランスでは電気は十分」「ガスより安く熱供給できる原子炉を作るというチャレンジだ」と力説する。日本ではまず出てこない発想であり、その行方が注目される。

市場開設からはや2年 炭素クレジット市場を総括


【マーケットの潮流】松尾琢己/東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長

テーマ:カーボン・クレジット市場

自主的な排出量取引の場として、カーボン・クレジット市場が開設され2年が経過した。

クレジット価格が上昇傾向にあるが、こうした背景と展望について東証の担当者が解説する。

東京証券取引所(東証)のカーボン・クレジット市場が開設からはや2年目が経過した。本誌では、過去2回、直近では昨年12月号で1年経過後の取引状況をご紹介したところであるが、それ以降、カーボン・クレジット市場を取り巻く状況は大きく変化している。

具体的には、GX(グリーントランスフォーメーション)の排出量取引(GX―ETS)の来年度からの本格導入(第2フェーズ)について、昨年は内閣官房「GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ(専門WG)」における検討、その検討結果の今年2月の閣議決定「GXビジョン2040」への反映、さらにそれに基づく第2フェーズ実施のための法改正として、5月28日に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」の一部改正が成立し(6月4日公布)、来年4月1日から施行されることとなった。加えて、 今年7月2日から、改正GX推進法に基づく排出量取引制度の制度設計に関する技術的事項について産業構造審議会において審議すべき事項について「排出量取引制度小委員会(小委員会)」における検討が開始され、年内に取りまとめが行われる予定となっている。

本稿では、こうした政策動向を踏まえながら、それ以降の歩みを振り返りつつ、今後の展望について言及したい。なお、以下、文中における意見などは個人的見解である。

東証は、23年10月11日に、まず「J―クレジット」を対象にカーボン・クレジット市場を開設したが、今年9月8日、市場開設来の累計売買高が節目となる100万tに到達したところである(期間中の約定成立日は466日中363日・78%)。市場開設来、直近(11月13日)までの売買高は合計104万4307t―CO2、一日平均2048t―CO2となっており、継続的な取引と価格公示につながっていると思料する。

また、カーボン・クレジット市場参加者の登録者数も順調に増加し、市場開設時点の188者から、直近で340者となっている。

J―クレジットのうち省エネと再エネ(電力)の価格・売買高推移


マーケットメーカーが機能 価格は上昇傾向が続く

J―クレジットの売買状況であるが、昨年までと同様、引き続き、「再生可能エネルギー(電力)」(再エネ・電力)が7割弱、「省エネルギー」(省エネ)が3割弱を占めている。これは、経済産業省が両クレジットについて売払いを実施しており、J―クレジットの流通の中心であることに加え、当該売払いでのクレジット調達・売却などを背景に、23年度(試行)、昨年度に引き続き今年度も両クレジットについて、マーケットメーカーを指定(4社)し、継続的なマーケットメーク(一定値幅・数量の売り・買い注文の実施)の貢献も挙げられる。

両クレジットの売買状況をもう少し詳しく見たものが、図のグラフである。まず、再エネ(電力)については、昨年4月に実施した当該売買の区分の見直し(同区分に属する方法論からバイオマス由来のクレジットを切り出し)を契機に、価格が上昇し、今年2月、4月にこれまでの最高価格6600円をつけている(直近では5900円)。市場関係者の声を総合すると、このクレジットがCDPやSBTiで認められるスコープ2(系統電力消費)をオフセット可能なことに着目した需要と言われている。他方、省エネについては、市場開設来、昨年10月頃までは、1600円程度で推移していたものの、 それ以降価格が上昇し続け、今年10月9日にこれまでの最高価格5450円をつけている(直近では5400円)。この価格上昇の背景については、以降の部分で若干の説明をしていきたい。


基準明確化で省エネ需要増 排出枠と価格制度に注目

GX推進法などに基づき、来年度導入予定のGX―ETS第2フェーズの制度を整理すると、①制度対象者は平均年間10万t以上排出する事業者、②排出枠は、年度ごとに制度対象者による政府方針に沿った割当申請(登録確認機関の要登録)に基づき無償交付、③制度対象者の義務は、年度ごとの排出実績と同量の排出枠の保有(翌年度1月末)、④J―クレジットおよびJCMは、排出実績の10%を上限に実排出量をオフセット可能、⑤ペナルティとして、排出枠の不足×上限価格の1・1倍の金額支払い、⑥排出枠取引所はGX推進機構が運営、⑦排出枠の上下限価格が設けられる(上限価格での金銭支払いでの義務履行/下限価格でのリバースオークションの実施)となる。

先述した省エネの価格上昇は、市場関係者の声を総合すると、この④の適格クレジットと関連している。具体的には、昨年10月の専門WGにおいて、適格クレジットはJ―クレジットおよびJCMのみとする(海外のボランタリークレジットは認めない)方針が示されたことで、現時点で排出枠が存在しない中で、事実上、排出枠と同じ効果を持つ適格クレジットのうち、流動性があり比較的割安な省エネを購入する需要が入っているものとみられる。

以上のように、今後のJ―クレジットの価格動向もGX―ETS第2フェーズの影響を強く受けることになると思われるが、実際には、排出枠の価格動向は、小員会で議論される排出枠の政府の割当方針(原則ベンチマーク方式)、上下限価格の設定などによるところも大きく、引き続き政府における検討状況を注視する必要がある。

まつお・たくみ 1992年東京証券取引所入所。派生商品部、総合企画部などを経て、2022年から現職。