【フォーラムアイ】FC増強へ大規模工事が進む 中部電力PG東清水変電所

【中部電力パワーグリッド】

周波数変換設備を備えた東清水変電所では大規模な増強工事が進んでいる。

容量はこれまでの3倍になるが、限られた敷地での工事には難作業もあった。

富士山と清水湾を一望できる日本平(静岡市)のほど近くに、日本の電力供給の「要」と言える施設が存在する。中部電力パワーグリッド(PG)の東清水変電所だ。ここは変電機能だけでなく、周波数変換という重要な役割を担っている。

東清水変電所の全景

日本の電力系統は、明治時代に導入された発電機が東日本(ドイツ製・50㎐)と西日本(米国製・60㎐)で異なっていた歴史的背景から、現在も静岡県や長野県、新潟県を境に東西で周波数が分かれている。東清水変電所はこの境界線上に位置し、交流を一度直流に変換して再び異なる周波数の交流に戻すことで、50㎐と60㎐の電力を相互に融通する。全国で4カ所しかない「周波数変換所(FC)」だ。

エアシャワーを浴びてから「バルブホール」と呼ばれる部屋に足を踏み入れると、1相当たりに四つのモジュールで構成されたアームが4段積み重なった巨大なサイリスタバルブが鎮座していた。光信号によってミリ秒単位でスイッチングを行い、交流を直流へと変換するFCの心臓部だ。

稼働中の周波数変換装置のサイリスタバルブ


市場分断抑制の効果も FCで国内初の自励式

東清水変電所ではさらなる電力融通能力の強化を目指し、二つの周波数変換装置棟の増設が急ピッチで進んでいる。完成すれば設備容量はこれまでの30万kWから90万kWへと3倍になる。供給力不足への対応力強化だけでなく、スポット市場での東西エリア間の市場分断を抑える効果も期待されている。

増設のきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災だ。当時、東日本の電力設備が被災し、供給力が大幅に低下。東京エリアでは計画停電を実施し、夏場には電力使用制限令が発出された。そこで、国はFC容量を20年度に210万kW(90万kW増強)、その後はできるだけ早期に300万kWに増強する方針を打ち出した。これを受け、東清水変電所では電力広域的運営推進機関が16年策定した「東京中部間連系設備に係る広域系統整備計画」に沿って、20年5月に増設工事を開始した。28年に運用を開始する予定だ。

増設する地下1階、地上2階の周波数変換装置棟

新設するFCには、周波数変換用としては国内初となる「自励式変換器」を採用した。最大の特徴はレジリエンス(強靭性)に優れていることだ。従来の他励式は交流系統への依存度が強かったが、自励式はそうではなく、系統かく乱への対応力に秀でており、片端外部電源なしでの起動(ブラックスタート)が可能だ。他励式で必要だった巨大フィルタや電圧を適正に保つ調相設備なども不要(または小型化)で、限られた敷地を有効に活用できる。


コロ曳きで機器を移動 建物内部の安全性は向上

東清水変電所は山の中腹に位置した手狭な敷地に建設されていて、一筋縄ではいかない工事となっている。

特筆すべきは、重さ180tの巨大な変換用変圧器の輸送だ。この機器は、清水港から特殊車両によって運んできた。構内に到着してから最終的な設置場所への移動に用いたのは「コロ曳き」という手法だ。車輪の役割を果たす細長いアルミパイプの上に機器を置き、3日間かけて120mを引いた。

リアクトルホール内の磁気シールド

建物内部にも、高度な工夫を凝らした。自励式で使用される巨大な空芯コイル(リアクトル)から発生する磁束により、運転中に建物のコンクリート内の鉄筋を誘導加熱する可能性がある。そのため、壁や床にアルミニウム板を敷き詰めた。この磁気シールドでリアクトルホール内は一面の〝銀世界〟が広がっている。火災対策も万全だ。高電圧設備がある部屋の一部では、万が一、火災が発生した場合には、300本以上のボンベから窒素ガスを噴出し、一気に窒息消火するシステムを備えた。

中電PG基幹系統建設センター東清水FC工事所の小林力所長は「工事が完了すると東清水FCの総容量は90万kWとなり、レジリエンスや市場取引の活性化の観点からも期待される役割は大きくなる。自励式FCの導入は初めてなので、受注メーカーである日立製作所とも協力しながら、安全を最優先に工程を遅らせることなく、取り組んでいきたい」と力を込める。

進化した東清水変電所が、日本の安定供給に果たす役割は計り知れない。これまでも、これからも、平時と有事を問わず日本の電力を支えていく。

【フォーカス】中電浜岡の不適切事案で 林社長が電事連会長を辞任

中部電力が1月5日、緊急記者会見を開き、浜岡原発3、4号機の審査で「基準地震動」の策定プロセスで不適切事案があったと発表した。

会見で辞任を発表した電気事業連合会の林欣吾会長

19日には、高市早苗首相が記者会見で「原子力利用の大前提である安全性に対する国民の信頼を揺るがしかねないものであり、あってはならないこと」と言及するなど、原子力行政への不信が再燃しかねない事態となっている。

中電は2019年1月の審査会合で、基準地震動について「20種類の地震動を計算し、平均に最も近い波を代表波にする」と説明していた。ところが、実際には複数のパターンを作り、その中から代表波を選んだり、意図的に最も平均から離れた波を代表波とし、残りの19組を後から選定したりしていた。

緊急会見で林欣吾社長は、社外弁護士によるヒアリングで「地震動を過小評価していたことを確認した」と明かした。「そういう(過小評価しようとする)意図があったという証言も出ている」(長谷川聡・コンプライアンス本部長)というが、「波の形がでこぼこしているのが技術的には好ましくない」「特定の周波数帯で波が大きくなる波形が好ましくない」といった証言もあり、単に地震動を小さくしたかっただけではない可能性がある。審査資料を見た原子力工学の専門家は「確かに波の出方が気持ち悪いというのは分かる」と語る。いずれにせよ、まだヒアリングでの証言に過ぎず、最終的な事実認定は第三者委員会の調査に委ねられる。


他社への調査は否定 副会長3人が職務代行

一方、原子力規制委員会の山中伸介委員長は1月7日の会見で、「捏造であり明らかな不正行為」「原子力規制に対する暴挙」と強い言葉で非難した。規制委は14日、中電に対して事実関係などの報告を求める「報告徴収命令」を通達し、本店への立ち入り検査も実施する。

会見では、記者団から「同様の事案が起きていないか、調査をほかの事業者に水平展開すべき」との質問が相次いだが、山中氏は実施を否定。原子力エネルギー協議会(ATENA)が事業者への確認を行ったが、同様の事案は見つからなかった。

業界への影響は甚大だ。林氏は16日、電気事業連合会の会長を辞任した。同日の会見では不適切事案について改めて謝罪した上で、「中電社長として、事実解明、原因究明、再発防止策の策定に専念しなくてはらない」と辞任の理由を語った。後任が決まるまでは、副会長3人(松田光司・北陸電力社長、森望・関西電力社長、安藤康志・関電執行役常務待遇)が職務を代行する。

昨年末には柏崎刈羽、泊両原発の地元合意が完了するなど、原子力政策に明るい兆しが見えていた。その矢先に明らかになった今回の不祥事。まずは第三者委や規制委の調査結果を待つしかない。

【フォーラムレポート】矛盾はらんだまま ETS本格始動へ

「神は細部に宿る」。これをまさに体現する排出量取引制度がまもなく本格始動する。

エネルギー事業にも大きな影響を与えるが、そのルールは多くの矛盾をはらんでいる。

来年度から本格稼働する排出量取引制度(GX―ETS)のルールが、昨年末明らかになった。CO2の直接排出量が年10万t以上の300~400事業者の参加が義務化され、日本全体の温室効果ガス排出量の6割をカバーする壮大な制度がいよいよスタートする。 

ETSでは、政府が各社に排出枠を当面無償で割り当てる。排出実績が排出枠の割当量を下回る場合は余剰分を売却でき、実績が割当量を超過した場合は不足分の調達が求められる。 

焦点の一つが割当方法だ。エネルギー多消費分野では業種別ベンチマーク(BM)を基準活動量に乗じて割当量を算定。BMの設定が困難な業種はグランドファザリング(GF)方式とし毎年一定比率で割当量を減らしていく。さらに一定水準以上の活動量の増減や、過去の削減努力、カーボンリーケージ(多消費産業の国外移転)リスク、研究開発投資状況なども勘案する。発電事業の場合、最初の3年は100%燃種別BMで、2029年度以降徐々に全火力BMに移行する設計だ。

エネルギーコスト、ひいてはリーケージへの影響は―

取引価格の上下限価格も注目を集める。価格を安定化させ、予見性を高める措置で、26年度の上限はCO21t当たり4300円、下限は1700円。上限は標準的な燃料転換コストとして直近10年の中央値から算出し、下限は足元の省エネ対策費用として省エネJクレジット価格を参考にした。実質価格上昇率を3%として徐々に引き上げ、さらに毎年度の物価上昇率も加味して価格を定める。

このように「カーボンニュートラルと経済成長の両立」が成立するよう、さまざま熟議を重ねたわけだが、産業構造審議会の小委員会委員を務めた上野貴弘・電力中央研究所上席研究員は「先例を見てもETSの制度設計は難しいと覚悟していたが想定以上。ちょっとした要素で価格や取引量、需給まで変わり得る。実際どうなるか、正直始まってみないと分からない」と率直に語る。


火力の収支に影響 コージェネは適切に評価

エネルギー事業者の受け止めはどうか。まず発電BMについては、発電所の新規建設や脱炭素燃料の導入に向けた助走期間への配慮が見える。ただ、「技術面や事業環境整備の進展と整合した時間軸であるべきで、それが3年で足りるのか。29年度以降、石炭火力が多い事業者とLNG火力が多い事業者の負担の差がどうなるのか注視が必要だ」(発電事業関係者)。各発電所を運転継続するかどうか、ETSが意思決定の判断基準の一つになるという。

電気料金への転嫁の在り方も重要だ。日本ではまだ電力取引市場に入札する際にETSのコストを織り込んでよいか、といった明確なガイドラインがない。「価格変動リスクをどう織り込むのか、その仕方が難しい。本来は次年度の契約から転嫁したいが、各社ペンディング状態だろう」(同)

都市ガス事業者はというと、当面、電力ほど深刻な影響は想定していない。ガス事業の直接排出で10万tを超える事業者は存在せず、LNG火力を運用する大手ガス会社は発電BMでカバーされることになる。

ただ、顧客への影響の行方として、特にコージェネの活用の評価に注目していた。業種別BMを直接排出だけで策定すると自家発保有者が不利になる恐れがあったが、この点は「公平性を確保すべく間接排出量も踏まえることとなり、自家発保有者も適切に評価されるようになった」(大手ガス会社関係者)。ETSで燃転の必要性を感じてもらい、顧客ごとにどうアプローチしていくかが今後の課題だという。

随所に制度の歪み 供給力不足に拍車か

他方、ある多消費産業関係者は「全体的には現実を反映した形となり、30年度までは政権交代さえなければまず心配はない。だが、積み残した課題は矛盾をはらみかねず、特に発電で噴出してきそうだ」とみる。

最も懸念されるのが供給力不足で、発電BMに全火力の要素が入り始める29年度以降は要注意だ。一方で政府は火力の過度な退出を留保する制度を次々整備し、さらに通常国会に提出予定の改正電気事業法では、大規模電源の休廃止は一般送配電事業者と事前の協議を定める方針だ。こうした動きに上野氏は「需給ひっ迫が懸念される間だけ政策的に廃止を引き延ばす発電所に対し、ETSのコストを課す必要はあるのか。供給力確保の対応策に応じて、ETS側での調整があって然るべきだ」と指摘する。

懸念は他にも。活動量の変動に対する調整は、事業所別に過去2年平均で7・5%以上増減した場合に行う。活動量が閾値以上に減った場合、新たな基準と過去の基準の差を翌年度の割当量から差し引くといった具合だ。例えば発電事業で割当量の最大化を重視するならば、7・5%以内に収まるよう複数の発電所で少しずつ発電量を下げた方が「お得」になる可能性がある。「こうした事業者の判断は防ぎようがないが、頻発すれば排出総量を狙い通り規制できなくなる。モニタリングが必須だ」(上野氏)

この他、バンキング(排出枠の翌年度への繰り越し)のルールも注視される。過度なバンキングは上限価格に張り付くリスクとなり、政府は抑制策を次年度検討するが、ルール次第では下限に張り付くリスクもある。

いずれにせよ、新たなコストアップ要因となるETSの副作用には目配りが欠かせない。「今すべきはエネコストを下げることだが、コストを上げる政策が随所に残る。脱炭素政策の大掃除が必要で、やれるのは政治家しかいない」(前出の多消費産業関係者)との本音も上がる。どの政党も物価高対策を重視するならば、衆院選でETSを巡る論戦も見たいところだが……。

【特集1世界の電気料金事情】 適切なコスト転嫁を阻む電気代補助の「恒常化」

政府は物価高対策を名目に、再度の電気・ガス料金補助に踏み切った。コストの適切な価格転嫁を阻害するなど、さまざまな問題点が指摘されている。

一年の中で冬は、暖房使用などで電気やガスの使用量が増え家計への負担として重くのしかかるシーズンだ。政府は物価高に直面する国民生活を支えようと、特に冷え込む1~3月の間、家庭の電気・ガス料金への補助の実施を決めた。

これは、昨年11月21日に閣議決定した『「強い経済」を実現する総合経済対策』の一環だ。電気料金は1、2月に1kW時当たり4・5円、3月は1・5円を補助。一般家庭の場合、3カ月で7000円ほどの負担軽減につながる計算となる。

これを「生活者に寄り添った支援」と評価する向きは確かにある。その一方で、「3カ月でたった7000円の補助に恩恵を感じる家庭などほとんどないのでは」(アナリスト)、「単なる選挙の票稼ぎ。ポピュリズム(大衆迎合主義)的政策以外の何ものでもない」(大手エネルギー会社幹部)といった懸念や批判の声も聞こえてくる。

そうであるならば、具体的な省エネ行動の停滞を招き、太陽光発電の効率的な活用につながるデマンドレスポンス(DR)の普及を阻害しかねないリスクを負ってまで、他国に例のない電気料金を通じた生活支援を行うことに果たして意味があるのだろうか。

補助金の効果は一時的 ほど遠い抜本解決

振り返ってみれば、ロシアによるウクライナ侵攻を機に国際的なエネルギー価格が高騰したことを受け、2023年に初めて激変緩和対策として実施されて以降、政府は断続的に電気代への補助を実施、延長してきた。とはいえ、補助金で期待できる効果は一時的なものでしかなく、この間に、政府が構造的な問題の抜本解決に努めてきたかと言えば、「否」だ。

補助金が適正な価格形成をゆがめている

3年前とは違い、地政学的なリスクは増しながらも、国際的な燃料市況は石油、石炭、LNGともに落ち着きを見せている。むしろ今は、常態化する「円安」こそが問題の根源だ。円安が進めば、エネルギーや食料品の多くを輸入に頼る日本で物価が上昇するのは自明。物価高が国民生活を圧迫しているのであれば、まずは「為替対策」に取り組むべきではなかったのか。

それだけではない。福島第一原発事故後、供給力の7割を占める火力燃料の消費量を抑制することも有効なはずだ。そのためには、長期停止中の原子力発電所を早期に再稼働させなければならない。国民理解の醸成というハードルはあるが、その場しのぎの補助金よりも持続的なメリットをもたらす。

再生可能エネルギー賦課金も、国民負担を押し上げる要因となっている。今年度の賦課金総額は3・1兆円程度と見込まれ、標準家庭の年間負担額は2万円近くに上る。FIT(固定価格買い取り)制度が始まった当初は、「1カ月にコーヒー1杯程度」との触れ込みだったはずが、雪だるま式に膨れ上がってしまった。一時、国民民主党が再エネ賦課金の徴収停止案を国会に提出するなどしたが、いまだ実現の見通しは立っていない。

【大阪ガス 藤原社長 】CN投資を着実に進め 脱炭素に貢献しながら国内外で収益力高める

現中期経営計画の中間地点である2025年度。

海外事業好調の後押しもあり、推移は順調だ。

大規模火力や再エネ、蓄電池、e―メタンなど、カーボンニュートラルに資する投資を進め、将来の収益基盤の強化にも余念がない。

【インタビュー:藤原正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

井関 2025年はエネルギー・ガス業界にとってさまざまな出来事がありました。振り返っていかがですか。

藤原 25年は日米関税交渉から始まり、年末にかけては日中関係という新たな地政学上のキーワードが浮上した年でした。イスラエル・ガザ問題、ウクライナ・ロシア問題は終息しそうにありませんし、エネルギーに限らず日本経済を取り巻く環境はより厳しさを増したと実感しています。

当社のガス販売量の半分は製造工場向けです。家庭用の販売量を左右するのは気温や他社との競合ですが、日中間の緊張感の高まりが日本の産業界に影響し稼働率が低下すれば、当然、製造工場向けの販売が低迷します。ただでさえ中国は不景気が長引いているにもかかわらず、基礎化学品や鉄などの生産調整を行っていないため、安い製品が世界市場を席巻していることが日本の製造業を直撃しています。ガス販売量にも影響を与えてしまう以上、ガス業界にとってあまり良い話とは言えません。

一方で、22年のロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的な資源・エネルギー市場の大混乱から3年が経過し、石油、石炭、LNGともに価格が乱高下することなく落ち着きを見せていました。地政学上のリスクが新たな局面を迎えた一方、資源・エネルギー価格や為替は「凪」の状態―25年を総括するとそんな年でした。

井関 大阪ガスにとっては120周年の節目の年でしたね。

藤原 創立120周年、そして大阪・関西万国博覧会が開催されたメモリアルな年でした。日本ガス協会の総意でパビリオンのテーマにe―メタンを据え、未来を担う子供たちを含む約69万人の来場者に向けて発信することができました。e―メタンはアンモニアや水素と比べて出遅れ感が否めませんでしたが、認知度を高める非常に良い機会となりました。


業績見通しを上方修正 北米事業が好調

井関 経営状況についてはどう分析していますか。

藤原 25年度は中期経営計画「Connecting Ambitious Dreams」の中間に当たる年であり、上期の海外事業の好調を反映して通期見通しを上方修正することができました。同時に、DOE(株主資本配当率)を3・0から3・5に、1株当たりの年間配当額を105円から120円に引き上げるなど、思い切った株主還元を決めることができ、滑り出しは好調です。

井関 海外事業好調の要因をお聞かせください。

藤原 北米におけるエネルギービジネスの収益性が高まっているためです。その背景には三つの要因があります。一つが、最近のデータセンター(DC)建設ラッシュに伴い電力需要が旺盛なこと。当社は北米において、天然ガスコンバインドサイクル発電所を複数保有しIPP(独立系発電事業者)ビジネスを展開しています。これまではあまり収益性が高くなかったのですが、PJM(米北東部地域の地域送電機関)市場では、長らく低迷していた容量市場価格が上昇し収益を押し上げています。

姫路天然ガス火力2基の稼働で火力発電容量は計320万kWに

二つ目が、シェールガス開発会社のサビン社が非常に生産量が好調であった上にヘンリーハブ価格が高めに推移したことです。ヘッジをしながら安定的に計画以上の利益を出すことができました。三つ目が、22年に火災事故が発生して以降、生産回復に努めてきたフリーポートLNG基地が、ようやく安定稼働に入ったことがあります。計画以上の稼働により、当社も出資者の一角として利益を獲得できるようになりました。

走行中にCO2を110%削減 内燃機関車の未来像提示

【技術革新の扉】バイオ燃料&CO2回収技術/マツダ

カーボンネガティブを成立させる内燃機関車の未来像をコンセプトカーとして披露した。

バイオ燃料とCO2回収装置を組み合わせ、大気中のCO2を110%削減する。

走れば走るほど、CO2が減っていく―。そんな従来のクルマの常識を覆すコンセプトカーを、マツダが提示した。2025年10月30日から11月9日にかけて開催されたジャパンモビリティショー(JMS)で披露された「MAZDA VISIONⅩ―COUPE」だ。

ロータリーターボエンジンを搭載したプラグインハイブリッド仕様の同車の特徴は、微細藻類由来のカーボンニュートラル(CN)燃料で走行する点に加え、車両にCO2回収装置を備えていることだ。この二つの技術を組み合わせることで、走行によって大気中のCO2を減らす「カーボンネガティブ」を成立させるという、内燃機関車の未来像を提示した。小島岳二取締役専務執行役員兼CSO(最高戦略責任者)は、11月16日に富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催されたスーパー耐久シリーズ第7戦のメディアラウンドテーブルで「豊かな地球に貢献すると同時に、車が好きで運転を楽しみたいというお客様の思いに応えるマツダ独自の世界観を表現した」と語った。

搭載されたCO2回収装置
提供:マツダ


食料と競合しない燃料 微細藻類の特性に注目

マツダは17年から、CN実現に向けた「マルチソリューション戦略」を掲げている。これは地域ごとのエネルギー事情に応じて、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動化技術を導入するとともに、内燃機関の効率改善やCN燃料の可能性を探ることで、ライフサイクル全体でのCO2削減を追求する考え方だ。MAZDA VISION Ⅹ―COUPEは、その戦略の中で示された、内燃機関の進化の一つと位置付けられている。

披露されたコンセプトカー

微細藻類由来の燃料に目を向けたのは、食料資源と競合しないことに加え、トウモロコシなど一般的な原料と比べて油の蓄積能力が高く、限られたスペースでも効率的に燃料を生産できるからだ。中でも原料に用いられる微細藻類「ナンノクロロプシス」は、脂質の生産効率が高く、軽油に近い性質を持つ油を生成できる。ガソリン生成への応用も可能で、低コストかつ大量生産が見込める次世代バイオ燃料だ。研究は20年頃から本格化し、現在は1000ℓの培養槽から約2週間で1ℓ以上の燃料を生成するという理論目標に到達。社会実装に向けて歩みを着実に進めている。

さらに、油を抽出した後に残る残さも活用できる。食品やサプリメント、家畜飼料に加え、本社を構える広島県の地場産業であるカキ養殖への活用などを視野に入れており、エネルギーと食料を結びつける循環型社会の構築につなげる狙いがある。

微細藻類由来のバイオ燃料の利用によってCO2排出量は約90%削減できるが、これに排気ガス中のCO2を吸着・貯蔵するCO2回収装置「マツダ・モバイル・カーボン・キャプチャー」を組み合わせると、大気中のCO2を約110%減らすことができる。


CO2回収技術で実証開始 三段階で技術を進展

CO2回収技術についてはすでに実証段階に入っている。スーパー耐久シリーズ第7戦では、HVO(次世代バイオディーゼル)で走行するレース車両にCO2回収装置を搭載。排気ガスから84gのCO2回収に成功し、車両は完走した。

CO2回収技術の実証試験の様子

今後は三つのステップでCO2回収技術を発展させる計画だ。スーパー耐久シリーズ第7戦での実証は、CO2を「吸着」するステップ1に当たる。次のステップ1・5では26年度を目標に、吸着したCO2を車載タンクに貯蔵する段階へと進む。さらに27年度以降を見据えるステップ2では、ステップ1・5での吸着と貯蔵のプロセスを高速で処理する。ステップ1・5までが短距離でのカーボンネガティブ実現を目指すのに対し、ステップ2では走行中に常時カーボンネガティブを成立させることを狙う。

カーボンネガティブな自動車社会の実現を見据えるマツダの試みは、モビリティ分野におけるCO2削減の議論に新たな視点を持ち込むものだ。今後の実証と技術の進展が注目される。

高度化法第3フェーズに突入へ 望ましい制度の在り方を提言

【多事争論】話題:高度化法の見直し

政策目標や実態との乖離などさまざまな矛盾をはらむ高度化法の見直しが進んでいる。

まもなく始まる第3フェーズを前に、望ましい制度の在り方に関する見解を紹介する。

〈 GXに先駆けた検討に違和感 環境価値の二分状況改善が必要 〉

視点A:阪本周一/東急パワーサプライシニアフェロー

高度化法第3フェーズに向けた検討が政府内で始まった。1回目の部会では、2040年度に非化石比率60%といった数値目標やその他テクニカルな論点が提示されている。検討に際して考慮すべきポイントを述べたい。

まず、今回、高度化法第3フェーズに向けた検討をGX(グリーントランスフォーメーション)に先がけて開始することに違和感がある。23~25年にかけて発信されたGX関係文書では「GX‐ETSと高度化法の政策効果を踏まえた関係整理を行う」旨が記されている。前者が火力電源、後者が小売り事業者と規制対象が異なるものの、脱炭素を目的とする点では同方向であることに留意したものである。経済産業省内のGX担当部署との調整を経ずに、高度化法の次段階の詳細設計着手という手順外しには疑問を覚える。検討部会でも両制度間の調整を求める有識者意見が相次いでいた。

要整理論点の例示を試みたい。GX移行債の償還原資は、化石燃料賦課金と火力電源が負担する特定事業者負担金であり、負担金により火力電源単価は押し上げられる一方、排出枠を獲得できる。排出枠の原単位はGXでは全電源平均とされており、火力単体のものよりは少ないから、火力電源は完全ゼロエミッションの非化石とはならないが、相当に排出量が圧縮される。かかる火力電源を調達する小売り事業者は、別に非化石価値を調達する必要はあるが、現行単価より安くて然るべきと考える。他方、低すぎる非化石価値は再生可能エネルギーの拡大には貢献しないので、脱炭素を願う政策当局としては困る。ETSの炭素取引価格と、非化石価値が収斂する方が排出量オフセット手段としては妥当であり、むしろ環境価値2分割を所与とする方向を改め、一元化に舵を切る発想はないものかとも考える。他にも要整理論点はあるだろう。課題の所在を丁寧に探索し論議してほしい。


需要家が求める「価値」意識を 政策的な価格引き上げの是非は

前述のように事務局からは、第7次エネルギー基本計画を踏まえた「40年度非化石電源比率60%以上」との数字が出ている。ETS対象事業中の発電系の取り組み(水素、CCS=CO2回収・貯留)が非化石比率上昇に寄与するかもしれないが、技術、価格が商業レベルには成長しないかもしれない。原子力再稼働、メガソーラーや風力増の蓋然性も高いとは言えず、事務局も口にはしないが、非化石電源の増加停滞の可能性は認識している様子である。60%目標は構わないが、高度化法の義務履行対象量は当該年度の実績非化石発電電力量とすればよいだろう。それだけで対象者の小売り事業者は安心するはずだ。

「非化石価値」が真に最終需要家が渇望するようなものかという点も振り返りたい。制度設計側の認識は「高度化法による非FIT(固定価格買い取り)非化石証書ニーズの高まりが、非FIT非化石電源の増加に貢献してきた」となる。関心の薄そうな家庭用需要家への非FIT証書価格の転嫁に成功している小売り事業者は確かにいるが、他の特典との抱き合わせであるケースが大半だ。需要家の非FIT証書(再エネ指定)直接購入実績は24年度で4・6億kW時程度でしかない。高度化法の対象外であるFIT証書の取引量も増えてはいるが、制度趣旨である再エネ賦課金の国民負担軽減に照らせば、総額は年300億円程度で再エネ賦課金総額とは2桁違う。非化石証書取引量の増加は、原子力の再稼働、FIT電源の運開増加、高度化法による調達義務付けが主要因であり、非化石の効能を実感する需要家は多くないと私は考える。洋上風力開発が部材費用高騰で難航しているが、これを払拭するほどの非化石価値評価があれば別の展開もあっただろう。需要家の財布のひもが固い中、人為・政策的に非化石価値水準の引き上げがどこまで支持されるか。需給に委ねるのが経済学の本筋だが、恐らく何らかの下支え措置をしたくなるはずだ。金の話に直面する時の判断が問われる。

従来の非化石価値証書は、対象年度分を翌年度6月までに調達の上、償却を要件にバンキング不可、取引機会は年4回のみとしている。このため需給バランスが崩れやすい、電力小売り価格設定時には仕入れ原価不明、転売禁止のため相場探知に難がある、など不都合が多い。今後、非化石価値調達所要量を拡大するのであれば、小売り価格に過大な影響がないように上記不都合の解消を希望する。

経過措置料金や別途検討される供給力確保義務との兼ね合いも気になる。高度化法単独ではなく制度横断でプロ・コン(メリット・デメリット)を俯瞰する視点も必要である。

さかもと・しゅういち 東京大学法学部卒。東京電力、複数新電力で燃料業務、火力・再エネ発電所建設、制度対応、分散電源アグリゲーション、電力調達・卸などの実務を広く経験。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2026年1月号)

暫定税率が継続された理由/地熱発電普及の課題

Q ガソリン税と軽油引取税の暫定税率は、「暫定」であるのに長く続いた理由は何ですか。

A 暫定税率の50年間は、三つのショックへの対応のための財政支出増大、物価高騰と家計負担の軽減の代替財源としての役割を、時限的な対応(暫定)に押し込め、実質的に恒久的安定財源として維持してきたものです。この中で安定財源確保として物価高騰などに耐性のあるのは、消費税の単純併課のみでした。

この50年間は、①特定財源期間(1974年)、②単純併課による消費税の導入(89年)、③一般財源化(2009年)、④当面の間税率(旧暫定税制、10年)、⑤燃料油価格激変緩和対策(22年)―のフェーズに区分できます。特定財源期間の直前には石油危機が起こり、実質経済成長率がマイナスに落ち込む中、激しいインフレが起こりました。そして一般財源化の背景には道路財源としての必要性が希薄化する中、今度はリーマンショック(08年)が発生しました。税収急減の中、大型景気対策により財政赤字が拡大しました。リーマンショック後にはデフレと低成長経済によって、財政の悪化と債務の増大が構造化してしまいました。その中で、三つ目のショックとして東日本大震災が起こり、財源としての暫定税率の議論は横に置かれました。

22年はロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰と円安が燃料価格を高騰させたことから、激変緩和としてほぼ暫定税率に相当する額の補助金が投入され暫定税率は事実上融解しました。そして25年末に、代替財源議論を置き去りにしたまま旧暫定税率の廃止が決まりました。結果的にこの50年間は、短期的な政治的合意形成に終始し、財源・エネルギー政策を含めて長期的視点が欠如した結果もたらされてきたものです。

回答者:小嶌正稔/桃山学院大学 経営学部教授


Q ポテンシャルが高い日本で、地熱発電が期待ほど拡大していないのはなぜですか。

A 日本列島は火山や、温泉、地震が特に多いです。また、降水量も豊富で、日本列島下には熱・水・水の通り道が多く、地熱発電所に適した条件が揃っています。日本の地下にある熱の地熱発電換算量は約2300万kW(世界3位)で、そのうち約60万kWが既に開発されていますが、国内発電量は世界10位となります。世界1位は米国で約350万kW、2位はインドネシアで約280万kWです。日本は資源量はあるものの、開発は十分に進んでいないのが現状です。

米国やインドネシアでは国が強力な地熱発電推進策を掲げ、それを確実に実行して、世界1位、2位となりました。両国では地熱発電を推進するための法律があります。一方、わが国は地熱に関する法律がない中で、他国にはない日本固有の課題である「地熱発電による温泉への悪影響」や「国立公園問題」を払拭する努力の結果、温泉変化の原因が科学的に解明できるようになり、さらに事業トラブルがあっても継続するための「地熱保険制度」ができました。

日本で地熱発電を大きく増やすためには、さらに、国民への周知が重要です。エネルギー問題や脱炭素問題解決のために日本には地熱発電があるという事実を周知する必要があります。日本各地で地熱発電所が増えれば、それを見る人の数が増えます。そして、地熱発電は、国産で、24時間安定した供給が可能です。自然環境とも適合性がある優れた特性を持つことを理解してもらう。理解していただいた方には、地熱発電の応援団員になっていただく。これがうまく循環するようになれば国内の地熱発電量の大きな増加が期待されるでしょう。

回答者:江原幸雄 /NPO地熱情報研究所代表九州大学名誉教授「地球熱システム学」

【泉健太 立憲民主党 衆議院議員】より安全な原子力発電へ

いずみ・けんた 1974年北海道生まれ。98年立命館大学法学部卒業。福山哲郎衆議院議員の秘書を経て2003年の衆議院議員選挙で初当選。民主党政権では内閣府大臣政務官を務め、行政刷新会議などを担当した。22~24年立憲民主党代表。現在9期目。

20年を超える議員生活の中で政権交代や野党第一党の代表を経験した。

エネルギー政策はリアリズムを重視し、安価で安定した電力の供給体制を目指す。

 1974年、札幌市の北海道大学病院で生まれ、石狩町(現在の石狩市)で育った。4人兄弟の末っ子。毎日、大自然の中で日が暮れるまで泥だらけになって遊んでいたが、仲間の世話が好きで、中学校まで学級委員長や生徒会長を務めた。

政治家を目指すと決めたのは、小学生の頃だった。「当時はテレビで第二次世界大戦の映像が頻繁に流れていて、戦争を起こしてはいけないと強く思った。リーダーによって国は大きく変わってしまう。戦争を起こさないために政治家にならなければと決意した」

もう一つ、根幹にあるのは「人のために働く喜び」だ。冬になると、隣のおばあさんの家の雪かきをして自家製ヨーグルトをもらうのが幸せだった。新聞配達で稼いだお金も自分で使うのではなく、両親に渡すのが嬉しかった。「人の役に立つ仕事がしたいと考えた時に、それは政治家だろうなと。国会議員や自治体の首長、地方議員の区別はついていなかったが、政治家は支援者から『頑張って』と声をかけられていたし、人のために働く職業だと認識していたみたい」

高校卒業後は立命館大学に進学。弁論部に所属し、演説のイロハを学んだ。「聴衆に響く演説をするには、話す内容の下調べや徹底した調査が大切。弁論大会でのやじは国会とは比べ物にならない(笑)。途中で泣き出したり、喋れなくなったりする仲間もいた」と述懐する。

ボランティア活動にも精を出した。2年生の時に発生した阪神淡路大震災はもちろん、4年生の時には日本海でロシアのナホトカ号が船体破断を起こし、大量の重油が流出する事故が起きた。そこで、仲間とボランティア団体を立ち上げ、福井県で重油回収活動を行った。

就職活動では、周りの人と同じ道を歩みたくなかった。学生時代に、出会った社会人の中で「一番すごいと感じた人の下で働こう」と決めていた。最終的に決めたのが、政治家を目指して活動していた福山哲郎氏(現参議院副議長)だった。

「福山さんは貧しい家庭に育ちながら、苦学して同志社大学を卒業し、大和証券のトップセールスマンにまでなった努力家。企業の重役を顧客にしてきた経験と新たな政治への熱意にも引かれた」。3年間、福山氏の下で学んだが、リクルートの中途採用に合格し、上京することが決まった。

ところが、25歳の時に前原誠司衆議院議員から「次期衆院選に立候補してみないか」と誘いを受ける。断り続けていたが、最終的に出馬を決断した。「信頼する人々が『出ろ』と言うのは、自分には判断できない何かを見出し、期待してくれているからだと思うようになった」。初挑戦となった2000年の衆院選では惜敗したが、03年の衆院選から9期連続当選を重ねている。20年を超える議員生活の中で、09年の政権交代を経験し、22~24年には立憲民主党の代表を務めた。


最も危険なのは古い原発 安定供給が政治の使命

エネルギー政策で重視するのはリアリズムだ。「政治の使命は異なる考えをバランスさせ、最適解を見出すこと。原子力で言えば、過酷な事故の経験と安価で安定した電力供給のどちらか一方に偏っていては国民を幸せにできない」

立憲民主党は現在も「原発ゼロ社会」を綱領に持つが、泉氏が代表に就任して以降は、将来的な目標と電力供給の現実を踏まえ、要件を満たした原発の再稼働を容認する姿勢を示してきた。「原子力に依存しない社会をつくろうという党ならば、取り組むべきは反対運動ではない。代わり得る電源を生み出すことだ。それが進むまでは既存の発電所に頼らざるを得ない」

建て替え(リプレース)についてはどうか。「私の考えは『古い原発が最も危険』だということ。もし代替電力が整わない状況が続くならば、いつまでも古い原発ではなく、次世代原子炉への建て替えも考えねばならない。党内でも、こうした現実を踏まえた議論をしていく」

再生可能エネルギーの拡大には力を入れる。第7次エネルギー基本計画の実現に向けて、ペロブスカイト太陽電池や農地でのソーラーシェアリングの拡大を進めるべきとの考えだ。超党派地熱発電普及推進議員連盟では代表代行を務め、「電源構成に占める割合はわずかだが、地産地消を目指してポテンシャルを生かしたい」と尽力する。

座右の銘は「未来を信じ、未来に生きる」。立命館大学の末川博名誉総長の言葉で、戦争で奪われた若者の未来への怒りと悲しみを表している。小さな雪かきから始まった「人のために働く喜び」を力に変え、政権奪取を諦めない。

「強い経済」実現への必須条件 国産エネルギーの拡大に全力

【巻頭インタビュー】西村康稔/自民党衆議院議員党総合エネルギー戦略調査会長

原発再稼働やメガソーラー規制など曲がり角を迎えた日本のエネルギー戦略をどう描くのか。

自民党の政策をつかさどる総合エネルギー戦略調査会長に就任した西村康稔議員に聞いた。

にしむら・やすとし 1962年兵庫県生まれ。灘高校、東京大学法学部、米国メリーランド大学院卒業。85年通商産業省(現経済産業省)入省。2003年衆議院議員総選挙で初当選(兵庫9区)。経済産業相、経済再生担当相などを歴任。当選8回。

─自民党の総合エネルギー戦略調査会長に就任しました。

西村 高市早苗首相が掲げる「強い経済」の実現には、エネルギーが最も重要な要素になります。現在、あらゆる分野で電力需要が急激に伸びており、「電力を制するものは世界を制す」という時代です。エネルギーは1985年に経済産業省に入省した時からのライフワークなので、政策を前に進めていきます。


もう一段上の再エネ規制 原子力の予算惜しまず

─特に力を入れたい分野は。

西村 国産エネルギーの導入拡大です。ペロブスカイト太陽電池はGI(グリーンイノベーション)基金で約800億円の予算措置を行い、今年度は実装支援を行っています。積水化学工業が量産に入る見込みで、価格も下がってくるでしょう。また、日本は地熱で世界有数のポテンシャルを持っていますし、原子力分野では日本の技術に対する世界の期待は大きいです。高速炉や高温ガス炉の分野で貴重な経験と最先端技術を持っていて、2022年に実業家でテラパワー会長のビル・ゲイツ氏が来日した際に「三菱重工業と高速炉で協力したいからフォローしてくれ」と言われたことを思い出します。こうした取り組みを前に進めるためにも、予算面での措置は惜しまずに進めていきます。その先には核融合があります。11月に経産省は「フュージョンエネルギー室」を設置し、補正予算では5年で1000億円を視野に予算を確保しました。30年代に世界初の発電実証の実現を目指します。

─メガソーラーを巡り、住民との間で軋轢が生じています。地域との共生に向けて、どのような取り組みが必要ですか。

西村 私が経産相だった時に、再生可能エネルギー特別措置法の改正を含むGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法を制定し、その中で法令順守の徹底や住民説明会の義務付け、違反事業者への交付金の一時停止・返還など規律を強化しました。しかし、もう一つレベルを上げた取り組みが必要です。難しいのは既設や工事中の案件の扱いで、知恵を出し合って法的に適切な対応策を考えなければなりません。

─東日本大震災から間もなく15年を迎えるのを前に、柏崎刈羽原発や泊原発の再稼働を巡る動きが出てきました。

西村 柏崎刈羽6号機は再稼働に向けて緊張感を持って準備を進めてほしいです。泊3号機は北海道電力が27年早期の再稼働を目指していますが、同年後半にはラピダスが世界最先端の半導体の量産を開始する予定です。そこに合わせて再稼働できることは、地域経済の活性化という点で非常に意義があります。

─ただ、これまで再稼働したサイトは14基にとどまります。原子力規制委員会の審査が長期化し過ぎでは……。

西村 規制委と事業者のコミュニケーションは以前より円滑に進んでいるようです。ただ、特定重大事故等対処施設の設置期限について、「設置及び工事計画の認可後、5年以内」という規制は、柔軟性を持って対応してもらいたいです。


バックエンドの進展が鍵 「化石賞」受賞に反発

─第7次エネルギー基本計画では事業者内での建て替え(リプレース)を容認しましたが、新増設も必要ではないですか。

西村 関西電力が美浜発電所の後継機設置に向けた自主調査を再開しましたね。こうした動きに加えて、日本原燃の六ヶ所再処理工場のしゅん工、最終処分場の建設地選定プロセスなどが進展していけば、国民の原子力政策に対しての意識が変わり、新増設の機運が高まっていくのではと期待しています。

高市首相を支える(西村氏のXより)

─気候変動対策を巡る国際連携にゆがみが生じている中、日本はどのように立ち回るべきでしょうか。

西村 アメリカのテック企業などは脱炭素電源の確保を進めていて、脱炭素という大きな流れは変わらないと思います。日本はアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)などを通じて、省エネや再エネ導入の経験を広げていくべきです。かつて日本の石炭火力に対する姿勢が批判された時、「批判する人たちの鼻を明かしてやる」と言ったんです(笑)。水素・アンモニア、CCS(CO2回収・貯留)の進展、原子力の再稼働、ペロブスカイト太陽電池や地熱の推進といった動きを世界に示すことで、世界が日本を見る目は変わってきた気がします。

─新型コロナウイルス禍後、エネルギー料金に対する補助金に10兆円以上を投入しています。もっと効果的な予算の使い方があるのでは。

西村 難しいところです。確かに、それだけのお金を研究開発費などに投入していれば、という思いもあります。ただ、ヨーロッパの先進国ではエネルギー料金の高騰で暴動が起きたり、政治が不安定化したりしています。気候変動対策を尻目に「俺たちが心配しているのは世紀末の話じゃなくて、月末の話だ」と言う人もいますね。そうした国民の思いに応えるために、やむを得なかったという気持ちもあります。

【需要家】CN時代こそ問われる 産業界の主体性

【業界スクランブル/需要家】

産業界の省エネルギーをけん引してきた日本経済団体連合会環境自主行動計画が策定され、2026年で30年になる。同計画は経済活動と温室効果ガス排出削減を両立させるため、各業界がエネルギー消費原単位などの自主目標を設定し、政府審議会や第三者評価などによる進ちょくの点検・評価により、最大限の取り組みを主体的に実施していく制度となっているが、政府のカーボンニュートラル(CN)宣言を受けて21年に「CN行動計画」に改められてからは、政府の目標に追従する形でCO2排出削減目標を指標とする方向へと転換が図られている。

終わりの見えない効率改善を続けていくことに比べれば、50年のCNを目指すことは分かりやすいゴールに思える。 一方で、本来の効率改善としての省エネから総量削減に重点が置かれることは誤ったメッセージを与えてしまう懸念がある。

例えば、再生可能エネルギー調達などによる解決を推し進めることでコストがかさみ、市場競争力や利益に影響を及ぼしたり、エネルギー多消費型の産業の国内の事業縮小や海外移転を後押ししたりしかねない。補助金を注ぎ開発した革新的技術も経営に余裕がなければ普及していくことは難しく、グリーン産業による経済発展はますます遠のいてしまう。省エネの意味と意義をいま一度振り返り、50年より先の産業の継続と脱炭素の両立の可能性を再考する必要があるだろう。

26年には、 10万t以上のCO2を直接排出する事業者は排出量取引制度への参画が義務化される。このまま総量規制の流れにのまれないために、各業界の主体性が問われる年となりそうだ。(K)

半世紀にわたる核軍縮の終焉? 米露が核軍拡競争の可能性も

【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

冷戦以来続いた核兵器削減の枠組みが崩壊の危機を迎えている。

米露の交渉が進まない中、トランプ大統領はどんなディールを仕掛けるのか。

米露(ソ)両国は東西冷戦中の1972年に戦略兵器削減条約(STALR1)を結んで以後、半世紀にわたり戦略核兵器の保有数に上限をかける条約を維持してきた。現在はオバマ米大統領とメドベージェフ露大統領が2011年2月5日に結んだ新戦略兵器削減条約(新START)が発効中だ。だが、条約は26年2月4日に失効期限を迎える。新たな条約を結ぶ機運はなく、無条約状態に突入する可能性が高まっている。

核兵器を制限する条約は、実は5年前の21年にも存亡の瀬戸際にさらされていた。新STARTには双方が合意すれば1回に限って5年間延長できる規程があるが、当時のトランプ米政権は退任するまで明確な態度を示さなかった。だが、前年11月の大統領選でトランプ氏を破って大統領に当選したバイデン氏が、就任直後の21年1月26日にロシアのプーチン大統領との電話協議に臨み、ぎりぎりのタイミングで新STARTの5年間延長を決めた。

しかし、条約の延長は1回限りであるため、今回はこの手は使えない。今後のシナリオとしては①核軍拡競争再開、②とりあえず1年間などの期間を決め、紳士協定の形で現協定を維持、③新条約締結を目指して交渉開始─などの選択肢がある。

米国が配備中のICBM「ミニットマンⅢ」
提供:米国防総省


動かぬ新条約交渉 ウクライナ戦争で停滞

条約の期限切れを見据え、バイデン政権は新条約締結に向けた協議を始めようとロシアに呼びかけた。22年2月からのロシアによるウクライナ侵攻で、米露関係は悪化の一途をたどっていたが、核問題だけは切り離して扱う姿勢を両国が示したかに見えた。だが、侵攻から約9カ月後の22年11月、それが暗転する。カイロでの米露初協議直前にロシアが延期を通告、流れてしまう。23年に入り事態はさらに悪化した。プーチン氏は2月、米国がウクライナ支援を続けていることを理由に、新STARTに定めた核兵器の数量制限は守るが、情報交換などは停止すると表明した。さらに翌24年1月には、米国がロシアを戦略的に打ち負かそうとしているとして、核交渉には「一切応じない」と正式に拒否する姿勢を打ち出した。

ところが25年になってロシアに変化が現れる。プーチン氏は9月22日、米国が「同様の精神で行動する」なら、条約失効後1年間は「主要な数量制限を遵守し続ける用意がある」と発表した。三つの選択肢のうち、②の紳士協定に当たる。トランプ氏は10月5日に「良い考えのように思える」とコメントしたが、その後、動きは一切ない。

新STARTは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器の配備数上限を1550発とするほか、ミサイルや戦略爆撃機など核弾頭を載せる運搬装置の数にも上限を定めた。年18回の相互査察やミサイル実験などの事前通知など、さまざまな情報交換の義務も課した。双方が疑心暗鬼に陥らぬよう、透明性向上を図る措置を数多く講じた。条約は、戦略核兵器の上限を1550発とする一方で、ICBMや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などへの配備割合や1発のミサイルに搭載する核弾頭の数などは双方の裁量に委ねている。

【再エネ】一部の不適切案件にスポット 太陽光報道に思うこと

【業界スクランブル/再エネ】

メガソーラーを取り巻く環境はこの1年で大きく変化した。再エネの主力電源として太陽光発電への期待が高まる一方、一部の不適切案件が過度に取り上げられ、メガソーラー全体が望ましくないかのような風潮が広がりつつある点には深い懸念を抱かざるを得ない。本来、再エネは地域社会の持続性やエネルギー自給率向上に寄与する重要な基盤であり、誠実に取り組む多くの事業者の努力は正当に評価されるべきである。

近年、地域共生への注目が急速に高まっているが、再エネ電源は地域と共に歩むことでこそ持続可能性が確保される。自治体や住民と丁寧な対話を続ける姿勢は、多くの事業者にとって既に当たり前の認識だ。また、太陽光発電は20年以上稼働する長寿命の設備であり、生活圏に近い場所に設置されるケースも少なくないため、計画段階から撤去・廃棄まで長期にわたり丁寧に対応する必要がある。

さらに、太陽光発電所が地域へもたらすメリットの可視化は、地域共生の推進に寄与する。非常用電源としての活用や地元企業・人材の活用、発電所所在地への事業税納付など、地域に経済的還元が届く仕組みが整えば、事業への理解は一層深まりやすくなる。

今後、メガソーラーは適地の制約から大幅な拡大は見込みにくい。一方で屋根置き太陽光、ペロブスカイト、営農型など、多様な太陽光発電設備が再エネ導入を支える重要な役割を担う。こうした新たな取り組みの実装に向け、官民が知恵を結集し、太陽光を含む再エネ拡大を持続的に推進し、脱炭素の実現とエネルギー安全保障・自給率向上を確実に前進させていく必要がある。(M)

【コラム/1月23日】選挙前に大盤振る舞い予算を考える~強い経済への難問解決となるか

飯倉 穣/エコノミスト

1、2026年は、回復継続期待

26年度予算が閣議決定された。規模は、過去最大122兆円である。価格転嫁・物価上昇で税収見積もりも過去最大を見込み、公債金は、昨年に続き30兆円を超えず、公債依存度も前年を下回る。そして28年ぶりにプライマリーバランス(PB)黒字という総理記者会見(25年12月26日)があった。予算成立のため内容に野党配慮もにじむ。

「予算案122兆円過去最大新規国債29兆円国の借金最大に閣議決定」(朝日12月27日)。「来年度予算案最大の122兆円決定 成長探る「積極財政」社保、改革後退で39兆円」(日経同)と報道もあった。

この予算を踏まえた26年度政府経済見通しは、輸出増・個人消費・設備投資期待で、GDP成長率実質1.3%、名目3.4%である(25年度見込実質1.1%、名目4.2%)。この姿が経済成長を促進し財政の持続可能性も確保する戦略的な財政政策(責任ある積極財政)なのであろうか。

政府が目指す強い経済の中身は、なお曖昧だが、景気や成長と財政の関係で、幾つか理解に苦しむ点がある。公債金の多少の抑制やPB黒字化で、財政再建可能で財政破綻状態を脱却できるのか。現在の景気変動を考えた場合、適正な予算規模なのか。国民やメデイアが期待する物価上昇の抑制となるのか。この予算内容は、経済成長に結実するのか。これらの疑問は、今後予算審議で明確になるだろうか。

衆院選挙を前に2026年度予算を財政の姿、経済変動、物価、成長との絡みで考える。


2、財政の姿~破綻懸念は継続

26年度予算の数値の事実を再確認すれば、次の通りである。歳出総額122.3兆円(前年比6.2%増)、うち国債費(10.8%増)を除いた政策経費91.0兆円(4.7%増)である。歳入では租税等収入83.7兆円(7.6%増)、その他収入8.9兆円(3.0%増)を見込み、公債金は29.5兆円(3.3%増、公債依存度24.2%)を予定する。PB黒字化でも国債残高は増加する。物価上昇見込みで、26年度末の名目GDP比公債残高は165%(国・地方債務残高194%)である。また税収弾性値(税収伸び率/名目成長率)は、従来1.2程度が目安だったが、それを超える想定である。

経済のフローを見れば、26年度名目GDP比公債依存度は4.3%(同赤字国債比率3.3%)で、借金で経済水準を押し上げ、維持する姿である。財源の公債依存度は、31年連続20%超(1996年度以降)、24年連続赤字国債発行20兆円超である。経常経費を税収で賄えない状況が続く。

90年代バブル崩壊、金融危機、2000年代ITバブル崩壊、リーマンショック、10年代アベノミクス狂気、20年代コロナ感染危機等の様々なショック対応もあった。その間平時に戻っても財政赤字に頓着せず、政治は「経済あっての財政」等と繰り返している。事実上、財政均衡努力を放棄している。そして近年の物価上昇見合い賃上げ推奨がある。実質GDPを忘れ、名目GDPにこだわる人々の思惑が浮かぶ。「財政政策があきらかに持続不能になりインフレにせよという政治的圧力がかかったら」(ケネス・ロゴフ「ドル覇権が終わるとき」25年11月)という文脈を思い出す。今後、経済変動に耐えられるのか。


3、予算規模~景気判断とは

誰でも財政の役割は、資源配分、所得再分配、経済安定化の3機能を上げるだろう。そのうち経済安定化の視点から、今回の予算規模を考える必要がある。一般的に景気の状態を考慮し予算編成することは基本である。つまり景気変動に対し抑制型か、中立型か、景気浮揚型となる。今回の予算は、経済の現状認識との乖離はないのか。

内閣府の景気判断を月例経済報告で追ってみよう。一昨々年(23年)は、弱さありから「緩やかに回復」の表現だった。一昨年は(24年)も足踏みながら「緩やかに回復」だった。昨年は、足踏みや不透明感ありながら「緩やかに回復」の表現が継続している。そして直近は、景気は「緩かに回復」(月例経済報告25年12月)とある。

現在先行きに不安材料はあろうが、現段階で大きな対策を要する事案は見かけない。何故、大型予算や大型補正予算が必要なのか。現在の物価上昇を考えれば、むしろ政策経費の増額(4.7%増)は不要で、予算の伸び1%程度の抑制的か中立的な予算編成が適当と思われる。政治都合の大盤振る舞いに陥っていないか心配である。

4、物価との絡み~緊縮財政が適当

来年度予算は、物価対策が強調された。診療報酬改定、公務員人件費増、官公需の見直し、給付引上げに加え、間接税の廃止等である。経済物価動向の反映で人件費、サービス料金、調達価格の物価調整を盛り込んだ。困窮者対策は必要な場合もあろうが、生産性上昇のない賃上げや物価監視のない諸措置の引上げは妥当なのか。

繰り返しになるが、物価状況を見てみよう。現在の物価状態は、財政インフレに進んでいないが、輸入インフレ型からコストプッシュ型に変化している。数字を見よう。

輸入物価(前年比)の推移をみれば、22年39.1%(契約通貨21.4%)、23年△4.7%(△8.8%)、24年2.7%(△3.1%)である。昨年(25年)は、三四半期円・契約ベースともマイナス基調の後、10月△1.7%(△2.6%)、11月△1.8%(△2.7%)、12月0.0%(△1.5%)と推移している。円安の影響あるも些少である。これを受けた国内企業物価(前年比)は、22年9.8%、23年4.4%、24年2.4%と低下した後、昨年(25年)前半高め(4~3%)の後、10月と11月2.7%、12月2.4%と下げ止まっている。企業物価に占める輸入物価のウエイトを考慮すれば、明らかに輸入物価や円安の影響でないことが窺える。

要因として生産性を上回る賃上げと便乗値上げを想起させる。前者の賃上げは、22年2.20%、23年3.60%、24年5.33%、25年5.52%だった。この数字は生産性の指標である実質成長率を大幅に上回っている。後者は、法人企業統計の企業収益好調がそれを裏付ける。

消費者物価(総合・前年比)は、22年2.5%、23年3.2%、24年2.7%、その後25年1月以降4~3%で推移し、8・9月2%台後半となり、10月3.0%、11月2.9%で推移している。そして生鮮食品エネルギーを除く総合は、22年1.1%、23年4.0%、24年2.4%、25年5月以降3%台を推移している。企業物価上昇に加え、サービス価格等値上げの影響が推測される。

生産性の上昇がない中で、物価上昇見合い賃上げ・価格転嫁すれば、明らかにコスト増・商品サービス価格の上昇を余儀なくする。これが物価を上昇させて、インフレ継続 を招くと同様、成長も停滞しスタグフレーションとなる。果たしてこのような物価対応予算編成は妥当であろうか。公務員の賃上げも、人勧(25年官民較差3.62%)を反映し26年度給与予算国3.3%増、国・地方計4.5%増(経費移し額を除く)である。いかがであろうか。

GX戦略の実行を加速化 新たな成長モデルを示す

【リレーコラム】重竹尚基/GX推進機構COO

2024年7月に32年間勤めた外資系コンサルを卒業し、この立場になった。さまざまな人から「だいぶ勝手が違って大変でしょう」と心配される。確かに違う。トレードオフを突き詰め、経済合理性に基づいて判断する。何かを選ぶ代わりに何かを捨てること、いわゆる「選択と集中」は企業戦略における本質的な意思決定である。今の頭の使い方は極端に言うと真逆。「公平・公正」を突き詰めると、どうしても優先順位付けやメリハリを付けるのが難しくなる。その結果「バラマキ」といった批判を受けてしまうことがあるのも無理はないと思う。

GX戦略においても「分野別投資戦略」の16分野が多すぎる、といった批判の声がある。もしこれが企業戦略であれば確かに多すぎるが、国家戦略となるとどのような軸で絞り込んだらいいのか悩ましい。「あるべき論」を外から言うのは簡単だが、中に入って実際にやる立場になるとこれほど難しいことはない。いま世の中でもっとも働いている霞が関の皆さんが、日本のためを思い知恵を絞っている姿に頭が下がる。ただ、資源制約がある中で本当に勝つために必要な資源が各分野に配分できるのだろうかという心配は残る。


政策的選択と集中による経済性担保

メディアを見ていると脱炭素に対する揺り戻しが世界的に来ているように見える。そこにインフレなどによるコスト増が加わり、日本でもいくつかのプロジェクトが見直しになった。しかしGX戦略の本質は実体経済への成長投資である。一足飛びに脱炭素を目指すのではなく、そのゴールに向けた段階的な投資で地域の経済を発展させ、新たな雇用と賃金上昇をもたらすというマクロ経済の成長サイクルを通し、エネルギー安全保障と日本の脱炭素を実現していく。実は世界各国も脱炭素を手段として、自国の競争力強化に走っている。日本も取り組みを先延ばしすることはできない。いま手を付けないと成長機会を逃し、将来の国際競争力で大きく出遅れエネルギー安全保障もますます厳しくなってしまう。

そうは言っても足元の経済性が合わないGX案件をどのように進めるのか。答えの一つはブレンデッドファイナンスだ。官と民が力を合わせ、知恵を絞って経済合理性を担保する。そのためにいま「政策的選択と集中」が求められる。25年8月のGX実行会議で打ち出されたGX戦略地域制度は、その大きな一歩であると期待している。GX推進機構にもGX投資の相談が数多く来ている。われわれもできることは何でもやるというスタンスで、GXの取り組みの加速化を支援していく。

しげたけ・なおき 1982年早稲田大学政治経済学部卒、92年シカゴ大学経営学修士(MBA)。三井物産、ボストンコンサルティンググループを経て2024年7月より現職。22年からGX実行会議のメンバーを務める。

※次回は、国際環境経済研究所の竹内純子さんです。