B セットで示した収支計画もあまり良い内容ではなかった。今は投資を減らす絵しか描けず、だからアライアンスというロジックは分かる。しかし投資すべき分野はある。例えばデータセンターだ。東電エリア内はデータセンター立地がどんどん進むと言われてきたが、スムーズに系統連系できるような投資が実施されなければこれまで見込んだほど需要が拡大せず、ひいては日本全体の状況にも影響しかねない。それどころか今の計画では送配電投資を絞ろうとしており、このままでは将来的な送配電の安定運用が懸念される。
C 深く読むほど、前回とほとんど変わらず、むしろ後退した印象を受ける。これが今、経済産業省が打ち出せる内容の限界なのだろう。福島事業の後退は世論的には許されないかもしれないが、従来方針の抜本見直しに切り込まなければ、経済事業は正常化しない。どれだけ稼いでも全て福島事業に吸い上げられる今のスキームのままでは、まともなアライアンスパートナーは出てこない。
C 自分が担当ならとてもゴーサインは出せない。東電上場廃止の議論もあるが、優先株にでもしない限りインカムゲイン(資産の運用益)が期待できないので、再上場のシナリオを描けなければファンドは出資できない。福島事業に必要な資金を確保するのが目的なら、出資額は10兆円程度必要で、売却時の時価総額はこれを上回らなくてはいけないが、そのためにはEBITDA(企業の純粋な収益力を評価するための指標)が年間2兆程度必要になる。そもそも電気事業は薄利多売な上、東電の経営資源はあまり残っていない。シナリオを実現しようとするなら、足りない分を何らかのスキームを使って国が提供せざるを得なくなる。
B これまでも水面下で部分ごとのアライアンスが検討され、そのシナジー効果がよく見えなかった。さらに今回は丸ごとのアライアンスという形に変わり、ますますそんな相手がいるのか疑問だ。Cさんが言うように、電気事業はファンドが入ったから利益が上がるようなものではなく、投資を上回るリターンがあるとは思えない。また、ファンドはいつか出ていくことが前提で、それこそ切り売りや、JERAが上場したとたん去る、といった不安感は拭えない。
C 選択肢としてはアクティビストくらいだろう。しかもお金を出す条件として、裏では少なくとも福島事業は切り離し、経済事業も好きに切り売りしてよい、といった条件を付けて交渉している可能性がある。
A 機構(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の東電HD(ホールディングス)株の持ち分は54・74%。これを売るということ?
C そうだろう。そして中間持ち株会社を作り、そこで経済事業をコントロールする。親会社の執行役はますます力を失うことになる。それでも時価総額10兆円は厳しい。
B ファンドより、エネルギーが分かる通信などの需要家にこそ入ってほしい。データセンター誘致に向けた投資なら、金融的にも将来の絵が描ける。しかし彼らも上場しており、株主の反応を考えればやはり難しいのだろう。
―その他、財務状況の改善や廃炉の貫徹などに関し、特に問題視している点は?
A デブリの取り出しは難しく、ましてや県外搬出は現実的な選択肢でなく、いつかは国政選挙でみそぎを済ませ、見直さなければならない。衆院選で歴史的勝利を収めた今の高市政権ならできなくはないが、憲法改正などが優先事項だ。内閣官房参与の今井尚哉氏や、岸田政権で首相秘書官として原子力政策を大きく前進させ、まだ東電に影響力のある嶋田隆氏がどこまで寄り添うかがポイントになる。財務省の説得には彼らの力が必要だ。
B できもしない県外搬出の約束をすべきではなかった。当時の状況は理解できるが、結局さまざまな先送りの原因となっている。
A その意味で、中部電力の浜岡原子力発電所の不祥事はボディーブローのように効いてきそうだ。国の廃炉に対する目線がどうしてもシビアになってしまう。中部電は以前に何度もあった内部告発をスルーし、さらに昨年11月に原子力本部長らが辞任したタイミングでなぜ全て公にしなかったのか。
C 東電の経営的には柏崎刈羽よりも福島第二を動かしたいところだが、こういったフリーハンドで従来方針を見直すようなことも、中部の件でより難しくなった。出血を止めるためには、廃炉以上に賠償の問題にメスを入れる必要がある。福島は復興のためにお金を使うフェーズから既に脱している。これは政治が決断すべきことだ。
A 福島のために必要とみられる資金24兆円のうち大部分を占めるのは賠償と廃炉で、根雪のように残るし、今後も増える。やはりどこかのタイミングで国に引き取ってもらうしかない。
B 廃炉にかかる数十兆円の費用をバランスシートに引当金として計上していない。将来的には東電がいずれ債務超過となることは明らかで、どこかで分離しなければ会社が成り立たない。ただ、チッソのケースでは1968年に水俣病が公害認定され、会社が分割されたのは2010年。早期に分割すれば地元を見捨てたと受け止められかねず、時間をかける必要があった。福島事故は間接被害額も含めて相当な規模となったことを考えれば、まだ早い。東電分離論を強調する一部報道はそうしたことを考えているのか。経産省内でも、福島に関わった経験がある人ほど「分離などできない」という。
遠のくJERA上場 システム改革の影響深く
―JERAの上場も当面なさそうか。
C 一時は「JERAの上場公開で資金を稼ぐ」というシナリオがあったが、どんどん遠のいている。同社では燃料・発電以外の事業が増え、それらでコンスタントに稼げているわけではなく、経営陣の目論見通りではない。本来は、両者の燃料・火力部門の統合で収益が大きく改善した時点で上場公開すべきだった。さらに今、JERAは東電からも中部からも離れたがっている。
A JERA幹部は東電の経営会議に出ないと聞くし、経産省の言うことを聞く会社ではなくなってきた。その意味で、浜岡の件は原子力としては大変な問題だが、JERAと東電の関係をリシャッフルするという意味では別の見立てもある。中部の次の世代は今の経営陣ほど「JERAは自分達の会社だ」という思いが強くはない。
B 個人的には、中部の新社長に東電の小早川智明社長を据えてはどうかと思っている。電力のことをよく分かっていて、かつ中の色に染まっていない人でなければ抜本的な改革を断行できない。その点、東電社長に就任して以来、さまざまなコンプライアンス問題に直面し、かじ取りしてきた小早川氏は適任ではないか。そうなればJERAを巡る問題も解決しそうなのだが……。
A さすがに小早川氏が中部の社長というのはないよ。他方、財務状況の改善に向けては、今東電に唯一残るアセットは首都圏の顧客。そこをいよいよ関西電力が安値攻勢で奪いにきたが、福島事業があると東電は戦えない。
B 東電管内のスイッチング率は他エリアよりも高く、相当多くの顧客が取られている。柏崎刈羽が動いたとしても、地元対応の1000億円の基金で収益が消えてしまうし、そもそも既に規制料金の原価に織り込んでいる。
A ただ、市況を見る限り内外無差別は形骸化しており、福島事業が切り離されれば、東電がJERAを一つのてこにして財務状況を改善していくことは可能になる。
C 制度の問題にも切り込む必要がある。特に送配電の事業報酬率が低すぎる点は大問題。レベニューキャップに物価調整条項を入れ、事業報酬率の見直しを再来年度には行うとも聞くが、抜本的見直しが不可欠だ。そういう主張をかつての東電ならできたのだが……。
B レベニューキャップはFCF(フリーキャッシュフロー)のマイナスが当然で、永久にお金がない状態をよしとする制度。これではまともな事業になり得ず、投資をやめる選択肢しかない。
A 事業報酬率はかつて3%近くあったが、今は1%台というありさま。また、電取委(電力・ガス取引監視等委員会)が会計監査的なことしかやっていないことが問題だし、託送料金について消費者庁まで口を出してくるのはおかしい。
B 振り返れば、システム改革は電力会社の体力を徹底的にそぎ落とした。「とにかくもうからせない」というドライブがかかり、東電の今の惨状をつくったことは、本当に国民のためになったのか。東電には人材も技術もそろっており、事故の後、本来は業界再編でより大きな電力の誕生に向かうべきだった。
A 今、他電力の人に話を聞くと「やはり東電が頑張らなければ日本の電気事業がまとまらない」「まだ人が残っているうちに何とか復活してほしい」といった期待感が強い。数年前とは地合いが変わったと思う。
高い評価受ける小早川氏の手腕 政府の体制も見直しを
―小早川社長の手腕はどう評価している?
C 手かせ足かせがある中で本当によく頑張っている。合理化やコスト削減は目標以上を達成し、現経営陣のせいでアライアンスがうまくいかない、ということでは全くない。
A 立地地域に溶け込もうと努力し、福島・新潟の首長ともまれにみる信頼関係を築けている。勉強家で、原子力に関する知識もこの9年間で相当深まった。小早川氏には今後、福島事業に専念してほしい。
―今後、福島は小早川氏、経済は酒井大輔副社長の2トップ体制へ、との話が出ている。
C 2トップ体制にしても実際にアライアンスなどの判断を下すのは引き続き吉野栄洋氏や機構で、小早川氏ではない。
A 東電経営陣は、福島の責任を全うする文脈の下では、本当の意味での経営を14年間やってこなかった。吉野氏はアライアンスをやれるところまで進めて、その後経産省に戻るのでは。経営陣が変わるかどうかは2月中旬には分かるはずだ。今のところ変わる空気はなく、今年はこのままではないか。
B 銀行にも情報が入らず報道で知るような状況だと聞く。取引金融機関との関係として健全ではない。担当者が変わっても経産省内の関心が高いままでなければサステナブルではない。いつかは分離や最終処分法の転換などに向き合う必要があり、それは東電の一存でできる話ではない。政治の役割もあるが、10~20年後の絵を描くのは役人の仕事。それを吉野氏だけが熱量を持って取り組む現状はおかしい。