【業界スクランブル/需要家】ホルムズ封鎖が突きつける3Eの優先順

業界スクランブル/需要家】

ホルムズ海峡が事実上封鎖されてから2カ月経つ中、世界のエネルギー情勢の混乱が続いている。短期終息を期待する声は高いが先行きの見通しは立っていない。封鎖が長引く場合はもちろんのこと、仮に短期的に米・イランが停戦合意して封鎖が解除されたとしても、その影響は長く尾を引くというのが多くの専門家の見立てである。

世界の石油海上輸送の2割が通過し、ナフサなどさまざまな石油製品やLNG供給の要所であるホルムズ海峡は、世界のエネルギー・資源流通のチョークポイントとされてきたが、今回の紛争はパンドラの箱を開けてしまった。現実に封鎖され、しかも巡航ミサイルなどではなく、ドローンのように迎撃が難しくかつ入手が容易な武器によってゲリラ的に封鎖が可能であるという「不都合な事実」が白日の下にさらされたのである。

世界のエネルギー地政学は長期的・構造的な更新を迫られる。日本はオイルショックの経験から、世界最長級の石油備蓄を積み上げ、封鎖の影響を相対的に抑えることに成功しているが、依然としてホルムズを通過する石油に供給の9割を依存している。

中東産原油が最も安価かつ多様な石油化学用途に適した重質油だからである。世界が今後エネルギー安保のため、この安価で使い勝手の良い中東産石油から調達先の多様化と備蓄拡大を同時に追求すれば、必然的に調達コストは高止まりする。

今後の世界は、日本ではおなじみのS+3Eの両立を迫られることになるが、ホルムズ封鎖はその優先順が「セキュリティ≫経済性≫環境」とならざるを得ない冷厳な現実を突きつけている。(T)

【原子力の世紀】アメリカが核兵器更新で遅れ 迫りくる核拡散の足音

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

米国は老朽化した核戦力の更新を進めているが、ICBMや核弾頭製造の遅れが深刻だ。

更新の停滞は米露中の均衡を揺るがし、核拡散の不安を高めている。

核軍縮条約なき世界

米国もロシアと同様、「核の3本柱(トライアド)」と呼ばれる陸海空分野で戦略核兵器の更新作業に取り組んでいる。冷戦中に導入されたものが多く、老朽化が進んでいるためだ。ただ、世界的なサプライチェーンの混乱もあり、作業は遅れ気味だ。

トライアド更新は、皮肉なことに「核なき世界の実現」を訴えたオバマ米大統領の時代に始まった。オバマ氏は2010年にロシアと新戦略兵器削減条約(新START)に合意した。だが、批准は議会の3分の2の賛成が必要で、交換条件として野党・共和党が求めるトライアド更新を受け入れた。

米国のトライアド更新で最大のネックは、ロシアと同様に大陸間弾道ミサイル(ICBM)だ。1970年に配備を始めたICBM「ミニットマンⅢ」を、「センチネル」に置き換える。ミサイル本体の開発は順調だが、周辺機器に問題がある。

一つは大幅なコスト増だ。当初は、ICBMを収めるサイロをそのまま利用する計画だった。だが、老朽化が激しく、450本ものサイロを新たに掘り直すことにした。総延長が7500マイル(約1万2000㎞)に及ぶ通信回線も、銅線から光ファイバーに置き換える作業が加わった。この結果、費用は8割増の1400億ドル(約22兆円)に膨れ上がる。配備も4年遅れの2030年代前半にずれ込みそうだ。

米国の次期ICBM「センチネル」の完成想像図
提供:米国防総省

旧核弾頭をそのまま使用 原潜14隻を新型に置き換え

課題はこれにとどまらない。搭載を予定する新型核弾頭の製造遅延問題だ。ミサイルの完成時期には間に合わないため、当面の間、現在、配備中のICBMに搭載している旧型核弾頭をそのまま使うことで落ち着いた。

米国はかつて、核弾頭の核となる「プルトニウム・ピット」を年間数千個も製造していた。だが、冷戦末期の1989年に、北西部のコロラド州デンバー近郊にある主力工場で深刻な環境汚染問題が発覚し、閉鎖へと追い込まれた。その時期が、冷戦終結による核軍縮の時代の到来と重なったこともあり、米国でのピット製造は、以後、停止状態とあった。

それから30年近くを経て2018年からピット製造再開を目指す動きが始まる。米議会が30年までに年産80個のピット製造を目指す法律を制定したのがきっかけだ。マンハッタン計画の中心地だった南部ニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所で年間30個、南部サウスカロライナ州のサバンナリバー国立研究所で同50個のピットを製造する計画が整ったかに見えた。

だが、米連邦裁判所は24年9月、十分な環境評価が実施されていないことを理由に、事実上の製造停止命令を出した。27年5月までに環境対策を実施するよう求め、これにより、主力工場であるサバンナリバーでのピット生産開始は32年以後にずれ込んだ。

海の分野では、1980年代に就役を始めた戦略原潜「オハイオ」級14隻を、順次、新型の「コロンビア」級12隻に置き換えていく。現時点では計画より約1年の遅れがあり、2031年の就役を目指す。空では、B2ステルス戦略爆撃機を「B21」ステルス戦略爆撃機に更新する。少なくとも100機を導入予定だが、空軍は145機への増強を求めている。B21は23年11月に初飛行するなど「予算面でもスケジュール面でも模範的なプログラム」と評価が高い。27年に1番機を配備する予定だ。

【リレーコラム】経済成長と省エネの両立へ 供給危機で高まる日本の存在感

佐藤佳奈/在イラン日本国大使館一等書記官

イランに赴任して1年が経つ。長年の経済制裁と米・イスラエルとの軍事的緊張という逆境の中にあっても、この国は驚くほど力強く経済成長を続けている。市場には活気があり、テック企業が台頭し、9000万人の人口を抱える巨大な経済圏が着実に拡大している。しかしその一方で、エネルギー需給のひっ迫という現実にも直面しつつある。この現場での経験が、日本のエネルギー技術の価値を改めて問い直すきっかけになった。

イランの資源埋蔵量は、ガスでは世界第2位、石油では世界第4位で、豊富な地下資源を背景に多岐にわたる産業が発展してきた。GDP(国内総生産)の石油・ガス依存度は2割以下である。しかし経済が成長するほどエネルギー需要も膨らみ、長年の制裁の影響を受け、老朽化した設備での生産では国内供給が追いつかなくなりつつある。特に2月に米・イスラエルによる先制攻撃で始まった戦争以降、軍事的緊張が高まる局面ではエネルギー関連インフラへの攻撃リスクも意識され、エネルギー供給不安は一気に現実味を帯びた。

実績・経験・技術が持つ説得力

この課題に対し、日本はどのような答えを持っているのか。1973年のオイルショックから50年後の2023年を比較すると、実質GDPは約2・6倍に拡大した一方、最終エネルギー消費は横ばいの1・0倍にとどまった。対GDP一次エネルギー供給量は約半減し、エネルギー効率が大きく改善した。経済を成長させながらエネルギー消費を抑制するという命題を、日本は現実のものとしてきた。製造業を中心とする産業部門がそのけん引役となり、エネルギー消費の約6割を占めながらも消費量を0・8倍に削減した。この数字こそ、日本の省エネが技術と仕組みに裏打ちされた証である。

その原点はオイルショック、福島の原発事故などの痛烈な危機体験にある。エネルギーの海外依存という脆弱性を突きつけられた日本は、官民一体で省エネ技術の開発と普及に取り組んだ。「不足してからでは遅い」という教訓が、技術開発の原動力として社会に深く根付いたのである。今まさに多くの国がホルムズ海峡の封鎖を経て、岐路に立たされている。実績・経験・技術の三拍子がそろう日本には、世界に省エネを語る他のどの国にもない説得力がある。

戦争勃発に伴い一時帰国した際、久しぶりに吸った東京の空気があまりに心地よく何度も深呼吸した。省エネの徹底はエネルギー安全保障にとどまらず、大気汚染の改善という環境面での恩恵も同時にもたらすと痛感した。

さとう・かな 国際協力銀行ドバイ駐在員事務所にて中東各国の経済情勢の調査を担当。2022年に日本エネルギー経済研究所にてイラン経済の研究に従事。25年より現職。

※次回は、日本エネルギー経済研究所の小島舞さんです。

【業界スクランブル/再エネ】出力抑制増大でアグリゲーターの役割に期待

業界スクランブル・再エネ

今年のゴールデンウイークは、好天による太陽光発電量の急増と休業による電力需要の低下を背景に、各地で出力抑制が発生した。5月5日には出力抑制量が計637万kWに達し、過去最大を記録したと言われている。これまで出力抑制は、再エネ比率の高い九州エリアや、連系線の空き容量が不足する東北・中国エリアで頻発してきた。しかし、東京エリアでも3月に初めて出力制限が発生し、以降、全国どこでも発生し得る事態となり、電力需給バランス調整の重要性が改めて浮き彫りとなった。

連休中は、数万台規模の家庭用蓄電池やEVがアグリゲーターを介して一斉に稼働した。このように市場価格が低い時間帯に充電し余剰電力を吸収する動きは、「上げDR」として出力抑制量の低減に寄与したと言われている。

昨今、メガソーラーや風力の大規模開発に関する規制強化や社会的反発がある中で、地域に受け入れられる現実的な再エネは「自家消費型の分散型再エネ」に他ならない。ただし、これらを効率的に運用できるアグリゲーターは限られているのが現状だ。大手新電力やITベンチャー系のアグリゲーターが存在するが、首都圏や関西圏を除き、地域のアグリゲーターは不足していると言わざるを得ない。

制度の複雑性や収益の不安定さに加え、技術的ハードルも高く、電力の需要量と供給量の予測の難しさ、蓄電池やEVの通信規格がメーカーごとに異なることも課題だ。今後、実績データを蓄積することで予測技術は向上するだろう。そうして再エネ価値を最大化する地域共生型のアグリゲーターが増えていくことを期待したい。(K)

【シン・メディア放談】終わりが見えぬイラン情勢 政府の楽観とマスコミの危機感

〈業界人編〉電力・石油・ガス

有事下で情報が入り乱れる中、政府とマスコミの姿勢は対照的だ。

─ホルムズ危機を受けた原油の代替調達について、政府は「年を越せる」と言うが本当なのだろうか……。

ガス ここに来て構図がはっきりとしてきた。メディアは「足りない」「いずれ危機がやってくる」と言いたがり、一方で政府は「足りている」「大丈夫だ」と落ち着かせたい。メディアと政府で真逆の情報発信をしているのが現状だ。

石油 あんまりメディアがあおり過ぎると、1970年代のオイルショックのようにトイレットペーパーの買い占め的なパニックが起こりかねない。コネクトエネルギーの境野春彦氏がTBSの「報道特集」で「間違いなく今の状況が続いたら6月には詰むんですよ」と発言して批判を浴びたが、ここまで言う必要はない。専門家なら慎重に言葉を選ばないと。ただ、「大丈夫」と言い切れないのは事実で、本誌4月号で垣見油化の垣見裕司氏は「国主導で緊急対策計画策定を」と警鐘を鳴らした。こういう冷静な指摘が大切だ。


油の一滴は血の一滴 先人が遺した膨大な備蓄量

ガス 役所の人が口をそろえて言うのが、「川上の量は足りている」ということだ。その上で、小さな商店などにも電話をかけ、目詰まりをもぐらたたきのように潰しているようだ。経済行動として、中流・下流の業者が上流から「来月の供給はどうなるか分かりません」と言われたら、流通量を減らすのは無理もない。

石油 それでも、オイルショックの時から一次エネルギー源としての石油は7割から3割へと減った。日本は頑張って石油依存を減らしてきた。

ガス ある国会議員が、日本の国家備蓄が他国と比べて圧倒的に多いのは、先輩議員や官僚たちの努力にほかならないと言っていた。当時は「油の一滴は血の一滴」と言われた戦前・戦中の記憶を持つ人が多くいたので、備蓄基地を作るために増税までしたという。彼らのおかげで、タンカーがホルムズ海峡を通れなくても普通の生活が送れている。先人が作ってくれた今の時間的余裕を大切に、代替調達や中長期的な供給先の多角化に向けた体制をいかに整備するかが重要だ。

─本格的な悪影響はこれから出てくる。

石油 ある程度の石油化学製品の値上がりや価格上昇は覚悟しないといけない。LPガスのボンベに赤字の印字ができないという話も聞いた。アンモニアの流通も滞れば肥料の供給ひっ迫も避けられない。世界的な食糧不足という事態も起こり得る。

電力 さまざまな製品の価格が上がる度に補助金を出していたら、お金がいくらあっても足りないよ。海外のニュースを見ていて思ったが、ガソリン価格がリッター300円ぐらいになっている国がある中で、ずっと170円以下に抑えている日本はやっぱり不自然だ。でも、メディアからの批判は少ない。問題意識は持ちつつも、地方にとってはありがたい話なのであまり扱いたくないのだろう。

─国内企業は決算シーズンを迎えた。

電力 LNGなど価格上昇の影響は受けるが、安定供給には支障がないのというが各社共通の見方だ。この後、燃料費調整単価が低い会社は少しずつダメージを受けてくる。期ずれの影響で、来年度の見通しは芳しくないね。

ガス 原油価格や為替の想定には各社多少の違いが見られる。いつ価格が落ち着くかがポイントだ。夏や秋に元に戻れば、燃調費も追い付いてくる。決算会見では、メディアはホルムズ危機の影響を強調したがっていた。安定供給に支障がなく、ホルムズの影響をそれほど想定してないと分かると、記者の関心が薄れるのが見てとれた(笑)。


存在感を示す『選択』 共和党内の動きに注目

石油 そんな中で、高市政権の内幕など政治記事を中心に気を吐くのが『選択』だ。5月号では「備蓄放出石油で『元売り』がボロ儲け」と元売りの批判記事を掲載。副題には「国有財産で暴利を貪る国賊業界」とかなり厳しい。政府が国家備蓄原油を安値で放出して、元売りが巨額の差益を得ているという話だが、ここまで書くことはないんじゃないか。以前から備蓄の原価については議論があったが、ルール通りやったわけだからね。

─出光丸がホルムズ海峡を通過した。

石油 産経が73年前の日章丸事件と絡めて報じていたが、どうなんだ。当時のイランとは体制が違う。今は革命防衛隊という「テロ組織」が実権を握っている。イランのプロパガンダに利用されないように気を付けないといけない。

ガス 世界最大の不安定要因は中国でもイランでもなくアメリカのトランプ大統領だよ。これでも国内の支持率が30%もあるのだから驚きだ。岸田政権の終盤より高いじゃないか(笑)。

電力 11月の中間選挙で負けた時に、残りの任期でさらにめちゃくちゃなことをやるのでは。

ガス 鍵を握るのは共和党内部の動きだろう。あるマスコミの国際部長は、さすがに中間選挙に負けたら、党内でも反トランプの動きが出てくると言っていた。大統領選などでRINO (Republican In Name Only:名ばかりの共和党員)のレッテルを張られた反トランプ議員の巻き返しもあるかもしれない。中間選挙で負ければ、今の身勝手な振る舞いはできなくなるというのが彼の見立てだった。

─いつまでトランプ氏に振り回される状況が続くのか。

【業界スクランブル/火力】石炭火力「稼働制限緩和」の半端策

【業界スクランブル/火力】

イラン危機を受け、エネルギー対策として、容量市場における非効率石炭火力の稼働制限を一時的に緩和する方針が示された。しかし、この対応は政策として中途半端で、筋が良いとは言い難い。

本来、非効率石炭火力の問題は、kW時(発電電力量)の領域で議論すべきものだった。ところが実際には、kW(供給力)を扱う容量市場の制度設計に組み込まれた。これは、脱石炭の国際的潮流に乗ろうと手近な制度に手を加えたためだが、その結果、制度は混線を抱え込むことになった。

さらに問題なのは、エネルギー安全保障という本来極めて政策的な分野でも「市場化」で対応するとの方針を掲げながら、結局は政府がルール変更という形で介入せざるを得なくなっている点である。燃料制約や地政学リスクは、市場価格に十分織り込むことができず、市場外の調整に頼らざるを得ないことが露呈してしまった。これにより、制度の一貫性や予見可能性も損なわれることになった。

しかも今回の措置は、効果が限定的である。稼働制限を緩和することでLNGの調達量を減らせるとしても、その効果は一時的なもので、将来の調達リスクの根本的な低減にはつながらない。加えて、一年限りの措置では、将来の設備維持や電源投資へのインセンティブも働かない。

イラン情勢の先行きは不透明だが、今回の事例が示しているのは、同様の危機が今後も繰り返され得るという現実である。必要なのは、その前提に立った制度の再構築であり、場当たり的な運用変更ではない。単年度の緩和措置は対症療法的であり「やっている感」を演出するだけのものと言わざるを得ない。(N)

【コラム】米国産石炭輸入の意義 エネルギー安保の柱として検討を

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本のエネルギー政策は、脱炭素の帳尻合わせではなく、エネルギー安全保障と経済性を重視して原点から組み直すべきである。その具体策の一つとして、米国からの石炭輸入を真剣に検討する時期に来ている。

LNG価格が高騰した時、中東情勢や台湾情勢が不安定化した時、あるいは猛暑・寒波で電力需給がひっ迫した時、貯炭場に現物として在庫ないし備蓄として置ける石炭は、安全保障上、重要な価値を持つ。

日本は米国からLNGを輸入している。しかし、米国の天然ガスを液化し、船で運び、日本で再ガス化して発電するには、追加コストがかかる。もちろん、石炭も鉄道輸送してから輸送船で輸入するには追加コストはかかる。けれども、米国では天然ガスを国内の高効率火力や産業用に使い、日本やアジアには石炭を輸出する方が、天然ガス液化関連のコストが不要になるメリットが大きいので、全体としては経済的な効率性が高くなる局面がありそうだ。

また、アジアのLNG価格は地政学リスクや欧州需給に左右されやすい。これに対し、石炭は熱量当たりの価格が安く、長期在庫が可能で、LNGスポット市場の急騰に対するヘッジにもなる。

豪州・インドネシアのリスク 第3の柱必要

日本の石炭調達は現在、豪州に7割弱と大きく依存している。これに次ぐのはインドネシアで1割強である。もとより、豪州炭は高品質で日本から近く、長年の実績もある。しかし、豪州炭も政治や環境規制、ロイヤルティ、鉱山許認可、洪水などの影響を受ける。ニューサウスウェールズ州では2024年7月から石炭ロイヤルティが2.6ポイント引き上げられており、こうした政策変更は将来の調達コストや供給判断に影響し得る。ニューサウスウェールズ州産の高品位炭への過度な依存は、日本側の調達交渉力を弱め、コスト高の一因にもなっている。

インドネシアについても、リスクがある。同国は世界最大級の一般炭輸出国だが、国内供給を優先する政策をたびたび取ってきた。国内需要が満たされない場合、輸出を制限するという発想は今後も残るだろう。最近も、石炭など主要商品の輸出管理を国が強める動きが市場の不確実性を高めている。つまり、日本が豪州とインドネシアを中心に石炭調達を続けるだけでは、燃料安全保障として十分ではない。

この文脈で、米国炭は有力な第三の柱になり得る。この6月に、米エネルギー省はオークランドのWest Gateway Terminal Projectに7500万ドルを投じる方針を発表した(The Department of Energy)。同ターミナルは鉄道に接続された米国西海岸のバルク輸出拠点で、日本、韓国、台湾、ベトナム、マレーシアなどインド太平洋の同盟国・友好国向け輸出を支えるものと説明されている。これまでの米国炭輸出のボトルネックは、太平洋向けの港湾・鉄道インフラだった。この米国西海岸ルート、あるいはカナダ西岸経由のルートを確保できれば、日本にとって供給源多様化の意味は大きい。

米国側は、この方向を後押ししている。2025年4月の大統領令は、米国炭輸出の増加と、同盟国支援を含む石炭産業の活用を明記している(The White House)。日本はこれを単なる米国内政として眺めるのではなく、日米同盟における燃料インフラとして取り込むべきである。

米国の一般炭は、これまでもアジア市場に流れていた。インドは米国炭の大口買い手であり、用途は発電だけでなく、セメント、窯業、自家発電などにも広がる。これは、米国炭の利用が距離の壁を越えてアジアで経済的に成立し得ることを示している。

日本企業が北米炭のオフテイク権、ターミナル容量、船腹、転売権を持てば、日本で焚くだけでなく、韓国、台湾、インド、ASEANに振り向けるポートフォリオを構築できる。これは日本がLNGについて進めてきた仕向地自由化、ポートフォリオ取引の石炭版である。

足元は割高な燃料を輸入 安価な選択肢排除に疑問

これまで日本は、自動車用燃料としてバイオエタノール由来のETBEを輸入し、石炭火力混焼やバイオマス発電用に木質ペレットも輸入してきた。日本の制度上はCO2削減に資するとされるが、地球全体での排出削減効果は疑わしい。USDA(米国農務省)によれば、24年の日本のETBE輸入は約18.3億ℓで、その中には米国産トウモロコシ由来エタノールなどを原料にしたものが含まれる。木質ペレットも22年に440万tを輸入し、その一部は米国産だった。だが、その米国では、ガソリン燃料を燃やし、石炭で火力発電をしている。

米国から割高な燃料を輸入し、日本国内の排出量を見かけ上減らすために国民負担を増やす一方で、安価な石炭を日本において政策的に排除するのはいかがなものか。

日本は、米国炭をポートフォリオに加えれば、LNG依存、豪州炭依存、インドネシア炭依存を同時に下げることができる。米国からの石炭輸入をエネルギー安全保障の正式な柱として位置付けて推進すべきではなかろうか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

【業界スクランブル/原子力】停止時の新人がリーダーに 14年ぶり稼働の重み

【業界スクランブル/原子力】

柏崎刈羽原子力発電所6号機が約14年ぶりに営業運転を再開した。中東情勢の不安定化に加え、電力需要の増大が見込まれる中、大型発電所が供給力として復帰することは、非常に心強い。

この長期停止の間に、多くのベテラン発電所員が現場を去ったはずである。経験の少ない若手所員は、所内外から注目を集める中、高い緊張感と使命感を持って業務に当たってきたことと思う。

14年という歳月の中で、新入社員であった世代は主任や中間管理職となり、原子炉やタービン・発電機の起動時には、現場をけん引するリーダーの役割を担うことになる。それは、発電所の運転状況や、自らが十分な経験機会を得られたかどうかにかかわらず訪れる。自らの経験不足を自覚しながらも、リーダーとしての責務を果たさなければならない。その不安や重圧を受け止めつつ、再稼働を実現させた関係者の努力には、心から拍手を送りたい。

わが国初の商用原子力発電所が運転を開始したのは、今から60年前である。当時、運転経験者はほとんど存在しなかった。先人たちは、試行錯誤を重ねながら経験を蓄積していった。現在は、自分たちの発電所だけでなく、世界中の発電所のトラブル事例や良好事例を共有・分析し、運転や保守に生かす仕組みが整備されている。

今回の再稼働に携わった関係者には、長期のブランクを埋めるべく積極的に現場に足を運び、自らの経験を積み重ねてほしい。また、こうした知見共有の仕組みも活用し、経験不足という不安を乗り越えながら、得られた経験を次の世代へ着実につないでいってもらいたい。(T)

【ワールドワイド/コラム】LPガス不足によるインドの混乱 備蓄と輸入の多角化が課題

海外メディアを読む

インドでは3月上旬から、今回のイスラエル・米国によるイラン攻撃に伴うイランのホルムズ海峡封鎖措置の影響で、中東湾岸産油・産ガス諸国からのLPガス輸入供給が途絶えて、LPガスが不足し混乱状態が続いているとロイター通信が報じた。

ここ10数年の間、日本で言う家庭・業務用LPガスの国内需要は大幅に増えた。背景には2010年代に政府が「クリーン燃料政策」としてガス導管網が不要なLPガスへの切り替えを奨励し、環境対策や生活改善を目指したことがある。

現在インド全体のLPガス総需要は約3000万tを越え、今や世界第2位の輸入大国になっている。消費量の約3分の2を越える量を輸入に頼っており、そのうち約85~90%を中東湾岸産油国から調達している。平時ならば、距離的にも中東産油・産ガス国が近いので、ピストン輸送的に輸送できたのである。しかし、日本のように備蓄政策などはないし、輸入供給基地も需要量の伸びに比べて少ないのが現状である。

日本はこの10年、輸入供給国の多角化政策の下、米国シェール石油革命の影響もあり、アメリカからのLPガス輸入量が急速に増えた。今や95%を越えるLPガスがアメリカ・カナダからの輸入に代わった。また国家備蓄政策もあり、今回のホルム海峡封鎖問題でも、供給不足になることは現時点で全く起きていない。

急激な需要増大と利便性により、家庭・業務用LPガス利用拡大の政策がとんだところで裏目に出てしまったインドの状況を思うに、かつての日本の政策だった供給面でのレジリエンス強化策(備蓄と輸入供給国の多角化)が必要な時期に来ているのかもしれない。

(花井和夫/エネルギーコラムニスト)

【ワールドワイド/コラム】原油調達に苦慮する新興国 備蓄の国際公共財化に期待

国際政治とエネルギー問題

2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃から3カ月近く経過したが、停戦の目処が立たないままホルムズ海峡を挟んだにらみ合いが続いている。イランは、米国との交渉に応じる姿勢を見せつつも、交渉の場では自国の考えを改めて述べることに終始している。対して米国は、核開発放棄を前提としており、妥協を引き出すことはできていない。

世界は今、大きく二つの戦争を抱えている。一つはロシアとウクライナの戦争であり、もう一つは米国・イスラエルとイランとの戦争である。3月にロンドンに所用があり、韓国航空便を利用したが、中国・カザフスタン・カスピ海・アゼルバイジャン・グルジア・黒海・ルーマニア(欧州)・ロンドンというルートが採られた。当初はロシア上空を飛ぶルートが提示されていた。また、日本の航空会社はオホーツク海→北極海→欧州というコースを飛んでいる。

フライトマップを見ながら世界は今、二つの戦争を組み込んで動いていることを実感した。ロシアとウクライナ南方をかすめつつ、イランとイスラエルの戦場を遠巻きに、各国は経済活動に取り組んでいる。その中で、日本は世界有数の石油備蓄保有国であり、4月24日、経済産業省は第二弾の国家備蓄石油の放出を発表し、5月1日から追加放出を始めた。鹿島石油での放出を皮切りに全国10カ所の備蓄基地から約580万㎘が順次放出される。

緊急時対策には、国際エネルギー機関(IEA)の分類では、緊急時増産、消費節約、備蓄の放出、燃料転換があることを前号で述べた。今次危機に際し、日本は備蓄の放出を主要な対策として打ち出したが、多くの選択肢があり、高市早苗首相は4月7日の記者会見で、「年を越えて原油の供給を確保できるめどがついた」と説明していた。

消費節約に関しては、石油市場混乱の影響緩和のため、IEAは既に3月20日、石油・ガス使用量削減のための10項目の措置を提案していることは重要である。

こうした中で4月27日、出光興産がベトナムに原油64万㎘規模を供給することが明らかになった。アジア新興国の多くが原油調達に苦慮する中、同地域の製油所で作られる石油製品は日本へも輸出され、国境を跨いだ供給網を支えている。ベトナムへの調達原油の供給は、備蓄石油の取り崩しの応用例である。同国は樹脂製品の供給網でも存在感を高め、自動車部品や家電、必需品に使う製品の一部が日本にも輸出されている。

アジア新興国と日本の最大の違いは、日本が1970年代の石油危機の経験から、備蓄制度を創出、運用してきたことにある。新興国には備蓄態勢が整備されていないため、消費節約を中心とした対応を行わざるを得ないが、国際社会の取り組みとして、備蓄石油の国際公共財としての活用が、日本発の国際協調対応措置として展開されることを期待する。情は人のためならず、というではないか。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

【ワールドワイド/経営】実効性不透明な脱化石燃料会議 多くの国が強靭な供給体制を重視

「脱化石燃料に関する第1回国際会議」が、4月24~29日、コロンビアの石炭輸出港サンタ・マルタで開催された。2023年にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開催されたCOP28での合意文書には、「化石燃料からの移行」が盛り込まれた。これを受けて、昨年11月のブラジル・ベレンでのCOP30では、「化石燃料廃止ロードマップ」の策定に85カ国が賛同するとの動きがあった。

化石燃料の消費が多い国は不参加

他方、ロシア、サウジアラビアなどの資源国は強硬にこれに反対し、中国、インドなどの新興国もそれに同調したため、合意文書には盛り込まれるに至らなかった。このため、全員一致を要する国連の枠組みとは別に、コロンビアとオランダが共催国となって標記会合を開催することとなった。

この会議には欧州、島嶼国を中心に50カ国以上が参加するが、米国、中国、インド、ロシア、ASEAN諸国、産油国からの政府レベルでの参加はない。

主催国のサイトでは、本会議は①化石燃料の秩序ある段階的廃止を推進する用意のある国々のための持続的な政治的枠組み、②UNFCCCを補完し、COP30議長国のロードマップに貢献、③各国および地方自治体、市民社会などの参加を通じて気候ガバナンスを深化させる革新的かつ水平的な対話と説明する。

一方、①UNFCCCに代わる枠組みではない、②COP30議長国が策定したロードマップに代わるものではない、③懐疑論者を説得する場ではない、④新たな化石燃料条約に向けた交渉の場ではないとしている。

環境関係者は、これが「化石燃料時代の終わりの始まりに向けたゲームチェンジャー」であると絶賛しているが、不参加国の化石燃料消費が世界全体に占めるシェアは約7割である。イラン戦争に直面し、多くの国は脱化石燃料よりも「中東で有事が発生しても安価で安定的なエネルギー供給を維持できる強靭なエネルギー供給体制の確保」に取り組んでいる。3月末のCERAウィークでも、化石燃料依存は今後数十年続くというのが大方の見方であった。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【業界スクランブル/石油】水素・SAFの商用化は困難  にじむ業界の本音

【業界スクランブル/石油】

現在の石油業界は、中東情勢の緊張(ホルムズ海峡の不透明感)による原油価格の高騰リスクと、脱炭素化に向けた事業転換の狭間にある。

足元はホルムズ海峡の通過リスクにより、原油価格が上昇している。WTI原油価格では130〜150ドルのシナリオも懸念され、日本国内の企業業績や物価への影響が注視されている。

中東リスクを受け、米国などからの代替調達が加速している。政府と民間が連携し、備蓄放出と合わせ安定供給の確保が急がれる。

構造的な問題としては、エコカー普及で国内の石油需要は減少傾向が継続中だ。政府や石油連盟は脱炭素社会を見据え、石油化学原料へのシフトやクリーンエネルギー導入を模索している。こう一般的なメディアは報じるが、これは表層的な情報に過ぎない。業界の中枢では、水素もSAFも、優先度・意欲が非常に下がっている。もちろん、どちらも取り組む意義はあるが、数年前とは景色が変わった。

水素は依然として高コストで、研究開発での検討余地はありつつも、社会実装でのパンチ力が弱いとの認識が共有化されつつある(天然水素など別の話題はあるが……)。 そこにS+3Eとしての安定供給や価格への目線に加え、レジリエンスが明確に意識される中で、従来の石油製品・石油化学製品のコアビジネスに回帰する中に、再エネが入る流れだ。

最近の業界は、下流部門出身者のイニシアチブが比較的強化されたせいか、以前より「本音」を先手で示す。ENEOSの、中期経営計画やシェブロン・アジア事業の買収からも分かるだろう。(K)

【ワールドワイド/市場】電力高騰で独産業が低迷 脱炭素とのバランス再検討の時

産業国として知られるドイツだが、近年は国内産業の低迷が続いている。中でも基幹産業である化学部門は国際競争力を損ない、工場閉鎖や国外移転の動きが顕在化している。

独の産業用電気料金は米中の2倍

ドイツ化学工業会によると、化学部門の製造指数は2021年を100とした場合、24年は80・9まで低下した。また、25年の国内化学工場の平均稼働率は72・5%で、収益性の目安とされる82%を大きく下回る。化学部門は電力多消費産業だが、電力消費量は14年の約510億kW時から24年には約430億kW時へと落ち込んでいる。化学部門の低迷はエネルギー需要にも波及している。

競争力低下の要因には、電気料金の高騰と炭素コストの負担増が挙げられる。脱原子力やエネルギー転換などを背景に、ドイツの産業用電気料金は欧州でも高水準で、相対的に安価な米国や中国と2倍前後の差がある。

炭素コストについて、化学部門は欧州排出量取引制度(EU―ETS)の対象で、カーボンリーケージ対策として無償割当が認められている。ただし無償割当は製品ごとに設定されるベンチマークに基づき配分され、EU域内で同一製品を生産する設備のうち、効率的な上位10%の設備の排出原単位を基準として設定される。しかし、EU域内でも資源条件や産業構造の違いで、各国のベンチマークの達成難易度には差が生じている。

加えて、排出枠価格は10年代の10ユーロ前後から、近年は70~80ユーロ程度まで上昇した。BASFなどの大手企業は排出枠購入に多額の費用を投じ、今後も価格上昇が続けば負担はさらに拡大する見通しである。

こうした状況を受け、ドイツ政府は産業用電気料金の引き下げに向けた補助措置や電力価格補償制度の拡充を進めている。また、EU全体でも産業競争力への影響を踏まえ、EU―ETSの制度見直しや補助規制緩和に関する議論が進んでいる。これまでEUは脱炭素化と産業強化の両立を掲げてきたが、国際競争環境が大きく変化する中で、そのバランスを再検討する局面に差し掛かっている。

藤原 茉里加/海外電力調査会)

【業界スクランブル/ガス】石油製品供給維持に全力挙げる政府

【業界スクランブル/ガス】

中東情勢は依然として収束の気配を見せていない。当初は毎日のように飛び出すトランプ大統領の発言に一喜一憂したが、最近は「どうせまた朝令暮改だろう」と冷めた目で見る自分がいる。

混乱の長期化が予想される中、日本は240日分という潤沢な石油備蓄を有しており、この「時間的余裕」を活用しながら、備蓄放出と代替調達を進めている。5月12日の政府発表によれば、原油については5月時点で約6割、6月には7割超の代替調達に目途が立ったという。需要抑制に踏み込むインドや東南アジア諸国と比べても、日本政府の対応は力強く感じる。

一方、現場では不穏な兆候も広がっている。カルビーがポテトチップス包装の白黒化を発表したほか、建築業界では塗料やシンナー不足の声も聞かれる。政府はその背景について、複雑化したサプライチェーンにおける「目詰まり」が原因だとして対応に尽力している。疑うつもりはないが、本当に川上で十分な供給量が確保できているのか?そんな疑念を持つ人もいるだろう。

しかし、経産省は本省だけでなく地方経産局まで含め、現場レベルで一つひとつ丁寧に目詰まり解消に取り組んでいる。その姿勢には頭が下がる。川中の事業者も事業継続のために物資を確保したいのが本音だろうが、冷静な対応を求めたい。他方、プラスチック製品の調達難を逆手に、包装の簡素化などに取り組む企業も出始めた。もちろん一日も早くホルムズの自由航行を取り戻すことが最善であるが、単に足元を嘆くだけではなく、これまでの当たり前を見直す契機として、この危機を前向きに捉える視点も重要だろう。(Y)

【ワールドワイド/資源】露産LNG禁輸は欧州にも痛手 制裁の抜け道設ける可能性も

欧州は長年、ロシア産天然ガスをパイプラインとLNGによって輸入してきた。パイプラインはポーランド経由、ウクライナ経由、トルコ経由、そしてドイツにつながるノルドストリームの四つ、LNGはメインが北極海のヤマルLNGで、その他小規模ながらバルト海に二つのLNG基地を持つ。

経済制裁の効果は高いが……

しかしロシアのウクライナ侵攻以降、この構図は急速に崩れた。ポーランド経由の輸入は2022年に事実上停止、ノルドストリームも同年に停止となり、LNG価格が高騰したことは記憶に新しい。ウクライナ経由も24年末に既存契約が終了し、新規契約の目途が立たない状況である。バルト海のLNGは昨年1月に米国が制裁対象とし、欧州への輸出ができなくなった。

現在残るルートはトルコ経由パイプラインとヤマルLNGとなるが、欧州委員会は対ロシア制裁の一環として、ヤマルLNGからの輸入を今年末までに終了、トルコ経由パイプラインも来年9月までに段階的廃止の方針を打ち出している。

ウクライナ経由の輸入停止では、約150億㎥の減少分を米国産LNGの輸入増加や地下ガス貯蔵の取り崩しで吸収した。では年間約200億㎥(LNGタンカー200隻以上)規模のヤマルLNGの輸入停止はどうなるか。当初、欧州は北米や中東での増産による代替調達を期待していたはずだ。しかし3月の中東情勢緊迫化以降、価格は高止まり、また地下ガス貯蔵レベルは低いままで、価格上昇への耐性は以前ほど強くない。ヤマルLNGの代替調達は相当な痛みを伴う状況となっている。

ヤマルLNGは北極海という特殊な立地で、冬季は砕氷LNG船による欧州向け輸出が前提となる。欧州市場を失うとLNGは行き場を失いロシアへの制裁効果は高い。しかし、欧州の痛手が膨らみ産業界の反発が強まると、制裁の体面を維持しつつも、一定条件下での輸入容認や例外措置といった抜け道を設ける可能性は考えられる。ロシア産LNG禁輸が最終的にどう落ち着くのか、エネルギー安保の重要テーマとして注目したい。

篠澤康彦/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)