話題:イラン有事踏まえたエネ政策
ホルムズショックで石炭火力にスポットが当たり、政府は期間限定で稼働抑制を見送る。
他方、今こそ分散型の確立が急務との声も。今後のエネ政策への二つの提言を紹介する。
〈危機下に「帰ってきた石炭」 長期でカーボンマイナス目指せ〉
視点A:奈須野太/元内閣府・経済産業省局長
石炭は、安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源だ。2024年の電源構成に占める石炭火力の割合は28・6%と、天然ガス(31・8%)に次ぐ。可採埋蔵量は百年を優に超え、地域的な偏在もない。
しかし、石炭火力はCO2の排出量が多い難点がある。高効率な設備でも、1kW時当たりで天然ガス火力(約0・42㎏)の2倍近くある。気候変動対策だけを考えれば、真っ先に廃止すべきとなる。特にパリ協定締結後は、1・5℃の努力目標を達成するためとして、石炭火力は常にやり玉に挙げられ、欧州と途上国の激しい対立の争点となってきた。
一方、中東危機によりホルムズ海峡が事実上封鎖され、原油価格が大幅に上昇している。わが国は原油の9割、LNGの1割を中東からの輸入に依存する。LNGは原油に比べて調達先の多様化が進んでいるものの、価格は原油価格にひも付いているため、原油価格が上昇すれば遅れて上昇する関係にある。
このような情勢変化を受け、わが国では石炭の役割が見直されている。例えば、容量市場において、設計効率42%未満の非効率な石炭火力の稼働率を50%以下に抑制する措置を、今年度は適用しないこととしている。
かくして石炭火力の再稼働が進むと、CO2排出量が増加してしまう。しかし、筆者も担当した経済産業省のグリーンイノベーション基金事業では、石炭とアンモニアを混焼させることで低炭素化し、最終的には石炭を使わないアンモニア専焼で脱炭素化する、わが国独自の技術の開発と実証が進められている。これを一段と加速すべきである。
欧州でも、日本に先んじて石炭の利用を前提とした施策が講じられている。例えば英独では、発電所の排出ガスからCO2を分離し、除去する設備の用地確保などの準備を済ませること(CCSレディ)を設置、運転の要件とする措置が導入されている。アンモニア専焼化しない石炭火力や水素専焼化しない天然ガス火力について、わが国にも参考になる。
もちろん、排出ガスからCO2を除去することで、発電のコストアップは避けられない。回収後のCO2の利用先や貯留地をどう確保するかも問題になる。
だが、原子力や再生可能エネルギーだけで需要を賄うことは現実的でない。中東もたとえ停戦が実現しても中長期的には混乱が避けられない。イデオロギーにとらわれず、さまざまな有望技術を見つけ育て、見極めていくことが自律性と柔軟性を確保し、国益に叶うのだ。
地球を浄化するイノベーション 気候変動対策の切り札に?
石炭火力は、大気中からのCO2の直接回収(DAC)設備としても役立つ可能性がある。これは筆者独自の仮説である。
DACとは、大気中からCO2を直接的に除去する、巨大な空気清浄機である。筆者も担当した内閣府のムーンショット型制度で研究開発に取り組んでおり、大阪・関西万博「RITE未来の森」で実証機を展示した。
その原理の一つは、アミン化合物を含む溶液や固体に大気を通していったんCO2を吸収させた上で、これを加熱して脱離させるもので、加熱過程で熱源を必要とする。
このため、自前の発電設備を持たないスタンドアローンのDAC設備だと、加熱に電気代がかさんでしまう。除去クレジット収入だけで採算を取るのは困難である。
しかし、火力発電所の電力と余剰熱源を有効活用してCO2を回収し、かつ発電所からの排気を大気からの吸気よりも極低濃度(400ppm未満)に浄化できれば、DACとしてカーボンマイナスの役割も期待できる。発電とCO2回収の「一石二鳥」だ。
火力発電所にDACレベルの高性能な分離回収設備を備えれば、将来のエネルギー政策のみならず、気候変動対策にも柔軟性が確保されるだろう。特に石炭は価格が安定していることから、DACのエネルギー源として有利と考えられる。
これまで石炭火力は地球を汚すものとして忌み嫌われてきたが、わが国発のイノベーションによって、世界の気候変動対策の切り札に変わるかも知れない。






