大木和典/mui Lab共同創業者・CEO
独自のIoT技術で家電やエネルギー機器の最適制御を実現している。
AIの進化を追い風に、自社ブランドによる世界展開を目指す。

スマートデバイスやスマートホームプラットフォームの開発などを手掛ける「mui Lab(ムイ・ラボ)」。京都市に本社を置く産業資材メーカーNISSHAの社内ベンチャー制度で2017年に発足し、19年4月に独立した。
創業のきっかけとなった「muiボード」は、無機質になりがちなデジタルデバイスとは一線を画したプロダクトだ。木製家具のようにインテリア空間に溶け込み、触れるとディスプレーが現れ時刻や天気予報を表示するほか、照明や空調などの家電をシンプルな操作でオン・オフしたり、さらには指で文字を書くことで家族間でメッセージをやり取りしたりできる。
米家具見本市で高評価 事業化へ独立を決意
創業者でありCEOの大木和典氏は、「デジタルデバイスを活用するには、知識や煩雑な作業が求められる。そうした課題を解消しデジタルのある生活をストレスフリーで実現したい」と、製品のコンセプトを語る。
大木氏は、大学卒業後にNISSHAに入社、マーケティングや営業に携わった。転機が訪れたのは米国に赴任していた14年のこと。12年から米国シカゴに駐在し当初は通信機器メーカーなどの営業を担当していたが、ボストンに転勤になると同時に新規事業開発を任されることになったのだ。いくつかのアイデアのうちの一つがmuiボードだった。
もともと建築やデザインに興味があったこともあり、「NISSHAが持つタッチパネルの技術と組み合わせた事業を検討していた中で、せっかくなら建築家の安藤忠雄氏に採用されるような製品を開発したいと思い至ったことが着想のきっかけとなった」という。15年にはニューヨークで開催される家具やインテリアの展示会「ICFF(国際現代家具見本市)」に出展し、高評価を得た。
ただ展示会に出品したのはあくまでもコンセプトであり、技術的に立ち上げるのはそう簡単なことではなかった。というのも、親会社はあくまでも部品メーカーであり完成品を手掛けたことがない。最終製品として完成させるエンジニアやソフトウエアエンジニアが少なく、子会社のままでは限られた予算しか使えず、優秀な人材を新規採用することもままならない。
「やはり独立するしかない」。法務や人事、会計の仕組みを整備した上で親会社を説得し、共同創業者でデザイナーの廣部延安氏、エンジニアの久保田拓也氏とともに独立を果たした。量産化にこぎつけ第1世代を出荷したのは、その1年後の20年2月のことだった。
量産化できたとはいえ、muiボード単体で事業を継続することはなかなか難しい。そこで20年頃からは、クラウドの仕組みやモバイルアプリ、IoT制御などそれまで培った技術を結集し住宅メーカーやエネルギー会社向けのプラットフォーム事業を展開している。
単にインターフェースとして提供しあとはユーザー任せとするのではなく、スマートホームやエネルギーマネジメントの機能を持たせ、空間全体の制御とセットにしてこそ価値が生まれると考えたのだ。「特に、デジタル化を通じた顧客接点の創出や、LTV(顧客生涯価値)を高めながら長期的な収益につなげていきたい都市ガス会社と親和性があった」
実際、エネルギー領域でのパートナー企業は北海道ガス、静岡ガスといった都市ガス会社で、HEMS(家庭用エネルギーマネジメントシステム)やデマンドレスポンス(DR)などの取り組みで顧客接点の創出をサポートしている。また昨年出荷した第2世代のmuiボードはHEMSに対応し、住宅メーカーによる採用が進んでいる。
AIの進化により、これまでスマートホーム化のためにユーザーに求められた知識や煩雑な接続作業といった課題が解消されようとしている。機械学習などせずとも、自然な対話の中で住む人のクセや好みを判断し快適な空間になるよう制御する時代が来ているのだ。
そうした意味でも、スマートホームデバイス間を連携するための国際規格「Matter」に対応し、メーカー問わず機器を連携・制御できるmuiボードのポテンシャルは高い。
プロダクトに積極投資 自社ブランドを世界へ
muiボードというフラッグシップがありながら、同社のビジネスはパートナー企業の裏方的なものが大半を占めてきた。大木氏は、「自社ブランドのプロダクトへの投資を積極化し、いずれは世界に通じるものにしていきたい」と未来を見据える。北米とインドへの進出の準備を進めているところで、世界を視野に入れた挑戦はすでに始まっている。





