託送料金の事業報酬率〈上〉/村田千春(電力中央研究所常務理事)
託送料金制度を巡る課題の中でも事業報酬率の水準は特に重要である。
資金調達・投資判断の観点から具体的に何が課題なのか、専門家が解説する。
本稿では、一般送配電事業者の託送料金における事業報酬率について今月と来月の2回に分けて考察する。報酬率は託送料金を決定する要素であると同時に、一送の資金創出・調達、投資判断、ひいては安定供給に影響する重要な要素でもある。本稿はこれらの観点から、第2規制期間(2028~32年度)に向けた適正な報酬率設定に資することを目的としている。
事業報酬は一送の資本コストの総額を表す、託送料金の原価項目である。
日本の託送料金規制では、5年を規制期間とするレベニューキャップ制度が導入され、現在は23~27年度に至る第1規制期間に当たる。本制度では「一般送配電事業者による託送供給等に係る収入の見通しに関する省令」にのっとり、収入見通しを算定することとされている。
事業報酬は、電気事業固定資産・建設中の資産などの総額(レートベース)に、資本コストに相当する報酬率を乗じて算定される。報酬率は、全産業の自己資本利益率などを反映した自己資本報酬率と、直近の一定期間(5年間)の公社債利回りに、電力の有利子負債利子率に上乗せされるリスクプレミアムを加えた他人資本報酬率とを加重平均(3対7)した値となる。現在、第1規制期間の報酬率は1・5%と歴史的な低水準である。
22年に制定された前記省令では、託送料金算定時の報酬率と現実の資本コストに乖離が生じた際に、当期または翌期の料金にその乖離を算入することは原則として認められていない。しかし26年度以降、金利上昇に伴う一送の資金調達の支障を考慮し、公社債利回りの上昇を報酬率に反映し、託送料金を変更することを認める措置が講じられる予定である(本稿執筆時点)。


一送の資金創出の源泉 電力格付も左右
事業報酬は一送が託送料金を通じて資金を創出する主要な源泉の一つでもある。企業の資金創出力を表す指標は多様だが、代表的指標であるEBITDAは営業利益と減価償却費で構成される。事業報酬は財務諸表上、税引き後当期利益と支払利息を合計したものに相当し(図1)、資金創出力を決定付ける重要な要素である。
このことから報酬率の設定に当たっては、託送料金の低廉化と一送の資金創出力の確保という、短期的には対立する、しかしいずれも重要な目的を両立させる適正な水準設定が求められることが分かる。
企業の資金創出力は債務償還能力の源泉であり、格付機関が信用格付を行う際の重要な要素となる。電力会社に対する格付は現在、一送を含めた旧一般電気事業者全体に対して設定される傾向にある。その際、個社ごとの事業リスク・財務リスクに加え、送配電事業を含む電力全社に共通する制度枠組みの安定性が考慮される。託送料金の報酬率は、資金創出力を左右するのみならず、国の送配電事業規制の基本スタンスの象徴的表れでもあり、格付評価に一定の影響を与えると考えられる。
低廉化実現の好循環を 第2規制期間の是正が鍵
従って適正な報酬率の設定は、安定的な格付評価につながり、資金調達コストの安定に貢献することとなる。このことが公社債利回りに対する一送の資金調達時のリスクプレミアムを抑制し、報酬率の適正化に寄与すると考えられる(図2)。やや逆説的な表現となるが、適正な報酬率は、中長期的には報酬率それ自身の安定化を経て、託送料金の低廉化を実現する好循環を生み出し得るのである。昨今はリスクフリーとされる長期金利(2・4%台、10年物国債利回り、本稿執筆時点)でさえ現在の報酬率(1・5%)と比較してかなり高位に達しており、一送の収支を圧迫するのみならず、前記のプロセスとは逆の悪循環をもたらす懸念が高い。
このような実態を踏まえ、第1規制期間の26年度以降の報酬率の是正を可能とする仕組みが今般、導入されることとなった。この判断自体は正しいものと受け止めているが、第2規制期間の報酬率検討に際しては、初期段階から資金調達などに対する十分な配慮が望まれる。
次回は、現在のレベニューキャップ制度下で求められる投資計画の実現と報酬率水準との相互関係を考察する。

現職。










