【論説室の窓】木村裕明/朝日新聞 論説委員
ガソリンや軽油の流通業者に対する公正取引委員会の摘発が相次ぐ。
価格高騰を抑える補助金が投じられてきた中でのカルテルに、独禁当局の視線は厳しい。
運送業者などに販売する軽油の価格の維持や引き上げを図るカルテルを結んだ疑いがあるとして、公正取引委員会が2025年9月、石油元売り最大手のENEOS系や東日本宇佐美など石油販売8社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで家宅捜索をした。
フリート販売と呼ばれる、運送業者向けのガソリンスタンド(GS)で供給する軽油の価格を調整していた疑いを持たれている。東京に事業所がある運送業者などに売る軽油について、8社の営業責任者らが長期間にわたり、定期的な会合などで情報を交換していたようだ。8社で市場の過半のシェアを占め、特にENEOSや宇佐美のグループのシェアは高いとされる。

刑事事件化視野に強制調査 3年ぶりの「犯則調査権」
公取委の岩成博夫事務総長は記者会見で、刑事事件化を前提とした「犯則調査権」に基づく強制調査を始めたことを明らかにした。検察への告発を視野に実態解明を進めるとみられる。
犯則調査権は、国民生活に影響が大きい悪質な談合やカルテルなど、行政処分では改善を図れないと判断した事案が対象になる。適用は東京五輪・パラリンピックの運営業務をめぐる入札談合事件以来、約3年ぶり。公取委が調査の開始を公に認めるのも異例なことだ。
トラックなど大型車に使われる軽油は物流などの社会インフラを支える燃料だ。全日本トラック協会によると、軽油の価格が1円上がると、トラック業界全体で年間150億円の負担増になるという。特に使用量が多い長距離輸送への影響が大きい。
業界の99%以上が中小・零細の事業者で、燃料の高騰分を荷主に転嫁できないことが多い。燃料価格の上昇分を上乗せして請求する「燃料サーチャージ」制度に応じる荷主はあるが、その場合は最終的に消費者に負担が転嫁される可能性がある。不当に上乗せされた分の負担は、運送業者、荷主、消費者のいずれかが負うことになる。
東京商工リサーチによると、24年度の道路貨物運送業の倒産件数は353件。14年ぶりの高水準だった。燃料費高騰などによる「物価高」関連の倒産が、うち111件を占める。厳しい人手不足と燃料費の転嫁が難しいことが相まって、運送業者の経営を圧迫している実態が浮かぶ。不当な価格調整は慢性的に低賃金となっているドライバーの賃上げの阻害要因になる。高齢化に直面する業界で担い手不足がさらに深刻化しかねず、持続可能な物流インフラの妨げになることも懸念される。
軽油やガソリンなど燃料価格の高騰を抑えるため、政府は石油元売り各社に巨額の補助金を投じてきた。その額、22年1月以降で8兆円余りに上る。
そのさなかに販売会社が自社の利益確保を優先して価格競争を避けるカルテルを結んでいたとすれば、燃料油の高騰に乗じる形で法人向けの軽油価格が不当にかさ上げされ、物価高対策の効果を弱めていた恐れがある。看過しがたい不正である。
「市場の番人」たる公取委の出番だ。強制調査に着手した判断は理解できる。本稿を執筆している25年12月上旬の時点で調査は継続中とみられる。徹底した調査で疑惑の全容を解明し、疑念や不信を招く商慣行の適正化につなげてもらいたい。
燃料油の市場が縮む中、ほかにもカルテルの摘発が相次ぐ。
家宅捜索を受けた8社のうち6社は、神奈川県の業者向けの軽油でもカルテルを結んだ疑いがあり、5月に公取委の立ち入り検査を受けた。
11月には長野県内のガソリン販売で価格カルテルを結んだとして、多くのGSを束ねる長野県石油商業組合の北信支部の独禁法違反(事業者団体による競争制限)を公取委が認定、排除措置命令を出した。支部に加わる17社が課徴金計1億1658万円の納付を命じられた。北信支部が価格の上げ下げの幅と改定時期を電話などで伝え、GSは伝えられた通りに価格を決めていたと認定。組合には、カルテルを事実上容認していたとして独禁法の順守を申し入れた。




















