【コラム】ドイツの地域電力会社にみる顧客離れの構造と日本への示唆

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

国際的コンサルティングファームである Simon‑Kucher & Partnersのエネルギー調査(2026年3月3日発表)によると、ドイツの地域電力会社(地方自治体の所有するシュタットヴェルケや広域地域に展開する電力会社)への顧客ロイヤルティの低下が顕著に表れている。本コラムでは、同調査の内容に基づき顧客ロイヤルティの低下の実態と背景について掘り下げるとともに、わが国にとっての含意を明らかにする。

同調査によると、ドイツでは現在、電力会社の変更を望む顧客の意向が過去最高水準に達しており、顧客の3人に1人(33%)が変更を検討している。契約期間が2年未満の顧客では変更の意向はさらに高く50%に達する。地域電力会社への顧客ロイヤルティは低下し、その顧客は3年前の56%から2025年には40%に減少した。もはや、伝統だけではロイヤルティは保証されず、地域密着型企業だからといって顧客離れを防げるわけではない。また、現在では価格比較ポータルを通じた電力契約が一般化しており、顧客はまずポータル上で電力会社を選択する。そのため、顧客との関係は電力会社が直接築くのではなく、ポータルを介して始まる。エネルギー調査でも、新規顧客の大半(70%)が価格比較ポータルなどの外部チャネル経由で獲得されていることが示されている。

電力市場で崩壊しつつある顧客ロイヤルティに代わって、顧客獲得の決定的な要素となっているのが料金である。顧客にとって、現在のあまりにも高い料金が電力会社変更の主要な理由となっている。また、エネルギー調査では、大多数の顧客(75%)は、5~15%の値上げにも鋭く反応しているとのことであり、それは電力会社間の料金格差にも敏感であることを示している。さらに注意を要するのは、価格比較ポータルを通じた電力契約は持続可能ではないことである。価格比較ポータルの顧客のうち、最初の契約期間終了後に電力会社を乗り換える意向のある顧客は少なくとも60%に上る。また、長期契約顧客の割合は2024年の54%から2025年の47%にまで減少している。価格比較ポータルの利便性を学習した顧客は、電力会社の変更を頻繁に行う傾向がある。

ドイツでは、ある家庭用需要家が属する地域の電力ネットワークで、最も多くの需要家に供給する事業者(Grundversorger)が、標準料金(Grundtarif)を提供することを義務付けられている。標準料金は、多くの場合、地域電力会社によって提供されているが、顧客対応コストの高さから、競争事業者(Grundversorger以外の供給事業者)の料金よりも高く維持されており、この数年その差は大きく拡大している。ネットワーク規制庁(BNetzA)によると、ウクライナ危機で2022~2023年にかけて急上昇した家庭用電気料金は2023年のピークから下落し、2025年までに標準料金は6%低下したものの、競争事業者の料金はその倍以上の13%も低下している。2025年時点では、標準料金44.93ユーロセント/kWhに対し競争事業者の料金は38.20ユーロセント/kWhとその差は大きい。

また、電気料金は2023年のピークから下落しているとは言っても、その水準は依然として高い。10年前と比べると、2025年における標準料金は49%、競争事業者の料金は37%ほど高くなっている。電気料金のレベルが高いままで、標準料金と競争事業者の料金の差が拡大していることが、現在における電力会社変更を促進している。このため、地域電力会社は脱落しそうな需要家に対して、競争事業者の提供する料金に近い自由料金(2025年現在39.51ユーロセント/kWh)を提供して引き留めを図ろうとしているが、その料金は競争事業者の料金を下回っていない。その結果、地域電力会社の顧客離れは、今後も続くだろう。

日本でも、地域に根差す電力会社である旧一般電気事業者(旧一電)において、顧客離れが進展する可能性は否定できない。とりわけ注目すべきは、旧一電がGXやDXの基盤整備を担うことで生じる巨額のコスト負担が、標準料金や自由料金、新電力の料金差を超えて、旧一電に構造的な不利をもたらす非対称性を生み出すだろうという点である。

日本では、2050年のカーボンニュートラル達成を掲げ、GXを加速させている。とりわけ電力分野では、原子力発電の再稼働・新設、再生可能エネルギーの導入拡大と送配電網の強化、水素やアンモニアなどの合成燃料を活用した火力発電の商用化、さらにCCS(CO₂回収・貯留)を組み合わせた石炭・ガス火力発電の実用化など、多岐にわたる取り組みが求められている。加えて、DXも進展している。AI技術の急速な普及やデータセンター建設に伴う電力需要の増大に対応するため、発電設備や送配電網の増強が必要となるが、こうした取り組みの過程では膨大なコストが発生する。

旧一電はGXやDXの主要な担い手であり、これらに伴うコスト増は電気料金に反映せざるをえない。しかし、そのことは競争状況に影響を及ぼし、旧一電を不利な立場におく可能性がある(送配電網の増強は競争中立であるとしても)。旧一電の競争力が低下すれば、GXやDXのための原資も生み出せないというジレンマに陥ることにならないだろうか。

【ヒット商品・技術の舞台裏】家庭で誰でも焙煎士に わが家を喫茶店に大変身

岩谷産業 /MY ROAST

カセットコンロ・ガスを使ったユニークな商材が注目されている。

クラファンを使ったコーヒー豆の焙煎機もその一つ。大ヒットのワケは?

エネルギー事業者とクラウドファンディング。一見すると何ら関わりがないように見えるが、この販売プラットフォームを活用したユニークなマーケティング手法に力を入れているのがLPガス販売大手の岩谷産業だ。

クラファンでおなじみの「Makuake」を活用し、これまで、炎のゆらぎを演出する暖炉「MYDANRO」や、直火炊飯器「PROGOHAN」など、カセットガスを熱源とする新商材をラインアップして次々とヒットさせてきた。

家庭で誰でも簡単に、そして手軽にコーヒー生豆を焙煎できる「MY ROAST」もその一つだ。5万円超と割高な価格設定ながら、4500万円以上を集めた大ヒット商品となった。

カセットコンロで焙煎できる

安全対策にこだわり 手回し式をあえて採用

同社は老舗の焙煎機メーカー、フジローヤルとタイアップし、カセットコンロ仕様の焙煎機を共同開発した。

細部にこだわりを見せた焙煎機で、生豆を投入する円筒状のシリンダーは「二重構造」とし豆の表面だけが焼かれることがないような仕組みとなっている。また、シリンダーの容量は、焙煎時の煙対策を踏まえて、家庭の換気扇で対応できる200gとした。こうした設計により、火災警報器が作動せずに家庭内で焙煎を楽しむことができる。

何よりもこだわったのが安全性だ。カセットコンロの五徳の上にシリンダーを載せる際の設計には労力を割いた。開発に携わり、自身もコーヒー好きを自認するマーケティング部新商品開発担当の阿部周作部長はこう説明する。

「当社が販売するからには安心して安全に使えることが絶対条件だ。万が一にもシリンダーが五徳から滑り落ちることがないように、基礎部分に重厚なステンレス鋳物を採用し、しっかりとフィットする構造にした。シリンダーを支える持ち手のグリップは、何度も感触を確かめながらしっかりと握れるようにした」

回転方式にもこだわった。焙煎機にはシリンダーを自動で回転させる電動式と手動式がある。阿部部長は安全性の観点から手動式を選択した。「手回しの場合、焙煎者はその場から離れることはない。一方、電動式だと自動でシリンダーが回転しているため、焙煎者がその場を離れてしまう可能性がある。その際の事故リスクを考慮した」。豆の種類や焙煎度合いにもよるが10分ちょっと手回しすれば、誰でも簡単に新鮮なコーヒー豆に仕上げることができる。

手動式のほうが安全性が高いと判断した
焙煎度合いにもよるが10分程度で焙煎できる
設計に当たっては安全性にこだわった

軌道に乗るまでは苦難も 地道に消費者反応を調査

だが、開発は順風満帆とはいかなかった。「家庭用の焙煎はニッチな市場。5万円以上もする製品は売れないのではないか」と社内からは否定的な意見が多く寄せられたそうだ。

阿部部長はさまざまな展示会で試作機を紹介し、消費者の反応を地道に調査した。その反応から、「万人受けする商品ではないが、届く人には届く」とヒット作への確信を持った。東京都内で毎年開催される世界最大級のコーヒー展示会「SCAJ」にも試作機を出展。ブース前には、大勢の人だかりができたそうだ。その反響を目の当たりにし、社内の風向きも変わっていった。

阿部部長は、コーヒーに関する次なる秘作をすでに脳裏に描いている。どんな商材が生まれるのか、コーヒー好きのユーザーが注目している。

【巻頭インタビュー】原子力規制の充実に向け提言 効率的な行政機関に進化を

 細野豪志/自民党原子力規制に関する特別委員会委員長

自民党の原子力規制に関する特別委員会が、政府に対して3年ぶりに提言を申し入れた。

規制庁職員のノーリターンルールの見直しなど、その狙いを細野豪志委員長に聞いた。

ほその・ごうし 1971年滋賀県出身。95年京都大学法学部卒業、三和総合研究所入所。2000年衆議院議員選挙初当選。野田佳彦政権で環境大臣、原発事故担当大臣などを歴任。当選10回(静岡5区)。

―細野さんが委員長を務める自民党の原子力規制に関する特別委員会は6月、高市早苗首相に「原子力安全規制・原子力防災の充実・強化等に関する提言(中間報告)2026」を申し入れました。

細野 夏なので沖縄のかりゆしを着ています。

原子力規制委員会が発足したのは2012年ですが、私は当時、環境大臣や原発事故担当大臣として、組織の在り方や委員の選定に責任を持つ立場でした。大前提にあったのは、独立した規制を厳格に行うことです。安全性が確認された原発の再稼働を進めるという観点に立てば、三条委員会という建て付けで、新規制基準を策定する路線しかありませんでした。これまで規制委は、役割を果たしてきたと評価しています。

しかし、14年が経過した今、規制の在り方はバージョンアップすべき時期を迎えています。原子力に対する信頼回復を最優先する組織から、効率的かつ実効的な審査を行う行政機関へと「進化」しなければなりません。提言には、そのために必要な中身を盛り込みました。

規制庁の若手職員減少 人材交流の柔軟化で対応

―ポイントは。

細野 前回の提言から3年が経ちましたが、この間に進化の兆しは見られます。例えば特定重大事故等対処施設の設置期限については、建設が間に合わずに再稼働した原発が運転を停止する事態が相次いだため、見直しが決まりました。30年を超えて運転する原子炉に必要な長期施設管理計画は、昨年6月の制度の運用開始前に認可手続きを終了しました。前回提言の実現に向けた進捗として評価します。

今回の提言にも記載しましたが、審査の効率的実施のために重要なのは、グレーデッド・アプローチの徹底です。重要度に応じて要求の厳しさを柔軟に変える考え方で、真に安全性の確保に必要なものに審査を集中させるのが狙いです。重要度の低い変更は認可の対象を届出にするなど、申請者・審査者双方の負担を軽減する許認可制度の見直しなどを求めています。

今後は革新軽水炉への建て替えが具体化し、将来的には核融合のような新技術も視野に入ってきます。その時に、規制側が後手に回らない体制を整えておくことが重要です。

―原子力規制庁に出向した職員が元の省庁の原子力推進部門に戻れない「ノーリターンルール」の見直しも打ち出しました。

細野 このルールを導入した当時、幹部職員への適用に迷いはありませんでしたが、それ以下の若手職員にまで適用するかは悩みました。規制庁の発足に向けて人材を確保する必要があったため、施行後5年目までは例外を認める経過措置を設けました。ただ発足から14年が経ち、若手職員にノーリターンルールを適用したことで規制庁に人が集まらず、現在、実務の中核を担う30~40代の技術系職員が非常に少なくなっています。そこで今回、若手職員については、原子力に関係する他の行政機関や研究機関との人材交流を柔軟に認めるべきと提言しました。実現には規制委設置法の附則改正が必要です。制度づくりの当事者である私が見直しを主張することで、政府も動きやすくなるのではないかと考えました。

高市首相に提言を手交した

再処理工場の竣工目前 保障措置の充実必至

─六ヶ所再処理工場の竣工を見据えて、保障措置(原子力を軍事転用させないための監視・検認)の体制充実も盛り込まれています。

細野 これまで、使用済み燃料はプールやキャスクで保管されており、管理の対象としては比較的把握しやすかったです。一方、再処理工場では燃料を裁断してプルトニウムを抽出するため、核物質の計量管理がより複雑になります。IAEA(国際原子力機関)の関心がいっそう高まり、これまでのような公益法人を中心とした体制では対応が難しいでしょう。わが国が国際的な信頼を維持し続けるためにも、独立行政法人の新設を含めた体制整備が必要だと提言しました。7月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」にも盛り込まれています。

―最後に規制庁と事業者へのメッセージを。

細野 この数年で、日本のエネルギーを取り巻く環境は激変しました。化石燃料の地政学的リスクが明確になった一方で、AIや半導体産業の急成長で電力需要は急増し、省エネだけで乗り切れる時代ではありません。こうした中、原子力の重要性については国民的な合意が形成されつつあると感じています。規制機関はエネルギー供給に直接責任を持つ立場ではありませんが、広い意味でのエネルギー安全保障を支える一翼として進化に期待します。

事業者には、まずは安全確保を大前提とした再稼働を進めてもらいたいです。特にBWR(沸騰水型軽水炉)の再稼働は道半ばです。人材・技術力の維持という点では、いま現場を引っ張るベテラン技術者が引退するまでの数年が重要な局面となります。次代を担う技術者の育成が欠かせません。

【論説室の窓】原発建て替えの公的支援 政府の笛に事業者は踊るか

 神子田 章博〈NHK〉解説主幹

政府が50年代までに原発11~14基の建て替えが必要との見通しを示した。

事業者の予見性を高める狙いだが、資金調達という最大の壁を乗り越えられるのか。

政府は6月、2040年代までに2~5基、さらにこの2~5基も含め、50年代までには11~14基の原子力発電所の建て替えが必要だとする見通しを明らかにした。しかし建て替え実現に向けては、原発の安全性に対する社会からの信頼の確保に加えて、原発建設にかかる巨額の建設費をどう確保するかも課題となる。

まず、建て替え目標の意味について見ていく。最大の狙いは増える電力需要への対応だ。政府の電力需要見通しによると、生成AIの普及やデータセンター、半導体工場などの増加にともなって、40年代には1・1兆~1・2兆kW時の発電電力量が必要になると見込まれている。去年まとめられた第7次エネルギー基本計画では、このうちの2割程度を原発で賄う方針が示されている。これに対し、原発は現行の規制で運転可能年数が原則として60年となっており、45年以降になると次々に運転停止を迫られる。稼働する原発の数は減り、40年代には、求められる設備容量に対して約220万~550万kW不足すると予想される。原発1基あたりの設備容量を120万kWと仮定すると、2~5基の建て替えによって、不足分を補わなければならない計算になる。50年代までに必要とされる建て替えの数についても、同様の考え方で計算され得るものだ。

建て替えが見込まれる美浜原発

1兆円を超える巨額コスト 長期脱炭素はローリターン

こうした数字を今回政府が示したことには、どのような意味があるだろうか。原発は、計画から建設、さまざまな安全検査を経て運転開始にたどりつくまで20年近くがかかる。建て替えに向けて残された時間は少なくなってきている。そこで政府が「将来のエネルギー源の中でどれだけ原発の活用を当てにしているか」を具体的に示すことで、発電事業者の事業の予見性を高める狙いがある。さらに原発産業の将来像を示すことで、関連メーカーを含めたサプライチェーンの維持や、人材の確保を通じた技術の継承にもつなげたい考えだ。こうした政府の対応について電気事業連合会の森望会長も「国として将来にわたり原子力を活用していくという力強いメッセージ」だとして歓迎の意を示した。

果たして、この政府の〝笛〟で、発電事業者が〝踊る〟ことになるのだろうか。そこに大きく立ちはだかる壁が、原発新設に向けた巨額の資金調達の問題だ。新たな原発を建設するには、1兆~2兆円という巨額のコストが必要だといわれる。それだけのコストを回収することができるのか、事業者は難しい判断を迫られる。かつては発電所の建設費用や設備の維持費・燃料代などの経費に利潤をのせる形で電気料金が設定されていたため、電力事業者はコストを容易に回収できたという。しかし今や自由競争原理の中で料金が決まる。巨額のコストを電力の販売で確実に回収できるか不安が残る。

こうした中で、企業の投資判断を後押ししようという公的な支援策が整備されつつある。その一つが長期脱炭素電源オークションといわれる仕組みだ。これは原発や再生可能エネルギー、揚水発電など脱炭素につながる設備を対象に、建設にかかるコストを回収しやすくする仕組みだ。具体的には電力広域的運営推進機関(OCCTO)が、電源の種類ごとに、設備の運転開始の時期や、新たな設備から生み出される脱炭素電源の容量を示して、入札を実施する。落札した電力事業者は、最短でも20年の間、建設にかかった資金を受け取れる。その資金は、将来の電力供給を確保したい電力小売事業者が広域機関に拠出する。

ちなみにこの制度では、あらかじめ建設資金の回収を約束された電力事業者が、発電所の運転開始後に、より多くの利益を稼げる構図となることから、発電事業者があげた利益の9割は広域機関を通して小売事業者に還元されることになっている。このため、発電事業者の取り分は1割という〝ローリターン〟になるが、それでも巨額の投資を回収できる予見性が高まる=つまり 〝ローリスク〟にすることで、投資に及び腰となる電力事業者の背中を押そうというのである。

広域機関が財投活用 残る原賠法の無限責任

ただ電力事業者が巨額の投資に前向きの判断に傾いたとしても、手元に先立つものがなければ発電所の建設は進まない。そこで先の国会で成立した改正電気事業法では、大規模な脱炭素電源の整備に必要な資金について、広域機関が財政投融資などを活用し民間の金融機関と協調融資を行うことができるようにした。原発の建設費が巨額となる中、必要な資金を巡っては複数の民間の金融機関が協調で融資を組むケースが予想されるが、それでも足りない分を新たな協調融資の仕組みで補おうというのである。政府は原発の新設にかかる費用については、その3割程度をこの協調融資で確保できるようにすることを検討している。

このように原発建設の投資判断、建設コストの資金調達を公的にサポートする仕組みは整いつつある。それでも必要な融資を民間の金融機関から引き出すのには、もう一つの懸念が残る。原子力損害賠償法の存在だ。現行の制度では、原発で重大な事故が起きて損害を生じさせた場合に、過失の有無にかかわらず、青天井に損害賠償を負う無限責任の原則が定められている。

東京電力福島第一原発の事故が示したように、ひとたび新たな事故が発生すれば、その損害は莫大なものとなる恐れがある。このため金融機関側は、電力会社への融資は行える場合でも、原発プロジェクトのファイナンスには慎重になりがちだと聞く。原発の建て替えに向けては、地域住民や国民の信頼を得ることに加え、金融機関が「事業のリスクは限定的」と判断できるだけの、万全の安全対策が求められることになろう。

【論点】DCが押し上げる電力需要 米国が直面するパラダイムシフト

 米国DC事情 /山田竜也(日立製作所 エナジーマーケティング部シニアストラテジスト)

米国ではデータセンターの電力需要が指数関数的に伸び、多方面で劇的変化が起きている。

日本でもその対応を教訓とし、制度検討や次世代システム構築が急務となっている。

世界的な生成AIの利用拡大に伴い、データセンター(DC)の電力需要はかつてない規模とスピードで膨張している。米国では、わずか2年前に「GW(1GW=100万kW)級のデータセンター」という言葉が初めて使われて以降、現在では数百GW規模の新たな接続申請が殺到する事態へと激変している。過去のインターネット普及時をはるかにしのぐ、指数関数的な電力需要の爆発である。

この1年間で、DC業界と電力業界の関係は決定的なパラダイムシフトを迎えた。これまでDC事業者は、安定した電力供給を要求する受動的な需要家であった。しかし、送配電網の容量不足が最大の壁となる中、自ら電力システムに歩み寄り、協調と統合を図る能動的プレーヤーへと変貌を遂げつつある。

そうした中、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、6月18日に六つの地域/独立送電機関(RTO/ISO)に対し送電網改革を促す命令を発出した。①代替送電技術の検討を含む、送電サービス申請および連系審査プロセスの抜本的な見直し、②コスト転嫁の防止とインフラ増強に関する透明性の確保、③電源併設(コロケーション)契約とビハインドザメーター発電の適切な枠組み構築、④多様な大規模需要へ柔軟に対応可能な新たな送電サービスの創設、⑤大規模需要や併設負荷に近接して電力を供給する発電施設への対応ルール整備―の五つの視点を掲げる。

米国ではDC爆増に伴い需給で多くの問題が発生

電力設備の課題解決へ 改革に掲げる五つの視点

改革の背景にはDCを取り巻く事業環境のパラダイムシフトが五つある。第一に「規模感」だ。最新のAI向けDCはもはや単なるサーバー群ではなく、AIファクトリーと呼ぶべき巨大な計算設備だ。従来は数MW(1MW=1000kW)規模であったものが、今や一つの施設で数百MWからGW規模の電力を要求し、地域の送電網に極めて深刻な負担を強いる。

第二に「負荷特性」。AIの学習を実行するGPUは、数ミリ秒単位で数十MW規模の急激な電力スパイク、いわゆるパルス負荷を引き起こす。この極端な負荷変動は、電力網の電圧低下をもたらすだけでなく、併設された発電機のタービン軸をねじ切るほどの物理的ダメージを与える危険性を孕む。

第三に「時間軸」のギャップだ。DC建設が18~30カ月で完了するのに対し、送電網の大規模な増強には5~10年を要する。この時間的ギャップを埋めることが死活問題となる。

第四に「電力会社のスタンス」の変化である。電力会社は全ての需要家への安定供給と料金維持を第一の使命とする。一部の巨大なDCのために巨額のインフラ投資を行い、そのコストを全ての需要家で負担することは公平性の観点で問題となる可能性がある。米国各州では「成長に伴うコストは成長をけん引する顧客自身が払う」という原則の下、DC事業者にインフラ費用の完全前払いや数億ドル規模の信用状による担保を求める厳格な制度が採用されている。

第五に「解決アプローチ」の転換である。物理的な送電網の増強をただ待つのに代わり、ソフトウェアの力で既存系統の潜在能力を極限まで引き出す「GETs(系統増強技術)」の活用が不可欠となっている。気象予測データなどを解析し送電容量を動的に算出するダイナミック・ライン・レイティングや、系統のトポロジー最適化など、ハードウェアの追加なしにソフトウェアの制御のみで容量を即座に解放する技術が極めて重要視されている。これに加え、米国電力研究所が策定した「フレックス・モザイク」指標を用い、DC側が自律的な出力制御をソフトウェアで高度に連携させて提供し、系統連系を早めるアプローチも急ピッチで進む。

日本でも費用負担が論点に 需給一体のシステム構築を

米国で先行するこれらの事象は、日本市場への強力な示唆となる。日本でもデジタル化の進展に伴い、特定の地域に局所的な大規模需要が集中する傾向が見られる。これに対応するための上位系統の増強費用を誰が負担するのかが大きな論点となっている。資源エネルギー庁の次世代電力系統ワーキンググループなどの議論においても、この局所的な需要増加の原因者である大規模需要家に対して、系統増強費用の負担をより公平に求めるための制度見直しが議論されている。特定のデジタル産業のための巨額のインフラ投資が、一般の需要家の電気料金高騰へとつながらないようにする、負担の在り方の整理が必要だ。 並行して、需要家側がソフトウェアを通じて柔軟性を提供し、既存系統を最大限に活用する取り組みの深化も求められる。供給側と需要側が一体となって電力システムを支える制度設計を急ぐ必要がある。

こうした激変する市場環境において、われわれ総合インフラベンダーの役割も変化している。単なるハードウェア提供ではなく、ソフトウェアによる高度な制御・最適化を融合させ、早期稼働と系統安定化を両立する次世代電力システムの構築を力強くけん引していくことが求められている。日本の経済成長においてキーとなるDC事業を支える電力インフラ構築に向けて、当社では、電力インフラ構築に貢献すべく、国内で長年蓄積してきたIT、OT(制御・運用技術)、プロダクトの知見と海外市場での経験も生かした取り組みで貢献していきたい。

やまだ・たつや  1987年北陸電力入社。日本エネルギー経済研究所出向を経て2002年日立製作所入社。日立東大ラボエネルギープロジェクトメンバーとして政策提言立案に従事。電気学会正会員。

【イニシャルニュース】 K室長巡る異例人事 S氏の言動が影響か?

「やはりこの異例ともいえる異動には、S氏の言動が影響しているとしか考えられない。『LPガス取引適正化アドバイザリーグループ』の委員を選任した責任を取らされたのだろう」

業界関係者D氏がこう語るのは、7月13日付でデジタル庁への異動が決まった、資源エネルギー庁燃料流通政策室のK前室長を巡る人事についてだ。同日、人事発令のあった経産幹部はほかにもいる。それでもK氏だけが異例と言われるのには理由がある。

それは、その1週間ほど前に、同月22日にLPガスの取引適正化を議論するエネ庁の「液化石油ガス流通ワーキング(WG)」が開催されることが業界関係者に伝えられていたことだ。

S氏発言がエネ庁に影響を与えた?

昨年6月に開催されてから1年以上の間、同室は暫定税率廃止やホルムズ海峡の実質閉鎖に伴う備蓄放出を含めた石油確保やガソリン価格高騰への対応に忙殺され、同WGは開催されていなかった。「今回がK室長の下で開催される初のWG」。誰もがそう認識していた。

この人事に影響を与えたと目されているのが、前出のS氏だ。LPガス事業者を対象としたコンサル業を営んでおり、業界関係者の信頼厚い人物だ。アドバイザリー委員の一人でもある。S氏は、4月4日放送の「報道特集」(TBS系)に出演し、ナフサ供給を巡り「間違いなく、今の状況が続いたら6月に詰むんですよ、日本」と発言。その後も、エネルギー問題の枠を超えて高市政権への批判を繰り広げた。

言論の自由は誰もが保障されているし、まっとうな政権批判はあってしかるべきだ。だが、S氏が元E社の社員であることやエネ庁のアドバイザリー委員であることを前面に出して徹底した政権批判を繰り広げることには、「LPガス商慣行是正とは違うところで悪影響が出てしまうのではないか」と、関係者らをやきもきさせていたのも事実。

そしてその懸念は現実となった。事情通のZ氏は、「真相はともかく、S氏の発言を巡りK氏はH次長から𠮟責を受け、他のアドバイザリー委員をはじめ関係者にお詫びの連絡していたことは間違いない。優秀で熱意もあっただけに残念だ」と吐露する。

「一部地域では、省令改正前よりも悪質な営業が横行している」(LPガス販売事業を手掛けるX氏)という現場の実情もあるだけに、新室長の下、早急な体制の立て直しが期待される。

大手マスコミは弱腰!? 政権と一体化の声も

高市早苗政権に対する大手マスコミの弱腰が目立っている。高市首相の記者会見は相変わらず少ないにもかかわらず、記者会側から批判が上がっている様子はない。高市氏も、国会で野党議員からマスコミ対応の少なさを問題視する質疑が行われても「試行錯誤しながら見出してまいりたい」と改める気がないようだ。

むしろSNS発信には積極的で「今日のお休みは本当に有難く、久々に5時間も睡眠を取れた上(総理就任以来、0時間〜3時間睡眠が常態化)、昼からは、手付かずだった大量の洗濯後のハンカチやインナーのアイロンかけと、お裁縫(スカートの裾のほつれのまつり縫いやジャケットの緩んだボタンの補強)を一気に処理」と多忙をアピールする有様だ。こんな一方的で都合の良い、言いたい放題な発信を続けているにもかかわらず、大手マスコミの追及は鈍い。

石破茂前首相は戦後80年談話を発表した際の記者会見で「メディアと権力が一体化するのが一番怖い。誰も批判をしなくなるから。われわれも心しなければならないし、メディアの皆様方にも心していただきたい」と語り、先の大戦での教訓を説いた。

在京キー局のJ氏は「高市政権とマスメディアは石破前首相が指摘するようにまさに一体の関係にある。記者対応の悪さは群を抜いているのに、特落ち怖さに誰も苦言を呈さない。政権に完全に取り込まれてしまっている」と指摘する。

今年もまもなく先の大戦の記憶に触れる機会がくる。高市首相がどんな談話を出そうとも、メディアが糾弾することは期待薄だろう。やはり都合の良い情報をメディアが垂れ流し続けて敗戦の道を辿った歴史は繰り返されるのであろうか。

だとしたら、「オールドメディア」と揶揄される大手マスコミ不要論が高まるのは避けられそうもない。

【事業者探訪/秦野ガス】足腰強い経営目指して 地域連携や新規事業の種まきに意欲

国内外の情勢変化を見据え、持続可能な経営に向けた歩みが進んでいる。

足元は幅広い分野で地域連携を図り、将来の柱となる事業の模索も始まった。

都心から電車で1時間ほどの距離にある神奈川県秦野市は、県内唯一の典型的な盆地で、水や緑に恵まれる自然豊かなエリアだ。さらに東名や新東名高速、小田急小田原線などが通る交通の要衝でもある。

そんな地域のエネルギー供給を長年支えてきた秦野ガスは、今年12月に70周年を迎える。1950年代から都市ガスの供給を始め、96年に一部で天然ガスの供給を開始。99年1月から進めた全供給区域での天然ガスへの熱量変更は半年ほどで完了し、以降は東京ガスから卸供給を受ける。

昨年4月に就任した奥井社長

今は平塚・伊勢原市を含む約1万4800件に年間1800万㎥程度の都市ガスを供給。さらに2カ所・約520件でコミュニティーガスを、LPガスは約1350件供給する。2016年には東ガスの取次店として電力販売に参入した。

昨年4月から、東ガス出身の奥井智治氏が社長を務める。初年度から重点的に取り組むのが、中長期の課題を見据えた中期経営計画(25~27年度)の実践だ。①既存事業の着実な実践、②GX・DXの進展や新規事業の探索、③将来を見据えた持続可能な体制構築―が柱。DXに関しては勤怠・経理のシステムを導入済みで、さらにRPA(パソコンを使う定型業務をロボットによる自動化)などの活用による仕事の効率化を進めている。

新規事業に関しては、ガスと親和性のある内容を選定中だ。奥井社長は技術畑出身で、東ガス時代にスタートアップ投資の経験がある。「資金に限りがある中、それぞれの事業性を分析し何にどの程度投資するか。自身の経験を生かして次世代の収益の柱への種まきをしたい」と語り、来年には第一号に着手したいと意気込む。

東ガスとの連携第一号 市のCNや強靭化を支援

さらに昨春には東ガスグループと共同で、市浄水管理センターで太陽光発電のPPA(電力販売契約)サービスを始めた。地域のレジリエンスと脱炭素の同時実現を目指す試みだ。

東ガスと市との3者で21年11月にカーボンニュートラル(CN)に向けた包括連携協定を締結した。「東ガスは関東のガス会社との連携を積極的に展開し、今では数多くの例があるが、実は秦野が第一号案件」と奥井氏。その取り組みの第一弾が、浄水管理センターへの太陽光PPAとなる。「地域連携の好事例で、開始から1年以上たつが計画通りの稼働を確認している」と強調する。

汚泥処理などで大量の電力を消費しており、一部をオンサイト太陽光で賄う。設備容量約500kW、年間発電量は62万kW時程度で全量を浄水管理に活用する。センターのCO2排出量は、1割ほどの削減効果を見込んでいる。

レジリエンスの面では、市役所への中圧導管設置も大きい出来事だった。09年に経年管の更新を機に中圧を引き込み、供給が停止しても地域の防災拠点を早期に復旧する体制を整えた。

また、先述の包括協定を機に、幅広い場面で市との連携を深めている。社内に災害時帰宅困難者の待機スペースを設け、さらに地域でより親しまれる存在を目指し、環境学習や自然保護の普及啓発拠点として市が所有する「くずはの広場」のネーミングライツを取得。「秦野ガス・ネイチャーパークくずは」と命名し、ネイチャーポジティブに意欲的に取り組んでいる点をアピールする。

浄水場での太陽光PPAなど地域連携を推進

期待かかる新東名全線開通 地域貢献活動も積極展開

地域活性化の切り札として期待がかかるのが、新東名高速の全線開通だ。東名の第2ルートとして建設が進み、22年にかけて海老名南JCTから新秦野ICまで開通した。だがその先の新御殿場ICまでの約27‌kmが未開通で、完成は当初計画から遅れ、昨年も27年度から1年以上遅れる見込みとの発表があった。

完成すれば交通アクセスはさらに向上し、IC近くに新たな工場を誘致する計画もある。同社はそこへのガス供給を視野に入れる。「需要家によってガスの使い方も違うので様子見の状態」であり、投資判断の時期を慎重に見定めている。

地道な地域貢献活動も重視している。ショールームでは月20回ほどワークショップを開き、毎回抽選になるほどの人気ぶり。少年スポーツ活動への助成や、10年以上続くエコクッキング出張授業なども好評だ。珍しいところでは、地域で集めた思い出のランドセルをアフガニスタンの子供に寄付する取り組み(公益財団法人のジョイセフ主催)への参加も。足元の中東情勢の影響により今年度は中止されたが、折をみて再開を検討したいという。

「地域密着で行政と連携し、顧客視点での提案にさらに力を入れていく。ガスのプロとしてCNなどのニーズに応えることはもちろん、新領域でも意欲的にチャレンジしていきたい」。70年、100年、さらにその先へとバトンをつなぐべく、持続可能な経営への挑戦は続く。

 地域の魅力発信 おいしい秦野の水

秦野盆地の地下には天然の水がめがあり、豊富な地下水が市内の随所で湧き出る。環境省主催の名水百選に「秦野盆地湧水群」として認定され、「名水百選選抜総選挙」ではおいしさを評価する部門で、地下水をボトリングした「おいしい秦野の水 丹沢の雫」が全国1位に。この名水を使ったそばの味わいも通の間で評判だ。市内には自家製粉手打ちなどこだわりの蕎麦屋が何軒かある。

おいしい秦野の水
提供:秦野市

【業界紙の目】鉄鋼業界のシビアな現実 グリーン価値認める意識喚起を

世界がカーボンニュートラル実現に動いている中で、鉄鋼業界も対策にまい進している。

一方で、設備投資や技術開発の負担は大きく、環境社会実現と経済性の両立は容易ではない。

 高野祐二 /重化学工業通信社 編集部係長

国内鉄鋼業界では目下、設備投資が活発だ。ただ、足元の国内鉄鋼需要低迷など市況が厳しい中、鉄鋼各社の投資目的の多くが、老朽設備更新、生産性向上、電磁鋼板などの高級鋼材増産、環境投資だ。とりわけCO2などのGHG(温室効果ガス)排出量削減対策が目を引く。

日本政府は2050年までのカーボンニュートラル(CN)の達成目標を掲げる。世界的にもCO2排出に厳しい目が注がれる中、国内産業部門のCO2排出量のうち約4割弱を占める鉄鋼業界が直面する現状は、シビアだ。

国際的な環境基準に基づき、日本鉄鋼連盟はカーボンニュートラル行動計画を策定。エコプロセス(自らのプロセスによる省エネルギー化/CO2排出量削減)、エコプロダクト(高機能鋼材の供給による製品使用段階でのCO2排出量削減)、革新的技術開発(長期的・抜本的なCO2削減技術開発)などの目標を打ち出した。30年度のエネルギー起源CO2排出量(エネルギー利用に伴う化石燃料使用によるCO2排出量)を13年度比で30%削減する方針だ。

このうち、高炉を持つ高炉会社(鉄鋼メーカー)を中心に、鉄鋼生産工程のCO2排出量低減の現状と課題を概観した。

高炉のCO2減や電炉転換のハードルは高い

鍵は粗鋼生産 投資・技術にハードル

鉄の生産工程として、鉄原料から粗鋼(鋼)を生産した後、圧延、表面加工などを経て、薄板、厚板、線材をはじめとした各種鉄鋼製品に仕上げる。

このうち、粗鋼の生産には、高炉法と電気炉(電炉)法がある。

高炉法では、高炉に鉄鉱石と石炭コークスを投入し、溶解、還元(炭素で鉄から酸素を除去)するなど、銑鉄(炭素を多く含み脆い鉄)を生産する。銑鉄を転炉に投入し、鉄からの炭素や不純物の除去、成分調整などを行い、鋼にする。この過程で、多くのCO2が放出される一方で、電炉法は、高炉より小型炉の中で鉄分を電気熱で溶解する。主原料には、鉄スクラップなどが用いられる。

粗鋼生産の鉄原料には、鉄鉱石を天然ガスで還元する直接還元鉄も使用される。

高炉法は高品位鋼の大量生産に向くとされる。日本鉄鋼連盟によると、25年国内粗鋼生産のうち7割強が転炉鋼(高炉)だ。

ここで、環境・エネルギーの観点からも高炉法と電炉法を比較したい。業界関係者と有識者などによるGX(グリーントランスフォーメーション)推進のためのグリーン鉄研究会の資料(25年1月)を参考にした。

電炉のCO2排出量は、高炉より少ない。鋼材1tの生産工程では、電炉のCO2排出量が、高炉の約4分の1になるという。

一方で、電炉の電力消費量は、高炉のそれより多い。鉄1tの生産に必要な電力量では、従来電炉法は高炉・転炉法の10倍弱になるという。もちろん、技術の向上から省電力も見込まれるが、見逃せない点である。また、電力調達も課題だ。

こうした点からみると、高炉全てを電炉にすれば解決するほど単純ではない。ただ、CO2排出量を抑えた粗鋼生産には、電炉は即効性がある。このため、欧米やアジアの高炉会社が、電炉の建設による高炉からのシフトを進めている。

日本でも、日本製鉄が九州と瀬戸内(広畑)、山口の各製鉄所の大型電炉建設・増設・改造・再稼働に総額8687億円の投資を発表。JFEスチールも西日本製鉄所(倉敷)の大型電炉建設などに総額3294億円の投資を決めた。神戸製鋼所も大型電炉の建設を検討中という。

これらには、経済産業省のGX経済移行債のスキームにより、大きな支援も得られるが、各社は慎重に検討し経済合理性を鑑みて判断したという。また、電炉における高炉と同水準の鉄品質や生産性の実現、原料調達もポイントになる。

一方で、高炉のCO2排出量低減についても、経産省による2兆円超のGI(グリーンイノベーション)基金を活用した、CO2排出量削減の革新技術の開発が進められている。例えば、高炉会社などが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援の下で進める高炉水素還元技術の開発だ。これは、高炉の還元剤に水素を投入して、石炭の使用量を大幅に減らす技術だ。国内製鉄所で実証を行っており、今年初頭時点で世界最高水準のCO2排出量44・5%削減を確認した。

ただ、使用する加熱水素の安全性や生産性の検証が必要など、同技術の社会実装は40年代頃になるという。また、水素の調達やコストの課題もある。さらに同技術を導入してもCO2は一定量出るため、CCS(CO2回収・貯留)も求められる。

このようにコストや時間などのハードルは低くない。

経済性問われる環境投資 公的補助なしでは厳しく

CNが全産業で求められる昨今、鉄鋼業界も目標達成に向けた取り組みを急いでいる。一方で、この実現には巨額な投資コスト負担も避けられず、投資回収予見性(経済性)は無視できない。鉄鋼業界のCNに対する、評価と付加価値理解が必要だ。

そのヒントの一つが、生産工程のCO2などの排出量削減効果を反映させた「グリーンスチール」。高炉会社などがブランド製品を展開している。グリーンスチールは、国等による環境物品等の推進等に関する法律(グリーン購入法)に基づく公共事業の優先購入や、一般産業界でも自動車や船舶、建設、電機、橋梁などの分野で採用が広がり始めている。

鉄鋼業界の環境関連対策の成果は出つつある。ただ、環境関連投資は公的補助なしではまだまだ厳しいのが現実といえよう。

総じて、CNの追求と実現は必須だが、安くもない。各社の企業努力と公的補助任せではなく、環境負荷低減製品に対する付加価値の認識と健全な経済性が担保される社会的環境の構築が必要だ。これは鉄鋼のみならず産業界全体に通底するものだろう。各産業界の今後の動向に注目したい。

〈重化学工業新報〉重化学工業通信社発行〇1954年11月創刊〇発行部数:約3千部〇読者構成 プラント機械輸出企業、銀行・調査機関など

【LPガス大変革時代に挑む】創業100周年を見据え お客さまに寄り添い 海外展開をさらに推進

 川本知彦 社長/サイサン

かわもと・ともひこ 獨協大学法学部卒業後、リンナイに入社。香港の現地法人に3年半駐在。02年サイサン入社。25年10月から現職。

全国約190拠点、世界9か国で展開中のガスワングループ。

2045年に売り上げ1兆円、世界一のエネルギー小売りを目指す。

―昨年10月1日、創業80周年という節目に社長に就任されました。その時の思いをお聞かせください。

川本 2012年から副社長として当時の社長と共に経営に携わってきましたが、創業者から二代目、三代目、そして四代目の自分へと80年かけて受け継がれてきたバトンの重みを改めて感じました。ただ、プレッシャーではなく、より責任のあるポジションで思い切り仕事ができるありがたさを感じつつ、職務をしっかり全うしようと思いを新たにしました。

―今、どのような経営ビジョンを描いていますか。

川本 1945年に創業し、2045年に100周年を迎えます。現会長の川本武彦が社長だった時に発表した「100周年ビジョン」で、世界一のエネルギー小売り企業と売上高1兆円の達成を掲げました。私が四代目に就任してもその目標を見据え、従前の歩みを引き継ぎ、着実に前進させ、自分の任期を全うしていきます。そのベースとなるのは、すべての判断基準であり基軸でもある、経営理念「お客さま第一主義」と社員綱領「凡事徹底」です。

変化をチャンスに LPガスの強みが顕在化

―主力のLPガス事業は、昨年の液化石油ガス法(液石法)省令改正など次の世代に向けた大きな変化の局面にあります。LPガス事業の現況についてどうお考えですか。

川本 まず、液石法の改正については非常にポジティブに捉えています。これまで料金などがエンドユーザーにとって不透明だった点を見直し、襟を正す良い機会です。むしろ、ガスワングループのQuality(品質)、Price(値段)、Service(サービス)をお客さまにしっかりお伝えし、ガスワンを選んでいただくチャンスだと考えています。

また、第7次エネルギー基本計画でLPガスの重要性が改めて示されました。現在の中東情勢においても、LPガスの調達はほぼアメリカであり、ホルムズ海峡由来の割合はわずかなものです。そのため供給途絶の心配はないと考えられます。

わが国にとって最も安定的に調達できるエネルギーであり、全国にインフラが整備されていること、災害に強いエネルギーとして注目の分散型であること、そして何より備蓄や可搬性に優れていることはとてつもないメリットです。LPガスの強みが今まさに顕在化している時代だといえます。

―今後の課題についてはどうお考えですか。

川本 やはり最大の課題はカーボンニュートラルです。しかし、これも私はポジティブに捉えています。03年にガスワングループを立ち上げた時から、そのミッションを「お客さまにとって最も身近なホーム・エネルギーパートナー」と定めました。なぜなら、お客さまが本質的に求めているのは、「美味しい料理を作りたい」「ゆっくりお風呂に漬かりたい」「快適な空調が欲しい」という暮らしの目的だからです。ガスというエネルギーはそのための手段に過ぎません。だからこそ、当社はエネルギー供給の担い手として、お客さまの暮らしに寄り添うパートナーでありたいと考えました。この基本理念に忠実であれば、必ず世の中から必要とされる存在になると確信しています。

本社入口に掛かる「凡事徹底」

M&Aを積極展開 充填や配送では他社と協力

―カーボンオフセットLPガスにはどのように対応していますか。

川本 38都道府県にある約190の拠点を通じた幅広いネットワークを生かして、すでに多くのお客さまに供給しています。例えば、埼玉西武ライオンズのベルーナドーム、ラグジュアリーホテルのザ・リッツ・カールトン日光、伊勢神宮参りのお菓子で有名な赤福の工場や、大谷翔平選手の母校・花巻東高校の寮などです。また、電気に関しても供給が進んでおり、埼玉りそな銀行、武蔵野銀行などにも供給しています。

―M&Aの実績が豊富ですが、今後の方針をお聞かせください。

川本 今後も積極的に展開し、地域で築き上げてきた信頼を守っていきたいと考えています。日本全体が人口減少という課題を抱え、産業の成長が見通しにくい現在、世代交代や廃業に直面する企業が増えています。そうした中で、手を携えて、地域で長年培われた信頼を引き継ぎ、両社が納得する形で事業を継続できるのは大変ありがたいことです。

―他社との連携についてはどのように考えていますか。

川本 ボンベの運搬や充填などに関しては、同じエリア内で同じ事業を行っている企業が複数存在していることを踏まえると、信頼できる同業者とパートナーシップを組み、効率化を図っていくべきだと考えています。地域ごとに、信頼できる事業者と共に進んでいきたいと願っています。

【覆面ホンネ座談会】脚光浴びる蓄電池 実情と将来展望を探る

Theme:蓄電池「新戦略」を読み解く

6月2日、経済産業省はこれまでの「蓄電池産業戦略」を「蓄電池・電源産業戦略」に改訂した。再生可能エネルギー主力電源化時代の系統安定維持の役割が期待される蓄電池だが、系統接続などの技術的な議論や市場ルールの整備はまだ途上だ。日本の蓄電池ビジネスが目指すべき未来を考える。

〈出席者〉  Aシステム関係者   Bアグリゲーター   Cアセットオーナー

―まずは、改定された蓄電池・電源産業戦略への評価を聞きたい。

A 主な変更点としては国内製造の拡大とグローバルプレゼンスの向上、そして次世代蓄電池市場の獲得の3点がある。太陽光発電の反省を生かし、蓄電池はある程度国がイニシアチブをとっていくことを示した点は評価できる。ただ、中国が巨額の設備投資を行い量産化で低価格化が進む中、日本がグローバルプレゼンスをどうやって高めていくかは課題だ。米国もEU(欧州連合)諸国も、蓄電池や関連部品の規制を強化しており、脱中国を進めているから、そこをどう取り込むかは国の役割になるだろう。

B 太陽光などの再エネが増えたことにより、既存の火力発電所の稼働率が落ちて採算が取れず市場退出が起きている。それを無理に残そうとすれば、結果として国民負担が増えていく。だからこそ、ピークを含めた電力の調整役として一定量の蓄電池をきちんと入れていくという方針の下、戦略が見直されたことは非常に意義深い。今後は具体的に、蓄電池産業のどういったところに重点的に補助していくのかといったことを各方面の関係者の意見も踏まえた上で決定し、効率的で費用対効果の高い投資をしていくべきだ。

今回の戦略には、上流権益やサプライチェーンの強化が盛り込まれているが、今から日本勢が上流権益を取りにいっても、安く権益は取れないだろう。結果、セル製造に重点投資をしても、競争力はあまりないのではないか。それよりも、セキュリティー面からも再エネを含むインバーター電源の肝であるパワーコンディショナー(PCS)やEMS(エネルギーマネジメントシステム)の生産力強化に注力すべきではないか。特に、低圧太陽光では喫緊の課題だ。量産すれば価格も下がっていくし、国内で毎年発生する数GW規模の太陽光の定期的なリプレース需要もあり、メーカーは今からセル製造に挑むより、パワコンや制御システムにリソースを集中するほうが、よほど意義がある。

C 中を見ていくと、2030年度の目標価格として、業務・産業用蓄電システムは工事費込みで1kW時当たり6万円としているが、今すでに4万円を切っている状況だ。定置用で一時的にリチウム価格やリブが上がったりしたとしても、さすがに6万円という目標値はピンとこない。グローバルで戦うというのに、海外の低価格帯と比べ3倍のコスト。純国産であることやこの価格水準に固執してしまうと、買う人はいないだろうし勝負にならない。製造側だけでなく、サービスを利用する側からどれぐらいの価格水準が妥当かという観点も、戦略の実現に向けては必要だ。

電力インフラとしても役割が増す蓄電池

圧倒的ボリューム占めるEV向け イラン危機の教訓踏まえ促進政策を

―日本ではEVが低調で、これも蓄電池導入を足踏みさせそうだ。

B 世界的に電池の利用先の圧倒的なボリュームはEVで、その残りの部分が定置用に回っているという構造だ。そのため、やはりEVがどこまで伸びるかが肝心だ。中東危機による燃料高騰でアジアや欧州ではEVが売れている。ところが日本はIEA(国際エネルギー機関)も批判するガソリン補助金によって、産油国でもないのに先進国でガソリン代が最も安いというおかしな状況になってしまった。EV100万台で蓄電池の設備規模は約80~90‌GW時に達する。ロシア侵攻や今回の教訓を踏まえ、日本もやはり化石燃料を使わないEV化を促進する政策を進めるべきだ。

―電力系統への影響や電力システムから見た蓄電池はどうか。

C 今は太陽光の余剰を出力制御で捨ててしまっている。昨今の中東情勢を踏まえた自給率向上という意味では、より多くの蓄電デバイスが必要だ。それに、再エネを入れていこうというのであれば昼間の電気が今以上に余ってしまうことになるし、原子力が稼働すればなおさら夜間にスライドするために蓄電池が必要になる。

電力システムの観点で言うと、技術的な課題が出ており接続した際に「フリッカー現象」が生じるといった話も聞かれる。系統で蓄電池の瞬発力を活用するにしても、適正な場所に配置しないと特に配電系統などには悪い影響が出てしまう。本来、系統安定化のために置くものが、その瞬発力が逆効果になってしまいかねないし、同じ配電網に蓄電池が集中して入ってしまうことは技術的に良いことではない。やはり系統の周波数や電圧を安定させるため、より上流の制御に関して、適正に蓄電池を配置していく必要がある。

B 系統用蓄電池については、国としてもここまで急激に導入が進むことは想定していなかったのだろう。どう活用していくか、送配電会社も含めて関係者とじっくり検討しようとしていた矢先だったのだと思う。ところが複数の大手エネルギー会社が巨大な系統用蓄電池プロジェクトを立ち上げたことで、「これは(ビジネスとして)いける」という流れができた。そこに事業用FIT(固定価格買い取り)制度による太陽光の買い取りが終了したことで、投資家らの資金が一気に流れ込んでくることになってしまった。その結果として、技術的な運用の議論をする間もないほど急激に蓄電池の系統接続申請が増えてしまい、不幸な状況になっていると言える。

C 出資者が仮に同じ企業だったとしても、SPC(特別目的会社)名義で接続申請が出されてしまうと座組ごとに名前が変わるため、一見するとそれぞれが全く別の事業者による申請に見えてしまい、同一事業者による系統接続申し込みの集中を防ぐ術がない。送配電会社から見て「ここに置いた方が系統安定化の蓋然性が高い」という場所を明確にする必要もあるだろう。特に今は接続検討が長引いていて、接続が受け付けされるまでに3カ月から半年もかかってしまっている。再エネ併設型の蓄電池は本来もっと早く進めるべきなのに同じ行列に並んで順番待ちをしている始末だ。蓄電池で再エネの出力抑制を抑える方向にリソースを振るべきなのに、完全に目詰まりを起こしている。

【フォーカス】規制委の調査後もデータ操作か 浜岡の不祥事に参院は警告決議

7月1日に開かれた原子力規制委員会の定例会合で、中部電力による浜岡原発の基準地震動を巡る不正について、同社が昨年5月に規制委が調査を開始した後もデータを操作していたことが分かった。規制委の山中伸介委員長は同日の記者会見で「倫理観の喪失が集団で起こっていたのではないか」と厳しく批判した。

参議院は7月8日の本会議で、再発防止に万全を期すよう求める警告決議を可決した。決議を受け、高市早苗首相は「決議の趣旨を十分に踏まえ、今後このような指摘を受けることのないよう改善・指導していく」と述べた。また、電気事業連合会の森望会長は7月17日の定例会見で「原子力事業に対する信頼を失墜させた」として陳謝した。

株主総会後の会見に臨む中部電力の林欣吾社長。経営陣の今後の対応に注目が集まる
 
提供:朝日新聞社

規制委が内部通報を受けたのは昨年2月。その後、5月に規制庁が中電側と面談して調査を開始し、12月に中電がデータ不正を規制委に報告した。業界関係者は「経緯を考えると、規制庁側と面談した時点で、中電関係者の間で組織的に隠そうとする力学が働いた可能性がある」と見る。規制委は中電が設置した第三者委員会の報告書を踏まえ、最終的な処分内容を決定する方針だ。

来年の通常国会への提出が見込まれる原子炉等規制法改正案には、規制の最適化や保障措置の充実など、原子力の活用を前進させる内容が盛り込まれる見通しだ。こうした動きに水差ししかねない不祥事だけに、中電には第三者委員会の報告書を踏まえ、組織風土を含めた徹底的な原因究明と信頼回復が求められる。

【フォーラムレポート】家庭用給湯器の省エネ・非化石化へ 判断基準巡る曲折と見過ごされた論点

家庭用給湯器のさらなる省エネ・非化石化に向けた制度が取りまとめられた。

策定過程では議論が紛糾し、制度発足後も目標達成に向けた課題は多く残る。

 2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、需要サイドの取り組みの重要性が増している。特に、家庭のエネルギー使用量の3割を占める給湯器の省エネ・非化石転換は避けて通れないテーマだ。

経済産業省は23年4月に施行した改正省エネ法の下、給湯器メーカーに化石エネルギー消費量の削減目標を自ら設定・公表し、達成状況を報告させる新たな制度議論を進め、5月に「家庭用温水機器判断基準」として取りまとめた。

34年度を目標に、ヒートポンプ給湯器・家庭用燃料電池・ハイブリッド給湯器といった「高効率給湯器」と、「潜熱回収型(エコジョーズ)」、「その他給湯器」の出荷比率をおおむね4対4対2とする「定性的な目安」を示したものだ。

さらに、機種ごとの化石エネルギー消費量の算出方法(ガス給湯器はガスの使用量、電気給湯器は電力消費量の一次エネルギー消費量換算値に「化石エネルギー係数」を掛け合わせた値)を当てはめ、出荷見込みの台数で加重平均し、一人一台当たり5605MJという「定量目安」を設定した。

不可解な審議プロセス 問われた政策の整合性

議論の中で大きな争点となったのが、電気給湯器の算定根拠となる「電気の化石エネルギー係数」だ。この数値が低いほど電気給湯器の評価が有利になる。

この係数についてエネ庁事務局は、25年5月の専門家会合で「0・41」という数値を示した。これは21年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画における30年度の野心的な電源構成見通しに基づく。

他方で、事実として、電力会社がエネルギー供給構造高度化法で掲げる非化石比率目標や、電力各社の供給計画から算出される実際の火力比率との間には大きな乖離がある。専門家会合では、委員やオブザーバーから「実態にそぐわない数値に違和感がある。電力が有利だという誤解を招かないようにするべきではないか」「係数はメーカーの努力の範囲外であるため、慎重に議論していただきたい」と、電化を促す制度となることへの懸念が相次いだ。

これに対し、資源エネルギー庁は「第6次エネルギー基本計画は、国が責任を持って示した最も予見性の高い数字といえる指標であり、これ以外の客観的な数字はない」との立場を崩さなかった。第7次エネ基は、40年に幅を持たせた見通しを示すものの、30年の電源構成の数字自体は改定していない。

その後、1年間の空白を経て突如開催された会合には、前回会合で大きな懸念を示した委員の姿はなかった。

最終的に、係数を含む主要な論点は「前回決定事項」として扱われ、反対意見は反映されないまま取りまとめられた。

目標達成に高いハードル 業界横断的取り組みを

新基準に対する業界の受け止めはどうか。日本ガス石油機器工業会は「自社の機種ラインナップに応じて各社の戦略で目標を組み立てられる柔軟性」を評価する。

一方で、継続審議中である機器銘板への化石エネルギー消費量の表示の在り方が消費者の誤解を呼ぶリスクを懸念する声が上がる。大手ガス関係者は「銘板やカタログに機器の実際の性能と関係のない化石エネルギー消費量を表示することは、消費者の誤解を呼びかねない」と訴える。

機器銘板への係数表示は継続審議中だ
出典:資源エネルギー庁

さらに大手電力関係者も「現行制度には省エネと省CO2という二つの評価軸が併存し、計算方法も異なることが消費者にとって分かりづらい」と問題視する。

もっとも、メーカーに対する規制の議論とは別に、普及の現場には多くの壁が横たわる。最大の問題として関係者が口をそろえるのが、住宅環境による設置の制約だ。集合住宅では貯湯タンクの設置スペースが障壁となりやすく、配管や電気工事の可否も設置の可否を左右する。賃貸住宅に関しても、大手ガス関係者は「光熱費を負担しない大家に高効率機器導入のインセンティブが働きにくい」という構造的な課題を挙げる。

こうした制約の中で、消費者は必ずしも希望する機種ではなく、住宅事情に合わせてやむを得ず選択せざるを得ない場面が少なくない。そもそも、こうした負担を強いられる消費者やメーカーの声は、専門家会合での制度設計プロセスに反映される機会が限られていた問題もある。

いずれにせよ、関係各社から聞こえるのは「メーカーへの出荷規制だけで目標を達成しようとするのは難しい」という声だ。大手電力関係者は「メーカーから家電販売店、施工事業者、住宅会社、エネルギー事業者と、高効率給湯器が消費者の選択に至るまでに多くのステークホルダーが関わる。あらゆるプレーヤーが連携して普及に取り組むべきだ」と訴える。

一方で、日本ガス石油機器工業会は「業界を横断した大きな組織体で取り組みを進めない限り、省エネ給湯器の普及目標達成はもちろん、日本のカーボンニュートラルを実現できない」との理由から、「ガス石油省エネ給湯機普及促進会議 (スマいる給湯プロジェクト)」を5月19日付で設立した。日本全体のGHG(CO2など温室効果ガス)排出削減の中間目標(35年度60%削減、40年度73%削減)達成を目指し、あらゆるステークホルダーを巻き込んで、省エネ給湯器の普及を妨げる課題解決に取り組んでいく。

国が示した34年度の目標達成に向け、メーカーは対応を急がざるを得ない形だが、機器供給側に規制を課すだけでは、高効率給湯器の普及は進まないのが現実だ。消費者の選択を阻む住宅事情や、メーカー間の戦略差の問題にどう対応するのか。現実的な議論はこれからだ。

【フォーカス】需要家を襲うトリプルパンチ 補助金ではない根本対策が不可欠

原油高、LNG高、円安のトリプルパンチがエネルギー需要家を襲っている。

最大の要因は、米国とイランが中東での戦闘終結に向けて6月18日に交わした「イスラマバード覚書」が、1カ月もたたないうちに有名無実と化してしまったことだ。ホルムズ海峡を舞台にした双方の攻撃の応酬が激化。さらに戦闘はペルシャ湾岸諸国にも飛び火し、イエメンの反政府勢力であるフーシ派は7月20日、攻撃を仕掛けてきたサウジアラビアに対する「海上封鎖」を表明した。中東全体で緊張が再燃している。

暫定和平合意後、一時的に1バレル70ドルを割り込んでいたWTI原油価格は急上昇し、7月23日現在88ドル台に。アジアのLNG指標価格であるJKMも、欧州での天然ガス高騰を背景に、6月下旬の14ドル(100万BTU)から22日には21ドル台へと上昇している。

過度な円安はエネルギー業界にとって国富の流出を招くだけだ
提供:時事

そこに追い打ちをかけているのが、歴史的な円安だ。折しも高市早苗政権による初の骨太方針「経済財政運営と改革の基本方針」が閣議決定された21日の午後に急落し、約40年ぶりとなる1ドル163円台に突入した。「中東情勢の緊迫化に伴う有事のドル買いが背景にあるが、骨太方針から『財政健全化』の文言が消えたことなどで、市場での財政不安が強まっていることも関係している。市場関係者の間でささやかれている170円説も信ぴょう性を帯びてきた形だ」(大手金融関係者)

今後、日本のエネルギー価格が一段と上昇するのは避けられない。補助金支給ではない根本的な対策が待ったなしだ。

【フォーラムアイ】エネ事業縮小に危機感 ニチガスがインフラ工事サービスに着手

【ニチガス】

 総合エネルギー事業者を目指すニチガスが、電力、都市ガス、LPガスの「全方位」販売にとどまらず、新たなサービス提供に乗り出している。

北関東で空調設備工事や給排水工事を手掛ける北斗管工を今年1月に完全子会社化したほか、生活関連サービスを担うニチガスホームアシスト社の事業を本格展開している。狙いについて土屋友紀専務執行役員はこう説明する。「エネルギー販売だけではシュリンクするため、新たな商材やサービス開拓が必要だ。北斗管工を仲間にしたことで、ガスに加え空調や水道を含めた工事を一手に担える。一方で水回りの配管洗浄や修理に困っているお客さまが数多くいることがわかった。そんな問い合わせ先の一社になりたい」

ユーザーの困りごとに対応する

北斗管工は1971年に栃木県で設立以来、北関東中心に地場の工事会社として実績を重ねてきた。このグループ化で、ニチガスグループの日本瓦斯工事が持つガス工事技術と融合させ、ガス・空調・電気・水道などの生活回りのインフラ工事を一手に提供できる。一方、配管洗浄などの生活関連サービスを担うのがニチガスホームアシストだ。

特に配管洗浄は価格の設定が難しく、見積金額と実際の工事金額との乖離から、消費者とのトラブルが絶えない。そこで同社が展開する配管の洗浄作業は、「5万円を超えるケースもある中、『一律3万8500円』とシンプルに設定している。作業時間も90分から120分程度で終わらせるようにしている」(同)。緒に就いたばかりだが、実績を聞きつけて最近では他のLPガス事業者から「当社のお客さまにも対応してほしい」との声が寄せられているそうだ。

顧客基盤の強化にも注力 LPガス難民を防ぐ

加えて、顧客基盤の強化にも注力する。昨年3月には、千葉・茨城で約3000件にLPガスを販売し、100年以上の歴史を持つ老舗の門倉商店を完全子会社化した。

電力、都市ガス、LPガスの全200万件の契約数を持つニチガスにとって3000件は小さな数字だ。とはいえ、配送員不足などの課題を抱え事業継続が困難だった販売店の事業を引き継ぐことは「LPガス難民」を生み出さないためにも意義がある。ニチガスが得意とする配送の「合理化プラットフォーム」に乗せることで業界の課題解決に結びつける。「事業基盤を固めるためにも、お客さまの数を増やしサービスを開拓する必要がある」と土屋氏は強調する。

【フォーカス】大規模な電力投資に融資制度 供給力確保の新たな一手となるか

参議院本会議で7月17日、改正電気事業法が可決、成立した。国際的なエネルギー情勢の変化や電力需要の増加が見込まれる中、供給力確保に向けた方策を盛り込んだ。

ポイントは電力広域的運営推進機関による大規模な送電線・電源整備への融資制度の導入、電源休廃止時の発電事業者と一般送配電事業者などとの事前協議の義務化だ。いずれも電力システム改革後に浮き彫りになった安定供給上の課題に対処する狙いがある。

マスタープラン(広域系統長期方針)を踏まえた地域間連系線の整備や原子力発電所など大規模電源への投資を巡っては、ファイナンス面の課題が顕在化している。融資制度では広域機関が財政投融資などを活用し、整備に必要となる資金を事業者に貸し付ける。

改正電気事業法が可決、成立した参院本会議。供給力確保につながるか
提供:時事

「民間金融機関だけでは十分な担保を取れず、融資に二の足を踏んでしまう。資金の一部を広域機関が貸し出せるようになるのは間違いなくプラス」(永田町関係者)と好意的な見方が多いが、財政投融資は民業補完を原則とするため、融資額には上限が設けられる。投資回収の見通しが立たなければ、金融機関が融資に踏み切れない状況に変わりはない。重要なのは、事業者が建設期間から運開後まで採算がとれるかどうかだ。

近年、容量市場や長期脱炭素電源オークションなど、投資回収の予見可能性を高め、中長期的な供給力不足に対処する制度が相次いで導入された。前者は原則4年後の供給力を対象に落札価格が決まるが、物価や人件費などの上昇については事後的に補正する仕組みがない。応札価格には上限が設けられており、必要な固定費をどこまで織り込めるかには不確実性がある。後者は事業者の固定費回収を一定程度支援する仕組みだが、落札電源が卸電力市場などから得た他市場収益の約9割を還付する設計になっており、事業者が投資リスクに見合う収益を確保できるかは疑問が残る。

太陽光発電の安全性強化へ 来年には炉規法改正も

電源休廃止時の事前協議は、火力発電の廃止などが安定供給に及ぼす影響を踏まえた措置だ。

市場原理の下では、電源を維持するかどうかは採算性や立地地域との関係を考慮して発電事業者が判断するものだ。「供給力を維持したいなら、スポット市場の限界費用入札を見直すべきだ」(同)との声は根強い。

改正法にはこのほか、広域電力取引で生じる値差収益の国庫納付、一定期間にわたり事業を実施していない小売電気事業者の登録取り消し、第三者機関による太陽光発電設備の支持物などの技術基準への適合性確認などを明記した。

来年の通常国会には、原子力規制委員会の審査効率化などを盛り込んだ原子炉等規制法の改正案が提出される見込みだ。電力事業を巡る重要な法改正が続くことになる。