【ヒット商品・技術の舞台裏】電気のクリーンさを訴求 厨房内の環境改善に貢献

機器や厨房内環境の管理制御が容易で清潔さが売りの電化厨房。

昨今では大量調理の現場や省人化のニーズを満たしている。

 日本エレクトロヒートセンター 電化厨房

2000年代初めに登場した家庭用のオール電化機器と平仄を合わせる形で普及し始めたのが、業務用の電化厨房機器だ。電力会社とメーカーがコラボした技術開発が進みIHコンロ、フライヤー、ヒートポンプ給湯機(エコキュート)など幾多の業務用機器が現れた。外食産業企業とタイアップしてファミレス店舗仕様の機器も生まれた。電力会社による厨房向けの割安な電化料金戦略と絡めて電化厨房の存在が大きくなった。ガス厨房が当たり前だった世界に風穴を開けた瞬間でもあった。

普及のトリガーになったのが、1996年に大阪府堺市の小学校で発生したO157(腸管出血性大腸菌)事故による食中毒対策だ。

省力化を実現するニュークックチルの「再加熱カート」

コンセプトは3C 給食センターで普及

学校給食が原因となり、千人単位の被害者を出したこの事故によって、厨房内の衛生環境を整備する取り組みが生まれた。頭文字から3C対策と呼ばれることになるクリーン(清潔)、クール(冷涼)、コントローラブル(制御)を適切に管理して事故を未然に防ぐ。そんな流れの中で、火を使わないため厨房内の温度上昇を抑制し、燃焼排気を出さないため空気を汚さないなどのメリットを持つことから電化厨房が注目され始めた。

とりわけ食材の温度や調理時間を制御する「TT管理」は、食品衛生管理の国際手法である「HACCP(ハサップ)」と相性が良く、正確な調理のマニュアル化を容易にした。

日本エレクトロヒートセンターの関係者は「東日本大震災によって普及の勢いは衰えたものの、昨今では安全で大量に調理する必要性のある現場で電化が増えている」と話す。例えば、自治体の合併や生徒数の減少で小学校や中学校が統廃合される中で誕生している学校給食センターは、学校向けに一カ所で一度に千単位の食事を大量生産する必要がある。安全性と効率性が重視されるこうした大規模施設で、ニーズが高いそうだ。

加えて、昨今では人手不足や労働力の多様化という視点とも電化厨房は親和性が高いという。「経験の浅いスタッフや外国籍の労働者が増える中で、ボタン一つで設定通りに調理できる。調理マニュアル化と教育コストの低減に直結する」(同)

九州電力の業務用電化厨房体験施設「eキッチンスタジオ福岡」

換気基準などを定める建築設備設計基準

換気基準の緩和 省エネへの貢献

電化と換気の関係にも触れておきたい。電力業界は、公共建築物において基準が定められている換気量にも注目した。「理論上、電化厨房は燃焼排気が出ないため、換気量を減らせる。業界は実証試験を繰り返し、電化厨房であれば換気量を削減し適正な厨房環境を維持できることを証明してきた」(同)

これによって公共建築物に対する換気容量に関する基準が改正されてきたこともポイントの一つとなった。換気容量を抑えることは、結果的に空調負荷やランニング費を低減させ、設計上のメリットになった。

最新のトレンドとしてはニュークックチルの「再加熱カート」が注目されている。チルド状態で食事を盛り付けし、提供の直前に再加熱する新しい調理システムだ。一つのトレーに「温かい料理」と「冷たい料理」が混在していても、温めるべき部分だけを加熱できる。病院や高齢者施設では、調理スタッフの確保が困難だ。タイマーで自動再加熱して提供するこうしたスタイルで省人化を実現することも電化厨房ならではの特徴である。

長期は脱炭素に邁進、再エネ巡る課題を着実に解決

【巻頭インタビュー】石原宏高/環境相

イラン有事で足元は脱炭素に逆行する策が取られる中、気候変動対策の機運をどう高めるのか。

また再エネ規制強化やパネルリサイクルなど注目政策の方向性について、石原環境相に聞いた。

いしはら・ひろたか 1964年神奈川県生まれ。88年慶応大学経済学部卒、日本興業銀行入行。2005年衆議院議員総選挙初当選(東京都第3区)。党環境・温暖化対策調査会事務局長、衆院環境委員長などを歴任。25年から現職。

 ―イラン戦争を受け、エネルギー資源の供給確保・価格高騰が世界的な課題です。

石原 政府としては、燃料油や石油製品について日本全体で必要量は確保できていると認識しており、代替調達も進めています。さらに、原油価格の高騰を踏まえた緊急的な激変緩和措置を講じたところです。

他方、非効率石炭火力の稼働抑制措置を1年間実施しないことについては、短期的にはやむを得ないと思っています。地球温暖化対策計画の進捗に影響するかもしれませんが、長期的に2050年ネットゼロを目指す姿勢は変わりません。

CO2削減が着実に進展 24年度は10億t切る

―昨年末に終了した燃料油補助金が復活し、もはや短期対策とは言えない状況かと思います。

石原 4月14日に公表した24年度のわが国の温室効果ガス排出量を見ると、23年度比1・9%減。当時、燃料油以外に電気・ガスへの補助も一時行っていたのに、13年度以降の最低値となり、初めて10億tを切りました。背景には製造業の生産量減少もありますが、再生可能エネルギーや省エネの着実な進展が数字に表れています。政府としては過度な消費抑制を呼び掛けるより、経済を悪化させないことが重要と考えます。

―イラン戦争前からグリーンシフトの難しさが露呈し、50年までの1・5℃目標達成は不可能と指摘する声が増えています。

石原 そうした状況は認識していますが、引き続き気候変動問題は人類共通の重要な課題です。わが国としては昨年2月に1・5℃目標と整合的で野心的なNDC(国が決定する貢献)を提出し、政府一丸となり脱炭素と経済成長、エネルギー安定供給の同時実現を目指すGXを推進しています。また、イラン有事は脱炭素にとって苦しい局面であると同時に、再エネや蓄電池、EVなどがもっと普及していれば影響を軽減できたという見方もあります。

そうした中、日本政府としてはASEAN諸国と共同で、脱炭素と経済成長の同時実現に向けたレポートを作成する予定です。足元では米国がパリ協定から脱退し、先進国と途上国の利害対立が続いていますが、多くの国から信頼を得ている日本の立場を生かし、橋渡し役を務めていきます。

―今年度からGX―ETS(排出量取引)が本格始動するなど、ネットゼロに向けて国民負担が増していくことへの理解をどう求めていきますか。

石原 それは難しい問題ですね。ただ、気候変動に伴う災害の拡大を食い止めるために、ある程度のコスト負担は必要になるという考え方はできます。また、EUはCBAM(炭素国境調整措置)を今年1月から本格実施し、英国も導入予定で、他にも自国版CBAMを検討中の国があります。日本企業の競争力を損なわないために、これらと平仄を合わせる意味でもETSは必要な政策です。

パネル再資源化法案を決定 規制強化は着々と実施

―4月3日、紆余曲折を経て、太陽光パネルのリサイクル推進法案を閣議決定しました。

石原 昨年3月の中央環境審議会の意見具申では、全てのパネルのリサイクルを義務付け、製造業者や輸入業者にその費用負担を求めるものでしたが、処理体制やコスト負担の公平性の面で課題がありました。今回の案では実効的な制度とすべく、大量廃棄する太陽光発電事業者に対して、国が求める判断基準に基づくリサイクルの実施に向けた取り組みを義務付けます。社会全体でリサイクル費用の抑制を図りつつ、処理体制を構築し、実態を踏まえながら段階的な規制強化を検討していきます。

民間でも前向きな動きがあり、九州電力や北海道電力、AGCなどはパネルのリサイクルに本腰を入れています。また、リサイクルをしなければ国内でアルミなどの資源調達に支障をきたすとの危機感を持つ経営者もいます。

―再エネ関連では昨年末、規制強化に向けた対策パッケージが示されました。

石原 再エネ導入に当たっては地域との共生や環境への配慮が大前提です。環境省としては、まず環境影響評価法に基づく環境アセスメントの対象見直しなどに向け1月に検討会を立ち上げ、今国会中に方向性を取りまとめる予定ですし、種の保存法に関しては今夏めどで取りまとめを行う方針です。動向が注目された北海道の釧路湿原については、国立公園の区域拡張に向けて関係者との調整を進め、今年度中の実現を目指しています。

また、3月には環境配慮契約法の基本方針を変更し、国などの再エネ電気調達において、地域と共生が図れない発電施設からの調達を避ける旨を織り込みました。私個人としても需要側や金融機関に対して同様の配慮を呼び掛けているところです。

―目標選定数に達した脱炭素先行地域の今後の方向性は?

石原 2月までに102提案を選定しました。24年度末までに実施された事業で、約7・58万kWの新規再エネが導入され、民生部門の電力由来のCO2排出量が約37・5万t削減されるなど、定量的な成果が出始めています。一方、住民との合意形成や専門人材の不足といった課題に直面している地域があることも事実です。提案いただいたさまざまな取り組みを実現していくため、引き続き丁寧な伴走支援を行っていきます。そして今後は先行地域の成果を整理・分析し、全国展開していくことが重要となります。

【論説室の窓】データセンターの国内整備 求められる地域共生と地方分散

水上嘉久 /〈読売新聞〉論説委員

データセンターの無秩序な集中は地域の摩擦を生み、持続可能性を損なう。

地域との共生と地方分散を軸に戦略的に整備し、日本の成長につなげたい。

AI(人工知能)があらゆる産業やサービスの競争力の源泉となり、データセンター(DC)の建設が世界的に活発になっている。文章生成や画像解析、創薬、自動運転など、AIの応用範囲は急速に広がり、それを支える膨大な計算処理の需要が爆発的に増えているためだ。

DCは、インターネット検索や動画配信、クラウドサービス、さらにはAIの学習や推論処理に必要なデータの保管と計算を担うサーバーを集中的に収容する施設である。

外見は倉庫のようでも、内部では数千から数万台ものサーバーが24時間稼働し続け、膨大な電力を消費しながら情報処理を行っている。デジタル社会の基盤そのものと言える。

米国ではアマゾン、グーグル、マイクロソフトといった巨大IT企業が主導し、昨年3月時点でDCは約5400カ所に上り、圧倒的な優位を築いている。これに対し日本は約220カ所にとどまり、米国の4%程度に過ぎない。

市場の拡大も著しい。世界のDC市場は2024年に約4200億ドルと見込まれ、29年には約6200億ドルに拡大すると予測されている。

AI需要の拡大に加え、企業のクラウド移行やデータ利活用の進展が背景にある。

データセンターは地域との調和が課題だ

立地は著しく東京圏に偏在 住宅地近くでは反対運動も

日本のDCは都市圏に著しく偏在している。東京圏で全国の6割、大阪圏で2割を占め、合わせて8割を超える。データのやり取りでは、距離が長くなるほど通信の遅延が増えるため、企業の本社機能や利用者が集中する都市部に近いほど利便性が高いとされる。

また、保守・運用人材の確保のしやすさ、国際通信を担う海底ケーブルの陸揚げ局への近さといった要因も重なる。そのため、中心地からおおむね50㎞圏内の立地に対する需要が極めて高いという。

こうした中、千葉県印西市は、強固な地盤や比較的低い災害リスクを背景に、外資系企業などのDCが集積し、「データセンター銀座」と呼ばれるまでになった。固定資産税収の増加や関連企業の進出など、自治体にとっても魅力は大きく、各地で誘致競争が激化している。

DCは、AIの開発力や産業競争力を左右する存在となりつつある。国内に十分な計算資源を確保することは、自国のデータを自国で管理する「データ主権」の確立にもつながる。米国が先行しているとはいえ、日本も整備を進めていくべきなのは論をまたない。

しかし、急速な整備の裏で課題も顕在化している。最大の問題は、電力消費の大きさである。大規模DC1施設で数十万世帯分に匹敵する電力を消費する場合もあり、地域の電力需給に影響を与えかねない。

さらに、サーバーの発熱を冷却するための設備が稼働し続けることで、騒音や排熱への懸念も生じる。

こうした事情から、近年は住民との摩擦が目立つようになった。首都圏では適地不足により、従来の工業地域だけでなく住宅地に近い郊外にも建設が及び、生活環境への影響を懸念する声が強まっている。

東京都昭島市や日野市、千葉県柏市や流山市などでは反対運動が起き、流山市では、事業者による建設計画が頓挫する事態にもなった。

印西市の千葉ニュータウン中央駅前で計画されているDC建設を巡っては今年3月、近隣住民が建築確認の取り消しを求めて提訴している。用途地域内で禁止されている「工場」や「倉庫」に該当するのではないかという法的争点も浮上しており、建築基準法で明確な定義がないDCの位置付けが問われている。

地域とのあつれきがこれ以上深まれば、DC整備は停滞しかねない。東京都が同月、環境配慮や地域調和を求める指針を策定したのは一歩前進と言えるが、国も関与し、全国的なルール整備に乗り出すべきである。

事業者には、騒音対策や景観配慮、排熱利用などの取り組みを求めるとともに、地域住民への説明を丁寧に行ってもらう必要があるだろう。

一極集中は災害時にリスク 発電設備と近接して地方に

同時に、立地のあり方も見直さねばならない。東京圏への一極集中は、大規模な自然災害が発生した場合、国全体の情報通信サービスが機能不全に陥るリスクがある。地方分散を本格的に進めることが不可欠だ。

DCは電力と水を大量に消費するため、発電設備と近接させることで効率的な運用が可能となる。北海道や九州など、再生可能エネルギー資源が豊富で土地に余裕のある地域では、太陽光や風力、水力と組み合わせた立地が現実的な選択肢だ。

実際、北海道は冷涼な気候を生かし、冷却コストを抑えられる強みを前面に打ち出して誘致を進めている。

こうした地域では、DCを核に関連産業の集積が進み、雇用の創出や税収増といった経済効果も期待できる。地方創生の観点からも意義は大きい。

経済産業省が進める「GX(グリーン・トランスフォーメーション)戦略地域」の取り組みも注目される。DCはコンビナートの再生や脱炭素電源と並ぶ中核分野と位置付けられており、選定された自治体にはインフラ整備の支援が行われる。

自治体は短期的な誘致競争にとどまらず、地域のエネルギー戦略や産業構造と一体で検討を進めるべきだ。

電力消費を抑制することも欠かせない視点だ。政府は29年度以降に新設されるDCに、省エネ基準の達成を義務付ける方針だ。冷却方式の高度化やAI半導体の省電力化などが求められよう。NTTが研究開発を進める次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」の省電力技術も期待される。

DCは、デジタル社会の競争力の鍵を握る重要なインフラである。「迷惑施設」とならぬよう、地域との信頼関係の上で着実に整備していきたい。

【コラム】日本エネルギー外交の方向転換

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

2月28日の米国・イスラエルのイラン攻撃に端を発したホルムズ海峡危機によって、日本のエネルギー外交に、明確な変化が起きている。

従前の日本政府の国際エネルギー協力と言えば、「脱炭素」「トランジション(移行)」「水素」「アンモニア」「再生可能エネルギー」といった言葉が前面に出ていた。もちろん、これらは政策文書から消えたわけではない。だが最近相次いで発表された国際合意や共同声明を見ると、重心は明らかに移っている。

新しい主役はエネルギーの安定供給である。しかもそれは、抽象的な言葉に留まらない。LNG、石炭、液体燃料、原油、石油製品、備蓄、製油所、重要鉱物、政府系金融機関による融資・保険といった、極めて具体的な項目が並んでいる。

化石燃料は「安全保障物質」 日豪共同声明などで明示

象徴的なのは、5月の日豪合意である。外務省によれば、日豪首脳会談では「経済安全保障協力に関する日豪共同宣言」と、その下での重要鉱物およびエネルギー安全保障に関する二つの共同声明が歓迎された。両首脳は、重要鉱物のサプライチェーン強靱化と、双方向の安定的なエネルギー供給の確保を、「パワー・アジア」の枠組みも含めて連携していくことを確認した。(外務省)

とりわけ注目すべきは、「エネルギー安全保障協力に関する日豪共同声明」である。同声明は、日豪両国がエネルギー資源に係る貿易とサプライチェーンの強靱化に取り組むと明記している。そのうえで、LNG、石炭および液体燃料を含む「必要不可欠なエネルギー物資」の両国間における流通を支援するとしている。

これは、かなり踏み込んだ表現である。これまでの脱炭素中心の外交文書では、石炭は削減対象として扱われることが多かった。液体燃料も、将来的に減らすべきものとして語られがちであった。ところが今回の日豪共同声明では、LNG、石炭、液体燃料が、安定供給を支える「必要不可欠なエネルギー物資」として明記された。これは単なる言葉遣いの変化ではない。化石燃料を「悪」として排除するのではなく、国家と産業を支える安全保障物資として扱うという、その位置づけの根本的な転換である。

この変化は日豪関係だけにとどまらない。4月には、高市早苗首相が「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」、通称「パワー・アジア」を発表した。外務省の説明によれば、これは原油・石油製品などの調達やサプライチェーン維持のための緊急対応、さらにアジア域内の原油備蓄日数の拡大、備蓄・放出制度の構築、備蓄タンクの建設・利用、重要鉱物の確保、バイオ燃料、省エネなどを含む構造的対応に取り組む枠組みである。総額約100億ドルの金融協力を行い、原油・石油製品に換算すれば最大約12億バレル、ASEANの約1年分の原油輸入にも相当するという。(外務省)

経済産業省も同じ趣旨をさらに実務的に説明している。パワー・アジアでは、アジアにおける原油・石油製品などの調達やサプライチェーン維持のため、JBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)による金融面での協力を行う。経産省は、この枠組みを活用し、日本による重要物資の安定調達に向けて、アジアのサプライチェーン強靱化に努めるとしている。(経済産業省)

新たな国際連携の形 きれいごとから脱却

これは従前から続けられてきた「途上国支援」政策とは性格を異にする。もちろん、アジア諸国のエネルギー供給を支える意味はある。だが同時に、日本にとっても極めて実利的な政策である。アジア各国の製造業が燃料不足で停止すれば、日本向けの部品、医薬品、工業製品の供給も途絶える。つまり、アジアのエネルギー供給を支えることは、日本自身の経済安全保障を守ることなのである。

実際のところ、日越首脳会談では、パワー・アジアの初の案件として、ベトナムのニソン製油所の原油調達について、NEXIを通じて支援する方向で一致した。さらに、ベトナムのレアアースを含む重要鉱物サプライチェーンの強靱化でも連携することが確認された。(外務省)

製油所の原油調達を支援すること。これは、従来のきれいごとばかりのエネルギー外交とはまったく違う。製油所を動かし、原油を確保し、石油製品を供給し、サプライチェーンを維持する。これが危機時に必要な現実の政策である。

重要鉱物でも同じ構図が見える。日豪の経済安全保障共同宣言は、レアアースを含む重要鉱物が先端技術や産業投入財に不可欠であるとし、オーストラリアの重要鉱物戦略備蓄制度を、サプライチェーン多角化のための重要な取り組みと位置付けた。また、レアアース、ガリウムなどを含む豪州の重要鉱物プロジェクトへの日本企業の参画には戦略的価値があるとし、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)、JBIC、豪州輸出金融公社など政府系機関の役割も明記している。

日加関係でも同じ流れがある。3月の日加首脳会談では、日カナダ関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすることで一致した。経済面では、LNGカナダのアジア向け生産開始や、オンタリオ州でのSMR(小型モジュール炉)の建設開始が歓迎された。さらに、重要鉱物などの輸出規制への懸念が高まる中で、重要鉱物を含むサプライチェーン強靱化の連携強化でも一致した。(外務省)

多国間の枠組みもこのような二国間関係と同じ方向性を打ち出している。3月のホルムズ海峡に関する多国間共同声明は、イランによる商業船舶や石油・ガス施設を含む民間インフラへの攻撃、そしてホルムズ海峡の事実上の閉鎖を非難した。また、世界のエネルギー供給網の混乱が国際的な平和と安全への脅威であるとし、IEA(国際エネルギー機関)による戦略石油備蓄の協調放出を歓迎し、産油国と協力した生産増加を含む市場安定化策にも言及している。(外務省)

軸足は安定供給に 国内政策見直し待ったなし

以上の動きは、緊急的な対応に基づくボトムアップ的なものであり、トップダウンの方針転換ではない。だがそこから立ち現れる全体像はいまや明らかである。日本は、エネルギー外交の軸足を「脱炭素」から「安定供給」へ移している。

もちろん、政府文書から脱炭素という言葉が完全に消えたわけではない。日豪共同声明にもエネルギー移行やエネルギー効率化は残っている。パワー・アジアにもバイオ燃料、省エネ、次世代エネルギーの要素は含まれている。だが、それらはもはや脇役になっている。原油、石油製品、LNG、石炭、備蓄、製油所、重要鉱物、金融支援など、あらゆるエネルギー安定供給の推進(“all of the above”)における一要素に格下げされたのである。

エネルギー政策は現実的なもの(“realistic energy policy”)になった。

エネルギー政策の本来の目的は、国民生活と産業活動を支えることである。電気が不足し、燃料が届かず、工場が止まり、物流が滞れば、脱炭素どころではない。供給安全保障を犠牲にしてまで追求すれば、それは国民を貧しくし、国家を脆弱にする。

近年の日本では、化石燃料を持つこと、使うこと、投資すること自体が悪であるかのような議論が横行してきた。その結果、LNG長期契約、石炭火力、石油備蓄、製油所、原子力、重要鉱物の確保といった、国家の生存に関わる論点が、しばしば脱炭素の下位に置かれてきた。

だが、国際情勢はそれを許さなくなった。中東危機、海上交通路の脅威、重要鉱物の輸出規制、アジアの燃料不足、サプライチェーンの寸断リスクなど、これらは全て日本にとって、抽象論ではなく、目の前の危機である。

一連の国際合意は、日本政府がようやくこの現実を正面から認めるようになったことを示している。化石燃料を忌避するのではなく、必要なものは確保する。資源国とは長期的関係を強める。アジアの燃料供給を金融で支える。重要鉱物は同志国と組んで備蓄し、加工し、投資する。これは本来あるべきエネルギー外交である。

今後問われるのは、国内政策との整合性である。国内政策も、国際情勢の変化を踏まえて変わらねばならない。

国際的にはLNG、石炭、液体燃料、原油備蓄、重要鉱物を安全保障物資として扱いながら、国内ではなお脱炭素の名の下に火力発電や化石燃料インフラへの投資を抑制するなら、政策は矛盾する。日本国内でも、石炭火力の維持拡大、原子力再稼働、石油調達の強化・多様化、石油備蓄の強化、製油所機能の維持、重要鉱物備蓄の拡充等を、エネルギー政策、ひいては国家安全保障政策として、正面から位置付けるべきである。

エネルギーはきれいごとでは動かない。外交文書の文言は急速に現実に近づいている。喫緊の課題は、国内のエネルギー政策も現実的なものにすることだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

【フォーラムアイ】顧客と事業者の双方にメリット ペーパーレス化で請求コスト削減

【ビリングシステム】

ビリングシステムは画期的な料金請求・収納サービス「Billing BOX」の提供を開始した。

スマートフォンに電子メールやSMSで請求通知を送り、Pay決済などが利用できる。

ビリングシステムは決済支援サービスを中心に手掛けるフィンテック企業として2000年に設立。事業者と顧客、銀行や信用金庫、クレジットカード会社など金融機関をITによってつなぐハブ的な役割を担い事業展開する。国内ほぼ全ての金融機関・決済機関と提携しており、これをベースに全国レベルでサービス提供できる点が同社の大きな強みだ。

担当の古賀氏(左)と土手氏

そんなビリングシステムが手掛けるコンビニ払込票支払いアプリ「PayB(ペイビー)」はエネルギー業界において存在感を示している。大手電力や大手ガスをはじめ、地方ガスやLPガスなど多くの事業者が採用しており、スタンダードなアプリになりつつある。

顧客は同アプリに預貯金口座やクレジットカードを登録し、バーコードやQRコード付きの請求書・コンビニ払込票をスマホカメラで読み取るだけ。自宅にいながらにして簡単に支払いを行うことができ、金融機関やコンビニに行く必要がない。

事業者側にとっても、既存のコンビニ払込票を活用できるため、新たな費用や運用負荷が発生することなく支払いチャネルを拡充できる。また、顧客の利便性を高めたことで、料金収納率の向上が見込める。顧客と事業者の双方がメリットを享受できると好評とのことだ。

「PayB」は全国に普及している

電子メールやSMSを活用 スマメ導入でガス業界が注目

同社は、ペイビーを一段階進化させた新サービスとして、「Billing BOX(ビリングボックス)ペーパーレス収納」の提供を開始した。同サービスを導入することによって、顧客の支払いにおける利便性がさらに向上する。従来、郵送で受け取っていたコンビニ払込票に代えて電子メールやSMS(ショートメッセージサービス)で請求通知を受け取り、ペイビーやPay決済(スマホを使ったQR・コード決済サービス)などを利用することで全て手元で決済作業が完了する。もちろん、従来通りコンビニ決済もできるなど、支払いの選択肢は多い。

コンビニ払込票をメールやSMSなどに置き替える

事業者側では、電子メールやSMSに切り替えることで、印刷費や郵送費などのコスト削減を図ることが可能だ。新商品企画・開発室の古賀浩明室長は「特にガス業界では、スマートメーターの導入が進み、顧客宅を回る検針業務を廃止した代わりに、コンビニ払込票などの発送業務が新たに発生している。これをいかに減らすかが課題。その解決に、本サービスの導入を検討する事業者が増えている」と説明する。

スマホを利用することで顧客への請求通知から、受領、決済、消込までをシームレスに実現できる。ペイビーの契約がある事業者は、既存の収納結果の伝送ルートを活用することができるため収納結果の授受に関して、新たに基幹システムを改修することなく利用可能だ。

多くの決済サービスでは、Pay決済の際、支払う金額に対し料率課金で収納手数料がかかる。これに対し、ビリングボックスはコンビニ払込票による収納手数料の単価を適用できるため、取引金額に関わらず手数料を低水準に抑えられる点が大きな訴求ポイントとなっている。

ただ、こうした決済に関するシステムを切り替えて、いきなり定常請求に利用するのは「ハードルが高い」という事業者もいる。「そうした場合、督促や紛失、期限切れの請求書の再発行など、部分的な導入を提案している。顧客から連絡を受けてすぐに請求ができるため、収納率の向上に貢献できる」。同室の土手優太主任はこう強調する。

「Billing BOX」のサービス概要図

都市ガス事業者が採用 電力・水道などにも普及へ

新サービス採用第1号は都市ガス事業者。他の事業者の関心も高いだけに、今後、本格的に導入が進んでいくことになりそうだ。都市ガス業界に限らず、料金回収の課題に直面しているのは電力会社やLPガス会社、水道局も同様。同社としては、利用者が簡単に扱えるスマホを基軸としたサービスがさらに普及拡大していくと見ている。

【実名ホンネ座談会】原子力規制委は変わったか 求められる不断の改革

Theme 原子力規制委改革

【出席者】

鈴木淳司(自民党衆議院議員)
関村直人(東京大学名誉教授)
加藤顕彦(原子力エネルギー協議会「ATENA」理事長

左から加藤氏、関村氏、鈴木氏

原子力規制委員会の発足から13年以上が経過したが、再稼働を果たしたのは15基にとどまる。審査の効率化や合理化が叫ばれて久しいが、規制委改革は進んでいるのか。

─原子力規制委員会は4月1日、特定重大事故等対処施設(特重施設)の設置期限を改める方針を決めた。これまでは工事計画の認可から5年以内の設置が求められていたが、起算点を「運転開始日」に変更する。


加藤 事業者にとって大きな意味を持つ。工事計画の認可から再稼働までには、防潮堤工事などで数年を要するケースがあり、特重施設の工事との輻輳もあった。今回の見直しで期限が延び、特重施設の工事に専念できる期間が確保できるだろう。
ただ、事業者の責務は期限が延びたからといって甘んじることなく、期限内かつ、できる限り早いタイミングで特重施設を完成させることだ。


鈴木 現実的で理にかなった判断だが、これが規制側と事業者側の対話を経て、規制側の判断として出されたことが大きい。ただ、特重施設の必要性については、なお議論が分かれるところがある。


関村 本質的な部分に立ち戻れば、「なぜ特重施設が要求されるのか」という大きな課題への議論が足りていない。「深層防護」は重要な安全哲学だが、「層の数」を増やすことが必要なのか、それぞれの層の「厚み」を増やすことが求められるのか。グローバルな要請であるグレーデッド・アプローチ(重要度に応じて要求の厳しさを変える比例原則)やALARP(As low as reasonably practicable:合理的に実現可能な限り、リスクをできるだけ低くする)と併せて、深層防護をどのように生かすべきか。本来、規制委員はこういった議論を行うべきだ。審査の個別テーマに焦点が当たりすぎて、全体を俯瞰した〝規制哲学〟が語られていない。

発足から13年が経過した原子力規制委員会

埋まりつつある規制・事業者間の溝 審査の孤立を避ける対話を

─鈴木氏が会長を務めた自民党の原子力規制に関する特別委員会は2023年、原子力規制の充実などに関する提言を政府に提出した。提言は生かされているか。


鈴木 十分ではないものの審査の効率化は着実に進んだ部分があるし、それについては率直に評価したい。ただ、規制委の発足からすでに13年を経て、規制は当初の非常時対応を過ぎて、もはや〝巡航速度〟に入っていないといけない段階だ。規制委はNRC(米国原子力規制委員会)の規制原則の一つ「効率化原則」を明確に取り入れるべきかと思う。効率化原則と安全性の担保は、必ずしも相反するものではない。


加藤 大きかったのは、審査会合の進め方が変わったことだ。以前は事前の論点整理が不十分なまま会合に臨み、議論がかみ合わないことがあった。現在は「泊方式」と呼ばれる、重要な論点をあらかじめ書面で出し合い、ポイントを絞って議論する手法が定着した。論点が明確になり、審査の予見性が高まった。


鈴木 泊方式の導入により、議論の手戻りが抑制された意味は大きい。それまでは、例えば質問通告のない国会質問のごとく、ポイントの絞られない非効率な質疑の繰り返しによる審査の長期化が指摘されていた。


加藤 かつては規制側と事業者側の間に溝を感じることもあったが、近年は両者のコミュニケーションが改善傾向にある。2月のATENAフォーラムで長﨑晋也委員は「ATENA(原子力エネルギー協議会)と規制委は規制される側と規制する側という一見対立する関係に見えても、原子力利用における安全の確保について、より高みを目指していくという意味で、両者は同じ志を共有する者同士である」とおっしゃった。こうした認識が共有され始めたことで、私たちの考えを規制側にくみ取ってもらえる環境は整いつつある。


関村 重要な論点だ。長﨑委員や山中伸介委員長など、各委員は規制哲学を語るポテンシャルを持っている。ステークホルダーに向けての積極的な発信と委員の個性を生かした議論に期待したい。


加藤 昨年度には将来の建て替えを見据えて、規制庁との間で「革新軽水炉」の規制を巡る技術的な意見交換を行っている。7回実施し、3月25日には規制委として一定の見解が示された。私たちの考えが反映された部分もあれば、難しい課題として残った部分もある。こうして解釈の余地がある部分をあらかじめ整理しておくことで、本格審査における予見性が高まり、スムーズな移行が可能になるのではないか。


鈴木 良い傾向だが、現場に精通する事業者側から、もっと具体的な改善提案があっていいかと思う。規制側の言う要求をただ満たすだけではなく、規制側と事業者側がともに安全性を高め合う規制文化を作ることが大切だ。


関村 両者は対等な関係であり、原子力安全の目的を共有し、互いにスパイラルアップしていくべきだ。規制側が「上」だという意識が前提となると、事業者は全て「できます」と言ってしまう雰囲気が生まれかねない。福島第一原子力発電所の事故後15年を経て、こうした安全文化に関する課題が顕在化する傾向が強まった気がしてならない。原子力に限らず、日本では規制者と被規制者の間に強い権威勾配が生まれやすい。文化的特性や国民性を踏まえて対話を進め、規制の孤立を避けるべきだ。


加藤 原子力発電所の安全性を高めるための基本は「良い対策が見つかれば、なるべく早く実機に適用する」ということ。審査に膨大な時間を費やして停滞させることなく、優れた安全対策を速やかにプラントに反映させる。この姿勢こそ、両者が共有すべきだ。

【イニシャルニュース】太陽光の産地偽装⁉ BP磐梯猪苗代の実情

FIT・FIP認定が取り消され、経産省から交付金の返還命令を受けた「ブルーパワー磐梯猪苗代発電所(総出力2万5286kW)」。関係者によれば、もともとはメガソーラー事業などを手掛けるB社が2013年にFIT認定(買い取り価格1kW当たり38円)を受けたものの、土地の買収交渉がうまくいかず、福島県猪苗代町の認定場所に設定されたのは2枚の太陽光パネルのみだった。

B社では、そこから3㎞ほど離れた会津若松市内のゴルフ場の土地を19年に取得しパネル7万5千枚ほどの大規模メガソーラーを建設、双方を自営線で接続する計画だったが、実際には自営線が敷設されていなかった。B社はその後、都内にあるC社に発電所を売却したもよう。

ちなみにウェブ上でC社を検索したところ、24年4月に「ホームページを開設しました」という項目が出てくるものの、クリックしても表示されず、現在は閉鎖されているようだ。

経産省では、こうした手法が「電力の産地偽装」に当たるとして、認定取り消し・交付金返還命令に踏み切った格好だ。返還額は約6億円に上るという。

「B社のホームページを見るとでたらめな内容ばかりで、悪質さは度を越している。例えば静岡県函南町のメガソーラーは、すでにFITのIDや林地開発許可が取り消されているにもかかわらず、ウェブサイト上では『準備中』と虚偽の内容になっている。しぶとく生き残っていることに改めて驚く」(関係者X氏)

ホルムズ海峡の実質封鎖の影響で、化石燃料に依存しない再生可能エネルギーが改めて脚光を浴びているさなかだけに、悪質業者の一掃が求められる。

悪質メガソーラーに逆風強まる

日本に日帰り出張 豪防衛相の狙いとは

イラン情勢が混沌としている4月8日、オーストラリアのマールズ副首相兼国防相が突如来日した。豪州側は小泉進次郎防衛相との会談のためと公式発表し、実際に日豪両国の防衛戦略の強化を確認したという。だが日豪両国の事情に詳しいX氏はマールズ国防相の本当の目的は「豪州でひっ迫している石油を日本から調達することが狙いだったはずだ」と語る。

それもそのはず、小泉防衛相とマールズ国防相はわずか10日後に、当初の予定通り豪州で会談したからだ。

マールズ国防相の来日は7日夕方突如発表された。日本での滞在時間は約17時間で、早朝に来日して夕方には帰国するという「日帰り出張」だった。防衛省内でも「一体何のために来るのか」と訝る声が相次いだ。 

会談は北朝鮮がミサイルを発射したことで大幅に遅れ、時間も短く、会談後の会見の内容も連携強化を確認しただけとあって防衛担当の記者らも「?」だったという。

前出のX氏は「小泉防衛相との会談はカモフラージュと見ていいでしょう」と解説する。本命は木原稔官房長官との会談だという。

豪州側は木原氏とは防衛相時代のパートナーであいさつに行ったという程度の説明しかしていないが、「アルバニージー首相はほぼ同時期にシンガポールを訪問し、LNGとバーターで石油調達を約束した。とにかく石油が足りない豪州では、首脳級自らが各国を巡って調達に躍起になっている。日本ともLNGの供出の代わりに石油をという話になったと見ていいでしょう」(X氏)。

豪州政府は、国民向けには「石油燃料の供給は安全だ」ということを繰り返している。しかし国家備蓄は1カ月強で、法律で定められている90日を大幅に下回る。イラン情勢は長期化の様相で「いよいよ安全だと言い切れない状況になってきた」(豪州のエネルギー企業関係者)という。

豪州内の混乱を避けるためにカモフラージュしたというところなのだろうが、日本も潤沢ではない状況なだけに、マールズ防衛相の「日帰り出張」がどれほど実のあるものだったのかは疑問だ。

【事業者探訪】廃棄物発電が柱の地産地消 横展開も視野に事業者探訪

川崎未来エナジー

地域脱炭素のために自治体系新電力を設立する動きが、最近再びトレンドとなりつつある。

そうした中、廃棄物発電を軸に企業間連携も進める川崎市の例が順調なスタートを切った。

2年前、自治体主導では最大規模となる地域エネルギー会社が川崎市に誕生した。市と、エネルギー系や金融系の民間7社が共同出資する川崎未来エナジーだ。地域のエネルギーのプラットフォーマーとしての活躍が期待されている。

公から民に転じた井田社長

市内のごみ処理施設は三つで、発電出力は合計2・86万kWになる。最大規模の橘処理センター(1・41万kW)の本格稼働時期に合わせ2024年4月に同社は始動した。廃棄物発電の電気はこれまで市が入札により全量域外に売電していたが、同社が相対調達し地産地消にかじを切った。市脱炭素戦略推進室長から同社社長に転じた井田淳氏は「大需要地で可能な限り地産地消すべく、域内再エネの最大化が主なミッション。廃棄物発電に加え、ボリュームは小さいが非FIT電源の余剰買い取りを開始し、地域の行動変容にもつなげたい」と説明する。環境省の脱炭素先行地域に選定された市の取り組みを進める上でも、中心的な役割を果たしている。

民間からの引き合いが増加 非FIT買い取りに意欲

25年度の年間供給量は6400万kW時。電源構成(同年度計画値)は再エネと廃棄物由来が8割超で、市場調達は15%弱に抑えた。公共施設だけでなく、最近は民間からの引き合いが増えている点が特徴的だ。一定の経済合理性を担保しつつ、全量非化石証書付きで販売する。設立10年目で今の3倍の需要家獲得を目標に掲げる。大規模なベースロード再エネを有する点が強みとなり、1年目の24年度から純利益1億円を確保し、経営は順調に推移している。

料金メニューはシンプルな構成で、廃棄物発電が主力なため、現時点では燃料費調整額を設定していない。足元で電力価格の高騰が懸念される中、同社の強みが生きてくる局面だ。ただし「価格勝負は避けている。地域のプラットフォーマーとして、脱炭素化に協力する意向の企業への供給を優先するのが当社のスタンス。需要家と共にどんなチャレンジが出来るかを重視している」と強調する。

さらに電源の拡大に向け、昨年11月には家庭用の非FIT太陽光の余剰買い取りを始めた。非FITに着目した背景としては、まず、市が昨春に新築建築物への太陽光設置を条例で義務化し、非FITの普及を推進していることがある。また、卒FITは買い取り競争が過熱しているのに対し、非FITは系統運用者との手続きの煩雑さなどで買い取り事業者が少ない。

そこで同社では、買い取り価格を1kW時当たり10円と高めに設定するとともに、出資者であるJAセレサ川崎の農産物プレゼントも企画し、ハウスメーカーやリフォーム事業者などを通じて周知を図っている。「今年度100件の目標に向けた下地が出来てきた」と手ごたえをつかむ。

同社の出資者は公募で選定し、電力小売り事業のノウハウを持つNTTアノードエナジーと東急パワーサプライは、前者が需給管理を、後者が営業・顧客対応をそれぞれ担う。金融機関に期待するのは資金面というより、むしろネットワークだ。地元企業の間で地産地消の機運が高まることを目指す。

最大出力・高効率を誇る橘処理センター

多様なモデルを創出 経済合理性ある形目指す

「営業範囲は域内だが、川崎モデルの横展開も強く意識している」と井田氏。例えば、24年10月からヤマト運輸・高津千年営業所に電力を供給し、EV25台分などの電力を実質再エネ100%で賄っている。ヤマト運輸はこのモデルを他地域でも地元企業と連携し、今後広げていきたい考えだ。

また今春には、エネットを介して、クレハ環境の廃棄物発電由来再エネを川崎臨海倉庫埠頭に供給するスキームを発表。カーボンニュートラルポートの一環となる取り組みで、川崎未来エナジーは媒介業者として3社の間を取り持った。「こうした他社との連携は、まさに当社に期待される役割を具現化できたもの」と振り返る。

他方、廃棄物発電ならではの課題はある。ごみ処理センターは基本、24時間365日定格で稼働する。インバランスが発生しないよう、処理センター側が計画変更に協力しているが、土日祝日に余剰が発生しないよう需要をいかに確保できるかが当面の課題となる。その意味でも、先述のようなさまざまな業態の企業との連携が重要になると考えている。

「地域脱炭素のハブ」としての役割発揮に向けて順調な滑り出しを見せている同社。市の取り組みとしては脱炭素先行地域の交付金を活用するなど支援制度を整備しているが、井田氏は「民間の立場として、交付金がなくても経済合理性のある形で地産地消がまわるような基盤づくりを進める必要がある。その意味で、他社との連携第一号であるヤマト運輸の取り組みなどは好事例となる」と強調。今後も同社発の多様なモデルを生み出し、政府が目指す「脱炭素ドミノ」を体現していく構えだ。

【地域の魅力発信】souveniraroma(スーベニアアロマ)

「ノンバーバル」が製造・販売する地元の柑橘を使ったアロマオイルが密かに人気だ。4年前、当時高校生の息子の発案で父子が協力し販売開始。

「原産地指定をしたアロマスプレー」は川崎と横浜のユズやミカンの皮から作った精油を使い、値段は高めだが品質にこだわり顔が見える点が売り。蒸留体験や農業振興などの活動も積極的に展開する。珍しい地産地消アロマが新名物になりつつある。

souveniraroma(スーベニアアロマ)
提供:ノンバーバル

【フォーラムアイ】火災の煙の怖さをおばけで表現 新コスモス電機が横浜市施設の体験展示刷新に協力

新コスモス電機

新コスモス電機は4月、横浜市民防災センターの防災パートナー企業に認定され、同センターの「煙体験コーナー」のリニューアルの実施に協力した。防災パートナー企業は、同センターの理念に賛同し、技術や経験を生かして体験コンテンツの全部または一部を制作し、完成物を無償提供する。

防災パートナーに認定された

横浜市消防局の松﨑賢二予防部長は「同施設は消防隊の活動拠点であるとともに、市民の自助・共助意識を育む体験型施設だ。小学生を対象に見学会などを定期的に開催してきた。より来場者に関心を持ってもらう体験コンテンツに刷新するため、防災パートナーを募った」と説明する。

今回、新コスモス電機が手掛けた煙体験コーナーでは、目に見えず、臭いもしない一酸化炭素(CO)をおばけのキャラクターに例えたアニメーションで、有毒ガスの危険性を伝える。

火災を想定した煙体験では、煙が充満したブースの中に入り、「煙を吸わないように口を押さえて中腰で進むように」と説明を受けながら避難する。

「COオバケというキャラクターが、姿が見えず臭いもしないCOの特徴や、煙避難訓練で正しい避難方法を子どもたちに伝えることで理解してもらいやすくなるのではないか。家庭の火災による死亡事故を1件でも減らしていきたい」と、東日本支社長の小栁章氏は語る。

COオバケを使った展示ブース

防災意識向上に民間の力 全国の自治体などが注目

この他、コーナーには一酸化炭素検知機能付き火災警報器「PLUSCO(プラシオ) 」を展示している。従来の火災警報器は煙が充満してから火災を知らせるのに対し、プラシオは煙が出ていなくても、一酸化炭素濃度100ppmという人体に影響が出る前の段階でアラームが鳴るのが特徴だ。

体験コーナーの充実を図ったことで、小学生をはじめ、あらゆる世代にアピールできる展示となった。この民間の力を取り入れる試みに全国の自治体や消防局が注目しており、見学の申し込みが絶えないという。防災意識を高める先駆けとなる取り組みとして、全国規模で影響を与えていきそうだ。

【業界紙の目】カーボンニュートラルに向け環境整備進むセメント業界

佐藤大蔵/セメント新聞社 編集部記者

いわゆる「多排出産業」のセメント産業では、排出量取引制度への対応が課題となっている。

他にもCNに関する制度や規定の整備など動きがあり、業界はその対応に注力している。

国においては、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を推進するため、GX経済移行債を活用した先行投資支援と、先行投資を促すカーボンプライシングを組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング構想」を実行している。柱の一つとなるカーボンプライシングの具体的な施策として、排出量取引制度(GX―ETS)を今年度から本格稼働する。これは、昨年の脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)などの改正を受け、排出量取引が法定化されたことを受けてのものだ。

同制度は、CO2の直接排出量が前年度までの3カ年平均で10万t以上の法人が対象となる。このため、クリンカ製造を行っている全てのセメント会社が対象となる。排出可能な量である「排出枠」が政府から割り当てられ、排出枠が余剰の場合は売却することができ、排出量が超過された場合は不足分を調達しなければならないとされている。政府が一定の基準の下、対象事業者に排出枠を割り当て、毎年度排出実績量と同量の排出枠を法令に定める期限までに保有することを義務付ける。

セメント産業のベンチマークについては、セメント製造および同一工場内におけるセメント製造に関連する製品全体が対象となる。活動量指標はクリンカ生産量となる。これはセメント品種構成の影響を受けず、クリンカ焼成工程のCO2排出量がセメント製造工程全体の9割以上を占めるためだ。セメント各社においては、将来にわたり研究開発や設備投資を伴うカーボンニュートラル(CN)対策を実施する方針だ。

セメントでは規格類についても大きな動きがあった。3月23日にセメント関連の日本産業規格(JIS)改正が公示された。

JIS改正の動きも 最大100万t削減へ

今回改正されたセメント関連JISは、品質規格4規格、試験方法規格2規格であり、このうち標準的なセメントである普通ポルトランドセメントについては、旧規格で少量混合成分として高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材、石灰石を合計5%まで混合することが認められていた。

新規格では、このうち石灰石についてのみ混合量をさらに5%増やし、最大10%まで使用できるようになった。加えて、石灰石と同等の品質を持つ人工炭酸カルシウムも、同様に最大10%まで使用可能となった。今回の改正により、普通ポルトランドセメントにおけるクリンカ使用量を最大5%低減することが可能となり、業界全体で最大約100万t規模のCO2削減効果が見込まれる。

業界団体であるセメント協会が2022年に策定した「カーボンニュートラルを目指すセメント産業の長期ビジョン」では、目指すべき対策の方向と克服すべき課題の一つとして、クリンカ/セメント比の低減を示している。目指す対策としてプロセス起源のCO2については、普通ポルトランドセメントの少量混合成分の増量によりクリンカ/セメント比を低減させることを挙げている。

エネルギー起源CO2については、省エネとエネルギー代替廃棄物の利用拡大を進め、またクリンカ/セメント比の低減分のエネルギー使用量削減が可能とした。クリンカ/セメント比低減を具体化する第一歩として、セメント関連のJIS改正に至った。

セメント協会では今回の改正を受けて、ホームページにJIS改正情報メニュー「CN実現に向けたセメントのJIS改正」を新設し、改正概要資料をはじめ、セメントJIS改正に伴う社内規格におけるセメント受入基準値の変更申請に関する技術資料、大臣認定コンクリートにおけるセメントの品質基準の対応などを掲載する。新JISセメント受け入れに向けたユーザー支援やフォローアップを行っている。

建築物のLCA対策強化 業界でルール策定

さらに、50年CNの実現に向けては、建築物におけるCO2削減を図るため、使用段階のみならず建設から解体に至るまでのライフサイクル全体を通じたCO2削減が重要となる。また建築物のライフサイクルアセスメント(LCA)の実施に当たっては、建築物に用いる建材や設備の数量と、建材や設備に係る原単位をかけ合わせることが必要であり、建築物のLCAの環境を整備するためにはCO2原単位の整備が不可欠となる。

国土交通省では、50年CNの実現に向け、建築物のライフサイクルカーボンの算定や評価を義務付けることを検討している。これを受けて生コンクリートの全国団体である全国生コンクリート工業組合連合会、全国生コンクリート協同組合連合会は、今年1月にカーボンフットプリント算定ルールを策定した。

これは国交省支援事業の「2025年度建築GX・DX推進事業(うち調査、普及に関する事業に係るCO2原単位等の策定)」を活用し、生コンを対象としたCO2排出量の算定ルールを定めたものだ。コンクリート構造物に対する生涯CO2排出量算定が義務付けられることにより、製造者である生コン工場に対して1㎥当たりの排出量の問い合わせが増えることが予想される。このため、連合会として会員が統一した基準で算定できるルールを整えた。

建築物のLCAでカーボン算定が義務化される

今回策定された算定ルールでは、対象製品の定義を生コン(レディーミクストコンクリート)とし、算定単位は1㎥としている。排出量の公表の組織単位は、各生コン協同組合単位とする。算定条件として、全工場の50%以上、生産量50%以上のデータを活用することを支援している。公表条件は同一製品とする場合、最大値と最小値がプラスマイナス10%以上の場合とする。少なくとも5年ごとに算定結果の見直しを実施する。

今年度は業界にとって、CNに関する政策、制度がさまざま変わる重要な1年となる。

〈セメント新聞〉〇1949年2月創刊〇発行部数:週刊2万部〇読者層:セメント業界、生コンクリート業界、コンクリート製品業界、建設業界など

【論点】送配電事業の安定運営へ、事業報酬率の適正化待ったなし

託送料金の事業報酬率〈上〉村田千春(電力中央研究所常務理事)

託送料金制度を巡る課題の中でも事業報酬率の水準は特に重要である。

資金調達・投資判断の観点から具体的に何が課題なのか、専門家が解説する。

本稿では、一般送配電事業者の託送料金における事業報酬率について今月と来月の2回に分けて考察する。報酬率は託送料金を決定する要素であると同時に、一送の資金創出・調達、投資判断、ひいては安定供給に影響する重要な要素でもある。本稿はこれらの観点から、第2規制期間(2028~32年度)に向けた適正な報酬率設定に資することを目的としている。

事業報酬は一送の資本コストの総額を表す、託送料金の原価項目である。

日本の託送料金規制では、5年を規制期間とするレベニューキャップ制度が導入され、現在は23~27年度に至る第1規制期間に当たる。本制度では「一般送配電事業者による託送供給等に係る収入の見通しに関する省令」にのっとり、収入見通しを算定することとされている。

事業報酬は、電気事業固定資産・建設中の資産などの総額(レートベース)に、資本コストに相当する報酬率を乗じて算定される。報酬率は、全産業の自己資本利益率などを反映した自己資本報酬率と、直近の一定期間(5年間)の公社債利回りに、電力の有利子負債利子率に上乗せされるリスクプレミアムを加えた他人資本報酬率とを加重平均(3対7)した値となる。現在、第1規制期間の報酬率は1・5%と歴史的な低水準である。

22年に制定された前記省令では、託送料金算定時の報酬率と現実の資本コストに乖離が生じた際に、当期または翌期の料金にその乖離を算入することは原則として認められていない。しかし26年度以降、金利上昇に伴う一送の資金調達の支障を考慮し、公社債利回りの上昇を報酬率に反映し、託送料金を変更することを認める措置が講じられる予定である(本稿執筆時点)。

資金創出力と事業報酬

報酬率と資金調達等を巡るサイクル

一送の資金創出の源泉 電力格付も左右

事業報酬は一送が託送料金を通じて資金を創出する主要な源泉の一つでもある。企業の資金創出力を表す指標は多様だが、代表的指標であるEBITDAは営業利益と減価償却費で構成される。事業報酬は財務諸表上、税引き後当期利益と支払利息を合計したものに相当し(図1)、資金創出力を決定付ける重要な要素である。

このことから報酬率の設定に当たっては、託送料金の低廉化と一送の資金創出力の確保という、短期的には対立する、しかしいずれも重要な目的を両立させる適正な水準設定が求められることが分かる。

企業の資金創出力は債務償還能力の源泉であり、格付機関が信用格付を行う際の重要な要素となる。電力会社に対する格付は現在、一送を含めた旧一般電気事業者全体に対して設定される傾向にある。その際、個社ごとの事業リスク・財務リスクに加え、送配電事業を含む電力全社に共通する制度枠組みの安定性が考慮される。託送料金の報酬率は、資金創出力を左右するのみならず、国の送配電事業規制の基本スタンスの象徴的表れでもあり、格付評価に一定の影響を与えると考えられる。

低廉化実現の好循環を 第2規制期間の是正が鍵

従って適正な報酬率の設定は、安定的な格付評価につながり、資金調達コストの安定に貢献することとなる。このことが公社債利回りに対する一送の資金調達時のリスクプレミアムを抑制し、報酬率の適正化に寄与すると考えられる(図2)。やや逆説的な表現となるが、適正な報酬率は、中長期的には報酬率それ自身の安定化を経て、託送料金の低廉化を実現する好循環を生み出し得るのである。昨今はリスクフリーとされる長期金利(2・4%台、10年物国債利回り、本稿執筆時点)でさえ現在の報酬率(1・5%)と比較してかなり高位に達しており、一送の収支を圧迫するのみならず、前記のプロセスとは逆の悪循環をもたらす懸念が高い。

このような実態を踏まえ、第1規制期間の26年度以降の報酬率の是正を可能とする仕組みが今般、導入されることとなった。この判断自体は正しいものと受け止めているが、第2規制期間の報酬率検討に際しては、初期段階から資金調達などに対する十分な配慮が望まれる。

次回は、現在のレベニューキャップ制度下で求められる投資計画の実現と報酬率水準との相互関係を考察する。

むらた・ちはる 1985年東京電力入社。企画部、電力契約部、営業部などを経て2013年同社執行役員。18年電力中央研究所へ入所。21年6月から
現職。

【フォーラムアイ】コモディティ市場の重要性を啓蒙 TOCOM石崎社長ら第一線の実務家による講座始まる

【TOCOM/東京大学】

エネルギービジネスの最前線で活躍する実務家が、東京大学経済学部生らにエネルギーやコモディティ市場について講義する社会連携講座が始まった。

同講座は、2023、24両年度に開講された「産業事情」の後継。24年度は329人の学生が受講登録した。エネルギー市場・コモディティ市場の産業インフラとしての役割を広く伝えるとともに、将来を担う人材育成を図るのが狙い。4~7月の13回にわたり、電力やガス、GX(グリーントランスフォーメーション)など幅広いテーマで講義する予定だ。

4月8日の第1回講義では、東京商品取引所(TOCOM)の石崎隆社長が登壇し、「コモディティ価格がどのようなプロセスで決まるのか、商社や電力会社の経営者・経産省の政策責任者など、複数の視点の話を聞いて考えていただきたい」と、講座の目的を述べた。

初回は東商取の石崎隆社長が講師を務めた

初回のテーマは「コモディティ市場と先物取引」。石崎氏は、イラン紛争によるエネルギーの先物価格上昇に触れ、実際の原油・電力価格の変動をグラフで示しながら、「先物市場では、多様な参加者による将来の予測を反映し価格が形成される」と説明した。

また、価格高騰対策として政府が実施している補助金政策により、省エネのインセンティブが希薄化することで供給制約が悪化するとした上で、「本来は、産業インフラとしての先物市場をリスクヘッジの場として利用すべきだ」と強調した。

震災踏まえた電力政策 改革の是非問う質問も

15日に実施された第2回では、佐藤悦緒・前経産省電力・ガス取引監視等委員会事務局長が登壇し、「電力政策と市場」をテーマに講義した。

同氏は2011年3月の東日本大震災発生後、資源エネルギー庁電力基盤整備課長として計画停電を担当した。その経験を踏まえ、「九電力による硬直的な体制が、電力の広域融通を妨げた結果として実施されることになった。その後の電力広域的運営推進機関の設立や広域連系系統のマスタープランの研究は、必然的帰結だった」と、現在の電力政策に至った問題意識を語った。

また、福島第一原発事故による国、電力会社に対する信頼性の低下が、原子力に限らず、電力システム全体の政策立案・実行をむしばむ構造的問題となっていることを訴えた。

学生らは講義に熱心に耳を傾け、終盤にはメリット・デメリットを踏まえた電力システム改革実施の是非を鋭く問う質問が飛び出るなど、関心の高さがうかがえた。

【フォーカス】不適切再エネに初の交付金返還命令

経済産業省が再エネ特措法に基づく処分の厳格化を加速させている。2025年度にFIT(固定価格買い取り)/FIP(市場連動買い取り)交付金の返還命令を太陽光1件、バイオマス4件の計5件に対して初めて実施した。この5件を含め、認定取り消しは55件に上った。また交付金の一時停止は57件となった。

交付金返還命令が出た猪苗代と会津若松にまたがる飛び地案件の本体(提供:鈎氏)

返還命令を受けたメガソーラー「Blue Power 磐梯猪苗代発電所」(事業者・Blue Power猪苗代)の取り消し理由は、認定計画上の送電線路を敷設せず、実質的に移設規制を潜脱したこと。当初予定地の福島県猪苗代町内にはパネル2枚のみを設置し、本体が会津若松市内のゴルフ場にあるという「飛び地」タイプだ。長距離送電にも関わらず電圧降下がほぼ見られず、本当に自営線を敷設したのかとの疑惑が持たれていた。

バイオマスの4件は「D-POWER津発電所」(D―POWER)、「茨城県常総市バイオマス発電所」(JPX総研)、「瑞浪市水上バイオマス発電所」(大阪製鋲)、「兵庫グリーンバイオマスファーム」(べナート)で、理由はいずれも非バイオマス燃料の使用だった。

各地の不適切事例に詳しい電気技術者の鈎裕之氏は「国はFIT開始当初は法令違反の設備にも優遇措置を与えた。こうした方針は千丈の堤の『蟻の一穴』となる。今回55件の認定が取り消されたが、今なお蟻の一穴となり得る発電所は各地に散在している」と指摘する。FITの負の遺産を解消すべく、政府には一層大規模かつスピーディーな取り締まりが求められる。

【フォーラムレポート】2030年に向け「老朽火力は死なず」? 退出阻止を巡るジレンマの実態

電力安定供給確保に向け、当面は非効率な老朽火力に頼らざるを得ない状況が続く。

資源エネルギー庁は退出阻止に動くが、高コスト・補修量の増加など課題は多い。

供給力の急激な低下が懸念されるようになって久しい。新設電源への投資を促すと同時に、いかに既設電源の退出を阻止するかが喫緊の課題だが、現状、発電事業者が設備を維持するインセンティブは低く、運転開始から40〜50年が経過した高経年の石油・石炭・ガス火力の休廃止は進むばかりだ。

この背景には、政府が掲げるカーボンニュートラルへの対応に加え、再生可能エネルギーの普及拡大に伴う稼働率の低下や維持管理コストの増大が、発電事業者に撤退の判断を促していることがある。2024年度には容量市場の拠出金支払いが始まり、発電事業者は収入を得られるようになったが、退出機運にブレーキがかかっている様子はない。

電力広域的運営推進機関が3月30日に公表した26年度の供給計画でも、その動向が見て取れる。同年度中に廃止となる火力電源は371万kW。従来から計画されていた244万kWに、石油など103万kW、LNG23万kWの計126万kWが新規に計上された。

容量市場メインオークションの「Net CONE」推移
※仮試算

新陳代謝が進まず 信頼度の確保に課題

本来であれば、高コスト・非効率な火力の退出は、経済合理性、そしてカーボンニュートラルの観点からも望ましいはずだ。だがそれも、新設投資が順調に進んだ場合に限ってのこと。実際、他エリアに先駆けて火力の休廃止が進んできた東京エリアでは、25年度に実施された29年度向けの容量市場メインオークションで、追加約定した上でも供給信頼度を満たすことができず、厳しい需給状況が顕在化した形だ。

「東京の信頼度確保のために割りを食っているのが、北海道・東北エリアの高経年火力だ」と指摘するのは、学識者の一人。「原子力が再稼働、または再稼働を見通せたことで、北海道・東北ともに維持していた老朽火力の休廃止に向け地元と交渉に入りたかったはずだ。それが、東京のために維持せざるを得なくなっているのではないか」と分析する。

こうした電源は、ただでさえ老朽化が進んでいる上に、稼働当初は想定していなかった再エネ出力に合わせた頻回な起動・停止の繰り返しにより負担がかかり、トラブルを起こしやすくなっている。広域機関によると、実需給に近づくほど補修量が増える傾向が顕著。しかも、以前は需要が比較的少ない春(4~5月)と秋(10~11月)に補修が計画されていたが、昨今の厳しい残暑の影響で、「作業はほぼ春に集中させている」(発電事業者)状況が、端境期の需給ひっ迫リスクを高めている。

少なくとも、長期脱炭素電源オークションで落札された新規のLNG火力などが稼働し始める29年度以降までは、電源の休廃止が新設を上回り、トータルの設備容量の減少は続く。夏冬に厳しい電力需給となる可能性があるため、資源エネルギー庁は、容量市場や予備電源制度といった既存の仕組みを活用しながら対策を講じていく構えだ。足元では、こうした発電事業者の撤退マインドを解消しようと、今年度実施される30年度向けの次回メインオークションに向けた見直し議論に着手している。

指標価格を大幅に引き上げ 負担とのバランスは?

見直しの主なポイントは、募集量(目標調達量)の拡大と指標価格となる「Net CONE(ネットコーン)」の引き上げだ。広域機関の仮の試算では、目標調達量は25年度比で584万kW増の1万9581万kW。ネットコーンは25年度が1kW当たり1万75円(上限は1万5112円)だったのに対し、26年度は2万500円(同3万750円)とほぼ倍増する。

29年度向けオークションでは、指標価格を超えた応札などにより非落札となった容量は623万kWに上った。エネ庁電力供給室の佐久秀弥室長は、「電源の採算性が確保できるようになるため、少なくとも廃止する積極的な理由はなくなるのではないか」と期待する。

それでも、火力発電業界から聞こえてくるのは、「単年度で高い収入が確保できたとしても、キャッシュフローの予見性がないことに変わりない。電源の休廃止に歯止めはかけられないのではないか」という声だ。大手電力関係者は、「電源の廃止を食い止めたいのであれば、単年度ではなく10、20年と長期で抱えてもらえなければとても難しい」と本音を漏らす。

また、高い価格が全ての電源に適用されてしまうと、小売り事業者に大きな負担を強いることになるため、影響緩和措置としてシングルプライス約定の二段階化の適用が検討されている。これについて、あるコンサルタントは「価格を抑制するために一物多価にせざるを得ないのだろうが、恣意的な誘導を排除しなければ健全な指標価格とはならない」と断じる。

とはいえ、29年度向けのメインオークションでは、約定総額が2兆2094億円と2年連続で過去最高を更新した。27年度からは、脱炭素オークションの拠出金の支払いも始まり、小売り事業者の拠出金負担は増大する一方であることも事実で、不満が噴出することは避けられそうにない。

31年度向けのオークションを見据え、佐久室長は「実態を踏まえて発電、小売り事業者の双方が納得できるような仕組みを構築していかなければならないと」と強調する。

中東情勢の緊迫化を受けエネ庁は、26年度に限り非効率石炭の稼働率を引き上げる措置を打ち出した。だが、あくまでも30年度までのフェードアウトの旗は降ろさないまま。稼働率、そして燃料調達の不確実性がつきまとう中でどこまで活用しきれるのか。脱炭素と安定供給のジレンマを解かない限り、抜本的な打ち手は見えてこない。

【フォーカス】小笠原村が文献調査受け入れ 国主導の南鳥島モデルは広がるか

赤沢亮正経済産業相は4月21日、東京都小笠原村の渋谷正昭村長と面会し、同村南鳥島で高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定に向けた文献調査を実施する方針を伝えた。渋谷氏は風評被害を生まない努力などを求め、他の自治体への調査申し入れがなければ、次のステップに進むかどうかの意見表明は行わないと強調した。実施となれば、北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町に続く4地点目となる。

赤沢経産相(右)と面会した小笠原村の渋谷村長

同案件は、国が調査の依頼から実施判断までを担った初めてのケースだ。国は3月、調査実施を申し入れ、その後、原子力発電環境整備機構(NUMO)が住民説明会を開催。渋谷氏は4月13日の会見で、「国が実施するか否か判断すべきだ」との見解を示していた。

調査の受け入れを巡っては、これまで住民の意見集約や町村内外での反対運動など、首長に過大な負担がかかっていた。役場には抗議電話が相次ぎ、通常業務に支障が生じることもあった。「村民には賛成・反対だけではない幅広い意見がある。村長に就任して1番大変だった」(渋谷氏)。ただ、国が前面に立ったことで、先行する自治体と比べれば、多少なりとも負担が軽減した可能性はある。

国は他の市町村にも働きかけを強めるが、現時点で申し入れに至ったのは小笠原村だけだ。「できれば南鳥島だけではなく、他の地域も一緒に申し入れてほしかった」(同)

原子力発電を活用する以上、最終処分場の建設は不可欠だ。小笠原村をモデルとして、調査地は拡大するのか。