【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題
ドイツ政府が8月1日に実施した北海沖の洋上風力発電プロジェクトの入札において、応札事業者が1社も現れなかった。期限内に応募がなかったことを、連邦系統規制機関が6日に発表。同機関は新たな入札期日を来年6月に設定し、再公募の方針を示している。
今回のプロジェクトは、ドイツ領海内における合計250万kW規模の2地点を対象としたもので、応募ゼロは初の事例となる。ドイツ洋上風力事業者連合のティム事務局長は、「ドイツの洋上風力市場は、投資家にとって関心を引くものではない」との声明を発表した。
背景には、洋上風力開発におけるリスクとコストの急増がある。原材料価格の高騰により建設費が膨らむ一方、電力価格は低水準で推移しており、投資採算性が確保できない状況が続いている。投資家は新規設備への投資を控えている。
洋上風力業界は、双方向差額決済契約(CfD)の導入を求めている。政府が電力の最低価格を保証することで、投資家は安定的な収益を見込める。融資機関も資金調達に必要な条件を満たしやすくなる。ティム事務局長は「このような制度改革がなければ、今後の公募も失敗に終わる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。独エネルギー水道事業者連盟(BDEW)も、今回公募された北海沖のフィールドについて、経済性の低さを問題視しており、CfDの導入を支持している。
洋上風力の拡充が停滞すれば、ドイツが掲げる脱化石燃料へのエネルギー転換に支障をきたす。現在、北海およびバルト海のドイツ領海には、合計1639基(920万kW)の風車が稼働している。洋上風力事業者連合の発表によれば、さらに約100万kW分の設備が完成しているものの、送電線が大陸側と接続されておらず、電力供給には至っていない。政府は2030年までに、国内総電力消費の少なくとも8割を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げており、洋上風力発電容量は3000万kWを目指している。しかし、業界側はこの目標の達成は困難であり、実現は31年にずれ込むとの見方を示している。
さらに、政治的なリスクも高い。今年5月に発足したメルツ政権が、洋上風力の拡充目標にどこまでコミットするかは不透明である。
洋上風力業界は以前から、予測困難なリスクを伴うオークション設計に警告を発してきた。法制度の枠組みを早急に見直さなければ、ドイツは価値創造、雇用、そして電力供給の安定性という重要な機会を失うことになりかねない。原材料費の高騰、サプライチェーンの不安定化、電力価格の不確実性、そして国際情勢の緊張など、複合的な要因が投資環境を揺るがしている。
イギリスでも過去に、入札者が現れない洋上風力オークションが発生しており、ドイツも同様の課題に直面している。洋上風力の潜在力を失わせないためには、制度面・経済面の両側からのてこ入れが急務である。
(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)










