北川進氏らがノーベル化学賞 気体貯蔵など幅広い応用に期待


今年のノーベル化学賞を京都大学特別教授の北川進氏ら3人が受賞することが決まった。気体の貯蔵などに役立つ新素材「金属有機構造体(MOF)」を開発した功績が評価された。日本人の化学賞受賞は、19年に旭化成名誉フェローの吉野彰氏が受賞して以来9人目だ。

日本人9人目となる化学賞を受賞した北川進氏
提供:時事

MOFは金属イオンと有機分子を組み合わせたもので、内部には無数の微細な穴が並ぶ。素材の組み合わせを変えることで、特定の物質を狙って取り込むことができ、CO2の回収や水素、天然ガスの貯蔵など、幅広い応用が期待されている。

北川氏は1980年代から、近畿大や東京都立大、京都大と拠点を移しながら、MOFの先駆けとなるPCP(多孔性配位高分子)の研究に注力してきた。95年から2003年にかけては、大阪ガスと共同研究を行っていたという経緯がある。

1995年当時、同社はガスの吸着・貯蔵を目的に、PCPの研究に取り組んでいた。その中で、学会に参加した担当研究員が北川氏と意気投合したことをきっかけに共同研究が始まった。北川氏が97年に発表した論文では、同社研究員も共著者として名を連ねている。

藤原正隆社長は、研究員の上司として同分野に携わっていたこともあり、今回の受賞にひときわ強い思いを寄せる。「当社は約10年間、共同研究などでご一緒させていただいた。その成果が少しでも、今回の栄誉あるご受賞に結びついていたたなら、大変喜ばしく思う。長年にわたるご尽力と情熱を結実されたことに、心から敬意を表します」と祝いのコメントを寄せた。

産油国は増産継続 引き続き不透明な価格動向


【マーケットの潮流】橋爪吉博/石油情報センター事務局長

テーマ:原油価格

量こそ縮小傾向にあるものの、OPECプラスは増産を続けている。

国際情勢の変化や産油国の思惑が複雑に絡み合い、価格動向は不透明だ。

OPECプラスの有志8カ国は、10月5日のウェブ会議で、石油市場の健全なファンダメンタルズと堅調な世界経済成長見通しを踏まえ、10月に続いて11月も日量13・7万バレルの減産緩和(増産)を確認した。市場観測に沿った10月の増産を継続する合意だが、今年5~9月の増産幅(日量41・1万バレル)を圧縮する内容であり、翌6日のアジア市場では想定内として、わずかながら反発した。

産油国はシェア確保を狙っているのか


毎月の生産協定見直し カルテルの新形態

減産緩和・増産を開始する今年3月以前、OPECプラスには3段階の減産合意があった。ベースとなる生産量(22年10月)に対して、①経済制裁あるいは内戦中のイラン・リビア・アルジェリアの3カ国を除く参加国20カ国による協調減産(日量200万バレル、2026年末終了予定)、②サウジアラビア・ロシアなど主要有志8カ国による自主減産(日量165万バレル、今年4月から縮小中、26年末終了予定だった)、③有志8カ国による追加自主減産(日量220万バレル、終了)─の三つである。今回の決定は10月に続いて、②の緩和・増産を延長するものだ。

3段階の減産合意は、ウクライナ戦争に伴う対露経済制裁によるロシア減産の回避(ロシア原油輸出先の中国・インドなどへのシフト)、米欧の利上げ(22年下期)による世界経済の減速を主な要因とする原油価格軟化に対応したものだった。ただ、②③は23カ国の全参加国による合意が難しかったため、減産を必要と考える、あるいは減産の余裕がある主要8カ国の合意による「自主減産」という形式にしたのであろう。

本来、カルテル組織における増減産・生産調整は、あくまで全メンバーによる基本生産量に対するプロラタ(均等割当)が基本である。自主減産はカルテル組織としては異例の考え方で、OPECプラスのカルテル構造は二重化したものと考えるべきだ。したがって、有志8カ国の自主減産の解消が優先され、8カ国会合で決めることになる。

OPEC時代には、増減産時は常に総会(臨時総会を含む)を開催して生産協定を決めていた。組織として、生産協定の対象期間の世界の石油需要量の想定を行い、そこから非OPEC産油国の供給量を控除したものをOPEC需要量(Call on OPEC)として、OPEC生産量を決定していた。考え方はOPECプラスも変わらないが、意思決定については、全加盟国で合意できないことが多く、機動的な対応とは言えない状態だった。その意味で、毎月ウェブで主要8カ国が会合し、生産協定を見直す体制は、カルテル組織として一種の「進化」と言えるかも知れない。

OPECプラスは、米国のシェール増産・最大産油国化に対抗するため、16年秋、サウジアラビアとロシアを中心に設立された。OPEC加盟国13カ国とロシア・カザフスタンなど非加盟産油10カ国の協力組織である。世界第2位の産油国であるロシアと第3位のサウジによる2位・3位連合、あるいは「石油同盟」とも言える。世界の石油生産シェアも、OPECだけで32%だったものが、OPECプラスで54%となった。17年初めに生産調整を開始、20年には新型コロナウイルス禍の減産方針を巡って一時決裂したが、その直後、日量970万バレルという史上最大の減産合意を実施し、パンデミックによる需要激減を乗り切った。世界的な脱炭素化に対応するため、またロシアの戦費調達のために価格維持の方針を優先した時期もあった。

しかし、ウクライナ戦争の副産物である「世界の分断」やグローバルサウスの勢力伸長による気候変動政策の世界的退潮で、最近は産油国がかつての自信を取り戻し、長期を見据えた「シェア回復」方針に回帰したように見える。すなわち、途上国の経済成長に伴う「オイルピーク」(石油需要が最大になる時期)の先送りを前提に、当面はシェア確保によって需要量増加に伴う石油増収を図ることが有利との考え方に変化したのではないか。特に、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)といった生産余力を有する産油国ではその傾向が強い。


需要予測に大きな差 中国の不気味な動き

ただ、この点については、参加国には米国を中心とする経済制裁に直面し、生産量拡大は難しく高価格を望むロシア・イラン・ベネズエラも含まれている。今回の減産緩和も規模を巡り、サウジとロシアが対立したと言われており、留意が必要だ。

増産姿勢を示すサウジは慎重に対応している。今回の合意では、増産幅は前月(日量13・7万バレル)据え置きで、前々月(日量41・1万バレル)の約3分の1だった。しかも、過去に違反増産を行ったイラクやアゼルバイジャンなどに対しては、24年以降の合意違反の超過生産分を生産量から相殺することを約束させている。

今後の石油需要の伸びについて、国際エネルギー機関(IEA)は25年を前年比日量70万バレル増、26年を同60万バレル増との予想に対し、OPECは25年同130万バレル増、26年同140万バレル増と予想しており、倍近い差がある。OPECの強気見通しに従えば、OPECプラスの増産方針も理解できる。そもそも、双方の短期見通しのズレも、オイルピークの時期やピーク数量といった長期見通しの想定のズレに起因している気がしてならない。

一方、中国は現在、石油の戦略備蓄を積み増していると言われている。多くの関係者が需給緩和・価格下落を予想する中で積み増ししているのは、理由が分からず気味が悪いが、サウジの増産姿勢の要因となっていることは間違いないだろう。今後の原油価格動向は「不透明」としか言いようがない。

はしづめ・よしひろ 1982年中央大学法学部卒、石油連盟事務局入局。在サウジアラビア大使館二等書記官、石連流通課長・企画課長・広報室長などを歴任。2019年から現職。

ETSの制度設計進む 11月以降機微な論点に着手


来年度に始まる排出量取引制度(ETS)の議論が進んでいる。年末の取りまとめを目指し、経済産業省の事務局はこれまでに排出枠割り当ての勘案事項や水準などを提示。ただ、カーボンリーケージ(多排出産業の移転)などの個別論点は11月ごろ、制度の根幹となる取引価格の上下限価格の具体的水準は12月以降となる予定。制度設計の本番はこれからだ。

成長志向型CPとするためにリーケージ対策は必須だ

排出枠の割り当ては、エネルギー多消費産業が業種別ベンチマーク(BM)、それ以外は毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング(GF)方式だ。発電部門の場合、発電BM水準を基準活動量にかけて算定。BMは2028年度までは100%燃種別とし、以降は全火力平均の比率を徐々に高め、30年時点で全火力40%、燃種別60%とする。ややこしい仕組みだが、電力需要増が見込まれる中、さらなる過度な火力退出を防ごうとする配慮の跡が見える。

制度全般で特に事務局が気をもむのがリーケージ対策だ。収益に対する排出枠調達コスト比率が一定水準を超える場合、不足分の一部を翌年度の割当量に追加する案が出ている。多数の委員が理解を示す一方、NDC(国別目標)との整合を求める一部委員が懸念を示している。

多消費産業関係者は「今の方針なら30年ごろまでは大きな負担にならなそう」とみる。ただ、「化学業界などは各社作っているものが全く異なり意見集約が難しい。また、GFとなる中規模企業はこの仕組みで本当にいけるのか。さまざまな論点があり12月までに全ての議論が終わるのか疑問」とも続ける。

復興再生利用の取り組みで前進 政府一丸で45年県外最終処分実現へ


【環境省】

インタビュー:小田原 雄一/環境省 環境再生グループ長

福島原発事故に伴い発生した除去土壌の復興再生利用に向けた取り組みが今年一段前進した。

20年後までの福島県外最終処分実現に向け、現在地や今後のポイントを環境省担当幹部に聞いた。

―来年で福島原発事故の発生から15年です。除去土壌を巡る進ちょくをどう評価しますか。

小田原 除染は今も「特定帰還居住区域」で継続し、2020年代をかけて帰還意向のある住民が地域に戻れるよう必要な箇所の除染を進めています。さらにこの1年間ではいくつか動きがありました。法律で定めている45年3月までの福島県外最終処分の実現に向けて、昨年12月に閣僚会議を設立し、今年5月に基本方針を、これをさらに落とし込む形で8月に当面5年間のロードマップを策定しました。

環境省での復興再生利用の現場を視察する浅尾慶一郎環境相(左)ら


まずは理解醸成が重要 実用途での事例を創出する

小田原 同県での実証や有識者の助言を踏まえ、除去土壌の再生利用の基準として1㎏当たり8000ベクレル以下といった基準を定めました。また、復興再生利用の必要性・安全性についてご理解を深めていただくため、この基準を満たし復興再生利用に用いる除去土壌を「復興再生土」と呼称することを、9月に立ち上げた有識者会議の意見を踏まえ決定しました。そして、7月から先行的に官邸や中央省庁の花壇などで復興再生利用を進めており、10月13日に施工を完了しました。

―今後、霞が関以外の各府省庁の庁舎などでも復興再生利用し、その知見を生かして実用途の先行事例を創出する方針です。

小田原 8月末時点での除去土壌の量は約1400万㎥で、その4分の3が1㎏当たり8000ベクレル以下です。45年までの最終処分実現に向けては、復興再生利用を最大限進めることが鍵となります。

復興再生利用の拡大には、まず理解醸成が重要です。これまで若者向けの講義やワークショップ、また幅広い層に向けたパネルディスカッションなどを適宜開催してきました。加えて官邸・霞が関での利用が新たな一歩につながればと思います。そして今後全国規模で展開する上では、さらにさまざまな課題をクリアする必要があります。

そのためにも必要な先進事例の創出に関しては、公共事業・施設や、安定的な事業継続が見込める民間での土地造成・盛土・埋立てへの利用などを想定しています。どの程度の範囲で、どの程度の量を見込むのかなど、具体方針はこれから検討します。

―30年ごろに、実用途における復興再生利用のめどを立てるとしています。

小田原 例えば、除去土壌全体量のうち、どの事業にどの程度、復興再生利用するかのめどを30年ごろに示したい、といったイメージです。


最終ゴールに向けて 自治体からは道筋求める声

―最終処分の実現に関しては、30年ごろに処分場候補地の選定・調査を始めるとの目標ですが、どんな方針で進めますか。

小田原 これほど大規模な原発事故に伴う除去土壌の処分は世界で例がなく、数多の課題をクリアする必要があります。今後5年間で、まずは最終処分の管理終了の検討、中間貯蔵施設内での土壌取り出し・運搬に関する検討に優先して取り組みます。

その他、最終処分・運搬のために必要な施設、減容技術などの効率化・低コスト化の検討に向けた技術開発、全体処理システムとしての安全・効率的な運用の検討、最終処分場の立地の技術面や社会的受容性に関する検討、地域共生の在り方の検討などを、段階的に丁寧に進めていきます。これらの取り組みを、候補地選定のプロセスの具体化、そして候補地の選定・調査につなげていく考えです。

―これまでに示した最終処分の四つのシナリオを基に、35年めどで処分場の仕様を具体化、候補地を選定するとしています。

小田原 今年3月に環境省が取りまとめた25年度以降の進め方では、減容技術の組み合わせで①減容しない、②分級処理、③分級+熱処理、④分級+熱処理+飛灰洗浄―といったシナリオを提示しています。①から④に向かうほど、最終処分量や必要面積は減少しますが、減容処理コストは逆に上昇していく見込みです。まずは必要な技術的検討を進めた上で、先述の有識者会議で施設整備の在り方や効率性、そして社会的受容性などを踏まえ、検討を重ねます。

―高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定では、原子力発電環境整備機構(NUMO)が調査地点の公募を始めてから23年経ち、決定にはまだ時間がかかる見込みです。一方、除去土壌では時間的な区切りがある点に難しさがあるかと思います。

小田原 政府の取り組みに対して、福島県や県内自治体からは、ロードマップで示した内容を一定の前進としつつも、「45年までの全体工程として、県外最終処分への確実な道筋を示すべきだ」といった声が出ています。こうした意見もしかと受け止めながら、45年までの最終処分実現に向けて引き続き政府一丸となって取り組んでいきます。

おだわら・ゆういち 京都大学工学部土木工学科卒。同大学院工学研究科修了。1994年建設省入省。道路局道路交通管理課長、復興庁参事官、環境省大臣官房審議官などを経て今年7月から現職。

ユニークな発想でガス会社の殻を破る 逆境に打ち勝ち持続的な成長を実現


【事業者探訪】NEXT・カワシマ

茨城県央のひたちなか市を中心にプロパンガス販売事業を展開する。

生活に寄り添うさまざまなサービスで、地域になくてはならない存在になろうとしている。

茨城県の勝田、那珂湊の2市が合併し1994年に誕生したひたちなか市。県央地域に位置し、旧勝田市は日立製作所の企業城下町として発展した工業都市であり、旧那珂湊市は漁業の町として栄えた。国営ひたち海浜公園は、ネモフィラの名所であり、開花シーズンの春になると県内外から多くの観光客が訪れる。

川島プロパンとして1958年に創業したNEXT・カワシマは、そんな同市を中心に水戸や日立市といった周辺のエリアでプロパンガス供給を手掛けている。他の地方都市と同様、人口減少や大手事業者の参入による顧客争奪戦の激化は大きな経営課題。こうした逆境下でも持続可能な成長を目指そうと、3代目の川嶋啓太社長の陣頭指揮の下、価格勝負の過剰競争からは距離を置き、顧客とのつながりを基盤とした経営への転換を図っている。

3代目の川嶋啓太社長

根底にあるのは、このままでは5年、10年後に現在と同水準の利益を維持し続けることはできないという危機感だ。創業60周年を迎えた2017年に現在の社名に変更。「NEXT」には、ガス会社のイメージを払しょくし、お客さまの次のニーズに応え、新たな価値創造に挑戦し続けるという、100年企業への決意を込めた。

プロパンガスのみならず、住宅リフォームや水回りのメンテナンスといった周辺事業も手掛け、何かあったら「NEXT・カワシマに頼ろう」―、そう思われるような存在でありたいという。


地域のつながりを創出 収益確保に着実に貢献

川嶋社長は、「ガス会社の後継者として修業するべきではないか」という家族の反対を押し切り、大学卒業後はベンチャー企業でソーシャルメディアマーケティングに携わった。そのノウハウを生かし、従来のガス会社の殻を破るユニークな発想で取り組んでいるのが、「ファンマーケティング」だ。

生活に役立つだけではなく、地域での生活に楽しみや住民同士のつながりを生むようなサービスを提供することで同社に愛着を持ってもらう狙い。そのための仕掛けとして、本社から半径20㎞圏内の地域住民を対象に会員サービス「らぽくらぶ」を展開している。

イベントは多くの地域住民でにぎわう

ガスの契約者は月額100円、契約者以外でも300円で会員になることができる。「楽しい」「安心・安全」「おトク」「便利」をキーワードにさまざまなサービスを提供。中でも「楽しい」をキーワードに展開しているのが、かつて自社敷地内で開催していた「ガス展」を発展させたイベントであり、熱気球体験や地引網漁体験といった地元ならではの体験や豆まきなどの季節の催しを月1回のペースで開催している。

また、住宅機器や給湯設備、水回りの点検・修理など暮らしの困りごとに対応する「ネクストサポート」では、生活の困りごとを抱えた際に、初回は無料で駆け付けるサービスや、社員2人が1時間3000円で草むしりなどの作業をお手伝いすることで「便利」を提供し、暮らしの「安心・安全」を支えている。急な給湯器トラブルの際には、都市ガスや電気給湯器のユーザーであっても、ガスボンベを持って「お湯レスキュー」に駆け付ける。

さらには、会員証を提示することで地域の飲食店や美容室など約150店舗で割引などの優待を受けられる「おトク」な仕組みも、会員に喜ばれている。

これらにより、ガスを契約していない住民との接点づくりにつながっているのに加え、地元のお店と会員を橋渡しすることで地域内での経済循環を促進。同時に、ガス供給先である連携企業の離脱を防いだり、逆に新たな顧客を紹介してもらえたりといった同社の本業との相乗効果が生まれている。

実際、問い合わせ件数は2020年比で30%増加、ガス器具や住宅リフォームといった物販売り上げは、会員サービスを開始する前よりも3倍に拡大するなど、顧客数の維持と利益の確保に確実に貢献している。


他社にノウハウ提供 業界常識打ち破れるか

同社が供給するプロパンガス価格は、LPG輸入価格(CP)と連動させ極めて明瞭。顧客と料金の値引きなどについて話すことはないが、大手事業者が安値攻勢をかけても離脱は起きていない。これが、「地域のつながり」という強固なプラットフォームを作り上げたことの大きな成果だと言える。

今後は、こうしたファンづくり戦略のノウハウを体系化し、価格競争で窮地に陥っている同業他社に販売していくことを模索している。地域社会で顧客との強い接点を持つガス会社であれば、この手法を共有することで顧客単価の向上と切り替え防止、そして中小事業者は資本力の差で大手に勝てないという業界常識からの脱却は可能だとの確信がある。ひたちなかの小さなガス会社が、業界に新しい風を吹かせようとしている。


【地域の魅力発信】干し芋

茨城県の名産といえば「干し芋」。100年ほど前に静岡県からひたちなか市那珂湊に製造法が伝わり、現在同市は日本屈指の生産地として名をはせている。

ふかしたサツマイモの皮をむき、薄くスライスして乾燥させる。ミネラル分や食物繊維を多く含んでいるため、健康食品としても注目度が高い。イモの品種によって異なる味わいや食感を楽しめる。

年内の地元同意なるか KK再稼働へ「知事判断」秒読み


「年内決着」へ前進している。柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、新潟県議会は10月16日、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官や東京電力の小早川智明社長などを参考人招致し、連合委員会を開催した。国や東電にとって、県の要望に対して回答する「後出し小出しなしの一発勝負」(高橋直揮・自民党新潟県連政調会長)の場となり、国は避難道路の全額国費での整備(1000億円超)、事故時の避難所整備(約100億円)などを表明。東電は継続的な稼働を前提に、10年程度で計1000億円規模の資金拠出や1、2号機の廃炉に向けた具体的な検討方針を打ち出した。

新潟県議会に出席した東電の小早川智明社長(手前右)とエネ庁の村瀬佳史長官(最前列右)ら
提供:朝日新聞社

翌日には案の定、地元紙の新潟日報が社説で「カネで再稼働を買おうとしているのであれば、県民を愚弄する姿勢である」と批判を展開した。自民党内には「1000億では足りない。3000億円に増やせ」と訴えるベテラン県議がいるが、県連幹部は「そんなことを言ったら東電の経営はどうなるのか」と冷ややかだ。「踏み込んだ回答だったので良いのではないか」(別の自民県議)というのが、党内のもっぱらの受け止めのようで、柏崎市内では「東電にカネを出させるのか」「廃炉はもったいない」との声もある。

県は11月中旬以降、県民意識調査の詳細結果を公表する予定だ。これを受け、花角英世知事が再稼働の是非を判断し、12月議会で県民の意思を最終確認する流れが想定されている。数々のハードルを越え、再稼働論議は最終コーナーを回った。師走は新潟に熱い視線が注がれることになる。

経産省主導の様相呈す高市新政権 電力期待の一方で思わぬアキレス腱も


「国が原子力政策を本気で進める地合いが整った」。10月21日、大手電力幹部は高市新政権についてこう評した。

新官邸の布陣を見ると〝経産省主導〟の様相だ。電力業界の期待が高まる一方で思わぬアキレス腱も見えてきた。

憲政史上初の女性首相に就任した高市早苗氏にとって、自民党総裁選での勝利から長い、長い3週間だったに違いない。連立与党の相手だった公明党が離脱し、首相の座を射止められるか危うくなった。就任前からつまずいた形になったが、日本維新の会を新たな連立パートナーとして引き込み、晴れて第104代首相に就いた。

自民党は公明党の退潮を受け、相当前から水面下で新たなパートナー探しに着手。中長期的な視野に立ってのことだったが、石破茂政権時に2度の国政選挙で衆参ともに過半数割れの状況に陥ると、連立相手探しが本格化した。衆参で伸長した国民民主党か、安倍晋三政権時代からのパイプを生かして維新か。この2党に照準を合わせていた。

天皇陛下から任命を受ける高市首相
提供:朝日新聞社

ある自民党議員は「これらの動きは公明党の票が頭打ちの状況が顕著になってきたことに起因する。将来にわたって政権維持するためにはプラスαの相手が必要になるという戦略からだ。もちろん自公に加えるという認識だった」と話す。

「維新との連立の予兆は7月ぐらいからあった」。こう語るのは、ある霞が関関係者だ。「維新の遠藤(敬)首相補佐官が毎年吉本興業とバーベキュー大会をやる。それに各省庁の幹部、職員も大勢参加するが、今年は林芳正さんが来た。1時間はいましたね。ビートルズの『レッド・イット・ビー』を熱唱されていましたが、これは『あるがままにする』という連立へのラブコールだったのではないかと見る向きが出ました」

自民党が維新との連立を模索していた証拠に、石破政権の官邸関係者も参院選の投開票前に「過半数割れした場合、連立の新パートナーは維新が最優先だ。ただ公明党が大阪で競り合っているのでここがクリアできれば」と話していた。

公明党の連立離脱という想定外の出来事が自民党のアクセルを全開にした。高市新執行部で政調会長に就いた小林鷹之氏を中心に維新側と急接近。大臣ポストや副首都構想の実現など維新側に有利な条件を提示し、心を揺さぶった。「公明党の離脱は渡りに船、障壁がなくなって晴れて維新との連立がしやすい環境が整った」(自民党関係者)との見方が大勢だ。維新側も公明というタガが外れたことで連立に踏み出せたに違いない。


安倍政権との類似点 GXは原子力が軸に

高市政権は安倍政権と似ている。閣僚は財務相に片山さつき氏、経済安全保障相に小野田紀美氏が就いた。安倍政権が「お友達内閣」と言われたが、高市首相の人事も安倍政権を彷彿とさせる身内人事になった。

官邸スタッフは経済産業省の官僚を中心に固めた。政務の首相秘書官に前経済産業事務次官の飯田祐二氏を配した。経産省からは事務秘書官として親原子力派として知られる香山弘文氏を付け、「経産省政権」と言われた安倍官邸を見ているかのようだ。嶋田隆・元経産事務次官が政務秘書官を務め、安倍政権の流れをくんだ岸田文雄政権とも通じる部分がある。

霞が関の事情通は「官僚に伝手のない高市氏はスタッフの人選に相当苦労したようだ。政務の秘書官に安倍政権で懐刀だった今井尚哉氏を招へいしようとしたが、さすがに断られたという(内閣官房参与に就任)。固定の職を持っていなかった飯田氏は断れなかったようだが、エネ政策通だけに業界は喜んでいるだろう」と述懐する。

その通り、この布陣はエネルギー政策には明るい。特に連立相手の維新が要求しているガソリン暫定税率の廃止は強力に進めていくことになる。高市政権最初の焦点は年末までに暫定税率廃止にめどがつけられるかであり、飯田氏を中心に政策が作られていくことになるだろう。

グリーントランスフォーメーション(GX)も原発を軸にした色彩を一段と強めてこよう。原発推進派が官邸を仕切ることで、東京電力柏崎刈羽など長期停止原発の再稼働や安全審査の進展のほか、新増設・リプレース、革新炉開発にも弾みが付くとみられ、電力業界関係者からの期待は大きい。

すでに永田町界隈では早期の解散総選挙の憶測が流れている。ある永田町筋は「ガソリン暫定税率にめどをつければ、維新が要求する議員定数削減を争点に年明け早々解散に打って出る可能性は十分にある」と話す。

この想定が実現するにはまずは内閣支持率の高さが重要になるだろう。初の女性首相という話題や刷新感から発足当初は高い支持率になるだろうが、じきにそのご祝儀もなくなる。永田町では早いうちの解散説が絶えないのはそういう理由もある。


女性支持の低さがネック 経済対策で行き詰まるか

ただ一つ気になるデータがある。自民党総裁選で党員・党友票の4割を獲得した高市氏だが、男女別比率は8割が男性だったという。残り2割の女性票も夫など家族とともに高市支持に回ったもので「純粋な女性支持は得られていない」(自民党関係者)との分析だ。高市氏にとっては女性票がアキレス腱になる可能性があり、今後の各種調査での支持層の男女比率に注目する必要がありそうだ。

威勢のよさが支持の源になっている高市氏だが、解散に打って出るとすれば維新との候補者調整が難航しそうだ。特に関西では自民党内からも反発が予想され、足元がおぼつかない。円安を主因とする物価高の継続は国民生活を圧迫しており、高市氏が自ら標榜する積極財政を推し進めれば、さらなる円安もあり得るだけに経済対策で行き詰る可能性も否定できない。

苦しい現状から打破するために高市氏が主義主張を改変させるようなことがあれば、それはそれで保守層からの支持を失うジレンマに陥る。新たな連立相手を射止め、かろうじて船出した高市新政権の前途は多難だ。

高市政権が原子力推進を前面に エネルギー政策でも「脱公明」


新政権でエネルギー政策はどう変わるのか。10月21日、高市早苗内閣が発足した。注目の人事は、経済産業相に前経済再生担当相で日米関税交渉を担った赤沢亮正氏が就任。茂木敏充外相とのコンビは、米国対応を強く意識した布陣と言える。赤沢氏は衆院原子力問題調査特別委員長を務めた経験があるが、エネルギー観は未知数。原発再稼働や洋上風力公募といった重要課題が山積しているだけに、その手腕が注目される。

それぞれの分野で手腕が問われる新閣僚たち

環境相には元環境副大臣の石原宏高氏が就いた。衆院環境委員長を歴任するなど環境行政に精通し、省内には歓迎する声がある。兄の石原伸晃氏も過去に環境相を務めており、兄弟での就任となった。

事務方の官房副長官には、前警察庁長官の露木康浩氏が着任した。官僚トップとされる同ポストは、岸田文雄政権以来の警察庁復権となった。主席首相秘書官には前経済産業事務次官の飯田祐二氏が就任した。こちらも岸田政権の嶋田隆氏以来の経産省出身者となる。飯田氏は明るい性格で、他省庁からの評価も高い調整型として知られる。首席秘書官に経産省出身者が就任することについては「財務省と違い、経産省は大きなビジョンを描ける」との期待が根強い。

同省からは、政策統括調整官の香山弘文氏も秘書官として官邸入りする。香山氏は原子力畑が長く、2011年の東日本大震災後には原発再稼働に尽力。原子力国際協力推進室長などを経て近年は経済安全保障室長を務めるなど、高市首相や自民党の小林鷹之政調会長が重視する経済安保に詳しい。香山氏について、小林氏に近い自民党議員は「仕事がバリバリできる。人当たりも良いし、必ず次官になる人」と高く評価する。


次世代炉開発を加速 エネ料金補助はまた復活

自公政権から「自維政権」となり、エネルギー政策の優先順位は変化した。昨年10月の石破茂政権発足時に自公が結んだ連立合意書では、エネルギー項目の冒頭に「50年カーボンニュートラル(CN)」「30年温室効果ガス削減目標の達成」が並んだ。しかし、自維の合意書には「CN」「温室効果ガス」というフレーズは一度も出てこない。代わって登場したのが、従来の原発再稼働推進に加え、次世代革新炉・核融合の開発加速化やメガソーラー規制だ。どちらも高市氏と小林氏が重視する分野で、後者は来年の通常国会で法的規制を実行すると明記した。

業界にとって喫緊の関心事は物価高対策の行方だ。就任早々、高市首相は臨時国会でガソリン税の旧暫定税率廃止を目指すと明言し、電気・ガス料金補助を盛り込んだ補正予算の策定を指示した。料金補助は23年1月~24年5月まで続いたが、その後は夏冬限定で3度復活している。業界を巻き込みながら、新政権はエネルギー政策を前進させられるだろうか。

(フォーラムレポートで詳報)

日本のDRの歴史と共に歩んだ10年 需要側リソース拡大へ電化の促進担う


【エナジープールジャパン】

インタビュー:エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO

仏デマンドレスポンス(DR)サービス大手、エナジープールの日本法人が設立から10年を迎えた。

市村健社長は「日本のDRの歴史は当社の歴史とシンクロしている」と、この間を振り返る。

―設立から10年、日本の電気事業制度において果たしてきた役割をどう振り返りますか。

市村 ある政府幹部から「日本のデマンドレスポンス(DR)の歴史とエナジープールジャパンの歴史が重なりますね」と、ありがたい言葉を頂戴しましたが、それはともかく、DRの意義は、この10年間で大きく変わりました。10年前は、東日本大震災後の供給力不足に陥っていた中で、需要のピークを抑制するために実施されていました。現在はそれ以上に、大量導入された太陽光発電を最大限に活用するために、フレキシビリティ(需要の柔軟性)を提供する役割が期待されています。DRの担い手を「アグリゲーター」と呼びますが、今はむしろ「フレックスプロバイダー」と呼ぶのが適切です。

―市場の在り方や商慣行が違い、フランスのサービスを単に持ち込んだだけではうまくいかなかったのではないでしょうか。

市村 欧州では電気はコモディティ商品ですが、燃料をほぼ全て輸入に依存する日本では必ずしもそうではありません。そういう意味で、私が日本人であり、大手電力会社出身で日本の電気事業の現場・現実を一定程度理解していたことで欧州ノウハウを日本に合わせやすかった、ということはあるかもしれません。資源エネルギー庁の審議会委員として制度議論に参画していますが、DRの現場・現実と制度議論の間にはギャップがあると実感しています。例えば、制度設計上、DRは負荷ですが、実際にDRの前線にいるのはクライアントです。双方を理解し、そのギャップを埋める意識は常にあります。

円滑なDRの発動のため需要家との協議を重ねている


経済DRでkW抑制 猛暑の需給に貢献

―確かに需要家にも生産計画があり、電力需給の都合で変更を強いることはできません。

市村 そうです。例えば、今年の夏は相当暑かったため、これまで通りであれば発動指令電源への発動が頻発してもおかしくなかった。ところが、この暑さでもHI需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)はそれほど伸びていません。要因の一つとして、経済DRがうまく機能し、kW時(電力量)は増えてもkW(電力)を抑えられているという仮説は成り立ちます。これは、電力業界と需要家にとってウィンウィンの状態だと言えます。需要家によるDRを単なる負荷と捉えるのではなく、お客さまとしての需要家ときちんとコミュニケーションできる関係を築けたことは、この10年間の一つの大きな成果です。


系統混雑回避の機能提供 熱利用分野の電化が不可欠

―今後、電力需要が急拡大する可能性が示唆されています。ビジネスへの影響は。

市村 そうした新たな局面においては、結局のところ系統混雑をどう解消するかが大きなテーマとなります。系統増強は社会コストが膨らみますから、インフラを維持するために必要なコストは最低限投資しつつ、需要側で混雑回避を図る実務が非常に重要になるわけです。

50万、27万5000Vの上位2系統の混雑処理は、TSO(一般送配電事業者)の役割です。ところが、太陽光の多くが接続されるのはローカル系統や配電系統であり、この領域での混雑処理の担い手は、小売り事業者側のバランシンググループ(BG)にならざるを得ない。つまり、日本の電気事業は今後、TSOとBGが協働しながら成り立たせていく時代に向かっていく。そうした中でフレックスプロバイダーには、小売りBGに系統混雑回避の機能を提供し、協働しながらローカル系統以下に接続されている太陽光の価値を最適化、最大化していくという役割を果たすことが求められることになるはずです。

―50年に向けた展望は。

市村 わが国の経済が再生を果たすためには、一次エネルギー自給率を高める必要があります。そのためにも大手電力会社には原子力発電所の再稼働と新増設にまい進していただき、政府にはバックエンド政策を着実に進めていただくことを期待しています。青森県六ヶ所村の日本原燃の再処理工場は、自給率と安全保障を担保する切り札になり得ますから、必ず竣工・稼働していかなければなりません。

一方で、導入された太陽光は最大限に活用するべきで、それには、需要側のリソースをさらに拡大していく必要があります。蓄電池も有効ですが、レアアースやレアメタルの集合体である限り経済安全保障の観点で問題があります。それよりも需要側のリソースをIOT化し活用することで、太陽光を出力制御することなく使い切ることが、カーボンニュートラル(CN)時代に目指すべき姿です。

本当に50年CNを目指すのであれば、最終エネルギー消費の約7割を占める化石燃料の直接燃焼に由来する熱利用を電化することは不可欠です。熱利用を電化すれば、おのずとフレキシビリティを提供するための需要側リソースは増え、それによってさらに電化が加速するという好循環が生まれます。50年に向けて必要なのは、何よりも電化の促進であり、当社としても小売りBGとともにその役割を担っていく覚悟です。

いちむら・たけし 1987年慶応大学商学部卒、東京電力入社。米ジョージタウン大学院MBA修了。原子燃料部、総務部マネージャーなどを歴任。15年6月に同社創業。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】グループ各社が自律し、価値観を共有しながら健全な成長を目指す


前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成。今年度、新たなグループ中計「ACT2027」をスタートさせた。

本業のガスエネルギー事業にやや回帰しつつ、不動産や電力事業も強化し収益力の向上を目指す。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

井関 前グループ中期経営計画「Next2024」では、売上高、経常利益、自己資本比率といった経営指標の目標を達成しました。

加藤 その瞬間は非常に達成感を覚えました。ですが、直後から新たなグループ中計「ACT2027」が始動し、フルパワーで取り組んでいますので、余韻に浸る時間はそれほど長くありませんでした。

井関 社長就任から1年超。どう振り返りますか。

加藤 6月の株主総会でも、株主のお一人から「社長就任からの1年を総括してもらいたい」との質問をいただきました。想定問答にはなかったので驚きましたが、前年の株主総会で別の株主の方から「事業の裾野が広がっているのは分かるが、本業であるガスエネルギー事業強化に本腰を入れるべきではないか」と叱咤激励いただいたことを思い出し、それを踏まえてこの1年間の総括を述べました。

前年度の株主総会では、都市ガス、LPガスのみならず電力事業の強化を図り、総合エネルギー事業への回帰を進めていくこと、そして、芽が出てきた不動産事業との両輪で、収益をけん引していくことを宣言しました。それらを実現するべく、ガス事業ではひびきLNG基地における3号タンクの増設に着手。巨額の投資を伴いますので、最終投資決定の前からJERAと協議を重ねていました。

エス トラストのオーヴィジョン井尻。不動産事業は着実に安定収入に貢献

電力事業では、再生可能エネルギーの開発に加えてひびき発電所(LNG火力、62万kW)が今年度中に運転開始を予定しています。これに合わせて、小売販売・卸販売を強化する体制を構築し、営業活動を活発化させています。不動産事業は、山口県下関市に本社を置くグループ会社のエス トラストが、北部九州を中心とした分譲マンション開発を展開し、非常に順調に推移しています。西部ガス都市開発が手掛ける賃貸事業も、順調にストックを積み上げ安定収入の確保につながっています。

また、社内コミュニケーションの充実を図るため、経営層と従業員層との距離を縮めて、風通しの良いグループ風土づくりのための施策も打ち出しているということも、この1年の振り返りとしてご説明しました。


不動産事業が好調 九州経済は手堅く成長

井関 第1四半期決算は増収増益で、最終利益は前年同期比86%増と過去最高を記録しました。

加藤 不動産や電力・その他エネルギー事業の好調に加え、ひびきLNG基地の減価償却費の減少が、増益の主な要因です。 非需要期の決算とはいえ、23年度以来2期ぶりに全てのセグメントが利益に貢献するなど、「ACT2027」の達成に向けバランスの取れた良いスタートを切れたと思います。

井関 九州経済の好調も、業績を押し上げることになりそうですね。

加藤 はい。この夏を見ても、記録的な猛暑によって家庭用のガス需要は減っていますが、業務用のガスヒートポンプエアコン(GHP)の需要が堅調に伸びています。工場の新規の立地計画や撤退など、プラスマイナスの影響はさまざまありますが、福岡市天神エリアにおける都市再開発誘導事業「天神ビッグバン」で街が一層活気づいてますし、TSMCの工場誘致に伴い関連産業も周辺に進出してきているので、九州経済の手堅い成長と共にエネルギー分野はまだまだ浮上すると見ています。

【沖縄電力 本永社長】事業環境変化を好機に 新たな価値生む企業へ変革していく


右肩上がりの経済成長が期待される沖縄県。足元の電力需要も増加傾向にあり、事業を取り巻く環境は堅調に推移している。

調達力の抜本的強化や人財戦略を進め、新たな価値を生み続ける企業への変革を目指す。

【インタビュー:本永浩之/沖縄電力社長】

もとなが・ひろゆき 1988年慶応大学経済学部卒業、沖縄電力入社。2013年取締役総務部長を経て、15年副社長就任。お客さま本部長、企画本部長を担当。19年4月から現職。

井関 7月末に、2025年度の通期業績について、5年ぶりの減収増益との見通しを公表しました。

本永 売上高は期初予想から15億円上方修正しましたが、前年度に比べ販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度の影響を主な要因として、前期を下回る見込みです。前年度は、夏の暑さが影響し販売電力量が23年度比5・4%と大きく伸びました。今年は7、8月の気温が昨夏よりも低かったことから販売電力量は伸び悩みましたが、9月に入ってからは厳しい暑さが続き、一転、好調に推移しています。

今年は台風が沖縄にほとんど接近していないことも、販売電力量が好調に推移する一因となっています。入域観光客数についても、8月単体で史上最高の107万5千人が訪れたと発表されましたが、気象条件に左右されず、計画通りに旅行していただけることも大きな後押しになるでしょう。

利益面では、期初予想から売上高は伸びたものの、電力需要の増加や燃料価格の上昇により、燃料費や他社購入電力料の増加も見込まれます。こうした影響を踏まえ、今後、グループ会社を含めた業績の見極めも必要なことから、営業利益100億円、経常利益80億円の期初予想を据え置きました。そこから少しでも上乗せしたいというのが本音です。


高圧料金の規制解除 総合力で顧客獲得

井関 来年4月に高圧部門の料金規制が解除されます。どう受け止めていますか。

本永 高圧部門で規制料金が残っているのは沖縄エリアだけですが、競争状況は他エリアとそん色がなく、電源アクセスの公平性が確保されていることが認められました。22年度の燃料価格高騰の際には、規制料金に燃料費調整の上限が設定されていることで収支に大きな影響がありましたが、この仕組みは事業者の負担が大きく、規制料金が安く抑えられることで競争を歪める可能性もあるため、解除が望ましいと考えています。

県内には現在、20社強の新電力が進出しているとみられ、低圧・高圧の両部門において競争が一段と激しさを増しています。低圧部門においては、10月から有力な事業者が参入しており、これまで以上に厳しい競争環境になるものと見込んでいます。

井関 これをきっかけに、どのような戦略で攻勢をかけますか。

本永 高圧部門でも、既に自由化されている領域で積極的な営業を展開していますし、解除後に自由料金の対象となるお客さまに対しても注力していきます。当社の強みは、お客さまのニーズに合わせて、ガス供給や省エネ診断など総合的なソリューションを提案できる点にあります。さらに、CO2フリーメニューや再生可能エネルギー由来のPPA(電力購入契約)を提案するなど、環境価値の提供にも対応しています。今後も、多様化するニーズに合わせた最適な選択肢を提供していきます。

井関 沖縄は再エネの適地が限られているように思いますが、どのように再エネ電源を拡大していきますか。

本永 沖縄にはメガソーラーを設置できる広大な土地はありません。そのため当社の戦略は、事業所や学校、公共施設などの屋根を活用し太陽光パネルを敷設するというものです。家庭向けを含め、お客さまの屋根に太陽光パネルを設置し、蓄電池と組み合わせる事業「かりーるーふ」を展開しています。

学校への設置は、環境教育に役立つだけでなく、災害時の拠点として非常用電源を確保する効果もあります。実際に、小中学校で導入が進んでおり、今後も高校などで取り組みを強化していきます。

【コラム/10月30日】今の暮らしと未来の不安を考える~新政権の経済政策は現実直視で


飯倉 穣/エコノミスト

1、気懸かりな物価対応と財政状況

自民党総裁選が終了し、アベノミクス踏襲観測で株価の上昇があった。証券界は、積極財政・金融緩和を持ち上げ、高市トレードの言葉が飛び出た。先行きに期待と不安が入り混じる。高市総裁は、「今の暮らしそして未来への不安を、なんとか希望と夢に変えていきたい。」(総務会25年10月7日)と発言した。政治的思惑と駆引きで与党少数自民維新連立内閣が成立した(同21日)。各党・メデイアは、今日の暮らしの不満(不安)として物価高を強調し、その対策を話題とする。

幾つか報道があった。「高市内閣発足、経済政策策定指示」「物価高対策や成長投資表明、 ガソリン旧暫定税率速やかに廃止」(朝日同22日)、「新政権、探る財政拡張」(日経同)、「「サナエノミクス」安倍氏の影響強く 積極財政 日銀利上げ牽制」(朝日同10日)。

今の暮らしと物価状況に対し、政治サイドの物価対策は適切だろうか。円安が継続しているが、日米金融政策の違いに加えて、貿易収支の動向も気に掛る。また未来の不安もある。日本経済に資産価格崩壊や財政破綻の危機は来ないだろうか。現在も「経済あっての財政」の考え方や「経済成長で財政健全化」(骨太の方針25年6月)という語りが続いている。不透明な成長期待だけで財政不安払拭は可能だろうか。

新政権の経済政策は、未だ焦点が定まらないが、今後の展開で必要なことは何だろうか。経済変動、経済成長、経済均衡を念頭に次期政権の課題を考える。


2、今の物価対応に困惑

日本経済は、コロナショックを乗り越え、ウクライナ戦争前後のエネ資源価格上昇に端を発した物価上昇の影響で名目GDPは23年590兆円(前年比5.4%)24年608兆円(前年比3%)に膨張した。他方実質GDP前年比は、23年1.2%増、24年0.1%だった。25年も第1四半期年率0.3%、第2四半期同2.2%と一進一退で推移している。トランプ相互関税(15%)の影響もあり、経済は成長率0~1%の状況が継続している。

輸入物価は、24年2.7%の後、25年に入り横ばい(9月円ベース前月比0.3%、前年比△0.8%)で落ち着いている。企業物価は前年比24年2.4%と低下するも、25年上期3%超から下期2%台(9月2.7%)で、やや下げ止まり感がある。消費者物価は、前年比24年2.7%の後、25年上期3%強が続き、8月2.7%である。直近の企業・消費者物価の動きは、海外エネ資源価格上昇でなく、円安や国内コスト上昇・便乗値上げの影響が大きいようである。輸入物価上昇による海外への所得移転で経済停滞はやむを得ないが、国内要因(物価の影響)なら困惑である。


3、経済専門家から見た物価対策

消費者物価の上昇を受けて、物価対応が問われている。政治レベルでは、選挙対策もあり、消費税引き下げ、給付金交付の話が継続している。適切だろうか。

日経は、物価対策で幾つかの考察(経済教室)を紹介している。例えば、物価水準の財政理論(FTPL)である。政府が将来の財源の裏付けなしに財政支出を行い、中央銀行がその需要拡大に伴うインフレ容認、低金利政策継続となれば、インフレ生起となる。故に給付金や減税は物価押上げとなり対策にならない。物価対策は、日銀の物価コントロール、政府の持続可能な財政運営重視が重要で、インフレには金融政策が基本である(砂川武貴「物価高と財政金融政策下 給付は消費を押し上げない」(日経25年8月26日)。

他の論考もあった。物価安定のマクロ経済の標準的な処方箋は、政府はモノの供給をすぐ増やす手段を有しないので、基本的には需要を抑える政策となる。有効な政策手段は金融政策で、名目利子率の操作で経済全体の需要量を抑制する物価安定策が基本である。財政政策は脆弱な人への対応となろう。全体として財政政策は緊縮的か中立的スタンスが必要である(青木浩介「物価高と財政金融政策上 全体は緊縮で支援の的絞れ」(同8月25日)。

いずれの論考も消費税減税や給付金に懐疑的で、金融政策が基本(引締め)、財政拡大に慎重である。

超低温に対応する合金を開発 熱制御への活用で産業支える


【技術革新の扉】超低温対応合金/東北大学

東北大学の大森俊洋教授らは、マイナス200℃で形状記憶効果を発揮する合金を開発した。

これを可能にする新合金の形状記憶効果は、思いがけず発見されたものだった。

従来の限界だったマイナス100℃を下回るマイナス200℃の超低温でも元の形の戻る形状記憶合金を、東北大学を中心とした研究チームが開発した。電気や磁気などを動力に変える装置「アクチュエータ」として、低温域での駆動が必要な宇宙分野や水素の運搬などに活用できる。形状記憶合金は数あるアクチュエータ用の材料の中でもエネルギーの発生量が大きいが、マイナス20℃以下の環境では作動が難しく、特にマイナス100℃以下では機能を維持できなかった。これらの課題を克服する新たな合金の開発は、地道な基礎研究の中で「偶然」発見したものだった。

形状記憶合金は、加熱すると元の形に戻る「形状記憶効果」と、加えた力を外すとすぐに形が戻る「超弾性」というに二つの性質を有する。中でも超弾性は、歯科矯正用のワイヤーといった医療用途などで実用化が進んでおり、同チームはより加工性に優れた、複雑形状に対応できる材料として、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)を主成分とした合金の開発に取り組んでいた。この銅系合金の高い加工性能を生かし、2017年には建築物の耐震部材としての実証に成功。次のフェーズとして、「形状記憶効果」に焦点を当てた。

図1 新合金が低温下でも構造変化が起きることを示している
出典:東北大学 大森俊洋「形状記憶合金 説明資料」


構造変化時の抵抗力に特徴 開発は偶然の発見から

形状記憶効果は、温度変化に伴って金属原子の結晶構造が切り替わることによって生じる。最小構造である単位結晶格子は元々立方体だが、冷却されれば直方体に近い格子に変化し、加熱すれば立方体に可逆的に戻るという性質で、この構造変化が起こる温度帯でのみ、合金は形状記憶特性を発揮できる。ただ、これまで実用化されてきたチタン(Ti)、ニッケル(Ni)系の合金などは、マイナス20℃以下の環境において、構造変化を起こす抵抗が高く、低温下では形状記憶性能を得ることは困難だった。

こうした合金の課題を背景に基礎研究を進める中で発見したのが、Cu―Al―Mn系合金の「低温下でも抵抗力が小さい」という特徴で、マイナス200℃まで冷却しても構造が変化することを突きとめた。研究をけん引する東北大学大学院工学研究科の大森俊洋教授は、「これらの性質をあらかじめ予想していたわけではなく、ある意味〝偶然〟だった」と振り返る。その偶然は、先行研究の例がない同分野で、粘り強く可能性を模索し続けたからこそ生まれたものだ。

この形状記憶性能は、低温域でのエネルギー制御に利用できる。開発した合金をアクチュエータとして用いて、熱の流れを制御するヒートスイッチを試作するなど実証にも取り組んできた。ヒートスイッチには、中央に合金を設置し、その左右にバネを、上部に固定板を配置した(図2)。合金は冷却すると伸びて上板と接触し熱を伝えるが、加熱すれば形状記憶効果の働きで縮む(元の形に戻ろうとする)ため、上板との間に隙間が生まれ、熱伝導を抑制できる。実証では、これらの働きがマイナス170℃でも維持されることを確認済みだ。

図2 合金の伸び縮みで上板との接触/非接触を切り替える
出典:大森俊洋ら、communications engineering 2025

これまで、マイナス100℃以下の低温域で機能するアクチュエータ用の材料は存在しなかった。大森氏は、「ピエゾ(圧電セラミックス)やTi―Ni系合金といった従来材料は、いずれも常温付近でしか十分な性能を発揮できない。低温で動作する合金の必要性は年々高まっており、新合金はこれに応えるものだ」と意義を強調する。

具体的な応用先として有力なのが、赤外線望遠鏡といった宇宙用途の観測機器だ。赤外線領域での観測には、望遠鏡自体から発生する熱放射を除去するために、装置を低温に保つことが欠かせない。そのため、宇宙研究の現場では、過酷な状況下でも安定的に機能する熱制御システムが求められており、新合金技術を要望する声も多いという。


実用化に向け製造網を強化 従来超えるエネ変換装置に

大森氏は今後に関して、「5年以内に、宇宙用途に活用できるヒートスイッチを実用的に製造できる体制を整えたい」と意気込む。さらに長期的には、水素分野での活用も視野に入れる。大容量の水素は液化して輸送するのが効率的だが、その際、マイナス253℃の液化状態で作動するアクチュエータとして力を発揮できる。

宇宙から水素まで、幅広い応用を見据え、低温技術の新たな可能性を切り開いていく。

徐々に発行額が減少 3年目となるGX移行債の評価


【多事争論】話題:GX経済移行債の評価と課題

GX経済移行債の発行から3年目を迎え、さまざまな課題が浮き彫りになってきた。

エコノミスト、エネルギーアナリストがそれぞれの視点で問題点を指摘する。

〈 移行債が抱える五つの課題 関係者の信認高める努力を 〉

視点A:木内登英/野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト

GX経済移行債(クライメート・トランジション利付国庫債券)は、2050年のカーボンニュートラル(CN)実現を目指す政府の脱炭素政策の一翼を担っている。総額約20兆円の政府の脱炭素関連投資に必要な財源を賄うために発行される。GX移行債は「つなぎ国債」と呼ばれる国債の一種だ。増税など将来の特定の収入を償還財源として確保した上で発行される国債であるため、赤字国債とは区別される。

GX移行債は、入札方式で23年度に約1.6兆円、24年度に約1.4兆円発行され、25年度には約1・2兆円の発行が予定されている。発行額が次第に減少してきているのは、発行環境の悪化など、予期せぬ支障が生じていたことを反映している面があると考えられる。発行環境も含め、以下ではGX移行債の課題を5点指摘したい。

第一は、政府がグリーン国債といえるGX移行債を発行することの是非だ。企業が脱炭素に貢献する活動に必要な資金を、通常の社債とは異なるグリーンボンドの発行で調達する場合、その金利は通常の社債よりも低くなり、企業の資金調達コストの軽減を助ける。企業の脱炭素活動を社会貢献として評価し、投資家がそれを支援するためにより低い金利を受け入れるからだ。

しかし政府活動の目的は、そもそも社会に広く貢献することにある。この点から、企業のように脱炭素関連投資を賄う特別な国債を発行することの必要性があるのか疑問が残る。

これに関連して、第二は金利と市場流動性の問題だ。企業のグリーンボンドは通常の社債よりも低い金利で発行でき、両者の差が「グリーニアム(グリーン+プレミアム)」と呼ばれる。政府が通常の国債とは別にGX移行債を発行する理由の一つは、より低い金利で資金を調達できることを期待した、いわゆるグリーニアム狙いの面もあるだろう。

実際、GX移行債の当初2回の入札では、小幅ながらもグリーニアムが確認された。しかしその後グリーニアムは消滅し、通常の国債よりも金利が高くなる逆グリーニアムが確認されたこともある。

国債発行残高全体と比べてGX移行債の発行額は小さい。それは市場の流動性を低下させるため、投資家は流動性リスクがある分、むしろ高い金利をGX移行債に要求する面がある。これが逆グリーニアムが生じた背景であり、今後も通常の国債よりも高い金利で政府はGX移行債を発行することを強いられる可能性がある。政府がGX移行債の発行を抑制しているのは、そのためではないか。


CN実現や財源確保に不確実性 トランジション債への懐疑も

第三は、政府の脱炭素政策とGX移行債発行との関係が必ずしも明確でないことだ。GX移行債によって調達された資金は、再生可能エネルギーの導入支援だけでなく、原子力発電の新型炉建設や水素・アンモニア燃料のインフラ整備など、幅広い分野に充てられる予定だ。これらの投資が本当に脱炭素化に資するのか、また社会的合意を得られるのかについては疑問も残る。さらに、GX移行債で資金を調達した政府の20兆円の脱炭素関連投資が、50年のCN実現につながる保証はない。こうした不確実性が、GX移行債の発行と政府の脱炭素政策に関する国民の信認を損ねている面があるのではないか。

第四は、GX移行債の償還財源確保に関する不確実性だ。将来のGX移行債の償還に充てるため、28年度に化石燃料賦課金の導入、33年度からは発電部門への排出枠制度の有償化が段階的に始まる計画だ。しかし、本当に20兆円の償還財源が確保されるかには不確実性が残る。財源確保ができず、GX移行債が通常の赤字国債となり、財政環境を悪化させる懸念がある。それが国債市場の潜在的な不安定性を高めることに寄与しかねない。

第五は、国際的な信認である。GX移行債は世界初の政府によるトランジション・ボンド(低炭素社会への移行を目的とした投資などに資金を供給するための債券)として政府が世界にアピールすることが発行の狙いの一つだ。ただし、欧州などでは再エネへの直接投資を目的としたグリーンボンドが主流であり、原子力や化石燃料関連の投資を含む日本型トランジション・ファイナンスには懐疑的な見方もある。

GX経済移行債は、日本の脱炭素戦略を象徴する重要な政策手段でもある。政府は、以上で指摘した課題に一つひとつ丁寧に対応することで、金融市場の信認、国民的理解、国際的信認をそれぞれ高めていく努力を進めていくことが求められる。

きうち・たかひで 1987年野村総合研究所入社。欧米の経済分析を現地で担当した後、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミストなどを歴任。2012~17年日本銀行政策委員会審議委員。17年7月から現職。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年10月号)


電力料金高騰のインパクト/電力全面自由化の経緯

Q 電力価格の上昇は、経済活動にどのような影響を及ぼしますか。

A 日本は省エネ努力を積み重ねてきていますので、電力価格の上昇による省エネ効果は限定的です。政府は省エネの実績や見通しを過大評価しますが、そこには電力多消費的な財を輸入に切り替えたことの影響が多分に含まれています。

電力価格高騰が内外価格差として際立てば、海外生産の選択は避けられません。特にエネルギー多消費産業では、国内生産が不連続に落ち込む閾値(臨界点)が出現すると考えられます。

実際に、脱炭素政策が加速した2010年代後半からの分析によれば、実質的なエネルギー価格差(米国比)でドイツは2.3倍、日本は1.9倍を超えたころ、それぞれの国内でエネルギー多消費産業の生産が不連続に減退しました。日本の閾値がドイツより低いのは、官民協調型の脱炭素政策の下、必ずしも価格高騰を待たずとも海外移転が早期に促されたためと見ています。

特に日独では、鉄鋼や化学などエネルギー多消費的な製造業は競争力のある産業基盤です。こうした産業の生産減退は地方中核都市の経済を弱体化させ、都市部のサービス業にも波及し、内需停滞を深刻化させています。さらに素材産業の衰退は自動車など最終財の国内生産を制約していき、もう一段の空洞化を招きかねません。

国際的な調和を欠く電力価格高騰の弊害は甚大です。長期的には、AIの利用や開発を遅らせ、生産性の低迷をもたらす懸念もあります。しかし国内で電力市場が閉じ同調圧力も強い日本では、こうした懸念を棚上げしたまま、電気事業者に価格転嫁を約束したり、あるいは負担を押し付けたりして安定供給を損なう政策を採用し、弊害を現実化しやすい土壌を抱えているのです。

回答者:野村浩二/慶應義塾大学 産業研究所 教授


Q なぜ、電力小売り全面自由化に至るまで16年もの時間を要したのですか。

A 自由化は発電部門への参入自由化と小売り電気事業者の選択を軸に行われますが、小売りについては諸外国含めて規模の大きな電力ユーザーから進めていくケースがあります。これは自由化範囲のユーザー規模に応じて契約を引き継ぎ、料金を精算するシステムの構築などにコストがかかるという事情と、小売り事業者の選択によって生じる値上がりなどの不利益に責任を持てるユーザーから始まるという政策的留意があります。

日本の場合、2000年3月から05年に4月にかけて、まず全ての高圧ユーザーで小売り自由化をスタートしました。その時点での判断は、圧倒的に数が多い家庭用ユーザーを含む低圧分野に拡大しても、システム投資などのコストとユーザーが得られる便益が合わない、というものでした。

それから10年を経て、11年の東日本大震災を契機とした既存電気事業制度や経営への国民の不信感の高まりも受け、必要なスイッチング支援システムやルール整備を行った上で、日本も小売り全面自由化に踏み切りました。

その後、家庭用の自由化は多くのスイッチングを生み出し、家庭用に参入する事業者もガス・携帯電話といった業種を中心に多く現れました。ところが20年以降は小売り事業者の規律が十分でないため、燃料危機・卸市場急騰の極端な値上げや事業者破綻が社会問題化しました。また、旧一般電気事業者だけが燃料調整上限付きの経過措置約款を持ち続けた結果、エネルギー危機下では顧客の大量戻りが起こり、持続的な競争環境とは言えないことなどの制度課題もあります。全体として現時点で日本の全面自由化は功罪ない交ぜの状態だと言えましょう。

回答者:西村 陽/大阪大学招聘教授