ガソリン暫定税率が年内廃止 財源や重油補助金はどうなる?


ガソリン税の旧暫定税率が12月31日に、軽油引取税の同税率が来年4月1日に廃止となる。流通の混乱を避けるため、現在支給している補助金は2週間ごとに積み増し、12月11日には暫定税率と同額となる。

与野党6党が暫定税率廃止で合意したが課題は山積している
提供:朝日新聞社

廃止を主導した野党は「国民の1票が政治を動かした」と胸を張るが、与党や政策当局にとってはここからが正念場だ。廃止によって失われる1・5兆円もの巨額財源をどう確保するのか。ワンショットの給付金などと異なり恒久減税のため、赤字国債で賄うのは望ましくない。税収上振れ分の活用を主張する向きもあるが、インフレによって歳出も増えているので一筋縄ではいかない。

自動車関係諸税の増税も困難な状況にある。米国関税の影響に対抗すべく、国内需要を維持したい自動車業界がユーザー負担軽減を求めているからだ。EV化を念頭に置いた走行距離課税については、片山さつき財相が「具体的に検討していない」と参院予算委で答弁した。

灯油・重油、航空機燃料への支援を継続するかという論点もある。ガソリン、軽油とともに補助金の対象となっており、片や減税、片や補助廃止というのは、各業界が納得しないだろう。特に重油への補助は漁業経営にとって死活問題だ。

エネルギー価格を巡っては来年1~3月、今夏から規模を倍以上に増やして電気・ガス料金補助が復活する。4度目の復活だが、料金補助は価格高騰に対する対処療法に過ぎない。政府は既設炉の再稼働や円安是正といった根治療法に、いつ本腰を入れるのだろうか。

国際規格で持続可能な経営へ エネ分野で戦略的導入を


【識者の視点】漆原将樹/BSIグループジャパン社長

環境と経営を革新し企業の競争力を高めるため、欧米ではISOの戦略的導入が進む。

企業活動の環境負荷低減と収益性向上の両立、さらには社会への貢献も期待できる。

近年、世界的なエネルギー危機が深刻化している。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を契機に、原油や天然ガスの供給不安が広がり、電力料金の高騰が各国で続いている。また、地球資源の枯渇を防ぐため、企業活動にサステナビリティを組み込むことが欠かせない。

こうした状況の中で、企業や自治体がエネルギー消費を効率的に管理し、持続可能な社会の構築に寄与する手段として、国際規格「ISO14001(環境マネジメントシステム)」や「ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)」の活用が、ESG(環境・社会・ガバナンス)時代の「E(環境)」を支える戦略として注目されている。これは、脱炭素社会の実現に向けた国際的な潮流の一環であり、持続可能性を競争力の源泉とする「サステナビリティ経営」への転換が重要である。

日本ではISO50001の導入はごく一部にとどまる

ISO規格は、製品やサービスの品質、安全性、効率性などを国際的に統一するために策定された、世界で共通して用いられる基準である。そして、その国際的な基準づくりを英国規格協会(BSI)が長年にわたりけん引してきた。

BSIは1901年に設立された世界初の国家規格協会であり、ISO(国際標準化機構)の創設メンバーでもある。世界中で多くの組織が認証を取得しているISO9001(品質マネジメントシステム)の原案となった英国国家規格BS5750や、ISO14001の原案であるBS7750の策定において中心的な役割を果たすとともに、国際規格の発展に大きく寄与してきた。現在も世界の課題に焦点を当て、新たな基準を策定し続けており、グローバルに認証・検証・研修を展開することで、社会全体の改善に貢献している。

本稿では特にISO50001を取り上げるが、その原案であるBS16001の策定においても一翼を担っている。


欧州では活用が浸透 経営戦略として重視

ISO14001は、企業が環境負荷を低減し、法令順守を確保するための仕組みを提供する。一方、ISO50001は、エネルギー使用量と効率を可視化し、定量的に評価することで、省エネ法への対応はもちろん、エネルギーコストや温室効果ガス排出の削減にもつながる。

認証取得に向けた取り組みにより、企業はエネルギー方針の策定、エネルギーレビューの実施、目標設定、教育・訓練、設計・調達の見直しなど、組織全体でエネルギー効率を高める取り組みを体系的に進めることができる。特に、経営者のコミットメントが求められる点は、単なる技術的改善にとどまらず、経営戦略の一環としてエネルギーマネジメントを位置付けることを意味する。

両規格に共通する特徴は、構成にPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)が組み込まれている点にある。これにより継続的な改善が行われ、持続可能な経営の基盤となる。

日本企業においては、ISO14001の取得は普及しているものの、ISO50001の導入は欧州諸国などに比べ遅れている。IAF(国際認定フォーラム)が発表したISOサーベイ2024によると、本規格の認証取得数はドイツ・イタリア・英国・スペインなどの欧州諸国では1000件を超えているのに対し、日本では100件未満に留まっている。このことからも、日本における本規格の浸透度はまだ十分でないと言えるだろう。

多くの日本企業が法令順守やCSR対応を目的にISO14001規格を導入しているが、ISO50001は、エネルギーの〝実効的な改善〟と脱炭素戦略の一環として位置付けられ、ハードルが高く捉えられる傾向にあり、普及が進みにくい状況にある。

電力・ガス各社が総じて増益 収益多角化で最高益相次ぐ


電力・ガス各社の2026年3月期上期連結決算が出そろった。猛暑による電力販売量の増加や、海外事業の堅調な伸びの押し上げ効果により、軒並み前年同期比増益。最終利益が過去最高に達する企業が相次いだ。

まず大手電力10社については、北海道、東北、東京を除く7社が最終増益となった。中でも四国は、前年同期比20・2%増の496億円と過去最高を記録。伊方原子力発電所(愛媛県伊方町)3号機の定期検査がなくフル稼働できたことも功を奏した。昨年12月に島根原発(松江市)2号機を再稼働させた中国も、燃料費が減少したことなどから、同25・3%増の647億円となった。

記者会見する東京ガスの笹山晋一社長(10月29日)

一方で大幅な赤字を計上したのが東京だ。第1四半期に燃料デブリ取り出しに向けた準備作業費用を織り込んだ影響で、上期として過去最悪の7123億円の赤字に陥った。

大手都市ガス4社は全社が最終増益となった。このうち、過去最高を記録したのが東京と大阪だ。東京は、電力販売量の増加や、北米シェールガス事業における販売単価の上昇が後押しし、同約8倍の1296億円に。大阪も海外エネルギー事業の利益拡大などにより、同86・7%増の948億円を記録した。

こうした好業績を受け、多くの企業が通期予想を上方修正した。だが、エネルギー事業を取り巻く事業環境は依然として不透明感が強い。米トランプ政権による関税政策などの動向も注視していく必要がある。持続的な成長へ、各社とも多角化による経営基盤の強化を急ぐ。

新潟県が柏崎刈羽の再稼働同意へ 13年ぶりの運転へ大きく前進


新潟県の花角英世知事が、ついに柏崎刈羽原発の再稼働容認を判断した。12月県議会の議論を経て正式同意に至る公算が大きい。再稼働に前向きな自民党が過半数を占めており、同意が得られれば来年2月ごろにも6号機が営業運転を再開する見通し。

県内同意を巡る再稼働議論は他県に類を見ない異例の経緯をたどった。原子力規制委員会が事実上の運転停止命令を解除したのは2023年末。そこから2年を要した背景には、県民の東京電力に対する根強い不信感と、それを反映した自民党内の意見分裂があった。

事故想定訓練を前に説明を受ける新潟県の花角英世知事(手前左から2人目)
提供:共同

「新潟に半導体工場を持ってこい。話はそれからだ」「チェルノブイリ原発を見たら原発はいらない」─。議長経験のあるベテラン議員らが独自の主張を繰り返し、県政与党が一枚岩になり切れない様子を尻目に、花角氏は真剣に出直し知事選の可能性を探っていた。再稼働に前向きな中堅議員は「米山隆一前知事の辞任後、自民党が出馬を頼み込んで立候補してもらったのが花角さんだ。本来なら議会が再稼働を求める決議を出して知事を支えるべきだった」と語気を強めるが、こうした声は党内でかき消された。

今年3月には、市民団体が県民投票条例制定を県議会に直接請求したが否決。10月議会では、国が財政支援の対象自治体の拡大や避難道路整備の全額国費負担を表明し、東電も10年で1000億円程度の資金拠出や1、2号機の廃炉検討など、地元の要望に応じる姿勢を示した。党内ではようやく「合格点」との評価が広がった。


知事選で野党系勝利の不安 「5次総特」策定に弾み

仮に再稼働が実現しても、先行きはなお不透明だ。来年6月には知事選を控える。官僚出身で安定感がある花角氏への支持は一定程度あるものの、県民の間には「飽き」も見え始めている。こうした中、出馬が取り沙汰される米山氏は「あまり力のない人を出すわけにもいかない。(出馬を)避けられなくなったら行くしかない」と含みを持たせる。出馬となれば、県民投票の実施を公約に掲げる可能性があるという。

一方、東電にとって再稼働の意義は計り知れないほど大きい。18年から赤字が続くフリーキャッシュフローや20・3%の自己資本比率の改善に向けて、1基当たり1000億円規模の収益改善効果は経営再建の生命線だ。遅れている第5次総合特別事業計画の策定にも弾みが付く。就任8年目を迎えた小早川智明社長の「花道」となる可能性もささやかれている。

福島事故の当事者である東電が再び原発を動かすことは、日本が原子力とどう向き合うかを示す象徴的な出来事となる。県民意識調査では若年層の半数以上が「日本には原発が必要だ」と回答した。その期待に応えるべく、安定稼働という実績で信頼を獲得していくしかない。

福島県が水素の総合展示会を開催 活用推進のトップランナーを目指す


【REIFふくしま2025】

福島県は再生可能エネルギーと水素の展示会「REIFふくしま2025」を開催した。

最先端の導入事例などを紹介し、先陣を切って取り組む姿勢を示した。

福島県は2040年に県内エネルギー需要の100%を再生可能エネルギーから生み出す「福島新エネ社会構想」を掲げている。この構想の下、10月16、17の両日、再エネと水素の展示会「REIFふくしま2025」を郡山市で開催した。県内外から225の企業や団体が出展。4722人が来場した。

トヨタの第3世代FCスタックに注目
デンソーのブース


FCVセルを応用 熱の燃料転換に貢献

特に来場者の関心を集めていたのが再生可能エネルギー電気由来のグリーン水素を活用する展示だ。デンソーとデンソー福島(田村市)は、グリーン水素をアフターバーナーの燃料として活用する取り組みを紹介した。デンソー福島の工場敷地内の太陽光発電(1000kW)で発電した電気を使用し、トヨタ自動車の燃料電池車(FCV)に採用するFCセルで水素を製造している。FCセルは400kWの電気で1時間当たり8kgのグリーン水素をつくり出す。この水素をパイプラインで工場へ供給し、ラジエーターなどの生産工程で、製品を加熱する脱脂、ろう付け炉で使用する。これまで同用途向けの燃料はLPガスだった。これを水素燃料転換することで燃焼温度を下げNOXの発生を抑えた。

同工場の水素設備は、20フィートコンテナにパッケージ化されたもので、1カ月に約1・5tの水素を生産し2日分を貯めることができる。デンソーでは、この設備導入で得た安全対策やメンテナンスの知見を蓄積して、他の工場への展開を計画する。

自治体では浪江町が町内の取り組みを紹介した。同町は、全国に先駆けて水素タウン構想を掲げ、20年に稼働を開始した世界最大規模の水素実証拠点「福島水素エネルギー研究フィールド (FH2R)」を中心にさまざまな規模で水素事業を進めている。業務向けでは、FH2Rで生成した水素をトレーラーで運び、貯蔵、50‌kW燃料電池で電気と熱を付近の温浴施設へ供給する取り組みを行っている。水素供給は柱上パイプラインでも計画する。家庭向けでは水素をシリンダーで民家へ配置、家庭用FCで発電する電気を自己託送で供給することなどを行っている。

浪江町のブースで配布していた資料

産業技術総合研究所傘下の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)の古谷博秀所長は福島県の水素地産地消について、「県が先端的に取り組む水素地産地消ではさまざまな技術のアイテムがそろうだろう。再エネの特徴を使い分けし、まずBCP対応を建物や通信系などの重要設備で実現し、カーボンニュートラル化が難しい工場での高温熱利用などで実用化が進んでいく」と展望した。


オンサイトの事例紹介も P2Gの導入進む

展示会には、県を挙げて水素に注力する山梨県もブースを構えた。同県は東京電力ホールディングス、東レと水素事業会社「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC)」を設立、今年10月にはサントリー白州工場(山梨県北杜市)に1万6000kW規模のパワーtoガス設備を導入したばかりだ。

住友ゴム工業の工場をVR体験

同設備は福島県内でも採用されている。ヒメジ理化は半導体用石英ガラス工場(田村市)にYHCのP2Gシステム(1万4800kW)を設置。同工場所有のメガソーラーなどを利用しグリーン水素を生成、バーナー用燃料として利用する。同社では他の工場にも水素を供給する計画だ。住友ゴム工業白河工場(白河市)も水素サプライチェーン構築を目指す。YHCのP2Gシステム(500kW)を導入し、白河工場のタイヤ製造に活用する。

大熊町のベンチャー企業・OKUMA TECHはFCドローンを開発する一方で、次世代水素キャリアの粉体・固体水素開発も進めている。水素を粉体・固体で貯蔵後、加水・水分除去し水素を取り出す活気的なもので、常温常圧で貯蔵することにより、水素の低コスト化につなげていきたい考えだ。

OKUMA TECHのFCドローン

展示会の最終日のトークセッションには内堀雅雄福島県知事が登壇した。「福島県は水素普及をトップランナーで進めていく。持続可能な、災害に強い町づくりを水素利用で加速していく。水素を身近なエネルギーに変えていくチャレンジを通し未来を変えていく」と述べた。2日間にわたる展示会は盛況のうちに閉幕、知事のメッセージに込められた水素の輪を広げる挑戦を示す内容だった。

電力増大対応のコストを誰が負担? 米国事例を基に日本のルールを考える


経済成長の命運を握るデジタル産業の発展を支えるには、安定した電力供給が欠かせない。

データセンターなど大規模な新規需要に伴う設備投資増の費用をどう賄うべきか。

世界的な生成AIの利用拡大などに伴い、データセンター (DC)需要が増大しそれが各国の電力消費量を大幅に押し上げることが予想されている。例えば米国では、DCの電力需要量が2021年の118TW(1TWは10億kw)時から、シナリオによっては35年に2096TW時までに増加する見通しが示されている。

既に足元で、高いデータ処理能力を有し膨大な電力を消費するハイパースケールDCの建設が急増している同国にとって、発電設備や送変電設備の増設は喫緊の課題。問題は、その費用負担を誰が負うのかということ。「原因者」か、それとも「既存需要家を含めた全体」か―。そんな議論が各州で巻き起こっているのだ。

アリゾナ州では、「Growth pays for Growth」という方針の下、DCなどの大規模な新規需要に伴う設備投資増(Growth)のコスト負担(pays)を、原因者であり成長産業であるDC事業者(Growth)に負担させることで、既存需要家の電気料金への上乗せを回避しようとしている。

米カリフォルニア州のデータセンター


米各州でDC向け料金 既存需要家の負担低減

アリゾナ・パブリック・サービス(APS)社は今年6月、州規制当局に対し電気料金値上げを申請した。注目すべきは、月間最大需要5000kW以上、12カ月のうち9カ月以上で負荷率が92%を超えるといったDC事業者をターゲットにした「超大規模エネルギー需要家向け料金(XHLF)」で、認可されれば全体の約16%に対し、XHLFは約47%とより高い値上げ率となる見通しだ。

オハイオ州の送電会社AEPオハイオは大規模DC事業者に対し、たとえ使用量が下回ったとしてもピーク需要の85%の料金を支払うことを義務付け。また、プロジェクトがキャンセルされた場合には退出料を求め、新規のインフラ投資に伴うコストを賄う方向だ。

テキサス州では、州公益事業委員会が、既存発電所の近くに建設を許可すると電力不足が生じる恐れがあることから、大規模DCを建設するための発電所を事業者が自前で用意することを推奨(Bring your Own Power)している。

電力業界関係者A氏は、「従来の料金体系のままでは、アリゾナ州のような系統規模が小さな都市で大きな新規需要が急激に生まれると、既存需要家に過度な負担をかけることになりかねない。こうした懸念から、米国各州で対応が始まっている」と言い、「国内でも早急に議論を始める必要があるのではないか」と問題提起する。

というのも日本も米国と同様に、DCや半導体工場といったデジタル産業の活況に伴う電力需要の増大が予想されているからだ。既にDCの立地が進む千葉県印西、白井両市や台湾の半導体メーカーであるTSMCが進出した熊本県菊陽町、ラピダスの次世代半導体工場の建設が進む北海道千歳市など、局所的な大規模需要に対応するための系統の新設や増強工事が進んでいる。

資源エネルギー庁によると、印西・白井エリアにおけるDCに電力供給するための上位系統の工事に関わる費用は総額2000億円を超える見通しだ。ただし、現行ルールでは原因者であるDC事業者の負担は100億円程度に過ぎないという。

これからの電力需要の増加はDC・半導体といった特定産業によるものであり、省エネや少子高齢化の進展とともに、既存の需要は今後も減っていくことに変わりない。このままでは、負担の公平性という観点で疑問が残る。一方で、デジタル産業が日本の経済成長の原動力となることが期待される以上、こうした大規模需要の要請に合わせた供給力の確保や送変電設備の増強が不可欠であることも事実だ。さまざまな事情を勘案した上で、米国の事例を参考に、費用負担の在り方をどう考えるべきだろうか。


デジタル産業を成長軌道へ 公平性に配慮し環境整備を

エネルギー業界関係者B氏は、「日本でも1957年に、原因者負担の方針に基づき新増設需要に割高な料金を適用する『特別料金制度』が導入されたことがあった」と指摘。「供給原価の増加傾向が緩和されたことから、96年には全エリアで完全廃止されたが、同様の制度を復活させることも考えられる」と持論を展開する。

新電力関係者C氏は、「大規模需要に対応できるのは、大手電力会社か一部の大規模電源を保有する有力新電力に限られている。原因者が明確な需要拡大について、従来の需要と一緒くたに負担を考えるのは適切ではないかもしれない。市場分割のような検討も必要ではないか」との見方だ。

一方で「結局は消費者が最終料金(サービス料金)として費用を負担するのであれば、特別な電気料金を設定する必要はないのではないか」(金融業界関係者)、「エネルギー政策と産業政策の折り合いを付けなければならない問題であり、エネルギー側だけの目線ではベストな答えは出せない」(大手電力関係者)といった声もあり、見解はさまざまなようだ。

前出のA氏は、①大規模需要家を対象とした新たな料金制度(託送料金制度)の創設、②大規模需要の新増設に伴うネットワーク増強への設備投資費用の助成、③国家戦略特区の形成と同エリアのネットワーク増強―といった対応策を提案する。

いずれにしても、デジタル産業を軸に日本経済の成長を果たそうというのであれば、社会インフラとしてDCを構築していかなければならない。電力供給が障壁となって誘致できないということだけはあってはならない。負担の公平性に配慮しつつ、経済成長を軌道に乗せるためのルール整備を急ぐべきだ。

【四国電力 宮本社長】「人の力」を最大化 各事業の収益力を高めグループの成長目指す


現行の中期経営計画はスタート当初に困難に直面しながらも、一つひとつ難局を乗り越え、経営目標を達成できる見通しとなった。

足元では脱炭素化とデジタル化が追い風となる中、新中計ではコア事業と拡張領域の双方で収益力を高め、経常利益650億円以上というさらに高い目標を掲げる。

【インタビュー:宮本喜弘/四国電力社長】

みやもと・よしひろ 1985年京都大学工学部卒後、同年四国電力入社。常務執行役員総合企画室経営企画部長、取締役常務執行役員総合企画室長(再生可能エネルギー部・広報部担当)などを経て、24年6月から現職。

井関 中期経営計画2025の最終年度ですが、達成状況はいかがですか。

宮本 2021年に公表した現行の中期経営計画では、「『電気事業』と『電気事業以外の事業』を両輪に、持続的な企業価値の創出を図っていくこと」を目標に、グループ全体で25年度に経常利益400億円以上、ROA(総資産利益率)3%程度といった経営目標を設定してきました。公表直後に燃料価格の高騰や需給ひっ迫により電気事業が大幅な赤字に陥るなど厳しいスタートとなりましたが、一つひとつ難局を乗り越えることで経営の正常化を図ることができました。また、情報通信事業や国際事業といった電気事業以外については、既存の取り組みの強化・拡大に加え、新規案件への参画や新規事業開拓の推進など、着実に利益拡大に向けた取り組みを進めてきました。これらにより、経常利益目標や、配当50円の実現、自己資本比率25%への引き上げといった経営目標を、おおむね達成できる見通しとなりました。

井関 電気事業以外では、メインはやはり情報通信事業ですか。

宮本 はい。情報通信事業が一番利益に貢献しています。子会社のSTNetが手掛ける光インターネット「ピカラ光」の四国の総世帯数に対する普及率は、9月末時点で23・7%、提供エリアに対する普及率では30・5%に達しています。利益面では、情報通信事業で、100億円以上の経常利益を出しており、現行中計の利益目標である400億円の4分の1を稼ぐほどまで成長しています。


縮小・均衡から増加へ 局面の変化はチャンス

井関 10月に公表した「よんでんグループ中期経営計画2030」のポイントは。

宮本 新たな中期経営計画のポイントは大きく二点あります。一点目は、電気をはじめとするエネルギー事業と情報通信事業を「コア事業」に位置付けた上で、これらの事業で培ってきた強みを生かしてお客さまや地域の皆さまに貢献することで、さらなる成長を目指すとしたことです。現行の中計では、省エネや人口減少の進展などによって、電気事業が縮小・均衡してしまうことがどうしても避けられず、これを補うために、電気事業以外の事業を成長させるというものでした。

しかしながら現在は、「脱炭素化」と「デジタル化」の進展によって、低・脱炭素電力に対するお客さまや地域の皆さまからの新たなニーズが拡大するとともに、将来の電力需要が増加する可能性が生じるなど、新たなチャンスが生じています。新中計では、エネルギー事業と情報通信事業を通じて培ってきた強みを生かすことで、グループとしての成長を目指す姿を描くことができました。

脱炭素化とデジタル化の進展を収益機会拡大につなげる

二点目は、経営基盤の強化策の一つとして「よんでんグループ人材戦略」を策定したことです。グループの持続的な成長を実現するために必要不可欠な「人の力」を最大化することを目指し、基本方針に「従業員と会社が共に成長しながら持続的に価値を創造する」を掲げ、「会社が求める経営戦略の実現」と「従業員の充実した人生の実現」を両立するための人材マネジメント施策を推進していきたいと考えています。

井関 30年度経常利益目標(650億円以上)を達成するためには、25年度見通し(530億円)から120億円増加させる必要があります。

宮本 足元の利益水準には一過性要因も含まれているため、経常利益650億円以上という目標は、見た目以上にチャレンジングな水準であると認識しています。目標の達成に向けては、「脱炭素化」と「デジタル化」の進展により生じる収益機会を捉えて当社の強みを生かすことで、コア事業に位置付ける電気事業や情報通信事業を中心に利益拡大を目指します。特に電気事業は、当社グループがこれまでに積み上げた知見や信頼が最も強みとなる領域であり、卸販売も含めた販売規模の拡大と収益性の向上を図っていきます。

また、コア事業からの拡張領域についても、例えば、国際事業については、現状の利益規模40億円から2倍程度への拡大を目指すなど、より高い成長を志向しています。高いハードルではありますが、ウズベキスタンにおける太陽光と風力発電事業など、既に参画済みの案件もあり、これらが今後5年の間に利益に貢献することになるため、十分に達成可能だと考えています。その他、脱炭素電力の供給やエネルギーソリューション事業についても、これまでのお客さまサービス的な位置付けからマネタイズを図っていくことで、収益の一つの柱として育成していきたいと考え、挑戦領域として位置付けました。

【東京ガス 笹山社長CEO】経済性見極め成長投資 事業の効率化を進め安定した利益成長図る


今年度上期決算では過去最高水準となる最終利益を達成。

現行の中期経営計画の主要戦略はおおむね達成したが、成長性・収益性には改善の余地があるとし、次期中期経営計画で安定的な利益成長を目指す。

株主還元方針も予見性を重視した内容に転換した。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 2025年度上期決算をどう評価していますか。

笹山 上期は、前年同期比増収増益となり、全体として良好な結果を残すことができました。特に、エネルギー・ソリューションセグメントでは電力販売量の増加、そして海外セグメントでは北米シェールガス事業における販売単価の上昇が、業績を押し上げました。これらの要因により、最終利益は前年同期比約8倍の1296億円と、当社として過去最高水準に達しました。短期的な要因として、豪州持株会社の解散に伴う為替差益(特別利益)の計上が増益に寄与しましたが、これを除いても、通期で掲げた最終利益の目標を十分に達成できる水準です。

井関 都市ガス・電力販売量はどのように推移しましたか。

笹山 都市ガス販売量に関しては、家庭用が前年同期比で3・7%増加しました。これは、昨年の春の気温が高かったことに対し、今年は気温が低く、暖房需要が増加したことが背景にあります。一方で、一般工業用向けの需要は減少しました。これは、大口の離脱によるものではなく、一部産業の生産活動や発電用途の変動が影響しています。これにより、販売量は全体で前年同期比0・4%の減少となりました。電力販売量は19・6%増加しました。これは、猛暑に伴う空調需要の増加に加えて、小売りの契約件数の増加が寄与しています。


海外・エネ分野が好調 通期も増収増益

井関 通期見通しも増収増益を見込んでいます。

笹山 通期についても、電力販売量の増加や、北米シェールガス事業での販売単価上昇など、エネルギーおよび海外セグメントが順調に推移しているため、売り上げ、利益ともに好調で、最終利益は前期比2・6倍の1940億円を見込んでいます。

北米シェールガス事業が好調だ

井関 株主還元方針が従来の総還元性向に基づくものから、中間キャッシュフローの中で、「成長投資」と「株主還元」に柔軟に配分する方式へ変更されました。この理由と狙いについて教えてください。

笹山 もともと、資本市場に対して予見性の高いメッセージを発信したいという考えが根底にありました。さまざまな株主との会話の中で、成長投資をしっかり行ってほしいという意見がある一方で、株主還元の予見性を重視される方が多くいます。そこで利益の成長に合わせた累進配当による着実な増配と総還元規模を明確化することにより、株主還元の予見性を高めることにしました。成長投資についても経済性を見極めながら実施し、企業価値を高めていきます。

井関 総還元性向の目標については、約2年半前に5割から4割へと引き下げ、話題となりました。今回の方針転換は、昨今の経済情勢の変化を踏まえたものなのでしょうか。

笹山 成長投資に注力するという基本的な考え方は、今後も変わりません。ただ、昨今のインフレ状況などの環境の変化を踏まえると、一株当たりの配当を順調に伸ばしていくことを示す方が、予見性がより高まると考えています。

具体的には、3カ年で総額2000億円以上の株主還元を予定しており、28年度までに一株当たり140円の配当を目指す方針を掲げています。数値目標を明示することで、投資家の皆さまに対して、より分かりやすいメッセージを届けられるよう意識しました。

【北海道電力 齋藤社長】新たな価値を創造し 北海道と共に力強く成長する


次世代半導体工場やデータセンターなどの新規立地により、北海道の中長期的な電力需要の見通しが増加に転じた。

この千載一遇のチャンスを確実に捉えるため、GXやDXに着実に対応し、新たな価値を創造。

地域と共にほくでんグループの成長を軌道に乗せる。

【インタビュー:齋藤 晋/北海道電力社長】

さいとう・すすむ 1983年北見工業大学工学部卒、北海道電力入社。2015年苫東厚真発電所長、19年常務執行役員火力部長、21年取締役常務執行役員火力部・カイゼン推進室・情報通信部担当などを経て23年6月から現職。


井関 10月31日に、泊発電所3号機再稼働後の電気料金値下げ見通しを公表しました。

齋藤 当社は、泊発電所の再稼働後には電気料金を値下げすることをお約束しており、一定の前提を設定し、3号機再稼働後の値下げ見通しを取りまとめました。再稼働に伴う費用の低減効果を反映した上で、今後の物価や金利の上昇による影響を緩和するために、カイゼン活動やDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進などの経営効率化のさらなる深掘りによる費用の削減効果を最大限織り込んだ結果、規制料金では、ご家庭向け電気料金で11%程度、自由料金全体では、平均7%程度の値下げとなる見通しです。  

この値下げ見通しについては、公表直後に鈴木直道北海道知事にも直接ご説明させていただきました。知事からは「値下げの内容や考え方について、道民の皆さまへ丁寧に説明していくことが重要」とのお話をいただきました。エネルギー資源に乏しい日本においては「S+3E」(安全、安定供給、経済、環境)の観点が重要です。こうした観点を踏まえた泊発電所の必要性について、道民の皆さまにご理解をいただけるよう、安全対策の取り組みに加え、今回お示しした電気料金の値下げ水準についても説明を尽くしていくとともに、早期再稼働に向け総力を挙げて取り組んでいきます。


運転開始時期を前倒し 安定供給に万全期す

井関 道内の人口減少の影響が懸念されますが、最新鋭の半導体工場やデータセンター(DC)の建設計画などによる需要増への期待が高まっています。

齋藤 札幌市も人口減少に転じ、北海道全体でも全国より速いスピードで過疎化が進んでいます。こうした状況下で、千歳市で建設が進むラピダスの半導体工場が今後量産体制に入りますし、工場の拡張も計画されていると聞いておりますので、地域経済の活性化や電力需要の増加につながると期待しています。また、寒冷地とあってさまざまな企業からDC建設計画のお話をいただいています。

井関 需要増に向け供給体制は万全ですか。

齋藤 電力供給については、まずは現在の電源設備をしっかり使っていくことで賄うことを考えています。これに加えて、石狩湾新港発電所2・3号機の運転開始時期を前倒しすることを決めました。長期的な需要増に向けて、泊発電所の重要性は一層高まってきます。安全性の確保を大前提に、脱炭素電源であり、燃料供給の安定性や長期的な価格安定性も有する泊発電所の早期再稼働を目指し、総力を挙げて対応を進めていきます。今後もお客さまに安定して電力を供給できるよう、当社の電源構成や発電設備の経年化状況を踏まえながら、電源開発、休廃止計画を検討していきます。

井関 3月に「ほくでんグループ経営ビジョン2035」を策定しました。

齋藤 20年に策定した前回の経営ビジョンは、電気事業の自由化や市場化が進むとともに、人口減少や省エネの進展などにより北海道の電力需要が減少していくことを前提としていましたが、ほくでんグループを取り巻く環境が一変したことから、今般、大きく見直しました。この数年の間で、気候変動対策への機運が一層高まるとともに、地政学リスクの発現などを背景に経済安全保障やエネルギー安定供給が重視されるようになりました。国はエネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を目指しGX(グリーントランスフォーメーション)を強力に推進しています。

鉱物化のメカニズムを解明 新CCS手法として応用へ


【技術革新の扉】鉱物化CCS/東京大学

CCS関連の実証が進む中で、CO2が急速に鉱物化する例が多数報告されていた。

東京大学の辻教授らは、長年の研究成果から発想を転換し、その要因を特定した。

CO2を鉱物化して半永久的に地中に貯留する―。

この〝夢のCO2削減技術〟の実現に近づくメカニズムを、東京大学を中心とした研究グループが解明した。CO2が鉱物として固定されるには数百年単位の歳月が必要と考えられていた中、近年の実験ではわずか数年で鉱物化が進行する事例が確認されていたが、その理由は不明のままだった。こうした中で同グループは、CO2が玄武岩と接触したときの化学反応を原子レベルでシミュレートし、短期間で鉱物化するプロセスを特定した。国内では先進的CCS(CO2回収・貯留)として複数のプロジェクトが進行中だが、いずれも砂岩などから成る「貯留層」を前提としており、「CO2鉱物化」は新たな選択肢となり得る。

研究を主導した辻健教授


直接反応の可能性を検証 石英での現象をトレース

現在主流となっている方式では、地下千m以上の深さにある貯留層にCO2を注入し、その上部の「泥岩層」がふたの役割を果たす。貯留層は隙間が多くCO2が入り込みやすいが、化学反応に必要な金属元素が少なく、地中に鉱物として固定されるまでに膨大な時間を要する。また、泥岩層が遮蔽するが、一定の漏えいリスクを残す。

これに対し玄武岩は、鉄やカルシウム、マグネシウムなどの金属元素を豊富に含み、CO2はこれらに触れるとすぐに反応し鉱物化する。従来手法は〝物理的に〟閉じ込めるが、鉱物化では〝化学的に〟固定化することで漏えいの可能性を極限まで低減させている。

鉱物化の土台となる玄武岩

鉱物化の概念は、CCSが注目され始めた1990年代頃から研究対象となっていた。2016年にはアイスランドの国際プロジェクト「CarbFix」で数年で鉱物化する事例が発表されてはいたものの、そのメカニズムは解明されておらず、専門家の間でも再現性を巡る議論が続いていた。

こうした中で東大研究チームは発想を転換させた。これまで玄武岩やかんらん岩での鉱物は、CO2が地下水に溶けた状態で反応することを前提としていたが、同チームはCO2が〝直接〟反応する可能性を検証したのだ。

研究を主導したのは、東大大学院工学系研究科の辻健教授。学生時代から取り組んできた「石英」の研究が発想の転換を生んだ。辻教授らは、さまざまな岩石に広く含まれる石英を割ると反応性の高い「非架橋酸素(NBO)」が表面に現れ、これがCO2を引き寄せ、原子同士が結合して鉱物化が進むことを突き止めていた。「玄武岩やかんらん岩は、結晶構造内に多くのNBOを持った上で、反応相手となる金属原子も多分に含む。であれば同様の現象が起こるはずだと考え、原子の動きをシミュレートした」と辻教授は振り返る。こうして、短期間で鉱物化が進むメカニズムの全容が明らかになった。

鉱物化プロセスをCCSに応用するには、「貯留場所の選定」が重要になる。辻教授は、「国内の玄武岩の多くはCO2を注入するための隙間が少なく、反応するまで至らない場合もある。そうでないエリアを特定し、検証を進める必要がある」と課題感を明らかにする。


貯留場所の選定に本腰 有力候補は海山か

こうした課題をクリアし、貯留場所として有力なのが「海山」だ。海山に堆積する玄武岩は、マグマ状態時に海水に触れることで発泡してから形成される。このためCO2を注入するための十分な隙間を有する。

研究でも協力関係にあるENEOSは、既に海山の周辺などの実地調査を始めている。「こうしたフィールドワークで得られたデータを共有し、最適な貯留場所を模索していく」。(辻教授)。

ほかにも、かんらん岩などが多く分布する日高山脈(北海道)も選択肢として挙がる。玄武岩が海洋性プレートの浅い層にあるのに対し、かんらん岩はマントルという深い場所に位置するが、日高山脈などではそれが露出している。辻教授は、「かんらん岩は玄武岩ほど豊富に分布するわけではないが、反応速度も速く、鉱物化に適している。海山周辺の玄武岩と併せて、日高山脈の地層に亀裂(隙間)の入った場所を探していく」と展望を語る。

かんらん岩の分子構造。赤がNBO、橙がマグネシウム

国際エネルギー機関(IEA)の試算では、日本は2050年時点で年間約1・2億~2・4億tの貯留が必要になる見通しで、急ピッチで技術開発や事業化を進めなければならない。「鉱物化」が日本のCCSの救世主となるか―。

【コラム/11月28日】成長戦略を考える~何故功を奏しないのか


飯倉 穣/エコノミスト

1、成長戦略は、政治のお仕事

21世紀の歴代政権は、必ず成長政策に取組んできた。高市早苗内閣も、日本成長戦略本部を設置し(25年11月4日)、17戦略分野・8横断的課題を示した。「リスクや社会課題に対し、先手を打った官民連携の戦略的投資を促進し、世界共通の課題解決に資する製品、サービス及びインフラを提供することにより、更なる我が国経済の成長を実現するため、その具体化に向けて」、第1回日本成長戦略会議を開催した(10日)。巷間、期待もあり、疑義もありである。

報道もあった。「17分野 官民で重点投資 AI・半導体・エネ安保・・・成長戦略始動 首相、「危機管理」を重視 バラマキ懸念は拭えず」(日経11月5日)。「成長戦略会議 初会合で重点施策 設備投資促進へ税制創設案」(朝日11日)。「GDP減 問われる「成長力」」(同18日)。

1955年以降99年まで14回の経済計画(計画期間2~5年)が、経済運営(成長)の指針だった。その後経済計画は取りやめとなり、年々の経済運営は、民主政権を除き「経済財政運営と構造改革等に関する基本方針(所謂骨太の方針)」に変更となった。同時に各内閣で成長に関する戦略が策定されるようになった。新経済成長戦略(経産省06年6月)を踏襲した経済成長戦略大綱(同年7月)が嚆矢である。各戦略は、政官民学の知恵の結集か否か曖昧である。経済実態や業界・企業等の実情を十分反映せず、官僚の作文に政治的味付けの印象が強い。これまでの成長戦略は、現実の経済実態から見ると功を奏していない。何故だろうか。成長戦略を考える。


2、現政権の成長戦略の方向~威勢のいい言葉の空ろさ

今回作成される成長戦略(決定26年夏目途)は、危機管理投資・成長投資による強い経済の実現を目指す。戦略分野に対し、大胆な投資促進、国際展開支援・人材育成・産学連携・国際標準化という多角的観点から総合支援する。戦略分野として17分野を挙げた。AI・半導体、造船、量子、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、デジタル・サイバーセキュリテイ、コンテンツ、フードテック、資源・エネルギー安全保障・GX、防災・国土強靭化、創薬・先端医療、フュ―ジョンエネルギー、マテリアル、港湾ロジステックス、防衛産業、情報通信、海洋である。この例示が、従来の戦略項目の踏襲だと先行き暗い。ただ危機管理投資の範疇に属する造船業・防衛産業の取上げ方が目を引いた。

横断的課題は、新技術立国・競争力強化、人材育成、スタートアップ、金融を通じた潜在力の開放、労働市場改革、介護・育児等の負担軽減、賃上げ環境整備である。これらは、従来から登場する定番メニューである。これまでの取組が不十分だったのか、それとも新規の工夫があるのか不明である。

初回会合の委員資料で、気になる点もあった。成長期待で、イノベーション・エネルギー確保以外に、人への投資、金融期待、賃上げ、働き方(労働)改革等に言及するほか、違和感のある威勢のいい言葉も飛び出した。「成長投資のための国債発行を躊躇すべきでない」、「経済成長に大胆かつ徹底的な投資拡大不可欠」、「強い成長実現のため17分野に留まらず人への投資」、「インフラへの投資対策も重要」などである。成長への経路不明な発言に首を傾げた。イノベーションでは、近時の“王道”AIを鍵とする考えが強調された。

果たしてこれまでの成長戦略の経験や一般的な成長のメカニズムを前提にした場合、夫々適切な意見だろうか。

暫定税率廃止で失われる税収 恒久財源をどう確保するか


【多事争論】話題:暫定税率廃止の財源

ガソリン税・軽油引取税の暫定税率廃止が現実味を帯びている。

経済効果と約1・5兆円もの税収減への対応策について識者の見方は。

〈 減税の効果は限定的 増税か歳出見直しで対応を 〉

視点A:佐藤主光/一橋大学大学院経済学研究科教授

結論から言えば、そもそもガソリン税・軽油引取税のいわゆる「暫定税率」廃止には反対だ。野党は廃止を求める理由として「物価高対策」を挙げるが、効果は限定的と言わざるを得ない。恩恵を受けるのは「ガソリン車に乗っている人」に限られるからだ。地方では自動車が生活必需品と言われるが、今後は高齢化が進む地域では免許返納を進め、公共交通の充実・再建が求められている。自動車の利用を促進する暫定税率の廃止は、こうした中長期的に求められる政策の遅滞を招く可能性がある。また暫定税率は2009年に道路特定財源から一般財源化されているが、道路の整備費や上下水道管の老朽化対策などインフラ関連の財源の必要性は高まっている。

環境政策との矛盾も問題だ。ほかの先進国がCO2排出量抑制のためにガソリン価格を意図的に高く設定している中、暫定税率の廃止は脱炭素社会を目指すという政策目標に真っ向から逆行する。国立環境研究所が9月、廃止が26年に実現した場合、30年時点のCO2排出量は、廃止しない場合より610万t増えるとの試算を発表したばかりだ。日本のガソリン税は、消費税を合わせても世界的にかなり安い水準にある。これ以上、下げる理由があるのか大いに疑問だ。

軽油引取税もやはり効果は限定的で、消費者には間接的なメリットしかもたらさない。現在、物流業界は人手不足で、燃料コストの削減分は宅配料金の引き下げではなく、賃上げに充てられる可能性が高い。

物価高対策としては、暫定税率の廃止よりも、所得が高くない勤労者(年収400万円台くらいまで)に対する現金給付や社会保険料の引き下げが有効だ。このゾーンの勤労者は、近年の実質賃金低下の影響を最も受けている。これまでのような住民税非課税世帯を対象とした給付では、金融資産を持つ高齢者が含まれるなど、ターゲットを絞り切れない。マイナンバーを通じて金融資産をひも付け、リアルタイムで所得情報を把握する仕組みの構築が必要だ。

一方、社会保険料の引き下げについては、国民健康保険や介護保険が地方自治体の管轄で、政治的には難作業となる。この点、暫定税率は「税金」なので、法律を通せばすぐに実現できる。社会保険料の引き下げを訴えた日本維新の会は、物価高対策としては良いところを突いたが、政治的にやりやすいのは暫定税率の廃止というわけだ。


プライマリーバランス黒字化は不可欠 EV化に対応できる自動車関係税制に

廃止となれば、ガソリン約1兆円と軽油5000億円、約1・5兆円もの財源の穴が開く。この穴をいかに埋めるべきか。

野党は近年の「税収の上振れ」を財源に充てるべきだと主張している。確かにインフレの影響などで20~25年度の税収は上振れが続いている。しかし、上振れが続くことが望ましいとはいえ、景気によっては下振れることもあるため、恒久財源にはなり得ない。また財政法上、上振れ分は原則として国債の償還に充てるべきとの考え方が一般的で、暫定税率廃止分に充当してよいのかは議論が必要となる。

赤字国債の発行も望ましくない。これまでは名目金利が低かったので、赤字国債を発行しても政府債務は膨らみにくかった。ところが、「金利のある時代」の到来で利払い費は増え始めている。名目金利の方が名目国内総生産(GDP)成長率よりも高い状態では、プライマリーバランス(PB)が黒字でない限り、政府債務の名目GDP比率は上昇する。今後はこうした条件になる可能性があり、PB黒字化は待ったなしの状況にある。以上のことからも、安定的に兆円単位の財源を確保するには、増税もしくは歳出の見直しで対応するべきだ。

年末には自動車関係税制の見直しを巡る議論が予定されている。同税制については自動車の取得時・保有期間時から、使用時を中心とした課税に移行するべきだと考える。例えば、保有期間中の自動車税・軽自動車税は排気量に応じて決まっており、排気量がゼロのEVは最低税率になっている。これをEV化に対応するために、自動車重量税の比重を高めるべきだ。また自動車税・軽自動車税は一本化し、シンプルで中立的な税制が望ましい。

近年は「税金を下げてくれ」という国民の本音がポピュリズムのうねりとなり、政治を動かしている。しかし、こうした声を上げる中間層を立て直すには、一時の減税ではなく、腰を据えた社会保障制度改革などが必要だ。新政権には分厚い中間層を再建するための中長期的な政策議論を望みたい。

さとう・もとひろ 1969年生まれ。92年一橋大学経済学部卒業。98年カナダ・クイーンズ大学経済学部博士号取得。一橋大学講師、准教授などを経て、2009年から現職。23年からは同大学経済学部学部長を務める。政府税制調査会委員などを歴任。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年11月号)


燃料費調整制度導入の経緯/燃料電池自動車の普及状況

Q 燃料費調整制度が導入された経緯を教えてください。

A 同制度は、火力発電に使う原油、LNG、石炭の価格変動を、小売り電気料金に自動的に反映させる仕組みです。料金改定時に決められた基準燃料価格と、貿易統計価格に基づいて算定した実績燃料価格の差を一定期間後に電気料金に自動的に反映させます。自由化前の1995年の電気事業審議会報告での提言に基づき96年から順次導入・改定が進みました。自由化後も規制料金に引き継がれただけでなく、多くの自由料金メニューにも類似の仕組みが採用されています。

規制料金では、転嫁されるのは自社の燃料調達価格ではなく全日本平均輸入価格の変動で、調達努力不足で自社だけが高値で輸入しても救済されません。この点で、燃調調達価格低減の誘因にも考慮しています。

導入が議論された当時は、原油安および円高により規制企業である電力事業者に差益が出る構造で国民の不満が高まりました。事業者は暫定的な料金改定で差益を還元していましたが、迅速性と透明性に欠けるとの批判が高まり、この制度が導入されました。

その後の原油価格高騰局面では、自由競争企業はその価格転嫁に苦労しているのに電力会社はコスト高を自動転嫁できるのは不公平との批判もあったようですが、燃料価格が下落すれば電気料金は下がる上下対称の公平な制度と考えるべきです。しかし現在の規制料金では調整の下限はないのに上限が定められ、燃料価格の異常な高騰時に料金改定をして基準価格を変更しない限り費用を転嫁しきれない事態も起こりました。今後制度見直しも検討される可能性があります。なお都市ガスに関しても類似の原料費調整制度があります。

回答者:松村敏弘/東京大学社会科学研究所教授


Q 燃料電池自動車(FCV)の普及は進んでいるのでしょうか。

A 今年3月末時点で日本にはFCVが約8900台普及しています。しかし、日本が世界に先駆けて2017年に発表した水素基本戦略ではFCVの普及目標を20年に4万台としており、目標達成には程遠い状況にあります。

その理由は、水素ステーションの普及の遅れです。現在、日本には約160カ所設置されています。先の水素基本戦略では20年に160カ所を目標にしていましたので、数年遅れで目標は達成されましたが、多くの場合、日中のみや平日のみの営業で、場所によっては週に数日しか営業していないこともあります。それはFCVが少なく、水素ステーションの経営が成り立たないためです。

さらに、水素価格の問題もあります。FCV販売開始当初は多くの水素ステーションで1kg当たり1100~1300円でしたが、製造原価の上昇や収益面での課題から、現在は同1650~2300円になっています。FCVの「MIRAI」を満タン(5.6kg)にする場合、1万円以上に上りハイブリッド車に比べてコスト優位性がなくなっています。

現在、普及の力点は乗用車ではなく商用車(トラック、バス)に移りつつあります。商用車であれは確実な水素需要が見込め、水素消費量はFCVの20~50倍なので、水素ステーションも採算がとりやすくなります。日野自動車とトヨタ自動車は共同開発した大型トラックの販売を10月に開始しました。また、国は5月、東京都や愛知県など5地域を商用車導入の重点地域に定めました。国の目標は、30年に小型トラックは累計1.2万〜2.2万台、FC大型トラックは累計5000台、FCバスは年間供給台数200台となっています。その意味で、FC車両普及の正念場はこれからです。

回答者:丸田昭輝/テクノバ フェロー

【大野敬太郎 自民党 衆議院議員】成長分野への大胆投資を


おおの・けいたろう 1968年香川県出身。93年東京工業大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2012年の衆議院議員選挙で初当選。防衛大臣政務官、内閣府副大臣、自民党政務調査会副会長、科学技術イノベーション戦略調査会会長などを歴任。当選5回。

大学卒業後は宇宙工学の研究者として宇宙ロボットや衛星機器の開発に携わった。

近年、重要性が高まる経済安全保障や先端技術・戦略産業の育成に力を注ぐ政策通だ。

父・功統氏が財務官僚だったため東京都で生まれ、幼稚園はスイスで過ごした。小学校で地元の香川県に戻ると、父が香川県知事選に出馬。落選したが、周囲にはいつも支援者たちがいて、子どもにとってはあまり居心地が良くなかった。高校生の時には父が衆議院議員に初当選したが、政治に対しては「黒い世界」というイメージがあった。

幼い頃からものづくりに興味を抱き、家電製品やおもちゃを直したり、壊したりしていた。次第に「ものづくりで世の中に貢献したい」と考えるようになり、東京工業大学(現在の東京科学大学)、同大大学院と進んだ。機械工学を学び、宇宙ロボットを作るという目標を立てた。

その傍らで、大学時代には国際政治や安全保障への関心が高まった。特に4年生だった1991年に勃発した湾岸戦争には大きな衝撃を受けた。「研究室の片隅にあった小さなブラウン管のテレビで、世界初の紛争地帯の中継映像を見た。閃光弾が飛び交い、イラクに侵攻されたクウェートの母親が子どもを抱えて逃げ惑っていた。心を揺さぶられたのを思い出す」。以来、昼間は微分方程式を解き、夜は憲法や国際法、戦史物の専門書を読みあさった。

大学院卒業後は富士通に入社し、宇宙開発推進室配属や富士通研究所に所属した。念願だった宇宙ロボットや衛星機器の開発、米国航空宇宙局(NASA)と共同で行ったX線観測衛星のデータ信号処理、日本の月周回衛星の概念設計などに携わった。学術論文も数十本執筆している。

36歳の時、父が防衛庁長官に就任した。安全保障の世界を内側から見る貴重な機会だと思い、「1年だけやらせてくれ」と頼んで秘書官になった。間近で見た政治は思ったほど黒くはなく、むしろやりがいのある仕事だと思った。気付けば父の政策担当秘書になり、2012年、父の引退に伴う候補者公募に合格。自民党が政権を奪還した同年末の衆議院議員選挙で初当選を果たした。


技術革新のために勝負に出るべき 再稼働を巡る制度整備が必要

人前で話すのはあまり好きではない。「地道に何かを作って、周りの人が喜んでくれることが嬉しい」という職人気質だ。「政治家にもいろいろなタイプがいる。平場の部会などでリーダーシップを発揮する人やメディアに出て国民に向けて話すのが得意な人……。自分は淡々と理詰めで政策を作り上げる実務者タイプ」

注力するのは経済力の強化だ。近年の国政選挙では減税を掲げる政党が躍進したが、需要を喚起する政策よりも、将来を見据えて供給力を向上させる政策を訴える。「AIや量子技術、宇宙、エネルギー、創薬といった戦略産業や先端技術には国が大胆に投資すべきだ」。財源については「将来の価値を生む分野への投資は、社会保障などと考え方が違う」として、赤字国債の発行を容認する。国内総生産を上げるには、全要素生産性(TFP)・資本投入量・労働投入量(就業者数と労働時間)の伸びが必要だ。しかし、日本はTFPこそ維持傾向にあるものの、資本投入と労働投入は減少傾向にある。「いま勝負に出て価値を生み出さなければ、日本の未来は暗い」と危機感をあらわにする。

エネルギー政策で重視するのは経済安全保障の視点だ。「エネルギーミックスは国際秩序やサプライチェーンの自立性などを総合的に判断して組み立てるもので、日本は原子力を活用するのが合理的だ。再稼働と新設・建て替えはもちろん、核融合を含めた技術開発を国が主導すべき」。再稼働については、リスクと利益のバランスを制度的に担保して、住民に分かりやすく提示する必要があると指摘。地元の四国には伊方原子力発電所が所在するが、「原子力規制委員会の審査に合格しているにもかかわらず、差し止め訴訟によって運転を停止したことがあった。運転に関する権限は国に集約させた方が良いのではないか」との考えを示す。

10月の自民党総裁選では、昨年に続いて小林鷹之氏の推薦人を務めた。「高市早苗総裁、小林政調会長という布陣になり、政策的にはかなり期待している」

趣味は今でもDIYだ。新型コロナウイルス禍で時間に余裕ができた時には、自宅のじゅうたんを全てフローリングに張り替えた。壊れた家電製品なども自分で直すため、「なかなか新しい家電製品にならない」と笑う。最近気にかけている言葉は「知行合一」。知識と行動は一体だとする陽明学の思想を表している。「政策を積み上げるだけでなく、小林氏のような同志と共に行動を起こす必要があると気づいた」。日本の未来を設計する真の政策通が、総理の懐刀となる日はそう遠くないのかもしれない。

【需要家】酷暑が暮らしを変えていく 電力需要の再考の時


【業界スクランブル/需要家】

今年の夏も記録的な暑さとなった。気象庁では猛暑日を超える暑さの名称について検討が始まっているようだ。温室効果ガスの排出を止めない限り、気温は今後も上昇し、私たちはこれまで経験したことのない環境で暮らすことになる。

筆者自身も、夜間の酷暑に耐えきることができず、夜通しエアコンを運転するようになった。これは機器の使い方の変化の一例だが、今後の気温上昇に伴い、ライフスタイルとエネルギーの使い方には大小さまざまな変化が生じるだろう。

衣食住に分けて足元の変化とその先の状況を想像してみると、例えば衣類は冷却ファン付ベストの利用を見かけるようになった。人を冷やす技術は今後さらに進化し、エネルギー消費の新たな形を生むかもしれない。

食の分野では、産地の北上、またハウス栽培の課題が顕在化し、農業における冷房需要の増加も予想される。

住環境においては、新型コロナウイルス禍以降に定着したリモートワークが、猛暑による外出困難を背景に再び主流となる可能性もある。これに伴い住宅設計の関心も「冬の暖房効率」から「夏の冷房負荷低減」へと移ることも考えられる。

また、日本では導入されていないサマータイムが再び議論される可能性もあり、活動時間のさらなる夜間シフトもあり得るかもしれない。

このように、気温の上昇によって人々の暮らし方そのものが変われば、これまでの予測を大きく上回るエネルギー需要が生じる可能性がある。政策や企業戦略も、こうした変化に柔軟に対応することが求められている。(K)