近藤大介/ジャーナリスト
中国はなぜ「高市発言」で日本に経済的威圧を仕掛けたのか。
背景には好転する対米・台湾政策と共産党内の権力争いがあった。
2月8日投開票の衆院選期間中も、中国からの経済的威圧が続いている。そんな中、選挙の大義名分に中国が「闖入」した。それはこんな具合だ。
〈首相周辺は「政権が安定すれば中国側の見方も変わる。解散にはその意味もある」と語り、衆院選勝利で強い政権基盤を作ることで、対中関係の局面打開を図る狙いもあったと明かした〉(朝日新聞1月19日付)
なんという甘い考えだろう。たとえ高市自民党が勝利しても、中国側が拳を振り下げることなどないに決まっている。

長期不況にあえぐ国内 台湾統一が権力維持の条件
なぜそう言えるか。話は昨年10月にさかのぼる。21日に高市政権が発足したが、その時、北京では「4中全会」(中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議)が開かれていた。
この共産党の重要会議でコンセンサスとなったのは、2027年秋に開かれる第21回中国共産党大会で、習近平総書記の「超異例」の4期目留任を容認するということだった。
ただし、そのためには「正当性」(留任するための理由)が必要だ。実はこのことは、22年10月の第20回共産党大会で習氏が「異例」の総書記3選を果たした時も同様だった。当時、習総書記は「まだ祖国(台湾)統一を果たしていないので、あと5年いただきたい」と述べたとされる。
中国経済は、習政権が発足した13年以降、悪化の一途をたどっている。特に、20年に新型コロナウイルスがまん延し、習主席の「鶴の一声」で「ゼロコロナ政策」(ウイルス封じ込めのため都市をロックダウンする政策)を丸3年も続けたせいでガタガタになった。
現在でも、デフレ下の長期不況にあえいでいる。そのため習主席は、台湾統一問題を何とかしないと自らの4選がおぼつかないと、追い詰められている。
そんな時に、まるで習主席の「地雷」を踏むかのように、昨年11月7日に高市首相が国会で、「台湾有事と存立危機事態」の発言をかましたのである。
この発言が飛び出す前、中国にとって、台湾統一の「障害物」は二つあった。
一つは、独立志向が強い台湾の頼清徳政権である。頼政権は来年11月に統一地方選挙を控えており、これに惨敗すればレームダック(死に体)に陥る。そのため中国としては、頼政権に最大限の圧力をかけて、2300万人の台湾人に、「頼政権が続けば中国軍に侵攻される」と思わせたい。昨年末(12月29~30日)に中国人民解放軍が強行した大規模軍事演習「正義の使命2025」は、そうした典型例だ。中国軍は軍用機207機、艦船31隻、海警船16隻を繰り出して、台湾の周囲5カ所を取り囲んだ。
同時に、台湾最大野党の国民党に肩入れし、昨年10月18日の国民党主席選挙では、候補者6人中、「最も親中的な」鄭麗文候補を陰で支援し、勝利させた。中国は、来年11月の統一地方選挙でも、鄭主席率いる国民党に勝たせ、その先には台湾への「無血入城」を見据えている。だが逆に、選挙で頼総統率いる民進党が勝利したなら、いよいよ武力統一を真剣に考え出すだろう。
図らずも、27年8月1日は中国人民解放軍創建100周年であり、習主席はこの時までに「奮闘目標を達成する」と言い続けている。「奮闘目標」の中身は明かしていないが、普通に考えれば台湾統一だ。
そんな時、統一の「第二の障害物」となるのが、日本をはじめ東アジア各地に軍を駐留させ、台湾に武器輸出するアメリカだ。
バイデン前米大統領は、中国が台湾に侵攻すればアメリカが武力介入すると、4度発言した。だが現在のトランプ大統領は一度も発言していない。
それどころか、昨年10月30日に習主席との6年ぶりの対面での首脳会談を終えた後、台湾問題について記者に聞かれ、「それは議題に上がらなかった」と平然と答えた。おそらく、1972年にニクソン大統領が訪中して先鞭をつけて以降、米中首脳会談で台湾問題が議題に上がらなかったことは、一度もないだろう。だがトランプ大統領にとっては、台湾問題よりも米中貿易問題の方が、はるかに重要なのである。















