【業界スクランブル・ガス】過去の被害教訓とし地震対策に終わりなし

【業界スクランブル/ガス】

3月11日、東日本大震災から15年を迎える。福島第一原発は地震と巨大津波により全電源を喪失。炉心溶融や水素爆発を引き起こし、対応は今なお続く。一方で忘れてはならいのは、この地震がライフライン全般に甚大な被害をもたらしたことだ。水道は約220万戸、電気は約870万戸、ガスは約46万戸で供給が停止した。

都市ガス事業者は、1995年の阪神・淡路大震災を契機に地震対策を継続的に強化してきた。対策は、被害を最小限に抑える「設備対策」、二次被害を防止する「緊急対策」、早期復旧を目指す「復旧対策」の三本柱である。

設備対策では、マイコンメーターや耐震性に優れたポリエチレン管の普及による地震対策を進めてきた。さらに東日本の津波被害を教訓とし、重要設備のかさ上げや水密化工事、漂流物対策などの津波対策を追加した。緊急対策では、被害の大きいエリアを中心に迅速にガス供給を遮断できる防災ブロックの細分化などに取り組む。復旧対策では、病院・避難所への臨時供給体制、全国の都市ガス事業者による応援体制を整備してきた。

地震の規模は異なるものの、これらの取り組みにより、熊本地震や大阪北部地震では復旧日数の短縮が見られた。ただ、地震対策に終わりはない。南海トラフ地震や首都直下地震の発生が懸念される中、スマートメーターの導入や情報発信の高度化などにも取り組む必要がある。これらはいずれも一朝一夕に実現できるものではなく、日々の地道な積み重ねが不可欠だ。インフラ事業を担う者として、安心・安全にエネルギーを供給する責任を改めて強く認識しなければならない。(Y)

【原子力の世紀】米露の新START失効で 核拡散時代に突入か

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

米露両国が結んでいた新STARTが2月5日、失効した。

核拡散時代突入への火ぶたが切って落とされてしまったのか。

米露両国が結んでいた新戦略兵器削減条約(新START)が2月5日、期限切れで失効した。後継の条約を結ぶ動きはなく、東西冷戦中の1972年に米ソ両国が戦略兵器削減条約を締結して以後、半世紀以上にわたり存在してきた両国核兵器に制限をかける条約がなくなった。

今後、世界は中国を含む3カ国による核軍拡競争や、これまで非核兵器国だった国々が核保有を模索する核拡散の時代に突入する可能性がある。

新STARTは米露が2010年に合意した条約。大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器の配備数を1550発以下とするなど、両国の核兵器に上限を設ける内容だった。

核を巡る世界は大転換を迎える
出所:ホワイトハウスのXから

期限が迫る中、プーチン露大統領は昨年9月、「米国が同様の精神で行動する」なら、条約失効後1年間は「主要な数量制限を順守する用意がある」と、条約の「1年間延長」を米国に呼びかけた。これに対しトランプ米大統領は、一度は「良い考えのように見える」と発言。だが、今年1月初旬には米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「期限が切れたら、それで終わりだ」と突き放した言い方に変わった。

米露は解体前の退役核兵器を含め約5000発ずつを保有するなど、世界の核兵器の約9割を保有する超核大国だ。だが、ロシアは国内総生産(GDP)で米国の10分の1、軍事費も6分の1に過ぎない。4年間続くウクライナとの戦争や、欧米諸国からの制裁で経済は疲弊しており、米国との核軍拡競争に乗り出す余裕はない。

また、旧型ICBMに代わる新型ICBM「サルマト」も実験失敗が相次ぐなど、目の前にある課題の克服に全力を注ぎたい意向もあり、費用が不要な新STARTの1年間延長を模索した。プーチン氏が口にしにくい本音を代弁するメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は、1年間延長という提案は「まだ生き続けている」と、条約失効直前まで訴え続けたが米国は動かなかった。


超大国のルール破り NPTの不平等性に反発も

条約失効を受け、米国は中国を含めた「新条約」を模索するが、中国は交渉に参加するそぶりすら見せず実現は見通せない。そうした中で、気がかりなのは、核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有を禁じられている非核兵器保有国の動きだ。

核兵器の世界で、規範的な役割を期待されてきた米露両国だったが、ロシアは核を使うと脅し始め、米国は核実験再開の考えに触れるなどルール破りが目立つ。中国も急ピッチで核増強を続ける。こうした行動に非核兵器国は反発している。

そもそもNPTは、米英仏中露の5カ国だけに核兵器保有を認め、それ以外の国には核保有を禁じる「不平等性」を持つ条約だ。その矛盾点に改めて焦点が当たりそうだ。ニューヨークの国連本部で4月末に始まるNPT再検討会議では、核兵器国への批判が噴出するのは確実だ。

超大国が自国の国益だけを優先し、身勝手な振る舞いを続ければ、第二次世界大戦以後、国際社会が苦労して築き上げてきた国際規範は、雪崩を打つように崩れ去る。自国を守るには核兵器の保有が必要と考える国が出てきてもおかしくない。

【リレーコラム】電力供給は国家戦略の鍵 守りを固め攻勢に転ずべし

北 康利/作家

本誌の読者には釈迦に説法だろうが、経営上、最も注意を払うべきリスクには2種類ある。一つは「頓死する」リスク、もう一つは「ゆでガエルになる」リスクだ。両方とも、見逃されがちである点で共通している。

前者に関して筆者は、ベンチャー企業の監査役などを依頼される際、特に資金繰りとコンプライアンスに留意することにしている。赤字で企業は倒産しない。資金繰りで倒産するのだ。それは急にやってくる。最近はSNSなどで拡散される風評被害や法令違反が怖い。これもまた頓死の原因となる。

エネルギー関連の大企業の場合、さすがに資金繰り倒産の可能性は低いだろうが、それでも最近、少しは留意が必要になってきている。残念なことだ。社債償還の集中は避け、赤字額が財務制限条項に抵触することのないように留意し、ゆめゆめクロスデフォルトなどにはならない注意が必要だ。

国家経営上も、財政赤字などは、さほど怖くない。国家財政の破綻は、外債発行をしているにもかかわらず、償還用の外貨調達ができなくて破綻するケースがほとんどだ。頓死の主因としては、エネルギー安保や食糧安保を気にするべきだろう。エネルギー業界としては、前者に責任を持つのは言うまでもない。


電力会社はソブリン債で 資金調達を

もう一つ、ゆでガエルになるリスクだが、いろいろ考えられる原因の中で最近、最も気になっているのがエネルギー関連企業の調達コストの問題だ。

ご存じの通り、電力会社は借金の塊と言える。金利上昇の局面で資金調達コストは上昇するが、電力料金の調整は遅行する。現在のわが国の金利上昇傾向は経営体力が大きく削られる局面だ。

どの国でも電力債は、国債と民間社債との中間に位置するが、わが国は、アメリカのようなエネルギー強国でも、ドイツやフランスのような一衣帯水のEUのメンバー国でもない。それであれば、韓国のように国家保証を付保したソブリン債にするべきだと考える。少なくともJRの新幹線の債務がかつてそうであったように、原子力発電所関連の債務はソブリンリスクで調達するべきだ。そうした根本的な調達コスト軽減の努力を今のうちにしておかないと、それこそ、ゆでガエルになってしまう。

この国はエネルギー敗戦を経験してきたが、次の時代では安定的で安価で大量な電力供給が、新産業を勃興させ海外投資をもたらす国家成長戦略の鍵だ。そのためにも守りを固め、攻勢に移らねばならない。

きた・やすとし 1960年12月24日生まれ。みずほ証券退職後、本格的に作家活動に入る。東京と名古屋で「一燈照隅の会」主宰。ラジオ大阪「北康利の歴史に学ぶ知のライブラリー」(毎週日曜午前8時30分~9時)放送中。

※次回は、ヘリカルフュージョンCEOの田口昴哉さんです。

【火力】震災から15年 流転の政策が翻弄

【業界スクランブル/火力】

東日本大震災から15年が経過した。震災以降の火力発電を取り巻く環境を振り返ると、その評価は大きく揺れ動いてきたことが分かる。

現在ではカーボンニュートラルの潮流の中で、特に石炭火力は減少の一途との印象が強いが、震災直後は全く異なる状況だった。全国の原子力発電所が停止し深刻な電力不足に陥る中、それを支えたのはミドル電源として運用されていたガス火力であるが、ガス消費の急増で、LNG価格はじわりと値上がり。電気料金を押し上げた。結果、相対的に安価な石炭火力の早期新設を求める機運が高まった。

電力全面自由化の議論と相まって、環境アセスメントが不要な中小石炭火力の建設計画が相次ぎ、メーカーも小型石炭火力に注力する動きが見られ、国も2014年の第4次エネルギー基本計画で、火力(特に高効率石炭火力)を重要なベースロード電源と位置付けている。

しかし、16年にCOPのパリ協定発効以降、状況は変わっていく。19年には環境省が事実上石炭火力の新設を認めない方針を示し、20年には経済産業省が非効率石炭火力のフェーズアウトを打ち出した。火力発電設備は、規模が大きいほど高性能で経済性も高いという特性を持つ。中小石炭火力は建設期間が短いという利点を持つ一方で、まさに非効率石炭火力である。10年足らずで政策が大転換したことは、事業者やメーカーにとって強い慎重姿勢を生む結果となった。

将来の情勢を見通すことは、ますます困難になるだろう。民間事業者は政治と行政がどこまでリスクを引き受ける覚悟があるのかを固唾を飲んで見守っている。(N)

【シン・メディア放談】歴史的勝利で勢いづく 高市政権の行く先は?

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

電撃解散の結末は与党の歴史的勝利だった。強力な与党復活でどうなる日本!?

―衆議院選挙は自民党の超圧勝に終わったが、なぜここまでの強風が吹いたのか。

A紙 選挙の推し活化は最近のトレンドで、前回の参院選では参政党、その前の衆院選では国民民主で、今回はその究極形だった。一方、120も議席を減らした旧立憲民主は負けるべくして負けた。野田佳彦氏は、昨年の首班指名選挙が勝負どころだったのに、手を打てなかった。

B紙 読売に解散をリークした時に勝負は決していた。推し活という意味では、中道改革連合代表が70歳前後の二人で、言い方は良くないが見劣りは否めない。さらに中道の演説にいたのは公明側だらけで、立憲側は何をしていたのか。ただ、公明がしんどいのはむしろこれから。創価学会は中道設立をOKしたが、今後イザコザが起きそうだ。

C紙 上層部に一般学会員が振り回される状況が当分続くのかも。立憲のピークは結党時だったね。希望の党に左派が排除され、謎の期待感があったが、対自民で虚像が膨らんだだけ。実は立憲が勝った選挙はなく、自民が大敗した昨年の参院選も現状維持に甘んじた。結局、コア支持層がそれほどいなかった。

A紙 それにしても、鉄の結束といわれる学会票はあまり機能しなかった。公明は一枚岩ではなかった。

C紙 そうかな。公明支持者の7~8割は今回中道に入れたとの分析がある。また「ランナーが3塁にいなければ点は入らない」なんて野球に例えた評もあったが、まさにその通りだ。一方、高市早苗首相は他党の悪口を言わず、現場も公明批判しないよう徹底していた。また、自民は都心部などの層にリーチさせる戦略を重視し、ユーチューブの広告では選挙区ごとの候補者がばんばん出てきた。

A紙 自民のうまさが光ったね。SNS戦略も、写真集のような政策集も、高市首相を全面に出して政策の話にさせなかった。

B紙 また、投票率が割と高く、期日前は過去最多に。リベラルの「投票率が上がれば自分達に有利」という主張は崩れ去った。


衝撃だった情勢調査 朝日のすごさ際立つ

―その他の党はどうか。

B紙 差別化に成功したのがチームみらい。デジタル化などの即時変化が期待され、多くの票が入った。あおりを食ったのが参政と国民だ。参政は踏ん張ったが、神谷宗幣代表は「SNSで目立っていない」と吐露し、これまで意識的に炎上させていたことがよく分かる。他方、国民の玉木雄一郎代表は株を下げた。ネット受けを意識しすぎ、着実に数を取りに行くための地道な努力をしていたのか疑問。今後野党をまとめ切れるのか。

そして、今回はあおりやフェイクが前回より目立たなかった。アルゴリズムの変化かも。だから、敗因の一つにSNSを挙げた安住淳氏はおろかだ。

C紙 それにしても、情勢調査の数字には恐怖すら覚えた。本来立憲に乗るべき数字が乗っていないし、公明支持者は調査に答えないとも聞き、本当にひっくり返されないのか、当日午後8時になるまで信じられなかったよ。特に1週間前に「自維で300議席超うかがう」と打った朝日は勇気がある。

B紙 朝日の調査はすごい。選挙区ごとに序盤から公開し、楽しませるコンテンツを提供した。本当かと思う区もあったが、結果はほとんど当たりだった。

A紙 ところで、日経は元々財政規律派だが、珍しく高市首相を痛烈に批判していた。また、首相の円安への認識に対し、みずほ銀行が出した「高市演説を受けて~危うい現状認識~」と題したレポートも話題に。それほど経済界やマーケットの危機感が大きいということだ。

―エネルギー的な注目エリアは何といっても新潟。前回立憲が全議席を取ったが、今回は自民が独占した。他方、福井2区は斉木武志氏が当選し、波紋を広げそうだ。

C紙 斉木氏が自民の追加公認を受けたが、地元は大反発している。ただ、これまでも同様のケースでは党籍を別の地域で預かり、いくつか選挙をガチンコでやって水に流す、といった手法を取ってきた。今回もあまり気にしなくてよいと思う。


「国論二分」への挑戦 ワンマンプレーの懸念

―数の力を得た高市首相は国論を二分する政策への挑戦を口にしている。

B紙 参院で単独過半数に達していない状況での憲法改正は信じがたい。本丸の9条改正は難しく、何を柱にするのか。

A紙 安保三文書の改定や、海外からは武器輸出の5類型の撤廃が期待されている。問題になりそうなのが、財界が求める労働規制の緩和。ワークライフバランス重視から逆戻りしかねず、少子化にも関わってくる。

B紙 前回見送った改正労基法案を年内どこかで提出するのか。一般への影響が大きい内容だ。そう考えると、憲法改正を言っている暇はないのでは?

C紙 今のところ2027年4月に統一地方選、28年夏に参院選が予定され、実はあまり時間がない。高市ファンに受けが良い政策議論を、選挙のカレンダーを引きながらどう進めていくのか、戦略を立てられる人材が安倍官邸と比べたら少ない。

A紙 高市首相は役人レクが入りにくいことで有名で、今後その傾向がさらに加速しそうだと役人が気にしている。さらに党内にも今まで以上に話を通さないようになることが危惧される。

―高市首相が仲良しの伊メローニ首相を見習い、現実路線も見据えてほしいものだ。

【ワールドワイド/コラム】北海の洋上風力拡大へ 国境超えた連系が焦点

国際政治とエネルギー問題

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシア産ガスの供給構造が不安定化し、需給危機から価格が急上昇した。これを機にEU各国は、ロシア産依存を減らすため洋上風力へ大きな期待をかけることになった。同年5月には、デンマークのイニシアチブにより港町エスビアウで第1回北海サミットが開催され、ベルギー・オーステッドでの第2回(23年4月)を経て今年1月26日に、10カ国の首脳・大臣のほかEU委員会、NATO(北大西洋条約機構)などの関係者が参加する第3回がドイツ・ハンブルクで開催された。

第3回の決議は「政府首脳のハンブルク声明」「エネルギー大臣のハンブルク声明」「環北海諸国、洋上風力産業、基幹系統運用者間での北海領域への洋上風力共同投資パッケージ」である。ホスト国のライヒェ経済大臣は、2国間での「相互連系される北海洋上風力グリッドの共同プロジェクト開発の共同声明」「北海再エネ・インフラ協力の共同声明」「北海とバルト海での洋上風力共同プロジェクトを含むエネルギーの戦略的なパートナーシップの共同声明」に署名した。

主要なテーマは洋上風力への投資案件の最適化、電力系統の国境を越えた計画と資金調達、重要インフラへの保護であった。環北海諸国は1億kWまでの風車をネットワーク化することに合意。なかでもデンマーク、スウェーデンの排他的な経済水域で建設される洋上風力が発電する電力を他国の系統へ連系できるとみられている。ただ実現するには、各国で相違する規制システムと基幹系統運用者の売り上げモデルが課題となる。さらに50年には、北海での設備容量を現在の3300万kWから3億kWへと拡大し、洋上風力を環北海諸国間でネットワーク化する計画だ。

英独間の新しい洋上風力連系「Griffin Link」の合意は、EU全体の電力ネットワーク強化と北海の大規模洋上風力拡大に向けた重要な一歩となった。30年代末の稼働を目指し電力供給を最適化するほか、欧州電力ネットワーク化への基礎を構築しようとしている。今後北海では、ハイブリッドで国境を越えた連系が焦点になり、これに基づく政策の枠組みが必要になるからである。

EU諸国のエネルギー大臣は、洋上風力保護への安全保障が変化した地政学的な状況に直面した中で強化されなければならないことを強調した。そのため初めて、NATOが参加したのである。EU委のヨルゲンセン・エネルギー委員、英国のミリバンド・エネルギー大臣、そしてライヒェ氏は、「風力は敗者であり化石燃料の活用」を主張するトランプ米大統領の判断を否定した。

ミリバンド氏は風力発電の拡充が英国のエネルギー安全保障に重要で、ガス輸入からも自立し電力コストを抑制できると強調。デンマークのオーステッド電力は、洋上風力産業は発電コストを40年までに30%削減することを義務付けられていることを指摘した。トランプ氏による風力嫌悪への一つの回答を与えたと見ていいだろう。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)

【ワールドワイド/コラム】対外威圧を強める中国と EVの経済的武器化

海外メディアを読む

1月29日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで、コラムニストが米・ニュージャージー州で中国製EVを2週間試乗した体験記事を寄せた。世界的スマホメーカーでもある小米(シャオミ)社製のSU7Maxがその対象車だ。記事はその性能を絶賛し、米国での販売を待望する、と言う。

優れた走行・自動運転性能以上に、家族での運転体験の楽しさが強調されている。統一OSによる情報・スマート機能の飛躍的統合、接続・操作の容易性、付加機能拡張の高い自由度によって、移動時間が「つぶす」から「楽しむ」ものに変わる。マイカーの提供する私的空間の質を一変させる革新性をこの記事は伝えている。

2020年以降、中国のEVシフトは燃費・新エネ車クレジット規制やナンバープレート優遇発行など、生産・消費両面での強力な政府介入の下、驚異的な速度で進む。無秩序的な過剰生産と値崩れを伴いつつも、しのぎを削る競争の中から自動車を、走る「やすらぎのマイ・デジタル空間」に変える技術革新が進行している。この点で、EVシフトは本物だ。

昨年、中国・国内新車(乗用車)販売に占めるEV(プラグイン含む)の割合は、ついに5割を超えた。おそらくHEVを含むガソリン乗用車の保有台数は既にピークに達し、今年以降に趨勢的に減少する。ガソリン需要の後退に伴い、過去4半世紀にわたった「中国主導の世界石油需要増」という局面は終わる。石油自給率向上を図る中国にとって、EV振興は石油安全保障上の最重要政策の一つだ。「楽しい」EVが対外威圧を強める権威主義国家の経済的「武器」でもある現実は、安全保障と経済的活力を不即不離とする思考力をわれわれに要求している。

(小山正篤/国際石油市場アナリスト)

【ワールドワイド/環境】UNFCCCからの離脱も 米国不在が示す国際秩序の溶解

米トランプ政権は1月、大統領メモランダムにおいて66の国際機関、条約からの離脱を打ち出し、多国間枠組み軽視、二国間のディール重視を改めて印象付けた。

そのうち35は非国連機関、31は国連機関。エネルギー・温暖化分野では、前者に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国際エネルギーフォーラム(IEF)、後者に気候変動枠組み条約(UNFCCC)を含む。昨年1月のパリ協定離脱表明以降、気候変動枠組み条約に基づく全ての資金拠出を停止し、COPなどの交渉プロセスにも参加せず(COP30は米国代表団不在の初COPに)、事実上、条約を無視した状況が続く。

今回のメモランダムを踏まえ、さらに枠組み条約から離脱する可能性が高い。トランプ第二期政権は国務省の関連部局の廃止、危険性認定の廃止提案、温暖化の科学の否定、国際海事機関(IMO)における炭素価格設定のブロックなど、第一期政権以上に温暖化アジェンダに対する拒否反応が強い。また離脱すれば、将来の政権がパリ協定に再加入しようとしても、まずは枠組み条約再加入が必要となり、ハードルを高めることができる。

メディアは「EU、中国などが温暖化防止に関するアジェンダ、ルール設定力を強め、米国はクリーンエネルギー転換に劣後する。離脱は米国のオウンゴール」というリベラル論者の議論を報じている。だがそれは、米国以外の国際社会が、これまで通り脱炭素に取り組むことが前提だ。

米国が脱炭素コストを負担しない中、EUの高コストの脱炭素路線は容易ではない。米国不在でEUや中国によるルール設定が米国製品に不利になれば高関税で報復するだろう。また米国の気候資金からの撤退を他の先進国が埋め合わせることは不可能で、途上国の脱炭素努力にさらにブレーキがかかるだろう。

米国不在で中国のリーダーシップを期待する議論もあるが、中国の関心は国産品の輸出拡大と技術支配力の拡大と国益最優先であり、規範的なリーダーシップは考えていない。米国の離脱は規範主導の多国間協調から、通商・産業政策と結びついたパワーポリティクスへの転換、国際秩序の溶解を示している。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】 供給力不足の懸念解消へ 容量市場の欠陥是正を

【業界スクランブル/新電力】

2029年度向け容量市場オークション結果が発表された。最大のポイントは「約定価格の最高値更新」で、これが示唆するのは供給力不足への懸念や固定費の高騰傾向か。20年度の初回オークションで約定価格が上限値に張り付き、電源不足への対処の必要性は見てとれる。

発電者の新規投資、設備維持両面の意欲喚起の方法が主となり、容量拠出金を負担する小売りへの配慮というワードはあっても負担増やむなしの形勢だ。資源エネルギー庁は当面、現行制度前提の議論を行いたいようだが、その欠陥を見直す方が有効と考える。

まず夏季に太陽光稼働率が高い時間帯の最大需要に合わせ、供給力確保を目指す発想が奇異だ。予備率低下は太陽光不在時間帯に発生する。稼働が不確かな電源群が供給曲線から退くだけで相当量の安定電源の約定量増加が見込まれる。年々増大するFIT(固定価格買取)制度が中心の変動性再エネを容量市場では供給力として対象外とすれば、不落札の安定電源は落札となる可能性が高い。

実効性テストで不合格を量産した発動指令電源(大半はDRと推測)をみると、期待ほどは需要側リソースが動けないと示している。一部エリアで系統蓄電池が応札量過大で未約定になったが、発動指令電源の定義を固くしておけば、即時反応力の高い電源は全量を約定できただろう。

老朽石炭フェードアウト措置も供給力確保に合わない。新規電源には、現行制度が否定する減価償却費を織り込み固定費として認めれば、投資意欲は喚起されそうだ。供給力は指令応動能力と再認識し、その能力保持者に適正費用を払えばよいだろう。(S)

【ワールドワイド/市場】出力需要増に備えるPJM 信頼性とコストの両立が課題

米北東部地域の地域送電機関PJMは、米東部13州とコロンビア特別区をカバーし、系統運用および卸電力市場運営を行っている。安価な天然ガス供給を背景に、ファンドなど民間資本が所有するガス火力の新設が継続的に行われてきた。

この結果、電源構成は2023年末時点では天然ガスが48%(設備容量ベース)とほぼ半分を占め、高い供給予備力を保っている。しかし現在、接続待ちをしている新規発電設備は、太陽光など再生可能エネルギー電源が中心である。50年には再エネと電力貯蔵設備の割合(設備容量ベース)が47%に達するとの予測もあり、電源構成に占める火力の割合は段階的に減少する見通しだ。

一方、PJM管内では特にAIやデータセンター(DC)による電力需要の増加が電力システムに与える影響が懸念されている。将来的にDCがけん引する電力需要の増加に加え、石炭火力などの廃止の加速、新規発電設備の導入が遅れる事例が続いた場合、現状の高い供給予備力を維持することは難しい。

PJMの電力需要は19年頃まではほぼ横ばいであったが、DCの急増と各州の電化目標の達成に向けた動きにより増加した。これに伴い、PJM管内では39年までに夏季ピークが4200万kW、冬季ピークが4300万kW増加すると予測している。特に顕著なのがバージニア州で、ドミニオン社管内では24~34年にかけて消費電力量の増加率は平均で年率5・5%が見込まれている。

電力需要の増加への対応策として、PJMは24年に再エネ電源や電力貯蔵設備など2600万kWの新規プロジェクトを承認し、25年度内に追加で4600万kWのプロジェクトを承認する予定だ。さらに既存の発電設備の運転延長を進めており、メリーランド州の石油火力発電所の運転を28年まで延長するなどの措置が取られている。

またPJMの24年地域送電拡張計画では電力需要の増加に対応するための費用として約51億ドルが試算され、新規変電所および送電線の建設、既存施設の改善が必要と示された。

PJM管内の電気事業者はそれぞれ新規の設備容量の建設や既存の発電設備の運転延長などを実施しているものの、運開の遅延や系統増強費用の増加に伴うコストへの影響など課題は多く、信頼性を確保しつつコストを抑えるための対策をさらに強化する必要がある。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

【ワールドワイド/資源】対露制裁で印に二次関税措置も 真の禁輸に二の足踏む米政権

政権発足から6カ月以内にウクライナ戦争を終わらせるという「公約」期限が近づき、トランプ米大統領は昨年8月15日、アラスカ州アンカレジで米露首脳会談に臨んだ。しかし交渉は思ったように進まず、同27日、新たな制裁手法としてロシア産石油の最大顧客であるインドに対し「二次関税」を発動した。

さらに和平案に対するロシア側の譲歩が得られないことへの不満から、10月22日にはロシア最大の石油メジャーであるロスネフチと第2位のルクオイルを制裁対象に指定した。事実上、政権初の直接的な対露制裁の発動であり、ロシア産石油の「真の禁輸」への方向転換を決定付けるものとなるはずだった。

実は1月にはバイデン政権が最後の置き土産的な制裁を発動し、第3位ガスプロムネフチと第4位スルグートネフチェガスを制裁対象としていた。だがケプラーのデータによると、前者の輸出シェアは2024年の9・5%からら昨年は6・3%、後者は12・0%から同5・8%に減少したものの依然輸出は継続されている。

また、ロスネフチおよびルクオイルも制裁の猶予期間を経た12月と11月を比較してみると、前者は35・6%から9・2%に減少した一方、後者は8・8%から11・4%に伸ばした。輸出量で見ると、減少どころか11月の日量342万バレルに対し、12月には376万バレルと1割増加している。

この背景には、大手石油会社の輸出を引き継ぐ中小の無名の業者が複数おり、自ら制裁対象に指定されるリスクを負って輸入を試みるバイヤーがロシアの原油フローを維持し制裁を無効化していることがある。

実際、制裁発動前の7月、日量171万バレルだったインドによる輸入量は12月も125万バレルと約3割の減少にとどまった。制裁の真のターゲットが、関税措置の影響を受けない構造的問題に起因する結果と考えられる。

もし「真の禁輸」に本気で舵を切りロシア政府の収入を削減したいのであれば、主要石油会社のみならず、その迂回ルートとなっている中間業者を継続的に洗い出し、制裁指定していく必要がある。これは米国前政権が輸送に携わる船舶、傭船会社、そして輸入者を制裁指定したことの継承だ。だがイランに対する制裁を都度強化するトランプ政権に、ロシアに対する制裁を継続・強化する姿勢はこれまで見られない。

(原田大輔/エネルギー・金属鉱物資源機構 調査部長)

【電力】 票のため政策覆した旧立民 新党・中道のダメさ

【業界スクランブル/電力】

2月8日に投開票が行われた衆議院選挙は、自民党が単独で自民史上最多の議席を得る歴史的な勝利となった。日本初の女性首相となった高市早苗氏の人気の高さに加えて、野党第一党であった立憲民主党と、自民党との連立を解消した公明党が合併してできた中道改革連合が、あまりにも駄目だった。

中道に合流するにあたり、立憲は「原発ゼロ」「平和安全法制は憲法違反」「沖縄普天間基地の辺野古への移設反対」といった、中核的な主張をことごとく撤回している。確かに、原発停止に伴う化石燃料輸入の増大は、今の円安・物価高の主因であるし、習近平国家主席が自分に反抗的な軍幹部を粛清し、3期目が終わる2027年にかけ、台湾に向け暴発する懸念が高まっている昨今の中国情勢を鑑みると、平和安全法制を通じた日米同盟強化はむしろ、先見の明が評価されるべきだ。

これらの政策見直しは責任政党たるためにどのみち通る必要があるにしても、今回の動きは、巨大宗教の組織票欲しさの節操なき変節にしか見えない。これに失望して、立憲・中道の支持を止めた左派の有権者も相応にいそうだ。

それ以上に、これらの主張のために彼らがしてきた「戦争法案」「汚染水」といったレッテル貼りや時に実力行使を伴う抵抗なども、結局は反対のための反対、票のためにはあっさり覆す程度のものであったわけだ。

安全保障やエネルギーのような国家存亡に関わる重要政策がこんなことでよいはずがない。こんな勢力が、野党第一党として貴重な国会審議の時間を浪費してきたことが非常に腹立たしく、選挙結果に留飲が下がる思いだ。(V)

【今そこにある危機】「責任ある積極財政」に潜むリスク 日本に待ち受ける最悪の展開とは

河村小百合/日本総研主席研究員

自民党の衆院選圧勝の裏で金利上昇と円安が続く。

高市政権は金融市場の警告を正しく受け止めているのだろうか。


金利上昇・円安

去る2月8日に実施された衆議院選挙で、高市早苗政権の下、自民党は〝地滑り的大勝利〟を収めた。他方、わが国の債券市場では同政権の発足後は金利上昇が進み、外国為替市場では円安傾向が強まっている。総選挙で国民の信を得た、として同政権が今後、〝責任ある積極財政〟路線を突き進んだ時、わが国に待ち受ける事態とはいかなるものか。


国債安定消化に暗雲 揺らぐ円の信認

日銀が植田和男総裁の下、いわゆる〝異次元緩和〟に事実上の終止符を打った2024年春先以降、わが国でも長期金利の上昇傾向が強まっている(図表)。

日本のイールド・カーブ(スポット・レート)の形状の変化
提供:LSEG Workspaceを基に日本総研作成

とりわけ超長期ゾーンの金利上昇傾向が著しく、これは、国内の機関投資家のみならず、外国勢がわが国の先行きの財政リスクに敏感に反応するようになったことによる。昨年10月の高市政権発足後は、そうした金利上昇基調が一段と強まっている。

そのため財務省は昨年、25年度に入りわずか3カ月しか経過していない6月、早くも国債発行計画の変更を余儀なくされた。超長期債の発行予定額を3兆円強減額し、その分を2年債や短期国債(満期1年以下)の発行額の増額に振り向けることにしたのだ。確かに、これで25年度発行予定の国債は何とか市場で消化できるかもしれない。しかしながら、超長期債の発行予定額の一部を2年債や短期国債に振り替えたということは、その分来年度、そして再来年度の借換債の発行額が積み増されることを意味する。

目先は、財務省が最も恐れる〝国債の入札未達〟(財政運営上の資金ショート)という事態は何とか回避できたとしても、その分、先行きの財政リスクを増幅させていることになる。要するに、問題の根本的な改善に向けて進んでいるわけでは決してなく、〝その場しのぎ〟の対応が取られているに過ぎない。

しかもわが国では、26年度以降、変動利付債の発行を開始する準備が進められている。本来は最も信用力が高いはずの国の側が、先行きの金利変動リスクを全面的に被るという変動利付債は、少なくとも主要先進国では基本的に手を出すことのない債券の発行手法だ。わが国はすでに、幾度も債務危機に陥ったアルゼンチン並みに国債の安定消化が危ぶまれる状況にあるということを、国全体として、もっとしっかりと認識する必要があるだろう。

国内の金利上昇と同時に、外国為替市場では円安基調が長期化している。コロナ危機直後は、その主因は内外金利差と言われていたものの、24年春以降は、もはや円安基調を金利差では説明できなくなっている。その間、日米金利差は一貫して縮小傾向をたどっているのに、為替は金利差の縮小に見合う形で円高方向に振れることはなく、逆に円安が進んでいるのだ。これは、①日銀の利上げや正常化が後手に回り、インフレが放置されていること、②市場金利の上昇局面に入ったにもかかわらず、〝世界最悪〟状態にあるはずのわが国の財政運営が、一向に再建に向けたかじを切れていないこと─が市場関係者の間で嫌気されていることによる。国の財政運営と日銀の金融政策運営が相まって、まさに円の信認が揺らぎ始めているのである。

【オピニオン】世代間対話がひらく エネルギーの未来

開沼 博/東京大学大学院情報学環・学際情報学府 准教授

現在の中高生世代に「◯◯電力福島第一原発。◯◯に入るのは?」と聞いたら、何割が正解できるか。「普通は間違うわけがない」と本誌読者の多くは思うだろう。ただ、現実は全く違う。身近に中高生がいたら試しに聞いてみてほしい。

正答率は4割だ。8択問題で、ダミー回答である「東北電力」「福島電力」はいずれも2~3割選ばれている。昨年・一昨年と実施し、東京と福島の高校生1000人超を対象にし、統計的には一定の再現性がある結果だ。決してニュースを見ていない子どもを対象にしたのではなく、むしろ進学校が多数混ざっている。

私はこれを「災害記憶消滅世代調査」と呼んでいる。今から15年前、東日本大震災・福島第一原発事故があった時、今の12~18歳は3歳以下、あるいは生まれていない。物心がついた時には3.11が過去のものとなっていた世代が成人になろうとし始め、災害の記憶は消滅し歴史になろうとしている。だからこそ伝えるべきこともあるし、新たに論じ直すべきこともあるだろう。

同時期に、中高生のエネルギーへの意識についても調査をした。明らかになったのは以下の事実だ。

①圧倒的な反火力:CO2を出す火力は減らすべきと考える。グレタ・トゥーンベリやドナルド・トランプを幼少期から見てきた世代であり、「カーボンニュートラル」などの概念も理解している。②原発は是々非々:事故リスクは当然あるが世界でも増えていることを理解し、小型モジュール炉(SMR)や核融合といった今後の技術への期待もある。③再生可能エネルギーは理想化:とにかく増やすべきと考える一方で、固定価格買い取り制度や景観・廃棄物問題、全国での反対運動の盛り上がりなどは知らない。

3.11が記憶にある世代にとって、原発事故はトラウマ化し、さまざまな価値観形成・意思決定の根底にある。他方、そうではない世代には、身近な危機として異常気象やロシアによるウクライナ侵攻などを背景にした物価高騰が存在し、それと人生をかけて向き合うことは常に自覚している。世代間で見えている風景は異なる。

今、エネルギーを論じる際に世代間対話は不可欠だ。現在高校、あるいは小中学校では「探究学習」と呼ばれる、領域横断的なテーマを子どもが主体的に調べ、議論し、発表する取り組みが広がり、文部科学省は必ず週1、2コマ行うことを義務化している。上記の調査もその一貫で、私が中高生とともに実施した。そこにおいて、エネルギーほど実り多い「教材」はない。3.11から15年、既に始めている人もいるが、エネルギー業界の皆さんにはぜひ広く、子ども・若者がエネルギーを学び、対話する機会をつくってほしい。

かいぬま・ひろし 福島県生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。立命館大学准教授などを経て2021年4月から現職。福島復興に関わるさまざまな政府審議会委員や民間の役職を務める。

【経済評論】自然との共生の実験フィールド 「GREEN×EXPO」まで1年

【脱炭素時代の経済評論 Vol.24】関口博之 /経済ジャーナリスト

「大阪・関西万博の次は横浜」マスコットもミャクミャクからトゥンクトゥンクへ」が合言葉だ。2027年国際園芸博覧会「GREEN×EXPO2027」まであと1年。前売りチケットはちょうど開幕1年前にあたる3月19日に販売が始まる。米国の参加も決定し、19世紀前半に米議会が設立した歴史ある米国植物園が出展する。新しいキャッチコピーも「地球と。咲きに行こう。」と決まった。

GREEN×EXPO2027の会場イメージ
提供:GREEN×EXPO協会

GREEN×EXPOは横浜市にある米軍の旧上瀬谷通信施設で開かれる。丘陵地を生かした100haの会場には、樹林や里山の原風景も残る。花と緑の博覧会であるとともに、自然との共生、地球課題の解決を中心テーマに掲げる。企業の展示施設もパビリオンではなくビレッジと呼ぶ。GXの最新技術を紹介するゾーンには住宅メーカーやゼネコン、東急グループ、NTT東日本などが出展する。

EXPOが訴えかける課題、地球温暖化、生物多様性の損失、食糧危機などは、企業も正面から向き合う必要がある。企業活動に「自然資本」を使わせてもらっている以上、企業はその影響を自ら検証し、経営に当たらなければならない。脱炭素化やサーキュラー経済への移行、自然を破壊しないだけでなく「ネイチャーポジティブ」をどう具体化するのかも問われている。こうした時代認識を持ちつつ、官民が社会実験を持ち寄って試みるフィールド、それが来年のGREEN×EXPOなのだろうと思う。

例えば技術革新の一つとして注目されているのが「植物工場」だ。未来の食料生産の姿やスマート農業を私たちは会場で見て、体験できるかもしれない。GREEN×EXPO協会の伊藤正雄広報・プロモーション統括長は「来ていただく方々には入場者でなく参加者になっていただきたい。ここでの体験を自分事として次の行動につなげてもらう博覧会にしたい」と意気込む。

企業には自社をアピールする絶好の機会になるはずだ。SDGs(持続可能な開発目標)をはじめ、いわゆる非財務情報が金融市場でも重視される時代だ。その割にエネルギー企業のGREEN×EXPOへの動きは、まだ鈍いように見える。再エネへの取り組みや、市民と協働した身近な活動の実績など、イベントの輪に入ってPRに努めてはどうか。

一方、EXPOの運営面では課題もあるようだ。一つは会場への交通アクセス対策。直接の鉄道乗り入れはないため、近隣4駅からのシャトルバス輸送になる予定だ。マイカーでの来場も含め渋滞緩和はできるのか。もう一つが暑さ対策や雨対策。花と緑の広大な会場では真夏の炎天下に身を隠す場所がない、ということにもなりかねない。こうした問題に解決策を提供できる企業が現れれば歓迎されるはずだ。

心配はしつつも横浜市民としては成功を願っている。明治時代に横浜からユリが輸出され、世界に広まったとされる。今度は「生活が自然とともにある都市モデル」を世界に発信したいものだ。今から言うのは気が早いが、それこそがレガシーにもなるだろう。