【ワールドワイド/コラム】北海の洋上風力拡大へ 国境超えた連系が焦点

国際政治とエネルギー問題

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシア産ガスの供給構造が不安定化し、需給危機から価格が急上昇した。これを機にEU各国は、ロシア産依存を減らすため洋上風力へ大きな期待をかけることになった。同年5月には、デンマークのイニシアチブにより港町エスビアウで第1回北海サミットが開催され、ベルギー・オーステッドでの第2回(23年4月)を経て今年1月26日に、10カ国の首脳・大臣のほかEU委員会、NATO(北大西洋条約機構)などの関係者が参加する第3回がドイツ・ハンブルクで開催された。

第3回の決議は「政府首脳のハンブルク声明」「エネルギー大臣のハンブルク声明」「環北海諸国、洋上風力産業、基幹系統運用者間での北海領域への洋上風力共同投資パッケージ」である。ホスト国のライヒェ経済大臣は、2国間での「相互連系される北海洋上風力グリッドの共同プロジェクト開発の共同声明」「北海再エネ・インフラ協力の共同声明」「北海とバルト海での洋上風力共同プロジェクトを含むエネルギーの戦略的なパートナーシップの共同声明」に署名した。

主要なテーマは洋上風力への投資案件の最適化、電力系統の国境を越えた計画と資金調達、重要インフラへの保護であった。環北海諸国は1億kWまでの風車をネットワーク化することに合意。なかでもデンマーク、スウェーデンの排他的な経済水域で建設される洋上風力が発電する電力を他国の系統へ連系できるとみられている。ただ実現するには、各国で相違する規制システムと基幹系統運用者の売り上げモデルが課題となる。さらに50年には、北海での設備容量を現在の3300万kWから3億kWへと拡大し、洋上風力を環北海諸国間でネットワーク化する計画だ。

英独間の新しい洋上風力連系「Griffin Link」の合意は、EU全体の電力ネットワーク強化と北海の大規模洋上風力拡大に向けた重要な一歩となった。30年代末の稼働を目指し電力供給を最適化するほか、欧州電力ネットワーク化への基礎を構築しようとしている。今後北海では、ハイブリッドで国境を越えた連系が焦点になり、これに基づく政策の枠組みが必要になるからである。

EU諸国のエネルギー大臣は、洋上風力保護への安全保障が変化した地政学的な状況に直面した中で強化されなければならないことを強調した。そのため初めて、NATOが参加したのである。EU委のヨルゲンセン・エネルギー委員、英国のミリバンド・エネルギー大臣、そしてライヒェ氏は、「風力は敗者であり化石燃料の活用」を主張するトランプ米大統領の判断を否定した。

ミリバンド氏は風力発電の拡充が英国のエネルギー安全保障に重要で、ガス輸入からも自立し電力コストを抑制できると強調。デンマークのオーステッド電力は、洋上風力産業は発電コストを40年までに30%削減することを義務付けられていることを指摘した。トランプ氏による風力嫌悪への一つの回答を与えたと見ていいだろう。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)

【ワールドワイド/コラム】対外威圧を強める中国と EVの経済的武器化

海外メディアを読む

1月29日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで、コラムニストが米・ニュージャージー州で中国製EVを2週間試乗した体験記事を寄せた。世界的スマホメーカーでもある小米(シャオミ)社製のSU7Maxがその対象車だ。記事はその性能を絶賛し、米国での販売を待望する、と言う。

優れた走行・自動運転性能以上に、家族での運転体験の楽しさが強調されている。統一OSによる情報・スマート機能の飛躍的統合、接続・操作の容易性、付加機能拡張の高い自由度によって、移動時間が「つぶす」から「楽しむ」ものに変わる。マイカーの提供する私的空間の質を一変させる革新性をこの記事は伝えている。

2020年以降、中国のEVシフトは燃費・新エネ車クレジット規制やナンバープレート優遇発行など、生産・消費両面での強力な政府介入の下、驚異的な速度で進む。無秩序的な過剰生産と値崩れを伴いつつも、しのぎを削る競争の中から自動車を、走る「やすらぎのマイ・デジタル空間」に変える技術革新が進行している。この点で、EVシフトは本物だ。

昨年、中国・国内新車(乗用車)販売に占めるEV(プラグイン含む)の割合は、ついに5割を超えた。おそらくHEVを含むガソリン乗用車の保有台数は既にピークに達し、今年以降に趨勢的に減少する。ガソリン需要の後退に伴い、過去4半世紀にわたった「中国主導の世界石油需要増」という局面は終わる。石油自給率向上を図る中国にとって、EV振興は石油安全保障上の最重要政策の一つだ。「楽しい」EVが対外威圧を強める権威主義国家の経済的「武器」でもある現実は、安全保障と経済的活力を不即不離とする思考力をわれわれに要求している。

(小山正篤/国際石油市場アナリスト)

【ワールドワイド/環境】UNFCCCからの離脱も 米国不在が示す国際秩序の溶解

米トランプ政権は1月、大統領メモランダムにおいて66の国際機関、条約からの離脱を打ち出し、多国間枠組み軽視、二国間のディール重視を改めて印象付けた。

そのうち35は非国連機関、31は国連機関。エネルギー・温暖化分野では、前者に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、国際エネルギーフォーラム(IEF)、後者に気候変動枠組み条約(UNFCCC)を含む。昨年1月のパリ協定離脱表明以降、気候変動枠組み条約に基づく全ての資金拠出を停止し、COPなどの交渉プロセスにも参加せず(COP30は米国代表団不在の初COPに)、事実上、条約を無視した状況が続く。

今回のメモランダムを踏まえ、さらに枠組み条約から離脱する可能性が高い。トランプ第二期政権は国務省の関連部局の廃止、危険性認定の廃止提案、温暖化の科学の否定、国際海事機関(IMO)における炭素価格設定のブロックなど、第一期政権以上に温暖化アジェンダに対する拒否反応が強い。また離脱すれば、将来の政権がパリ協定に再加入しようとしても、まずは枠組み条約再加入が必要となり、ハードルを高めることができる。

メディアは「EU、中国などが温暖化防止に関するアジェンダ、ルール設定力を強め、米国はクリーンエネルギー転換に劣後する。離脱は米国のオウンゴール」というリベラル論者の議論を報じている。だがそれは、米国以外の国際社会が、これまで通り脱炭素に取り組むことが前提だ。

米国が脱炭素コストを負担しない中、EUの高コストの脱炭素路線は容易ではない。米国不在でEUや中国によるルール設定が米国製品に不利になれば高関税で報復するだろう。また米国の気候資金からの撤退を他の先進国が埋め合わせることは不可能で、途上国の脱炭素努力にさらにブレーキがかかるだろう。

米国不在で中国のリーダーシップを期待する議論もあるが、中国の関心は国産品の輸出拡大と技術支配力の拡大と国益最優先であり、規範的なリーダーシップは考えていない。米国の離脱は規範主導の多国間協調から、通商・産業政策と結びついたパワーポリティクスへの転換、国際秩序の溶解を示している。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】 供給力不足の懸念解消へ 容量市場の欠陥是正を

【業界スクランブル/新電力】

2029年度向け容量市場オークション結果が発表された。最大のポイントは「約定価格の最高値更新」で、これが示唆するのは供給力不足への懸念や固定費の高騰傾向か。20年度の初回オークションで約定価格が上限値に張り付き、電源不足への対処の必要性は見てとれる。

発電者の新規投資、設備維持両面の意欲喚起の方法が主となり、容量拠出金を負担する小売りへの配慮というワードはあっても負担増やむなしの形勢だ。資源エネルギー庁は当面、現行制度前提の議論を行いたいようだが、その欠陥を見直す方が有効と考える。

まず夏季に太陽光稼働率が高い時間帯の最大需要に合わせ、供給力確保を目指す発想が奇異だ。予備率低下は太陽光不在時間帯に発生する。稼働が不確かな電源群が供給曲線から退くだけで相当量の安定電源の約定量増加が見込まれる。年々増大するFIT(固定価格買取)制度が中心の変動性再エネを容量市場では供給力として対象外とすれば、不落札の安定電源は落札となる可能性が高い。

実効性テストで不合格を量産した発動指令電源(大半はDRと推測)をみると、期待ほどは需要側リソースが動けないと示している。一部エリアで系統蓄電池が応札量過大で未約定になったが、発動指令電源の定義を固くしておけば、即時反応力の高い電源は全量を約定できただろう。

老朽石炭フェードアウト措置も供給力確保に合わない。新規電源には、現行制度が否定する減価償却費を織り込み固定費として認めれば、投資意欲は喚起されそうだ。供給力は指令応動能力と再認識し、その能力保持者に適正費用を払えばよいだろう。(S)

【ワールドワイド/市場】出力需要増に備えるPJM 信頼性とコストの両立が課題

米北東部地域の地域送電機関PJMは、米東部13州とコロンビア特別区をカバーし、系統運用および卸電力市場運営を行っている。安価な天然ガス供給を背景に、ファンドなど民間資本が所有するガス火力の新設が継続的に行われてきた。

この結果、電源構成は2023年末時点では天然ガスが48%(設備容量ベース)とほぼ半分を占め、高い供給予備力を保っている。しかし現在、接続待ちをしている新規発電設備は、太陽光など再生可能エネルギー電源が中心である。50年には再エネと電力貯蔵設備の割合(設備容量ベース)が47%に達するとの予測もあり、電源構成に占める火力の割合は段階的に減少する見通しだ。

一方、PJM管内では特にAIやデータセンター(DC)による電力需要の増加が電力システムに与える影響が懸念されている。将来的にDCがけん引する電力需要の増加に加え、石炭火力などの廃止の加速、新規発電設備の導入が遅れる事例が続いた場合、現状の高い供給予備力を維持することは難しい。

PJMの電力需要は19年頃まではほぼ横ばいであったが、DCの急増と各州の電化目標の達成に向けた動きにより増加した。これに伴い、PJM管内では39年までに夏季ピークが4200万kW、冬季ピークが4300万kW増加すると予測している。特に顕著なのがバージニア州で、ドミニオン社管内では24~34年にかけて消費電力量の増加率は平均で年率5・5%が見込まれている。

電力需要の増加への対応策として、PJMは24年に再エネ電源や電力貯蔵設備など2600万kWの新規プロジェクトを承認し、25年度内に追加で4600万kWのプロジェクトを承認する予定だ。さらに既存の発電設備の運転延長を進めており、メリーランド州の石油火力発電所の運転を28年まで延長するなどの措置が取られている。

またPJMの24年地域送電拡張計画では電力需要の増加に対応するための費用として約51億ドルが試算され、新規変電所および送電線の建設、既存施設の改善が必要と示された。

PJM管内の電気事業者はそれぞれ新規の設備容量の建設や既存の発電設備の運転延長などを実施しているものの、運開の遅延や系統増強費用の増加に伴うコストへの影響など課題は多く、信頼性を確保しつつコストを抑えるための対策をさらに強化する必要がある。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

【ワールドワイド/資源】対露制裁で印に二次関税措置も 真の禁輸に二の足踏む米政権

政権発足から6カ月以内にウクライナ戦争を終わらせるという「公約」期限が近づき、トランプ米大統領は昨年8月15日、アラスカ州アンカレジで米露首脳会談に臨んだ。しかし交渉は思ったように進まず、同27日、新たな制裁手法としてロシア産石油の最大顧客であるインドに対し「二次関税」を発動した。

さらに和平案に対するロシア側の譲歩が得られないことへの不満から、10月22日にはロシア最大の石油メジャーであるロスネフチと第2位のルクオイルを制裁対象に指定した。事実上、政権初の直接的な対露制裁の発動であり、ロシア産石油の「真の禁輸」への方向転換を決定付けるものとなるはずだった。

実は1月にはバイデン政権が最後の置き土産的な制裁を発動し、第3位ガスプロムネフチと第4位スルグートネフチェガスを制裁対象としていた。だがケプラーのデータによると、前者の輸出シェアは2024年の9・5%からら昨年は6・3%、後者は12・0%から同5・8%に減少したものの依然輸出は継続されている。

また、ロスネフチおよびルクオイルも制裁の猶予期間を経た12月と11月を比較してみると、前者は35・6%から9・2%に減少した一方、後者は8・8%から11・4%に伸ばした。輸出量で見ると、減少どころか11月の日量342万バレルに対し、12月には376万バレルと1割増加している。

この背景には、大手石油会社の輸出を引き継ぐ中小の無名の業者が複数おり、自ら制裁対象に指定されるリスクを負って輸入を試みるバイヤーがロシアの原油フローを維持し制裁を無効化していることがある。

実際、制裁発動前の7月、日量171万バレルだったインドによる輸入量は12月も125万バレルと約3割の減少にとどまった。制裁の真のターゲットが、関税措置の影響を受けない構造的問題に起因する結果と考えられる。

もし「真の禁輸」に本気で舵を切りロシア政府の収入を削減したいのであれば、主要石油会社のみならず、その迂回ルートとなっている中間業者を継続的に洗い出し、制裁指定していく必要がある。これは米国前政権が輸送に携わる船舶、傭船会社、そして輸入者を制裁指定したことの継承だ。だがイランに対する制裁を都度強化するトランプ政権に、ロシアに対する制裁を継続・強化する姿勢はこれまで見られない。

(原田大輔/エネルギー・金属鉱物資源機構 調査部長)

【電力】 票のため政策覆した旧立民 新党・中道のダメさ

【業界スクランブル/電力】

2月8日に投開票が行われた衆議院選挙は、自民党が単独で自民史上最多の議席を得る歴史的な勝利となった。日本初の女性首相となった高市早苗氏の人気の高さに加えて、野党第一党であった立憲民主党と、自民党との連立を解消した公明党が合併してできた中道改革連合が、あまりにも駄目だった。

中道に合流するにあたり、立憲は「原発ゼロ」「平和安全法制は憲法違反」「沖縄普天間基地の辺野古への移設反対」といった、中核的な主張をことごとく撤回している。確かに、原発停止に伴う化石燃料輸入の増大は、今の円安・物価高の主因であるし、習近平国家主席が自分に反抗的な軍幹部を粛清し、3期目が終わる2027年にかけ、台湾に向け暴発する懸念が高まっている昨今の中国情勢を鑑みると、平和安全法制を通じた日米同盟強化はむしろ、先見の明が評価されるべきだ。

これらの政策見直しは責任政党たるためにどのみち通る必要があるにしても、今回の動きは、巨大宗教の組織票欲しさの節操なき変節にしか見えない。これに失望して、立憲・中道の支持を止めた左派の有権者も相応にいそうだ。

それ以上に、これらの主張のために彼らがしてきた「戦争法案」「汚染水」といったレッテル貼りや時に実力行使を伴う抵抗なども、結局は反対のための反対、票のためにはあっさり覆す程度のものであったわけだ。

安全保障やエネルギーのような国家存亡に関わる重要政策がこんなことでよいはずがない。こんな勢力が、野党第一党として貴重な国会審議の時間を浪費してきたことが非常に腹立たしく、選挙結果に留飲が下がる思いだ。(V)

【今そこにある危機】「責任ある積極財政」に潜むリスク 日本に待ち受ける最悪の展開とは

河村小百合/日本総研主席研究員

自民党の衆院選圧勝の裏で金利上昇と円安が続く。

高市政権は金融市場の警告を正しく受け止めているのだろうか。


金利上昇・円安

去る2月8日に実施された衆議院選挙で、高市早苗政権の下、自民党は〝地滑り的大勝利〟を収めた。他方、わが国の債券市場では同政権の発足後は金利上昇が進み、外国為替市場では円安傾向が強まっている。総選挙で国民の信を得た、として同政権が今後、〝責任ある積極財政〟路線を突き進んだ時、わが国に待ち受ける事態とはいかなるものか。


国債安定消化に暗雲 揺らぐ円の信認

日銀が植田和男総裁の下、いわゆる〝異次元緩和〟に事実上の終止符を打った2024年春先以降、わが国でも長期金利の上昇傾向が強まっている(図表)。

日本のイールド・カーブ(スポット・レート)の形状の変化
提供:LSEG Workspaceを基に日本総研作成

とりわけ超長期ゾーンの金利上昇傾向が著しく、これは、国内の機関投資家のみならず、外国勢がわが国の先行きの財政リスクに敏感に反応するようになったことによる。昨年10月の高市政権発足後は、そうした金利上昇基調が一段と強まっている。

そのため財務省は昨年、25年度に入りわずか3カ月しか経過していない6月、早くも国債発行計画の変更を余儀なくされた。超長期債の発行予定額を3兆円強減額し、その分を2年債や短期国債(満期1年以下)の発行額の増額に振り向けることにしたのだ。確かに、これで25年度発行予定の国債は何とか市場で消化できるかもしれない。しかしながら、超長期債の発行予定額の一部を2年債や短期国債に振り替えたということは、その分来年度、そして再来年度の借換債の発行額が積み増されることを意味する。

目先は、財務省が最も恐れる〝国債の入札未達〟(財政運営上の資金ショート)という事態は何とか回避できたとしても、その分、先行きの財政リスクを増幅させていることになる。要するに、問題の根本的な改善に向けて進んでいるわけでは決してなく、〝その場しのぎ〟の対応が取られているに過ぎない。

しかもわが国では、26年度以降、変動利付債の発行を開始する準備が進められている。本来は最も信用力が高いはずの国の側が、先行きの金利変動リスクを全面的に被るという変動利付債は、少なくとも主要先進国では基本的に手を出すことのない債券の発行手法だ。わが国はすでに、幾度も債務危機に陥ったアルゼンチン並みに国債の安定消化が危ぶまれる状況にあるということを、国全体として、もっとしっかりと認識する必要があるだろう。

国内の金利上昇と同時に、外国為替市場では円安基調が長期化している。コロナ危機直後は、その主因は内外金利差と言われていたものの、24年春以降は、もはや円安基調を金利差では説明できなくなっている。その間、日米金利差は一貫して縮小傾向をたどっているのに、為替は金利差の縮小に見合う形で円高方向に振れることはなく、逆に円安が進んでいるのだ。これは、①日銀の利上げや正常化が後手に回り、インフレが放置されていること、②市場金利の上昇局面に入ったにもかかわらず、〝世界最悪〟状態にあるはずのわが国の財政運営が、一向に再建に向けたかじを切れていないこと─が市場関係者の間で嫌気されていることによる。国の財政運営と日銀の金融政策運営が相まって、まさに円の信認が揺らぎ始めているのである。

【オピニオン】世代間対話がひらく エネルギーの未来

開沼 博/東京大学大学院情報学環・学際情報学府 准教授

現在の中高生世代に「◯◯電力福島第一原発。◯◯に入るのは?」と聞いたら、何割が正解できるか。「普通は間違うわけがない」と本誌読者の多くは思うだろう。ただ、現実は全く違う。身近に中高生がいたら試しに聞いてみてほしい。

正答率は4割だ。8択問題で、ダミー回答である「東北電力」「福島電力」はいずれも2~3割選ばれている。昨年・一昨年と実施し、東京と福島の高校生1000人超を対象にし、統計的には一定の再現性がある結果だ。決してニュースを見ていない子どもを対象にしたのではなく、むしろ進学校が多数混ざっている。

私はこれを「災害記憶消滅世代調査」と呼んでいる。今から15年前、東日本大震災・福島第一原発事故があった時、今の12~18歳は3歳以下、あるいは生まれていない。物心がついた時には3.11が過去のものとなっていた世代が成人になろうとし始め、災害の記憶は消滅し歴史になろうとしている。だからこそ伝えるべきこともあるし、新たに論じ直すべきこともあるだろう。

同時期に、中高生のエネルギーへの意識についても調査をした。明らかになったのは以下の事実だ。

①圧倒的な反火力:CO2を出す火力は減らすべきと考える。グレタ・トゥーンベリやドナルド・トランプを幼少期から見てきた世代であり、「カーボンニュートラル」などの概念も理解している。②原発は是々非々:事故リスクは当然あるが世界でも増えていることを理解し、小型モジュール炉(SMR)や核融合といった今後の技術への期待もある。③再生可能エネルギーは理想化:とにかく増やすべきと考える一方で、固定価格買い取り制度や景観・廃棄物問題、全国での反対運動の盛り上がりなどは知らない。

3.11が記憶にある世代にとって、原発事故はトラウマ化し、さまざまな価値観形成・意思決定の根底にある。他方、そうではない世代には、身近な危機として異常気象やロシアによるウクライナ侵攻などを背景にした物価高騰が存在し、それと人生をかけて向き合うことは常に自覚している。世代間で見えている風景は異なる。

今、エネルギーを論じる際に世代間対話は不可欠だ。現在高校、あるいは小中学校では「探究学習」と呼ばれる、領域横断的なテーマを子どもが主体的に調べ、議論し、発表する取り組みが広がり、文部科学省は必ず週1、2コマ行うことを義務化している。上記の調査もその一貫で、私が中高生とともに実施した。そこにおいて、エネルギーほど実り多い「教材」はない。3.11から15年、既に始めている人もいるが、エネルギー業界の皆さんにはぜひ広く、子ども・若者がエネルギーを学び、対話する機会をつくってほしい。

かいぬま・ひろし 福島県生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。立命館大学准教授などを経て2021年4月から現職。福島復興に関わるさまざまな政府審議会委員や民間の役職を務める。

【経済評論】自然との共生の実験フィールド 「GREEN×EXPO」まで1年

【脱炭素時代の経済評論 Vol.24】関口博之 /経済ジャーナリスト

「大阪・関西万博の次は横浜」マスコットもミャクミャクからトゥンクトゥンクへ」が合言葉だ。2027年国際園芸博覧会「GREEN×EXPO2027」まであと1年。前売りチケットはちょうど開幕1年前にあたる3月19日に販売が始まる。米国の参加も決定し、19世紀前半に米議会が設立した歴史ある米国植物園が出展する。新しいキャッチコピーも「地球と。咲きに行こう。」と決まった。

GREEN×EXPO2027の会場イメージ
提供:GREEN×EXPO協会

GREEN×EXPOは横浜市にある米軍の旧上瀬谷通信施設で開かれる。丘陵地を生かした100haの会場には、樹林や里山の原風景も残る。花と緑の博覧会であるとともに、自然との共生、地球課題の解決を中心テーマに掲げる。企業の展示施設もパビリオンではなくビレッジと呼ぶ。GXの最新技術を紹介するゾーンには住宅メーカーやゼネコン、東急グループ、NTT東日本などが出展する。

EXPOが訴えかける課題、地球温暖化、生物多様性の損失、食糧危機などは、企業も正面から向き合う必要がある。企業活動に「自然資本」を使わせてもらっている以上、企業はその影響を自ら検証し、経営に当たらなければならない。脱炭素化やサーキュラー経済への移行、自然を破壊しないだけでなく「ネイチャーポジティブ」をどう具体化するのかも問われている。こうした時代認識を持ちつつ、官民が社会実験を持ち寄って試みるフィールド、それが来年のGREEN×EXPOなのだろうと思う。

例えば技術革新の一つとして注目されているのが「植物工場」だ。未来の食料生産の姿やスマート農業を私たちは会場で見て、体験できるかもしれない。GREEN×EXPO協会の伊藤正雄広報・プロモーション統括長は「来ていただく方々には入場者でなく参加者になっていただきたい。ここでの体験を自分事として次の行動につなげてもらう博覧会にしたい」と意気込む。

企業には自社をアピールする絶好の機会になるはずだ。SDGs(持続可能な開発目標)をはじめ、いわゆる非財務情報が金融市場でも重視される時代だ。その割にエネルギー企業のGREEN×EXPOへの動きは、まだ鈍いように見える。再エネへの取り組みや、市民と協働した身近な活動の実績など、イベントの輪に入ってPRに努めてはどうか。

一方、EXPOの運営面では課題もあるようだ。一つは会場への交通アクセス対策。直接の鉄道乗り入れはないため、近隣4駅からのシャトルバス輸送になる予定だ。マイカーでの来場も含め渋滞緩和はできるのか。もう一つが暑さ対策や雨対策。花と緑の広大な会場では真夏の炎天下に身を隠す場所がない、ということにもなりかねない。こうした問題に解決策を提供できる企業が現れれば歓迎されるはずだ。

心配はしつつも横浜市民としては成功を願っている。明治時代に横浜からユリが輸出され、世界に広まったとされる。今度は「生活が自然とともにある都市モデル」を世界に発信したいものだ。今から言うのは気が早いが、それこそがレガシーにもなるだろう。

【フォーラムアイ】関電工がEMSを自社開発 ビルや工場へ配線レスで簡単導入

【関電工】

企業のカーボンニュートラルに対する取り組みを支援するために、電気工事大手の関電工が「WATTMILL(ワットミル)」と呼ぶエネルギーマネジメントシステム(EMS)を開発し、3月に販売を開始する。2月12日、システムの説明会を都内で開催した。ビルを主なターゲットとし、工場などへの導入も想定している。

システムは低コストで導入できる

システム構成は、建物内に温湿度センサー、無線電流センサーなど各種センサーを設置。同社がプログラムを開発したIoTゲートウェイに集約した情報を、LTE通信でクラウド上に転送する。ユーザーはウェブ上から自分たちの電力やガス、水道、温湿度、CO2などの消費状況を確認できるシステムだ。主な特徴は三つある。


空調を自在に制御 快適性と省エネ性を実現

一つ目はシステム導入の際の工事が、電源レスや配線レスであること。一般的なEMSでは、電源線や通信線が必要であるが、本システムは不要である。これにより、既存の建築物へ簡易的に短納期で低コストに設置できる。関電工によると、必要に応じて有線や電力線通信(PLC)にも対応するそうだ。

二つ目は既設空調の集中リモコンが設置されていることを前提とした、空調機メーカーフリーで空調制御装置との組み合わせが可能である点だ。電力ピークが上がりそうな時に自動で空調を制御しピーク電力を抑える。また空調機の温度制御やコンプレッサーを状況に応じて送風運転に切り替えるなど電気代の削減を目的とするサイクリック制御も搭載している。そのほか、フロアごとに温度や湿度に関する「AIコンフォート制御」により快適性と省エネ性を実現する。こちらは現在特許申請中だという。

三つ目がパソコン上の簡易的な「見える化」画面だ。同社が自社開発したダッシュボードによって、最小1分単位で電力の使用量を確認できるほか、負荷曲線、太陽光発電量などニーズに応じて多様な見える化データを表示する。

一連のシステムについて「電気工事を通じて、お客さまと密に接している関電工だからこそ提供できるシステム。どのようなサービスがお客さまに響くのか、工事会社ならではのノウハウが詰まっている」とグリーンイノベーション本部の座馬知司・常務執行役員は説明する。

同社では月額のサブスク方式により、1年目は100台、5年目にはアライアンス契約を含めて1000台の販売を目指すとしている。

【事業者探訪】変化恐れず将来見据えて事業展開

イハシ(埼玉県越谷市)

石油販売などのエネルギー事業に加え、システム系や介護など幅広く事業展開する。

地元関係者と連携したEVの運用実証など、地域の課題を見据えた挑戦を続ける。

埼玉県越谷市に本社を構えるイハシグループは、2030年で創業120年を迎える。中核の石油エネルギー事業を手掛けるイハシエネルギーで、石油製品販売の他、サービスステーション(SS)や自動車整備、中古車販売、レンタカーといった車回りのサービスも手掛ける。年間ガソリン販売量は10万㎘、産業用石油製品は5万㎘程度で、32店舗のSSを運営する。

「今後も変化を生み出す」と井橋氏

また、イハシライフではプロパンガス販売(約1・5万戸)やリフォーム事業を展開。プロパンの顧客獲得競争が激しさを増す中、リフォームとセットで訴求し収益確保を図る。電力は出光興産などの取次店として契約件数は500件ほどだが、5年前の電力価格高騰局面で一時休眠状態に。体制を見直し、再び営業のギアを上げる考えだ。


「ピークオイル」の危機感 IT・介護が新たな柱に

収益拡大と地域エネルギーの拡充を目指し、太陽光関連事業にも参入。市内では小中学校7件で屋根貸し事業を行い、千葉や福島ではメガソーラー2件、計2000kW強に投資する。

さらに、早くからエネルギー以外の分野にも注力してきた。1980年代にはSSの電算処理事業を独立させIT事業会社を設立。また2000年の介護保険制度の開始を受け、介護事業にも参入した。現在は事業子会社7社と社会福祉法人を持ち、全社員数は700人ほどだ。親会社のイハシおよびイハシエネルギーの社長を務める井橋英蔵氏は「早くから『ピークオイル』への危機感を持ち、将来に向けた新事業を育てていくというマインドがあった。組織作りには苦労したが、今はそれぞれ経営の柱となっている」と語る。

労働集約型産業のため、人材が経営の源泉だと強調する。人材確保に注力しつつも、その難しさを踏まえ、中期ビジョンでは一人当たり営業利益を1・5倍にするという目標を掲げる。「既存分野のサービスを深掘りし成長につなげ、経常利益10億円を目指す」構えだ。

レジリエンス(強靭化)やカーボンニュートラルなど地域全体の課題への貢献を重視する。「都市近郊では分散型エネルギーのリソースが限られる。それをカバーするには地域プレーヤーとの有機的な協同が欠かせない」と井橋氏。同社の幅広い事業経験やスキルを生かし、積極的に自治体や地域の企業との連携を図る。


EV活用で他業種連携 農業への挑戦も

特に注力するのがEVの活用だ。参考にしたのが、小田原ガスやレクシヴなどによる「小田原モデル」。EVをシェアリングし、電力リソースとして活用する試みだ。これを埼玉でも広めようと、EVの充放電を自動制御するレクシヴのプラットフォームを導入し、東京都とレクシヴが行うEVによるVPP(仮想発電所)実証に参画している。イハシ本社がある流通団地の企業とEV5台をシェアして電力の需給状況に応じて充放電し、容量市場の供給力の一部として拠出する。10年間におよぶ実証は現在折り返し地点となり、「システムの安定性などの課題も見えた。引き続き、新たな形での地域へのEVの導入を目指していく」と強調する。

もう一つの挑戦がバッテリー交換式EVコンバージョンカー(CEV)の活用だ。ガソリン軽自動車を同社で改造し交換式バッテリーを搭載したもので、導入コストの抑制につながる。

昨秋、越谷市とNTT東日本と同社は、CEVを活用した災害時の電力供給に関して協定を締結した。有事に、小中学校の屋根上PVからCEVに充電し、避難所へ運搬して供給し、平時はEVをNTTの営業車として活用する。

越谷市・NTTと災害時の可搬型EV利用へ

これにとどまらず、実装に向けては平時の価値を高めることが重要になる。そこで、小口配送を広域で手掛ける運送事業者との連携を検討。運送事業者が契約する個人配送業者にCEVを提供し、実際の配送に使う計画だ。充放電器は運送事業者の拠点に置くが、配送途中で充電が切れた場合はイハシのSSに立ち寄りワンタッチでバッテリーを交換する流れを想定。そのための整備のトレーニングなどを進めているところだ。「SSに新たな役割が生まれる可能性がある」と期待を寄せる。

さらに農業のプロジェクトも進行中だ。越谷に隣接する吉川市が掲げるアグリパーク構想に参画し、昨年同市内に農業法人を設立した。近年、県内のいちご狩りスポットが人気で、若者などの新規就農者が増えている。同社もイチゴやブルーベリーの観光農園の運営に向け、障害者などが従事する「農福連携」をグループ内で図る計画だ。

「これまで新規事業を始めた時も、収益性が不透明な中、地域の根深い課題に組織として向き合えば事業性が生まれると考えてきた。これからも、エネルギー事業はもう一段階変化させながら、エネルギー以外でも新たな変化を生み出し、将来に向けて事業を発展させていきたい」と展望を抱く。


【地域の魅力発信】こしがや鴨ネギ鍋

市内には宮内庁の埼玉鴨場がある。また江戸時代から良質なネギが生産され、高級ブランド「千寿葱」の代表産地でもある。これらを生かし、市商工会青年部がまちおこしのために生み出した鍋料理だ。世代を超え受け継がれるべき食文化として、2023年度に文化庁が取り組む「100年フード」に認定された。市観光協会が商品化する他、市内飲食店も冬の定番メニューとして提供する。

こしがや鴨ネギ鍋
提供:越谷商工会議所

【永田町便り】リーダーのイメージが選挙結果を左右 今後も「令和の政治改革」を訴えていく

福島伸享/衆議院議員

第51回衆議院選挙は高市ブームの中、比例代表の候補者が足りなくなるほどの自民党の圧勝で終わった。私も僅差で相手候補に負け、無所属ゆえに比例復活もなく、議席を失った。

2026年度予算案の年度内成立を事実上投げ捨てての、通常国会冒頭での突然の解散劇。前回の石破政権の発足わずか5日後の解散とも合わせて、私はこのような権力を維持するためには横紙破りのやり方をする政治の在り方そのもの問うために、前回の衆議院選挙に続いて「令和の政治改革」を訴えて回った。その一つの柱が選挙制度の抜本改革だ。

リクルート事件を契機とする「平成の政治改革」で導入された小選挙区比例代表並立の選挙制度は、政権交代のある二大政党政治を目指すものであったが、近年は野党が常態的に分裂し、野党第一党は政権を奪う能力にも意欲にも欠けるため、結果的に二大政党政治は実現しなかった。


本質的問題解決せず 科学的政策選択の選挙を

一方、人物ではなく政権や政党を選択する選挙制度により、政党のリーダーの顔やイメージが選挙結果を左右することとなり、たとえばエネルギー政策などの専門性を持った政治家や明確な理念や信念を持つ政治家などが少なくなり、党の方ばかりを向く小粒な政治家ばかりになってしまったとも言われている。

今回の衆議院選挙でも、高市首相は「国論を二分する政策に挑戦したい」と言うが、かつての小泉政権の郵政民営化とは異なり具体的に何が「国論を二分する政策」なのかは明らかではなく、結局そのようなことをハキハキ言う高市首相のイメージに多くの国民が引き付けられたのだろう。しかし、小泉郵政選挙、民主党への政権交代、アベノミクスを掲げた第二次安倍政権の誕生など、現行選挙制度の下で熱狂による圧倒的多数の議席を持つ政権与党が誕生してきたが、この国が抱える本質的な問題はほとんど解決せず、「失われた30年」は続き、日本の国際的地位は低下し続けている。政策立案は相変わらずの霞が関主導で行われており、選挙結果は政策の本質的な転換とはほとんど関係ないからだ。

党首のイメージが熱狂の下で消費される選挙から、科学的思考に基づいて作られた政策体系の選択の選挙に変わらない限り、何度解散総選挙を繰り返してもその流れは止まらないであろう。やはり「令和の政治改革」を止めるわけにはいかない。国民が高市ブームにさめた後、この国の政治のあり方をもう一度問い直すことが必要になろう。私も在野の立場から、「令和の政治改革」をあきらめることなく訴えてまいりたい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/3月12日】石炭は日本の生命線 脱炭素政策を廃止せよ

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

本稿執筆現在、ホルムズ海峡を往来するエネルギー輸送がほぼ停止している。

日本の原油輸入は中東依存度が高く2024年のデータを見ると95.1%であった。これに対して、天然ガス輸入はそれほど中東依存度は高くないが、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーンの合計で11.0%であった。いま、この両者の輸入が大きく影響を受けており、それがいつまで続くのかも予断できない。これに対して、石炭は中東に依存していない。

さて発電部門についてはどうか(図)。発電電力量の23年のデータを見ると、石油は7.4%、天然ガス(LNG)が32.9%、石炭が28.3%などとなっている。


出展:経済産業省 エネルギー動向(2025年6月版)(30ページ)


ホルムズ海峡の危機によって、全体の7.4%を占める石油火力と、あとは32.9%を占めるLNG火力のうちで中東に依存する11%、つまり32.9%×11.1%=3.6%の合計で、7.4%+3.6%=11.0%の発電電力量が影響を受けることになる。


発電用LNGの節約を エネ価格高騰抑制にも貢献

もしこの11%のいくらかが失われるならば、それを緊急で賄うには、石炭火力を焚き増すことが有力な候補である。

さらには、それ以上に、石炭火力は可能な限り焚き増すべきである。そうすれば、発電用のLNGを節約することが出来るからだ。天然ガスは民生部門と産業部門でも直接燃焼の形で利用されている。発電用のLNGを節約してそれを回してやれば大いに助かることになる。

今後、封鎖がどのぐらい続くかはわからない。だが、仮に封鎖が速やかに終わるとしても、重要な教訓は、石炭火力が日本のエネルギー安全保障に極めて重要である、ということだ。

これは供給途絶を防ぐためだけのみならず、エネルギー価格の高騰を抑えるためにも必須である。今回のホルムズ海峡閉鎖を受けて、LNGのスポット価格(JKM)はたちまち倍増した。これについては、あらかじめ長期契約を結んでおくなどの形である程度の対応はなされているけれども、日本として石炭火力を一定割合持っていることで、このようなLNG価格高騰がもたらす電力価格への影響を和らげることができる。

今回のホルムズ海峡封鎖を受けて、化石燃料依存を減らすことが重要で、そのためには太陽光発電や風力発電に頼ればよいという意見が散見される。だが、系統統合コストを含めればこの両者は極めて高コストである。大量導入によって起きることは、平時からの電力価格の高騰であり、すると産業が空洞化するので、国の安全保障には完全に逆行する。

原子力発電所の再稼働、ひいては新増設をすることは、もちろん有効な策だが、いかんせんそれには時間がかかる。石炭火力こそは日本の生命線である。

それにも関わらず、日本政府は今それを滅ぼそうとしている。すなわち、脱炭素政策の法制化を進めて、石炭火力の事業環境を悪化させ続けている。特に、来年度から予定されている排出量取引制度の本格導入は、石炭火力発電所に対する死刑宣告となる。

このままでは日本のエネルギー安全保障は脆弱になる一方である。 政府は脱炭素政策を直ちに止めるべきだ。


【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

【フォーラムアイ】情熱を胸に原子力人材育成に挑む 日本原子力発電・和佐尚浩氏

【日本原子力発電】

日本原子力発電で人材育成を担う敦賀総合研修センターの和佐尚浩センター所長。

自らの経験と研修事業で得た知見を踏まえ、原子力人材育成の現状と課題について語った。

高校での就職活動中に目にした「原子力のパイオニア」のキャッチフレーズに引かれ、日本原子力発電への入社を志望した。

競争倍率は高く、半ば諦めていたが「運よく採用された」と当時を振り返るのは和佐尚浩・敦賀総合研修センター所長だ。入社後の配属は敦賀発電所の技術課。廃棄物貯蔵管理などに従事した後、発電課に異動。運転員の教育計画などを担当後、自身も運転員になった。

人材育成や教育については、「若い時から、廃棄物処理業務の運転に携わる委託先と一緒に、ヒューマンエラー防止、所作、安全確認など運転員として必要な教育に携わった」という。

和佐尚浩(敦賀事業本部敦賀総合研修センター所長)
わさ・なおひろ
1964年鹿児島県生まれ。宮崎県都城工業高校電気科卒業、83年同年入社。敦賀発電所技術課、同発電室発電運営グループ、本店総務室人材育成グループ、敦賀発電所発電室長などを経て、24年7月から現職。


教育者の熱意を受けて 現場感覚を再現した育成

2012年、本店の人材育成部門に異動。東日本大震災後、原子力発電プラントが長期停止している中、若手が稼働炉で経験を積むことができないという課題が大きかった。そこで原子力安全推進協会(JANSI)を通じて、運転員を稼働炉へ派遣するとともに、出向により経験を積むという仕組みづくりにも取り組んだ。

さらに、原電が培ってきた研修ノウハウを広く活用するべく、社外への研修展開にも着手する。「最初はどう取り掛かればよいのか分からず、国や事業者、規制機関、学校などの関係機関を回った。そこでさまざまな業界の仕組みを知り、多くの出会いに恵まれた」と語る。

この時期に感銘を受けた出来事があった。福島原発事故後に、福島の学校を訪れた際の経験だ。「夜遅くまで『原子力発電事業者として、事故についてどう考えているのか』と先生に厳しく問われた。最終電車で戻り、資料を作り、翌朝一番で再訪した。真摯に話し合った結果、『今回は原電と一緒にやりましょう』と言ってもらえた。本当にありがたかった。先生方の生徒への強い思い、姿勢に深く胸を打たれた」。この経験は今でも大切な財産と語り、「人を育てる仕事にやりがいを感じた。原子力人材育成は産官学が連携しないとできないと俯瞰的に見られるようになった」と振り返る。

敦賀総合研修センターでは、労働安全教育をはじめ、機械、電気、制御などの保修分野の教育、さらに放射線管理・廃止措置クリアランス制度などの専門教育、運転員を対象としたシミュレーター訓練など、幅広い教育プログラムを展開している。

敦賀総合研修センター

研修センター内に設置している中央制御室を模擬したフルスコープシミュレーターでは、計器監視、弁操作、ポンプの起動・停止といった実機と同じ操作ができ、実践的な運転訓練が可能だ。本来ならプラントメーカーに制作を依頼するが、開発を通してノウハウを学び、より使い勝手の良い設備とするため、当時の経営層から自社開発する方針が示された。東海第二発電所や敦賀発電所の経験豊富な運転者でプロジェクトを組んだ。ユーザー視点で作り上げたシミュレーターで現在、若手運転者が訓練を行っている。「おかげで現場経験の不足による技量の停滞を防ぐ一助となり、本当に助かっている」と話す。

また、実践力を育成する研修にも力を入れている。その代表例が「現場異常発見能力向上訓練」である。運転員が現場の機器・設備の異常や現場の不適切な状態を発見し、その後の振る舞いまでの感性と技能を向上させるものだ。「ループ設備」を発電所の現場に見立て、過去に発生した不具合箇所を再現し、受講生一人ひとりが巡視し、異常を発見し、対応まで行う過程を確認・評価、指導している。

ループ設備での現場訓練


公開研修と地域連携強化 年間受講者1300名超

研修センターでは、他電力からも多くの研修生を受け入れている。特に原電はPWR(加圧水型原子炉)とBWR(沸騰水型軽水炉)の両方を保有しており、幅広い運転訓練を提供できる点が強みとなっている。また、原子力事業者以外でも受講できる研修も設けており、年間受講者数は社外者を含め約1300人規模となる。海外からの視察や研修にも積極的で、多くの人材が研修センターを訪れている。

地域との連携にも力を入れていて、地元の大学と連携した研修や高校へのエネルギー・原子力に関する講義・実習も行っている。今後はさらに取り組みを広げていく考えだ。

研修センターの今後の課題は、講師の高齢化が進む中での次世代講師の確保だ。「他電力と一緒に研修すれば受講生同士の交流が生まれ、研修の質も高められる。そうした連携の仕組みを築きたい」と将来を見据える。

「原子力人材育成にはカリキュラムや設備、講師などの要素も大事だが、最も重要なのは『情熱』だ。教える者が情熱を持ってやらないと、受けている方に伝わらない」。インフラを支えているという使命を胸に、未来志向で原子力人材育成を進めている。