【業界紙の目】木舟辰平/ガスエネルギー新聞 編集部記者
電力システム改革の次の一手で、小売りの量的確保義務化と中長期取引市場創設が検討されている。
電力システムの合理化が目的だと言うが、過去の改革の教訓は生かされているのか―。
中長期取引市場の創設は2028年の予定となっている。詳細設計はこれからだが、1年物などの定型商品を取り扱い、燃料費などの限界費用だけでなく電源の維持費用なども入札価格に加味することを認める方向だ。
資源エネルギー庁は「市場環境が厳しい環境の下では、新電力においても中長期的な供給力の確保を志向する傾向が見られた」などと小売事業者に一定のニーズがあるとの認識であり、同市場を通じて「適切かつ安定的な電力価格指標」を形成したいとしている。有識者からも、発電事業者と小売事業者の双方にとってメリットがある市場となることを期待する声が上がっている。
とはいえ、また新しい市場を作るのか、と思う人もいるだろう。東日本大震災の教訓を踏まえて推し進められてきた過去10年以上の電力システム改革とはその一面において、新たな市場を次々と生み出してきた歴史だったと言えるからだ。例えば、電源などの発電できる価値を取引する容量市場が20年度に取引を開始し、その機能を補完するものとして長期脱炭素電源オークションや予備電源制度が作られた。自ら電源を持たない一般送配電事業者が必要な調整力を確保する場として、需給調整市場も整備された。電力脱炭素化の社会的必要性が高まる中で非化石価値取引市場も創設され、ほどなく高度化法義務達成市場と再エネ価値取引市場に分割された。その他にも、ベースロード市場や間接送電権市場、先物市場などが生まれている。

過去の反省踏まえられるか セットで小売りを規制
問題なのは、これらの市場は基本的に個々の課題に対応するために整備されてきたため、電力システム全体の最適化に寄与するかどうかという問題意識が制度設計段階で十分に持たれていなかったことだ。こうした背景の下、お世辞にも順調に機能しているとは言い難い市場も少なくない。例えば、24年度から全商品の取引を開始した需給調整市場の当初の混乱ぶりは目を覆いたくなるものだった。混乱は今も収束したとは言えず、来年度には全商品の前日取引化という大幅な制度見直しも予定されている。
中長期取引市場は、このような過去の改革の反省を十分に踏まえた上で創設されるのだろうか。似たような失敗をまた繰り返しはしないだろうか。そう疑問を呈さずにはいられないのは、取扱商品が重複する日本卸電力取引所(JEPX)の先渡し市場やベースロード市場がうまくいっていないから、ではない。確かに両市場とも機能しているとは言えない状況にある。先渡し市場は前日スポット市場とともに発足した長い歴史を持つが、一貫して低調な取引が続いている。ベースロード市場も新電力の競争力強化を目的に鳴り物入りで創設されたものの、仕組みの複雑性が増す一方で、取引は盛り上がりに欠けている。