【論点】送配電事業の安定運営へ、事業報酬率の適正化待ったなし

託送料金の事業報酬率〈上〉村田千春(電力中央研究所常務理事)

託送料金制度を巡る課題の中でも事業報酬率の水準は特に重要である。

資金調達・投資判断の観点から具体的に何が課題なのか、専門家が解説する。

本稿では、一般送配電事業者の託送料金における事業報酬率について今月と来月の2回に分けて考察する。報酬率は託送料金を決定する要素であると同時に、一送の資金創出・調達、投資判断、ひいては安定供給に影響する重要な要素でもある。本稿はこれらの観点から、第2規制期間(2028~32年度)に向けた適正な報酬率設定に資することを目的としている。

事業報酬は一送の資本コストの総額を表す、託送料金の原価項目である。

日本の託送料金規制では、5年を規制期間とするレベニューキャップ制度が導入され、現在は23~27年度に至る第1規制期間に当たる。本制度では「一般送配電事業者による託送供給等に係る収入の見通しに関する省令」にのっとり、収入見通しを算定することとされている。

事業報酬は、電気事業固定資産・建設中の資産などの総額(レートベース)に、資本コストに相当する報酬率を乗じて算定される。報酬率は、全産業の自己資本利益率などを反映した自己資本報酬率と、直近の一定期間(5年間)の公社債利回りに、電力の有利子負債利子率に上乗せされるリスクプレミアムを加えた他人資本報酬率とを加重平均(3対7)した値となる。現在、第1規制期間の報酬率は1・5%と歴史的な低水準である。

22年に制定された前記省令では、託送料金算定時の報酬率と現実の資本コストに乖離が生じた際に、当期または翌期の料金にその乖離を算入することは原則として認められていない。しかし26年度以降、金利上昇に伴う一送の資金調達の支障を考慮し、公社債利回りの上昇を報酬率に反映し、託送料金を変更することを認める措置が講じられる予定である(本稿執筆時点)。

資金創出力と事業報酬

報酬率と資金調達等を巡るサイクル

一送の資金創出の源泉 電力格付も左右

事業報酬は一送が託送料金を通じて資金を創出する主要な源泉の一つでもある。企業の資金創出力を表す指標は多様だが、代表的指標であるEBITDAは営業利益と減価償却費で構成される。事業報酬は財務諸表上、税引き後当期利益と支払利息を合計したものに相当し(図1)、資金創出力を決定付ける重要な要素である。

このことから報酬率の設定に当たっては、託送料金の低廉化と一送の資金創出力の確保という、短期的には対立する、しかしいずれも重要な目的を両立させる適正な水準設定が求められることが分かる。

企業の資金創出力は債務償還能力の源泉であり、格付機関が信用格付を行う際の重要な要素となる。電力会社に対する格付は現在、一送を含めた旧一般電気事業者全体に対して設定される傾向にある。その際、個社ごとの事業リスク・財務リスクに加え、送配電事業を含む電力全社に共通する制度枠組みの安定性が考慮される。託送料金の報酬率は、資金創出力を左右するのみならず、国の送配電事業規制の基本スタンスの象徴的表れでもあり、格付評価に一定の影響を与えると考えられる。

低廉化実現の好循環を 第2規制期間の是正が鍵

従って適正な報酬率の設定は、安定的な格付評価につながり、資金調達コストの安定に貢献することとなる。このことが公社債利回りに対する一送の資金調達時のリスクプレミアムを抑制し、報酬率の適正化に寄与すると考えられる(図2)。やや逆説的な表現となるが、適正な報酬率は、中長期的には報酬率それ自身の安定化を経て、託送料金の低廉化を実現する好循環を生み出し得るのである。昨今はリスクフリーとされる長期金利(2・4%台、10年物国債利回り、本稿執筆時点)でさえ現在の報酬率(1・5%)と比較してかなり高位に達しており、一送の収支を圧迫するのみならず、前記のプロセスとは逆の悪循環をもたらす懸念が高い。

このような実態を踏まえ、第1規制期間の26年度以降の報酬率の是正を可能とする仕組みが今般、導入されることとなった。この判断自体は正しいものと受け止めているが、第2規制期間の報酬率検討に際しては、初期段階から資金調達などに対する十分な配慮が望まれる。

次回は、現在のレベニューキャップ制度下で求められる投資計画の実現と報酬率水準との相互関係を考察する。

むらた・ちはる 1985年東京電力入社。企画部、電力契約部、営業部などを経て2013年同社執行役員。18年電力中央研究所へ入所。21年6月から
現職。

【フォーラムレポート】2030年に向け「老朽火力は死なず」? 退出阻止を巡るジレンマの実態

電力安定供給確保に向け、当面は非効率な老朽火力に頼らざるを得ない状況が続く。

資源エネルギー庁は退出阻止に動くが、高コスト・補修量の増加など課題は多い。

供給力の急激な低下が懸念されるようになって久しい。新設電源への投資を促すと同時に、いかに既設電源の退出を阻止するかが喫緊の課題だが、現状、発電事業者が設備を維持するインセンティブは低く、運転開始から40〜50年が経過した高経年の石油・石炭・ガス火力の休廃止は進むばかりだ。

この背景には、政府が掲げるカーボンニュートラルへの対応に加え、再生可能エネルギーの普及拡大に伴う稼働率の低下や維持管理コストの増大が、発電事業者に撤退の判断を促していることがある。2024年度には容量市場の拠出金支払いが始まり、発電事業者は収入を得られるようになったが、退出機運にブレーキがかかっている様子はない。

電力広域的運営推進機関が3月30日に公表した26年度の供給計画でも、その動向が見て取れる。同年度中に廃止となる火力電源は371万kW。従来から計画されていた244万kWに、石油など103万kW、LNG23万kWの計126万kWが新規に計上された。

容量市場メインオークションの「Net CONE」推移
※仮試算

新陳代謝が進まず 信頼度の確保に課題

本来であれば、高コスト・非効率な火力の退出は、経済合理性、そしてカーボンニュートラルの観点からも望ましいはずだ。だがそれも、新設投資が順調に進んだ場合に限ってのこと。実際、他エリアに先駆けて火力の休廃止が進んできた東京エリアでは、25年度に実施された29年度向けの容量市場メインオークションで、追加約定した上でも供給信頼度を満たすことができず、厳しい需給状況が顕在化した形だ。

「東京の信頼度確保のために割りを食っているのが、北海道・東北エリアの高経年火力だ」と指摘するのは、学識者の一人。「原子力が再稼働、または再稼働を見通せたことで、北海道・東北ともに維持していた老朽火力の休廃止に向け地元と交渉に入りたかったはずだ。それが、東京のために維持せざるを得なくなっているのではないか」と分析する。

こうした電源は、ただでさえ老朽化が進んでいる上に、稼働当初は想定していなかった再エネ出力に合わせた頻回な起動・停止の繰り返しにより負担がかかり、トラブルを起こしやすくなっている。広域機関によると、実需給に近づくほど補修量が増える傾向が顕著。しかも、以前は需要が比較的少ない春(4~5月)と秋(10~11月)に補修が計画されていたが、昨今の厳しい残暑の影響で、「作業はほぼ春に集中させている」(発電事業者)状況が、端境期の需給ひっ迫リスクを高めている。

少なくとも、長期脱炭素電源オークションで落札された新規のLNG火力などが稼働し始める29年度以降までは、電源の休廃止が新設を上回り、トータルの設備容量の減少は続く。夏冬に厳しい電力需給となる可能性があるため、資源エネルギー庁は、容量市場や予備電源制度といった既存の仕組みを活用しながら対策を講じていく構えだ。足元では、こうした発電事業者の撤退マインドを解消しようと、今年度実施される30年度向けの次回メインオークションに向けた見直し議論に着手している。

指標価格を大幅に引き上げ 負担とのバランスは?

見直しの主なポイントは、募集量(目標調達量)の拡大と指標価格となる「Net CONE(ネットコーン)」の引き上げだ。広域機関の仮の試算では、目標調達量は25年度比で584万kW増の1万9581万kW。ネットコーンは25年度が1kW当たり1万75円(上限は1万5112円)だったのに対し、26年度は2万500円(同3万750円)とほぼ倍増する。

29年度向けオークションでは、指標価格を超えた応札などにより非落札となった容量は623万kWに上った。エネ庁電力供給室の佐久秀弥室長は、「電源の採算性が確保できるようになるため、少なくとも廃止する積極的な理由はなくなるのではないか」と期待する。

それでも、火力発電業界から聞こえてくるのは、「単年度で高い収入が確保できたとしても、キャッシュフローの予見性がないことに変わりない。電源の休廃止に歯止めはかけられないのではないか」という声だ。大手電力関係者は、「電源の廃止を食い止めたいのであれば、単年度ではなく10、20年と長期で抱えてもらえなければとても難しい」と本音を漏らす。

また、高い価格が全ての電源に適用されてしまうと、小売り事業者に大きな負担を強いることになるため、影響緩和措置としてシングルプライス約定の二段階化の適用が検討されている。これについて、あるコンサルタントは「価格を抑制するために一物多価にせざるを得ないのだろうが、恣意的な誘導を排除しなければ健全な指標価格とはならない」と断じる。

とはいえ、29年度向けのメインオークションでは、約定総額が2兆2094億円と2年連続で過去最高を更新した。27年度からは、脱炭素オークションの拠出金の支払いも始まり、小売り事業者の拠出金負担は増大する一方であることも事実で、不満が噴出することは避けられそうにない。

31年度向けのオークションを見据え、佐久室長は「実態を踏まえて発電、小売り事業者の双方が納得できるような仕組みを構築していかなければならないと」と強調する。

中東情勢の緊迫化を受けエネ庁は、26年度に限り非効率石炭の稼働率を引き上げる措置を打ち出した。だが、あくまでも30年度までのフェードアウトの旗は降ろさないまま。稼働率、そして燃料調達の不確実性がつきまとう中でどこまで活用しきれるのか。脱炭素と安定供給のジレンマを解かない限り、抜本的な打ち手は見えてこない。

【フォーカス】不適切再エネに初の交付金返還命令

経済産業省が再エネ特措法に基づく処分の厳格化を加速させている。2025年度にFIT(固定価格買い取り)/FIP(市場連動買い取り)交付金の返還命令を太陽光1件、バイオマス4件の計5件に対して初めて実施した。この5件を含め、認定取り消しは55件に上った。また交付金の一時停止は57件となった。

交付金返還命令が出た猪苗代と会津若松にまたがる飛び地案件の本体(提供:鈎氏)

返還命令を受けたメガソーラー「Blue Power 磐梯猪苗代発電所」(事業者・Blue Power猪苗代)の取り消し理由は、認定計画上の送電線路を敷設せず、実質的に移設規制を潜脱したこと。当初予定地の福島県猪苗代町内にはパネル2枚のみを設置し、本体が会津若松市内のゴルフ場にあるという「飛び地」タイプだ。長距離送電にも関わらず電圧降下がほぼ見られず、本当に自営線を敷設したのかとの疑惑が持たれていた。

バイオマスの4件は「D-POWER津発電所」(D―POWER)、「茨城県常総市バイオマス発電所」(JPX総研)、「瑞浪市水上バイオマス発電所」(大阪製鋲)、「兵庫グリーンバイオマスファーム」(べナート)で、理由はいずれも非バイオマス燃料の使用だった。

各地の不適切事例に詳しい電気技術者の鈎裕之氏は「国はFIT開始当初は法令違反の設備にも優遇措置を与えた。こうした方針は千丈の堤の『蟻の一穴』となる。今回55件の認定が取り消されたが、今なお蟻の一穴となり得る発電所は各地に散在している」と指摘する。FITの負の遺産を解消すべく、政府には一層大規模かつスピーディーな取り締まりが求められる。

【フォーラムレポート】注目のワット・ビット連携 日本版モデル成功の鍵は?

電力需要の大幅増を見越し、米国ではビジネスベースでDC隣接型「ワット・ビット連携」が拡大中だ。

翻って日本は制度面などの障壁が高いが、GX戦略で日本版モデル確立を目指す動きが増えつつある。

 AIの急速な普及に伴い、膨大な情報処理のためデータセンター(DC)の建設需要が伸びている。データ処理量が多すぎるため、DC内のサーバーやGPU(画像処理半導体)といった装置類が大量の電力を消費。DC由来の電力需要増を解決する策の一つとして、電力供給とデータ処理を隣接地で取り組む「ワット・ビット連携」に注目が集まっている。日本国内では構想段階だが、海外では現実のビジネスとして動き始めた。

例えば米国では、既存の原発からDCに大電力を直接供給する契約が成立した。象徴的な事例がアマゾンとタレン・エナジー(テキサス州)が昨年6月に結んだ長期契約だ。タレンが保有するペンシルベニア州のサスケハナ原発から、アマゾンが最大192万kWの電力を購入するという内容だ。さらに両社は小型モジュール炉(SMR)の建設も検討し、既存原発の発電容量を拡大する計画だという。工場や家庭など特定多数に安定供給する、従来の電力供給モデルを大きく変革した事例だと言える。ただ、規制当局との調整が難航した経緯があり、制度設計の課題も浮き彫りになった。

米国で契約続々 DC隣接型に熱視線

そもそもなぜワット・ビット連携と呼ぶのか。電力(ワット)とデータ(ビット)を連携させてエネルギー利用を最適化するとの構想がその由来だ。

従来は遠隔地にある発電所から送電線を使い、需要地である都市部へ送電している。電圧と距離によるが、ざっくりと送電量の4~5%が失われるといわれている。また、現状はDCでデジタル信号を処理する際は電気信号でやりとりし、その際に大量の電力を消費する。送電時の電力損失をなるべく抑えた方がコスト面でも得になるため、原発などに隣接させる形でDCを建設して発電した電力を直接送れば送電時の損失を抑えられる。この発想からワット・ビット連携が注目を集めるようになったわけだ。

実用化が進む米国の事例に話を戻そう。同国の電力大手コンステレーション・エナジーが進めるスリーマイル島原発1号機(ペンシルバニア州)の再稼働計画がある。再稼働後に生み出される約83万kWの電力について、コンステレーション社はマイクロソフトとの間で20年間の売買契約を締結。マイクロソフトは全電力を同社のDCで使用する方針だ。この事例はDCと発電所が隣接するわけではないが、原発が生み出す大電力をDC専用に用いる点でワット・ビット連携の一つといえよう。

原発関連だけではない。再生可能エネルギー分野ではグーグルが主導するエネルギーパーク構想が注目を集めている。太陽光発電と蓄電池、DCを同一敷地に集約するもので、総投資額は約200億ドル(約3兆300億円)規模に上る見込みだ。

グーグルやアマゾンに加え、大手IT企業の一角を占めるメタ社も同様の計画を公表している。今年1月には米電力大手ビストラ社やSMR開発企業のテラ・パワー社、同じくSMRスタートアップのオクロ社との間で電力調達や開発支援を含む契約を相次いで締結した。

メタ社はオハイオ州で「プロメテウス」計画を進めている。生成AIなどによるデータ処理需要に対応するための次世代DC構想の通称で、AI専用に最適化した巨大な電力消費型施設を指す。1拠点で原発1基分に匹敵する100万kWの電力を消費する巨大施設となる。

メタ社はビストラ社の原発から210万kW超の電力を20年間にわたって購入し、DCの電力需要を賄う計画だ。他社のように単一発電所から調達するのではなく、複数の電源から広域的に需要を支える形を取るのが特徴だ。点在する原発が巨大なDCの〝基盤インフラ〟を支える仕組みとなる。

メタ社は次世代型原発の支援に力を入れる方針も打ち出している。テラ・パワー社が開発するナトリウム冷却高速炉とオクロ社の最新原発からも電力を調達し、合計で最大500万kW超の電源を確保。DC用の膨大な電力を安定調達する考えだ。

従来の電力供給の概念を覆す構想が進む

【フォーカス】小笠原村が文献調査受け入れ 国主導の南鳥島モデルは広がるか

赤沢亮正経済産業相は4月21日、東京都小笠原村の渋谷正昭村長と面会し、同村南鳥島で高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定に向けた文献調査を実施する方針を伝えた。渋谷氏は風評被害を生まない努力などを求め、他の自治体への調査申し入れがなければ、次のステップに進むかどうかの意見表明は行わないと強調した。実施となれば、北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町に続く4地点目となる。

赤沢経産相(右)と面会した小笠原村の渋谷村長

同案件は、国が調査の依頼から実施判断までを担った初めてのケースだ。国は3月、調査実施を申し入れ、その後、原子力発電環境整備機構(NUMO)が住民説明会を開催。渋谷氏は4月13日の会見で、「国が実施するか否か判断すべきだ」との見解を示していた。

調査の受け入れを巡っては、これまで住民の意見集約や町村内外での反対運動など、首長に過大な負担がかかっていた。役場には抗議電話が相次ぎ、通常業務に支障が生じることもあった。「村民には賛成・反対だけではない幅広い意見がある。村長に就任して1番大変だった」(渋谷氏)。ただ、国が前面に立ったことで、先行する自治体と比べれば、多少なりとも負担が軽減した可能性はある。

国は他の市町村にも働きかけを強めるが、現時点で申し入れに至ったのは小笠原村だけだ。「できれば南鳥島だけではなく、他の地域も一緒に申し入れてほしかった」(同)

原子力発電を活用する以上、最終処分場の建設は不可欠だ。小笠原村をモデルとして、調査地は拡大するのか。

【ビジネスリーダー】CN実現へ「水素菌」をソリューションに

湯川英明/CO2資源化研究所代表取締役CEO/CSO

水素を吸収し炭素固定する「水素菌」ベンチャーが注目されている。

気候変動、そして安全保障リスクの高まりが追い風となっている。

ゆかわ・ひであき 1971年東京大学農学部卒。農学博士(東大)。同年三菱油化入社。兼務でRITE バイオ研究機能立上げに参画。同社退職後、RITE 理事、Green Earth Institute創業者など。15 年RITE 理事退任後、8 月から現職。

「水素菌」という耳慣れない微生物を利用し、脱石油などを目指すベンチャーの取り組みが存在感を増している。日本唯一の水素菌専業ベンチャーであるCO2資源化研究所だ。かつて三菱化学(当時)や地球環境産業技術研究機構(RITE)などに在籍した湯川英明代表が2015年に立ち上げた。「設立当時には想像できなかったほど企業が気候変動対策に本腰を入れており、世界的に水素菌への注目が高まっている」と強調する。

脱石油への挑戦 化学・エネ分野牽引へ

湯川氏は同社設立以前もバイオマス由来の化学品・エネルギーを生産するベンチャーを経営していた。リーマンショック後、11年ごろから油価が1バレル100ドル超の局面が増え、米国連邦政府がこれらの分野への事業支援に注力したが、14年に油価が急落し40ドル台に。米国が一転して支援を停止したことを踏まえ、湯川氏は新分野へチャレンジすべきと主張したが、出資理由の途中変更は許されないとベンチャーキャピタル(VC)が反発。最終的に経営から離れる道を選ばざるを得なかった。

将来を見据えた新たな研究への思いを持ち続ける中、師事した兒玉徹・東京大学名誉教授(故人)の水素菌研究が頭に浮かんだ。水素菌は学術的には水素酸化細菌の総称で、1960年代にドイツの研究者が発見した。植物の光合成のようにCO2を固定する。太陽光の代わりに水素をエネルギー源として炭素を補足し、自らに必要な有機成分を合成するのだ。炭素を固定する菌の中では工業的ポテンシャルが高いとみている。

中でも兒玉氏が静岡県伊豆市の温泉で発見した「UCDI水素菌」は、1時間で分裂して倍になり、他種より増殖スピードが速いという特徴がある。こうした水素菌への科学的興味と、若い世代の研究の場を提供したいとの思いが相まって、新たなベンチャーの誕生につながった。かつての経験から、研究者の純粋な思いが経営に反映されるよう、VCの資金は入れず、自己資金や篤志家、さらには事業会社からの出資によって運営されている。 

当面のターゲットは、化学・エネルギー分野と食料分野だ。前者では生分解性プラスチックやエタノールを、後者はヒト用や飼料用タンパク質の生産を目指す。いずれも安全保障に直結する分野での活用が期待されるだけに、欧米では日本以上に水素菌への関心が高く、関連ベンチャーが世界に十数社ある。ただ、その多くが技術的ハードルの低い食料向けだという。

そうした中、同社が力を入れるのがバイオコンビナート構想だ。石油化学コンビナートの設備休止が進む中、ナフサでなく水素菌由来のプラスチックやジェット燃料生産に向け、既設設備を再利用し、コスト削減と早期工業化を目指す。

既にエネルギー企業との連携が始まっている。昨年3月には、コスモエネルギーホールディングスと次世代エタノール製造に向けた基礎検討に着手した。この他にも海外を含め進行中の案件があり、また企業の要望に応じた試作品作りをここ1~2年で加速させる予定だ。

最終目標は、まだ誰も成し得ていない化学・エネルギー分野での水素菌利用を成功させることだ。この約10年間でノウハウを蓄積し、手応えをつかみつつある。「水素菌は微生物の中でも原始的で、自らに必要な成分を産出する独立栄養細菌であるため自立性が高く、人間がコントロールしにくい。しかしようやく扱いになれてきたところ。特許も50件ほど取得した」(湯川氏)

水素価格がハードル 安保戦略の深掘りを

課題はやはり水素の価格だ。世界的に製造コストの高さがネックとなり、足元では多くの関連プロジェクトが頓挫・低迷しているわけだが、ここへきてイラン有事というファクターが加わったことで、空気が変化しつつある。

「今回の件がなければ水素菌の工業化も経済性のみで判断されたはず。だが現実に石油の調達リスクが高まり、各国が改めてCO2由来の物質生産に注目し、水素製造、あるいは地中の水素探索に力を入れるのではないか。ただ、それで世界の研究開発競争が加速すれば、プラスだけでなくマイナス面も出てくるかもしれない」とみている。

他方、日本は研究開発の支援規模もスピードも米国には遠く及ばない。「日本も改めて安全保障のために何に投資すべきか議論するとともに、もっと自由に研究できる環境をつくり上げるべきではないか。併せてCO2由来の化学・エネルギー生産に関するLCA(ライフサイクルアセスメント)の基準作りなどでもリーダーシップを発揮してほしい」と切望する。

【多事争論】巨大与党のエネルギー政策「自民圧勝」は何をもたらすのか

話題:衆院選の総括

衆院選で国民の信任を得た高市政権は、早速イラン問題で真価を問われることに。

メディア関係者は選挙と今後のエネルギー政策の行方をどう見るのか。

〈小選挙区特有の「振り子現象」 首相人気頼みでは足元危うく〉

視点A:高橋直子/「新潟日報」論説編集委員長

「高市旋風」が吹き荒れ、自民党が単独で衆院全体の3分の2の議席を得る歴史的圧勝を収めた2月の衆院選で、新潟県では五つの小選挙区全てを自民が独占した。

改選前は県内の全小選挙区を立憲民主党が占めており、その変化に目を見張る。世論の風次第で一方に大勝をもたらす小選挙区制度特有の「振り子現象」が起きたと言え、その振れ幅の大きさが際立つ結果となった。

新潟での自民の小選挙区全勝は、自民が政権復帰を果たした2012年以来となる。全国的に自民が勝利した17年衆院選、21年衆院選でも、新潟では野党共闘を前に自民が苦戦し、6あった小選挙区は自民2、野党4と負け越してきた。派閥の政治資金パーティー裏金事件で逆風下にあった24年衆院選での自民系全敗は想定の範囲内だった。

それが今回、どん底に沈んだ前回選挙から1年3カ月で急浮上できたのは、ひとえに高市早苗首相が吹かせた強烈な追い風による。

投票日の出口調査によると、自民候補は総じて前回選挙の倍程度に当たる4~5割の無党派層の支持を集め、得票を伸ばした。

選挙戦終盤で、特定の政党支持はないという有権者が「高市さんになって自民のイメージが変わった。今回は自民に入れないといけない」と話していたのは象徴的だ。

新人候補が立ったのは5選挙区のうち一つだけで刷新感はほぼなかった自民が、首相が持つ「改革する女性政治家」のイメージを前面に出し、無党派層を引き寄せたと言える。

ただ、次回も追い風が吹くとは限らず、その時の情勢いかんでは、オセロのように全ての議席をひっくり返される可能性はある。

開票翌日、7期目の強力な現職を倒した自民新人は、喜びも半分に「強烈な危機感がある」と語った。実態を伴わない勝利を印象付ける発言と言えよう。それぞれが次の選挙までに地盤を固め直し、国会での活動を有権者に見せていけるかが議席維持の鍵を握る。

広いリベラル層吸収していた野党 原発再稼働容認で離れた支持も

新潟といえば田中角栄元首相のイメージが強く、保守優位の「自民党王国」と思われることが多い。県議会で自民党会派が全53議席のうち32議席と過半数を押さえていることも、保守系の強さを実証している。

一方でコメ王国でもある新潟は、かつて農民運動が盛んで、中選挙区時代は旧社会党の勢力が強い「社会党王国」でもあった。

長い間に政党は変遷したものの、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題といった国政に直結する地域課題があり続け、野党勢力が根を張ってきた現実は無視できない。

立憲民主に所属していた県内の国会議員はこれまで、原発再稼働には自民に比べて慎重な姿勢を示し、原発反対派だけでなく、自民のリベラル層の支持も集めていた。

だが今回、連立政権を離脱した公明党との新党・中道改革連合の結成に伴い、立憲民主勢力は安全性の確認などを条件に、原発再稼働を容認する姿勢に転じた。新潟では、福島事故の当事者である東電が約14年ぶりに柏崎刈羽原発を再稼働させ、不安を感じる県民が少なくない中での急な方針転換となった。

野党の転換に違和感を覚えた有権者はいたはずで、新党結成は、新潟では特に、自民にとって有利な形に働いたと思われる。

衆院選を終え、県内政治の焦点は知事選に移った。告示は5月の大型連休明けに迫り、自民は3期目に挑む花角英世知事を推す。

昨年末、花角氏が再稼働の地元同意を巡り「県民の信を問う」としてきた判断を、県民ではなく、県民の代表である「県議会」に委ねた際には、県民から不満が聞かれた。

知事選は本来なら、野党が対抗馬を立て、花角氏の再稼働判断の是非を問う機会にもなるのだが、衆院選の惨敗ぶりを見れば、野党に力が残っているかは疑わしい。自民県議は「原発は争点にならない」と公言する。

知事選は県政全般が問われ、ワンイシューで判断されるものではないことは確かだ。

とはいえ順調と言えない再稼働の現状や、東電が再稼働することへの県民の不安を軽視すれば、知事や自民勢力の足元が揺らぐ恐れは常にあると考えておくべきではないか。

たかはし・なおこ
新潟県生まれ。1990年新潟日報社入社、本社報道部、東京支社報道部、長岡支社報道部で、政治・行政、災害報道などを担当。上越支社報道部長を経て、2024年から現職。

【LPガス大変革時代に挑む】業界再編を視野に積極的に活動 情勢変化に対応する伊藤忠エネクスホームライフの戦略

若松京介社長(伊藤忠エネクスホームライフ)

わかまつ・きょうすけ
1985年伊藤忠燃料(現伊藤忠エネクス)入社。伊藤忠エネクスホームライフ東北社長、ホームライフ部門長、取締役兼専務執行役員などを経て、2024年10月から現職。

エネクス時代からLPガスの業界課題に取り組んできた。

まだ歴史の浅い新体制の展望について若松社長に話を聞いた。

 ―社長に就任し1年以上が経過しました。

若松 人口減少やLPガス市場の縮小といった情勢変化に迅速に対応するため、2024年10月にLPガス販売事業を主体とする伊藤忠エネクスグループ会社4社を経営統合し、新生「伊藤忠エネクスホームライフ」として事業を開始しました。伊藤忠エネクスで行っていたホームライフ事業のグループ会社に対する経営管理や共通施策の推進などについても、当社が継続しています。新体制となり統合の効果を実感しています。

人材の確保に苦慮 評価制度の見直し実施

―業界の課題をどのように認識していますか。

若松 昨今の物流問題は大きな課題です。LPガス事業は、充填された容器を消費者先の軒先まで届け、交換設置、保安点検といった、まさに労働集約型の配送を行っています。配送・保安分野における平均年齢も上昇傾向で、労働力不足が懸念されています。また、物流効率化法が改正され、一定規模以上の事業者には中長期計画の作成や定期報告などが義務化されました。 当社は以前から容器の共同利用、容器の大型化、共同配送(センター化)、システムによる配送予測、LPWA(省電力広域通信)などを活用した予測精度の向上、複数社による物流統合などを行い、コスト低減を進めてきました。今後も適切に対策していき、物流業界の課題解決に努めたいと思っています。

―人材確保についてはどのように対策していますか。

若松 この業界は保安業務資格の取得が求められる特殊性もあり、人材確保には苦慮しています。社員のエンゲージメント向上を目的として、26年度から段階的な定年延長を導入しました。手前味噌ですが、当社にはガス工事の技術力を持つシニア社員が多くいます。シニア社員には、技術を若手社員に伝承していく役割を担ってほしいと考えています。

またベースアップを実施したりキャリア形成の道筋を可視化し公平で透明性の高い運用に向け評価制度の見直しも実施しました。

一方、新しい人材は給与や待遇だけではなく、社風やキャリア形成機会、業界の安定性、企業の社会的責任など、多角的な視点で企業を選んでいます。そこにしっかりと応えられるよう、魅力ある会社にしていければと思っています。

―他社とのアライアンスに積極的な印象があります。

若松 24年12月に住宅設備機器のEC事業を展開する「株式会社交換できるくん」と業務・資本提携しました。ハウスメーカーや管理会社が住宅設備のECサイトを運用するプラットフォーム「Replaform」を共同で開発しました。25年7月にはその1号店として、当社ECサイト「eコトもーる」をリリースしました。商品検索、見積作成、販売決済までをワンストップでオンライン完結し、利用者はコンロなどの住宅設備機器を簡単に交換できます。今まで顧客接点は対面が中心でしたが、こうした技術で新たな顧客接点を創出したいと思っています。

当社は九州での新出光とのJVでエコアを、東名阪エリアで大阪ガスとエネアークを設立するなど、率先して業界再編を牽引してきました。今後も業界再編を視野に活動を継続したいと思っています。

企業プロフィール
伊藤忠エネクスグループ。2024年10月にエネクスのLPガス販社を集約し、ホームライフグループを統合する形で設立。現在、事業継続が困難な販売店を中心に継続的にM&Aを実施したり、高効率給湯器などの販売で需要の維持・拡大を進めている。

法令順守で業界貢献 宣言をウェブに公表

―液化石油ガス法の対応は。

若松 当社グループは省令改正の公布後、取引適正化・料金透明化に向けた取り組み宣言をウェブサイトに公表しました。ガイドラインの曖昧な部分に現場が混乱しないよう方針を統一しました。全社員向けのeラーニング、社内監査や研修会を通じて、継続して方針を周知徹底しています。省令改正で一定の効果があったと認識しています。

しかし資源エネルギー庁のウェブサイトに設置された料金適正化に関する通報フォームには、累計で3000件もの通報が寄せられているとのことです。内容の分析と判断、立入検査基準への反映などを目的として、アドバイザリーボードによる検討が進められていると聞いていますが、当社も引き続き法令を順守し、支持される業界づくりに貢献したいと考えています。

【 門 ひろこ 自民党 衆議院議員】原子力活用の原点忘れず

かど・ひろこ
1980年東京都生まれ。2004年東京大学法学部卒業後、経済産業省入省。エネルギーや地球温暖化、経済安全保障、通商政策などに従事。23年に退職し、26年2月の衆議院議員選挙で初当選(東京8区)。慶應SFC研究所上席所員。米国NY州弁護士資格保持。

経済産業省でエネルギー政策などに従事し、2月の衆院選で初当選した。

政策への深い知見と明るくパワフルな性格で経産行政に新風を吹かせる。

東京都杉並区出身。サラリーマン家庭の3人姉弟の真ん中に生まれた。幼少期は手がつけられない「おてんば娘」で、姉弟が近所の公立校に通う中、小学校から高校まで規律を重んじる教育で知られる聖心女子学院に1時間かけて通った。

活発で明るい性格で、中高はテニス部、高校では生徒会長を務めるなど社交的でまとめ役になるタイプだった。聖心女子学院の卒業生には美智子上皇后陛下や日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子氏などがいる。「どちらも家庭と仕事を両立しながら世界の第一線で活躍されている。漠然と国際的な仕事に就きたいと考えていた」

ところが、大学入試で人生初の挫折を味わう。東京大学を目指していたが、センター試験当日に貧血で倒れてしまった。当時は追試制度が厳格で使えず、二次試験へのやる気を喪失。他大学へ進学したが、「このままでは一生後悔する」と思い、1年間の仮面浪人を経て東大合格を果たした。女子ラクロス部の主将を務め、授業よりグラウンドにいる時間が長い学生生活だった。

就職活動をした2003年は、就職氷河期の「底」だった。女子学生というだけで説明会の予約が取れないこともあった。「限られた枠をみんなで奪い合っていた。経済のパイを大きくしなければゆがみは解消されない」と痛感し、経済官庁を志した。04年に経済産業省に入省する。

最初の配属先は、資源エネルギー庁の資源燃料部政策課(以前の石油部計画課)だった。同課に1年目で配属されたOBには、自民党で選挙対策委員長を務める西村康稔氏、元経産次官で岸田文雄政権の首相秘書官を務めた嶋田隆氏らそうそうたる顔ぶれが並ぶ。門氏は「30代目の新人にして初の女性」だった。

入省1年目は中国による東シナ海でのガス田開発の発覚、イランで国際石油開発(現INPEX)がアザデガン油田の権益獲得、同国の核開発疑惑に伴う米国からの制裁圧力など〝エネルギー動乱〟と言っていい年だった。ロシアのサハリンⅡや豪州沖イクシスなどLNGの調達多角化に向けたプロジェクトも進んでいた。「エネルギー政策のターニングポイントと言える時期に仕事をできたのは有意義だった。非中東のLNGの供給先を強化できたことは大きい。この時の仕掛けが現在のイラン危機に生きている」

その後、地球温暖化防止国際会議・COPでの交渉、通商、人権、経済安全保障政策などに従事。コロンビア大学ロースクール留学中にはニューヨーク州弁護士試験に合格した。「経産省の魅力はLPガスのような地域に根差した身近な課題から国益をかけた貿易交渉まで、経済を軸に幅広い仕事ができること」と懐かしむ。

23年に同省を退職し、自民党東京8区の支部長に就任した。翌年10月の衆議院選挙では涙をのんだが、今年2月の同選挙で初当選を果たした。

女性の目線で不安に向き合う 子どもと過ごす時間も大切に

エネルギー政策へのこだわりは強い。デジタルなど新産業の創出には安価で安定的な電力供給が必須だとして、ベストミックスの重要性を訴える。「ベストミックスのバランスは国によって異なる。日本は再生可能エネルギーで100%を賄うことは不可能で、原子力をベースロードにしないといけない」

こう語る門氏の根幹にあるのは、歴史への責任と未来への覚悟だ。日本は戦後10年の1955年、原子力の平和利用を目的とした原子力基本法を制定した。「原爆による被ばく被害の全容が判明しておらず、前年には放射性降下物を浴びてマグロ漁船の船員が亡くなった第五福竜丸事件があった。そんな中、先人たちは党派を超えて、資源が乏しい日本が二度と戦争をしないために原子力の活用へと動いた。この重みを忘れてはいけない」

経済安全保障の観点からも原子力の重要性を説く。ロシア、中国といった権威主義国やアジアやアフリカの新興国が原発活用に動く中、「日本のメンテナンス技術や保安の知見が求められる日が来るはずだ。他国にとって代替不可能な『戦略的不可欠性』を高めるためにも、原子力技術を手放すべきではない」。女性や母親たちが抱く放射能への不安にも、同じ目線で丁寧に向き合い、科学的なリテラシーを共有したいと意気込む。

小学3年生の娘と1年生の息子を育てながらの政治活動は多忙を極める。それでも、週に2回は子どもが起きている時間に帰るように心掛ける。世襲ではない普通の女性が、子育てをしながら政治の世界で活躍する─。それが政治の門戸を広げることにつながると信じて活動を続ける。座右の銘は「笑う〝門〟には福来たる」。いつしか古巣を率いる日を目指し、持ち前の明るさでまい進する。

 

【原子力の世紀】核兵器のパワーバランスが崩れる中で中国が狙う質と量の向上

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

急速な核軍拡を続ける中国は世界最大のICBM配備国になる可能性が出てきた。

ただ米露と比べると核戦力は質と量で劣り、課題克服にまい進するとみられる。

核軍縮条約なき世界

核兵器を巡る国際情勢が激変している。米露が結んでいた核軍縮条約が今年2月に失効、約半世紀ぶりに無条約状態になった。欧州では3月、フランスなど8カ国が「欧州の核」構想に合意した。核戦力増強を続ける中国を含め、核軍拡の足音が高まっている。米中露の核戦力の現状と課題を探る。

北京の天安門広場で昨年9月にあった「抗日戦争勝利80周年」記念の軍事パレード。中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記などが見守る先には、次々と披露される新型核兵器の姿があった。

B29爆撃機「エノラゲイ」
出所:筆者撮影

大陸間弾道ミサイル(ICBM)「DF61」、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)「JL3」が行進、上空には空中発射長距離ミサイル「JL1」を搭載する戦略爆撃機H6Nが編隊を組み飛行した。中国国営の新華社通信は「わが国の戦略核戦力の(陸海空の)3本柱が初めて集中展示された」と伝えた。

筆者の取材に応じた日本の専門家は、中国はこの軍事パレードで「かなり強い意志を示した」と分析、中国人の軍事専門家も「正直、驚いていた」と紹介した。多くの関係者が、中国の核戦力が「最小限の抑止力」の域を超えたと受け止めた。

中国の核増強を物語るエピソードはこれにとどまらない。西域の砂漠地帯では、新たなICBM発射用サイロの整備が進む。3カ所合計で350基に達する。米国防総省は核弾頭を1発載せた「DF31」を「100基配備した」と分析している。今後、中国が3発以上の核弾頭を積む「DF41」などを全てのサイロに配備した場合、ICBMの総数は1000発を超す。米国が配備する400発を上回り、中国が「世界最大」のICBM配備国となる可能性がある。

原潜が発展途上 プルトニウム量が不足

ただ、中国の核戦力は、克服すべきいくつかの課題がある。

一つ目は、SLBMの射程がまだ不十分な点だ。堅固な核抑止力を確立するためには、ICBMなどが先制攻撃を受けて全滅した場合でも、反撃できる「第二撃」能力の保持が不可欠となる。「海の忍者」と呼ばれ、所在をつかむのが難しい原子力潜水艦がその役割を担うと期待されている。だが、中国の原潜はまだ発展途上の段階にとどまっている。大きな騒音を出すため、米軍に見つかる可能性が高い。この状態のままでは、有事の際、SLBMを放つ前に撃沈されてしまう。現段階では、有効な第二撃能力とは言えない。

中国が現在、原潜に配備するSLBM「JL2」は、射程が約8000㎞とみられている。米東海岸にある首都ワシントンに撃ち込むにはハワイ沖にまで出撃する必要があり、米軍に探知される可能性が高い。一方、軍事パレードで披露した「JL3」は射程が1万㎞以上とされる。米潜水艦が接近しにくい中国にとって「安全な海」と言える南シナ海からでも米本土に届く。ただ、東海岸に届くかどうかはさまざまな分析がある。能力増強が必要な分野と言える。

【業界コラム/需要家】電気料金の負担増で問われる自由化対応

2023年以降、卸電力市場が落ち着きを取り戻す中で、法人需要家を中心に市場連動型料金が再び拡大しているとみられる。米国とイスラエルによるイランへの攻撃は、そうした「緩み」に冷や水を浴びせることとなった。特にLNGは、カタールの生産停止などを背景に向こう数カ月の市場不安定化は不可避で、特に夏場を挟んだ電力料金高騰が懸念される。

また、国内の電力関連制度の動向を見渡すと、中長期的な電力コスト上昇も避けられない。足元では、容量市場の指標価格・上限価格、非化石価値取引市場の上・下限価格などが、いずれも引き上げ方向で見直し検討されており、需要家の負担増は必至だ。さらにGX―ETSの導入や広域系統増強、長期脱炭素電源オークションによる負担増も待ち受けている。加えて、GHGプロトコル改定に伴う脱炭素電源調達手法の高度化にも対応していく必要がある。

こうした不確実性の拡大や構造的な負担増、ルールの複雑化といった状況をみると、需要家も中長期的な観点での電力・エネルギーのポートフォリオマネジメントに取り組むべきだろう。実際にビジネスの現場をみると、相鉄、大塚、イオン、セブン&アイ、日産自動車、ヤマト、三菱マテリアルなどがここ数年で小売り電気事業ライセンスを取得している他、良品計画、野村不動産、東急などが発電事業・発電所投資の拡大を図るなど、戦略的展開を模索する企業が増えつつある。

電力分野では、自由化による電力事業者への影響に目が向きがちだが、当然、顧客である需要家にも、自由化した市場と向き合うための変革が求められるはずだ。(J)

【コラム/4月24日】見直し見直しの電力自由化を再考する ~制度改革に疲れた日本は、無間地獄の寸前

飯倉 穣/エコノミスト

1、市場信奉者が喧伝した期待、「自由化万事良し」

今年は、電力小売り全面自由化スタートから10年となる。市場信奉者・役所の目論見は、電気小売り事業への参入増・競争出現による料金メニュー・サービスの多様化と料金抑制だった。そして家庭等消費者に、各自のライフスタイル・価値にあった電力会社・メニュー選択が可能となり、料金も低下すると期待を煽った。

近時報道もあった。「電力自由化の現在地㊤「電気を選べる日本」に試練 規制緩和10年、料金抑止の副作用、値上げしにくく投資細る」(日経26年3月31日)。「同㊦中東緊迫で先物取引最高燃料高騰、コスト上昇に備え 市場価格設定にひずみも」(同4月2日)。中途半端な自由化で投資不足懸念という紹介だったが、自由化に馴染まない電気事業の根本の特性を看過した内容だった。

現在・未来の電力需給安定に官製電力8市場がある。ベースロード市場、スポット市場、電力先物市場、容量市場、需給調整市場、非化石価値取引市場、カーボン・クレジット市場、同時市場である。これらは需給安定に寄与しているだろうか。将来の供給力不安で電力システム改革の検証や制度見直しが相次いでいる。郵政改革と同じ状況である。まして中東依存のエネ世界では、購買力が重要だが、国内企業群の対応は苦難の連続である。どうにも先行きが見通せない状況が続いている。

抑々技術革新なき自然発生的な電気事業の細切れ自由化が、成功すると思えない。改めて国際エネ環境軽視、市場信奉、消費者軽視で国内供給不安惹起の電力システム改革の軽率さを考える。


2、供給体制の質低下

電力システム改革(電力自由化)の目論見は、1990年代から始まる。不況業種等による電力ビジネス機会獲得要求を背景に、バブル崩壊過程の混乱期にマクロ経済政策の対応ミスと米国圧力を好機とみて、一部官僚が意図的に自由化を良策と画策したことによる。その根拠は90年代後半(燃料価格低迷時)における意図的なコジェネ技術の過大評価(誰でも安い電源設置可能)と欧米の経済政策(新自由主義・市場競争重視)・電力自由化の無批判模倣だった。特定官僚・役所主導の政策に、実業音痴・規制緩和好きの経済学者が加担し、公益的視点を捨象し、市場創設が電力需給と価格の安定・低下に効果的と持ち上げ、且つ日本経済活性化に寄与すると喧伝した。

その流れを見れば、95年IPP・特定電気事業承認、2000年特定規模電気事業(PPS)承認・特別高圧自由化、04年高圧小売り自由化範囲拡大、05年高圧50kw以上自由化対象・卸電力市場創設と進展した。そして「自由化いいことずくめ」で政治家を巻き込んで、行き着く先が「電力システムに関する改革基本方針」(閣議決定13年4月2日)だった。システム改革は、①広域系統運用の拡大(電力広域的運営推進機関設立15年4月)、②小売及び発電の全面自由化(小売り全面自由化16年4月)、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保(発送電分離20年4月)の最終3段階の変質を経て、今日のカオス的状況生み出した。

現在電源を持たない電気の販売業者は、700社に達し、市場価格にらみで販売手数料稼ぎに顧客開拓を行っている。経済学でいう取引費用を嵩上げし、昔風に言うなら消費者を搾取している。かつ価格信奉市場は、需給を安定させず、投資を躊躇させ、供給不安を招いている。


3、根本看過、弥縫策で需給安定は永遠のテーマに

自由化完成(20年)後、21年1月電力需給逼迫・市場価格高騰、22年3月東日本電力需給逼迫以来、需給対策見直しが継続している。そして今般「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WG とりまとめ」(26年3月)が登場した。報告書は、現体制で供給力確保困難と考え盛り沢山の対応を並べる。電源休廃止の監視、既存電源確保、電源維持の費用負担確保、休眠事業者の扱い、燃料確保、発電設備確保、ファイナンス手当等々を記述している。現在の自由市場の不全と失敗と不信を確信する内容だった。議論の過程では、特別な公共性を持つ電力という商品を扱う小売事業者は、一定の社会的責任や役割を果たすべきとする(25年12月)記述もあった。 

つまり、WGとりまとめは、これまでの「電力システム改革では、従来、垂直一貫体制、地域独占、総括原価方式によって実現しようとしてきた「安定的な電力供給」を事業者や需要家の「選択」や「競争」を通じた創意工夫によって実現することを目指したが、その中で、供給力の確保など様々な課題に直面している」と述べている。電力の安定供給が、新自由主義・市場競争に基づく価格変動・需給調整では困難と認識したということであろう。過去の自由化主張の識者も市場による需給調整の弱さを述べている(「電力自由化現在地 識者に聞く」日経26年4月3日)。このままでは、更なるシステム見直しの糊塗で、複雑怪奇な制度劣化が進むことになる。現段階で、「電力自由化は成功」という意見をお持ちの方の声を仄聞しない。また産業界期待の電力料金低下による産業の国際競争力向上もなかった。

【業界コラム/再エネ】分散型の最適制御で事業者の競争加速

日本の再エネ市場は、FIT制度による急拡大を経て、最近ではAIや蓄電池を駆使して分散型電源を高度に制御する段階へと移行している。特に2026年度は、家庭用蓄電池やEVなどの低圧リソースによる需給調整市場への参画が本格化する。点在するリソースを束ねて系統安定化と収益化を両立させる「リソース・アグリゲーション」が、事業者の競争力を左右する主戦場となる見通しだ。
ただし市場環境の楽観視はできない。26年度以降、需給調整市場の上限価格は19・5円から15円/⊿kWに引き下げられ、募集量も適正化の名の下に削減される見通しだ。つまり参入門戸は広がるが競争は激化し、単価は下落する可能性が高い。
こうした状況下で、アグリゲーター各社は収益の多層化を戦略の柱に据える。卸電力市場での差益、容量市場での固定報酬、需給調整市場での調整力報酬をAIでリアルタイムに最適化し、最も収益性の高い市場へリソースを配分する手法が標準となりつつある。また、技術的難易度の高い一次調整力への挑戦や、コスト抑制につながる機器個別計測の導入など運用の高度化も加速している。
地域に分散した再エネを制御する「エネルギーマネジメント」への期待は、出力制御の頻発やメガソーラーなど大規模開発への反発を背景に、かつてないほど高まっているのを感じる。VPP(仮想発電所)を通じて地域のリソースを市場へつなぐ仕組みは、環境負荷の低減と経済的自立を両立させる新たな収益基盤となる可能性がある。この自律的な運用体制こそが、地域とエネインフラを支える礎となるだろう。(K)

【リレーコラム】幻想だったグローバリゼーション 自立国家として足元を固めるべし

田口昂哉/ヘリカルフュージョン代表取締役CEO

日本のエネルギー政策は、エネルギー自給率の向上を軸とすべきだ。

日本の現在のエネルギー自給率は15%程度である。すなわち、われわれがエネルギーを使えば使うほど、85%の富は海外に流出することを意味する。実に、年間約25兆円。これを毎年原料・燃料として輸入し続けることで、われわれの日常生活が保たれている。経済的損失はもちろん、国家が危うい基盤の上に成り立っていると分かる。この細い橋を渡り続けるために、日本は弛まぬ外交努力を続けている。しかし、それを所与のものとして甘んじて受け入れてはならないと思う。

エネルギー自給率をいかに向上させるかが国家の一大事であることを明確に掲げ、覚悟を決めて粘り強く取り組まなければならない。なぜなら、グローバリゼーションは幻想であった、ということが露呈してきているからである。このことは、核融合(フュージョン)エネルギーの世界でも如実に現れてきている。


競争力高めて 強固な基盤づくりを

筆者は、ヘリカルフュージョンでフュージョンエネルギーの実用化を世界に先駆けて実現しようとしている。フュージョンエネルギーは、太陽の中で起こっている現象を地球上で安全に再現し、大きなエネルギーを活用する技術である。人類がこれまで手にしてきたエネルギーも実は全てフュージョン由来である。化石燃料も元をたどれば核融合反応から生まれたものだ。石炭、石油、天然ガスは、太陽のエネルギーを蓄積した植物が地層の中で堆積し、何万年、何億年と熟成されてでき上がるものだからだ。

フュージョンは従来、国際協調の下、世界30数カ国が協力して技術開発を進めてきた。しかし、近年は逆に各国が、われ先にフュージョンエネルギーを得るために、熾烈な開発競争を繰り広げている。競争の旗手はアメリカ、そしてそれを猛追する中国。日本は元々、研究・技術基盤で世界トップクラスだったが、競争意識がいまだに低いのが現実である。そもそも日本は、エネルギー基盤の弱さによって太平洋戦争に追い込まれた歴史を持つ。このリスクを放置すれば、最悪の場合、また日本がエネルギーのために争いを引き起こす可能性すらあり得ると、筆者は危惧している。

本稿を執筆している3月3日、まさにホルムズ海峡が事実上封鎖されており、世界はエネルギー危機の入り口に立っている。これを一過性の危機だと思ってはいけない。グローバリゼーションが幻想だったとしても国として立っていられるように、足元を固めるべき時が来ているのである。

たぐち・たかや みずほ銀行で法人営業、国際協力銀行にて発電プラント輸出ファイナンスなどを経験。2021年にヘリカルフュージョンを共同創業。

【業界コラム/火力】需給見通しの難しさ お米の価格から考える

米の価格高騰を巡り「需要予測が外れているのでは」との批判が出ている。実際、需給見通しは人口減少や一人当たり消費量の長期トレンドに強く依存し、短期的な需要変動を十分に吸収できていない。制度は「需要予測が外れることを想定していない」仕組みのため、見通しが外れた途端に価格が跳ね上がる構造があらわになった。
この構図は、電力需給見通しにも通じる。電力分野では、見通しが外れるたびに容量市場や調整力市場などで対策が積み上げられてきたが、それらは必ずしも一貫した思想の下で設計されているわけではない。制度間での齟齬は残り、全体としては危機対応の継ぎ足し、いわばイタチごっこの様相を呈している。
電力が米と決定的に違うのは、需給が外れた際の帰結である。米は価格上昇で済むが、電力は即座に停電という形で社会機能を脅かす。貯蔵が困難で、同時同量が求められる電力は、他分野より一段厳しい制約の下にある。
この綱渡りを支えてきたのは、実は旧来の電気事業者が担ってきた「安定供給は誰が何と言おうと守る」という暗黙の責任感だった。自由化自体は否定されるべきものではないが、その過程で供給責任の所在が曖昧になり、この土台が制度として十分に引き継がれているとは言い難い。さらに、政策議論の場に実務の当事者や技術的視点が乏しく、理念優先で制度設計を進めたことが混迷を深めている。
電力は、需給予測の外れが機能不全に直結するインフラだ。市場制度の有利不利に一喜一憂するのではなく、この現実を関係者が共有することが、実効ある議論に立ち返る第一歩ではなかろうか。(N)