北陸の電力史をたどる新拠点が開設 明治期からの歩みを未来につなぐ


【北陸電力】

北陸電力は北陸の電力史を紹介するアーカイブギャラリーを本店ビル1階に開設した。

地域と共に歩んできた先人の姿と、その絆を次世代へ紡いでいく。

富山・石川・福井県敦賀以北を主な供給エリアとする北陸電力は、9電力体制が確立される前、他地域ブロックへの統合が検討され、独立が危ぶまれた時期があった。しかし、地域ぐるみで築いてきた独自の産業や暮らしを守るため、地元が一体となって奮闘し、北陸ブロックの独立性を保ち続けてきた歴史がある。

こうした電気事業の歩みを紹介するPR施設「地域への想い北陸電力アーカイブギャラリー」が10月9日、同社本店ビル(富山市)1階に開設された。同日には経済産業省中部経済産業局の向野陽一郎北陸支局長のほか工事関係者らを招き、オープニングセレモニーを開催。

テープカットを行う松田光司社長(中央)ら
提供:北陸電力

松田光司社長は「当社は戦中・戦後の電力再編の中で地元の後押しを受けて、幾多の危機を乗り越え、他の地域に属することなく北陸の独立性を守り、共に発展してきた経緯がある。この『地域とともに発展する』という理念をわれわれのDNAとして、しっかり紡いでいくこと。さらに、このギャラリーに込めた『地域への想い』を地域の皆さまと共有し、過去・現在・未来をつなげる架け橋になることを期待している」とあいさつした。


明治期からの歩みを紹介 ブロック確立の歴史に注目

同施設開設のきっかけとなったのは、有峰ダム(富山市)の近くに設置されていたPR施設「アーカイブス有峰」が昨年閉館したことだ。同館では有峰水力開発に関する展示を行っていた。その後継のPR施設を模索する中で、アクセスの良い本店ビルでの開設が決まった。

アーカイブギャラリーは本店ビル1階の延べ約300㎡の空間を活用し、有峰水力開発のみならず、明治期に始まる電気事業の変遷から現代のカーボンニュートラルの取り組み、さらには昨年の能登半島地震などの災害対応に至るまで、パネルや展示品などを用いて紹介している。パネルは時系列に並べられており、来訪者は歩みを進めながら、北陸の電気事業が地域と手を取り発展してきた過程を知ることができる。施設の開設を担当した地域共創部の野﨑拓朗地域・エネルギー広報チーム統括課長は「北陸の電気事業の歴史を紹介する施設はこれまでになかった。過去から未来へと続く取り組みを一望できる施設を開設できたことは感慨深い」と力を込める。

電気事業の歩みを時系列順にたどれる
提供:北陸電力

一連の展示の中でも目を引くのが、二度にわたって北陸ブロックの独立を守り抜いた地域の奮闘を伝えるコーナーだ。一度目の危機は、太平洋戦争下の1941年に政府が発表した「配電事業統合要綱」に端を発する。

これは全国を八つのブロックに分け、配電事業を統合する方針を示した計画で、北陸は中部地区に組み込まれる予定だった。当時、北陸の電気事業者は、近代化の進む重化学工業の誘致に取り組み、地域と共に発展してきた経緯があった。こうした北陸の独自性を失わせまいと、日本海電気(旧富山電気)の山田昌作社長(当時)が立ち上がり、北陸の電力圏の独立を政府に訴え続けた経緯を紹介している。

二度目の危機はその直後に訪れる。戦後の49年、電気事業は連合国軍総司令部(GHQ)の主導で再編成されることになり、民営の電力会社を七つのブロックに分割し、北陸を関西に組み込む案が提出されたのだ。これに対し、北陸配電を中心に、政財界を挙げた「七ブロック反対運動」が繰り広げられた。ここでは、北陸ブロックの独立を求めた地元経済界からの陳情書などの実物が並んでいる。地域が一体となって電力圏を守ろうとした熱気が、展示品を通して感じられる。

電源開発の取り組みも見逃せない。北陸電力は電力編成による51年の発足直後から、大規模な水力発電の開発を次々と進めた。戦後に急増した電力需要に対応するためだ。発足から約10年間で新設した水力発電所は20カ所にのぼる。総出力は着実に積み上がり、供給力は発足時の3倍に増強された。

一連の開発の中核を成したのが、60年に完成した「常願寺川有峰発電計画」だ。有峰盆地を利用して重力式コンクリートダムを築き、七つの発電所を整備。計26万7600kWの出力を確保した。総工事資金は約372億円と、当時の同社資本金の7倍を超える規模。展示ブースでは、わずか3カ年でコンクリートの打設を完了した有峰ダムの工事風景の写真が並び、社運を賭けた開発の実態を具体的にたどることができる。地域共創部の佐藤安紗希地域・エネルギー広報チーム副課長は「当時の会社規模では到底考えられない挑戦。今の若手社員にとっても刺激となるだろう」と語る。


終盤には災害復旧の様子も 被災した実物設備を設置

ギャラリーの終盤では、能登半島地震における復旧・復興の様子が伝えられている。被災した碍子や電柱などの実物設備に加え、停電復旧に奔走する社員の姿を収めた写真も並ぶ。アーカイブギャラリーについて野﨑氏は「このギャラリーには、電力マンの使命感と責任感が凝縮されている。地域と共に歩み、安定供給を支え続けてきた北陸電力のDNAを感じてもらえるはずだ」と続ける。

アーカイブギャラリーは本店ビルの営業時間内(平日午前8時40分~午後5時20分)に自由に見学できる。パネルのほか、北陸電力初の石炭専用船「北陸丸」の模型や、時代ごとの作業服なども並び、見どころ満載だ。

地域と共に歩んできた北陸の電気事業。その想いを今に継承する場として、ギャラリーは重要な役割を担う。北陸電力は北陸地域と共に発展してきた先人の姿を伝えるとともに、地域との絆を次世代へつなぐ考えだ。

【イニシャルニュース】ENEOSお家騒動? 関係会社人事巡る憶測


ENEOSお家騒動? 関係会社人事巡る憶測

ENEOSホールディングスが9月下旬に発表した、関係会社で電気・ガスの販売を行うENEOSパワーと、再生可能エネルギー事業を展開するENEOSリニューアブル・エナジー(ERE)の運営一体化に伴うトップ人事を巡り、業界にさまざまな憶測が広がっている。

発表によると、小野田泰・ENEOS保険サービス社長が10月1日付でERE社長に就き、来年4月1日付でEパワー社長に就任する。ERE前社長の竹内一弘氏は特別理事に。またEパワー社長の香月有佐氏は、来年4月1日付で両社の副社長に就く。「(両社の)経営の実質的な一体運営体制への移行」が目的だ。

この人事については、旧日本石油系の勢力がENEOS内で弱まっているのを機に、旧東燃ゼネラル出身でENEOSHD社長の宮田知秀氏が東燃ゼネ勢力の復権を狙い巻き返しを図ってきたと見る向きがある。

「小野田氏は東燃ゼネ出身で、2016年には宮田氏と共に同社の専務を務めていた間柄。優秀な人物でコーポレート・経営企画部門に携わってきたが、19年にJXTGエネルギーの常務執行役米州総代表となり、23年に現在の保険サービス社長と本流から外されていた。それを今回、宮田氏が電力・再エネ事業のトップに据えたわけだ。自分の後継含みとの意味合いもあるかもしれない」(東燃ゼネOBのA氏)

一方で、別の東燃ゼネOBのB氏によると、小野田氏は日石と東燃ゼネが17年に合併しJXTGとなった際の橋渡し役を務めた経緯があり、日石側からも一定の評価を受けているという。「電力・ガス小売りや再エネを取り巻く環境が厳しさを増す中、小野田氏には東燃・JXTG時代の経験を生かし、日石出身の香月氏と二人三脚で事業の立て直しを図ってほしいということではないか」

果たして今回の人事は、ENEOSを巡るお家騒動の現れなのか、それとも事業再構築の一環なのか。今後の動向が注目される。


高市氏のエネ人脈 旧安倍派復権なるか

高市早苗氏が10月に自民党総裁に就任し、新首相に選出されるか、政局を絡めた攻防が繰り広げられている(10月中旬現在)。保守寄り、そして故・安倍晋三元首相の路線継承がその政治姿勢の特徴だ。そのために岸田、石破両政権下で冷遇された旧安倍派の政治家の復権の可能性が高まった。これが高市氏のエネルギー・原子力、安全保障の関心とともに、プラスの方向に働くかもしれない。

憲政史上初の女性首相が誕生

旧安倍派、つまり解散した清和政策研究会は、福田赳夫元首相の派閥に岸信介元首相の支持グループが合流してできた。メンバーには自民党内のタカ派が多かった。また福田氏が原子力を支援した影響が残り、原子力立地地域の議員もかなりいた。高市氏は2000年ごろに清和会に一時属し、派閥を離脱。しかし同会の森喜朗、安倍の各首相に評価され要職を歴任した。

こうした経緯から、人脈では原子力に詳しい議員が多い。落選中だが、新潟のH、T、茨城のI(無派閥)の元各議員だ。旧安倍派の大物では東京のH議員、埼玉のS議員が安倍内閣や党執行部で高市氏と関係が深く、エネルギー問題にも精通している。彼らは原発の再稼働と規制見直しにも積極的だった。旧安倍派議員らが復権すれば、原子力政策の推進に一段と弾みが付く可能性がある。

電力にとらわれない価値提供を 新規事業を生み出す〝ベンチャー集団〟


【中部電力】

情報ネットワークと最新技術を駆使して、地域の社会課題を解決する─。

電力会社の枠を越えた中部電力・事業創造本部の取り組みに注目だ。

一般的に電力会社は、安定供給を使命とすることから、保守的な社風であることが多い。しかし、中部電力には〝ベンチャー集団〟のような組織がある。それが「事業創造本部」だ。電気事業に加えて、会社の柱となるビジネスを生み出すために新たな価値創出に挑んでいる。

同部の歴史は浅い。2018年4月に「コーポレート本部事業戦略室」という名称で立ち上げられ、翌年に現在の名称で正式発足した。ところが、新型コロナウイルス禍やウクライナ危機などで中電を取り巻く経営環境は悪化。本来、中長期的な成果が求められる中で「足元の収支を気にしなければならず、迷走した時期だった」(事業創造本部の沖本匡司・事業戦略ユニット長)という。

事業創造本部の社内向け展示会を初開催

しかし、24年ごろから部署に課せられた役割を見つめ直し、中電のインキュベート機能(新規事業の起点)と再定義した。「スクラップ&ビルド」をキーワードに、これまでに立ち上げた事業の取捨選択を行い、リソースを投入する領域の明確化に取り組んでいる。ミッションは、事業が自律的に運営できる段階まで育て上げ、他事業部への移管、子会社としての独立といった出口につなげることだ。

これまで経験のない事業への挑戦であるため、約160人のメンバーのうち、4割近くをキャリア採用者が占める。近年は全社的にキャリア採用を増やしている中電だが、その中でも突出して多様性のある組織だ。


テレメータリング事業を独立 利用件数は35万件突破

事業創造本部が「本命」として期待するのが、テレメータリングサービスだ。テレメータとは、テレ(遠方)とメータ(測定機)を組み合わせた造語で、ある地点のリアルタイムの様子をオンラインで監視できる遠隔自動データ収集装置。導入した事業者は、検針や警報情報の取得、メータの制御を遠隔で実施できる。中電はメータのデータ取得と遠隔制御の双方向通信を提供し、通信回線サービスと通信端末、メータデータクラウドサービス(中電MDMS)をセットで展開してきた。

最大の特徴は、データ活用が電力だけでなく、水道やガスといったほかのインフラにも拡大している点だ。競合他社が水道やガスで個別のサービスを提供しているのに対し、中電MDMSは共通のクラウドサービスで一元的に扱える。事業者にとっては検針票の紙費や現場出向の燃料費削減というメリットのほか、浸水・断水エリアの推定や高齢者のフレイル(心身状態)検知など、災害に強く暮らしやすい街づくりに寄与する。

18年に実証を開始し、21年に中部エリアのガス・水道事業者向けにサービスの提供をスタート。23年には中電テレメータリング合同会社として独立させ、通信回線サービスの利用件数は35万件を突破した。「新規事業として分離したことで柔軟性を持った運営が可能となり、全国規模で使えるフォーマットを確立する段階にきている」(沖本氏)。収益力も高く、今後はメータのデータから得られる情報に基づいた水道管の更新口径などの最適化や、DX(デジタルトランスフォーメーション)による水道広域化の推進といった新たなサービスへの展開も見込まれる。


稲作由来のメタンを減らせ 水を張らないコメづくり

新規事業を推進する上での課題は、社会課題の解決(ロマン)と経済的利益(そろばん)を両立させることだ。

そこに挑戦する一例として「水を張らないコメづくり」(節水型乾田直播栽培)がある。あまり知られていないが、田んぼからはCO2の25~28倍の温室効果があるメタンガスが放出される。国内では牛のげっぷよりも田んぼからのメタン排出量の方が多く、農業分野の温室効果ガス排出量では稲作が3割近くを占めるほどだ。

節水型乾田直播栽培の実証(愛知県新城市)

こうした課題を解決するのが節水型乾田直播栽培だ。通常の稲作では、育苗箱で苗を育てた後に、水を張った田んぼに田植えを行う。しかし、節水型乾田直播では乾いた田んぼに種もみ(もみ付きのコメ)を直接まき、水管理に手間をかけない。菌根菌やビール酵母資材といったバイオスティミュラント(生物刺激)資材を活用することなどで可能になった。従来の栽培法に比べて、メタンの排出を7割以上削減でき、作業時間も短縮される。

中電は昨年、この栽培方法で稲作も行う農業ベンチャーNEWGREENへ出資。今年度は愛知県、三重県、長野県で実証を進めた。9月に行われた事業創造本部の社内展示会では、実証で栽培されたコメが振る舞われ、参加者からは評判だった。

そろばんの面ではどうか。NEWGREENとドイツの化学大手BASFは、節水型乾田直播栽培におけるメタン削減に対して、国際的に信頼性の高い認証を取得する仕組みを構築し、この取り組みで栽培されたコメの環境価値の創出を目指している。環境価値を付加したコメの流通が中電のコメづくり事業の最終目標だ。

事業創造本部の強みは、スタートアップのような素早い決断や決裁ができることだ。実際にNEWGREENへの出資は、担当者が同社主催のイベントに参加してから約3カ月後に実現したという。同部はほかにも、電力供給や電気工事の知見を基にEV導入をワンストップでサポートするエネマネシステム「OPCAT」、学校や園向けのモバイル連絡網「きずなネット」など電力会社の枠を越えたサービスを提供している。電力の安定供給に加え、社会課題の解決という新たな使命を担う─。事業創造本部は、中電の未来を形づくる原動力となっている。

再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標


【気象データ活用術 Vol.8】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

先日X(旧Twitter)で「FIP勉強会及びマッチングプラットフォーム」という資源エネルギー庁のサイトを紹介する投稿に目が留まった。そのサイトには、気象予測サービスなどの紹介やマッチングを予定していると書かれていた。気象業界で働く者としては歓迎する流れではあるものの、ちょっと厄介な話に向き合わなければならないことを覚悟する次第である。

厄介な話とは、ズバリ予測精度の議論である。結論から述べると「再エネ発電量の予測精度の評価方法は標準化されていないので、直ちに画一した精度評価指標を定めよう」と提案したい。その必要を実感していただきたく、最も厄介な太陽光発電量の予測精度について論じることとする。

予測の精緻さよりビジネス視点の評価指標

一般的に、予測精度をたずねた際に期待する返答は「90%以上の的中率です」など直感的に分かりやすい指標だろう。しかし、予測開発側の立場としては、そのように単純化して語るのが難しい。特に太陽光の予測精度評価には多くのトラップがあり、数値だけが一人歩きすることを避けるため評価条件を十分に共有しなければならない。太陽光の精度評価トラップとは、①夜間は発電量ゼロであること、②地球の自転公転により発電出力の上限が一定でないこと、③予測リードタイムによって精度が変わること、④均し効果で誤差が小さくなることである。③④は風力発電の予測精度評価にも共通する。

①夜間の出力は常にゼロで予測的中率100%となるため、これも評価に含めると高精度に見せることができる。日の出から日没の間で評価するのが誠実な方法だが、その時間帯は季節や地域によって異なる。これは②のトラップへつながる。地球の公転により季節ごとに太陽高度と日射量が変化し、夏至付近は冬至の約2倍の発電ポテンシャルがある。加えて自転の影響により、日の出・正午・日没で出力上限値が大きく変動する。緯度や経度の違いも加わるため、発電量の“理論上の上限値”は季節・時刻・場所で変わり続ける。これが意味することは、予測精度をパーセントで示す場合に、比較基準をそろえるための計算式分母が一定しない=太陽光の予測精度はパーセントで評価することができないという構造的な問題がある。

そもそも評価目的の本質は、発電量予測の精緻さそのものではなく、インバランスコストをどれだけ抑えられるか、すなわちビジネスとしての有効性ではないだろうか。これを見る一つの指標として【単位容量当たりのインバランスコスト】という切り口はどうだろうか。これは“インバランスコスト積算値 ÷ AC容量”で算出され、値が小さいほど望ましい。インバランスコストをAC容量で正規化することで、発電所やBGの規模に寄らず、ビジネス視点で予測性能を公平に比較できる。気象要因だけでなく、インバランス価格の不確実性も考慮した総合的な予測性能を評価できる点で、実務的な指標である。ただし、インバランス単価や評価期間をそろえるなど、比較条件の統一が前提となる。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

大阪・関西万博が閉幕 次世代エネ技術を感じる場に


大阪・関西万博が10月13日、閉幕した。「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、国内開催では過去最多となる158の国と地域が参加。184日の会期を通じ、2005年の愛知万博を上回る2500万人超の来場者があった。最先端技術がめじろ押しとなった中で、エネルギー分野のパビリオンも注目を集めた。

電力館には約82万人もの来場者が足を運んだ
提供:電気事業連合会

電気事業連合会が出展した「電力館 可能性のタマゴたち」では、来場者がタマゴ型デバイスを使って、最先端のエネルギー技術を体験できる仕掛けを用意。核融合などの壮大なテーマから、廃棄されるうどんを原料に発電する「フード・エネルギー・サイクル」まで、多彩な展示が並び、約82万人が来場するなど好評を博した。岡田康伸館長は、「全身を使って楽しみながら学べる展示体験が好評で、次世代を担う子どもたちに、エネルギー問題を自分ごととしてとらえ、考える機会を提供することができた」と振り返った。

日本ガス協会が運営した「ガスパビリオン おばけワンダーランド」では、最新のXR技術を駆使したアトラクションが人気を博した。69万人を超える来場者が案内役のキャラクター「ミッチー」と共に都市ガス業界の取り組みや「eメタン」について学んだ。大阪ガスの担当者は、「ガスパビリオンでの体験が、子どもたちにとってエネルギーの未来を考えるきっかけや原体験になればうれしい」と語った。      エネルギーを身近に感じる機会を提供した両パビリオンの試みは、次世代の可能性を開いたと言えよう。

脱炭素&デジタルが世界の潮流 ZEHはGX住宅に進化


【業界紙の目】荒川 源/月刊スマートハウス 発行人

GXの大胆な予算措置で、暮らしや住宅・建築物の省エネ深掘りが加速し始めた。

ZEH水準を超えたGX志向型住宅も登場し、新築市場を中心にさらなる拡大が予想される。

今年の世界経済には、地政学的緊張、技術革新、環境問題、そして金融政策の変化が絡み合い、複雑な影響を及ぼした。何といっても米大統領選で再選したドナルド・トランプ大統領の政策断行は世界中の人々が注目している。同氏が掲げるMAGA(Make America Great Again)をスローガンに挙げた大胆な貿易政策決定は、貿易摩擦を引き起こし一時は未曾有の米景気減退の事態となった。米国一強で世界経済が回っていないことが露呈し、同時に米経済の及ぼす相応の影響力も知らしめた。世界貿易は断片化し、企業はサプライチェーンの再構築や地域の再選定など事業継続するための選択を余儀なくされている。

片や、脱炭素は相変わらず各国で叫ばれつつ、再生可能エネルギーやクリーンテクノロジーへの投資が増加している。加えて、経済のトレンドとしては、どこもかしこもデジタル化と技術革新をAI元年のようにうたうようになった。バイオテクノロジーや持続可能な技術への投資も加速している。地政学的リスクや金融市場の不安定性が経済に影響を与える中で、技術革新と持続可能性への移行は進み、AIや再エネ分野への投資が新たな経済成長の可能性として期待される。

GX予算で住宅業界のCN対応が加速する

この脱炭素化とデジタル化、二つの世界的テーマを組み合わせた取り組みがわが国でも取り沙汰されている。それがGXである。

未来のための合言葉として国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)では、世界各国が「2050年までのカーボンニュートラル(CN)の実現」を表明しているが、この目的達成にGXは大きな役割を持つ戦略として国際的な潮流ともなっている。また、投資家が環境、社会、ガバナンスに配慮した企業に投資するいわゆるESG投資の機運も高まっており、GXへの取り組みも企業の価値を高める上で重要視される。


住宅業界の対応加速へ 制度・支援を充実

そもそもGXとはグリーントランスフォーメーションの略称であり、一般的には化石燃料中心の産業・社会構造から、クリーンエネルギー中心へと転換するための経済改革などあらゆる取り組みを指す。わが国は10年間で官民合わせて150兆円を超える投資を実現し、脱炭素と経済成長を両立させるという。GXを加速させるためのエネルギーをはじめとする個別分野の取り組みとして「蓄電池」や「次世代自動車」など19もの分野でカテゴライズされている。再エネ拡大のための電力系統の整備やCO2排出を抑制する製鉄技術、太陽光発電や蓄電池産業の拡大の他、日本が技術力を保有する分野がある。再エネは単にそれを増やすのではなく、それを抑制して市場システムに組み込む政策を加速させる。

その19のカテゴリーの中には、住宅業界として「くらし」と「住宅・建築物」が主な対象となっている。「くらし」では、日本の温室効果ガス排出量は消費ベースで約6割を家計が占めるとされていることから、GX製品をはじめとする脱炭素型の製品・サービスの価値が評価・選択され、国民の暮らしに浸透することで、光熱費の削減や快適性、生産性の向上を目指す。エネルギーの自立化によるレジリエンス向上も目指しつつ、需要側から国全体の脱炭素をけん引することを目的とする。

北川進氏らがノーベル化学賞 気体貯蔵など幅広い応用に期待


今年のノーベル化学賞を京都大学特別教授の北川進氏ら3人が受賞することが決まった。気体の貯蔵などに役立つ新素材「金属有機構造体(MOF)」を開発した功績が評価された。日本人の化学賞受賞は、19年に旭化成名誉フェローの吉野彰氏が受賞して以来9人目だ。

日本人9人目となる化学賞を受賞した北川進氏
提供:時事

MOFは金属イオンと有機分子を組み合わせたもので、内部には無数の微細な穴が並ぶ。素材の組み合わせを変えることで、特定の物質を狙って取り込むことができ、CO2の回収や水素、天然ガスの貯蔵など、幅広い応用が期待されている。

北川氏は1980年代から、近畿大や東京都立大、京都大と拠点を移しながら、MOFの先駆けとなるPCP(多孔性配位高分子)の研究に注力してきた。95年から2003年にかけては、大阪ガスと共同研究を行っていたという経緯がある。

1995年当時、同社はガスの吸着・貯蔵を目的に、PCPの研究に取り組んでいた。その中で、学会に参加した担当研究員が北川氏と意気投合したことをきっかけに共同研究が始まった。北川氏が97年に発表した論文では、同社研究員も共著者として名を連ねている。

藤原正隆社長は、研究員の上司として同分野に携わっていたこともあり、今回の受賞にひときわ強い思いを寄せる。「当社は約10年間、共同研究などでご一緒させていただいた。その成果が少しでも、今回の栄誉あるご受賞に結びついていたたなら、大変喜ばしく思う。長年にわたるご尽力と情熱を結実されたことに、心から敬意を表します」と祝いのコメントを寄せた。

産油国は増産継続 引き続き不透明な価格動向


【マーケットの潮流】橋爪吉博/石油情報センター事務局長

テーマ:原油価格

量こそ縮小傾向にあるものの、OPECプラスは増産を続けている。

国際情勢の変化や産油国の思惑が複雑に絡み合い、価格動向は不透明だ。

OPECプラスの有志8カ国は、10月5日のウェブ会議で、石油市場の健全なファンダメンタルズと堅調な世界経済成長見通しを踏まえ、10月に続いて11月も日量13・7万バレルの減産緩和(増産)を確認した。市場観測に沿った10月の増産を継続する合意だが、今年5~9月の増産幅(日量41・1万バレル)を圧縮する内容であり、翌6日のアジア市場では想定内として、わずかながら反発した。

産油国はシェア確保を狙っているのか


毎月の生産協定見直し カルテルの新形態

減産緩和・増産を開始する今年3月以前、OPECプラスには3段階の減産合意があった。ベースとなる生産量(22年10月)に対して、①経済制裁あるいは内戦中のイラン・リビア・アルジェリアの3カ国を除く参加国20カ国による協調減産(日量200万バレル、2026年末終了予定)、②サウジアラビア・ロシアなど主要有志8カ国による自主減産(日量165万バレル、今年4月から縮小中、26年末終了予定だった)、③有志8カ国による追加自主減産(日量220万バレル、終了)─の三つである。今回の決定は10月に続いて、②の緩和・増産を延長するものだ。

3段階の減産合意は、ウクライナ戦争に伴う対露経済制裁によるロシア減産の回避(ロシア原油輸出先の中国・インドなどへのシフト)、米欧の利上げ(22年下期)による世界経済の減速を主な要因とする原油価格軟化に対応したものだった。ただ、②③は23カ国の全参加国による合意が難しかったため、減産を必要と考える、あるいは減産の余裕がある主要8カ国の合意による「自主減産」という形式にしたのであろう。

本来、カルテル組織における増減産・生産調整は、あくまで全メンバーによる基本生産量に対するプロラタ(均等割当)が基本である。自主減産はカルテル組織としては異例の考え方で、OPECプラスのカルテル構造は二重化したものと考えるべきだ。したがって、有志8カ国の自主減産の解消が優先され、8カ国会合で決めることになる。

OPEC時代には、増減産時は常に総会(臨時総会を含む)を開催して生産協定を決めていた。組織として、生産協定の対象期間の世界の石油需要量の想定を行い、そこから非OPEC産油国の供給量を控除したものをOPEC需要量(Call on OPEC)として、OPEC生産量を決定していた。考え方はOPECプラスも変わらないが、意思決定については、全加盟国で合意できないことが多く、機動的な対応とは言えない状態だった。その意味で、毎月ウェブで主要8カ国が会合し、生産協定を見直す体制は、カルテル組織として一種の「進化」と言えるかも知れない。

OPECプラスは、米国のシェール増産・最大産油国化に対抗するため、16年秋、サウジアラビアとロシアを中心に設立された。OPEC加盟国13カ国とロシア・カザフスタンなど非加盟産油10カ国の協力組織である。世界第2位の産油国であるロシアと第3位のサウジによる2位・3位連合、あるいは「石油同盟」とも言える。世界の石油生産シェアも、OPECだけで32%だったものが、OPECプラスで54%となった。17年初めに生産調整を開始、20年には新型コロナウイルス禍の減産方針を巡って一時決裂したが、その直後、日量970万バレルという史上最大の減産合意を実施し、パンデミックによる需要激減を乗り切った。世界的な脱炭素化に対応するため、またロシアの戦費調達のために価格維持の方針を優先した時期もあった。

しかし、ウクライナ戦争の副産物である「世界の分断」やグローバルサウスの勢力伸長による気候変動政策の世界的退潮で、最近は産油国がかつての自信を取り戻し、長期を見据えた「シェア回復」方針に回帰したように見える。すなわち、途上国の経済成長に伴う「オイルピーク」(石油需要が最大になる時期)の先送りを前提に、当面はシェア確保によって需要量増加に伴う石油増収を図ることが有利との考え方に変化したのではないか。特に、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)といった生産余力を有する産油国ではその傾向が強い。


需要予測に大きな差 中国の不気味な動き

ただ、この点については、参加国には米国を中心とする経済制裁に直面し、生産量拡大は難しく高価格を望むロシア・イラン・ベネズエラも含まれている。今回の減産緩和も規模を巡り、サウジとロシアが対立したと言われており、留意が必要だ。

増産姿勢を示すサウジは慎重に対応している。今回の合意では、増産幅は前月(日量13・7万バレル)据え置きで、前々月(日量41・1万バレル)の約3分の1だった。しかも、過去に違反増産を行ったイラクやアゼルバイジャンなどに対しては、24年以降の合意違反の超過生産分を生産量から相殺することを約束させている。

今後の石油需要の伸びについて、国際エネルギー機関(IEA)は25年を前年比日量70万バレル増、26年を同60万バレル増との予想に対し、OPECは25年同130万バレル増、26年同140万バレル増と予想しており、倍近い差がある。OPECの強気見通しに従えば、OPECプラスの増産方針も理解できる。そもそも、双方の短期見通しのズレも、オイルピークの時期やピーク数量といった長期見通しの想定のズレに起因している気がしてならない。

一方、中国は現在、石油の戦略備蓄を積み増していると言われている。多くの関係者が需給緩和・価格下落を予想する中で積み増ししているのは、理由が分からず気味が悪いが、サウジの増産姿勢の要因となっていることは間違いないだろう。今後の原油価格動向は「不透明」としか言いようがない。

はしづめ・よしひろ 1982年中央大学法学部卒、石油連盟事務局入局。在サウジアラビア大使館二等書記官、石連流通課長・企画課長・広報室長などを歴任。2019年から現職。

ETSの制度設計進む 11月以降機微な論点に着手


来年度に始まる排出量取引制度(ETS)の議論が進んでいる。年末の取りまとめを目指し、経済産業省の事務局はこれまでに排出枠割り当ての勘案事項や水準などを提示。ただ、カーボンリーケージ(多排出産業の移転)などの個別論点は11月ごろ、制度の根幹となる取引価格の上下限価格の具体的水準は12月以降となる予定。制度設計の本番はこれからだ。

成長志向型CPとするためにリーケージ対策は必須だ

排出枠の割り当ては、エネルギー多消費産業が業種別ベンチマーク(BM)、それ以外は毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング(GF)方式だ。発電部門の場合、発電BM水準を基準活動量にかけて算定。BMは2028年度までは100%燃種別とし、以降は全火力平均の比率を徐々に高め、30年時点で全火力40%、燃種別60%とする。ややこしい仕組みだが、電力需要増が見込まれる中、さらなる過度な火力退出を防ごうとする配慮の跡が見える。

制度全般で特に事務局が気をもむのがリーケージ対策だ。収益に対する排出枠調達コスト比率が一定水準を超える場合、不足分の一部を翌年度の割当量に追加する案が出ている。多数の委員が理解を示す一方、NDC(国別目標)との整合を求める一部委員が懸念を示している。

多消費産業関係者は「今の方針なら30年ごろまでは大きな負担にならなそう」とみる。ただ、「化学業界などは各社作っているものが全く異なり意見集約が難しい。また、GFとなる中規模企業はこの仕組みで本当にいけるのか。さまざまな論点があり12月までに全ての議論が終わるのか疑問」とも続ける。

復興再生利用の取り組みで前進 政府一丸で45年県外最終処分実現へ


【環境省】

インタビュー:小田原 雄一/環境省 環境再生グループ長

福島原発事故に伴い発生した除去土壌の復興再生利用に向けた取り組みが今年一段前進した。

20年後までの福島県外最終処分実現に向け、現在地や今後のポイントを環境省担当幹部に聞いた。

―来年で福島原発事故の発生から15年です。除去土壌を巡る進ちょくをどう評価しますか。

小田原 除染は今も「特定帰還居住区域」で継続し、2020年代をかけて帰還意向のある住民が地域に戻れるよう必要な箇所の除染を進めています。さらにこの1年間ではいくつか動きがありました。法律で定めている45年3月までの福島県外最終処分の実現に向けて、昨年12月に閣僚会議を設立し、今年5月に基本方針を、これをさらに落とし込む形で8月に当面5年間のロードマップを策定しました。

環境省での復興再生利用の現場を視察する浅尾慶一郎環境相(左)ら


まずは理解醸成が重要 実用途での事例を創出する

小田原 同県での実証や有識者の助言を踏まえ、除去土壌の再生利用の基準として1㎏当たり8000ベクレル以下といった基準を定めました。また、復興再生利用の必要性・安全性についてご理解を深めていただくため、この基準を満たし復興再生利用に用いる除去土壌を「復興再生土」と呼称することを、9月に立ち上げた有識者会議の意見を踏まえ決定しました。そして、7月から先行的に官邸や中央省庁の花壇などで復興再生利用を進めており、10月13日に施工を完了しました。

―今後、霞が関以外の各府省庁の庁舎などでも復興再生利用し、その知見を生かして実用途の先行事例を創出する方針です。

小田原 8月末時点での除去土壌の量は約1400万㎥で、その4分の3が1㎏当たり8000ベクレル以下です。45年までの最終処分実現に向けては、復興再生利用を最大限進めることが鍵となります。

復興再生利用の拡大には、まず理解醸成が重要です。これまで若者向けの講義やワークショップ、また幅広い層に向けたパネルディスカッションなどを適宜開催してきました。加えて官邸・霞が関での利用が新たな一歩につながればと思います。そして今後全国規模で展開する上では、さらにさまざまな課題をクリアする必要があります。

そのためにも必要な先進事例の創出に関しては、公共事業・施設や、安定的な事業継続が見込める民間での土地造成・盛土・埋立てへの利用などを想定しています。どの程度の範囲で、どの程度の量を見込むのかなど、具体方針はこれから検討します。

―30年ごろに、実用途における復興再生利用のめどを立てるとしています。

小田原 例えば、除去土壌全体量のうち、どの事業にどの程度、復興再生利用するかのめどを30年ごろに示したい、といったイメージです。


最終ゴールに向けて 自治体からは道筋求める声

―最終処分の実現に関しては、30年ごろに処分場候補地の選定・調査を始めるとの目標ですが、どんな方針で進めますか。

小田原 これほど大規模な原発事故に伴う除去土壌の処分は世界で例がなく、数多の課題をクリアする必要があります。今後5年間で、まずは最終処分の管理終了の検討、中間貯蔵施設内での土壌取り出し・運搬に関する検討に優先して取り組みます。

その他、最終処分・運搬のために必要な施設、減容技術などの効率化・低コスト化の検討に向けた技術開発、全体処理システムとしての安全・効率的な運用の検討、最終処分場の立地の技術面や社会的受容性に関する検討、地域共生の在り方の検討などを、段階的に丁寧に進めていきます。これらの取り組みを、候補地選定のプロセスの具体化、そして候補地の選定・調査につなげていく考えです。

―これまでに示した最終処分の四つのシナリオを基に、35年めどで処分場の仕様を具体化、候補地を選定するとしています。

小田原 今年3月に環境省が取りまとめた25年度以降の進め方では、減容技術の組み合わせで①減容しない、②分級処理、③分級+熱処理、④分級+熱処理+飛灰洗浄―といったシナリオを提示しています。①から④に向かうほど、最終処分量や必要面積は減少しますが、減容処理コストは逆に上昇していく見込みです。まずは必要な技術的検討を進めた上で、先述の有識者会議で施設整備の在り方や効率性、そして社会的受容性などを踏まえ、検討を重ねます。

―高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定では、原子力発電環境整備機構(NUMO)が調査地点の公募を始めてから23年経ち、決定にはまだ時間がかかる見込みです。一方、除去土壌では時間的な区切りがある点に難しさがあるかと思います。

小田原 政府の取り組みに対して、福島県や県内自治体からは、ロードマップで示した内容を一定の前進としつつも、「45年までの全体工程として、県外最終処分への確実な道筋を示すべきだ」といった声が出ています。こうした意見もしかと受け止めながら、45年までの最終処分実現に向けて引き続き政府一丸となって取り組んでいきます。

おだわら・ゆういち 京都大学工学部土木工学科卒。同大学院工学研究科修了。1994年建設省入省。道路局道路交通管理課長、復興庁参事官、環境省大臣官房審議官などを経て今年7月から現職。

ユニークな発想でガス会社の殻を破る 逆境に打ち勝ち持続的な成長を実現


【事業者探訪】NEXT・カワシマ

茨城県央のひたちなか市を中心にプロパンガス販売事業を展開する。

生活に寄り添うさまざまなサービスで、地域になくてはならない存在になろうとしている。

茨城県の勝田、那珂湊の2市が合併し1994年に誕生したひたちなか市。県央地域に位置し、旧勝田市は日立製作所の企業城下町として発展した工業都市であり、旧那珂湊市は漁業の町として栄えた。国営ひたち海浜公園は、ネモフィラの名所であり、開花シーズンの春になると県内外から多くの観光客が訪れる。

川島プロパンとして1958年に創業したNEXT・カワシマは、そんな同市を中心に水戸や日立市といった周辺のエリアでプロパンガス供給を手掛けている。他の地方都市と同様、人口減少や大手事業者の参入による顧客争奪戦の激化は大きな経営課題。こうした逆境下でも持続可能な成長を目指そうと、3代目の川嶋啓太社長の陣頭指揮の下、価格勝負の過剰競争からは距離を置き、顧客とのつながりを基盤とした経営への転換を図っている。

3代目の川嶋啓太社長

根底にあるのは、このままでは5年、10年後に現在と同水準の利益を維持し続けることはできないという危機感だ。創業60周年を迎えた2017年に現在の社名に変更。「NEXT」には、ガス会社のイメージを払しょくし、お客さまの次のニーズに応え、新たな価値創造に挑戦し続けるという、100年企業への決意を込めた。

プロパンガスのみならず、住宅リフォームや水回りのメンテナンスといった周辺事業も手掛け、何かあったら「NEXT・カワシマに頼ろう」―、そう思われるような存在でありたいという。


地域のつながりを創出 収益確保に着実に貢献

川嶋社長は、「ガス会社の後継者として修業するべきではないか」という家族の反対を押し切り、大学卒業後はベンチャー企業でソーシャルメディアマーケティングに携わった。そのノウハウを生かし、従来のガス会社の殻を破るユニークな発想で取り組んでいるのが、「ファンマーケティング」だ。

生活に役立つだけではなく、地域での生活に楽しみや住民同士のつながりを生むようなサービスを提供することで同社に愛着を持ってもらう狙い。そのための仕掛けとして、本社から半径20㎞圏内の地域住民を対象に会員サービス「らぽくらぶ」を展開している。

イベントは多くの地域住民でにぎわう

ガスの契約者は月額100円、契約者以外でも300円で会員になることができる。「楽しい」「安心・安全」「おトク」「便利」をキーワードにさまざまなサービスを提供。中でも「楽しい」をキーワードに展開しているのが、かつて自社敷地内で開催していた「ガス展」を発展させたイベントであり、熱気球体験や地引網漁体験といった地元ならではの体験や豆まきなどの季節の催しを月1回のペースで開催している。

また、住宅機器や給湯設備、水回りの点検・修理など暮らしの困りごとに対応する「ネクストサポート」では、生活の困りごとを抱えた際に、初回は無料で駆け付けるサービスや、社員2人が1時間3000円で草むしりなどの作業をお手伝いすることで「便利」を提供し、暮らしの「安心・安全」を支えている。急な給湯器トラブルの際には、都市ガスや電気給湯器のユーザーであっても、ガスボンベを持って「お湯レスキュー」に駆け付ける。

さらには、会員証を提示することで地域の飲食店や美容室など約150店舗で割引などの優待を受けられる「おトク」な仕組みも、会員に喜ばれている。

これらにより、ガスを契約していない住民との接点づくりにつながっているのに加え、地元のお店と会員を橋渡しすることで地域内での経済循環を促進。同時に、ガス供給先である連携企業の離脱を防いだり、逆に新たな顧客を紹介してもらえたりといった同社の本業との相乗効果が生まれている。

実際、問い合わせ件数は2020年比で30%増加、ガス器具や住宅リフォームといった物販売り上げは、会員サービスを開始する前よりも3倍に拡大するなど、顧客数の維持と利益の確保に確実に貢献している。


他社にノウハウ提供 業界常識打ち破れるか

同社が供給するプロパンガス価格は、LPG輸入価格(CP)と連動させ極めて明瞭。顧客と料金の値引きなどについて話すことはないが、大手事業者が安値攻勢をかけても離脱は起きていない。これが、「地域のつながり」という強固なプラットフォームを作り上げたことの大きな成果だと言える。

今後は、こうしたファンづくり戦略のノウハウを体系化し、価格競争で窮地に陥っている同業他社に販売していくことを模索している。地域社会で顧客との強い接点を持つガス会社であれば、この手法を共有することで顧客単価の向上と切り替え防止、そして中小事業者は資本力の差で大手に勝てないという業界常識からの脱却は可能だとの確信がある。ひたちなかの小さなガス会社が、業界に新しい風を吹かせようとしている。


【地域の魅力発信】干し芋

茨城県の名産といえば「干し芋」。100年ほど前に静岡県からひたちなか市那珂湊に製造法が伝わり、現在同市は日本屈指の生産地として名をはせている。

ふかしたサツマイモの皮をむき、薄くスライスして乾燥させる。ミネラル分や食物繊維を多く含んでいるため、健康食品としても注目度が高い。イモの品種によって異なる味わいや食感を楽しめる。

年内の地元同意なるか KK再稼働へ「知事判断」秒読み


「年内決着」へ前進している。柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、新潟県議会は10月16日、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官や東京電力の小早川智明社長などを参考人招致し、連合委員会を開催した。国や東電にとって、県の要望に対して回答する「後出し小出しなしの一発勝負」(高橋直揮・自民党新潟県連政調会長)の場となり、国は避難道路の全額国費での整備(1000億円超)、事故時の避難所整備(約100億円)などを表明。東電は継続的な稼働を前提に、10年程度で計1000億円規模の資金拠出や1、2号機の廃炉に向けた具体的な検討方針を打ち出した。

新潟県議会に出席した東電の小早川智明社長(手前右)とエネ庁の村瀬佳史長官(最前列右)ら
提供:朝日新聞社

翌日には案の定、地元紙の新潟日報が社説で「カネで再稼働を買おうとしているのであれば、県民を愚弄する姿勢である」と批判を展開した。自民党内には「1000億では足りない。3000億円に増やせ」と訴えるベテラン県議がいるが、県連幹部は「そんなことを言ったら東電の経営はどうなるのか」と冷ややかだ。「踏み込んだ回答だったので良いのではないか」(別の自民県議)というのが、党内のもっぱらの受け止めのようで、柏崎市内では「東電にカネを出させるのか」「廃炉はもったいない」との声もある。

県は11月中旬以降、県民意識調査の詳細結果を公表する予定だ。これを受け、花角英世知事が再稼働の是非を判断し、12月議会で県民の意思を最終確認する流れが想定されている。数々のハードルを越え、再稼働論議は最終コーナーを回った。師走は新潟に熱い視線が注がれることになる。

経産省主導の様相呈す高市新政権 電力期待の一方で思わぬアキレス腱も


「国が原子力政策を本気で進める地合いが整った」。10月21日、大手電力幹部は高市新政権についてこう評した。

新官邸の布陣を見ると〝経産省主導〟の様相だ。電力業界の期待が高まる一方で思わぬアキレス腱も見えてきた。

憲政史上初の女性首相に就任した高市早苗氏にとって、自民党総裁選での勝利から長い、長い3週間だったに違いない。連立与党の相手だった公明党が離脱し、首相の座を射止められるか危うくなった。就任前からつまずいた形になったが、日本維新の会を新たな連立パートナーとして引き込み、晴れて第104代首相に就いた。

自民党は公明党の退潮を受け、相当前から水面下で新たなパートナー探しに着手。中長期的な視野に立ってのことだったが、石破茂政権時に2度の国政選挙で衆参ともに過半数割れの状況に陥ると、連立相手探しが本格化した。衆参で伸長した国民民主党か、安倍晋三政権時代からのパイプを生かして維新か。この2党に照準を合わせていた。

天皇陛下から任命を受ける高市首相
提供:朝日新聞社

ある自民党議員は「これらの動きは公明党の票が頭打ちの状況が顕著になってきたことに起因する。将来にわたって政権維持するためにはプラスαの相手が必要になるという戦略からだ。もちろん自公に加えるという認識だった」と話す。

「維新との連立の予兆は7月ぐらいからあった」。こう語るのは、ある霞が関関係者だ。「維新の遠藤(敬)首相補佐官が毎年吉本興業とバーベキュー大会をやる。それに各省庁の幹部、職員も大勢参加するが、今年は林芳正さんが来た。1時間はいましたね。ビートルズの『レッド・イット・ビー』を熱唱されていましたが、これは『あるがままにする』という連立へのラブコールだったのではないかと見る向きが出ました」

自民党が維新との連立を模索していた証拠に、石破政権の官邸関係者も参院選の投開票前に「過半数割れした場合、連立の新パートナーは維新が最優先だ。ただ公明党が大阪で競り合っているのでここがクリアできれば」と話していた。

公明党の連立離脱という想定外の出来事が自民党のアクセルを全開にした。高市新執行部で政調会長に就いた小林鷹之氏を中心に維新側と急接近。大臣ポストや副首都構想の実現など維新側に有利な条件を提示し、心を揺さぶった。「公明党の離脱は渡りに船、障壁がなくなって晴れて維新との連立がしやすい環境が整った」(自民党関係者)との見方が大勢だ。維新側も公明というタガが外れたことで連立に踏み出せたに違いない。


安倍政権との類似点 GXは原子力が軸に

高市政権は安倍政権と似ている。閣僚は財務相に片山さつき氏、経済安全保障相に小野田紀美氏が就いた。安倍政権が「お友達内閣」と言われたが、高市首相の人事も安倍政権を彷彿とさせる身内人事になった。

官邸スタッフは経済産業省の官僚を中心に固めた。政務の首相秘書官に前経済産業事務次官の飯田祐二氏を配した。経産省からは事務秘書官として親原子力派として知られる香山弘文氏を付け、「経産省政権」と言われた安倍官邸を見ているかのようだ。嶋田隆・元経産事務次官が政務秘書官を務め、安倍政権の流れをくんだ岸田文雄政権とも通じる部分がある。

霞が関の事情通は「官僚に伝手のない高市氏はスタッフの人選に相当苦労したようだ。政務の秘書官に安倍政権で懐刀だった今井尚哉氏を招へいしようとしたが、さすがに断られたという(内閣官房参与に就任)。固定の職を持っていなかった飯田氏は断れなかったようだが、エネ政策通だけに業界は喜んでいるだろう」と述懐する。

その通り、この布陣はエネルギー政策には明るい。特に連立相手の維新が要求しているガソリン暫定税率の廃止は強力に進めていくことになる。高市政権最初の焦点は年末までに暫定税率廃止にめどがつけられるかであり、飯田氏を中心に政策が作られていくことになるだろう。

グリーントランスフォーメーション(GX)も原発を軸にした色彩を一段と強めてこよう。原発推進派が官邸を仕切ることで、東京電力柏崎刈羽など長期停止原発の再稼働や安全審査の進展のほか、新増設・リプレース、革新炉開発にも弾みが付くとみられ、電力業界関係者からの期待は大きい。

すでに永田町界隈では早期の解散総選挙の憶測が流れている。ある永田町筋は「ガソリン暫定税率にめどをつければ、維新が要求する議員定数削減を争点に年明け早々解散に打って出る可能性は十分にある」と話す。

この想定が実現するにはまずは内閣支持率の高さが重要になるだろう。初の女性首相という話題や刷新感から発足当初は高い支持率になるだろうが、じきにそのご祝儀もなくなる。永田町では早いうちの解散説が絶えないのはそういう理由もある。


女性支持の低さがネック 経済対策で行き詰まるか

ただ一つ気になるデータがある。自民党総裁選で党員・党友票の4割を獲得した高市氏だが、男女別比率は8割が男性だったという。残り2割の女性票も夫など家族とともに高市支持に回ったもので「純粋な女性支持は得られていない」(自民党関係者)との分析だ。高市氏にとっては女性票がアキレス腱になる可能性があり、今後の各種調査での支持層の男女比率に注目する必要がありそうだ。

威勢のよさが支持の源になっている高市氏だが、解散に打って出るとすれば維新との候補者調整が難航しそうだ。特に関西では自民党内からも反発が予想され、足元がおぼつかない。円安を主因とする物価高の継続は国民生活を圧迫しており、高市氏が自ら標榜する積極財政を推し進めれば、さらなる円安もあり得るだけに経済対策で行き詰る可能性も否定できない。

苦しい現状から打破するために高市氏が主義主張を改変させるようなことがあれば、それはそれで保守層からの支持を失うジレンマに陥る。新たな連立相手を射止め、かろうじて船出した高市新政権の前途は多難だ。

高市政権が原子力推進を前面に エネルギー政策でも「脱公明」


新政権でエネルギー政策はどう変わるのか。10月21日、高市早苗内閣が発足した。注目の人事は、経済産業相に前経済再生担当相で日米関税交渉を担った赤沢亮正氏が就任。茂木敏充外相とのコンビは、米国対応を強く意識した布陣と言える。赤沢氏は衆院原子力問題調査特別委員長を務めた経験があるが、エネルギー観は未知数。原発再稼働や洋上風力公募といった重要課題が山積しているだけに、その手腕が注目される。

それぞれの分野で手腕が問われる新閣僚たち

環境相には元環境副大臣の石原宏高氏が就いた。衆院環境委員長を歴任するなど環境行政に精通し、省内には歓迎する声がある。兄の石原伸晃氏も過去に環境相を務めており、兄弟での就任となった。

事務方の官房副長官には、前警察庁長官の露木康浩氏が着任した。官僚トップとされる同ポストは、岸田文雄政権以来の警察庁復権となった。主席首相秘書官には前経済産業事務次官の飯田祐二氏が就任した。こちらも岸田政権の嶋田隆氏以来の経産省出身者となる。飯田氏は明るい性格で、他省庁からの評価も高い調整型として知られる。首席秘書官に経産省出身者が就任することについては「財務省と違い、経産省は大きなビジョンを描ける」との期待が根強い。

同省からは、政策統括調整官の香山弘文氏も秘書官として官邸入りする。香山氏は原子力畑が長く、2011年の東日本大震災後には原発再稼働に尽力。原子力国際協力推進室長などを経て近年は経済安全保障室長を務めるなど、高市首相や自民党の小林鷹之政調会長が重視する経済安保に詳しい。香山氏について、小林氏に近い自民党議員は「仕事がバリバリできる。人当たりも良いし、必ず次官になる人」と高く評価する。


次世代炉開発を加速 エネ料金補助はまた復活

自公政権から「自維政権」となり、エネルギー政策の優先順位は変化した。昨年10月の石破茂政権発足時に自公が結んだ連立合意書では、エネルギー項目の冒頭に「50年カーボンニュートラル(CN)」「30年温室効果ガス削減目標の達成」が並んだ。しかし、自維の合意書には「CN」「温室効果ガス」というフレーズは一度も出てこない。代わって登場したのが、従来の原発再稼働推進に加え、次世代革新炉・核融合の開発加速化やメガソーラー規制だ。どちらも高市氏と小林氏が重視する分野で、後者は来年の通常国会で法的規制を実行すると明記した。

業界にとって喫緊の関心事は物価高対策の行方だ。就任早々、高市首相は臨時国会でガソリン税の旧暫定税率廃止を目指すと明言し、電気・ガス料金補助を盛り込んだ補正予算の策定を指示した。料金補助は23年1月~24年5月まで続いたが、その後は夏冬限定で3度復活している。業界を巻き込みながら、新政権はエネルギー政策を前進させられるだろうか。

(フォーラムレポートで詳報)

日本のDRの歴史と共に歩んだ10年 需要側リソース拡大へ電化の促進担う


【エナジープールジャパン】

インタビュー:エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO

仏デマンドレスポンス(DR)サービス大手、エナジープールの日本法人が設立から10年を迎えた。

市村健社長は「日本のDRの歴史は当社の歴史とシンクロしている」と、この間を振り返る。

―設立から10年、日本の電気事業制度において果たしてきた役割をどう振り返りますか。

市村 ある政府幹部から「日本のデマンドレスポンス(DR)の歴史とエナジープールジャパンの歴史が重なりますね」と、ありがたい言葉を頂戴しましたが、それはともかく、DRの意義は、この10年間で大きく変わりました。10年前は、東日本大震災後の供給力不足に陥っていた中で、需要のピークを抑制するために実施されていました。現在はそれ以上に、大量導入された太陽光発電を最大限に活用するために、フレキシビリティ(需要の柔軟性)を提供する役割が期待されています。DRの担い手を「アグリゲーター」と呼びますが、今はむしろ「フレックスプロバイダー」と呼ぶのが適切です。

―市場の在り方や商慣行が違い、フランスのサービスを単に持ち込んだだけではうまくいかなかったのではないでしょうか。

市村 欧州では電気はコモディティ商品ですが、燃料をほぼ全て輸入に依存する日本では必ずしもそうではありません。そういう意味で、私が日本人であり、大手電力会社出身で日本の電気事業の現場・現実を一定程度理解していたことで欧州ノウハウを日本に合わせやすかった、ということはあるかもしれません。資源エネルギー庁の審議会委員として制度議論に参画していますが、DRの現場・現実と制度議論の間にはギャップがあると実感しています。例えば、制度設計上、DRは負荷ですが、実際にDRの前線にいるのはクライアントです。双方を理解し、そのギャップを埋める意識は常にあります。

円滑なDRの発動のため需要家との協議を重ねている


経済DRでkW抑制 猛暑の需給に貢献

―確かに需要家にも生産計画があり、電力需給の都合で変更を強いることはできません。

市村 そうです。例えば、今年の夏は相当暑かったため、これまで通りであれば発動指令電源への発動が頻発してもおかしくなかった。ところが、この暑さでもHI需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)はそれほど伸びていません。要因の一つとして、経済DRがうまく機能し、kW時(電力量)は増えてもkW(電力)を抑えられているという仮説は成り立ちます。これは、電力業界と需要家にとってウィンウィンの状態だと言えます。需要家によるDRを単なる負荷と捉えるのではなく、お客さまとしての需要家ときちんとコミュニケーションできる関係を築けたことは、この10年間の一つの大きな成果です。


系統混雑回避の機能提供 熱利用分野の電化が不可欠

―今後、電力需要が急拡大する可能性が示唆されています。ビジネスへの影響は。

市村 そうした新たな局面においては、結局のところ系統混雑をどう解消するかが大きなテーマとなります。系統増強は社会コストが膨らみますから、インフラを維持するために必要なコストは最低限投資しつつ、需要側で混雑回避を図る実務が非常に重要になるわけです。

50万、27万5000Vの上位2系統の混雑処理は、TSO(一般送配電事業者)の役割です。ところが、太陽光の多くが接続されるのはローカル系統や配電系統であり、この領域での混雑処理の担い手は、小売り事業者側のバランシンググループ(BG)にならざるを得ない。つまり、日本の電気事業は今後、TSOとBGが協働しながら成り立たせていく時代に向かっていく。そうした中でフレックスプロバイダーには、小売りBGに系統混雑回避の機能を提供し、協働しながらローカル系統以下に接続されている太陽光の価値を最適化、最大化していくという役割を果たすことが求められることになるはずです。

―50年に向けた展望は。

市村 わが国の経済が再生を果たすためには、一次エネルギー自給率を高める必要があります。そのためにも大手電力会社には原子力発電所の再稼働と新増設にまい進していただき、政府にはバックエンド政策を着実に進めていただくことを期待しています。青森県六ヶ所村の日本原燃の再処理工場は、自給率と安全保障を担保する切り札になり得ますから、必ず竣工・稼働していかなければなりません。

一方で、導入された太陽光は最大限に活用するべきで、それには、需要側のリソースをさらに拡大していく必要があります。蓄電池も有効ですが、レアアースやレアメタルの集合体である限り経済安全保障の観点で問題があります。それよりも需要側のリソースをIOT化し活用することで、太陽光を出力制御することなく使い切ることが、カーボンニュートラル(CN)時代に目指すべき姿です。

本当に50年CNを目指すのであれば、最終エネルギー消費の約7割を占める化石燃料の直接燃焼に由来する熱利用を電化することは不可欠です。熱利用を電化すれば、おのずとフレキシビリティを提供するための需要側リソースは増え、それによってさらに電化が加速するという好循環が生まれます。50年に向けて必要なのは、何よりも電化の促進であり、当社としても小売りBGとともにその役割を担っていく覚悟です。

いちむら・たけし 1987年慶応大学商学部卒、東京電力入社。米ジョージタウン大学院MBA修了。原子燃料部、総務部マネージャーなどを歴任。15年6月に同社創業。