【気象データ活用術 Vol.9】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表
再生エネルギー関連で「予測」と「シミュレーション」は、気象データが主役級に活躍できるサービスの一つであろう。ただ、この違いをしっかり認識した上で用語を使い分けている方はまだ多くないように思われる。そのため当連載の機会をお借りし、用語の整理をご紹介したい。
再エネの文脈において「予測」とは、気象視点から見ると、発電の翌日計画の作成がその代表的なイメージである。つまり、翌日の気象状態を表現した気象“予測”データを入力し、翌日の発電量予測値を出力することを指す。

一方で「シミュレーション」とは、ターゲット発電所で期待できる発電量を月単位、または年単位の積算値で推計したり、それからさらに収益見通しを推計したりすることなどが該当する。つまり例えば、太陽光発電所を新規開発する際、建設予定地にそれが数年前から稼働していると仮定して、現地における気象“過去実況”データ(現地の観測データや気象衛星データなど)を活用し、これまでどのくらいの量を発電してどれだけ収益を出せたか模擬実験したのち、得られた結果を基に未来の発電量や収益性を月〜年単位などで推計することを指す。
それぞれを端的に言うならば、予測は「気象予測技術によって未来を予測」し、シミュレーションは「気象観測データが示す過去の事実を基に期待値を推計」する作業と説明できるだろう。前者は未来方向のみ顔を向けているのに対し、後者はまず過去を振り返った後にその延長線上としての未来を見るイメージである。
以上のことにより、予測技術開発をご依頼いただく場合とシミュレーションをご依頼いただく場合とでは、利用する気象データが全く異なる。
予測技術開発に活用するのは、主に数値予報データである(数値予報については本誌6月号にて解説済み)。過去時点における数値予報データ(気象予測値)と、過去の発電実績データとを教師データとしてAIに学習させ、予測モデルを開発する。日々の発電運用の際には、完成した予測AIモデルに数値予報データを入力することで、翌日ターゲットの発電量予測値を時系列データで出力させる。
シミュレーション作業に活用するのは、願わくは、現地ピンポイントでの観測データ(日射量・気温・風向風速など)であるが、それは入手不可能のことが多い。太陽光発電所を新設する場合は、主に気象衛星データの雲分布から地表面の日射量を推定したデータなどを活用することになる。風力発電所を新規開発する場合は、実際に現地にて数年の風況調査を実施して得た観測データでシミュレーションを実施し、収益性を精査する。
本稿が皆さまのビジネスシーンにおいて、用語の理解を共有し合い、同じ認識の下でスムーズな対話を進める一助となれば幸いである。予測とシミュレーションは混同されやすく、立場の違いによって前提も異なるため、用語の概念を共通化することが実務では重要と感じている。

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