燃料費調整制度導入の経緯/燃料電池自動車の普及状況
Q 燃料費調整制度が導入された経緯を教えてください。
A 同制度は、火力発電に使う原油、LNG、石炭の価格変動を、小売り電気料金に自動的に反映させる仕組みです。料金改定時に決められた基準燃料価格と、貿易統計価格に基づいて算定した実績燃料価格の差を一定期間後に電気料金に自動的に反映させます。自由化前の1995年の電気事業審議会報告での提言に基づき96年から順次導入・改定が進みました。自由化後も規制料金に引き継がれただけでなく、多くの自由料金メニューにも類似の仕組みが採用されています。
規制料金では、転嫁されるのは自社の燃料調達価格ではなく全日本平均輸入価格の変動で、調達努力不足で自社だけが高値で輸入しても救済されません。この点で、燃調調達価格低減の誘因にも考慮しています。
導入が議論された当時は、原油安および円高により規制企業である電力事業者に差益が出る構造で国民の不満が高まりました。事業者は暫定的な料金改定で差益を還元していましたが、迅速性と透明性に欠けるとの批判が高まり、この制度が導入されました。
その後の原油価格高騰局面では、自由競争企業はその価格転嫁に苦労しているのに電力会社はコスト高を自動転嫁できるのは不公平との批判もあったようですが、燃料価格が下落すれば電気料金は下がる上下対称の公平な制度と考えるべきです。しかし現在の規制料金では調整の下限はないのに上限が定められ、燃料価格の異常な高騰時に料金改定をして基準価格を変更しない限り費用を転嫁しきれない事態も起こりました。今後制度見直しも検討される可能性があります。なお都市ガスに関しても類似の原料費調整制度があります。
回答者:松村敏弘/東京大学社会科学研究所教授
Q 燃料電池自動車(FCV)の普及は進んでいるのでしょうか。
A 今年3月末時点で日本にはFCVが約8900台普及しています。しかし、日本が世界に先駆けて2017年に発表した水素基本戦略ではFCVの普及目標を20年に4万台としており、目標達成には程遠い状況にあります。
その理由は、水素ステーションの普及の遅れです。現在、日本には約160カ所設置されています。先の水素基本戦略では20年に160カ所を目標にしていましたので、数年遅れで目標は達成されましたが、多くの場合、日中のみや平日のみの営業で、場所によっては週に数日しか営業していないこともあります。それはFCVが少なく、水素ステーションの経営が成り立たないためです。
さらに、水素価格の問題もあります。FCV販売開始当初は多くの水素ステーションで1kg当たり1100~1300円でしたが、製造原価の上昇や収益面での課題から、現在は同1650~2300円になっています。FCVの「MIRAI」を満タン(5.6kg)にする場合、1万円以上に上りハイブリッド車に比べてコスト優位性がなくなっています。
現在、普及の力点は乗用車ではなく商用車(トラック、バス)に移りつつあります。商用車であれは確実な水素需要が見込め、水素消費量はFCVの20~50倍なので、水素ステーションも採算がとりやすくなります。日野自動車とトヨタ自動車は共同開発した大型トラックの販売を10月に開始しました。また、国は5月、東京都や愛知県など5地域を商用車導入の重点地域に定めました。国の目標は、30年に小型トラックは累計1.2万〜2.2万台、FC大型トラックは累計5000台、FCバスは年間供給台数200台となっています。その意味で、FC車両普及の正念場はこれからです。
回答者:丸田昭輝/テクノバ フェロー



