【技術革新の扉】核融合発電の産業基盤構築へ日本のモノづくり技術を結集

核融合発電実証プロジェクト/京都フュージョニアリング

産学連携の核融合発電実証プロジェクトが概念設計を完了した。

目指すは一大産業サプライチェーンの構築だ。

長らく「夢のエネルギー」と言われ研究開発が進められながら、その実現は遠い未来の話と目されてきたフュージョン(核融合)エネルギー。今や中国、欧米といった各国、企業が早期の産業化を目指した研究開発を加速させ、将来のエネルギー覇権を掌握しようとしのぎを削っている。

そのような中、昨年11月、京都大学発のスタートアップ企業である京都フュージョニアリングが、2030年代の発電実証を目指す産学連携プロジェクト「FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)」の「概念設計」を完了したと発表。国内外の核融合業界に衝撃を与えた。

プラント模型を携える世古社長(中央)ら


プラントの概念設計完了 世界の技術開発競争に肉薄

概念設計は、技術的・工学的な実現可能性に加え、安全性や経済性などの評価を行いプラントの基本的な仕様を決める、実証への最初の重要なプロセスだ。フュージョンプラントの概念設計の完了は国内企業として初であり、世界でもほとんど例がないという。

同社とプロジェクト全体を統括する子会社「Starlight Engine」の社長を兼任する世古圭氏は、発表後に国内外の研究機関や産業界から大きな反響があったことを明かし、「核融合炉は建設が始まると大幅な設計変更ができず後戻りができない。概念設計の完了は商用化への非常に大きなマイルストーンであり、日本が世界に先んじていることを印象付けることができた」と、その意義を強調する。

発電実証プラントの完成予想図

「FAST」は、1万kWの設備容量で15分間発電を継続することを目標に据えている。これは、商用機として想定するプラント規模の10分の1から5分の1のサイズに相当する。特筆すべきは単なる実証にとどまらず、核融合産業基盤の根幹形成を目指している点だ。「核融合反応(D―T)を起こす燃焼プラズマの生成、維持」「エネルギー変換システム」「燃料増殖と燃料サイクルシステム」「保守メンテナンス」といった、発電に必要な全ての要素技術を結集した装置により統合的な実証を行うことで、日本のモノづくり技術を生かした産業基盤構築を狙う。

プロジェクト名の通り、核融合炉には高温の水素ガス(プラズマ)を強力な磁場で閉じ込める「トカマク式」と呼ばれる方式を採用している。ヘリカルやレーザーといった他の方式も研究開発が進んではいるものの、量産化を目指すからには、全て同じ性能を出せるプラントを製造できなければならない。「ITER(イーター、国際核融合実験炉)」など既存のプロジェクトを通じ、他を圧倒するプラズマ生成のデータが蓄積されているトカマクを選択することは、「サイエンスの観点からも最適解」なのだ。

一部では、トカマクには急激なプラズマ崩壊(ディスラプション)のリスクがあるとの指摘もあるが、世古氏は「ディスラプションは現状ではトカマクの弱点だがAIによる新しいプラズマ制御などの研究が活発に行われ、安全に回避する運転条件が見えており解決可能な課題だ」と懸念を一蹴する。

プラズマ加熱システム「ジャイロトロン」


民間資金で社会実装を実現 日本の産業再生の切り札に

今後は具体的なプラント建設を進める上で必要な工学設計のプロセスに入る。28~29年頃には建設着工したい考えで、そのためのサイトの選定や整備、認可手続き、部材の調達などを進めるには時間的猶予はあまりない。今後1~1年半が勝負だ。

5000億~7000億円規模に上るプロジェクト費用は、民間資金でも賄う方針。それは「ただの科学技術として終わらせるのではなく、市場に認められながら社会実装していくことに価値がある」との信念からだ。重工業や素材・化学、電機・電子機器、金属・非鉄金属、エンジニアリング、さらには金融・投資などフュージョン産業のすそ野は広い。地方自治体からは早くも建設地候補としての名乗りが上がり、人材の集約を含めた新たな周辺産業の創出を通じた地方創生への期待もかかる。

「日本に残された数少ない産業再生の切り札。研究機関や産業界の多くの企業を巻き込みながら、日本に一大サプライチェーンを作り上げていく」(世古氏)

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2026年2月号)

植物由来の燃料/LPガスとクマ被害防止

Q カーボンニュートラル燃料となる植物由来原料にはどんな種類があるのですか。

A カーボンニュートラル燃料に用いられる植物由来原料は多様で、トウモロコシ、さとうきび、廃食用油、微細藻類などを対象に、実装から研究開発まで幅広い取り組みが進んでいます。原料の特性に応じて、発酵、化学改質、ガス化など異なる燃料化技術が適用されています。

糖質・デンプン系原料であるトウモロコシやさとうきびからは、発酵プロセスによりバイオエタノールが製造されており、ガソリン代替燃料として既に供給されています。これらの原料は、陸上輸送用燃料にとどまらず、後段の化学変換を経て航空分野への展開も検討されています。

廃食用油は油脂系原料として、バイオディーゼル燃料や改質処理による再生可能ディーゼルの原料に利用されています。近年は、この再生可能ディーゼル製造技術を応用し、持続可能な航空燃料(SAF)を生産するプロジェクトが各国で活発化しており、実用化が進む有力な原料の一つと位置付けられています。

さらに、ポンガミア(Pongamia)のような油糧樹木もSAF原料として注目されており、種子から得られる植物油を用いた燃料製造プロジェクトが進展しています。

また、微細藻類は高い生産性と多様な成分特性を有する原料として注目されています。培養条件の制御により油脂や炭水化物を生成でき、将来的なSAF原料候補として研究・実証プロジェクトが進展しています。

このように、植物由来原料は多様な形で燃料化が検討されており、とくにSAF分野では原料の選択肢拡大とプロジェクトの加速が顕著となっています。

回答者:森山 亮/エネルギー総合工学研究所カーボンニュートラル技術センター部長


Q LPガス業界ではクマ被害の未然防止にどう取り組んでいますか。

A 2025年は全国的にも類を見ないクマ被害が全国各地で頻発した年でした。中でも東北6県は過去にない人的な被害が多発し、特に秋田県では秋以降、県内各地で人的被害が発生し、ついには災害派遣という名目とは別次元にて、自衛隊が県内各地に派遣される事態となりました。専門家集団はクマ被害根本対策をと叫び、「クマ類の個体数管理と市街地出没に求められる専門的捕獲体制を考える」と諭されても、現実問題として今夜・明朝でも街中に現れ、生活圏が人間と同一に近い環境となりました。

LPガス業界は、自動検針が普及し合理化が進んではいますが、安定供給の根幹をなす定期的な容器等配送業務や法規制などにより期限が定められた各種業務の円滑・適正な実施などへの影響が県内関係者へのアンケートなどから徐々に明確になってきました。

個々の事業者においても、爆竹・笛・クマ除けスプレー、朝夕の業務時間を避けるなど対応に当たりました。協会として、LPガス関連業務に従事する全ての方々、県内22万戸を超えるお客さま双方の安全について業界としてできることは何か―。そこで「熊被害の未然防止を図っているため、一部業務に支障を及ぼすかもしれないのでご理解とご協力をお願いします」とのチラシを作成し、ガス販売事業者を介して周知活動を行いました。併せて、10月下旬から11月中旬にかけてチラシと同内容のテレビコマーシャル70本を県内民報3社を利用し放映しました。

連日被害が出る中でやるしかなかったというのが正直な気持ちです。一刻も早く、クマ騒動は収まったという雰囲気となることを望みます。

回答者:舩木和昭/秋田県LPガス協会専務理事

【業界コラム/需要家】ETS上限価格が意味すること

昨年12月19日、排出量取引制度小委員会で2030年に向けたGX―ETSの制度案の詳細が承認された。年間CO2直接排出量10万t超の300~400事業者を対象とした排出権取引制度が今年から本格稼働する。

とはいえ政府は、「50年カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立」を担保するために産業界との対話を進め、排出枠の設定に当たっては産業セクターの実態を踏まえたベンチマーク方式・グランドファザリング方式で当面の事業継続に必要な無償枠を配賦した上で、削減技術の進展に合わせて漸減していく方式を採用した。さらに活動量の変動や国際競争の実態を踏まえて今後も適宜見直しを図るとし、産業界からも一定の理解を取り付けたようだ。

大きな課題として残るのが、排出権の上下限価格(CO2排出t当たり1700~4300円)の設定とその運用だろう。投機を回避しつつ一定の削減対策を進めるために上下限価格を設定することはETSの制度設計としては正しい。しかし炭素価格の上限が当面4700円に設定されるということは、排出削減にそれ以上のコストをかけるインセンティブがなくなることを意味する。

ところが本制度の対象企業には、それよりはるかに高くつく削減対策を行い、その費用を製品に転嫁して回収する「グリーン製品市場」の創出に取り組む鉄鋼やセメント、グリーン燃料事業者などがいる。上限をはるかに上回る炭素価格を製品に転嫁することが削減投資を進める上で必要となる多排出産業に対しては別途、ETSの外で炭素価格転嫁の仕組みを用意することが必要となる。(T)

【識者の視点】化石燃料重要視の米安全保障戦略

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所〈CIGS〉研究主幹

米国の国家安全保障戦略では「ドンロー主義」が注目されるが、エネルギーも重要な柱だ。

エネルギー政策の位置付けについて、CIGSの杉山大志氏が解説する。

トランプ政権のエネルギー政策を全体的に理解できるのは、エネルギー政策に特化した文書よりも、むしろ昨年11月に発表された国家安全保障戦略である。わずか33ページという簡潔な文書であるが、トランプ政権の国家安全保障に関する姿勢がはっきりと述べられている。

そこでは、エネルギー、特に天然ガスなどの化石燃料を国家安全保障における重要事項として位置付けている。すなわち、エネルギーこそ、産業振興、AIなどの科学技術における優位性の確保、そして経済成長といった国力の根幹にあるという認識である。

昨年11月に発表された国家安全保障戦略


欧州の政策を否定 ネットゼロなどの失敗指摘

同文書の「経済安全保障」の項の下には「エネルギー・ドミナンス(優勢)」という小見出しがある。その末尾では、欧州のネットゼロ政策について、次のように明確に拒否している。

「石油、天然ガス、石炭、原子力における米国のエネルギー・ドミナンスを回復し、そのために必要な主要エネルギー部材の国内回帰を進めることは、最重要な戦略的課題である。安価で豊富なエネルギーは、国内での高給職を生み出し、消費者と企業のコストを引き下げ、再工業化を促進し、AIのような最先端技術における米国の優位を維持することにつながる。エネルギー純輸出を拡大することは、同盟国との関係を深め、敵対国の影響力を低下させ、米国の国土防衛能力を守るとともに、必要な時と場合には米国が力を投射することを可能にする。われわれは、欧州に甚大な害を与え、米国を脅かし、敵対国を補助してきた『気候変動』や『ネットゼロ』といった破滅的なイデオロギーを拒絶する」

なお欧州については、別途項目を立てて米国の認識を述べているが、これがまた極めて手厳しい。

まずウクライナの戦争は早期に停戦し、ロシアとの「戦略的安定」を再構築することが米国の国益だ、と明確に述べている。そして、ウクライナ戦争勃発後にドイツが中国への依存をますます高めているという矛盾を指摘した上で、極めて不人気な政権が、非民主的なやり方で反対派を弾圧しているとして批判している。これはドイツAfD(ドイツのための選択肢)に対するドイツ政府の弾圧などを念頭に置いてのことだ。そして、欧州の国民の大多数は、ウクライナでの停戦を望んでいるにもかかわらず、それが欧州の政策に反映されていない、と次のような文面で批判している。

「ウクライナにおける戦闘の迅速な停止を交渉することは、欧州経済の安定化、戦争の意図せざる拡大とエスカレーションの防止、ロシアとの戦略的安定の再構築、そして戦闘終結後のウクライナ復興による国家としての存続を可能にするため、米国の核心的利益である。(中略)ウクライナ戦争は、欧州、特にドイツの対外依存度を高めるという逆効果をもたらした。今日、ドイツの化学企業は中国に世界最大級の加工プラントを建設中だが、その原料となるロシア産ガスは自国では入手できない。(中略)トランプ政権は、不安定な少数与党政権に支えられた欧州当局者たちと対立している。これらの政権の多くは、反対派を弾圧するために民主主義の基本原則を踏みにじっている。欧州の大多数は平和を望んでいるが、その願望は政策に反映されていない。その主な理由は、これらの政府による民主的プロセスの破壊にある。これは戦略的に重要な点である」

【業界コラム/再エネ】国産にもひそむ地政学リスク

ロシア・ウクライナ情勢や中東地域の不安定化は、燃料価格の高騰や供給不安を通じて、日本のエネルギー安全保障の脆弱性を改めて浮き彫りにした。再エネは、化石燃料輸入への依存を低減する「国産エネルギー」として期待されるが、直ちに海外依存からの脱却を意味するわけではない。設備製造の上流に目を向けると、再エネも国際的な資源・部材供給網に深く組み込まれているからだ。

国内の主流である太陽光発電では、シリコンからセル、モジュールに至る主要工程の生産能力の約8~9割以上が中国に集中しているとされる。

日本が輸入した太陽光パネルの約87%は中国製、国内製造はわずか5%で縮小傾向にあると言われ、設備供給面での依存度は極めて高い。こうした供給構造の下、中国の太陽光製造などの拡大により、2025年から今年初頭にかけて国際的な銀価格は大きく上昇。この影響は日本の電子部品産業にも広がっている。

風力も状況は似ている。大型風車の製造や制御・モニタリング技術では、欧州メーカーが世界市場の約6~7割を占め、運用データや保守体制まで含めた技術的依存が進む。為替や欧州の産業・政策動向の影響を受けやすい点は看過できず、燃料輸入からは解放されても、設備・技術という別の形の地政学リスクを抱え込んでいるのが実情だ。

再エネの自立性を高めるためには、発電量だけでなく、素材・部材レベルでの供給安定性をどう確保するかが問われる。その意味でリサイクルの高度化は日本が取り得る現実的な戦略であり、再エネを真に強靱なエネルギーにするための論点となるだろう。(K)

【原子力の世紀】米露軍縮交渉の空白を突く中国の核戦力増強

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

核軍縮の枠外にいた中国が、急速な核戦力増強で米露に迫りつつある。

中国は「米露の軍縮が先だ」と主張し、両国との協議に参加する気配はない。

「中国はまだビハインドの状態にあるが、われわれに5年で追いつく」。トランプ米大統領は大統領に復帰して以後、中国の核兵器増強への対処が急務だと説き続けている。

核兵器を巡る世界は、米露両国が2011年に結んだ新戦略核兵器削減条約(新START)以後の15年間で激変した。最大の変化は中国の核増強にある。さらに、北朝鮮が米本土を直接狙える大陸間弾道ミサイル(ICBM)を取得し、深刻さが増している。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、米露両国はいずれも、退役して解体待ちのものを含め、現在も5000発を超す核兵器を保有している。一方、新START締結当時の11年時点では、240発にとどまっていた中国の核兵器保有数は、現在600発に達している。核軍縮の枠外に置いていても大勢に影響がない存在だった中国が、無視できない状態に近づきつつある。

中国が出席しなかった20年6月の核軍縮協議
出所:米特使のX(旧ツイッター)


息をのむほどの核増強 INF条約の教訓

米戦略軍司令官は22年、米議会公聴会で、中国の核増強を「息をのむほどの勢い」と表現した。

中国の核保有数は20年には350発だったが、24年に500発、25年には600発強へと増えた。この勢いが続けば30年には1000発に達すると米国防総省は見る。さらに21年には、中国がICBMを収容する地下式格納施設(サイロ)を、甘粛省や内モンゴル自治区など西域の3カ所に350機も建造していることが衛星写真などで捉えられた。完成すれば中国はサイロの数でロシアを上回り、米国の4分の3に相当する数となる。新設したサイロへのICBM配備も開始、米国防総省は「DF(東風)31」とみられるICBMを100基配備したとみている。

仮に中国が最大10発の核弾頭を積める「DF―41」をサイロに配備すれば、理論上、核弾頭数は最大で3500発にもなる。米国の400発を大幅に上回る世界一のICBM戦力となる可能性が出てきた。

とはいえ、現時点では中国は3500発分もの核弾頭を製造するのに必要なプルトニウムを保有していない。ただ、南部・福建省で兵器級プルトニウムの製造に最適な高速増殖炉(FBR)2基の建設を進め、プルトニウムを分離する再処理工場の建設も15年から西部・甘粛省で始めた。計画通りに進めば、毎年、核兵器換算で80~110発分に相当する330㎏の兵器級プルトニウムを取得できる。核兵器増強の条件が整う。

中国の急速な核戦力増強が続くことで、今年2月に失効が迫る米露の核をめぐる軍備管理交渉はますます複雑化している。米露両国だけが核兵器の上限を設け、それを守っている間に、中国が核を増強して米露両国を追い抜く可能性が現実味を帯びてきたからだ。

実は米露両国は、核軍備管理条約を結んだ結果、中国などの競争国に劣後してしまった苦い経験を持つ。米ソが1987年に結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約のことだ。

【業界コラム/火力】設備の維持運用は万全か? 人材育成と技術伝承

日本の電力供給は、今も7割以上を火力発電に依存している。それにもかかわらず、国のGX(グリーントランスフォーメーション)政策では再エネ・原子力と系統運用に議論が偏り、火力の役割は政策課題の周縁に追いやられている。この構図は、再エネ拡大が進む中、最重要である安定供給を支える基盤を揺るがしかねない。

脱炭素に向け不可欠とされるカーボンフリー燃料(アンモニア・水素)やCCS(二酸化炭素回収・貯留)も、既存の火力技術との連携・発展を前提として初めて現実味を帯びる。また、再エネの変動を補完し需給バランスを維持する上でも、火力は「過渡期のバックアップ」を超える役割を担う必要がある。

それでも、将来技術には一定の光が当たる一方で、深刻なのは既存設備の老朽化が進む中、設備の維持・運用を支える人材と技術が失われつつあることだ。新技術の開発と並行して、経年火力の効率的な運転・保守を担う現場力を着実に継承する必要がある。

経産省の「次世代電力・ガス事業基盤構築委員会」など一部の場では火力の課題も取り上げられつつあるが、政策全体での位置付けは依然として弱い。今年の夏季には一部地域で供給力不足の懸念が指摘されているが、足元を乗り越えなければ、そこで詰みになってしまう。経年火力のための人材確保や技術伝承は、最重要ではなくても最優先に取り組むべき課題だ。 GX政策の議論では、革新的技術に注目するとともに、既存の火力を「過去の遺産」としてではなく、移行期の中核的リソースとして再定義し、政策議題の中心に据え直すことが不可欠である。(N)

【リレーコラム】気候変動問題解決はまずはエネルギーの現実を知ることから

竹内純子/国際環境経済研究所理事

 昨年、ブラジルで開催された地球温暖化防止国際会議・COP30は、あまりに高額なホテル代に気持ちがなえて参加を見合わせたが、それまで長年、COPに参加を続けてきた。そこでは気候変動問題に熱心に取り組む多くの若者との出会いがある。気候変動が深刻化するにもかかわらず、大量の温室効果ガス排出を伴う経済活動を続ける大人に対して彼らが怒りを持つのは当然で、自らの時間と労力を割きこの問題に声を上げる彼らのことは尊敬しているし、そうさせてしまっていることを大人の一人として申し訳なく思う。

しかし、エネルギー事業に携わった経験のある身としては、彼らが上げる「CO2排出を減らせ」というシュプレヒコールに違和感があるのも事実だ。エネルギー事業において燃料費の削減は大命題だ。エネルギーは顧客体験で差別化できず、価格が選ばれる鍵だ。燃料消費量の削減は競争力を大きく左右する。もしエネルギー事業者が新たな技術の導入をためらっているとすれば、コストや安定性など、何らかの課題があると推測すべきなのだ。この違和感を若者に投げかけてみると、彼らは驚くほどエネルギーの現場を知らないことが多い。生活必需品であるエネルギー価格の高騰が生活弱者や中小企業に与える打撃、供給の不安定化による不便やそれに備えるためのコスト、大規模排出源と言われる産業セクターの技術改善・開発に向けた取り組みを理解することは、課題解決に向けた議論の「前提」として必要だ。


すれ違いを埋める取り組みに尽力

しかし、日本に限ったことではないが、学生時代、エネルギーについて統合的に学んだり、現場を訪れる機会はほとんどない。小学校の理科で豆電球や乾電池を使った実験をし、社会あるいは歴史の話としてオイルショックについて勉強する。総合的学習の時間にSDGsについて学び、その文脈で気候変動問題について問われる。そこにはエネルギーの現実も現場もない。これでは議論がすれ違って当たり前だ。そのことに気が付いて筆者は昨年、東京都の支援も得て、若者に発電所や製鉄所を訪問し、現場の担当の方たちと議論する場を提供することに力を入れた。

10年も経てば、彼らの中から、課題解決に貢献する技術やサービスを提供する若者が出てくるかもしれない。30年も国際的な交渉を続けるよりも、このほうが社会課題解決の早道ではないかとすら思う。今年もこうした取り組みによって、エネルギー問題を統合的に、かつ臨場感を持って理解してもらうことに微力を尽くしていきたい。

たけうち・すみこ 東京大学大学院工学系研究科にて博士(工学)。慶応大学法学部卒業後、東京電力入社。独立後、U3イノベーションズを創業し、東北大学特任教授や各種政府委員を務める。

※次回は、作家の北康利さんです。

【業界スクランブル/原子力】日本は60年運転後の準備を

一般的に工場や生産設備の設計では操業期間の想定が必要である。初期投資や運転保守費用を回収して収益を上げるに十分な長さが必要な一方、無限に長く使えるように設計するのはコストが過剰となる。そのような配慮で設備の供用期間を設定して合理的設計をするのは原子力も同じで、安易に「炉寿命」と呼ぶのは誤解を生じる。当初設定の供用期間の終わりが近づいた段階で、リプレースするか使用延長するかを比較検討する。

減価償却済みの生産設備は強い競争力を持つので、経年劣化を評価し必要な部品交換で使用延長が可能な場合には、大規模な初期投資が必要な新規建設より有利になる。わが国の原子力も60年運転への延長が今後続く。廃炉は営業キャッシュフローを喪失し、むしろ新設を困難とする。

さて、米国では運転中の原発94基のうち、新しい3基を除いた91基の全てが60年運転に延長する見込みだ(認可済み87基、申請中3基、申請予定1基)。さらに、ほぼ半数が80年運転の手続きをしている。閉鎖した2基の運転再開すら含まれている。

わが国では既設33基のうち、60年運転の認可済みは8基で全数の4分の1と遅れている。操業時期が早かった原発を福島事故後、多数廃炉にしたことが原因である。いずれ60年はもとより、電気事業法を改正して80年が可能なように制度を改めなければならない。それが必要となる時期は今から10年先、原子炉等規制法による60年以降の長期施設管理計画の認可を受ける時である。新規建設の資金捻出と設備容量増加のため、経産省と電力業界はしっかりと準備を進めてほしい。(H)

【メディア放談】〝浜岡ショック〟で始まった2026年の不安と希望

〈業界人編〉電力・石油・ガス

今年も話題に事欠かないエネルギー分野。業界は何を恐れ、どこに活路を見出すのか。

─仕事始めの1月5日に衝撃的なニュースが飛び込んできた。中部電力・浜岡原子力発電所の審査で不適切事案が発覚した。

石油 基準地震動を過小評価して原子力規制委員会に報告していた可能性がある。7日の会見で山中伸介委員長は「明らかな捏造であり不正である」と厳しく批判した。昨年12月19日に規制委に報告が上がった時点で、いつ公表するか議論になったはずだ。年末は泊や柏崎刈羽など再稼働を巡って政治が目まぐるしく動いていた。政策を後退させかねない話題は年明けに、という判断だったのだろうか。

ガス「結構寝かせたな」という感想を持った。広報的にはどこかに抜かれるのだけは避けたいので、規制委に報告が上がった時点ですぐにリリースしたい。静かな年末年始だと思っていたが、担当部署は総出で想定問答を作っていたのかな……。

石油 会見翌日の1月6日は朝日と毎日が1面トップ、読売と日経は1面、産経は2面だった。電気新聞は7日に1面だったが、トップ記事ではなかった。

ガス この座談会を行っているのは1月上旬だが、左派系の新聞は規制委で自然災害分野を担当していた石渡明前委員や、「活断層」の有識者会合を主導した島崎邦彦元委員らのインタビューを載せてきそうだ。4日には、2006年に金沢地裁で志賀2号機の差し止め判決を下した井戸謙一氏のロングインタビューを掲載していた。

電力 万が一、各事業者が地震動の見直しを迫られたら大変だ。山中委員長は「ほかの事業者の調査はしない」と言ったが、世論がどうなるか。ほかのサイトの再稼働はともかく、美浜のリプレースなどに影響しなければいいが。

石油 メガソーラー規制が強化され、洋上風力はとん挫、原子力も立ち行かなくなれば、第7次エネルギー基本計画は見直しを余儀なくされてしまう。エネ基は必要があれば再検討する建て付けになっているので、今年見直されてもおかしくはない。

電力 50年カーボンニュートラル(CN)に向けて「オントラック」ではなくなるかもしれない。現実路線に寄せて「70年CN」や「2100年CN」に変わっていくのかも。


グリーンが消えた紙面 今年こそ終わるか料金補助

─年末年始の新聞記事はどうだった?

石油 アメリカによるベネズエラ攻撃まで、エネルギーの「エ」の字もなかったね(笑)。一昔前なら、日経がDAC(直接空気回収技術)を一面に持ってきたこともあった。それが今や広告含めてもほとんど出てこない。現実的なエネルギー政策を考えるようになったのか、グリーンでは飯を食えなくなったのか。

ガス 東京は年末に国際大学学長の橘川武郎氏のロングインタビューを掲載していた。柏崎刈羽は売却して廃炉費用に充てるべきだったと、以前からの持論を展開していた。

電力 東日本大震災15周年特集が始まっているが、その直前に柏崎刈羽は電力供給を再開する。中電の問題と絡めて、メディアがどんな報道をしてくるか。衆院選後の予算審議に埋もれそうな気もするが。

石油 年末年始の話題を一つ思い出した。大みそかでついにガソリン税の旧暫定税率が廃止になった。軽油引取税の同税率も4月1日で廃止になる。「暫定」だから廃止すべきというのは正論だが、財政・税制・エネルギー政策を俯瞰して正しかったのかは疑問が残る。衆参で自公が過半数を握っていれば廃止はなかっただろう。将来振り返れば、自民が最も政治力を失っていた1年足らずの間に行われた愚策と評されるかもしれない。

ガス 自公過半数だった時代から続いている愚策が、電気・ガス料金補助だ。ニュースを見ていると、「今年値上がりする商品がこんなにあります」と言った後に、「でも、ガソリンや電気・ガス料金は安くなります」と紹介していてため息が出る。自治体に負担をかける直接給付などは時間を要するが、電力・ガス会社に任せればすぐにやってくれるという仕組みができ上がってしまった。

電力 国会の論戦でも、野党が政府に物価高対策について尋ねた時、最初に首相が回答するのが料金補助だ。野党も「それをやるのは当たり前」という雰囲気を出している。


新エネより燃料混合 凪のガスと荒波の電力

─今年の注目点は。

石油 脱炭素政策の減速と路線変更だ。石油業界の合成燃料だけでなく、都市ガスのeメタンも厳しい。やはりトランジションはバイオエタノールに象徴される「混合」が本命になる。そして、トランジションが50年以降も続いていくと思った方がいいのかもしれない。グリーン全盛の数年前には考えられなかったが、全く別の燃料に変えなくても飯は十分に食っていけるということだ。

ガス 電力に比べると大きな話題はない。強いて言えば、GX―ETS(排出量取引制度)を注視している。排出枠の上限価格が5000円を下回る4300円になったが、製造業の海外移転など価格を高くし過ぎるデメリットを懸念したのだろう。高ければ燃料転換の需要が出てくるのでビジネスチャンスだが、ガスも化石燃料なので業界としてはイーブンな立ち位置だ。

電力 再エネも気になるが、今はとにかく原子力のことしか考えられない……。

─総選挙でエネルギー政策は争点の一つになるのか。

【ワールドワイド/コラム】供給過剰と地政学リスク〈下〉 油価低迷と産油国の課題

国際政治とエネルギー問題

昨年12月16日、原油先物(WTI)は56ドルを割り込み、その後やや持ち直したものの年末終値は57.42ドル、年明け2日は57.32ドルにとどまった。3日に米軍がベネズエラを攻撃、マドゥロ大統領を拘束したにもかかわらず、第2週は57~59ドル台で推移した。

今年の石油需給の基調は供給過剰で、地政学リスクの顕在度との綱引きの年になることは必至だ。最大のポイントは、供給面でのOPEC(石油輸出機構)プラスの産油政策である。世界の産油量は増加し続けるが、増加幅がどれほどになるかが鍵だ。非OPEC諸国の供給は微増し米シェール原油も生産を増やす中で、OPECプラス有志国がどこまで減産を緩和するか(=増産できるか)が最重要ファクターになる。

OPECプラスは昨年4月から9月にかけて3度目の減産(日量220万バレル)を緩和(=増産)した後、油価への影響を考慮し11月に協調減産枠の今年末までの継続を決めた。さらに年明け4日、有志8カ国が3月までの増産停止を確認したことは重要である。IEA(国際エネルギー機関)の最新の見通しでは、今年の石油需給は年平均日量384万バレルの供給過剰となる。これはOPECプラスの減産緩和を前提とし、さもなくばさらに大幅な供給過剰になるだろう。直近の国別産油状況を見ると、11月はUAEが日量20万バレル、イラクが同37万バレル、カザフスタンが同32万バレル国別割当量を上回ったのに対し、「OPECプラス合計ではメキシコを除き同14万バレル生産枠に達しなかった。ナイジェリア、イラン、ベネズエラなどは低水準生産に甘んじている。

こうした不均衡の中で産油国は今年の財政収支見通しを発表したが、本年も油価が低迷すれば、財政への悪影響は避けられない。サウジアラビアは昨年12月2日、今年の国家予算を財政収支1660億サウジリアル(443億米ドル)の赤字と発表したが、深刻な様子は伝わってこない。

多くの産油国で財政均衡価格が上昇傾向にある中、各国は基本的に中長期的には石油依存脱却を目指すものの、サウジアラビアが未来都市プロジェクト(NEOM)の大幅縮小を含む経済改革計画を見直し始めたことが注目される。その中核プロジェクトである170kmに及ぶ鏡面ガラスの壁が伸びるザ・ライン(Line)の第1フェーズは当初、20区画の構想であったが3区画に限定すると報じられた。現実的な運営への移行は世界経済にとって朗報だ。資材コストの世界的高騰の一因はその基礎工事のための資材(基礎杭、コンクリート、鉄筋)の大量確保にあったとの見方もある。

産油国にとって昨年はOPECプラスの減産努力にもかかわらず、供給過剰基調の中で油価には下押し圧力が継続、財政の圧迫要因となった。長期的には石油依存からの脱却を目指しながら、不要不急・過大華美の計画を見直し、財政圧迫を回避するほかない。経済基盤の多角化と財政規律の確保という二大命題の達成が本年も課題になる。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

【業界スクランブル/石油】票にならない脱炭素政策

COP30は大きな成果がなく閉幕、脱炭素に向けての工程表作成も合意できなかった。そもそも、アマゾン流域の密林を背景に巨大な森林吸収源を有する一方で原油増産を続け、OPECプラスにオブザーバーを派遣、参加の意向を示している議長国・ブラジルの立ち位置すら分からなかった。年末にはEUも「2035年内燃機関車販売禁止」を域内自動車産業への配慮で見直した。世界的に脱炭素政策の後退が続く。

理由は単純だ。国民・有権者が「カネのかかりすぎる脱炭素政策」を拒否しているからだ。24年の欧州各国選挙では脱炭素重視の政権与党は全敗、政権交代した。欧州議会でも「緑の党」は大幅議席減である。インフレ・物価高で生活が苦しい中、電力料金に象徴されるカネのかかる脱炭素にノーを突き付けた形だ。左派政権の人権・環境優先では、物価高を招くだけだとの審判であろう。そういえば、東京都の小池百合子知事も脱炭素を言わなくなった。当分は猛暑と物価高との対決だ。

わが国でも、メガソーラーへの規制が選挙公約に登場したが、これまで脱炭素投資をあおってきた金融当局・大手金融機関の責任は重大だ。投資対象として重要だが、効率的に資金回収を図れる分野ではない。BP、シェルも脱炭素投資を縮小し、ENEOS・出光もこれにならった。対照的に、サウジ、UAEなどの主要産油国が石油・ガスへの自信を取り戻し、消費国との超長期の安定供給を前提とする産油政策に回帰したことも印象に残った。

今年は国内排出権取引(GX―ETS)が本格稼働する。長期的影響を踏まえた慎重な議論が必要だ。(H)

【ワールドワイド/コラム】燃料緊急輸送で運転手への規制を一時解除

海外メディアを読む

米政府はニューヨーク州など北東部の4州とコネティカット、メリーランド、マサチェーセッツ、ニューハンプシャー、ウェストバージニアの5州に対して昨年末から今年1月初旬にかけて暖房用燃料緊急輸送措置を出した。

昨年11月末にペンシルバニア州にあるエナジー・トランスファー社のマーカスフック・ターミナルで発生した停電事故により、プロパンガスローリーへの出荷停止が起き、同時期に米国北東部を襲った寒波の影響により暖房用燃料としてのプロパンガスユーザーの使用量の増加と重なり、プロパンガス供給がひっ迫したのだ。

その対応として全米プロパンガス協会(NPGA)は、運輸省傘下の連邦自動車運送安全局(FMCSA)に対し、暖房用燃料緊急輸送措置を要請した。暖房用燃料を輸送するローリー運転手に対して休憩なしで連続運転できる時間を定めた規制を一時解除するものである。寒波もあり需要家のプロパンガスタンクの在庫が減る心配が出てきたためで、安定供給に支障が出ることを回避するためでもある。

この緊急措置は寒波に伴って需要が増えるプロパンガス、天然ガス、暖房油などの供給不足が予想される輸送運転手に適応され、在庫の確保とローリー輸送の円滑化を図り、供給を滞らせないために、運転手の運転時間制限を緩和する緊急事態宣言をFMCSAが発出するもので、日本では同様の事象はとても考えらえない行政対応措置である。米国では冬場の寒波発生時にこのような供給不足が起こることが時々あるようだ。

米国のプロパンガス国内流通事情が外電のニュース(Bloomberg12月25日付)で報道されることは極めて珍しい。

(花井和夫/エネルギーコラムニスト)

【業界コラム/ガス】北電のガス設備買収にメリット見えず

昨年12月3日、JAPEXは北海道の「ガス製造・販売」「特定ガス導管事業」を北海道電力へ譲渡すると発表した。譲受価額310億円、実行は2027年3月期の予定だ。対象設備は勇払プラント、LNG基地・プラント、ガスパイプライン、LNGローリー出荷設備など幅広い。

しかし、今回の取引には違和感がある。北電は「ガスでもお客さまの暮らしを支え、ガス供給のレジリエンスを強化する」ことが目的と言うが、買収する勇払~札幌導管は「特定ガス導管事業者」に位置付けられ、一般需要家への販売はできない。ローリー営業も、長年の実績がある北ガス陣営の牙城を切り崩すことは簡単ではないだろう。そもそも苫小牧東港で石炭代替発電を狙うなら基地直結が本筋で、導管所有は必須でない。

燃料面でも、勇払基地は内航船向けの小規模な二次基地であり、大規模ガス火力の燃料源になるとは考えにくい。今後、泊原発の安全対策や老朽石炭火力の更新などで投資負担が重くなる中、ガス設備への大規模投資にメリットは見えにくい。

それでも北電が「勇払のガス設備+導管」を買う意図は何であろうか。思いつく考えの一つは、「北ガス依存を下げて交渉カードを獲得する」こと。現在、北ガスは苫小牧東港にLNG基地建設を検討している。仮に意思決定されると、石狩基地から苫小牧基地までがパイプラインによってつながり、北海道での都市ガス供給安定性は確実に強化される。老朽化する石炭からガス発電への移行が進む状況下で、都市ガスインフラを完璧に北ガスに握られてしまうことを、北電は何としても避けたかったのかも。(G)

【ワールドワイド/環境】気候変動に対する人為的影響への言及を削除 トランプ氏の意向汲んだ米EPA

昨年12月、複数メディアで米政権の環境保護庁(EPA)のウェブサイトの気候変動に関する公開コンテンツから、気候変動に対する人為的影響への言及が削除されたと報じられた。

以前の同サイトには、地球温暖化に対する人間の影響について明確な記述があった。これは多くの専門家に認められた研究に基づく。「人間の影響によって大気、海洋、陸地が温暖化していることは明らか」という記述は現在、完全に削除された。

また「1950年代以降の人間の活動が地球温暖化の主な要因である可能性が95%以上ある」との記述や産業、エネルギー生産、農業からの排出量に関する図表も削除されている。

現在のEPAのサイトでは、気候変動に対する自然のプロセスの影響に焦点が当てられている。地球の軌道の変化、太陽活動の変動、火山活動の影響、そして天然の温室効果ガスは、引き続き言及されている。以前は自然要因と人為的要因を一緒に扱い、区別していたにもかかわらず人為的要因が欠落している。

「最近の動向は自然要因だけでは説明できない」という指摘は引き続き記載されているが、人間の排出による地球温暖化との直接的な関連性に関する説明が欠落しており、記述はあいまいなままだ。さらに気候変動の指標と影響に関するページから「指標が人間の活動による排出量を特徴づける」との記述が削除された。

プレスからの問い合わせにEPAの広報担当者は、「この変更は日常的な編集作業であり、政府の政治的な優先事項を反映したもの」と説明している。

これらの一連の動きは昨年7月にゼルディンEPA長官が打ち出した、2009年の危険性認定の撤廃提案と整合したものであり、第1期に比してはるかに地球温暖化問題に対する否定的ポジションを強めたトランプ第2期政権の特徴を示すものである。

環境団体の「憂慮する科学者同盟」などは、エネルギー省(DOE)、EPA、温暖化問題の科学的根拠に疑念を投げかける報告書を作成した気候作業部会を相手取り、同部会や報告書の作成プロセスの違法性を主張する訴訟を提起している。EPAによる危険性認定取り消し提案が最終決定されれば、最高裁判所まで争われることになろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)