家庭用給湯器のさらなる省エネ・非化石化に向けた制度が取りまとめられた。
策定過程では議論が紛糾し、制度発足後も目標達成に向けた課題は多く残る。
2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて、需要サイドの取り組みの重要性が増している。特に、家庭のエネルギー使用量の3割を占める給湯器の省エネ・非化石転換は避けて通れないテーマだ。
経済産業省は23年4月に施行した改正省エネ法の下、給湯器メーカーに化石エネルギー消費量の削減目標を自ら設定・公表し、達成状況を報告させる新たな制度議論を進め、5月に「家庭用温水機器判断基準」として取りまとめた。
34年度を目標に、ヒートポンプ給湯器・家庭用燃料電池・ハイブリッド給湯器といった「高効率給湯器」と、「潜熱回収型(エコジョーズ)」、「その他給湯器」の出荷比率をおおむね4対4対2とする「定性的な目安」を示したものだ。
さらに、機種ごとの化石エネルギー消費量の算出方法(ガス給湯器はガスの使用量、電気給湯器は電力消費量の一次エネルギー消費量換算値に「化石エネルギー係数」を掛け合わせた値)を当てはめ、出荷見込みの台数で加重平均し、一人一台当たり5605MJという「定量目安」を設定した。
不可解な審議プロセス 問われた政策の整合性
議論の中で大きな争点となったのが、電気給湯器の算定根拠となる「電気の化石エネルギー係数」だ。この数値が低いほど電気給湯器の評価が有利になる。
この係数についてエネ庁事務局は、25年5月の専門家会合で「0・41」という数値を示した。これは21年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画における30年度の野心的な電源構成見通しに基づく。
他方で、事実として、電力会社がエネルギー供給構造高度化法で掲げる非化石比率目標や、電力各社の供給計画から算出される実際の火力比率との間には大きな乖離がある。専門家会合では、委員やオブザーバーから「実態にそぐわない数値に違和感がある。電力が有利だという誤解を招かないようにするべきではないか」「係数はメーカーの努力の範囲外であるため、慎重に議論していただきたい」と、電化を促す制度となることへの懸念が相次いだ。
これに対し、資源エネルギー庁は「第6次エネルギー基本計画は、国が責任を持って示した最も予見性の高い数字といえる指標であり、これ以外の客観的な数字はない」との立場を崩さなかった。第7次エネ基は、40年に幅を持たせた見通しを示すものの、30年の電源構成の数字自体は改定していない。
その後、1年間の空白を経て突如開催された会合には、前回会合で大きな懸念を示した委員の姿はなかった。
最終的に、係数を含む主要な論点は「前回決定事項」として扱われ、反対意見は反映されないまま取りまとめられた。
目標達成に高いハードル 業界横断的取り組みを
新基準に対する業界の受け止めはどうか。日本ガス石油機器工業会は「自社の機種ラインナップに応じて各社の戦略で目標を組み立てられる柔軟性」を評価する。
一方で、継続審議中である機器銘板への化石エネルギー消費量の表示の在り方が消費者の誤解を呼ぶリスクを懸念する声が上がる。大手ガス関係者は「銘板やカタログに機器の実際の性能と関係のない化石エネルギー消費量を表示することは、消費者の誤解を呼びかねない」と訴える。

出典:資源エネルギー庁
さらに大手電力関係者も「現行制度には省エネと省CO2という二つの評価軸が併存し、計算方法も異なることが消費者にとって分かりづらい」と問題視する。
もっとも、メーカーに対する規制の議論とは別に、普及の現場には多くの壁が横たわる。最大の問題として関係者が口をそろえるのが、住宅環境による設置の制約だ。集合住宅では貯湯タンクの設置スペースが障壁となりやすく、配管や電気工事の可否も設置の可否を左右する。賃貸住宅に関しても、大手ガス関係者は「光熱費を負担しない大家に高効率機器導入のインセンティブが働きにくい」という構造的な課題を挙げる。
こうした制約の中で、消費者は必ずしも希望する機種ではなく、住宅事情に合わせてやむを得ず選択せざるを得ない場面が少なくない。そもそも、こうした負担を強いられる消費者やメーカーの声は、専門家会合での制度設計プロセスに反映される機会が限られていた問題もある。
いずれにせよ、関係各社から聞こえるのは「メーカーへの出荷規制だけで目標を達成しようとするのは難しい」という声だ。大手電力関係者は「メーカーから家電販売店、施工事業者、住宅会社、エネルギー事業者と、高効率給湯器が消費者の選択に至るまでに多くのステークホルダーが関わる。あらゆるプレーヤーが連携して普及に取り組むべきだ」と訴える。
一方で、日本ガス石油機器工業会は「業界を横断した大きな組織体で取り組みを進めない限り、省エネ給湯器の普及目標達成はもちろん、日本のカーボンニュートラルを実現できない」との理由から、「ガス石油省エネ給湯機普及促進会議 (スマいる給湯プロジェクト)」を5月19日付で設立した。日本全体のGHG(CO2など温室効果ガス)排出削減の中間目標(35年度60%削減、40年度73%削減)達成を目指し、あらゆるステークホルダーを巻き込んで、省エネ給湯器の普及を妨げる課題解決に取り組んでいく。
国が示した34年度の目標達成に向け、メーカーは対応を急がざるを得ない形だが、機器供給側に規制を課すだけでは、高効率給湯器の普及は進まないのが現実だ。消費者の選択を阻む住宅事情や、メーカー間の戦略差の問題にどう対応するのか。現実的な議論はこれからだ。









