【フォーラムアイ】JERAがアンモニア転換で初の商用化にまい進

【JERA】

JERAは国内最大の石炭火力である碧南火力発電所(愛知県碧南市・計410万kW)でアンモニア発電の商用化を目指し、燃料タンク建設などの工事を進めている。1月中旬、報道陣にその模様を公開した。4号機で2029年度に20%転換で商用運転開始を目指し、その後5号機での実施や、さらに50%転換への挑戦も視野に入れる。世界的にグリーン燃料系プロジェクトに逆風が吹く中、ビジョン実現に変わらずまい進する構えだ。

タンク建設現場を紹介する坂所長

24年4~6月、世界初となる大型商用石炭火力でのアンモニア20%転換試験を4号機で行った。NOX(窒素酸化物)は転換前と同等以下で、最大転換率28%達成といった良好な結果を受け、次のステップに入った。燃料アンモニア受け入れ桟橋やタンク、気化設備、BOG(タンクで自然発生するアンモニアガス)処理設備、除害設備などを増強する。発電設備は一部改造するが、ボイラーやタービン、排ガス処理装置などの主要機器は改造しない。

アンモニア取り扱い規模は実証では3万t程度に対し、20%転換商用運転では年50万tとなる見込み。スケールアップに向け、例えばタンクは実証用では2000㎥だったが、商用では約5・9万㎥を4基建設する。LNGタンクに似た構造で、高さ40m、直径60mほど。1~4号タンクで半年ずつ工期をずらし、最も早い1号タンクは屋根上げが完了し内装や外装工事に入った。また、実証時より安全対策を一段高める方針だ。


プロジェクト完遂に意欲 競争力ある電源目指す

バリューチェーン構築のめどもついた。米国ルイジアナ州の「ブルーポイント」で、天然ガスを原料にCCS(CO2回収・貯留)を行って製造する低炭素アンモニアを調達。年間生産能力は約140万tを見込む。

そして、政府による補助が後押しとなった。4・5号機が23年度の長期脱炭素電源オークションを落札。加えて昨年末には、水素社会推進法に基づく価格差支援の認定事業者となった。

坂充貴所長は、「水素・アンモニアや再生可能エネルギーの投資環境が停滞気味なことは否めない。だが、脱炭素の取り組みを続けていくことが将来への備えとなる」とし、碧南のプロジェクト完遂に意欲を見せた。将来的には政府の支援なしに、他の脱炭素電源と比べアンモニアの電気が競争力を持つ形を目指すことも強調した。

【論説室の窓】メガソーラーに対する支援停止は現実的な再エネ政策への第一歩

井伊重之/産経新聞 客員論説委員

高市政権がメガソーラー支援の停止と規制強化に踏み切った。

再エネ偏重の課題が顕在化する中で、政策の現実性を問い直す動きだ。

政府が大規模太陽光発電所(メガソーラー)に対する支援の停止を正式決定した。環境影響評価(環境アセスメント)の対象となる基準も厳格化する。政府や自治体は法令に違反した事業者からの電力調達を避け、民間企業にも同様の対応を求めるという。政府は2011年の東京電力の福島第一原発事故後、太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及を積極的に進めてきたが、今回の規制方針は、優良な再エネ事業者を育成し、現実的な再エネ政策に転換する一歩としたい。

新たなメガソーラーへの補助が停止となる

政府は昨年12月に発足した「大規模太陽光発電事業に関する関係閣僚会議」(議長・木原稔官房長官)で、メガソーラーに対する規制強化を決めた。規制の柱は27年度以降、新たなメガソーラーに対する補助を停止することだ。出力規模が1000万kW以上の地上設置型の事業用太陽光発電施設は、市場価格に一定額を上乗せする補助の対象外とする。また、工事前に環境アセスを義務づける発電施設の出力基準を引き下げるほか、出力10‌kW以上の事業用発電施設は第三者が設計内容をチェックする制度なども導入する。

福島第一原発事故を受け、当時の旧民主党政権は脱原発に向けた新たな電源として再エネに注目した。その普及を後押しするため、太陽光や風力などの再エネ事業者が発電した電力を電力会社が固定価格で買い取る「固定価格買い取り(FIT)制度」を導入。22年度には市場価格に連動し、一定の補助を支給する「フィードインプレミアム(FIP)制度」を採用した。FITに伴う賦課金額は年々増え、25年度には初めて3兆円に達する。これは電気料金の1割以上を占めている。

国土が狭い日本には、メガソーラーの建設に適した新たな用地は残り少ない。すでに国土面積当たりの太陽光発電の導入量はドイツに次ぐ世界2位の水準で、1k㎡当たり200kW近くに上っている。最近では山林や山裾などを切り開いて建設されるメガソーラーが増え、景観や自然環境の破壊のほか、樹木の伐採に伴う土砂崩れなど災害リスクに対する懸念が強まっている。これに伴い、全国各地のメガソーラー建設計画を巡って自治体や周辺住民との摩擦が激化している。


政策を歪めた割高買い取り 遅きに失した規制強化

特に北海道の釧路湿原国立公園周辺や千葉県鴨川市に計画されているメガソーラーに対しては、地元住民だけでなく、全国的に反対運動が広がるなど、社会問題化している。こうした中で高市早苗首相は、昨年秋の自民党総裁選で「メガソーラーに対する補助停止」を掲げ、高市政権の発足で具体的な規制強化に乗り出した。

それでも日本国内には約9000カ所のメガソーラーがすでに稼働しており、今回のメガソーラー規制は遅きに失した印象が拭えない。なかでも13年度から15年度にかけて大量に建設されたメガソーラーには割高なFITの買い取り価格が設定されていた。このため、国民が負担するFIT賦課金の過半は、この3年間に稼働を始めた発電施設による買い取りとされている。脱原発を急いだ末のずさんな制度設計が、健全な太陽光発電市場の育成を阻んできたのは間違いない。

その後、政府も割高な買い取り価格の引き下げを進め、太陽光で発電した電力の現在の買い取り価格は、1kW時当たり9円前後に低下している。これはFIT導入当初の買い取り価格に比べて4分の1以下の安値水準だ。これに伴い、再エネ事業者もFITに依存せず、需要家に直接電気を販売する「非FIT」の開発が広がっている。なかでもIT企業は再エネ由来のグリーン電力を求める傾向が強く、価格が割高でも太陽光による電力を購入する流れが広がっている。もはやメガソーラーは補助に頼らないビジネスモデルを確立したと言える。


実現見込めぬ電源構成目標 当面は火力が中心に

何より問題なのは、今回のメガソーラー規制は、太陽光など再エネの普及を目指す政府のエネルギー政策と矛盾する恐れがあることだ。

政府が昨年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画によると、40年度の電源構成目標として再エネ比率を4~5割、原発比率を2割、そして火力比率を3~4割とした。再エネと原発を合わせた脱炭素電源で全体の過半を占め、石炭やLNGなどの火力比率を大幅に引き下げる方針だ。再エネのうち、太陽光は23~29%に高めるとしており、現行の1割程度に比べて2~3倍も大幅に増やす。政府は折り曲げられる「ペロブスカイト型」の国産太陽光パネルを屋根などに大量導入して太陽光比率を高める考えだが、その価格を含めて将来像はまだ不透明である。

実際、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が昨年4月にまとめた向こう10年間の電力供給計画によると、34年度における電源構成の見通しは再エネ比率が33%、原発比率も約1割にとどまり、火力比率が依然として56%と主力電源の地位を占めていると見ている。これは再エネの弱点とされる系統や送電網の整備遅れも響いているが、再エネ比率が過半を占めるとする政府の40年度における電源構成目標とはほど遠い姿だ。原発比率を現行の2倍に相当する2割に引き上げる計画も、現状の原発政策を継続していては達成が難しいだろう。

エネルギー基本計画に盛り込まれた再エネ比率を高める目標は、温室効果ガスの排出目標を達成するために人為的に設定されたものだ。再エネを導入すればするほど、発電量の変動を抑えるために火力による出力調整も不可欠となる。暮らしと産業を支えるエネルギー政策は、脱炭素に向けた理想論を掲げながらも、厳しい現実にも正面から向き合う必要がある。政府は火力に対する安定投資を促すため、現実的な電源構成目標を示すべきである。

【フォーラムアイ】製油所のDXを推進 データ統合と予兆保全高度化を実現

【コスモ石油】

コスモ石油は製油所のデジタルプラント化を進めプラットフォーム上でのデータ一元管理に取り組む。

製油所のリアルタイムデータを確認できるモニタリングルームを設置し、予兆保全に役立てている。

現在稼働している国内製油所の多くは戦後の高度成長期に建設され、設備の高経年化に伴う維持管理費増大と稼働率低下が経営上の課題となっている。千葉、堺、四日市の3製油所を運営するコスモ石油では、その課題解決のために製油所のデジタルプラント化を進めている。

堺製油所

具体的な取り組みの一つが、デジタルツイン技術の活用だ。現実世界のモノを仮想空間上でツイン(双子)のように正確に再現するこの技術を用いることで、さまざまな条件下でシミュレーションし、その結果を実際の装置の保全管理などに生かすことができる。

身近なデジタルツインの一例には、グーグルマップがある。例えばレストランを探す時には、営業時間やメニュー、経路や所要時間、利用者による評価などがマップ上で一目で分かり、意思決定がスムーズだ。一方製油所では、データがさまざまな形でさまざまな場所にサイロ状に格納されているため、意思決定に必要なデータの収集に時間がかかってしまう。

そこで同社は、データ統合基盤「Cognite Data Fusion」を導入し、偏在するデータの一元管理を進めた。このプラットフォーム上で連携したデータは、機器・計装スペック、図面、運転データ、過去の不具合データ、検査履歴など多岐にわたる。データ統合基盤の整備が進んできた段階で社内に開放し、ビッグデータの組織横断的な活用が始まった。現在もデータは順次連携し、活用範囲が広がっている。


兆候を察知し未然に防止 全社的DXで変革を継続

もう一つの取り組みは、予兆保全の高度化だ。予兆保全とは機械や設備の故障が発生する前に、センサーなどからの情報で異常の兆候を検知し、最適なタイミングでメンテナンスを行うこと。2024年11月、千葉製油所に統合モニタリングルームを設け、予兆保全業務への活用を本格的に開始した。

モニタリングルームで使用するデータ基盤には、機械や設備に取り付けたIoTセンサーからのリアルタイムな情報に加え、VR(仮想現実)で再現した現場の3D画像も搭載。このモニタリングルームは昨年7月に移転した本社オフィスにも設置した。9台のモニターが壁一面を覆うように配置され、千葉、堺、四日市の3製油所の状況をリアルタイムに把握できる。機械学習やAIを活用することで、精度の高い予兆保全を実現する環境が整った。

本社のモニタリングルーム


モニターで異常兆候を検知 18件の不具合を未然に防止

モニターでは、設定閾値の超過を検出すると赤いアラートが表示される。モニターを監視するエンジニアがアラートをクリックすると、詳細なデータが表れる。エンジニアは内容を確認し、対応方針を入力。現場ではエンジニアからの指示を実行し、対応済になったことを入力するとアラートは緑色に変わる。このように事前に異常兆候を検知し、適切なアクションにより不具合を未然に防止することを同社ではファインセーブと呼んでおり、運用開始から約10カ月がたった昨年10月時点で18件のファインセーブが積み上がっている。

同社では他にも、現場の課題を先端技術で解決する取り組みが進んでいる。製油所には多くのアナログ計器が存在し、巡回による目視点検が不可欠だった。これに対し、アナログ計器の針の角度を読み取りデジタル情報に置き換えるSalta IoTセンサーを導入し、巡回の負荷が大幅に減少した。

また、夏季の製油所内では、酷暑の中での現場作業を余儀なくされ、特に製油所の定期的な修理期間中は協力会社からも多くの作業者が出入りするため、熱中症対策も欠かせない。そこで、バイタルセンサーという腕時計型の機器を導入し、作業者が装着することで、心拍数や体温などを現場で一元管理できるようになった。その結果、現場監督者の負荷も軽減し、熱中症の大幅な低減につながった。

製油所のDXについて語る工務部吉井氏

製油所運営の事業戦略を統括するコスモエネルギーホールディングスIT推進部の八谷鉄正氏は、このような先進技術を活用した取り組みを進める目的を「製油所のDX化を支える基盤として、現場の安全性向上と業務効率化を同時に実現すること」と言い、製油所DXを担うコスモ石油工務部の吉井清英氏は「現場の変革に必要なのは、現場の努力やITの活用だけではなく、経営者や外部パートナーとの一体化だ」と語る。今後は統合モニタリングルームを全製油所に展開することや運用の標準化など、現場に寄り添った全社的DXのさらなる展開を進めていく。

【実名ホンネ座談会】欧州「EV絶対主義」の崩壊で「環境より経済」の流れが鮮明に

テーマ:国内外のEV情勢

【出席者】
岡崎五朗(モータージャーナリスト)
轟木 光(KPMGコンサルティングプリンシパル)
大場紀章(ポスト石油戦略研究所代表)

左から順に、岡崎氏、驫木氏、大場氏

EU(欧州連合)が2035年のガソリン車禁止目標を撤回した。EVシフトの勢いに陰りが見える中、政治の思惑、産業界の反発、そして日本メーカーの立ち位置はどう変わるのか。

─EUではCO2排出量を21年比90%減とすれば35年以降もガソリン車を販売できる。

岡崎 二つの見方がある。一つは「EVはもうダメ、エンジン車万歳」という見方。もう一つは「90%削減目標は残っているのだから、EVシフトに変わりはない」という見方だ。

私はどちらでもない。重要なのは「100%削減」というゴールポストが動いた事実だ。自動車政策に限らず、ゴールポストを動かしてきたのが欧州政治の歴史で、このまま進むと考える方が不自然だろう。

轟木 政府主導のEVシフトが進んだ中で見えたのは「ユーザーが欲していない」という現実で、自動車産業界からは「EVではもうからない」と厳しい声が上がった。環境だけでなく経済も重視する流れが強まり、24年に脱炭素政策が産業コストを押し上げていることを指摘した「ドラギレポート」が発表され、今回の目標撤回につながっている。

岡崎 35年目標には「26年に市場の状況や技術の進展を見て見直しを行う」という条項(レビュー・クローズ)が入っていた。最初から見直しを予定していたのではないか。

大場 合成燃料の活用を検討する条項もあった。ドイツのちゃぶ台返しだと言う人もいるが、こうした条項がなければ、フォルクスワーゲン(VW)以外のドイツ産業界は目標への合意にもっと慎重だったはずだ。

岡崎 日本のメディアは良くないね。35年目標が決まった時、EUはガソリン車もハイブリッド車(HV)も禁止になると断定的に報じたが、メルセデス・ベンツの30年EV目標にしても、「マーケットが許すならば」という留保が付いていた。センセーショナルに報じたいのか分からないが、重要な点を無視している。現在のVWブランドCEO(最高経営責任者)・トーマス・シェーファー氏にインタビューをしたら、「未来はEVだが、いつなのかは分からない」と言っていた。

EUは「ガソリン車禁止」のゴールポストを動かした


グリーンスチールで車体価格は上昇 EUの脱炭素政策を絶対視するな

大場 ただ、日本としてはぬか喜びする状況ではない。今回の10%の猶予枠のうち、7%は製造時のグリーンスチール活用、残り3%は合成燃料とバイオ燃料による削減となっている。おそらく、グリーンスチールはEU域内生産限定になるので、日本メーカーにとってはハードルが高い。

そもそも、グリーンスチールによる削減分を走行時の排出量にのせてカウントするなんてめちゃくちゃだ。生涯走行距離を事前に想定し、それで削減分を割って、距離当たりいくら削減できるかを割り出す。この考え方自体が、GHG(温室効果ガス)プロトコルなどの国際基準を無視している。

岡崎 欧州のグリーンスチールは相当高いだろう。となると、自動車価格は下がらないので、やはり猶予枠は拡大されるはずだ。

大場 合成燃料の実用化への期待がしぼみ、グリーンスチールという別の手段をひねり出したのだろう。もともと、欧州の自動車業界の温暖化戦略はディーゼルシフトだったが、15年のVW排ガス不正(ディーゼルゲート)で崩壊してしまった。そこで起死回生を狙ってEVと言い出した。その背後には、EU内の内輪もめもあったと思う。メルケル時代の「ドイツ一強」に対する不満がディーゼルゲートを機に爆発して、ドイツの自動車産業に対する締め付けが強まった。カーボンニュートラルを目指すという物語自体が、ドイツに対するEUの恨みが生んだものではないか。

岡崎 フランスに勝算はあったのか?

大場 ドイツをいじめたかっただけだろう。結果的にウクライナ戦争もあり、フランスも無傷ではない。恨みは晴らしたから、いったん落ち着こうという局面なのかもしれない。

岡崎 マリオカートで言えば、後ろの車(ドイツ)をスピンさせようとバナナの皮を落としたが、1周回って自分がスリップしている状況か(笑)。

轟木 EVの要望に対して真面目に対応しようとしたのが日本だが、彼らの動向は冷静に判断した方がいい。EUはCO2削減やエネルギー安全保障のためにディーゼルを推進していた時代も、軽油の精製がEU域内で足りずアメリカから輸入していた。理路整然としたロジックがあるように見えても、全てがそうなっているとは限らない。

注目しているのが「過剰規制(オーバーレギュレーション)」という言葉だ。EUの目標撤回と同じ日に、規制を簡素化するオムニバス法案が出てきた。規制が強過ぎるとコストがかさみ、自動車の価格が上がる。アメリカも燃費規制を満たさなかった場合の罰則を廃止した。これからは規制と緩和のバランスが重要になってくる。

岡崎 アメリカでは新車の平均価格が5万ドル(約800万円)にまで上がっている。確かに車は安全で、なるべくCO2を出さない方がいい。でも、頑丈にしすぎて車体が巨大化すれば、街を歩く人がアメリカンフットボールの防具とヘルメットを着けて歩くことになるかもしれない。日米首脳会談でトランプ氏が来日した時、「日本で走っているような小さい車を作れ」と言ったが、過剰規制に対するカウンターだろう。

轟木 EUでは車両全長4・2m以下の新規格「M1Eカテゴリー」の導入が提案された。手ごろな価格でEV普及にもつなげる試みだが、何と言っても軽自動車が世界的に認められつつあることの証左だ。これは過剰規制の反対で、日本の軽規格という規制が生み出した商品力だ。

【イニシャルニュース】参政党はメディア嫌い? 風通しの悪さ影響か

参政党はメディア嫌い? 風通しの悪さ影響か

衆議院選挙が2月8日に行われる。参政党は2024年10月の参議院選挙で躍進した。しかし情報発信は限定的で、メディアに登場するのは主に神谷宗弊代表の記者会見という状況。目立つのはスローガンばかりだ。なぜだろうか。

「神谷党首独裁で議員が自由に発言できない。中身のなさを隠し、追及を避けるためメディアと距離を置いているように思える」。ある記者が説明した。この人は1月、ある問題で以前から知り合いの参政党の国会議員に取材を申し込んだところ、待たされた後に党本部から「選挙前で対応できない。党の意向」という返事が返ってきたという。

24年には他党から転じたU参議院議員が「勝手に取材に答えたとして、ボード」と呼ばれる執行部の役員を、解任された。かつて自民党にいて、職員を罵倒、それが明らかになって離党に追い込まれたT参議院議員が参政党でも奇行をした。その取材に応じたら、首を切られた。「外部に情報が漏れない一方で、自由な議論がなく風通しも悪そう」とこの記者は指摘する。

かつて参政党に参加していたが今は距離を置く保守系の評論家によると、「神谷氏は、政策づくりは不得意」という。党幹部のA議員は自民党出身だが「財務省批判ばかりやっている人物」(同)。エネルギー問題についても「一般ウケするメガソーラ批判以外、実効性のある政策は作れないのではないか」(同)と厳しい批判を向ける。

とはいえ、同党はエネルギー政策の柱として〈脱・脱炭素政策で、電気料金高騰・環境破壊・資本流出を助長する再エネ推進を止める〉〈日本の急峻な地形を生かした既存水力発電の最大活用でエネルギー自給率を引き上げる〉〈中長期的なエネルギー資源と世界での主導権獲得のため新技術開発へ積極的に投資〉などを打ち出している。一連の政策が国民の審判を受け、形になるのか。正念場はこれからだ。


規制庁職員のスマホ紛失 諜報活動への悪用リスク

中部電力が浜岡原発の基準地震動を巡る不適切事案を公表した翌日、原子力規制庁でも重大な不祥事が明らかになった。同庁の職員が昨年11月、プライベートで訪れた中国・上海で業務用のスマートフォンを紛失したというのだ。規制庁は国の個人情報保護委員会に報告したというが、問題は「個人情報保護」という次元にとどまらない。

規制庁は危機管理意識の強化を

職員がスマホを失くしたのは街中ではなく空港で、中国共産党が端末を回収し、解析した可能性は否定できない。非公開情報である核セキュリティ担当者の連絡先などが登録されていたといい、漏えいすれば担当者への接触工作など中国によるヒュミント(人的情報収集)の標的になり得る。国家安全保障上の脅威だ。

原子力の専門家はどう見るのか。T大学のO教授は「規制庁の事案にも第三者委員会が必要なのではないか」と指摘した上で、「私は仕事で中国に行く際、普段使っているパソコンやスマホを一切持っていかない。〝中国用〟のパソコンには学会で使う資料だけを入れて、ほかのデータは何一つない」とリスク管理術を語る。これが危機管理の常識だろう。規制庁の職員は、原子力安全と核物質防護の中核を担う責任を改めて胸に刻むべきだ。

【フォーラムアイ】東北電力が地域課題解決へ専任チームを発足

【東北電力】

東北電力は昨年4月、地域課題解決に挑む専任チームを設置した。

CN、DX、人財を切り口に、地域との価値共創に向けた取り組みを進める。

東北6県・新潟県では人口減少や少子高齢化、地域産業の衰退など、さまざまな課題が他の地域よりも速いスピードで顕在化している。こうした状況を踏まえ、東北電力は昨年4月、総務・地域共創部門内に地域課題解決に挑む専任チームを設置した。同チームは、課題を抱える自治体などに対して、「CN(カーボンニュートラル)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「人財」の切り口から、地域課題の解決策を立案・展開し、「地域との価値共創」に取り組んでいくことをミッションに活動している。

今回は、同チームが発足以降進めてきた取り組みについて詳しく紹介する。

地域課題解決に取り組む専任チームのメンバー


経済的・社会的価値の創出 生産者に新たな収益源を

地域のサステナブル(持続可能)な農業の実現を目指し、昨年9月に農業由来カーボン・クレジットの活用を開始した。

農業は地域経済の根幹を担う重要な産業である一方、近年は収益性の低下や就農者の高齢化・後継者不足などさまざまな課題が深刻化している。

本取り組みでは、東北6県・新潟県の米の生産者が、フェイガー社のプロジェクトに参加し、J―クレジット制度の「水稲栽培における中干し期間の延長」という方法論に基づき、温室効果ガスの排出削減量としてフェイガー社が認証を受けたクレジットを東北電力が購入する。これにより生産者は新たな収益源が確保できる。加えて、水稲栽培において出穂前に一度、水田の水を抜き、稲の成長をコントロールする「中干し」の期間を延長することで、温室効果ガスの排出量が削減され、地域のカーボンニュートラル推進にも寄与し、経済的価値と社会的価値の両方を創出できる。

購入したクレジットは東北電力が主催・協賛するイベントなどのオフセットに活用するほか、事業所のオフセットや、希望する企業への販売も検討している。今後は、プロジェクトに参加する生産者を増やすとともに、本取り組みの社会的意義の発信を通じて、クレジット創出の輪を広げ、地域全体でのサステナブルな農業の実現を促進していく。

【フォーカス】新潟県知事選5月に控え 元知事の意味深発言が憶測呼ぶ

柏崎刈羽原発が1月21日、13年10カ月ぶりに再稼働したが、警報装置にトラブルが発生し原子炉を停止した。1日も早い営業運転開始に期待がかかる。さまざまなハードルを乗り越えてきた柏崎刈羽だが、今年は再び政治的な難所が訪れる。6月上旬までに実施予定の新潟県知事選挙だ。花角英世知事は現時点で出馬を明言していないが、自民党県連は昨年末に立候補を要請している。「再稼働に同意して日が経っていないため、もう1期はやらざるを得ない」というのが専らの見方だ。

対抗馬の候補には前知事で中道改革連合の米山隆一氏の名が挙がるが、気がかりなのが泉田裕彦元知事の動向だ。

原子炉起動作業を行う柏崎刈羽6号機の中央制御室
提供:時事

泉田氏は2024年10月の衆院選で、自民党所属の衆議院議員でありながら、すでに同党公認候補がいる新潟4区で立候補して落選。昨年末に離党し今回の衆院選は出馬を見送ったが、その際に「(原子力防災について)自ら国政の中で政策の主張をしても立地地域が本気で是正を求めない限り限界がある」などと書面でコメントを寄せた。これを受け、関係者の間では「野党候補として知事選に出るつもりではないか」との憶測が広がっている。泉田氏は避難計画の実効性に疑義を呈し、地元合意については県民投票を求めている。米山氏の主張と、うり二つだ。

県民は花角県政をある程度評価しているが、2期目で飽きが見えているのも事実だ。知事選は近年の傾向から見ても、有力な野党候補が立てば激戦必至。慎重派に攻撃材料を与えないためにも、柏崎刈羽は安定運転で信頼を積み上げるしかない。

【気象データ活用術 Vol.11】エネルギー産業でも意識すべきリードタイムとアップデート

加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

2021年度前期放送のNHK朝ドラ『おかえりモネ』はご存知だろうか。主人公モネが気象予報士になるというストーリーで、筆者も気象監修で関わった思い出深いドラマだ。

このドラマの中で、モネが気象予報士を志すきっかけとなった気象キャスター朝岡が、気象予報士の使命として「気象のリードタイムをできるだけ長く確保することが重要だ」という趣旨のセリフを話すシーンがある。ここでリードタイムという概念は、ある気象災害の発生をどれくらい前に予想できたか、という意味で使われている。できるだけ早くに予想できていれば、それだけ気象災害に備える時間的猶予があるということであり、防災の文脈ではリードタイムをこのような意味で使うことが多い印象がある。

気象予報のリードタイムとアップデート

しかし気象予報の現場では、リードタイムという言葉を別の意味で使っている。予報の段階ではその気象災害がいつ発生するか確定しておらず、そもそも発生するかどうかも未知の状態なので、気象災害発生時点を起点として語ることはできない。気象予報の現場では、現在の時点を起点として、どれくらい先の予測をするかという意味でリードタイムという言葉を使っている。明日の気象予報ならリードタイムの短い予報、週間天気予報ならリードタイムの長い予報、といった感じだ。

筆者も長く気象予報の現場を経験したので、後者の意味の方がしっくりくる。特にBtoB向け気象予報サービスの場合、クライアント側が気象予報に基づく意思決定のタイムラインを持っていることが多い。気象予報サービスもそのタイムラインに沿って設計されるので、例えば明日のビジネス上の意思決定に資するように、6時間後~29時間後の気象予報を前日18時に提供する(つまり予測対象は明日0時~23時)、といった業務内容となっている。つまりリードタイム6時間~29時間の予報業務ということだ。

それに加えて、意思決定は一発勝負とは限らない。例えば自治体には台風対策タイムラインがあって、台風接近の5日前・3日前・1日前などのタイミングで、その時の最新の気象予報に基づいて意思決定を更新したり、新たな判断を加えたりすると聞く。仮に1日前が大事な意思決定の局面であっても、その後の状況変化や予報の変化に基づいて臨機応変に対応したり、そもそも代替案を設定されていることもある。臨機応変な対応も代替案への切り替えも、最新の気象予報=気象予報のアップデートに基づいて意思決定される。

つまり気象予報自体が一発勝負ではないということだ。このことを明確に意識して気象予報や気象データのビジネス活用が語られることが意外と少ないと感じる。例えば、リードタイムの短い予報は1日に複数回更新される。このメリットを十分に享受できるような活用方法を設計しておくことも、気象データの重要な活用術と言える。

気象予報のリードタイムとアップデート、この二つのキーワードを意識することで、気象データのビジネス活用はより効果的に機能するだろう。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

・【気象データ活用術 Vol.8】再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標

・【気象データ活用術 Vol.9】似て非なる二つのミッション 予測とシミュレーションの違い

・【気象データ活用術 Vol.10】予測の「大外し」回避に挑む 確率論でリスクマネジメント

【業界紙の目】半世紀続いた軽油暫定税率廃止の影響

田中信也/物流ニッポン新聞社 東京支局記者

昨年末のガソリン税(揮発油税)に続き、軽油引取税の旧暫定税率が4月に廃止される。

トラック事業者には恩恵がある一方、暫定税率を財源とする交付金制度の動向が注目される。

旧暫定税率は、自民党、立憲民主党など与野党6党の合意に基づき、廃止することが決まった。昨年の臨時国会で廃止法案が成立し、ガソリン税では12月31日をもって廃止された。一方、軽油引取税は地方財政への影響を考慮し、今年4月1日で廃止することが確定している。

ガソリン税の暫定税率は、1974年に田中角栄内閣の下、道路整備の財源(道路特定財源)とするための臨時措置としてスタート。「暫定」の名の通り、当初は2年間の臨時措置だったが、その後2年ごとに繰り返し延長してきた。

だが、暫定のまま放置してきたことへの不満は強かった。2008年には衆参両院で多数派勢力が異なる「ねじれ国会」の中、参院で多数を占める野党の反対を押し切れず関連法案の審議が時間切れとなり、一時的に失効。ガソリンと軽油の価格が大幅に下がった。

翌09年4月には課税の根拠だった道路特定財源が廃止されても継続され、同年に廃止を公約に掲げた民主党政権が誕生しても「当分の間税率」と看板を掛け替えただけにとどまり、逆に恒久化してしまった。まるで「ゾンビ」のような暫定税率は、このまま未来永劫続くかと思われたが、少数与党下での難しい政治局面から、自民など与党が野党側の要求を受け入れ、実務者による協議を経て、ついに半世紀の歴史の幕を下ろすこととなった。

会合に駆け付けた高市首相と全ト協・坂本氏


公益事業に交付金不可欠 トラック・バスで共闘

当初、ガソリン税のみが対象とみられてきたが、軽油引取税も3カ月遅れの廃止で決着した。暫定税率分1ℓ当たり17円10銭に対し、同額の補助金が11月末までに充当されている。

軽油の大口ユーザーであるトラック運送業界にとって、暫定税率の廃止は悲願だったが、その成就を喜んでばかりいられない問題も抱える。それは、暫定税率分を原資とする運輸事業振興助成交付金制度の行方だ。

軽油引取税の暫定税率は、1976年から導入された。その際、営業用トラック・バスが対象の還付措置として創設されたのが交付金制度で、都道府県から各地方トラック・バス協会に対して一定の額(年約200億円)を交付する。このうち、トラック協会に対しては約180億円が交付される。輸送の安全確保や事業の適正化、災害時の対応など公益的な事業の財源として欠かせない制度と言える。

こうした局面で、全日本トラック協会(全ト協、寺岡洋一会長)の前会長で、現在は最高顧問を務める坂本克己氏は「暫定税率廃止と交付金制度継続の両方を勝ち取る」として、暫定税率の廃止が議論されている段階で、日本バス協会(日バス協、清水一郎会長)などと共闘し、与野党各党や政府関係者へのロビー活動を展開。中でも、自民党総裁選の候補者で唯一「軽油の暫定税率廃止」を公約に掲げた高市早苗氏が首相に就任したことは大きな追い風となった。なお、高市氏は、昨年12月に行われた全国のトラック協会の首脳が顔をそろえる懇親会に出席し、「皆さんの応援団として頑張っていく」とエールを送った。トラック業界のパーティーに現役の首相が参加したのは初めてのことだった。

さらに、暫定税率廃止に向けた与野党協議で当初、合意事項に盛り込む予定がなかった交付金の取り扱いについて、合意文書で「軽油引取税に特有の実務上の課題に適切に対応」と明記されたことは、全ト協などが交付金制度の重要性を熱心に説いて回ったことが功を奏したと言っても過言ではない。その結果、廃止法案には、交付金の取り扱いについて適切に対応することが付則に盛り込まれたほか、参院で交付金の維持に向けた法改正が付帯決議された。

この流れを受け、全ト協、日バス協は、交付金の根拠法である運輸事業振興助成法の改正に動く。同法は議員立法で成立した経緯から、改正法も議員立法で提出することが求められるが、暫定税率廃止に署名した自民、立民、日本維新の会、国民民主党、公明党、共産党の6党に加え、参政党、れいわ新選組など主だった党・会派が賛同。昨年12月15日、衆院の国土交通委員会(冨樫博之委員長)に所属する全党会派の議員が共同で提出した。今年の通常国会で審議が行われる見通しだ。


法改正で課された宿題 物流の安定化どう図る?

同法案は、軽油の暫定税率が廃止される4月1日に施行。その上で「2031年3月31日限りで効力を失う」と規定している。5年間の期限は、昨年6月に成立した改正貨物自動車運送事業法と、同法の措置を担保するプログラム法(貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法)からなる「トラック適正化2法」の施行を踏まえたためだ。

なお、液化石油ガス(LPG)が主な燃料のため交付金の対象ではないタクシー業界は、東京、神奈川、大阪の3エリア(交通圏)にタクシーセンターが設置され、1台当たり年3万~3万5千円を事業者が負担し、事業適正化のための業務に充当している。これに比べると、トラック業界は恵まれた環境にあるのかもしれないが、議員立法の提出に当たって複数の野党議員から「トラック、バス事業を合わせて(現在の交付額の)200億円では少ない。法改正に増額を盛り込むことを検討してはどうか」といった意見もあったようだ。

トラック業界は交付金を原資に、輸送の安全確保、サービス向上、環境保全などに関する公益事業を行っている。これが無くなれば、物流を安定的に維持し、国民生活や産業活動を支えることができなくなる。しかし、議員立法が成立したとしても、交付金が確実に支出される期間は5年と短い。適正化2法施行による改善の効果を見据えつつ、新たな公益事業の在り方を検討することが、トラック業界と国土交通省など関係省庁に課せられた「宿題」と言える。


〈物流ニッポン〉〇1968年創刊〇読者構成:陸上貨物運送業、貨物利用運送業、倉庫業、海運業、港湾運送業、官公庁・団体、荷主など

【フォーカス】国内初の浮体式洋上風力がついに運開

「洋上風力試練の年」から一転、今年は年始に明るいニュースが駆け巡った。戸田建設が代表のコンソーシアムによる長崎県五島市沖の浮体式洋上風力事業(2100kW×8基)が、1月5日に商用運転を開始した。独自開発の「ハイブリッドスパー型浮体」を世界で初めて実用化。当初予定より2年遅れたものの、日本でついに浮体式が運開した意義は大きい。

実証開始から15年以上かけ運開に至った五島洋上ウインドファーム
提供:戸田建設

スパー型は細長い円筒状の浮体で、浅い場所で組み立てられない反面、設置後は波の影響を受けにくいなどのメリットがある。本件では、浮体上部が鋼、下部がコンクリートのハイブリッドスパー型を採用。京都大学と同社が共同開発した技術で、全て鋼よりも低コストで安定性を高めることが可能だ。

電気はFIT(固定価格買い取り)制度を活用し、1kW時当たり36円で売電。一部は、特定卸供給で五島市民電力を通じて市内需要家に供給する。

環境省実証事業(2010~16年度)を経て政府が促進区域に指定。当初は24年1月に運開予定だったが、浮体構造部に不具合があり、回収し再度設置するなど苦労もあった。

牛上敬・浮体式洋上風力発電事業推進部長は「国内初の浮体式で全て手探りの中、実証時からの付き合いである地元と密に連携を取り、厳しいスケジュールをこなせた。工事の難しさもあったが、日本の特殊な環境で事業化の一連の実績ができたことは当社の強み。国内では当面着床式の案件が続くが、その後次の浮体式案件につなげるべく、大型化に向けた施工法にもチャレンジしている」と強調する。

【コラム/2月6日】欧米で高まるデータセンター建設反対の動き

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国では、大規模データセンター建設の急増に伴い、電力価格の上昇、インフラ整備費用の増大、環境負荷の増加など多方面で影響が生じている(2025年11月14日掲載コラム参照)。これに伴い、住民による建設反対の動きも顕著になっている。同様の傾向は欧州でも確認されており、データセンターに対する社会的受容性が政策上の重要な論点となりつつある。

実際、米国では住民の反対を受けてデータセンターの建設計画が中止・遅延する事例が急増しており、その影響は無視できない規模に達している。反対運動の影響は巨大で、2025年3月までの過去2年間で640臆ドル相当のプロジェクトが、また2025年の第2四半期だけで、980億ドル相当のプロジェクト(20件)が阻止・遅延されたという報告がある(Data Center Watch)。このようなデータセンター建設への反対運動は、すでに組織化された社会運動の段階に入りつつあり、全米24州で142の反対グループが存在している(2025年12月時点)。このような反対運動の広がりは、今年の中間選挙に確実に影響を与える政治的な争点になりつつある。

具体的な動きとして、Reuters(2025年12月1日)は、ペンシルベニア州モンツアー郡ダンビルで、迷彩柄の帽子と赤いシャツを身に着けた住民ら300人以上が計画委員会の会議に詰めかけ、データセンター建設計画に抗議したと報じている。抗議の理由は、農地の喪失、生活環境の悪化、環境負荷、電力コスト上昇の懸念、そして大規模AIデータセンターを開発する企業への不信感が重なったためである。住民の多くはドナルド・トランプ大統領の強固な支持層だが、土地の安い農村部でデータセンター建設を促進してきたAIインフラの早期整備を進めるワシントンの姿勢に反発しているという。

ペンシルベニア州では、民主党のジョシュ・シャピロ知事と共和党のデイブ・マコーミック上院議員が、優遇措置やインフラ整備を通じてデータセンター誘致を進めている。一部の地域では歓迎の声もあるものの、モンツアー郡での反発は党派を超えて広がり、農家、環境団体、住宅所有者らが連携して建設に反対する動きが強まっている。こうしたデータセンタープロジェクトへの住民の反発は、住宅価格の高騰という課題を抱える共和党にとって、今年の中間選挙に向けた新たな負担となる可能性がある。

欧州でも、市民の多くがデータセンター建設に対して大きな懸念を抱いていることが、世論調査から明らかになっている。英国ロンドンの調査会社 Savanta は、環境保護団体のBeyond Fossil Fuels、デジタル監視団体のAlgorithmWatch、そしてその他の国際的な環境系NGOの委託を受けて、ドイツ、アイルランド、スペイン、スイス、イギリスの5か国で、データセンターがエネルギー、水、経済に与える影響について市民の意識を調査した(2025年10月)。

この調査では、回答者の大多数が、新たなデータセンターの建設によってエネルギー転換が遅れ、水資源が浪費され、電力消費者の負担が増すこと、そしてデータセンターによるエネルギー消費の増加を懸念していることが明らかになった。また、大部分の回答者が、新しいデータセンターの建設は、それに必要な電力をまかなう再生可能エネルギー発電所が新たに確保されている場合にのみ、許可すべきだと考えている。

ドイツにおいては、回答者の57%が、データセンターによる水の消費が、自分たちの生活に必要な水の供給に影響を与える可能性を懸念している。さらに、新たなデータセンターが近隣に建設された場合に、生態系が悪化するのではないかと懸念する回答者は63%にのぼる。また、43%の回答者が、将来的にデータセンターがドイツのエネルギー消費量の大きな割合を占めるようになると考えている。加えて、69%の回答者が、新しいデータセンターの建設は、それに必要な電力をまかなう追加的な再生可能エネルギー電源が確保されている場合にのみ、認められるべきだと考えている。

ドイツでも大規模データセンター建設への反対運動が広がり、批判の声は一段と強まっている。ケルンで開催された Microsoft AI ツアーでは、市民運動団体 Campact や環境保護団体 BUND などが抗議活動を主催し、計画に反対する7万9,000筆の署名を提出した。しかし、Microsoft は署名の受け取りを拒否したと報じられた(2025年3月)。これらの団体が指摘する主な問題点は、過度な土地利用、自然環境への悪影響、そして計画プロセスの不透明性である。

こうした動きを受け、データセンターを誘致する自治体側でも対応が進んでいる。具体的には、農地保全を図るための土地利用規制の強化、エネルギー効率向上や廃熱利用の義務化、水使用量の制限、既存工業地の優先活用、さらには住民参加の拡充と透明性の向上などが挙げられる。すなわち、「無制限にデータセンターを受け入れる」段階から、「規制を伴いながら慎重に誘致する」段階へと移行しつつある。

欧米では、AI 推進やデータセンター拡大を成長戦略に位置づける動きが加速するなか、その社会的受容性は、もはや避けて通れない重要な論点となっている。日本でもデータセンター需要が急増するなか、電力インフラの逼迫や環境負荷の増大が指摘されており、今後は同様の議論が避けられない状況にあるといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【フォーカス】衆院選で「中道」は 柏崎再稼働をどう語る?

1月23日に衆議院が解散し、衆院選(2月8日投開票)の火ぶたが切られた。

衆院解散について記者会見する高市早苗首相(1月19日)
提供:時事

それに先立つ16日には、立憲民主党と公明党が「中道改革連合」を設立。立憲は綱領に「原発ゼロ社会の一日も早い実現」を掲げていたが、中道は「将来的に原発に依存しない社会を目指す」として時期の明言は避けた。建て替え(リプレース)には踏み込まず、再稼働については、①安全性の確認、②実効性のある避難計画、③地元の同意―の3点を条件に認めた。

柏崎刈羽原発を抱える立憲の新潟県連は昨年11月、県民投票が行われなかったことなど②③を理由に「再稼働は認められない」とする声明を出している。営業運転開始を目前に控えた柏崎刈羽について、どのような主張を繰り広げるのか。

もう一つの注目選挙区は、敦賀原発や関西電力の3原発が立地する福井2区だ。前回の選挙では、高木毅、山本拓両氏の支援などで保守派が分裂し、立憲の辻英之氏と日本維新の会(当時)の斉木武志氏が当選した。斉木氏は福井県議時代から、北陸電力とJERAの経営統合や「電気料金引き下げの補助金で電力会社がもうけている」といった主張を繰り返すなど、業界の評判は芳しくない。

その後、斉木氏は維新を離党して無所属議員として自民党と会派を結成。衆院選を控え自民入りを狙い〝重鎮詣で〟を続けていた。1月21日に県連が公認申請したのは山本氏の長男で高市首相の義理の息子、山本建・福井県議だったが、党の公認を得られなかった。果たして、自民は議席を取り戻せるのだろうか。

【フォーラムアイ】ビジョンの実現加速を狙い中国電力がDX戦略に本腰

【中国電力ネットワーク】

中国電力ネットワークがDX戦略を策定し、その実装に動き始めた。

全社員が能動的にDXに取り組むよう促し、業務プロセスの変革と新たな価値創出を目指す。

デジタル技術の急速な進展により、DXの推進は企業にとっての必須課題といえる。そんな中、中国電力ネットワークはDX推進を重要な経営課題の一つと位置付け、「業務プロセスの変革」と「新たな価値の創造」を柱としたDX戦略を昨年5月に策定した。これにより、「経営ビジョン2030」で掲げる、①送配電事業の強化、②新規事業の展開、③地域活性化への貢献―の実現を加速させる狙いだ。また、経済産業省がDX推進の準備を整えている企業を認定する制度「DX認定」を同年8月に取得した。

ネットワーク設備部技術高度化グループの寺迫弘晃マネージャーは「電気の重要性が一層高まる中、送配電事業者としては低廉な託送料金と安定供給が引き続きの使命。しかし、働き手の確保が社会的にも課題である中、DXの推進なしには会社が衰退するという危機感を持ちつつ、戦略が奏功すれば明るい未来が開けるという形を示したい」と意気込む。

2030年に向けたDX戦略のロードマップ


プロセスを大胆に見直し 社内外のデータ連携を加速

2本柱のうち「業務プロセスの変革」では、デジタル技術の活用により、従来行ってきた業務の生産性向上を図るとともに、社員の思考や行動様式を見直し、抜本的に変革する。

具体的には、まず送配電設備の保守・管理の変革が待ったなしだ。同社は、鉄塔約2万基、変電所約500カ所、電柱約180万本と膨大な設備を管理している。人力に頼らなくてよい作業は極力デジタル技術に代替することが求められている。

例えば、これまで人が現場に赴いて巡視していたところをカメラによる監視に切り替え、人が点検する頻度を減らし、効率化を追求する。

これまで一部業務において使用していたドローンも本格的に実装していく。山奥の設備の巡視には徒歩で1日かかる場所もあり、今後は麓からドローンを自動飛行させるような方法を考えている。飛行距離の制約などの課題については引き続き検討を進める。

ドローンによる鉄塔点検

さらにAIの活用も順次拡大する。設備のさびなどの検知、鳥の巣の有無や、樹木と電線の距離が適切かといった判定などを行えるよう、AIに学習させていく。AIの活用は、判定の均一化にもつながる。生成AIや、目標に対し能動的にタスクを遂行するAIエージェントなども駆使し、業務に応じてツールを使い分けていく方針だ。

こうした対応で生まれるリソースを「新たな価値の創造」につなげていく。社内外のさまざまなデータを掛け合わせ、既存サービスの価値向上や新たなサービスの提供などを図っていく。

同社は送配電設備やスマートメーター、需給状況など、さまざまなデータを有する。これまでは部署内で業務ごとにデータを活用する程度にとどまっていたが、今後はプラットフォーム上に全データをインプット。データの連携・分析を進め、部署横断での活用に発展させる。

自社のデータ同士、あるいは気象データやハザードマップなど外部データとも組み合わせることで、顧客のニーズを踏まえた新たなサービスを提案する考えだ。また、可能な範囲で外部へのデータ提供も検討する。スマートメーターのデータを活用した一人暮らしの高齢者の見守りや、再配達が社会的な課題となる運送業の効率化など、アイデア次第でより斬新なサービスにつながる可能性を秘める。


組織風土の醸成に注力 全社員が自分ごとに

先述のプロセス変革や価値創造の例はあくまでごく一部。戦略のターゲットイヤーである2030年度に向け、スピード感と柔軟さを意識して展開していく考えだ。

同戦略の実現には、①DX人材の育成・確保、②デジタル基盤の整備、③DX推進体制の構築―が必須だ。その入り口として、全社員のリテラシーの引き上げが重要となる。「あらゆる年代層のマインドを上げていかなければならない。苦手意識のある人は、ともすれば『人力でできる作業の手順をなぜ変えなければならないのか』という考えに陥りがち。そうならないよう、どの社員も楽しんで変革に取り組めるような組織風土の醸成に注力している」と寺迫氏。「チャレンジを推奨し失敗も次の成功の元に、そして全社員がDXを自分ごとに」といった思いで働きかけているという。

DXの推進には大胆な投資が必要な場面もあろうが、レベニューキャップ制度の枠内で取り組まなければならないという難しさもある。必要な投資は行いつつ、他社との協働などで乗り越えていく構えだ。

26年ヘンリーハブ予想平均価格は4ドル 注目される上流ガス資産取得の動き

【マーケットの潮流】橋本 裕/日本エネルギー経済研究所上級スペシャリスト

テーマ:米ヘンリーハブ

米国ガス市場の指標から、国際LNG市場の指標として位置付けられたヘンリーハブ価格。

1990年代以降の価格の推移と足元の動向、2026年の見通しを解説する。

米国の天然ガス市場におけるヘンリーハブ指標の意義は、2016年以降のLNG輸出拡大によって進化している。

ヘンリーハブは米ルイジアナ州にある天然ガスの取引拠点で、1990年代以降、米国の天然ガス市場の価格指標として確立した。2000年代後半以降のシェール革命を受け、米国は16年以降、LNG輸出を急拡大し、世界市場に影響を与える存在となった。LNG契約の多くが「ヘンリーハブプラスα(液化・輸送コスト)」で価格設定されるため、国際取引の基準として台頭。スポットLNG取引でも参照されることが増え、グローバルな指標へと進化した。


国際化した価格変動要因 輸出企業の行動にも影響

同様に、米国内のパイプラインガス需給だけでなく、欧州・アジアの市況に影響されるようになった。LNGの輸出量は米国内のガス需給にも影響し、価格の変動要因が国際化した。また、欧州、アジアとの価格差が米国のLNG輸出の収益性を左右し、輸出企業の行動に影響を及ぼしている。

ヘンリーハブ先物契約がNYMEX(ニューヨーク商品取引市場) に上場された、1990年以降の価格水準と動きを概観する。90年代は、100万BTU(英国熱量単位)当たり1~4・6ドルの範囲で上下し、年平均ベースで前半はおおむね2ドル未満、後半は2ドル台前半で推移した。

2021年から25年のヘンリーハブおよび米国主要消費市場のガス価格の動向
米エネルギー情報局のデータに基づき作成

2000年代は、米国の需要見通しの堅調と生産の頭打ち見通しにより価格は下支えされ、03年から08年まで、4ドル台から8ドル台の相対的高価格が日常化。季節的な需給変動やハリケーンによる生産への影響が発生した場合に10ドル超となる期間も発生した。年平均では、03年から08年は5ドル台半ばから9ドルとなり、海外から米国への売り込みを目指すLNG生産開発の動きが加速した。

同時に、米国内で天然ガス生産企業の開発意欲が刺激され、08年以降のシェール構造からのガス生産の急増につながった。08年から19年にかけては、年平均で2ドル台半ばから4ドル台前半、短期的な変動範囲を含めると2ドル弱から6ドル強の範囲に水準が低下し、相対的に落ち着いた値動きとなった。原油の生産増による随伴ガスの生産も加速した。10年以降には、米国本土からのLNG輸出プロジェクトが浮上し、16年以降の輸出量の堅調な増加につながっている。

なお、世界がパンデミックに覆われた00年には、年平均で2・13ドルと低迷した。同時期に国際ガス価格の低迷により米国のLNG輸出はキャンセルが多発し、下げ圧力となった。

世界・米国とも反転して需要回復に向かった21年には、年平均3・73ドルと上昇、特に9月後半から11月前半は、5ドル台から6ドル台前半で推移した。この相対的高価格を維持したまま始まった22年は、ロシアによるウクライナ侵攻後のEU(欧州連合)によるLNG輸入へのシフトが顕著になり、米国ではヘンリーハブ先物契約が4月前半に超えた6ドル水準を10月前半まで維持した。この間、8月中旬には10ドルに迫った。年平均では6・54ドルとなった。

23年と24年は年平均2ドル台半ばと相対的に低下し、昨年は年平均3・62ドルで幕を閉じた。米国内での発電用天然ガス需要の増加、LNG輸出設備の立ち上がりペースが、上流ガス生産の増加に比して急速だったことが上昇要因となった。


年末年始は変動幅大きく 地域間の価格差顕著に

昨年末から今年初頭にかけて、米国の天然ガス先物市場は、相対的に変動が顕著な展開となった。1月渡し分の契約取引の最終日(昨年12月29日)、価格は前日比7・4%上昇、4・69ドルとなった。しかし、2月渡し分は12月30日から1月2日までに9・2%急落した。12月末から1月初旬の米北部・西部での寒波による暖房用需要と、過去最高水準のLNG原料ガス供給という需要増加要因、1月前半の米中部・東部の温暖・多雨の見通しによる需要抑制要因が交錯した。

EIA(米エネルギー情報局)は、昨年12月時点の短期見通しにおいて、今年のヘンリーハブ価格平均を4・01ドルと予測している。注目点として、この年末年始に顕著に見られた地域間の価格差がある。北東部では寒波予測に伴い価格が急騰した一方、近年の原油生産の急増に伴いガス生産も急増したテキサス州西部のパーミアン盆地では、温暖な天候予測とパイプラインの容量不足が重なり、大幅な価格下落が発生した。

データセンターの電力需要は急増しているが、予測困難な需要源でもある。一方、今年は世界全体のLNG生産拡張の大部分を占める年間3000万t分近くを米国が占め、新たな原料ガス需要につながる。LNG輸出が米国ガス市場に占める重みは、20年の1割程度から26年末までに2割に増加する。

生産面では、短期的な需要増への対応は、ルイジアナ州・テキサス州にまたがるヘインズビル・シェールが焦点である。加えて、これまで未開拓だった周辺地域にも開発の動きがある。長期的なガス供給確保を目指すLNG買主、商社による上流ガス資産取得の動きも注目だ。また、パイプライン、LNG輸出設備などのインフラストラクチャー整備促進のための規制改革の進展も、生産拡大や価格安定化の鍵を握っている。

はしもと・ひろし 1986年東京大学法学部卒、東京ガス入社。国際エネルギー機関(IEA)などを経て2010年日本エネルギー経済研究所入所。23年から現職。

【論点】名古屋高裁金沢支部の画期的判断で原発差し止め 訴訟の立証の在り方に新潮流

原発差止め訴訟の注目点〈上〉/上村香織・TMI総合法律事務所弁護士

将来に向けて原子力発電の役割が一層増す中、最近の訴訟では注目の動きがみられる。

連載初回は、立証の在り方に一石を投じた名古屋高裁金沢支部の判断について解説する。

現在、日本全国で廃止または廃止措置中とはなっていない建設済みの原子力発電は33基ある。そのうち今年1月5日時点で運転中の原発は14基であるが、近時、泊発電所3号機と柏崎刈羽原子力発電所6号機について各知事が安全対策に万全を期すことを前提に再稼働を容認する考えを示し、再稼働が進む見込みである。

原子力について、昨年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では「安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用」とされた。また、10月の高市早苗首相の所信表明演説では「国民生活および国内産業を持続させ、さらに立地競争力を強化していくために、エネルギーの安定的で安価な供給が不可欠」として、原子力は特に重要な国産エネルギーとして位置付けられた。今後増加が見込まれる電力需要や世界的な温暖化対策への要請、エネルギー安全保障の観点から、原子力の役割がその重要性を増している。

そのような中、原発差止め仮処分の立証の程度の考え方について、名古屋高裁金沢支部が新たな重要な判断を下した。この判断は、今後の原発差止め仮処分の判断に一石を投じるものとも見える。では、どのような判断か。

民事訴訟と民事保全手続で要求される証明の程度の比較


政治動向に言及 「法体系が原発推進」とも

まずは経緯から述べよう。周辺住民によって、関西電力が福井県美浜町に設置する美浜発電所3号機の運転差止めの仮処分申立てがなされた。2024年3月29日、福井地裁はこの申立てを却下したが、これを不服とした住民側が抗告した。名古屋高裁金沢支部は、昨年11月28日、この抗告を棄却し、電力事業者側を勝たせた。この名古屋高裁金沢支部が下した判断(本決定)が今回紹介するものである。

本決定は、総論において、原子力の利用については、さまざまな見解が存するところ、その利用目的やこれを推進するか、抑制すべきか(原子力政策)は、国によって、また時代によって大きく異なっていると指摘する。その上で、グリーン・エネルギーの経済性などが向上し、原子力発電に頼る必要がなくなるまでの過渡期において、原発は必要との見解が現時点のわが国では、なお主流であり、原発の運転を即時に停止すべきとの意見は主要政党の中でもごく少数にとどまっているのが現状である、と述べた。本決定は、以上を公知の事実として認定した。裁判所がこのような政治的な動向に言及すること自体珍しいと思われる。

そして、本決定は、原子力基本法、原子炉等規制法の各規定を挙げた上で、原発に関するわが国における現在の法体系は、事故防止に対する最善最大の努力および原子力規制委員会の審査を前提として「原子力の平和利用、すなわち原発を推進するとしている」と認定した。原子力に関する法体系について、「原発を推進している」とまで踏み込んで解釈していることも本決定を特徴付けるものである。

その上で、原子力の利用についてはさまざまな見解があり得ることや、わが国の現在の法体系などを踏まえると、わが国における原発の一般的な可否については、立法府・行政府の判断によって決定されるべきとして、個々の原発の運転の可否については第一次的には原子力規制委員会の判断に委ねられるのがふさわしく、専門性や民主的基盤を有しない裁判所の役割は限定的なものと解するのが相当、と判断した。

原発事故の重大性を十分考慮しても、裁判所が運転の差止めを命じるためには、本件原発の安全性に欠ける点があり、住民側の生命、身体などの人格的利益が侵害される具体的な危険が存在すること(本件原発の具体的危険性)の疎明を要する、としている。


従前にはない新たな判断 住民側により高いハードル

さらに、立証責任についても原則通り、住民側に本件原発の具体的危険性が存在することの疎明を要するとした。このような判断は、これまでの原発差止め仮処分の判断でも(少ないながらも)見られたものである。

もっとも、本決定はこれにとどまらず、かっこ書き、かつなお書きであるものの「本件は、無担保で、満足的仮処分を求めるものであり、被保全権利の疎明については、本案訴訟における証明に近い立証を要するものと解するのが相当である」として、立証の程度について、従前の仮処分の判断と比べて新たな判断を下した。暫定的な民事保全手続で要求される証明の程度は、通常、証拠によって一応確からしいという疎明(民事訴訟手続で要求される証明の程度よりも一段下がるもの)が求められるにとどまるが、差止め仮処分が認められれば、それだけで原発を停止させることができる。この差止め仮処分が持つ強力な効果(満足的仮処分)に照らして、疎明であっても、民事訴訟で要求される証明の程度に近い程度の立証を要する、と判断したのである。

本決定は、直ちに今後の原発差止め仮処分における一般的な考え方として受け入れられるとは考え難い。ただ、少なくとも、住民側が原発稼働を止める司法判断を得るためのハードルをより一層高めた前例として、今後の原発差止め仮処分の判断に一石を投じるものであり、今後の影響が注目される。

うえむら・かおり 2018年1月TMI総合法律事務所入所。訴訟紛争、リスクマネジメントなどを幅広く対応。21年4月から原子力規制委員会・原子力規制庁長官官房法務部門に出向し、国を被告とする原発訴訟に従事。23年8月からTMI復帰。