柏崎刈羽の現場を訪れると、安全運転の実現に努力を惜しまぬ運転員の姿があった。
こうした事実を見ようとせず、不安だけをあおるメディアや政治家の姿勢はいかがなものか。
「中央制御室」に警告音が鳴り響いた。核分裂反応を強制的に停止するため、制御棒を一斉に挿入する「スクラム」と呼ばれる緊急操作が実施できないようだ。なぜ自動的にスクラムしなかったのか。事態を収束させるための次の一手は。5人の運転員が現状の分析と解決策を模索する─。
ここは原子力発電所ではない。柏崎刈羽原発(KK)に隣接するBWR運転訓練センター(BTC)の一室だ。再稼働を目前に控えたKKの運転員たちが、万が一の事態に備えた訓練を実施していた。
この訓練の特徴は、限りなく実戦に近いことだ。訓練でどんな「事故」が発生するかは、前もって運転員に知らされることはない。原発の不具合は、いつ、どんな理由で起きるか分からないからだ。
BWR運転訓練センター 提供:BWR運転訓練センター
中央制御室を再現したシミュレータ 提供:BWR運転訓練センター
臨機応変な対応力を養成 慎重派議員の見学少なく
2011年の福島第一原発(1F)事故以降、全国の沸騰水型軽水炉(BWR)の運転員は再稼働を目指し、この場所で鍛錬を重ねてきた。25年11月には新潟県の花角英世知事が訓練の様子を視察した。
運転員は原子力安全の最後のとりでだ。安全対策を施す作業員、不審者やテロ行為を未然に防ぐ警備員、原子力規制委員会の審査対応や国・自治体との調整を行う東京電力の社員など、再稼働に向けて多くの関係者が尽力した後、アンカーとしてバトンを託される。BTCには運転員を育成するインストラクターが約30人在籍するが、スポーツで言えば選手を育てるコーチのような存在だ。
BTCには中央制御室を忠実に再現した3基の運転シミュレーターがある。KK6、7号機などの改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)型が1基、国内で最も基数が多いBWR―5型が2基だ。ここで入社間もない未経験者から、高度な知識とスキルが求められる運転責任者までを養成する。社員・訓練生寮を完備し、初級コースでは2カ月以上にわたって基礎を叩き込む。70歳を超える大ベテランも在籍するといい、分からないことは何でも答えてもらえる。
1F事故後は訓練内容が大幅に変わった。訓練の目的は冒頭のシーンのように、不具合が生じた時に臨機応変に対応することだ。事故前は一つの機器が故障した場合など安全対策で想定された範囲が中心だったが、1F事故のような複合的で進展予測が難しいケースに対処するためには、運転員が自ら考え、判断し、行動する力を高めなければならない。
BTCの役割は運転員の育成だけではない。立地地域や周辺自治体の職員を対象とした自治体研修にも積極的に取り組んでいる。基本的なプラントの仕組みやトラブルの発生メカニズムを学んだ上で、避難訓練などに役立ててもらうのが目的だ。
「女性や子どもといった社会的弱者への対応に必要な視点を養うため、研修参加者には女性や若手職員が多い。研修を通じて、自治体間のネットワーク構築のハブとしても機能している」(BTCの長谷川真社長)
そんなBTCを一目見ようと、25年の施設見学者は前年比2倍に達した。しかし、気がかりな点がある。自治体の「議員団」が視察に訪れるが、いわゆる「慎重派」の議員の同行が少ないことだ。
1F事故からの約15年間でエネルギーを取り巻く状況は激変し、「賛成」「反対」というイデオロギー対立の時代は過ぎ去った。大切なのはフラットな視点で現場を見て、知識をアップデートすることだ。新潟県が実施した県民意識調査では、東電が実施している安全対策の中身を知っている人ほど、再稼働の条件が整っていると回答した人が多かった。慎重な立場を取る人にこそ現場の取り組みを見てほしいのに、住民の代表たる議員が、原発関連施設に足を運ぶことすら二の足を踏んでしまうのは残念でならない。
燃料を装荷しふたを閉じた6号機の格納容器 提供:東京電力ホールディングス
水密扉で水の侵入を防ぐ 提供:東京電力ホールディングス
きめ細やかな安全対策 何重もの壁で重大事故防止
実際にKKを見学すれば、重大事故が起きる確率は限りなく低いと実感できる。視察した12月8日は日本海側の冬特有のよどんだ曇天で、時折雨と強風に見舞われた。一時は竜巻注意報が発令されたが、構内では約6000人が汗を流していた。1F事故後、彼らによって構内は劇的な変化を遂げた。
原発の安全思想は、異常が発生した際に、①核分裂反応を止める、②原子炉を冷やす、③放射性物質を閉じ込める─という三点に集約できる。1F事故では、津波によって②に必要な電源やポンプが使えなくなってしまった。
「1F事故から得られた最大の教訓は『想定はいつか超えられる』ということ」(KKの林勝彦副所長)。だからこそ、KKでは事故の進展を食い止めるために何重もの壁を準備している。野球に例えれば〝最強のリリーフ陣〟と言えよう。1人が打ち込まれても、有能な投手が何人も控えている。
まず、1F事故の原因となった津波への対策は、想定される津波の最大高さ7〜8mを超える15mの防潮堤を建てた。しかし、それすら超えた場合に備えて、重要な機器がある部屋の入り口には水密扉を設置し、配管の貫通部から水が入らないようにシリコンゴムで止水処理した。原子炉建屋の側面にあった給気口を防潮壁で覆い、海抜15m以上から空気を取り入れる構造に変えた。
それでも、既存の設備で「冷やす」ことができなくなった時のために、注水や除熱に必要な機材を海抜35mの高台に用意してある。速やかに電源供給が可能な空冷式ガスタービン発電機車を設置し、燃料となる軽油は地下に10万ℓ貯蔵。さらに、そのバックアップとして電源車を20台準備した。