【永田町便り】リーダーのイメージが選挙結果を左右 今後も「令和の政治改革」を訴えていく

福島伸享/衆議院議員

第51回衆議院選挙は高市ブームの中、比例代表の候補者が足りなくなるほどの自民党の圧勝で終わった。私も僅差で相手候補に負け、無所属ゆえに比例復活もなく、議席を失った。

2026年度予算案の年度内成立を事実上投げ捨てての、通常国会冒頭での突然の解散劇。前回の石破政権の発足わずか5日後の解散とも合わせて、私はこのような権力を維持するためには横紙破りのやり方をする政治の在り方そのもの問うために、前回の衆議院選挙に続いて「令和の政治改革」を訴えて回った。その一つの柱が選挙制度の抜本改革だ。

リクルート事件を契機とする「平成の政治改革」で導入された小選挙区比例代表並立の選挙制度は、政権交代のある二大政党政治を目指すものであったが、近年は野党が常態的に分裂し、野党第一党は政権を奪う能力にも意欲にも欠けるため、結果的に二大政党政治は実現しなかった。


本質的問題解決せず 科学的政策選択の選挙を

一方、人物ではなく政権や政党を選択する選挙制度により、政党のリーダーの顔やイメージが選挙結果を左右することとなり、たとえばエネルギー政策などの専門性を持った政治家や明確な理念や信念を持つ政治家などが少なくなり、党の方ばかりを向く小粒な政治家ばかりになってしまったとも言われている。

今回の衆議院選挙でも、高市首相は「国論を二分する政策に挑戦したい」と言うが、かつての小泉政権の郵政民営化とは異なり具体的に何が「国論を二分する政策」なのかは明らかではなく、結局そのようなことをハキハキ言う高市首相のイメージに多くの国民が引き付けられたのだろう。しかし、小泉郵政選挙、民主党への政権交代、アベノミクスを掲げた第二次安倍政権の誕生など、現行選挙制度の下で熱狂による圧倒的多数の議席を持つ政権与党が誕生してきたが、この国が抱える本質的な問題はほとんど解決せず、「失われた30年」は続き、日本の国際的地位は低下し続けている。政策立案は相変わらずの霞が関主導で行われており、選挙結果は政策の本質的な転換とはほとんど関係ないからだ。

党首のイメージが熱狂の下で消費される選挙から、科学的思考に基づいて作られた政策体系の選択の選挙に変わらない限り、何度解散総選挙を繰り返してもその流れは止まらないであろう。やはり「令和の政治改革」を止めるわけにはいかない。国民が高市ブームにさめた後、この国の政治のあり方をもう一度問い直すことが必要になろう。私も在野の立場から、「令和の政治改革」をあきらめることなく訴えてまいりたい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/3月12日】石炭は日本の生命線 脱炭素政策を廃止せよ

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

本稿執筆現在、ホルムズ海峡を往来するエネルギー輸送がほぼ停止している。

日本の原油輸入は中東依存度が高く2024年のデータを見ると95.1%であった。これに対して、天然ガス輸入はそれほど中東依存度は高くないが、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーンの合計で11.0%であった。いま、この両者の輸入が大きく影響を受けており、それがいつまで続くのかも予断できない。これに対して、石炭は中東に依存していない。

さて発電部門についてはどうか(図)。発電電力量の23年のデータを見ると、石油は7.4%、天然ガス(LNG)が32.9%、石炭が28.3%などとなっている。


出展:経済産業省 エネルギー動向(2025年6月版)(30ページ)


ホルムズ海峡の危機によって、全体の7.4%を占める石油火力と、あとは32.9%を占めるLNG火力のうちで中東に依存する11%、つまり32.9%×11.1%=3.6%の合計で、7.4%+3.6%=11.0%の発電電力量が影響を受けることになる。


発電用LNGの節約を エネ価格高騰抑制にも貢献

もしこの11%のいくらかが失われるならば、それを緊急で賄うには、石炭火力を焚き増すことが有力な候補である。

さらには、それ以上に、石炭火力は可能な限り焚き増すべきである。そうすれば、発電用のLNGを節約することが出来るからだ。天然ガスは民生部門と産業部門でも直接燃焼の形で利用されている。発電用のLNGを節約してそれを回してやれば大いに助かることになる。

今後、封鎖がどのぐらい続くかはわからない。だが、仮に封鎖が速やかに終わるとしても、重要な教訓は、石炭火力が日本のエネルギー安全保障に極めて重要である、ということだ。

これは供給途絶を防ぐためだけのみならず、エネルギー価格の高騰を抑えるためにも必須である。今回のホルムズ海峡閉鎖を受けて、LNGのスポット価格(JKM)はたちまち倍増した。これについては、あらかじめ長期契約を結んでおくなどの形である程度の対応はなされているけれども、日本として石炭火力を一定割合持っていることで、このようなLNG価格高騰がもたらす電力価格への影響を和らげることができる。

今回のホルムズ海峡封鎖を受けて、化石燃料依存を減らすことが重要で、そのためには太陽光発電や風力発電に頼ればよいという意見が散見される。だが、系統統合コストを含めればこの両者は極めて高コストである。大量導入によって起きることは、平時からの電力価格の高騰であり、すると産業が空洞化するので、国の安全保障には完全に逆行する。

原子力発電所の再稼働、ひいては新増設をすることは、もちろん有効な策だが、いかんせんそれには時間がかかる。石炭火力こそは日本の生命線である。

それにも関わらず、日本政府は今それを滅ぼそうとしている。すなわち、脱炭素政策の法制化を進めて、石炭火力の事業環境を悪化させ続けている。特に、来年度から予定されている排出量取引制度の本格導入は、石炭火力発電所に対する死刑宣告となる。

このままでは日本のエネルギー安全保障は脆弱になる一方である。 政府は脱炭素政策を直ちに止めるべきだ。


【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。近著に『データが語る気候変動問題のホントとウソ』(電気書院)。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

【フォーラムアイ】情熱を胸に原子力人材育成に挑む 日本原子力発電・和佐尚浩氏

【日本原子力発電】

日本原子力発電で人材育成を担う敦賀総合研修センターの和佐尚浩センター所長。

自らの経験と研修事業で得た知見を踏まえ、原子力人材育成の現状と課題について語った。

高校での就職活動中に目にした「原子力のパイオニア」のキャッチフレーズに引かれ、日本原子力発電への入社を志望した。

競争倍率は高く、半ば諦めていたが「運よく採用された」と当時を振り返るのは和佐尚浩・敦賀総合研修センター所長だ。入社後の配属は敦賀発電所の技術課。廃棄物貯蔵管理などに従事した後、発電課に異動。運転員の教育計画などを担当後、自身も運転員になった。

人材育成や教育については、「若い時から、廃棄物処理業務の運転に携わる委託先と一緒に、ヒューマンエラー防止、所作、安全確認など運転員として必要な教育に携わった」という。

和佐尚浩(敦賀事業本部敦賀総合研修センター所長)
わさ・なおひろ
1964年鹿児島県生まれ。宮崎県都城工業高校電気科卒業、83年同年入社。敦賀発電所技術課、同発電室発電運営グループ、本店総務室人材育成グループ、敦賀発電所発電室長などを経て、24年7月から現職。


教育者の熱意を受けて 現場感覚を再現した育成

2012年、本店の人材育成部門に異動。東日本大震災後、原子力発電プラントが長期停止している中、若手が稼働炉で経験を積むことができないという課題が大きかった。そこで原子力安全推進協会(JANSI)を通じて、運転員を稼働炉へ派遣するとともに、出向により経験を積むという仕組みづくりにも取り組んだ。

さらに、原電が培ってきた研修ノウハウを広く活用するべく、社外への研修展開にも着手する。「最初はどう取り掛かればよいのか分からず、国や事業者、規制機関、学校などの関係機関を回った。そこでさまざまな業界の仕組みを知り、多くの出会いに恵まれた」と語る。

この時期に感銘を受けた出来事があった。福島原発事故後に、福島の学校を訪れた際の経験だ。「夜遅くまで『原子力発電事業者として、事故についてどう考えているのか』と先生に厳しく問われた。最終電車で戻り、資料を作り、翌朝一番で再訪した。真摯に話し合った結果、『今回は原電と一緒にやりましょう』と言ってもらえた。本当にありがたかった。先生方の生徒への強い思い、姿勢に深く胸を打たれた」。この経験は今でも大切な財産と語り、「人を育てる仕事にやりがいを感じた。原子力人材育成は産官学が連携しないとできないと俯瞰的に見られるようになった」と振り返る。

敦賀総合研修センターでは、労働安全教育をはじめ、機械、電気、制御などの保修分野の教育、さらに放射線管理・廃止措置クリアランス制度などの専門教育、運転員を対象としたシミュレーター訓練など、幅広い教育プログラムを展開している。

敦賀総合研修センター

研修センター内に設置している中央制御室を模擬したフルスコープシミュレーターでは、計器監視、弁操作、ポンプの起動・停止といった実機と同じ操作ができ、実践的な運転訓練が可能だ。本来ならプラントメーカーに制作を依頼するが、開発を通してノウハウを学び、より使い勝手の良い設備とするため、当時の経営層から自社開発する方針が示された。東海第二発電所や敦賀発電所の経験豊富な運転者でプロジェクトを組んだ。ユーザー視点で作り上げたシミュレーターで現在、若手運転者が訓練を行っている。「おかげで現場経験の不足による技量の停滞を防ぐ一助となり、本当に助かっている」と話す。

また、実践力を育成する研修にも力を入れている。その代表例が「現場異常発見能力向上訓練」である。運転員が現場の機器・設備の異常や現場の不適切な状態を発見し、その後の振る舞いまでの感性と技能を向上させるものだ。「ループ設備」を発電所の現場に見立て、過去に発生した不具合箇所を再現し、受講生一人ひとりが巡視し、異常を発見し、対応まで行う過程を確認・評価、指導している。

ループ設備での現場訓練


公開研修と地域連携強化 年間受講者1300名超

研修センターでは、他電力からも多くの研修生を受け入れている。特に原電はPWR(加圧水型原子炉)とBWR(沸騰水型軽水炉)の両方を保有しており、幅広い運転訓練を提供できる点が強みとなっている。また、原子力事業者以外でも受講できる研修も設けており、年間受講者数は社外者を含め約1300人規模となる。海外からの視察や研修にも積極的で、多くの人材が研修センターを訪れている。

地域との連携にも力を入れていて、地元の大学と連携した研修や高校へのエネルギー・原子力に関する講義・実習も行っている。今後はさらに取り組みを広げていく考えだ。

研修センターの今後の課題は、講師の高齢化が進む中での次世代講師の確保だ。「他電力と一緒に研修すれば受講生同士の交流が生まれ、研修の質も高められる。そうした連携の仕組みを築きたい」と将来を見据える。

「原子力人材育成にはカリキュラムや設備、講師などの要素も大事だが、最も重要なのは『情熱』だ。教える者が情熱を持ってやらないと、受けている方に伝わらない」。インフラを支えているという使命を胸に、未来志向で原子力人材育成を進めている。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2026年3月号)

NEWS 01:Jパワー新社長に加藤氏 早くから将来のトップと嘱望

Jパワーは、4月1日付で加藤英彰常務が新社長に就任すると発表した。菅野等社長は健康上の理由で3月末に退任し特別顧問に就く。会見で加藤氏は、S+3Eの重心は時代によって変わるとし、「変化に柔軟に対応し成長を図っていきたい」と強調した。

菅野氏(左)の後を継ぐ加藤氏の手腕に注目だ

火力のトランジションに関しては、脱炭素目標の達成に向けた取り組みは続けるとしながらも「一瀉千里に脱炭素投資を進めるのは現実として難しい」「情勢を見ながら振る舞い方を判断したい」とコメント。また、フルMOX炉として運開が期待される大間原子力発電所は、目標とする2030年度の運開は難しいとしながらも「一日も早い工事の再開、稼働へ持っていきたい」と意欲を見せた。他にもLNG火力導入の検討、電力需要増への対応、洋上風力開発といった課題にどのような手腕を発揮するのか注目される。

同社関係者はその人物評を「スマートな印象だが明るくはっきりモノを言い、かつ行動力がある。早くから将来の経営トップとして嘱望されてきた」と語る。その上で「かつては人事や燃料など幅広く中核業務を経験。また、故・中垣喜彦元社長の秘書を務め、その間には外資ファンド・TCIとの対決などもあり、経営のかじ取りを間近に見てきた。以降は企画の担当が長く政策議論にも精通し、官庁関係の信頼も得ている」と、今回の人選に太鼓判を押す。


NEWS 02:JERAがカタールと長契 LNG年300万t調達へ

JERAがカタールと新たなLNGの大型長期契約を締結した。2028年から27年間、JERAがカタール・エナジー社から年間約300万tを仕向け地渡しで購入する。以前両者は年550万tの長契を結んでいたが、21年に契約を延長せず。本契約を機に、ここ数年冷え込んだ関係の改善が進むことが期待される。

JERAは背景として、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い季節間の変動への対応がより求められ、データセンターや半導体工場など電力需要の大幅増が見込まれることなどを挙げる。同社は昨年も米国から年最大550万tの新規調達を契約・合意しており、調達拡大や地域リスクの分散化を図っている。

特にカタールについては、仕向地フリーの米国産のような柔軟性は期待できないものの、高い安定供給力と緊急対応能力があるとし、両国のパートナーシップの強化や、日本のエネルギー安全保障の強化に資する点などを意義として挙げる。

併せてJERAとカタール社、経済産業省の間で、緊急時のLNG追加供給に関する覚書も締結。世界的な需給ひっ迫や日本で大規模災害が発生した際などに安定供給の確保が困難だと経産省が認定した場合、カタール社に日本への追加供給を要請し、対応策を協議するというものだ。

21年に契約を延長しなかった当時、JERAは「世界的な市場の変化や自由化に伴うLNGの位置付けの変化などで従来型の長契の継続が難しくなった」と説明していた。それから国内では電力需給ひっ迫の懸念や、将来の需要見込みが増加に転じるなど、LNGの政策的位置付けが変化。産出国側の情勢も変わっている。こうした変化に直面しながら消費国、産出国双方でどのような動きが出てくるのか、引き続き注視が必要だ。


NEWS 03:容量単価・総額とも過去最高 DR大量失注が意味するのは

電力広域的運営推進機関が1月20日に公表した、2029年度を実需給年度とする容量市場の25年度メインオークションの約定結果は、総額が前年度比19・4%増の2兆2094億円、1kW当たりの平均単価が2169円上昇の1万3303円となり、過去最高だった前年度を上回った。

エリア別に見ると、東北・東京・九州の1万5千円超から九州を除く西日本エリアの1万2388円まで、供給信頼度に応じた価格差はあるものの、いずれもが新設投資の指標価格となるネットコーン(1万75円)を超えた。電源を維持するための固定費上昇の影響が、如実に表れた形だ。

東北・東京では、供給信頼度を充足するための電源が不足したまま約定処理が終わり、将来の供給力不足への懸念は深刻化している。それにもかかわらず、老朽化した石油・LNG火力を中心に623万kWが落札されなかった。資源エネルギー庁は1月、指標価格引き上げを含めた容量市場の見直しに着手したばかりだが、こうした電源の休廃止に歯止めをかけ供給力をいかに確保するかがポイントとなりそうだ。

一方、落札されなかった電源の1割超(76万kW)が発動指令電源で、多くが中国・四国・九州エリアにおけるデマンド・レスポンス(DR)と見られる。発動指令電源は約定量全体の4%程度とされ、今回は715万kWが落札された。

電力業界関係者は、「DRよりも実効性評価が高い蓄電池が、安定電源としてではなく、より高い収入を得やすい発動指令電源として応札した結果、押し出されてしまった」と分析。「こうしたエリアでは、DRでの落札が減少し、普及を阻害することになりかねない」と、見直しの必要性を訴える。


NEWS 04:東邦ガスの料金規制解除へ 電力の議論後押しするか……

大手都市ガス3社の中で、唯一残っていた東邦ガスの経過措置料金規制の解除に向けた動きが本格化している。資源エネルギー庁のガス事業環境整備ワーキンググループ(座長=山内弘隆・一橋大学名誉教授)は、1月23日の会合で同社が解除基準を満たしていることを確認した。パブリックコメントの募集と、電力・ガス取引監視等委員会への意見聴取を経て最終的な判断を下す。

大手ガスの料金規制は全廃の方向だ

2017年4月に小売り全面自由化が実施された都市ガス事業では、消費者保護を名目として、供給区域内において競争が十分に進展していないなど一定の基準に満たない既存事業者12者を対象に、経過措置規制が課された。その後、基準を満たしていることが確認された事業者から順次解除され、21年10月には東京・大阪の大手2社も解除。この際東邦は、基準を満たすことが確認されたものの、公正取引委員会の立ち入り検査を理由に解除が見送られていた。

大手ガス会社への小売り規制全廃により、いよいよ本格的な自由化時代に突入しようとしているガス事業。これに対し、自由化で先行したにもかかわらず、規制が解除された大手電力会社は一社もない。規制料金には消費者保護の側面があるが、柔軟な料金体系実現の足かせとなり、消費者が真の自由化メリットを享受できていないことも事実。早期の解除にはずみがつくことが期待される。

【論説室の窓】柏崎刈羽6号機の再稼働 東電再建の鍵は「信頼」にあり

神子田 章博/〈NHK〉解説主幹

悲願の原発再稼働を果たした東京電力だが、経営が直面する現実は厳しい。

信頼回復のためには、トラブル発生時の対応と安全対策の周知徹底が肝心だ。

東京電力ホールディングスは1月21日、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所6号機の再稼動を果たした。その後、警報の設定の不具合で17日間にわたり停止したが、2月9日に再び原子炉を起動させ、営業運転に向けた検査を行ってきた。検査が順調に進めば、3月にも営業運転を開始する予定だ。

再稼働した柏崎刈羽原発

東電では、原発が1基稼働すれば、その分火力発電の燃料費を抑えられるとして、およそ1000億円の収支改善効果があると見込んでいる。1000億円というと大きな数字に見えるが、会社の置かれた経営状況を考えると、とても十分なものとは言えない。

東電の今年度の中間決算では、グループ全体の最終的な損益が7100億円余りの赤字に陥った。要因としては、福島第一原発の廃炉で必要となる「核燃料デブリ」の本格的な取り出しに向けた準備費用などとして9662億円の特別損失を計上したことが大きい。この決算が象徴するように、東京電力の経営には、福島での事故を起こした会社としての責任を果たすための賠償と廃炉の資金負担が重くのしかかっている。

政府は、賠償と廃炉などの費用について23兆4000億円に上ると想定していて、このうち、東電の負担分はおよそ16兆円。東電は、毎年度事業で得られる収入の中から、5000億円程度を確保したいとしている。その上で、4500億円規模の最終利益を上げることを目標に掲げている。

なぜ4500億円なのか。原賠・廃炉等支援機構法では、除染にかかる4兆円の費用を、将来的に政府が保有する東電の株式を売却して捻出することが定められている。そのためには、相当な利益を上げて株価を大幅に上昇させる必要があるからだ。収入の中から5000億円を差し引いて、なおかつ4500億円の利益を目指すという極めて難しい経営課題を背負わされているのだ。


利益目標に程遠く 安全対策に巨額の費用

一方で出費はかさんでいる。今後増える電力需要に応えるための送配電網などの設備投資や、原子力発電所のテロ対策などの資金が必要とされているからだ。しかし、電力の販売量は自由化による競争激化で減少傾向となっている。このため手元の資金の収支を示すフリーキャッシュフローは、7年連続マイナス=つまり「持ち出し」の状況が続いている。1月に発表された新たな事業計画では、企業価値の向上につながる他社とのアライアンスを探る方針が打ち出されたが、さらなる原発再稼働をどこまで進められるかも、収益改善の重要な鍵を握ることになる。

しかしその道は険しそうだ。柏崎刈羽には7基の原発があり、このうち1号機と2号機について東電は、廃炉に向けて検討を行うとしている。また7号機については、原子力規制委員会の審査に合格し安全性が確認されているが、設置が義務付けられているテロ対策施設の建設が遅れ、2029年8月にようやく完成するとしている。3、4、5号機についても、再稼働する場合には新しい規制に基づいた安全対策工事が求められ、そのための巨額の資金が必要となる。

こうした資金面に加えて、重要な課題が、原発に対する安全性について信頼を得られるかどうかだ。東電は福島での事故を教訓に、柏崎刈羽原発でさまざまな対策を行っている。福島の原発事故では、津波が敷地内に侵入し非常用ディーゼル発電機や配電盤などが水に浸かったため、原子炉を冷却するための注水に必要な電源を失った。そして注水が止まったことで燃料が溶け、水蒸気が大量に発生し圧力が上昇。格納容器が破損し、溶けた燃料から発生した放射性物質や水素が、原子炉建屋内にまで漏れ出した。そして水素爆発が起きて建屋が破壊され、放射性物質が放出された。

柏崎刈羽原発では、海面からの高さが、想定される津波の2倍にのぼる15mの防潮堤を建設。敷地内に津波が侵入したとしても、電源など原子炉の冷却に欠かせない重要な設備があるゾーンには浸水しないように水密扉などを設置。さらに、原子炉建屋のすぐそばと高台に軽油を燃料とするガスタービン発電機を積んだ車を配備するなど電源のバックアップ体制も強化。原子炉で発生する蒸気を駆動源にして注水を行う装置など原子炉を冷却するための代替手段も確保するなど、二重三重のフェイルセーフを施したという。


トラブルはすぐ公表を 説明は分かりやすさを重視

ただそうはいっても、何年も動かなかった原発を稼働させる中で、さまざまなトラブルが起きることも想定しておかなければならない。肝心なのは、トラブルが起きた際に会社側が直ちに公表するかどうかだ。原因を詳細に突き止めてから発表しようと考えている間に情報開示が遅れれば、「隠そうとしていたのではないか」と不信の念を招く。何かトラブルが起きたら、原因が分からなくてもすぐに公表する。その後状況が明らかになれば、都度公表する。そうした姿勢がまず求められる。

もう一つ重要なのは、柏崎刈羽発電所で施されたさまざまな安全対策について、地域の住民に理解してもらうための活動だ。話は技術的で一般の人には分かりにくいかもしれない。そこで例えば、福島の原発の模型を作って何が原因で過酷な事故につながったのか、さまざまな要因の一つひとつを分かりやすく説明する。その横に柏崎刈羽原発の模型を作って、福島での問題点の一つひとつについてどう対策をとったのかを示す。教訓がどう生かされているのかを一目見て分かるようにしたらどうだろうか。

福島で事故を起こした原発について、〝怖い〟と感じている国民は多い。不安が簡単に拭い去られることはないだろう。それでも取り得る限りの安全対策を行っていることについて分かりやすく説明していくことが、原発に対する信頼回復に向けた第一歩となるのではないか。

【フォーラムアイ】カーボンニュートラルのシナリオ分析に意欲的に取り組む 電力中央研究所の坂本将吾氏

【電力中央研究所】

電中研でサステナブルシステム研究本部と、社会経済研究所を兼務する坂本将吾氏。

脱炭素政策に直結するシナリオ分析、CCUでの炭素帰属問題に取り組んできた。

2016年に中途採用で電力中央研究所に入所した。入所前には中央大学都市環境学科の助教と、運輸政策研究所(当時)勤務も経験した。現在は、サステナブルシステム研究本部と社会経済研究所に所属し、気候変動のシナリオ分析とCCUS(CO2回収・貯留・利用)の研究に取り組んでいる。

坂本将吾(サステナブルシステム研究本部気象・流体科学部門「兼」社会経済研究所 主任研究員 博士「工学」)
さかもと・しょうご
2010年中央大学大学院理工学研究科土木工学専攻博士後期課程修了。中央大学理工学部 都市環境学科助教、運輸政策研究所を経て、2016年に電力中央研究所入所。

大学で所属していた都市・交通計画系の研究室は、多数の博士課程の先輩が在籍し「生き生きと研究に打ち込む姿に憧れ」研究者を志した。

博士課程から助教時代には、都市・交通計画と人々の生活に関する研究を手掛けた。ライフステージに従い変化する居住地・住居・自動車保有の選択行動は、都市構造に変化をもたらす。こうした都市構造と人々の生活の相互関係を統計データによりモデル化し、都市政策による住宅や移動のエネルギー消費の変化を分析するというものだ。

電中研には気候変動のシナリオ分析で採用された。一見、それまでの研究と異なるように見えるが、「気候と社会経済活動の相互関係をモデル化し、政策により将来の排出量を定量分析するという点で(過去の研究と)結びついている」という。


排出削減とCO2除去 課題の明確化と整備が必要

20年10月末に菅義偉元首相がカーボンニュートラル(CN)を宣言して以降、日本でも脱炭素が盛り上がった。それ以前から研究者間ではCNが必要とされており、坂本氏もIPCCのシナリオデータを分析し、宣言とほぼ同時に報告書(電中研報告:Y20001)にまとめた。「CN宣言直後にタイムリーに研究報告書が出せ、関連の審議会でも紹介する機会を得られた。CNの理解促進に貢献できた」と手応えを実感した。

図1 日本のCN達成時のCO2排出量の多様性
提供:坂本(2023)電力経済研究、No.69、19-37.
図2 CCUS技術群における貯留・利用と由来の区分
提供:坂本・上野(2024)電力中央研究所報告、SE24004.


CN達成の絵姿は1つではないと坂本氏は強調する。CNは、残余排出量とCO2除去量の均衡であり、組み合わせは原理的に無数にある(図1参照)。排出削減を重視して残余排出量を小さくすればCO2除去量は小さくなり、逆も成り立つ。「新規の排出を減らす「排出削減」と、排出されたCO2を減らす「CO2除去」の区別を理解し、両者をどのようなバランスで進めていくかが重要」と語る。

この区別について最もわかりやすくかつ誤解も多いのがCCUS関連技術群だ。これらはCO2の貯留と利用、CO2の由来(化石燃料と大気)の4象限に整理できる(図2)。同じ貯留を伴うCCSとCO2除去であっても、役割は異なる。貯留地は有限であり、両者への配分は、排出削減とCO2除去のバランスを考える好例となる。

CCUSは回収・輸送・貯留の複数の主体が関わり複雑になる。同技術を進めるには、「誰の削減・CO2除去となるか」アカウンティングの仕組みの整備も必要となる。例えば、化石由来CO2を回収・利用した場合、排出削減とはなるが、利用した分のCO2は最終的には排出される。この排出量を回収・利用事業者のどちらにカウントするかが帰属問題だ。「日本の制度では、両者に一旦排出量を帰属させた後に取引するという世界的にも例のない仕組みをとる」。越境CO2貯留を志向する日本にとって、相手国との削減量の帰属も論点となる。

また、CN達成には電化が必須となる。現在の電化率は、約28%程度であるがIPCCシナリオデータを用いた分析では、CN達成時、38~78%まで高まる。「幅はあるが、電化は、異なる将来像を描くシナリオ間でもなお共通するロバストな対策。既存技術で着実に排出削減を進められるため、普及見通しが不確実なCO2除去への依存度を低減する意味でも重要」という。


異なる専門性が結集 長期的視野で研究続ける

電中研には、発電技術から電力流通、環境・制度分析に至るまで、「電力」を軸に、異なる専門領域として扱われる分野の研究者が多数在籍する。CCS研究も分野横断的な体制で進めている。「多様な専門家と連携して取り組めることが醍醐味」とやりがいを口にした。

現在、米国などで脱炭素政策の進め方を再検討する動きもみられる。一方で、IPCC報告書では、気候変動は人為的起源とする科学的な確信度は高まっている。「エネルギー安全保障や価格高騰への対応とのバランスを図りながら、対策の重心は柔軟に調整しつつも、脱炭素への取り組みを継続することが重要」と述べる。今後も長期的視野、ち密な調査、分析力を武器に研究を続けていく。

【覆面ホンネ座談会】八方ふさがりの東電 再起は福島分離が絶対条件

テーマ:第5次総特の評価と課題

東京電力の第5次総合特別事業計画には、グッド(経済事業)・バッド(福島事業)分離論や上場廃止などの思い切った策は結局盛り込まれなかった。変わり映えしない内容は、東電が置かれる苦しい状況を示している。

〈出席者〉  A大手電力OB   B金融関係者   Cアナリスト

―まず全体の評価から聞きたい。

A 東電問題の本質は、福島事業の費用を国にどう寄せるか、そのために財務省を説得できるかだ。ある人は既に財務省とは握れていると言い、ある人は最後は政治判断だと言う。

特に廃炉が問題で、地元関係者を含めて2051年までに完了できるとはだれも思っていない。51年問題にけりを付けなければ、真のシナリオは描けない。これがつらいところで、第5次の書きぶりがこれまでと似ているのは仕方がない。そもそも総特は当初2回目くらいまでしか作るつもりはなかったが、いつの間にか形骸化していった。一つの節目としては今年秋に福島県知事選挙があり、少なくともそれまでは何も動かせない。

B セットで示した収支計画もあまり良い内容ではなかった。今は投資を減らす絵しか描けず、だからアライアンスというロジックは分かる。しかし投資すべき分野はある。例えばデータセンターだ。東電エリア内はデータセンター立地がどんどん進むと言われてきたが、スムーズに系統連系できるような投資が実施されなければこれまで見込んだほど需要が拡大せず、ひいては日本全体の状況にも影響しかねない。それどころか今の計画では送配電投資を絞ろうとしており、このままでは将来的な送配電の安定運用が懸念される。

C 深く読むほど、前回とほとんど変わらず、むしろ後退した印象を受ける。これが今、経済産業省が打ち出せる内容の限界なのだろう。福島事業の後退は世論的には許されないかもしれないが、従来方針の抜本見直しに切り込まなければ、経済事業は正常化しない。どれだけ稼いでも全て福島事業に吸い上げられる今のスキームのままでは、まともなアライアンスパートナーは出てこない。

廃炉作業は一歩ずつ進むが目標実現は極めて難しく、東電の経営にも影響する
出典:東京電力ホールディングス

アライアンスは実現するのか 上場廃止→再上場の絵も描けず

―アライアンス先として、一部報道で外資ファンドの名がいくつか具体的に出ている。

C 自分が担当ならとてもゴーサインは出せない。東電上場廃止の議論もあるが、優先株にでもしない限りインカムゲイン(資産の運用益)が期待できないので、再上場のシナリオを描けなければファンドは出資できない。福島事業に必要な資金を確保するのが目的なら、出資額は10兆円程度必要で、売却時の時価総額はこれを上回らなくてはいけないが、そのためにはEBITDA(企業の純粋な収益力を評価するための指標)が年間2兆程度必要になる。そもそも電気事業は薄利多売な上、東電の経営資源はあまり残っていない。シナリオを実現しようとするなら、足りない分を何らかのスキームを使って国が提供せざるを得なくなる。

B これまでも水面下で部分ごとのアライアンスが検討され、そのシナジー効果がよく見えなかった。さらに今回は丸ごとのアライアンスという形に変わり、ますますそんな相手がいるのか疑問だ。Cさんが言うように、電気事業はファンドが入ったから利益が上がるようなものではなく、投資を上回るリターンがあるとは思えない。また、ファンドはいつか出ていくことが前提で、それこそ切り売りや、JERAが上場したとたん去る、といった不安感は拭えない。

C 選択肢としてはアクティビストくらいだろう。しかもお金を出す条件として、裏では少なくとも福島事業は切り離し、経済事業も好きに切り売りしてよい、といった条件を付けて交渉している可能性がある。

A 機構(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の東電HD(ホールディングス)株の持ち分は54・74%。これを売るということ?

C そうだろう。そして中間持ち株会社を作り、そこで経済事業をコントロールする。親会社の執行役はますます力を失うことになる。それでも時価総額10兆円は厳しい。

B ファンドより、エネルギーが分かる通信などの需要家にこそ入ってほしい。データセンター誘致に向けた投資なら、金融的にも将来の絵が描ける。しかし彼らも上場しており、株主の反応を考えればやはり難しいのだろう。

―その他、財務状況の改善や廃炉の貫徹などに関し、特に問題視している点は?

A デブリの取り出しは難しく、ましてや県外搬出は現実的な選択肢でなく、いつかは国政選挙でみそぎを済ませ、見直さなければならない。衆院選で歴史的勝利を収めた今の高市政権ならできなくはないが、憲法改正などが優先事項だ。内閣官房参与の今井尚哉氏や、岸田政権で首相秘書官として原子力政策を大きく前進させ、まだ東電に影響力のある嶋田隆氏がどこまで寄り添うかがポイントになる。財務省の説得には彼らの力が必要だ。 

B できもしない県外搬出の約束をすべきではなかった。当時の状況は理解できるが、結局さまざまな先送りの原因となっている。

A その意味で、中部電力の浜岡原子力発電所の不祥事はボディーブローのように効いてきそうだ。国の廃炉に対する目線がどうしてもシビアになってしまう。中部電は以前に何度もあった内部告発をスルーし、さらに昨年11月に原子力本部長らが辞任したタイミングでなぜ全て公にしなかったのか。

C 東電の経営的には柏崎刈羽よりも福島第二を動かしたいところだが、こういったフリーハンドで従来方針を見直すようなことも、中部の件でより難しくなった。出血を止めるためには、廃炉以上に賠償の問題にメスを入れる必要がある。福島は復興のためにお金を使うフェーズから既に脱している。これは政治が決断すべきことだ。

A 福島のために必要とみられる資金24兆円のうち大部分を占めるのは賠償と廃炉で、根雪のように残るし、今後も増える。やはりどこかのタイミングで国に引き取ってもらうしかない。

B 廃炉にかかる数十兆円の費用をバランスシートに引当金として計上していない。将来的には東電がいずれ債務超過となることは明らかで、どこかで分離しなければ会社が成り立たない。ただ、チッソのケースでは1968年に水俣病が公害認定され、会社が分割されたのは2010年。早期に分割すれば地元を見捨てたと受け止められかねず、時間をかける必要があった。福島事故は間接被害額も含めて相当な規模となったことを考えれば、まだ早い。東電分離論を強調する一部報道はそうしたことを考えているのか。経産省内でも、福島に関わった経験がある人ほど「分離などできない」という。

遠のくJERA上場 システム改革の影響深く

―JERAの上場も当面なさそうか。

C 一時は「JERAの上場公開で資金を稼ぐ」というシナリオがあったが、どんどん遠のいている。同社では燃料・発電以外の事業が増え、それらでコンスタントに稼げているわけではなく、経営陣の目論見通りではない。本来は、両者の燃料・火力部門の統合で収益が大きく改善した時点で上場公開すべきだった。さらに今、JERAは東電からも中部からも離れたがっている。

A JERA幹部は東電の経営会議に出ないと聞くし、経産省の言うことを聞く会社ではなくなってきた。その意味で、浜岡の件は原子力としては大変な問題だが、JERAと東電の関係をリシャッフルするという意味では別の見立てもある。中部の次の世代は今の経営陣ほど「JERAは自分達の会社だ」という思いが強くはない。

B 個人的には、中部の新社長に東電の小早川智明社長を据えてはどうかと思っている。電力のことをよく分かっていて、かつ中の色に染まっていない人でなければ抜本的な改革を断行できない。その点、東電社長に就任して以来、さまざまなコンプライアンス問題に直面し、かじ取りしてきた小早川氏は適任ではないか。そうなればJERAを巡る問題も解決しそうなのだが……。

A さすがに小早川氏が中部の社長というのはないよ。他方、財務状況の改善に向けては、今東電に唯一残るアセットは首都圏の顧客。そこをいよいよ関西電力が安値攻勢で奪いにきたが、福島事業があると東電は戦えない。

B 東電管内のスイッチング率は他エリアよりも高く、相当多くの顧客が取られている。柏崎刈羽が動いたとしても、地元対応の1000億円の基金で収益が消えてしまうし、そもそも既に規制料金の原価に織り込んでいる。

A ただ、市況を見る限り内外無差別は形骸化しており、福島事業が切り離されれば、東電がJERAを一つのてこにして財務状況を改善していくことは可能になる。

C 制度の問題にも切り込む必要がある。特に送配電の事業報酬率が低すぎる点は大問題。レベニューキャップに物価調整条項を入れ、事業報酬率の見直しを再来年度には行うとも聞くが、抜本的見直しが不可欠だ。そういう主張をかつての東電ならできたのだが……。

B レベニューキャップはFCF(フリーキャッシュフロー)のマイナスが当然で、永久にお金がない状態をよしとする制度。これではまともな事業になり得ず、投資をやめる選択肢しかない。

A 事業報酬率はかつて3%近くあったが、今は1%台というありさま。また、電取委(電力・ガス取引監視等委員会)が会計監査的なことしかやっていないことが問題だし、託送料金について消費者庁まで口を出してくるのはおかしい。

B 振り返れば、システム改革は電力会社の体力を徹底的にそぎ落とした。「とにかくもうからせない」というドライブがかかり、東電の今の惨状をつくったことは、本当に国民のためになったのか。東電には人材も技術もそろっており、事故の後、本来は業界再編でより大きな電力の誕生に向かうべきだった。

A 今、他電力の人に話を聞くと「やはり東電が頑張らなければ日本の電気事業がまとまらない」「まだ人が残っているうちに何とか復活してほしい」といった期待感が強い。数年前とは地合いが変わったと思う。

高い評価受ける小早川氏の手腕 政府の体制も見直しを

―小早川社長の手腕はどう評価している?

C 手かせ足かせがある中で本当によく頑張っている。合理化やコスト削減は目標以上を達成し、現経営陣のせいでアライアンスがうまくいかない、ということでは全くない。

A 立地地域に溶け込もうと努力し、福島・新潟の首長ともまれにみる信頼関係を築けている。勉強家で、原子力に関する知識もこの9年間で相当深まった。小早川氏には今後、福島事業に専念してほしい。

―今後、福島は小早川氏、経済は酒井大輔副社長の2トップ体制へ、との話が出ている。

C 2トップ体制にしても実際にアライアンスなどの判断を下すのは引き続き吉野栄洋氏や機構で、小早川氏ではない。

A 東電経営陣は、福島の責任を全うする文脈の下では、本当の意味での経営を14年間やってこなかった。吉野氏はアライアンスをやれるところまで進めて、その後経産省に戻るのでは。経営陣が変わるかどうかは2月中旬には分かるはずだ。今のところ変わる空気はなく、今年はこのままではないか。

B 銀行にも情報が入らず報道で知るような状況だと聞く。取引金融機関との関係として健全ではない。担当者が変わっても経産省内の関心が高いままでなければサステナブルではない。いつかは分離や最終処分法の転換などに向き合う必要があり、それは東電の一存でできる話ではない。政治の役割もあるが、10~20年後の絵を描くのは役人の仕事。それを吉野氏だけが熱量を持って取り組む現状はおかしい。

まだ早いと見る向きはあるが、どこかで福島事業を分離しなければ、東電の八方ふさがりは解消されない。国・東電一丸で丁寧な根回しが求められるが、その時はいつ来るのか。

【イニシャルニュース】ファンドの餌食に? 東電再建計画への懸念

ファンドの餌食に? 東電再建計画への懸念

悲願だった柏崎刈羽原発の再稼働を果たし、新たな経営再建計画である「第5次総合特別事業計画」を発表した東京電力ホールディングス。この計画の柱に据えた外部との資本提携の話が関係者の間で話題を呼んでいる。

自力での経営再建が事実上不可能に近い状態が続いているだけに、外部との資本提携は切り札的な意味合いを持つと好意的な指摘を受ける一方、東電に関係するX社の関係者からは「ハゲタカファンドの餌食になり得る」と疑問を呈す声も聞こえる。

質の悪いファンドが狙う恐れも

東電は外部資本提携の募集をすでに始めた。国内外のファンドや事業会社などを念頭に3月末までに具体化する。資本提携では外資企業や株式の非公開化も排除しないという。提案先には福島第一原子力発電所事故の処理費用捻出などの条件を提示している。

すでにファンドでは産業革新投資機構(JIC)の国内勢のほか、外資では米KKRや米ベインキャピタルなどが関心を示しているという。

X社の関係者は「事故処理費用という途方もない借金を背負う企業にどこが提携するのか疑問だ。まず優良企業はない」とばっさり。その上で「正直、半分国営企業である東電のネームバリューを利用しようとするところは目を付けている可能性があるかもしれない。例えば、有名なMファンドや物流のほか多角化著しいS社とか。外資だったらB社やE社なんかもあるかもしれない」と見通す。

提携条件には電力事業の拡大ということも含まれているが、送電網の拡張などこの先巨額な設備投資が重くのしかかるだけに「まともな企業なら尻込みするのが普通」(X社関係者)。再建ではなく崩壊につながらないことを祈るのみだ。


原子力推進へ好機到来 旧安倍派復権の影響度

2月8日に投開票が行われた衆議院選挙で、政権与党の自民党が316議席を得る歴史的な大勝をした。エネルギー問題に熱心な議員も復活、復権したが、世代交代で重鎮がいなくなった。影響はどうなのか。

自民党旧安倍派は、亡くなった安倍晋三元首相をはじめ、リーダーがそろってエネルギー安全保障に関心があったため、エネルギー問題に詳しい議員が多かった。ところが、いわゆる「裏金問題」「統一教会問題」で批判される議員が多く、ここ数年は党の要職から外れる議員、比例立候補を認められず落選する議員が多かった。

ただし旧安倍派の多くが、今回の選挙で復権した。東京のO議員、新潟のT議員、愛知のS議員、兵庫のN議員らだ。「党内で、再稼働をはじめとした原子力推進の動きが一段と高まるのは間違いない。業界側もそれを期待しているだろう」(自民党政策秘書)

その一方で、人が入れ替わった面もある。エネルギー問題の重鎮だったA氏は政界を引退。N議員は衆議院議長になって口を出せない。中堅層で原子力問題に取り組んできた、H議員は東海ブロック、I議員は北関東ブロックで当選した。ただし二人は選挙区公認を得られず、影響力低下は免れないだろう。「若手議員は特定業界にべったりと思われるのを嫌う。かつてのように、熱心に原子力問題に取り組む議員がどのくらいかは何ともいえない」(永田町関係者)との懸念もある。

とはいえ、自民をはじめ、連立を組む日本維新の会のほか、それなりの議席を確保した国民民主党、参政党、チームみらいは、いずれも原子力推進の立場を鮮明にしている。再稼働だけでなく、原発停止の長期化をもたらした最大要因である原子力規制委員会の審査体制の在り方を、政治主導で変えていく絶好の機会が訪れたといえよう。

【フォーラムアイ】北陸電力が小松駅前に環境型複合ビル建設 地域活性化の新たなランドマークに

【北陸電力】

昨年10月にJR小松駅(石川県小松市)前に開業した大型複合ビル「ウレシャス小松」。

北陸新幹線が開通し、にぎわいを見せる駅前の新たなランドマークになっている。

昨年10月、JR小松駅東口に誕生した「ウレシャス小松」。北陸電力グループを含めた企業のオフィス、ホテル、大学、多目的ホールを備えた敷地面積5280㎡、延床面積1万7400㎡、地上10階建ての大型複合ビルだ。

駅に隣接し、小松空港からもバスで15分だ

この施設の建設計画は、北陸電力グループが老朽化した事業所の建て替えを機に、北陸新幹線の小松駅開業や小松市による駅周辺の「学びのエリア構想」と連携してスタート。地域の活性化に貢献しようと2019年に動き出した。コロナ禍でいったん、計画は中断を余儀なくされたものの23年に地域から強い要望を受けて建設を決定。同年9月に着工し、能登半島地震の影響を受けながらも予定通り開業した。

施設の外観は、かつて江戸時代から明治時代にかけて大阪と北海道を日本海航路で交流を果たした「北前船」をモチーフとしている。もともと小松の地は古くから交通の要衝であり、北前船の寄港地として有名であった。全国から人・もの・文化を取り入れ、小松を発信することで発展してきた歴史がある。


うれしいを意味するビル名 工夫こらした省エネ設計

「ウレシャス」とは小松弁で「うれしい」を意味する「うれっしゃ」と、英語で愛おしいを意味する「precious(プレシャス)」を組み合わせた造語である。そんなウレシャス小松はZEBレディの環境性能評価を取得している施設である。中でも目を引くのが、1階のエントランスに設置されている「こまツリー」(左頁右下)だ。内部の循環パイプを介して地下水熱と熱交換を行うことで、夏は除湿、冬は加温の役割を担う。仕組みを視覚的に確認できる点もユニークである。

北前船を模した建物の形状も特徴的だ。斜めにせり出すルーバーで卓越風を活用して自然換気を行い、自然の光を効率的に室内に取り込む。室内では、自然光の照度検知や在室検知による照明制御を行い、夕方には色温度を下げてリラックス効果を促す設計も施している。

北陸電力小松支店総務担当の林博史部長は「ウレシャス小松ではさまざまな省エネ設計や環境配慮の工夫を施している。現在、オフィスやテナントを募集しているが、こうした設計によって働きやすさの向上につながればと考えている」と話す。テナントを探す事業者にとっても魅力的に映ることだろう。また、ウレシャス小松は単に環境性能に優れただけのビルではない。


にぎわい創出にも取り組む こまつ北電ホールの魅力

「地元の行政・経済界で構成するこまつ駅東地区複合ビル利活用協議会などと連携し、国内外からMICE(国際会議や展示会)誘致や、駅周辺の地域参加型イベントを開催するなど、にぎわい創出にも取り組んでいる」(林部長)。そんな機能を果たすのが2階フロアの「こまつ北電ホール」だ(写真㊤)。ホールは可動式の間仕切りで3分割が可能。展示会、イベント、宴会、試験会場など規模の大小問わず幅広いニーズに対応する。また近隣の公的ホールなどと連携した会議も開催可能だという。

㊤こまつ北電ホールは800人以上を収容する
㊦小松らしさを演出する北前船陶壁

最新の映像や音響、照明設備も間仕切りごとに個別に完備しており、ディスコなど各種イベントや結婚披露宴などいろいろなシーンを演出している。料理やサービスの充実化にも力を入れる。9階と10階でホテルを運営するHifリゾート社がホテルクオリティの「おもてなし」を提供する。

内装にも大きな特徴を持つ。それは地元の石材や伝統工芸を随所に使っていることだ。1階エントランスには九谷焼陶芸家の北村隆氏による北前船の陶壁(写真㊦)、2階ホールにも、「四代 徳田八十吉」氏の陶壁を展示する。さらに国会議事堂にも使われる希少な「観音下石」を含む小松産の石材や南加賀の杉材を使い、小松市の史跡「安宅関」を舞台にした歌舞伎「勧進帳」のデザインを施すなど小松らしい魅力を伝えている。

「隣の金沢とは異なる小松独自の歴史や文化を積極的に発信し、地域の新たなランドマークを目指したい。さらに小松市だけでなく、石川県や北陸全体の活性化にも貢献したい」(林部長)

北前船を模したこのウレシャス小松が新しい交流の船として大きな役割を果たしていく。

入り口に立つ「こまツリー」

【気象データ活用術Vol.12】気候変動とエネルギー 緩和と適応で未来に備える

加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

「気候変動」という言葉を耳にする機会が増えた。元来この言葉は、自然のサイクルによって生じる気候の変化を指していた。しかし近年では、人類の活動によって引き起こされる地球温暖化とほぼ同義で使われるようになっている。この変化は、私たちの社会がいかに大きな影響を地球環境に与えているかを物語っている。

国際機関であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化に関する科学的評価を定期的に行い、緩和策と適応策についての報告書を公表している。これらの報告書は、世界各国の政策決定において重要な指針となっている。

気候データ分析で気候変動に適応する未来へ

エネルギー産業においては、地球温暖化への緩和策・適応策ともに真正面から向き合わなければならない課題だ。本稿では気象データの活用という側面と絡めて見ていきたい。

緩和策としてのCO2排出量削減では、再生可能エネルギーの推進が重要な柱となる。変動電源である太陽光や風力といった自然エネルギーを最大限活用するには、気象予測データを用いた高度な出力予測が欠かせない。気象予測データは既存の水力発電をより効率的に運用することにも有効だ。さらに電力需要を高精度で予測することで、火力発電の運用を最適化し、CO2削減と電力の安定供給という一見相反する目標を同時に達成することが必要だ。需要予測の精度が向上すれば、調整力としての火力発電を効率的に運用でき、燃料消費とCO2排出を抑制できる。

一方、適応策も同様に重要だ。気候変動により、台風や豪雨といった極端な気象現象の被害が増加する可能性が指摘されている。エネルギー関連設備は、こうした物理的リスクに対して脆弱になり得る。発電所や送配電網は、洪水や土砂災害、強風による被害を受ける可能性があるため、将来の気候変化を見据えたリスク評価と対策が不可欠だ。こうした評価を行うためには、CMIP6などの国際的な気候予測データや、日本の大規模アンサンブル気候予測データd4PDFなどが活用できる。これらのデータは膨大で専門的であり、その解釈には高度な知識が求められる。

ここで重要になるのが、エネルギー産業のドメイン知識を持った気象データアナリストの存在だ。気象データアナリストには、複雑な気候予測データを解析し、実際のエネルギー施設の運用や設計に生かせる形に変換することが期待される。このような専門家は、今後ますます需要が高まり、その活躍が期待される職種となるだろう。

気候変動への対応は、避けては通れない課題となったと言える。エネルギー産業が先頭に立って緩和策と適応策の両面で取り組むことが、持続可能な社会の実現には欠かせない。そしてその実現には、科学的データを実務に結びつける人材の育成と活用が鍵を握っている。今後、気象データアナリストがその専門知識を活かし、エネルギー産業のさらなる発展と気候変動適応の両面で重要な役割を果たしていくことを期待して、1年間の連載の締めくくりとしたい。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

・【気象データ活用術 Vol.8】再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標

・【気象データ活用術 Vol.9】似て非なる二つのミッション 予測とシミュレーションの違い

・【気象データ活用術 Vol.10】予測の「大外し」回避に挑む 確率論でリスクマネジメント

・【気象データ活用術 Vol.11】エネルギー産業でも意識すべきリードタイムとアップデート

【フォーカス】独が1千万kW超の火力新設 EU委員会との交渉が着地へ

ドイツの天然ガス火力新設計画が大きく前進する。1200万kWもの「運転制御可能な発電所」の新設を促すための補助を巡り、EU(欧州連合)委員会と進めていた交渉の着地が見えてきたのだ。1200万kWのうち、長期的な容量が規定される1千万kWを、ガス火力が落札することが想定される。メルツ政権は、2026年に続き、27、29/30年にも入札を実施し、落札した電源は遅くとも31年までの運転開始が求められることになる。

EU加盟国では、政府が民間事業に補助を実施するためには同委員会の許可が必要だ。ショルツ前政権時代には24年の初回入札を視野に交渉が進められていたが、2年遅れに。この方針を踏襲したメルツ政権は、最低限必要な開発容量を前政権の約2倍の2千万kWに引き上げたが、それを大きく下回ることを余儀なくされる。

ドイツが大規模な水素対応のガス火力開発を目指す狙いは、将来のカーボンニュートラル(CN)実現に向けたバックアップ電源の確保と、低コストなエネルギー転換を進めることにある。45年にCNを実現するとの政策の下、これまで順調に風力を中心に再生可能エネルギーの導入を進め、25年には電力需要の約60%を占めるまでになった。ところが、脱原子力、脱石炭・褐炭政策を進めたばかりに、安定供給性は急速に失われつつある。

こうした火力新設戦略は容量メカニズムへの橋渡しの位置付け。32年にも容量市場を創設し、低稼働を強いられるこれら設備の維持を支援する方針だ。

メルツ政権は低コストなエネルギー転換の軸に新設ガス火力を据える

【フォーカス】最強寒波で大停電の米国 欧州のガスは安定推移

この冬、大寒波に見舞われたのは日本だけではない。1月24日から25日にかけて、米国北東部から南部にかけての広い範囲を「冬の嵐」が襲った。北東部の地域送電機関PJMのエリアで、パイプライン凍結によるガスの供給ひっ迫と極寒による発電出力の低下が重なり電力価格が急騰したほか、八つの州で計約100万戸が停電する事態となった。

記録的寒波で凍ったハドソン川
提供:AFP=時事

IEAアナリストの白川裕氏は、「LNG原料ガスの需要増に伴い、ヘンリーハブ価格が上昇傾向にある。今回のように厳しい寒さで供給インフラに制約がかかれば、需給ひっ迫と価格高騰に陥りやすい」と、構造的な課題を指摘する。

極寒の米国に対し欧州は、当初予想されたよりも寒さが厳しくなく、ガスの消費は安定的だ。価格面では、1月上旬に100万BTu(英国熱量単位)当たり10ドル前後だった欧州天然ガス市場価格(TTF)が、同月末には14ドルまで上昇。2月に入っていったん11ドル程度まで下げたものの、短期間で12ドル台に上げた。「ファンダメンタルズの変化があまりない割に値動きが激しい。投機筋の思惑が影響しているのだろう」(白川氏)

欧州のガス貯蔵率は2月6日時点で34・4%まで低下し、一部に「2022年のエネルギー危機以来の低水準」とあおる報道がされている。だが、過去10年の間には20%前後まで低下したことが度々あり、「むしろ米国由来を中心とした潤沢な供給が、欧州(と北東アジア)のガスを量と価格の両面で安定化させている」(同)と言える。

【業界紙の目】廃鉛蓄電池の不適正解体・処理に 歯止めかかるか

増田正則/産業新聞社 編集局次長兼非鉄部長

環境省のヤード調査で、廃鉛蓄電池の不適正な解体・処理に伴う水質汚染などが確認された。

環境汚染と資源の海外流出を防ぐためにも、不適正ヤードの規制強化を急ぐ必要がある。

具体的な所在地や社名は伏せるが、昨年5月に取材で訪れた関東甲信越地方の峠道を車で走っていた時のこと。暗闇の中に明かりのともされたスクラップヤードが姿を現した。何度も通ったことのある道で、ヤードの存在は把握している。未舗装の敷地内に雑品などの金属スクラップが積まれている典型的な海外系ヤード業者。筆者が以前から、「不適正ヤード」の疑いがあると見ていたヤードの一つだ。

石原宏高環境相が昨年10月の就任会見で、課題の一つに上げたのが不適正ヤードだった。定義はあいまいだが、簡単に言えば環境に配慮しないでスクラップを解体・処理するヤード全般を指す。騒音や振動、油など汚染物質の土壌浸透や河川への流出などが問題視されている。

不適正な保管や解体・処理に伴う火災が全国で発生し、外国人の不法就労や銅電線などの盗品買い取りも横行している。経済安全保障の観点から、不適正ヤードを介したリサイクル資源の海外流出も問題となっている。


日本の制度の隙を突く 環境配慮無視のヤード

「雑品スクラップ」とは、鉄や銅、アルミなどの金属と一緒に樹脂などの不純物が混入しているスクラップのこと。資源として再利用するには鉄、銅、アルミなどを選別して単一素材にしなければならない。樹脂が混入しているため選別の難易度が高い上にコストが大きくなるため、日本で手掛けやすいのは環境意識の低い海外系の不適正ヤードということになる。断っておくが、全ての海外系ヤードの環境意識が低いわけではない。日本の制度を十分に理解し法律を順守しているヤードを経営している事業者は多いが、不適正ヤードが存在するのも事実だ。

話を峠道に戻す。日が暮れた後にヤード内で行われている「行為」が気になり、通りすがりに様子をうかがった。何人かがタイヤの取り外された自動車の周りで作業をしていた。日中の記憶をたどってみたが、自動車リサイクル法の許可を証明する看板などは設置されていなかったはず。後日、立地県のウェブサイトで許可業者一覧を調べたが、該当する社名は掲載されていなかった。

日本は国土の約7割が山地。自治体の目が届きにくい山間部で違法な解体・処理を行える場所は多い。このヤードが不適正業者であれば、鉛蓄電池を取り外して再生資源となる巣鉛(鉛陰極板)を回収しているかもしれない。関連する法制度の許可を持ち適切に処理していればよいのだが、不適正ヤードであれば電池ケースに使われている希硫酸の処理が不安だ。

鉛のリサイクル原料となる廃鉛蓄電池

「山奥でトラックに積んだ硫酸を少しずつ垂らしながら走れば違法な処理は発覚しない」―。廃鉛蓄電池を原料にする鉛製錬メーカーの社長は、現行の法制度では対応が追いつかない実情にいら立ちを隠さない。

鉛は有害性が指摘される一方で、適切に扱えば100%再利用できるリサイクルの優等生。リサイクル原料の廃鉛蓄電池の集荷、解体、巣鉛回収、そして製錬所における鉛地金生産まで、環境を汚染せず日本国内で完結できる。希硫酸も適正に処理される。

だが本誌2025年1月号で取り上げたように、数年前から日本で廃鉛蓄電池の違法解体が表面化。一部の不適正ヤードによって少しずつ日本の自然が汚染されている。その実態は環境省が自治体向けに行った調査でも明らかになった。実際に、廃鉛蓄電池の加工による周辺水路の水質悪化などの環境汚染が報告されている。

ヤード火災の原因となる廃家電類の保管や解体・処理に規制をかけるため、同省は17年の廃棄物処理法改正で家電類32品目を特定有害使用済機器に指定。取り扱い業者に有害使用済機器保管等届出を義務付けた。この時、廃鉛蓄電池も議論の対象となったが見送られた。


廃鉛蓄電池保管等に許可制 廃棄物処理法の罰則強化も

制度見直しの議論に加わっていた審議会メンバーの一人は、「有害性について最後まで結論が出せなかった」と振り返るが、判断は甘かったと指摘せざるを得ない。かつて日本から輸出された廃鉛蓄電池が、東南アジアで不適正に処理され環境を汚染している実態があるからだ。改正法施行後には、日本から韓国に輸出された廃鉛蓄電池の不適正処理が発覚して輸出が停止される事態を招いた。そして行き場をなくした廃鉛蓄電池が、日本で不適正に解体・処理される事案が表面化する。

事態を重く見た同省は、不適正ヤードの対策に向けた議論を本格化。昨年12月の中央環境審議会廃棄物処理制度小委員会で、廃鉛蓄電池を扱うヤード業者に「許可制など事前審査制度」を導入することを盛り込んだ意見具申案をまとめた。廃鉛蓄電池だけでなく、雑品スクラップやリチウム蓄電池も含め規制を強化する姿勢を鮮明にした。

業界内に許可制導入への賛否があるのは確かだが、国が前面に出て不適正ヤードの規制を強化する姿勢を示したことを評価する声は多い。自治体では千葉県などが条例で不適正ヤードを規制しているが、規制の緩い自治体に移動するだけで問題の根本的な解決にはならない。

今後の焦点となるのは新制度の実効性だ。特定有害使用済機器保管等届出制度による届出件数は700件程度。把握できる限り全国に少なくとも5000カ所のヤードが存在するため少な過ぎる。理由は明白だ。届出義務違反の罰則が30万円以下など、罰則が軽すぎる。立ち入り調査を行う権限が自治体にないといった問題点も指摘される。

今回の廃棄物処理法改正に向けた意見具申案には、「許可取消し」なども含めた罰則の強化方針が盛り込まれている。廃棄物処理法とは議論が別になるが、今年は警察庁の金属盗対策法の本格施行を控える。すでに盗品買い取りの疑いのあるヤード業者の逮捕事案も出てきており、国の方針として不適正ヤード問題に歯止めをかけようとする強い決意が垣間見える。


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【コラム/3月6日】見直し迫られるドイツの水素戦略と日本への教訓

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

    

ドイツは、2023年に改定した国家水素戦略に基づき、水素の総需要量(水素とそのデリバティブ)が、2023年の55TWhから、2030年に95~130TWhまで拡大し、2031年以降も需要がさらに増加すると見込んでいる。このため、水素の約50〜70%(45〜90TWh)は国外からの輸入が必要となり、2031年以降も輸入割合は増加すると予測している。しかし、国内生産のみならず国外調達は順調ではなく、現在、戦略の見直しを迫られている。

ドイツは将来的に、水素をグリーン水素およびそのデリバティブとして活用することを想定している。そのため、多くを国外に依存する同国は、これらの調達を目的として2021年6月に「H2Global」を設立し、2022年12月にはグリーンアンモニア、メタノール、SAF(Sustainable Aviation Fuels)などの水素デリバティブの調達に向けた初のオークションプロセスを開始した。また、2025年2月には、グリーン水素とそのデリバティブの調達のために、2回目オークションプロセスが開始され、入札の最終期限は2026年3月に設定された。しかし、現在までに確保された水素の量は限られており、調達は必ずしも順調に進んでいるとは言いがたい(2025年4月14日掲載のコラム参照)。

このような中で、2025年10月に同国の連邦会計検査院は、水素戦略の展開に関する報告書を提出し、ドイツの水素戦略は、現時点では計画通りに進んでおらず、目標達成が危ぶまれていると結論づけている。同報告書が指摘する主な問題点は以下のとおりである。


1.2030年目標の未達リスク
水素の国内生産量および輸入量はいずれも、現状の見通しでは2030年目標を大きく下回るとされている。このままでは、水素経済の本格的な立ち上げが危ぶまれると報告書は指摘している。

2.需要の伸び悩み
産業分野(鉄鋼、化学など)における水素利用については、補助金制度が整備されているにもかかわらず、需要の伸びは政府の想定を下回っている。需要が十分に立ち上がらなければ、供給側の投資も進まず、悪循環に陥ることで市場拡大のモメンタムが失われると警告している。

3.気候目標・産業競争力への影響
水素戦略が計画通りに実現しなければ、2045年の気候中立目標の達成、ドイツ産業の国際競争力、さらには国家財政の健全性にまで悪影響を及ぼす可能性があると指摘している。

4.恒常的な補助金依存の懸念
水素の生産コストは依然として高く、将来的に価格競争力を確保できるという期待は、現時点では満たされていない。中央ヨーロッパにおける生産コストは、2021年時点では2030年に90ユーロ/MWh未満と予想されていたものの、最近の研究ではその2~3倍に達する可能性が示されている。また、2030年の輸入水素コストについても、Fraunhofer太陽エネルギーシステム研究所(ISE)は、137~318ユーロ/MWhと試算している。

このため、2030年時点では、輸入水素と天然ガス(排出枠コストを含む)との価格差が70~275ユーロ/MWhに達すると見込まれ、輸入水素も価格面で競争力を持ちにくい状況にある。水素輸入を価格面で魅力的にするためには、その価格差を埋め合わせる必要がある。 これがH2Global のスキームにもとづく国家補助によって行われ、さらに輸入戦略で想定されている数量目標を前提とすると、 2030年には 30億〜250億ユーロの補助が必要になる。その後も、高額な補助金が必要となる可能性が高くなると予想され、将来的に連邦予算への大きな負担になると警告している。

5.戦略の再検証を要求
連邦会計検査院は、現行の国家水素戦略について、その前提条件、数値目標、工程表を含む全体的な枠組みを抜本的に見直す必要があると指摘している。また、戦略が想定どおりに進展しない場合に備え、代替案(プランB)を準備すべきだとも提案している。これらの指摘を踏まえ、ドイツ政府は水素戦略およびその実施状況を再評価し、必要な修正を行うことが求められている。連邦経済・気候保護省(BMWK)は、声明および10項目の行動計画において課題への対応が必要であるとの認識を示しているものの、市場設計や政策手段をどのように具体化し調整していくのかについては、依然として明確な方針を提示していない。

以上を総合すると、連邦会計検査院は、現行の水素戦略は前提条件や実施計画に重大な課題を抱えており、このままでは目標達成が困難になる可能性を指摘している。ドイツが気候中立と産業競争力を両立させるためには、戦略の大幅な修正と、より現実的な再設計が不可欠であるというのが報告書の結論である。

気候中立の実現に向けて、再生可能エネルギーと水素はドイツのエネルギー転換を支える二つの柱である。2024年には、総電力消費量に占める再生可能エネルギーの比率が59%に達したものの、風力発電の新規建設や送電網拡張に対する地域住民の反発など、さらなる大幅拡大には社会的受容性の面で限界が見え始めている。一方、水素についても、製造・調達コストの高さ、大規模な発電技術の商用化の遅れ、輸送・貯蔵インフラの整備不足といった課題が依然として解消されていない。こうした状況を踏まえると、ドイツが掲げる2045年の気候中立目標は、現行の政策枠組みのままでは達成が一層困難になりつつあると言わざるを得ない。

日本においても、2023年に改定された「水素基本戦略」では、水素等(アンモニア、合成メタン、合成燃料を含む)の導入量として、2030年に300万トン、2040年に1,200万トンという大規模な目標が掲げられている。この政府目標は、クリーン水素(グリーン水素およびブルー水素、ならびにそのデリバティブ)の導入拡大を前提としていると解される。しかしながら、国内の再生可能エネルギー供給の制約、CCS(二酸化炭素回収・貯留)インフラの未整備、輸入水素等のコスト高、水素関連インフラの整備遅れといった現実的な課題を踏まえると、これらの目標の実現可能性には依然として大きな不確実性が残る。

ドイツの経験が示すのは、技術的・経済的・社会的な現実を踏まえない目標設定は、実行段階で必ず行き詰まるということである。日本においても、気候中立の実現に向けては、目標の大胆さよりも、実現可能性に基づく戦略の再設計が不可欠である。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【フォーカス】六ヶ所村長選で サイクル推進派が圧勝

自民党の歴史的勝利で閉幕した衆院選の投開票から1週間後、原子力政策上重要な首長選があった。2月15日に投開票された青森県六ヶ所村長選で、前村議の橋本隆春氏(68)が初当選した。争点はやはり核燃料サイクル政策の是非だ。村内には関連施設が集中しており、橋本氏は推進を、対抗馬で元鹿児島県いちき串木野市議の高木章次氏(74)は反対を掲げ選挙戦を展開した。結果、高木氏の167票に対し、橋本氏が4316票で圧勝した。

当選が決まり万歳する橋本隆春氏
提供:共同

村では日本原燃が再処理工場(2026年度竣工予定)やMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料工場(27年度竣工予定)などの建設を進めているものの、再処理工場は30回近く完成を延期するなど、計画が大幅に遅れている。

健康上の理由で任期途中に辞職した戸田衛前村長は以前、弊誌のインタビューで「施設を受け入れた上で地域振興を進めるというのが村のスタンス。だからサイクル事業を終わらせるという選択肢はない」と明言。村の将来のためにサイクル事業が不可欠だと強調した。また、施設竣工後は固定資産税などを活用し、土地を提供した村民やその子孫に報いるための政策などを進める考えを明かしていた。こうした戸田氏の路線継承を訴えた橋本氏が、反対派に大差をつけた。

全国的にも「基本的に原子力は推進すべきだ」という考えが若年層を中心に拡大しており、国政政党を見ても反対派の主張が支持を集めにくくなっている。それは今回の衆院選の結果を見ても明らかだ。そうした中、六ヶ所村民はサイクル政策の継続を望むという明確な意思を示した。原燃にはこの民意に応え、なおのこと一刻も早い完成を目指すことが求められる。