〈業界人編〉電力・石油・ガス
有事下で情報が入り乱れる中、政府とマスコミの姿勢は対照的だ。
─ホルムズ危機を受けた原油の代替調達について、政府は「年を越せる」と言うが本当なのだろうか……。
ガス ここに来て構図がはっきりとしてきた。メディアは「足りない」「いずれ危機がやってくる」と言いたがり、一方で政府は「足りている」「大丈夫だ」と落ち着かせたい。メディアと政府で真逆の情報発信をしているのが現状だ。
石油 あんまりメディアがあおり過ぎると、1970年代のオイルショックのようにトイレットペーパーの買い占め的なパニックが起こりかねない。コネクトエネルギーの境野春彦氏がTBSの「報道特集」で「間違いなく今の状況が続いたら6月には詰むんですよ」と発言して批判を浴びたが、ここまで言う必要はない。専門家なら慎重に言葉を選ばないと。ただ、「大丈夫」と言い切れないのは事実で、本誌4月号で垣見油化の垣見裕司氏は「国主導で緊急対策計画策定を」と警鐘を鳴らした。こういう冷静な指摘が大切だ。
油の一滴は血の一滴 先人が遺した膨大な備蓄量
ガス 役所の人が口をそろえて言うのが、「川上の量は足りている」ということだ。その上で、小さな商店などにも電話をかけ、目詰まりをもぐらたたきのように潰しているようだ。経済行動として、中流・下流の業者が上流から「来月の供給はどうなるか分かりません」と言われたら、流通量を減らすのは無理もない。
石油 それでも、オイルショックの時から一次エネルギー源としての石油は7割から3割へと減った。日本は頑張って石油依存を減らしてきた。
ガス ある国会議員が、日本の国家備蓄が他国と比べて圧倒的に多いのは、先輩議員や官僚たちの努力にほかならないと言っていた。当時は「油の一滴は血の一滴」と言われた戦前・戦中の記憶を持つ人が多くいたので、備蓄基地を作るために増税までしたという。彼らのおかげで、タンカーがホルムズ海峡を通れなくても普通の生活が送れている。先人が作ってくれた今の時間的余裕を大切に、代替調達や中長期的な供給先の多角化に向けた体制をいかに整備するかが重要だ。
─本格的な悪影響はこれから出てくる。
石油 ある程度の石油化学製品の値上がりや価格上昇は覚悟しないといけない。LPガスのボンベに赤字の印字ができないという話も聞いた。アンモニアの流通も滞れば肥料の供給ひっ迫も避けられない。世界的な食糧不足という事態も起こり得る。
電力 さまざまな製品の価格が上がる度に補助金を出していたら、お金がいくらあっても足りないよ。海外のニュースを見ていて思ったが、ガソリン価格がリッター300円ぐらいになっている国がある中で、ずっと170円以下に抑えている日本はやっぱり不自然だ。でも、メディアからの批判は少ない。問題意識は持ちつつも、地方にとってはありがたい話なのであまり扱いたくないのだろう。
─国内企業は決算シーズンを迎えた。
電力 LNGなど価格上昇の影響は受けるが、安定供給には支障がないのというが各社共通の見方だ。この後、燃料費調整単価が低い会社は少しずつダメージを受けてくる。期ずれの影響で、来年度の見通しは芳しくないね。
ガス 原油価格や為替の想定には各社多少の違いが見られる。いつ価格が落ち着くかがポイントだ。夏や秋に元に戻れば、燃調費も追い付いてくる。決算会見では、メディアはホルムズ危機の影響を強調したがっていた。安定供給に支障がなく、ホルムズの影響をそれほど想定してないと分かると、記者の関心が薄れるのが見てとれた(笑)。
存在感を示す『選択』 共和党内の動きに注目
石油 そんな中で、高市政権の内幕など政治記事を中心に気を吐くのが『選択』だ。5月号では「備蓄放出石油で『元売り』がボロ儲け」と元売りの批判記事を掲載。副題には「国有財産で暴利を貪る国賊業界」とかなり厳しい。政府が国家備蓄原油を安値で放出して、元売りが巨額の差益を得ているという話だが、ここまで書くことはないんじゃないか。以前から備蓄の原価については議論があったが、ルール通りやったわけだからね。
─出光丸がホルムズ海峡を通過した。
石油 産経が73年前の日章丸事件と絡めて報じていたが、どうなんだ。当時のイランとは体制が違う。今は革命防衛隊という「テロ組織」が実権を握っている。イランのプロパガンダに利用されないように気を付けないといけない。
ガス 世界最大の不安定要因は中国でもイランでもなくアメリカのトランプ大統領だよ。これでも国内の支持率が30%もあるのだから驚きだ。岸田政権の終盤より高いじゃないか(笑)。
電力 11月の中間選挙で負けた時に、残りの任期でさらにめちゃくちゃなことをやるのでは。
ガス 鍵を握るのは共和党内部の動きだろう。あるマスコミの国際部長は、さすがに中間選挙に負けたら、党内でも反トランプの動きが出てくると言っていた。大統領選などでRINO (Republican In Name Only:名ばかりの共和党員)のレッテルを張られた反トランプ議員の巻き返しもあるかもしれない。中間選挙で負ければ、今の身勝手な振る舞いはできなくなるというのが彼の見立てだった。
─いつまでトランプ氏に振り回される状況が続くのか。