【マーケットの潮流】伊藤義治/エネルギー・金属鉱物資源機構「JOGMEC」ヒューストン事務所長
テーマ:米国電力価格
米国の電力小売価格は電力需要の増加に伴い上昇基調を強めている。
その背景と価格抑制に動く各州規制機関の対応を解説する。
米国では、デジタル分野の拡大や、製造業の国内回帰、輸送部門の電化などを背景に、今後大幅な電力需要増が見込まれている。2025年9月のクリス・ライト米エネルギー省長官のインタビューでは、需要増に伴う電力価格上昇を抑制するための政策対応の重要性が指摘され、電力業界は拡大する需要に応えつつ、価格抑制を図るという課題に直面している。
容量価格が急騰 背景にDC需要の拡大
米エネルギー情報局(EIA)によれば、米国の電力消費量は1970年から2005年ごろまで年平均約3%で拡大したが、その後は消費量の少ないサービス業の台頭といった経済構造の変化などにより需要増が相殺され、年0・2%増程度の横ばい傾向が続いた。しかし、21年以降、データセンター(DC)需要の急増や産業・輸送部門の電化を背景に再び成長局面に入り、年1・4%の増加率で推移している。プリンストン大学の予測では、26年以降の需要成長率は2%を上回り、35年の電力需要は25年比で約25%増(約5600TW時)に達すると見込まれており、DCの急拡大が最大の需要要因となっている。

提供:米国労働省およびEIAのデータを基にJOGMECで作成

提供:EIAデータ・NREL(2024)などを基にJOGMECで作成
需要増を受け、米国の電力小売価格は上昇基調にある。図1に示す通り、消費者物価指数に基づく電力価格の前年比は22年以降、インフレ率を上回る水準で推移し、EIAは25年の家庭用電力価格が全米平均で1kW時当たり17・25セントに達すると予測している。米国の電力システムは連邦エネルギー規制委員会(FERC)によって発令された 「Order No.888」および「No.2000」を経て整備された七つのRTO(地域送電機関)/ISO(独立系統運用者)が北米の約3分の2を運用しており、地域別の価格動向には差がある。
図2には、各RTO/ISOに加盟している州の季節変動性の影響を受けにくい4月の家庭用電力価格を基に概算した地域別の価格上昇率を示している。主要DC集積地であるバージニア州を含む北米最大のRTOであるPJMの加盟州では価格上昇が全米平均を上回っており、PJM域内では35年までに55~62GW(1GW=100万kW)のピーク需要増が見込まれている。
需要増は容量市場価格にも影響を与えている。PJMの容量オークションでは、21~23年の約定価格は1MW(1MW=1000kW)当たり1日50ドル以下で推移していたが、24年には同269・2ドルと前年比833%の急騰となった。これを受け、ペンシルバニア州知事がFERCへ苦情を提出し、価格上限・下限の導入で合意した。制度変更後の25年オークションでは約定価格は同329・17ドルとさらに上昇し、容量価格高騰は26年以降の小売電力価格を1・5~5%高めるとの試算もある。
急増するDC需要が他需要家の電力料金上昇を招くことへの懸念から、各州規制機関は制度整備を進めている。バージニア州と同様にDC集積地であるテキサス州では25年6月に上院法案6号(SB6)が可決され、75MW以上の大口需要家に対し、他州での申請状況の提出やバックアップ電源の情報提供、需要管理制度への参加を求めている。バージニア州ではドミニオン・エナジー社が提案したDC向け特別料金(SG―5)が25年11月に承認され、契約容量25MW以上の需要家に送配電容量の85%、発電設備の65%の固定費負担を求める仕組みが導入される。PJM域内のオハイオ州でもAEPオハイオ社がDC向け料金制度を導入し、送電増強コストを大口需要家が長期間負担する仕組みを整備している。
再エネ投資環境に不透明感 将来のコスト上昇に懸念
今後5~10年で急増する電力需要に対応するためには、太陽光・風力といった再生可能エネルギー、火力発電、原子力などの多様な電源を組み合わせて発電容量を確保する必要がある。しかし、新規原子力は建設に5年以上を要し、新規ガス火力もガスタービンなどのサプライチェーン制約から早期稼働が難しい状況だ。このため太陽光・風力などの再エネと蓄電池を中心に新規電源を確保しつつ、変動性電源の弱点を補うため既存火力発電の維持が必要となる。
こうした中で、追加電源確保はコスト上昇につながる懸念もある。さらに、25年7月の予算調整措置法により、太陽光・風力についてはIRA(インフレ抑制)法の45Y・48E税額控除の適用期限が27年末へ大幅に短縮され、30年代の再エネの投資環境には不透明感が生じている。短期的には駆け込み開発により再エネ導入が維持される可能性があるものの、中長期的には投資鈍化やコスト増につながる可能性が考えられる。
米国の電力需要は構造的な増加局面にある。この需要増加に対応するための発電・送電インフラ投資は不可避であり、これらのコストが将来的に電力価格を押し上げる可能性は高い。一方で、連邦・州レベルでは制度整備や料金設計の見直しが進められており、これらの対策が電力価格上昇をどこまで抑制できるかが今後の重要な注目点だ。























