【渋谷正昭 小笠原村長】最終処分問題は他人事ではない

しぶや・まさあき 1957年東京都三鷹市生まれ。筑波大学第2学群農林学類卒業、同大大学院環境科学研究科修了。83年小笠原村役場入庁。産業観光課長、総務課長、副村長などを務め、2021年から現職。2期目。

本土で生まれたが、小笠原の海に魅せられ役場職員から村長になった

5月に始まった最終処分場建設を巡る文献調査への思いと決断の背景とは─。

東京都三鷹市生まれ。中学・高校時代は陸上部に所属し、キャプテンを務めた。卒業後は筑波大学に進学。部活やサークル選びの際は「陸上はもういい。大学でしかできないことをやってみたい」と考えていた。

そんな時、構内の調整池でダイビングサークルのデモンストレーションを目にした。「泳ぐのは嫌いではなかったので、やってみようと思った」。この何気ない決断が、小笠原村と縁もゆかりもない渋谷氏が村長となる遠因となった。

サークルは素潜りの練習から始まった。耳抜きが上手くいかず、鼻血を出したこともあった。それでも1年生の夏合宿が終わった頃から、楽しんで泳げるようになった。「中古車を持っていたので、伊豆半島や神奈川県真鶴町など関東で潜れる数少ないスポットにみんなで行った」。ここでもキャプテンとなり、沖縄合宿などを計画。小笠原村を初めて訪れたのは20歳の時で、美しい海と山、島民の温かさに魅了された。

筑波大では農林学類で公園計画を、同大学院では環境科学を専攻した。修了後は一年間、筑波で就職したものの、「地方の役場でまちづくりに携わりたい」という気持ちが高まった。すると、学生時代に行った小笠原の記憶が蘇ってきた。「小笠原村で暮らすのも悪くないか」と思い立ち、採用試験のために片道39時間以上かけて父島に向かった。合格し、25歳で小笠原村役場に入庁した。

主に企画や観光、産業振興の分野でキャリアを積んだ。母島で栽培されたサトウキビの糖蜜から造られる地酒「小笠原ラム」の復活に向けた会社を立ち上げ、ホエールウォッチングの普及に尽力。小笠原村の世界自然遺産登録の際にはパリでの国際会議に主席するなど、あらゆるプロジェクトの最前線に立ち続けた。6年間にわたる東京事務所の勤務では、村長や議員に随行して国会や都庁を回り、政治の動かし方を肌で学んだ。副村長を務めた後、2021年に前村長が亡くなり、村長選への出馬を決意。同年9月に初当選を果たし、現在2期目だ。

南鳥島に巨大施設の建設は可能か 今でも時間を見つけて素潜り

小笠原村の南鳥島では、5月に高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設プロセスの第一段階「文献調査」が始まった。北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町に続く4地点目の実施となったが、国が初めて調査の依頼から実施判断までを担った。

地層処分事業の存在は、副村長だった19年に知った。村長から「こういう話があるから、あとはお前に任せる」と言われた。村長就任後も水面下で話はあったが、新型コロナ禍の対応などで目まぐるしく月日は流れた。23年には静岡県の川勝平太知事(当時)が、全国知事会で南鳥島を候補地として提案したが、大きな議論にはならなかった。

ところが、昨年11月、国から調査実施を申し入れたいとの相談を受けた。「驚きはしなかったが、私の中で一度中断していた話だったので、村民や議員への村内周知はできていなかった」

原子力発電環境整備機構(NUMO)が開いた説明会などで、村民からさまざまな意見が上がった。全ての意見に耳を傾け、悩み抜いた上で「実施するか否かは、国の責任で決めるべき」との結論に至った。

「電気がない社会は考えられないし、社会の維持には原子力、火力、再生可能エネルギー、全てが必要だ。村では原子力由来の電気は使っていないが、最終処分問題は他人事ではないと考え、申し入れを受けようと思った」

今回の申し入れの対象は小笠原村だけだった。「できれば、ほかの地点も同時に申し入れてほしかった」としつつも、まずは「ほかの地域に申し入れができるように努力している」という国の言葉を信じた。一方、他地域で調査が実施されなければ、次のステップである概要調査に進むかどうかの意見表明は行わない。

「南鳥島は小さな島で、都心からは2000㎞もの距離がある。先日、北海道幌延町の幌延深地層研究センターを視察したが、最終処分場は地下300m以上の巨大な施設だ。建設コストは本土の土地より上がるだろうし、地上面積の小さい南鳥島に建てられるのか。文献調査はこうした疑問と向き合う期間にしたい」

南鳥島には、常駐する自衛隊員などの不在者投票事務で2度足を運んだ。どちらも1泊する予定だったが、天候の関係で1時間ほどの滞在で終わってしまったという。「海の中にポツンと浮かぶ緑色の島で、潜りたいと思った」

タンクを背負うスキューバダイビングこそ引退したが、68歳の今も時間を見つけて小笠原の海に潜っている。

【原子力の世紀】紙くずとなったブダペスト議定書 核放棄が招いたウクライナの悲劇

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

米露などが3カ国の領土保全を誓ったブダペスト議定書は、ロシアの侵攻で無に帰した。

核抑止力なき国家の生き残りの難しさと、核拡散の危機に迫る。

核兵器を取り巻く世界が急激に変化している。核兵器保有や配備を望む国が相次ぐなど、核拡散の時代に突入した感がある。1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)が有名無実となる日が来るのか。過去の経緯も含め、核拡散の動向を追う。

核兵器を放棄したウクライナがロシアに侵攻されたのに続き、核兵器を保有していないイランが、米国、イスラエルに攻撃された。さらに、ロシアはウクライナに侵攻後、たびたび核兵器の使用をちらつかせている。トランプ米大統領も「一つの文明を終わらせる」と述べるなど、核兵器の使用を示唆するかのような発言をした。こうした核兵器国の横暴がまかり通れば、持たざる国はたまらない。

クリミア半島セバストポリのレーニン像

世界第3の核保有国 常任理事国による安全保証

核拡散を巡る物語は、ウクライナから始めたい。ソ連邦を構成していたウクライナには、かつて約4300発もの核兵器が配備されていた。ソ連が91年12月に崩壊する直前、旧ソ連から独立する諸国が一同に介し、戦術核兵器(小型核)をロシアに移送することを決めた。だが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器の扱いは未定のままソ連は崩壊する。

ICBMなどの戦略核兵器は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4共和国に配備されていた。ウクライナに1750発、カザフスタンには1400発配備しており、ウクライナは米露両国に次ぐ世界3位の核保有国だった。

ソ連崩壊で、世界唯一の超大国となった米国は「旧ソ連から三つの核保有国が生まれれば国際情勢が不安定化する。盗難などによる核拡散も心配だ」と、この3カ国に核兵器を放棄するよう圧力をかけた。

米国は冷戦終結により、核兵器を大幅に削減して財政負担を軽くする「平和の配当」を望んでいた。財政難のロシアも事情は同じだった。米ソ両国は91年7月、戦略兵器削減条約(START)に合意する。核兵器の配備数は、1万発から約6000発に減った。米国は、STARTの対象外だった戦術核兵器も削減した。潜水艦を含む艦船に配備していた核巡航ミサイル「トマホーク」を撤去、在韓米軍などへの核兵器配備をやめた。ロシアもそれにならった。

米露(ソ)両大国が核兵器削減に走る中、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの戦略核兵器をロシアに移送する構想も始まる。米露はこの3カ国を「非核兵器国」の立場でNPTに加入させることで一致し、3カ国の説得を続けた。

問題は、国防にあった。核兵器をロシアに移送すれば、軍隊の整備が十分とは言えない3カ国は「丸裸」の状態に陥る。3カ国は「見返り」を強く求めた。

要望に応えるため、94年12月にハンガリーの首都ブダペストで会議を開く。米露英仏中の核兵器国が、3カ国に「安全の保証」を与える文書にサインした。ブダペスト議定書と呼ばれる。

ただ、ロシア移送には紆余曲折もあった。94年7月に就任したばかりのベラルーシのルカシェンコ大統領は「移送は前任者時代のことだ」と主張し、ICBMの一部を残す道を探った。ウクライナは、チョルノービリ原発事故(86年)の鮮明な記憶があったこともあり、非核化を推進しようという動きがあった。一方で、ICBMを国内に残そうと主張する勢力もあった。

だが、3カ国に配備されていたICBMは、ソ連(ロシア)軍がすべてを管理、ウクライナやベラルーシなどの軍は基地に立ち入ることすらできなかった。発射権限もモスクワが握るなど、運用に関わる余地もなかった。

ブダペスト合意から約1年半後の96年6月、最後のICBMがウクライナからロシアに運ばれた。

【業界スクランブル/需要家】活用広がる次世代スマメ 日本の展望は

業界スクランブル/需要家】

日本においては、スマートメーターの設置は2010年代から全国的に進められており、20年代半ばまでにおおむね全世帯への導入が完了したとされている。これにより、従来の検針業務の効率化に加え、電力使用量の見える化といった基盤整備が進展した。

今後は、電力レジリエンスの強化や再生可能エネルギーの導入拡大、さらには脱炭素化の進展を背景として、次世代スマートメーターへの更新が段階的に進む見通しである。次世代スマートメーターは、高頻度なデータ取得や双方向通信機能の強化を通じて、需要側機器の柔軟な制御を可能とする基盤となることが期待されている。

一方、欧州に目を転じると、スマートメーターの普及は進展し、北欧諸国などでは既に高い普及率に達している。こうした国の一部では、電力卸売市場と連動した小売料金が導入され、価格変動に応じた需要調整を促す仕組みが整備されている。背景には、市場連動型料金の整備を求める制度的要請がある。

このような環境下では、市場価格に応じてEVの充電や家庭内設備の稼働を自動制御するサービスも一部で見られ始めており、再エネの有効活用を促す手段の一つとして注目されている。ただし、こうしたサービスは大きな負荷を持つ設備を有する需要家に限定される場合が多く、また生活スタイルとの不整合への懸念もあり、広範な普及には課題が残る。

今後、日本においては、こうした海外の動向を注視しつつ、制度や需要家の実態を踏まえた上で、慎重に議論を進めていくことが重要になるであろう。(K)

【業界スクランブル/再エネ】地域での構造的課題 価値還元が解決策に

業界スクランブル・再エネ

山林を切り開くメガソーラーや、低周波音への懸念が指摘される風力発電を巡り、近年、全国各地で住民の反発が相次いでいる。景観の変化や自然環境への影響などを背景に、再エネ開発を巡る地域との摩擦は深刻化している。環境省は環境アセスメント制度の運用強化、地域共生を重視した制度整備を進めているが、根本的な解決には至っていない。実際、地域脱炭素化促進事業制度に基づき市区町村が設定する再エネ促進区域についても、全国48市区町の促進地域のうち事業化に至った事例はわずか2件だ。

背景には、再エネ事業による利益や環境価値が地域に十分還元されていないという構造的な課題がある。まず、再エネの普及に大きく貢献したFIT制度下において、地域で発電された再エネ電力は全国の系統に流れ、地域で環境価値をカウントすることはできない。非FIT電源でも、発電事業者が域外企業である場合、環境価値は地域外へ流出していることになる。加えて、特に小規模自治体では専門人材が限られるため、事業者主導で合意形成が進められ、住民との認識のずれや不信感が生じる場合もある。立地に伴う負担を地域が引き受ける一方で、その恩恵を実感しにくい現状が、再エネへの反発を招く要因となっている。

こうした課題を打開するために、地域が環境価値を得る制度設計はもちろん、都道府県の役割が注目され始めている。昨年度には都道府県を核とした地域脱炭素施策づくりモデル事業が開始され、市区町村の枠を超えた地域特性を踏まえた適地選定や技術支援を通じて、再エネ導入と地域共生の両立を主導することが求められている。(K)

【コラム】「敗戦後81年、経済財政運営を考える~経済敗戦を反省し、自滅を回避しよう」

飯倉 穣/エコノミスト

1,景気判断と財政運営に違和感

敗戦記念日が近づいている。日本経済は停滞ながら史上最高水準の位置にある。敗戦時の姿を考えれば、夢のようである。この経済を近時の政権は巧みに運営しているだろうか。

現在の状況は、イラン戦争・石油供給不安ながら、「景気は緩やかに回復」(月例経済報告26年6月)。日銀短観(同調査)は、イラン問題を抱えながらAI牽引景気を示唆する。設備投資も堅調で、業況良しという判断である。そして資産価格は、株価7万円前後、路線価5年連続上昇(前年比2.9%増、日経7月1日)とバブル的様相である。

この景況感の下で「経済財政運営と改革の基本方針2026」の取り纏めがあった(7月21日)。強い経済の実現を目指して、責任ある積極財政で運営の見直しを図ると述べた。

そして「行き過ぎた緊縮志向」と「未来への投資不足」の流れを断ち切り、「国内投資」を徹底的にてこ入れし・・官民投資ロードマップ策定等で・・早期に、実質1%を上回る、名目3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げることを目指します」と総理発言もあった。

報道もあった。「「骨太」積極財政へ転換 投資強調「健全化」消える 閣議決定」(朝日7月22日)。「骨太、成長企業に補助金 国主導で競争力底上げ 閣議決定「財政健全化」文言なく」(日経同)。「経済成長「名目3%超」国内投資強化「骨太」閣議決定」(読売同)。

この景況感で、責任ある積極財政は必要だろうか。成長戦略で危機管理投資と成長投資が目指す強い経済の姿はどのようなものか。現施策は、過去30年間の苦い経験を克服出来るだろうか。強い経済を目指す政治家・官僚の選択肢と思考回路を考える。

2,強い経済とは何か~バランスこそ重要

一昔前なら、成長力、失業率、物価、貿易収支、国債利回り、公定歩合(政策金利)、財政収支等の各国比較で、自国経済の姿(経済パフォーマンス)を把握することが一般的だった。

バブル前の1984年は、成長率(80-84)3.2%、失業率2.7%、卸売物価0.0%・消費者物価2.2%、国際収支343億ドル、国債利回り6.81%、公定歩合5.0%だった。主要先進国比較で良好な姿を保ち、財政収支(公債依存率21.3%)のみ改善努力が必要という状態だった。GDP比債務残高は念頭に浮かばなかった。

バブル形成・崩壊後、構造改革ばやりの1990年代を過ぎた2000年、小泉改革後の2006年、アベノミクス後の2018年の数値は、成長率・財政指標等で劣化した。そして2024年の数値は、成長率(20-24)1.3%、失業率2.5%、企業物価2.3%、消費者物価1.7%、経常収支29.2兆円(貿易▲2.7兆円)、国債利回り1%、政策金利0.25%等だった。成長率で期待に達せず、財政状況(公債依存率実績見込30%)も、改善の兆しを見せず、公債残高は劣化の一途を辿っている。この経験から何を学ぶべきか。

3,官民投資不足とは何か~数値上は思い至らず

経済の流れから投資を考えると、政府投資と民間企業投資となる。過去日米貿易摩擦で米国要求や日本の内需拡大論者に貯蓄投資論があった。日本の貯蓄過剰が輸出増狙いの投資に偏重し、貿易黒字を増加させている。故に日本は、貯蓄を政策的に消費の増加、消費の拡大をもたらす民間投資や生活関連社会資本に向けるべきと言われた。その結果は、金融・財政出動でバブル生起・財政不健全化に至った。

今回の投資不足論は、企業の貯蓄(過剰か否かの判断は別として)を、17戦略分野の官民投資に誘導すべきという主張である。民間企業の投資水準は、過去(高度成長期20%超)と異なることは当然であるが、最近のGDP比17~18%は各国比較でもむしろ高い水準と言える。この現状に対し、政府は、財政出動で危機管理投資と成長投資を大胆かつ戦略的に進めるという。政府の認識が那辺にあるか理解しにくい。

(財政は投資超過状態)

財政との絡みでみるとむしろ投資超過の姿になる。経済は、生産、所得、支出の連続的流れである。生産で生まれた所得をどのように支出するか。多くは消費、そして設備投資、一部は税の納入=歳出となる。成長がなければ、循環的である。時に景気対策として経済水準維持に国債発行・歳出増を行う。成長(税収増)がなければ、次年度の水準維持にさらに国債発行・歳出増を余儀なくされる。これが累積債務の増大となる。この姿は、所謂投資超過の状況である。これを継続すれば、経済は下方圧力を続ける。つまり需給面からみれば、過大供給が継続する。需給バランス的には国債発行頼りの公的需要を抑制することが肝要である。現経済の現状をみれば、インフレ税収分を累積国債残高の削減に使うこと適切である。また法人税を引上げて少しでも財政均衡に寄与する努力も必要である。消費税減税に首を傾げる。 

4,民間企業設備投資とは~企業経営の判断次第

民間企業の投資は、夫々の経営判断である。多くは、現在の生産水準維持か拡大を目論む利潤投資反応的な設備投資である。そして技術革新が牽引する独立投資もある。企業経営を考えた場合、現在の投資水準が過剰なのか過小なのか経済財政諮問会議の委員がどのようにして判断できるか不明である。マクロ的な景気変動との絡みでは、前述のGDP比投資水準や投資の時系列的な増減動向をとらえたとしても、適正水準を示すに至らない。あくまで企業サイドの投資回収可能性の判断に委ねられる。その際薄利多売的な行動をとるか高利益重視の行動を取るかは、企業の判断次第である。

【リレーコラム】後回しできない「残存物」の課題 50年見過ごされてきた環境リスク

小島 舞/日本エネルギー経済研究所主任研究員

環境問題への意識の高まりを受けて、「脱石炭」に世界的な関心が集まっている。脱石炭は、石炭の消費(例えば火力発電や鉄鋼などでの需要)と生産(資源採取による供給)を減少させることが求められる。しかしながら「言うは易く行うは難し」ということわざ通り、実現は困難である。

日本では、1950年代以降に石炭採掘を段階的に縮小させ、その過程でさまざまな政策が打ち出された。こうした日本の石炭産業を合理化した経験は、これから脱石炭を進める国の指針となる一方で、石炭から発生する「残存物」が見過ごされている。

残存物は、石炭に付随したストックであり、筆者は山口県の大嶺炭田の事例から、現在でも複数の残存物が存在することを指摘した。特に重要な問題は、脱炭素を進める施策が、逆説的に、環境や人々の暮らしに悪影響を及ぼしている点だ。例えば、採掘に伴う地盤沈下や地下から湧き出る坑内水は、現在でも確認されており、今後の影響も未知数である。また、炭鉱跡地に設置された太陽光パネルは、住民の記憶を覆い隠すと同時に、地盤が軟弱な箇所が含まれ、災害への不安が助長される。

大嶺炭田は閉山から約50年経過しているものの、こうした残存物の存在は、脱石炭に向けた移行が長期的な視点で再考されるべきであることを示している。

脱石炭への移行は避けて通れず

石炭を燃焼させることによる二酸化炭素の排出量は、天然ガスの約2倍といわれており、脱石炭が推し進められてきた。日本が支援する公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)も取り組みの一つである。しかし、昨今の中東情勢の緊迫化から石炭回帰の動きが見られる。特にアジアでは、中東からのLNG輸入量が多く、石炭火力発電の再稼働や廃炉の時期を後ろ倒しにする国が出現している。ただ長期的には、脱石炭に向けた移行は避けては通れないだろう。

日本は石炭の生産/採掘を減らした一方で、他国から輸入することで消費を賄ってきた。現在、約1億6000万t消費される石炭(原料炭と一般炭の総計)の輸入比率は99・7%である。日本の石炭生産量が最大だった1940年の約5600万tよりも、多くの石炭が必要とされているのが現状だ。石炭を消費し続けることは、脱石炭社会の移行と同時に、残存物の課題を先延ばしすることを意味している。

脱石炭の道筋は難しく、共通の単一な方策はない。将来世代に向けた移行の在り方を考える上で、残存物の視点は重要であるだろう。

こじま・まい 茨城県出身。日系シンクタンク、外資系企業を経て、山口県の炭鉱研究をするために移住してスローライフを楽しみつつ博士課程を修了し、現在に至る。

※次回は、伊藤忠総研の北山未央さんです。

【業界スクランブル/火力】想定する電源像に偏り 蓄電池の正しい評価

【業界スクランブル/火力】

近年の容量市場・調整力市場で、蓄電池が高く評価されていることは必ずしも誤りではない。応答速度が速く、指令追従性が高く、系統運用者にとって扱いやすい電源であることは事実であり、短時間の需給調整や周波数制御で、一定の役割を果たしている。しかし問題は、その評価が「見かけの運用のしやすさ」に過度に依存し、系統を長期に安定させるために不可欠な要素が制度上ほとんど顧みられていない点にある。

蓄電池はエネルギー量に制約があり、長時間の需給ひっ迫に耐えることはできない。それにもかかわらず、短時間のΔkW性能ばかりが強調され、継続的な供給力については事業者の自己管理事項として外出しされている。

一方、火力発電は「応答が遅い電源」として調整力評価では不利に扱われているが、同期機としての慣性力や同期化力を通じ、系統事故初期の周波数安定にも無条件で寄与している。これらは指令型制御では代替できず、現状のインバータ電源が実用レベルで担えているとは言い難い。

さらに見過ごされがちなのは、蓄電池の充電原資だ。現行のエネルギーバランスにおいて、蓄電池は主に火力発電由来の電力で充電されており、市場価格を見ながらの、いわゆるアービトラージ運用では、再エネ余剰の受け皿として十分貢献しておらず、「脱炭素電源」との評価は看板倒れになりかねないのが実態だ。

制度は中立を装っているが、暗黙に想定している電源像は偏っている。短期的な操作性だけでなく、持続性・物理特性・エネルギー実体を含めた評価軸へと転換しなければ、系統運用のための底力は静かに削がれていく。(N)

【シン・メディア放談】高市政権が抱える根深い課題 積極財政の副作用

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

高市政権は「責任ある積極財政」に突き進むが、むしろ「無責任」との指摘が相次いで……。

―燃料油に加え夏の電力・ガス補助金が復活した。3兆円強の補正予算をどう評価するか。

A ガソリン補助金見直しの声が党内で上がる中、国会での審議時間は短く拙速だ。円安が止まらず、長期金利が上昇する中、経済は当面相当厳しい状況となる。中長期の視点で方策を示す政治家はいないのか。

B 高市早苗首相は党内の声に聞く耳を持たないし、カレンダーを踏まえた戦略が描けていない。だから衆院の議員定数削減や国旗損壊罪創設、皇室典範改正などをまだやっているし、夫婦別姓は秋以降になる。

C 中央公論7月号に「ガソリン補助金を撤廃しナフサを確保せよ」と題した今井尚哉内閣官房参与の原稿が載った。これは経産省が代弁してもらったということか。とにかく高市政権の経済政策は頼りない。ただし解散しない限り選挙はない。総裁選他候補や他党の中傷動画を巡る文春報道への説明も筋が悪いが、支持率は大きく下がらない。

―ただ、6月の時事通信の世論調査では支持率が政権発足後最低を更新。今後どう動くか。

C さらに共同通信が中傷動画を作成・拡散したとの当人の証言を報じた。代理人を務めるヤメ検弁護士が仕切ったとされ、共同が利用されたと言える。

―後に掲載写真の事実関係に疑義が生じ、写真を削除した。

C 他方、食品の消費税を2年間限定で1%とする案が浮上。首相は日経で「特例公債に頼らない」と明言していたが、理解不能だ。

B 中道改革連合などにつられてしまい、中道も責任を取るべきだ。好意的に見れば、本丸の給付付き税額控除の流れができたと言えなくもないが……。

A 市場が政権を見放していることが問題。公約とはいえ、これでは日本は八方ふさがりだ。

首相の会見姿勢の是非 反発しないメディア

―閣議後会見でナフサ目詰まりを巡る赤沢亮正経済産業相とエコノミスト記者のバトルが話題になった。

B 本当にナフサが不足しているかどうか、データを使い報じるべきだし、日経のカルビー担当記者は、白黒パッケージ問題で政府に何を言われたのか聞き出すべきだ。

C 一報、朝日はカルビー発表直後に官邸幹部が「売名行為」と批判したと報じた。これはヒットだった。

―首相が会見で質問を数問しか受けない姿勢も目立っている。

C ただ、最近の歴代首相もそんな感じだったと政治部の記者は言っている。質問者を選ぶのも前からだ。

B 高市首相は今年度当初予算成立の会見の頃から1~2問で終わるように。このぶら下がりのようなものを会見と認めてしまったのが良くない。ただ、そもそも閣僚や官房長官が随時会見しており、首相の会見にどれほど意味があるのか。ネタが欲しいなら直に電話なりすべきだ。

A でも5月大型連休中の豪州首相との共同会見は質問ゼロ。日本側が質問は受けないと譲らず、現地メディアから批判が出た。首相の体調問題によるとされているが、フリーやネット記者にしつこく突かれたくないのが本音のようだ。確かに目に余る記者はいるが、質問の機会を与えないというのは違う。

B パージは良くないが、一線を越えた記者を野放しにするのも良くない。メディアと政治がお互いに不信感を強めている。

A 会見の開催権は記者クラブにあり、そうした記者の扱いはメディア側が決めるべきだ。

C 今の世論であるネットが首相を支持している。中傷動画の説明が支離滅裂でも「週刊誌報道にいつまで国会の時間を費やすのか」との声が大きく、それをメディアも分かっている。首相はまさしくわれわれを「オールドメディア」として扱い、トランプ大統領に似てきたね。

B ただ、首長選で地味に負けている。9月の沖縄知事選で、辺野古沖転覆事故で逆風の玉城デニー知事に負けるようなことがあればダメージになる。

法廷録音問題に同情の声 情報管理が日本全体の課題

―大手電力では法廷の無断録音が相次いで明らかになった。

C 中部を皮切りに次々発覚した。この件には同情する。日本の法廷は取材対応含め公開性に欠けている。でもこれを機に見直そうとしないのが日本だ。

B 録音したい衝動にかられた記者は大勢いて、企業の法務部も同様だ。もちろんやってはならないが、守ることが合理的でない現状も問題だ。

A とはいえ、カルテルや浜岡の件も見れば中部のコンプライアンス意識は問題だし、電力だけでなくプルデンシャル生命保険なども同様だ。そうした不祥事の追及と分けて、法制度の問題は各紙が別途指摘すべきだ。

―他に気になったエネルギーニュースは?

C 九州電力送配電の顧客情報紛失は信用問題に関わる。

B 1000万人超の情報が入ったSSD(記憶装置)が所在不明で、パスワードをかけていなかった。外部の業者が持ち出した説などあり、続報次第だ。

C あまり報じられていないが、原子力規制庁のスマホ紛失も大きな問題だ。また、共同通信元記者が会社貸与のPCやスマホなどを紛失という件もあった。

A 日本全体で情報管理の緩さがある。防衛産業で稼ぎたいなら、情報管理のレベルを高める必要がある。今の状態では相手国は日本を信用できない。

―ミュトスショックも踏まえ、メディア含めて意識レベルを引き上げる必要がある。

【ワールドワイド/コラム】中国が「影の船団」を支援 未曾有の石油危機への一本道

海外メディアを読む

マレーシア・ジョホール州東方沖、EOPL(Eastern Outer Port Limits)と呼ばれる海域で、イラン産やロシア産などの「制裁原油」の積み替えが活発に行われている。5月27日付のウォールストリートジャーナル紙は、イラン産原油が「影の船団」によって同海域で中継され、中国に運ばれる様子を伝えている。

「受け渡し役」タンカーがイラン産原油を積載して同海域に向かい、「受け取り役」のタンカーに積み替えて主に中国東部・東北部に運ぶ。同海域はマレーシアの排他的経済水域内ながら領海外で、同国の取り締まりも限定的で、常時数十隻が集結。船名や船籍を頻繁に変え、自動識別装置を電源切断・偽操作して追跡を困難とし、同海域は「海上無法行為の震源地」と化している。現地では船舶燃料補給船なども行き来し、地元小型船による「行商」も活発という。

これらタンカーの所有企業は中国登記の場合が多く、乗組員の多くも中国出身で、高給での船員募集も公然と行われ、中国による「影の船団」支援の裾野は広い。4月13日に米軍は事実上の対イラン海上封鎖を敷いたが、既にその圏外に推定9000万バレルのイラン産原油が洋上備蓄されており、イランは10月まで石油収入を確保し得る、と記事は言う。

「影の船団」はイランのホルムズ海峡封鎖を支え、米国も打開策を見出せぬまま、対イラン海上封鎖を続けてきた。いわば「経済的核攻撃」の応酬であり、未曾有の石油危機への一本道だ。米・イランが戦闘終結の暫定合意をしても、海峡の持続的な開放につながる保証はない。米・中・露、いずれの「大国」も石油供給秩序を支えず、日本を含む他の石油輸入国がその秩序解体の中に取り残される。

小山 正篤(国際石油市場アナリスト)

【ワールドワイド/コラム】ベルギー・独で原発巡り議論 国有化や核融合推進の動きも

国際政治とエネルギー問題

今年2月、中東沿岸諸国での紛争でホルムズ海峡が封鎖され、原油、石油製品の輸送がストップし、世界的にエネルギー市場が混乱している。3月には原子力サミットがパリ近郊で開催。EU委員会・委員長は脱原子力の戦略的な誤りを指摘した。さらにEU委員会は4月、エネルギー戦略ペーパーで原子力発電に大きな役割を与え、小型炉と閉鎖原発・解体撤去の回避が化石燃料依存を減らすと発表。エネルギーが足りない中で、原子力発電の必要性を訴えている。

欧州のマスコミ紙は、ベルギー、ドイツでの原子力発電の話題を4月に相次いで報道した。ベルギー政府は原子力発電に復帰しようとし、原発の解体撤去が当面停止される。4月30日には、政府は運転会社のEngieベルギーと原発国有化に関する話し合いを行うと共同声明で発表。ベルギー首相は化石燃料の輸入依存の減少と国内のエネルギー供給の管理を望んでいると言われ、現政権は原子力発電への復帰を2025年の新政権発足時に発表していた。Engieベルギーは原子力発電から撤退し、再エネとフレキシビリティに経営を移す。政府と10月1日までに原発の政府管理への枠組みをまとめる意向だという。

ドイツでは23年4月に最後の原発3基が閉鎖され、解体撤去作業が進められている。与党CDUのシュパーン院内総務が26年4月のCDU/CSUイノベーションコングレスで、コスト上の理由から解体撤去中の原発再稼働の可能性を求め、大きな反響を呼んだ。メルツ首相は脱原子力が誤りだったと認めてはいるが、与党SPDに配慮し、脱原子力の修正はエネルギー問題の解決にはならないとの見解を発表した。こういった中、世論調査研究所が今年3月に実施したアンケートでは、53%は3基の閉鎖を‶完全に誤り″だったと回答。ドイツが利用すべき電源は、ソーラー、風力、水力、原子力、バイオマス、天然ガス、褐炭、石油の順であった。

ベルギーは脱原子力の立場だったが、右派の首相が解体撤去を中止し、原子力を拡充しようとしている。ドイツは00年以降、脱原子力政策を貫く。11年3月の福島事故で、当時のメルケル政権は22年末までの脱原子力を法律で規定し、これが今日まで適用されている。3基の原発を運転していた電力会社は廃炉作業を進め、基幹系統運用者も廃炉作業の中止を否定している。Ifo経済研究所(ミュンヘン)の副理事長は国内でドゥンケルフラウテ(曇天や無風)が発生すれば、ドイツは近隣諸国から電力を輸入でき、依存する可能性が高くなると警告した。

脱原子力が進む中、独スタートアップ企業のFocused Energyは廃炉中のRWEビブリス原発で、35年の運開をめどにレーザー核融合を目指している。同社はドイツ内外から2億4000万ドルを集めたと5月末に発表。RWEはレーザー以外に、磁場核融合のスタートアップ企業Proxima Fusion(ミュンヘン)にも出資している。

弘山 雅夫(エネルギー政策ウォッチャー)

【業界スクランブル/原子力】将来の建て替え目標 実現への環境整備を

【業界スクランブル/原子力】

経産省が公表した「原子力政策の方向性と行動指針」改訂案は、既設炉の建て替えのため2040年代に120万kW原発2~5基、50年代に11~14基が必要とした。具体的な目標は歓迎するが、この数値で足りるだろうか。

米国では運転中の原発94基のうち、ほぼ半数が80年運転に向けた手続きに入っている。わが国も80年運転とすれば、50年代を通じて36基3722万kWを維持できる。

エネルギー安全保障強化と脱炭素のために火力発電を抑制し、一方で再エネ賦課金が上昇する状況では、原子力の最大限活用しか自給率改善の現実的な手立てはない。福島第一原発事故時に設置許可申請中であった新設4基に、最近注目される美浜原発の増設を加えて5基は実現可能である。さらに過去に報道された新設計画が4基ある。14基にするには残り5基の立地点が必要だが、30年の時間的余裕がある。80年運転に新設14基を加えれば、5600万kWとなり、需要の約3割を原子力で賄える。

電力自由化と原子力規制の強化という矛盾した組み合わせの導入が多数の廃炉を招いた。新規建設を支える事業環境整備が重要で、広域機関による長期脱炭素電源オークションと財政投融資だけでは足りない。資金調達への債務保証、運転開始前の固定費回収支援を導入すべきである。

わが国の電力需要の3分の1を供給する東電が原子力事業を大規模に復活できないことも将来への懸念で、事故賠償清算と廃炉負担の解決が必要だ。40年遅れで米国を真似る二段階審査は、規制庁による審査の本質的な改善になるか甚だ疑問であり、他の手法も検討すべきである。(H)

【業界スクランブル/石油】限界迫る地方のエネ供給 国が支援制度創設

【業界スクランブル/石油】

熱エネルギー供給事業者としての内なる危機(人口減少と担い手不足)はすでに起きている。〝ポツンと1軒屋〟に供給できない未来は目前だ。

個別宅配送が必要不可欠な灯油とLPガス供給事業者としては致命的な問題だ。寒冷地域での灯油の供給は必須であり、機器が進歩したと言ってもエコキュートや電気エアコンによる暖房、オール電化では十分な熱エネルギー供給ができないのが現状だろう。導管で供給している地方都市ガスは配送問題とは無縁のようだが、人口減少に伴いガス消費量が大幅に減少してしまい、経営上大きな問題になっている。

経済産業省もこれらの対策として今般、改正産業競争力強化法(6月5日公布)に基づき「生活維持物品役務需要減等事業適応計画」の認定制度(認定ES制度)を創設した。LPガス供給やガソリンスタンドなどエッセンシャルサービス事業者が進める事業効率化の計画を国や自治体が認定し、金融支援や手続きの簡素化を措置している。

支援の柱となる金融措置では、信用保証の特例として一般枠とは別枠で最大2億8千万円の特別枠を設け、事業承継時の資金などで経営者保証を不要としている。日本政策金融公庫などから固定金利(基準利率からマイナス0・9%)で融資を受けられるほか、中小企業基盤整備機構などによる債務保証や、中小企業投資育成、株式引き受けで投資前の資本金が3億円超の企業を含める特例を設けた。

国の支援制度を受けながら、事業者にはスピード感を持って地域協業、協同組合化などを社会実装化していく努力が求められている。(K)

【ワールドワイド/経営】G7で気候問題の議論後退 否定的なトランプ政権が影響

今年のG7環境大臣会合(フランス議長国、4月23~24日・パリ)は、従来のG7気候・エネルギー・環境会合とはかなり性格が異なっている。

トランプ第2期政権以前のサミットでは首脳会合に先立ち、気候・エネルギー・環境大臣会合が開催され、パリ協定を背景に1・5℃目標へのコミット、全球50年カーボンニュートラル、石炭、さらには化石燃料のフェーズアウト、再生可能エネルギーの推進などについて野心的なメッセージを含む閣僚声明が採択され、サミット首脳声明へのインプットとなってきた。

しかし今回のG7環境大臣会合では従来、最も大きく取り上げられてきた気候変動を避け、環境分野のこれまでの成果と六つの分野(砂漠化と安全保障、違法・無報告・無規制(IUU)漁業への対策、海洋保護区管理のためのアライアンス、自然と人々のための金融アライアンス、繁栄のための不動産レジリエンスパートナーシップ、水質汚染)について共同声明が取りまとめられた。

温暖化アジェンダ受難の時代は続く

気候変動を回避した理由は言うまでもなく温暖化問題に否定的なトランプ第2期政権の存在である。気候変動問題の否定のみならず、安全保障、貿易(関税)でも友好国に対して容赦ない対応をためらわない米国とのコンセンサス形成は第1期トランプ政権時以上に容易ではない。25年G7カナナスキスサミットでは包括的な首脳声明の発出を断念し、G7として共同歩調をとれる個別テーマ(山火事、重要鉱物など)に関する共同声明を発出した。今回の個別分野の共同声明も同じアプローチだ。

フランス側は「G7の結束維持のためのpragmatic approach(現実的対応)」と説明している。とはいえ、今回の会合は、従来のG7気候外交と比較するとかなり後退したことは否定しようがなく、欧州メディアやNGOは「G7が気候を語れなくなった」、「米国との対立回避が最優先された」、「環境一般に議題を分散させた」と批判している。トランプ第2期政権を通じ、G7における「温暖化アジェンダ受難の時代」は続きそうだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【ワールドワイド/市場】中国が石炭火力活用の方針 エネ安保を手放さない現実主義

中国の第15次5カ年計画と2026年政府活動報告から見えるのは、脱炭素化を進めながらも、エネルギー安全保障を決して手放さない中国の現実主義である。中国は30年のCO2排出ピークアウト、60年のカーボンニュートラルという「3060目標」を掲げ、今回の計画期間はその最初の節目を含む。非化石エネルギー比率を30年に25%へ引き上げ、単位GDP当たりCO2排出量を25年比で17%削減する方針は、その実現に向けた重要な道筋と言える。

もっとも、中国の政策は再生可能エネルギーの拡大だけに依存しておらず、送電網や地域間送電ルート、電力融通、原子力などを一体的に整備する姿勢が鮮明である。電力システムの安定には、変動する電源を受け止め、地域を越えて融通し、電力市場を通じて資源配分を最適化する仕組みが不可欠になる。今回の計画は、まさにその土台づくりを国家規模で進めるものだ。

中国のエネルギー政策は現実路線を取る

注目すべきは、石炭火力の位置付けである。中国は脱炭素を掲げながらも、石炭を直ちに退場させるのではなく、石炭火力の改造・高度化などを通じて効率的な利用を進め、調整力として活用する方針を示している。これは巨大な電力需要と地域格差を抱える中国にとっての現実的な選択だろう。安定供給を確保しながら排出削減を進めるという難題に、石炭火力の最適化で応えようとしている。

原子力政策にも同じ現実主義が表れている。沿海部での第三世代炉建設に加え、SMR、第四世代炉技術の研究開発・実証、放射性廃棄物処分場の整備まで盛り込まれた。これは次世代技術を含む総合的な原子力産業基盤を強化する動きである。

中国のエネルギー政策の本質は、脱炭素、安定供給、産業競争力を同時に追求する巨大なシステム設計にある。30年のピークアウト達成に向けた焦点は、系統整備、地域間連系、蓄電、電力市場、そして石炭火力の役割再定義を、どこまで実効性ある制度と投資に落とし込めるかだ。中国の脱炭素は、電力システムそのものを作り替える国家プロジェクトとして進んでいる。

(南 毅 /海外電力調査会調査第一部)

【業界スクランブル/ガス】LPのリスク 中東依存度わずかでも

米国とイランの戦闘開始から3カ月半。ようやく停戦延長を含む暫定合意に署名した。中東情勢が緊迫すると、原油価格に連動したLPガスの輸入価格、CP(サウジCP)も上昇する。ホルムズ海峡の航行リスク、海上運賃の上昇などは、業界にとって最も身近な関心事である。

しかし、LPガス輸入の中東依存度は約4%に過ぎず、量そのものは心配ない。今回浮かび上がったのはナフサ不足である。ナフサは樹脂や合成ゴムなど石油化学製品の原料であり、給湯器やコンロに使われる樹脂部品、マイコンメーターのケース、配管資材、容器の塗料など、多くの製品価格に影響する。日本ガスメーター工業会は、現時点でメーターの供給に支障は生じていないと報告。さらに高圧ガス容器では、法定表示に使用する自動印字用インクの供給についても確認が行われるなど、業界には原材料の供給不安が広がっている。こうした状況は、LPガス販売事業者にも新たな視点を求めている。

注目すべき指標はCP価格だけではない。ナフサ価格、海上運賃、為替、部材調達期間など、経営に影響を及ぼす要素は一段と複雑化している。

また、取引適正化・商慣行是正の議論停滞にも波及した。エネ庁が設置したアドバイザリーグループの成果を基に、3月にはWG再開を予定していたが、担当課は中東情勢の対応で多忙を極めいまだ再開されていない。

もっとも、今回の経験はリスクへの備えを見直す契機にもなる。機器や容器の計画的な更新、適正在庫の確保、複数の調達ルートの構築など、サプライチェーン全体を意識した体制構築が重要になるだろう。(F)