【シン・メディア放談】国難時に高市政権に吹く隙間風

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

イランショックという国難に対峙する中、高市政権に不穏な空気が流れている。

―3月以降、日本政府は石油備蓄放出や補助金復活、代替調達の確保など矢継ぎ早に手を打ってきた。これまでの動きをどう見る?

A 総じてうまくやっていると思う。ただ、高市早苗首相の発信の仕方はちぐはぐだ。6月にナフサが供給できなくなる可能性に触れたTBSの報道特集に、高市首相は事実誤認とXで反論。こうしたこともあって首相は国民の不安払しょくに重きを置いているのだろうが、発言が出たとこ勝負で、どこまで言って良いというラインをきちんと共有できているのか疑問だ。

B 燃料油補助金の復活には危機感を覚える。今後石油価格が下がるとは考えられず、「ガソリン補助金2カ月で枯渇か」との毎日の記事は現実的な内容だ。経済を冷え込ませたくないとの政権の考えも分かるが、財政負荷が一層重くなり、脱炭素も遠のき、エネルギー基本計画に沿っているとは言えない。衆議院であれほど議席を得たにも関わらず、場当たり的な姿勢にはがっかりだ。高市首相は予算などでも詳しい説明を嫌がっているように見えてしまい、その見え方が政権の足を引っ張っている。

C でも周辺諸国に比べたら各段によい。某国は一部のスタンドが閉まり、一時レギュラーが1ℓ250円超に。日本ほど備蓄できておらず、不足を懸念する国民に対し政府は「大丈夫」と繰り返すばかり。そして日本より遅れて価格支援に踏み切った。ただ、日本は最近まで平時でも補助金を出していて、また復活というのはどうかとは思う。

A 支援は業界を絞るべきとの意見もあるが、政府と大手広告代理店の癒着が数年前バッシングされた。今は代理店に丸投げできなくなり、面でばらまくしかないといった事情もある。


『選択』記事はさもありなん 揺らぐ高市政権の深刻さ

―そうした中、ホルムズへの自衛隊派遣を巡って高市首相と今井尚哉氏が大げんかしたとの『選択』の記事が話題だ。

A 安倍政権時代も今井氏は他の官僚とともに安倍晋三元首相を恫喝したことがあったと文章に残っている。だから今回も概ね記事のような衝突はあったのだろう。問題は、今それができる人が今井氏だけということ。安倍政権には世耕弘成氏や萩生田光一氏、菅義偉氏がいたが、高市官邸の面々はそうではない。

C 今井氏は前から干されているといううわさもある。高市首相は仲間が少なく、政権発足から半年経つのに信頼関係を築けていない。特にイラン攻撃勃発以降、党、永田町、霞が関との間に隙間風が吹いている。例えば党内で節電要請の話が出た時、首相は言いたくないと反対。再審制度改正議論でももめている。

B 首相自らXで発信する姿勢など、人の意見を聞かない政策オタクの面が如実に出ている。また、赤沢亮正経済産業相を働かせすぎだが、外から見ても誰を信用しているのかはっきり分かってしまうことはよくない。

A 本来、予算成立後はインテリジェンス、皇室典範や憲法改正、夫婦別姓などの議論に着手し、高市ファンを喜ばせたかったはず。それができていないのは誤算で、このままではファンが爆発しかねない。

B 支持率の高さのわりに掲げた政策は後退し、特に消費減税にはかなりネガティブになってきた。これが実現できないと支持率にダイレクトに効いてくる。

―他に注目した記事は?

A ロイターが報じた、ロシアへの経済訪問団の派遣計画は気になる。政権は否定したが、背に腹は代えられない。ロシアへの経済制裁を緩めれば、安倍政権時代に進めてきたロシア産石油・ガスの調達が実現できる。当時この案件を担当していた世耕氏がどう動くのか、注目している。某月刊誌の講演会で日露の話をかなり前向きに発言していたとも聞く。

B それにしても、この局面であれば原子力推進派はリプレースなどを具体的に進めるために動けばいいのに。

C 再生可能エネルギーも気候変動視点でなく、安全保障上の必要性を重視し、現実的なこれからの政策を示すべきだろう。

A 石炭火力もあまり話題になっていないが、近年のバッシング一辺倒を反省すべきだ。

C いずれにせよ、戦争ともなれば現場は日々の取材で手一杯。論説やオピニオンでこうした発信を積極的に行ってほしい。


再処理政策に暗雲 見直しは必要か否か

―ホルムズ関連以外でも重要なエネルギーニュースがいくつかあった。

A 青森県の宮下宗一郎知事が、再処理工場の建設遅れで今年度使用済み燃料の搬入を認めないとしたが、既定路線だ。知事当選直後も似たような出来事があったが、その際も状況をよく理解していた。

C もんじゅの使用済み燃料の再処理先候補だったフランスの施設の新設が撤回されたと、毎日だけが報じた。これは結構深刻ではないか。続報を待ちたい。

B 再処理関連は良いニュースがなく常に足かせになっている。原子力を推進したいなら私はワンスルーしかないと思う。

A ワンスルー論者は原子力嫌いという点が気になるが……。

B でも現実を直視すべきだ。中間貯蔵施設を増やしつつ、いずれどこかで直接処分するといった方針を打ち出さないと、原子力がイデオロギーになる。

―再処理は議論百出だが、ホルムズショックを機に安保の観点から政策を再点検すべきことは確か。そろそろ根本的な議論に入る頃合いだろう。

【ワールドワイド/コラム】揺らぐホルムズ自由航行の原則 危機感持たない日本メディア

海外メディアを読む

ホルムズ危機から40日余り。日本の報道では、石油備蓄の残日数、LNG在庫、ナフサ不足、代替原油の性状問題、日本関連船舶の運航状況などに集中している。いずれも重要な論点ではあるが、海外メディアを読むと、この危機がより根本的な秩序の変容を伴っていることが伝わってくる。

たとえばイランによる国別の通航管理や通航料の徴収は、日本では主に自国の船舶が通過できるかどうかやコスト増という文脈で報じられている。だが、海外の主要メディアが注目しているのは、その国際法上の意味である。

国連海洋法条約(UNCLOS)は国際海峡における自由な通過通航を定め、沿岸国による通航料の徴収を認めていない。ただし米国もイランも同条約を批准しておらず、その法的根拠そのものが宙に浮いている。

そうした中でイランは、3月末に通航料の徴収を「ホルムズ海峡管理計画」として国内法で制度化し、国別の通航管理を既成事実化しつつある。この動きは、米ニュース専門放送局であるCNBCなどで自由航行原則への正面からの挑戦として繰り返し論じられている。

一方、沿岸国オマーンは独自の沿岸ルートでの通航再開を模索し始めている。安保理の海運保護決議案が中露の拒否権で否決された経緯も含め、ホルムズの自由航行という戦後の秩序が根底から揺らぎつつあるという危機感が海外報道の基調をなしている。日本は原油輸入の9割超を中東に依存し、その供給はまさにこの秩序の上に成り立ってきた。その秩序が今試されているにもかかわらず、報道は日本への直接の影響にしか関心がない。国際秩序そのものが動いていることに、もっと目を向けるべきではないか。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【業界スクランブル/原子力】再稼働に続く難題  規制委設置法の見直し

【業界スクランブル/原子力】

日本の原子力政策は今、再稼働の是非を越え、将来の技術基盤をいかに維持・発展させるかという局面に入っている。その持続性を確保するためには、電力事業者と規制当局の双方が現在の制度的課題を直視し、役割を再定義することが不可欠だ。

関係事業者には、再稼働を最終目標とする従来の発想から脱し、将来技術への投資を戦略的に進める責任がある。国際的に競争が進む次世代技術の分野で主導権を確保する動きは限定的であり、熟練技術者の高齢化が進む中で、人材継承の時間的余裕は縮小している。このままでは国内の技術基盤が弱体化しかねない。

規制運用を巡る課題は、単に審査期間の長短で説明できるものではない。審査長期化は結果に過ぎず、背景には事業者と規制当局の信頼と対話の不足が存在する。事業者側には不都合な情報の開示に慎重姿勢が残り、規制側には前例依存や追加説明要求の反復がみられる。独立性と中立性を強く意識するあまり、規制側が技術的議論に慎重になり過ぎ、孤立的な運用に陥る側面も否定できない。

地震・津波リスクに対して厳格な対応を求めることは当然だが、安全規制は厳格さのみで評価されるものではない。科学的合理性、透明性、国際整合性を備えた制度として運用されてこそ、社会的信頼と技術発展の両立が可能となる。規制当局はその点を自省してほしい。

原子力の将来を左右するのは、予見可能な制度だ。その再構築は、被告席に座る事業者や規制当局では無理で、政府・立法府が主導し、制度全体の見直しが求められる。「原子力規制委員会設置法」の見直しが急務だ。(K)

【ワールドワイド/コラム】非常事態態勢を敷く諸外国 ちぐはぐな日本の対応

国際政治とエネルギー問題

米国とイスラエルがイランに対し大規模な軍事攻撃を始めた2月28日以来、既に1カ月半が経過した。この間、イラン側からの報復攻撃、ホルムズ海峡封鎖が行われ、停戦交渉にもかかわらず、戦争の長期化が懸念される中、3月下旬以後、メディアや専門家の関心の中心は戦争の帰趨から、国際経済への影響に移った観がある。日本を含む国際経済への影響はどのようなものか、エネルギー供給、経済安全保障は果たして万全か否か。

米・イスラエルの攻撃への報復措置として、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡は3月中旬以後実質的に封鎖されている。戦争前は60ドル台で推移していたWTI原油のスポット価格は、戦争開始後71ドルに上昇、3月30日102・88ドル、4月10日には96・57ドルで取引を終えた。

日本は原油の9割超をペルシャ湾岸諸国からの供給に頼り、油価が上がれば広範な商品の値上げを余儀なくされるが、日本は世界有数の石油備蓄保有国である。今回、政府は3月26日、国家備蓄石油の放出を始めた。数量は、国内消費量の1カ月分相当の約5300万バレル(約840万㎘)であった。また、4月10日の関係閣僚会議で政府は原油安定供給に万全を期すべく、5月上旬以後第二弾の国家備蓄約20日分の放出を決めた。

国際ニュース報道でコメンテーター各氏が無資源国日本としての備蓄の有用性を強調し、同時に消費抑制の必要性に言及している。基本的な措置として、緊急事態対策には、国際エネルギー機関(IEA)の分類によれば、加盟国の対応として、緊急時増産、消費節約、備蓄の放出、燃料転換の四様がある。加盟国全体あるいは加盟各国としての対応であるので、緊急時増産は加盟国としてはアメリカやノルウェーが採り得る措置であり、燃料転換は石油に代えて石炭やガスを利用するという文脈で用いられる措置である。日本は今回、備蓄の放出を主要な対策として打ち出した。

世界各国の対応に目を向ければ、節電の呼びかけなど半ば非常事態態勢に入る国もある中、ガソリン消費を補助金で支え続ける日本の対応にはちぐはぐさが目立つ。IEAは3月20日、在宅勤務の推奨や公共輸送機関の利用促進など10項目からなる対策を発表した。こうした対策を実施するか否かは各国政府の決断だが、既に欧州や一部の新興国は導入に動いている。

燃料転換では石炭火力の活用がアジア各国に広がりつつあり、フィリピンは国家エネルギー非常事態を宣言して石炭火力の稼働拡大に踏み切った。タイや韓国でも同様の動きがある。

消費節約では、韓国は車両の走行制限をはじめ、公共機関では約150万台を対象に規制を義務化した。ミャンマーは内燃機関車を隔日走行に制限、ラオスは不要不急の車での外出自粛、通学を週3日に制限、ベトナムは在宅勤務を呼びかけた。フィリピンは警察や消防を除く政府機関を週4日勤務としたことが注目される。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

【業界スクランブル/石油】備蓄豊富な日本  次に問われるのは購買力

【業界スクランブル/石油】

多くの日本人が、エネルギー安定供給が脅かされていると感じているだろう。しかし、事の本質は単純ではない。米・イラン関係にイスラエルを加えた関係論においても、日本は重要な国家である。エネルギーが危機的状況というより、動的平衡の中東諸国とのエネルギービジネスの共依存関係が勘所と理解するべきだろう。

現状、イランは米トランプ政権を交渉可能な相手として歓迎している。実際、イランの対トランプ、イスラエルのネタニヤフ両政権との関係論は、3カ国の国内世論を見据えた高度な政治的ゲームの最中である。ここで日本は米国に近い重要なステークホルダーであり、3カ国との関係論の中で不用意に攻撃される対象ではない(中東諸国にとって潜在的顧客である)。

一方、空爆やミサイル攻撃が派手に起こり、石油施設さえも攻撃を受けているが、これは良くも悪くも現代の演劇で、ディールの最前線・戦争の実相だ。既に計算され、織り込み済みのパフォーマンスと見える。イランによる「牛の頭をした自由の女神像」を燃やすAI映像の公開という国策的パフォーマンスさえも、米国や西欧文明の脆弱性を射抜く意図がある。この動画からも、イランのディールの奥深さ・強かさが分かる。

さて、日本では短期の摂動に耐えるエネルギー備蓄は改めて重要だが、国家備蓄と民間備蓄は準備されている。次に問われるのは購買力だ。その際、最終的に日本経済に対する円換算での負担はどうなるか。今回の有事は、S+3Eで言えば安定供給から始まり、最後には経済効率性に関連するイシューがより強くハイライトされると見る。(K)

【ワールドワイド/経営】先行き不透明な脱炭素政策 手頃な価格と安定供給が最優先に

3月中旬から下旬にかけて、ワシントンで戦略国際問題研究所、ブルッキングス研究所、米商工会議所などと意見交換を行い、その後、ヒューストンのCERAウィークにも参加してきた。環境関係者の間では、「今こそ中東の石油、ガスへの依存のリスクから脱却するため、脱化石燃料を進めるべきだ」との声がある。しかし、エネルギー関係者の見方はそれほど単純なものではない。彼らの見方はおおむね次のように要約される。

各国が中東依存脱却に動いている

中東リスクが高まることにより、中東依存の低下を模索する動きが高まる可能性が高いが、それが脱化石燃料に直結するのではなく、少なくとも当面、輸入国においては代替供給源の拡大、資源国における国産化石燃料の増産につながる可能性が大きい。ディーゼル、ジェット燃料などの石油製品の価格上昇は、アジアにおいて電気自動車の需要を増大させるだろう。

中東情勢の影響で、米国産LNGへの需要は高まるだろうが、それが国内のガス価格、電力価格の上昇につながる場合、ガス輸出の制限が検討される可能性がある。

OECD加盟国では、よりクリーンな電力への取り組みを強化しており、米国、日本、台湾では原子力発電が拡大する可能性がある。他方、石油・ガス価格変動に敏感なアジア諸国では天然ガスの供給混乱の中で、発電用燃料として石炭に回帰する可能性が高い。

非電力部門における石油需要は依然として堅調であり、水素・アンモニアによる解決策はより長期的なものになる。中東への米国の注力は、間接的に中国に利益をもたらし、原油価格の上昇を通じてロシアの戦争継続能力を高めている。

イラン戦争の見通しは依然不透明であり、エネルギー転換を加速する要素、減速する要素が混在するが、戦後最大のエネルギー危機の下で、手頃な価格によるエネルギーの安定供給が最優先となるのは当然であろう。換言すれば、脱炭素政策は、エネルギー安全保障上のメリットを厳しく求められることになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【業界スクランブル/ガス】過熱したスポット市場 米国産が沈静化の鍵

【業界スクランブル/ガス】

中東情勢の緊迫化に伴い、日本でもエネルギー安全保障への懸念が再燃している。しかし、現時点でLNGの安定供給を不安視する声は聞こえていない。ホルムズ海峡通過が必須であるカタールプロジェクトの日本の依存度は輸入量全体の数%程度にとどまり、主力の豪州、東南アジア、米国などからの供給網は安定しているからだ。

一方、日本以外の北東アジア諸国(中国、韓国、台湾)は対照的な状況にある。同諸国は全輸入量の20%前後をカタールに依存しており、物理的な物量確保の危機に直面している。この「不測の事態への備え」がスポット市場を過熱させ、4月上旬時点でアジアの指標であるJKMを昨年同時期の2倍近い20ドル前後と押し上げている。

しかし、この市場のゆがみは、今年以降の米国産LNGの供給力アップによって解消に向かうだろう。米国のLNG事業は、中小規模の設備を短期間で複数立ち上げる機動性に優れており、今年以降これらの新設備が相次いで稼働を開始する。重要なのはその波及効果だ。米国産の多くは、ロシア産の欠落を埋めるべく欧州市場へ向かう。そして、欧州が「背に腹は代えられぬ」として高値で引き寄せていたスポット玉が、再び北東アジア市場へ還流する。この「玉突き」のような需給連動こそが、過熱したJKMを鎮静化する決定打となるはずだ。

米国産の「ホルムズ海峡を通らないLNG」の小刻みな増産の積み重ねで、世界のLNG供給能力が一段階ステップアップする。そして、その柔軟な市場構造と多様な供給網は、さらなる盤石なエネルギー安全保障をわれわれにもたらすことになる。(G)

【ワールドワイド/市場】独で「慣性力」の公募開始 固定価格で収入予見性確保

ドイツの送電系統運用者4社は今年1月、系統安定化に必要な慣性応答サービス(慣性力)を公募する新制度を開始した。再生可能エネルギーの主力電源化、脱原子力、脱石炭の進展に伴い、これまで系統安定を支えてきた同期発電機の減少が見込まれる中、従来は発電設備に内在する機能とみなされてきた慣性力を、市場を通じて追加的に確保する点が特徴である。

ドイツの再エネ比率は50%を超える

慣性力は、需給変動や大規模電源の脱落時に周波数の急変を緩和し、広域停電の発生を防ぐ重要な役割を果たす。ドイツでは連邦系統規制庁が「システム安定性報告書」を公表し、周波数変化率(RoCoF)を一定範囲内に抑えるために必要な瞬時予備力を評価してきた。今回の制度は、こうした分析を踏まえ、系統安定化機能を制度的に確保する具体策として導入された。

調達は送電系統運用者の制御エリアごとに実施し、商品は周波数低下時に働く「上げ」と、上昇時に働く「下げ」に分かれる。さらに可用性(設備が慣性力を実際に提供可能な状態であること)に応じて区分を設け、年間を通じて高い可用性を持つ設備ほど高い報酬を得られる仕組みとなっている。特徴的なのは競争入札ではなく固定価格方式を採用した点で、2~10年の契約期間を設定することで、蓄電池やグリッドフォーミングインバーターなど新技術の参入を促す狙いがある。制度立ち上げ期に価格競争を急げば供給不足や収益不安定化を招きかねず、まずは収入の予見性を高めることを優先した形だ。

なお、火力電源など、慣性応答の主力であった同期電源も調達対象に含まれるが、通常運転に伴う慣性力は送電系統運用者との契約対象とならない。対象となるのは追加で提供される慣性力のみで、同期電源では、フライホイールなどの追加設備の導入や調相機運転によって追加分を確保する必要がある。

欧州では、慣性提供を見据えた大規模蓄電池投資が広がりつつあり、ドイツの新制度は、再エネ大量導入時代に系統安定性をいかに制度的に確保するかを示す先行事例として注目される。

佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)

【ワールドワイド/資源】DC建設で増加するインフラ投資 米選挙でコスト負担が争点化

米国では、熱狂的な共和党「MAGA派」と、対極にある民主党支持層の中でも攻撃的な、いわゆる「バーニー・ブロ」が、ことデータセンター(DC)に関しては反対で団結するという興味深い現象が観測され始めている。電力料金高騰への懸念から、DC開発計画の一時中断を求めるインディアナ州の市民運動では、党派を超えて広範な支持を集め、「市民」対「ビッグ・テック」という構図が描かれつつある。

選挙では市民とテックが対立

昨年11月に行われたバージニア州知事選でもDCが一大争点となった。インターネット上の70%のデータが通過すると言われるバージニア州では、3期連続で共和党が知事を務めていたが、DCへの「公平な出資」を約束した民主党アビゲイル氏が当選。新知事は12月に電力料金の値上げを許可したものの、値上げ幅を低く抑え、インフラ投資の跳ね返りから一般需要家を保護する仕組みも導入した。

米ポリティコの調査では、電力料金の値上げから守ってくれると、米国民が考えているのは民主党だという(民主党37%、共和党25%)。また、米国民の37%が近隣へのDC建設に賛成で、反対の28%を上回ったが、毎月の電力料金が5ドル上がると賛成は22%程度に下がり、反対を下回る結果が示された。

米エネルギー省は、DCによって2028年までに電力需要が拡大し、米全体の需要の12%を占めると推計している。この需要増は、短期的には安定した電力供給が可能で、比較的クリーンな天然ガスの利用増加につながり、全米の1日あたり天然ガス消費量の7%に相当する60億立方フィート程度が追加的に必要ともされる。その分、CCS(CO2の回収・貯留)などのガス火力関連投資がますます進むと考えられるが、国民へどの程度影響があるか注目である。

今年3月にはトランプ大統領の肝いりで、DC導入による電力料金への影響がないよう「ビッグ・テック」7社が誓約書に署名したが、法的拘束力はない。11月の中間選挙では、DCとエネルギー・コストが一大争点となることは必至だ。

(志賀雄樹/エネルギー・金属鉱物資源機構上席エコノミスト)

【業界スクランブル/新電力】依然として高い事業リスク  多様な選択肢が不可欠

業界スクランブル・新電力】

自由化の進展により、電力事業への新規参入障壁は低くなっているが、参入後の事業リスクは決して低くない。昨今のJEPX価格高騰と需給調整市場の落札動向が、その実例であろう。

JEPX価格高騰は、昨今の中東情勢を反映しているが、先物市場ならともかく、原料のスポット価格高騰が、電力不需要期にもかかわらず、発電原価をはるかに超過する価格となるのは異常だ。

これまでも、電源を持たない新電力は、JEPX価格高騰時には相対契約締結に狂騒し、高騰が去れば市場調達を100%近くまで高めるという一貫性のない調達を繰り返してきた。この状態に業を煮やした当局が一定以上の相対比率達成を義務化したが、そもそも、原料高騰リスクに備えた戦略性ある調達を行うのは事業者としての大前提だ。

また、先月からスタートした調整力一次市場の前日入札により、落札価格のエリアごとの乖離が顕著化した。一部エリアでは早くも系統用蓄電所の投下資金回収が危惧されているらしい。一時の落札価格高騰を受け一攫千金を狙い、蓄電所への投資やアグリ事業に参入した新電力各社の中には、リスク精査が不十分な会社もあったに違いない。

もちろん、新電力にも言い分はある。現状では、電力調達の相対契約の種類が少なく、戦略性ある調達の達成は極めて困難だ。調整力にしても、社会的意義のある新規投資を実現するためには、各エリアの中長期的に必要な調整力を種類別に公表するなど、きめ細かい情報発信が不可欠だ。

新電力各社の多様な選択肢の確保と、適切な情報入手を可能とする施策の実現を、当局に期待したい。(S)

【今そこにある危機】省エネ基準が大幅引き上げ 低価格帯エアコンがなくなる!?

安田 透/日本冷凍空調工業会技術部長

エアコンの大型化・高価格化が避けられそうにない。

ユーザーの買い替え時期や機種選択にどんな影響を与えるのか。

 エアコン2027問題

日本の夏は暑過ぎる。ジメジメと湿度が高く真夏日が何日も続く。休暇など楽しい行事も多い一方で、暑さ対策も忘れてはならない。そこで、今回は夏の必需品とも言える家庭用エアコンについて、話題となっている「エアコン2027年問題」について解説する。

エアコン問題と言っても、家にあるエアコンが使えなくなったり、修理・サービスが受けられなくなったり、販売が停止したりすることはない。

家電量販店にも「2027年問題」の看板が

世の中で2027年問題と言われているのは、経済産業省が定める家庭用エアコンの新たな省エネ基準により、現在の低価格帯エアコンの多くが製造・販売できなくなり、価格上昇や本体サイズの大幅変更が懸念されることだ。家庭用ルームエアコンのみが対象で、一般ユーザーにとって、買い替え時期や機種選びへの影響が大きいと言える。

家庭用エアコンについて、製造者などは省エネルギー法の評価基準である通年エネルギー消費効率(APF)の目標値を順守することが義務付けられている。APFとは1年間で必要な冷暖房能力の総和÷期間消費電力量で表される。例えば、ある部屋を冷房する時、室温を27℃設定にした場合、エアコンは室外機と室内機を回して冷たい風を出す。この時に消費する電力量が小さいとAPFの値が大きくなる。暖房する場合も同様だ。つまり、APFが大きい方が機器としての効率が高く、電気代も安い。APFは省エネ法で目標基準値が定められていて、来年4月に大幅に引き上げられるのだ。

サイズとコストがアップ 「わが家の一台」はどうなる

家庭用エアコンの効率を上げるためには、一般的に二つの方法がある。一つ目は室内機と室外機に搭載している熱交換器の効率を高めることだ。これには熱交換器を大きくすればいい。ただ、銅・アルミなどの材料使用量が増加し、機器に充填する冷媒量も増える。もう一つは、内部部品に用いられるモーターの効率を高めることだ。モーターに高性能な磁性体材料ネオジウムなどを導入する。

ここまで読み進めた読者なら分かると思うが、APFを高くしようとすると、エアコンは大きくなるし、高価な材料を投入することでコストアップにつながってしまう。サイズアップとコストアップ─この二つが2027年問題の本質だと考えている。

話は少し変わるが、皆さんはエアコンを購入した経験があるだろう。最近はメーカー系列の「街の電気屋さん」が少なくなっているので、大型の家電量販店で購入するのが一般的だ。エアコンの販売エリアに行くと、店員が取り付ける部屋の大きさ、予算などを確認しながら商談を進める。

家庭用エアコンは部屋の大きさに合わせて、6畳用から大リビングに対応した29畳用の10タイプに分かれている。現在販売されている約7割が、寝室や子供部屋などに使用する6~10畳用のエアコンだ。例えば10畳用エアコンには、フィルター自動掃除や空気清浄といった機能などが付き、さらに運転効率が高い上級機種と、高付加機能だが運転効率は一般的な中級エアコン、付加機能が全くなく運転効率も一般的な低価格帯エアコンの3タイプに大別される。しかも家庭用エアコンの場合、競合他社も多く、ユーザーは店頭で各社のデザイン、価格などを考慮しながら「わが家の1台」を選択している。

27年4月以降は、運転効率が高い機器しか販売できなくなる可能性が高く、ユーザーが低価格帯のエアコンを選択できなくなるかもしれない。27年向けの新しい省エネ基準に準拠した製品はまだ出そろっていないし、市場価格はあくまでも需給バランスで成り立っているので、一概に単価がどうなるかは断言できない。ただ前述の通り、傾向的に若干の価格アップと大型化の方向に向かう懸念は拭えないかもしれない。

【業界スクランブル/電力】アライアンスは前途多難  “強い東電”復活なるか

【業界スクランブル/電力】

1月に公表された東電の第5次総特の目玉は、「アライアンス」を前面に押し出したことだ。第2次総特で、火力部門の「包括的アライアンス」としてJERAが誕生。第3、4次総特でも個別施策においてアライアンス活用の記述はあるが、めぼしい成功例が見られなかった。

しかし、第5次総特では、冒頭に「再編・統合を含めたアライアンス」による企業価値向上を目指す基本方針が示された。さらに、アライアンスの必要性や具体的方針、提案募集の実施が明記され、従前の計画に比して本気度の高さがうかがえる。

実際に2~3月にかけてのアライアンス提案の募集には、国内外の数十社の応募があったようだ。今後はアライアンス検討委員会で提携先を選定することになる。

だが、問題はこれからだ。応募者には外資も含めたファンドが並ぶが、①短期の収益を期待するファンドが長期目線を含むアライアンスの目的に合致するか、②福島事業推進にリソースを投じる方針と折り合えるか、③FCFの赤字が続く事業収益を改善できるか、④外資系の場合は、コア事業への出資における外為法のハードルを越えられるか―など、具体化には数々の課題がありそうだ。

それでも、東電が本業においても出資を含んだ提携を行うことや、過半の出資比率も必須とせず柔軟化することなどにより、これまでの殻を破る新たな取り組みが行われることは重要だ。それによって強い東電の復活というより、いまだに「保守的」「自前主義」「横並び主義」のイメージが払拭されない「旧一電業界」の革新の嚆矢になることを期待したい。(K)

【ウェブ拡大版:インフラ百年の計 Vol.2】合従連衡か業態の転換か 密度の逆回転が映す都市ガスの未来

巽 直樹  /アクセンチュア 素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター

本稿は、2026年5月号に掲載された同名記事の詳細解説版である。誌面版では、都市ガス事業者189者のロングテール構造、販売量が縮む一方でネットワーク維持コストは縮まないというガス事業固有の困難に直面していること、そしてカーボンニュートラル(CN)規制が中小ガス会社にもたらす構造的な圧力を概観した。本WEB版では、ガスシステム改革第2回検証の射程、CN規制と中小の手段の格差、公営ガス民営化の実態、そして中小ガス会社が直面する選択肢とジレンマを掘り下げる。

189事業者のロングテール

都市ガス事業者は、26年4月時点で全国に189者(私営172、公営17)を数えるが、誌面版に記載のとおり、ロングテール構造の産業特性を持つ。需要家件数で見れば、最大規模と最小規模の事業者の間には、実に約1万6,700倍もの規模の格差が存在する(日本ガス協会の資料など)。しかも都市ガスの普及エリアは国土面積のわずか6%にとどまる。各社の導管網はLNG受入基地を起点に扇形に整備されてきたために全国的につながっておらず、電力の送配電網が全国をカバーしていることとは対照的に、ガスの導管網は孤立した「島」が全国に散らばっている。

ロングテールのヘッドを構成する大手は、三大都市圏などに強固な需要基盤を持ち、産業用・業務用の大口需要を擁し、大手新電力として電力小売にも進出して事業ポートフォリオを拡大している。一方、テールを構成する地方の中小ガス事業者は、限られた供給区域のなかで需要基盤が弱い。同じ「都市ガス」でありながら、そこで動いている経済ルールは別物だ。本誌25年5月号の特集「地域エネ衰退の危機」の鼎談で、識者の一人が「都市ガスはある意味LPより危ない」と述べていたのは象徴的である。ボンベで「点」の供給ができるLPガスと異なり、都市ガスは導管という固定資産を抱えているがゆえに、需要が縮んでも身動きが取れない。

折しも、資源エネルギー庁は25年8月に「ガス事業環境整備ワーキンググループ(WG)」を新設し、ガスシステム改革の第2回検証に着手した。改正ガス事業法附則の規定により、27年3月までに改革全体を検証することが求められている。エネ庁はこの検証の視点として「将来のガス需要や社会構造の変化、GX推進への要請等も踏まえた、持続的なガスシステムの在り方」を掲げ、検証資料の各論には「地方ガス事業者の現況」が項目に含まれている。

売上が縮み、ネットワークが残る

中小ガス会社の経営を最も根底から揺さぶっているのは、ガス販売量の構造的な減少だ。先行するのは人口減少である。需要家そのものが減り、空き家が増え、導管網から歯が欠けるように需要が抜けていく。加えて、オール電化住宅の普及、ヒートポンプ給湯器への補助金拡大、住宅メーカーの設計思想の転換などにより、ガスを使わない世帯も増えている。地元のガス会社の先行きに不安を感じる層にとっては、住居の新築やリノベーションを実施する際、電化は無視できない選択肢だ。

売上が減る一方で、地中に埋まった導管網の維持コストは需要家が何件減ろうとほぼ同じだけかかる。膨大な導管の更新投資、保安要員の確保、検針の手間など、販売量が縮んでもネットワーク維持コストは縮まない。ここにガス事業固有の苦しさがある。

需要が減れば減るほど、導管の固定費を回収するために託送料金の単価を上げざるを得ない。しかし料金の上昇はガス離れをさらに加速させ、需要はいっそう縮む。需要減と単価上昇が互いを強め合うデス・スパイラル(悪循環)に陥る。この構造は都市ガスに固有のものではない。電力の一般送配電事業者も、特に低圧の配電網で同じジレンマを抱えることになる。現在の託送制度のもと、人口減少などで需要が縮む地方での固定費回収が困難になるからだ。これらはネットワーク産業に共通の問題でもある。

電化では賄えない熱需要

では、ガス事業が行き詰まった地域のエネルギー需要を、電力会社が電化で引き受けられるか。話はそう単純ではない。日本海側や北海道などの寒冷地では、暖房を中心とする熱需要の非電化部分が全体の相当な割合を占めている。ヒートポンプ給湯器は温暖な地域では高い効率を発揮するが、外気温が氷点下に下がる寒冷地では効率が大幅に低下し、電気代の負担が膨らむ。灯油やガスによる暖房を電化だけで代替するには、技術的にもコスト的にもまだ距離がある。

つまり、「電化が脅威」であることと「都市ガスが不要になる」こととは同義ではなく、導管を維持する意味が残る地域は確かに存在する。しかし、「規模の経済性」に逆らうことは困難であるため、一定の規模を維持できることが条件となる。また、需要家がLPGや灯油などの他のエネルギーを選択できるため、他の商材を併売するなどで「範囲の経済性」に着目する必要もある。「熱需要の基盤インフラ」としての役割を担うための事業構造の再設計が進めば、中小都市ガスの存在意義も残る。このことを経済的に裏付ける仕組みを、自らの手で構築しなければならない。

CNがデス・スパイラルを加速

売上の縮小とネットワーク維持の板挟みに加え、CN達成に向けた排出量削減の要請は、業界全体に等しく課されるが、その要請に応える手段が大手と中小で異なる。大手はeメタンや海外バイオガスの導入で対応することとしている。日本ガス協会は25年6月に「ガスビジョン2050」を策定し、50年にeメタンとバイオガスで都市ガス供給の50~90%を賄うとの目標を示した。30年にはまずガス供給の1%相当のeメタンまたはバイオガスを導管に注入し、5%のCN化を目指すとされている。

だが、新ビジョンについて、経済紙は従来掲げていた非化石比率の目標を大幅に引き下げたものと報じている。残る10~50%は天然ガスをCCUS(CO2回収・利用・貯蔵)やJ-クレジット等でオフセットする想定であり、eメタン単独でCNが成立するとは業界自身も見ていない。eメタンの製造コストは現時点でLNGを大幅に上回り、エネ庁の審議会資料でも30年の目標値ですらLNG価格の2倍を超える水準が示されている。大手が数百億円規模の投資によりプロジェクトを動かそうとしているのは事実だが、それが経済的に自立したビジネスとして成立するまでの道のりは依然として長い。

ましてや、テールの中小ガス会社にとって、eメタンの調達や製造は経営の射程にない。中小が取りうるCN対応は、カーボンクレジットの購入で帳尻を合わせるか、バイオガスの地産地消で少量の非化石比率を確保するのが現実的な上限だ。いずれにしても、売上の縮小とネットワーク維持費の上にCN対応コストが積み重なる構図に変わりはない。

【経済評論】海運会社がなぜ本気に? 洋上浮体型データセンター

【脱炭素時代の経済評論 Vol.26】関口博之 /経済ジャーナリスト

豪華客船が接岸する横浜市の大さん橋ふ頭の先端にその実験装置は据えられている。「再生可能エネルギー100%で稼働する洋上浮体型データセンター(DC)」の実証実験が3月末に始まった。世界初の試みだという。25m×80mのフロートの上に太陽光発電装置と蓄電池、それにコンテナ型サーバーを備え、外部電力は受けずオフグリッドで稼働している。

プロジェクトを主導するのは日本郵船。DCを設計するNTTファシリティーズ、再エネ電力を担うユーラスエナジー、三菱UFJ銀行、横浜市が参画している。

洋上浮体型データセンターのイメージ
提供:日本郵船

生成AIの進展にともなってDCの需要も急増している。総務省は国内の市場規模が2028年には5兆812億円と23年の1・85倍になると予測する。ただ大量の電力を使うため送電網増強の必要性や用地確保が課題になっている。洋上DCと、再エネ電力+蓄電池という組み合わせなら、系統接続を何年も待つことなく早期に稼働できる。電力消費の増大と脱炭素化の両立も可能だし、冷却に海水を使えるのでコストも抑えられる。

実証実験では、洋上特有の揺れや振動の機器への影響、塩害や水分の影響等を検証する。日本郵船では30年前後の商用化を目指すとしている。

フロート型DCは、米カリフォルニア州のベンチャー企業が小規模なものを実用化している。またシンガポールで政府系複合企業が計画しているほか、韓国ではサムスングループが、オープンAIと組んで洋上浮体型データセンターの開発協議に入っている。既に世界が目を向けている。

なぜ海運会社がこれを手がけようとしているのか。日本郵船イノベーション推進グループの大東鷹翔氏は「船は過酷な海洋気象の中、原則電力網にはつながらず365日24時間稼働している。それを当社は900隻余り運航している」という。船には当然、精密機器もありオフグリッドでもある。ノウハウや実績は豊富というわけだ。

同社では将来的には洋上風力を電源にし、DCをその近くに係留する構想、電力の地産地消だ。さらに技術が進めば波力や海水温の温度差、潮流を使った発電など、海に由来する広範なエネルギーの活用も可能と見る。巨大な円柱形のDCには船舶の停泊場所や従事者の居住区域も設けられる予定だという。

海運会社が主導することで、日本の海事産業全体の力を生かす狙いもある。海運だけでなく造船、舶用機器などもこのサプライチェーンに連なることになる。「海事クラスターの新たな市場開拓につなげたい」と日本郵船は意気込む。

洋上浮体型DCが実現すれば海洋国家・日本ならではの新産業になるだろう。ただ現状では具体的な設置場所は未定。同社では打診があれば積極的に関与する方針で、アジアも有望な候補と見る。

ぜひ、グローバル展開も見据えてほしい。ただ弱点は従来のDC業界との接点の乏しさだ。そこを越えるにも、まずは洋上での安定的な稼働、システムの信頼性についてユーザーの確信を得ること、その実績の積み上げから「夢」は始まる。

【コラム】米国の電気料金高騰:2025年の回顧と日本への示唆

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国の電気料金は2025年を通して上昇し、メディアはこの問題に注目するようになった。エネルギー問題を超えて政治的論争へと広がり、年央以降は主要メディアによる報道が相次いだ。Reuters(7月9日)、Bloomberg(7月10日)、Fortune(7月10日)、The Daily Mail(7月13日)、NPR(8月20日)、TIME(8月27日)、CBS News(10月27日)、The New York Times(10月30日)、Associated Press(11月8日)、The Wall Street Journal(12月29日)など、多くの媒体が電気料金高騰を取り上げた。

公共料金問題に特化した非営利・非党派団体であるPowerLinesが今年1月に発表した報告書によれば、米国の家庭用電気料金は2021年から2025年にかけて約40%上昇し、2025年(2024年12月〜2025年12月)だけでも約7%の上昇となった。家庭用ガス料金についても2019年から2025年にかけて約40%上昇し、2025年(2024年12月〜2025年12月)だけで11%近く上昇している。2025年の上昇率はいずれも同年のインフレ率3%を大きく上回った。これにより昨年、需要家のエネルギーコスト負担は大きく増加した。実際、電気・ガスの規制料金に関して見ると、昨年、規制当局には全米で83件・総額310億ドルの電気・ガス料金の値上げ申請が提出され、申請額は2024年の総額150億ドルから倍増した。PowerLinesによると、これらの申請が承認されれば、8,000万人以上の米国人が電気・ガスコストの一層の増大に直面することになるという。

電気・ガス料金の高騰が国民生活に深刻な影響を与えていることは、2025年3月28〜30日にPowerLinesとIpsosによって実施された調査でも示されている。調査では、電気・ガス料金を支払う世帯の約3分の2(64%)が前年より請求額が増加したと回答し、同程度の割合(63%)がこれらの料金が家計のストレス要因になっていると述べた。さらに、約半数(48%)が電気・ガス料金の上昇は経済全体にとって悪い兆候であると認識している。また、LendingTreeが米国国勢調査局による世帯の経済・生活状況に関するリアルタイム調査データを独自に解析したところ、電気代支払いのために生活必需品を削った人は34%以上に上った(2024年8〜9月調査)。

さらに、リベラル系シンクタンクであるCentury Foundationと、非営利団体Protect Borrowersが公表したデータによれば、12か月移動平均による季節調整値を用いて2022年3月から2025年6月までの推移を比較すると、家庭用の電気・ガス・その他の燃料に関する請求書を期限通りに支払っている全国の世帯では、平均月間エネルギー費用が196ドルから265ドルへ上昇した。一方、滞納世帯1件あたりの平均滞納額は2022年の597ドルから789ドルへ増加している。中でも、黒人およびアジア系消費者の平均公共料金滞納額は900ドル近くに達し、白人消費者の約750ドルを大きく上回っている。また、2025年6月時点では、全世帯の約20分の1(約1,400万人)が深刻な滞納状態にあり、コレクション(債権回収)に回されていると報告されている。

このような状況を背景に、2025年には、エネルギーコストが政治問題化し、公益事業委員会(Public Utility Commission : PUC)の選挙が注目されるとともに、州知事選や議会選の争点となった(2025年12月12日および2026年1月6日のコラム参照)。エネルギーコストの問題は、さらに、2026年の中間選挙における確実な焦点となると見られている。 PowerLines の事務局長チャールズ・フア氏は、「これを私たちは“電気の新しい政治”と呼んでいます。いまや電気は“新たな卵”なのです」と、今年1月28日の記者説明会で語っている。ここで言う“卵”とは、2024〜2025年に価格が急騰し、食料品の値上がりへの消費者の不満を象徴する存在となった卵のことを指している。

電気料金上昇の主因は、データセンター需要の急増、送電網への大規模投資、天然ガス価格の変動、山火事や冬の嵐といった気候災害などである。EIA(U.S. Energy Information Administration)によると、家庭用電気料金は2026年に5.1%上昇すると見込まれており、2030年に向けても電気料金は確実に上昇する見通しである。その背景には、データセンター需要の継続的な増大、老朽化した送電網の更新や再生可能エネルギー接続に伴う大規模な送電投資、そして再生可能エネルギーの導入ペースと送電網整備のギャップがある。

国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)は、最新の Electricity 2026 において、2026〜2030 年を「Age of Electricity(電気の時代)」が加速・定着する期間として位置づけている。こうした世界的潮流の中、日本でも生成AIの急速な普及やデータセンター投資の拡大が電力需要を押し上げる新たな要因として顕在化しつつある。企業はクリーン電力の調達、AI向け電力インフラの整備、電化設備への投資を加速させており、2026〜2030 年は、産業構造が、より電力集約型・AI集約型へと転換する節目となるだろう。特に留意すべきは、米国で顕在化している電気料金の高騰である。これは日本にとって“将来の姿”となり得る。電気料金の上昇は国民生活への負担増に直結するだけでなく、社会的関心を高め、場合によっては政治問題化する可能性すらある。したがって、電化とAI需要の拡大を見据えつつ、安定的かつ持続可能な電力供給体制を構築することが、これまで以上に重要な政策課題となる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。