【フォーカス】国内初の浮体式洋上風力がついに運開

「洋上風力試練の年」から一転、今年は年始に明るいニュースが駆け巡った。戸田建設が代表のコンソーシアムによる長崎県五島市沖の浮体式洋上風力事業(2100kW×8基)が、1月5日に商用運転を開始した。独自開発の「ハイブリッドスパー型浮体」を世界で初めて実用化。当初予定より2年遅れたものの、日本でついに浮体式が運開した意義は大きい。

実証開始から15年以上かけ運開に至った五島洋上ウインドファーム
提供:戸田建設

スパー型は細長い円筒状の浮体で、浅い場所で組み立てられない反面、設置後は波の影響を受けにくいなどのメリットがある。本件では、浮体上部が鋼、下部がコンクリートのハイブリッドスパー型を採用。京都大学と同社が共同開発した技術で、全て鋼よりも低コストで安定性を高めることが可能だ。

電気はFIT(固定価格買い取り)制度を活用し、1kW時当たり36円で売電。一部は、特定卸供給で五島市民電力を通じて市内需要家に供給する。

環境省実証事業(2010~16年度)を経て政府が促進区域に指定。当初は24年1月に運開予定だったが、浮体構造部に不具合があり、回収し再度設置するなど苦労もあった。

牛上敬・浮体式洋上風力発電事業推進部長は「国内初の浮体式で全て手探りの中、実証時からの付き合いである地元と密に連携を取り、厳しいスケジュールをこなせた。工事の難しさもあったが、日本の特殊な環境で事業化の一連の実績ができたことは当社の強み。国内では当面着床式の案件が続くが、その後次の浮体式案件につなげるべく、大型化に向けた施工法にもチャレンジしている」と強調する。

【コラム/2月6日】欧米で高まるデータセンター建設反対の動き

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国では、大規模データセンター建設の急増に伴い、電力価格の上昇、インフラ整備費用の増大、環境負荷の増加など多方面で影響が生じている(2025年11月14日掲載コラム参照)。これに伴い、住民による建設反対の動きも顕著になっている。同様の傾向は欧州でも確認されており、データセンターに対する社会的受容性が政策上の重要な論点となりつつある。

実際、米国では住民の反対を受けてデータセンターの建設計画が中止・遅延する事例が急増しており、その影響は無視できない規模に達している。反対運動の影響は巨大で、2025年3月までの過去2年間で640臆ドル相当のプロジェクトが、また2025年の第2四半期だけで、980億ドル相当のプロジェクト(20件)が阻止・遅延されたという報告がある(Data Center Watch)。このようなデータセンター建設への反対運動は、すでに組織化された社会運動の段階に入りつつあり、全米24州で142の反対グループが存在している(2025年12月時点)。このような反対運動の広がりは、今年の中間選挙に確実に影響を与える政治的な争点になりつつある。

具体的な動きとして、Reuters(2025年12月1日)は、ペンシルベニア州モンツアー郡ダンビルで、迷彩柄の帽子と赤いシャツを身に着けた住民ら300人以上が計画委員会の会議に詰めかけ、データセンター建設計画に抗議したと報じている。抗議の理由は、農地の喪失、生活環境の悪化、環境負荷、電力コスト上昇の懸念、そして大規模AIデータセンターを開発する企業への不信感が重なったためである。住民の多くはドナルド・トランプ大統領の強固な支持層だが、土地の安い農村部でデータセンター建設を促進してきたAIインフラの早期整備を進めるワシントンの姿勢に反発しているという。

ペンシルベニア州では、民主党のジョシュ・シャピロ知事と共和党のデイブ・マコーミック上院議員が、優遇措置やインフラ整備を通じてデータセンター誘致を進めている。一部の地域では歓迎の声もあるものの、モンツアー郡での反発は党派を超えて広がり、農家、環境団体、住宅所有者らが連携して建設に反対する動きが強まっている。こうしたデータセンタープロジェクトへの住民の反発は、住宅価格の高騰という課題を抱える共和党にとって、今年の中間選挙に向けた新たな負担となる可能性がある。

欧州でも、市民の多くがデータセンター建設に対して大きな懸念を抱いていることが、世論調査から明らかになっている。英国ロンドンの調査会社 Savanta は、環境保護団体のBeyond Fossil Fuels、デジタル監視団体のAlgorithmWatch、そしてその他の国際的な環境系NGOの委託を受けて、ドイツ、アイルランド、スペイン、スイス、イギリスの5か国で、データセンターがエネルギー、水、経済に与える影響について市民の意識を調査した(2025年10月)。

この調査では、回答者の大多数が、新たなデータセンターの建設によってエネルギー転換が遅れ、水資源が浪費され、電力消費者の負担が増すこと、そしてデータセンターによるエネルギー消費の増加を懸念していることが明らかになった。また、大部分の回答者が、新しいデータセンターの建設は、それに必要な電力をまかなう再生可能エネルギー発電所が新たに確保されている場合にのみ、許可すべきだと考えている。

ドイツにおいては、回答者の57%が、データセンターによる水の消費が、自分たちの生活に必要な水の供給に影響を与える可能性を懸念している。さらに、新たなデータセンターが近隣に建設された場合に、生態系が悪化するのではないかと懸念する回答者は63%にのぼる。また、43%の回答者が、将来的にデータセンターがドイツのエネルギー消費量の大きな割合を占めるようになると考えている。加えて、69%の回答者が、新しいデータセンターの建設は、それに必要な電力をまかなう追加的な再生可能エネルギー電源が確保されている場合にのみ、認められるべきだと考えている。

ドイツでも大規模データセンター建設への反対運動が広がり、批判の声は一段と強まっている。ケルンで開催された Microsoft AI ツアーでは、市民運動団体 Campact や環境保護団体 BUND などが抗議活動を主催し、計画に反対する7万9,000筆の署名を提出した。しかし、Microsoft は署名の受け取りを拒否したと報じられた(2025年3月)。これらの団体が指摘する主な問題点は、過度な土地利用、自然環境への悪影響、そして計画プロセスの不透明性である。

こうした動きを受け、データセンターを誘致する自治体側でも対応が進んでいる。具体的には、農地保全を図るための土地利用規制の強化、エネルギー効率向上や廃熱利用の義務化、水使用量の制限、既存工業地の優先活用、さらには住民参加の拡充と透明性の向上などが挙げられる。すなわち、「無制限にデータセンターを受け入れる」段階から、「規制を伴いながら慎重に誘致する」段階へと移行しつつある。

欧米では、AI 推進やデータセンター拡大を成長戦略に位置づける動きが加速するなか、その社会的受容性は、もはや避けて通れない重要な論点となっている。日本でもデータセンター需要が急増するなか、電力インフラの逼迫や環境負荷の増大が指摘されており、今後は同様の議論が避けられない状況にあるといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【フォーカス】衆院選で「中道」は 柏崎再稼働をどう語る?

1月23日に衆議院が解散し、衆院選(2月8日投開票)の火ぶたが切られた。

衆院解散について記者会見する高市早苗首相(1月19日)
提供:時事

それに先立つ16日には、立憲民主党と公明党が「中道改革連合」を設立。立憲は綱領に「原発ゼロ社会の一日も早い実現」を掲げていたが、中道は「将来的に原発に依存しない社会を目指す」として時期の明言は避けた。建て替え(リプレース)には踏み込まず、再稼働については、①安全性の確認、②実効性のある避難計画、③地元の同意―の3点を条件に認めた。

柏崎刈羽原発を抱える立憲の新潟県連は昨年11月、県民投票が行われなかったことなど②③を理由に「再稼働は認められない」とする声明を出している。営業運転開始を目前に控えた柏崎刈羽について、どのような主張を繰り広げるのか。

もう一つの注目選挙区は、敦賀原発や関西電力の3原発が立地する福井2区だ。前回の選挙では、高木毅、山本拓両氏の支援などで保守派が分裂し、立憲の辻英之氏と日本維新の会(当時)の斉木武志氏が当選した。斉木氏は福井県議時代から、北陸電力とJERAの経営統合や「電気料金引き下げの補助金で電力会社がもうけている」といった主張を繰り返すなど、業界の評判は芳しくない。

その後、斉木氏は維新を離党して無所属議員として自民党と会派を結成。衆院選を控え自民入りを狙い〝重鎮詣で〟を続けていた。1月21日に県連が公認申請したのは山本氏の長男で高市首相の義理の息子、山本建・福井県議だったが、党の公認を得られなかった。果たして、自民は議席を取り戻せるのだろうか。

【フォーラムアイ】ビジョンの実現加速を狙い中国電力がDX戦略に本腰

【中国電力ネットワーク】

中国電力ネットワークがDX戦略を策定し、その実装に動き始めた。

全社員が能動的にDXに取り組むよう促し、業務プロセスの変革と新たな価値創出を目指す。

デジタル技術の急速な進展により、DXの推進は企業にとっての必須課題といえる。そんな中、中国電力ネットワークはDX推進を重要な経営課題の一つと位置付け、「業務プロセスの変革」と「新たな価値の創造」を柱としたDX戦略を昨年5月に策定した。これにより、「経営ビジョン2030」で掲げる、①送配電事業の強化、②新規事業の展開、③地域活性化への貢献―の実現を加速させる狙いだ。また、経済産業省がDX推進の準備を整えている企業を認定する制度「DX認定」を同年8月に取得した。

ネットワーク設備部技術高度化グループの寺迫弘晃マネージャーは「電気の重要性が一層高まる中、送配電事業者としては低廉な託送料金と安定供給が引き続きの使命。しかし、働き手の確保が社会的にも課題である中、DXの推進なしには会社が衰退するという危機感を持ちつつ、戦略が奏功すれば明るい未来が開けるという形を示したい」と意気込む。

2030年に向けたDX戦略のロードマップ


プロセスを大胆に見直し 社内外のデータ連携を加速

2本柱のうち「業務プロセスの変革」では、デジタル技術の活用により、従来行ってきた業務の生産性向上を図るとともに、社員の思考や行動様式を見直し、抜本的に変革する。

具体的には、まず送配電設備の保守・管理の変革が待ったなしだ。同社は、鉄塔約2万基、変電所約500カ所、電柱約180万本と膨大な設備を管理している。人力に頼らなくてよい作業は極力デジタル技術に代替することが求められている。

例えば、これまで人が現場に赴いて巡視していたところをカメラによる監視に切り替え、人が点検する頻度を減らし、効率化を追求する。

これまで一部業務において使用していたドローンも本格的に実装していく。山奥の設備の巡視には徒歩で1日かかる場所もあり、今後は麓からドローンを自動飛行させるような方法を考えている。飛行距離の制約などの課題については引き続き検討を進める。

ドローンによる鉄塔点検

さらにAIの活用も順次拡大する。設備のさびなどの検知、鳥の巣の有無や、樹木と電線の距離が適切かといった判定などを行えるよう、AIに学習させていく。AIの活用は、判定の均一化にもつながる。生成AIや、目標に対し能動的にタスクを遂行するAIエージェントなども駆使し、業務に応じてツールを使い分けていく方針だ。

こうした対応で生まれるリソースを「新たな価値の創造」につなげていく。社内外のさまざまなデータを掛け合わせ、既存サービスの価値向上や新たなサービスの提供などを図っていく。

同社は送配電設備やスマートメーター、需給状況など、さまざまなデータを有する。これまでは部署内で業務ごとにデータを活用する程度にとどまっていたが、今後はプラットフォーム上に全データをインプット。データの連携・分析を進め、部署横断での活用に発展させる。

自社のデータ同士、あるいは気象データやハザードマップなど外部データとも組み合わせることで、顧客のニーズを踏まえた新たなサービスを提案する考えだ。また、可能な範囲で外部へのデータ提供も検討する。スマートメーターのデータを活用した一人暮らしの高齢者の見守りや、再配達が社会的な課題となる運送業の効率化など、アイデア次第でより斬新なサービスにつながる可能性を秘める。


組織風土の醸成に注力 全社員が自分ごとに

先述のプロセス変革や価値創造の例はあくまでごく一部。戦略のターゲットイヤーである2030年度に向け、スピード感と柔軟さを意識して展開していく考えだ。

同戦略の実現には、①DX人材の育成・確保、②デジタル基盤の整備、③DX推進体制の構築―が必須だ。その入り口として、全社員のリテラシーの引き上げが重要となる。「あらゆる年代層のマインドを上げていかなければならない。苦手意識のある人は、ともすれば『人力でできる作業の手順をなぜ変えなければならないのか』という考えに陥りがち。そうならないよう、どの社員も楽しんで変革に取り組めるような組織風土の醸成に注力している」と寺迫氏。「チャレンジを推奨し失敗も次の成功の元に、そして全社員がDXを自分ごとに」といった思いで働きかけているという。

DXの推進には大胆な投資が必要な場面もあろうが、レベニューキャップ制度の枠内で取り組まなければならないという難しさもある。必要な投資は行いつつ、他社との協働などで乗り越えていく構えだ。

26年ヘンリーハブ予想平均価格は4ドル 注目される上流ガス資産取得の動き

【マーケットの潮流】橋本 裕/日本エネルギー経済研究所上級スペシャリスト

テーマ:米ヘンリーハブ

米国ガス市場の指標から、国際LNG市場の指標として位置付けられたヘンリーハブ価格。

1990年代以降の価格の推移と足元の動向、2026年の見通しを解説する。

米国の天然ガス市場におけるヘンリーハブ指標の意義は、2016年以降のLNG輸出拡大によって進化している。

ヘンリーハブは米ルイジアナ州にある天然ガスの取引拠点で、1990年代以降、米国の天然ガス市場の価格指標として確立した。2000年代後半以降のシェール革命を受け、米国は16年以降、LNG輸出を急拡大し、世界市場に影響を与える存在となった。LNG契約の多くが「ヘンリーハブプラスα(液化・輸送コスト)」で価格設定されるため、国際取引の基準として台頭。スポットLNG取引でも参照されることが増え、グローバルな指標へと進化した。


国際化した価格変動要因 輸出企業の行動にも影響

同様に、米国内のパイプラインガス需給だけでなく、欧州・アジアの市況に影響されるようになった。LNGの輸出量は米国内のガス需給にも影響し、価格の変動要因が国際化した。また、欧州、アジアとの価格差が米国のLNG輸出の収益性を左右し、輸出企業の行動に影響を及ぼしている。

ヘンリーハブ先物契約がNYMEX(ニューヨーク商品取引市場) に上場された、1990年以降の価格水準と動きを概観する。90年代は、100万BTU(英国熱量単位)当たり1~4・6ドルの範囲で上下し、年平均ベースで前半はおおむね2ドル未満、後半は2ドル台前半で推移した。

2021年から25年のヘンリーハブおよび米国主要消費市場のガス価格の動向
米エネルギー情報局のデータに基づき作成

2000年代は、米国の需要見通しの堅調と生産の頭打ち見通しにより価格は下支えされ、03年から08年まで、4ドル台から8ドル台の相対的高価格が日常化。季節的な需給変動やハリケーンによる生産への影響が発生した場合に10ドル超となる期間も発生した。年平均では、03年から08年は5ドル台半ばから9ドルとなり、海外から米国への売り込みを目指すLNG生産開発の動きが加速した。

同時に、米国内で天然ガス生産企業の開発意欲が刺激され、08年以降のシェール構造からのガス生産の急増につながった。08年から19年にかけては、年平均で2ドル台半ばから4ドル台前半、短期的な変動範囲を含めると2ドル弱から6ドル強の範囲に水準が低下し、相対的に落ち着いた値動きとなった。原油の生産増による随伴ガスの生産も加速した。10年以降には、米国本土からのLNG輸出プロジェクトが浮上し、16年以降の輸出量の堅調な増加につながっている。

なお、世界がパンデミックに覆われた00年には、年平均で2・13ドルと低迷した。同時期に国際ガス価格の低迷により米国のLNG輸出はキャンセルが多発し、下げ圧力となった。

世界・米国とも反転して需要回復に向かった21年には、年平均3・73ドルと上昇、特に9月後半から11月前半は、5ドル台から6ドル台前半で推移した。この相対的高価格を維持したまま始まった22年は、ロシアによるウクライナ侵攻後のEU(欧州連合)によるLNG輸入へのシフトが顕著になり、米国ではヘンリーハブ先物契約が4月前半に超えた6ドル水準を10月前半まで維持した。この間、8月中旬には10ドルに迫った。年平均では6・54ドルとなった。

23年と24年は年平均2ドル台半ばと相対的に低下し、昨年は年平均3・62ドルで幕を閉じた。米国内での発電用天然ガス需要の増加、LNG輸出設備の立ち上がりペースが、上流ガス生産の増加に比して急速だったことが上昇要因となった。


年末年始は変動幅大きく 地域間の価格差顕著に

昨年末から今年初頭にかけて、米国の天然ガス先物市場は、相対的に変動が顕著な展開となった。1月渡し分の契約取引の最終日(昨年12月29日)、価格は前日比7・4%上昇、4・69ドルとなった。しかし、2月渡し分は12月30日から1月2日までに9・2%急落した。12月末から1月初旬の米北部・西部での寒波による暖房用需要と、過去最高水準のLNG原料ガス供給という需要増加要因、1月前半の米中部・東部の温暖・多雨の見通しによる需要抑制要因が交錯した。

EIA(米エネルギー情報局)は、昨年12月時点の短期見通しにおいて、今年のヘンリーハブ価格平均を4・01ドルと予測している。注目点として、この年末年始に顕著に見られた地域間の価格差がある。北東部では寒波予測に伴い価格が急騰した一方、近年の原油生産の急増に伴いガス生産も急増したテキサス州西部のパーミアン盆地では、温暖な天候予測とパイプラインの容量不足が重なり、大幅な価格下落が発生した。

データセンターの電力需要は急増しているが、予測困難な需要源でもある。一方、今年は世界全体のLNG生産拡張の大部分を占める年間3000万t分近くを米国が占め、新たな原料ガス需要につながる。LNG輸出が米国ガス市場に占める重みは、20年の1割程度から26年末までに2割に増加する。

生産面では、短期的な需要増への対応は、ルイジアナ州・テキサス州にまたがるヘインズビル・シェールが焦点である。加えて、これまで未開拓だった周辺地域にも開発の動きがある。長期的なガス供給確保を目指すLNG買主、商社による上流ガス資産取得の動きも注目だ。また、パイプライン、LNG輸出設備などのインフラストラクチャー整備促進のための規制改革の進展も、生産拡大や価格安定化の鍵を握っている。

はしもと・ひろし 1986年東京大学法学部卒、東京ガス入社。国際エネルギー機関(IEA)などを経て2010年日本エネルギー経済研究所入所。23年から現職。

【論点】名古屋高裁金沢支部の画期的判断で原発差し止め 訴訟の立証の在り方に新潮流

原発差止め訴訟の注目点〈上〉/上村香織・TMI総合法律事務所弁護士

将来に向けて原子力発電の役割が一層増す中、最近の訴訟では注目の動きがみられる。

連載初回は、立証の在り方に一石を投じた名古屋高裁金沢支部の判断について解説する。

現在、日本全国で廃止または廃止措置中とはなっていない建設済みの原子力発電は33基ある。そのうち今年1月5日時点で運転中の原発は14基であるが、近時、泊発電所3号機と柏崎刈羽原子力発電所6号機について各知事が安全対策に万全を期すことを前提に再稼働を容認する考えを示し、再稼働が進む見込みである。

原子力について、昨年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では「安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用」とされた。また、10月の高市早苗首相の所信表明演説では「国民生活および国内産業を持続させ、さらに立地競争力を強化していくために、エネルギーの安定的で安価な供給が不可欠」として、原子力は特に重要な国産エネルギーとして位置付けられた。今後増加が見込まれる電力需要や世界的な温暖化対策への要請、エネルギー安全保障の観点から、原子力の役割がその重要性を増している。

そのような中、原発差止め仮処分の立証の程度の考え方について、名古屋高裁金沢支部が新たな重要な判断を下した。この判断は、今後の原発差止め仮処分の判断に一石を投じるものとも見える。では、どのような判断か。

民事訴訟と民事保全手続で要求される証明の程度の比較


政治動向に言及 「法体系が原発推進」とも

まずは経緯から述べよう。周辺住民によって、関西電力が福井県美浜町に設置する美浜発電所3号機の運転差止めの仮処分申立てがなされた。2024年3月29日、福井地裁はこの申立てを却下したが、これを不服とした住民側が抗告した。名古屋高裁金沢支部は、昨年11月28日、この抗告を棄却し、電力事業者側を勝たせた。この名古屋高裁金沢支部が下した判断(本決定)が今回紹介するものである。

本決定は、総論において、原子力の利用については、さまざまな見解が存するところ、その利用目的やこれを推進するか、抑制すべきか(原子力政策)は、国によって、また時代によって大きく異なっていると指摘する。その上で、グリーン・エネルギーの経済性などが向上し、原子力発電に頼る必要がなくなるまでの過渡期において、原発は必要との見解が現時点のわが国では、なお主流であり、原発の運転を即時に停止すべきとの意見は主要政党の中でもごく少数にとどまっているのが現状である、と述べた。本決定は、以上を公知の事実として認定した。裁判所がこのような政治的な動向に言及すること自体珍しいと思われる。

そして、本決定は、原子力基本法、原子炉等規制法の各規定を挙げた上で、原発に関するわが国における現在の法体系は、事故防止に対する最善最大の努力および原子力規制委員会の審査を前提として「原子力の平和利用、すなわち原発を推進するとしている」と認定した。原子力に関する法体系について、「原発を推進している」とまで踏み込んで解釈していることも本決定を特徴付けるものである。

その上で、原子力の利用についてはさまざまな見解があり得ることや、わが国の現在の法体系などを踏まえると、わが国における原発の一般的な可否については、立法府・行政府の判断によって決定されるべきとして、個々の原発の運転の可否については第一次的には原子力規制委員会の判断に委ねられるのがふさわしく、専門性や民主的基盤を有しない裁判所の役割は限定的なものと解するのが相当、と判断した。

原発事故の重大性を十分考慮しても、裁判所が運転の差止めを命じるためには、本件原発の安全性に欠ける点があり、住民側の生命、身体などの人格的利益が侵害される具体的な危険が存在すること(本件原発の具体的危険性)の疎明を要する、としている。


従前にはない新たな判断 住民側により高いハードル

さらに、立証責任についても原則通り、住民側に本件原発の具体的危険性が存在することの疎明を要するとした。このような判断は、これまでの原発差止め仮処分の判断でも(少ないながらも)見られたものである。

もっとも、本決定はこれにとどまらず、かっこ書き、かつなお書きであるものの「本件は、無担保で、満足的仮処分を求めるものであり、被保全権利の疎明については、本案訴訟における証明に近い立証を要するものと解するのが相当である」として、立証の程度について、従前の仮処分の判断と比べて新たな判断を下した。暫定的な民事保全手続で要求される証明の程度は、通常、証拠によって一応確からしいという疎明(民事訴訟手続で要求される証明の程度よりも一段下がるもの)が求められるにとどまるが、差止め仮処分が認められれば、それだけで原発を停止させることができる。この差止め仮処分が持つ強力な効果(満足的仮処分)に照らして、疎明であっても、民事訴訟で要求される証明の程度に近い程度の立証を要する、と判断したのである。

本決定は、直ちに今後の原発差止め仮処分における一般的な考え方として受け入れられるとは考え難い。ただ、少なくとも、住民側が原発稼働を止める司法判断を得るためのハードルをより一層高めた前例として、今後の原発差止め仮処分の判断に一石を投じるものであり、今後の影響が注目される。

うえむら・かおり 2018年1月TMI総合法律事務所入所。訴訟紛争、リスクマネジメントなどを幅広く対応。21年4月から原子力規制委員会・原子力規制庁長官官房法務部門に出向し、国を被告とする原発訴訟に従事。23年8月からTMI復帰。

【フォーカス】石油を「武器化」する米対外威圧 「マドゥロ逮捕劇」の深い傷跡

1月3日、米国の電撃的軍事行動でマドゥロ大統領夫妻を「逮捕」した後、トランプ大統領は当面米国がベネズエラを「運営」することを表明した。同国の石油輸出を力で制御し、その圧迫によって米国に従属させる、という意味だ。

ベネズエラの石油産業改革案承認を立法機関に求めたロドリゲス大統領代行(1月15日)
提供:共同通信イメージズ

昨年12月以降、米軍は計6隻の「影の船団」を拿捕し、中国向けベネズエラ原油輸出を「検疫」している。米エネルギー省(DOE)の発表によれば、今後ベネズエラの原油輸出は米政府が代行し、その貿易ルートは米国法と米国の利益に従う。さらに、この石油販売収入を米国の「預託資金」で保管し、その最終処分も米国務長官が決定する、と大統領令で定めた。

1月中旬現在、ベネズエラは追従の姿勢を取り、米政府指定のトレーダーを通じた出荷が始まっている。しかしその先行きは不透明であり、政治・法秩序を欠く同国に、国際石油企業が上流投資を行う見込みも薄い。大仰な自己宣伝とは裏腹に、米国の「運営」能力は限定的で持久性に乏しい。時間の経過と共に、その限界が露呈しよう。

むしろ留意すべきは、石油を「武器」とする米国の姿勢を中国・ロシアが再び確認したことだ。石油・資源供給における中露の同盟関係は一層強まり、世界をさらに鋭く分断させる可能性がある。石油の「武器化」に伴う国際石油秩序基盤の脆弱化―。それが「マドゥロ逮捕」劇の残した深い傷痕だ。

石油を武器にした経済封鎖と軍事的圧力の組み合わせは、トランプ政権の対イラン政策にも共通するものがあり、今後の動向が注目される。

【フォーラムアイ】FC増強へ大規模工事が進む 中部電力PG東清水変電所

【中部電力パワーグリッド】

周波数変換設備を備えた東清水変電所では大規模な増強工事が進んでいる。

容量はこれまでの3倍になるが、限られた敷地での工事には難作業もあった。

富士山と清水湾を一望できる日本平(静岡市)のほど近くに、日本の電力供給の「要」と言える施設が存在する。中部電力パワーグリッド(PG)の東清水変電所だ。ここは変電機能だけでなく、周波数変換という重要な役割を担っている。

東清水変電所の全景

日本の電力系統は、明治時代に導入された発電機が東日本(ドイツ製・50㎐)と西日本(米国製・60㎐)で異なっていた歴史的背景から、現在も静岡県や長野県、新潟県を境に東西で周波数が分かれている。東清水変電所はこの境界線上に位置し、交流を一度直流に変換して再び異なる周波数の交流に戻すことで、50㎐と60㎐の電力を相互に融通する。全国で4カ所しかない「周波数変換所(FC)」だ。

エアシャワーを浴びてから「バルブホール」と呼ばれる部屋に足を踏み入れると、1相当たりに四つのモジュールで構成されたアームが4段積み重なった巨大なサイリスタバルブが鎮座していた。光信号によってミリ秒単位でスイッチングを行い、交流を直流へと変換するFCの心臓部だ。

稼働中の周波数変換装置のサイリスタバルブ


市場分断抑制の効果も FCで国内初の自励式

東清水変電所ではさらなる電力融通能力の強化を目指し、二つの周波数変換装置棟の増設が急ピッチで進んでいる。完成すれば設備容量はこれまでの30万kWから90万kWへと3倍になる。供給力不足への対応力強化だけでなく、スポット市場での東西エリア間の市場分断を抑える効果も期待されている。

増設のきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災だ。当時、東日本の電力設備が被災し、供給力が大幅に低下。東京エリアでは計画停電を実施し、夏場には電力使用制限令が発出された。そこで、国はFC容量を20年度に210万kW(90万kW増強)、その後はできるだけ早期に300万kWに増強する方針を打ち出した。これを受け、東清水変電所では電力広域的運営推進機関が16年策定した「東京中部間連系設備に係る広域系統整備計画」に沿って、20年5月に増設工事を開始した。28年に運用を開始する予定だ。

増設する地下1階、地上2階の周波数変換装置棟

新設するFCには、周波数変換用としては国内初となる「自励式変換器」を採用した。最大の特徴はレジリエンス(強靭性)に優れていることだ。従来の他励式は交流系統への依存度が強かったが、自励式はそうではなく、系統かく乱への対応力に秀でており、片端外部電源なしでの起動(ブラックスタート)が可能だ。他励式で必要だった巨大フィルタや電圧を適正に保つ調相設備なども不要(または小型化)で、限られた敷地を有効に活用できる。


コロ曳きで機器を移動 建物内部の安全性は向上

東清水変電所は山の中腹に位置した手狭な敷地に建設されていて、一筋縄ではいかない工事となっている。

特筆すべきは、重さ180tの巨大な変換用変圧器の輸送だ。この機器は、清水港から特殊車両によって運んできた。構内に到着してから最終的な設置場所への移動に用いたのは「コロ曳き」という手法だ。車輪の役割を果たす細長いアルミパイプの上に機器を置き、3日間かけて120mを引いた。

リアクトルホール内の磁気シールド

建物内部にも、高度な工夫を凝らした。自励式で使用される巨大な空芯コイル(リアクトル)から発生する磁束により、運転中に建物のコンクリート内の鉄筋を誘導加熱する可能性がある。そのため、壁や床にアルミニウム板を敷き詰めた。この磁気シールドでリアクトルホール内は一面の〝銀世界〟が広がっている。火災対策も万全だ。高電圧設備がある部屋の一部では、万が一、火災が発生した場合には、300本以上のボンベから窒素ガスを噴出し、一気に窒息消火するシステムを備えた。

中電PG基幹系統建設センター東清水FC工事所の小林力所長は「工事が完了すると東清水FCの総容量は90万kWとなり、レジリエンスや市場取引の活性化の観点からも期待される役割は大きくなる。自励式FCの導入は初めてなので、受注メーカーである日立製作所とも協力しながら、安全を最優先に工程を遅らせることなく、取り組んでいきたい」と力を込める。

進化した東清水変電所が、日本の安定供給に果たす役割は計り知れない。これまでも、これからも、平時と有事を問わず日本の電力を支えていく。

【フォーカス】中電浜岡の不適切事案で 林社長が電事連会長を辞任

中部電力が1月5日、緊急記者会見を開き、浜岡原発3、4号機の審査で「基準地震動」の策定プロセスで不適切事案があったと発表した。

会見で辞任を発表した電気事業連合会の林欣吾会長

19日には、高市早苗首相が記者会見で「原子力利用の大前提である安全性に対する国民の信頼を揺るがしかねないものであり、あってはならないこと」と言及するなど、原子力行政への不信が再燃しかねない事態となっている。

中電は2019年1月の審査会合で、基準地震動について「20種類の地震動を計算し、平均に最も近い波を代表波にする」と説明していた。ところが、実際には複数のパターンを作り、その中から代表波を選んだり、意図的に最も平均から離れた波を代表波とし、残りの19組を後から選定したりしていた。

緊急会見で林欣吾社長は、社外弁護士によるヒアリングで「地震動を過小評価していたことを確認した」と明かした。「そういう(過小評価しようとする)意図があったという証言も出ている」(長谷川聡・コンプライアンス本部長)というが、「波の形がでこぼこしているのが技術的には好ましくない」「特定の周波数帯で波が大きくなる波形が好ましくない」といった証言もあり、単に地震動を小さくしたかっただけではない可能性がある。審査資料を見た原子力工学の専門家は「確かに波の出方が気持ち悪いというのは分かる」と語る。いずれにせよ、まだヒアリングでの証言に過ぎず、最終的な事実認定は第三者委員会の調査に委ねられる。


他社への調査は否定 副会長3人が職務代行

一方、原子力規制委員会の山中伸介委員長は1月7日の会見で、「捏造であり明らかな不正行為」「原子力規制に対する暴挙」と強い言葉で非難した。規制委は14日、中電に対して事実関係などの報告を求める「報告徴収命令」を通達し、本店への立ち入り検査も実施する。

会見では、記者団から「同様の事案が起きていないか、調査をほかの事業者に水平展開すべき」との質問が相次いだが、山中氏は実施を否定。原子力エネルギー協議会(ATENA)が事業者への確認を行ったが、同様の事案は見つからなかった。

業界への影響は甚大だ。林氏は16日、電気事業連合会の会長を辞任した。同日の会見では不適切事案について改めて謝罪した上で、「中電社長として、事実解明、原因究明、再発防止策の策定に専念しなくてはらない」と辞任の理由を語った。後任が決まるまでは、副会長3人(松田光司・北陸電力社長、森望・関西電力社長、安藤康志・関電執行役常務待遇)が職務を代行する。

昨年末には柏崎刈羽、泊両原発の地元合意が完了するなど、原子力政策に明るい兆しが見えていた。その矢先に明らかになった今回の不祥事。まずは第三者委や規制委の調査結果を待つしかない。

【フォーラムレポート】矛盾はらんだまま ETS本格始動へ

「神は細部に宿る」。これをまさに体現する排出量取引制度がまもなく本格始動する。

エネルギー事業にも大きな影響を与えるが、そのルールは多くの矛盾をはらんでいる。

来年度から本格稼働する排出量取引制度(GX―ETS)のルールが、昨年末明らかになった。CO2の直接排出量が年10万t以上の300~400事業者の参加が義務化され、日本全体の温室効果ガス排出量の6割をカバーする壮大な制度がいよいよスタートする。 

ETSでは、政府が各社に排出枠を当面無償で割り当てる。排出実績が排出枠の割当量を下回る場合は余剰分を売却でき、実績が割当量を超過した場合は不足分の調達が求められる。 

焦点の一つが割当方法だ。エネルギー多消費分野では業種別ベンチマーク(BM)を基準活動量に乗じて割当量を算定。BMの設定が困難な業種はグランドファザリング(GF)方式とし毎年一定比率で割当量を減らしていく。さらに一定水準以上の活動量の増減や、過去の削減努力、カーボンリーケージ(多消費産業の国外移転)リスク、研究開発投資状況なども勘案する。発電事業の場合、最初の3年は100%燃種別BMで、2029年度以降徐々に全火力BMに移行する設計だ。

エネルギーコスト、ひいてはリーケージへの影響は―

取引価格の上下限価格も注目を集める。価格を安定化させ、予見性を高める措置で、26年度の上限はCO21t当たり4300円、下限は1700円。上限は標準的な燃料転換コストとして直近10年の中央値から算出し、下限は足元の省エネ対策費用として省エネJクレジット価格を参考にした。実質価格上昇率を3%として徐々に引き上げ、さらに毎年度の物価上昇率も加味して価格を定める。

このように「カーボンニュートラルと経済成長の両立」が成立するよう、さまざま熟議を重ねたわけだが、産業構造審議会の小委員会委員を務めた上野貴弘・電力中央研究所上席研究員は「先例を見てもETSの制度設計は難しいと覚悟していたが想定以上。ちょっとした要素で価格や取引量、需給まで変わり得る。実際どうなるか、正直始まってみないと分からない」と率直に語る。


火力の収支に影響 コージェネは適切に評価

エネルギー事業者の受け止めはどうか。まず発電BMについては、発電所の新規建設や脱炭素燃料の導入に向けた助走期間への配慮が見える。ただ、「技術面や事業環境整備の進展と整合した時間軸であるべきで、それが3年で足りるのか。29年度以降、石炭火力が多い事業者とLNG火力が多い事業者の負担の差がどうなるのか注視が必要だ」(発電事業関係者)。各発電所を運転継続するかどうか、ETSが意思決定の判断基準の一つになるという。

電気料金への転嫁の在り方も重要だ。日本ではまだ電力取引市場に入札する際にETSのコストを織り込んでよいか、といった明確なガイドラインがない。「価格変動リスクをどう織り込むのか、その仕方が難しい。本来は次年度の契約から転嫁したいが、各社ペンディング状態だろう」(同)

都市ガス事業者はというと、当面、電力ほど深刻な影響は想定していない。ガス事業の直接排出で10万tを超える事業者は存在せず、LNG火力を運用する大手ガス会社は発電BMでカバーされることになる。

ただ、顧客への影響の行方として、特にコージェネの活用の評価に注目していた。業種別BMを直接排出だけで策定すると自家発保有者が不利になる恐れがあったが、この点は「公平性を確保すべく間接排出量も踏まえることとなり、自家発保有者も適切に評価されるようになった」(大手ガス会社関係者)。ETSで燃転の必要性を感じてもらい、顧客ごとにどうアプローチしていくかが今後の課題だという。

随所に制度の歪み 供給力不足に拍車か

他方、ある多消費産業関係者は「全体的には現実を反映した形となり、30年度までは政権交代さえなければまず心配はない。だが、積み残した課題は矛盾をはらみかねず、特に発電で噴出してきそうだ」とみる。

最も懸念されるのが供給力不足で、発電BMに全火力の要素が入り始める29年度以降は要注意だ。一方で政府は火力の過度な退出を留保する制度を次々整備し、さらに通常国会に提出予定の改正電気事業法では、大規模電源の休廃止は一般送配電事業者と事前の協議を定める方針だ。こうした動きに上野氏は「需給ひっ迫が懸念される間だけ政策的に廃止を引き延ばす発電所に対し、ETSのコストを課す必要はあるのか。供給力確保の対応策に応じて、ETS側での調整があって然るべきだ」と指摘する。

懸念は他にも。活動量の変動に対する調整は、事業所別に過去2年平均で7・5%以上増減した場合に行う。活動量が閾値以上に減った場合、新たな基準と過去の基準の差を翌年度の割当量から差し引くといった具合だ。例えば発電事業で割当量の最大化を重視するならば、7・5%以内に収まるよう複数の発電所で少しずつ発電量を下げた方が「お得」になる可能性がある。「こうした事業者の判断は防ぎようがないが、頻発すれば排出総量を狙い通り規制できなくなる。モニタリングが必須だ」(上野氏)

この他、バンキング(排出枠の翌年度への繰り越し)のルールも注視される。過度なバンキングは上限価格に張り付くリスクとなり、政府は抑制策を次年度検討するが、ルール次第では下限に張り付くリスクもある。

いずれにせよ、新たなコストアップ要因となるETSの副作用には目配りが欠かせない。「今すべきはエネコストを下げることだが、コストを上げる政策が随所に残る。脱炭素政策の大掃除が必要で、やれるのは政治家しかいない」(前出の多消費産業関係者)との本音も上がる。どの政党も物価高対策を重視するならば、衆院選でETSを巡る論戦も見たいところだが……。

【特集1世界の電気料金事情】 適切なコスト転嫁を阻む電気代補助の「恒常化」

政府は物価高対策を名目に、再度の電気・ガス料金補助に踏み切った。コストの適切な価格転嫁を阻害するなど、さまざまな問題点が指摘されている。

一年の中で冬は、暖房使用などで電気やガスの使用量が増え家計への負担として重くのしかかるシーズンだ。政府は物価高に直面する国民生活を支えようと、特に冷え込む1~3月の間、家庭の電気・ガス料金への補助の実施を決めた。

これは、昨年11月21日に閣議決定した『「強い経済」を実現する総合経済対策』の一環だ。電気料金は1、2月に1kW時当たり4・5円、3月は1・5円を補助。一般家庭の場合、3カ月で7000円ほどの負担軽減につながる計算となる。

これを「生活者に寄り添った支援」と評価する向きは確かにある。その一方で、「3カ月でたった7000円の補助に恩恵を感じる家庭などほとんどないのでは」(アナリスト)、「単なる選挙の票稼ぎ。ポピュリズム(大衆迎合主義)的政策以外の何ものでもない」(大手エネルギー会社幹部)といった懸念や批判の声も聞こえてくる。

そうであるならば、具体的な省エネ行動の停滞を招き、太陽光発電の効率的な活用につながるデマンドレスポンス(DR)の普及を阻害しかねないリスクを負ってまで、他国に例のない電気料金を通じた生活支援を行うことに果たして意味があるのだろうか。

補助金の効果は一時的 ほど遠い抜本解決

振り返ってみれば、ロシアによるウクライナ侵攻を機に国際的なエネルギー価格が高騰したことを受け、2023年に初めて激変緩和対策として実施されて以降、政府は断続的に電気代への補助を実施、延長してきた。とはいえ、補助金で期待できる効果は一時的なものでしかなく、この間に、政府が構造的な問題の抜本解決に努めてきたかと言えば、「否」だ。

補助金が適正な価格形成をゆがめている

3年前とは違い、地政学的なリスクは増しながらも、国際的な燃料市況は石油、石炭、LNGともに落ち着きを見せている。むしろ今は、常態化する「円安」こそが問題の根源だ。円安が進めば、エネルギーや食料品の多くを輸入に頼る日本で物価が上昇するのは自明。物価高が国民生活を圧迫しているのであれば、まずは「為替対策」に取り組むべきではなかったのか。

それだけではない。福島第一原発事故後、供給力の7割を占める火力燃料の消費量を抑制することも有効なはずだ。そのためには、長期停止中の原子力発電所を早期に再稼働させなければならない。国民理解の醸成というハードルはあるが、その場しのぎの補助金よりも持続的なメリットをもたらす。

再生可能エネルギー賦課金も、国民負担を押し上げる要因となっている。今年度の賦課金総額は3・1兆円程度と見込まれ、標準家庭の年間負担額は2万円近くに上る。FIT(固定価格買い取り)制度が始まった当初は、「1カ月にコーヒー1杯程度」との触れ込みだったはずが、雪だるま式に膨れ上がってしまった。一時、国民民主党が再エネ賦課金の徴収停止案を国会に提出するなどしたが、いまだ実現の見通しは立っていない。

【大阪ガス 藤原社長 】CN投資を着実に進め 脱炭素に貢献しながら国内外で収益力高める

現中期経営計画の中間地点である2025年度。

海外事業好調の後押しもあり、推移は順調だ。

大規模火力や再エネ、蓄電池、e―メタンなど、カーボンニュートラルに資する投資を進め、将来の収益基盤の強化にも余念がない。

【インタビュー:藤原正隆/大阪ガス社長】

ふじわら・まさたか 1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

井関 2025年はエネルギー・ガス業界にとってさまざまな出来事がありました。振り返っていかがですか。

藤原 25年は日米関税交渉から始まり、年末にかけては日中関係という新たな地政学上のキーワードが浮上した年でした。イスラエル・ガザ問題、ウクライナ・ロシア問題は終息しそうにありませんし、エネルギーに限らず日本経済を取り巻く環境はより厳しさを増したと実感しています。

当社のガス販売量の半分は製造工場向けです。家庭用の販売量を左右するのは気温や他社との競合ですが、日中間の緊張感の高まりが日本の産業界に影響し稼働率が低下すれば、当然、製造工場向けの販売が低迷します。ただでさえ中国は不景気が長引いているにもかかわらず、基礎化学品や鉄などの生産調整を行っていないため、安い製品が世界市場を席巻していることが日本の製造業を直撃しています。ガス販売量にも影響を与えてしまう以上、ガス業界にとってあまり良い話とは言えません。

一方で、22年のロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的な資源・エネルギー市場の大混乱から3年が経過し、石油、石炭、LNGともに価格が乱高下することなく落ち着きを見せていました。地政学上のリスクが新たな局面を迎えた一方、資源・エネルギー価格や為替は「凪」の状態―25年を総括するとそんな年でした。

井関 大阪ガスにとっては120周年の節目の年でしたね。

藤原 創立120周年、そして大阪・関西万国博覧会が開催されたメモリアルな年でした。日本ガス協会の総意でパビリオンのテーマにe―メタンを据え、未来を担う子供たちを含む約69万人の来場者に向けて発信することができました。e―メタンはアンモニアや水素と比べて出遅れ感が否めませんでしたが、認知度を高める非常に良い機会となりました。


業績見通しを上方修正 北米事業が好調

井関 経営状況についてはどう分析していますか。

藤原 25年度は中期経営計画「Connecting Ambitious Dreams」の中間に当たる年であり、上期の海外事業の好調を反映して通期見通しを上方修正することができました。同時に、DOE(株主資本配当率)を3・0から3・5に、1株当たりの年間配当額を105円から120円に引き上げるなど、思い切った株主還元を決めることができ、滑り出しは好調です。

井関 海外事業好調の要因をお聞かせください。

藤原 北米におけるエネルギービジネスの収益性が高まっているためです。その背景には三つの要因があります。一つが、最近のデータセンター(DC)建設ラッシュに伴い電力需要が旺盛なこと。当社は北米において、天然ガスコンバインドサイクル発電所を複数保有しIPP(独立系発電事業者)ビジネスを展開しています。これまではあまり収益性が高くなかったのですが、PJM(米北東部地域の地域送電機関)市場では、長らく低迷していた容量市場価格が上昇し収益を押し上げています。

姫路天然ガス火力2基の稼働で火力発電容量は計320万kWに

二つ目が、シェールガス開発会社のサビン社が非常に生産量が好調であった上にヘンリーハブ価格が高めに推移したことです。ヘッジをしながら安定的に計画以上の利益を出すことができました。三つ目が、22年に火災事故が発生して以降、生産回復に努めてきたフリーポートLNG基地が、ようやく安定稼働に入ったことがあります。計画以上の稼働により、当社も出資者の一角として利益を獲得できるようになりました。

走行中にCO2を110%削減 内燃機関車の未来像提示

【技術革新の扉】バイオ燃料&CO2回収技術/マツダ

カーボンネガティブを成立させる内燃機関車の未来像をコンセプトカーとして披露した。

バイオ燃料とCO2回収装置を組み合わせ、大気中のCO2を110%削減する。

走れば走るほど、CO2が減っていく―。そんな従来のクルマの常識を覆すコンセプトカーを、マツダが提示した。2025年10月30日から11月9日にかけて開催されたジャパンモビリティショー(JMS)で披露された「MAZDA VISIONⅩ―COUPE」だ。

ロータリーターボエンジンを搭載したプラグインハイブリッド仕様の同車の特徴は、微細藻類由来のカーボンニュートラル(CN)燃料で走行する点に加え、車両にCO2回収装置を備えていることだ。この二つの技術を組み合わせることで、走行によって大気中のCO2を減らす「カーボンネガティブ」を成立させるという、内燃機関車の未来像を提示した。小島岳二取締役専務執行役員兼CSO(最高戦略責任者)は、11月16日に富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催されたスーパー耐久シリーズ第7戦のメディアラウンドテーブルで「豊かな地球に貢献すると同時に、車が好きで運転を楽しみたいというお客様の思いに応えるマツダ独自の世界観を表現した」と語った。

搭載されたCO2回収装置
提供:マツダ


食料と競合しない燃料 微細藻類の特性に注目

マツダは17年から、CN実現に向けた「マルチソリューション戦略」を掲げている。これは地域ごとのエネルギー事情に応じて、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)などの電動化技術を導入するとともに、内燃機関の効率改善やCN燃料の可能性を探ることで、ライフサイクル全体でのCO2削減を追求する考え方だ。MAZDA VISION Ⅹ―COUPEは、その戦略の中で示された、内燃機関の進化の一つと位置付けられている。

披露されたコンセプトカー

微細藻類由来の燃料に目を向けたのは、食料資源と競合しないことに加え、トウモロコシなど一般的な原料と比べて油の蓄積能力が高く、限られたスペースでも効率的に燃料を生産できるからだ。中でも原料に用いられる微細藻類「ナンノクロロプシス」は、脂質の生産効率が高く、軽油に近い性質を持つ油を生成できる。ガソリン生成への応用も可能で、低コストかつ大量生産が見込める次世代バイオ燃料だ。研究は20年頃から本格化し、現在は1000ℓの培養槽から約2週間で1ℓ以上の燃料を生成するという理論目標に到達。社会実装に向けて歩みを着実に進めている。

さらに、油を抽出した後に残る残さも活用できる。食品やサプリメント、家畜飼料に加え、本社を構える広島県の地場産業であるカキ養殖への活用などを視野に入れており、エネルギーと食料を結びつける循環型社会の構築につなげる狙いがある。

微細藻類由来のバイオ燃料の利用によってCO2排出量は約90%削減できるが、これに排気ガス中のCO2を吸着・貯蔵するCO2回収装置「マツダ・モバイル・カーボン・キャプチャー」を組み合わせると、大気中のCO2を約110%減らすことができる。


CO2回収技術で実証開始 三段階で技術を進展

CO2回収技術についてはすでに実証段階に入っている。スーパー耐久シリーズ第7戦では、HVO(次世代バイオディーゼル)で走行するレース車両にCO2回収装置を搭載。排気ガスから84gのCO2回収に成功し、車両は完走した。

CO2回収技術の実証試験の様子

今後は三つのステップでCO2回収技術を発展させる計画だ。スーパー耐久シリーズ第7戦での実証は、CO2を「吸着」するステップ1に当たる。次のステップ1・5では26年度を目標に、吸着したCO2を車載タンクに貯蔵する段階へと進む。さらに27年度以降を見据えるステップ2では、ステップ1・5での吸着と貯蔵のプロセスを高速で処理する。ステップ1・5までが短距離でのカーボンネガティブ実現を目指すのに対し、ステップ2では走行中に常時カーボンネガティブを成立させることを狙う。

カーボンネガティブな自動車社会の実現を見据えるマツダの試みは、モビリティ分野におけるCO2削減の議論に新たな視点を持ち込むものだ。今後の実証と技術の進展が注目される。

高度化法第3フェーズに突入へ 望ましい制度の在り方を提言

【多事争論】話題:高度化法の見直し

政策目標や実態との乖離などさまざまな矛盾をはらむ高度化法の見直しが進んでいる。

まもなく始まる第3フェーズを前に、望ましい制度の在り方に関する見解を紹介する。

〈 GXに先駆けた検討に違和感 環境価値の二分状況改善が必要 〉

視点A:阪本周一/東急パワーサプライシニアフェロー

高度化法第3フェーズに向けた検討が政府内で始まった。1回目の部会では、2040年度に非化石比率60%といった数値目標やその他テクニカルな論点が提示されている。検討に際して考慮すべきポイントを述べたい。

まず、今回、高度化法第3フェーズに向けた検討をGX(グリーントランスフォーメーション)に先がけて開始することに違和感がある。23~25年にかけて発信されたGX関係文書では「GX‐ETSと高度化法の政策効果を踏まえた関係整理を行う」旨が記されている。前者が火力電源、後者が小売り事業者と規制対象が異なるものの、脱炭素を目的とする点では同方向であることに留意したものである。経済産業省内のGX担当部署との調整を経ずに、高度化法の次段階の詳細設計着手という手順外しには疑問を覚える。検討部会でも両制度間の調整を求める有識者意見が相次いでいた。

要整理論点の例示を試みたい。GX移行債の償還原資は、化石燃料賦課金と火力電源が負担する特定事業者負担金であり、負担金により火力電源単価は押し上げられる一方、排出枠を獲得できる。排出枠の原単位はGXでは全電源平均とされており、火力単体のものよりは少ないから、火力電源は完全ゼロエミッションの非化石とはならないが、相当に排出量が圧縮される。かかる火力電源を調達する小売り事業者は、別に非化石価値を調達する必要はあるが、現行単価より安くて然るべきと考える。他方、低すぎる非化石価値は再生可能エネルギーの拡大には貢献しないので、脱炭素を願う政策当局としては困る。ETSの炭素取引価格と、非化石価値が収斂する方が排出量オフセット手段としては妥当であり、むしろ環境価値2分割を所与とする方向を改め、一元化に舵を切る発想はないものかとも考える。他にも要整理論点はあるだろう。課題の所在を丁寧に探索し論議してほしい。


需要家が求める「価値」意識を 政策的な価格引き上げの是非は

前述のように事務局からは、第7次エネルギー基本計画を踏まえた「40年度非化石電源比率60%以上」との数字が出ている。ETS対象事業中の発電系の取り組み(水素、CCS=CO2回収・貯留)が非化石比率上昇に寄与するかもしれないが、技術、価格が商業レベルには成長しないかもしれない。原子力再稼働、メガソーラーや風力増の蓋然性も高いとは言えず、事務局も口にはしないが、非化石電源の増加停滞の可能性は認識している様子である。60%目標は構わないが、高度化法の義務履行対象量は当該年度の実績非化石発電電力量とすればよいだろう。それだけで対象者の小売り事業者は安心するはずだ。

「非化石価値」が真に最終需要家が渇望するようなものかという点も振り返りたい。制度設計側の認識は「高度化法による非FIT(固定価格買い取り)非化石証書ニーズの高まりが、非FIT非化石電源の増加に貢献してきた」となる。関心の薄そうな家庭用需要家への非FIT証書価格の転嫁に成功している小売り事業者は確かにいるが、他の特典との抱き合わせであるケースが大半だ。需要家の非FIT証書(再エネ指定)直接購入実績は24年度で4・6億kW時程度でしかない。高度化法の対象外であるFIT証書の取引量も増えてはいるが、制度趣旨である再エネ賦課金の国民負担軽減に照らせば、総額は年300億円程度で再エネ賦課金総額とは2桁違う。非化石証書取引量の増加は、原子力の再稼働、FIT電源の運開増加、高度化法による調達義務付けが主要因であり、非化石の効能を実感する需要家は多くないと私は考える。洋上風力開発が部材費用高騰で難航しているが、これを払拭するほどの非化石価値評価があれば別の展開もあっただろう。需要家の財布のひもが固い中、人為・政策的に非化石価値水準の引き上げがどこまで支持されるか。需給に委ねるのが経済学の本筋だが、恐らく何らかの下支え措置をしたくなるはずだ。金の話に直面する時の判断が問われる。

従来の非化石価値証書は、対象年度分を翌年度6月までに調達の上、償却を要件にバンキング不可、取引機会は年4回のみとしている。このため需給バランスが崩れやすい、電力小売り価格設定時には仕入れ原価不明、転売禁止のため相場探知に難がある、など不都合が多い。今後、非化石価値調達所要量を拡大するのであれば、小売り価格に過大な影響がないように上記不都合の解消を希望する。

経過措置料金や別途検討される供給力確保義務との兼ね合いも気になる。高度化法単独ではなく制度横断でプロ・コン(メリット・デメリット)を俯瞰する視点も必要である。

さかもと・しゅういち 東京大学法学部卒。東京電力、複数新電力で燃料業務、火力・再エネ発電所建設、制度対応、分散電源アグリゲーション、電力調達・卸などの実務を広く経験。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2026年1月号)

暫定税率が継続された理由/地熱発電普及の課題

Q ガソリン税と軽油引取税の暫定税率は、「暫定」であるのに長く続いた理由は何ですか。

A 暫定税率の50年間は、三つのショックへの対応のための財政支出増大、物価高騰と家計負担の軽減の代替財源としての役割を、時限的な対応(暫定)に押し込め、実質的に恒久的安定財源として維持してきたものです。この中で安定財源確保として物価高騰などに耐性のあるのは、消費税の単純併課のみでした。

この50年間は、①特定財源期間(1974年)、②単純併課による消費税の導入(89年)、③一般財源化(2009年)、④当面の間税率(旧暫定税制、10年)、⑤燃料油価格激変緩和対策(22年)―のフェーズに区分できます。特定財源期間の直前には石油危機が起こり、実質経済成長率がマイナスに落ち込む中、激しいインフレが起こりました。そして一般財源化の背景には道路財源としての必要性が希薄化する中、今度はリーマンショック(08年)が発生しました。税収急減の中、大型景気対策により財政赤字が拡大しました。リーマンショック後にはデフレと低成長経済によって、財政の悪化と債務の増大が構造化してしまいました。その中で、三つ目のショックとして東日本大震災が起こり、財源としての暫定税率の議論は横に置かれました。

22年はロシアのウクライナ侵攻による原油価格の高騰と円安が燃料価格を高騰させたことから、激変緩和としてほぼ暫定税率に相当する額の補助金が投入され暫定税率は事実上融解しました。そして25年末に、代替財源議論を置き去りにしたまま旧暫定税率の廃止が決まりました。結果的にこの50年間は、短期的な政治的合意形成に終始し、財源・エネルギー政策を含めて長期的視点が欠如した結果もたらされてきたものです。

回答者:小嶌正稔/桃山学院大学 経営学部教授


Q ポテンシャルが高い日本で、地熱発電が期待ほど拡大していないのはなぜですか。

A 日本列島は火山や、温泉、地震が特に多いです。また、降水量も豊富で、日本列島下には熱・水・水の通り道が多く、地熱発電所に適した条件が揃っています。日本の地下にある熱の地熱発電換算量は約2300万kW(世界3位)で、そのうち約60万kWが既に開発されていますが、国内発電量は世界10位となります。世界1位は米国で約350万kW、2位はインドネシアで約280万kWです。日本は資源量はあるものの、開発は十分に進んでいないのが現状です。

米国やインドネシアでは国が強力な地熱発電推進策を掲げ、それを確実に実行して、世界1位、2位となりました。両国では地熱発電を推進するための法律があります。一方、わが国は地熱に関する法律がない中で、他国にはない日本固有の課題である「地熱発電による温泉への悪影響」や「国立公園問題」を払拭する努力の結果、温泉変化の原因が科学的に解明できるようになり、さらに事業トラブルがあっても継続するための「地熱保険制度」ができました。

日本で地熱発電を大きく増やすためには、さらに、国民への周知が重要です。エネルギー問題や脱炭素問題解決のために日本には地熱発電があるという事実を周知する必要があります。日本各地で地熱発電所が増えれば、それを見る人の数が増えます。そして、地熱発電は、国産で、24時間安定した供給が可能です。自然環境とも適合性がある優れた特性を持つことを理解してもらう。理解していただいた方には、地熱発電の応援団員になっていただく。これがうまく循環するようになれば国内の地熱発電量の大きな増加が期待されるでしょう。

回答者:江原幸雄 /NPO地熱情報研究所代表九州大学名誉教授「地球熱システム学」