【巻頭インタビュー】アンジェラ・ウィルキンソン/世界エネルギー会議事務総長 兼 CEO
政治的緊張が続く世界において、エネルギートリレンマの解消は一層複雑化している。
世界エネルギー会議初の女性事務局長に、今後の展望と日本の役割を聞いた。
アンジェラ・ウィルキンソン ロイヤル・ダッチ・シェルやブリティッシュ・ガス、経済協力開発機構(OECD)など、多様なセクターで上級職を歴任。2017年に世界エネルギー会議に参画し、エネルギー転換に向けたツール構築や戦略的洞察プログラムを主導。19年より現職。
―世界エネルギー会議(WEC)の特徴を教えてください。
ウィルキンソン 1923年に設立され、非政府組織・非営利組織の立場から、エネルギーに関する幅広い問題について、関係者が意見を交換することができる唯一の世界的機関です。私は6代目の事務総長であり、創設以来初の女性としてこの役職に就任しました。
WECでは20年前、エネルギートリレンマという新しい枠組みを導入しました。エネルギーをうまく管理していくためには、安全保障、手頃な価格へのアクセス、環境の持続可能性の視点が必要です。これに対し、われわれは、解決策を提示するのではなく、支援する立場を貫いてきました。
現在、世界は政治的な緊張の中にあり、われわれは、ソフト面での支援を維持・発展させることに力を注いでいます。そして、多様でつながりを重視した現代のエネルギー社会の実現に向けた「新しいエネルギーコンパス」を構築していきます。
次の危機を見据えた議論を 包括的な視点が不可欠
―ロシア・ウクライナや中東での紛争が続き、エネルギー資源価格がそれぞれ値動きを見せました。ボラティリティや不確実性がここ数年のキーワードかと思いますが、今後の見通しや注目点をお聞かせください。
ウィルキンソン 世界各国のエネルギー業界のリーダーたちの声を聞く中で、懸念点に関していくつかの共通認識があります。第一に、現在のマーケットは極端なボラティリティの中にあり、コモディティ価格の不安定さが大きな課題となっています。第二に、エネルギー安全保障への関心が再び高まっていること。そして第三に、世界的なインフレや気候変動の影響を受けながら、エネルギーが「手頃な価格」であるかどうかという点が重要視されています。
エネルギートリレンマは常に存在していますが、今改めて見直す動きが拡大しています。ただ、国によっては政治的理由で、一つか二つの要素しか見ていない場合もあります。ここで見逃している要素が、次の危機につながることになります。安全保障か脱炭素か、手頃な価格か気候変動か―といったどちらかを選ぶのでなく、全ての要素を包括し「オア」でなく「アンド」でつなげる考え方が重要です。
―データセンターなどによる電力需要の急増が見込まれています。このトレンドについての課題認識や、今後の対応方針を考える上で必要な視点は。
ウィルキンソン 「需要の津波」は昨年から登場した話題であり、背景にはさまざまな要素があります。中でもAIの電力ニーズが急増している点は重要です。また、人材開発・発展の動きも大きく関わります。この組み合わせで需要が生まれており、発展途上国で顕著です。そしてデジタルのチャレンジには二つの側面があります。AI向けの電力需要増と、エネルギーをより効率的に管理するためにAIを活用するという面です。
ただ、今後こうしたスマートインテグレーションが進むと、サイバーセキュリティも重要となります。デジタル化はある意味で諸刃の剣と言えるのです。
―需要トレンドもあり、原子力ニーズが再び高まっています。
ウィルキンソン 原子力ルネサンスは世界で今話題の議論です。ただ、ある特定の技術についてではなく、さまざまな技術のルネサンスが起きているという認識です。例えば、再生可能エネルギーをある程度の規模に増やし維持するには、安定した調整力が必要で、それは原子力やガス火力から生み出されます。そして、多様でクリーンなエネルギー源の規模拡大が必要です。
日本では、既存の原子力を今後も継続して使い、同時に洋上風力の開発にも力を入れていますね。他にバイオガスやeメタンなどのクリーン燃料の開発も進み、そこにCCS(CO2分離・貯蔵)の実装も視野に入れています。どの技術も良い・悪いと一概に言うことはできず、あらゆる技術の可能性を検討する必要があるはずです。ただ、原子力に対する見方は政治的な影響を受けており、だからこそ、各国で見方が異なります。最善の結果を得るためには、パーフェクトを求めないことが重要だと思います。
高市新政権に期待感 エネ安保に新たな視点を
―日本の第7次エネルギー基本計画についてどう評価していますか。
ウィルキンソン 日本のエネルギー政策が高い成熟度に達していることを示していると感じています。安全保障、手頃な価格へのアクセス、持続可能性といった多様なニーズに対して、エネルギーシステムをいかに適切に管理していくかという視点が反映されています。また、他国の政策と共通する要素も見受けられ、エネルギートリレンマのバランスをどう取るか、そして急速に変化する国際情勢の中で、柔軟かつ迅速に対応していく姿勢が計画に盛り込まれている点は非常に重要です。
―日本初の女性総理が誕生しました。高市早苗新首相は、安全保障を特に重視しています。新政権に果たして欲しい役割は。
ウィルキンソン 高市新政権には、既存のエネルギー安全保障の枠組みにとらわれることなく、新たな視点を持ち込んでもらいたいです。これから、エネルギー供給の多角化を図るだけではなくレジリエンスの強化もさらに重要になってくるでしょう。新たな価値を生み出し、エネルギー安全保障という言葉を書き換えて欲しいと思います。