A 資源エネルギー庁は11月11日の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(WG)」で、義務履行強化の目的を、需要家に対する安定・継続的なkW時の供給と料金の急激な変動の抑制と整理した。この目的は理解できるが、3年前に需要の5割確保といった水準を求めることが手段として正しいかは疑問だ。そもそも2022年の卸市場高騰時には、小売り事業者がリスク管理を十分に行っておらず、結果として一方的な契約解除や最終保障供給への移行が起きた。現在は、先物市場の活用や市場連動型の料金メニューを導入することで、需要家とリスクを分担する取り組みが進んでいる。こうした現状を踏まえずに、小売り事業者の市場依存度が当時と同程度のボリュームだからと規律強化を進めるのは、腑に落ちない。
B 同意見だ。確保義務を一方的に強化することには違和感がある。需要を先に固定するのか、調達を固定するのかという判断は、本来、小売り事業者のリスク管理に関わる経営判断であるべきだ。また、小売り側だけに強制するのは、バランスを欠いている。
C もう一つ踏み込んで言えば、市場設計の議題に「電気料金の安定化」という目的を持ち込むことに違和感がある。料金は価格変動するメニューを含めてさまざまな選択肢が消費者に提供されるのがよい。むしろ、国に対処してほしいのは消費者の目の届きにくい小売り事業者の財務の健全性だ。
新設が検討される市場の実効性は?
新市場は絶対的な解決策か 既存のルール変更で問題解決は可能
―中長期取引市場の創設については、どのような論点があるか。
C 現行のスポット市場において、経済合理性に基づいて価格形成されていないという実態がある。これは、大手電力会社に対して限界費用による供出が求められているためで、さらには、この低廉な価格が相対契約を含めた取引全体に影響を及ぼしている。この課題への対応として、中長期取引市場に期待したいが、絶対的な解決策とも考えにくい。
A スポット市場の限界費用での玉出しの見直しという本質的な議論を飛ばして、なぜ中長期取引市場に進むのか。既存の市場に一定の固定費を乗せて回収できる仕組みを整えるだけで状況は大きく改善されるはずだ。
B 加えて、約定方法について、ザラバ方式の採用を前提に、電源の固定費と可変費を含めた価格設定が検討されている。スポット市場との価格の整合性をどう確保するのか、正直なところイメージが湧かない。それに、固定費込みのザラバ市場を想定すると、バックアップ電源程度の価格が並ぶことになり、小売り事業者がそこから電力を調達しても販売価格との整合が取れず、採算が合わなくなる。その結果、誰も市場から買わず、約定しないまま残り続けるような事態が常態化するのではないか。価格の整合性に課題がある以上、制度として機能するイメージは持てないね。
A 制度設計の議論が理屈だけで先行している感は否めない。供出を求める事業者の要件や受け渡し・清算方法といったルールばかりが先に固められ、売買が成立するような価格でどう流通させるのか、その上で供給力確保義務をどう機能させるのか、内外無差別卸との関係をどうするのか―といった実運用に直結する論点が出ていない。これでは、厳しい結果を招くことは目に見えている。
C とはいえ小売り事業者に確保義務が課される以上、一定量は市場または相対取引で買わざるを得なくなる。その意味では供給力確保義務が措置されたとしても、競争条件としてのイコールフッティングは担保されている。公平なルールの下で新たな競争環境の枠組みが生まれてくるということではないか。
続いて世界的総合エネルギー企業のエンジー社で、前身のガス事業中心から、再エネや電力を軸とした「トランジション・ユーティリティ」への転換に向けた経営戦略を聞いた。ただし、特に産業・暖房分野を念頭に「ガスは当面残る」(Dario Acquaruolo・ENGIE SEM GBU幹部)とし、将来的な「脱炭素ガス」への移行の必要性も語った。