【業界スクランブル/需要家】環境教育は若者の意識を変えたか

業界スクランブル/需要家】

環境教育が学校教育の一部に位置付けられて20年以上が経ち、その成果は数字に見える形で表れつつある。

内閣府が昨年実施した「環境教育に関する世論調査」の結果によれば、資源循環や生物多様性、気候変動問題、自然エネルギーの活用といった項目に関してこれまで環境教育・学習を経験したことがあるという割合は20代や30代で特に高く、環境配慮行動を実践する理由として「幼少期からの生活習慣や価値観であるから」や「学校で環境に関する教育を受けたから」を挙げる割合も若い人ほど高い。環境教育により環境配慮を基本的な規範の一つに置く世代が増えているのだろう。

一方で、若年層の環境意識や気候変動対策への実施率は他の世代よりも低いという状況は変わっていないことに対して課題を感じている政策担当者も少なくない。単に教育を受けさせるだけではなく、地域や社会とのつながりや子育てなどを通じて環境問題への関心や意識を醸成する機会や、自身の学びを次の世代へ伝えていく経験をいかに創出するかを考える時期に差し掛かっているのかもしれない。

環境教育の中でもエネルギーに関する教育はCN宣言を行う自治体が増えるにつれて需要が高まっているが、適切な教材やノウハウ、授業時間を十分に確保できないことなど導入にはハードルが多い。

生活と密接に関わっているものの意識しづらいエネルギーについてどのように興味を持って、正しく理解してもらうのか。気候変動を取り巻く複雑な意思決定が求められる、未来の消費者世代に対してエネルギー事業者が果たすべき役割はこれまで以上に大きくなりそうだ。(K)

【原子力の世紀】ウクライナとの関係悪化が原因 ロシア核戦力の危うい現実

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

高い軍事力を誇ったソ連の流れをくむロシアがミサイル開発に苦戦中だ。

クリミア半島の併合などでウクライナ企業との協力が途絶えたことが影響している。

核軍縮条約なき世界 

海上自衛隊の護衛艦「かが」や「いずも」に近く搭載が予定されているステルス戦闘機「F35B」は、短い滑走路でも離陸できる垂直発着(VTOL)機だ。後部エンジンを垂直に伸ばしながら下げ浮力を得る。その姿は、トンボが尾を垂らし産卵する姿に似る。

意外だが、その最新鋭機にソ連の技術が使われている。2002年2月、筆者がワシントン郊外のロッキード・マーチン社を取材した際、担当者から聞いた。「なぜ、ソ連製を?」と聞くと、ソ連はVTOLを開発したものの、予算不足で計画が打ち切られた。「その特許を買い取った。ソ連の技術は無骨だが、丈夫で長持ちなのが取りえなのだ」と説明した。

米軍が2023年に実施したICBM打ち上げ実験
出所:米国防総省


5回連続で実験失敗 もはや張り子の虎か

そのソ連の伝統を引くロシアがいま、次世代の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に手間取っている。冷戦中、米国が「サターン(SS18)」と呼んだICBMの後継で、「サルマト」と名付けられている。

22年の初実験は成功したが、以後、少なくとも5回連続して実験に失敗した。「サターン」の退役時期が迫る中、ロシアは見切り発車することを決め、昨年11月、26年の実戦配備を宣言した。

サルマトは3段式で、地上サイロに配備する。射程は史上最高の1万8000㎞もあり、米国を攻撃する際、通常の北極経由ではなく、南極を経由して南側から攻撃できる。米国のミサイル防衛(MD)システムは、北極方面から飛来する攻撃に備える。裏をかき、南から攻撃すれば、MD網突破はたやすいとロシアは読む。

だが開発は難航続きだ。中でも24年9月の打ち上げ実験では、発射直後にミサイルがサイロ内で爆発した。サイロは破壊されて直径60mに達する巨大なクレーターが生じ、使えなくなった。打ち上げ場所を変更し、25年11月に6度目の実験を試みたが、またも失敗に終わる。打ち上げ直後にバランスを崩し、発射から約10秒後に空中爆発した。

実験失敗の原因は、エンジン不調にある。10~16発もの核弾頭を搭載する世界でも屈指の巨大ICBM。「サターン」と同様、エンジンには推進力に勝る液体エンジンを使う。エンジンの設計、開発、製造は、ソ連時代からウクライナ企業が手がけてきた。ソ連崩壊後も関係は続いたが、14年3月のロシアによるクリミア半島併合が転機となり、協力関係は断たれた。

ロシアの潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)には、液体燃料を使うものもある。ロシア政府は、SLBM「シネバ」のエンジン開発を担当するマキエフ・ロケット設計局を選び、サルマト用の液体エンジン開発を委ねた。だが、サイロ配備型の巨大ICBMと、潜水艦に納めるためコンパクトに設計されたSLBMは別物だった。サルマトの全長は35・3mだが、SLBM「シネバ」は全長14・8mに過ぎない。重量もサルマトが208t、シネバは40・3tと雲泥の差だ。必要な推進力には大きな違いがある。

ウクライナとの関係途絶の影響はサルマトだけにとどまらなかった。主力ICBMの「サターン」の信頼性も揺らぎ始めた。

ロシアと米国は、配備済みのミサイルであっても、年1度の発射実験を重ねることで、ミサイルが設計通りに飛ぶかどうかをチェックし、その信頼性を保ってきた。だが、14年以後、ウクライナ企業によるメンテナンス作業も止まった。後任はロシア企業だが、老朽化が進むSS18の取り扱いは細心の注意が必要になる。万が一、実験に失敗すれば信頼性は大いに揺らぐ。それだけは避けたい。

ロシアは発射実験の見送りを決めた。「サターン」の最後の実験は、クリミア併合の1年前の13年。つまり、もう12年もこのミサイルは飛んでいない。「途中で墜落する」との指摘や「起爆のタイミングがずれ、想定通りの威力が出ない可能性がある」などの見方がある。サルマトと同様、配備中のICBM「サターン」も、もはや「張り子の虎」なのかもしれない。

【業界スクランブル/再エネ】安全保障実現に向けた営農型太陽光の可能性

業界スクランブル・再エネ

中東情勢の緊迫化で原油などの輸入に支障が出ており、物価が上がるなどさまざまな影響が出てきた。電気代も数カ月の時間差で上がることが見込まれている。農業においても燃料、肥料、農業資材などの価格上昇により厳しい状況に置かれている。

太陽光を農業と発電でシェアする営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)はエネルギー安全保障と食料安全保障の両方に寄与するものとして考えられてきた。理想的な組み合わせにも思えるが、累計では年々増加しているものの実際の導入は農地の1%もなく、限定的と言わざるを得ない。

背景には、農業を適切に行っていない事例が出てきたことで、農業委員会など自治体で懐疑的な意見があることが挙げられる。そのため、農林水産省で「望ましい営農型太陽光発電に関する検討会」が開催されており、望ましい営農型太陽光発電の考え方につき議論が行われている。

その中で「農山漁村再生可能エネルギー法」に望ましい営農型の基本方針が明記される方向性が打ち出されていることは、営農型に法的な位置付けを与えるという点で評価できる。ただし、基本方針が明記されると導入が進むかと言うと、農山漁村再エネ法に基づいた太陽光発電の導入実績が0・5GW(1GW=100万kW)と太陽光発電導入量の1%にも満たないことから楽観視できない。

先が見通せない時代においてエネルギーと食料の自給率を真剣に高めていくために、自治体での営農型太陽光発電の導入目標策定の義務化や、導入を具体的に支援する仕組みにより後押しして行くことが必要ではないか。(K)

【リレーコラム】中東動乱はサウジの独り勝ちか? 陸路が握る産油国の命運

玉木直季/英国王立国際問題研究所「チャタムハウス」フェロー

スマートフォンにシビルディフェンスからアラートが届く。「攻撃か」と身構えて開くと「リヤド州では弱・中程度の雨が降る見込みです」。金曜礼拝を終えてモスクを出ると、埃の香りとともに雨がぱらついていた。これが「攻撃下とされる都市」の現実だ。サウジへの攻撃は限定的で、迎撃にもおおむね成功している。戦禍の「内側」にありながら、リヤドは安全だ。この逆説こそが、私の結論の起点である。今回の中東動乱で、もし勝者があるとすれば、それはサウジアラビアではないか。日本のエネルギー安保を考える上で、この「独り勝ち」の構造は見落とせない。

世界の貿易量の約9割は海運が担う。そのチョークポイントのホルムズ海峡の内側に位置するドバイ、アブダビ、カタールは、過去20年でオイル&ガスマネーを背景に急速に存在感を高めてきた。しかし今回、その地理的脆弱性が一気にあらわになった。日本が輸入する原油のおよそ9割がホルムズ海峡を通過する。一方、サウジはペルシャ湾と紅海の二つの海を持ち、パイプラインで紅海側のヤンブーへ送油することでスエズ運河経由とバブ・エル・マンデブ海峡経由の迂回路が残る。


12カ国の外相が集結したリヤド

実質的に機能する迂回ルートを複数持つ産油国は、世界でサウジだけだ。クウェート、アブダビ、カタールはホルムズ以外に原油やガスの輸出手段を持たず、食料も生活物資も、サウジを経由する陸路がなければ外から入らなくなる。産油国でありながら、生存そのものをサウジの善意に委ねることになるのだ。そもそも紅海はサウジにとって「裏口」ではない。ジェッダは8世紀以降、千年以上にわたり海のシルクロードの荷揚げ地として栄えた。サウジが本格的に開国したのは2016年以降で、歴史をひもとけば、宗教のみならず、物流でも地域のハブ機能を有していた。

3月18日、リヤドに約12カ国のアラブ・イスラム諸国の外相が集結し、緊急会合が開かれた。戦禍の中であっても機能する安全な首都として、リヤドがその役割を担った意味は大きい。共同声明はイランへの攻撃停止と緊張緩和を求めるもので、体制変換を求める米・イスラエルの立場とは一線を画した。クウェート、アブダビ、カタールが食料・生活物資でもサウジに依存する構造があらわになった今、その戦略的重みはかつてなく大きい。

シビルディフェンスのアラートは「善と祝福の雨となり、国の隅々までその恵みが広がりますように」と締めくくられていた。リヤドに降るこの「恵みの雨」を、日本のエネルギー政策はいかに戦略的に生かすか。

たまき・なおき ロンドンビジネススクール修了。中東歴29年。グローバルサウスの循環型社会への回帰を構想・実装する探究に取り組む。高知大学客員教授。リヤド在住。

※次回は、在イラン日本国大使館一等書記官の佐藤佳奈さんです。

【シン・メディア放談】国難時に高市政権に吹く隙間風

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

イランショックという国難に対峙する中、高市政権に不穏な空気が流れている。

―3月以降、日本政府は石油備蓄放出や補助金復活、代替調達の確保など矢継ぎ早に手を打ってきた。これまでの動きをどう見る?

A 総じてうまくやっていると思う。ただ、高市早苗首相の発信の仕方はちぐはぐだ。6月にナフサが供給できなくなる可能性に触れたTBSの報道特集に、高市首相は事実誤認とXで反論。こうしたこともあって首相は国民の不安払しょくに重きを置いているのだろうが、発言が出たとこ勝負で、どこまで言って良いというラインをきちんと共有できているのか疑問だ。

B 燃料油補助金の復活には危機感を覚える。今後石油価格が下がるとは考えられず、「ガソリン補助金2カ月で枯渇か」との毎日の記事は現実的な内容だ。経済を冷え込ませたくないとの政権の考えも分かるが、財政負荷が一層重くなり、脱炭素も遠のき、エネルギー基本計画に沿っているとは言えない。衆議院であれほど議席を得たにも関わらず、場当たり的な姿勢にはがっかりだ。高市首相は予算などでも詳しい説明を嫌がっているように見えてしまい、その見え方が政権の足を引っ張っている。

C でも周辺諸国に比べたら各段によい。某国は一部のスタンドが閉まり、一時レギュラーが1ℓ250円超に。日本ほど備蓄できておらず、不足を懸念する国民に対し政府は「大丈夫」と繰り返すばかり。そして日本より遅れて価格支援に踏み切った。ただ、日本は最近まで平時でも補助金を出していて、また復活というのはどうかとは思う。

A 支援は業界を絞るべきとの意見もあるが、政府と大手広告代理店の癒着が数年前バッシングされた。今は代理店に丸投げできなくなり、面でばらまくしかないといった事情もある。


『選択』記事はさもありなん 揺らぐ高市政権の深刻さ

―そうした中、ホルムズへの自衛隊派遣を巡って高市首相と今井尚哉氏が大げんかしたとの『選択』の記事が話題だ。

A 安倍政権時代も今井氏は他の官僚とともに安倍晋三元首相を恫喝したことがあったと文章に残っている。だから今回も概ね記事のような衝突はあったのだろう。問題は、今それができる人が今井氏だけということ。安倍政権には世耕弘成氏や萩生田光一氏、菅義偉氏がいたが、高市官邸の面々はそうではない。

C 今井氏は前から干されているといううわさもある。高市首相は仲間が少なく、政権発足から半年経つのに信頼関係を築けていない。特にイラン攻撃勃発以降、党、永田町、霞が関との間に隙間風が吹いている。例えば党内で節電要請の話が出た時、首相は言いたくないと反対。再審制度改正議論でももめている。

B 首相自らXで発信する姿勢など、人の意見を聞かない政策オタクの面が如実に出ている。また、赤沢亮正経済産業相を働かせすぎだが、外から見ても誰を信用しているのかはっきり分かってしまうことはよくない。

A 本来、予算成立後はインテリジェンス、皇室典範や憲法改正、夫婦別姓などの議論に着手し、高市ファンを喜ばせたかったはず。それができていないのは誤算で、このままではファンが爆発しかねない。

B 支持率の高さのわりに掲げた政策は後退し、特に消費減税にはかなりネガティブになってきた。これが実現できないと支持率にダイレクトに効いてくる。

―他に注目した記事は?

A ロイターが報じた、ロシアへの経済訪問団の派遣計画は気になる。政権は否定したが、背に腹は代えられない。ロシアへの経済制裁を緩めれば、安倍政権時代に進めてきたロシア産石油・ガスの調達が実現できる。当時この案件を担当していた世耕氏がどう動くのか、注目している。某月刊誌の講演会で日露の話をかなり前向きに発言していたとも聞く。

B それにしても、この局面であれば原子力推進派はリプレースなどを具体的に進めるために動けばいいのに。

C 再生可能エネルギーも気候変動視点でなく、安全保障上の必要性を重視し、現実的なこれからの政策を示すべきだろう。

A 石炭火力もあまり話題になっていないが、近年のバッシング一辺倒を反省すべきだ。

C いずれにせよ、戦争ともなれば現場は日々の取材で手一杯。論説やオピニオンでこうした発信を積極的に行ってほしい。


再処理政策に暗雲 見直しは必要か否か

―ホルムズ関連以外でも重要なエネルギーニュースがいくつかあった。

A 青森県の宮下宗一郎知事が、再処理工場の建設遅れで今年度使用済み燃料の搬入を認めないとしたが、既定路線だ。知事当選直後も似たような出来事があったが、その際も状況をよく理解していた。

C もんじゅの使用済み燃料の再処理先候補だったフランスの施設の新設が撤回されたと、毎日だけが報じた。これは結構深刻ではないか。続報を待ちたい。

B 再処理関連は良いニュースがなく常に足かせになっている。原子力を推進したいなら私はワンスルーしかないと思う。

A ワンスルー論者は原子力嫌いという点が気になるが……。

B でも現実を直視すべきだ。中間貯蔵施設を増やしつつ、いずれどこかで直接処分するといった方針を打ち出さないと、原子力がイデオロギーになる。

―再処理は議論百出だが、ホルムズショックを機に安保の観点から政策を再点検すべきことは確か。そろそろ根本的な議論に入る頃合いだろう。

【業界スクランブル/火力】DC急増で顕在化する 制度設計のゆがみ

【業界スクランブル/火力】

生成AIの急速な普及に伴い、データセンター(DC)建設計画が爆発的に増加し、それに伴う電力需要が大幅に拡大している。需要増は全国で数千万kW規模で最大電力の10~20%に相当し、電力系統への接続待ちの長期化が現実的な懸念となっている。

こうした大規模需要に対応するには、それを支える電源の確保と送電インフラの整備を一体で議論することが不可欠である。供給力に余裕があったとしても、どの電源から電力を供給するのか不明確では、適切な系統構成は実現されない。この場合、安定供給を責務とする送配電事業者のさがとして、将来の不確実性を考慮し、過大な設備形成を志向することになり、最適な設備構成から乖離してしまう。

しかし現実には、接続申し込みが殺到しているという表面的な状況への対応に議論が矮小化され、手続きの迅速化や空押さえの防止といった「系統側の対応」ばかりとなり、供給力確保という根源的な問題の議論は不十分だ。

この背景には制度設計のゆがみがある。現行ルールでは、需要家は電源確保を考慮することなく系統への接続申し込みを行うことになっている。これは、発送電分離以前に電力会社が需要と供給を一体で担っていた時代の前提を引きずった仕組みであり、現行制度に整合していない。結果、電源の裏付けのない申し込みが相次ぎ、系統整備の長期化という表面的問題に加え、全体として非効率な電力システムを生む要因となっている。

DC需要の急増は、このゆがみを顕在化させたに過ぎない。目先の不具合への対処に終始するばかりではなく、制度の根本に立ち返った議論が必要なのだ。(N)

【ワールドワイド/コラム】揺らぐホルムズ自由航行の原則 危機感持たない日本メディア

海外メディアを読む

ホルムズ危機から40日余り。日本の報道では、石油備蓄の残日数、LNG在庫、ナフサ不足、代替原油の性状問題、日本関連船舶の運航状況などに集中している。いずれも重要な論点ではあるが、海外メディアを読むと、この危機がより根本的な秩序の変容を伴っていることが伝わってくる。

たとえばイランによる国別の通航管理や通航料の徴収は、日本では主に自国の船舶が通過できるかどうかやコスト増という文脈で報じられている。だが、海外の主要メディアが注目しているのは、その国際法上の意味である。

国連海洋法条約(UNCLOS)は国際海峡における自由な通過通航を定め、沿岸国による通航料の徴収を認めていない。ただし米国もイランも同条約を批准しておらず、その法的根拠そのものが宙に浮いている。

そうした中でイランは、3月末に通航料の徴収を「ホルムズ海峡管理計画」として国内法で制度化し、国別の通航管理を既成事実化しつつある。この動きは、米ニュース専門放送局であるCNBCなどで自由航行原則への正面からの挑戦として繰り返し論じられている。

一方、沿岸国オマーンは独自の沿岸ルートでの通航再開を模索し始めている。安保理の海運保護決議案が中露の拒否権で否決された経緯も含め、ホルムズの自由航行という戦後の秩序が根底から揺らぎつつあるという危機感が海外報道の基調をなしている。日本は原油輸入の9割超を中東に依存し、その供給はまさにこの秩序の上に成り立ってきた。その秩序が今試されているにもかかわらず、報道は日本への直接の影響にしか関心がない。国際秩序そのものが動いていることに、もっと目を向けるべきではないか。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【ワールドワイド/コラム】非常事態態勢を敷く諸外国 ちぐはぐな日本の対応

国際政治とエネルギー問題

米国とイスラエルがイランに対し大規模な軍事攻撃を始めた2月28日以来、既に1カ月半が経過した。この間、イラン側からの報復攻撃、ホルムズ海峡封鎖が行われ、停戦交渉にもかかわらず、戦争の長期化が懸念される中、3月下旬以後、メディアや専門家の関心の中心は戦争の帰趨から、国際経済への影響に移った観がある。日本を含む国際経済への影響はどのようなものか、エネルギー供給、経済安全保障は果たして万全か否か。

米・イスラエルの攻撃への報復措置として、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡は3月中旬以後実質的に封鎖されている。戦争前は60ドル台で推移していたWTI原油のスポット価格は、戦争開始後71ドルに上昇、3月30日102・88ドル、4月10日には96・57ドルで取引を終えた。

日本は原油の9割超をペルシャ湾岸諸国からの供給に頼り、油価が上がれば広範な商品の値上げを余儀なくされるが、日本は世界有数の石油備蓄保有国である。今回、政府は3月26日、国家備蓄石油の放出を始めた。数量は、国内消費量の1カ月分相当の約5300万バレル(約840万㎘)であった。また、4月10日の関係閣僚会議で政府は原油安定供給に万全を期すべく、5月上旬以後第二弾の国家備蓄約20日分の放出を決めた。

国際ニュース報道でコメンテーター各氏が無資源国日本としての備蓄の有用性を強調し、同時に消費抑制の必要性に言及している。基本的な措置として、緊急事態対策には、国際エネルギー機関(IEA)の分類によれば、加盟国の対応として、緊急時増産、消費節約、備蓄の放出、燃料転換の四様がある。加盟国全体あるいは加盟各国としての対応であるので、緊急時増産は加盟国としてはアメリカやノルウェーが採り得る措置であり、燃料転換は石油に代えて石炭やガスを利用するという文脈で用いられる措置である。日本は今回、備蓄の放出を主要な対策として打ち出した。

世界各国の対応に目を向ければ、節電の呼びかけなど半ば非常事態態勢に入る国もある中、ガソリン消費を補助金で支え続ける日本の対応にはちぐはぐさが目立つ。IEAは3月20日、在宅勤務の推奨や公共輸送機関の利用促進など10項目からなる対策を発表した。こうした対策を実施するか否かは各国政府の決断だが、既に欧州や一部の新興国は導入に動いている。

燃料転換では石炭火力の活用がアジア各国に広がりつつあり、フィリピンは国家エネルギー非常事態を宣言して石炭火力の稼働拡大に踏み切った。タイや韓国でも同様の動きがある。

消費節約では、韓国は車両の走行制限をはじめ、公共機関では約150万台を対象に規制を義務化した。ミャンマーは内燃機関車を隔日走行に制限、ラオスは不要不急の車での外出自粛、通学を週3日に制限、ベトナムは在宅勤務を呼びかけた。フィリピンは警察や消防を除く政府機関を週4日勤務としたことが注目される。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

【業界スクランブル/原子力】再稼働に続く難題  規制委設置法の見直し

【業界スクランブル/原子力】

日本の原子力政策は今、再稼働の是非を越え、将来の技術基盤をいかに維持・発展させるかという局面に入っている。その持続性を確保するためには、電力事業者と規制当局の双方が現在の制度的課題を直視し、役割を再定義することが不可欠だ。

関係事業者には、再稼働を最終目標とする従来の発想から脱し、将来技術への投資を戦略的に進める責任がある。国際的に競争が進む次世代技術の分野で主導権を確保する動きは限定的であり、熟練技術者の高齢化が進む中で、人材継承の時間的余裕は縮小している。このままでは国内の技術基盤が弱体化しかねない。

規制運用を巡る課題は、単に審査期間の長短で説明できるものではない。審査長期化は結果に過ぎず、背景には事業者と規制当局の信頼と対話の不足が存在する。事業者側には不都合な情報の開示に慎重姿勢が残り、規制側には前例依存や追加説明要求の反復がみられる。独立性と中立性を強く意識するあまり、規制側が技術的議論に慎重になり過ぎ、孤立的な運用に陥る側面も否定できない。

地震・津波リスクに対して厳格な対応を求めることは当然だが、安全規制は厳格さのみで評価されるものではない。科学的合理性、透明性、国際整合性を備えた制度として運用されてこそ、社会的信頼と技術発展の両立が可能となる。規制当局はその点を自省してほしい。

原子力の将来を左右するのは、予見可能な制度だ。その再構築は、被告席に座る事業者や規制当局では無理で、政府・立法府が主導し、制度全体の見直しが求められる。「原子力規制委員会設置法」の見直しが急務だ。(K)

【ワールドワイド/経営】先行き不透明な脱炭素政策 手頃な価格と安定供給が最優先に

3月中旬から下旬にかけて、ワシントンで戦略国際問題研究所、ブルッキングス研究所、米商工会議所などと意見交換を行い、その後、ヒューストンのCERAウィークにも参加してきた。環境関係者の間では、「今こそ中東の石油、ガスへの依存のリスクから脱却するため、脱化石燃料を進めるべきだ」との声がある。しかし、エネルギー関係者の見方はそれほど単純なものではない。彼らの見方はおおむね次のように要約される。

各国が中東依存脱却に動いている

中東リスクが高まることにより、中東依存の低下を模索する動きが高まる可能性が高いが、それが脱化石燃料に直結するのではなく、少なくとも当面、輸入国においては代替供給源の拡大、資源国における国産化石燃料の増産につながる可能性が大きい。ディーゼル、ジェット燃料などの石油製品の価格上昇は、アジアにおいて電気自動車の需要を増大させるだろう。

中東情勢の影響で、米国産LNGへの需要は高まるだろうが、それが国内のガス価格、電力価格の上昇につながる場合、ガス輸出の制限が検討される可能性がある。

OECD加盟国では、よりクリーンな電力への取り組みを強化しており、米国、日本、台湾では原子力発電が拡大する可能性がある。他方、石油・ガス価格変動に敏感なアジア諸国では天然ガスの供給混乱の中で、発電用燃料として石炭に回帰する可能性が高い。

非電力部門における石油需要は依然として堅調であり、水素・アンモニアによる解決策はより長期的なものになる。中東への米国の注力は、間接的に中国に利益をもたらし、原油価格の上昇を通じてロシアの戦争継続能力を高めている。

イラン戦争の見通しは依然不透明であり、エネルギー転換を加速する要素、減速する要素が混在するが、戦後最大のエネルギー危機の下で、手頃な価格によるエネルギーの安定供給が最優先となるのは当然であろう。換言すれば、脱炭素政策は、エネルギー安全保障上のメリットを厳しく求められることになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【業界スクランブル/石油】備蓄豊富な日本  次に問われるのは購買力

【業界スクランブル/石油】

多くの日本人が、エネルギー安定供給が脅かされていると感じているだろう。しかし、事の本質は単純ではない。米・イラン関係にイスラエルを加えた関係論においても、日本は重要な国家である。エネルギーが危機的状況というより、動的平衡の中東諸国とのエネルギービジネスの共依存関係が勘所と理解するべきだろう。

現状、イランは米トランプ政権を交渉可能な相手として歓迎している。実際、イランの対トランプ、イスラエルのネタニヤフ両政権との関係論は、3カ国の国内世論を見据えた高度な政治的ゲームの最中である。ここで日本は米国に近い重要なステークホルダーであり、3カ国との関係論の中で不用意に攻撃される対象ではない(中東諸国にとって潜在的顧客である)。

一方、空爆やミサイル攻撃が派手に起こり、石油施設さえも攻撃を受けているが、これは良くも悪くも現代の演劇で、ディールの最前線・戦争の実相だ。既に計算され、織り込み済みのパフォーマンスと見える。イランによる「牛の頭をした自由の女神像」を燃やすAI映像の公開という国策的パフォーマンスさえも、米国や西欧文明の脆弱性を射抜く意図がある。この動画からも、イランのディールの奥深さ・強かさが分かる。

さて、日本では短期の摂動に耐えるエネルギー備蓄は改めて重要だが、国家備蓄と民間備蓄は準備されている。次に問われるのは購買力だ。その際、最終的に日本経済に対する円換算での負担はどうなるか。今回の有事は、S+3Eで言えば安定供給から始まり、最後には経済効率性に関連するイシューがより強くハイライトされると見る。(K)

【業界スクランブル/ガス】過熱したスポット市場 米国産が沈静化の鍵

【業界スクランブル/ガス】

中東情勢の緊迫化に伴い、日本でもエネルギー安全保障への懸念が再燃している。しかし、現時点でLNGの安定供給を不安視する声は聞こえていない。ホルムズ海峡通過が必須であるカタールプロジェクトの日本の依存度は輸入量全体の数%程度にとどまり、主力の豪州、東南アジア、米国などからの供給網は安定しているからだ。

一方、日本以外の北東アジア諸国(中国、韓国、台湾)は対照的な状況にある。同諸国は全輸入量の20%前後をカタールに依存しており、物理的な物量確保の危機に直面している。この「不測の事態への備え」がスポット市場を過熱させ、4月上旬時点でアジアの指標であるJKMを昨年同時期の2倍近い20ドル前後と押し上げている。

しかし、この市場のゆがみは、今年以降の米国産LNGの供給力アップによって解消に向かうだろう。米国のLNG事業は、中小規模の設備を短期間で複数立ち上げる機動性に優れており、今年以降これらの新設備が相次いで稼働を開始する。重要なのはその波及効果だ。米国産の多くは、ロシア産の欠落を埋めるべく欧州市場へ向かう。そして、欧州が「背に腹は代えられぬ」として高値で引き寄せていたスポット玉が、再び北東アジア市場へ還流する。この「玉突き」のような需給連動こそが、過熱したJKMを鎮静化する決定打となるはずだ。

米国産の「ホルムズ海峡を通らないLNG」の小刻みな増産の積み重ねで、世界のLNG供給能力が一段階ステップアップする。そして、その柔軟な市場構造と多様な供給網は、さらなる盤石なエネルギー安全保障をわれわれにもたらすことになる。(G)

【ワールドワイド/市場】独で「慣性力」の公募開始 固定価格で収入予見性確保

ドイツの送電系統運用者4社は今年1月、系統安定化に必要な慣性応答サービス(慣性力)を公募する新制度を開始した。再生可能エネルギーの主力電源化、脱原子力、脱石炭の進展に伴い、これまで系統安定を支えてきた同期発電機の減少が見込まれる中、従来は発電設備に内在する機能とみなされてきた慣性力を、市場を通じて追加的に確保する点が特徴である。

ドイツの再エネ比率は50%を超える

慣性力は、需給変動や大規模電源の脱落時に周波数の急変を緩和し、広域停電の発生を防ぐ重要な役割を果たす。ドイツでは連邦系統規制庁が「システム安定性報告書」を公表し、周波数変化率(RoCoF)を一定範囲内に抑えるために必要な瞬時予備力を評価してきた。今回の制度は、こうした分析を踏まえ、系統安定化機能を制度的に確保する具体策として導入された。

調達は送電系統運用者の制御エリアごとに実施し、商品は周波数低下時に働く「上げ」と、上昇時に働く「下げ」に分かれる。さらに可用性(設備が慣性力を実際に提供可能な状態であること)に応じて区分を設け、年間を通じて高い可用性を持つ設備ほど高い報酬を得られる仕組みとなっている。特徴的なのは競争入札ではなく固定価格方式を採用した点で、2~10年の契約期間を設定することで、蓄電池やグリッドフォーミングインバーターなど新技術の参入を促す狙いがある。制度立ち上げ期に価格競争を急げば供給不足や収益不安定化を招きかねず、まずは収入の予見性を高めることを優先した形だ。

なお、火力電源など、慣性応答の主力であった同期電源も調達対象に含まれるが、通常運転に伴う慣性力は送電系統運用者との契約対象とならない。対象となるのは追加で提供される慣性力のみで、同期電源では、フライホイールなどの追加設備の導入や調相機運転によって追加分を確保する必要がある。

欧州では、慣性提供を見据えた大規模蓄電池投資が広がりつつあり、ドイツの新制度は、再エネ大量導入時代に系統安定性をいかに制度的に確保するかを示す先行事例として注目される。

佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)

【業界スクランブル/新電力】依然として高い事業リスク  多様な選択肢が不可欠

業界スクランブル・新電力】

自由化の進展により、電力事業への新規参入障壁は低くなっているが、参入後の事業リスクは決して低くない。昨今のJEPX価格高騰と需給調整市場の落札動向が、その実例であろう。

JEPX価格高騰は、昨今の中東情勢を反映しているが、先物市場ならともかく、原料のスポット価格高騰が、電力不需要期にもかかわらず、発電原価をはるかに超過する価格となるのは異常だ。

これまでも、電源を持たない新電力は、JEPX価格高騰時には相対契約締結に狂騒し、高騰が去れば市場調達を100%近くまで高めるという一貫性のない調達を繰り返してきた。この状態に業を煮やした当局が一定以上の相対比率達成を義務化したが、そもそも、原料高騰リスクに備えた戦略性ある調達を行うのは事業者としての大前提だ。

また、先月からスタートした調整力一次市場の前日入札により、落札価格のエリアごとの乖離が顕著化した。一部エリアでは早くも系統用蓄電所の投下資金回収が危惧されているらしい。一時の落札価格高騰を受け一攫千金を狙い、蓄電所への投資やアグリ事業に参入した新電力各社の中には、リスク精査が不十分な会社もあったに違いない。

もちろん、新電力にも言い分はある。現状では、電力調達の相対契約の種類が少なく、戦略性ある調達の達成は極めて困難だ。調整力にしても、社会的意義のある新規投資を実現するためには、各エリアの中長期的に必要な調整力を種類別に公表するなど、きめ細かい情報発信が不可欠だ。

新電力各社の多様な選択肢の確保と、適切な情報入手を可能とする施策の実現を、当局に期待したい。(S)

【ワールドワイド/資源】DC建設で増加するインフラ投資 米選挙でコスト負担が争点化

米国では、熱狂的な共和党「MAGA派」と、対極にある民主党支持層の中でも攻撃的な、いわゆる「バーニー・ブロ」が、ことデータセンター(DC)に関しては反対で団結するという興味深い現象が観測され始めている。電力料金高騰への懸念から、DC開発計画の一時中断を求めるインディアナ州の市民運動では、党派を超えて広範な支持を集め、「市民」対「ビッグ・テック」という構図が描かれつつある。

選挙では市民とテックが対立

昨年11月に行われたバージニア州知事選でもDCが一大争点となった。インターネット上の70%のデータが通過すると言われるバージニア州では、3期連続で共和党が知事を務めていたが、DCへの「公平な出資」を約束した民主党アビゲイル氏が当選。新知事は12月に電力料金の値上げを許可したものの、値上げ幅を低く抑え、インフラ投資の跳ね返りから一般需要家を保護する仕組みも導入した。

米ポリティコの調査では、電力料金の値上げから守ってくれると、米国民が考えているのは民主党だという(民主党37%、共和党25%)。また、米国民の37%が近隣へのDC建設に賛成で、反対の28%を上回ったが、毎月の電力料金が5ドル上がると賛成は22%程度に下がり、反対を下回る結果が示された。

米エネルギー省は、DCによって2028年までに電力需要が拡大し、米全体の需要の12%を占めると推計している。この需要増は、短期的には安定した電力供給が可能で、比較的クリーンな天然ガスの利用増加につながり、全米の1日あたり天然ガス消費量の7%に相当する60億立方フィート程度が追加的に必要ともされる。その分、CCS(CO2の回収・貯留)などのガス火力関連投資がますます進むと考えられるが、国民へどの程度影響があるか注目である。

今年3月にはトランプ大統領の肝いりで、DC導入による電力料金への影響がないよう「ビッグ・テック」7社が誓約書に署名したが、法的拘束力はない。11月の中間選挙では、DCとエネルギー・コストが一大争点となることは必至だ。

(志賀雄樹/エネルギー・金属鉱物資源機構上席エコノミスト)