【業界スクランブル/ガス】
9月にロシアと中国で天然ガスパイプライン「シベリアの力2」建設に向けた覚書が締結された。2030年に供給開始予定だ。「シベリアの力1」はすでに稼働中であり、中国向け供給量は2の完成後にウクライナ戦争前の欧州向け総量の3分の2に達する。
2の価格はいまだ未合意だが、交渉は買い手である中国に有利な状況にある。欧州市場を失ったロシアにとって、中国は最大の潜在的買主。一方、中国は総需要量の6割を国内生産で賄い、輸入もLNGと中央アジアパイプラインガスを併用することで、代替オプションを複数持っている。こうした状況下でも交渉を進めざるを得ないロシアは、相当に危機的状況といえよう。
日本はどうか。売主に足元を見られて安価なLNGを購入することは難しいと言われてきたが、今後は価格・条件面で売主と戦える局面を迎える。30年頃までに米・カタール中心に供給能力が増強され、総生産量は現状の1・5倍に増加。満期プロジェクトを多く抱える日本買主はタイムリーに需要を創出できる。ベース玉はより低コストの長期契約を選択し、市場調整はスポット・短期で機動的にという柔軟なポートフォリオ設計を実現する好機なのだ。
米国が上流投資を迫ってくるアラスカLNGは、高コストによる高価格玉の引取義務や遅延などのリスクを負う可能性がある。しかし市場高騰時の自然ヘッジや確実な融通枠確保、柔軟な契約条件実現などのメリットがあるため、政府系金融の負担共有や小さく生んで確実に育てる段階投資などでリスクヘッジを行いつつ、メリットを最大限享受する努力をすべきだ。(G)





