NDC提出巡りEUで内部対立 意見まとまらず苦肉の策で提出

【ワールドワイド/環境】

2025年はNDC(国別目標)の改定年に当たり、地球温暖化防止国際会議・COP30に向けて35年目標の提出が締約国に求められてきた。この中で注目を集めたのが「気候リーダー」を自認するEU(欧州連合)のNDC提出を巡る混迷だ。

23年のCOP28で「化石燃料からの移行」が盛り込まれたことを踏まえ、EU内には35年に向けて野心レベルをさらに引き上げるべきかで野心派(北欧・西欧)、慎重派(東欧諸国)の意見対立が生じた。24年前半には欧州委員会が40年に1990年比マイナス90%という長期目標を提案したが、これは現行の2030年マイナス55%目標と50年ネットゼロ目標を直線で結んだ軌跡よりも削減率が大きいものであり、野心派の意見を反映したものであった。

しかし24年半ばの欧州議会選挙ではエネルギーコストの上昇への不満などが噴出し、右派、極右政党が議席を伸ばし、環境政党は議席を減らすこととなった。40年マイナス90%目標についてもフランスが「原子力の扱いが不明確」、ドイツが「産業競争力、電力価格への懸念がある」、ポーランドなどが「石炭依存が高い東欧諸国の転換コスト負担が大きい」との理由で反発が起きた。野心的な目標設定をけん引してきたドイツ、フランスが野心レベル引き上げに異を唱え始めたことは大きい。

25年前半になっても40年数値目標(その結果、導き出される35年NDC)、原子力、CCS(CO2回収・貯留)などの扱い、国際クレジット使用の可否で意見がまとまらず、NDCの提出が遅れることとなった。結局、EUは35年NDCとして「90年比マイナス66・3%~マイナス72・5%」という幅のある数値を提出した。前者の数値は現行の30年マイナス55%と50年カーボンニュートラルを結んだ直線上にあり、後者の数値は30年マイナス55%と40年マイナス90%を結んだ直線上にある。40年目標に合意できないことによる苦肉の策であった。

NDCを巡る加盟国間の内部対立はウクライナ戦争以降、エネルギー価格が高止まりし、米国、中国に対する産業競争力の喪失、雇用不安などをかかえ、従来のように脱炭素の高い理想を掲げて世界をけん引する余裕を失ったEUの苦悩を雄弁に物語っている。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【ガス】LPガスのミッションを発信 認知拡大に課題

【業界スクランブル/ガス】

日本LPガス協会はこのほど、2050年に向けたLPガス業界の羅針盤となる「LPガス産業2050ミッション」および今後5年間の実行計画「LPガス産業2030アジェンダ」を発表した。エネルギーの安定供給と災害対応能力強化に向け果たすべき役割を明確にした。田中惠次会長は、「エネルギー安全保障および国土強靭化に最も貢献できるエネルギーはLPガス。ミッションとアジェンダを着実に実行することで50年カーボンニュートラル(CN)実現に貢献する」と宣言している。

ミッションでは、「災害時も平時においても常にご家庭へLPガスを安定供給する体制を堅持」、「常にお客様に選ばれるエネルギーサービスを提供し、持続可能な産業として発展」、「社会的ニーズに応え、LPガスによるCN化を着実に実行」の3点を挙げ、アジェンダでは具体的なアクションとして六つの方向性を示した。

田中会長は「まだまだ知られていないLPガスの魅力と価値をより深く理解してもらうことを念頭にしている」というが、「PR不足」はこれまで多くの場面で指摘されてきた。例えば、文科省が100%設置を目指す体育館空調において、災害時に避難所となり得る施設への供給に最適なエネルギーはLPガスと言えるだろう。しかし首長の間で、発電、空調での活用について浸透しているとは言えない。第7次エネ基では、これまで石油製品扱いだったLPガスが、初めて項目立てて重要なエネルギーと明記された。これは追い風となる。LPガスの認知拡大や理解促進に向け、業界一丸となった取り組みに期待したい。(F)

非化石柔軟性資源に高い関心 イタリアの初回入札に応札殺到

【ワールドワイド/市場】

欧州では系統柔軟性の確保が喫緊の課題となっている。とりわけイタリアの電力システムは、需要が集中する北部と再生可能エネルギー電源が集中する南部で対照的な需給状況が生じており、南北を結ぶ電力系統の増強と再エネ電源の導入のペースの不均衡に起因する、再エネ電力の出力抑制増加が課題となっている。同国の送電事業者テルナは、こうした容量制約の解消に向けて、2030年までに39‌GWの送電容量増強と71・5GW時の電力貯蔵設備の新設が必要になると分析している。

こうしたニーズに対処すべく、政府とテルナは系統用蓄電池(BESS)や揚水発電といった非化石柔軟性資源の容量調達メカニズム(MACSE)を設計し、欧州委員会によって23年末に導入が承認された。テルナの系統開発計画では、MACSEを通じて30年までに、出力制限が頻発する南部を中心に50‌GWの電力貯蔵容量を確保する目標が掲げられている。25年9月末に南部・島しょ部地域のプロジェクトを対象とする第1回オークションが実施され、合計14件、9・968GW時の貯蔵容量が調達された。選定されたプロジェクトは、28年までの運転開始が義務付けられ、貯蔵容量(MW時)ベースの固定プレミアムが運開後15年間提供される。

テルナは、応札容量が募集量の4倍超に達したことや加重平均落札価格が上限価格を大幅に下回った点を強調しており、事業者の関心の高さと競争環境の激しさがうかがえる。他方、エネルやエニといったイタリアの大手事業者によって低価格で入札された大規模プロジェクトが落札容量の大半を占めたことが低価格化の要因になったと分析されている。また将来のバッテリー価格の下落を見込んだ投機的な入札が多かった可能性も指摘されており、慎重な見方をする関連メディアも散見される。

またEU(欧州連合)の動きを見ると、電力市場改革とクリーン産業ディールを通じて、非化石柔軟性資源を対象とする財政支援スキームの共通設計要件が確立されるなど、支援の導入に向けた下地が着実に整備されつつある。MACSEはこうした支援スキームの先駆けと見られている。今回のオークションの結果についても、制度設計に関する知見の蓄積に資する重要な機会とみる報道も多く、今後も選定されたプロジェクトの事業実現までの道筋も含めて、制度の有効性を見極める必要があるとしている。

(伊藤 格/海外電力調査会・調査第一部)

【新電力】制度見直し議論真っ盛り 欠ける中長期の視点

【業界スクランブル/新電力】

電気事業に関連する諸々の制度の見直し・導入の検討が進んでいる。「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ」における、「小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方と中長期取引市場の整備に向けた検討について」の検討は、その目的の整理が必要との見解に至った。3年程度の量的確保では燃料確保につながらないこともあり、本来の目的が定まっていない印象を受ける。議論の方向性に注目したいところだ。

高度化法の見直しも注目されている。25年に策定されたエネルギー基本計画における、40年時点の電源構成に合わせる形だ。ただ、以前の目標設定時とは異なり、国際的なイニシアチブを表明している企業の多くが自ら再生可能エネルギーを確保する状況であり、小売電気事業者だけに目標を課すことは実態にそぐわない。GX―ETS第2フェーズの導入も間近に迫る。向こう数年の実態としての再エネ調達に実務的に沿った形、かつ追加性のある非化石電源の導入のインセンティブにつながる制度設計を期待したい。

足元では、系統用蓄電所の接続検討増加による系統連系の問題が顕在化している。検討する間に系統の状況が変化し、何度もやり直さなければならない案件も多発している。まっとうにビジネスを検討している事業者だけを検討の俎上に載せる整理が目下の課題である。

高市早苗政権になり、物価高対策・社会保障料の見直しなどが大きな話題となりつつある中、中長期的なエネルギーに対する議論が論点として薄くなっていると感じる。もう少し踏み込んだ議論に期待したい今日この頃だ。(K)

COP開催地近傍の石油開発 支持したルーラ大統領に批判

【ワールドワイド/資源】

ブラジルの石油生産量は、2025年10月に日量403万バレルと初めて400万バレルを上回った。リオデジャネイロやサンパウロの沖合に延長約1000㎞、幅約100㎞にわたり広がる下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造、プレソルトの生産がこの増産をけん引した。今後もこのプレソルトを中心に増産が計画されている。ただし、新たな大規模油田の発見がなければ、生産のピークは28年から35年となる見込みだ。

その後のブラジルの生産維持、増産の鍵を握るとされるエリアの一つが、アマゾン川河口に広がるフォズ・ド・アマゾナス盆地だ。同盆地は有望エリアとされながらも、稀有な生態系を有することなどから掘削が認められない状況が長く続いていた。国営石油会社ペトロブラスが掘削許可取得に奔走し、25年10月にようやく掘削が開始された。

ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は環境保護政策を重視しているが、クリーンなエネルギー源への転換を進めるための財源として石油収入を利用する考えで、石油、天然ガスの探鉱・開発に注力している。フォズ・ド・アマゾナス盆地での掘削が可能となったのも、ルーラ氏の後押しがあったためと見られている。

しかし、このようなルーラ氏の姿勢が同年11月にブラジル北部ベレンで開催された地球温暖化防止国際会議・COP30で波紋を呼んだ。ベレンはアマゾン川の河口付近に位置している。ルーラ氏は、世界最大の熱帯雨林アマゾンを有するブラジルが、熱帯雨林を保護し、気候変動の救世主となるとともに、森林を保有する国々が森林伐採や森林破壊の被害者として気候変動対策の資金を受け取れるようにしたいとの思いのもと、この地をCOP30の開催地に選んだ。

そのルーラ氏がベレンの目と鼻の先の環境的に極めてぜい弱な海域での掘削を支持したということを、環境保護団体や先住民コミュニティなどが強く非難し、この掘削の差し止めを求め訴訟を起こしたり、COP30の会場に侵入したりして抗議活動を決行したのだ。

アマゾン川河口での掘削に対しては、より急進的なマリナ・シルバ環境・気候変動担当大臣など、ルーラ政権内にも根強い反対派がいる。これら内外の批判に対応しながら、ペトロブラスは掘削を完遂できるのか、そして、油田発見や開発、生産に結びつけることができるのか状況を注視したい。

(舩木 弥和子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【電力】中長期市場の趣旨は理解も 議論の客観性に疑問

【業界スクランブル/電力】

2025年6月以来、議論されてきた「小売電気事業者の量的な供給力確保」について、原案が年末に提示された。本案は、国際燃料価格の高騰時に、スポット電力市場からの調達に依存する小売事業者が経営悪化により退出し、需要家に負担や混乱を招いたことから、導入が検討されたものである。

原案では、実需給の3年度前に想定需要の5割、1年度前に7割の供給力確保を求める。小売事業のリスク軽減とともに、燃料調達など発電事業の予見性を上げることも狙いだ。同時に中長期市場の導入も計画される。

趣旨は分からぬでもないが、この問題の本質は、スポット市場の価格が‶安値安定するもの″と市場参加者に誤解させてしまったことではないか。教科書の世界の「完全市場」を前提にした「限界費用」入札を強制までしたことが、市場が発信すべきシグナルを奪っている可能性については、もう少し真面目に議論されるべきではなかったか。売手の手の内が見える緊張感のない市場で、調達した電気をそのまま顧客に流すだけの安易な事業者を増やすために市場が作られたはずはない。

商品の″いま現在の価値″を決定するスポット市場は、市場取引の根幹と言える。根幹の問題を別の手法で解決しようとすれば、新たな矛盾を産むことになりはしないか。例えば、「限界費用」入札のスポット市場と「固定費と可変費」の中長期市場が本当に共存できるのかということだ。

「電力システム改革の検証」から始まったが、旧来のメンバーを中心に据えた議論では、客観的な「検証」をする意思がなかったと言われても仕方がない。(M)

円安是正からの逃避 暫定税率廃止は天下の愚策

【今そこにある危機】小山正篤/国際石油アナリスト

円安を主因とする燃料油高への対応が補助金や減税でいいのか。

こうした政策は円安圧力となり、原油輸入費を押し上げてしまう。

燃料油価格補助金に続くガソリン・軽油の暫定税率廃止は、日本自身による「日本弱体化政策」だ。

日本はこの4年間、円安が原油高の主因をなす現実から逃避し、巨額の補助金で国内石油価格を操作して「仮想現実」に自閉してきた。その逃避と自閉の延長線上に、今回の暫定税率廃止がある。これが衆参両院で全会一致、まさに挙国一致で決定されたところに、日本の民主政の劣化が鮮明に現れている。

政治が価格を決め続けた4年間だった


62年前の税率に回帰 妥当性問わず思考停止

ガソリン・軽油の本則税率は62年前に当時の道路財源として決まったものだ。今日の日本への妥当性は一切ない。

1964年度、第3次池田勇人内閣の下で税率をガソリン1割、軽油は2割引き上げたのが、今日の本則税率だ。第4次道路整備5カ年計画に沿った特定財源だった。ガソリン税率28・7円は現在の貨幣価値では140円以上に相当する。国内総生産(GDP)も今の5分の1に満たぬ日本が、成長の鍵となる社会資本に投じるため、あえて戦略的に行った増税だった。その後、74年度に税率引き上げが暫定税率として行われて以来、暫定税率は税収見積と道路予算を整合させる調整項となった。

したがって2009年度に一般財源化された時点で、税率を本則と暫定に分ける理由は失われていた。安全保障などを含む広い視点から、税率・税制を抜本的に見直し、それを本則税率に一本化して定めるべきだった。この必要性は今日でも同じだ。

しかし国の将来への思考を欠いたまま、目先の値下げにとらわれて62年前の名目税率に戻す─これが次世代に残すのは「大安売り」の石油燃焼後の二酸化炭素と、一層の財政負荷だけだ。燃料油高の原因は原油高だ。その対策は何より原油輸入代の低減だ。日本はこの本来の原油高対策から逃げ続けている。

すでに3年以上、日本の原油高の主因は円安だ。22年1月時点からの原油輸入価格の上昇は、24年平均では9割弱、25年は本稿執筆時点で100%が円安効果による。ドル建て輸入価格は24年11月以降の低落ですでに「原油安」だ。もし25年6月に22年1月と同じ1ドル=115円だったら、ガソリン価格は補助金なしで約160円まで下がっていた。 

原油高がすぐれて円安問題である以上、その対策も「円の価値の防衛」を基本とせねばならない。しかし燃料油補助金も暫定税率廃止も、財政規律を犠牲にした安易な石油消費・輸入の支援であり、逆に円安圧力を生む。すなわち日本の原油輸入代を押し上げる「原油高誘導策」だ。

22年3月以降、燃料油補助金は実質的に政府による「国内価格操作事業」として継続した。燃料油小売価格は国際価格との連動性を失い、世界の石油需給動向から遊離した「仮想現実」と化して低位安定した。暫定税率廃止もこの「政治家が石油価格を決める」という流れの中で決まった。国際石油価格の変動を迅速に国内に伝え、無数の経済主体の行動を共通に方向付け、能動的な適合を促す。それが国内市場の価格機能だ。日本と世界の石油情勢を結ぶ手掛かりであり、石油需給調整の自律神経だ。 

今に至る約4年間、日本はこの自律神経をまひさせてきた。省・脱石油の努力をせずとも、日本のガソリン価格はインド大都市圏をも下回る廉価に人為的に抑えられた。今や国費負担による燃料油低価格は強固な既得権と化している。これは1970年代の石油危機を積極果敢な燃料転換、技術革新、産業構造転換によって克服した日本の姿と、対極にある。国民の創造力を自ら萎縮させ、原油高への対応力を衰弱させている。

迷惑メガソーラーはあくまで一部 地域裨益型まで排除は勿体ない

【オピニオン】増川武昭/太陽光発電協会「JPEA」事務局長

2024年の1年間で新規に導入された太陽光発電(PV)は世界全体で6億kWに達し、日本の最大電力需要の4倍近くの容量が、たった1年で建設されたことになる。他方、国内におけるPV導入量は減少傾向にあり、24年の導入量は世界の1%未満と残念な状況にある。

国内の電力需要の10%程度を賄うまでに拡大したPVだが、近年は地上設置を主として新規導入が大きく落ち込んでいる。第7次エネルギー基本計画では、40年の電源構成に占めるPVの割合が23~29%とされ、現状比で2.2~3倍近く増やす必要があり、達成は容易ではない。

新規導入量減少の理由として、残された適地が少ないからとよく言われるが、日本の平地面積(約13万平方㎞)に占める既設の地上設置PVの面積は0.4%程度で、屋根設置を含めても0.6%程度に過ぎない。地域と共生し荒廃農地の活用などによって地域経済に貢献するようなPVについては、まだまだ導入の余地があることは明らか。もちろん、地域との共生も法令順守もできないようなPVは撲滅されるべきである。

地上設置型が減少している理由としては、系統制約や規制強化などの影響があるが、コスト低減を上回るFIT(固定価格買い取り)価格の低下による事業予見性確保の問題が大きい。例えば、足元の地上設置の平均的な発電単価は10~13円/kW時だが、買い取り価格が9円未満となったFITでの新規開発は難しくなっている。

解決には、FITによる支援がなくても自立的に導入が進むことが肝要。現在その自立に近づいてはいるが、そのためには一層のコスト低減に加え、需要家による長期買い取りなどに基づくPPA(電力購入契約)事業の拡大、さらには予見性が確保できるカーボン価格の整備が求められる。自立に近づいている事業用PVについては、FIT/FIP(市場連動買い取り)の支援はもういらないという意見があるが、小さな支援で自立という大きな効果が期待できるPVこそ公的に支援する意義と価値があるのではないか。

PVの健全な普及拡大には、事業者にとっての事業予見性確保が重要だが、大前提として、法令順守のみならず地域との共生が不可欠。山林を切り開き環境破壊が懸念されるようなメガソーラーは、規制強化に加えコスト的に合わず今後は激減するだろうが、これからは地域に貢献し地域から歓迎されるPV事業を目指すべきだ。地域資源である太陽の恵みを活用し、農業の担い手が主役の営農型や、地域主体で地産地消が可能なPVだからこそ、地域に便益をもたらす再エネになり得るし、実例も少なくない。一部の迷惑事例を理由に、地域に裨益する大きな可能性を秘めたPVを潰してしまってはあまりにももったいない。

ますかわ・たけあき 京都大学工学部資源工学科卒。1985年昭和シェル石油入社。分散電源事業課長、電力販売課長として電力ビジネスに携わる。2013年ソーラーフロンティア出向。17年6月JPEA事務局長。企画部長を経て23年1月事務局長再任。

地球温暖化リスクへの備え 「適応策」をビジネス機会に

【脱炭素時代の経済評論 Vol.22】関口博之 /経済ジャーナリスト

地球温暖化対策において温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」と、気候変動による影響を軽減しリスクに備える「適応策」は車の両輪とされる。特に途上国での適応策が急がれるが、それにはやはり資金が必要だ。2025年11月にブラジルで開かれたCOP30(国連気候変動枠組条約締約国会議)では「適応資金を35年までに3倍に増やす努力」が呼びかけられた。前年に決めた「35年までに年3000億ドル」の途上国支援の内訳として適応により手厚く資金を回すことになるだろう。

資金ニーズは高い。国連環境計画は途上国側のニーズが30年までに年3870億ドル(約60兆円)に上ると推計している。こうした中、日本側でも「当然、日本は資金の出し手だが、その使途を日本企業のビジネスにつなげられないかという課題認識は強く持っている」(町井弘明・経済産業省地球環境対策室長)という。

経産省が発行する事例集

「適応策をビジネスに」の発想だ。インフラ強靭化、気象観測や監視・早期警戒システム、エネルギー安定供給や農業生産基盤の強化などもビジネスになり得る。レジリエンス強化はもともと、日本企業が得意とするところ。経産省は途上国での「適応ビジネス」のベストプラクティスを事例集としてまとめ、16年から毎年公表している。最新版には58例が載っている。

例えば防災情報システムでは大分市のスタートアップによる事例を紹介。気象レーダーや河川の水位、ドローン映像など国や自治体、研究機関らが別々に持っているデータを収集・分析することで水害の危険情報を行政や住民がいち早く得られる仕組みを作るもの。インドネシアでの導入を目指しマスタープランの策定を働きかけている。

堤防補強などインフラ投資には際限なく予算が必要になる恐れもあるが、こうした早期防災情報で迅速な避難誘導につなげれば投下費用を抑えつつ防災効果を高めることができる。インフラ建設で圧倒的に優位な中国に対し、日本はこうしたソフト力で対抗するのが上策だ。

「『台風発電』と衛星通信サービスのパッケージでの提供」を掲げるベンチャーもいる。通常の風車のようにプロペラが回るのでなく、垂直軸に取り付けた円筒形の羽根が回転して発電するマグナス式風車を使い、台風でも発電が可能だという。かつ災害時にはこの電力を使って衛星通信が行えるように設計されている。フィリピン島しょ部で事業化している。

確かに「種」はある。経産省も新設した「グローバルサウス補助金」を使い支援しているが、なかなか案件組成にはつながっていないという。なぜか。「適応ビジネスは技術単体だけでは成立しない。複数の技術、事業者を巻き込みサプライチェーンを作っていくのが難しい」と町井室長は指摘する。自ら案件を持ち歩いて参画者を募る、「適応ビジネス」をけん引しようというプレーヤーがまだ乏しいというのだ。途上国に防災・減災の「種」をまくだけでなく「ビジネス」に育てる、そんな挑戦者を、と望みたい。そのことは日本が拠出する適応策のための資金を有効活用し、「循環」させることにもつながるだろう。

独自のメタン熱分解技術を確立 重工業分野の脱炭素化に挑む

【エネルギービジネスのリーダー達】ケビン・ブッシュ/モルテン・インダストリーズCEO

科学者のバックグラウンドを持つ起業家が、重工業分野の脱炭素化に挑んでいる。

水素とグラファイト(炭素)を生産する独自のメタン熱分解技術でその実現を目指す。

ケビン・ブッシュ 米ヴァンダービルト大学で機械工学を専攻した後、スタンフォード大学で材料科学の博士号を取得。その後、高性能ペロブスカイト太陽電池の商用化を目指すスタートアップ「SwiftSolar」を共同創業。2021年から現職。

メタン熱分解はメタンを水素と固体炭素に分解する技術だ。このプロセスではCO2を排出せずに水素を製造でき、これをターコイズ水素と呼ぶ。米モルテン・インダストリーズは、このプロセスを独自に発展させた技術を有し、2021年の設立以来、実用化に取り組んでいる。創業者でCEO(最高経営責任者)のケビン・ブッシュ氏は「クリーンなグラファイト(炭素)と水素を提供することで、重工業セクターの脱炭素化に貢献する」と語る。


コロナ禍を契機に起業 科学者の無関心に危機感

ブッシュ氏は科学者と起業家両方の顔を併せ持つ。スタンフォード大学で材料科学の博士号を取得。ペロブスカイト太陽電池の研究で数々の成果を挙げ、その後、高性能ペロブスカイト太陽電池の商用化を目指すスタートアップを共同創業した。

モルテン・インダストリーズ設立の契機となったのは、新型コロナウイルスのパンデミックで世界的に経済活動が停滞したにもかかわらず、CO2排出量がほとんど減らなかったという事実に危機感を抱いたことだ。

ブッシュ氏は「多くの科学者がこの問題に挑んでいない状況に危機感を覚え、自ら解決に取り組むべきだと考えた」と振り返る。そして、セメント、鉄鋼、化学製品などの重工業セクターが世界のCO2排出量の約40%を占める点に着目し、脱炭素化の焦点を定めると、同セクターに広く供給される水素に目を付けた。

モルテン独自のメタン熱分解技術の特徴は、グラファイトを生産できる点にある。グラファイトとは、リチウムイオン電池の負極材をはじめ、耐熱性や導電性などを生かした多様な用途に利用される高純度な固体炭素だ。従来のメタン熱分解で得られる固体炭素はアスファルトなどに使われるカーボンブラックが主流だったが、モルテンはグラファイトを生成できる技術を確立した。メタン熱分解技術を開発する他社に比べて一歩抜きん出た成果を挙げている。

さらには、このグラファイトとターコイズ水素をCO2を排出せず、かつ安価に生産できる点も特徴の一つだ。電気加熱式のメタン熱分解リアクターを用いて確立されたこの技術は、クリーン電力を利用することで、プロセス全体でCO2を排出しない。水素は水電解によって得られるグリーン水素と比べて約5分の1のエネルギーで製造可能であり、グラファイトは採掘や長距離輸送が不要であるため、天然鉱石由来の生成プロセスよりも安価に供給できる。

グラファイトの供給は現在、9割以上を中国に依存しており、サプライチェーンの脆弱性が懸念されている。その上、「天然鉱石を精製する中国の生成プロセスはCO2排出量が多い」(ブッシュ氏)のが実態だ。モルテンのメタン熱分解技術を用いることで重工業の脱炭素化を後押しするだけではなく、新たな供給源として、サプライチェーンの多角化に寄与できる。

実際に、水素、グラファイトのいずれもが、付加価値のある技術として国内外の企業から多数の引き合いを受けており、グラファイトについては、バッテリー関連の化学メーカーとの取引が具体化しようとしている。それに併せて現在、同社は試作段階から本格的な生産体制への移行を進めている。

米カリフォルニア州オークランドの約2800㎡の拠点には約20フィートコンテナサイズのモジュラーユニットを設置済みで、今後はこ‌れを20台増設し、年間10‌GW時相当のグラファイトを供給できる体制を目指す。これが、「主要バッテリー材料メーカーとしての地位を確立するために不可欠な規模」という考えだ。

ターコイズ水素については、24年7月に米エネルギー省(DOE)から約540万ドル(約8億円)の助成を受け、USスチールなどと共同でカーボンニュートラルな鉄鋼生産技術の開発に向けたプロジェクトを開始した。石炭の代わりに水素を使ってCO2排出を減らす「水素還元製鉄」の実用化に向け、メタン熱分解に関する知見と技術を提供している。


創業者2人が役割を補完 実用化へ着実に進む

共同創業者でCTO(最高技術責任者)のキャレブ・ボイド氏も、ブッシュ氏と同じくスタンフォード大学で材料科学の博士号を取得した科学者だ。ただし、事業における役割は異なる。ブッシュ氏がメタン熱分解技術の専門性を生かしてアイデアを生み、ボイド氏がそれを整理して具体化する。両者の補完関係によって、独自の熱分解技術の実用化は着実に進展している。重工業セクターの脱炭素化という困難な課題解決へ、科学者同士の二人三脚の挑戦が突破口を開こうとしている。

維新に振り回される高市政権 高い支持率でも行く末は霧の中

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

高市早苗政権が発足して初めての本格的な論戦が行われた臨時国会が閉会した。高市首相自身の国会答弁に端を発した日中関係の緊張、円安・長期金利の上昇基調の中でのマクロ経済政策など重要な論点が山積していたが、焦点になったのは日本維新の会との政権合意書で交わされた「1割を目標に衆院議員定数を削減するため、2025年臨時国会において議員立法案を提出し、成立を目指す」という約束だった。

この合意書に基づき提出された法案は、1年以内に国会で結論が出なければ自動的に小選挙区20議席、比例25議席が削減されるという、法律の論理を超えたトンデモ法案であったため自民党内でも異論が多く、審議されることはなかった。

自民は、その前に提出されていた企業・団体献金規制に関する法案の審議をのんびりと行いながら、後発の定数削減法案の審議入りをさせないという老獪な国会戦術を取ったのだ。

維新は悔し紛れに、企業・団体献金規制関連法についての意見を学識者から聞く参考人質疑の終了直後に採決動議を出すという横紙破りの行動に打って出たが、自民を含め他党は冷ややかに対応した。維新の幹部は、当初は定数削減を改革のセンターピンとして、臨時国会で実現しなければ連立から離脱するとか解散せよなどと言ってきたが、勇ましいのは口先だけで結局自民に付いていく「下駄の雪」を選んだ。


国会への連帯責任なく 自らの関心事項に執着

自民党総裁選で高市氏が勝利した後、公明党が政権から離脱したため、維新の力を借りないと高市氏は国会で首班指名されない状況となり、わらをもすがる思いで「連立」政権を組むこととなった。しかし、維新からは閣僚を出していないので国会に対して連帯責任を負うことはなく、運命を共にする連立政権とは本来言えない。

臨時国会では、こうした責任を共にしないパートナーの無理難題に振り回される高市政権の姿を示してしまったのではないか。維新は、外交、マクロ経済政策、エネルギー政策といった国家の根幹に関わる政策にはあまりこだわりを見せず、定数削減や副首都構想といった目先の自らの関心事項に執着している。「連立離脱だ」「解散だ」と強い言葉で高市政権を揺さぶる割には、実際には政権から離脱しようともしない。

高市政権は、そんな維新に振り回されているうちに体力を失っていってしまうのではないか。外交でも経済でも日本にとっての正念場を迎える今年、高い支持率の中でも高市政権の行く末は霧の中と言わざるを得ない。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2026年1月号)

NEWS 01:導入目標は堅持するも 相次ぐeメタン戦略見直し

都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化の鍵を握るeメタン製造を巡り、世界に先駆けて取り組んできた東京ガスや大阪ガスが相次いで戦略の見直しに踏み切っている。

東ガスなど4社は、米キャメロンLNG基地近傍で検討してきた「ReaCH4プロジェクト」の解散を決めた。インフレに伴う資機材価格や建設コストの上昇を受け、事業の経済性確保が難しいとの判断だ。東ガスはカナダでのプロジェクトを有力候補とし、30年度までの製造開始を目指す。

一方、大ガスなどは、米中西部ネブラスカ州で進む「LIVE Oakプロジェクト」への参画を決めた。これまで先行して検討を進めてきた米トールグラスとのプロジェクトに代わる、「最有力」との位置付けだ。

こうした各社の戦略見直しに、「eメタン導入機運の大きな後退だ」と指摘するのは、橘川武郎国際大学学長。というのも戦略見直しにより、東ガスは年間13万tから3万t規模に、大ガスも20万tから7・5万tに生産規模が縮小するからだ。

都市ガス業界は、30年にeメタン1%の導入を中間目標に据えるが、日本ガス協会が2025年6月に策定した「ガスビジョン2050」では、50年時点でeメタン・バイオガスの割合を「90~50%程度」と高い目標を掲げたばかり。日本勢が世界のeメタン転換をけん引できるのか。正念場だ。

eメタンの導入目標を堅持できるか


NEWS 02:エネ庁が「核融合室」設置 商用化実現には疑問符も

資源エネルギー庁が2025年11月、核融合スタートアップ企業への支援を実施する「フュージョンエネルギー室」を設置した。かねて核融合に強い関心を示してきた高市早苗首相の肝いり政策と言っていい。

政府は6月、実証目標時期を30年代へと前倒しした。高市政権となった11月には予算や税を重点支援する「国家戦略技術」の6分野の一つに指定。実際に12月に成立した補正予算では、関連予算の規模を従来の200億円から1000億円を念頭に組んだ。

高市氏に近い自民党議員は「1000億円に持っていけたことには満足している。核融合分野で日本は勝ち筋がある。補正予算で重点投資する戦略17分野の中でも、世界を取れる可能性が最も高い」と語る。

地方でも核融合を巡る動きは活発化している。12月には核融合ベンチャーの一社、ヘリカルフュージョンが、愛知県を地盤とするアオキスーパーと核融合発電による電力の売買契約を結んだ。また同月、青森県の宮下宗一郎知事は六ヶ所村に発電実証を行う原型炉の誘致を目指すと表明した。

一方、政府やスタートアップの前のめりな姿勢を疑問視する向きもある。事実として、日欧共同プロジェクトであるフランスの国際熱核融合実験炉(ITER)では、エネルギーを取り出すどころか核融合状態の長時間維持すら成功していない。事情通は「50年になっても脱炭素に貢献できるレベルでの発電など絶対に不可能だ。いま資金集めに奔走している企業は、投入したエネルギーに対して1Wでも多く発電できれば『発電できた』と言い張るのだろうが、詭弁以外の何物でもない」と手厳しい。

過度な期待は禁物か。


NEWS 03:ETSの実施指針取りまとめ 上下限価格水準も提示

2026年度のGX―ETS(排出量取引制度)導入を前に、経済産業省・産業構造審議会の小委員会が、排出枠の割当の実施指針や、26年度の上下限価格水準を取りまとめた。上限はCO21t当たり4300円、下限は1700円とする。

上下限価格は、価格安定化を目指し設定するもので、制度の重要なポイントだ。毎年度、年度開始前に設定する。上限価格は、産業や国民生活を守るセーフティーバルブの役割として導入する。他方、市場価格が一定期間下限価格を下回る場合は「リバースオークション」で排出枠の流通量を調整する。事務局は12月9日の会合で、上限価格は既存のJクレジットなどの価格水準とは独立的に設定する考えを示していた。

割当方法についてはこれまで示された通り、エネルギー多消費分野などは業種ごとにベンチマーク(BM)を設定。これに基づき、企業ごとに割当量を算定する。例えば発電事業はBMで、化石燃料を使う発電設備の直接排出が対象となる。特定供給を含む自己託送や自家消費、熱・蒸気に関する排出は除く。まずは燃種別BMとし、徐々に全火力BMへ移行する。

他方、BMの設定が困難な業種は、一定比率で削減していくグランドファザリング(GF)方式とする。ただ、今後の展開として、過去の削減努力を適切に評価し、業種特性を踏まえ割当を行う観点から、GFの対象業種もBMへの移行を検討することとした。

また、BMについても今回設定した水準が機能しているかなどを点検し、必要に応じて31年度以降の割当方法を見直す。

排出枠取引市場はGX推進機構が設置・運営し、27年度秋ごろの開設を予定する。その設計は26年度に進める。


NEWS 04:FIT・FIPを見直し 事業用太陽光の支援廃止も

北海道・釧路などの不適切メガソーラー開発に端を発した規制強化の動きがまた一歩進んだ。自民党政務調査会が経済産業部会や環境部会などの合同会議で政府への提言を12月15日に取りまとめ、メガソーラーについてFIT(固定価格買い取り)・FIP(市場連動買い取り)での支援の廃止を視野に検討するよう求めた。さらに新設する関係閣僚会議でも議論を深める方針だ。

太陽光支援の在り方が変わる

提言では、①不適切事案に対する法的規制強化、②地域の取り組みとの連携強化、③地域共生型への支援重点化―の3本柱を掲げた。特に③では、メガソーラーは現状を踏まえればFIT・FIPで支援する必要性が乏しく、廃止を含めた検討を行うよう提案。今後は地域共生型や次世代型電池を重点支援するよう求めた。

さらに16日、経済産業省が調達価格等算定委員会を開き、事業用太陽光(地上設置)の2027年度以降の扱いを議論。コスト低減が進み、FIT・FIPによらない案件形成もみられ、「自立の時期が到来しつつある」とし、支援の必要性を検討するとした。今後、最新のコストデータを踏まえて議論する。併せて地域共生を図る事業への支援重点化も検討する。

規制強化を巡っては、25年秋から関係省庁連絡会議でも検討を進めてきた。政府は、25年内に施策を取りまとめる予定としている。

相次ぐ燃料油のカルテル疑惑 高騰対策の陰で悪しき商慣行

【論説室の窓】木村裕明/朝日新聞 論説委員

ガソリンや軽油の流通業者に対する公正取引委員会の摘発が相次ぐ。

価格高騰を抑える補助金が投じられてきた中でのカルテルに、独禁当局の視線は厳しい。

運送業者などに販売する軽油の価格の維持や引き上げを図るカルテルを結んだ疑いがあるとして、公正取引委員会が2025年9月、石油元売り最大手のENEOS系や東日本宇佐美など石油販売8社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで家宅捜索をした。

フリート販売と呼ばれる、運送業者向けのガソリンスタンド(GS)で供給する軽油の価格を調整していた疑いを持たれている。東京に事業所がある運送業者などに売る軽油について、8社の営業責任者らが長期間にわたり、定期的な会合などで情報を交換していたようだ。8社で市場の過半のシェアを占め、特にENEOSや宇佐美のグループのシェアは高いとされる。

真相究明と事業者の信頼回復が急務だ


刑事事件化視野に強制調査 3年ぶりの「犯則調査権」

公取委の岩成博夫事務総長は記者会見で、刑事事件化を前提とした「犯則調査権」に基づく強制調査を始めたことを明らかにした。検察への告発を視野に実態解明を進めるとみられる。

犯則調査権は、国民生活に影響が大きい悪質な談合やカルテルなど、行政処分では改善を図れないと判断した事案が対象になる。適用は東京五輪・パラリンピックの運営業務をめぐる入札談合事件以来、約3年ぶり。公取委が調査の開始を公に認めるのも異例なことだ。

トラックなど大型車に使われる軽油は物流などの社会インフラを支える燃料だ。全日本トラック協会によると、軽油の価格が1円上がると、トラック業界全体で年間150億円の負担増になるという。特に使用量が多い長距離輸送への影響が大きい。

業界の99%以上が中小・零細の事業者で、燃料の高騰分を荷主に転嫁できないことが多い。燃料価格の上昇分を上乗せして請求する「燃料サーチャージ」制度に応じる荷主はあるが、その場合は最終的に消費者に負担が転嫁される可能性がある。不当に上乗せされた分の負担は、運送業者、荷主、消費者のいずれかが負うことになる。

東京商工リサーチによると、24年度の道路貨物運送業の倒産件数は353件。14年ぶりの高水準だった。燃料費高騰などによる「物価高」関連の倒産が、うち111件を占める。厳しい人手不足と燃料費の転嫁が難しいことが相まって、運送業者の経営を圧迫している実態が浮かぶ。不当な価格調整は慢性的に低賃金となっているドライバーの賃上げの阻害要因になる。高齢化に直面する業界で担い手不足がさらに深刻化しかねず、持続可能な物流インフラの妨げになることも懸念される。

軽油やガソリンなど燃料価格の高騰を抑えるため、政府は石油元売り各社に巨額の補助金を投じてきた。その額、22年1月以降で8兆円余りに上る。

そのさなかに販売会社が自社の利益確保を優先して価格競争を避けるカルテルを結んでいたとすれば、燃料油の高騰に乗じる形で法人向けの軽油価格が不当にかさ上げされ、物価高対策の効果を弱めていた恐れがある。看過しがたい不正である。

「市場の番人」たる公取委の出番だ。強制調査に着手した判断は理解できる。本稿を執筆している25年12月上旬の時点で調査は継続中とみられる。徹底した調査で疑惑の全容を解明し、疑念や不信を招く商慣行の適正化につなげてもらいたい。

燃料油の市場が縮む中、ほかにもカルテルの摘発が相次ぐ。

家宅捜索を受けた8社のうち6社は、神奈川県の業者向けの軽油でもカルテルを結んだ疑いがあり、5月に公取委の立ち入り検査を受けた。

11月には長野県内のガソリン販売で価格カルテルを結んだとして、多くのGSを束ねる長野県石油商業組合の北信支部の独禁法違反(事業者団体による競争制限)を公取委が認定、排除措置命令を出した。支部に加わる17社が課徴金計1億1658万円の納付を命じられた。北信支部が価格の上げ下げの幅と改定時期を電話などで伝え、GSは伝えられた通りに価格を決めていたと認定。組合には、カルテルを事実上容認していたとして独禁法の順守を申し入れた。

【覆面ホンネ座談会】安定供給へ回帰路線継続か 「丙午」の業界を予想する

テーマ:2025年振り返りと26年の展望

2025年は第7次エネルギー基本計画の策定に始まり、より安定供給重視の方針の下、エネルギー政策を巡る方針転換が図られてきた。まだまだ不透明さが続く業界を、26年はどのようなニュースが駆け巡るのか。

〈出席者〉 A 電力業界関係者   B 都市ガス業界関係者   C 石油業界関係者

―まずは電力、都市ガス、石油各業界の2025年を振り返りたい。

A 電力業界にとって象徴的な出来事は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の見通しが立ったことだ。北海道の鈴木直道知事も北海道電力の泊3号機の再稼働を容認したことだし、これからの各原発の動向に大きな影響を与えることになるだろう。

B 都市ガス業界にとっては、第7次エネ基が策定されたことが大きなニュースだった。火力燃料の中でもLNGの重要性、そしてeメタンにしっかりと取り組んでいく必要性が明記された。石炭や石油を燃料とする自家発やボイラーは、LNGに転換するだけでCO2を4割ほどカットできる。特に既存の技術では転換が困難(ハードトゥアベイト)な産業に対して補助金を付け、かつ単年度ではなく複数年度の施策としてもらえたことは業界にとってビジネスチャンスだ。

C ガスと同様、第7次エネ基でトランジションエネルギーとして一定の評価をしてもらえたことは石油業界にとって良いことだと思っている。EV(電気自動車)化が一気には進まない中で、10㎞以上離れた場所まで行かないとサービスステーション(SS)がないような過疎地域において、既存のSSをどう生かしてくのかといった議論がなされていることもありがたい。

安定供給とカーボンニュートラル両立の現実解模索は続く


三菱商事が洋上風力から全面撤退 再エネ神話の崩壊を象徴

―25年は間違いなく原子力活用への大きな一歩を進めた年となった。一方、さまざま問題が指摘されながら、乱開発とも言うべき動きが止まらなかったメガソーラーには逆風が吹いた。

A 北海道・釧路湿原のメガソーラー開発が象徴的だったね。メガソーラーへの規制は決して高市早苗首相の思い付きではなく、24年に環境省が調査した段階で322の自治体が再生可能エネルギーを規制する条例を制定していて、根底にはそうした流れがあった。再エネは全否定されるべきではないが、地域の自然環境との共生や系統への統合の問題など、よりリアリティを持ってカーボンニュートラル(CN)を考えていかなければならないということだ。11月にブラジル・ベレンで開かれた地球温暖化防止国際会議・COP30も、化石燃料を巡る結論がまとまらなかった。もう少し現実的に何ができるのか、日本のみならず世界が考え直した一年だったのだと思う。

B メガソーラーだけではない。再エネ神話が崩壊した年だったと言って良いと思う。なにより、三菱商事が3海域の洋上風力発電事業から撤退したことは、エネルギー業界全体にとって大きな衝撃だった。破格の応札価格が足を引っ張ったのだろうが、再エネ導入拡大と国民負担のバランスを改めて考える必要性が認識された。


26年はより環境性以外の要素に軸足 GX―ETS開始で各社の動向は?

―26年はどのような年になりそうか。

A 25年はより安定供給、エネルギーセキュリティー、あるいは価格のアフォーダビリティー(受容性)に軸足をシフトするきっかけになった年。26年はそれがさらに加速していくんじゃないかな。今後、半導体やデータセンター向けに電力需要が増えてく中で、新しい系統を作ってしまえばコストをどう負担するのかという問題になる。そういう課題に直面する中で、火力燃料をもう少し予見性を持って調達できるようにするべきだということで小売り事業者の供給力確保義務を課すことが検討されている。どれだけ有効かは議論があるが、根っこにそういう思想があって出てきたわけだ。

C 改正GX―ETS(排出量取引制度)の開始が決まったことは、石油業界のみならず産業界全体に非常にインパクトがあることだ。制度の詳細が決まらないとなんとも言えない部分はあるが、技術を持ち先行的に取り組んでいくのか、それとも証書を買ってくればヨシとするのか、考え方次第でこれまでと全く違う動きが出てきてもおかしくない。

B 都市ガスはシステム改革検証の真っ只中だが、業界が激震するようなことは起きないと思う。燃料転換を通じて環境負荷の高いエネルギーを使っている需要家にLNGに変えてもらえれば、50年までの間に累積してCO2を減らすことができるので、各事業者がどこまで頑張れるのか、そこになんらかの政策支援が入るのか業界として注目している。

もう一つ。エネルギーではないが、1月に埼玉県八潮市で水道管の破損が原因で道路が陥没する事故が起きた。都市ガスでは、山口県宇部市の山口合同ガスの供給エリアで、圧力が下がらないまま供給され、ガス漏れや火災が発生した。原因はまだ分かっていないが、長く業界に身を置いていて初めて聞くような事故だったし、一歩間違えれば大きな被害が生じかねなかった。26年もインフラの老朽化、安全問題が大きなテーマであり続けることになりそうだ。

【コラム/1月9日】米国地方選から見えるわが国経済政策の死角

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

前回のコラム(2025年12月12日)では、2025年11月4日に行われた米国のニュージャージー州とバージニア州の知事選において、電気料金の高騰が争点になったことを述べた。両州はいずれも地域系統運用者PJMの管轄区域に属し、PJM管内で続く電力コスト上昇の影響を大きく受けている地域である。今回新たに取り上げるニューヨーク市も同様に、電気料金をはじめ公共料金などの生活費の上昇が著しく、市長選での主要なテーマとなった。こうした動きは、国民生活に直結するエネルギーコストや生活費が政治的争点となり得ることを示している。本稿では、この米国の事例を手がかりに、日本における経済政策の問題を考えてみたい。

ニュージャージー州では、民主党候補が事前の予測を大きく上回る得票差で勝利した。生活費、とりわけ電気料金の高騰への対応を前面に打ち出したことが、有権者の支持を集めた要因とされている。バージニア州でも同様に、電気料金や生活費の上昇が選挙戦の主要争点となり、これに対する具体的な対策を訴えた民主党候補が勝利を収めた。

ニューヨーク市の市長選は上記2州の知事選と同日に行われ、生活費の凍結を訴えた民主党急進左派のマムダニ氏が圧勝した。彼は最低賃金の引き上げや家賃の凍結に加え、電気料金など公共料金の抑制や再生可能エネルギーの導入促進を掲げ、生活費全体の引き下げを前面に打ち出した。選挙戦で市民に響いたのは、生活に直結する課題への強いメッセージである。住宅問題については「ニューヨークは誰もが住める街でなければならない」と訴え、生活費や物価問題については「働く人々が生活できない街は繁栄しているとは言えない」と批判し、多くの市民の共感を集めた。米国では物価が高騰しているにもかかわらず、賃金の上昇がそれに見合っていない。この乖離が市民の不満を爆発させ、マムダニ氏の勝利につながったといえる。

一方で、日本でも、現政権が積極財政を掲げたことで財政規律の緩みが懸念され、円安が進行しており、インフレがさらに加速する可能性がある。これに加え、日銀が利上げに慎重な姿勢を崩さず、小幅な利上げにとどまっていることが、円安圧力を一段と強める要因となっている。特に最近では、電気料金が高水準で推移しており、補助金による一定の抑制はあるものの、家庭や企業の負担は依然として重い。こうしたエネルギーコストの上昇は、物価全体を押し上げる一因となり、国民生活に直接的な影響を及ぼしている。政府は賃上げによって物価上昇を吸収する方針だが、物価を正確にコントロールすることは難しく、想定を上回る上振れリスクも残る。こうした懸念を裏付けるように、実質賃金は長期にわたりマイナスの伸びが続いている。加えて、わが国の実質経済成長率も長期にわたり極めて低い水準にとどまり、持続的な成長軌道を確保できていない。成長を伴わないインフレは賃金上昇で吸収することが難しく、実質所得の低下を通じて国民生活に負担を強いる構造的な問題を抱えている。

現政権は高い支持率を享受しているが、世論は移ろいやすいものであることを肝に銘じておくべきだ。現政権は物価高対策として、電気・ガス料金の補助や2025年末のガソリン暫定税率の廃止、おこめ券・電子クーポンの配布など、多様な支援策を講じている。こうした施策に加えて恒久的な所得税減税や地方自治体による生活支援も進められているものの、恒久減税の規模は相対的に小さく、全体としては時限的かつ対症療法的な対策が中心であるため、家計負担の構造的な改善には限定的な効果しかもたらさない。物価の抑制が効かず家計の負担が増す一方で、恩恵を感じられない状況が続けば、国民の支持はいつか反転する可能性もある。ニューヨーク市の市長選の事例に見られるように、物価や生活費の高騰は急進的な変革を訴える勢力への支持拡大につながりやすい。日本においても、同様の政治的変化が一気に広がる可能性を否定できない。

生活費の上昇はエネルギーにとどまらず、住宅市場にも深刻な影響を及ぼしている。すでに首都圏、とりわけ都内の住宅価格は、過剰流動性による資金流入と投機的な需要が重なって大きく上昇し、多くの国民にとって手が届かない水準となっている。「住宅は人生で最も大きな買い物」と言われるが、そもそも“買えるかどうか”が大きな壁となりつつあるのが現状だ。こうした事態を政府はより深刻に受け止める必要がある。もはやデフレ期の政策発想では、現在の経済状況には対応しきれない。現在の日本経済はアベノミクス初期のデフレ局面とは大きく異なり、すでにインフレ圧力が高まっている。こうした環境の変化を踏まえれば、当時と同じ発想で財政拡大を進めることには慎重な判断が求められる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。