【ウェブ拡大版:インフラ百年の計Vol.3】最後の砦・LPガスとSSの行方 調達分散と販売集約に課題山積

巽 直樹  /アクセンチュア 素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター

本稿は2026年6月号掲載の同名記事の詳細解説版である。LPガスの戦略的価値の本質は、下流の戸別分散と、上流の調達先がホルムズ海峡外にある点にある。原油の中東依存が9割超のままであるSS(石油)とはリスクの所在が異なり、両者は補完関係にある。ただしLPガスの上流は「分散」ではなく、米国一極集中という新たな依存構造に置き換わった。本ウェブ版では、上流構造の正確な数字、過疎地の地殻変動、グリーンLPガスの絵姿と現実の乖離、範囲の経済性の意図的再構築までを掘り下げる。

もうひとつの熱インフラ、戸別分散と脱ホルムズ

第2回で取り上げた都市ガスは、189の事業者が国土の約6%の供給区域でネットワーク事業を営む産業だった。これに対しLPガス販売事業者は全国に約1万7000者、供給世帯は全世帯の約4割に及び、面的な広がりでは都市ガスの2倍以上をカバーする。さらに、ガソリン・軽油・灯油などを扱うサービスステーション(SS)は全国に2万7000カ所超を数え、自動車の燃料補給だけでなく、寒冷地の灯油宅配、農機・漁船への燃料供給、災害時の中核拠点という多面的な役割を担う。25年2月閣議決定の第7次エネルギー基本計画は、LPガスを「災害時における最後の砦」、SSを「国民生活と経済活動を支える最後の砦」と明確に位置付けた。集中型ネットワークの議論に偏りがちな政策論議の中で、見落とされてきた事実である。

LPガスの産業構造は、第2回で取り上げた都市ガスのロングテールよりさらに急峻である。サプライチェーンの末端には、家族経営に近い零細事業者が無数に並ぶ。事業の脆弱性の源泉であると同時に、軒下まで届けるラストワンマイルを担保する人海戦術の基盤でもある。両者はともに「最後の砦」と呼ばれるが、その中身は切り分けて評価する必要がある。

下流の戸別分散:軒下在庫が実質的な備蓄機能を担う

LPガスは各家庭・施設の敷地内のボンベに、平均すれば数週間から1カ月分のエネルギーが常時備蓄されている。ガス消費の構造そのものが備蓄機能を内包しており、災害時にこの「軒下在庫」が、地中の導管や送配電網の損傷で停止する都市ガスや電力とは異なる位相のレジリエンスを発揮する。

注目すべきは、軒下在庫が単なる比喩ではなく、LPガスの分散型供給を支える実質的な備蓄機能を担っている点だ。日本LPガス協会の整理では、国家備蓄50日分、民間備蓄40日分に加え、各戸の軒先在庫約30日分を合わせて約4カ月分の供給余力があるとされる。原油・石油製品が国家・民間備蓄を中心に語られるのに対し、LPガスでは消費者に近い場所に分散配置された在庫もレジリエンスの一部として評価されている。集中型エネルギーには存在しない、分散型の特徴である。

24年1月の「令和6年能登半島地震」では、奥能登4市町のLPガス充填所3カ所のうち2カ所が機能停止に陥り七尾基地などにも被害が生じたが、新潟・富山などの隣接基地からの応援配送と軒下在庫の組み合わせで需給バランスの崩壊は免れ、各戸単位の安全点検を経て早期に正常化した。集中型インフラの復旧プロセスとは迅速性が異なる。東日本大震災時、地下導管の全面調査・気密試験を要する都市ガスは復旧に50日以上、電力でも7~10日を要した。

上流の脱ホルムズ:中東依存はわずか4%まで低下

LPガスの上流調達における中東依存度は、シェール革命前は8割超に達していた。米国産LPGの輸入急増により、現在は4%程度まで低下している。原油の中東依存度が依然として9割超にあるのと比較して極めて対照的な構造であり、日本LPガス協会自身も「地政学的リスクの影響を受けにくい航路を確保」と位置付けている。ホルムズ海峡を通過する中東依存からの構造的離脱が、業界全体の戦略的訴求点となっている。

LNGも米国・豪州・東南アジアを軸に分散調達が進んだが、上流の脱中東という点ではLPガスがLNGに並ぶ。これに対し、原油およびそこから精製される石油製品は依然としてホルムズ海峡を通過する中東依存への構造的脆弱性を抱える。冒頭で並べたSS網は下流の面的展開ではLPガスと並ぶが、後背の調達構造は対照的だ。下流の分散度合いだけ見て両者の安定供給度を評価するのは難しい。

「令和のオイルショック」とも称される26年初頭のホルムズ危機の文脈でいえば、原油の調達が滞れば寒冷地の灯油・軽油・ガソリンの供給は直接の打撃を受けることに対し、LPガスは北米・豪州ルートで相対的に独立性を保つ。一方、製油所が国内に温存されている間は、石油製品の備蓄と国内精製能力で短期供給は維持できるため、両者は時間軸が異なるリスクの補完関係にある。S+3Eの枠組みでいえば、LPガスは下流の戸別分散による安定供給と、上流の脱ホルムズによるエネルギー安全保障の双方に貢献し得る独自の位置にある。

米国一極集中とWTI連動:脱ホルムズの代償

ただし、上流の脱ホルムズを「LPガスは安全だ」という単純なロジックに着地させることもできるわけではない。現実には、上流調達が「中東から米国への依存先スイッチ」に置き換わり、調達分散ではないからだ。数字を正確に見ると、2025年通年で、日本のLPガス輸入は米国825万t(83.1%)、カナダ84万t(8.5%)、豪州54万t(5.4%)、米加豪計で約97を%占め、中東は数%にとどまる。さらに、25年6月以降の月次ベースでは米国構成比が9割を超え、カナダからの輸入はゼロに落ち込んだ。背景には、トランプ関税を契機とする中国の米国産LPG買い控え、米国産単価の下落、それに応じた日本のカナダ産から米国産へのスイッチという連鎖がある。脱ホルムズは進んだが、その裏側では米国一極集中が進んでいる。

これ自体は新たな地政学リスクともいえる。米国の通商政策、エネルギー輸出政策、政権交代に伴う方針変更は、いずれも日本のLPガス供給に直接影響を及ぼす。アストモスエネルギーの佐藤利宣社長は「アメリカ調達のリスクはトランプ政権の相互関税政策にも見られるように政治的なリスクには注意する必要があります」と明言しており、業界トップ自身がこのリスクを警戒している(本誌5月号)。

価格面でも独立性は確保されていない。米国産が主流となった現在、LPガス価格はWTI原油の値動きとの相関が強まっている。佐藤社長は「3月中旬時点では、アメリカの引き合いが連動しており、50ドルだったWTIが100ドルになれば、当然それに類する値動きが生まれる」と指摘する。地理的にホルムズから離脱したことと、価格的に独立したこととは別である。原油価格の急騰局面では、LPガスも連れ高となる。

LNGも米国産の輸入拡大により、同型のリスクを抱える。従来の油価連動やJKMなどの国際スポット指標に加え、ヘンリーハブ連動という米国由来の価格・政策リスクが、日本のLNG調達に入り込みやすくなるからだ。「中東依存からの離脱」がしばしば「米国依存への置き換え」を意味するのは、LPガス・LNGに共通する構図だ。S+3Eのエネルギー安全保障は、特定の調達ルートに過度に依存せず、複数のルートとプレーヤーを保持し続けることでしか担保され得ない。LPガスの上流構造は、脱ホルムズという面で正当に評価しつつ、米国一極集中という新たなリスクへの備えを同時に求められる段階にある。

【経済評論】火力発電所と一体型DC 脱炭素との両立で悩む自治体

【脱炭素時代の経済評論 Vol.27】関口博之 /経済ジャーナリスト

先月のコラムに続き、生成AIの旺盛な需要に伴うデータセンター(DC)の新たな立地の可能性について考えたい。前回は洋上風力という再生可能エネルギーを使い、洋上に浮かべるDCという構想を紹介した。今回は「発電所一体型DC」だ。日本最大の発電会社JERAがこのプランを進めている。

JERAの横浜火力発電所

昨年10月、JERAは横浜市臨海部にある火力発電所の構内にDCを誘致する意向を表明し、港湾を管理する横浜市とも覚書を結んだ。DC事業者の募集を始め、最終ユーザーのテック大手とも協議に入っているという。JERAはこの臨海部に横浜火力(最大出力301万kW)南横浜火力(115万kW)の二つの発電所を持っている。発電所には周辺との緩衝地帯が設けられているが、敷地に余裕があるのは横浜火力の方だ。DCを誘致できれば電力を多く売れるだけでなく、遊休地活用にもなる。

DC側にもメリットは大きい。発電所構内に併設となれば送電線の新設も数百mで済むだろう。系統増強のために何年も待たされる心配もない。

DCの規模についてはJERAも明らかにはしていないが、昨今の他のDC計画をみれば100~200MWでは収まらず、わが国最大級の巨大なものになるのではと推測する。DCができて生成AIの利用環境が充実すれば、関連企業の進出、投資で大きな経済効果も見込める。究極の「ワットビット連携」と言えるかもしれない。

ただし視点を変えると景色はかなり違ってくる。横浜市は国が進めるカーボンニュートラルポート施策に基づき「横浜港港湾脱炭素化推進計画」を昨年3月に策定している。電力を爆食するDC進出は、脱炭素化の観点からは必ずしももろ手を挙げて歓迎というわけにはいかない。横浜市の場合、CO2排出量(スコープ2)1600万tの40%弱は工業地帯である臨海部から出ている。これを水素および水素誘導体へのエネルギー転換などで排出削減し、2050年度に排出量の実質ゼロを目指すのが「計画」の骨子だ。ところが新規立地するDCの間接排出量を推定すると、例えばみなとみらい地区全体の排出量の数倍にもなるという。カーボンニュートラルポートの計画自体が破綻するほどのスケールだという。

確かに、JERAと横浜市が結んだ覚書にも不思議な記述が多い。「臨港地区への配慮」「地域社会との共生」「DCで消費する電力の低炭素化・脱炭素化」を協力して検討するとされている。

いわば自治体側からの注文だ。これを反映したものと私が推察している動きもある。船舶修繕の横浜工作所という地場企業が、洋上風力発電で浮体を固定するアンカーの製造・供給に乗り出している。洋上風力が本格化すれば量産となるが、問題は巨大アンカーの保管場所。そこで、荷揚げ岸壁もあるJERA発電所の一部を市の仲介で借りることになった。もちろん風力発電への協力でDCのCO2排出増を相殺できるわけではない。ただこれも一つの「折り合い」だろう。経済活性化と脱炭素の両立に企業も自治体も最適解を探る。関係者は、これは「緊張感のある覚書」なのだという。

【今月の話題】長岡市に世界最大級の製造設備 商用化へデータと知見を蓄積

INPEXと大阪ガスが、世界最大級のメタネーション実証設備を稼働。

ここでデータと知見を得た上で、海外における量産体制の確立を目指す。

 INPEXと大ガスがeメタン実証開始

INPEXと大阪ガスは、eメタン(合成メタン)の社会実装を目指した世界最大級のメタネーション技術の実証設備を新潟県長岡市に完成させ、2月に運転を開始した。メタネーションは、CO2と水素を反応させることで都市ガスの主成分であるメタンを生成する技術で、都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化への期待がかかる。

世界最大級のメタネーション設備

4月14日、同設備が報道陣に初公開された。建設場所はINPEX長岡鉱場越路原プラントの隣接地で、調達した液化水素を貯蔵するタンクやメタネーション設備、ユーティリティー設備などで構成される。越路原プラントで分離・回収したガス随伴CO2を原料として受け入れ、合成したeメタンは、同プラントを通じてINPEXのパイプラインに注入する。

この日は稼働停止中だったが、2月に試運転を実施した際には、技術開発目標であるメタン濃度96%のeメタンの製造を確認でき、実際に合成したメタンをパイプライン注入したという。

実証設備の生産能力は1時間当たり400N㎥で、一般家庭1万世帯分に当たる。今後、生成したeメタンを都市ガスパイプライン管に注入し供給するとともに、プロセスの基本性能や触媒の長期耐久性などを評価し、2030~35年頃には1万~6万N㎥へとスケールアップを重ねていく方針だ。

原料となる水素を貯蔵するタンク

越路原プラントで分離・回収したCO2を活用

同実証を踏まえて両社が見据えるのは、海外における大規模生産体制の確立だ。INPEXは、ガス生産に伴う随伴CO2を活用できるだけではなく、海外の設備の周辺には安価なグリーン水素を調達できるポテンシャルがある。大阪ガスも米ネブラスカ州で「Live Oakプロジェクト」に参画し、30年度eメタン1%導入を目指している。

エネルギー供給への不安が増す中、新たなエネルギー源とするべく、サプライチェーンの構築やコスト低減が急がれる。

【ヒット商品・技術の舞台裏】ガスコンロ史の大転換 センサー搭載で事故減らす

IHコンロの対抗馬として登場したガラストップのガスコンロ。

安全センサーを搭載しガスコンロ由来の火災事故を大きく減らした。

日本ガス石油機器工業会 家庭用安全ガスコンロ

四半世紀以上前、家庭のキッチンにはガスのコンロが当たり前のように設置されていた。ところが2000年代の初めからオール電化住宅が普及し始めるとその様相は一変した。IHクッキングヒーターが市場に投入されたからだ。

IHコンロに対応した鍋やフライパンを使うことが前提だが、ガス火力に劣らない加熱機能で中華を始めとしたあらゆる調理に対応。天板には段差がなく平面であるがゆえに手入れが簡単で多くのユーザーに受け入れられた。

そんな対抗策として、ガス業界が市場に投入したのがガラストップコンロだ。

Siセンサーを搭載したガラストップコンロ

ガスでもスタイリッシュ 清掃作業も容易に

天板に耐熱ガラスを採用し、スタイリッシュな見た目が高級感を演出し、耳目を集めることに。油汚れや噴きこぼれなどがこびり付きにくくIH同様、従来の据え置き型のガスコンロに比べて掃除がしやすくなった。

そんなガスコンロをさらに進化させようとガス業界が取り組んだテーマが安全対策だ。

IHにおいても使い方を誤れば火災事故を引き起こすが、消費者は「IHは火を使わないから安全」と思うもの。ただ、ガスコンロによって火災事故が発生していることは事実。実際、20年ほど前までは火の消し忘れといった原因による火災事故が業務用を含め年間5000件ほど発生していた。

例えば天ぷら調理。油の温度は180℃くらいが適温だが、うっかりその場を離れて火力の調整を怠ると、油の温度はみるみる上昇。油の性質上、370℃付近に達すると自然発火を引き起こす。重大な火災の原因となる。

こうした課題に対して経産省や総務省、ガス事業者、メーカーが一体となって安全対策に着手した。注力したのがSiセンサーの開発だ。安心(Safety)と賢い(Intelligent)の頭文字を使った業界造語である。

センサーが火力を調整する

ガスコンロ火災の件数の推移

センサーが温度を感知 火力を自動的に調整

コンロの口に小さな円筒状のセンサーを設置し、センサーが鍋底の温度を感知。約250℃になると自動的に火力の強弱を調整する。

そんなメーカー各社による技術開発を背景に08年からは、以後発売される全てのガスコンロにSiセンサーの搭載を義務化する方向となった。

「ガスコンロ史にとって最大の転換点」と言われることになったこのSiセンサーの搭載によって、ガスコンロによる事故は毎年、みるみると減少した。23年度には約2400件と、20年前に比べて半分近くに減った。

ただ、現状では旧式の非搭載型のガスコンロをずっと使い続けているユーザーもいるし、使い方次第ではSiセンサーでも事故を防げないケースもある。

日本ガス石油機器工業会(JGKA)ではさらに事故の数を減らせるように昨今は啓発活動にも力を入れる。全国各地で消防団体とコラボし、毎年消費者向けにセミナーを実施している。

JGKA管理グループの尾身健二マネージャーは「全国約70カ所で計4000人程度の方々に広報活動をしている。清掃不良の鍋や、底がでこぼこした鍋だとセンサーがしっかりと機能しないこともある。安全で安心なガスコンロを使ってもらえるよう、今後も広報活動を続けていきたい」と話す。

【巻頭インタビュー】再エネに求められる自立電源化 課題解決へ一歩ずつ前進

佐藤厚範/再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)代表理事 会長

イラン有事で改めてエネルギー自給の必要性が眼前に突き付けられている。

再エネ長期安定電源化を目指すREASP代表に、課題認識や対応状況を聞いた

さとう・あつのり 東京都生まれ。1995年3月慶應義塾大学経済学部卒。2011年から再生可能エネルギー発電などの事業に従事。REASP 設立に携わり、25年4 月から現職。

 ―REASP設立から7年。改めて再生可能エネルギーの主力電源化に向け果たすべき役割をどう考えますか。

佐藤 再エネ発電事業者だけでなく、再エネビジネスというくくりで関係者の意見をまとめる必要性が高まり、2019年にREASPが発足しました。私も立ち上げから携わり、現在会員数は160団体まで拡大しています。当初から政策提言に力を入れ、第7次エネルギー基本計画などについても意見を述べてきました。ただ、その目標達成は簡単ではなく、進捗に目を光らせていきます。

機運高まる規制強化 主力化とのバランスは?

―いまだ再エネを巡るトラブルが散見され、政府は関連法制の見直しや、野立てメガソーラーへのFIT(固定価格買い取り)・FIP(市場連動買い取り)による支援の27年度以降廃止などを打ち出しました。一連の規制強化の動きをどう受け止めていますか。

佐藤 一定の規制強化は業界としても必要だと感じていますが、メガソーラーが全て悪いといった風潮になることは残念です。地域からすれば事業者の顔が見えず、何かあった際に連絡できないことが不安につながるかと思います。当団体としても、少しでも不適切な事例がなくなるよう、業界全体が信頼を得るべく地道に活動していきます。例えば昨年11月には「持続可能なメガソーラー事業運営ポリシー」を策定しました。

さらに需要家の意見を聞くことを意識しています。再エネの自立化に向けPPA(電力購入契約)の拡大が求められる中、需要家の意見は今後一層重要となります。

―REASPは2月末、営農型太陽光の健全な運営に向けたガイドラインを策定しました。

佐藤 営農型は本来、食料とエネルギー両面で安全保障への貢献が期待される取り組みですが、抜け道があるのも事実で、実態は単なる発電所という例があります。パネルの下で一定程度の農産物の収量を得ることが農地転用の条件であり、ガイドラインでは基本方針を確認するとともに遮光率の目安などを提示しています。今後チェックリストも策定予定です。営農型の大規模な普及に向けて良い事例を発信していきたいと思います。

―政府はFIPへの移行や市場統合に向けたさまざまな施策を示しています。

佐藤 売電価格にプレミアムを付加するという制度の理屈に抵抗感はありません。しかし年ごとに収益のアップダウンがあります。金融機関からすれば安定している方がベターでしょうが、20年トータルでみればFITと大きな差はないということを理解してもらう必要があります。

他方、優先給電ルールで出力制御の順番をFIPよりFITを先にすると決まり、27年度末までに実施される予定です。具体的な時期は大手電力会社がそれぞれ決めることになりますが、これが始まるとFIP転のメリットがより明確になります。FIP転に伴う系統運用者との手続きに時間がかかる側面もありますが、早ければ今年度中にもスタートする地域が出てくる見込みです。

難局続く洋上風力 事業者任せでは限界も

―洋上風力開発が正念場を迎える中、政府は公募案件への支援策を提示しました。

佐藤 引き続き課題は山積しています。ラウンド1の再公募を実施するとしても、制度の中身自体を再度見直すことが必要です。入札から発電に至るまで長期間に及ぶ中、インフレや為替変動のリスクを事業者が全て負う仕組みのままでは難しいでしょう。例えばゼネコンなど民・民の契約ではインフレ条項が一般的になってきました。

さらに系統連系の長期化も問題となっています。データセンターの計画が増大する中、特別高圧の発電設備の連系は太陽光なら3年待ち、蓄電池では5年待ちもあると聞いています。そのため、蓄電池では待ち時間が短い高圧以下にするような動きがあります。これは太陽光の初期と重なる動きであり、放置したままでよいのか考える必要があります。

話を洋上風力に戻すと、公募地点を国が決めて後は事業者に任せるやり方には無理があります。系統接続のめどがついている案件を優先し、国がより深く関与する仕組みを考えてほしいです。そして今は売電価格を先に決めていますが、まず導入量が増え、その先で価格の低下につながるということを、政府には今一度認識してほしいと思います。

―再エネが安全保障に資する電源と進化するために必要な視点とは?

佐藤 再エネを導入する理由の根底には他国へのエネルギー依存の解消があり、今般の戦争で求められる役割がより明確になりました。業界としては卒FIT後も適切なメンテナンスを行い、他電源と比べ劣っていると言われないための対応を意識していきます。出力制御をいかに減らすかも重要で、特に3月に初の出力抑制があった東京電力管内では柏崎刈羽原子力発電所が稼働し、今後さらに抑制の頻度が増えるでしょう。

いずれにせよ、再エネ比率が50%を超えると供給力としての存在感がかなり高まります。主力電源として、再エネが低圧も含めて重要な役割を担うためにはさまざまな課題への対応が必要ですが、官民が連携しながら、一つずつ課題を乗り越えていくことが引き続き重要であると認識しています。

【論説室の窓】ナフサの供給不安が拡大 政府発表と現場の実態に乖離

木村裕明/〈朝日新聞〉論説委員

「石油化学のコメ」と称される重要物資ナフサの供給への不安が広範囲に及んできた。

政府は供給不安を打ち消す発信を続けるが、現場の実態とのズレはむしろ広がっている

中東情勢の緊迫が続き、ホルムズ海峡の開放の見通しが立たないなか、石油化学製品の原料となるナフサの供給への不安が日増しに強まっている。

石油関連製品のサプライチェーン(供給網)では、原材料の大幅値上げや新規受注の停止など、川下にあたる企業にまで混乱が広がる。消費者が手にするプラスチック製品にも値上げや品薄の波が迫る。

プラスチック製品などの原料となるナフサ

川下の企業に早々に影響が出た典型例が、塗装に不可欠なシンナーの供給難だ。「塗装現場では塗料の希釈や洗浄に不可欠なシンナー類の注文が全くできないか、極端な数量制限がかかる異常事態に直面している」。会員企業約2300社を擁する塗装工事業者の団体、日本塗装工業会(日塗装)は4月14日、緊急記者会見を開いて窮状を訴えた。

日塗装が4月上旬に実施したアンケートによると、シンナーが通常通り入手できると答えた会員企業はわずか2・7%。塗料の数量制限を受けるか、入手困難の回答が約7割に上った。シンナーなどの価格も「企業努力では到底吸収できないレベルに達している」という。

会見で印象的だったのは、加藤憲利会長が、川中の塗料メーカーや販売店で目詰まりが生じているとの見方に否定的な見解を示したことだ。

塗料メーカーも原材料不足で作れないとの情報に接しているなどとして、「われわれの感覚では、川上より前の段階で不足や目詰まりを起こしているのではないか」と指摘し、「政府発表と現場の実態には大きな乖離が生じている」と語った。

政府は、供給網の混乱は「供給の偏り」や「流通の目詰まり」が原因で、「日本全体として必要な量は確保されている」との説明を繰り返す。石油関連製品の供給状況を省庁横断で点検し、「目詰まり」が起きている事例があれば、民間事業者や業界団体に安定供給を要請するなどして解消に腐心している。解消事例を細かく公表し、成果のアピールにも躍起だ。


「受注再開」も納期示されず いらだち募らせる中小企業

住宅設備大手のTOTOが4月中旬、有機溶剤の調達難を理由にユニットバスの新規受注を停止したと大きく報じられた際は、赤沢亮正経済産業相が数日後に「目詰まり箇所を特定し、供給見通しのめどを立てた」と強調した。受注は段階的に再開されたが、中小の工務店の経営者は「受注が再開されても、納期が示されない。現場の窮状は全く変わっていない」といらだちを募らせる。塗装業界の関係者も、日塗装の会見から2週間が過ぎてもシンナーの供給難は一向に改善していないと嘆く。

全国建設業協会の4月の緊急調査によると、ユニットバスなどの住宅設備や塗料に限らず、断熱材や防水材、塩化ビニール管などの出荷制限や受注停止も相次ぐ。必要な資材が確保できず、工事の中止や遅延が避けられない状況も生じている。

帝国データバンクは国内製造業の3割にあたる約4万7千社がナフサ不足で調達に影響を受ける可能性があるとの分析結果を公表。「川下に位置する製造業に影響が及びやすく、価格転嫁が難しい中小製造業で事業継続への影響が深刻化する恐れがある」と指摘した。供給途絶に至らなくても、交渉力の弱い中小企業が価格が高騰した資材を買えなくなり、生産を続けられなくなる事態も懸念される。

実際、労働組合の中央組織・連合が構成組織を通じてまとめた300を超す現場の実態によれば、影響は製造業や建設業から医療、福祉、教育まで幅広い産業に及び、操業調整の動きも出始めている。政府発表と現場の実態との乖離はもはや覆い隠せない状況に至っている。


目詰まりにこだわる政府 もぐらたたきの対応に限界

高市早苗首相は中東以外からの代替調達を進めているとして、ナフサ由来の化学製品の供給は「年を越えて継続できる」との見通しを示すが、石油化学製品の供給網はすそ野が極めて広く、複雑に入り組む。在庫の水準もさまざまだ。供給網の混乱が広がるなか、政府がもぐらたたきのような対応を続けるにも限界がある。赤沢氏も「どこで何が生じるかは100%つかんでいるわけではない」と認める。

2024年夏に始まった「令和の米騒動」を思い返す。

店頭からコメが消え、歴史的な高値が続いたが、農林水産省は「コメは足りている」との説明を繰り返し、高値で仕入れた業者の売り渋りなどで生じた「流通の目詰まり」が米価高騰の主因とみていた。だが、詳しく調べても目詰まりは確認されず、そもそもコメの供給が不足していたことが判明。誤った説明を繰り返し、備蓄米放出の判断も遅れた農水省が謝罪に追い込まれたことは記憶に新しい。

需給がほぼ国内で完結するコメと、中東に依存する原油やナフサの流通構造はもちろん異なるが、目詰まりにこだわる政府が流通現場の実態をつかみきれず、供給網の川下にまで混乱が生じた構図には共通点がある。

政府の発信が不安解消につながっていない点も似ている。

政府は国民への節約要請に一貫して後ろ向きで、本稿を執筆している5月上旬時点でもスタンスに変化はない。赤沢氏は石油関連製品がなくなるとの見立てを「ホラーストーリー」に例え、規制的な需要抑制策は不要との認識を示したが、事業継続や雇用維持が難しくなることへの不安はむしろ強まっている。

石油の備蓄や国内にあるナフサの量には限りがあり、必要量を代替調達で賄うのは難しい。少しでも長く使えるように温存していくことが死活的に重要で、時間との闘いから逃れることはできない。戦闘終結に向けた米国とイランの協議が進展しない限り、政府は早晩、需要抑制策を先送りできなくなるだろう。

節約を呼びかける局面に至れば、供給制約の中で需要を喚起してしまうガソリン補助金は縮小する必要がある。今の水準の補助金を続けたままでは、需要抑制策との整合性がとれない。

【コラム】シュタットヴェルケは我が国自治体の模範か

日本では2010年代に、ドイツの「シュタットヴェルケ(Stadtwerke)」という自治体のユーティリティ企業に注目が集まり、日本でも同様の仕組みを導入しようとする動きが広がった。宮城県東松島市の「東松島みらいとし機構」(2012)、群馬県中之条町の「中之条電力」(2013)、福岡県みやま市の「みやまスマートエネルギー」(2015)、北海道下川町(2018、SDGs未来都市選定)などがその例である。しかし、日本では2020年代に入り「シュタットヴェルケ・ブーム」は次第に勢いを失いつつあるようだ。その背景には、日本とドイツでは自治体事業をめぐる歴史的・文化的前提が大きく異なることに加え、ドイツのシュタットヴェルケ自身も過去に複数の経営危機を経験してきたという事実を十分に踏まえず、理念だけを過度に理想化した議論が先行したことがあるといえる。

ドイツのシュタットヴェルケは、市(Stadt)やその他の基礎自治体(Gemeinde)が単独または複数で大部分を所有し、住民に対してその生存に必要な公的サービスやインフラを提供する自治体企業の総称である。その従事する分野は、自治体によって大きく異なっているが、エネルギー供給(電力、ガス、熱)、上下水道、情報通信(電話、ケーブルテレビ、インターネット)、廃棄物処理、インフラ建設・維持(エネルギー、水道、情報通信のネットワーク設備)、公共施設(スポーツ・文化・レジャー施設等)、公共交通(路面電車、バス、鉄道等)など、多岐にわたっている。その数は2023年末時点で約1,500に達し、うち約半数がエネルギー分野の事業を担っている。

シュタットヴェルケは、その設立根拠を基本法(憲法)に求めることができる。基本法第28条第2項は、市町村などの地方自治体に「法律の範囲内で地域共同体に関するすべての事項を自己の責任において規律する(regeln)権利」を保障している。この自治権には、公共サービス(Daseinsvorsorge)を担うための自治体企業(Kommunalunternehmen)を設立する権限も含まれると解されている。したがって、自治体がその中心的任務である生活基盤の確保を実現する手段としてシュタットヴェルケを設立・運営することは、憲法上の自治権に基づく正当な行為である。また、ドイツでは自治体がユーティリティ・サービスを提供することは広く受け入れられており、多くの住民にとって自然なものと考えられている。

ドイツでも、2010年以降「シュタットヴェルケの時代」と呼ばれるほど、同事業が注目を集めた時期があった。その背景にあったのは、電気事業の再公営化の動きとエネルギー転換政策である。同国では、2010年代に、自治体が過去に民間移管した配電線を買戻し(すなわち市民の手に戻し)、電気事業分野に再び従事する再公営化が増えた。そして、この動きを促進したのが、2010年に発表された低炭素社会への移行を図るエネルギー転換政策である。日本でも、同時期にドイツのシュタットヴェルケの活性化が注目され、その日本版を設立しようとする動きが生まれた。しかし、上述のとおり、ドイツと日本では自治体事業に関する歴史的・文化的背景が大きく異なる点に留意する必要がある。さらに、ドイツではシュタットヴェルケは、自ら整備・保有してきたエネルギー供給網をはじめとするインフラを基盤に発展してきたのに対し、日本では同様の自治体主導のインフラ基盤が十分に整っていない。このため、ドイツ型モデルをそのまま導入するには、経営面で一定のハードルが存在することを認識しなければならない。

さらに、シュタットヴェルケの経営が決して安泰ではない点にも注意を払う必要がある。2010年代に入り、再生可能エネルギーの比率が総発電量の2割を超えるようになると、卸電力価格は大幅に下落し、限界費用の高い天然ガス火力の採算性が急速に悪化した。シュタットヴェルケは、エネルギー分野で獲得した利益を公共交通などの不採算部門に回すことで、全体としての収支バランスを維持してきた。しかし、卸電力価格の低下により、天然ガス火力に依存するシュタットヴェルケでは、この内部補助が困難となり、財務的危機に直面した。

さらに、このような財務状況の悪化は、エネルギー転換に伴い増大する配電投資の資金調達にも影響を及ぼした。コンサルティングファームPriceWaterhouseCoopers(PwC) が150のシュタットヴェルケの財務諸表(2009~2012年)を分析したところ、4分の1がすでに危機的な状況にあると報告している。実際、最新鋭のガスコージェネレーション設備を有していたゲーラ市のシュタットヴェルケは、2014年に倒産へ追い込まれた。多くのシュタットヴェルケは再生可能エネルギーの開発を進めていたものの、主力電源は依然として天然ガス火力であったため、財務面での打撃は大きかった。

また、2020年代に入ると、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、欧州の卸電力価格は急騰した。自前の発電能力が小さく、電力の多くを取引所から調達するシュタットヴェルケは、この価格高騰により深刻な財政難に陥った。先物取引で電力を確保していた場合でも、エネルギー価格の急騰に伴い追加保証金が大幅に増加し、資金繰りが急速に悪化したためである。当時のBDEW(エネルギー・水道事業者団体)の調査では、エネルギー供給を担うシュタットヴェルケの約半数が、今後5年間で標準料金で供給する義務を負う基本供給事業者の倒産リスクが高まると見込んでいた。その結果、エネルギーのみならず、交通、電気通信、上下水道、廃棄物処理などの公的サービスの提供に支障が生じることが懸念され、シュタットヴェルケの全国組織であるVKUは、州政府および連邦政府に対して財政支援や救済措置を求めるに至った。

現在でも、シュタットヴェルケの財政状況は逼迫状態にある。VKUとPwCが、2024 年 6 月に実施した調査(対象 162 社)によれば、調査対象企業は、今後10年間で合計227億ユーロの投資が必要とされている。このうち、28%(63億ユーロ)は熱供給への、25%(57億ユーロ)は電力供給と配電網への投資である。また、水道と排水処理も大きな投資ニーズがあり、これにも57億ユーロの投資が必要とされている。しかし、調査対象企業は、内部資金では平均して投資ニーズの30%しか賄えず、新たな自己資本の調達源は多くの場合不透明である。多くのシュタットヴェルケは、大手エネルギー企業と異なり国際金融市場へのアクセスがなく、商業銀行や貯蓄銀行からの融資枠も上限に達している。さらに、コンサルティングファームKearneyの2025年6月の報告書によると、シュタットヴェルケの財務状況は近年悪化しており、平均利益率は5年前の13.5%から2023年には8.4%に低下し、負債倍率も2.4倍から4倍へと上昇している。

シュタットヴェルケの経営は決して楽観視できる状況にはない。シュタットヴェルケは、交通や上下水道などの公益的サービスの低廉な価格での提供、地域経済の活性化など地域社会に貢献してきたが、それを可能にしてきたのは、主としてエネルギー分野で獲得した利益である。しかし、現状では、その収益力は大手電力会社と比べ弱体化している。日本版シュタットヴェルケが理念とする社会貢献も、その原資を生み出す財務的基盤があって初めて成立するものである。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【実名ホンネ座談会】石油は「オワコン」にあらず 危機が暴いた日本の急所

Theme 石油政策

【出席者】

藤 和彦(経済産業研究所コンサルティングフェロー )
平野 創(成城大学経済学部教授)
岩間剛一(和光大学経済経営学部教授)

左から岩間氏、平野氏、藤氏

脱炭素がもてはやされる裏で、石油は「オワコン」とされてきた。しかし、産業の生命線である事実は変わらない。日本はいかに危機を乗り越えるべきか。石油政策に精通する3人が語り合った。


─先行きが不透明なホルムズ危機は日本経済にどんな影響を及ぼすか。

岩間 ホルムズ海峡を通過するのは原油だけではない。原油由来のナフサ、天然ガス由来のヘリウムやアンモニア、アンモニアから作られる尿素・硝安といった肥料などの供給と価格がどうなるか。イランの体制が変わらない限り、封鎖が解かれても数カ月は様子見が続く。保険料もなかなか下がらない。中東産原油が世界で一番高くなる可能性がある。日本経済への本格的な影響は後から出てくるだろう。

平野 1970年代の石油ショックと決定的に違うのは、電力危機に直結していない点だ。石油火力がごくわずかとなり、国民生活への直接的な打撃は当時より小さい。しかし「電力が止まる」という切迫感がない分、国民行動に変化は起きにくい。政府がガソリンなど燃料油に補助金を出し続けて消費が維持され、危機がずるずると長期化した際に備蓄が底を突く─というのが最悪のシナリオだ。ただ、石油ショックの後に小型車が売れ、省エネ投資が進んだように、長期化すればカーボンニュートラルに向けた産業構造の変化は起こりやすくなる。

岩間 日本の備蓄には、中東産原油の中でも特に重質・高硫黄のカフジ原油が残っている。カフジ原油を精製できる製油所には限りがあるので、公表されている備蓄日数をうのみにはできない。

平野 例えば福井県の備蓄基地は、出荷前に潜水作業で船からおろしたホースと海底の係留ブイを接続する作業が必要で、海が荒れたら出荷できない。今後、北米からの輸入が増えれば、航海日数が伸びるので必要なタンカー数が増え、運賃も上がる。長期化した際のロードマップを考えておかないといけない。

日本経済への影響が徐々に出てきた


目詰まりは経済原理的に当然の流れ 脱・石油化学は現実的に不可能

 石油ショックには太平洋戦争直前のような「供給途絶」と70年代のような「価格高騰」の2種類あるが、今回は供給途絶までは至らないだろう。政府が一定期間の供給量を確保できたと説明したように、世界市場の変化は非常に速く、供給途絶は考えにくい。日本は経済大国で、円というハード・カレンシーを持つグッド・バイヤーだ。高値を提示すれば売ってくれる。第二次石油ショックの際も、商社や元売りが世界中から必死に世界中から買い集めた結果、最終的な輸入量はショック前より増えた。夏以降に流れは一気に変わり、前年同月の輸入量を超えるかもしれない。

岩間「買い集める」ということは、「貧しい国から石油を奪う」ということでもある。日本経済全体を考えた時、アジア経済が崩れてしまうダメージは大きい。「日本だけ良ければいい」「お金があるから買い集めればいい」という発想ではなく、アジアのリーダーとして振る舞うべきだ。


─政府はナフサなどの流通の「目詰まり解消」に力を入れている。

 ナフサの6割が輸入というのは痛いが、価格は上がったとしても、ナフサ不足はいずれ収まるだろう。いまアメリカからナフサがどんどん届いている。

岩間 70年代の石油ショックが「原油危機」だったのに対し、今回は「石油化学製品危機」という点が、大きな違いだ。石油ショックの時、OPEC(石油輸出国機構)は基本的に原油だけを売っていた。しかし、それだけでは儲からないので、彼らは精製設備を増やして石油製品も売ることで付加価値をつけようとした。中東からのナフサ輸入が増えたのはこうした背景がある。

平野 目詰まりは、経済原理に沿った順当な現象だ。上流の供給不安があれば、中間業者が価格の引き上げや在庫を抱え込むことは自然。供給が切れているのはスポットなどで安く仕入れていた顧客が多く、平時より安定的な取引関係を構築している企業は影響が小さい。ただ、医療機関などの公共分野については、政府が目配りすべきだろう。それ以外の分野は、需要家が安さだけなく中長期的な安定性を考えて原材料・取引業者を選択すべき、という教訓にするしかない。

岩間 事実として「ナフサがなくなる」ということはない。ただ、価格が高騰しているのは事実だ。石油化学のプロセスは非常に複雑で、原油から何種類もの製品が川上から川下までつながっている。たとえ川上に在庫があったとしても、需要家が求める石化製品をすぐに作り出せるわけではない。

不要不急の製品の使用はメリハリをつけてもいいだろう。海外のスーパーは日本のように、食品を一つひとつトレーやパックで包んでいない。果物なら山盛りに置いてあるものをそのままバッグに入れるだけ。日本人は安い中東原油に甘えて石油製品を使い過ぎていたという見方もできる。


─普段、何気なく使っている石化製品の重要性を痛感した国民も多いのではないか。

岩間 電力と違い石化製品は代替が難しい。カーボンニュートラルと言っても、今のところ石油に代わる現実的な原材料は見当たらない。バイオ燃料やケミカルリサイクルをしたところで、絶対的な量は全然足りない。

平野 石油ショックを経て石油火力は減ったが、「石油じゃないとダメ」という分野だけが残った。それが輸送用燃料と石油化学だ。SAF(持続可能な航空燃料)やトウモロコシやサトウキビから作るペットボトルはコストが高過ぎる。極論すれば、原油価格が2倍になったとしても、石油製品を使った方が圧倒的に安上がりだ。

【イニシャルニュース】JERAトップ人事 来年度交代はあるのか

火力発電大手のJERAを巡る次期トップ人事が、早くも業界関係者の間で話題になっている。

現在の可児行夫会長(東京電力・燃料部門出身)、奥田久栄社長(中部電力・経営戦略部門出身)体制になったのが、2023年4月。同社の歴代首脳陣を見ると、15年4月に内藤義博会長(東電出身)、垣見祐二社長(中電出身)、16年にヘンドリック・ゴーデンカー会長(ホワイト&ケース出身)、19年に佐野敏弘会長(東電出身)、小野田聡社長(中電出身)と、おおむね3~4年サイクルで会長職を東電サイド、社長職を中電が担う形で交代してきた。

「今ささやかれているのが、来年度のトップ交代だ。候補としては、まず東電出身者では企画畑のT氏が有力視される。中電出身では、海外でエネルギートレーディング経験のあるK氏が考えられるが、T氏より五つも年上なので、もしかするとJERAが発足して以来初めて、東電と中電のポジションが逆転する可能性がある」(電力業界事情通)

JERAを巡っては、28年度をめどに持ち株会社化に移行するための検討が進められているもよう。その一環として株式の上場や外部資本の受け入れなどが取りざたされている。そうした経営事情を踏まえれば、やはり企画畑のT氏が社長に就くのが順当だ。しかしそうなると、社長ポストを手放すことになる中電側の反発が予想される。

「中電出身の幹部としては、奥田氏と同様の経歴を持つN氏がいる。彼を社長に推してくる可能性もあるが、その際には可児氏の後任をどうするかという問題が出てくる。そこでT氏が会長に就けば、社長、会長とも企画畑ということになり、バランスが悪い。東電、中電の双方が納得する人事はどうなのか、悩ましいところだろう」(前出事情通)

別の関係筋によれば、来年度のトップ交代はないとの見方もあるという。過去の人事サイクルにとらわれず、持ち株会社化など体制見直しの段階で交代―。その可能性も十分考えられそうだ。


LNG火力巡る明暗 投資判断への影響は?

長期脱炭素電源オークションにおけるLNG専焼火力の枠獲得を巡り、3回目にして初めて募集量を超える応募があり競争が生じた。供給力確保のため、脱炭素電源とは別に「3年間限定」で設けられ、当初は3年間で計600万kWを募集するはずだったが、初回だけで応札した575万kW全量が落札され、2回目は224万kWの募集に対し131万kWが応札しやはり全量が落札されていた。

LNG火力の新設進むか

電力広域的運営推進機関が公表した今回の落札電源は、北陸電力富山新港火力LNG2号機(58万kW)、九州電力新小倉6号機(仮称、90万kW)、JERA袖ケ浦火力1・2号(各77万kW)の計4基303万kW。一方、非落札電源は公表されないが、K電力のH火力のリプレース案件と見られている。

ただ、K電力は約定結果が公表された翌週、H火力のリプレース計画を進める方針をプレスリリースしている。「今はタービンの順番待ちになっていて、後回しにされないためには落札できなくても進めるしかない」と、メーカー関係者Y氏は事情を推察する。

とはいえ、稼働の不確実性から投資回収の予見性が低下し、電力会社にとって大型火力の投資判断が難しくなっているのは事実。資源エネルギー庁は、4回目以降もLNG火力の募集を継続する方向で検討を進めている。同オークションで落札できるかが計画を左右するだけに、さらに競争が激化する可能性がある。

同制度は、発電事業者が原則20年間の固定費を確保できる仕組み。だが、事業者の判断でそれを超える期間を設定することも可能だ。今回、31年以上の電源は全体の39%(初回は18%、2回目は24%だった)を占め、中には45年という長期案件も。そしてこれは、「1年当たりの価格を下げ確実に落札する戦略」なのだという。次回に向け、各社どのような手を打って来るのか、注目だ。

【事業者探訪・鬼怒川ガス】重油からの燃転で業績好転 ピンチをチャンスに

鬼怒川ガス

重油ボイラーのガスへの切り替えで業績を改善し、さらに地域活性化の先頭に立つ。

困難な時こそ動くというモットーに従い、イラン有事でも即顧客に働きかけた。

栃木県の鬼怒川温泉街を拠点とする鬼怒川ガスは、全国に4者しかないLPガスストレート供給事業者だ。温泉街周辺に敷設した導管でLPガスを供給する他、日光市全域にボンベ配送も行う。

「さらなる業績拡大が可能」と猪狩専務

1967年、サイサン創業者の川本二郎氏が、ガスワングループ都市ガス事業第1号として同社を設立した。地域ではそれまで通常のボンベ配送でLPガスが供給されていたが、観光業を中心に「ガスをさらに効率的に安く使いたい」といった要望が高まり、導管供給が求められたためだ。その際、消費機器の交換が不要なLPガスストレート供給を選択した。

需要家の懐に入り提案 イラン有事で即行動

サイサンの川本武彦会長、川本知彦社長が鬼怒川ガスの会長、社長をそれぞれ務め、現場の責任者を担うのが猪狩謙二専務だ。

猪狩氏は以前、同じくガスワングループの常磐共同ガスで社長を務めていた。東日本大震災直後に同社社長に就任した。被災後に事業者が撤退したエリアに進出し、被災地へのエネルギー供給の継続に貢献しつつ、同社の利益も拡大させた。こうした実績を買われ、当時サイサン社長だった川本武彦氏に抜てきされ、2021年に現職に就いた。「創業者の二郎氏も、二代目の宜彦氏も尊敬している。恩返しのつもりで鬼怒川ガスの発展に努めようと思った」と振り返る。

鬼怒川ガスに入って即、取り組んだのが「埋蔵金」探しだ。まず見つかった埋蔵金が、ホテルの重油ボイラーの燃料転換だった。売り上げと利益の両方を増やし、かつ顧客に今まで以上のサービスを提供するとの基本的考えの下、15件ほどをガスに切り替え、蒸気ボイラーの導入が現在進行中のところもある。

例えば新しいホテル参入の動きをつかめば、彼らの事業化を進める手伝いをして初期から懐に入り込み、ガスの契約につなげるなどしていった結果、売上高を大きく伸ばした。今年の総売上高は6億円の見込みとなり、28年には10億円とさらなる飛躍を目指す。

社内改革にも取り組んだ。例えば経理は外部システムを導入して合理化を図り、今後はAIの導入でさらなる効率化を進める考えだ。

他方、「お客さま対応や保安・配管業務には人の力が必須で、オールラウンダーな社員の育成に注力している」といい、全社員がこうした業務をこなせるよう、研修を行っている。「ガスワングループのモットーの一つが『保安なくして企業の存続なし』。まさにその通りで、グループの審査でも当社の保安は高評価を受けている」と猪狩氏。また、拡大した利益を社員に還元することで、モチベーションアップにつなげている。

街づくりに向け積極的に議論を行っている

さらに「ピンチはチャンス。イランのハメネイ氏殺害の一報を聞いてすぐ、まだ重油を使っているお客さまにガスへの転換を呼び掛けた。当初は半信半疑だったマインドも、今は確実に変わっている」と手応えをつかんでいる。

同時に、燃料価格の変動を即反映できるよう、料金体系を見直した。こうした行動は、東日本大震災の経験によるところが大きい。「有事や困難な時こそ動くというモットーは、宜彦氏からも学び、確信に変わった」という。

同社としてのイラン有事対策は既に講じ、事業への直接の影響は回避できる見込みだが、「石油製品の目詰まりで工務店などは多くが廃業の危機にある。また、あらゆる業種で物価上昇による経営破綻が続くかもしれない」と、間接的な影響を懸念している。

新たな温泉街モデル模索 若手の奮起に期待

「地域の発展なくして企業の発展なし」との考えの下、鬼怒川の活性化も重要課題だ。

全国的にインバウンドが盛り上がりを見せるものの、日光から鬼怒川まで足を伸ばす人は少ない。宿泊者数はコロナ前の8割ほどまでしか戻っていない状況だ。そこで、猪狩氏が観光業関係者に声をかけて街づくりの会を作り、会長を務めている。「ビジネスで鬼怒川を良くしたい。新しい観光コンテンツを切り開くべく、方向性を吟味している」ところだ。

バブル崩壊後にホテルの破産が相次いだ経験を繰り返すわけにはいかない。いまだ残る廃墟ホテルの撤去をどう進めるのか、あるいは廃墟を観光資源として生かすのかといった課題を抱えながら、地域の新たな挑戦の先頭に立っている。

「この5年間で経営計画や社内体制の変革を進めてきた。今後は若い世代が、鬼怒川ガスをより発展させる力を自ら醸成していってほしい。そしてガスワングループのシナジーを発揮していくことが肝要だ」と強調する。ガスワングループの一員として、そして地域の主要ステークホルダーとして、同社は引き続き社の成長と多方面への貢献を模索していく。

【地域の魅力発信】渓谷のレストラン ステーキよし乃

鬼怒川温泉街にたたずむ「ステーキ よし乃」。ホテルと連携して「泊食分離」を推進し、旅の思い出を彩る、あるいは特別な日の食事を楽しめる店として評判だ。肉は地元ブランド牛「足利マール牛」をはじめ、希少な和牛を取りそろえる。他にも厳選した地元食材を使用。米は食味の良さが際立つ鬼怒川下流の提携農家がよし乃専用に精米。栃木産地紛使用の自家製麵パスタなどもある。

渓谷のレストラン ステーキよし乃
提供:よし乃Webサイト

【業界紙の目】ナフサ危機が示す石化産業の新たな課題

藤岡竜志/化学工業日報 編集局行政グループ部長

イラン有事により、ナフサやナフサ由来石油化学製品の供給不安が広がっている。

供給途絶は回避できているが、価格高騰での需要低迷、民間備蓄再開といった新たな課題が浮上する。

ナフサにかつてない注目が集まっている。ホルムズ海峡封鎖で、国内で使用するナフサの4割を占める中東産の輸入が止まり、ナフサ由来の石化製品の供給不安が起こっているためだ。

原油から精製するナフサを高温で熱分解するとエチレンやプロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの基礎化学品が得られる。これらを化学反応させることでポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチックや合成ゴム、塗料原料や溶剤などの川中製品(誘導品)ができる。これら石化製品は、自動車、半導体、食品、医療機器などあらゆる産業で使用され、供給が途絶すれば社会に多大な影響を及ぼす。

川上供給継続も「目詰まり」需要低迷に中国品追い打ち

ナフサを分解し、基礎化学品を大量生産するための中核設備をナフサクラッカーと呼ぶ。石油化学の出発点であり、現在は国内に12基が存在する。3月に中東からのナフサ輸入停止が予想されると、石油化学メーカー各社は自主在庫を使いながら、クラッカーの稼働率を10~20%削減することで継続運転を維持してきた。一度止めてしまうと再稼働に約1カ月かかり、川中製品やその先の最終製品の供給不安を招きかねないからだ。

同時に、石化メーカーは経済産業省と連携し、中東以外からのナフサ調達に注力してきた。

足元では、政府が4月末に公表したように、ナフサ自体の供給途絶リスクは回避できている。米国やアルジェリア、ペルーなど中東以外からのナフサ輸入が急増しているためだ。

ただ、ナフサ調達の目途がたち基礎化学品の供給は継続しているにもかかわらず、塗料や接着剤に用いるシンナー、溶剤などのトルエン系石化製品の入手困難な状況が続いている。これらの製品を消費する、塗装業者などの末端事業者は数が多い。供給不安を抱えた事業者が、通常より多めに在庫確保を試みた結果、需要が階層的に増幅され、流通上の目詰まりが生じているものと想定される。

石化産業にとって深刻な課題は、通常価格の2倍以上に高騰したナフサから作ったプラスチックなどの川中製品を今後さばけるのかということだ。製品の大幅な値上がりが需要低迷につながるのは「公理」である。

さらに追い打ちをかけるのが、安価な中国品の流入だ。石化製品は国際流通商品であり、国境はない。ナフサ不足による国産川中製品の品薄を補うため、中国から代替調達する動きが広がる。高騰した国産川中製品は競争力を失い、国内の顧客を奪われる可能性がある。そうなると国産川中製品の需要はさらに低迷し、国内のクラッカーは操業を維持できなくなる恐れがある。

もう一つ、急浮上する大きな課題は「ナフサの民間備蓄制度の再開」だ。中東からのナフサ調達が途絶え、中東以外からの調達が拡大するまでの期間は、石化メーカーが自主備蓄しているナフサがクラッカー操業維持の命綱となった。ならば、将来の有事に備え、民間備蓄分を増やしたらどうかという考えだ。

実際、自民党・政務調査会の「イラン情勢に関する関係合同会議」は提言の中に「安定供給に万全を期す観点から、必要な民間在庫を確保することで、ナフサ不足による経済への悪影響を避ける」との文言を盛り込んだ。エネルギーに詳しい有識者からも「ナフサの民間備蓄義務を外したことは失敗だった」という意見が相次いでいる。

ただ、歴史をひも解くと、そもそもナフサが備蓄義務の対象とされたこと自体が間違いであったことが分かる。

政策次第では石化産業に多大な影響が及ぶ

民間で備蓄する国はゼロ 再開なら業界に多大な負担

1975年の第一次オイルショック後、IEA(国際エネルギー機関)の勧告により、資源エネルギー庁は石油備蓄法を制定し、ナフサも対象とした。実際にはIEA勧告の中にナフサは含まれておらず、欧米では備蓄対象とならなかった。そのため国内石化業界は、欧米との競争条件を同一にするため、ナフサの対象除外を強く要望。粘り強いロビイング活動と、業界を所轄する基礎産業局(現在の製造産業局の一部)の応援により、89年から90日間の備蓄を段階的に減らし、93年に最終的に廃止することが決定した。今でもナフサを制度として備蓄している国は世界中どこにも存在しない。今回のナフサ由来石化製品の供給不安責任を石化産業だけに押しつけるのは間違いだ。

仮にナフサの民間備蓄制度が再開する場合も、多くの課題が残る。現行、原油の国家備蓄の運営費および民間備蓄の補助金は、エネルギー対策特別会計の中で費用処理されている。その財源は石油石炭税の税収で、石油元売りは支援を受けつつの納税負担を強いられている。一方ナフサについては、石化業界が国際競争条件を等しくするため同税の事実上免除を勝ち取ってきた。ナフサの民間備蓄の運営費用捻出のため、同税が再度課されるようであれば国内産業の競争力をさらに失わせるだろう。

また、ナフサは揮発性が高く、長期保存には適さない。もし原油並みの備蓄期間を求めるなら特殊なタンクが必要で、数百億~1千億円はくだらないのではないか。国内メーカーが負担できる投資規模ではない。川中製品のプラスチック段階で備蓄する方法も考えられるが、最大の供給不安材料となるトルエン由来石化製品には効力はない。

いずれにせよ、今後予想される「原料価格高騰による石化製品の需要低迷」、「ナフサの民間備蓄の再開」という二つの課題対応が、国内石化産業の浮沈の鍵を握るだろう。中国の大増産により国内産業は急速に国際競争力を失いつつあり、石化事業を手掛ける総合化学企業は経営資源を半導体材料などの機能性化学品にシフトしている。国が備蓄義務の多大な負担を強いるのであれば、企業側は事業撤退を検討せざるを得ないだろう。国内に石化産業を残すためにも、経産省には国際競争力維持と安定供給確保のバランスを持った産業政策が求められている。

〈化学工業日報〉〇1937年創刊〇読者数:10万人〇読者構成:化学・総合・専門商社、電子材料、医療・バイオ、プラントエンジなど

【LPガス大変革時代に挑む】物流と人材確保に本腰 電力事業拡大などで 業界をリードする存在に

尾日向 竹信 社長/三ッ輪産業

おびなた・たけのぶ 慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。野村総合研究所を経て2009年に三ッ輪産業入社。15年から現職。

関東地方を中心に卸・販売事業を展開する三ッ輪産業。

小売り全面自由化を契機に電力事業に全国規模で取り組んでいる。

―今年で創業86年を迎えました。貴社のエネルギー事業についてお聞かせください

尾日向 LPガス事業は関東全域と山梨県で展開し、約20万件の顧客を抱えています。卸と販売を手掛け、顧客との関係性を軸に事業を拡大してきました。また、エネルギーの小売り全面自由化以降は電力小売りのほか、電力販売や都市ガス販売支援事業なども手掛けています。

―国内では過疎化・人口減少が進み、物流の維持が大きな課題となっています。

尾日向 過疎化の進行でエリアの顧客密度が低下すると配送の生産性が下がります。そこで、2018年に複数の販売事業者とジャパンエナジックを設立し、配送の共同化に取り組んできました。当初は各社で重複していた配送ルートを最適化することを優先してきました。8年目に入る今年度からはフェーズ2として、配送拠点の統廃合を進めてさらに効率的な配送を目指していきます。

働き方の見直しが急務 持続可能な仕組み構築へ

―物流・保安の人材確保が課題です。どのように取り組んでいますか。

尾日向 働き方の見直しが急務です。LPガスの配送需要は夏冬で2倍程度の差があります。給与の相当部分が歩合制だったため収入が大きく変動していました。しかし、物流分野の残業規制が強化され、繁忙期に頑張れば稼げるという旧来の仕組みは成立しなくなっています。他業種からLPガス配送に人材を引きつけるためにも、収入の平準化や歩合の見直しを含めた給与体系の再設計が必要な局面に入っています。

そのためには、業界全体として配送・保安の担い手にきちんと資金が流れる仕組みを整備することが不可欠です。ジャパンエナジックでは、出資事業者から必要なコストをしっかり請求できる制度的な仕組みを構築しています。販売側が強いパワーを持ち運送側に資金が流れにくくなる構造から脱却し、物流・保安を支える人材が報われる仕組みをつくることが、持続可能な事業のために必要です。

―液石法省令改正が完全施行されてから1年余りが経過しました。この影響をどう見ていますか。

尾日向 設備提供を条件とした顧客の切り替えという行為は間違いなく減少しています。ただ、三部料金などへの対応が難しい小規模事業者が出てきています。中東情勢による仕入れコスト上昇が長期化すると、価格転嫁が難しい事業者はさらに事業継続が困難になると見ています。この動きに合わせて、大手事業者のM&A(企業の合併・買収)の動きが加速しています。当社も卸先の販売店からの事業承継案件や、エリアを広げるための買収に取り組んでいます。

電力を供給して全国の自治体と連携する

電力事業と地域共生 本業と双璧をなす事業創出

―小売り全面自由化を機に参入した電力事業の現状についてお聞かせください。

尾日向 電力事業はイーネットワークシステムズという三ッ輪ホールディングスの子会社が手掛けています。現在、提携事業者数は650を超え、利益面ではLPガスに並び立つまでになっています。安売りで顧客を獲得するスタイルではなく、全国の自治体などと連携し、地域電力の循環モデルの構築に取り組んできました。三重県や岡山県で、森林のカーボンクレジット創出、地域の脱炭素化、再エネ設備の導入、電力供給まで一体的に手掛けています。ガス会社でも、電力会社でもなく、地域課題を解決できるエネルギー総合企業と認めてもらえてもらうよう注力しています。

配送人材の確保が課題だ

―今後の展望をお聞かせください。

尾日向 当社はエネルギーを供給する地域の方々がどのような暮らしをして、どのような事業を営んでいるかを把握し、地域をいかに盛り上げるかが、鍵になると考えております。地方で積み上げてきた地域共生のノウハウは、関東エリアでも必要になるでしょう。自治体や他の事業者と協力しながら、地域の担い手としての役割を買って出たいと考えています。

 三ッ輪産業

1940年神奈川県横浜市で練炭・石炭の製造販売業者として創業。エネルギーの変遷に機敏に対応しながら販売事業者として成長を続け、現在は関東圏で約20万件の顧客を抱える。

【論点】歴史的低金利下で決めた事業報酬率 金利変動への備えが必要

託送料金の事業報酬率〈下〉/村田千春(電力中央研究所常務理事)

送配電事業での投資計画の実現を求める中、現行の事業報酬率の決め方は適切だったのか。

第一規制期間の反省を踏まえ、見直しに向けた論点を提示する。

前回は託送料金の事業報酬率の資金創出・調達面の重要性を再確認し、適正な報酬率水準の設定が中長期的には一般送配電事業者の資金調達コスト、ひいては託送料金の低廉化に貢献し得ることを示した。今回は一送の投資実現を重視するレベニューキャップ制度の下で、報酬率に求められる要件を考察する。

図1  投資実施のための必要条件

投資実現求める規制下に 変動リスクへの目配り重要

レベニューキャップ制度の目的は、一送による必要な投資の確保とコスト効率化を両立させ、再生可能エネルギー主力電源化やレジリエンス強化などを図ることとされている。国は「一般送配電事業者による託送供給等に係る収入の見通しの適確な算定等に関する指針」(以下、指針)を定め、一送が拡充・保全等必要な投資を計画し、これを確実に実施するため事業計画の策定を求めている。一送はこの計画に基づき収入見通しを算定する。

投資の未実施があり、計画した投資量を実績が下回った場合、当該投資に係る費用の乖離額を翌期の収入上限より減額する(翌期調整)。さらに事業計画は、電力・ガス取引監視等委員会に設置されたワーキンググループなどで定期的に進捗状況が監視されている。このように投資実現を強く求める規制下においては、報酬率水準に対して、キャッシュフロー面でさらなる配慮が必要となる。

一般に企業が投資を実施する場合、投資に伴い将来発生するキャッシュフローの割引現在価値が投資額と同等か、上回ることが必要条件である。一送の投資から発生する将来のキャッシュフローは、当該資産から生じる事業報酬と減価償却費と考えると、割引前のキャッシュフローは資産ごとの耐用年数と報酬率によってあらかじめ決定されることが分かる。他方、割引率は投資時点に応じて変動し、5年ごとの事業計画策定時点では予見できないため、投資の必要条件が満たされるか否かは事前には判明しない(図1)。

このことから投資計画の実施を求める規制体系下では、報酬率の決定に当たり、規制期間における金利等の変動(特に上振れ)リスクに備えた設定が強く求められることが分かる。この配慮が不十分だと投資実現の条件が満たされず、制度として一貫性を欠くこととなりかねない。

現在の報酬率(1・5%)は2022年に算定され、他人資本報酬率の前提となる公社債利回り(10年物)には17~21年度の5年間平均値(0・10%)が採用された。周知の通り、22年度後半から公社債利回りは反転し、現在は2・3%台(10年物国債利回り、本稿執筆時点)に至っている(図2)。  

歴史的な低金利の時期に報酬率を設定し、第一規制期間が開始されて以降、マクロ経済環境の変化などにより金利が上昇を続けたことは、タイミングの悪さもあったと考えられる。しかし同時に5年に及ぶ長期の規制期間にわたり1・5%の報酬率水準で十分なのか、さらに慎重に検討すべきだったのではないか、との反省も残ると感じられる。

図2  国債(10年物)利回り推移
出所:財務省資料により筆者作成

現制度の本質に回帰 求められる要件再確認を

第二規制期間の報酬率設定に当たっては、この経験を踏まえ、一送の投資環境変化にも備えた報酬率水準の設定が必要になると考えている。

国際情勢の一層の緊迫化に伴うエネルギー・経済安全保障上の要請に加え、産業政策も背景としたデータセンターをはじめとする電力需要増見込みもあり、一送の投資の必要性はさらに高まっている。加えて先行きのインフレ懸念等を反映し、国債をはじめとする公社債利回りの変動に伴い、資金調達コストが高まるリスクも強まっている。

レベニューキャップの本質は、収入上限をあらかじめ設定し、その範囲内での効率的な事業運営を促す点にある。しかし、コスト削減が供給信頼度を損なうような投資不足を招くことを回避するため、事業計画と指針により投資実現を担保する制度としたと理解している。この制度体系の下、投資と安定供給を実現するために、報酬率に求められる要件を再認識した水準設定の必要性を改めて強調したい。

最後に事業報酬という表現について言及したい。この言葉には電力会社の「もうけ」を表すような語感が感じられるため、特に料金値上げ時に報酬率の水準を下げるべき、との批判を招くことがあった。報酬率は電力会社の資本コストであり、適正な水準を維持・継続することが事業の健全な発展に不可欠であることを記させていただく。

むらた・ちはる 1985年東京電力入社。企画部、電力契約部、営業部などを経て2013年同社執行役員。18年電力中央研究所へ入所。21年6月から現職。

【フォーカス】長期脱炭素電源で大間落札 想定外のレドックスフロー台頭

「もともと、Jパワー大間原発の救済を狙って創設されたと言っても過言ではない制度。その目的がようやく達成された」

5月13日に電力広域的運営推進機関が公表した、長期脱炭素電源オークションの3回目の約定結果について、電力業界関係者はこう受け止めを語る。同オークションでの新設原発の落札は中国電力島根3号に次ぐ2例目で、いよいよ運転開始へのカウントダウンが切られた。

運転開始へカウントダウンが始まった大間原発

今回の入札では、脱炭素電源として大間原発のほか「原子力の安全対策投資」「バイオマス専焼」「既設火力のアンモニア混焼への改修」「揚水の新設・リプレース」「蓄電池」に、初の「水素専焼」を加えた計426・1万kWが落札され、制度開始以来、初めて募集量(500万kW)を下回った。また、別枠のLNG専焼火力では計303・8万kWが落札した。

関係者を驚かせたのは、「リチウムイオン電池以外の蓄電池」として、70万kWものレドックスフロー電池が入ったことだ。すべからく外資系事業者によるもので、国内事業者よりも安い見積もりを取って応札した模様だが、果たして彼らに日本の電力安定供給に寄与しようという意思があるのか、疑問が残る。

その一方で、リチウムイオン電池と同じ枠で募集されたリプレース揚水36万kWが失注してしまった。慣性力を供出する揚水は、再エネ大量導入時代の系統安定化で蓄電池にはない役割を果たす。送配電関係者は「ただでさえ経済性が厳しい。これを機に廃止検討もあり得るのではないか」と不安の様相だ。

【フォーラムアイ】森林クレジットで資源を活用する東海ガス 地産地消による地域循環モデルの構築へ

FE東海ガス

東海ガスは4月28日、静岡県藤枝市役所を訪問し、「瀬戸ノ谷森林保全プロジェクト」が森林クレジットとして認証されたことに伴うクレジット発行について北村正平市長に報告した。

森林クレジットはカーボンクレジットの一種。同プロジェクトは、藤枝市および静銀経営コンサルティングと協力し、中山間地域が約7割を占める市内の豊富な森林資源を活用して、J―クレジット制度の利用促進と森林資源の有効活用を図る「藤枝型森林カーボンクレジット」推進の一環として実施されたもので、同社初の森林クレジット活用例となる。今回認証されたのは、瀬戸ノ谷地区約200haにおける1002t分のCO2吸収量で、2023年4月1日から25年3月31日までの2年分が対象となる。

「藤枝型森林カーボンクレジット」の仕組み

東海ガスは同プロジェクトにより創出されたクレジットの一部を購入し、地域で生み出された価値を地域内で地産地消する地域循環モデルの構築に貢献していく考えだ。具体的には、この取り組みでオフセットされたガスを5%混合した「カーボン・オフセット都市ガス」を市庁舎に供給。ガス空調の燃料として使用する。このほか、認証対象の瀬戸ノ谷地区の瀬戸谷小・中学校、および同地区で運営する「びく石山静かな夜のキャンプ場」に、100%オフセットされたLPガスを供給する。

カーボン・オフセット都市ガスを空調に使用

環境価値向上と未来志向で 地域のCN推進を図る

同社は、藤枝型森林カーボンクレジットの活用を通じて、環境価値の向上だけでなく、森林が降水を貯留し、洪水緩和や水質浄化に寄与する水源涵養、生物多様性の維持、土砂災害の防止など、自然環境を未来へ引き継ぐことのさまざまな意義に共感している。山田潤一社長は「今後も藤枝市、地元事業者と連携を密に行い、地域におけるカーボンニュートラル(CN)を推進していく」と抱負を語った。