相次ぐ燃料油のカルテル疑惑 高騰対策の陰で悪しき商慣行

【論説室の窓】木村裕明/朝日新聞 論説委員

ガソリンや軽油の流通業者に対する公正取引委員会の摘発が相次ぐ。

価格高騰を抑える補助金が投じられてきた中でのカルテルに、独禁当局の視線は厳しい。

運送業者などに販売する軽油の価格の維持や引き上げを図るカルテルを結んだ疑いがあるとして、公正取引委員会が2025年9月、石油元売り最大手のENEOS系や東日本宇佐美など石油販売8社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで家宅捜索をした。

フリート販売と呼ばれる、運送業者向けのガソリンスタンド(GS)で供給する軽油の価格を調整していた疑いを持たれている。東京に事業所がある運送業者などに売る軽油について、8社の営業責任者らが長期間にわたり、定期的な会合などで情報を交換していたようだ。8社で市場の過半のシェアを占め、特にENEOSや宇佐美のグループのシェアは高いとされる。

真相究明と事業者の信頼回復が急務だ


刑事事件化視野に強制調査 3年ぶりの「犯則調査権」

公取委の岩成博夫事務総長は記者会見で、刑事事件化を前提とした「犯則調査権」に基づく強制調査を始めたことを明らかにした。検察への告発を視野に実態解明を進めるとみられる。

犯則調査権は、国民生活に影響が大きい悪質な談合やカルテルなど、行政処分では改善を図れないと判断した事案が対象になる。適用は東京五輪・パラリンピックの運営業務をめぐる入札談合事件以来、約3年ぶり。公取委が調査の開始を公に認めるのも異例なことだ。

トラックなど大型車に使われる軽油は物流などの社会インフラを支える燃料だ。全日本トラック協会によると、軽油の価格が1円上がると、トラック業界全体で年間150億円の負担増になるという。特に使用量が多い長距離輸送への影響が大きい。

業界の99%以上が中小・零細の事業者で、燃料の高騰分を荷主に転嫁できないことが多い。燃料価格の上昇分を上乗せして請求する「燃料サーチャージ」制度に応じる荷主はあるが、その場合は最終的に消費者に負担が転嫁される可能性がある。不当に上乗せされた分の負担は、運送業者、荷主、消費者のいずれかが負うことになる。

東京商工リサーチによると、24年度の道路貨物運送業の倒産件数は353件。14年ぶりの高水準だった。燃料費高騰などによる「物価高」関連の倒産が、うち111件を占める。厳しい人手不足と燃料費の転嫁が難しいことが相まって、運送業者の経営を圧迫している実態が浮かぶ。不当な価格調整は慢性的に低賃金となっているドライバーの賃上げの阻害要因になる。高齢化に直面する業界で担い手不足がさらに深刻化しかねず、持続可能な物流インフラの妨げになることも懸念される。

軽油やガソリンなど燃料価格の高騰を抑えるため、政府は石油元売り各社に巨額の補助金を投じてきた。その額、22年1月以降で8兆円余りに上る。

そのさなかに販売会社が自社の利益確保を優先して価格競争を避けるカルテルを結んでいたとすれば、燃料油の高騰に乗じる形で法人向けの軽油価格が不当にかさ上げされ、物価高対策の効果を弱めていた恐れがある。看過しがたい不正である。

「市場の番人」たる公取委の出番だ。強制調査に着手した判断は理解できる。本稿を執筆している25年12月上旬の時点で調査は継続中とみられる。徹底した調査で疑惑の全容を解明し、疑念や不信を招く商慣行の適正化につなげてもらいたい。

燃料油の市場が縮む中、ほかにもカルテルの摘発が相次ぐ。

家宅捜索を受けた8社のうち6社は、神奈川県の業者向けの軽油でもカルテルを結んだ疑いがあり、5月に公取委の立ち入り検査を受けた。

11月には長野県内のガソリン販売で価格カルテルを結んだとして、多くのGSを束ねる長野県石油商業組合の北信支部の独禁法違反(事業者団体による競争制限)を公取委が認定、排除措置命令を出した。支部に加わる17社が課徴金計1億1658万円の納付を命じられた。北信支部が価格の上げ下げの幅と改定時期を電話などで伝え、GSは伝えられた通りに価格を決めていたと認定。組合には、カルテルを事実上容認していたとして独禁法の順守を申し入れた。

【覆面ホンネ座談会】安定供給へ回帰路線継続か 「丙午」の業界を予想する

テーマ:2025年振り返りと26年の展望

2025年は第7次エネルギー基本計画の策定に始まり、より安定供給重視の方針の下、エネルギー政策を巡る方針転換が図られてきた。まだまだ不透明さが続く業界を、26年はどのようなニュースが駆け巡るのか。

〈出席者〉 A 電力業界関係者   B 都市ガス業界関係者   C 石油業界関係者

―まずは電力、都市ガス、石油各業界の2025年を振り返りたい。

A 電力業界にとって象徴的な出来事は、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の見通しが立ったことだ。北海道の鈴木直道知事も北海道電力の泊3号機の再稼働を容認したことだし、これからの各原発の動向に大きな影響を与えることになるだろう。

B 都市ガス業界にとっては、第7次エネ基が策定されたことが大きなニュースだった。火力燃料の中でもLNGの重要性、そしてeメタンにしっかりと取り組んでいく必要性が明記された。石炭や石油を燃料とする自家発やボイラーは、LNGに転換するだけでCO2を4割ほどカットできる。特に既存の技術では転換が困難(ハードトゥアベイト)な産業に対して補助金を付け、かつ単年度ではなく複数年度の施策としてもらえたことは業界にとってビジネスチャンスだ。

C ガスと同様、第7次エネ基でトランジションエネルギーとして一定の評価をしてもらえたことは石油業界にとって良いことだと思っている。EV(電気自動車)化が一気には進まない中で、10㎞以上離れた場所まで行かないとサービスステーション(SS)がないような過疎地域において、既存のSSをどう生かしてくのかといった議論がなされていることもありがたい。

安定供給とカーボンニュートラル両立の現実解模索は続く


三菱商事が洋上風力から全面撤退 再エネ神話の崩壊を象徴

―25年は間違いなく原子力活用への大きな一歩を進めた年となった。一方、さまざま問題が指摘されながら、乱開発とも言うべき動きが止まらなかったメガソーラーには逆風が吹いた。

A 北海道・釧路湿原のメガソーラー開発が象徴的だったね。メガソーラーへの規制は決して高市早苗首相の思い付きではなく、24年に環境省が調査した段階で322の自治体が再生可能エネルギーを規制する条例を制定していて、根底にはそうした流れがあった。再エネは全否定されるべきではないが、地域の自然環境との共生や系統への統合の問題など、よりリアリティを持ってカーボンニュートラル(CN)を考えていかなければならないということだ。11月にブラジル・ベレンで開かれた地球温暖化防止国際会議・COP30も、化石燃料を巡る結論がまとまらなかった。もう少し現実的に何ができるのか、日本のみならず世界が考え直した一年だったのだと思う。

B メガソーラーだけではない。再エネ神話が崩壊した年だったと言って良いと思う。なにより、三菱商事が3海域の洋上風力発電事業から撤退したことは、エネルギー業界全体にとって大きな衝撃だった。破格の応札価格が足を引っ張ったのだろうが、再エネ導入拡大と国民負担のバランスを改めて考える必要性が認識された。


26年はより環境性以外の要素に軸足 GX―ETS開始で各社の動向は?

―26年はどのような年になりそうか。

A 25年はより安定供給、エネルギーセキュリティー、あるいは価格のアフォーダビリティー(受容性)に軸足をシフトするきっかけになった年。26年はそれがさらに加速していくんじゃないかな。今後、半導体やデータセンター向けに電力需要が増えてく中で、新しい系統を作ってしまえばコストをどう負担するのかという問題になる。そういう課題に直面する中で、火力燃料をもう少し予見性を持って調達できるようにするべきだということで小売り事業者の供給力確保義務を課すことが検討されている。どれだけ有効かは議論があるが、根っこにそういう思想があって出てきたわけだ。

C 改正GX―ETS(排出量取引制度)の開始が決まったことは、石油業界のみならず産業界全体に非常にインパクトがあることだ。制度の詳細が決まらないとなんとも言えない部分はあるが、技術を持ち先行的に取り組んでいくのか、それとも証書を買ってくればヨシとするのか、考え方次第でこれまでと全く違う動きが出てきてもおかしくない。

B 都市ガスはシステム改革検証の真っ只中だが、業界が激震するようなことは起きないと思う。燃料転換を通じて環境負荷の高いエネルギーを使っている需要家にLNGに変えてもらえれば、50年までの間に累積してCO2を減らすことができるので、各事業者がどこまで頑張れるのか、そこになんらかの政策支援が入るのか業界として注目している。

もう一つ。エネルギーではないが、1月に埼玉県八潮市で水道管の破損が原因で道路が陥没する事故が起きた。都市ガスでは、山口県宇部市の山口合同ガスの供給エリアで、圧力が下がらないまま供給され、ガス漏れや火災が発生した。原因はまだ分かっていないが、長く業界に身を置いていて初めて聞くような事故だったし、一歩間違えれば大きな被害が生じかねなかった。26年もインフラの老朽化、安全問題が大きなテーマであり続けることになりそうだ。

【コラム/1月9日】米国地方選から見えるわが国経済政策の死角

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

前回のコラム(2025年12月12日)では、2025年11月4日に行われた米国のニュージャージー州とバージニア州の知事選において、電気料金の高騰が争点になったことを述べた。両州はいずれも地域系統運用者PJMの管轄区域に属し、PJM管内で続く電力コスト上昇の影響を大きく受けている地域である。今回新たに取り上げるニューヨーク市も同様に、電気料金をはじめ公共料金などの生活費の上昇が著しく、市長選での主要なテーマとなった。こうした動きは、国民生活に直結するエネルギーコストや生活費が政治的争点となり得ることを示している。本稿では、この米国の事例を手がかりに、日本における経済政策の問題を考えてみたい。

ニュージャージー州では、民主党候補が事前の予測を大きく上回る得票差で勝利した。生活費、とりわけ電気料金の高騰への対応を前面に打ち出したことが、有権者の支持を集めた要因とされている。バージニア州でも同様に、電気料金や生活費の上昇が選挙戦の主要争点となり、これに対する具体的な対策を訴えた民主党候補が勝利を収めた。

ニューヨーク市の市長選は上記2州の知事選と同日に行われ、生活費の凍結を訴えた民主党急進左派のマムダニ氏が圧勝した。彼は最低賃金の引き上げや家賃の凍結に加え、電気料金など公共料金の抑制や再生可能エネルギーの導入促進を掲げ、生活費全体の引き下げを前面に打ち出した。選挙戦で市民に響いたのは、生活に直結する課題への強いメッセージである。住宅問題については「ニューヨークは誰もが住める街でなければならない」と訴え、生活費や物価問題については「働く人々が生活できない街は繁栄しているとは言えない」と批判し、多くの市民の共感を集めた。米国では物価が高騰しているにもかかわらず、賃金の上昇がそれに見合っていない。この乖離が市民の不満を爆発させ、マムダニ氏の勝利につながったといえる。

一方で、日本でも、現政権が積極財政を掲げたことで財政規律の緩みが懸念され、円安が進行しており、インフレがさらに加速する可能性がある。これに加え、日銀が利上げに慎重な姿勢を崩さず、小幅な利上げにとどまっていることが、円安圧力を一段と強める要因となっている。特に最近では、電気料金が高水準で推移しており、補助金による一定の抑制はあるものの、家庭や企業の負担は依然として重い。こうしたエネルギーコストの上昇は、物価全体を押し上げる一因となり、国民生活に直接的な影響を及ぼしている。政府は賃上げによって物価上昇を吸収する方針だが、物価を正確にコントロールすることは難しく、想定を上回る上振れリスクも残る。こうした懸念を裏付けるように、実質賃金は長期にわたりマイナスの伸びが続いている。加えて、わが国の実質経済成長率も長期にわたり極めて低い水準にとどまり、持続的な成長軌道を確保できていない。成長を伴わないインフレは賃金上昇で吸収することが難しく、実質所得の低下を通じて国民生活に負担を強いる構造的な問題を抱えている。

現政権は高い支持率を享受しているが、世論は移ろいやすいものであることを肝に銘じておくべきだ。現政権は物価高対策として、電気・ガス料金の補助や2025年末のガソリン暫定税率の廃止、おこめ券・電子クーポンの配布など、多様な支援策を講じている。こうした施策に加えて恒久的な所得税減税や地方自治体による生活支援も進められているものの、恒久減税の規模は相対的に小さく、全体としては時限的かつ対症療法的な対策が中心であるため、家計負担の構造的な改善には限定的な効果しかもたらさない。物価の抑制が効かず家計の負担が増す一方で、恩恵を感じられない状況が続けば、国民の支持はいつか反転する可能性もある。ニューヨーク市の市長選の事例に見られるように、物価や生活費の高騰は急進的な変革を訴える勢力への支持拡大につながりやすい。日本においても、同様の政治的変化が一気に広がる可能性を否定できない。

生活費の上昇はエネルギーにとどまらず、住宅市場にも深刻な影響を及ぼしている。すでに首都圏、とりわけ都内の住宅価格は、過剰流動性による資金流入と投機的な需要が重なって大きく上昇し、多くの国民にとって手が届かない水準となっている。「住宅は人生で最も大きな買い物」と言われるが、そもそも“買えるかどうか”が大きな壁となりつつあるのが現状だ。こうした事態を政府はより深刻に受け止める必要がある。もはやデフレ期の政策発想では、現在の経済状況には対応しきれない。現在の日本経済はアベノミクス初期のデフレ局面とは大きく異なり、すでにインフレ圧力が高まっている。こうした環境の変化を踏まえれば、当時と同じ発想で財政拡大を進めることには慎重な判断が求められる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【イニシャルニュース】26年の業界トップ人事 5~6年は当たり前⁉

26年の業界トップ人事 5~6年は当たり前⁉

東北電力、九州電力、東邦ガスの3社で社長交代があった2025年の大手電力・大手都市ガス事業者。26年に動きがありそうなのが、まずは東京電力ホールディングスだ。

現社長の小早川智明氏は、17年6月の就任から8年が経過。最大の懸案だった柏崎刈羽原子力発電所の再稼動にメドが付き、第5次総合特別事業計画の年度内策定が見えてきたことで、「これらを花道に交代するのでは」との観測が流れる。後任の候補はS氏とN氏だが、元東電関係者からは「Y氏が急浮上しているようだ」との声も。またN氏を巡っては、原子力関係のN社の次期社長説が有力。もう一人のN氏を候補に挙げる関係者もいる。

ただ、元東電幹部は「若くして社長になった小早川氏はまだ62歳と若い。柏崎刈羽が動いたからといってすぐに辞めるのは考えづらく、もう一年は続けるだろう。この間に、東電の経営再建に関して思い切った決断をするかもしれない」と予想する。

JERAを通じて東電とアライアンスを組む中部電力でも、トップ交代がささやかれている。現社長の林欣吾氏は26年で就任6年になる。後任候補はN氏やK氏だ。もし交代となれば、電気事業連合会の会長も代わることに。「K電力社長のM氏が次期会長候補」というのは、業界関係者のおおむね一致した見方だ。

沖縄電力の本永浩之社長も長く、19年4月の就任から26年で7年。N氏やY氏への交代説が聞こえる。このほか、北陸電力の松田光司社長、大阪ガスの藤原正隆社長が5年を迎えるが、「最近の傾向として、5~6年続けるのは当たり前になりつつある。全ては人事権を持つ会長や社長の判断次第」(大手電力関係者)。果たして26年はどうなるか。


EV重量課税に反発も 暫定廃止と合わせ冷や水

政府・与党が導入を検討しているEVをターゲットにした自動車関連税制の改正案に、業界が反発を強めている。改正案には、重量がガソリン車よりも重いEVに自動車重量税を上乗せしたり、購入時の環境性能割を2年間停止したりすると記されている。自動車大手X社の関係者は「国内向けに新型EVを投入したばかり。これからという時に冷や水を浴びせられた」とおかんむりだ。

EVシフトは本当に進むのか

政府・与党が自動車関連税制の見直しに着手したのは、ガソリンの暫定税率廃止に伴う財源確保が目的だ。霞が関のある官僚は「そもそも原油価格が落ち着いて、ガソリン価格そのものが高止まりする状況でないときに、暫定税率を廃止し実質値下げして需要を喚起することに、何の意味があるのか」と疑問を投げかける。

その上EV課税が実現すれば、ガソリン車からEVへの買い替えに影響が出ることは想像に難くない。政府は26年1月からEV購入時の補助金を40万円増やす方針だが、どこまで効果があるかは不透明だ。

勢い余る高市政権だが、少数与党であることには変わりない。暫定税率廃止は「国会対策だけのため」(霞が関筋)であることは明らかだが、EVに照準を合わせて税制改正するのはどうもわけがあるらしい。

前出の霞が関関係者は「中国のEVメーカーが低価格で日本市場に殴り込みをかけている。アフターサービスもよく、国産EVでは太刀打ちできないほどだ。いずれ席巻されてしまう恐れもあるだけに中国への参入障壁、国産メーカーの保護策という側面はあるだろう」と話す。

中国締め出し、国産メーカーを守るといういかにも勇ましい高市政権らしい政策とも見える半面、保護される国産メーカーにはむしろありがた迷惑らしい。

自動車大手Y社の技術担当は「電源や電圧の関係でそもそも日本はEVに向かない国だが、メーカーは何とか技術開発して充電や航続距離で革新している。それはやはり海外メーカーとの切磋琢磨があって生まれるもの。消費者に不利な状況を与え、メーカーにはぬるま湯ではいつまでたっても進化がない」とバッサリ。

台湾問題で高市早苗首相の余計な一言が波紋を広げる中、自動車税制でもハレーションを起きそうだ。

予測の「大外し」回避に挑む 確率論でリスクマネジメント

【気象データ活用術 Vol.10】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

『NEDO、日本気象協会、産業技術総合研究所は日射量予測が大幅に外れる“大外し”を低減する予測技術を開発』という見出しのネット記事を読んだ。当連載のテーマである『不確実性のマネジメント』にドンピシャな内容なので、この開発に関わった方々の気象ドリブンな設計思想に思いを巡らせつつ、記事の内容について解説したい。

まず、天気予報には大きく二つの表現方法があることを想起してほしい。「最高気温は○℃」とピンポイントで示す『決定論的予報』と、「降水確率は○%」と可能性の幅を示す『確率予報』である。前者は、最も確からしいシナリオを一つだけ提示するため、利用者は迷わず計画を立てられるメリットがある。しかし、気象状況が複雑で予測が難しい局面では、その「一点張り」が外れた際の影響が無防備になるリスクもはらんでいる。対して、今回発表された技術は後者のアプローチで、予測が困難な局面での“大外し”回避に挑んだものである。

決定論・アンサンブル・複数モデルの予測値
提供:weather-models.info

記事によると、開発スコープは“翌日および翌々日程度先を対象”とある。この時間スケールでの課題は、低気圧や前線など雲を伴う現象が移動する場で、その進行方向・速度や発達衰弱具合の予測誤差が大外しの原因となることである。

こうした不確実性のある気象状態に対し、確率予報の考え方で、あえて予報を一つに決め打ちしない(=決定論的予報で勝負しない)ことは、予測が外れた時の誤差の大きさを最小限に抑えるアプローチ、つまり“大外し”を低減する予測技術であり、不確実性をマネジメントする予測思想である。これの具現化のため「複数機関の気象モデル予測値の統合」「アンサンブル予報に基づく信頼度予測」という技術が開発された。なお、不確実性のことを記事では信頼度という表現を用いているので、以下そのように読み換えてほしい。

日本でも海外でも国の気象機関や気象会社がおのおの独自に開発した気象モデルがある。これらが算出した解=予測値を平均するなどの処理を経て統合予測値とする。これが「複数機関の気象モデル予測値の統合」である。

上記“複数の気象モデルから得られる複数の予測値を統合する”ことに対し、アンサンブル予報は“ひとつの気象モデルに多様な初期値を入力して複数の予測値を得る”手法である。アンサンブル予報の詳細は当連載7月号を参照されたい。

アンサンブル予報で得られた複数の予測値がどれも近い値の場合、信頼度が高い予測として解釈する。予測値同士がバラつく場合は信頼度が低い予測=不確実性が高いので、あえて当てにいかずばらつきの中央を取るなどの戦略が取れる。つまりホームランを狙わず三振を確実に回避するという、極めて実務的で賢明な戦略なのである。

大外しすることがリスクとなる予測対象において、予測のブレ幅(信頼度)自体を重要な情報と捉えマネジメントする。電力のみならず物流や小売など、気象リスクと向き合う全ての産業に応用可能な技術である。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

・【気象データ活用術 Vol.7】エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

・【気象データ活用術 Vol.8】再エネ予測精度評価法を再考 気象の精緻さより経済性指標

・【気象データ活用術 Vol.9】似て非なる二つのミッション 予測とシミュレーションの違い

洋上風力の政策見直し決着 R2・3に脱炭素オークション

注目されていた洋上風力公募案件への新たな支援策と公募制度の議論が決着を見せた。資源エネルギー庁と国土交通省が合同会議を12月17日に開き、事務局案を委員が了承した。ラウンド2・3の「ゼロプレミアム」案件への長期脱炭素電源オークションの適用は条件付きで認める。国民負担軽減に向け、ゼロプレミアムを前提としていた状況から大きく舵を切る。

新たな支援策などを事業者はどう受け止めるのか

11月19日の会合でこの方向性が示され、委員は概ね了承。バランシングコスト相当分のFIP(市場連動価格)交付金を受領しないことを条件に、同オークションをR2・3のみに適用し、次回以降は認めない。

ただ、委員からはあくまで「撤退ドミノ」を避けるための例外的措置であり、国民負担増につながることを理解してもらうための努力が必要といった意見が相次いだ。その後、12月12日の総合資源エネルギー調査会・制度検討作業部会でも了承した。

新たな公募制度での価格点を巡っては、11月19日時点では供給価格の上限額に加え、事業者の創意工夫を織り込んだ価格として下限額を導入し、これを下回る場合は失格にするとしていた。ただ、ゼロプレミアムでは1kW時3円以下で札入れした場合は一律満点(120点)とした経緯を踏まえ考え方を修正。下限価格は設けず、「創意工夫を講じることを想定した価格」と上限額の間の価格幅を設定。「想定供給価格幅」とし、上限額からこの幅を減じた額以下の入札は一律満点とする。

なお、上限額での入札は、洋上風力が黎明期にある現時点では100点を与えることとした。

福岡市油山の生物多様性を保全 研修所の森が自然共生サイトに認定

【西部ガスホールディングス】

福岡市の繁華街から車で南に30分。里地里山の環境が形成された油山の麓に「西部ガスグループ油山研修所」がある。西部ガスグループでは30年以上にわたり、同施設の敷地内に生い茂る樹木の維持管理にも携わる。こうした長年の活動や、この森が地域の自然環境と調和しながら教育・研修の場として機能し、人の活動と自然の保全が両立している点などが評価され、25年9月、国から地域生物多様性増進法に基づく「自然共生サイト」の認定を受けた。

美しく紅葉した研修所の森

自然共生サイトは、民間の取り組みにより生物多様性の保全が図られている区域(森林、里地里山、都市緑地など)を環境省が認定する仕組みで、23年にスタートした。

グループガバナンス部のサステナビリティ推進担当者は、認定を申請した目的について「地域のエネルギー供給を支える企業として、環境との共生を重要な使命と考えている。自然を守りながら事業活動を行う姿勢を明確にし、従業員や地域社会とともに生物多様性保全に取り組みたい」と語る。


体験型学習の場を提供 環境保全を自分ごとに

自然共生サイトの認定にはモニタリングが必要になり、動植物の活動が活発になる春と秋の年2回実施している。近隣の自然観察センターの協力を得て25年春に実施した際には199種の動植物が確認された。この自然豊かな研修所の今後の活用に関し、同グループのサステナビリティ推進担当者は「自然環境を生かした体験型の学習を充実させ、従業員が環境保全を自分ごととして考えられる場にしていきたい」と語る。

自然観察会で作品作りを楽しむ親子

その第一弾として25年11月に、グループ従業員の親子向け自然観察会を開催した。参加した親子は、研修所の森でどんぐりなどの木の実やさまざまな色や形の木の葉を拾い、それを白い画用紙に貼り付け、額に入れ、自宅の部屋の壁を飾るアートを作成した。研修所の森は一般公開されていないが、近隣にある学校など教育機関と連携しイベント実施も考えているという。

福岡市内で初認定となった同研修所は、視察希望者の問い合わせも多く、自然共生サイトへの関心の高さがうかがえる。同社は今後、北九州市のひびきLNG基地の認定も目指す予定だ。

異例の規模の25年度補正予算 巨額歳出が実態経済につながるか

高市政権が「強い経済」実現に向け取りまとめた総合経済対策を裏付ける、2025年度補正予算が25年12月16日に成立した。一般会計の歳出総額は前年度を約4・4兆円上回る18兆3034億円に達した。物価高対策を手厚くした上で成長投資を積み増した結果、財政出動は異例の規模に膨らんだ。

参院本会議で2025年度補正予算が可決、成立した
提供:朝日新聞社

物価高対策として、エネルギー分野では26年1~3月の電気・ガス料金への補助を再度盛り込んだ。予算額は5296億円と、前年度の3194億円を上回る。エネルギー価格高騰への即効性を重視した措置だが、巨額支出の妥当性が十分に検証されていないことや、脱炭素政策との整合性に疑問を呈する声がある中での復活となった。

経済成長投資の分野では、研究開発への投資を強化する高市首相の独自色が鮮明になった。11月10日に開催された日本成長戦略会議で「重点投資対象」とされた17分野の一つである核融合には、「フュージョンエネルギー発電実証推進事業」として600億円を計上。また、高市首相が日本の強みとして推進・普及する姿勢を示してきた、ペロブスカイト太陽電池についても、「GXサプライチェーン構築支援事業」の中で後押しする方向性が示された。

高市政権は、物価高に直面する家計を下支えしつつ、技術開発への投資を通じて経済成長と税収増につなげる構想を描く。ただ、財政拡張に軸足が置かれ、成長戦略は手薄だとの指摘も根強い。拡張した財政支出が実体経済や需要創出に結び付くかは、高い支持率を誇る政権の手腕にかかっている。

【コラム/1月7日】「働いて働いて」を考える~借金漬け経済の打開となるか

飯倉 穣/エコノミスト

1、経済に処方箋は

2025年日本経済は、輸出横ばい、設備投資微増、生産一進一退で、実質GDP伸び率0~1%程度である。2026年も外的ショック等の影響がなければ、大凡現水準維持であろう。沈滞の平成・令和の延長線の状況に、停滞経済を嘆く向きも多い。そして政権交代の度に、その打開を図るべく政治の掛け声が響き経済対策が打ち出されて来た。

高市政権発足後、早速物価高対策・成長期待で経済対策策定があった(25年11月21日)。「強い経済」を実現する総合経済対策(事業規模42.8兆円、国費等21.3兆円)」は、日本と日本人の底力で不安を希望に変えるという。そして25年度一般会計補正予算第1号(11月28日)は、歳出18.3兆円(歳入の公債金11.6兆円)を決めた。補正後歳出規模は、当初予算の16%増に達する。 

報道もあった。「18兆円補正案閣議決定新規国債11兆円物価対策・成長投資」(朝日11月29日)、「大型補正、市場の信認問う 総額18.3兆円を閣議決定 遠のく基礎収支黒字化」(日経同)。

この経済対策の意味を問う声もあった。これまでの経済対策は、過去日本経済の健全化に寄与せず、財政赤字継続と公的債務残高の累増をもたらし、且つ経済格差(21年相対的貧困率15.4%)を助長した。1億総中流の時代は遠い過去となり、社会的に1億総不満の時代を招来している。

マンネリ化する経済対策を変え、将来の日本経済に健全化をもたらす政策形成を何故出来ないのか。高市総理の言葉をヒントに考える。


2、政治の言葉は力強いが、中身がなければ馬脚を露す

日本経済は、どんな不安を抱えているのか。自然災害を別扱いとすれば、一昨年来の賃上げ・円安・便乗値上げによる物価上昇継続(企業は儲けているが)、トランプ相互関税による輸出の揺らぎ、存立危機事態発言を契機とした中国の対日経済制裁の影響、財政破綻状況で国債増発の金融市場動向、ビットコイン・株式等金融資産に内在する投機マネー膨張のリスク、そして実物経済面では再エネ手詰まり・エネルギー供給の不透明さなどである。

このうち外的ショック要因(輸出減等)は国内経済に様々な調整を迫るが、金融問題を除き発生時に縮小均衡調整を含めた経済政策で対処せざるをえない。つまり外的環境への適応に伴う痛みはやむを得ないと諦めざるを得ない。

外的要因と違い、国内問題は、人々に将来の期待と確信をもたらす筋道を示すことが重要である。例えば財政赤字問題なら、出来ぬ成長期待で先延ばしでなく、歳出減・歳入増の方針と適正な負担のあり方を示し、少しでも改善に努力することである。またエネルギー供給確保なら国民受容で原子力発電開発等の推進となる。大切なことは経済の担い手は、国民であることの自覚である。その際、政治の言葉が重みを持つことが多い。

先行き不透明の中、時代が求めたのか、久しく耳にしない言葉を聞いた。発表があった。「流行語大賞 働いて働いて働いて働いて働いてまいります/女性首相」(朝日12月2日)。「流行語大賞に「働いて×5」高市氏、「女性首相」とダブルで」(日経同)、政府が、中身を伴う的確な政策を、心に響く言葉で訴えることが出来たら、人々は前向きに取り組める。内容がなければ騙しとなる。このような見方で過去を振り返れば、「政治主導」、「改革なくして成長なし」、「脱デフレ・経済再生」、「日本再興戦略~Japan is Back」、「アベノミクス」、「新しい資本主義」等々の言葉を思い出す。それらの言葉から飛び出した各政権の政策は、現実直視なくかつ熟慮に欠け、いずれも金のばらまきか空ろに終わった。

今回はどうだろうか。発した人の意図は理解していないが、その言葉の響きは、必死であり、何か危機を乗り越えたい強い意志を感じさせた。経済再生を目指す暗中模索の下で、この言葉から次の25年間(21世紀第2四半期)の経済を支える知恵と妙案は生まれるだろうか。もし生まれないとしたら、抑もこの国の知的基盤が欠損している可能性が高い。


3、 思い出す言葉~米国の経済停滞時期に

米国は、1980年代に経済運営の問題があり、レーガノミクスの破綻と日本の追い上げ等で90年代初め経済停滞を招来した(91年実質GDP△0.2%減)。ビッグスリー等産業の衰退が目立った。建国以降初めて次世代が現世代より貧しくなる危機感が喧伝された。米国をどう復活するか。先行き不透明な下、当時ある言葉が、知識人に米国経済再建の可能性を想起させた。 

ヘンリー・ロゾフスキー・ハーバード大学教授の発言である。製造業等の産業がダメになっても大丈夫。米国は復活可能である。「アメリカの大学は、アメリカの中で最も競争力のある産業」(青木昌彦「スタンフォードと京都のあいだで」91年6月)であると、大学が米国復活の鍵と指摘した。後日ドルー・ギルピン・ファウスト・ハーバード大学学長も米国大学の競争力で、同趣旨の質問を肯定していた(日本記者クラブ会見10年3月15日)。

電力需要増で価格上昇続く米国 各州の規制機関に抑制図る動き

【マーケットの潮流】伊藤義治/エネルギー・金属鉱物資源機構「JOGMEC」ヒューストン事務所長

テーマ:米国電力価格

米国の電力小売価格は電力需要の増加に伴い上昇基調を強めている。

その背景と価格抑制に動く各州規制機関の対応を解説する。

米国では、デジタル分野の拡大や、製造業の国内回帰、輸送部門の電化などを背景に、今後大幅な電力需要増が見込まれている。2025年9月のクリス・ライト米エネルギー省長官のインタビューでは、需要増に伴う電力価格上昇を抑制するための政策対応の重要性が指摘され、電力業界は拡大する需要に応えつつ、価格抑制を図るという課題に直面している。


容量価格が急騰 背景にDC需要の拡大

米エネルギー情報局(EIA)によれば、米国の電力消費量は1970年から2005年ごろまで年平均約3%で拡大したが、その後は消費量の少ないサービス業の台頭といった経済構造の変化などにより需要増が相殺され、年0・2%増程度の横ばい傾向が続いた。しかし、21年以降、データセンター(DC)需要の急増や産業・輸送部門の電化を背景に再び成長局面に入り、年1・4%の増加率で推移している。プリンストン大学の予測では、26年以降の需要成長率は2%を上回り、35年の電力需要は25年比で約25%増(約5600TW時)に達すると見込まれており、DCの急拡大が最大の需要要因となっている。

図1:全米の家庭用電力価格とインフレ率の推移など
提供:米国労働省およびEIAのデータを基にJOGMECで作成

図2:ISO/RTOでの家庭用電力価格の上昇率の違い
提供:EIAデータ・NREL(2024)などを基にJOGMECで作成

需要増を受け、米国の電力小売価格は上昇基調にある。図1に示す通り、消費者物価指数に基づく電力価格の前年比は22年以降、インフレ率を上回る水準で推移し、EIAは25年の家庭用電力価格が全米平均で1kW時当たり17・25セントに達すると予測している。米国の電力システムは連邦エネルギー規制委員会(FERC)によって発令された 「Order No.888」および「No.2000」を経て整備された七つのRTO(地域送電機関)/ISO(独立系統運用者)が北米の約3分の2を運用しており、地域別の価格動向には差がある。

図2には、各RTO/ISOに加盟している州の季節変動性の影響を受けにくい4月の家庭用電力価格を基に概算した地域別の価格上昇率を示している。主要DC集積地であるバージニア州を含む北米最大のRTOであるPJMの加盟州では価格上昇が全米平均を上回っており、PJM域内では35年までに55~62‌GW(1GW=100万kW)のピーク需要増が見込まれている。

需要増は容量市場価格にも影響を与えている。PJMの容量オークションでは、21~23年の約定価格は1MW(1MW=1000kW)当たり1日50ドル以下で推移していたが、24年には同269・2ドルと前年比833%の急騰となった。これを受け、ペンシルバニア州知事がFERCへ苦情を提出し、価格上限・下限の導入で合意した。制度変更後の25年オークションでは約定価格は同329・17ドルとさらに上昇し、容量価格高騰は26年以降の小売電力価格を1・5~5%高めるとの試算もある。

急増するDC需要が他需要家の電力料金上昇を招くことへの懸念から、各州規制機関は制度整備を進めている。バージニア州と同様にDC集積地であるテキサス州では25年6月に上院法案6号(SB6)が可決され、75‌MW以上の大口需要家に対し、他州での申請状況の提出やバックアップ電源の情報提供、需要管理制度への参加を求めている。バージニア州ではドミニオン・エナジー社が提案したDC向け特別料金(SG―5)が25年11月に承認され、契約容量25‌MW以上の需要家に送配電容量の85%、発電設備の65%の固定費負担を求める仕組みが導入される。PJM域内のオハイオ州でもAEPオハイオ社がDC向け料金制度を導入し、送電増強コストを大口需要家が長期間負担する仕組みを整備している。


再エネ投資環境に不透明感 将来のコスト上昇に懸念

今後5~10年で急増する電力需要に対応するためには、太陽光・風力といった再生可能エネルギー、火力発電、原子力などの多様な電源を組み合わせて発電容量を確保する必要がある。しかし、新規原子力は建設に5年以上を要し、新規ガス火力もガスタービンなどのサプライチェーン制約から早期稼働が難しい状況だ。このため太陽光・風力などの再エネと蓄電池を中心に新規電源を確保しつつ、変動性電源の弱点を補うため既存火力発電の維持が必要となる。

こうした中で、追加電源確保はコスト上昇につながる懸念もある。さらに、25年7月の予算調整措置法により、太陽光・風力についてはIRA(インフレ抑制)法の45Y・48E税額控除の適用期限が27年末へ大幅に短縮され、30年代の再エネの投資環境には不透明感が生じている。短期的には駆け込み開発により再エネ導入が維持される可能性があるものの、中長期的には投資鈍化やコスト増につながる可能性が考えられる。

米国の電力需要は構造的な増加局面にある。この需要増加に対応するための発電・送電インフラ投資は不可避であり、これらのコストが将来的に電力価格を押し上げる可能性は高い。一方で、連邦・州レベルでは制度整備や料金設計の見直しが進められており、これらの対策が電力価格上昇をどこまで抑制できるかが今後の重要な注目点だ。

いとう・よしはる 2007年JOGMEC入構。主に石油・天然ガスの探鉱プロジェクトおよび開発・生産プロジェクトの貯留層評価や技術開発に従事。INPEX出向、エネルギー開発金融部水素・CCSチームリーダなどを経て25年3月より現職。

北電がJAPEXのガス事業を譲受 310億円で取得の狙いは?

JAPEXが、北海道におけるガス製造・販売・導管事業を北海道電力に譲渡することが決まった。2027年3月に実行する予定で、譲渡額は310億円。北電は譲り受ける勇払プラント(苫小牧市)と石狩LNG基地との2拠点化で供給体制の強靭化を図る。

この譲渡が北海道のエネルギー事情にどう左右するのか
提供:JAPEX

これまで北電は北海道ガスの導管を使いガス事業を展開してきたが、設備の譲受により自らが「特定ガス導管事業者」となる。同社は「これまで以上にガスでもお客さまの暮らしを支えるとともに、ガス供給のレジリエンス強化に努め、ガス事業の成長の実現を目指す」とし狙いを語る。

対象はLNG受入基地やLNGプラント、ガスパイプライン、LNGローリー出荷設備など。パイプラインは総長94㎞で、北広島受渡施設から勇払までを結ぶ。特定導管事業では低圧への販売はできず、まずは苫小牧市内の大口需要家への供給を進め、将来的に札幌市内への展開も目指す。導管による卸供給の他、ローリーでも大規模需要家や地方都市ガスなどへ供給する。

また、苫小牧ではCCS(CO2回収・貯留)事業や水素プロジェクトが進行中で、グリーン水素とCO2を原料としたeメタン事業にも挑戦する。同社は今のところ単独で取り組む方針で、北ガスとの関係性がどうなるかが注目される。

他方、310億円という譲渡額に有識者の一人は、「泊原発の審査が通り経営の見通しが明るくなったのだろう」としつつ、「特定導管事業という点が気になる。北電の狙いがいまいちつかみきれない」と話す。

設立75周年で記念講演会 エネ6団体トップが一堂に会す

【日本動力協会】

日本動力協会が2025年12月1日に開いた講演会では、設立75周年を記念し、同協会を含めエネルギー関連6団体のトップが一堂に会した。同協会の廣瀬直己会長、電気事業連合会の林欣吾会長、日本ガス協会の内田高史会長、石油連盟の木藤俊一会長、カーボンフロンティア機構の渡部肇史会長、日本電機工業会の漆間啓会長が登壇。「エネルギー変革への道筋」をテーマに、直面する課題や目指す方向性などを語り合った。

エネ団体トップが集まり講演や討論を行った

前半は各会長が講演。林会長は、需要トレンドや電源・系統を巡る多様な課題がある中、将来に向けた安定供給と脱炭素の両立を進めると強調した。足元では「この冬、来年(26年)夏は需給が厳しい場面が想定される」「こうした危機があると認識してほしい。その上で供給力の断絶が起こらないように万全を尽くす」と述べた。

内田会長は「ガスビジョン2050」を解説。ガス灯、LNGに続きカーボンニュートラル(CN)は第3の導入期だとし、eメタンやバイオガスを中心としたCN化の方針を説明した。さらに「急増が予想されるデータセンターに向けた電力供給にもガスコージェネが役立つと確信している」との見解を示した。


足元で脱炭素の機運変化 3Eのバランスどう取るか

その後はパネルディスカッションに。モデレーターの廣瀬会長が、COP30の報道の低調ぶりが象徴するような脱炭素の機運の変化に触れ、「3E(安定供給・経済性・環境性)のプライオリティ付けをしていかなければならないことが現実」だとし、各人に今後の3Eのバランスがどうなるかなどを問うた。

林会長は「0―100ではない。産業・社会構造そのものが変わることであり、複雑に絡み合っている問題」としつつ、脱炭素を巡る足元の情勢変化に振り回されないことが肝要だとした。内田会長は「安全保障は他の二つと比べどの時代・局面でも重要」「日本はその上でトランジションの議論をすべき」と回答。木藤会長は、地道な低炭素化で50年CNを目指すべきで「時間軸を見誤らない形で進めることが大事」と述べた。さらに、アジアを念頭に石炭利用も排除せず、日本の技術移転が今後5~10年で重要になる(渡部会長)、技術力で三つのEのバランスを取るに尽きる(漆間会長)といったコメントもあった。

冒頭には世界エネルギー会議のアンジェラ・ウィルキンソン事務総長兼CEOも登場し、日本への期待などを述べた。

都市ガス業界に衝撃走る 山口合同ガス事故の原因は?

「想定を超えた事故だった」。山口県宇部市で2025年12月4日朝に発生した大規模ガス漏れ事故を受け、山口合同ガスの田村泰郎専務は同日夕、同県下関市の本社で開いた記者会見でこう述べた。

事故の主因はガス圧力の異常と見られる。同社宇部市の支店でガバナの異常圧力を知らせるアラームが作動。宇部市琴芝町に設置されたガバナ出口で、通常の12倍というガス圧が確認された。「前代未聞の事故で衝撃を受けた」(大手ガス幹部)

12月4日の記者会見で陳謝する山口合同ガスの幹部ら
提供:朝日新聞社

全国に約2万台あるガバナの多くには、圧力が一定値を超えた場合にガスを外部へ逃がす「逃し弁」や、異常時に供給を遮断する「緊急遮断弁」が備えられている。だが、今回トラブルを起こしたガバナには、これらの安全系装置が付いていなかった。法的な設置義務はないものの、両機能を欠くガバナは全国的にも少数とされる。

同社によると、各支店の供給エリアでは基本、緊急遮断弁などの安全系設備が設置されている一方、宇部市内では設置状況にばらつきがあったという。宇部市の都市ガス供給は、かつて公営の宇部市ガス水道局が担っており、14年に山口合同ガスが事業を継承した。その際に引き継がれた設備の中に、安全弁や緊急遮断弁を備えていないガバナが残っていたという。

これを受け、経済産業省はガバナの一斉点検などを業界に求めるのか。同省ガス安全室によれば、「(12月中旬現在)詳細を調査中で、対応は未定」とのこと。宇部市での事故は、安全系装置を備えない古い設備を巡る課題を浮き彫りにした。

先行投資が結実し地域とともに発展 デジタルやCNで積極姿勢

【事業者探訪】昭島ガス

人口増加が始まる前から先行投資で導管敷設を進め、今日の地域の発展を導いてきた。

今後もDXやスマメ導入などに投資を惜しまず、CN対応にも積極姿勢を見せる。

2024年に市制施行70周年を迎えた東京都昭島市は、多摩川や玉川上水といった水資源や自然環境に恵まれながら、都心へのアクセスも良いエリアだ。

昭和30(1955)年代までは住宅がまばらだったが、市の誕生を経て40年代以降、都営・公団住宅の開発が進み人口が急増。さらに最近でも基地跡地などで新たに戸建て・集合住宅の開発が進み、地盤の強さや教育・医療施設などの充実も相まって子育て世帯の流入が目立つ。2025年の人口は24年より1200人ほど増加し、近隣の自治体とは一線を画している。

「他業種から刺激を受ける」と平畑氏

こうした発展を支えてきたのが昭島ガスだ。市内への都市ガス供給について既存ガス会社は採算が取れないと判断していたが、地域の今後のためにはガス供給が不可欠として1962年6月に同社が発足し、供給を始めた。平畑文興社長は「その後人口増とともに供給件数が増え、現在は3.7万件超に。後1~2年で4万件を超える勢いで、さらに最近では床暖房やエネファーム付きの住宅が増えていることもプラス材料だ」と好調ぶりを語る。

この他、同社設立2年後にスタートしたプロパンガスの取り付け件数は現在4700件と、目標の5000件まであと一歩の状況だ。加えて保安の高度化に注力し、集中監視システム導入率は8割超となり、都から「ゴールド認定」を受けている。 

そして電力小売りが全面自由化された2016年度から、低圧は東京ガスの取次店として、高圧はエネットの代理店として電力販売を行う。一括受電の集合住宅が増えている点がネックとなっているが、7000件を目標に営業に力を入れる。


導管敷設はほぼ完了 組織横断でDXに本腰

社長就任から45年。「最後は件数がモノを言う」という考えの下、1件でも供給件数を増やすことを常に心掛けてきたという平畑氏。「これまで導管延伸に先行投資し借金がかさんできたが、それがようやく実を結びつつある」と振り返る。15~20年間をかけ、昭島一円の他、立川・福生市の一部を含む約17平方㎞の供給エリア全域への敷設を進め、投資はほぼ完了する見込みだ。PE管への更新も着実に進め、あと1~2年ほどで低圧本支管の耐震化率が100%に達する予定だという。

そうした中、最近特に注力するのがDXで、部門横断で全部長が参加する「DX委員会」を立ち上げた。さらなる投資を伴ってでもデジタル化による業務効率化やサービスの利便性向上を図らなければ取り残されるとの意識で、スピード重視で取り組んでいる。

例えば、26年4月には基幹システムのリニューアルを予定。また、ポータルサイトで顧客の料金確認や支払いなどをより便利に行えるようにした他、ホームページをリニューアルしウェブでの申し込み完結を目指す。

また、スマートメーター導入にも後れをとってはならないと積極姿勢を見せる。これまで試験的に取り組んできたが、26年から新築には全戸に設置していく。入れ替えも4月から本格化し、10年ほどで完了させる計画だ。保安のさらなる高度化につなげ、DX委員会ではデータの活用の検討に着手している。


昭島市・東京ガスと協定 カーボンシティを後押し

重要課題である50年カーボンニュートラル(CN)を巡って、市は市域全体で30年までの「カーボンハーフ」を、さらに市の事業に伴う温室効果ガスを75%削減する「カーボンクォーター2030」を目標に据える。その実現に向け、市、東京ガスと3者で22年に協定を締結した。これまで、公共施設へのカーボンオフセット都市ガスの供給、公園立体駐車場や昭島市総合交流拠点施設にEV充電設備を設置し、再エネ100%電気を供給、といった対策を講じてきた。

CNシティ実現に向け連携協定を締結

あと5年での「カーボンハーフ」などの実現のハードルは高いが、特に家庭でのCO2削減を重視し協力していく考えだ。この他、協定に基づき小中学校での環境教育に講師を派遣したり、昭島ガス独自の取り組みで出前授業や職場体験を行ったりと、教育との関わりも重視する。

今後とも、町の発展なくして社の発展もなし。「住み続けたい街・昭島」を目指し、地域住民や子供たちが参加するスポーツを支援したり、見守りパトロールを行ったり、地域を巡回する営業車を活用した防犯協定を昭島警察署と結んだりと、さまざまな活動を展開している。

近年、全国的にデータセンターや半導体工場の立地などで将来的な電力需要増が注目されがちだが、「そうした分野が莫大な電力を要するなら、なおのこと他分野のエネルギー供給はガスが担わなければならず、30~40年に向けて果たすべき責任は大きい。他方、原子力発電所が東日本でも動き出して電気代が下がってくるなら、電力販売も一層重要になる」と強調する平畑氏。引き続き「ガスも電気も1件でも多く」というモットーの下、社員を率いる考えだ。


【地域の魅力発信】地下水100%のおいしい水

昭島市の水道は、現在都内の自治体で唯一、地下水のみを水源とする。深層地下水をくみ上げ、水が地層にしみ込む過程で炭酸やミネラル成分が溶け込む。また土壌がフィルターの役割となって不純物を取り除くため、法で義務付けられる必要最低限の塩素は付与するものの、浄化処理は行っていない。ミネラルウォーターと同様のおいしさである上、水道料金は全国屈指の安さを誇る。

柏崎刈羽は「鉄壁の守り」で再稼働へ 現場の努力を「無視」する慎重派の不健全

柏崎刈羽の現場を訪れると、安全運転の実現に努力を惜しまぬ運転員の姿があった。

こうした事実を見ようとせず、不安だけをあおるメディアや政治家の姿勢はいかがなものか。

「中央制御室」に警告音が鳴り響いた。核分裂反応を強制的に停止するため、制御棒を一斉に挿入する「スクラム」と呼ばれる緊急操作が実施できないようだ。なぜ自動的にスクラムしなかったのか。事態を収束させるための次の一手は。5人の運転員が現状の分析と解決策を模索する─。

ここは原子力発電所ではない。柏崎刈羽原発(KK)に隣接するBWR運転訓練センター(BTC)の一室だ。再稼働を目前に控えたKKの運転員たちが、万が一の事態に備えた訓練を実施していた。

この訓練の特徴は、限りなく実戦に近いことだ。訓練でどんな「事故」が発生するかは、前もって運転員に知らされることはない。原発の不具合は、いつ、どんな理由で起きるか分からないからだ。

BWR運転訓練センター
提供:BWR運転訓練センター
中央制御室を再現したシミュレータ
提供:BWR運転訓練センター


臨機応変な対応力を養成 慎重派議員の見学少なく

2011年の福島第一原発(1F)事故以降、全国の沸騰水型軽水炉(BWR)の運転員は再稼働を目指し、この場所で鍛錬を重ねてきた。25年11月には新潟県の花角英世知事が訓練の様子を視察した。

運転員は原子力安全の最後のとりでだ。安全対策を施す作業員、不審者やテロ行為を未然に防ぐ警備員、原子力規制委員会の審査対応や国・自治体との調整を行う東京電力の社員など、再稼働に向けて多くの関係者が尽力した後、アンカーとしてバトンを託される。BTCには運転員を育成するインストラクターが約30人在籍するが、スポーツで言えば選手を育てるコーチのような存在だ。

BTCには中央制御室を忠実に再現した3基の運転シミュレーターがある。KK6、7号機などの改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)型が1基、国内で最も基数が多いBWR―5型が2基だ。ここで入社間もない未経験者から、高度な知識とスキルが求められる運転責任者までを養成する。社員・訓練生寮を完備し、初級コースでは2カ月以上にわたって基礎を叩き込む。70歳を超える大ベテランも在籍するといい、分からないことは何でも答えてもらえる。

1F事故後は訓練内容が大幅に変わった。訓練の目的は冒頭のシーンのように、不具合が生じた時に臨機応変に対応することだ。事故前は一つの機器が故障した場合など安全対策で想定された範囲が中心だったが、1F事故のような複合的で進展予測が難しいケースに対処するためには、運転員が自ら考え、判断し、行動する力を高めなければならない。

BTCの役割は運転員の育成だけではない。立地地域や周辺自治体の職員を対象とした自治体研修にも積極的に取り組んでいる。基本的なプラントの仕組みやトラブルの発生メカニズムを学んだ上で、避難訓練などに役立ててもらうのが目的だ。

「女性や子どもといった社会的弱者への対応に必要な視点を養うため、研修参加者には女性や若手職員が多い。研修を通じて、自治体間のネットワーク構築のハブとしても機能している」(BTCの長谷川真社長)

そんなBTCを一目見ようと、25年の施設見学者は前年比2倍に達した。しかし、気がかりな点がある。自治体の「議員団」が視察に訪れるが、いわゆる「慎重派」の議員の同行が少ないことだ。

1F事故からの約15年間でエネルギーを取り巻く状況は激変し、「賛成」「反対」というイデオロギー対立の時代は過ぎ去った。大切なのはフラットな視点で現場を見て、知識をアップデートすることだ。新潟県が実施した県民意識調査では、東電が実施している安全対策の中身を知っている人ほど、再稼働の条件が整っていると回答した人が多かった。慎重な立場を取る人にこそ現場の取り組みを見てほしいのに、住民の代表たる議員が、原発関連施設に足を運ぶことすら二の足を踏んでしまうのは残念でならない。

燃料を装荷しふたを閉じた6号機の格納容器
提供:東京電力ホールディングス
水密扉で水の侵入を防ぐ
提供:東京電力ホールディングス


きめ細やかな安全対策 何重もの壁で重大事故防止

実際にKKを見学すれば、重大事故が起きる確率は限りなく低いと実感できる。視察した12月8日は日本海側の冬特有のよどんだ曇天で、時折雨と強風に見舞われた。一時は竜巻注意報が発令されたが、構内では約6000人が汗を流していた。1F事故後、彼らによって構内は劇的な変化を遂げた。

原発の安全思想は、異常が発生した際に、①核分裂反応を止める、②原子炉を冷やす、③放射性物質を閉じ込める─という三点に集約できる。1F事故では、津波によって②に必要な電源やポンプが使えなくなってしまった。

「1F事故から得られた最大の教訓は『想定はいつか超えられる』ということ」(KKの林勝彦副所長)。だからこそ、KKでは事故の進展を食い止めるために何重もの壁を準備している。野球に例えれば〝最強のリリーフ陣〟と言えよう。1人が打ち込まれても、有能な投手が何人も控えている。

まず、1F事故の原因となった津波への対策は、想定される津波の最大高さ7〜8mを超える15mの防潮堤を建てた。しかし、それすら超えた場合に備えて、重要な機器がある部屋の入り口には水密扉を設置し、配管の貫通部から水が入らないようにシリコンゴムで止水処理した。原子炉建屋の側面にあった給気口を防潮壁で覆い、海抜15m以上から空気を取り入れる構造に変えた。

それでも、既存の設備で「冷やす」ことができなくなった時のために、注水や除熱に必要な機材を海抜35mの高台に用意してある。速やかに電源供給が可能な空冷式ガスタービン発電機車を設置し、燃料となる軽油は地下に10万ℓ貯蔵。さらに、そのバックアップとして電源車を20台準備した。