【今そこにある危機】「業者第一」の住宅政策 日本は断熱・省エネ後進国に

前 真之/東京大学工学部建築学科准教授

国民が寒さや電気代に苦しめられる中、住宅政策の転換が急務だ。

地域の優良工務店こそが日本の住環境と脱炭素の未来を切り開く。

住宅の省エネ対策

住宅は国民の生活を守る最終防衛ライン「最後のとりで」である。しかるに、国土交通省の住宅行政はひたすらに供給側保護を最優先する「業者ファースト」であり、住まい手である国民の生活は二の次、三の次とされてきた。本来は2020年に予定されていた住宅への省エネ基準義務化が無期延期とされたのは、怠慢業者保護の象徴だ。

住宅は国民生活の最後のとりでだ

25年になってようやく最低限の断熱・省エネが適合義務化されたが、空白の5年間に400万戸を超える住宅が省エネ基準への適合を求められないまま新築された。大量にストックされた低断熱の増エネ住宅は、冬はヒートショック、夏は熱中症で国民の健康を奪い、高騰する電気代が燃料費補助を通じて血税の浪費と国債乱発につながっている。

日本では1999年に定められた断熱等級4が、諸外国に著しく劣後しているにもかかわらず、23年間にわたり最上位の等級とされてきた。2022年になって上位の等級5・6・7がようやく定められ、遅くとも30年までには等級5の適合義務化が予定されている。さらに25年に運用が始まった住宅基準「GX(グリーントランスフォーメーション)志向型住宅」では、等級6+太陽光発電に1戸当たり160万円の補助金がついたことが大きな話題となった。


住環境は少子化にも直結 低性能建材の方が低炭素?

遅きに失したとはいえ、住宅の高性能化が進んでいること自体は喜ばしい。一方で目下最大の問題は、価格が高くなりすぎて多くの国民が家を買えなくなっていることだ。人気地域の地価が急騰し、住宅価格もここ5年で3割上昇というのが業界の共通認識であり、そこにローン金利の上昇がとどめの一撃となった。無理して住宅を購入しようとすれば、夫婦で返済期間50年の超長期ペアローンを組むほかなく、離婚や離職で生活が即座に破綻するリスクを抱えることになる。やむなく安価な建売や中古、または賃貸を選べば、その大半が低断熱の低性能住宅なので、不健康・不快で電気代高騰におびえる生活を強いられる。国交省は住宅ローン減税や補助金を積み増しているが、GX志向型の補助金500億円がわずか3カ月で枯渇したように、焼け石に水の感は拭えない。円安・資源高・職人不足といった積年のツケが一気に噴き出しているのが現状だ。

筆者が主催する高性能賃貸研究会で大家に話を聞くと、「狭い・うるさい・寒い」が賃貸の三大不満であり、賃貸を退去する最大の理由は「子どもができたから」。多くの若夫婦は「無理してまで家を買いたくないから子どもは諦めよう」と考える。低性能な住宅ストックは、日本の少子化を悪化させる大きな原因でもある。

住宅政策の大方針を定めている住生活基本計画は、「50年に目指す住生活の姿」と「当面10年間で取り組む施策の方向性」をテーマに見直しが進められている。高齢者の孤立防止、若年・子育て世帯の住まい確保、住宅価格高騰を踏まえたアフォーダビリティ(手頃さ)確保など、「住まうヒト」のための政策もそれなりに掲げられてはいる。しかし、ご立派なスローガンが業者ファーストで骨抜きにされるのが住宅行政の常。さらに国交省が昨今、建設中に排出される「エンボディドカーボン削減」を最優先課題としていることが、不信に拍車をかけている。

従来の省エネは、断熱・高効率設備・太陽光発電の3点セットにより、居住者の健康・快適な生活を確保しつつ省エネ・省CO2化を図る「運用時」の対策が中心だった。それが最近になって、建物寿命を通して発生するCO2である「ホールライフカーボン」の削減がより重要だとして、とりわけ建設時や廃棄を含めた建物躯体のCO2削減がここ数年ことさら強調されるようになった。まるで「運用時の省エネは解決済み」と言わんばかりである。

躯体の脱炭素化が、地元の木材活用などにつながるのであれば素晴らしいことだ。しかし、「低断熱な建材の方がエンボディドカーボンは少なく有利」などという本末転倒の主張がすでに始まっている。製品の製造時CO2排出量を証明するEPD(製品環境宣言)の取得コストの高さにも不満が漏れ聞こえる。「住まい手に価値を生まないコストアップ」につながりかねない政策に、なぜ国交省はここまでのめりこむのか。どうにもヨーロッパ型の認証ビジネス、新たな利権創造のうさん臭さを感じるのは気のせいか。


脱炭素政策の受容度低下 地産地消で高性能な建築を

米トランプ大統領に代表されるように、脱炭素政策への反発が世界中で渦巻いている。一方で、有権者が不満を爆発させているのは、温暖化対策うんぬんではなく、エネルギーをはじめとした価格高騰だろう。「石油を掘って掘って掘りまくればインフレは収まる」という主張が相当数の米国民の心に響いたという事実は、軽視されるべきではない。地球環境保護のために不便を強いる政策は、すでに多くの不便に苦しんでいる多くの国民が受け入れるはずがない。

住宅で最優先されるべきは「全ての国民が冬の寒さ・夏の暑さ・電気代の不安から解放される」ことである。その実現に必要な住宅ストックを各地で実現するためには、地元の優良工務店が地元の木材で高性能な木造住宅を建てることで、地域が豊かになっていく─。これこそが日本に暮らす人々が幸せになる王道の脱炭素政策である。

日本のシステムは上に行くほど腐臭を放ち、国民が養分として搾取されている。一方で、筆者は30年にわたる研究や賞の審査を通し、日本各地に地元の木材を活用して高性能で魅力的な住宅を建てられる優良な業者がたくさんいることを知っている。日本の希望は永田町や霞が関ではなく、各地の現場にある。地元の優良業者が地域の住宅ストック形成の主たる担い手となることが、真の脱炭素化につながると確信している。

前 真之 まえ・まさゆき/1975年広島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。建築研究所研究員、東大大学院工学系研究科客員助教授を経て2008年4月から現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学。

【インフラ百年の計 Vol.1】迫るコミュニティ崩壊の足音地方存続への現実解を探る

巽 直樹  /アクセンチュア 素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター

本稿は、2026年4月号に掲載された同名記事の詳細解説版である。本誌では、日本の地方社会が直面する人口減少とインフラ老朽化に対し、実効性のない地方創生から脱却して「スマートシュリンク(賢い縮退)」へ舵を切らねばならない現実を指摘した。電力やガス、水道、公共交通といったエッセンシャルサービス(ES)の足元からコミュニティの持続可能性が揺らいでいる今、本ウェブ版では、インフラ崩壊の根底にある制度的呪縛と、それがどのようなメカニズムで作用しているのかなどの構造的深層を考察する。

100年後を見据えたインフラを構築できるか

ユニバーサルサービスの制度的硬直化と「内部補助」の限界

これまで日本の全国津々浦々にインフラネットワークが維持されてきた背景には、「あまねく公平に」サービスを提供するというユニバーサルサービス(US)の理念がある。しかし、この理念を経済的に支えてきたのは、決して魔法の杖ではなく人口増加と経済成長を前提とした「内部補助(Cross-subsidy)」という極めてアナログな仕組みであった。すなわち、需要が密集し収益性の高い都市部や大口需要家からの利益を、コストの合わない過疎地や小口需要の維持費へと補填するモデルである。

「US=全国民へのサービス提供」という現代的な解釈は、「公共善」の美名のもとに生まれたものではなかった。源流は20世紀初頭(1907年)に米国AT&Tのセオドア・ヴェイルが、“One Policy, One System, Universal Service” と掲げたマーケティングスローガンに遡り、独占の正当化と全国ネットワークの拡張を結びつけた。

このように当初は競合排除のための企業戦略であったが、1934年通信法を契機に制度的枠組みに組み込まれ、その後1984年のAT&T分割を経て再定義が進み、現在のUSの概念へと転化していった経緯が、複数の研究で明らかにされている(Mueller, 1993など)

しかし、時代・人口動態が変わった現代では、法的に硬直化した義務が逆効果になりやすい状況を作り出している。特に人口減少フェーズに入った国々では、その一つの方向性として、「受益者負担+競争的調整」の再設計をいかに構築するかが大きなテーマとなっている。もちろん、規制改革による市場メカニズムの導入が万能薬になるわけではない。競争導入によるクリームスキミング(収益性の高い都市部顧客を新規参入者が奪い、既存事業者が不採算地域に取り残される現象)は、通信分野を中心に多数の研究で確認されている現象だ。

また、フランスの一部自治体における水道事業の再公営化や、ドイツの一部シュタットベルケ(自治体所有の地域総合公益企業)による民営化後の所有権買い戻しなど、過度な市場主義に対する反動も既に表面化している。だからこそ、単純な民営化論などのイデオロギーにとらわれない、冷徹な制度設計が求められる。

ここで注意すべきは、インフラの種別によって「供給責任」の重さが異なる点だ。電力においては管内(エリア)全域に実質的な広域供給義務が課されている。一方、ガスや水道は自ら事業許可を受けた供給区域内に限定され、鉄道等の公共交通に至ってはそもそも適用外である。

このような法的位置付けの差異はあるものの、長らく右肩上がりの経済と人口増加を前提としてきた日本では、結果論としてどのESもこの内部補助モデルに依存してきた。法的にUSの対象外である鉄道等の公共交通であっても、実態として地方路線は内部補助(都市部路線の黒字による維持)に依存してきた点で、経済構造は全く同じである。そして現在、パイ(総需要)そのものが縮小に転じたことで、このモデルの行き詰まりが顕在化して久しい。

「三つの経済性」の崩壊プロセス

この内部補助モデルを物理的・経済的に行き詰まらせ、インフラ崩壊へと繋がる根本原因が、「密度の経済性」「規模の経済性」「範囲の経済性」の喪失である。これら三つは単に同時に消滅するわけではない。「密度→規模→範囲」という明確な時間的順序を持って、段階的にインフラの防衛線を突破していく。重要なのは、密度の喪失が最初に来るという事実だ。これは「人口が減ったから問題」ではなく、「人口が分散したから問題」であることを意味する。

①  密度の喪失(局地的・先行的な崩壊)

最初のドミノは「密度の経済性」の崩壊から始まる。ここで重要なのは、マクロの総人口が維持されている段階であっても、局地的な居住地の拡散(スプロール化)や空き家の増加によって、特定エリア内のネットワーク効率が短期間に悪化するという事実だ。人口が減る以前に「人口が分散している」こと自体が、ネットワークの運営効率を下げ続け、導管や電線、輸送ルートの収益性をいち早く毀損する。

② 規模の喪失(広域的・中期的な崩壊)

密度の低下に遅れて顕在化するのが「規模の経済性」の喪失である。地方全体の総人口(絶対数)が減少フェーズに入ると、地域の総需要量が落ち込む。これにより、発電所や浄水場、車両基地といった巨大な固定費を利用者一人あたりで薄めることができなくなり、構造的な問題が顕在化する。必然的に製品・サービス1単位あたりの供給コストは上昇し、場所によっては禁止的な水準となる。

③ 範囲の喪失(制度的・後期的な崩壊)

人口動態によって①と②が不可逆的に失われる中、本来であれば最後の防衛線となるべきなのが「範囲の経済性(複数事業の統合によるコスト吸収)」である。しかし、日本のESは歴史的に電力・ガス・水道などが縦割りで発展してきたため、包括的なライフライン構築が元より脆弱だ。

さらに、数少ない「範囲の経済」を体現してきた地方の中小エネルギー企業(簡易ガス、LPG、燃料販売などの多角経営)や、ガス局と水道局を一体運営してきた公営企業などが、市場縮小や規制改革により短期的な成果を目指して事業分離(アンバンドル)されたことで(ガス事業のみを民営化など)、長期的な視点での事業統合の強みを人為的に解体している。

密度と規模の経済性が失われた地方において、縦割りのまま単独のインフラを維持することは極めて困難である。だからこそ、フランスの「15分都市(コンパクトシティ)」を模範とした空間の再定義と並行して、ドイツのシュタットベルケのように地域インフラを束ね直す「地域総合ユーティリティ」の構築、すなわち「範囲の経済性の意図的な再構築」へと向かわねばならない。これがスマートシュリンク後の「点」を磨くための、重要な生存戦略となる。

「補助の逆転」というデススパイラル

前述した内部補助というシステムを経済学的な視点から見ると、パイの縮小は単なる「資金不足」にとどまらない致命的な「補助の逆転」を引き起こす。

内部補助は、補助する側(都市部や大口利用者などの送り手)の余剰によって、補助される側(過疎地や小口需要などの受け手)の赤字を埋めることで成立している。しかし、人口減少と縮小社会においては、送り手の余剰が縮小し、受け手の赤字が拡大していく。やがて、「送り手と受け手の比率が逆転」する臨界点を迎える。人口減少だけでなく、自由化による収益源の流出もこの逆転を加速させる要因となっている。

これは制度が前提条件の変化によって逆作用を起こす現象であり、制度設計の前提であった「成長と拡大」という環境条件が崩れた瞬間、これまでネットワークを維持してきた善意のシステムそのものが、インフラ全体を共倒れさせるデススパイラル(滅びの連鎖)のエンジンへと転化することを意味している。

漸進的劣化の不可視性:なぜ認知が遅れるのか

人口動態から社会・経済の構造変化を読み解く「加齢経済学」の観点からは、遥か以前から予測可能であったこの惨状に対し、なぜ人々の危機意識の醸成がこれほどまでに遅れたのか。それは行政学や制度論における「漸進的劣化の不可視性」に起因する。

三つの経済性の崩壊や内部補助の逆機能は、線形(一定のペース)で悪化するわけではない。長期間にわたって表面上は「これまで通り問題なく動いている」ように見えるのがインフラの恐い特性だ。しかし、水面下で限界点(クリティカルポイント)を超えた瞬間、橋の崩落、大規模な漏水、あるいは事業者の突然の経営破綻として、非線形かつ暴力的に露見する。平時の政策モニタリングや、市民の日常生活の中では、この臨界点の接近を感知できないのである。

インフラ百年の計と「地方自立」へ向けて

「三つの経済性の段階的崩壊」「補助の逆転」、そしてコストの急騰を招く「インフレスパイラル」。これらの多重苦に対する認識を根本から改めなければならない。そして、「日本の社会課題はGXだけではない」という現実に向き合うことだ。環境対策は重要だが、GXや脱炭素を推進するにあたっても、地域の経済合理性との整合性を慎重に検証する必要がある。採算性の合わない投資を続ければ、基礎自治体の衰退はむしろ加速するからだ。

交付金に頼る「地方創生」は「少子化対策」などと同様に、政策効果の検証が十分とは言い難いツールと化している。真に求められるのは、現実を冷徹に直視し、強い意思を持つ首長などの地域リーダーによる「地方自立」である。

さらに、日本全国を一律に扱う思考を捨て、都市部・近郊地域・過疎地域の3類型で異なる現実解を探らねばならない。特に過疎地域においては、USという制度自体のあり方を問い直し、最低生活保障水準をどこに置くかという政治的合意を前提とした受益者負担の原則へと回帰する議論を避けては通れない。スマートシュリンク(賢い縮退)は敗北ではなく、インフラを次世代へ繋ぐための生存戦略である。

持続可能性(サステナビリティ)とは、最初から与えられる権利ではなく、現実的な痛みを伴う取捨選択の果てに残る「結果論」である。これまでの上辺だけのサステナビリティ論を脱し、サバイバル(生存)とレジリエンス(強靭性)を獲得するためのインフラ再考が、今こそ求められている。「持続可能か」を問う前に、まずは「生存可能か」を問う具体的な戦略への転換が急務である。

たつみ・なおき
信託銀行、電力会社、研修企業、監査法人、監査法人系コンサルティングなどを経て、現職。博士(経営学)。立命館大学ビジネススクール客員教授、国際公共経済学会理事。

【経済評論】日本でのCCS実現へ液化CO2の船舶輸送が鍵

【脱炭素時代の経済評論 Vol.25】関口博之 /経済ジャーナリスト

脱炭素化に向け、最後までゼロにできないCO2に対する切り札になるのがCCS、二酸化炭素の回収・貯留技術だ。とりわけ鉄鋼や化学など既存技術だけでは脱炭素化が難しい、いわゆる「ハード・トゥ・アベイト」な産業の期待は大きい。国も支援に乗り出し、先進的CCS事業としてJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が9件のプロジェクトを選定している。電力・鉄鋼・化学・石油精製・商社など大手企業がコンソーシアムを組み、2030年代初頭の事業開始を目指している。

川崎汽船の「ノーザンフェニックス号」  提供:川崎汽船

先行するのはパイプライン輸送を想定する案件。北海道苫小牧市では石油資源開発が今年1月、地下貯留のポテンシャルを探る試掘を始めた。北海道電力の発電所と出光興産の製油所から出るCO2を貯留するもので国内の第1号案件を目指す。

ただし多くのCCSでは排出源と貯留場所が遠く離れているのが通例で、その場合はCO2を液化して船で運ぶ方法をとることになる。現在検討されているプロジェクトのうち、マレーシアなど海外での貯留を計画する案件など6件は、液化CO2運搬船の利用を予定している。ただ実用化には大幅なコスト低減が必須で、そのためにさまざまな「仕様の共通化」が必要なことが明らかになってきたという。これまでは各プロジェクトが独自に進めてきたサプライチェーン構築を、逆に共通化できるところは共通化する方針へと転換することになった。

どんな方策をとるのか。例えば港の陸上施設と船舶を接続する装置の仕様の統一。これが違うと別の港では積み込み、荷揚げができなくなってしまう。CO2に不純物の混入が少ないことも重要だという。タンクの腐食につながる成分を一定以下に抑える基準も設ける。運搬船の主な船型・主寸法制限も設定する。外航船、国内貯留地向けの内航船、ハブアンドスポーク輸送向けの小型内航船の3種の船型を設定した。さらに輸送タンクの大型化に適するようにタンクの温度と圧力も「低温・低圧方式」に決定。同様の方式に合わせれば造船会社は連続しての建造が可能になり、コスト削減できる。液化CO2船は有望な「次世代船」になる。

JOGMECは今のところ、具体的なコスト削減目標までは示していない。パイプライン方式に比べ2倍を超えると見込まれるコスト差を縮めるのは至上命題。しかも国が目指す「30年代初頭の貯留開始」にめどをつけようとしている。

世界はさらに1周先を行く。ノルウェーでは世界初の商用液化CO2船による輸送が始まっている。エクイノールとシェル、トタルエナジーズが進めるノーザンライツプロジェクトで、セメント工場などから回収されたCO2を船で運び、パイプラインで海底下2600mに貯める。昨年夏に圧入が始まり28年までに年500万tの輸送・貯留を目指している。船の運航を担うのは実は川崎汽船、フェーズ2からは商船三井も加わり、日本海運が先例を作っていく。

CCSではCO2の回収や安全な貯留も重要だが、輸送がそれ以上に成否を決める。「CO2を運ぶ」、これが新たな産業になる日も遠くないだろう。

【マンスリートピックス】東京ガスNWがねずみ鋳鉄管の更新完了 30年の取り組みが結実

東京ガスが最後まで残っていたねずみ鋳鉄管のPE管への更新を完了した。

これにより、全国の低圧導管の地震などによるガス漏れリスクが解消された。

1996年のガス事業法改正により、土中への新規敷設が禁止されたねずみ鋳鉄管の最終更新工事の現場が2月19日、報道陣に公開された。ねずみ鋳鉄管は、大きな外力が加わった場合に亀裂が発生するリスクがあり、過去には漏えいによる死亡事故や爆発事故が発生したことも。そのため、ガス業界をあげて、腐食せず、破断しにくく半永久的に使用可能なポリエチレン(PE)管への更新を進めてきた。

約40kgのねずみ鋳鉄管をショベルカーで吊り上げる

            半永久的に使用可能なPE管を地中に埋設

横浜市南区の更新作業完了は、東京ガスネットワーク(NW)の悲願だった。これにより、30年以上の年月をかけて実施してきた、供給エリア内の4236kmにも及ぶねずみ鋳鉄管の対策工事が完了した。

工事開始の96年から段階的に工事量を増やし、計画的に進めてきたが、導管延長が4000kmを超える上に、繁華街が多い首都圏エリアとあって進捗は難航を極めたという。銀座並木通りや新宿・歌舞伎町、渋谷などでは、店舗が営業を終える深夜から早朝という短時間での工事を強いられた。また、電気や水道などの他のインフラ設備が重複して埋設される場所では、他事業者と粘り強く交渉、調整を実施するなど、慎重さも求められた。

沢田聡社長は「(自身が)在職中に取り替え作業が終わるとは、(工事を開始した当時は)思えなかった」と長きにわたった事業に思いをはせた。また「地域住民の方には、大変な理解と協力をしてもらった。さらに現場で取り替え作業に従事した工事会社やパートナー企業の努力のたまものだ」と関係者への感謝を口にした。

作業の苦労や全ての関係者への感謝を口にした沢田聡社長

東ガスNWは安全・安心なガス供給を継続的に提供するため、今後、AIを活用したガス管の劣化予測やリスク診断を実施、それを基にした計画的な取り替え、更新に尽力する考えだ。

太陽光とのタッグで省エネ戸建て住宅の定番設備へ

高い省エネ性能と、太陽光の自家消費を実現する「おひさまエコキュート」。

政策によるZEHの後押しなど、近年急速に普及しつつある要因に迫った。

東京電力エナジーパートナー おひさまエコキュート

電気と空気の熱を使い、ヒートポンプでお湯を沸かす―。今ではすっかり家庭用給湯機として定着した「エコキュート」は今年で発売から26年目を迎えた。同機は冷媒となる気体を圧縮すると高温化、膨張すると冷温化する物理現象を応用。空気中の熱を吸収するヒートポンプ技術で沸き上げる。消費電力に対し3~4倍相当分の湯沸かし性能を有するのが特徴だ。

「給湯は家庭のエネルギー消費の3割を占める。当時、同分野の省エネは未着手だった。そこで東京電力(当時)、デンソー、電力中央研究所の3者が1998年に開発に着手し、2001年に発売にこぎつけた」。東京電力エナジーパートナー(EP)の後藤邦彦イノベーション推進担当部長は、開発の歴史をこう振り返る。

「おひさまエコキュート」は夜間に比べて高い外気温度の空気を利用するため、効率的にお湯を沸き上げる

24年度末に1000万台 近年は導入ペース早まる

エコキュートはこの省エネ性能により普及し、24年度末には国内累計販売台数が1000万台を突破。近年は普及の勢いが加速し、500万台を突破して、わずか8年で1000万台に到達した。これに寄与しているのが「おひさまエコキュート」と太陽光発電の組み合わせだ。

従来型のエコキュートは夜間電力を活用していた。近年は太陽光発電の導入が進んだことで、昼間に電力余剰があり、出力制御まで実施されている。この状況を踏まえ、おひさまエコキュートは再エネの有効利用ができる昼間にお湯を沸き上げる。

また、年々下がっている再エネの固定価格買い取り(FIT)制度の売電単価が昨年は1kW時当たり15円になり、太陽光で発電した電気を自家消費に回した方が光熱費の削減につながるようになった。この二つの要因が相まって、おひさまエコキュートと太陽光の組み合わせが急成長したのだ。

急速に伸びるエコキュートの出荷台数

自家消費向けプラン好調 政策も普及の追い風に

東電EPでは、おひさまエコキュートと太陽光をセットで導入する世帯向け電力料金プラン「くらし上手」を用意している。時間帯によらず料金単価が同一であるほか、給湯機やIH調理器の修理を無料で受けることが可能であるなど、電化ニーズに沿ったものだ。お客さま営業部電化推進グループの成田菜採グループマネージャーは「同プランには、昨年比で1・5倍の申し込みがあった。太陽光とおひさまエコキュートをセットで導入するお客さまが相当数あったと見ている」と、同プランの手応えを強調する。

政策の後押しも大きい。14年4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という言葉が明記され、「20年までに標準的な新築住宅で、30年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」と定められた。これにより15年から戸建て住宅を対象としたZEH補助金制度が本格化した。23年度の支援事業「ZEH+」では75%がエコキュートを採用している。また、昨年9月にはZEH+以上の達成水準を求めるGX―ZEHが定められた。おひさまエコキュートはエコキュートよりもさらに省エネ評価が上がり、GX―ZEH水準を達成しやすくなる。

おひさまエコキュートと太陽光の組み合わせは他の方式と比べて圧倒的に省エネかつエネルギーの有効利用につながり、課題である家庭部門の脱炭素化に寄与する。ヒットの枠を超えて、今後戸建て住宅のスタンダードになっていくかもしれない。

売電より自家消費にメリットが出てきた太陽光の存在は大きい

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2026年4月号)

NEWS 01:沖電新社長に横田氏 現場重視の姿勢を強調

沖縄電力は4月1日付で、横田哲副社長が社長に就任すると発表した。2月25日の会見では「誰も見ていないような場所で黙々と電気設備を整備する者、誠実に書類を整えている者。それこそが会社にとっての宝物であり、私がしっかり光を当てていきたい」と、技術職出身として現場を重視する姿勢を示した。自身が中心となって策定した新中期経営計画の実行フェーズを力強くけん引する役割を担う。燃料価格高騰などの逆風下で、7年にわたり経営基盤の安定に奔走した本永浩之社長は、代表権のある会長に就く。

横田新社長(左)と会長に就任する本永氏
提供:沖縄電力

社長交代の背景には、本永氏が経済界での調整役に徹するとの戦略的判断がありそうだ。沖縄県は現在、米軍基地返還に伴う跡地利用など地域の将来を左右する大規模開発を控える。本永氏は県内財界が主導する「GW2050プロジェクト」推進協議会代表理事などの要職を歴任してきた。「財界が強固に結束しなければプロジェクトは進まない。その中心として動ける体制を整える必要があった。沖縄をより強くするための本永さんの判断だろう」(事情通)

横田氏は、燃料調達コストの削減や最新鋭火力の建設といった難題を背負う。新電力との競争も激化している。地域との協調を重視しつつ、経営体質の強化と脱炭素の実装をいかに両立させるか─。そのかじ取りに注目だ。

NEWS 02:ガバナ技術基準で省令改正 異常昇圧防ぐ措置を義務付け

経済産業省は、昨年12月に山口県宇部市で発生したガス漏れ事故を受け、ガス工作物の技術基準を定めた省令を改正する方針を固めた。ガス整圧器(ガバナ)のうち、異常昇圧を引き起こす恐れがあるガバナを対象に、それを防ぐ措置を講じることを義務付ける。

経産省に設置されているガス工作物の安全基準を審議するガス技術審査ワーキンググループ(WG)で、技術基準の改正案が示され、了承された。

ガバナは都市ガス供給設備の一つで、製造所でつくられた高圧ガスを工場や家庭で使用できる圧力になるまで減圧し、安全に供給する役割を持つ。もし調整機能が働かず、高圧のまま供給されると、炎が噴き出したりガス爆発を起こしたりする危険がある。

ガバナは、直動式、アンローディング式、ローディング式の3種類に大きく分けられ、宇部市でガス漏れ事故を起こしたのはローディング式とされる。事務局のガス安全室は、ローディング式のうち、異常昇圧を防ぐ装置がないものを「ガスの圧力が異常に上昇する恐れのある整圧器」と整理。省令改正により、遮断弁や万が一の際にガスを安全に大気中に放出する装置を設置するなど、安全措置を講じることを義務付ける。

同室によると、異常昇圧を防ぐ装置がないガバナは全国で約90カ所ある。所有している事業者には、日本ガス協会などを通じて改正の内容を周知する予定で、必要に応じて立ち入り検査なども行う。WGでは、有識者委員から「他の種類のガバナでも圧力が上昇する可能性がある」との指摘があったが、経産省としては現行、規制対象を広げる予定はないという。

改正省令は、パブリックコメントを経て施行される。

NEWS 03:ガス料金の値上げ相次ぐ 物価と人件費高騰が直撃

家庭向けの都市ガス料金に値上げの波が押し寄せている。供給網の維持・管理費用や人件費などの高騰に伴う固定費の上昇が要因。経営効率化などの企業努力だけで上昇分を吸収するには限界があり、基本料金の値上げに踏み切らざるを得ないというのが実情だ。

鳥取ガスは1月検針分から、基本料金を最大800円程度引き上げた。従量料金と合わせると、全体で平均13%の値上げとなる。同社は値上げの理由として、「原料の輸入基地経費、国内輸送費、製造設備経費、導管維持管理費全てが高騰していること」と説明する。

大幅な値上げとはなったが、それに伴う契約者の離脱は起きておらず、担当者は「ガスだけではなく、あらゆるモノの値段が上がっている中で受け入れていただいているのではないか」との認識を示す。

新潟市の蒲原ガスも、諸経費の上昇分を経費削減などでは補いきれなくなったとして、5月検針分から基本料金を200円程度引き上げることを決めている。従量料金を含めた料金全体では、平均8・2%の値上げとなり、1カ月の使用量が41㎥の標準家庭の場合、606円の負担増となる。

人口減少が進み、ガスの消費量が低下している地方都市ほど、基本料金の見直しに迫られている。LNGの調達価格や使用料に左右される従量料金とは違い、設備維持や保安のための固定費に相当する基本料金は、ガスの使用量に関係なく毎月一律の額を契約者に負担してもらうもの。契約数が減れば当然、全体を賄いきれずに赤字に陥り、設備維持が困難になりかねない。

物価や人件費の高騰、円安の進行を背景に、今後も家庭のエネルギーコストの高止まり傾向が続きそうだ。

NEWS 04:軽油カルテルで強制捜査 長年の業界の体質にメス

東京地検特捜部と公正取引委員会は3月4日、独占禁止法違反容疑で東日本宇佐美と共栄石油を家宅捜索した。トラック給油に特化したフリートSSを運営する事業者で、一部報道によると、公取が昨秋、両社を含む8社を同法違反の疑いで強制調査。会合で値上げ幅を決定していた疑いが持たれていた。公取は茶谷栄治氏が委員長に就任した昨年以降、長野県石油商業組合・北信支部のカルテル認定など、石油業界への対応を強化している。

フリートSSのビジネスモデルが問われる

小嶌正稔・桃山学院大学経営学部教授は「昔から業界でカルテルは横行しており、今回は良いタイミングでメスが入った」とみる。全国のフリートSSは直営だけで賄いきれないため、代行業者が登場して主な給油ネットワークが五つ出来上がり、徐々に友好団体的に結束するようになった。

それでも軽油需要が伸びているうちは、競争があったが、ここ10~15年ほどは需要が伸び悩むように。以前のような競争をしていては業界全体がもうからないこともカルテルに拍車をかけた。「ガソリンなどの支援制度が助長した側面もあると思う。もはや、公取が看過できない状態だった」

小嶌氏は「これを機に業界体質を改め、価格競争ではなく魅力的なサービスで一般の人も訪れたくなるSSを目指すなど差別化による競争に向かってほしい」と呼びかける。

【論説室の窓】福島第一原発事故から15年 国は信頼できる原子力政策を

竹川正記〈毎日新聞〉論説委員

福島第一原発事故から15年が経ち、日本の原子力政策を巡る環境は大きく変わった。

エネルギー安全保障面から原発が再評価されているが、持続的な活用には課題も多い。

2011年3月の東京電力福島第一原発事故後、政府は長らく原発への依存度を低減させる方針を掲げてきた。原子炉のメルトダウンと放射性物質の拡散で多くの人々が故郷を奪われたことへの反省からだった。

信頼獲得に向けた取り組みに終わりはない

独立性の高い原子力規制委員会を設け、厳しい安全審査をパスした原発しか再稼働を認めない仕組みにした。将来的には太陽光発電など再生可能エネルギーの普及や火力発電の低炭素化を進め、原発の利用を縮減することを目指していた。

再エネで発電した電気を電力会社が一定期間、固定価格で買い取るなどの制度的後押しもあり、太陽光を中心に普及が加速した。電源構成に占める再エネ比率は事故前の10%前後から24年度に約23%まで高まった。

電源の7割が火力の日本 燃料不安で弱点があらわに

だが、近年は環境破壊が問題視されてメガソーラーの建設が停滞。「切り札」とされた洋上風力発電の開発計画もインフレによる建設費高騰で頓挫するなど逆風に見舞われている。天候に発電量を左右される弱点も克服できておらず、安定電源になり切れていないのが実情だ。

原発の再稼働に時間がかかり、再エネ導入にもブレーキが掛かった結果、火力発電に電源の約7割を頼る状況が続く。その弱点が地政学リスクの高まりであらわになった。

資源国ロシアによる22年のウクライナ侵攻は世界的な化石燃料の供給不安や価格高騰を引き起こし、企業活動や国民生活を圧迫した。足元では米国とイスラエルのイラン攻撃をきっかけに原油・天然ガス輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖され、燃料調達が途絶しかねない危機にさらされている。

経済や暮らしに欠かせない電力の安定供給を守るエネルギー安全保障の重要性が改めてクローズアップされた形だ。危機感を強めた政府は、大規模に発電でき、脱炭素にも資する原発の活用に活路を求めた。福島事故の当事者である東電が今年2月、新潟県の柏崎刈羽原発6号機を再稼働させたことで、復権ムードが高まっている。

海外でも、福島事故後に脱原発を標榜する国が相次いだ欧州連合(EU)が電力の安定供給確保と脱炭素の両立を理由に原発活用にかじを切った。EUのフォンデアライエン欧州委員長は3月「原子力に背を向けたのは戦略的に誤りだった」と認め、次世代原発の導入を推進する考えを表明した。エネルギー供給不安が広がる中、原子力を再評価する動きが世界的な潮流となっているのは確かだ。

ただし、日本の場合、福島の教訓を忘れるわけにはいかない。原発を活用し続けるというなら、国民が信頼し納得できる原子力政策の構築と運用体制の整備が求められる。

「政府や事業者はエネルギー不足やGX(グリーントランスフォーメーション)対策を理由に、福島事故によって失われた国民・社会の信頼を回復する努力もしないまま原子力利用を推進しようとしている」。原子力規制委員会初代委員長を務めた田中俊一氏は苦言を呈する。

原発はエネルギー安全保障や経済的メリットが大きい半面、事故が起きれば地域住民に取り返しのつかない損害を及ぼす恐れのある厄介な電源だ。再稼働が進み出したとはいえ、国民の信頼回復も道半ばである。

国や事業者が福島事故を真摯に反省するなら、原発が抱えるさまざまな課題を丁寧に説明した上で、再び活用することに国民の理解と合意を求めるのが筋だろう。この取り組みが蔑ろにされることがあってはならない。

事業者には、経済性よりも安全性を最優先する「安全文化」の徹底が求められる。福島の最大の教訓である。にもかかわらず、これに背く不祥事が起きている。1月に発覚した中部電力浜岡原発の再稼働審査を巡る不正だ。安全対策上、最も重視される基準地震動のデータを改竄していた。内部告発があるまで規制委も見抜けなかったというから深刻だ。厳しい行政処分はもとより審査プロセスの抜本的な強化が不可欠となる。

事故時に住民を守る最後のとりでとなる避難計画の充実も必須だ。福島の例では、放射線被ばくを過度に恐れる余り、重病患者や体の弱いお年寄りまで避難させた結果、災害関連死が増えたという分析がある。原発周辺自治体の避難指示解除の遅れが地域の復興を難しくさせたとも指摘される。政府は事故後の対応を改めて検証し、科学的見地に基づいて計画の実効性を精査すべきである。

核燃サイクルを巡る矛盾 納得感のある説明が必要

福島事故をきっかけに、原子力政策そのものの問題点も浮き彫りになった。象徴的なのが70年前から国策として掲げられてきた核燃料サイクル政策を巡る矛盾だ。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して再利用するスキームの中核を成す高速増殖炉「もんじゅ」は開発が思うように進まず、16年に廃炉が決まった。

中核施設の実現性も見通せないままサイクルをどうやって回すのか。国民が疑問に思うのは当然だ。欧米の多くの国がサイクル政策に見切りをつけ、使用済み核燃料の直接処分にシフトする中、日本が政策を継続する意義が改めて問われている。

サイクル政策を巡っては、政府が開発を目指す小型モジュール炉(SMR)や高温ガス炉など次世代原発との関係も不透明だ。専門家によると、次世代原発は使う核燃料が既存の軽水炉と異なるため、実用化された場合、使用済み核燃料を青森県六ヶ所村の工場で再処理するのは難しいという。次世代原発の導入を推進するなら、サイクル政策との整合性をどう取るのか。説明されてしかるべきだ。

このほか、高レベル廃棄物の最終処分地の確保や、人材不足が懸念される研究者や技術者の育成も大きな課題だ。

原発を持続可能な電源として使うには、国民が納得できる原子力政策の全体像を示す必要がある。

【覆面ホンネ座談会】業界をリードする多士済々 電力・ガス人事の深層

テーマ:電力・ガス人事と評価

エネルギー情勢が再び不透明さを増す中で、大手電力・ガスでは経営トップの判断が企業の方向性を大きく左右する局面が続く。各社が直面する課題を踏まえ、人事の展望と経営の評価を語り合った。

〈出席者〉Aアナリスト B業界関係者 C業界紙記者

─まずは電気事業連合会から。浜岡原発の基準地震動を巡る不適切事案を受け、会長の林欣吾さん(中部電力社長)が辞任。後任には関西電力社長の森望さんが就いた。

A 森さんが会長に就任したことで、電事連は一段と〝原子力事業連合会〟としての性格が強まるだろう。原子力事業の正常化は業界全体の悲願で期待は大きい。

B 森さんの実務能力は高く、経営センスも抜群だ。ほかの業界の人と話をしても、彼の悪口は聞いたことがない。ただ森さん個人は良くても、関電という組織に対しては他電力のアレルギーが根強いのも事実。カルテル問題や新電力の顧客情報の不正閲覧問題が尾を引いている。

C かつて東京電力が中心だった時代は、電事連に出向している人間は「全電力のために動く」という意識があった。森さんがトップでどうなるか。原子力はともかく、ほかの分野で周りが付いてこないという事態にならなければいいが。

A 関電はどちらかと言えば、自社の物差しを優先する〝関電ファースト〟の体質がある。最近は資金調達面でも恨みを買った。関電が真っ先に行った大規模増資は市場の評価が低く、他電力も計画していたにもかかわらず増資による資金調達ができなくなってしまった。

B その関電だが、森さん後継の本命は常務の田中徹さんだ。なかなかの剛腕で、次期中期経営計画は彼がまとめた。副社長の小川博志さんなど優秀な対抗馬も多い。

電事連では森望・関電社長が会長に就任した

東電の停滞が原電人事に影響 HD化見据える九電の二枚看板

―不適切事案を抱える中電は第三者委員会の報告書が出たら動きがありそうだ。

B 不正が行われていた時期に社長だった会長の勝野哲さんにつながるラインの人たちは退任する可能性がある。林さんは第三者委の報告を待って判断するだろう。辞任せずに次回の株主総会で会長に就けば、後任の本命は中電ミライズ社長の神谷泰範さんだ。中電副社長の佐々木敏春さんや専務の安井稔さんを推す声もある。ただ、勝野さんと林さんの同時退任となれば、人事・総務畑で地域とのつなぎ役だった佐々木さんが会長、神谷さんが社長という布陣になるのではないか。いずれにしても、報告書待ちだ。

─柏崎刈羽原発の再稼働にこぎ着けた東電は5次総特を公表し、4月1日の人事で副社長の酒井大輔さんがアライアンスCEO(最高経営責任者)になった。

A これまで福島や新潟、バックエンド関連といった地元対応は全て社長の小早川智明さんが先頭に立って進めてきた。関係地域から見れば、東電の「顔」は小早川さんしかあり得ない。今後、社長を退いて「代表取締役」という肩書になるかもしれないが、継続性や信頼性の観点から引き続き担当するはずだ。一方で、いわゆる「グッド東電」の経済事業は後継候補の酒井さんが担う。副社長の永澤昌さんも留任で大きな変化はないと思う。

C 次期社長は永澤さんとの見方もある。酒井さんはアライアンスを担当して、経済事業は永澤さんが見るということだ。そうなれば日本原子力発電の人事にも影響を与える。社長の村松衛さんは11年目に突入するが、後任の本命は永澤さんだと言われてきた。もし永澤さんが東電に残るのであれば、副社長の牧野茂徳さんが最有力だろう。

B 東電のもう一つのポイントは取締役の吉野栄洋さんだ。20年に経済産業省から原子力損害賠償・廃炉等支援機構に出向したが、アライアンス相手が決まれば夏の人事で経産省に戻るのではないか。そのアライアンスが上手く行くとは思えないが……。

─ホールディングス(HD)化が予定されている九州電力はどうか。

A HDの社長は九電産業社長の中野隆さん、事業会社のトップは引き続き西山勝さんが務めるのではないか。九電の場合、過去にもグループ会社から復帰したケースはある。今回の中野さんの転出も、HD社長就任に向けた勉強期間という見方だ。もちろん、会長は池辺和弘さんだ。

C 西山さんを変える理由はないからね。ただ、両者はタイプがまるで違う。西山さんは真面目な実務型だが、中野さんは地元政財界にも顔が利き、深い関係を築いている調整型。バランスが取れている。

B 余談だが、池辺さんと西部ガス会長の道永幸典さんは仲が良い。現場レベルでは激しく競合していても、トップ同士が意思疎通できていることは、九州全体のインフラ戦略や活性化にとってプラス。HD化によって、こうした地域連携が加速する可能性がある。西部ガスは社長の加藤卓二さんが明るく元気で、社員も一段とやる気にあふれているね。

ラピダス対応からカルテル後まで 試される地方電力の突破力

─泊3号機再稼働の地元同意を得た北海道電力や東北電力はどうだろう。

B 北電の経営は安定しているが、最大の課題は供給力の確保だ。国策半導体「ラピダス」の需要は膨大で、データセンターなども考慮すると泊原発の再稼働だけでは全く足りない。LNG火力の増設が必要だが、発注してすぐに建設できるわけではない。これをいかに前倒しできるかが、会長の藤井裕さん、社長の齋藤晋さんの腕の見せどころだ。

A 東北電は石山一弘さんが社長就任1年を迎えるが、ポスト石山の足音が聞こえ始めている。最有力として推したいのは、新たに常務に就任した遠藤雅夫さんだ。これまで経理部長を務めていた。

―北陸電力は社長の松田光司さんが奮闘している

B 松田さんは明るい性格で、地元の経済界やメディアとの関係構築が抜群だ。地元紙は電力会社に批判的な場合が多いが、北陸は違う。松田さんが膝を突き合わせて説明を尽くしているからだ。

A 実務面では企画出身で副社長の平田亙さんが支える体制が整っている。次世代のホープとしては、常務の福村章さんに注目している。他電力からも一目置かれていて、いつか福村さんの時代が来るだろう。

北電は供給力確保が課題だ

―一方、西日本の中国電力、四国電力はどうか。

B 中国電の中川賢剛さんはスマートな人物。以前の経営の問題点を指摘し、正そうとしている。カルテル問題の係争が終わらせ、経営を正常化させることが最優先だ。その後は強烈なリーダーシップを発揮するだろう。

A ただ、四国電、九電と同じで関電からの営業攻勢がある。関電と組むのか、そのほかと組んで対立するのか、判断を迫られることになる。カルテル問題の流れですぐには動けないが、合理的な中川さんがどんな判断を下すのか注目だ。

C 中川さんと四国電社長の宮本喜弘さんは、まだ独自色を出していないが安定感があるね。宮本さんはエリアにこだわらない柔軟な思考を持っている。中川さんともざっくばらんに議論できる関係性だ。西日本連合だけでなく、PWR(加圧水型原子炉)を採用する北電と原子力部門で連携するという選択肢だってあり得る。

─トップ交代もあった。4月1日付で沖縄電力は横田哲さん、Jパワーは加藤英彰さんが新社長に就任する。

A 沖電は順当だ。間もなく発表になる次期中計をまとめたのが横田さんで、会長になった本永浩之さんが社長に就任したのもタイミングも同じだった。自らが作った中計を実行に移す。

B Jパワーは前社長の菅野等さんの健康上の理由を受けての交代。このタイミングなら常務の加藤さんしかいなかった。ガスなどとアライアンスを組んで全国展開していく路線は変わらないだろう。

東ガス、東邦ガスは現体制続く 藤原社長の後任は……

─ガス業界に目を移そう。東京ガスで気になる点は。

A 社長の笹山晋一さんの人当たりの良さは、東京経済界と協調していく上で間違いなくプラスになる。今回の人事で笹山体制が整ったと言え、長期政権になるだろう。中計をまとめた人が次期社長になるので、このパターンに当てはめると常務の村越正章さんが後継最有力だ。

C 常務だった辻英人さんが専務に昇格し、日本ガス協会専務理事の早川光毅さんの後任となる。辻さんは全国ガス労働組合連合会の委員長を務めた人物で、地方ガス会社とのパイプが太い。ガス協会が昨年「ガスビジョン2050」で打ち出した地方重視の理念とも合致する。大手は電力販売や海外事業などで収益を上げているが、地方はそうはいかないからね。

B 東ガスはネットワーク部門が3年連続赤字だ。東京ネットワークで指揮を取っていた沢田聡さんに代わって、副社長だった棚澤聡さんが4月1日付で社長に就任する。棚澤さんには、赤字体質改善という責任がのしかかることになる。

C 日経新聞が2月1日の1面トップで「電気・ガス、日本の大都市に英企業が販売網 大阪ガスや東京ガスと」と報じて業界を驚かせた。

英オクトパスエナジーと東ガスが共同出資するTGオクトパスエナジーが、東ガス管内だけでなく、ほかの都市ガス大手と連携して販売網を広げるという内容だ。オクトパス電気の顧客が引っ越した時に、現地のガス会社のガスとセットで対応できるというウィン・ウィンの戦略がある。自力で電気を扱えなかった地方の中小ガス会社にとっても、オクトパスは魅力なようだ。

4年目に突入する東ガス・笹山社長

─大阪ガス、東邦ガスはどうだろう。

A 大ガス社長の藤原正隆さんは笹山さんと同じ理系で、eメタン対応などが求められたこの時期に化学式が頭に入っている社長で良かった。昨年の大阪・関西万博でも自社のPRに成功したし、功績は大きい。ポスト藤原の筆頭は副社長の坂梨興さんだろうね。

C 大ガスは次期社長の同期が経産省を退官して入ることが多い。一昨年、坂梨さんの同年代の須藤治さんが顧問としてやって来て、社員は「そろそろ社長交代だな」と思っている。須藤さんは昨年、常務になった。

A 東邦ガス社長の山碕聡志さんは〝ザ・東邦ガス〟というタイプ。素朴だが実務能力は高い。長く経営計画を作ってきて、満を持して就任した。数年は山碕体制が続くが、次期社長を予測するなら、今のところは専務の小澤勝彦さんかな。

エネルギー企業の現場には、実務に強いタイプもいれば、調整力に長けた人物、構想力で組織を動かすリーダーもいる。次の一歩をどう踏み出すのか、その選択が業界の風景を変えていく。

【コラム/4月10日】ドイツのエネルギー転換が直面する課題

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

ドイツは2045年の気候中立達成を掲げているが、2025年9月15日、連邦経済・エネルギー省(BMWE)は連立政権合意に基づくエネルギー転換の進捗を評価したモニタリング報告書を公表した。同日、ライヒェ大臣は同報告書の指摘を踏まえ、今後政府が講じるべき対応策として10項目の施策案を提示した。本稿では、これら施策が示す課題と政策的含意を整理するとともに、それらが2045年気候中立目標の達成可能性に及ぼす影響について検討する。

提案された施策の10項目は以下の通りである。

1.誠実なニーズ評価と現実的な計画

将来の意思決定における基準は、発電・送配電・蓄電・供給安定性に要する費用を含む、システム全体のコストである。必要かつ経済合理性のある設備のみを整備し、非効率な過剰投資は避けるべきである。また、再生可能エネルギーや送配電網の拡張計画は、現実的な電力需要シナリオに基づいて策定されなければならない。2030年の電力需要は、複数の研究で600〜700TWhの範囲と見込まれており、その中でも下限に近い水準となる可能性が高い。したがって、洋上風力の導入量やその系統接続、さらに長距離送電を担う高圧直流送電についても、実際の需要に応じて調整する必要がある。2045年に向けた長期的なエネルギー計画においても、需要動向に合わせて柔軟に見直しながら進めるべきである。

2.再生可能エネルギーを市場やシステムに適合する形で支援する

固定価格による固定買取制度(Einspeisevergütung)を廃止し、ネガティブ価格時の補償も完全に終了する。これに代わり、EU 法で求められている二方向差額決済契約(CfD)やClawback(超過利益回収)など市場連動型の新たな支援スキームを導入する。さらに、PPA(長期電力購入契約)によって投資リスクを低減し、新規設備には直接販売(Direktvermarktung)を義務付けることで、再生可能エネルギー支援制度を固定買取方式から市場連動型へ全面的に移行する。

3.送配電網、再生可能エネルギー、分散型柔軟性を同期的に拡大する

2030年に再生可能エネルギー比率を80%に引き上げる目標は維持する。その達成に向けて、再生可能エネルギー設備や蓄電設備の立地を適切に誘導する仕組みを強化し、系統接続の迅速化、実際に利用可能な発電量の増加、そして必要に応じた効率的な送配電網整備を進める。再生可能エネルギーと蓄電の組み合わせにより、需要に応じた電力供給や出力変動の平準化が可能になる。さらに、送配電網に負荷をかけない立地を誘導する仕組みの導入、系統逼迫地域での発電側負担の増大、デジタル化による接続申請の効率化、そして可能な限り地中化を避けてコスト増を抑制することなどを通じて、再生可能エネルギー・送配電網・蓄電設備・分散型柔軟性の拡大を同期的に進め、効率的かつ安定的な電力システムを構築する。

4.技術中立的な容量市場を迅速に導入する

供給安定性を確保するため、再生可能エネルギーの変動を補完する柔軟な調整電源として将来的な水素転換を見据えたガス火力について入札制度を優先的に整備しつつ、特定技術に依存しない技術中立的な容量市場を2027年までに導入することにより、投資・計画の確実性を高める。また、EU近隣国の経験を踏まえて制度の複雑性を最小限に抑えるとともに、新規ガス火力の初回入札については年内に方針を明確化する必要がある。

5.電力システムの柔軟性とデジタル化を推進する

需要の柔軟性と電力システムのデジタル化は、効率性を高めるための構造的な鍵となる要素であり、送配電網、再生可能エネルギー、蓄電設備、電解槽の拡張を効率的に同期させるための前提条件である。消費者は市場価格に近い価格シグナルを受け取ることができるようにすべきであり、負荷管理、蓄電設備、その他の柔軟性手段は、変動料金制の電気料金および送配電網利用料の設計に適切に反映されるべきである。スマートメーターの導入は、リアルタイムの需要分析と家庭用エネルギー管理システムの操作を可能にするため、意欲的かつ迅速に進められ、少なくとも消費者のコスト負担は中立となるよう設計される必要がある。

6.統一的で流動性の高いエネルギー市場を維持・拡大する

統一的で流動性の高いエネルギー市場を維持・拡大するため、単一の電力入札ゾーンを堅持しつつ、電力・ガス・水素・CO₂の自由な市場を機能させる。また、過度な価格介入や市場分断を回避することで産業・投資家・消費者に安定的で予見可能な条件を提供するとともに、市場流動性と価格変動を柔軟性投資やリスクヘッジの促進に活かし、さらに送配電網の混雑管理の効率化策を短期的に開発・実施する。

7.支援制度を見直し、補助金を体系的に縮減する

支援制度を経済合理性の観点から全面的に見直し、補助金を必要最小限に縮減するとともに、電力価格が恒常的な補助ではなく市場メカニズムに基づいて形成されるようにし、支援はエネルギー多消費産業や研究・イノベーションに的を絞って期間限定で実施する。さらに、複雑な補助金体系を市場に近い成果志向の制度へと転換し、EU排出量取引制度(ETS)を効率的なエネルギー形態の選別を担う中心的な仕組みとして位置づけ、産業の国際競争力を維持するための現実的な解決策を講じる。

8.将来を見据えた研究を推進し、イノベーションを促進する

将来のエネルギーシステムを支える技術革新を戦略的に強化するため、研究開発を通じて技術進歩、コスト低減、スケールメリットの獲得を促進し、デジタル化やAI、産業部門やバリューチェーン全体の電化によって高まる電力システムへの要求に対応する。また、深部地熱、核融合、水素とその派生物、CCS/CCU などの新技術の潜在力を積極的に開拓し、分散型エネルギーシステムの最適化に不可欠となるAIの活用を進め、その前提となるデータセンターの容量確保と迅速な整備を図る。さらに、国際的な研究開発競争から取り残されない体制を構築する。

9.水素の普及を現実的に推進し、過度に複雑な規制を削減する

水素の普及を技術中立かつ柔軟に進めるため、過度に複雑な規制を撤廃して実務的な基準へ転換し、低炭素水素を含む多様な水素の利用を認めつつ、既存の需要がある分野や費用対効果の高い領域に立ち上げ期の重点を置く。さらに、需要側の進展と連動した形で水素コアネットワークや海外供給源の開拓や輸入回廊の整備を段階的に進めるとともに、電解装置の導入目標を需要に応じた柔軟なものへと改め、H₂バレーやプロジェクトクラスターなどのインフラ整備を必要に応じて迅速に開始する。

10.CCS/CCU を気候保護技術として確立する

CCS/CCU を不可欠な気候保護技術として制度的に確立し、産業の脱炭素化を確実に支えるため、セメント・化学など回避困難な排出を抱える産業や発電部門を対象に投資支援や CO₂ 輸送・貯留インフラの整備を進める。さらに、関連法制の改正を通じて計画・投資・許認可に関する明確で予見可能な規制枠組みを整え、国家戦略への透明な位置づけと情報提供を通じて社会的受容を高めながら、CCS/CCU の導入と市場形成を着実かつ加速的に推進する。

以上の検討から、未来のエネルギーシステムを構築するうえでは、市場原理、技術多様性、イノベーション、デジタル化、そして欧州協力が不可欠の基盤となることが示されている。これらを土台として10の施策を着実に実行することが、繁栄、安定供給、国際競争力を支える政策的要件となる。また、現実的かつ実行可能なエネルギー転換を進めることで、ドイツは産業にとって魅力的で、国民の支持を得ながら、気候保護にも貢献する国家としての地位を維持し得るとされている。

上記の施策は、エネルギー転換のアプローチがより現実的な方向へと移行しつつあることを示しており、これを必要な軌道修正と捉える向きもあれば、エネルギー転換そのものの終焉を示唆するものと見る向きもある。確かなのは、ライヒェ大臣が2045年カーボンニュートラル目標に加え、2030年までに総電力消費量に占める再生可能エネルギー比率80%という目標を依然として堅持している点である。しかし、これらの目標が実際に達成可能かどうか、前回コラムで書いたように、その道のりは依然として極めて険しいと言わざるを得ない。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【イニシャルニュース】お土産に柔道着 Y議員が島しょ国に

お土産に柔道着 Y議員が島しょ国に

高市早苗政権の閣僚級ポストに就くY議員の振る舞いが海外でとんだ失笑を買っている。Y議員は衆院選直前に、南半球の島しょ国に出張に行った。この海外出張は閣僚級がポストを離れる前に行く慣例になっているが、最初から雲行きが怪しかったという。

政府関係者は「この出張の行き先がなかなか決まらなかった。あちこちに声をかけても断られてしまったらしく、ようやく受け入れてくれたのが島しょ国だったそうだ」と漏らす。

島しょ国へのお土産が物議

閣僚級が海外に出向く際は必ず「お土産」を用意するものだ。島しょ国といえば、気候変動で島が沈む危機にさらされているところだ。当然、現地ではジャパンマネーに期待して、インフラ整備や気候変動対策をあてにしていたはずだ。

ところがY議員はあろうことか、お土産に「柔道着100着」を進呈したという。ある関係者は「えっ、と一瞬言葉を失いました」と驚きを隠さない。「あまりにも的外れなお土産に、島の人々も動揺していましたし、関係者からはなんとも言えない笑いが漏れていました」と振り返る。

島しょ国は現在、中国支配が進んでいる。島の暮らしから教育に至るまで中国化を図っている。西側先進国に対する安全保障上の要衝として、物心両面から押さえてきているのだ。

前出のある関係者は「お気楽というか、情けないというか。柔道を広めることはいいとしても閣僚級ポストで来ているわけですからね」と苦笑する。

嫌中、対中もいいが、レベルの差が歴然だ。

蓄電池事業者協議会 加盟企業はわずか7社

蓄電池事業の持続的な発展に向け政策提言などを行う「蓄電池事業者協議会」が3月18日、設立会見を開いた。S電力が中心となり、初期メンバーとしてX商事など蓄電池事業に関わる7社が加盟する。会見に臨んだS電力のT代表は、「現場の課題を集約、発信し、課題解決型の議論を通じて適切な制度設計を実現したい」と意欲を見せた。

蓄電池は再エネの安定利用に欠かせない設備として存在感を強めている。系統用蓄電池の導入が急速に進んでいる一方で、電池を送配電網につなぐ接続検討の申し込みが急増している影響で、接続のための手続き期間の長期化といった課題を抱えている。同協議会は、こういった課題を解決するために、現場の意見を集約し、蓄電池事業の制度設計や法規制に関して政策提言する方針だ。

それにしても、多くの事業者が蓄電池ビジネスに参入しているにもかかわらず、設立したばかりとはいえ7社とはなんとも寂しい。

関係者らの脳裏をよぎるのは、再エネ系新電力が一部の有力政治家に接近し、ある意味利権化させたことが世間のひんしゅくを買った過去だ。蓄電池事業を手掛けるK氏は、「同協議会設立にも某政治家が尽力していたようで、距離を置く事業者も少なくないのが実情だ」と明かす。

果たして、実効性のある政策提言につながるか。

電力再編の台風の目? 発電会社を巡るうわさ

電力小売り全面自由化実施以降、経産省が狙った大手電力会社の統廃合を含めた業界再編はなかなか進んでいない。「国の思惑がどうであれ、シナジーがなければ民間企業が統廃合に踏み切ることはできない。これまで再編が進まなかったのはそういうことだ」と語るのは、エネルギー業界関係者のW氏だ。

そうした中で最近、火力事業を軸とした電力再編のうわさがまことしやかにささやかれ始めている。その中心にいるのは、二つのJ社だ。一方は、親会社の一角であるC社が出資比率を51%以上に引き上げ、連結子会社化するというもの。大手電力の中では大型電源が乏しいだけに、そうした検討が行われることはさもありなんだ。

もう一方のJ社に食指を伸ばしているのはK社だという。「J社内では警戒感が強まっている」と明かすのは業界筋のH氏。資本関係のない両社の合併が実現すれば、再編の「台風の目」となる可能性もある。

【フォーラムアイ】「スマートエネルギーWEEK春2026」に 次世代技術とソリューションが集結

【スマートエネルギーWEEK春2026】

世界最大級のエネルギー総合展示会「スマートエネルギーWEEK春2026」が3月17~19日、東京ビックサイトで開催され、約1600社が出展し、6万8840人が来場した。

25回目となる今回は、「水素・燃料電池」「太陽光発電「二次電池」「スマートグリッド」「風力発電」「バイオマス」「ゼロエミッション火力発電」の7領域がテーマ。「建材一体型太陽光発電ワールド」と、同時開催の「サステナブル経営WEEK(GX経営WEEK)」といった特別企画エリアも設けられた。

水素エリアでひときわにぎわいを見せていた川崎重工のブースは「さぁ、水素を語ろう。」をコンセプトに、スペースの半分を「KATARUBA」ステージが占めた。多彩な催しの中でも特に、プロの実演販売士が液化水素サプライチェーンについて5分で軽快に解説するプログラムは圧巻で、立ち見客が通路を埋め尽くすほどだった。

水素充填ロボット

自動車メーカー・ヒョンデのブースでは、ロボットによる水素充填のデモンストレーションが披露され、来場者はスマートフォンをかざしながら見守った。26年上半期に日本市場へ投入予定の新型FCEV「ネッソ(NEXO)」に、ロボットがアームを伸ばして注入口のふたを開け、ノズルを正確に差し込み充填する。その光景に、未来の日常を垣間見ることができた。


約30の国と地域が出展 講演会や座談会も充実

世界最大級の展示会らしく、多様な海外企業の出展が際立っていた。特に風力発電の展示エリアでは、ノルウェー、シンガポール、イギリス、ドイツ、スイスなどの企業が、それぞれの国旗をイメージした彩り豊かなブースを展開していた。華やかな一角の近くで目を引いたのはNECによる巨大な実機展示だ。同社は、90年以上のソナー開発で培った技術を応用し、水中にある目標物の保守・点検を効率化する技術をアピールした。

水中音響通信装置

会場では展示のほか、産学官のリーダーによる約200の講演やセッションも行われ、連日熱気に包まれながら大盛況のうちに幕を閉じた。

【業界紙の目】事業の持続的発展へ 協働・共創で地域に貢献する都市ガス会社

黒羽美貴/ガスエネルギー新聞 記者

近年、地域での大規模、あるいは重点事業は多業種が協働する形式で請け負うケースが増えている。

都市ガス会社もその枠組みで重要な役割を担うようになってきた。

現在、日本各地の都市では、人口減少や少子高齢化、経済の縮小などが顕著に進んでいる。その中で自治体に加え、地元企業も、担い手不足などにより従来から行う事業やサービスの継続が難しくなっており、地域自体の存続さえも危ぶまれ始めている。ガス導管を地域に張り巡らし、まさに地域と一体化している都市ガス会社にとっても深刻な事態だ。

総務省は2024年11月、「持続可能な地方行政のあり方に関する研究会」を立ち上げた。昨年6月にまとめた報告書には、自治体間の連携、産業等分野での自治体や企業間の連携の重要性が盛り込まれた。

経済産業省は昨年10月に、地域住民の生活に不可欠な生活維持関連サービス(買い物、交通、ガソリンスタンドなど)の供給持続性などを検討する「地域生活維持政策小委員会」を立ち上げた。第2回会合では、先進事例ヒアリングに、三重県伊賀市で都市ガス事業などを展開する上野都市ガス/上野ガスの中井茂平社長が出席し、新事業の給食センター事業や斎苑(火葬場)事業について説明した。

また都市ガス関連でも、同年8月に立ち上がった経産省の「ガス事業環境整備ワーキンググループ」の第6回会合で、ガス事業持続性確保のために、多様な関係者と協創(共創)できる仕組みを検討していくという方向性が示された。

さまざまな分野に参画 防災やCNの枠超えて

都市ガス業界では、カーボンニュートラル(CN)や防災などエネルギーと親和性の高い分野で自治体や企業と連携協定を結ぶ例が増加している。近年はさらに進んで、都市ガス会社が多分野かつ大きな協働の枠組みに参画するケースが多くなっている。

前出の上野ガスはグループでPFI事業(民間資金等活用事業)に参画し、地域に必須の二つの事業に取り組む。一つは伊賀市の小学校給食センターの整備運営事業で、同社グループ会社が構成企業として参加するコンソーシアムが応募して事業を落札、18年にSPC(特別目的会社)「伊賀学校給食サービス」を設立し、20年から新たに建設した給食センター「いがっこ給食センター元気」を運営している。同施設には上野ガスがLPガスを供給、上野ガス配送センターがLPガス配送の知見を生かし配送を担当している。

もう一つは同市の新斎苑整備運営事業で、上野ガスやグループ会社などで構成されるコンソーシアムが事業を落札、SPC「伊賀芙蓉」を設立、新たに建設した斎苑「伊賀市斎苑」を24年から運営する。火葬場では都市ガスが止まってもLPガスを利用できるようにし、さらに油を利用する非常用発電機を備え、災害時でも稼働を継続できるなどエネルギー企業の視点を生かしている。これらの試みは、地域内での資金循環や雇用拡大につながっている。

またインフラ分野ではサーラコーポレーションが昨年11月に、愛知県の豊橋浄水場再整備事業に参画することを発表した。企業グループ「あいちウォーターイノベーション」(代表企業=インフロニア・ホールディングス)の構成企業として参加。連結子会社の神野建設や都市ガス会社のサーラエナジーとともに地元企業として当該事業や関連事業に携わる。

教育分野でも、地域になくてはならないCN人材の育成に力を入れる。福島県いわき市でガス事業を行う常磐共同ガスは地元の企業や福島工業高等専門学校などと、CNに関する人材育成や共同研究・開発の推進、新産業創出、CN社会の実現を目指す「いわきCN人財育成コンソーシアム」を22年度に組成した。23年度には同社が幹事会社を、25年度には小野寺智勇社長が副会長を務めている。コンソーシアムでは地元自治体の協力を得ながら、「いわきCN社会連携共同講座」を開講。受講対象は、コンソーシアム参加企業の幹部や若手社員、市役所の職員、高専の学生(専攻科1年生は受講すると単位になる)や教員、市内企業社員など。25年度は全13回開催した。講師はCN分野の第一線で活躍する産学官の関係者が務める。受講者のCN社会実現に向けた意識変革はもちろん、常磐共同ガスでは、地元での人材確保や企業間連携の深化につながるとみている。

静岡ガスは、21年に発表した同社グループの「2030年ビジョン」で、30年に地域共創を実現する目標を掲げている。本社がある静岡市とは環境省の脱炭素先行地域事業で協働。同社は、市内の倉庫群で太陽光発電によるPPA(電力販売契約)事業などを行う新会社をフジタとともに立ち上げており、ここで生み出された太陽光発電の余剰電力を有効活用するプロジェクトを進めている。

静岡ガスらが取り組む可搬型蓄電池の利用実証

この余剰電力を可搬型蓄電池に充電し、この充電池を搭載したEVを企業や大学で運送に使う実証を行っている(3月上旬時点)。今後、実証結果を踏まえ、事業化を目指し、協働した企業などとコンソーシアムを組成する予定だという。また、同社は今年2月に静岡市の「アリーナ整備・運用事業」を落札した企業グループ「The Shizuoka Alliance」(代表企業=NTTドコモ)の構成企業に名を連ね、共創の新たな輪を広げている。

コンソ参加の意義大きく さらに拡大の見込み

コンソーシアムといった協働、共創の枠組みに参加することは、地域の課題解決を担い、地域の存続に貢献する「地元企業」として存在感や信頼性を高めるだけでなく、自社の事業継続や新たな分野への事業拡大、人材確保、参加企業との関係性を深化させることにもつながる。また、その枠組みに地元企業として都市ガス会社が関わることで、地域経済の好循環に役立つことができる。協働や共創の流れは、地域と共にある都市ガス会社の間でさらに広がっていくと考えられる。

〈ガスエネルギー新聞〉〇1959年設立〇購読者数:3万1000部〇読者層:都市ガス事業者、関連メーカー、官公庁など

【マーケットの潮流】25年電力先物市場の年間取引量は前年比5倍 ヘッジしやすい環境の整備進む

毛利岳幹/東京商品取引所総合業務室〈市場企画担当〉課長

テーマ:電力先物市場

TOCOMは、電力先物市場の取引拡大に向けさまざまな施策を打ち出してきた。

近年、リスクマネジメントの一つの手段として取引が急拡大。活用が広がりつつある。

東京商品取引所(TOCOM)で電力先物の取引を開始してから7年目になるが、認知度拡大と利便性向上のための取り組みが徐々に結実し、2025年以降、取引の拡大が顕著である。今後もより一層の流動性・利便性の向上により電力価格の変動リスクをヘッジしやすい環境を整え、わが国における安定的な電力供給維持のためのツールの一つとして役割を果たしていくことが求められている。本稿では、TOCOMのこれまでの電力先物に対する取り組みを紹介しつつ、今後の展望について言及したい。以下、文中における意見などは個人的見解である。

TOCOM電力先物 取引高

TOCOMは19年9月17日に、電力先物を試験上場して取引を開始した。商品先物取引法に基づき当局の認可を得た商品として上場したが、現在においても同法に基づく認可の下で電力先物を上場して取引を行っている取引所はTOCOMのみである。

当初は先物という新分野に参入できる電気事業者は限定的で、13社の参加でスタートした。この拡大が喫緊の課題である中、19年10月にTOCOMは日本取引所グループ(JPX)の完全子会社となり、その経営資源やノウハウも活用し、電力先物スクール(事業者の要望に応じ、商品先物取引の基礎から電力先物取引の活用までを説明)を開催するなど啓発活動を展開。

20年のコロナ禍の電力価格低迷から一転、20年末から21年初にスポット価格が大暴騰したことなどを受け、スクールの受講も急増し、21年末の市場参加者数は134社と当初の10倍に拡大した。それに伴い21年の年間取引量は10億kW時(前年比1・6倍)となり、22年4月4日に、3年間の試験上場期間を半年間前倒し本上場に移行した。


参加者のすそ野拡大へ施策 金融機関などの参入促進

本上場後の同市場の成長のためには、プレゼンス向上による参加者のすそ野拡大が求められた。また、経済産業省が23年11月から24年4月にかけて開催した「電力先物の活性化に向けた検討会」(全5回)の最終取りまとめでは、取引拡大に向けて、現物取引との連携や財務上信頼できる金融機関の参加といった、TOCOMに求められる施策に関する提言をいただいた。

これらも考慮して、①商品ラインナップの拡充、②JPX傘下の他の取引所や海外のエネルギー市場に比べて手薄なクリアリングブローカーとなる金融機関の参入促進、③現物との連携強化―の3点に重点を置いて具体的な施策を進めた。

商品ラインナップとしては、市場参加者から月間だけでなく、より短期やより長期かつまとまった期間のヘッジニーズを満たせる商品が求められたことから、週間物取引(24年3月)と年度物取引(25年5月)を追加した。並行して実施したクリアリングブローカー参入促進のための営業活動強化により、25年度末までに国内金融機関2社が加わったことで、電気事業者などにとって選択肢が増え、市場参加者のすそ野拡大につながった。その結果、新たに追加した年度物取引などで大口の約定も増加し、25年の年間取引量は46億kW時(前年比5倍)と急拡大した。

今年4月13日には、中部エリアを対象とした電力先物の取引を開始する。地域間連系線の混雑などを背景に東京・関西の両エリアとの価格差が生じやすい傾向にある中部エリアの価格ヘッジニーズに応えるべく導入するもので、同エリアで活動を行っている電気事業者をはじめ多くの市場参加者からの利用を期待したい。


現物取引との連携開始 ワンストップで入札可能に

電力先物の指標は日本卸電力取引所(JEPX)の翌日取引であり、JEPXとTOCOMが連携することにより双方の機能向上と電気事業者の利便性向上につなげていきたいとの考えの下、23年1月に相互協力に関する覚書(MOU)を締結した。その反響は大きく、中でも多くの電気事業者から期待の声を寄せられたのが、電力先物取引とJEPXでの現物調達、または販売のワンストップ化の実現であった。実現に向けて両取引所で検討を行った結果、早期の連携サービス(サービス名称は「JJ―Link」)開始のため、二段階での導入とした。

フェーズ1は、TOCOMがJEPXから連携を受ける現物の約定データが先物ポジションと合致するかを照合して、確認結果を電力会社へ返すことで先物と現物の結びつきを証明するサービスとして24年10月に開始。そして先般、フェーズ2のワンストップサービス(先物ポジションに応じて、JEPXでの現物の調達、または販売の入札が各電気事業者名義で行われるサービス)への移行を今年8月31日からとすることを決定・公表した。

フェーズ2への参加を希望する場合は、事前申し込みによる利用者登録が必要で、登録受付開始は今春を予定。登録済の電気事業者は、8月31日からJJ―Linkを利用できる。フェーズ2では、取引が増加傾向にある年度物取引にも対応。年度物取引を約定後、JJ―Linkの申請をしておくことで、対象年度になれば365日間のJEPX翌日市場への入札がワンストップで行われる。

JJ-Linkフェーズ2のイメージ

フェーズ2は、相手方のリスクを考慮せずに取引できるクリアリング付の先渡取引と同等の効果を有しており、最近のエネルギー価格の変動に鑑みれば、JJ―Linkにはリスクマネジメントの観点から、さらなる活用拡大が期待できる。

今後とも電気事業者の利便性向上に向けてさまざまな可能性を追求していきたい。

もうり たけき
1999年大阪証券取引所(現大阪取引所)入所。金融デリバティブ市場の企画・運用部門などを経て2022年から現職(大阪取引所市場企画部兼務)。

【論点】志賀原発巡る善管注意義務 違反認められず

原発差止め訴訟の注目点〈下〉/上村香織・TMI総合法律事務所 弁護士

北陸電力の株主が志賀原発の運転差止めを求めたが、富山地裁はこれを退けた。

連載の締めくくりに、善管注意義務違反を理由とした異例の訴訟を取り上げる。

昨年は、事業者及び国の勝訴判決が続き、本誌前々号では美浜発電所3号機の運転差止めの仮処分申立て、前号では高浜発電所1・2号機及び美浜発電所3号機に係る運転延長認可処分等の取消等訴訟を紹介した。本連載の最終回である本稿では、本年3月4日に原告らの請求を棄却した富山地裁判決(本訴訟)について紹介する。

本訴訟は、北陸電力の株主らが、同社の代表取締役である被告らに対して、志賀原子力発電所(本発電所)の再稼働のために必要なコストは過大であり、再稼働やその前提とした行為を行うことは、被告らが負う善管注意義務等に違反するとして、同発電所の運転の他、核燃料の購入等の再稼働を前提とした行為の差止めを求めた事案である。

「経営判断原則」の解説

典型的な原発差止め訴訟では、周辺住民が原告となり、当該原告らの生命、身体、財産等の人格権侵害のおそれがあることを根拠に運転差止めが求められるが、本事案では、取締役の善管注意義務違反を理由として会社法360条(株主による取締役の行為の差止め)にその法的根拠を求めている点で特徴的な事案である。

会社法360条の主たる要件は、①取締役が違法行為等をし、またはそのおそれがあること、②当該行為によって会社に著しい損害が生じるおそれがあること―である。当該要件との関係で、本訴訟の争点は、本発電所の安全性、経済合理性に関する被告らの注意義務違反の有無(争点①)、被告らの注意義務違反等により、北陸電力に回復することができない損害が生じるおそれの有無(争点②)とされており、争点①では、原告らから、10を超える数多くの注意義務違反が主張された。


重大事故と再稼働費用 二つの注意義務の判断基準

これに対して、裁判所は、原告らの主張を「重大事故が発生する可能性等を調査・分析すべき義務」(重大事故発生に関する注意義務)と「再稼働に要する費用が北陸電力の経営の健全性を損なうおそれの有無を調査・分析すべき義務」(再稼働に要する費用に関する注意義務)に係る主張に大別されるとして、それぞれの判断基準を示した。

このうち、重大事故発生に関する注意義務に関しては、原子力発電所を設置・運転する電力会社の代表取締役は、重大事故防止のため、原子炉施設の安全性について十分調査、検討し、安全性が確認できた場合に限って原子炉を運転すべきであること等を認めつつ、「原子力発電所の安全性について社内外の様々な分野の専門家をして組織的に検討させるなどした上で、その検討結果に依拠して運転(再稼働)の可否について判断していれば、特段の事情のない限り、取締役として負う善管注意義務に違反するとはいえない」との枠組みを提示した。

そして、再稼働には新規制基準適合性審査に合格する必要があることに言及し、「社内外の専門家に十分に検討させた上で、審査に合格することができるとの見込みをもって新規制基準適合性確認審査の申請をし、これに対する原子力規制委員会の意見、すなわち本件原子炉の再稼働に必要な許認可に関する判断を踏まえて運転(再稼働)の可否を判断することとしていれば」、上記の専門家の検討結果に依拠して再稼働の可否を判断したものといえるとして、善管注意義務違反が認められる範囲を限定的に解釈している。

また、再稼働に要する費用に関する注義義務についても、経済合理性に関する判断は、基本的に収支の予測等を踏まえた経営上の専門的判断に委ねられることに加え、北陸エリアの電力需要の大部分に相当する顧客の需要に応ずる供給能力を確保すべき義務を負う北陸電力については、「電気の安定供給のため、様々な発電方法を組み合わせたリスクヘッジには合理性があり、それぞれの発電方法に関する現時点での評価および将来の予測等を踏まえて、いかなる発電方法をどの程度採用するかについて相当程度の裁量を有する」と、広範な裁量を認めた。

そして、かかる広範な裁量を基礎として、再稼働を目指す旨の意思決定は、その過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反しないとして、いわゆる経営判断原則(表参照)が適用されることを明らかにした。


同種の訴訟の参考に 控訴審の行方に注目

原子力発電所の稼働を巡って、本事案のように会社法360条を根拠とした差止め訴訟としては、最近では、東京地判令和3年1月28日において、東京電力が日本原子力発電に対して東海第二発電所に係る経済的支援を行う意向を表明したことに関して、東京電力の株主が会社法360条に基づき支援の差止め等を求めた請求が棄却されている。これ以外では会社法360条を根拠とする訴訟はあまり見受けられないが、本判決では、原子力発電所の安全性及び経済合理性に係る取締役の善管注意義務違反の判断基準が示されたことから、同種の訴訟が起こった場合には、一定の影響力を有するものと考えられる。

本判決後、原告団及び弁護団は、それぞれ同日付けで声明を発表し、名古屋高裁金沢支部へ控訴する意向を表明している。上記判断基準を含め、高裁でも原審の判断が維持されるのか注視したい。

うえむら・かおり
2018年1月TMI総合法律事務所入所。訴訟紛争、リスクマネジメントなどを幅広く対応。21年4月から原子力規制委員会・原子力規制庁長官官房法務部門に出向し、国を被告とする原発訴訟に従事。23年8月からTMI復帰。

【フォーラムレポート】国が文献調査の実施を申し入れた 南鳥島の壮大な「夢」と「現実」

国が最終処分場選定プロセスで初めて自治体への申し入れに踏み切った。

地質的利点が強調される一方、「なぜ南鳥島だけ?」との疑念が生じている。

南鳥島─。東京都心から約2000㎞、小笠原諸島からでさえ約1200㎞離れた日本最東端の孤島が、かつてない脚光を浴びている。

経済産業省が3月3日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場選定を巡り、東京都小笠原村に南鳥島での文献調査の実施を申し入れたのだ。原子力発電環境整備機構(NUMO)は14日に父島、21日に母島で村民説明会を開催した。

可能性に満ちた拓洋第5海山 提供:JAMSTEC

国は5~10地点での文献調査の実施を目指しているが、現時点では北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町の3町村にとどまる。これまで選定プロセスは自治体の自主的な応募を待つ「手挙げ方式」で行われてきた。しかし、首長への過度な負担などを理由に、国が適地の存在する自治体に調査を依頼する「申し入れ方式」の導入を求める意見が広がっていた。国はついに今回、この方式を採用した。

「ようやく国が前面に出た」と評価する向きがある一方、進め方の「粗さ」を指摘する声もある。国は申し入れの理由について、適地である可能性が相対的に高い点や処分場が設置可能な用地の存在を挙げたが、同様の条件を持つ地点はほかにも存在し、南鳥島だけに申し入れた理由にはならない。国有地であり、定住者がいる小笠原諸島から遠く離れていることを踏まえれば、「声を掛けやすかったのではないか」との疑念が生じるのは当然だ。

経済産業省の特定放射性廃棄物小委員会で委員を務める東京電機大学の寿楽浩太教授は「申し入れる基準が不明瞭だ。候補地をどのように拡大し絞っていくのか、今からでも全体像を示すべきではないか。先行する町村は、政府方針が見えないと概要調査の可否を判断しようがない」と指摘する。 

「今後は手挙げと申し入れのハイブリッド形式を採る。地域バランスを考慮した上で、5自治体への申し入れを目指す」といった見通しが示されていないことが、不透明感を生んでいる。


地球からのプレゼント 動き出した海山開発

南鳥島が最終処分地として可能性を秘めているのは確かだ。同島での地層処分を提言してきた海洋研究開発機構(JAMSTEC)の平朝彦アドバイザーは、南鳥島周辺の自然環境について「地球が日本にくれたプレゼント」と表現する。日本は言わずと知れた地震大国だ。列島の下には北米、ユーラシア、フィリピン海、太平洋の四つのプレートが相互作用しており、世界で最も地球活動が活発な地域と言っていい。

一方、日本海溝から東側に広がり、太平洋のほぼ全域を覆う巨大な太平洋プレート内部は、日本列島とは異なり、地震がほとんど発生しない。南鳥島はこのプレート上に位置する。中でも南鳥島がある西太平洋の地点は、1億~数千万年前に誕生した極めて安定した地質を持つ。海溝まで約1000㎞離れており、マグマ活動は終わっている。今後「1千万年」は地殻変動が起こらない可能性が極めて高い。

人員の移動や資材の運搬を考慮して、「処分場建設は現実的ではない」(原子力関係者)との見方もあるが、平氏が想定するのは、島そのものに地下施設をつくることではない。

南鳥島から南西150~200㎞地点の海底に「拓洋第5海山」がある。海山の標高は周辺の深海底から4500m、広大で平らな頂上の水深は1㎞。周辺深海底にはレアアース(希土類)泥が分布している。ここでピンと来た読者もいるだろう。2月にJAMSTECの地球深部探査船「ちきゅう」がレアアースの試掘に成功したのが、この地点だ。CCS(CO2回収・貯留)の調査も行われている。

平氏が夢見るのは、海山でのHLW処分だ。直径50~100㎝、深度1㎞程度の穴を掘り埋設する。安全性評価や技術的な成立性の確認は避けて通れないが、平氏は「海山の地層は単純で、掘削時に温泉が噴き出すこともない。本土では1㎞掘ると地上と比べて温度が100℃ほど上昇することもあるが、海山なら低温のままだろう」と強調する。海底のボーリング作業は船上で行うため、地下施設を建設するよりも人員や物量は少なくて済む。レアアース採掘やCCS調査で得たノウハウやモニタリングデータの共有も可能だ。深海底ではレアアース、海山本体ではCCSとHLWの最終処分─壮大な海山開発の実現は絵空事ではない。


1地点だけの危険性 外交問題化のリスクも

こうした青写真を耳にすれば、「南鳥島こそ最適地」との受け止めが広がるかもしれない。ただ、孤島特有のリスクを指摘せざるを得ない。

第一に、国内の関心低下の危険性だ。「あえて他地域での調査の必要はないとの空気が広がれば、絞り込みによる適地選定という制度の趣旨が揺らぐ。今から応募する自治体が現れても、最終候補にならないことを見越した交付金目的の応募だとの批判を招きかねない」(寿楽氏)。こうしたモラルハザードは、原発の恩恵を受けた社会全体での責任共有を掲げた最終処分法の精神と相反する。

第二に、ステークホルダーの拡大だ。太平洋の島しょ国は、核実験による被ばくの歴史などから放射性物質の扱いに敏感だ。日本に敵対的な国家も静観しないだろう。福島第一原発の処理水放出の際に外交的なエネルギーを消費したのは記憶に新しい。こうした点を考慮すれば、南鳥島は科学的には適地だとしても、必ずしも「社会的適地」とは言えないのかもしれない。

南鳥島での文献調査は、受け入れ判断の参考となる説明会の段階にすぎず、まずは丁寧な対話が必須だ。同時に、処分場の選定は「どこが適地か」以上に「どう選ぶか」が重要なことを忘れてはならない。