【コラム/3月27日】「トランプ暴走、イラン攻撃中東不安の日本経済を考える ~縮小均衡調整が不可避」

飯倉 穣/エコノミスト

1、突きつけられた現実

中東のイスラエル(IL)の存在を巡る紛争は、紆余曲折を経て、アラブ諸国は共存に向かっているが、イラン(IR)の現体制は、共存を容認していない。IL・米国は、イラン脅威を低下させる核施設攻撃(25年6月)に続き、米・IR核協議中に再攻撃を行った(26年2月28日)。イランはホルムズ海峡を封鎖状態とした。石油エネ等の中東依存懸念の顕在化で、世界・日本経済も揺れている。日本国民は改めて中東の不安定を実感し、原油動向に気遣う日が続く。

「NY原油急騰 一時119ドル台 G7備蓄放出含め対応 東証急落終値2892円安」(朝日同3月10日)。「イスラエル ガス田攻撃 イランが報復 原油100ドル超」(日経同19日)。不安を伝える報道は、連日である。そしてドバイ原油先物は、169ドル/bbl(同19日)である。高市・トランプ日米首脳会談(20日)もあった。

紛争の収束は、トランプ発言迷走同様、先行き見えにくい。近日中に停戦期待(松永泰行東京外大教授日本記者クラブ会見18日))、弾薬消耗待ち(齊藤貢元駐イラン大使同13日)或いは紛争長期化(坂梨祥エネ研中東研究センター長同6日)・米国中間選挙待ち等様々である。短期で終了しても、この国は、常に理性的な対処と中長期の方策が必要である。改めて短期、中期、長期のエネ対策と経済運営を考える。


2、今回の政府対応~また補助金なのか

最近の政府施策は、困ったときのバラマキばかりである。油価上昇となると、合理的思考を脇に置き、所得の海外流出による国民負担を、補助金・減税・給付金で補填する発想が罷り通っている。ウクライナ戦争時の原油等価格上昇対応の議論・対策が典型である。結局、給付金2万円、エネルギー価格の負担軽減(電気ガス料金支援)、ガソリン暫定税率廃止、消費税減税等だった(「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~25年11月21日参照)。それは政治・社会対策であって、経済政策でない。

今回も消費者・生産者の影響に配慮してか、ガソリン・電気料金価格対策の発言があった。またまた支援金交付である。「ガソリン・電気代追加対策」首相検討 予算組み替えは否定」(日経26年3月10日)、「高市首相が表明 170円程度に抑制も(補助金を使って全国平均で1リットルあたり170円程度に抑制する方針)」(朝日26年3月11日 21時09分)。野党・マスコミ相乗りの財源不明・補助金ばらまきの態で始末が悪い。マクロ経済の視点から政策を担った経済企画庁の存在が懐かしい。

またホルムズ海峡封鎖は、世界の20%の原油輸送に支障を来たす。各国とも原油価格急騰と問題の深刻さに慌てたのであろう。急遽IEA32カ国会議の合意で、備蓄放出となった(3月11日)。日本は、「首相「石油備蓄放出」16日にも、日本単独 エネ価格抑制 過去最大の45日分」(朝日26年3月12日)となった。今後とるべき対策との兼ね合いで、備蓄の意味、使い方、効果、使用時期に関する考察の中身は、曖昧である。これらの政府施策は適切だろうか。過去は、もう少し多様な視点の検討・模索もあった。


3、過去を振り返れば、やむを得ずだが適切だった

第一次オイルショック時(1973年度一次エネ石油依存77%、現在37%)は、今日よりも冷静さを欠き、当初国内に混乱をもたらした。もの不足不安で換物思想・買い占めが先行した。かつ便乗値上げによる物価上昇が顕著だった。

対策は、まず物価対応とエネ使用抑制だった。便乗値上げ監視、石油節約のためのガソリンスタンド休日閉鎖、エレベーター稼働台数削減、空調温度の規制、深夜テレビ放送自粛、広告ネオン停止、営業時間短縮規制等々があった。その過程で短期、中・長期の視点が登場した。

短期は、マクロで総需要抑制の縮小均衡調整だった。金融引締め、歳出を抑制した(予算執行一部停止)。価格効果活用(価格の受容・消費削減)を図り、エネ対策で省エネ・節電・使用規制を要請し、石油使用量の削減を図った。また生産性上昇がない下での賃上げ抑制で、スタグフレーションを回避した。

中・長期は、エネ対策で実用化段階の技術活用に注力した。公害対策可能石炭火力、LNG火力、原子力発電の拡大、産業面で、企業の省エネ投資奨励、エネ多消費型産業からの脱却(産業構造転換=企業の適応)などがあった。企業は雇用維持を図りながら新規事業も模索した。世界経済停滞・省エネ・代替エネ・石油開発があり、10年経て、原油価格は下落に転じた。日本経済のパフォーマンスも良好だった。


4、紆余曲折ありで油断再来

オイルショックに適応した日本経済は、その後紆余曲折を経た。築いてきた体制は、経済摩擦と経済政策の誤りでやや軟弱化した。経済摩擦、地球環境問題、東日本大震災への対応に問題があった。

現在地は、エネルギー危機対策で、一部有効なもの(石油備蓄、石油代替、再エネ)もあるが、他方中東紛争到来を忘却し、東日本大震災・福島原発事故で原子力発電放棄に走り、また公益事業体制破壊等で対応力を弱くしている。マクロ経済政策も不在となり、価格効果を無視し、エネ高騰対策で、有害無益なポピュリズム的バラマキが横行している。


5、今後の経済の動き~原油価格高騰の影響

ここで今回の事象継続が経済に与える影響を想定してみよう。日本の原油輸入量は、2024年度136百万kl(中東依存95.8%)である。この状況で、ホルムズ海峡封鎖で輸入減少(途絶)となれば、日本経済の活動はどうなるか。国内の生産活動は、入手原油量の水準となり、大幅な生産低下となる。石油・化学産業(産出額60兆円、付加価値額13兆円、従事者56万人)に直撃となる。そしてその製品不足が他の産業に波及する。備蓄放出でどこまで対応できるか。輸入量の減少は、生産・GDP水準低下を深刻にする。一時的に二桁台の落込み懸念もある。暫く耐乏生活である。

輸入量を確保出来ても、石油価格高騰が日本経済に与える影響がある。トランプ発言と投機筋の動きで、原油価格相場が乱高下する状況も困惑もするが。需給・思惑で原油価格が、例えば夫々100~150~180ドルに高騰し高止まりする場合である。輸入価格上昇で、企業物価上昇、消費者物価上昇となる。鉱物性燃料輸入額は、25年22.1兆円、内訳は原油9.6兆円(原油価格ドバイ68.35$/bbl、為替149円/$)、LNG5.7兆円、石炭3.3兆円(内一般炭1.9兆円)等である。目の子算なら、ショック前に比し燃料輸入増加額は、夫々10兆円、26兆円、36兆円増となる。海外への所得流出・国民負担額である。物価は、夫々1%、2%、3%強の上昇となろう。そのエネ価格上昇を吸収すれば、GDPは、夫々△2%、△4%、△6%程度の落込みを余儀なくされる。つまり今後ホルムズ海峡封鎖・油価上昇で、経済は縮小均衡調整となる。受忍は、やむを得ない。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2026年3月号)

未稼働の電力小売り登録事業者/FIT・FIP制度の見直し

Q 「供給実績あり」の電力小売り事業者が登録数の6~7割にとどまっている理由は。

A 電力小売り登録事業者のうち、一定数が「供給実績なし」にとどまっている現状については、業界の信頼や規律という観点から問題意識を持たれるのも自然だと思います。電力は社会インフラであり、小売りへの参入には相応の準備と覚悟が求められます。その前提は、電力自由化から10年を経た現在も変わっていません。

一方で、この数字の内訳を丁寧に見ていくと、必ずしも「軽率な参入」や「単純な失敗」だけでは説明しきれない側面もあります。小売り免許は、すぐに電気を売るためだけではなく、将来の事業機会を確保するための選択肢として取得されることがあります。燃料価格や卸市場価格、政策動向の不確実性が高まる中で、供給開始のタイミングを慎重に見極める判断は、リスク管理の観点から理解できる面もあります。

また、小売りを単独の収益源とせず、再生可能エネルギーやPPA(電力販売契約)、エネルギーマネジメント、脱炭素支援といった周辺事業と組み合わせて展開する企業も増えています。その場合、小売り免許は「電気を売るための機能」というより、顧客接点や制度参加のための基盤として位置付けられ、供給実績の多寡だけでは事業意図を十分に測れないこともあります。

もちろん、結果として供給に至っていない事業者が一定数存在する以上、参入の在り方や制度運用の適切さを検証していくことは重要です。その上で、「供給実績なし」という事実を単なる淘汰や失敗として片付けるのではなく、参入動機や事業設計の多様化という構造的な変化として捉え直すことが、今後の制度改善や参入の質の向上につながるのではないでしょうか。

回答者:江田健二/ラウル代表取締役


Q FIT・FIPで事業用太陽光が補助の対象外となります。業界・事業者への影響は。

A メガソーラー問題への対策の一環で、地上設置の事業用太陽光(10kW以上)については2027年度以降、FIT・FIP制度の支援対象外となることが調達価格等算定委員会にて決定されました。業界や事業者に与える影響はどうでしょうか。

まず対象から外れるのは新規案件で、26年度末までの既認定案件は影響を受けません。すなわち、既認定FITからFIPへの移行促進や卒FIT後を見越した事業集約の動きに変化はなく、また、住宅用はもちろん、事業用でも屋根設置は27年度以降も支援が継続しさらに国交省や自治体の支援策により導入拡大が加速する可能性が高いです。

さて、問題は新規の地上設置型太陽光への影響ですが、見方は二つに分かれます。一つは、そもそも事業用太陽光の新規FIT・FIP新規認定量は大きく減少しており、今後はPPAが拡大するので影響は限定的と見る向きです。もう一つは、自立に至っていない状況でFIT・FIP支援がなくなると、FIPを活用したPPAモデルまで案件組成が難しくなり影響は小さくないと見る向きです。筆者の見方は後者に近いですが、解決の道は業界を挙げて地域共生型にシフトすることです。

調達価格等算定委は、地上設置型へのFIT・FIP支援終了を決めた一方で、再エネ導入拡大の観点から、地域との共生が図られた形での導入を促進していくことは重要との意見で一致し、地域共生が期待される太陽光発電の類型などについて検討を進め、具体的な支援の在り方について来年度の委員会で検討・決定する方針が示されました。すなわち今後の検討次第では、地域共生型と認められる太陽光については、例外的にFIT・FIP制度の支援対象となる可能性が残されています。

回答者:増川武昭/太陽光発電協会事務局長

【佐々木 久之 鴨川市長】メガソーラーに 国の強い関与を

ささき・ひさゆき 1970年千葉県鴨川市出身。帝京大学経済学部卒業後、コスモ石油入社。鴨川青年会議所理事長、千葉県採石事業協同組合専務理事、鴨川市教育委員会委員長などを経て、2014年から鴨川市議会議員選挙で3期連続当選。25年の鴨川市長選挙で初当選した。

民間企業での勤務や青年会議所での活動を経て、市政に身を投じた。

市内でのメガソーラー計画に直面し、市長としての責務は重大だ。

千葉県鴨川市で生まれ育つ。実家は採石業やガソリンスタンドを営んでいた。優等生ではなく目立ちたがりで、遊ぶことばかりを考えているやんちゃな子どもだった。中学校ではバレーボール部に入部するも幽霊部員、高校は帰宅部だった。その後は帝京大学へ進学し、イベントサークルの部長として合宿や飲み会を企画するなど大学時代を謳歌した。

卒業後はコスモ石油に入社。東京や大阪で5年間、ガソリンスタンドの経営コンサルティングや市場調査に携わった。出世に燃える同期たちを横目に、「家業の継承という明確な目標を意識していたため、自分の役割を確実に果たし、実務能力を養うことに重きを置いていた」と振り返る。

26歳で鴨川に戻った。「家業の拠点は東京にもあったが、家族の都合で鴨川になった。本当は東京で暮らしたかった」と当時は複雑な思いを抱えていた。

政治との接点を持ったのは、地元の若手経営者などが加入する青年会議所(JC)での活動だった。青少年育成や街づくり事業にのめり込むようになり、38歳で理事長に就任した。「JCの活動で行政に働きかけても動きが鈍い。政治の重要性を痛感した」。その後、教育委員長などを歴任し、2014年に鴨川市議会議員に初当選。22年には議長に就任し、ハラスメント条例の制定や議会のオンライン化などを進めた。

昨年3月の鴨川市長選で初当選したが、直前には父が帰らぬ人となった。「出馬表明の直後に倒れて『こんな大事な時期になぜ……』と思うこともあったが、亡くなる直前まで私のことを心配してくれていた」。父に良い報告をしたいという決意で戦い抜き、勝利を収めた。


事業者が開発区域外の森林を伐採 地域と共生する姿勢が見られない

鴨川市が全国的に注目の的になっているのが、東京ドーム30個分、約146haの山林を切り開く国内最大規模のメガソーラー計画だ。14年に固定価格買い取り(FIT)制度の認定を受け、19年に千葉県から林地開発許可が下りた。

森林伐採による環境破壊や土砂災害リスクなどを理由に反対運動が起こったが、市が法的に開発許可を取り消すのは困難だ。そこで同年、事業体構成の明示や撤去費用の積み立て、工事の安全性確保など5項目の順守を求めた協定を事業者と締結した。ところが、事業者は協定について市の求める回答に至っておらず、市民全体を対象とした説明会の実施なども拒み続けている。市として本件に関連する話をしようとしても、「弁護士を通してくれ」と言われてしまう。市は昨年5月、千葉地裁に調停を申し立てた。

「再生可能エネルギーに関わる事業を否定するつもりはないが、今回のメガソーラー事業は環境への影響も大きいことから、安全性の確保を大前提に、地域と共生しながら進めていくことが重要だ」

25年に本格的な工事に着手したが、昨年10月、許可を得た開発区域外の約1・5haにわたり、残すべき森林が伐採されていることが確認された。県は工事の一時中止と森林の復旧措置、防災対策工事を実施するよう指導を行い、11月には熊谷俊人知事と佐々木氏がヘリコプターで現地を視察。最終的に伐採された森林面積は、約2・4haに及ぶと判明した。現在、事業者は防災対策工事に入っている。

「山が切り立った急峻な地形で、事業継続のリスクは大きいのではないか。復旧作業は『木を植えて終わり』では済まされない。採石業の経験から分かるが、植林しても根付かずに枯れてしまう木があるので、有識者会議を含めた県の判断になると思うが、一定期間はかかるだろう」

昨年10月に発足した高市早苗政権は、大型設備のFIT制度除外や環境影響評価(アセスメント)の対象拡大などメガソーラー規制強化を打ち出した。「これまでのメガソーラーは投資目的と思われるプロジェクトが散見された。電力のような公共性が極めて高い事業は国の強い関与が必要だ」とこうした動きを歓迎する。昨年5月には、宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)が施行され、事業計画の変更が見込まれる。

「県による新たな計画の審査と、誤って伐採した区域の回復、市との協定の順守が重要だ。仮に開発を諦めたとしても、すでに区域内で伐採した森林の原状回復を行ってもらう必要がある」

座右の銘は、ドイツの宰相ビスマルクの言葉として知られる「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。趣味は釣り。朝4時に起き、自宅前の海で釣り上げた魚が朝食だ。厳しい財政状況を転換させるべく、観光資源を生かした「稼ぐ行政」への転換が課題。佐々木市政の挑戦は始まったばかりだ。

【フォーラムアイ】九州電力グループ初の欧州拠点を開設 今後の海外展開支える足場を整備

【九州電力】

キューデン・インターナショナルは、英国法人を構え、洋上風力発電、廃棄物・処理発電事業に出資する。

海外拠点として、欧州のさらなる送電網関連事業や再エネなど新領域の開拓を目指す。

九電グループの海外エネルギー事業を担うキューデン・インターナショナルは、2024年12月に欧州初の拠点をロンドンに設立し、昨年8月、現地での本格的な活動を開始した。

背景には、同社の英国での事業展開の積み上げがある。「シーグリーンフェーズ1洋上風力発電所の海底送電事業」「ドガーバンクA洋上風力発電所の海底送電事業」、Viridor Energy(以下、Viridor社)への資本参画を通じた「廃棄物処理・発電事業」の3プロジェクトに出資する目途が立ち、英国を中心とした欧州地域での事業基盤強化のため、九電グループにとって欧州初となる英国法人を設立した。

英国法人の馬場京子法人長

企画本部の野田邦雄部長


九電グループらしさ大切に 高度な送電技術を生かす

洋上風力発電所の海底送電事業については、同社と九州電力送配電がタッグを組み、九電グループとして取り組んでいる。英国法人は5人体制で、1人は九州電力送配電からの出向社員だ。シーグリーンフェーズ1では、洋上・陸上変電所を含む海底送電設備の所有権を取得し、資産譲渡完了日から24年間にわたって設備の運用・保守を担当する。

ドガーバンクについては資産移管が完了していないものの、シーグリーンフェーズ1と同様、設備の所有権取得に向け交渉を進めている。20年に九州電力に入社後、キューデン・インターナショナルに出向している馬場京子法人長は、世界各国に展開する国内最大手のプラントエンジニアリング企業などでキャリアを築いてきた。

今回の二つの海底送電プロジェクトについて、馬場法人長は「真摯に取り組む姿勢、人の温かさといった九電グループらしさを大切にしていきたい。国内電気事業で70年以上の経験があり、海外で28件の電気事業に参画している高度な技術力は大きな強み」と語る。

同社企画本部の野田邦雄経営企画部長は「今回のプロジェクトで手掛ける海底送電設備の運用と保守から得られる経験は、今後日本で生かせる可能性がある」と話す。現在日本では、50年の脱炭素化達成に向け再生可能エネルギーの導入拡大やセキュリティ確保の観点から、海底送電ケーブルの増強や新設が相次いでいる。そこで、洋上風力先進国である欧州などの海底送電技術を活用する機運が高まっている。特に、長距離や大容量送電の実績に基づく知見は、日本の洋上風力や地域間連系線強化を加速させ、安定供給と脱炭素化を同時に実現するソリューションとして期待が集まる。

シーグリーンフェーズ1洋上風力発電所の洋上変電所


ビジョン実現に向けた挑戦 グローバル事業がCNの要

キューデン・インターナショナルが24年1月から出資しているViridor社は、英国全域に11カ所の廃棄物処理・発電プラントを保有し、同国最大級の事業者として長年にわたり確固たる地位を築いている。

ロンドンにある英国法人

同国の廃棄物処理・発電プラントが燃焼する廃棄物には化石由来燃料が含まれているため、作られる電気は完全にCO2フリーとはいえない。しかし途上国を中心に、廃棄物処理は埋め立てが主流である国も多く、メタン発酵による温室効果ガス発生が避けられないことから、馬場法人長は「完全にCO2フリーではないにしても、燃焼時に回収する熱の有効活用、不衛生な処理方法の解消、温室効果ガスの削減などメリットは大きく、社会的意義が大きいプロジェクトと捉えている」と話す。それに加えて、九電グループが有する国内の廃棄物発電の運用知見や国内外の火力発電所での経験を活用することができるため、優位性が発揮できる事業領域でもある。

また、同社は昨年2月、水素・アンモニア、再エネ、CCUS(CO2回収・貯蔵・利用)事業などの協業を検討する目的でドイツ企業と業務提携契約を締結した。こういった環境特化型の事業は日本より欧州で先行すると見込まれており、欧州の最先端で培われる知見や成功モデルを日本に還元することが求められている。

馬場法人長は「英国法人には新規プロジェクト開発のための情報収集という役割もある。今後は既存事業領域に加え、再エネ、陸上太陽光、陸上風力、蓄電池などの事業も機会があれば検討していきたい」と意気込む。

九電グループが掲げる「 カーボンニュートラルビジョン2050」は、カーボンニュートラルだけでなくカーボンマイナスの早期実現を掲げている。その達成には、今後成熟期を迎えるグローバル事業が要になるはずだ。九電グループの海外事業を担うキューデン・インターナショナルの海外拠点である英国法人には、同グループの「開拓者」として、日本からも海外からも熱い視線が注がれている。

【業界スクランブル・需要家】隠れエネルギー貧困の可能性も 実態把握を起点に議論深化

業界スクランブル・需要家

今冬も電気・都市ガス料金の負担軽減を目的として、政府による料金補助措置が実施されている。料金単価の引き下げは、短期的な家計支援として一定の効果を持つ。一方で、近年のインフレは生活全体の支出構造を押し上げており、消費者のエネルギー利用行動にも影響がありそうだ。

一般に、エネルギー価格の高騰などを背景に、主に低所得層が冷暖房や照明といった基本的なエネルギーサービスを十分に利用できない問題は、「エネルギー貧困」と呼ばれている。エネルギー貧困問題に先駆けて取り組む欧州では、2022年のエネルギー危機時、価格高騰への対応として暖房使用を極端に抑える行動が広がった。エネルギー貧困は年収に占める光熱費の割合などで把握されることが多いが、こうした行動の結果、統計上は定義から外れつつも、寒さや健康リスクを我慢する「隠れたエネルギー貧困」が顕在化した。

日本においても、インフレに伴う支出構造の変化により、光熱費の比率は変わらなくとも、食費などを優先する中で暖冷房が控えられ、定義上は見えにくいエネルギー貧困が生じる可能性がある。また、支援にあたっては該当世帯の特定が難しく、昨年夏の東京都の高齢者を対象としたエアコン設置補助のように、対象世帯を限定する手法の妥当性も問われる。

エネルギー貧困の問題とは、「誰が、エネルギー利用の何に困っているのか」――を丁寧に把握する問題だとも言える。日本ではこの問題が十分にクローズアップされていないからこそ、実態の把握を起点とした議論の深化が求められる。(K)

【業界スクランブル/再エネ】五島沖で洋上風力運開 強靭な事業基盤確立へ一歩踏み出すべき

業界スクランブル・再エネ

1月5日、わが国の再エネ史に刻まれる一歩が踏み出された。戸田建設ら6社が出資する「五島洋上ウィンドファーム」の商用運転開始である。計1・68万kWの規模で、国内第1号の商用浮体式プロジェクトだ。16年前からの「はえんかぜ」が長年荒波に耐え、結実したことは誠に頼もしい。また、北九州市響灘では出力9600kWの大型風車25基が稼働しており、洋上風力発電の社会実装は現実となった。

政府は2040年までに最大4500万kWという野心的な目標を掲げた。緊迫する国際情勢下、自給率向上と電源の分散化はエネルギー安全保障そのものだ。その意味でも4500万kWは、日本の未来のために実現すべき必達目標だ。しかし課題は山積している。国内風車企業の撤退で供給網が空洞化し、主要部材の海外依存と為替変動がコスト高を招いている。膨大な投資が単に海外製品を買うだけの「国富の流出」に終わっては何の意味もない。事業の観点から国内需要のみならず、将来はアジア全体を視野に入れた規模拡大が必要である。

今こそ日本は、洋上・陸上風力発電事業で「日本型」の支援モデルを確立すべきだ。事業者に過度なリスクを強いるのではなく、国・自治体・事業者がリスクを適切に分散・共有できる制度への転換を求める。EEZ法が開く世界6位の海域は、日本の新たな好機だ。日本には、風車基礎や精密部材の製造技術、さらには豊富な経験を核とし、官民で強力な供給網を築くことが不可欠だ。日本の環境に適した風車への挑戦やインフラの系統整備とともに、強靭な事業基盤へと進化する一歩を踏み出すべきだ。(F)

(了)

【業界スクランブル/原子力】原子力を強力に推進するNY州知事 問われる日本政府の役割

業界スクランブル 原子力

3サイトで4基合計330万kWが稼働する米ニューヨーク州の女性知事が1月、州内にさらに500万kWの原発を新規開発する方針を発表した。州営の電力公社が需給を監視し、既に誘致する自治体と対応する事業者を募集し、8自治体と23の事業者が関心を示しているとのことだ。知事は原子力人材確保のため、今後4年間に毎年60億円を資金提供するという。

さて、わが国はどうか。再稼働、最終処分場の立地など原子力に関わる重要な最終決定が実質的に知事に委ねられている現状に対し、選挙にさらされる地方自治体の首長にとって負担が大き過ぎるとの不満が聞こえる。逆に、国や事業者からの財政的支援や新幹線・道路などインフラ整備を要求して同意判断を延ばす実例も、枚挙にいとまがない。再稼働と引き換えに廃炉を要求するなど言語道断である。福島第一原発事故の本質と福島第二の必死の対応を評価せず、県内全原発の運転を停止させたことも後世から批判されるはずだ。

発電所は電力会社が運転するが、送電線は全国につながり、電気の性質上、発電した電気がどこで使われているかは意味を持たない。広域機関が地域供給網の適切な接続を監視し、不足が生じないように融通する。個別地域での支障が全国に影響しないように系統を切り離すこともある。

全ての産業と国民生活の基盤である安定供給の確保は、強く豊かな日本を目指す政府の役割である。経産省は「国が前面に出る」と言うが、地域への説明に役人が出張すれば済む話ではない。原子力の再稼働や立地を国が決められるよう、根本的に仕組みを見直すべきだ。(H)

【業界スクランブル/石油】イラン情勢緊迫化で原油価格は堅調気味に反転

【業界スクランブル/石油】

昨年末以降、需給緩和懸念から軟化していた原油価格が、堅調気味に反転した。主な要因は、核開発疑惑を巡るイラン・米国間の緊張激化である。米国は、イランへの圧力として、軍事力行使を否定せず、2月中旬に2隻目の空母打撃群をペルシャ湾に派遣した。

米国・イランの対立は、今に始まった話ではない。第二次世界大戦後、英国によるイランの石油支配に介入を図った米国によるモサデグ倒閣クーデタ(1953年)以来、友好関係にあったのは、パーレビ国王時代(53~79年)しかない。

親米政策下で独裁政策を進めたパーレビ国王を追放したシーア派宗教革命(79年)以降、イラン政府は、在テヘラン米国大使館占拠事件を含めて、常に反米打倒を掲げて国論を統一、国家経営を進めてきた。宗教指導者が政治指導者(大統領)に優位するという政教一致の復古体制の下、国民の不満を全て米国の責任に帰した。親米改革派の大統領も登場したが、反米保守派の宗教指導者に封じられた。

今回の対立も、米国の対イラン経済制裁に伴うインフレ・物価高に起因した反政府デモ弾圧が原因だ。しかし問題の本質は、平和利用を主張しながらも、高濃縮ウランを保有する核開発疑惑にある。2000年代初めには、北朝鮮と核・ミサイル共同開発を進め、米国に「悪の枢軸」と呼ばれた。ただ、イラク、シリアの前例を見れば、指導者が「核武装しなければ自国の存立は図れない」という認識でも不思議ではない。イスラエル・サウジなどの近隣宗教国家が、イランが核保有国となることをどう考えるか。今後の展開が気になる。(H)

【業界スクランブル・ガス】過去の被害教訓とし地震対策に終わりなし

【業界スクランブル/ガス】

3月11日、東日本大震災から15年を迎える。福島第一原発は地震と巨大津波により全電源を喪失。炉心溶融や水素爆発を引き起こし、対応は今なお続く。一方で忘れてはならいのは、この地震がライフライン全般に甚大な被害をもたらしたことだ。水道は約220万戸、電気は約870万戸、ガスは約46万戸で供給が停止した。

都市ガス事業者は、1995年の阪神・淡路大震災を契機に地震対策を継続的に強化してきた。対策は、被害を最小限に抑える「設備対策」、二次被害を防止する「緊急対策」、早期復旧を目指す「復旧対策」の三本柱である。

設備対策では、マイコンメーターや耐震性に優れたポリエチレン管の普及による地震対策を進めてきた。さらに東日本の津波被害を教訓とし、重要設備のかさ上げや水密化工事、漂流物対策などの津波対策を追加した。緊急対策では、被害の大きいエリアを中心に迅速にガス供給を遮断できる防災ブロックの細分化などに取り組む。復旧対策では、病院・避難所への臨時供給体制、全国の都市ガス事業者による応援体制を整備してきた。

地震の規模は異なるものの、これらの取り組みにより、熊本地震や大阪北部地震では復旧日数の短縮が見られた。ただ、地震対策に終わりはない。南海トラフ地震や首都直下地震の発生が懸念される中、スマートメーターの導入や情報発信の高度化などにも取り組む必要がある。これらはいずれも一朝一夕に実現できるものではなく、日々の地道な積み重ねが不可欠だ。インフラ事業を担う者として、安心・安全にエネルギーを供給する責任を改めて強く認識しなければならない。(Y)

【原子力の世紀】米露の新START失効で 核拡散時代に突入か

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

米露両国が結んでいた新STARTが2月5日、失効した。

核拡散時代突入への火ぶたが切って落とされてしまったのか。

米露両国が結んでいた新戦略兵器削減条約(新START)が2月5日、期限切れで失効した。後継の条約を結ぶ動きはなく、東西冷戦中の1972年に米ソ両国が戦略兵器削減条約を締結して以後、半世紀以上にわたり存在してきた両国核兵器に制限をかける条約がなくなった。

今後、世界は中国を含む3カ国による核軍拡競争や、これまで非核兵器国だった国々が核保有を模索する核拡散の時代に突入する可能性がある。

新STARTは米露が2010年に合意した条約。大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器の配備数を1550発以下とするなど、両国の核兵器に上限を設ける内容だった。

核を巡る世界は大転換を迎える
出所:ホワイトハウスのXから

期限が迫る中、プーチン露大統領は昨年9月、「米国が同様の精神で行動する」なら、条約失効後1年間は「主要な数量制限を順守する用意がある」と、条約の「1年間延長」を米国に呼びかけた。これに対しトランプ米大統領は、一度は「良い考えのように見える」と発言。だが、今年1月初旬には米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「期限が切れたら、それで終わりだ」と突き放した言い方に変わった。

米露は解体前の退役核兵器を含め約5000発ずつを保有するなど、世界の核兵器の約9割を保有する超核大国だ。だが、ロシアは国内総生産(GDP)で米国の10分の1、軍事費も6分の1に過ぎない。4年間続くウクライナとの戦争や、欧米諸国からの制裁で経済は疲弊しており、米国との核軍拡競争に乗り出す余裕はない。

また、旧型ICBMに代わる新型ICBM「サルマト」も実験失敗が相次ぐなど、目の前にある課題の克服に全力を注ぎたい意向もあり、費用が不要な新STARTの1年間延長を模索した。プーチン氏が口にしにくい本音を代弁するメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は、1年間延長という提案は「まだ生き続けている」と、条約失効直前まで訴え続けたが米国は動かなかった。


超大国のルール破り NPTの不平等性に反発も

条約失効を受け、米国は中国を含めた「新条約」を模索するが、中国は交渉に参加するそぶりすら見せず実現は見通せない。そうした中で、気がかりなのは、核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有を禁じられている非核兵器保有国の動きだ。

核兵器の世界で、規範的な役割を期待されてきた米露両国だったが、ロシアは核を使うと脅し始め、米国は核実験再開の考えに触れるなどルール破りが目立つ。中国も急ピッチで核増強を続ける。こうした行動に非核兵器国は反発している。

そもそもNPTは、米英仏中露の5カ国だけに核兵器保有を認め、それ以外の国には核保有を禁じる「不平等性」を持つ条約だ。その矛盾点に改めて焦点が当たりそうだ。ニューヨークの国連本部で4月末に始まるNPT再検討会議では、核兵器国への批判が噴出するのは確実だ。

超大国が自国の国益だけを優先し、身勝手な振る舞いを続ければ、第二次世界大戦以後、国際社会が苦労して築き上げてきた国際規範は、雪崩を打つように崩れ去る。自国を守るには核兵器の保有が必要と考える国が出てきてもおかしくない。

【リレーコラム】電力供給は国家戦略の鍵 守りを固め攻勢に転ずべし

北 康利/作家

本誌の読者には釈迦に説法だろうが、経営上、最も注意を払うべきリスクには2種類ある。一つは「頓死する」リスク、もう一つは「ゆでガエルになる」リスクだ。両方とも、見逃されがちである点で共通している。

前者に関して筆者は、ベンチャー企業の監査役などを依頼される際、特に資金繰りとコンプライアンスに留意することにしている。赤字で企業は倒産しない。資金繰りで倒産するのだ。それは急にやってくる。最近はSNSなどで拡散される風評被害や法令違反が怖い。これもまた頓死の原因となる。

エネルギー関連の大企業の場合、さすがに資金繰り倒産の可能性は低いだろうが、それでも最近、少しは留意が必要になってきている。残念なことだ。社債償還の集中は避け、赤字額が財務制限条項に抵触することのないように留意し、ゆめゆめクロスデフォルトなどにはならない注意が必要だ。

国家経営上も、財政赤字などは、さほど怖くない。国家財政の破綻は、外債発行をしているにもかかわらず、償還用の外貨調達ができなくて破綻するケースがほとんどだ。頓死の主因としては、エネルギー安保や食糧安保を気にするべきだろう。エネルギー業界としては、前者に責任を持つのは言うまでもない。


電力会社はソブリン債で 資金調達を

もう一つ、ゆでガエルになるリスクだが、いろいろ考えられる原因の中で最近、最も気になっているのがエネルギー関連企業の調達コストの問題だ。

ご存じの通り、電力会社は借金の塊と言える。金利上昇の局面で資金調達コストは上昇するが、電力料金の調整は遅行する。現在のわが国の金利上昇傾向は経営体力が大きく削られる局面だ。

どの国でも電力債は、国債と民間社債との中間に位置するが、わが国は、アメリカのようなエネルギー強国でも、ドイツやフランスのような一衣帯水のEUのメンバー国でもない。それであれば、韓国のように国家保証を付保したソブリン債にするべきだと考える。少なくともJRの新幹線の債務がかつてそうであったように、原子力発電所関連の債務はソブリンリスクで調達するべきだ。そうした根本的な調達コスト軽減の努力を今のうちにしておかないと、それこそ、ゆでガエルになってしまう。

この国はエネルギー敗戦を経験してきたが、次の時代では安定的で安価で大量な電力供給が、新産業を勃興させ海外投資をもたらす国家成長戦略の鍵だ。そのためにも守りを固め、攻勢に移らねばならない。

きた・やすとし 1960年12月24日生まれ。みずほ証券退職後、本格的に作家活動に入る。東京と名古屋で「一燈照隅の会」主宰。ラジオ大阪「北康利の歴史に学ぶ知のライブラリー」(毎週日曜午前8時30分~9時)放送中。

※次回は、ヘリカルフュージョンCEOの田口昴哉さんです。

【火力】震災から15年 流転の政策が翻弄

【業界スクランブル/火力】

東日本大震災から15年が経過した。震災以降の火力発電を取り巻く環境を振り返ると、その評価は大きく揺れ動いてきたことが分かる。

現在ではカーボンニュートラルの潮流の中で、特に石炭火力は減少の一途との印象が強いが、震災直後は全く異なる状況だった。全国の原子力発電所が停止し深刻な電力不足に陥る中、それを支えたのはミドル電源として運用されていたガス火力であるが、ガス消費の急増で、LNG価格はじわりと値上がり。電気料金を押し上げた。結果、相対的に安価な石炭火力の早期新設を求める機運が高まった。

電力全面自由化の議論と相まって、環境アセスメントが不要な中小石炭火力の建設計画が相次ぎ、メーカーも小型石炭火力に注力する動きが見られ、国も2014年の第4次エネルギー基本計画で、火力(特に高効率石炭火力)を重要なベースロード電源と位置付けている。

しかし、16年にCOPのパリ協定発効以降、状況は変わっていく。19年には環境省が事実上石炭火力の新設を認めない方針を示し、20年には経済産業省が非効率石炭火力のフェーズアウトを打ち出した。火力発電設備は、規模が大きいほど高性能で経済性も高いという特性を持つ。中小石炭火力は建設期間が短いという利点を持つ一方で、まさに非効率石炭火力である。10年足らずで政策が大転換したことは、事業者やメーカーにとって強い慎重姿勢を生む結果となった。

将来の情勢を見通すことは、ますます困難になるだろう。民間事業者は政治と行政がどこまでリスクを引き受ける覚悟があるのかを固唾を飲んで見守っている。(N)

【シン・メディア放談】歴史的勝利で勢いづく 高市政権の行く先は?

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

電撃解散の結末は与党の歴史的勝利だった。強力な与党復活でどうなる日本!?

―衆議院選挙は自民党の超圧勝に終わったが、なぜここまでの強風が吹いたのか。

A紙 選挙の推し活化は最近のトレンドで、前回の参院選では参政党、その前の衆院選では国民民主で、今回はその究極形だった。一方、120も議席を減らした旧立憲民主は負けるべくして負けた。野田佳彦氏は、昨年の首班指名選挙が勝負どころだったのに、手を打てなかった。

B紙 読売に解散をリークした時に勝負は決していた。推し活という意味では、中道改革連合代表が70歳前後の二人で、言い方は良くないが見劣りは否めない。さらに中道の演説にいたのは公明側だらけで、立憲側は何をしていたのか。ただ、公明がしんどいのはむしろこれから。創価学会は中道設立をOKしたが、今後イザコザが起きそうだ。

C紙 上層部に一般学会員が振り回される状況が当分続くのかも。立憲のピークは結党時だったね。希望の党に左派が排除され、謎の期待感があったが、対自民で虚像が膨らんだだけ。実は立憲が勝った選挙はなく、自民が大敗した昨年の参院選も現状維持に甘んじた。結局、コア支持層がそれほどいなかった。

A紙 それにしても、鉄の結束といわれる学会票はあまり機能しなかった。公明は一枚岩ではなかった。

C紙 そうかな。公明支持者の7~8割は今回中道に入れたとの分析がある。また「ランナーが3塁にいなければ点は入らない」なんて野球に例えた評もあったが、まさにその通りだ。一方、高市早苗首相は他党の悪口を言わず、現場も公明批判しないよう徹底していた。また、自民は都心部などの層にリーチさせる戦略を重視し、ユーチューブの広告では選挙区ごとの候補者がばんばん出てきた。

A紙 自民のうまさが光ったね。SNS戦略も、写真集のような政策集も、高市首相を全面に出して政策の話にさせなかった。

B紙 また、投票率が割と高く、期日前は過去最多に。リベラルの「投票率が上がれば自分達に有利」という主張は崩れ去った。


衝撃だった情勢調査 朝日のすごさ際立つ

―その他の党はどうか。

B紙 差別化に成功したのがチームみらい。デジタル化などの即時変化が期待され、多くの票が入った。あおりを食ったのが参政と国民だ。参政は踏ん張ったが、神谷宗幣代表は「SNSで目立っていない」と吐露し、これまで意識的に炎上させていたことがよく分かる。他方、国民の玉木雄一郎代表は株を下げた。ネット受けを意識しすぎ、着実に数を取りに行くための地道な努力をしていたのか疑問。今後野党をまとめ切れるのか。

そして、今回はあおりやフェイクが前回より目立たなかった。アルゴリズムの変化かも。だから、敗因の一つにSNSを挙げた安住淳氏はおろかだ。

C紙 それにしても、情勢調査の数字には恐怖すら覚えた。本来立憲に乗るべき数字が乗っていないし、公明支持者は調査に答えないとも聞き、本当にひっくり返されないのか、当日午後8時になるまで信じられなかったよ。特に1週間前に「自維で300議席超うかがう」と打った朝日は勇気がある。

B紙 朝日の調査はすごい。選挙区ごとに序盤から公開し、楽しませるコンテンツを提供した。本当かと思う区もあったが、結果はほとんど当たりだった。

A紙 ところで、日経は元々財政規律派だが、珍しく高市首相を痛烈に批判していた。また、首相の円安への認識に対し、みずほ銀行が出した「高市演説を受けて~危うい現状認識~」と題したレポートも話題に。それほど経済界やマーケットの危機感が大きいということだ。

―エネルギー的な注目エリアは何といっても新潟。前回立憲が全議席を取ったが、今回は自民が独占した。他方、福井2区は斉木武志氏が当選し、波紋を広げそうだ。

C紙 斉木氏が自民の追加公認を受けたが、地元は大反発している。ただ、これまでも同様のケースでは党籍を別の地域で預かり、いくつか選挙をガチンコでやって水に流す、といった手法を取ってきた。今回もあまり気にしなくてよいと思う。


「国論二分」への挑戦 ワンマンプレーの懸念

―数の力を得た高市首相は国論を二分する政策への挑戦を口にしている。

B紙 参院で単独過半数に達していない状況での憲法改正は信じがたい。本丸の9条改正は難しく、何を柱にするのか。

A紙 安保三文書の改定や、海外からは武器輸出の5類型の撤廃が期待されている。問題になりそうなのが、財界が求める労働規制の緩和。ワークライフバランス重視から逆戻りしかねず、少子化にも関わってくる。

B紙 前回見送った改正労基法案を年内どこかで提出するのか。一般への影響が大きい内容だ。そう考えると、憲法改正を言っている暇はないのでは?

C紙 今のところ2027年4月に統一地方選、28年夏に参院選が予定され、実はあまり時間がない。高市ファンに受けが良い政策議論を、選挙のカレンダーを引きながらどう進めていくのか、戦略を立てられる人材が安倍官邸と比べたら少ない。

A紙 高市首相は役人レクが入りにくいことで有名で、今後その傾向がさらに加速しそうだと役人が気にしている。さらに党内にも今まで以上に話を通さないようになることが危惧される。

―高市首相が仲良しの伊メローニ首相を見習い、現実路線も見据えてほしいものだ。

【ワールドワイド/コラム】北海の洋上風力拡大へ 国境超えた連系が焦点

国際政治とエネルギー問題

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシア産ガスの供給構造が不安定化し、需給危機から価格が急上昇した。これを機にEU各国は、ロシア産依存を減らすため洋上風力へ大きな期待をかけることになった。同年5月には、デンマークのイニシアチブにより港町エスビアウで第1回北海サミットが開催され、ベルギー・オーステッドでの第2回(23年4月)を経て今年1月26日に、10カ国の首脳・大臣のほかEU委員会、NATO(北大西洋条約機構)などの関係者が参加する第3回がドイツ・ハンブルクで開催された。

第3回の決議は「政府首脳のハンブルク声明」「エネルギー大臣のハンブルク声明」「環北海諸国、洋上風力産業、基幹系統運用者間での北海領域への洋上風力共同投資パッケージ」である。ホスト国のライヒェ経済大臣は、2国間での「相互連系される北海洋上風力グリッドの共同プロジェクト開発の共同声明」「北海再エネ・インフラ協力の共同声明」「北海とバルト海での洋上風力共同プロジェクトを含むエネルギーの戦略的なパートナーシップの共同声明」に署名した。

主要なテーマは洋上風力への投資案件の最適化、電力系統の国境を越えた計画と資金調達、重要インフラへの保護であった。環北海諸国は1億kWまでの風車をネットワーク化することに合意。なかでもデンマーク、スウェーデンの排他的な経済水域で建設される洋上風力が発電する電力を他国の系統へ連系できるとみられている。ただ実現するには、各国で相違する規制システムと基幹系統運用者の売り上げモデルが課題となる。さらに50年には、北海での設備容量を現在の3300万kWから3億kWへと拡大し、洋上風力を環北海諸国間でネットワーク化する計画だ。

英独間の新しい洋上風力連系「Griffin Link」の合意は、EU全体の電力ネットワーク強化と北海の大規模洋上風力拡大に向けた重要な一歩となった。30年代末の稼働を目指し電力供給を最適化するほか、欧州電力ネットワーク化への基礎を構築しようとしている。今後北海では、ハイブリッドで国境を越えた連系が焦点になり、これに基づく政策の枠組みが必要になるからである。

EU諸国のエネルギー大臣は、洋上風力保護への安全保障が変化した地政学的な状況に直面した中で強化されなければならないことを強調した。そのため初めて、NATOが参加したのである。EU委のヨルゲンセン・エネルギー委員、英国のミリバンド・エネルギー大臣、そしてライヒェ氏は、「風力は敗者であり化石燃料の活用」を主張するトランプ米大統領の判断を否定した。

ミリバンド氏は風力発電の拡充が英国のエネルギー安全保障に重要で、ガス輸入からも自立し電力コストを抑制できると強調。デンマークのオーステッド電力は、洋上風力産業は発電コストを40年までに30%削減することを義務付けられていることを指摘した。トランプ氏による風力嫌悪への一つの回答を与えたと見ていいだろう。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)

【ワールドワイド/コラム】対外威圧を強める中国と EVの経済的武器化

海外メディアを読む

1月29日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで、コラムニストが米・ニュージャージー州で中国製EVを2週間試乗した体験記事を寄せた。世界的スマホメーカーでもある小米(シャオミ)社製のSU7Maxがその対象車だ。記事はその性能を絶賛し、米国での販売を待望する、と言う。

優れた走行・自動運転性能以上に、家族での運転体験の楽しさが強調されている。統一OSによる情報・スマート機能の飛躍的統合、接続・操作の容易性、付加機能拡張の高い自由度によって、移動時間が「つぶす」から「楽しむ」ものに変わる。マイカーの提供する私的空間の質を一変させる革新性をこの記事は伝えている。

2020年以降、中国のEVシフトは燃費・新エネ車クレジット規制やナンバープレート優遇発行など、生産・消費両面での強力な政府介入の下、驚異的な速度で進む。無秩序的な過剰生産と値崩れを伴いつつも、しのぎを削る競争の中から自動車を、走る「やすらぎのマイ・デジタル空間」に変える技術革新が進行している。この点で、EVシフトは本物だ。

昨年、中国・国内新車(乗用車)販売に占めるEV(プラグイン含む)の割合は、ついに5割を超えた。おそらくHEVを含むガソリン乗用車の保有台数は既にピークに達し、今年以降に趨勢的に減少する。ガソリン需要の後退に伴い、過去4半世紀にわたった「中国主導の世界石油需要増」という局面は終わる。石油自給率向上を図る中国にとって、EV振興は石油安全保障上の最重要政策の一つだ。「楽しい」EVが対外威圧を強める権威主義国家の経済的「武器」でもある現実は、安全保障と経済的活力を不即不離とする思考力をわれわれに要求している。

(小山正篤/国際石油市場アナリスト)