【フォーラムアイ】エネ事業縮小に危機感 ニチガスがインフラ工事サービスに着手

【ニチガス】

 総合エネルギー事業者を目指すニチガスが、電力、都市ガス、LPガスの「全方位」販売にとどまらず、新たなサービス提供に乗り出している。

北関東で空調設備工事や給排水工事を手掛ける北斗管工を今年1月に完全子会社化したほか、生活関連サービスを担うニチガスホームアシスト社の事業を本格展開している。狙いについて土屋友紀専務執行役員はこう説明する。「エネルギー販売だけではシュリンクするため、新たな商材やサービス開拓が必要だ。北斗管工を仲間にしたことで、ガスに加え空調や水道を含めた工事を一手に担える。一方で水回りの配管洗浄や修理に困っているお客さまが数多くいることがわかった。そんな問い合わせ先の一社になりたい」

ユーザーの困りごとに対応する

北斗管工は1971年に栃木県で設立以来、北関東中心に地場の工事会社として実績を重ねてきた。このグループ化で、ニチガスグループの日本瓦斯工事が持つガス工事技術と融合させ、ガス・空調・電気・水道などの生活回りのインフラ工事を一手に提供できる。一方、配管洗浄などの生活関連サービスを担うのがニチガスホームアシストだ。

特に配管洗浄は価格の設定が難しく、見積金額と実際の工事金額との乖離から、消費者とのトラブルが絶えない。そこで同社が展開する配管の洗浄作業は、「5万円を超えるケースもある中、『一律3万8500円』とシンプルに設定している。作業時間も90分から120分程度で終わらせるようにしている」(同)。緒に就いたばかりだが、実績を聞きつけて最近では他のLPガス事業者から「当社のお客さまにも対応してほしい」との声が寄せられているそうだ。

顧客基盤の強化にも注力 LPガス難民を防ぐ

加えて、顧客基盤の強化にも注力する。昨年3月には、千葉・茨城で約3000件にLPガスを販売し、100年以上の歴史を持つ老舗の門倉商店を完全子会社化した。

電力、都市ガス、LPガスの全200万件の契約数を持つニチガスにとって3000件は小さな数字だ。とはいえ、配送員不足などの課題を抱え事業継続が困難だった販売店の事業を引き継ぐことは「LPガス難民」を生み出さないためにも意義がある。ニチガスが得意とする配送の「合理化プラットフォーム」に乗せることで業界の課題解決に結びつける。「事業基盤を固めるためにも、お客さまの数を増やしサービスを開拓する必要がある」と土屋氏は強調する。

【ビジネスリーダー】蓄電池の導入を加速するしろくま電力 連続起業家が挑むエネルギー構造転換

 谷本貫造/しろくま電力代表取締役社長

グリーン電力に特化したしろくま電力が、系統用蓄電池事業で存在感を高めている。

太陽光発電市場の拡大を読み、再エネの次なる価値を見据えた谷本氏の構想とは。

たにもと・かんぞう 会計事務所勤務後、ソフトウェア会社、家電メーカー、通信事業会社の経営を経て、2012年に日本メガソーラー整備事業(現GPSSホールディングス)を共同創業。16年にafterFITを創業し、24年にしろくま電力へ社名変更。

グリーン電力に特化したしろくま電力。2016年にafterFITとして創業し、24年に社名変更した。現在も、太陽光発電所の開発・運営から電力小売り、系統用蓄電池まで事業領域を拡大し成長を続けている。同社を率いるのは、システム、家電、通信といった全く異なる業界で複数の企業を立ち上げてきた「連続起業家」の谷本貫造社長だ。

24歳で初めて起業 家電や通信事業に挑戦

起業家としてのキャリアの原点は、24歳までさかのぼる。

会計事務所で勤務していたのだが、そこで中小企業が抱える経理や業務管理の非効率性に気付いた。独学で身に付けたプログラミング技術で、現場の課題を解決する業務システムを開発。これが、最初の起業のきっかけとなったのだ。

課題を見極め、仕組みに落とし込む能力は、その後の起業家人生の中でも生かされていく。2000年代には、ポータブルDVDプレーヤーの販売を始めた。10万円以上した競合製品の半額以下で売り出し、国内シェア2位、売上高18億円規模にまで成長させた。

だが、100億円の売り上げを目指すには市場規模の限界があった。さらなる可能性を追求するため、より社会ニーズが大きくマーケットの成長が見込める事業領域に挑戦しようと、光ファイバーを用いた通信事業などを手掛けたが、ここで大きな挫折を味わうことになった。

その後1年半は、思索のための期間だった。社会やお金の仕組み、世界経済の構造を徹底的に研究し、再起を図ろうと挑んだのがエネルギー事業だ。

ドイツをはじめ欧州では、2000年代初頭からFIT(固定価格買い取り)制度を通じた太陽光産業の育成を進めており、早くから「この流れはやがて日本にもやってくる」と、予測していた。そして11年3月11日の東日本大震災の発生をきっかけに、日本でもFITの導入が決定。「これから太陽光発電が普及する」―そう確信した。

再エネを化石燃料代替に グリッドパリティ実現へ

12年、最初に手掛けたのは北海道の空き地を活用した発電設備の建設工事だった。確かに高い利益を上げられる。だが、国民負担に照らして高過ぎる当時の買い取り価格には憤りも抱いていた。

だからこそ、自らが最も安く再生可能エネルギーをつくる存在になろうと考え、創業時から一貫して「グリッドパリティ」の達成を追い求めてきた。それは、再エネのコストを既存の電力系統(火力発電など)と同等かそれ以下に下げることを意味する。「太陽光のような不安定なエネルギーは、そのままでは価値を十分に発揮できない。蓄電池と組み合わせ、10円以下の安価で安定したエネルギーになって初めて、化石燃料を代替する存在になれる」と、早くから普及の鍵は蓄電池との併用だと見抜いていた。

その構想はすでに形になりつつある。国の「長期脱炭素電源オークション」では、23年度の初回オークションから高い競争率の中で複数案件を落札し続け、業界に存在感を示してきた。25年度の第3回入札では計5件を落札。これにより、30年度時点で、総容量累計1140万kW時(26年4月時点計画)の系統用蓄電システムを開発・展開することとなる。

この躍進を支える最大の強みは、発電から売電まで自社で完結させる「一気通貫」の体制と、それによって蓄積された圧倒的な「知識」にある。「外注せず自ら全ての工事を手掛けているからこそ、コストの実態が見える。不確実な部分があると、人はリスクを見込んで『バッファー(予備費)』を乗せるが、知識があれば、その不透明なコストを削ぎ落とせる」と言い、「系統用蓄電池に関して、日本で自分より詳しい人はいない」と自負する。

こうした知見を業界全体の課題解決に生かすべく、3月には7社による「蓄電池事業者協議会(BBA)」が発足。谷本氏が代表を務め、制度整備や安全、市場運営上の課題について政策提言を行う。

最大の武器は、既存の常識にとらわれない視点と、知識を徹底的に深掘りする姿勢にある。新しい分野は不確実性が大きいが、学び続けることでリスクを抑えることができる。「ベンチャーが大手に対抗するには、特定の分野を誰よりも深く追求することが重要だ」と考える。

創業から10年余り。「やっと0から1の位置にたどり着いた。ここからが本当の成長の始まりだ」と意気軒高だ。化石燃料への依存を減らし、国産の価値あるエネルギーをつくり出す―。連続起業家の挑戦は、日本のエネルギー転換の一翼を担おうとしている。

【多事争論】供給力確保と負担のバランスに懸念 制度の在り方見直しへの論点

【話題】長期脱炭素電源オークション

電源投資回収の長期的な予見性確保が引き続き課題だ。

これまで3回の約定結果を踏まえ、論点を整理する。

〈長期目線の社会厚生最大化へ 是正すべき課題とは〉

視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構 主席研究員

2025年度の長期脱炭素電源オークションが行われ、5月に約定結果が公表された。電力システム改革によって、kW時の電力卸取引市場であるスポット市場の重要性が増す中、設備費回収が不足しがちなミッシングマネー問題を解決すべく、kW取引の容量市場が導入された。しかし、容量市場も実需給4年前の応札であり、リードタイムが長い安定電源にとっては期間が短く、かつ毎年の応札となることから投資回収の予見性が高くない。とりわけ脱炭素電源は総じて設備費が高価なことが多く、さらに、商用運転実績が乏しい電源もあり、投資リスクが高いことから、23年度に総括原価方式的な同制度が導入された。

容量市場の一部である本制度では、そのコストが小売り負担、最終的には需要家負担となり、費用効率的な電源選択となる制度が求められる。そのため、募集量全体とともに、脱炭素火力枠、蓄電池・揚水枠、既設原発安全対策枠、暫定措置としてのLNG専焼火力枠を設け、各電源の特徴を踏まえ投資を促しつつ効率性も追求した制度としている。

他市場収益の90%還付が条件 投資側にとっては魅力欠く

しかし、スモールスタートしていた時期は過ぎつつあり、改めて効果と課題について考える必要がある。生産者余剰と消費者余剰の和である社会厚生最大化、そして長期目線での社会厚生最大化のため、是正すべき課題を述べたい。

例えばLNG専焼火力は、25年度の約定率は64%であった。この数字だけを見ると、投資を促すのに、ある程度、魅力的な市場との解釈もできる。しかし、他市場収益の90%還付が求められており、それが電源投資側にとって魅力的なのかは疑問が大きい。容量市場は毎年落札が決まるが、新規電源は40年程度稼働するため、その間の投資回収の予見性が低いことから、発電事業者や金融機関が、より確実な回収を見込める長期脱炭素電源市場の方が、相対的にまだ良いと判断して仕方なく入札していると見ることもできる。

水素、アンモニア、CCS(CO2の回収・貯留)などは、商用運転の実績がほとんどなく投資リスクが高いことから、90%還付の替わりに投資予見性を高める本制度が比較的適していると考えられるが、LNG専焼火力などでこの還付率が妥当なのか。さらに、事業報酬率の基準5%も、昨今の物価上昇局面を踏まえると低過ぎる可能性がある。建設リードタイムの違いに応じて、電源によって±1%の調整を行う措置も導入されてはいるものの、投資リスクとリターンの平仄が合っているかは引き続き検討が必要だ。

また、個別電源で見ると引き続き、蓄電池の応札が多い。蓄電池は変動性再生可能エネルギーが増大する中で重要であるが、揚水とのバランスが取れているのか、同じ役割、価値に対する価格競争となっているのかも、改めて考える必要がある。他方、原子力の新増設、リプレースのような、今後の安定供給と脱炭素化には避けて通れない案件だが、規模と政策リスクが大きい投資にとって、リスクとリターンのバランス上、適切な制度となっているかも課題として残っている。

長期脱炭素電源の拡大は重要である。しかしながら、脱炭素電源の他市場収益控除後の総額は過去3年平均の市場価格を用いると、25年度は年間3420億円と推計されており、大きな負担となってくる。気候変動をめぐる国際的な取り組みがまだら模様化してきている中、電力コストが上がり過ぎれば、産業競争力の後退、CO2の海外リーケージを生むという問題を認識しつつ、脱炭素電源の募集容量と上限価格を慎重に見極めていくことが求められる。

なお、本制度は、容量市場全体の制度設計や、高度化法、GX―ETS(排出量取引制度)など、その他の制度とも併せて、全体として在り方を考えることが極めて重要である。今の電源不足は、10~5年ほど前の政策が反映されたものであり、イナーシャがあることも認識する必要がある。過剰な手当は、逆に余剰の電源をかかえ電力コストを上昇させるリスクもあることを認識しつつ、適切なインセンティブを与えていくことが求められる。

あきもと・けいご 横国大工学研究科博士課程(後期)修了、博士。地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー・主席研究員。東京科学大学総合研究院特任教授兼務。エネルギー、気候変動政策関連の多数の政府審議会委員も務める。

【マーケットの潮流】WTI先物が原油調達価格指標に 米国産の輸入増が影響

栂野裕貴/日本総合研究所調査部研究員

テーマ:国際原油指標

イラン情勢の先行きが見通せず、原油価格は不安定な状態が続く。

国際原油指標の価格形成の特徴を踏まえ、今後の注目ポイントなどを解説する。

2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃を契機に、世界的に原油価格が乱高下している。「原油」と一言で言っても、産出地域によって性状(軽質か重質か、硫黄分の多さなど)が異なり、さまざまな油種があるものの、国際的に参照される指標としては、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物、北海ブレント原油先物、ドバイ原油―の三つが代表的である。こうした指標の価格は、世界の原油需給バランスによっておおむね決定される。たとえば、世界景気が好調であれば需要が強まり価格が上昇する一方、産油国が増産姿勢を強めると価格が下落する。原油は主に海上輸送によってグローバルに取引される財であるため、各指標の価格は基本的に連動する。

もっとも、各指標の価格差(スプレッド)が拡大することもある(図表)。この現象が生じる背景には、指標ごとの価格形成の違いがある。国際原油指標の価格形成を理解する上で、次の二つの軸から各指標の特徴を整理することが重要である。

国際原油指標の価格差
提供:日本経済新聞社のデータを基に日本総研作成

産出地域と取引形態で変動 需給や投機筋の動きを反映

第一に、原油が産出されたり、消費されたりする地域の違いである。WTI原油は、米国のテキサス州などで採掘される。主な市場は北米であり、米国内の陸上パイプラインで輸送される。そのため、米国内の需給バランスの影響を受けやすく、米エネルギー情報局が毎週公表する米国の在庫動向が材料視されて価格が変動することがある。

北海ブレント原油は、英国とノルウェーの沖合にある北海油田で産出される。主な市場は欧州であり、海上輸送によって欧州各国に届けられるため、価格が欧州の景気動向や国際的な海運市況の影響を受けやすい。ドバイ原油は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで採掘される。ドバイ原油の主な市場はアジアであり、中東から主に海上輸送されるため、中東産油国の生産動向に加えて、アジア諸国の経済状況や輸送時の要衝となるホルムズ海峡の動向などが価格形成に影響を及ぼす。

第二に、取引されるのが先物中心か現物中心かの違いである。WTI原油や北海ブレント原油は先物中心で、それぞれニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)やインターコンチネンタル取引所(ICE)傘下のICEフューチャーズ・ヨーロッパで取引される先物価格が指標となっている。一方、ドバイ原油は、大半が現物(スポット市場)で取引され、S&Pグローバル・プラッツが運営するシステム上で石油会社や商社などのトレーダーが相対取引を行い、価格が算定される。現物中心のドバイ原油の方が「利用される財」としての性質をより反映している一方、先物中心のWTI原油や北海ブレント原油の方が「金融商品」としての性質をより反映している。そのため、WTI原油や北海ブレント原油の先物価格は、原油需給だけでなく、投機筋の動きや他の金融商品(米ドルや株式など)のプライシングにも影響を受ける点が特徴である。

ホルムズ封鎖で大幅減産 現物への需要高まる

前述した各指標の違いを背景に、国際原油指標の価格が大きく乖離した事例として、コロナ禍の2020年4月とイラン軍事衝突直後の今年3月のケースが挙げられる。

まず、コロナ禍の事例では、世界的な景気後退を受けて原油需要が減少したことで、原油価格は総じて下落基調にあった。北海ブレント原油先物やドバイ原油の価格は20年4月20日に1バレル20ドル台まで下落する中、WTI原油先物価格は史上初のマイナス価格まで急落した。この背景として、WTI原油が米国内の陸上パイプラインで輸送される中、貯蔵容量がひっ迫していたという米国特有の要因と、貯蔵先を用意できない中で、先物を満期まで保有して現物の受取り義務が発生することを恐れた市場参加者が代金を支払ってでもWTI先物を売る必要に迫られたという先物取引に起因する要因の二つが挙げられる。

次に、イラン軍事衝突直後の事例では中東産油国からの供給が減少し、原油価格が総じて上昇基調にあった。WTI原油先物や北海ブレント原油先物の価格は今年3月19日に1バレル100ドル前後に上昇し、ドバイ原油は同170ドル弱まで急騰した。背景には、軍事衝突の激化やホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、サウジアラビアやUAEが大幅な減産を迫られたという中東特有の要因と、中東産原油の調達難に見舞われたアジア各国が、引き渡しが数カ月先になる先物ではなく、現物への需要を強めたことに起因する要因の二つがある。

今後、日本の事業者にとってWTI原油先物価格の重要性が相対的に高まる可能性がある。イラン軍事衝突前は原油輸入の9割以上を中東に依存しており、その価格はドバイ原油とオマーン原油の価格の平均値に中東産油国が決める調整金を加味する計算式で決定されていた。中東産原油の調達が困難化し、代替調達を進めており、とりわけ米国からの調達が急増している。日本が米国からの原油調達を増やすことになれば、WTI原油先物がそうした調達価格を形成するベンチマークになる可能性がある。原油の調達コストは、日本のエネルギー関連企業だけでなく、原油から精製される石油製品を用いる輸送業や化学産業にも影響を及ぼす。WTI原油先物は、実際の需給だけでなく、投機筋の動向やドル相場、株式市場の影響も受けるだけに、事業者は幅広い指標の動向を注視することが求められるだろう。

とがの・ゆうき 2021年に東京大学公共政策大学院を修了後、日本総合研究所入社。欧米経済の調査に従事した後、現在は原油市場・中東情勢・エネルギー政策の調査・分析を担当。

【渋谷正昭 小笠原村長】最終処分問題は他人事ではない

しぶや・まさあき 1957年東京都三鷹市生まれ。筑波大学第2学群農林学類卒業、同大大学院環境科学研究科修了。83年小笠原村役場入庁。産業観光課長、総務課長、副村長などを務め、2021年から現職。2期目。

本土で生まれたが、小笠原の海に魅せられ役場職員から村長になった

5月に始まった最終処分場建設を巡る文献調査への思いと決断の背景とは─。

東京都三鷹市生まれ。中学・高校時代は陸上部に所属し、キャプテンを務めた。卒業後は筑波大学に進学。部活やサークル選びの際は「陸上はもういい。大学でしかできないことをやってみたい」と考えていた。

そんな時、構内の調整池でダイビングサークルのデモンストレーションを目にした。「泳ぐのは嫌いではなかったので、やってみようと思った」。この何気ない決断が、小笠原村と縁もゆかりもない渋谷氏が村長となる遠因となった。

サークルは素潜りの練習から始まった。耳抜きが上手くいかず、鼻血を出したこともあった。それでも1年生の夏合宿が終わった頃から、楽しんで泳げるようになった。「中古車を持っていたので、伊豆半島や神奈川県真鶴町など関東で潜れる数少ないスポットにみんなで行った」。ここでもキャプテンとなり、沖縄合宿などを計画。小笠原村を初めて訪れたのは20歳の時で、美しい海と山、島民の温かさに魅了された。

筑波大では農林学類で公園計画を、同大学院では環境科学を専攻した。修了後は一年間、筑波で就職したものの、「地方の役場でまちづくりに携わりたい」という気持ちが高まった。すると、学生時代に行った小笠原の記憶が蘇ってきた。「小笠原村で暮らすのも悪くないか」と思い立ち、採用試験のために片道39時間以上かけて父島に向かった。合格し、25歳で小笠原村役場に入庁した。

主に企画や観光、産業振興の分野でキャリアを積んだ。母島で栽培されたサトウキビの糖蜜から造られる地酒「小笠原ラム」の復活に向けた会社を立ち上げ、ホエールウォッチングの普及に尽力。小笠原村の世界自然遺産登録の際にはパリでの国際会議に主席するなど、あらゆるプロジェクトの最前線に立ち続けた。6年間にわたる東京事務所の勤務では、村長や議員に随行して国会や都庁を回り、政治の動かし方を肌で学んだ。副村長を務めた後、2021年に前村長が亡くなり、村長選への出馬を決意。同年9月に初当選を果たし、現在2期目だ。

南鳥島に巨大施設の建設は可能か 今でも時間を見つけて素潜り

小笠原村の南鳥島では、5月に高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設プロセスの第一段階「文献調査」が始まった。北海道寿都町、神恵内村、佐賀県玄海町に続く4地点目の実施となったが、国が初めて調査の依頼から実施判断までを担った。

地層処分事業の存在は、副村長だった19年に知った。村長から「こういう話があるから、あとはお前に任せる」と言われた。村長就任後も水面下で話はあったが、新型コロナ禍の対応などで目まぐるしく月日は流れた。23年には静岡県の川勝平太知事(当時)が、全国知事会で南鳥島を候補地として提案したが、大きな議論にはならなかった。

ところが、昨年11月、国から調査実施を申し入れたいとの相談を受けた。「驚きはしなかったが、私の中で一度中断していた話だったので、村民や議員への村内周知はできていなかった」

原子力発電環境整備機構(NUMO)が開いた説明会などで、村民からさまざまな意見が上がった。全ての意見に耳を傾け、悩み抜いた上で「実施するか否かは、国の責任で決めるべき」との結論に至った。

「電気がない社会は考えられないし、社会の維持には原子力、火力、再生可能エネルギー、全てが必要だ。村では原子力由来の電気は使っていないが、最終処分問題は他人事ではないと考え、申し入れを受けようと思った」

今回の申し入れの対象は小笠原村だけだった。「できれば、ほかの地点も同時に申し入れてほしかった」としつつも、まずは「ほかの地域に申し入れができるように努力している」という国の言葉を信じた。一方、他地域で調査が実施されなければ、次のステップである概要調査に進むかどうかの意見表明は行わない。

「南鳥島は小さな島で、都心からは2000㎞もの距離がある。先日、北海道幌延町の幌延深地層研究センターを視察したが、最終処分場は地下300m以上の巨大な施設だ。建設コストは本土の土地より上がるだろうし、地上面積の小さい南鳥島に建てられるのか。文献調査はこうした疑問と向き合う期間にしたい」

南鳥島には、常駐する自衛隊員などの不在者投票事務で2度足を運んだ。どちらも1泊する予定だったが、天候の関係で1時間ほどの滞在で終わってしまったという。「海の中にポツンと浮かぶ緑色の島で、潜りたいと思った」

タンクを背負うスキューバダイビングこそ引退したが、68歳の今も時間を見つけて小笠原の海に潜っている。

【原子力の世紀】紙くずとなったブダペスト議定書 核放棄が招いたウクライナの悲劇

晴山 望/国際政治ジャーナリスト

米露などが3カ国の領土保全を誓ったブダペスト議定書は、ロシアの侵攻で無に帰した。

核抑止力なき国家の生き残りの難しさと、核拡散の危機に迫る。

核兵器を取り巻く世界が急激に変化している。核兵器保有や配備を望む国が相次ぐなど、核拡散の時代に突入した感がある。1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)が有名無実となる日が来るのか。過去の経緯も含め、核拡散の動向を追う。

核兵器を放棄したウクライナがロシアに侵攻されたのに続き、核兵器を保有していないイランが、米国、イスラエルに攻撃された。さらに、ロシアはウクライナに侵攻後、たびたび核兵器の使用をちらつかせている。トランプ米大統領も「一つの文明を終わらせる」と述べるなど、核兵器の使用を示唆するかのような発言をした。こうした核兵器国の横暴がまかり通れば、持たざる国はたまらない。

クリミア半島セバストポリのレーニン像

世界第3の核保有国 常任理事国による安全保証

核拡散を巡る物語は、ウクライナから始めたい。ソ連邦を構成していたウクライナには、かつて約4300発もの核兵器が配備されていた。ソ連が91年12月に崩壊する直前、旧ソ連から独立する諸国が一同に介し、戦術核兵器(小型核)をロシアに移送することを決めた。だが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など戦略核兵器の扱いは未定のままソ連は崩壊する。

ICBMなどの戦略核兵器は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの4共和国に配備されていた。ウクライナに1750発、カザフスタンには1400発配備しており、ウクライナは米露両国に次ぐ世界3位の核保有国だった。

ソ連崩壊で、世界唯一の超大国となった米国は「旧ソ連から三つの核保有国が生まれれば国際情勢が不安定化する。盗難などによる核拡散も心配だ」と、この3カ国に核兵器を放棄するよう圧力をかけた。

米国は冷戦終結により、核兵器を大幅に削減して財政負担を軽くする「平和の配当」を望んでいた。財政難のロシアも事情は同じだった。米ソ両国は91年7月、戦略兵器削減条約(START)に合意する。核兵器の配備数は、1万発から約6000発に減った。米国は、STARTの対象外だった戦術核兵器も削減した。潜水艦を含む艦船に配備していた核巡航ミサイル「トマホーク」を撤去、在韓米軍などへの核兵器配備をやめた。ロシアもそれにならった。

米露(ソ)両大国が核兵器削減に走る中、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの戦略核兵器をロシアに移送する構想も始まる。米露はこの3カ国を「非核兵器国」の立場でNPTに加入させることで一致し、3カ国の説得を続けた。

問題は、国防にあった。核兵器をロシアに移送すれば、軍隊の整備が十分とは言えない3カ国は「丸裸」の状態に陥る。3カ国は「見返り」を強く求めた。

要望に応えるため、94年12月にハンガリーの首都ブダペストで会議を開く。米露英仏中の核兵器国が、3カ国に「安全の保証」を与える文書にサインした。ブダペスト議定書と呼ばれる。

ただ、ロシア移送には紆余曲折もあった。94年7月に就任したばかりのベラルーシのルカシェンコ大統領は「移送は前任者時代のことだ」と主張し、ICBMの一部を残す道を探った。ウクライナは、チョルノービリ原発事故(86年)の鮮明な記憶があったこともあり、非核化を推進しようという動きがあった。一方で、ICBMを国内に残そうと主張する勢力もあった。

だが、3カ国に配備されていたICBMは、ソ連(ロシア)軍がすべてを管理、ウクライナやベラルーシなどの軍は基地に立ち入ることすらできなかった。発射権限もモスクワが握るなど、運用に関わる余地もなかった。

ブダペスト合意から約1年半後の96年6月、最後のICBMがウクライナからロシアに運ばれた。

【業界スクランブル/需要家】活用広がる次世代スマメ 日本の展望は

業界スクランブル/需要家】

日本においては、スマートメーターの設置は2010年代から全国的に進められており、20年代半ばまでにおおむね全世帯への導入が完了したとされている。これにより、従来の検針業務の効率化に加え、電力使用量の見える化といった基盤整備が進展した。

今後は、電力レジリエンスの強化や再生可能エネルギーの導入拡大、さらには脱炭素化の進展を背景として、次世代スマートメーターへの更新が段階的に進む見通しである。次世代スマートメーターは、高頻度なデータ取得や双方向通信機能の強化を通じて、需要側機器の柔軟な制御を可能とする基盤となることが期待されている。

一方、欧州に目を転じると、スマートメーターの普及は進展し、北欧諸国などでは既に高い普及率に達している。こうした国の一部では、電力卸売市場と連動した小売料金が導入され、価格変動に応じた需要調整を促す仕組みが整備されている。背景には、市場連動型料金の整備を求める制度的要請がある。

このような環境下では、市場価格に応じてEVの充電や家庭内設備の稼働を自動制御するサービスも一部で見られ始めており、再エネの有効活用を促す手段の一つとして注目されている。ただし、こうしたサービスは大きな負荷を持つ設備を有する需要家に限定される場合が多く、また生活スタイルとの不整合への懸念もあり、広範な普及には課題が残る。

今後、日本においては、こうした海外の動向を注視しつつ、制度や需要家の実態を踏まえた上で、慎重に議論を進めていくことが重要になるであろう。(K)

【業界スクランブル/再エネ】地域での構造的課題 価値還元が解決策に

業界スクランブル・再エネ

山林を切り開くメガソーラーや、低周波音への懸念が指摘される風力発電を巡り、近年、全国各地で住民の反発が相次いでいる。景観の変化や自然環境への影響などを背景に、再エネ開発を巡る地域との摩擦は深刻化している。環境省は環境アセスメント制度の運用強化、地域共生を重視した制度整備を進めているが、根本的な解決には至っていない。実際、地域脱炭素化促進事業制度に基づき市区町村が設定する再エネ促進区域についても、全国48市区町の促進地域のうち事業化に至った事例はわずか2件だ。

背景には、再エネ事業による利益や環境価値が地域に十分還元されていないという構造的な課題がある。まず、再エネの普及に大きく貢献したFIT制度下において、地域で発電された再エネ電力は全国の系統に流れ、地域で環境価値をカウントすることはできない。非FIT電源でも、発電事業者が域外企業である場合、環境価値は地域外へ流出していることになる。加えて、特に小規模自治体では専門人材が限られるため、事業者主導で合意形成が進められ、住民との認識のずれや不信感が生じる場合もある。立地に伴う負担を地域が引き受ける一方で、その恩恵を実感しにくい現状が、再エネへの反発を招く要因となっている。

こうした課題を打開するために、地域が環境価値を得る制度設計はもちろん、都道府県の役割が注目され始めている。昨年度には都道府県を核とした地域脱炭素施策づくりモデル事業が開始され、市区町村の枠を超えた地域特性を踏まえた適地選定や技術支援を通じて、再エネ導入と地域共生の両立を主導することが求められている。(K)

【コラム】「敗戦後81年、経済財政運営を考える~経済敗戦を反省し、自滅を回避しよう」

飯倉 穣/エコノミスト

1,景気判断と財政運営に違和感

敗戦記念日が近づいている。日本経済は停滞ながら史上最高水準の位置にある。敗戦時の姿を考えれば、夢のようである。この経済を近時の政権は巧みに運営しているだろうか。

現在の状況は、イラン戦争・石油供給不安ながら、「景気は緩やかに回復」(月例経済報告26年6月)。日銀短観(同調査)は、イラン問題を抱えながらAI牽引景気を示唆する。設備投資も堅調で、業況良しという判断である。そして資産価格は、株価7万円前後、路線価5年連続上昇(前年比2.9%増、日経7月1日)とバブル的様相である。

この景況感の下で「経済財政運営と改革の基本方針2026」の取り纏めがあった(7月21日)。強い経済の実現を目指して、責任ある積極財政で運営の見直しを図ると述べた。

そして「行き過ぎた緊縮志向」と「未来への投資不足」の流れを断ち切り、「国内投資」を徹底的にてこ入れし・・官民投資ロードマップ策定等で・・早期に、実質1%を上回る、名目3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げることを目指します」と総理発言もあった。

報道もあった。「「骨太」積極財政へ転換 投資強調「健全化」消える 閣議決定」(朝日7月22日)。「骨太、成長企業に補助金 国主導で競争力底上げ 閣議決定「財政健全化」文言なく」(日経同)。「経済成長「名目3%超」国内投資強化「骨太」閣議決定」(読売同)。

この景況感で、責任ある積極財政は必要だろうか。成長戦略で危機管理投資と成長投資が目指す強い経済の姿はどのようなものか。現施策は、過去30年間の苦い経験を克服出来るだろうか。強い経済を目指す政治家・官僚の選択肢と思考回路を考える。

2,強い経済とは何か~バランスこそ重要

一昔前なら、成長力、失業率、物価、貿易収支、国債利回り、公定歩合(政策金利)、財政収支等の各国比較で、自国経済の姿(経済パフォーマンス)を把握することが一般的だった。

バブル前の1984年は、成長率(80-84)3.2%、失業率2.7%、卸売物価0.0%・消費者物価2.2%、国際収支343億ドル、国債利回り6.81%、公定歩合5.0%だった。主要先進国比較で良好な姿を保ち、財政収支(公債依存率21.3%)のみ改善努力が必要という状態だった。GDP比債務残高は念頭に浮かばなかった。

バブル形成・崩壊後、構造改革ばやりの1990年代を過ぎた2000年、小泉改革後の2006年、アベノミクス後の2018年の数値は、成長率・財政指標等で劣化した。そして2024年の数値は、成長率(20-24)1.3%、失業率2.5%、企業物価2.3%、消費者物価1.7%、経常収支29.2兆円(貿易▲2.7兆円)、国債利回り1%、政策金利0.25%等だった。成長率で期待に達せず、財政状況(公債依存率実績見込30%)も、改善の兆しを見せず、公債残高は劣化の一途を辿っている。この経験から何を学ぶべきか。

3,官民投資不足とは何か~数値上は思い至らず

経済の流れから投資を考えると、政府投資と民間企業投資となる。過去日米貿易摩擦で米国要求や日本の内需拡大論者に貯蓄投資論があった。日本の貯蓄過剰が輸出増狙いの投資に偏重し、貿易黒字を増加させている。故に日本は、貯蓄を政策的に消費の増加、消費の拡大をもたらす民間投資や生活関連社会資本に向けるべきと言われた。その結果は、金融・財政出動でバブル生起・財政不健全化に至った。

今回の投資不足論は、企業の貯蓄(過剰か否かの判断は別として)を、17戦略分野の官民投資に誘導すべきという主張である。民間企業の投資水準は、過去(高度成長期20%超)と異なることは当然であるが、最近のGDP比17~18%は各国比較でもむしろ高い水準と言える。この現状に対し、政府は、財政出動で危機管理投資と成長投資を大胆かつ戦略的に進めるという。政府の認識が那辺にあるか理解しにくい。

(財政は投資超過状態)

財政との絡みでみるとむしろ投資超過の姿になる。経済は、生産、所得、支出の連続的流れである。生産で生まれた所得をどのように支出するか。多くは消費、そして設備投資、一部は税の納入=歳出となる。成長がなければ、循環的である。時に景気対策として経済水準維持に国債発行・歳出増を行う。成長(税収増)がなければ、次年度の水準維持にさらに国債発行・歳出増を余儀なくされる。これが累積債務の増大となる。この姿は、所謂投資超過の状況である。これを継続すれば、経済は下方圧力を続ける。つまり需給面からみれば、過大供給が継続する。需給バランス的には国債発行頼りの公的需要を抑制することが肝要である。現経済の現状をみれば、インフレ税収分を累積国債残高の削減に使うこと適切である。また法人税を引上げて少しでも財政均衡に寄与する努力も必要である。消費税減税に首を傾げる。 

4,民間企業設備投資とは~企業経営の判断次第

民間企業の投資は、夫々の経営判断である。多くは、現在の生産水準維持か拡大を目論む利潤投資反応的な設備投資である。そして技術革新が牽引する独立投資もある。企業経営を考えた場合、現在の投資水準が過剰なのか過小なのか経済財政諮問会議の委員がどのようにして判断できるか不明である。マクロ的な景気変動との絡みでは、前述のGDP比投資水準や投資の時系列的な増減動向をとらえたとしても、適正水準を示すに至らない。あくまで企業サイドの投資回収可能性の判断に委ねられる。その際薄利多売的な行動をとるか高利益重視の行動を取るかは、企業の判断次第である。

【リレーコラム】後回しできない「残存物」の課題 50年見過ごされてきた環境リスク

小島 舞/日本エネルギー経済研究所主任研究員

環境問題への意識の高まりを受けて、「脱石炭」に世界的な関心が集まっている。脱石炭は、石炭の消費(例えば火力発電や鉄鋼などでの需要)と生産(資源採取による供給)を減少させることが求められる。しかしながら「言うは易く行うは難し」ということわざ通り、実現は困難である。

日本では、1950年代以降に石炭採掘を段階的に縮小させ、その過程でさまざまな政策が打ち出された。こうした日本の石炭産業を合理化した経験は、これから脱石炭を進める国の指針となる一方で、石炭から発生する「残存物」が見過ごされている。

残存物は、石炭に付随したストックであり、筆者は山口県の大嶺炭田の事例から、現在でも複数の残存物が存在することを指摘した。特に重要な問題は、脱炭素を進める施策が、逆説的に、環境や人々の暮らしに悪影響を及ぼしている点だ。例えば、採掘に伴う地盤沈下や地下から湧き出る坑内水は、現在でも確認されており、今後の影響も未知数である。また、炭鉱跡地に設置された太陽光パネルは、住民の記憶を覆い隠すと同時に、地盤が軟弱な箇所が含まれ、災害への不安が助長される。

大嶺炭田は閉山から約50年経過しているものの、こうした残存物の存在は、脱石炭に向けた移行が長期的な視点で再考されるべきであることを示している。

脱石炭への移行は避けて通れず

石炭を燃焼させることによる二酸化炭素の排出量は、天然ガスの約2倍といわれており、脱石炭が推し進められてきた。日本が支援する公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)も取り組みの一つである。しかし、昨今の中東情勢の緊迫化から石炭回帰の動きが見られる。特にアジアでは、中東からのLNG輸入量が多く、石炭火力発電の再稼働や廃炉の時期を後ろ倒しにする国が出現している。ただ長期的には、脱石炭に向けた移行は避けては通れないだろう。

日本は石炭の生産/採掘を減らした一方で、他国から輸入することで消費を賄ってきた。現在、約1億6000万t消費される石炭(原料炭と一般炭の総計)の輸入比率は99・7%である。日本の石炭生産量が最大だった1940年の約5600万tよりも、多くの石炭が必要とされているのが現状だ。石炭を消費し続けることは、脱石炭社会の移行と同時に、残存物の課題を先延ばしすることを意味している。

脱石炭の道筋は難しく、共通の単一な方策はない。将来世代に向けた移行の在り方を考える上で、残存物の視点は重要であるだろう。

こじま・まい 茨城県出身。日系シンクタンク、外資系企業を経て、山口県の炭鉱研究をするために移住してスローライフを楽しみつつ博士課程を修了し、現在に至る。

※次回は、伊藤忠総研の北山未央さんです。

【業界スクランブル/火力】想定する電源像に偏り 蓄電池の正しい評価

【業界スクランブル/火力】

近年の容量市場・調整力市場で、蓄電池が高く評価されていることは必ずしも誤りではない。応答速度が速く、指令追従性が高く、系統運用者にとって扱いやすい電源であることは事実であり、短時間の需給調整や周波数制御で、一定の役割を果たしている。しかし問題は、その評価が「見かけの運用のしやすさ」に過度に依存し、系統を長期に安定させるために不可欠な要素が制度上ほとんど顧みられていない点にある。

蓄電池はエネルギー量に制約があり、長時間の需給ひっ迫に耐えることはできない。それにもかかわらず、短時間のΔkW性能ばかりが強調され、継続的な供給力については事業者の自己管理事項として外出しされている。

一方、火力発電は「応答が遅い電源」として調整力評価では不利に扱われているが、同期機としての慣性力や同期化力を通じ、系統事故初期の周波数安定にも無条件で寄与している。これらは指令型制御では代替できず、現状のインバータ電源が実用レベルで担えているとは言い難い。

さらに見過ごされがちなのは、蓄電池の充電原資だ。現行のエネルギーバランスにおいて、蓄電池は主に火力発電由来の電力で充電されており、市場価格を見ながらの、いわゆるアービトラージ運用では、再エネ余剰の受け皿として十分貢献しておらず、「脱炭素電源」との評価は看板倒れになりかねないのが実態だ。

制度は中立を装っているが、暗黙に想定している電源像は偏っている。短期的な操作性だけでなく、持続性・物理特性・エネルギー実体を含めた評価軸へと転換しなければ、系統運用のための底力は静かに削がれていく。(N)

【シン・メディア放談】高市政権が抱える根深い課題 積極財政の副作用

〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙

高市政権は「責任ある積極財政」に突き進むが、むしろ「無責任」との指摘が相次いで……。

―燃料油に加え夏の電力・ガス補助金が復活した。3兆円強の補正予算をどう評価するか。

A ガソリン補助金見直しの声が党内で上がる中、国会での審議時間は短く拙速だ。円安が止まらず、長期金利が上昇する中、経済は当面相当厳しい状況となる。中長期の視点で方策を示す政治家はいないのか。

B 高市早苗首相は党内の声に聞く耳を持たないし、カレンダーを踏まえた戦略が描けていない。だから衆院の議員定数削減や国旗損壊罪創設、皇室典範改正などをまだやっているし、夫婦別姓は秋以降になる。

C 中央公論7月号に「ガソリン補助金を撤廃しナフサを確保せよ」と題した今井尚哉内閣官房参与の原稿が載った。これは経産省が代弁してもらったということか。とにかく高市政権の経済政策は頼りない。ただし解散しない限り選挙はない。総裁選他候補や他党の中傷動画を巡る文春報道への説明も筋が悪いが、支持率は大きく下がらない。

―ただ、6月の時事通信の世論調査では支持率が政権発足後最低を更新。今後どう動くか。

C さらに共同通信が中傷動画を作成・拡散したとの当人の証言を報じた。代理人を務めるヤメ検弁護士が仕切ったとされ、共同が利用されたと言える。

―後に掲載写真の事実関係に疑義が生じ、写真を削除した。

C 他方、食品の消費税を2年間限定で1%とする案が浮上。首相は日経で「特例公債に頼らない」と明言していたが、理解不能だ。

B 中道改革連合などにつられてしまい、中道も責任を取るべきだ。好意的に見れば、本丸の給付付き税額控除の流れができたと言えなくもないが……。

A 市場が政権を見放していることが問題。公約とはいえ、これでは日本は八方ふさがりだ。

首相の会見姿勢の是非 反発しないメディア

―閣議後会見でナフサ目詰まりを巡る赤沢亮正経済産業相とエコノミスト記者のバトルが話題になった。

B 本当にナフサが不足しているかどうか、データを使い報じるべきだし、日経のカルビー担当記者は、白黒パッケージ問題で政府に何を言われたのか聞き出すべきだ。

C 一報、朝日はカルビー発表直後に官邸幹部が「売名行為」と批判したと報じた。これはヒットだった。

―首相が会見で質問を数問しか受けない姿勢も目立っている。

C ただ、最近の歴代首相もそんな感じだったと政治部の記者は言っている。質問者を選ぶのも前からだ。

B 高市首相は今年度当初予算成立の会見の頃から1~2問で終わるように。このぶら下がりのようなものを会見と認めてしまったのが良くない。ただ、そもそも閣僚や官房長官が随時会見しており、首相の会見にどれほど意味があるのか。ネタが欲しいなら直に電話なりすべきだ。

A でも5月大型連休中の豪州首相との共同会見は質問ゼロ。日本側が質問は受けないと譲らず、現地メディアから批判が出た。首相の体調問題によるとされているが、フリーやネット記者にしつこく突かれたくないのが本音のようだ。確かに目に余る記者はいるが、質問の機会を与えないというのは違う。

B パージは良くないが、一線を越えた記者を野放しにするのも良くない。メディアと政治がお互いに不信感を強めている。

A 会見の開催権は記者クラブにあり、そうした記者の扱いはメディア側が決めるべきだ。

C 今の世論であるネットが首相を支持している。中傷動画の説明が支離滅裂でも「週刊誌報道にいつまで国会の時間を費やすのか」との声が大きく、それをメディアも分かっている。首相はまさしくわれわれを「オールドメディア」として扱い、トランプ大統領に似てきたね。

B ただ、首長選で地味に負けている。9月の沖縄知事選で、辺野古沖転覆事故で逆風の玉城デニー知事に負けるようなことがあればダメージになる。

法廷録音問題に同情の声 情報管理が日本全体の課題

―大手電力では法廷の無断録音が相次いで明らかになった。

C 中部を皮切りに次々発覚した。この件には同情する。日本の法廷は取材対応含め公開性に欠けている。でもこれを機に見直そうとしないのが日本だ。

B 録音したい衝動にかられた記者は大勢いて、企業の法務部も同様だ。もちろんやってはならないが、守ることが合理的でない現状も問題だ。

A とはいえ、カルテルや浜岡の件も見れば中部のコンプライアンス意識は問題だし、電力だけでなくプルデンシャル生命保険なども同様だ。そうした不祥事の追及と分けて、法制度の問題は各紙が別途指摘すべきだ。

―他に気になったエネルギーニュースは?

C 九州電力送配電の顧客情報紛失は信用問題に関わる。

B 1000万人超の情報が入ったSSD(記憶装置)が所在不明で、パスワードをかけていなかった。外部の業者が持ち出した説などあり、続報次第だ。

C あまり報じられていないが、原子力規制庁のスマホ紛失も大きな問題だ。また、共同通信元記者が会社貸与のPCやスマホなどを紛失という件もあった。

A 日本全体で情報管理の緩さがある。防衛産業で稼ぎたいなら、情報管理のレベルを高める必要がある。今の状態では相手国は日本を信用できない。

―ミュトスショックも踏まえ、メディア含めて意識レベルを引き上げる必要がある。

【ワールドワイド/コラム】中国が「影の船団」を支援 未曾有の石油危機への一本道

海外メディアを読む

マレーシア・ジョホール州東方沖、EOPL(Eastern Outer Port Limits)と呼ばれる海域で、イラン産やロシア産などの「制裁原油」の積み替えが活発に行われている。5月27日付のウォールストリートジャーナル紙は、イラン産原油が「影の船団」によって同海域で中継され、中国に運ばれる様子を伝えている。

「受け渡し役」タンカーがイラン産原油を積載して同海域に向かい、「受け取り役」のタンカーに積み替えて主に中国東部・東北部に運ぶ。同海域はマレーシアの排他的経済水域内ながら領海外で、同国の取り締まりも限定的で、常時数十隻が集結。船名や船籍を頻繁に変え、自動識別装置を電源切断・偽操作して追跡を困難とし、同海域は「海上無法行為の震源地」と化している。現地では船舶燃料補給船なども行き来し、地元小型船による「行商」も活発という。

これらタンカーの所有企業は中国登記の場合が多く、乗組員の多くも中国出身で、高給での船員募集も公然と行われ、中国による「影の船団」支援の裾野は広い。4月13日に米軍は事実上の対イラン海上封鎖を敷いたが、既にその圏外に推定9000万バレルのイラン産原油が洋上備蓄されており、イランは10月まで石油収入を確保し得る、と記事は言う。

「影の船団」はイランのホルムズ海峡封鎖を支え、米国も打開策を見出せぬまま、対イラン海上封鎖を続けてきた。いわば「経済的核攻撃」の応酬であり、未曾有の石油危機への一本道だ。米・イランが戦闘終結の暫定合意をしても、海峡の持続的な開放につながる保証はない。米・中・露、いずれの「大国」も石油供給秩序を支えず、日本を含む他の石油輸入国がその秩序解体の中に取り残される。

小山 正篤(国際石油市場アナリスト)

【ワールドワイド/コラム】ベルギー・独で原発巡り議論 国有化や核融合推進の動きも

国際政治とエネルギー問題

今年2月、中東沿岸諸国での紛争でホルムズ海峡が封鎖され、原油、石油製品の輸送がストップし、世界的にエネルギー市場が混乱している。3月には原子力サミットがパリ近郊で開催。EU委員会・委員長は脱原子力の戦略的な誤りを指摘した。さらにEU委員会は4月、エネルギー戦略ペーパーで原子力発電に大きな役割を与え、小型炉と閉鎖原発・解体撤去の回避が化石燃料依存を減らすと発表。エネルギーが足りない中で、原子力発電の必要性を訴えている。

欧州のマスコミ紙は、ベルギー、ドイツでの原子力発電の話題を4月に相次いで報道した。ベルギー政府は原子力発電に復帰しようとし、原発の解体撤去が当面停止される。4月30日には、政府は運転会社のEngieベルギーと原発国有化に関する話し合いを行うと共同声明で発表。ベルギー首相は化石燃料の輸入依存の減少と国内のエネルギー供給の管理を望んでいると言われ、現政権は原子力発電への復帰を2025年の新政権発足時に発表していた。Engieベルギーは原子力発電から撤退し、再エネとフレキシビリティに経営を移す。政府と10月1日までに原発の政府管理への枠組みをまとめる意向だという。

ドイツでは23年4月に最後の原発3基が閉鎖され、解体撤去作業が進められている。与党CDUのシュパーン院内総務が26年4月のCDU/CSUイノベーションコングレスで、コスト上の理由から解体撤去中の原発再稼働の可能性を求め、大きな反響を呼んだ。メルツ首相は脱原子力が誤りだったと認めてはいるが、与党SPDに配慮し、脱原子力の修正はエネルギー問題の解決にはならないとの見解を発表した。こういった中、世論調査研究所が今年3月に実施したアンケートでは、53%は3基の閉鎖を‶完全に誤り″だったと回答。ドイツが利用すべき電源は、ソーラー、風力、水力、原子力、バイオマス、天然ガス、褐炭、石油の順であった。

ベルギーは脱原子力の立場だったが、右派の首相が解体撤去を中止し、原子力を拡充しようとしている。ドイツは00年以降、脱原子力政策を貫く。11年3月の福島事故で、当時のメルケル政権は22年末までの脱原子力を法律で規定し、これが今日まで適用されている。3基の原発を運転していた電力会社は廃炉作業を進め、基幹系統運用者も廃炉作業の中止を否定している。Ifo経済研究所(ミュンヘン)の副理事長は国内でドゥンケルフラウテ(曇天や無風)が発生すれば、ドイツは近隣諸国から電力を輸入でき、依存する可能性が高くなると警告した。

脱原子力が進む中、独スタートアップ企業のFocused Energyは廃炉中のRWEビブリス原発で、35年の運開をめどにレーザー核融合を目指している。同社はドイツ内外から2億4000万ドルを集めたと5月末に発表。RWEはレーザー以外に、磁場核融合のスタートアップ企業Proxima Fusion(ミュンヘン)にも出資している。

弘山 雅夫(エネルギー政策ウォッチャー)

【業界スクランブル/原子力】将来の建て替え目標 実現への環境整備を

【業界スクランブル/原子力】

経産省が公表した「原子力政策の方向性と行動指針」改訂案は、既設炉の建て替えのため2040年代に120万kW原発2~5基、50年代に11~14基が必要とした。具体的な目標は歓迎するが、この数値で足りるだろうか。

米国では運転中の原発94基のうち、ほぼ半数が80年運転に向けた手続きに入っている。わが国も80年運転とすれば、50年代を通じて36基3722万kWを維持できる。

エネルギー安全保障強化と脱炭素のために火力発電を抑制し、一方で再エネ賦課金が上昇する状況では、原子力の最大限活用しか自給率改善の現実的な手立てはない。福島第一原発事故時に設置許可申請中であった新設4基に、最近注目される美浜原発の増設を加えて5基は実現可能である。さらに過去に報道された新設計画が4基ある。14基にするには残り5基の立地点が必要だが、30年の時間的余裕がある。80年運転に新設14基を加えれば、5600万kWとなり、需要の約3割を原子力で賄える。

電力自由化と原子力規制の強化という矛盾した組み合わせの導入が多数の廃炉を招いた。新規建設を支える事業環境整備が重要で、広域機関による長期脱炭素電源オークションと財政投融資だけでは足りない。資金調達への債務保証、運転開始前の固定費回収支援を導入すべきである。

わが国の電力需要の3分の1を供給する東電が原子力事業を大規模に復活できないことも将来への懸念で、事故賠償清算と廃炉負担の解決が必要だ。40年遅れで米国を真似る二段階審査は、規制庁による審査の本質的な改善になるか甚だ疑問であり、他の手法も検討すべきである。(H)