【地域エネルギー最前線】 富山県 富山市
コンパクトシティやSDGsなどのモデル都市としてさまざまな実績を発信してきた。
現在進めるゼロカーボン政策では、他分野との間でどう横串を刺すかが課題だ。
「環境モデル都市」や「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」などに選定されてきた富山市では、これまでさまざまな先進的取り組みを実行してきた。中でも富山と聞いてまず思い浮かぶのが「コンパクトシティ」構想だ。
市では少子高齢化時代を見据え、人口約42万人の中核都市での持続可能なまちづくりビジョンとして、路面電車(LRT)などの公共交通を活性化させ、その沿線に都市機能を集積させる政策を推進。公共交通を「串」、公共交通で結ばれた都市圏を「お団子」に見立てた「お団子と串の都市構造」確立を目指してきた。
現在は従前のコンパクトシティによる成果を、中山間地域をはじめとする郊外部にも行き渡らせるべく、デジタル技術の活用を主軸とした「スマートシティ」政策へと深化させている段階だ。
また別途、環境・エネルギー分野の取り組みで培った成果もある。市と日本海ガスや北陸電力、大和ハウス工業などが連携した「セーフ&環境スマートモデル街区整備事業」では、公共交通沿線に、街区全体のネットゼロエネルギーやエネルギーレジリエンス(強靱化)を意識したモデル街区を整備した。電線の地中化や、公共施設には環境配慮とレジリエンスに資するさまざまなエネルギーシステムを導入。そして住宅エリアでは、全戸に太陽電池(PV)、リチウムイオン蓄電池、家庭用燃料電池(エネファーム)の3電池搭載などに取り組んだ。公共交通沿線での、環境に配慮した質の高い居住空間のモデルとして、普及啓発の拠点の一つとなっている。
市は「こうしたモデル事業のほかへの波及効果を目指している」(環境政策課)と説明する。
まずは自治体主導で 自家消費型再エネ拡大へ
現在、市は「ゼロカーボンシティ」の実現に向けた取り組みを政策の重点テーマの一つに掲げている。政府目標と歩調を合わせ、温暖化ガス削減の国別目標(NDC、30年度13年度比46%減)や50年実質ゼロと同水準の目標を掲げ、再生可能エネルギー導入量は30年度に21年度末の2倍、50年度に5倍を目指す。そこに至るための手段の一つとして、太陽光を中心に官民施設への導入拡大を進めているところだ。
市は、環境省の地域脱炭素政策に関する交付金のうち「重点対策加速化事業」に選定されている。同事業は、環境省が望ましい取り組みとして示した複数を組み合わせた意欲的な計画を支援するもので、前述の通りNDCの水準に合致した計画で認定を受けた。
30年度までの民生電化需要のカーボンニュートラルを目指す「脱炭素先行地域」に比べ、対象となるエリアが限定されず、市域全体で行う個別の事業に活用できる点がメリットである。ただ、先行地域と同様、事業の実施に向けてはエネルギー事業者や民間企業などとの連携は欠かせない。「エネルギー事業者などと連携し、自治体主導の対策で着実に再エネ導入目標に近づけていきたい」(同)という。
まずは一般家庭向けのPVと蓄電池をセットにした自家消費型システムの設置費用を助成し、今夏に受付を開始。今年度は最大75万円で25件分の予算を確保している。加えて、中小企業の脱炭素を支援するセミナーで身近な取り組みなどを紹介し、意識向上を促す。
来年度からは、自家消費型PVへの助成を継続・拡充するとともに、PPA(電力購入契約)によるPV利用を公共施設や市有地などで展開する計画だ。「市民や民間企業がコストの大きさで再エネ導入に二の足を踏まないよう、さまざまな手法を用意し横展開を加速させたい」(同)と狙いを語る。太陽光のほか、小水力やバイオマスエネルギーの利活用に向けた展開にも注力する。
併せて市域でのEVやFCV(燃料電池車)の普及展開にも取り組む。50年の温暖化ガスの実質ゼロに向けて市が示すイメージでは、前述の再エネの導入拡大・活用推進により約35%の削減を、さらに省エネの深掘りにより約39%の削減を見込む。
その先の残り26%程度削減に向けては、エネルギービジネスの活性化や、ステークホルダーとの協働による事業推進が欠かせない。前者では、自立分散型エネルギーシステムの利活用、グリーンファイナンス、再エネの地産地消などを推進。後者ではエネルギープロジェクト推進基盤の拡大、それを担う人材育成、県内でのエネルギー広域連携の検討などを視野に入れる。
既存政策との連携 インフラをどう生かすか
ゼロカーボンへのビジョンを示したものの、具体化に向けた課題はいくつかある。特に、これまでの実績の活用は重要な視点だ。例えばコンパクトシティでは、LRT沿線の地価が上昇し、目標とする都市構造の確立がやや停滞するといった側面もあるようだ。ただ、当初から沿線の地価上昇は織り込み済みで、むしろ税収を確保し、それを他地域に還流する方針を掲げていた。まさに現在、この効果波及を実現すべく、スマートシティへの深化を図っているところだ。
他方、コンパクトシティ政策の柱である公共交通の維持・活性化による生活の質の向上の副次的効果としてガソリン使用量減少などは見込めるものの、「ゼロカーボンを目指したまちづくりや、政策のリンクにまでは至っていない」(同)。ゼロカーボンを持続可能な形とするには、「全ての事業にゼロカーボンの視点・考えを取り入れることが重要であり、さまざまな政策をどうリンクさせるか、そして官民連携の在り方が大きな課題になる」(同)と捉えている。
整備してきたインフラや先進的システムを、ゼロカーボン推進においていかに使いこなすか。今後の新たな富山モデルの発信を待ちたい。