停電が常態化したアフリカ有数の豊かな国


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

南アフリカでは昨年から計画停電が深刻化しているという。1日の停電時間は最大で12時間に及ぶとのこと。南アと言えば、金やダイヤモンドなど、豊富な鉱物資源を産するアフリカ大陸有数の豊かな国、しかも世界有数の石炭輸出国である。そんな国で、なぜこれほどまでに電力事情が悪化したのか。

米ブルームバーグ誌によると、ズマ前大統領(2009~2018)時代に、国営電力会社エスコムは誤った政策決定や、同社への政治介入に悩まされたようだ。07年以降、同社のトップは14人を数える(ほぼ毎年トップが交代!)という事実がそれを象徴している。同社幹部によれば、原価に見合う料金設定が許されなかったとのこと。そのため、老朽化の進む送配電設備や発電設備の補修や改良にお金が回らなかったようだ。

停電は、もともと自国の石炭を燃料とする安定・安価な電力供給に依存してきた同国経済や国民生活に大きな影を落としている。水道も止まり、食べ物は冷蔵庫に入れられず、医療機器も使えない状況のもと、国民の健康や衛生も脅かされている。

国は停電解消に向け、必要な送配電網の修繕・改良に向けたエスコムへの資金援助や、発電に参入する民間事業者に対する許認可手続きの免除などの施策を打つ。しかしながら、老朽設備の補修や新規設備の建設は1年や2年で進むものではない。

料金、原子力、気候変動など、電力政策はどこの社会でも政策の目玉となりやすい。そして、いかなる失政も、もとは「改革」という美名のもとで始まるものだ。電力インフラの建設・維持は、極めて地味

な作業を、長期にわたり計画的に積み上げていく取り組みだ。一時の熱気で土台を崩してしまうと取り返しのつかないことになるということだろう。

【電力】秋本議員問題を契機に 再エネ議論の正常化を


【業界スクランブル/電力】

自民党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の事務局長である秋本真利衆議院議員に対して、日本風力開発から不透明な資金提供があり、東京地検特捜部が、洋上風力発電事業などを巡る収賄・贈賄容疑の適用を視野に捜査を進めている。流れた資金は現時点の報道では約6000万円とのこと。

洋上風力の開発・運営権を巡る入札は、第1回で三菱商事が全海域で圧勝するや、第2回入札は既に公募が始まっていたのに中断され、ばたばたとルール変更という異例の展開をたどった。こんな力業を当選4回の政務官クラスの議員が独力でできるとは考えにくいが、早々に外務政務官を辞任させ、離党もさせた政府・自民党の逃げ足が速い。再エネ議連所属の現閣僚や閣僚経験者のコメントが聞きたいところだが、マスコミや野党の反応が鈍いのは何を示すか。

唯一発言しているのは、日風開の寄付講座で特任教授のポストを得ている同社関係者で、経済誌のインタビューに「秋本議員の働きかけによって、公募ルールが事業者に有利になるようにねじ曲げられたという事実はない」と断言している。こちらは逆にしゃべりすぎじゃないかと他人事ながら心配になる。

同寄付講座では、第1回入札以降、異様な三菱商事たたきと自社がより落札者に相応しいとする言説が大々的に展開され、再エネ議連にも食い込んでいたようだが、筆者には大学教授の肩書でカモフラージュしたアジテーションにしか見えなかった。これに限らず同寄付講座発の一知半解な言説が、再エネ議連周辺で妙に重用されていた弊害はそれなりにある。

京都大学は結果的にこうした扇動の片棒を担いでしまっていないか。大学の信頼に関わるとの意見もSNS上で見られたが、むべなるかなだ。(V)

化石燃料で意見割れるG20 次なる戦いはCOP28へ


【ワールドワイド/環境】

7月22日、インドのゴアで開催されたG20エネルギー移行大臣会合は、化石燃料の低減などで合意が得られないまま閉幕した。2022年に続き、2年連続の合意失敗となる。

脱炭素に向けたエネルギー移行の在り方につき、各国で異なるエネルギー事情や産業構造を踏まえ「多様な道筋」を認めること、水素、アンモニア、太陽光、風力など再生可能エネルギー技術のイノベーションを進めること、クリーンエネルギー拡大に伴う重要鉱物の供給安全保障の重要性などは合意できた。他方、議論が紛糾したのは化石燃料の位置付けだ。議長サマリーには「化石燃料が世界のエネルギーミックス、貧困撲滅、増大するエネルギー需要を満たすうえで引き続き重要な役割を果たしていることから『いくつかの国々』は各国の異なる状況に応じて排出削減対策を講じていない化石燃料のフェーズダウンに向けた努力をすることの重要性を強調した。他方『他の国々』は緩和・除去技術がこうした懸念に応えられるという点について異なる見解を有している」とある。

ここ数年、1.5℃、50年カーボンニュートラルを絶対視し、化石燃料を排除する環境原理主義的な議論が欧米先進国やCOPの場で高まっている。G7広島サミットにおいて「遅くとも 50年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロエミッションを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速する。他国に対して同様の行動を取ることを要請する」との文言が盛り込まれたのはその一環である。一方で、資源国や経済成長のために化石燃料を必要とする新興国・途上国は化石燃料フェーズアウト論を受け入れていない。サウジアラビア、ロシアなどは「自分たちが目指すのは排出削減であり、化石燃料フェーズアウトが所与の目的ではない」と主張。中国、ブラジル、南ア、インドネシアなども同調している。

G20の議論は12月のCOP28の前哨戦である。議長国UAEは①30年までに再エネ設備容量を3倍、②30年までにエネルギー効率を2倍、③30年までにクリーン水素を2倍、④排出削減対策を講じていない化石燃料火力のフェーズダウン―というグローバル目標の合意を目指すが、G20の議論を見る限り、少なくとも④については議論が紛糾するだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

米テキサスのエネルギー事情 大手電力NRG社の事業転換


【ワールドワイド/経営】

米国テキサス州を本拠地とするNRGエナジー(NRG社)は国内に天然ガス火力、石炭火力など国内に約1300万kWの発電設備を有し、国内550万件の顧客に電力・ガスを供給している大手の電気事業者である。同社は2020年、脱炭素化に向けて老朽火力の閉鎖を進める目標(50年ネットゼロ)を決定し、発電事業から再エネPPA事業、事業用DR(デマンドレスポンス)、家庭用需要家向けDR事業に注力する姿勢を示している。

22年12月には、エネルギーサービス事業への転換を目指すことを明らかにし、米国内190万人以上の顧客にスマートホームサービスを提供しているVivint社の買収計画を明らかにした。Vivint社はホームセキュリティサービスを基盤に、スマート照明や高機能サーモスタットなどのエネルギー関連サービスで事業を拡大してきた。NRG社のグティエレスCEOはVivint社のプラットフォームを活用し、家庭用需要家向けのグリーン電力や蓄電池、EVなどとの連携を目指すと説明した。

しかし、NRG社の経済的持ち分13%以上を保有するヘッジファンドのエリオット・マネジメントは23年5月、Vivint社の買収計画発表以降、NRG社の株価が20%近く下落するなど財務不振を招いているとし、買収計画の見直しを求めた。また、21~22年にテキサス州の厳寒気象時に生じた発電設備の計画外停止によって経営陣が信頼を失っていると指摘し、取締役会の刷新と5億ドルのコスト削減を要求した。

NRG社はこれを受け、CFOの交代や原子力発電資産の売却などを進め、23年6月の投資家向け説明会では、新たに25年までに1・5億ドルのコスト削減の実施と取締役会を刷新する方針を示した。資本配分についても資本還元率80%に修正し、25年までに少なくとも27億ドルの自社株買いを実施してキャッシュフロー見込みを2倍以上に引き上げたため、株価は3%上昇した。

NRG社の事業戦略の転換について、投資家やアナリストは、同社が想定するエネルギーサービス事業の平均成長率30%達成には懐疑的とする一方、新たなエリアへ資本を投入することで成長を可能にし、既存の関係を活用することにメリットがあると分析している。発電事業から電化とスマート技術の融合が生み出す新たな価値に成長機会を見出し、発電事業から小売り、エネルギーサービス事業へシフトするNRG社。今後の動向が注視される。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

鉱区発見で沸くナミビア 新たな資源大国となるか


【ワールドワイド/資源】

ナミビアは過去、沖合鉱区において南部および西部アフリカや地質相関性のある南米ブラジル・ガイアナでの油ガス田の発見を受け、注目を集めていた。同国では110億バレル以上の石油と2.2兆立方フィートのガスが存在すると推定されているものの、現在までに石油・天然ガスは生産されていない。

しかし、2022年2月4日に英シェルがOrange堆積盆地に位置するエリア(PEL39)において「Graff」を、わずか20日後の2月24日に仏トタルエナジーズが同堆積盆地内エリア(PEL56)において「Venus」を発見したことで、同国の有望な鉱区に対する期待が高まった。当該発表後もシェルが同鉱区内において「La-Rona」「Jonker」「Lesedi」の発見を発表するなど、業界の注目を集めている。なお、現在までにこれらの鉱区発見による公式な埋蔵量は発表されていないが、ナミビアは30年までにアフリカ最大の炭化水素生産国になる可能性があるとさえ報じられている。

このように短期間で複数かつ巨大な発見がなされたことに加えて、良好な石油契約が同国に注目が集まる理由の一つである。特に財務条件は世界の中でも非常に良好で、現状の政府の平均取り分は50~65%とされている。

ナミビアは独立前の1927年から探鉱開発を始めるも、実情と照らし合わせて石油・天然ガス産業の後発国であることから、他国での事例をもとに魅力的な財務条件・投資環境を構築できる状況にある。

今後、特に財務条件においては国内の政治的・経済的要請と国際競争力の均衡を保つことができるか。環境保全の要請に沿った投資環境を整備できるかが、同国を新たな資源大国たらしめるかを左右すると考えられる。

また、ナミビアでは中小独立系が有望鉱区を探鉱、その成果をメジャーズに売り込み、メジャーズがオペレーターとなった場合、中小独立系はマイナーシェアを維持または全権益を売却するモデルが多く存在する。今回発見のあったOrange盆地、またはその付近においてはすでに多くの中小独立系が活動しており、探鉱活動を活発化させている。これらの企業は買収対象となる可能性も考えられ、メジャーズのほか中小独立系の動きにも目が離せない。

同国では石油・天然ガスのほか、水素プロジェクト開発に向けた動きも加速させている。新たな資源大国となるか、ナミビアの今後に期待したい。

(野口洋佑/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/9月15日】変貌する電力顧客像


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

最近、エネルギー分野における顧客の行動は大きく変化しており、電力会社はこのような行動変化を考慮して顧客に最適なサービスを提供していかなくてはならない。顧客の行動変化は、消費行動の変化(電力貯蔵や省エネルギーなど)、プロシューマへの変貌、フレキシビリティの取引などにみられる。このことは、顧客の要求の変化や新たな顧客グループの誕生、さらには顧客が積極的に電力市場に関与していくことを意味している。ドイツでは、再生可能エネルギー電源などの需要家電力資源の増大、VPPビジネスの発展やエネルギー自立を支援するソリューション・ビジネスの普及にともない、パッシブプレイヤーからアクティブプレイヤーに転換し、電力市場に積極的に関与している顧客も多い。本コラムでは、業界団体BDEWによる調査に基づき、その動向を考察してみたい。

電力の販売事業にとっての顧客グループは将来、つぎのように変化するであろう。

(1)引き続き、自己のエネルギー消費に影響を及ぼしたくない、または様々な理由から、フレキシビリティの利用・提供に関心のない「伝統的」または「スマートでない」顧客。

(2)エネルギー消費をインテリジェントに制御し、自己の持つフレキシビリティを、自己消費ソリューションの枠組みの中で利用するか、これを第三者に提供する「スマートな」顧客。後者(第三者への提供)の場合、顧客はフレキシビリティ(の一部)を販売事業者に売り、販売事業者は、そのフレキシビリティを、調達の最適化のために用いるか、それを「フレキシビリティを必要とする者」(配電運営者、送電運営者、再生可能エネルギー事業者など)に再販する。

(3)上述の「フレキシビリティを必要とする顧客」。
この顧客グループは、系統安定化やバランシングのために必要なフレキシビリティを販売事業者やアグリゲータから購入する。それにより、フレキシビリティを必要とする者は、販売事業者の新たな顧客グループに準ずるようになる。

顧客のフレキシビリティを引き出すアプローチは、つぎのようなものが採用されている。

(1)ローカルな最適化アプローチ

(2)集中的な最適化アプローチ

ローカルな最適化アプローチでは、顧客は、市場の直接的な価格シグナルに対して、もしくは、電力の供給約款(とくに、その料金契約)に対して最適化を図る。集中的な最適化アプローチでは、顧客は、そのフレキシビリティ(の一部)を第三者に販売する。そして、第三者はそれを需給調整市場などに販売する。需給調整市場に供出する場合、フレキシビリティの提供は、価格シグナルによるのではなく集権的に行われる。というのは、需給調整市場への販売やバランシンググループの運営では、フレキシビリティの供出は、そのコールには確実に応答しなくてはならないからである。顧客が、そのフレキシビリティを集中的アプローチの枠組みで販売する場合、契約上の合意に基づき、フレキシビリティの提供に関する主権の一部を第三者に引き渡すことになる。

最近の電気料金の高騰で、顧客のフレキシビリティを引き出すソリューション・ビジネスのチャンスが拡大しており、顧客の電力市場への関与はこれまで以上に高まっていくだろう。

その際重要なのは、顧客にとってのコスト便益比である。フレキシビリティの販売から適切な利益が得られなければ、フレキシビリティのポテンシャルはくみ尽されないだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

マスコミ巻き込む再エネ疑惑 朝日が「秋本議員」と連携プレー?


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

またもや、再生可能エネルギーを巡る疑惑である。

日経8月5日一面に「秋本議員、3000万円受領疑い、風力発電巡り収賄容疑、関係先を捜索、東京地検」とある。「政府が推進する洋上風力発電を巡り、自民党の秋本真利衆院議員が風力発電会社『日本風力開発』(東京・千代田)から計約3000万円を受領した疑いがあるとして、東京地検特捜部は4日、東京・永田町の議員会館事務所などを収賄容疑で家宅捜索した」という。

さらに「秋本議員は、洋上風力発電の普及に向け全国一律の海域利用ルールを定めた2018年成立の再エネ海域利用法を推進した。同社は、政府が公募した洋上風力発電の整備促進区域に応募したが落選した。秋本議員は22年2月の国会で公募の運用指針を見直すよう質問。国は同10月に指針を改定した」と書く。

同日の読売から補足する。「秋本氏は国土交通政務官時代、洋上風力発電の普及のため、全国一律の海域利用ルールを定めた『洋上風力発電利用促進法』の整備を推進」。制度の生みの親である。

この制度では、「公募によって選ばれた事業者が最長30年間の運営を担う」。ところが、「初の大規模事業となった21年12月の選定では、三菱商事を中心とする企業連合が、秋田県と千葉県沖の3海域を全て落札。圧倒的に低い売電価格が評価された」。

関連が指摘される日本風力開発の落選に焦ったのか、「国交政務官を退任していた秋本議員が、国会で関連質問したのは翌22年2月の予算委員会。政府側に公募の際の評価基準について違和感を指摘し、『2回目の公募から評価の仕方をちょっと見直していただきたいというのが私の結論』と訴えた」と同日の日経は報じる。

業者から金をもらい、その業者の参入が可能になるようルールをねじ曲げろと国会質問で求めたとすれば、重大である。

この入札では、萩生田光一経済産業相(当時)が22年1月の記者会見で「低価格という指摘があったが、欧州に比べると高い。地元の評価や信頼性という総合評価で第三者委員会が決めているので、必ずしも売値が安いというだけで落札ができるという仕組みではない」と説明。翌月の国会答弁でも「途中でルールを変えるのはどうか」と疑問を呈している。それが指針改定に至ったのはなぜか。

興味深い記事がある。朝日22年2月3日夕刊「洋上風力、価格崩壊の衝撃」だ。

「すべてを三菱商事グループが落札した。この『総取り』以上に関係者を驚かせたのは、入札価格(発電コスト)」「国は種々のデータで計算し、3区域の上限を『1kW時あたり29円』と決めていた」「これに近い値での競争という予想は外れ、三菱商事グループは3区域で11.99円、13.26円、16.49円を提示。衝撃的だった」「業界は『あの価格レベルには対応できない』」。

理解に苦しむのはこの続きだ。「価格が欧州の安さに近づくのは朗報だが、日本企業による日本での発電所建設、経営は相当厳しいものになる」とある。三菱商事は日本企業ではないのか。さらに「国の導入計画の練り直しが必要かも知れない」とあり、唐突に「地元からは売電価格が低くなれば、発電会社による地域貢献が手薄になるのではとの不安も出ている。『地元が愛着を持つ洋上発電所』の関係をつくることが重要」と主張する。秋本応援団か。

秋本氏も朝日も、高い電気代にあえぐ国民は眼中にない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

原子力が信用を得るには 専門家は自らの言葉に配慮を


【オピニオン】新堀雄一/学日本原子力学会会長

現在、原子力分野もGX実現に向けて、次世代炉、すなわち、革新軽水炉、小型炉、高温ガス炉、高速炉、そして核融合炉の開発に追い風が吹いてきている。これらの技術は、開発者やそのグループが将来の社会の在り様をイメージして取り組み、今後、社会の構造をも変え得る潜在性を持っている。他方、軽水炉の再稼働と稼働の延長、廃止措置、使用済み燃料の再処理、ウランやプルトニウムの再利用、放射性廃棄物の処分、さらには福島第一原子力発電所(1F)事故に伴う廃炉や環境修復などは、現在の社会における課題として捉えられる。社会から見れば、原子力分野はこれらが混在している。

筆者に身近な大学における原子力に関わる専門家は、放射線への関わりという部分で共通項があるものの、その専門性は多様であって、互いの分野を尊重し、あえて踏み込まないようにも見える。しかし社会における今後の原子力の利用を考えていく上では、専門家内での議論のみならず異分野との連携が必要となる。例えば、放射線の利用に当てはめれば、社会のニーズから医療従事者、技術者、利用者などの異分野間の連携が進んでいる。潜在的な社会のニーズを捉え、その共有から新たな技術の社会への受容に至る一つの大事なアプローチともいえる。

他方、原子力のエネルギー利用について見ると、放射線の利用と同じ構図を簡単に当てはめることは難しい。エネルギーの場合は生活を支える基盤であり、その安定供給には国際的な視点や立地地域での議論も含む。また、その技術も幅広い要素の複合とそれらの調和によりなり、複雑である。しかしながら、それを持って異分野間の専門家同士の対話をあきらめては、社会からの信頼性を得ることは難しいのではないか。例えば安全性をいかに確保するかについても、原子力分野内でもその考え方は発電の分野と廃棄物の分野では異なるように、専門家は自らの使っている言葉の意味や考え方が異分野では違うニュアンスを持って捉えられる場合があることをも実感する必要がある。異分野の専門家同士の交流は社会における将来の原子力利用を考えていく上で重要な一つのステップであり、研究者、技術者、産業界、行政、市民団体などが連携して社会の課題を解決する原子力利用に関する議論の基盤となる。

原子力利用を社会により受け入れていただくためには、信頼性が重要であることは論を待たない。1Fの事故後において、その修復には事故なく着実に利用を進めていくことに加え、科学・技術のみならず社会科学などの人文系の専門家同士が真摯に社会の課題解決に向けて取り組んでいる姿を見ていただくことも重要であろう。そこでは異なる意見があることを含め、共通の言葉で考え方を議論していかなければ、それらの内容は混沌として信頼性の構築につながらない。原子力をいかに進めていくかは、異分野間のいわば他流試合を重ね、自らの言葉や考え方に関するフィルターを自覚することから始まると考えている。

にいぼり・ゆういち 1983年東北大学工学部卒。東北大学大学院博士課程前期課程修了後。東北大学助手、助教授を経て東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻教授。博士(工学)。

ゼロカーボンを市政の大前提に 新たな富山モデルへの挑戦


【地域エネルギー最前線】 富山県 富山市

コンパクトシティやSDGsなどのモデル都市としてさまざまな実績を発信してきた。

現在進めるゼロカーボン政策では、他分野との間でどう横串を刺すかが課題だ。

「環境モデル都市」や「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」などに選定されてきた富山市では、これまでさまざまな先進的取り組みを実行してきた。中でも富山と聞いてまず思い浮かぶのが「コンパクトシティ」構想だ。

市では少子高齢化時代を見据え、人口約42万人の中核都市での持続可能なまちづくりビジョンとして、路面電車(LRT)などの公共交通を活性化させ、その沿線に都市機能を集積させる政策を推進。公共交通を「串」、公共交通で結ばれた都市圏を「お団子」に見立てた「お団子と串の都市構造」確立を目指してきた。

現在は従前のコンパクトシティによる成果を、中山間地域をはじめとする郊外部にも行き渡らせるべく、デジタル技術の活用を主軸とした「スマートシティ」政策へと深化させている段階だ。

また別途、環境・エネルギー分野の取り組みで培った成果もある。市と日本海ガスや北陸電力、大和ハウス工業などが連携した「セーフ&環境スマートモデル街区整備事業」では、公共交通沿線に、街区全体のネットゼロエネルギーやエネルギーレジリエンス(強靱化)を意識したモデル街区を整備した。電線の地中化や、公共施設には環境配慮とレジリエンスに資するさまざまなエネルギーシステムを導入。そして住宅エリアでは、全戸に太陽電池(PV)、リチウムイオン蓄電池、家庭用燃料電池(エネファーム)の3電池搭載などに取り組んだ。公共交通沿線での、環境に配慮した質の高い居住空間のモデルとして、普及啓発の拠点の一つとなっている。

市は「こうしたモデル事業のほかへの波及効果を目指している」(環境政策課)と説明する。


まずは自治体主導で 自家消費型再エネ拡大へ

現在、市は「ゼロカーボンシティ」の実現に向けた取り組みを政策の重点テーマの一つに掲げている。政府目標と歩調を合わせ、温暖化ガス削減の国別目標(NDC、30年度13年度比46%減)や50年実質ゼロと同水準の目標を掲げ、再生可能エネルギー導入量は30年度に21年度末の2倍、50年度に5倍を目指す。そこに至るための手段の一つとして、太陽光を中心に官民施設への導入拡大を進めているところだ。

市は、環境省の地域脱炭素政策に関する交付金のうち「重点対策加速化事業」に選定されている。同事業は、環境省が望ましい取り組みとして示した複数を組み合わせた意欲的な計画を支援するもので、前述の通りNDCの水準に合致した計画で認定を受けた。

30年度までの民生電化需要のカーボンニュートラルを目指す「脱炭素先行地域」に比べ、対象となるエリアが限定されず、市域全体で行う個別の事業に活用できる点がメリットである。ただ、先行地域と同様、事業の実施に向けてはエネルギー事業者や民間企業などとの連携は欠かせない。「エネルギー事業者などと連携し、自治体主導の対策で着実に再エネ導入目標に近づけていきたい」(同)という。

まずは一般家庭向けのPVと蓄電池をセットにした自家消費型システムの設置費用を助成し、今夏に受付を開始。今年度は最大75万円で25件分の予算を確保している。加えて、中小企業の脱炭素を支援するセミナーで身近な取り組みなどを紹介し、意識向上を促す。

来年度からは、自家消費型PVへの助成を継続・拡充するとともに、PPA(電力購入契約)によるPV利用を公共施設や市有地などで展開する計画だ。「市民や民間企業がコストの大きさで再エネ導入に二の足を踏まないよう、さまざまな手法を用意し横展開を加速させたい」(同)と狙いを語る。太陽光のほか、小水力やバイオマスエネルギーの利活用に向けた展開にも注力する。

併せて市域でのEVやFCV(燃料電池車)の普及展開にも取り組む。50年の温暖化ガスの実質ゼロに向けて市が示すイメージでは、前述の再エネの導入拡大・活用推進により約35%の削減を、さらに省エネの深掘りにより約39%の削減を見込む。

その先の残り26%程度削減に向けては、エネルギービジネスの活性化や、ステークホルダーとの協働による事業推進が欠かせない。前者では、自立分散型エネルギーシステムの利活用、グリーンファイナンス、再エネの地産地消などを推進。後者ではエネルギープロジェクト推進基盤の拡大、それを担う人材育成、県内でのエネルギー広域連携の検討などを視野に入れる。

LRTなど、これまで整備したインフラをどう生かすか (提供:富山市)


既存政策との連携 インフラをどう生かすか

ゼロカーボンへのビジョンを示したものの、具体化に向けた課題はいくつかある。特に、これまでの実績の活用は重要な視点だ。例えばコンパクトシティでは、LRT沿線の地価が上昇し、目標とする都市構造の確立がやや停滞するといった側面もあるようだ。ただ、当初から沿線の地価上昇は織り込み済みで、むしろ税収を確保し、それを他地域に還流する方針を掲げていた。まさに現在、この効果波及を実現すべく、スマートシティへの深化を図っているところだ。

他方、コンパクトシティ政策の柱である公共交通の維持・活性化による生活の質の向上の副次的効果としてガソリン使用量減少などは見込めるものの、「ゼロカーボンを目指したまちづくりや、政策のリンクにまでは至っていない」(同)。ゼロカーボンを持続可能な形とするには、「全ての事業にゼロカーボンの視点・考えを取り入れることが重要であり、さまざまな政策をどうリンクさせるか、そして官民連携の在り方が大きな課題になる」(同)と捉えている。

整備してきたインフラや先進的システムを、ゼロカーボン推進においていかに使いこなすか。今後の新たな富山モデルの発信を待ちたい。

e―メタンの社会実装へ カギ握る「ルールづくり」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.18】関口博之 /経済ジャーナリスト

どんな脱炭素技術であれ、それを社会実装するには、技術面のブレークスルーとともにルールや制度面での整備を“同時進行”で進める必要がある。都市ガスのカーボンニュートラル化の切り札と考えられているe―メタンもしかりだ。CO2と水素を合成して人工的に作るe—メタンは都市ガスとして燃やした時に出るCO2と、製造時に回収され原料になったCO2がいわば相殺されるため、大気中のCO2は実質的に増えない。それを担保する前提になるのが、今回取り上げる「CO2カウントルール」だ。国内外ともルールが未整備なため、経済産業省のメタネーション推進官民協議会でも今、議論が行われている。

技術開発が進むメタネーション

発電所や工場などCO2を出したが、それを回収しe―メタンの原料に提供した側(原排出側)と、そのe―メタンを燃料として使った側(利用側)、どちらでCO2の排出を計上するのか、という命題である。言い換えれば環境価値はどちらに帰属するのか、というルールづくりだ。「どちらも排出なし」とすれば双方ハッピーだが、それでは環境価値のダブルカウントになってしまう。「利用側に排出あり」とすればそもそもe—メタンを使う意味がない。普及のためには「原排出側で排出あり、利用側は排出なし」と整理するのが望ましいが、これだと原排出側の努力が報われないことになる。何らかのインセンティブが必要だ。例えば将来、本格的な排出量取引制度が始まれば、CO2を回収しe―メタン原料にした分を自社の排出量から削減できるようにすることで、経済的なメリットを付与できる。現に欧州連合(EU)の排出量取引(EU-ETS)はこうした考え方に沿った仕組みになっているという。ただこれらが日本で整うのはまだ先、インセンティブには別の工夫も要りそうだ。

こうした基本的な考え方の整理に加え、より難しいのが国際的なルールづくりだ。原料の水素を大量に安価に作るには、安い再エネ電力が不可欠で、そうなると米国・豪州など海外でe―メタンを作り、LNGのサプライチェーンで輸入するのが有望だ。ただしこの場合も「CO2カウントルール」が問題になる。日本にとってはe—メタンの製造国(こちらが原排出側に該当)で「排出あり」、日本(利用側)では「排出なし」とカウントするのがベストだ。しかし先進国が相手の場合、自国のNDC(国が決定する貢献)達成に不利になるこのロジックを受け入れるかどうか。関係者によると日本の基本戦略は、まずプロジェクト案件ごとに相手国パートナー企業と日本企業が民間ベースで「利用側に排出なし」に合意し、それを基に二国間政府交渉に進む、という段取りを描いているという。民間先行ででも話を進めないと、今の投資案件の意思決定に間に合わないからだ。

ルールの設定には論理の正当性が要る。ただそれだけでなく外交交渉によって仲間を増やしていくことも欠かせない。国益にも関わるこの問題で政府はあくまで“脇役”のままでいるのか。前へ出る姿勢を見せてこそ、という気もする。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.14】EUがエンジン車容認 EV化の流れは変わらず

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.15】メタンの排出削減 LNG輸入国としての責務

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.16】先行するEV技術 どう船に取り込むか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.17】対話AI研究は「心の解明」 普及には電力消費量の課題も

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【マーケット情報/9月8日】原油続伸、供給減の見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減の動きが相次ぎ、需給逼迫感が強まった。

主要産油国で、供給減の方針が相次いで示された。サウジアラビアとロシアは、それぞれ日量100万バレルの自主減産と、日量30万バレルの輸出減を、年末まで継続すると発表した。

また、ナイジェリアの石油輸出拠点がストライキのため閉鎖されたほか、英国の製油所ではストライキの決行に向けた動きが相次いだ。タイの製油所では、原油漏洩による稼働率低下で生産減少が見込まれた。北米の製油所では定修が始まり、9月央からは大西洋側の製油所で定修が予定されていることも、材料視された。

需要面では、米石油在庫が昨年12月以来の水準まで減少したと、米エネルギー情報局(EIA)が発表。米国において、輸出増・輸入減の傾向が続いている。クッシング在庫も減少し、過去10週のうち、9週で減少を記録した。

また、中国では石油輸入が増加。ディーゼル需要が高まる秋に向け、製油所の稼働率が高まっており、8月の輸入量は過去3番目の水準となった。 

なお、米フロリダ州、ルイジアナ州の製油所は、台風や火災の影響で一部閉鎖していた施設を通常稼働に戻した。ただ、油価への影響は限定的だった。


【9月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=87.51ドル(前週比1.96ドル高)、ブレント先物(ICE)=90.65ドル(前週比2.10ドル高)、オマーン先物(DME)=91.04ドル(前週比2.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=90.97ドル(前週比90.97ドル高)

脱炭素電源オークションの政策ミス 既存原発の対策費は趣旨に合わず


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 7月26日に経産省が「長期脱炭素電源オークション」の対象に、既存原発の再稼働に向けた安全対策費を加える検討に入ったとの報道がなされた。私は「原子力は脱炭素の電源ではない」といった脱原発派とは別の観点から、この政策は間違えているのではないかと考える。

そもそも同オークションは、「発電事業者にとっては長期的な投資回収予見性が低下し、多額の資金が必要な電源への新規投資が停滞している」(資源エネルギー庁のガイドライン)ことから、「電源への新規投資を促進すべく……新規投資を対象とした入札を行い……巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与する入札制度」(同)である。つまり、リスクのある脱炭素に資する巨額の新規投資を確保しやすくするための制度である。

こうした観点から、本来この制度は本年2月に閣議決定された『GX実現に向けた基本方針』における「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」や「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替え」に資するものとならなければならない。 

しかし、既存原発の安全対策費をこの制度の対象とすれば、逆にそれを阻害するものとなってしまうだろう。既存原発の安全対策は予見不可能なリスクのある巨額の投資ではなく、本来原子力事業者の経営責任の範囲内で行うべきものである。

原子力事業者は、「既存原発の安全対策は自社だけではできないリスクのある事業だ」などとは、決して言えないはずだ。むしろ、既存原発への巨額の安全対策費を回避するために、リスクのある次世代革新炉の建設やリプレースへの挑戦に誘導する制度こそが、今必要な政策なのではないか。


カオス状態の原子力政策 目先の利益を追うな

これまでわが国の原子力政策は、国民の信頼を必ずしも十分に得られておらず、立地地元対策に苦労する中で、弥縫策を重ねることを繰り返してきた。目先の課題を乗り越えるための短期的に取り組みやすい対策を積み重ねてきたことで、研究開発から発電所の建設・運営、バックエンド対策や安全対策まで原子力政策の体系的な構築を実現することができなかった。そして福島原発事故によって、その非体系的な原子力政策はズタズタになってしまった。さらに、「もんじゅ」廃炉などもあって政策の行方はカオスの状態だ。

岸田政権になり、政権の原子力に対する姿勢が追い風になったからといって、体系的な原子力政策の再構築を行うことなく、原子力事業者の目先の小さな利益を実現するための弥縫策にダボハゼのように食いついていけば、また再び原子力政策の大失敗の道を歩むこととなろう。「急がば回れ」という言葉があるが、原子力に対する風向きが変わりつつある今こそ、王道の本質的な政策を実現すべきだ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

補助金と燃料価格が奏功!? 電気料金が低下傾向に


家庭用の電気料金単価は、1年前と比べ全国平均で約25%低下している―。そんなデータが8月8日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・武蔵野大学特任教授)で示された。

昨年秋以降、燃料価格の高騰に伴い料金は高止まり状態にあったが、1kW時当たり7円を国が補助する「激変緩和対策事業」が始まったことで今年1月使用分から下落に転じ、7社が家庭向けの低圧・規制料金値上げに踏み切った6月以降もその傾向は続いている。背景にあるのは、燃料価格の動向。財務省の貿易統計によると、足元のLNG輸入価格は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻前の水準まで下がっている。

ただ、今後も燃料価格がこのままの水準で推移するとは限らず、再び上昇すれば国民の負担感が増すことは間違いない。激変緩和措置の継続が検討の俎上にあるようだが、一時的な補助金政策は焼け石に水。そればかりか、自由化、脱炭素化時代のエネルギーを巡る国民負担の在り方という本質的な問題から目を背けさせるだけだ。

住宅業界が大勝負の時代に 求められる情報・調達・提案力


【業界紙の目】荒川 源/月刊スマートハウス 発行人

カーボンニュートラルに向け、省・創エネ性能の高い住宅の普及が求められている。

顧客に高性能住宅のメリットをいかに伝え購入意欲を後押しするかが、ビルダーの課題となっている。

住宅の進化が止まらない。月刊スマートハウスを創刊して約10年、社歴にしては世に在る先輩業界誌の中では子供のような年齢であるが、このわずかな年月でわが国の住宅づくりは大きく変わった。

話題となった言葉としては「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」、「ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)」、断熱性評価基準の「HEAT 20 G1~G3」や、「LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅」、「高度エネルギーマネジメント」、「レジリエンス住宅」などであろうか。それぞれ、評価制度や基準、住宅の種類などを意味するが、いずれも家づくりを大きく向上させるための誘導基準や施策に則ったものであり、先進的なハウスメーカー、ビルダーでは、他社に差をつけるべく積極的に取り組んできた。

数多くの住宅会社への取材を経て、特に多くのビルダーで波及したと感じられるのが断熱強化である。2016年施行の省エネ基準から大きく更新され、壁や窓、開口部の高性能化は寒冷地を筆頭に、全国各地の住宅会社が意識を高め、施主への説明に奔走している。

ZEH普及目標未達の要因


高性能住宅のコスト高 難しい提案こそ意味がある

一方でZEHに求められる一次エネルギー消費量の削減に資する高効率給湯器や省エネ空調の提案、創エネとCO2削減の観点で太陽光発電システムの設置についてはまだまだ難しいようだ。高度エネマネでは、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入が設備機器の集中管理とコントロールを可能にするが、さらに提案は難航している。

そもそも「夢のマイホームを求める施主たちに、国や自治体が求める家のレベルを無理やり提案するのはいかがなものか」という忌憚ない声も聞こえてくる。確かに、良い家を建てるためには断熱材や複層ガラス・サッシ、高効率給湯器、太陽光発電システムや蓄電池をはじめ、さまざまな設備機器にお金がかかってくる。マイホームを建てる時、求めていない設備などに対して、予算以上のお金をかける人はそういない。その上限ある予算を無視して、前述のような家づくりを住宅会社が求めることはハードルが高い。むしろ「施主に必要とされる以上に高機能、高性能な家づくりを国が求めているのではないか」と批判するビルダーもいるくらいだ。

実際、昨年末に環境共創イニシアチブより発表された「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2022」でも、ZEH普及目標の未達要因は「顧客の予算・理解を引き出すことが出来なかった」「体制不備」が上位を占めている(図参照)。

だが、高性能な家づくりは本当に必要ないのだろうか。国は毎年、補助金を捻出し、調査を繰り返し、その進ちょくを追っている。「高性能住宅を提案できるか否か、篩がかかり、生き残る会社と廃業を余儀なくされる会社の分かれ道になるのではないか」と見る専門家もいる。実際に高性能住宅を提案することで差別化を図り、またZEH率100%を豪語するビルダーには勢いがあり、その強みを生かして彼らの企業規模は拡大の一途だ。翻り、政府の政策に歩み寄れない、歩み寄らないビルダーたちは、ストック住宅のリフォームに集中しており、新築ビジネスから離れていくようにも見える。

クリーンなガスの普及へ 認証スキームを構築


日本ガス協会は、都市ガス供給のカーボンニュートラル化に資するe―メタン(合成メタン)やバイオガスの社会実装を見据え、その環境価値を認証し取引を可能とする「クリーンガス証書」の導入に向けた具体的な検討に乗り出した。2024年度の実運用開始を目指す。

同証書の導入の狙いは、環境価値をエネルギー価値から分離し移転できるようにすること。例えば、ある都市ガス事業者が農業残さや家畜の排せつ物といったバイオガス原料の豊富な地域で導入を支援し、その価値を購入することで自社のエリアで供給するガスをクリーン化できる。

制度の信頼性を高めるため、日本エネルギー経済研究所に「クリーンガス認証実証事業推進業務」を委託。8月4日には、同研究所を事務局とする「クリーンガス認証評価委員会」において、認証スキームの公正な運用やガイドラインなど文書の適正性などについての検討が始まった。

将来は、地球温暖化対策推進法(温対法)の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」における排出係数の調整に活用することも想定。新たな地産地消型のビジネスモデル創出に期待がかかる。